台本概要
502 views
タイトル | 4年後、よければ桜の木の下で |
---|---|
作者名 | 皐月健太 (@satukiburibura) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
結婚して15年一緒に暮らしてきた明(あきら)と葵(あおい)、日々の些細なケンカが積もり、桜が咲き始めた季節に離婚を決意する。最後くらい夫婦を味わいたいという葵のお願いにより、ある公園で夫婦最後の会話をする。そこで明と葵が語るものとは・・・ ※注意事項 ●最後同時に台詞を言うところがありますが、合わせるのが難しい場合は相談して台詞を分けたり、1人ずつ言ってもらっても大丈夫です。 ●過度なアドリブ、改変をしたい場合(キャラクターの性転換、セリフを丸々変える等)はご連絡ください。 ●男性が女性キャラを女性として、女性が男性キャラを男性として演じる際や語尾等の軽微な変更は可能とします。 ●配信等でご利用される場合は、可能であれば作者名、作品名、掲載サイトのURLを提示して頂けると幸いです。 その他について不明点などは下記URLのサイト利用規約を確認し、順守をお願いします。 https://buribura.amebaownd.com/ 502 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
明 | 男 | 95 | 明(あきら)。葵との些細なケンカが辛くなり、離婚を決意する。思ったことを口にできない性格もあり、彼がずっと抱えていた想いとは。 |
葵 | 女 | 96 | 葵(あおい)。離婚が決まった後も明に対する気持ちは変わらない葵。明と同じく自分の本当の想いを口にしない。しかし最後に意を決して公園で本当の想いを打ち明けたものが2人にもたらすのは。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
明:「いつからなのだろう、彼女を名前で呼ばなくなったのは」
葵:「いつからなのだろう、彼を名前で呼ばなくなったのは」
明:「いつからなのだろう、彼女の手に触れなくなったのは」
葵:「いつからなのだろう、彼と手を繋がなくなったのは」
明:「いつからなのだろう、彼女との会話がなくなったのは」
葵:「いつからなのだろう、この家で静かな音だけが鳴り響くようになったのは」
明:「もうきっと戻れない。彼女が嫌いなわけでもない」
葵:「もうきっと一緒にはいられない。彼が嫌いなわけでもない」
0:
0:(少し間をあける)
0:
葵:「ねえ、これはどうする?」
明:「ん、捨てていいんじゃないか」
葵:「ねえ、この写真はどうする?」
明:「残しておいてもしょうがないんじゃないか」
葵:「ねえ、これは・・・」
明:「あのさ」
葵:「・・・・・」
明:「俺たちもう、離婚することになったんだ」
葵:「そうね」
明:「なら、もう2人の思い出の物や写真を残してたって、しょうがないだろ?」
葵:「・・・そう、ね」
明:「最後くらい、お互い嫌な思いはしないで終わろう」
葵:「・・・うん」
0:
0:2人が別々で荷造りを再開する
0:
葵:「ねえ」
明:「うん?」
葵:「最後くらい、一緒に役所まで行かない?」
明:「離婚届を出しに2人で?」
葵:「最後くらい、少しは夫婦を味わって終わりたいわ」
明:「そうか、じゃあこの荷物まとめたら行こうか」
0:
明:僕たちは歩いて役所へ向かうことにした。車へ行くことも考えてたが、役所までの距離がそう遠くないことと、なるべく2人だけの空間を作るのを避けるためだった。
0:
葵:「あなたはどこへ引っ越すの?」
明:「そんなの聞いて、どうするの?」
葵:「もしかしたら、何か連絡することとかあるかもしれないじゃない」
明:「・・・あるのかな、そんなこと」
葵:「・・・分からないじゃない」
明:「(ため息)、隣町だよ」
葵:「隣町?」
明:「ああ、大きな桜の木がある公園の」
葵:「・・・そう」
明:「何かあるのか?
葵:「いえ、なんでもないわ」
明:「そう、か」
葵:「ねえ、少し寄り道して公園によっていきましょう。少し疲れたわ」
明:「・・・わかった」
0:
葵:2人は寄り道して公園に行く。そこには小さな神社とその隣に2本の桜があり、その下には古いベンチがある。
0:
葵:「ここに座りましょう」
明:「ここに、座るのか?」
葵:「ええ、最後くらい思い出話でも少ししましょう」
明:「・・・ああ」
葵:「・・・・・・・」
明:「(ため息)、何か話があるからここに来たんじゃないのか?」
葵:「やっぱり覚えていたのね」
明:「ボケが始まるにはまだ早いからな」
葵:「話したいことがあるっていうより、少し思い出に浸りたい・・・のかな」
明:「・・・・・・」
葵:「あなたは全くそういうのないの?」
明:「ないといえば・・・ウソになるな」
葵:「私たち、ここでよく待ち合わせしたよね」
明:「そうだな、出会ったのもここだった」
葵:「そう、春の桜が満開の時に桜と一緒に私の帽子が舞ってしまってね」
明:「・・・・・・」
葵:「なに?」
明:「この話はどこまでするんだ?」
葵:「まだ話始めたばかりじゃない。そんなに私といるのはもうイヤ?」
明:「よく離婚前にそこまで話す気になるな」
葵:「最後だからこそ、少しはいい思い出のまま終わるようにしたいのよ」
明:「・・・そうか」
葵:「続けていいと思って続けるわよ?」
明:「・・・ああ」
葵:「あなたはその帽子を拾ってくれたわよね、それでこう言うの・・・」
明:「桜と一緒に可愛い帽子が舞ってましたよ」
葵:「・・・(少し驚く)」
明:「そんなに意外か?」
葵:「ええ、もう私たちの思い出なんて、あなたの中には消え去っているか、何かに上書きされたかと思ってたわ」
明:「消えた思い出なんて、何もないさ」
明:「その帽子を拾った後、お前に実は話しかけるタイミングを伺ってたって正直に言ったことも」
明:「初めてのデートは緊張しすぎてランチで5時間使ってその日は終わってしまったことも、プロポーズをした時の婚約指輪がサイズを間違えてたことも・・・」
葵:「そう聞いているとあなたって結構可愛いところもあったのよね。初デート緊張して湯呑(ゆのみ)転がしちゃって服汚してたりもしてたし」
明:「おい、それは触れないでほしかったから言わなかったことに気づけよ」
葵:「あらそうなの?(笑)いかにも触れてほしそうだったからつい」
明:「(笑う)」
葵:「(笑う)」
明:「なんか、久しぶりにお前と笑ったな」
葵:「そうね。私たちまだお互いの前でちゃんと笑えたのね」
明:「そうだな」
葵:「最後にここにきたのも、正解だったかしら」
明:「そうなのかも、しれないな」
葵:「ねえ、これは覚えてる?新婚旅行へ行った時の」
明:「大きな桜の木のことか?」
葵:「うん、私ね。今の状況が落ち着いたらあの場所へ行こうと思うの」
明:「そう、なのか?なんで?」
葵:「分からない。でもあそこに行けば私がこれからどうしたいのか・・・分かる気がするの」
明:「それって・・・」
葵:「・・・・・・・」
明:「・・・この辺でよそう。もう休憩もいいだろ」
葵:「待ってよ。まだ何も言ってないでしょ?」
明:「これから何を言おうとしてるか分かるから話を切ったんだよ!」
葵:「最後くらい話を全部聞いてよ!!」
明:「聞いた後はどうなる?どうせその桜の場所に一緒に行ってみないとか言うんだろ?」
葵:「それはそうだけど」
明:「俺たち何度も話し合って決めたんじゃないか。それを何をいまさら」
葵:「話し合ったといっても、ほとんど一方的な物言いで終わったじゃない。私は、私はまだあなたと」
明:「やめろ!!」
葵:「・・・!!」
明:「もうやめてくれ。確かに俺の一方的なとこもあったかもしれない。けど今まで何度もケンカしては、お互いやり直そうとしてもダメだったから、今回にまで至ったことくらい、納得できるだろ!」
葵:「納得はしたわよ。でも納得したかったんじゃない。私はそれでもまだ、やり直したいと思っている自分がいるの」
明:「そんなの・・・」
葵:「あなただって、心の奥底ではまだそう思ってるのでしょう?全くもう一緒にいたくないと思ってないじゃない」
明:「なんでそんなことがお前に分かる」
葵:「(食い気味で)分かるわよ!15年一緒にいたらあなたの行動心理くらい、分かるわよ」
明:「・・・・・」
葵:「写真、全部捨てようって言ったのも、思い出の桜の押し花を捨てようと言ったのも全部忘れたいからじゃない。持っていると思い出して辛くなるからでしょ!?」
明:「・・・違う」
葵:「違くないわ。それにあなたの引っ越し先を聞いて納得したわ。あの隣町にある公園の桜の木、あの新婚旅行へ行った時の桜の木と似ているもの。それって未練があるってことなんでしょ?」
明:「・・・違う!」
葵:「違くない」
明:「違う!!」
葵:「・・・・・」
明:「・・・・・」
葵:「ねえ、じゃあそんなに全部捨てようとしてあなたはどうしたいの?」
明:「どうって・・・」
葵:「全部忘れようとして、なかったことにしようとして、それでどうしたいの?何より、そんなに捨てようとして、思い出もなくそうとなんかして、じゃあ私たちの15年て何だったのよ・・・」
明:「俺は、俺はもう・・・・・になりたくない」
葵:「え?」
明:「俺はもう、お前を嫌いになりくないんだ」
葵:「・・・・・」
明:「いつもケンカする度に、お前に対しての怒りもあるけど、それ以上に嫌いになっていくのが分かって、それがたまらなく嫌だったんだ」
葵:「そんなの・・・」
明:「確かにお前の言う通り、未練もあるさ。でももうこれ以上お前と一緒にいて、俺自身が耐えられそうにないんだ」
葵:「・・・ようやく本当のこと、言ってくれたわね」
明:「え?」
葵:「いつもケンカする度に、あなたは何かを我慢して本当のことを言わない。それを聞き出せない私自身もいつも情けなくて、辛かった」
明:「ごめん」
葵:「ううん。・・・ねえ私たち」
明:「ごめん」
葵:「え?」
明:「お互いの気持ちを初めて打ち明けられた今ならって、言うんだろ?」
葵:「うん」
明:「でも、ごめん。ダメなんだ。それでもまたケンカして、お前のこと嫌いになるんじゃねーかなって、そう思うと怖くて怖くてしかたない」
葵:「そう、そっか。・・・ねえ、じゃあこういうのはどう?」
明:「え?」
葵:「3年、いや4年にしましょうか」
明:「4年?」
葵:「そう、4年後にもしまだあなたの中にやり直したい思いがあって、その思いがあなたの中の恐怖心よりも勝ったのなら、新婚旅行に行ったあの大きな桜の木の下であいましょう」
明:「なんであんな遠いとこまで?」
葵:「その方が、しっかり判断できるし私も信じられるわ」
明:「4年後にした理由は?」
葵:「それはオリンピックみたいでいいじゃない」
明:「(笑)なんだよ、それ」
葵:「(笑)ねえ、どうかしら。4年後も、少しも可能性はない?」
明:「・・・分かった。4年後、俺がいなくても悲しむなよ」
葵:「分かってる」
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0:
明:そうして俺たちは市役所へ行き、離婚届を出した。そしてお互い別々の引っ越し業者に荷物を積んでもらい、この家を離れた。
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0:4年後
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明:「いつからなのだろう。葵にもう一度会いたいと思うようになったのは」
葵:「いつからなのだろう。明にもう一度会いたいと思うようになったのは」
明:「いつからなのだろう。葵ともう一度と考えるようになったのは」
葵:「いつからなのだろう。明が私ともう一度と考えていると思えるようになったのは」
明:「いつからなのだろう。あの桜の場所へ行こうと思えたのは」
葵:「いつからなのだろう。明がここへ来ると確信を持てたのは」
0:
0:
0:(少し間をあける)
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0:
葵:明がこっちに来るのが見えてきた。
葵:明がここに来るだろうと確信を持っていたはずなのに、心の高鳴りは止まらない。この年になっても、ときめきは私の中にちゃんとまだあるんだって思うと、急に照れ臭くなった。
明:「4年間、待っててくれたんだ」
葵:「ええ、待ったわよ?あなたがここに来るってあの日から確信を持てたから」
明:「なんでそんな確信を?」
葵:「やっぱり気づかなかった(笑)?私もずっと4年間あなたと同じ隣町に住んでいたのよ」
明:「え?そ、そうなのか?」
葵:「だから時折あなたのこと、見かけてたわ。あの大きな桜の木の公園にも季節関係なく通っていたのもね。ま、あなたはいつも下ばかり見ていたから気づかないのも無理はないけどね」
明:「まいったな、あの時から近くに住むって葵は知っていたのか」
葵:「聞かなかったのは、明でしょ?」
明:「そりゃそうだ。結局葵のことを見ているようで見てなかったんだな俺は」
葵:「あ」
明:「ん?」
葵:「久しぶりに名前、呼んでくれたね」
明:「少し前から言ってたよ」
葵:「そうね。緊張して気づかなかったのかしら」
明:「(笑い)」
葵:「(笑い)。ねえ、私たちやる直せる?」
明:「ああ、やり直そう」
葵:「うん」
明:「じゃあ久しぶりに、この辺廻りに行くか?」
葵:「うん!ねえ、明」
明:「ん?」
葵:「手、繋ぎましょ」
明:「おいおい、この歳でか?」
葵:「いいじゃない。私たち、また新婚でしょ?」
明:「いや、新婚ていうか再婚・・・」
葵:「もう!少しくらいはムードよくしなさいよ!」
明:「へい、すいません(笑)」
葵:「(笑い)」
明:「(笑い)」
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明:「俺たちは、きっともう大丈夫」
葵:「私たちは、きっともう大丈夫」
明:「きっとまた思い出の桜の木が」
葵:「きっとまたこれからも桜の木が」
明:「私たちを繋いでくれるだろう」(葵と一緒に)
葵:「私たちを繋いでくれるだろう」(明と一緒に)
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0:
0:終わり
明:「いつからなのだろう、彼女を名前で呼ばなくなったのは」
葵:「いつからなのだろう、彼を名前で呼ばなくなったのは」
明:「いつからなのだろう、彼女の手に触れなくなったのは」
葵:「いつからなのだろう、彼と手を繋がなくなったのは」
明:「いつからなのだろう、彼女との会話がなくなったのは」
葵:「いつからなのだろう、この家で静かな音だけが鳴り響くようになったのは」
明:「もうきっと戻れない。彼女が嫌いなわけでもない」
葵:「もうきっと一緒にはいられない。彼が嫌いなわけでもない」
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0:(少し間をあける)
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葵:「ねえ、これはどうする?」
明:「ん、捨てていいんじゃないか」
葵:「ねえ、この写真はどうする?」
明:「残しておいてもしょうがないんじゃないか」
葵:「ねえ、これは・・・」
明:「あのさ」
葵:「・・・・・」
明:「俺たちもう、離婚することになったんだ」
葵:「そうね」
明:「なら、もう2人の思い出の物や写真を残してたって、しょうがないだろ?」
葵:「・・・そう、ね」
明:「最後くらい、お互い嫌な思いはしないで終わろう」
葵:「・・・うん」
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0:2人が別々で荷造りを再開する
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葵:「ねえ」
明:「うん?」
葵:「最後くらい、一緒に役所まで行かない?」
明:「離婚届を出しに2人で?」
葵:「最後くらい、少しは夫婦を味わって終わりたいわ」
明:「そうか、じゃあこの荷物まとめたら行こうか」
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明:僕たちは歩いて役所へ向かうことにした。車へ行くことも考えてたが、役所までの距離がそう遠くないことと、なるべく2人だけの空間を作るのを避けるためだった。
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葵:「あなたはどこへ引っ越すの?」
明:「そんなの聞いて、どうするの?」
葵:「もしかしたら、何か連絡することとかあるかもしれないじゃない」
明:「・・・あるのかな、そんなこと」
葵:「・・・分からないじゃない」
明:「(ため息)、隣町だよ」
葵:「隣町?」
明:「ああ、大きな桜の木がある公園の」
葵:「・・・そう」
明:「何かあるのか?
葵:「いえ、なんでもないわ」
明:「そう、か」
葵:「ねえ、少し寄り道して公園によっていきましょう。少し疲れたわ」
明:「・・・わかった」
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葵:2人は寄り道して公園に行く。そこには小さな神社とその隣に2本の桜があり、その下には古いベンチがある。
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葵:「ここに座りましょう」
明:「ここに、座るのか?」
葵:「ええ、最後くらい思い出話でも少ししましょう」
明:「・・・ああ」
葵:「・・・・・・・」
明:「(ため息)、何か話があるからここに来たんじゃないのか?」
葵:「やっぱり覚えていたのね」
明:「ボケが始まるにはまだ早いからな」
葵:「話したいことがあるっていうより、少し思い出に浸りたい・・・のかな」
明:「・・・・・・」
葵:「あなたは全くそういうのないの?」
明:「ないといえば・・・ウソになるな」
葵:「私たち、ここでよく待ち合わせしたよね」
明:「そうだな、出会ったのもここだった」
葵:「そう、春の桜が満開の時に桜と一緒に私の帽子が舞ってしまってね」
明:「・・・・・・」
葵:「なに?」
明:「この話はどこまでするんだ?」
葵:「まだ話始めたばかりじゃない。そんなに私といるのはもうイヤ?」
明:「よく離婚前にそこまで話す気になるな」
葵:「最後だからこそ、少しはいい思い出のまま終わるようにしたいのよ」
明:「・・・そうか」
葵:「続けていいと思って続けるわよ?」
明:「・・・ああ」
葵:「あなたはその帽子を拾ってくれたわよね、それでこう言うの・・・」
明:「桜と一緒に可愛い帽子が舞ってましたよ」
葵:「・・・(少し驚く)」
明:「そんなに意外か?」
葵:「ええ、もう私たちの思い出なんて、あなたの中には消え去っているか、何かに上書きされたかと思ってたわ」
明:「消えた思い出なんて、何もないさ」
明:「その帽子を拾った後、お前に実は話しかけるタイミングを伺ってたって正直に言ったことも」
明:「初めてのデートは緊張しすぎてランチで5時間使ってその日は終わってしまったことも、プロポーズをした時の婚約指輪がサイズを間違えてたことも・・・」
葵:「そう聞いているとあなたって結構可愛いところもあったのよね。初デート緊張して湯呑(ゆのみ)転がしちゃって服汚してたりもしてたし」
明:「おい、それは触れないでほしかったから言わなかったことに気づけよ」
葵:「あらそうなの?(笑)いかにも触れてほしそうだったからつい」
明:「(笑う)」
葵:「(笑う)」
明:「なんか、久しぶりにお前と笑ったな」
葵:「そうね。私たちまだお互いの前でちゃんと笑えたのね」
明:「そうだな」
葵:「最後にここにきたのも、正解だったかしら」
明:「そうなのかも、しれないな」
葵:「ねえ、これは覚えてる?新婚旅行へ行った時の」
明:「大きな桜の木のことか?」
葵:「うん、私ね。今の状況が落ち着いたらあの場所へ行こうと思うの」
明:「そう、なのか?なんで?」
葵:「分からない。でもあそこに行けば私がこれからどうしたいのか・・・分かる気がするの」
明:「それって・・・」
葵:「・・・・・・・」
明:「・・・この辺でよそう。もう休憩もいいだろ」
葵:「待ってよ。まだ何も言ってないでしょ?」
明:「これから何を言おうとしてるか分かるから話を切ったんだよ!」
葵:「最後くらい話を全部聞いてよ!!」
明:「聞いた後はどうなる?どうせその桜の場所に一緒に行ってみないとか言うんだろ?」
葵:「それはそうだけど」
明:「俺たち何度も話し合って決めたんじゃないか。それを何をいまさら」
葵:「話し合ったといっても、ほとんど一方的な物言いで終わったじゃない。私は、私はまだあなたと」
明:「やめろ!!」
葵:「・・・!!」
明:「もうやめてくれ。確かに俺の一方的なとこもあったかもしれない。けど今まで何度もケンカしては、お互いやり直そうとしてもダメだったから、今回にまで至ったことくらい、納得できるだろ!」
葵:「納得はしたわよ。でも納得したかったんじゃない。私はそれでもまだ、やり直したいと思っている自分がいるの」
明:「そんなの・・・」
葵:「あなただって、心の奥底ではまだそう思ってるのでしょう?全くもう一緒にいたくないと思ってないじゃない」
明:「なんでそんなことがお前に分かる」
葵:「(食い気味で)分かるわよ!15年一緒にいたらあなたの行動心理くらい、分かるわよ」
明:「・・・・・」
葵:「写真、全部捨てようって言ったのも、思い出の桜の押し花を捨てようと言ったのも全部忘れたいからじゃない。持っていると思い出して辛くなるからでしょ!?」
明:「・・・違う」
葵:「違くないわ。それにあなたの引っ越し先を聞いて納得したわ。あの隣町にある公園の桜の木、あの新婚旅行へ行った時の桜の木と似ているもの。それって未練があるってことなんでしょ?」
明:「・・・違う!」
葵:「違くない」
明:「違う!!」
葵:「・・・・・」
明:「・・・・・」
葵:「ねえ、じゃあそんなに全部捨てようとしてあなたはどうしたいの?」
明:「どうって・・・」
葵:「全部忘れようとして、なかったことにしようとして、それでどうしたいの?何より、そんなに捨てようとして、思い出もなくそうとなんかして、じゃあ私たちの15年て何だったのよ・・・」
明:「俺は、俺はもう・・・・・になりたくない」
葵:「え?」
明:「俺はもう、お前を嫌いになりくないんだ」
葵:「・・・・・」
明:「いつもケンカする度に、お前に対しての怒りもあるけど、それ以上に嫌いになっていくのが分かって、それがたまらなく嫌だったんだ」
葵:「そんなの・・・」
明:「確かにお前の言う通り、未練もあるさ。でももうこれ以上お前と一緒にいて、俺自身が耐えられそうにないんだ」
葵:「・・・ようやく本当のこと、言ってくれたわね」
明:「え?」
葵:「いつもケンカする度に、あなたは何かを我慢して本当のことを言わない。それを聞き出せない私自身もいつも情けなくて、辛かった」
明:「ごめん」
葵:「ううん。・・・ねえ私たち」
明:「ごめん」
葵:「え?」
明:「お互いの気持ちを初めて打ち明けられた今ならって、言うんだろ?」
葵:「うん」
明:「でも、ごめん。ダメなんだ。それでもまたケンカして、お前のこと嫌いになるんじゃねーかなって、そう思うと怖くて怖くてしかたない」
葵:「そう、そっか。・・・ねえ、じゃあこういうのはどう?」
明:「え?」
葵:「3年、いや4年にしましょうか」
明:「4年?」
葵:「そう、4年後にもしまだあなたの中にやり直したい思いがあって、その思いがあなたの中の恐怖心よりも勝ったのなら、新婚旅行に行ったあの大きな桜の木の下であいましょう」
明:「なんであんな遠いとこまで?」
葵:「その方が、しっかり判断できるし私も信じられるわ」
明:「4年後にした理由は?」
葵:「それはオリンピックみたいでいいじゃない」
明:「(笑)なんだよ、それ」
葵:「(笑)ねえ、どうかしら。4年後も、少しも可能性はない?」
明:「・・・分かった。4年後、俺がいなくても悲しむなよ」
葵:「分かってる」
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明:そうして俺たちは市役所へ行き、離婚届を出した。そしてお互い別々の引っ越し業者に荷物を積んでもらい、この家を離れた。
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明:「いつからなのだろう。葵にもう一度会いたいと思うようになったのは」
葵:「いつからなのだろう。明にもう一度会いたいと思うようになったのは」
明:「いつからなのだろう。葵ともう一度と考えるようになったのは」
葵:「いつからなのだろう。明が私ともう一度と考えていると思えるようになったのは」
明:「いつからなのだろう。あの桜の場所へ行こうと思えたのは」
葵:「いつからなのだろう。明がここへ来ると確信を持てたのは」
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0:(少し間をあける)
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葵:明がこっちに来るのが見えてきた。
葵:明がここに来るだろうと確信を持っていたはずなのに、心の高鳴りは止まらない。この年になっても、ときめきは私の中にちゃんとまだあるんだって思うと、急に照れ臭くなった。
明:「4年間、待っててくれたんだ」
葵:「ええ、待ったわよ?あなたがここに来るってあの日から確信を持てたから」
明:「なんでそんな確信を?」
葵:「やっぱり気づかなかった(笑)?私もずっと4年間あなたと同じ隣町に住んでいたのよ」
明:「え?そ、そうなのか?」
葵:「だから時折あなたのこと、見かけてたわ。あの大きな桜の木の公園にも季節関係なく通っていたのもね。ま、あなたはいつも下ばかり見ていたから気づかないのも無理はないけどね」
明:「まいったな、あの時から近くに住むって葵は知っていたのか」
葵:「聞かなかったのは、明でしょ?」
明:「そりゃそうだ。結局葵のことを見ているようで見てなかったんだな俺は」
葵:「あ」
明:「ん?」
葵:「久しぶりに名前、呼んでくれたね」
明:「少し前から言ってたよ」
葵:「そうね。緊張して気づかなかったのかしら」
明:「(笑い)」
葵:「(笑い)。ねえ、私たちやる直せる?」
明:「ああ、やり直そう」
葵:「うん」
明:「じゃあ久しぶりに、この辺廻りに行くか?」
葵:「うん!ねえ、明」
明:「ん?」
葵:「手、繋ぎましょ」
明:「おいおい、この歳でか?」
葵:「いいじゃない。私たち、また新婚でしょ?」
明:「いや、新婚ていうか再婚・・・」
葵:「もう!少しくらいはムードよくしなさいよ!」
明:「へい、すいません(笑)」
葵:「(笑い)」
明:「(笑い)」
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葵:「私たちは、きっともう大丈夫」
明:「きっとまた思い出の桜の木が」
葵:「きっとまたこれからも桜の木が」
明:「私たちを繋いでくれるだろう」(葵と一緒に)
葵:「私たちを繋いでくれるだろう」(明と一緒に)
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