台本概要
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タイトル | 君の一番になりたくて 第3話 |
---|---|
作者名 | 天びん。 (@libra_micchan) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 8人用台本(男4、女4) ※兼役あり |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
大好きな人の一番になりたい。 青春時代には誰しもが考えたことがあるだろう。 青春時代真っただ中を生きる幼馴染5人のそれぞれの想いが交錯する… 231 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
和真 | 男 | 60 | 峰岸和真。高校2年生、天音の兄。 勉強、運動、家事、何でもござれの超人。バスケ部に所属。 口調はぶっきらぼうで、不愛想に感じられるが、根は優しい。 名前の読みは「ミネギシカズマ」。 |
天音 | 女 | 56 | 峰岸天音。高校1年生、和真の妹。 朝が非常に弱く、起こしてもらえないと起きられないほど。 天然で昔からイジられやすいことを気にしている。 名前の読みは「ミネギシアマネ」。 |
椎名 | 女 | 30 | 雛森椎名。和真と天音の幼馴染で、天音の親友。 しっかりしている反面、周りに振り回されがちな苦労者。 悠人の彼女。 悠人に対して、もう少し頼ってほしいと思っている。 名前の読みは「ヒナモリシイナ」。 |
悠人 | 男 | 26 | 木嶋悠人。和真と天音の幼馴染で、結構なお調子者。 和真をからかいすぎて、いつも怒られている。 椎名の彼氏。 年の離れた姉がいるが、長期の仕事で最近は不在にしている。 名前の読みは「キジマユウト」。 |
徹 | 男 | 53 | 金津徹。和真と天音の幼馴染で、真面目な男の子。 成績は学年1位。 笑顔でブラックなことを言ったりする(被害者は主に悠人)。 名前の読みは「カネヅトオル」。 |
悠母 | 女 | 14 | 悠人の母親。 |
悠父 | 男 | 14 | 悠人の父親。 |
遥 | 女 | 10 | 木嶋遥。和真と天音の幼馴染で、悠人の姉。 長期の仕事で海外にいるため、家に帰って来れるのは稀。 名前の読みは「キジマハルカ」。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
:【タイトル】
: 君の一番になりたくて 第3話
:
:
:【登場人物】
:
和真:峰岸和真。高校2年生、天音の兄。
和真:勉強、運動、家事、何でもござれの超人。バスケ部に所属。
和真:口調はぶっきらぼうで、不愛想に感じられるが、根は優しい。
和真:名前の読みは「ミネギシカズマ」。
:
天音:峰岸天音。高校1年生、和真の妹。
天音:朝が非常に弱く、起こしてもらえないと起きられないほど。
天音:天然で昔からイジられやすいことを気にしている。
天音:名前の読みは「ミネギシアマネ」。
:
椎名:雛森椎名。和真と天音の幼馴染で、天音の親友。
椎名:しっかりしている反面、周りに振り回されがちな苦労者。
椎名:悠人の彼女。
椎名:悠人に対して、もう少し頼ってほしいと思っている。
椎名:名前の読みは「ヒナモリシイナ」。
:
悠人:木嶋悠人。和真と天音の幼馴染で、結構なお調子者。
悠人:和真をからかいすぎて、いつも怒られている。
悠人:椎名の彼氏。
悠人:年の離れた姉がいるが、長期の仕事で最近は不在にしている。
悠人:名前の読みは「キジマユウト」。
:
徹:金津徹。和真と天音の幼馴染で、真面目な男の子。
徹:成績は学年1位。
徹:笑顔でブラックなことを言ったりする(被害者は主に悠人)。
徹:名前の読みは「カネヅトオル」。
:
悠母:悠人の母親。
:
悠父:悠人の父親。
:
遥:木嶋遥。和真と天音の幼馴染で、悠人の姉。
遥:長期の仕事で海外にいるため、家に帰って来れるのは稀。
遥:名前の読みは「キジマハルカ」。
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:
:【本編】
:
0:天音、あてもなく、ただがむしゃらに走り続けている。
:
:
天音:(しいちゃんはお兄ちゃんのことが好き…?お兄ちゃんもしいちゃんが好き…?だとしたら悠ちゃんはどうなるの?そもそもいつから?何で私に相談してくれなかったの?)
:
天音:…うち、帰りたくないなぁ…
:
徹:あれ?天音?
:
天音:…と、おる…?
:
徹:どうしたの?そんなに急いで…今日夕飯当番で早く帰ったんじゃなかった?
:
天音:…。
:
徹:…何かあった?
:
天音:分かんない…頭ん中グチャグチャ…。
:
徹:そっか、何かビックリするようなことがあったんだね。自分で処理しきれないくらいの何かが…。
:
徹:僕で良ければ話聞くよ?話してるうちに少しずつ整理できて冷静になれるかもしれないし…。
:
天音:…ありがと。
:
徹:ううん、僕がしたいだけだからお礼はいらないよ。出来ることなら天音には笑っていてほしいからね。
:
徹:とりあえず、どこかお店に入ろう?このままじゃ寒いし。
:
:
0:徹、天音と近くのカフェに入り、席に座る。
:
:
徹:…で?どうしたの?
:
天音:(あ…そっか…。徹と話をするってことは、しいちゃんが本当はお兄ちゃんのことを好きで、お互い両想いだって言わなきゃいけないんだ…。私の口から言うのはちょっと…やめといた方が良いよね。)
:
天音:えっと…徹はさ、お兄ちゃんとしいちゃんを見ててどう思う?
:
徹:え?和兄と椎名?また意外な組み合わせを…。
:
徹:んー、そうだな…。仲の良い幼馴染、これに尽きると思うよ。というかそれ以外に言いようがないって感じ?
:
天音:そっか。…でも、仲…良いよね。
:
徹:?そうだね。
:
天音:例えば、だよ?もしお兄ちゃんとしいちゃんが付き合ってたら…どう?
:
徹:(あまり間を開けずに)この上なく理想の展開だね。
:
天音:…え?
:
徹:だって、和兄は何でもできるし、椎名は相手を支えるのがうまいじゃん。引き際が丁度いいっていうか…タイミングを計るのがうまいんだよ。
:
天音:…なるほど?
:
徹:それに2人がもしくっついてくれるなら、僕も心置きなく動けるからさ。
:
天音:心置きなく動く…?もしかしてこれ以上悠ちゃんをオモチャにする気なの?ダメだよ、悠ちゃんだって傷付いてるかもしれないし、弄るのも程々にしなくちゃ。
:
徹:…ハイハイ。
:
徹:―でも、実際はそうじゃないだろ。
:
天音:…。
:
徹:昨日もチョコレートの店で話したけど、椎名は本当に悠のことを大切に思ってるし、愛してると思う。
:
徹:…だから、天音が何を見たのか知らないし、聞かないけど、和兄と椎名が陰でデキてるとかは絶対に有り得ないと思うよ★
:
天音:な?!そんなこと、私は一言も…!
:
徹:口に出さなくたって分かるよ、天音はただでさえ分かりやすいし…。それに僕だって天音と幼馴染なんだから。
:
天音:…そうかな。
:
徹:うん。
:
天音:でも…でも…!しいちゃん、明らかに私に何か隠してるし、避けてるし…。
:
徹:椎名にとってまだ天音に切り出すタイミングを計ってるだけなのかもよ?さっきも言ったじゃん、椎名はタイミングを計るのがうまいって。…こっちの幼馴染の言葉も信じてほしいな。
:
天音:…そっか、そうだよね。少し冷静になれたかも…。
:
徹:それなら良かった。
:
天音:そうだよね、しいちゃん…あんなに悠ちゃんのこと大好きなんだもん。お兄ちゃんのことが好きかもしれない…なんてとんだ勘違いだったかも。
:
徹:悠の事が心配だったのかな?…それとも、和兄が取られちゃいそうでショックだった?
:
天音:え?
:
徹:…天音、さっき泣いてただろ。悠のことが心配なのは分かるけど、泣くまでいくなら和兄の方かな…って思ってさ。
:
天音:えぇ…まさか…。
:
徹:違うの?
:
天音:…分かんない。
:
徹:(超小さい声で)無自覚なのかぁ…。
:
天音:え?
:
徹:ううん、何でもないよ。…でも、余計なことはしちゃったかも?
:
天音:え?
:
和真:(息を切らせながら)―天音!
:
天音:お、お兄ちゃん…。
:
徹:…早かったね、和兄。
:
和真:助かった。…ありがとな、徹。
:
徹:貸し1でヨロシク★
:
和真:…。(嫌そうな反応、あるいは舌打ちをお願いします。)
:
天音:え…?え??
:
徹:ごめん、天音。和兄から「天音の居場所知らないか?」って連絡来てたから、天音が飲み物買ってる間に連絡してたんだ。
:
和真:天音、お前―
:
天音:…っ!
:
和真:盗み聞きとか…絶対勘違いしてるだろ。
:
天音:…。
:
和真:…。
:
天音:…え?
:
和真:いや…、あの慌てようは確実に勘違いして動揺してただろ。
:
天音:勘違い…って?
:
和真:その…例えば、椎名が俺のこと好きだとか…その逆とか…。
:
天音:…。
:
徹:天音…何て顔してるの…。
:
和真:言っておくが、俺は椎名をもう1人の妹のように思っていても、恋愛対象として見たことはない。そして今後もそうなることはないだろう。
:
徹:…随分と明確に断言するんだね。
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和真:あぁ。そもそも椎名は俺の良き理解者であって、良き相談相手といったところだからな。それに何より、椎名は誰よりも悠のことを愛している。他の男なんて眼中にねぇよ。
:
天音:そう…なんだ。
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和真:…まぁ、ちょうどいい機会だ。お前らにも話しておいた方が良いだろう。
:
徹:え、僕も?
:
和真:あぁ。とりあえずうちに戻るぞ、いい加減アイツも落ち着いた頃合いだろうからな。
:
:
0:天音、徹と和真と共に自宅へ戻ると、居間のソファに座ってうつむいている椎名と目が合う。
:
:
椎名:―天音!
:
天音:しいちゃん…。
:
椎名:天音、ごめんね…私、どうしても言い出せなくて…傷付けちゃったよね…ごめん!
:
天音:しいちゃんも悩んでたんだよね?―大丈夫、私が勘違いしただけだし。
:
椎名:天音…。―え?何で徹がいるの?
:
徹:いや…僕も何が何だか…。
:
和真:天音と一緒に居たから連れてきた。天音に話すなら徹にも話しておくべきだろ。…それにお前も、もう1人じゃ抱えられねぇだろうしな。
:
椎名:…。
:
天音:…ねぇ、お兄ちゃん。どういう事?しいちゃんは一体何を抱えてるの?
:
椎名:まず…天音。さっきも言ったけど変な勘違いさせて、傷付けちゃってごめん。
:
椎名:それと…これから話すことは結構ショックな内容だと思う。でも、最後まで聞いてくれる?
:
和真:俺からも頼む。かなり重い話になるが…。
:
天音:も、もちろんだよ!
:
徹:うん。ゆっくりでいいから話してみて。
:
椎名:ありがとう…。
:
椎名:…話っていうのは、悠人のことなんだけど…。皆、今朝ここで朝ごはん食べた時、悠人の腕に痣があったのは見たよね?
:
天音:あぁ…「よそ見してて、階段踏み外したー」って言ってたやつだよね。
:
徹:…まさか。
:
:
0:椎名、痛みを堪えるような顔で頷く。
:
:
椎名:悠人…両親から虐待されてるの。
:
天音:え…えぇ?!
:
徹:悠のおじさんもおばさんも、そんなことする人には見えなかったけど…
:
和真:残念ながら椎名が言ったことは事実だ…認めたくはなかったがな。
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天音:そんな…!一体いつから…!
:
椎名:はっきりとは分からないけれど…多分、中学に入ってからだと思う。
:
和真:アイツ、いつかの夏に長袖着てた事あっただろ?空調で冷えるからこれでちょうどいいんだとか何とか言って。
:
徹:あー…あれか。確かにそんなことあったね。
:
和真:あの時、俺たまたまアイツが1人で隠れて体操服に着替えてる所を見かけてな。…身体中痣だらけだった。
:
天音:悠ちゃん、そんな…!お兄ちゃんはその時気付いてたんだよね?何で…何もしなかったの!?
:
椎名:天音、やめて!和君は悪くない。
:
和真:(心が痛むのを我慢するように)…アイツに口止めされたんだよ、それこそ別人のような悠に…な。
:
天音:え…?
:
椎名:みんなが知ってるお調子者の悠人は、本当の悠人じゃないの。人に嫌われたくなくて、わざとそういうキャラを演じているのよ。
:
徹:和兄が何もできないなんて相当のことだよ…一体何て口止めされたの?
:
和真:…有無を言わさぬ勢いと力で迫られてな。それでも俺が折れなかったもんだから、終いには脅された。
:
徹:あの悠が…和兄を…?にわかには信じられないよ。
:
和真:それでまぁ…悠に取り付く島もなかったから、俺は椎名に事情を話して、悠の様子を見ることにしたんだ。…まぁ、椎名は俺より先に気付いてたみたいだがな。
:
天音:そうだったんだ…。しいちゃん、気付いてあげられなくてごめんね。
:
椎名:ううん。私も、最近はそんな感じなかったからもう大丈夫なのかなって思ってたんだけど…。
:
椎名:少し前に、悠人を驚かせようとして軽く右肩を叩いたら、ものすごく痛そうなリアクションをしたの。心配になったから悠人にも聞いたんだけど、「ちょっと痛がり過ぎた、ごめんごめん」ってはぐらかされちゃって。
:
椎名:でも今朝悠人の腕に痣が出来てるの見て確信した、…恐らく悠人は今も虐待を受け続けてる。
:
徹:でもさ、このままじゃマズいよね?中学からずっとそうならかなりの長期間悠は虐待に耐えていることになる。せめて虐待の証拠があればいいんだけど…その辺はどうなの、椎名。
:
椎名:ダメね、悠人の両親も体裁を気にしてるのか見えるところには暴行を加えてないみたいだし…
:
天音:確かに、悠ちゃん夏とか半袖着てたし、全然痣とかなかったね…。
:
椎名:かといって、脱がそうとしても多分素直に脱いでくれないし…絶対嫌がるよね。
:
:
0:徹、椎名、天音、考え込む。
:
:
和真:…(溜息)。
:
:
0:和真、玄関の方へ向かう。
:
:
天音:え、お兄ちゃん?どこ行くの?
:
椎名:和君…?
:
和真:…さっきも言っただろうが、「お前は自分の気持ちをハッキリ伝えるだけでいい」って。もう忘れたのか?
:
椎名:忘れてないけど…。
:
和真:こいつらに事情を話せたんだ、なら次にお前が伝えたいことを伝えるべきなのは誰だよ。…もう1人しかいねぇだろ。
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徹:―って、まさか!悠の家に行く気?!
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:
0:和真、先頭に立って悠の家に向かう。半歩遅れて3人がついてくる感じ。
:
:
和真:椎名、悠と連絡はとれたか?
:
椎名:え、うん。今は家にいるって…
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:
0:和真のスマホが鳴る
:
:
和真:お?…良いタイミングだ。
:
和真:悠の部屋は…っと、明かりはついてる、…よし。
:
徹:え、ちょっと和兄ってば、本気?!
:
:
0:ピンポーン、ピンポーン
:
:
悠人:―はい。
:
和真:悠か…ちょっと顔貸せ。
:
悠人:和兄?
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悠人:(ちょっと動揺気味に)急にどうしたのさ。
:
:
0:和真、悠人が鍵を開け、扉を開けた瞬間にそのまま中に押し入る。
:
:
悠人:はっ…?―ちょっ、和に…
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椎名:悠人!!
:
:
0:椎名、悠人に後ろから泣きながら抱き着く。
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:
悠人:(痛そうに)っ…!?えっ?しい…な?
:
椎名:悠人、ごめん。ごめんね…。
:
悠人:え?…え??何この状況…。あーちゃんに徹まで…。
:
天音:悠ちゃん、混乱してるよね…いきなり押しかけてごめんね。
:
徹:いいから、…悠人は大人しくしてなよ。
:
悠人:は…?
:
:
0:和真、コーヒーを飲んでいる悠人の父親と、食器をシンクに下げている母親に声をかける。
:
:
和真:こんばんは。おじさん、おばさん。
:
悠父:ん?和真君じゃないか…どうしたんだい、こんな時間に。
:
悠母:あら、ホント。こんばんは、和真君。悠人に用があると思ったから行かせたんだけど…私達に何か御用?
:
和真:まぁ、はい。…食事中でした?お邪魔してしまって、すみません。
:
悠父:あぁ…いいよ、いいよ。気にしなくて。丁度食べ終えた所だったからね。
:
和真:そうですか…。
:
和真:おじさん、おばさん。こんなこと言いたくなかったんですけど、2人ともアイツのこと虐待してますよね?
:
悠父:は…。
:
悠母:な、何を言ってるの?そんな訳ないじゃない。
:
和真:…シンクに出ている食器。
:
悠母:…?
:
和真:2セットしかないみたいですけど、1セットはどこに消えたんですか?
:
悠母:あ…それは―!
:
悠父:私は今日家で食べてないんだよ、だからその食器は妻と悠人が使ったんだ。
:
悠母:そうそう…。和真君たら、いきなり変なこと言うんだもの…。おばさん、ビックリしちゃったわ。
:
悠父:そうだな。私達だから良かったようなものの、他の人なら激昂していたかもしれないよ?
:
和真:…往生際が悪ぃんだよ。
:
悠母:え…。
:
和真:さっき俺が入ってきた時、おじさんはコーヒーを飲んでた。そのコーヒーはおばさんがおじさんに淹れたんだよな?
:
悠母:そうだけど…。
:
和真:コップの縁にソースがついてますけど?そこの皿に残ってるのと同じやつ。
:
悠父:…全く、食事時にいきなり上がり込んできて、いきなりこんな侮辱を受けるとは…。君が言っていることはあくまで状況証拠でしかない。私達が悠人を虐待しているだなんて…とんだ見当違いもいい所だぞ。
:
悠母:そうね…、和真君はもう少し大人な子だと思っていたけど、流石にこれは峰岸さんに伝えないわけにはいかないわ。
:
和真:あくまでもシラを切るっていうんだな。…なら―
:
和真:悠人、お前の部屋に案内してくれ。
:
悠人:え…。
:
和真:ちょっと確認したいことがある。それが決定的な―
:
天音:―!お兄ちゃん危ない!!
:
:
0:悠人の父親、先程まで飲んでいた空のマグカップで和真の頭を殴る。
:
:
和真:―っ!
:
天音:お兄ちゃん!
:
悠人:和兄!
:
悠父:…ったくよぉ、これだから勘の良いガキは嫌いなんだ。
:
悠母:そうそう。他人様(よそさま)の家庭事情に首を突っ込むと碌(ろく)なことがないって、ご両親から教えてもらわなかったのかしら?
:
悠人:父さん…流石にやり過ぎだよ!和兄!かずに…っ!!
:
:
0:悠人、悠人の父親に頬を殴り飛ばされる。
:
:
椎名:悠人!!
:
悠父:そもそもテメェがこいつらを家に上げずに丸く収めてれば、こうはならなかったろうがな。
:
天音:お兄ちゃん…お兄ちゃん!大丈夫?
:
和真:(少々かすれ気味に)アホか…この程度何でもねぇよ。
:
悠父:そうか…。でも和真君、君のその様子じゃ私達を今まで通りそのままにしておく気は更々ないんだろう?
:
和真:当たり前だ…!お前ら、悠のことを何だと思ってやがる!…実の息子だろうが!!
:
悠母:確かにこの子はお腹を痛めて産んだ我が子よ。でもね…何も感じないのよ。期待や希望、愛情といった世の親が感じるであろう感情を…この子に感じたことは一度もないの。
:
悠人:…。
:
椎名:なら何で傷付けるんですか…。そんなに何も感じないなら、わざわざ悠人を傷付ける必要なんてないじゃないですか!!
:
悠父:コイツは中学に上がった頃から時折何を考えているか分からない顔をするようになったんでね。私も妻もそういう意味では何かしらを感じているんだよ。
:
椎名:未知の感情に対する恐怖から悠人に暴力をふるっていたとでも言うんですか?!そんな言い訳許されませんよ!!
:
悠人:椎名…。
:
悠父:おいおい…子供は親の所有物だぞ?親の言う事だけ聞いてればいいじゃねぇか。
:
和真:…今の言葉、本気で言ってるのか?
:
悠父:当たり前だろ?
:
和真:…だ、そうですよ。
:
:
0:遥、腕を組み侮蔑の表情を両親に向けながら現れる。
:
:
遥:へぇ…そうなの…。
:
悠父:遥…?
:
悠母:遥、あなた…帰ってくるのは来週の予定じゃ…。
:
遥:仕事詰めて早々に休みをもぎ取ってきたのよ、サプライズでもしようかと思って。…まぁ?色々な意味でサプライズになったけど。
:
悠人:姉ちゃん…。
:
遥:悠人、大丈夫?
:
悠人:大丈夫、大丈夫。
:
遥:馬鹿、アンタは変に頑張り過ぎ!何でもっと早く言わないの!!
:
:
0:遥、壁に寄り掛かる悠人の腕を取り、割れ物を扱うように優しくパーカーの袖を捲っていくと、手首から肩にかけて大小様々な痣や切り傷の跡が確認できた。
:
:
遥:…これのどこが大丈夫なのよ…。
:
悠母:いや、遥…その、違うのよ…!
:
徹:違わないですよ。
:
:
0:徹、胸ポケットからペンのようなものを取り出す。
:
:
徹:これまでの会話は全てしっかり録音させて頂きました。これも確固たる虐待の証拠になるでしょう。
:
和真:虐待の認定は難しい…各々の家庭の事情があったりしてその実情は不透明、第3者もなかなか立ち入れねぇからな。
:
和真:―ただ、現場を押さえちまえば…動かざるを得なくなるだろ。
:
悠母:まさかあなた達…最初からこれが目的で…?
:
徹:遥さん、これはあなたに預けておきますね。
:
遥:ありがとう、徹。
:
遥:―じゃあ、とりあえず警察と救急車呼びましょうか。
:
和真:え?警察だけでいいじゃ―
:
遥:ダメよ、和真は後頭部殴られてるんだから。大事を取って診てもらいなさい。
:
和真:…ま、暴行の証明になるなら仕方ないですね。
:
遥:後のことは私がしっかりやっておくから、あんた達は休んでおきなさい。
:
:
0:約1か月後、悠人が保護施設から戻って以来初の登校日。5人は以前のように峰岸家に集まっている。
:
:
和真:…お前ら、来るのは良いが早すぎねぇか?
:
悠人:だってー、和兄が作った朝飯の味が忘れられなくて…!
:
和真:だからってなぁ…。
:
徹:まぁまぁ、今日くらい悠のワガママ聞いてあげようよ。
:
悠人:徹…!じゃあ、徹の分のベーコン貰ってもいいのか?
:
徹:あー、…今日だけね。
:
悠人:え?嘘、徹が優しい…俺涙出そう…。
:
徹:ちょっと、悠の中で僕は一体どんな人間に思われてるんだよ!
:
椎名:アハハ!いつものやり取りって感じだなぁ…正直なところ、最悪悠人とはもう会えないかもって思ってたんだけど、また一緒に居られて嬉しい。
:
悠人:椎名…ありがとな。俺も嬉しいよ。
:
天音:これからは遥さんと一緒に暮らすんだっけ?
:
悠人:あぁ。姉ちゃんがここの近所にアパートを借りたんだ。今後はそこから通うことになるけど、椎名の家も近くなるし良い事尽くめだ。
:
天音:なるほど。それでしいちゃんの機嫌が良いのか~。
:
椎名:エヘヘ…。
:
悠人:姉ちゃんが全て処理してくれたおかげで、あの人達はもう俺に関われない。俺も、もう何も我慢しなくていいんだって思うとすごく楽なんだ。…みんな、本当にありがとう。
:
和真:お前ら…話してるなら朝食の準備手伝えよ。
:
徹:はーい、何すればいい?
:
和真:じゃあ徹はあっちの部屋から椅子持ってきてくれ。
:
徹:あっちの部屋?どの椅子?
:
椎名:あー、私分かるよ。えっとね…
:
和真:天音は人数分の皿をそこに出しといてくれ。
:
天音:はーい。
:
天音:…あ、そういえば、お兄ちゃん。悠ちゃんに脅されたって言ってたけど、何て脅されたの?
:
和真:…言う訳ねぇだろ、アホ。
:
天音:え、何で?!
:
和真:悠に脅されただけでも屈辱なのに、何で天音に教えなきゃなんねぇんだよ。…ほら散れ散れ、調理の邪魔だ。
:
天音:えー、アホとか酷い…。
:
椎名:天音、こっちおいでー。慰めてあげるから。
:
天音:うぅ…しいちゃん~!!
:
:
0:天音と入れ替わりに悠人が近付いてくる。
:
:
悠人:へぇ…屈辱だったの?なら俺からあーちゃんに教えちゃおっかな~?
:
悠人:―ね?…か・ず・に・い♡
:
和真:…悠。お前、そんなに床で飯食いたいのか?
:
悠人:(軽く笑って)冗談だよ。でも俺に負けたことがそんなにショックだったんだ?
:
和真:ま、今じゃ俺の方がお前より強いがな。
:
悠人:え、何?対抗意識バリバリ?そんなに悔しかったの?
:
和真:(悠人の台詞がいい終わる前に)すり潰すぞ。
:
悠人:アハハ!…あの時は黙っててくれて…今回は助けてくれて…ありがとな、和兄。
:
和真:…おう。
:【タイトル】
: 君の一番になりたくて 第3話
:
:
:【登場人物】
:
和真:峰岸和真。高校2年生、天音の兄。
和真:勉強、運動、家事、何でもござれの超人。バスケ部に所属。
和真:口調はぶっきらぼうで、不愛想に感じられるが、根は優しい。
和真:名前の読みは「ミネギシカズマ」。
:
天音:峰岸天音。高校1年生、和真の妹。
天音:朝が非常に弱く、起こしてもらえないと起きられないほど。
天音:天然で昔からイジられやすいことを気にしている。
天音:名前の読みは「ミネギシアマネ」。
:
椎名:雛森椎名。和真と天音の幼馴染で、天音の親友。
椎名:しっかりしている反面、周りに振り回されがちな苦労者。
椎名:悠人の彼女。
椎名:悠人に対して、もう少し頼ってほしいと思っている。
椎名:名前の読みは「ヒナモリシイナ」。
:
悠人:木嶋悠人。和真と天音の幼馴染で、結構なお調子者。
悠人:和真をからかいすぎて、いつも怒られている。
悠人:椎名の彼氏。
悠人:年の離れた姉がいるが、長期の仕事で最近は不在にしている。
悠人:名前の読みは「キジマユウト」。
:
徹:金津徹。和真と天音の幼馴染で、真面目な男の子。
徹:成績は学年1位。
徹:笑顔でブラックなことを言ったりする(被害者は主に悠人)。
徹:名前の読みは「カネヅトオル」。
:
悠母:悠人の母親。
:
悠父:悠人の父親。
:
遥:木嶋遥。和真と天音の幼馴染で、悠人の姉。
遥:長期の仕事で海外にいるため、家に帰って来れるのは稀。
遥:名前の読みは「キジマハルカ」。
:
:
:
:
:
:【本編】
:
0:天音、あてもなく、ただがむしゃらに走り続けている。
:
:
天音:(しいちゃんはお兄ちゃんのことが好き…?お兄ちゃんもしいちゃんが好き…?だとしたら悠ちゃんはどうなるの?そもそもいつから?何で私に相談してくれなかったの?)
:
天音:…うち、帰りたくないなぁ…
:
徹:あれ?天音?
:
天音:…と、おる…?
:
徹:どうしたの?そんなに急いで…今日夕飯当番で早く帰ったんじゃなかった?
:
天音:…。
:
徹:…何かあった?
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天音:分かんない…頭ん中グチャグチャ…。
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徹:そっか、何かビックリするようなことがあったんだね。自分で処理しきれないくらいの何かが…。
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徹:僕で良ければ話聞くよ?話してるうちに少しずつ整理できて冷静になれるかもしれないし…。
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天音:…ありがと。
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徹:ううん、僕がしたいだけだからお礼はいらないよ。出来ることなら天音には笑っていてほしいからね。
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徹:とりあえず、どこかお店に入ろう?このままじゃ寒いし。
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0:徹、天音と近くのカフェに入り、席に座る。
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:
徹:…で?どうしたの?
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天音:(あ…そっか…。徹と話をするってことは、しいちゃんが本当はお兄ちゃんのことを好きで、お互い両想いだって言わなきゃいけないんだ…。私の口から言うのはちょっと…やめといた方が良いよね。)
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天音:えっと…徹はさ、お兄ちゃんとしいちゃんを見ててどう思う?
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徹:え?和兄と椎名?また意外な組み合わせを…。
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徹:んー、そうだな…。仲の良い幼馴染、これに尽きると思うよ。というかそれ以外に言いようがないって感じ?
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天音:そっか。…でも、仲…良いよね。
:
徹:?そうだね。
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天音:例えば、だよ?もしお兄ちゃんとしいちゃんが付き合ってたら…どう?
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徹:(あまり間を開けずに)この上なく理想の展開だね。
:
天音:…え?
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徹:だって、和兄は何でもできるし、椎名は相手を支えるのがうまいじゃん。引き際が丁度いいっていうか…タイミングを計るのがうまいんだよ。
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天音:…なるほど?
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徹:それに2人がもしくっついてくれるなら、僕も心置きなく動けるからさ。
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天音:心置きなく動く…?もしかしてこれ以上悠ちゃんをオモチャにする気なの?ダメだよ、悠ちゃんだって傷付いてるかもしれないし、弄るのも程々にしなくちゃ。
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徹:…ハイハイ。
:
徹:―でも、実際はそうじゃないだろ。
:
天音:…。
:
徹:昨日もチョコレートの店で話したけど、椎名は本当に悠のことを大切に思ってるし、愛してると思う。
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徹:…だから、天音が何を見たのか知らないし、聞かないけど、和兄と椎名が陰でデキてるとかは絶対に有り得ないと思うよ★
:
天音:な?!そんなこと、私は一言も…!
:
徹:口に出さなくたって分かるよ、天音はただでさえ分かりやすいし…。それに僕だって天音と幼馴染なんだから。
:
天音:…そうかな。
:
徹:うん。
:
天音:でも…でも…!しいちゃん、明らかに私に何か隠してるし、避けてるし…。
:
徹:椎名にとってまだ天音に切り出すタイミングを計ってるだけなのかもよ?さっきも言ったじゃん、椎名はタイミングを計るのがうまいって。…こっちの幼馴染の言葉も信じてほしいな。
:
天音:…そっか、そうだよね。少し冷静になれたかも…。
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徹:それなら良かった。
:
天音:そうだよね、しいちゃん…あんなに悠ちゃんのこと大好きなんだもん。お兄ちゃんのことが好きかもしれない…なんてとんだ勘違いだったかも。
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徹:悠の事が心配だったのかな?…それとも、和兄が取られちゃいそうでショックだった?
:
天音:え?
:
徹:…天音、さっき泣いてただろ。悠のことが心配なのは分かるけど、泣くまでいくなら和兄の方かな…って思ってさ。
:
天音:えぇ…まさか…。
:
徹:違うの?
:
天音:…分かんない。
:
徹:(超小さい声で)無自覚なのかぁ…。
:
天音:え?
:
徹:ううん、何でもないよ。…でも、余計なことはしちゃったかも?
:
天音:え?
:
和真:(息を切らせながら)―天音!
:
天音:お、お兄ちゃん…。
:
徹:…早かったね、和兄。
:
和真:助かった。…ありがとな、徹。
:
徹:貸し1でヨロシク★
:
和真:…。(嫌そうな反応、あるいは舌打ちをお願いします。)
:
天音:え…?え??
:
徹:ごめん、天音。和兄から「天音の居場所知らないか?」って連絡来てたから、天音が飲み物買ってる間に連絡してたんだ。
:
和真:天音、お前―
:
天音:…っ!
:
和真:盗み聞きとか…絶対勘違いしてるだろ。
:
天音:…。
:
和真:…。
:
天音:…え?
:
和真:いや…、あの慌てようは確実に勘違いして動揺してただろ。
:
天音:勘違い…って?
:
和真:その…例えば、椎名が俺のこと好きだとか…その逆とか…。
:
天音:…。
:
徹:天音…何て顔してるの…。
:
和真:言っておくが、俺は椎名をもう1人の妹のように思っていても、恋愛対象として見たことはない。そして今後もそうなることはないだろう。
:
徹:…随分と明確に断言するんだね。
:
和真:あぁ。そもそも椎名は俺の良き理解者であって、良き相談相手といったところだからな。それに何より、椎名は誰よりも悠のことを愛している。他の男なんて眼中にねぇよ。
:
天音:そう…なんだ。
:
和真:…まぁ、ちょうどいい機会だ。お前らにも話しておいた方が良いだろう。
:
徹:え、僕も?
:
和真:あぁ。とりあえずうちに戻るぞ、いい加減アイツも落ち着いた頃合いだろうからな。
:
:
0:天音、徹と和真と共に自宅へ戻ると、居間のソファに座ってうつむいている椎名と目が合う。
:
:
椎名:―天音!
:
天音:しいちゃん…。
:
椎名:天音、ごめんね…私、どうしても言い出せなくて…傷付けちゃったよね…ごめん!
:
天音:しいちゃんも悩んでたんだよね?―大丈夫、私が勘違いしただけだし。
:
椎名:天音…。―え?何で徹がいるの?
:
徹:いや…僕も何が何だか…。
:
和真:天音と一緒に居たから連れてきた。天音に話すなら徹にも話しておくべきだろ。…それにお前も、もう1人じゃ抱えられねぇだろうしな。
:
椎名:…。
:
天音:…ねぇ、お兄ちゃん。どういう事?しいちゃんは一体何を抱えてるの?
:
椎名:まず…天音。さっきも言ったけど変な勘違いさせて、傷付けちゃってごめん。
:
椎名:それと…これから話すことは結構ショックな内容だと思う。でも、最後まで聞いてくれる?
:
和真:俺からも頼む。かなり重い話になるが…。
:
天音:も、もちろんだよ!
:
徹:うん。ゆっくりでいいから話してみて。
:
椎名:ありがとう…。
:
椎名:…話っていうのは、悠人のことなんだけど…。皆、今朝ここで朝ごはん食べた時、悠人の腕に痣があったのは見たよね?
:
天音:あぁ…「よそ見してて、階段踏み外したー」って言ってたやつだよね。
:
徹:…まさか。
:
:
0:椎名、痛みを堪えるような顔で頷く。
:
:
椎名:悠人…両親から虐待されてるの。
:
天音:え…えぇ?!
:
徹:悠のおじさんもおばさんも、そんなことする人には見えなかったけど…
:
和真:残念ながら椎名が言ったことは事実だ…認めたくはなかったがな。
:
天音:そんな…!一体いつから…!
:
椎名:はっきりとは分からないけれど…多分、中学に入ってからだと思う。
:
和真:アイツ、いつかの夏に長袖着てた事あっただろ?空調で冷えるからこれでちょうどいいんだとか何とか言って。
:
徹:あー…あれか。確かにそんなことあったね。
:
和真:あの時、俺たまたまアイツが1人で隠れて体操服に着替えてる所を見かけてな。…身体中痣だらけだった。
:
天音:悠ちゃん、そんな…!お兄ちゃんはその時気付いてたんだよね?何で…何もしなかったの!?
:
椎名:天音、やめて!和君は悪くない。
:
和真:(心が痛むのを我慢するように)…アイツに口止めされたんだよ、それこそ別人のような悠に…な。
:
天音:え…?
:
椎名:みんなが知ってるお調子者の悠人は、本当の悠人じゃないの。人に嫌われたくなくて、わざとそういうキャラを演じているのよ。
:
徹:和兄が何もできないなんて相当のことだよ…一体何て口止めされたの?
:
和真:…有無を言わさぬ勢いと力で迫られてな。それでも俺が折れなかったもんだから、終いには脅された。
:
徹:あの悠が…和兄を…?にわかには信じられないよ。
:
和真:それでまぁ…悠に取り付く島もなかったから、俺は椎名に事情を話して、悠の様子を見ることにしたんだ。…まぁ、椎名は俺より先に気付いてたみたいだがな。
:
天音:そうだったんだ…。しいちゃん、気付いてあげられなくてごめんね。
:
椎名:ううん。私も、最近はそんな感じなかったからもう大丈夫なのかなって思ってたんだけど…。
:
椎名:少し前に、悠人を驚かせようとして軽く右肩を叩いたら、ものすごく痛そうなリアクションをしたの。心配になったから悠人にも聞いたんだけど、「ちょっと痛がり過ぎた、ごめんごめん」ってはぐらかされちゃって。
:
椎名:でも今朝悠人の腕に痣が出来てるの見て確信した、…恐らく悠人は今も虐待を受け続けてる。
:
徹:でもさ、このままじゃマズいよね?中学からずっとそうならかなりの長期間悠は虐待に耐えていることになる。せめて虐待の証拠があればいいんだけど…その辺はどうなの、椎名。
:
椎名:ダメね、悠人の両親も体裁を気にしてるのか見えるところには暴行を加えてないみたいだし…
:
天音:確かに、悠ちゃん夏とか半袖着てたし、全然痣とかなかったね…。
:
椎名:かといって、脱がそうとしても多分素直に脱いでくれないし…絶対嫌がるよね。
:
:
0:徹、椎名、天音、考え込む。
:
:
和真:…(溜息)。
:
:
0:和真、玄関の方へ向かう。
:
:
天音:え、お兄ちゃん?どこ行くの?
:
椎名:和君…?
:
和真:…さっきも言っただろうが、「お前は自分の気持ちをハッキリ伝えるだけでいい」って。もう忘れたのか?
:
椎名:忘れてないけど…。
:
和真:こいつらに事情を話せたんだ、なら次にお前が伝えたいことを伝えるべきなのは誰だよ。…もう1人しかいねぇだろ。
:
徹:―って、まさか!悠の家に行く気?!
:
:
0:和真、先頭に立って悠の家に向かう。半歩遅れて3人がついてくる感じ。
:
:
和真:椎名、悠と連絡はとれたか?
:
椎名:え、うん。今は家にいるって…
:
:
0:和真のスマホが鳴る
:
:
和真:お?…良いタイミングだ。
:
和真:悠の部屋は…っと、明かりはついてる、…よし。
:
徹:え、ちょっと和兄ってば、本気?!
:
:
0:ピンポーン、ピンポーン
:
:
悠人:―はい。
:
和真:悠か…ちょっと顔貸せ。
:
悠人:和兄?
:
悠人:(ちょっと動揺気味に)急にどうしたのさ。
:
:
0:和真、悠人が鍵を開け、扉を開けた瞬間にそのまま中に押し入る。
:
:
悠人:はっ…?―ちょっ、和に…
:
椎名:悠人!!
:
:
0:椎名、悠人に後ろから泣きながら抱き着く。
:
:
悠人:(痛そうに)っ…!?えっ?しい…な?
:
椎名:悠人、ごめん。ごめんね…。
:
悠人:え?…え??何この状況…。あーちゃんに徹まで…。
:
天音:悠ちゃん、混乱してるよね…いきなり押しかけてごめんね。
:
徹:いいから、…悠人は大人しくしてなよ。
:
悠人:は…?
:
:
0:和真、コーヒーを飲んでいる悠人の父親と、食器をシンクに下げている母親に声をかける。
:
:
和真:こんばんは。おじさん、おばさん。
:
悠父:ん?和真君じゃないか…どうしたんだい、こんな時間に。
:
悠母:あら、ホント。こんばんは、和真君。悠人に用があると思ったから行かせたんだけど…私達に何か御用?
:
和真:まぁ、はい。…食事中でした?お邪魔してしまって、すみません。
:
悠父:あぁ…いいよ、いいよ。気にしなくて。丁度食べ終えた所だったからね。
:
和真:そうですか…。
:
和真:おじさん、おばさん。こんなこと言いたくなかったんですけど、2人ともアイツのこと虐待してますよね?
:
悠父:は…。
:
悠母:な、何を言ってるの?そんな訳ないじゃない。
:
和真:…シンクに出ている食器。
:
悠母:…?
:
和真:2セットしかないみたいですけど、1セットはどこに消えたんですか?
:
悠母:あ…それは―!
:
悠父:私は今日家で食べてないんだよ、だからその食器は妻と悠人が使ったんだ。
:
悠母:そうそう…。和真君たら、いきなり変なこと言うんだもの…。おばさん、ビックリしちゃったわ。
:
悠父:そうだな。私達だから良かったようなものの、他の人なら激昂していたかもしれないよ?
:
和真:…往生際が悪ぃんだよ。
:
悠母:え…。
:
和真:さっき俺が入ってきた時、おじさんはコーヒーを飲んでた。そのコーヒーはおばさんがおじさんに淹れたんだよな?
:
悠母:そうだけど…。
:
和真:コップの縁にソースがついてますけど?そこの皿に残ってるのと同じやつ。
:
悠父:…全く、食事時にいきなり上がり込んできて、いきなりこんな侮辱を受けるとは…。君が言っていることはあくまで状況証拠でしかない。私達が悠人を虐待しているだなんて…とんだ見当違いもいい所だぞ。
:
悠母:そうね…、和真君はもう少し大人な子だと思っていたけど、流石にこれは峰岸さんに伝えないわけにはいかないわ。
:
和真:あくまでもシラを切るっていうんだな。…なら―
:
和真:悠人、お前の部屋に案内してくれ。
:
悠人:え…。
:
和真:ちょっと確認したいことがある。それが決定的な―
:
天音:―!お兄ちゃん危ない!!
:
:
0:悠人の父親、先程まで飲んでいた空のマグカップで和真の頭を殴る。
:
:
和真:―っ!
:
天音:お兄ちゃん!
:
悠人:和兄!
:
悠父:…ったくよぉ、これだから勘の良いガキは嫌いなんだ。
:
悠母:そうそう。他人様(よそさま)の家庭事情に首を突っ込むと碌(ろく)なことがないって、ご両親から教えてもらわなかったのかしら?
:
悠人:父さん…流石にやり過ぎだよ!和兄!かずに…っ!!
:
:
0:悠人、悠人の父親に頬を殴り飛ばされる。
:
:
椎名:悠人!!
:
悠父:そもそもテメェがこいつらを家に上げずに丸く収めてれば、こうはならなかったろうがな。
:
天音:お兄ちゃん…お兄ちゃん!大丈夫?
:
和真:(少々かすれ気味に)アホか…この程度何でもねぇよ。
:
悠父:そうか…。でも和真君、君のその様子じゃ私達を今まで通りそのままにしておく気は更々ないんだろう?
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和真:当たり前だ…!お前ら、悠のことを何だと思ってやがる!…実の息子だろうが!!
:
悠母:確かにこの子はお腹を痛めて産んだ我が子よ。でもね…何も感じないのよ。期待や希望、愛情といった世の親が感じるであろう感情を…この子に感じたことは一度もないの。
:
悠人:…。
:
椎名:なら何で傷付けるんですか…。そんなに何も感じないなら、わざわざ悠人を傷付ける必要なんてないじゃないですか!!
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悠父:コイツは中学に上がった頃から時折何を考えているか分からない顔をするようになったんでね。私も妻もそういう意味では何かしらを感じているんだよ。
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椎名:未知の感情に対する恐怖から悠人に暴力をふるっていたとでも言うんですか?!そんな言い訳許されませんよ!!
:
悠人:椎名…。
:
悠父:おいおい…子供は親の所有物だぞ?親の言う事だけ聞いてればいいじゃねぇか。
:
和真:…今の言葉、本気で言ってるのか?
:
悠父:当たり前だろ?
:
和真:…だ、そうですよ。
:
:
0:遥、腕を組み侮蔑の表情を両親に向けながら現れる。
:
:
遥:へぇ…そうなの…。
:
悠父:遥…?
:
悠母:遥、あなた…帰ってくるのは来週の予定じゃ…。
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遥:仕事詰めて早々に休みをもぎ取ってきたのよ、サプライズでもしようかと思って。…まぁ?色々な意味でサプライズになったけど。
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悠人:姉ちゃん…。
:
遥:悠人、大丈夫?
:
悠人:大丈夫、大丈夫。
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遥:馬鹿、アンタは変に頑張り過ぎ!何でもっと早く言わないの!!
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0:遥、壁に寄り掛かる悠人の腕を取り、割れ物を扱うように優しくパーカーの袖を捲っていくと、手首から肩にかけて大小様々な痣や切り傷の跡が確認できた。
:
:
遥:…これのどこが大丈夫なのよ…。
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悠母:いや、遥…その、違うのよ…!
:
徹:違わないですよ。
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:
0:徹、胸ポケットからペンのようなものを取り出す。
:
:
徹:これまでの会話は全てしっかり録音させて頂きました。これも確固たる虐待の証拠になるでしょう。
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和真:虐待の認定は難しい…各々の家庭の事情があったりしてその実情は不透明、第3者もなかなか立ち入れねぇからな。
:
和真:―ただ、現場を押さえちまえば…動かざるを得なくなるだろ。
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悠母:まさかあなた達…最初からこれが目的で…?
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徹:遥さん、これはあなたに預けておきますね。
:
遥:ありがとう、徹。
:
遥:―じゃあ、とりあえず警察と救急車呼びましょうか。
:
和真:え?警察だけでいいじゃ―
:
遥:ダメよ、和真は後頭部殴られてるんだから。大事を取って診てもらいなさい。
:
和真:…ま、暴行の証明になるなら仕方ないですね。
:
遥:後のことは私がしっかりやっておくから、あんた達は休んでおきなさい。
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:
0:約1か月後、悠人が保護施設から戻って以来初の登校日。5人は以前のように峰岸家に集まっている。
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和真:…お前ら、来るのは良いが早すぎねぇか?
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悠人:だってー、和兄が作った朝飯の味が忘れられなくて…!
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和真:だからってなぁ…。
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徹:まぁまぁ、今日くらい悠のワガママ聞いてあげようよ。
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悠人:徹…!じゃあ、徹の分のベーコン貰ってもいいのか?
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徹:あー、…今日だけね。
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悠人:え?嘘、徹が優しい…俺涙出そう…。
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徹:ちょっと、悠の中で僕は一体どんな人間に思われてるんだよ!
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椎名:アハハ!いつものやり取りって感じだなぁ…正直なところ、最悪悠人とはもう会えないかもって思ってたんだけど、また一緒に居られて嬉しい。
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悠人:椎名…ありがとな。俺も嬉しいよ。
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天音:これからは遥さんと一緒に暮らすんだっけ?
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悠人:あぁ。姉ちゃんがここの近所にアパートを借りたんだ。今後はそこから通うことになるけど、椎名の家も近くなるし良い事尽くめだ。
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天音:なるほど。それでしいちゃんの機嫌が良いのか~。
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椎名:エヘヘ…。
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悠人:姉ちゃんが全て処理してくれたおかげで、あの人達はもう俺に関われない。俺も、もう何も我慢しなくていいんだって思うとすごく楽なんだ。…みんな、本当にありがとう。
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和真:お前ら…話してるなら朝食の準備手伝えよ。
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徹:はーい、何すればいい?
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和真:じゃあ徹はあっちの部屋から椅子持ってきてくれ。
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徹:あっちの部屋?どの椅子?
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椎名:あー、私分かるよ。えっとね…
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和真:天音は人数分の皿をそこに出しといてくれ。
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天音:はーい。
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天音:…あ、そういえば、お兄ちゃん。悠ちゃんに脅されたって言ってたけど、何て脅されたの?
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和真:…言う訳ねぇだろ、アホ。
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天音:え、何で?!
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和真:悠に脅されただけでも屈辱なのに、何で天音に教えなきゃなんねぇんだよ。…ほら散れ散れ、調理の邪魔だ。
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天音:えー、アホとか酷い…。
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椎名:天音、こっちおいでー。慰めてあげるから。
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天音:うぅ…しいちゃん~!!
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0:天音と入れ替わりに悠人が近付いてくる。
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悠人:へぇ…屈辱だったの?なら俺からあーちゃんに教えちゃおっかな~?
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悠人:―ね?…か・ず・に・い♡
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和真:…悠。お前、そんなに床で飯食いたいのか?
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悠人:(軽く笑って)冗談だよ。でも俺に負けたことがそんなにショックだったんだ?
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和真:ま、今じゃ俺の方がお前より強いがな。
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悠人:え、何?対抗意識バリバリ?そんなに悔しかったの?
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和真:(悠人の台詞がいい終わる前に)すり潰すぞ。
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悠人:アハハ!…あの時は黙っててくれて…今回は助けてくれて…ありがとな、和兄。
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和真:…おう。