台本概要

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タイトル 妖怪横丁三丁目
作者名 akodon  (@akodon1)
ジャンル ファンタジー
演者人数 5人用台本(男2、女3)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 妖怪の街に迷い込んだ少女と妖怪たちの、百鬼夜行の物語です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
夜行 92 やこう。妖怪横丁に住む妖怪。頭領の息子。
ユウキ 80 妖怪横丁に迷い込んだ少女。
鈴音 95 すずね。妖怪横丁に住む妖怪。猫に変化できる。
55 らん。妖怪横丁に住む妖怪。居酒屋を営んでいる。
潤吉 63 じゅんきち。妖怪横丁に住む妖怪。涙脆い。ダジャレにハマっている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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夜行:老いも若きもおいでませ 夜行:ここは良い街 宵(よい)の街 蘭:さあさ みなさんおいでませ 蘭:妖怪横丁三丁目 潤吉:坊ちゃん嬢ちゃんおいでませ 潤吉:ここは陽気な 妖(よう)の街 鈴音:ほらほら どなたもおいでませ 鈴音:妖怪横丁三丁目 鈴音:愉快な横丁三丁目 0:『妖怪横丁三丁目』 ユウキ:「・・・ぐすっ・・・ひっく・・・」 夜行:「ん?」 ユウキ:「うっ・・・ぐすっ・・・ひっく・・・」 夜行:「・・・おい」 ユウキ:「ぐすっ・・・ううっ・・・」 夜行:「・・・おい、ガキ」 ユウキ:「うっ・・・ひっく・・・」 夜行:「・・・おいってば!!」 ユウキ:「・・・え・・・?」 夜行:「はぁ・・・やあっと顔を上げた」 ユウキ:「あ、あの・・・」 夜行:「ったく・・・人のシマでいつまでもメソメソ泣いてやがって。おかげで目が覚めちまったぜ。まだ宵まで時間があるってのによ」 ユウキ:「えっと・・・あの・・・」 夜行:「おい、ガキ」 ユウキ:「は、はい」 夜行:「お前、どこから来た」 ユウキ:「え・・・」 夜行:「どこから来たって聞いてんだよ。ここは俺のシマだ。勝手に入られたら迷惑なんだよ」 ユウキ:「でも、私・・・」 夜行:「今すぐ出ていけ」 ユウキ:「えっ・・・」 夜行:「聞こえなかったのか?今すぐ出ていけ。ここはお前のようなガキがいる場所じゃねぇ。とっととお家に帰んな」 ユウキ:「けどぉ・・・」 夜行:「・・・あン?口応えすんのか?ハッ、いい度胸だ。いいだろう・・・それなら、今すぐにお前を喰らって・・・」 鈴音:「こぉら夜行!!何やってんだい!!」 夜行:「痛ぇっ!!」 鈴音:「全く、家に居ないと思ったら、こんなところで小さい子相手に凄んでるなんて。本当にどうしようもないヤツだねぇ、アンタ」 夜行:「ぐっ・・・鈴音ぇ・・・お前、思いっ切り髪引っ張りやがって・・・。抜けちまったらどうするつもりだ」 鈴音:「いいじゃないか別に。将来はどうせ、親父さんみたいな禿頭になる運命なんだ。むしろ今から多少間引きしておいてやった方が、早く一人前になれるかもしれないよ」 夜行:「ンだと!?この化け猫女!」 鈴音:「さぁさ、こんな半人前の事は置いておいて・・・お嬢ちゃん。アンタ、名前は?」 ユウキ:「ひっ・・・」 鈴音:「あらぁ・・・すっかり怯えちまって可哀想に・・・。仕方ない・・・そぉれっ!」 ユウキ:「きゃっ・・・」 鈴音:「にゃぁん」 ユウキ:「えっ・・・猫ちゃん・・・?」 鈴音:「にゃぁん。にゃぁーん」 ユウキ:「うわぁ・・・かわいい・・・。おいで、猫ちゃん」 鈴音:「にゃーん」 ユウキ:「うふっ、とってもふわふわで綺麗な猫ちゃん。えっ?抱っこさせてくれるの?ありがとう。・・・よしよぉし、いい子いい子・・・。きゃっ、くすぐったいよ。顔、そんなに舐めないでってば・・・うふっ、あはっ、あはははは・・・」 夜行:「・・・けっ、可愛こぶりやがって。気持ちわりぃ」 鈴音:「ちょぉっと夜行?今のは聞き捨てならないねぇ。アタシはアンタが泣かしたこの子を慰めようと、一生懸命愛想を振りまいてるっていうのに」 ユウキ:「わっ・・・猫ちゃんが喋った・・・」 夜行:「うっせぇな・・・頼んでねぇし。第一、勝手に泣いたのはそいつだし」 鈴音:「はぁ・・・やれやれ。自分の尻拭いもできないから、いつまで経ってもアンタは半人前なんだよ」 夜行:「なんだと?もういっぺん言ってみろ」 鈴音:「半人前。無愛想。人見知りの陰険男〜」 夜行:「なっ・・・!勝手に悪口増やしてんじゃねぇよ!」 鈴音:「えー?だってホントの事だろぉ?意地っ張りの見栄っ張り。天邪鬼のこんこんちき〜」 夜行:「くぅっ・・・!こいつ・・・言わせておけば・・・」 ユウキ:「・・・け、喧嘩はダメっ!!」 夜行:「・・・!」 鈴音:「・・・おやぁ。こりゃ驚いた。お嬢ちゃん、随分大きな声が出せるんだねぇ」 ユウキ:「あっ・・・えっと・・・ごめんなさい・・・」 鈴音:「ふふっ、気にする事はないさ。むしろ、さっきみたいにモジモジしているよりはずっといい」 ユウキ:「・・・」 夜行:「・・・おい、お前」 ユウキ:「は、はい・・・」 夜行:「いい加減、そろそろ聞かせてもらおうか。どうしてこんなところで泣いていたのかを」 ユウキ:「・・・」 鈴音:「よし!それなら行こうじゃないか」 夜行:「行くってどこへ?」 鈴音:「もう!だからアンタは気が利かないんだよ!こんな薄暗い陰気な場所で話なんか弾むわけないだろ」 夜行:「なっ・・・お前、人のシマにずけずけ踏み込んできて、事もあろうに陰気だと・・・!?」 鈴音:「ほらほらほら!いちいち目くじら立てるんじゃないよ!さ、お嬢ちゃん。案内するから着いておいで」 ユウキ:「あの・・・着いて行くって・・・どこに?」 鈴音:「ふふっ、どこかって?そりゃあ、もちろん・・・陰気なヤツも陽気になれる、愉快で楽しい良い所!」 鈴音:「さぁ、行こうじゃないか!アタシたちの街、『妖怪横丁』まで!」 0:(しばらくの間) 蘭:「・・・いらっしゃぁい。悪いけど、ちょっとまだ準備中なの。もう少しだけ待っていてちょうだ・・・あらぁ?」 鈴音:「こんばんは!お蘭ねぇさん!」 蘭:「まぁまぁ、鈴音ちゃん。いらっしゃい。どうしたの?こんな早くに顔を出すなんて、珍しいじゃない」 鈴音:「へへへ・・・ちょっとね。座らせてもらっても良い?」 蘭:「ええ、いいわよ。まだお酒や料理は出せないけど、それでも良ければ」 鈴音:「ありがとう!・・・だってさ!入って入って〜!」 ユウキ:「・・・お、お邪魔します」 夜行:「・・・よぉ」 蘭:「あら?あらあらあらぁ?今日は珍しいお客さんがいっぱいねぇ。久しぶりじゃない夜行ちゃん。元気にしてた?」 夜行:「ああ、まぁ・・・それなりにな」 蘭:「ふふ、相変わらず愛想が無いこと。可愛らしいわねぇ。・・・あとは」 ユウキ:「・・・っ」 蘭:「小さなお客さん。怖がらなくて良いわよ。そんな陰に隠れてないで出ていらっしゃい」 ユウキ:「・・・」 蘭:「うーん。なかなか顔を見せてくれないのね。それじゃあ仕方ない・・・よいしょっと」 ユウキ:「え・・・?きゃっ!く、首が・・・!」 鈴音:「ねぇさん!その姿、ちょっとこの子には刺激が強いよ!あんまりびっくりさせないでやって」 蘭:「うふふ、ごめんなさい。出てくるのを待っていたら、首がながぁくなってしまいそうだったから」 夜行:「・・・元々長ぇだろうが」 蘭:「ますます、ってことよ、夜行ちゃん。いちいち揚げ足をとる男は嫌われるわよ?」 夜行:「別にアンタに嫌われたところで、痛くも痒くもねぇな」 蘭:「あらぁ・・・その言い方はちょっと可愛くないわねぇ。そんなこと言って良いのかしら?ねぇ?ねぇねぇ?」 夜行:「あーもう!やめろよ!チイッ・・・!だからここには来たくなかったんだ・・・!おい!絡むな!巻き付くな!鬱陶しい!はーなーれーろー!」 蘭:「うふふふふっ」 ユウキ:「・・・あの人・・・」 鈴音:「ああ、ごめんね。驚かせて、あの人はお蘭ねぇさん。この店の女将で・・・」 潤吉:「見ての通りのろくろ首じゃよ」 鈴音:「うわぁっ!びっくりした!なんだい?居たのかい、潤吉じいさん!」 潤吉:「居たのかい?とは挨拶だねぇ鈴音ちゃん。ワシはお主らが来る前からずっとここにおったぞ」 鈴音:「だったら声くらいかけとくれよ!」 潤吉:「声なら何回もかけたぞ?それなのに、お主らときたらワシに気付きもしないで・・・嗚呼、悲しや・・・うらめしや・・・」 鈴音:「あー!たのむ!泣かないでおくれよぉ!アンタが泣くと大変なことに・・・!」 ユウキ:「おじいちゃん・・・大丈夫?」 潤吉:「・・・ほ?」 ユウキ:「泣かないで、おじいちゃん。その・・・私もご挨拶しなくてごめんなさい」 潤吉:「お、おうおう・・・なんて良い子なんじゃあ、この子は。こんな老いぼれに優しく声をかけてくれるなんて・・・ううっ・・・ううっ・・・」 鈴音:「だーかーらー!泣くなってばぁ!」 夜行:「・・・おい、何をぎゃあぎゃあ騒いでるんだ?」 蘭:「あら、潤吉さん。いつの間にいらしてたの?」 潤吉:「お蘭ちゃん・・・酷いのぉ。だいぶ前に声をかけたじゃあないか・・・」 蘭:「うーんと・・・そうだったかしら?仕込みに夢中で・・・えっと・・・ごめんなさいね?」 潤吉:「酷い!酷いのぉ!もうワシの味方はこのお嬢ちゃんだけじゃあ!」 夜行:「・・・うるせぇじいさんだなぁ」 鈴音:「まぁまぁ、元気なのはいい事だよ。ははは」 潤吉:「ところで、この可愛らしいお嬢ちゃんはどうしたんじゃ?見たところ、この街の住人ではなさそうだが」 鈴音:「あっ!そうだった!そうだった!アタシたちもそれを聞きたくて、この子をここまで連れてきたんだよ!実は夜行のシマに迷い込んできたらしくてさぁ!」 潤吉:「ほう?夜行坊ちゃんのシマに?あそこは日の光が届かぬ薄暗い場所。こんなおチビさんがあんな陰気なところにおったとは・・・これはまたどうして」 夜行:「陰気陰気って、お前らなぁ・・・」 ユウキ:「・・・えっと・・・」 夜行:「・・・おい、ガキ。いつまでモジモジしてやがる」 ユウキ:「・・・」 夜行:「(ため息)・・・あのなぁ、俺たちだって暇じゃねぇんだ。何も話せないって言うんなら、こっから今すぐ摘み出してやるからな」 ユウキ:「・・・っ」 鈴音:「こら!夜行!どうしてアンタはそういう言い方しか・・・」 蘭:「まぁまぁ、落ち着きなさいよ、二人とも。そんなに喧々諤々(けんけんがくがく)やってちゃ、この子だって萎縮して、喋れるものも喋れなくなっちゃうわよ?」 ユウキ:「・・・」 潤吉:「大丈夫じゃあ、お嬢ちゃん。ここに居る皆は口が悪かったり、騒がしかったりするけれど、お前さんを決して傷付けることはない」 ユウキ:「ホント・・・?」 潤吉:「ああ、だから教えておくれ。どうしてお前さんのような『人間』がこの場所に居るのかを」 ユウキ:「・・・うん。あのね・・・」 0:(しばらくの間) ユウキ:「私の名前は朝日奈ユウキ。柳下(やなぎもと)小学校に通う一年生です」 鈴音:「小学校?小学校って何だい?」 潤吉:「人間の子どもが集まって、みんなで学問に取り組む場所じゃなぁ」 鈴音:「うげぇ・・・アタシ、学問は苦手だぁ」 蘭:「あら。小学校では学問だけじゃなく、友だちと遊んだり、ご飯を食べたりもするって聞いたけど?」 鈴音:「そうなの!?それは楽しそうだねぇ!」 夜行:「・・・おい、話の腰を折ってんじゃねぇよ」 鈴音:「ああ、ごめんごめん。続けて」 ユウキ:「えっと・・・みなさんの言う通り、私も毎日学校に通って、勉強をしたり、友だちと一緒に遊んだり、給食を食べたりして過ごしていました。 ユウキ:けど、ある日・・・そう、あれは授業参観の日。お友だちに言われたんです。『ユウキちゃんのお父さんとお母さん、今日授業を見にくるの?』って。私はその子に言いました。『ううん。私、お父さんとお母さんいないんだ』って」 鈴音:「・・・もしかして、ユウキちゃんのお父さんとお母さんは・・・」 ユウキ:「・・・はい。小さい頃、事故で死んじゃいました。だから私は『おひさまの家』っていう『身寄りのない子ども』が集まるお家で暮らしてます」 潤吉:「小さいのに苦労しとるんじゃなぁ・・・うっ・・・」 蘭:「あぁ、ほらほら潤吉さん。気持ちはわかるけど、泣かないの」 夜行:「・・・で、お前に親が居ない事と、ここに迷い込んだ事と、何の関係があるんだ?」 鈴音:「ちょっと夜行!少しは言葉に気をつけなって・・・」 ユウキ:「・・・」 蘭:「ユウキちゃん?」 ユウキ:「・・・おかしい、って言われたんです」 鈴音:「おかしい、って・・・何が?」 ユウキ:「クラスの子が、言ったんです。お父さんもお母さんもいないのはおかしいって。お前がドジでノロマだから・・・それが嫌になって居なくなっちゃったんだって・・・」 鈴音:「なんだよそれ!酷いじゃないか!」 蘭:「鈴音ちゃん、落ち着いて」 鈴音:「だって!ユウキちゃんのお父さんとお母さんは、事故にあって死んじまったんだろ?だったら、ちっともユウキちゃんは悪くないじゃないか!それなのにさぁ・・・!」 夜行:「鈴音!・・・あんまり大声で騒ぐな。コイツ、泣きそうになってるじゃねぇか」 鈴音:「・・・あっ」 ユウキ:「・・・っ」 鈴音:「ご、ごめんよ。ユウキちゃん・・・大きな声で喚いちまって・・・」 ユウキ:「ううん・・・大丈夫。ありがとう、鈴音ちゃん。私の為に怒ってくれて・・・」 鈴音:「ユウキちゃん・・・」 夜行:「・・・で、お前はそう言われたのが悔しかったから、ここまで来たのか?」 ユウキ:「え・・・?」 夜行:「俺の考えが正しければ、お前のその気弱な態度を見る限り、悔しいなんて感情で行動するとは考えられない。もっと他に理由があるんだろ?」 ユウキ:「・・・」 蘭:「・・・そうなの?ユウキちゃん」 ユウキ:「・・・っ」 潤吉:「つらかったら、無理に話さなくてもええぞ 。でも、ワシらはお前さんの力になりたいと思っとる。だから、もしよければ聞かせてくれんかの。お前さんがここに迷い込んだ、そのわけを」 ユウキ:「・・・っ。あの、あのね・・・お父さんとお母さんがいないって分かったその日から、私、それを理由に虐められるようになったの・・・。親無しの泣き虫毛虫、ってからかわれたり、イタズラをされるようになった・・・」 鈴音:「・・・酷い」 潤吉:「自分と違うことに目をつけて、槍玉(やりだま)に挙げるのが人間の悲しい性よなぁ・・・。さぞかしつらかったじゃろうて」 ユウキ:「うん。・・・けど、けどね。虐められるよりも一番つらかったのはね・・・お父さんとお母さんが私がドジでノロマだから、嫌になっちゃったんだろうって思うことだった・・・」 鈴音:「え・・・?」 ユウキ:「・・・私。お父さんとお母さんが事故にあったあの日、うっかり寝坊しちゃって。早く起きて、一緒に出かけようねって言われてたのに、ぐずって二人を困らせたの・・・。 ユウキ:そうしたら、お父さんたち、困った顔をしながら『じゃあ、ちょっとだけお留守番お願いね』って出て行って、そのまま帰ってこなかった・・・」 鈴音:「そんな・・・」 ユウキ:「だから、言われて思ったの。わ、私があの日、いい子にしてれば・・・ちゃんと起きて支度して、みんなでもう少し早く出かけてれば・・・お父さんとお母さんは事故にあわなかったかもしれないのに・・・。そう考えたら、私・・・私・・・っ・・・」 0:(気まずい沈黙が流れる) ユウキ:「・・・そうしたらね、クラスの子が言ったの。もしかしたら、お前のお父さんとお母さんは、この街のどこかにあるって噂の『妖怪の町』に居るかもしれないぞ、って。それを聞いて私、もしかしてって思って・・・」 夜行:「なるほどな。ここに来れば親父さんとお袋さんに会えるんじゃないかと思ったって、そういう訳か」 ユウキ:「・・・うん」 鈴音:「でも、ここは・・・」 夜行:「残念だったな。生憎だが、この町は妖怪の町であって、死者の国じゃない。お前の親父さんもお袋さんも、この町に来たところで会うことはできない」 鈴音:「夜行・・・!」 夜行:「・・・会うことはできないが、親父さんたちが居たらきっと、お前が一人でこんなところまで来た事をとても心配したと思うぞ」 蘭:「そうね。中にはアナタのような子どもが大好物の、恐ろしい妖怪もいるからね」 潤吉:「出会ったのがワシらみたいな呑気な妖怪で良かったのぉ。ほっほっほ」 夜行:「・・・あと、これはあくまで俺の考えだが・・・親父さんたちはお前が嫌になったから、置いていったわけじゃないと思う」 ユウキ:「え・・・?」 潤吉:「ワシも夜行坊ちゃんと同意見じゃ。優しくて、素直なお前さんを見ればよぉくわかる。親御さんたちはきっとユウキちゃんを大事に、大事に育ててきたんじゃろうて」 鈴音:「そうだよね!そんな人たちが簡単にユウキちゃんのことを嫌いになるはずないよ!アタシもそう思う!」 蘭:「ええ、私もそう思うわ」 ユウキ:「・・・っ、みんな・・・」 夜行:「だから、あまり自分を責めるな。お前は何も悪くない。少なくとも俺たちはそれを知っている。なぁ、そうだろ?」 0:(鈴音、お蘭、潤吉。同時くらいに) 鈴音:「うんっ!」 蘭:「ええ」 潤吉:「ああ、その通りじゃとも」 ユウキ:「・・・っ。みんな・・・ありがとう・・・本当にありがとう・・・」 鈴音:「あーあー、泣かないでよぉ。折角の可愛い顔が台無しだ」 潤吉:「いやいや、こういう時はたくさん泣くがええ。涙と一緒につらかった気持ちも流してしまえばええ」 蘭:「そうそう、いっぱい泣いたらその後、いっぱい笑えばいいの。あっ、そういえば潤吉さん、最近、風の噂でダジャレにハマってるって聞いたけど」 潤吉:「・・・それは誰から聞いたんじゃ?」 蘭:「うーんと、誰だったかしらァ?まぁ、誰でも良いじゃない?」 鈴音:「そうだ!折角ならお得意のダジャレを披露してもらおうよ!」 潤吉:「なっ・・・」 鈴音:「ほらぁ!早く!」 潤吉:「し、仕方ないのぉ・・・では、コホン。(自由にダジャレを言ってください)『妖怪横丁にお客さんが来たんだってさ!へぇ、何か用かい?』」 0:(微妙な空気が流れる) 潤吉:「おいおい!少しは笑ってくれたっていいじゃろ!くうっ・・・!」 夜行:「・・・さて、そうなってくると、目下の問題はお前を虐めたヤツらをどうするかだな」 蘭:「そうよねぇ。折角ユウキちゃんが前向きな気分になったのに、また虐められたら可哀想だわ」 鈴音:「それなら、いっそアタシがこの爪で八つ裂きに・・・」 ユウキ:「ダメ!」 鈴音:「ユ、ユウキちゃん・・・?どうしてダメなんだい?だってアンタ、酷い目に合わされたんだろ?」 ユウキ:「うん・・・とってもつらかったよ。だけど、どんな事をされても、相手を傷付けるのは絶対にダメ」 夜行:「ぷっ・・・ははっ、はははっ」 鈴音:「ちょっと夜行、何笑ってんだい?」 夜行:「いや、驚いちまってよ。人間ってのは平気で人を傷付けるモンだと思っていたが、こんなヤツもいるとはな・・・くくくっ・・・」 鈴音:「ハァ・・・?」 夜行:「・・・おい、ユウキ」 ユウキ:「は、はい」 夜行:「お前が人を傷付けたくないのはよぉく分かった。だが、時には相手にぶつかっていくことも大切だ。わかるか?」 ユウキ:「・・・うん。でも・・・」 夜行:「手伝ってやる」 ユウキ:「・・・え?」 夜行:「お前がこれ以上、虐められないよう、俺たちがちょいと手伝ってやる。だから、お前も協力しろ。いいな」 ユウキ:「協力・・・?どうすればいいの・・・?」 夜行:「ああ、なぁに難しいことは言わねぇ。お前がほんの少し頑張ってくれりゃあ、後は俺たちがどうにかしてやるからよ」 ユウキ:「う、うん・・・」 夜行:「・・・よぉし、そうと決まれば招待してやろうじゃないか。俺たちの・・・妖怪横丁にな」 0:しばらくの間。以下、少年少女の兼役があります。 潤吉:「(少年)・・・おい、ユウキ。こんな気味の悪いところに俺たちを連れてきて、どうするつもりだよ」 ユウキ:「・・・」 蘭:「(少女)そうよそうよ!暗くなったらお家に帰らなきゃダメなのよ!こういうの不良って言うんだから!」 夜行:「(少年)仕方ないよ。だって、ユウキちゃんは・・・ほら」 潤吉:「(少年)ああ、そっか。お前、お父さんもお母さんもいないもんなー」 蘭:「(少年)そうだったそうだった。親無しの、泣き虫毛虫〜」 鈴音:「(少年)親に捨てられた、ドジでノロマな弱虫ユウキ〜」 ユウキ:「・・・」 潤吉:「(少年)・・・おい、なんか言えよ」 ユウキ:「・・・てない」 蘭:「(少女)は?」 潤吉:「(少年)なんだよ、聞こえねーよ。もっとハッキリ言えっての・・・」 ユウキ:「お父さんと、お母さんは私を捨ててなんかない!」 蘭:「(少年)な、なんだよ。急に大声出しやがって。それで俺たちをビビらせてるつもりか?」 潤吉:「(少年)生意気なヤツめ!おい!みんなでちょっと懲らしめてやろうぜ!」 ユウキ:「・・・っ」 夜行:「・・・懲らしめる?誰が誰を懲らしめるって・・・?」 潤吉:「(少年)・・・だ、誰だ!?」 鈴音:「人を虐めて楽しんでいる悪い子がどうやらいるみたいだねぇ・・・」 蘭:「(少女)ひぃっ、何・・・この声・・・どこから聞こえるの・・・!?」 潤吉:「いかん、いかんのぉ・・・そんなことをする悪い子にはお仕置をせねばならんのぉ・・・」 鈴音:「(少年)やだぁ・・・怖いよぉ・・・!パパー!ママー!」 蘭:「ふふふ、怖い?怖いわよねぇ?思わず逃げたくなっちゃうわよねぇ・・・」 潤吉:「(少年)お、おいやべぇって・・・みんな、逃げるぞ・・・!」 夜行:「逃げる?・・・よし、それじゃあこうしようじゃないか」 夜行:「みんなで仲良く鬼ごっこだ」 0:しばらくの間。夜行、少年としてセリフを読む 蘭:「・・・むかしむかしね、私一人の男の子に恋をしたの。近所に住む幼馴染でねぇ、将来は一緒になろうって小さい頃から約束してた」 夜行:「ひ、ひぃっ・・・ゆ、幽霊だ・・・!」 蘭:「私は待ってた。ずっとずぅっと待っていた・・・その約束を信じて。けど、男の子は来てくれなかった。私を捨てて違う女の子と結婚してしまった・・・」 夜行:「いやだ、いやだ・・・近寄るな・・・近寄るなって・・・!」 蘭:「私は待っていたのに・・・彼のこと、ずっとずっと待っていたのに・・・。首を長くして待っていたのに・・・。だから、私ね・・・」 蘭:「・・・ホントに首がながぁくなっちゃった」 夜行:「ひぃっ・・・」 蘭:「うふふ、そんなに怖がらないで?・・・まぁ、よぉく見たらアナタ、あの男の子に似てるわぁ。ねぇ、良ければおねぇさんと遊ばなァい?」 夜行:「い、嫌だァ!ろくろ首となんて遊ばないー!」 蘭:「・・・あらあら、逃げちゃった。そんなに怖がらなくたって良いじゃない。もう・・・男って本当に酷いんだから・・・」 蘭:「・・・ま、あんな酷い男の顔なんて、とっくの昔に忘れてやったけどね」 0:しばらくの間。鈴音、少年としてセリフを読む 鈴音:「はぁ・・・はぁ・・・みんな、どこいっちゃったんだろう・・・?必死で逃げてたら、はぐれちゃった・・・。薄暗いし・・・怖いし・・・疲れたし・・・もう走りたくないよぉ・・・」 潤吉:「・・・お坊ちゃん」 鈴音:「うわっ!・・・ビックリした・・・。なんだよ、ただのじいちゃんか・・・。おどかすなよ・・・」 潤吉:「お坊ちゃん・・・そんなに急いでどこに行くんだい?」 鈴音:「どこに、って・・・そんなのわかんないよぉ・・・。僕はただ、みんなが行くっていうから着いてきただけなのに・・・」 潤吉:「なるほどなぁ。じゃあ、お前さんはユウキちゃんを虐めたわけじゃないんじゃな?」 鈴音:「それは・・・ええと・・・」 潤吉:「・・・ふぅむ。そうかそうか、だったらワシがこの場所から外に出る方法を教えてしんぜよう」 鈴音:「ほ、ホントに!?」 潤吉:「ああ、けれどワシは今腰を痛めてしまっておってのう・・・悪いが、ちょっと手を貸してくれると嬉しいんじゃが・・・」 鈴音:「えっ、嫌だよ!僕だっていっぱい走って疲れたもん。自分で頑張って歩いてくれよ」 潤吉:「なんと・・・冷たい子じゃのう・・・。年寄りには優しくせいと親から教わらなかったのか?」 鈴音:「知らないよ!うるさいなぁ!もういいよ!歩けないんだったら帰り道だけ教えてよ!僕一人で歩いて行くから!」 潤吉:「わかったわかった・・・なら、仕方ない。じゃが、教える前にワシのとっておきのダジャレをひとつ、聞いていってはくれんかの?」 鈴音:「ダジャレ・・・?仕方ないなぁ・・・。まぁ、それくらいだったら・・・」 潤吉:「うむうむ。ではいくぞ・・・『もしもし?お隣さん、そんなに震えてどうしたんだい?いや・・・そこに・・・怨念がおんねん』」 鈴音:「・・・全然面白くない」 潤吉:「なんじゃと・・・渾身のダジャレだったのに少しも笑わんとは・・・ああ、悲しや・・・恨めしやぁ・・・」 鈴音:「うっ・・・なんだ・・・急に、身体が、重く・・・」 潤吉:「・・・重いじゃろ?苦しいじゃろ?これがワシの悲しみじゃ・・・これが他人の悲しみじゃ・・・。じっくりじっくり、味わうがよい・・・うっ・・・うっ・・・」 鈴音:「ぐっ・・・苦しい・・・苦しいよぉ・・・。た、助け、てぇ・・・」 潤吉:「うーらーめーしーやー・・・。ーーーおや、気絶してしもうたか。少しやり過ぎたかの?」 0:しばらくの間。蘭、少女としてセリフを読む 蘭:「もー!どうしてこんな事になっちゃったの・・・。だから、私は初めから嫌だって言ったのよ。お気に入りの髪飾りは無くすし、手も足も転んでどろどろだし・・・!最悪、最悪、最悪!」 鈴音:「・・・にゃぁん」 蘭:「・・・ひっ!・・・えっ?猫?なんだ、驚かせないでよ・・・」 鈴音:「にゃぁん」 蘭:「何よ?何こっちをじっと見てるのよ。餌なら持ってないわよ。そもそも、私だってお腹減ってるんだから・・・」 鈴音:「にゃぁん」 蘭:「ちょっと!近寄らないでよ!この服、お気に入りなんだから!アンタの毛でも付いたらどうすんのよ!しっしっ!あっち行って!」 鈴音:「にゃーん・・・」 蘭:「あっち行けって言ってるでしょ!しつこいわねぇ、石投げるわよ!ほら、早くどこかに行きなさ・・・」 鈴音:「・・・そうやって、弱い者を傷付けるの?」 蘭:「・・・え?」 鈴音:「アンタ、そうやって弱い者を傷付けるの?自分が良ければいいって理由で、平気で誰かを傷付けるの?」 蘭:「な、何?誰がしゃべってるの・・・?」 鈴音:「・・・見ているよ」 蘭:「ひっ・・・」 鈴音:「どこかで、誰かが見ているよ。綺麗な服や、髪飾りで着飾ったって隠しきれない醜いその姿、金色の目を光らせてどこかで誰かが見ているよ」 蘭:「い、嫌・・・この猫・・・しゃべって・・・!」 鈴音:「・・・ほぉら、今もみぃつけた。弱い者虐めをしようとする悪い子は・・・この爪で八つ裂きにしてやるにゃぁぁあっ!!」 蘭:「きゃああああああ!」 鈴音:「ふふっ、良い逃げっぷりだねぇ。少しは懲りてくれるといいけど。・・・ま、猫は執念深いからね。これからは気を付けて過ごすんだよ」 鈴音:「・・・さぁて、残りはもう一人。あとは任せたよ、夜行」 0:しばらくの間。潤吉、少年としてセリフを読む 潤吉:「・・・よし・・・逃げ切ったか?ちっ・・・なんなんだよ、ユウキのヤツ・・・。急に呼び出すから何だと思ったら、変な仲間を連れてきやがって・・・」 潤吉:「まさか、アイツ・・・本当に『妖怪の街』を見つけて・・・?いや、そんなハズない。あの弱虫ユウキだぞ。一人でそんなことができるわけ・・・」 潤吉:「・・・そうだ。これはきっと夢だ・・・!じゃなきゃ、映画やドラマの撮影だ!そうに決まってる!ははは!アイツ、俺たちを脅かす為だけにこんな作り物を用意して!馬っ鹿じゃねぇの!弱虫で泣き虫の、嘘つきユウキ!ははっ、はははははっ!」 夜行:「・・・誰が作り物だって?」 潤吉:「・・・え?」 夜行:「答えろ。誰が作り物だって?」 潤吉:「な、なんだよ、この声・・・どこから聞こえるんだ・・・?」 夜行:「はぁ、作り物とは俺たちも舐められたモンだなぁ・・・。全く、近頃のガキは可愛げが無くていけねぇや」 潤吉:「おい!誰だ!誰だよ!どうせどこかでカメラ回して撮影してるんだろ!?卑怯者!隠れてないで出てこい!」 夜行:「・・・卑怯者?へぇ、そいつはいったい誰のことを言ってるんだ?」 潤吉:「ひっ・・・!なんだお前・・・!?いつの間に俺の後ろに・・・」 夜行:「おいガキ。一つ俺の質問に答えろ。卑怯者っていうのは誰のことだ?」 潤吉:「はぁ・・・?そんなの決まってんだろ?お前らだよ!陰に隠れてコソコソ人を脅かして、楽しんでいるお前らみたいなヤツだよ!」 夜行:「へぇ・・・そうかい。でも俺は、お前らみたいに寄って集(たか)って人の事を虐めるようなヤツらを、卑怯者って言うんじゃないかと思うがねぇ」 潤吉:「なっ・・・」 夜行:「まぁ、いいさ。お前が俺たちを卑怯者呼ばわりするのは構わない。だが、弱い者虐めは良くねぇな。それだけは許せねぇ」 潤吉:「なんだよ!カッコつけやがって・・・別にお前にはそんなの関係ないだろ!」 夜行:「関係ない?いや、そんなことねぇぞ。何故なら、ユウキは俺たちの仲間だからな」 潤吉:「仲間?じゃあ、やっぱりお前らも嘘つきだ!嘘つきユウキの友だちは、みんなみんな嘘つきだ!」 夜行:「・・・へぇ、じゃあ嘘かどうか試してみるか?」 潤吉:「は・・・?」 夜行:「おい!お前ら!出てきやがれ!妖怪横丁の礼儀、こいつに教えてやろうぜ!」 潤吉:「ひぃっ・・・何だ!?ば、化け物がいっぱい・・・!?」 夜行:「おいガキ。もう一度聞く。こいつらを目の前にしても、ユウキのことを嘘つきだって言えるのか?」 潤吉:「いやだ・・・来るな・・・来るなよ・・・」 夜行:「こんな恐ろしいヤツらを目の前にして、逃げ出さなかったユウキを、弱虫だと笑うのか?」 潤吉:「やめろ、やめろよ・・・!頼む、頼むから・・・!」 夜行:「こんなにたくさんの仲間を引き連れたユウキを・・・独りぼっちだと虐めるのか?」 潤吉:「だ、誰かぁ・・・たすけ・・・」 夜行:「・・・まぁ、折角だ。少し灸を据えてやる。ーーーさぁさ、ゆっくりしていきな。妖怪横丁名物、百鬼夜行の始まり!始まりぃ!」 0:(しばらくの間) 夜行:老いも若きもおいでませ 夜行:ここは良い街 宵(よい)の街 蘭:さあさ みなさんおいでませ 蘭:妖怪横丁三丁目 潤吉:坊ちゃん嬢ちゃんおいでませ 潤吉:ここは陽気な 妖(よう)の街 鈴音:ほらほら どなたもおいでませ 鈴音:妖怪横丁三丁目 鈴音:愉快な横丁三丁目 0:(しばらくの間) 鈴音:「・・・ふぅ、これで少しはあの子たちも懲りたかな?」 夜行:「まぁ、だいぶしっかり言い聞かせてやったからな。簡単に手を出してくることはないだろ」 蘭:「これを機に改心してくれると嬉しいんだけど・・・」 潤吉:「なぁに、彼らはまだほんの子どもじゃ。良いも悪いも生きていく中でこれからたくさん学んで、自分なりに正しい道を見つけていくじゃろうて」 ユウキ:「・・・あの・・・みんなは・・・?」 夜行:「ああ、アイツらか?なぁに、心配するな。きちんと家まで送り返しておいた。今頃、信じられないって顔して家の前に立っているだろうさ」 ユウキ:「そっか・・・良かった・・・」 鈴音:「本当にユウキちゃんは優しくて良い子なんだねぇ。どこかの誰かさんに爪の垢を煎じて、飲ませてやりたいよ」 夜行:「・・・どこかの誰かって誰だよ」 鈴音:「えー?誰かって?そうだなぁー。例えば、ほらそこの半人前の誰かさんとか・・・」 夜行:「おい!」 鈴音:「あはは!この程度で怒ってるようじゃ、まだまだだねぇ〜!」 蘭:「こぉら、二人とも。喧嘩しないの」 潤吉:「まぁまぁ、喧嘩するほど何とやら、じゃよ、お蘭ちゃん。・・・さ、そんな二人はほっておいて、ワシらはユウキちゃんを家まで送って・・・」 ユウキ:「・・・」 潤吉:「おや、ユウキちゃん?どうしたんじゃ、悲しそうな顔して。大丈夫か?どこか痛むのか?」 ユウキ:「・・・ううん、大丈夫。どこも痛くない」 蘭:「じゃあ、どうしてそんな顔をしているの?ねぇ、良ければ理由を聞かせてちょうだい」 ユウキ:「・・・やっぱり、居なかったんだなぁって思って」 蘭:「居なかった?」 ユウキ:「うん。お父さんとお母さん、やっぱり居なかったんだなぁって・・・。もしかしたら、って思ってここまで来たから・・・その、帰っても二人とも居ないって考えたら、ちょっと寂しくなっちゃって・・・」 蘭:「ユウキちゃん・・・それは・・・」 夜行:「あーあー!なぁに暗い顔してんだよ!せっかく虐めっ子を懲らしめてやったのに、そんな顔されちゃ、困っちまうぜ。全く!」 鈴音:「夜行!ちょっとアンタ・・・!」 夜行:「・・・大丈夫だ」 ユウキ:「・・・え?」 夜行:「大丈夫だ。確かにここにはお前の親は居なかった。けど、お前のことを心配し、大事に思うヤツらがいる。だから、大丈夫だ」 ユウキ:「でも・・・」 夜行:「つらかったら、いつでも来い。その・・・今度来た時は、出ていけなんて言わねぇからよ」 ユウキ:「・・・!」 鈴音:「そうだよ!夜行の言う通りだ!」 蘭:「ええ、私たちはもうお友だち。いつだってアナタのことを見守っているわ」 潤吉:「困った時や、寂しい時はいつでも遊びに来るがええ。ワシらはお前さんの友であり、家族じゃ。家族と会うのに遠慮はいらんからの。ほっほっほ」 ユウキ:「みんな・・・!・・・っ、ありがとう。本当にありがとう・・・!」 潤吉:「さて、もうすぐ夜が深くなる。良い子はもう眠る時間じゃ」 蘭:「またいらっしゃい、ユウキちゃん。今度来た時は、うちのお店自慢の料理を用意して待ってるから」 鈴音:「案内したい場所もたくさんあるんだ!だから、またおいで!アタシ、色々考えておくから!」 ユウキ:「うん・・・!私、絶対遊びに来る!絶対にまた来るからね・・・!」 夜行:「・・・おう、いつでも大歓迎だ。妖怪横丁一同、楽しみに待ってるぜ!」 0:(しばらくの間) 鈴音:「・・・行っちゃったね」 夜行:「ああ、そうだな」 鈴音:「でも、また会えるよね!だって、アタシたちもう家族だもんね」 夜行:「・・・ああ、そうだな」 鈴音:「ふふっ・・・!それにしても夜行、見事な仕切りっぷりだったよ。さすが次期頭領だねぇ」 夜行:「ふん・・・今更分かったのか?」 鈴音:「うん。半人前なんて言って、その・・・ごめんね」 夜行:「へぇ・・・珍しく殊勝じゃねぇか、まぁ俺は心が広いからな。そんなの全然気にしない・・・」 鈴音:「半人前って言ったのは取り消すよ!今度からアタシ、アンタのこと未熟者って呼ぶことにするね!」 夜行:「・・・余計に悪くなってんじゃねぇか!」 鈴音:「きゃー!夜行が怒ったー!にっげろー!にゃはははは〜!」 夜行:「てめ、鈴音!許さねぇぞ!おいコラ!待て!待ちやがれー!」 0:〜めでたし めでたし〜

夜行:老いも若きもおいでませ 夜行:ここは良い街 宵(よい)の街 蘭:さあさ みなさんおいでませ 蘭:妖怪横丁三丁目 潤吉:坊ちゃん嬢ちゃんおいでませ 潤吉:ここは陽気な 妖(よう)の街 鈴音:ほらほら どなたもおいでませ 鈴音:妖怪横丁三丁目 鈴音:愉快な横丁三丁目 0:『妖怪横丁三丁目』 ユウキ:「・・・ぐすっ・・・ひっく・・・」 夜行:「ん?」 ユウキ:「うっ・・・ぐすっ・・・ひっく・・・」 夜行:「・・・おい」 ユウキ:「ぐすっ・・・ううっ・・・」 夜行:「・・・おい、ガキ」 ユウキ:「うっ・・・ひっく・・・」 夜行:「・・・おいってば!!」 ユウキ:「・・・え・・・?」 夜行:「はぁ・・・やあっと顔を上げた」 ユウキ:「あ、あの・・・」 夜行:「ったく・・・人のシマでいつまでもメソメソ泣いてやがって。おかげで目が覚めちまったぜ。まだ宵まで時間があるってのによ」 ユウキ:「えっと・・・あの・・・」 夜行:「おい、ガキ」 ユウキ:「は、はい」 夜行:「お前、どこから来た」 ユウキ:「え・・・」 夜行:「どこから来たって聞いてんだよ。ここは俺のシマだ。勝手に入られたら迷惑なんだよ」 ユウキ:「でも、私・・・」 夜行:「今すぐ出ていけ」 ユウキ:「えっ・・・」 夜行:「聞こえなかったのか?今すぐ出ていけ。ここはお前のようなガキがいる場所じゃねぇ。とっととお家に帰んな」 ユウキ:「けどぉ・・・」 夜行:「・・・あン?口応えすんのか?ハッ、いい度胸だ。いいだろう・・・それなら、今すぐにお前を喰らって・・・」 鈴音:「こぉら夜行!!何やってんだい!!」 夜行:「痛ぇっ!!」 鈴音:「全く、家に居ないと思ったら、こんなところで小さい子相手に凄んでるなんて。本当にどうしようもないヤツだねぇ、アンタ」 夜行:「ぐっ・・・鈴音ぇ・・・お前、思いっ切り髪引っ張りやがって・・・。抜けちまったらどうするつもりだ」 鈴音:「いいじゃないか別に。将来はどうせ、親父さんみたいな禿頭になる運命なんだ。むしろ今から多少間引きしておいてやった方が、早く一人前になれるかもしれないよ」 夜行:「ンだと!?この化け猫女!」 鈴音:「さぁさ、こんな半人前の事は置いておいて・・・お嬢ちゃん。アンタ、名前は?」 ユウキ:「ひっ・・・」 鈴音:「あらぁ・・・すっかり怯えちまって可哀想に・・・。仕方ない・・・そぉれっ!」 ユウキ:「きゃっ・・・」 鈴音:「にゃぁん」 ユウキ:「えっ・・・猫ちゃん・・・?」 鈴音:「にゃぁん。にゃぁーん」 ユウキ:「うわぁ・・・かわいい・・・。おいで、猫ちゃん」 鈴音:「にゃーん」 ユウキ:「うふっ、とってもふわふわで綺麗な猫ちゃん。えっ?抱っこさせてくれるの?ありがとう。・・・よしよぉし、いい子いい子・・・。きゃっ、くすぐったいよ。顔、そんなに舐めないでってば・・・うふっ、あはっ、あはははは・・・」 夜行:「・・・けっ、可愛こぶりやがって。気持ちわりぃ」 鈴音:「ちょぉっと夜行?今のは聞き捨てならないねぇ。アタシはアンタが泣かしたこの子を慰めようと、一生懸命愛想を振りまいてるっていうのに」 ユウキ:「わっ・・・猫ちゃんが喋った・・・」 夜行:「うっせぇな・・・頼んでねぇし。第一、勝手に泣いたのはそいつだし」 鈴音:「はぁ・・・やれやれ。自分の尻拭いもできないから、いつまで経ってもアンタは半人前なんだよ」 夜行:「なんだと?もういっぺん言ってみろ」 鈴音:「半人前。無愛想。人見知りの陰険男〜」 夜行:「なっ・・・!勝手に悪口増やしてんじゃねぇよ!」 鈴音:「えー?だってホントの事だろぉ?意地っ張りの見栄っ張り。天邪鬼のこんこんちき〜」 夜行:「くぅっ・・・!こいつ・・・言わせておけば・・・」 ユウキ:「・・・け、喧嘩はダメっ!!」 夜行:「・・・!」 鈴音:「・・・おやぁ。こりゃ驚いた。お嬢ちゃん、随分大きな声が出せるんだねぇ」 ユウキ:「あっ・・・えっと・・・ごめんなさい・・・」 鈴音:「ふふっ、気にする事はないさ。むしろ、さっきみたいにモジモジしているよりはずっといい」 ユウキ:「・・・」 夜行:「・・・おい、お前」 ユウキ:「は、はい・・・」 夜行:「いい加減、そろそろ聞かせてもらおうか。どうしてこんなところで泣いていたのかを」 ユウキ:「・・・」 鈴音:「よし!それなら行こうじゃないか」 夜行:「行くってどこへ?」 鈴音:「もう!だからアンタは気が利かないんだよ!こんな薄暗い陰気な場所で話なんか弾むわけないだろ」 夜行:「なっ・・・お前、人のシマにずけずけ踏み込んできて、事もあろうに陰気だと・・・!?」 鈴音:「ほらほらほら!いちいち目くじら立てるんじゃないよ!さ、お嬢ちゃん。案内するから着いておいで」 ユウキ:「あの・・・着いて行くって・・・どこに?」 鈴音:「ふふっ、どこかって?そりゃあ、もちろん・・・陰気なヤツも陽気になれる、愉快で楽しい良い所!」 鈴音:「さぁ、行こうじゃないか!アタシたちの街、『妖怪横丁』まで!」 0:(しばらくの間) 蘭:「・・・いらっしゃぁい。悪いけど、ちょっとまだ準備中なの。もう少しだけ待っていてちょうだ・・・あらぁ?」 鈴音:「こんばんは!お蘭ねぇさん!」 蘭:「まぁまぁ、鈴音ちゃん。いらっしゃい。どうしたの?こんな早くに顔を出すなんて、珍しいじゃない」 鈴音:「へへへ・・・ちょっとね。座らせてもらっても良い?」 蘭:「ええ、いいわよ。まだお酒や料理は出せないけど、それでも良ければ」 鈴音:「ありがとう!・・・だってさ!入って入って〜!」 ユウキ:「・・・お、お邪魔します」 夜行:「・・・よぉ」 蘭:「あら?あらあらあらぁ?今日は珍しいお客さんがいっぱいねぇ。久しぶりじゃない夜行ちゃん。元気にしてた?」 夜行:「ああ、まぁ・・・それなりにな」 蘭:「ふふ、相変わらず愛想が無いこと。可愛らしいわねぇ。・・・あとは」 ユウキ:「・・・っ」 蘭:「小さなお客さん。怖がらなくて良いわよ。そんな陰に隠れてないで出ていらっしゃい」 ユウキ:「・・・」 蘭:「うーん。なかなか顔を見せてくれないのね。それじゃあ仕方ない・・・よいしょっと」 ユウキ:「え・・・?きゃっ!く、首が・・・!」 鈴音:「ねぇさん!その姿、ちょっとこの子には刺激が強いよ!あんまりびっくりさせないでやって」 蘭:「うふふ、ごめんなさい。出てくるのを待っていたら、首がながぁくなってしまいそうだったから」 夜行:「・・・元々長ぇだろうが」 蘭:「ますます、ってことよ、夜行ちゃん。いちいち揚げ足をとる男は嫌われるわよ?」 夜行:「別にアンタに嫌われたところで、痛くも痒くもねぇな」 蘭:「あらぁ・・・その言い方はちょっと可愛くないわねぇ。そんなこと言って良いのかしら?ねぇ?ねぇねぇ?」 夜行:「あーもう!やめろよ!チイッ・・・!だからここには来たくなかったんだ・・・!おい!絡むな!巻き付くな!鬱陶しい!はーなーれーろー!」 蘭:「うふふふふっ」 ユウキ:「・・・あの人・・・」 鈴音:「ああ、ごめんね。驚かせて、あの人はお蘭ねぇさん。この店の女将で・・・」 潤吉:「見ての通りのろくろ首じゃよ」 鈴音:「うわぁっ!びっくりした!なんだい?居たのかい、潤吉じいさん!」 潤吉:「居たのかい?とは挨拶だねぇ鈴音ちゃん。ワシはお主らが来る前からずっとここにおったぞ」 鈴音:「だったら声くらいかけとくれよ!」 潤吉:「声なら何回もかけたぞ?それなのに、お主らときたらワシに気付きもしないで・・・嗚呼、悲しや・・・うらめしや・・・」 鈴音:「あー!たのむ!泣かないでおくれよぉ!アンタが泣くと大変なことに・・・!」 ユウキ:「おじいちゃん・・・大丈夫?」 潤吉:「・・・ほ?」 ユウキ:「泣かないで、おじいちゃん。その・・・私もご挨拶しなくてごめんなさい」 潤吉:「お、おうおう・・・なんて良い子なんじゃあ、この子は。こんな老いぼれに優しく声をかけてくれるなんて・・・ううっ・・・ううっ・・・」 鈴音:「だーかーらー!泣くなってばぁ!」 夜行:「・・・おい、何をぎゃあぎゃあ騒いでるんだ?」 蘭:「あら、潤吉さん。いつの間にいらしてたの?」 潤吉:「お蘭ちゃん・・・酷いのぉ。だいぶ前に声をかけたじゃあないか・・・」 蘭:「うーんと・・・そうだったかしら?仕込みに夢中で・・・えっと・・・ごめんなさいね?」 潤吉:「酷い!酷いのぉ!もうワシの味方はこのお嬢ちゃんだけじゃあ!」 夜行:「・・・うるせぇじいさんだなぁ」 鈴音:「まぁまぁ、元気なのはいい事だよ。ははは」 潤吉:「ところで、この可愛らしいお嬢ちゃんはどうしたんじゃ?見たところ、この街の住人ではなさそうだが」 鈴音:「あっ!そうだった!そうだった!アタシたちもそれを聞きたくて、この子をここまで連れてきたんだよ!実は夜行のシマに迷い込んできたらしくてさぁ!」 潤吉:「ほう?夜行坊ちゃんのシマに?あそこは日の光が届かぬ薄暗い場所。こんなおチビさんがあんな陰気なところにおったとは・・・これはまたどうして」 夜行:「陰気陰気って、お前らなぁ・・・」 ユウキ:「・・・えっと・・・」 夜行:「・・・おい、ガキ。いつまでモジモジしてやがる」 ユウキ:「・・・」 夜行:「(ため息)・・・あのなぁ、俺たちだって暇じゃねぇんだ。何も話せないって言うんなら、こっから今すぐ摘み出してやるからな」 ユウキ:「・・・っ」 鈴音:「こら!夜行!どうしてアンタはそういう言い方しか・・・」 蘭:「まぁまぁ、落ち着きなさいよ、二人とも。そんなに喧々諤々(けんけんがくがく)やってちゃ、この子だって萎縮して、喋れるものも喋れなくなっちゃうわよ?」 ユウキ:「・・・」 潤吉:「大丈夫じゃあ、お嬢ちゃん。ここに居る皆は口が悪かったり、騒がしかったりするけれど、お前さんを決して傷付けることはない」 ユウキ:「ホント・・・?」 潤吉:「ああ、だから教えておくれ。どうしてお前さんのような『人間』がこの場所に居るのかを」 ユウキ:「・・・うん。あのね・・・」 0:(しばらくの間) ユウキ:「私の名前は朝日奈ユウキ。柳下(やなぎもと)小学校に通う一年生です」 鈴音:「小学校?小学校って何だい?」 潤吉:「人間の子どもが集まって、みんなで学問に取り組む場所じゃなぁ」 鈴音:「うげぇ・・・アタシ、学問は苦手だぁ」 蘭:「あら。小学校では学問だけじゃなく、友だちと遊んだり、ご飯を食べたりもするって聞いたけど?」 鈴音:「そうなの!?それは楽しそうだねぇ!」 夜行:「・・・おい、話の腰を折ってんじゃねぇよ」 鈴音:「ああ、ごめんごめん。続けて」 ユウキ:「えっと・・・みなさんの言う通り、私も毎日学校に通って、勉強をしたり、友だちと一緒に遊んだり、給食を食べたりして過ごしていました。 ユウキ:けど、ある日・・・そう、あれは授業参観の日。お友だちに言われたんです。『ユウキちゃんのお父さんとお母さん、今日授業を見にくるの?』って。私はその子に言いました。『ううん。私、お父さんとお母さんいないんだ』って」 鈴音:「・・・もしかして、ユウキちゃんのお父さんとお母さんは・・・」 ユウキ:「・・・はい。小さい頃、事故で死んじゃいました。だから私は『おひさまの家』っていう『身寄りのない子ども』が集まるお家で暮らしてます」 潤吉:「小さいのに苦労しとるんじゃなぁ・・・うっ・・・」 蘭:「あぁ、ほらほら潤吉さん。気持ちはわかるけど、泣かないの」 夜行:「・・・で、お前に親が居ない事と、ここに迷い込んだ事と、何の関係があるんだ?」 鈴音:「ちょっと夜行!少しは言葉に気をつけなって・・・」 ユウキ:「・・・」 蘭:「ユウキちゃん?」 ユウキ:「・・・おかしい、って言われたんです」 鈴音:「おかしい、って・・・何が?」 ユウキ:「クラスの子が、言ったんです。お父さんもお母さんもいないのはおかしいって。お前がドジでノロマだから・・・それが嫌になって居なくなっちゃったんだって・・・」 鈴音:「なんだよそれ!酷いじゃないか!」 蘭:「鈴音ちゃん、落ち着いて」 鈴音:「だって!ユウキちゃんのお父さんとお母さんは、事故にあって死んじまったんだろ?だったら、ちっともユウキちゃんは悪くないじゃないか!それなのにさぁ・・・!」 夜行:「鈴音!・・・あんまり大声で騒ぐな。コイツ、泣きそうになってるじゃねぇか」 鈴音:「・・・あっ」 ユウキ:「・・・っ」 鈴音:「ご、ごめんよ。ユウキちゃん・・・大きな声で喚いちまって・・・」 ユウキ:「ううん・・・大丈夫。ありがとう、鈴音ちゃん。私の為に怒ってくれて・・・」 鈴音:「ユウキちゃん・・・」 夜行:「・・・で、お前はそう言われたのが悔しかったから、ここまで来たのか?」 ユウキ:「え・・・?」 夜行:「俺の考えが正しければ、お前のその気弱な態度を見る限り、悔しいなんて感情で行動するとは考えられない。もっと他に理由があるんだろ?」 ユウキ:「・・・」 蘭:「・・・そうなの?ユウキちゃん」 ユウキ:「・・・っ」 潤吉:「つらかったら、無理に話さなくてもええぞ 。でも、ワシらはお前さんの力になりたいと思っとる。だから、もしよければ聞かせてくれんかの。お前さんがここに迷い込んだ、そのわけを」 ユウキ:「・・・っ。あの、あのね・・・お父さんとお母さんがいないって分かったその日から、私、それを理由に虐められるようになったの・・・。親無しの泣き虫毛虫、ってからかわれたり、イタズラをされるようになった・・・」 鈴音:「・・・酷い」 潤吉:「自分と違うことに目をつけて、槍玉(やりだま)に挙げるのが人間の悲しい性よなぁ・・・。さぞかしつらかったじゃろうて」 ユウキ:「うん。・・・けど、けどね。虐められるよりも一番つらかったのはね・・・お父さんとお母さんが私がドジでノロマだから、嫌になっちゃったんだろうって思うことだった・・・」 鈴音:「え・・・?」 ユウキ:「・・・私。お父さんとお母さんが事故にあったあの日、うっかり寝坊しちゃって。早く起きて、一緒に出かけようねって言われてたのに、ぐずって二人を困らせたの・・・。 ユウキ:そうしたら、お父さんたち、困った顔をしながら『じゃあ、ちょっとだけお留守番お願いね』って出て行って、そのまま帰ってこなかった・・・」 鈴音:「そんな・・・」 ユウキ:「だから、言われて思ったの。わ、私があの日、いい子にしてれば・・・ちゃんと起きて支度して、みんなでもう少し早く出かけてれば・・・お父さんとお母さんは事故にあわなかったかもしれないのに・・・。そう考えたら、私・・・私・・・っ・・・」 0:(気まずい沈黙が流れる) ユウキ:「・・・そうしたらね、クラスの子が言ったの。もしかしたら、お前のお父さんとお母さんは、この街のどこかにあるって噂の『妖怪の町』に居るかもしれないぞ、って。それを聞いて私、もしかしてって思って・・・」 夜行:「なるほどな。ここに来れば親父さんとお袋さんに会えるんじゃないかと思ったって、そういう訳か」 ユウキ:「・・・うん」 鈴音:「でも、ここは・・・」 夜行:「残念だったな。生憎だが、この町は妖怪の町であって、死者の国じゃない。お前の親父さんもお袋さんも、この町に来たところで会うことはできない」 鈴音:「夜行・・・!」 夜行:「・・・会うことはできないが、親父さんたちが居たらきっと、お前が一人でこんなところまで来た事をとても心配したと思うぞ」 蘭:「そうね。中にはアナタのような子どもが大好物の、恐ろしい妖怪もいるからね」 潤吉:「出会ったのがワシらみたいな呑気な妖怪で良かったのぉ。ほっほっほ」 夜行:「・・・あと、これはあくまで俺の考えだが・・・親父さんたちはお前が嫌になったから、置いていったわけじゃないと思う」 ユウキ:「え・・・?」 潤吉:「ワシも夜行坊ちゃんと同意見じゃ。優しくて、素直なお前さんを見ればよぉくわかる。親御さんたちはきっとユウキちゃんを大事に、大事に育ててきたんじゃろうて」 鈴音:「そうだよね!そんな人たちが簡単にユウキちゃんのことを嫌いになるはずないよ!アタシもそう思う!」 蘭:「ええ、私もそう思うわ」 ユウキ:「・・・っ、みんな・・・」 夜行:「だから、あまり自分を責めるな。お前は何も悪くない。少なくとも俺たちはそれを知っている。なぁ、そうだろ?」 0:(鈴音、お蘭、潤吉。同時くらいに) 鈴音:「うんっ!」 蘭:「ええ」 潤吉:「ああ、その通りじゃとも」 ユウキ:「・・・っ。みんな・・・ありがとう・・・本当にありがとう・・・」 鈴音:「あーあー、泣かないでよぉ。折角の可愛い顔が台無しだ」 潤吉:「いやいや、こういう時はたくさん泣くがええ。涙と一緒につらかった気持ちも流してしまえばええ」 蘭:「そうそう、いっぱい泣いたらその後、いっぱい笑えばいいの。あっ、そういえば潤吉さん、最近、風の噂でダジャレにハマってるって聞いたけど」 潤吉:「・・・それは誰から聞いたんじゃ?」 蘭:「うーんと、誰だったかしらァ?まぁ、誰でも良いじゃない?」 鈴音:「そうだ!折角ならお得意のダジャレを披露してもらおうよ!」 潤吉:「なっ・・・」 鈴音:「ほらぁ!早く!」 潤吉:「し、仕方ないのぉ・・・では、コホン。(自由にダジャレを言ってください)『妖怪横丁にお客さんが来たんだってさ!へぇ、何か用かい?』」 0:(微妙な空気が流れる) 潤吉:「おいおい!少しは笑ってくれたっていいじゃろ!くうっ・・・!」 夜行:「・・・さて、そうなってくると、目下の問題はお前を虐めたヤツらをどうするかだな」 蘭:「そうよねぇ。折角ユウキちゃんが前向きな気分になったのに、また虐められたら可哀想だわ」 鈴音:「それなら、いっそアタシがこの爪で八つ裂きに・・・」 ユウキ:「ダメ!」 鈴音:「ユ、ユウキちゃん・・・?どうしてダメなんだい?だってアンタ、酷い目に合わされたんだろ?」 ユウキ:「うん・・・とってもつらかったよ。だけど、どんな事をされても、相手を傷付けるのは絶対にダメ」 夜行:「ぷっ・・・ははっ、はははっ」 鈴音:「ちょっと夜行、何笑ってんだい?」 夜行:「いや、驚いちまってよ。人間ってのは平気で人を傷付けるモンだと思っていたが、こんなヤツもいるとはな・・・くくくっ・・・」 鈴音:「ハァ・・・?」 夜行:「・・・おい、ユウキ」 ユウキ:「は、はい」 夜行:「お前が人を傷付けたくないのはよぉく分かった。だが、時には相手にぶつかっていくことも大切だ。わかるか?」 ユウキ:「・・・うん。でも・・・」 夜行:「手伝ってやる」 ユウキ:「・・・え?」 夜行:「お前がこれ以上、虐められないよう、俺たちがちょいと手伝ってやる。だから、お前も協力しろ。いいな」 ユウキ:「協力・・・?どうすればいいの・・・?」 夜行:「ああ、なぁに難しいことは言わねぇ。お前がほんの少し頑張ってくれりゃあ、後は俺たちがどうにかしてやるからよ」 ユウキ:「う、うん・・・」 夜行:「・・・よぉし、そうと決まれば招待してやろうじゃないか。俺たちの・・・妖怪横丁にな」 0:しばらくの間。以下、少年少女の兼役があります。 潤吉:「(少年)・・・おい、ユウキ。こんな気味の悪いところに俺たちを連れてきて、どうするつもりだよ」 ユウキ:「・・・」 蘭:「(少女)そうよそうよ!暗くなったらお家に帰らなきゃダメなのよ!こういうの不良って言うんだから!」 夜行:「(少年)仕方ないよ。だって、ユウキちゃんは・・・ほら」 潤吉:「(少年)ああ、そっか。お前、お父さんもお母さんもいないもんなー」 蘭:「(少年)そうだったそうだった。親無しの、泣き虫毛虫〜」 鈴音:「(少年)親に捨てられた、ドジでノロマな弱虫ユウキ〜」 ユウキ:「・・・」 潤吉:「(少年)・・・おい、なんか言えよ」 ユウキ:「・・・てない」 蘭:「(少女)は?」 潤吉:「(少年)なんだよ、聞こえねーよ。もっとハッキリ言えっての・・・」 ユウキ:「お父さんと、お母さんは私を捨ててなんかない!」 蘭:「(少年)な、なんだよ。急に大声出しやがって。それで俺たちをビビらせてるつもりか?」 潤吉:「(少年)生意気なヤツめ!おい!みんなでちょっと懲らしめてやろうぜ!」 ユウキ:「・・・っ」 夜行:「・・・懲らしめる?誰が誰を懲らしめるって・・・?」 潤吉:「(少年)・・・だ、誰だ!?」 鈴音:「人を虐めて楽しんでいる悪い子がどうやらいるみたいだねぇ・・・」 蘭:「(少女)ひぃっ、何・・・この声・・・どこから聞こえるの・・・!?」 潤吉:「いかん、いかんのぉ・・・そんなことをする悪い子にはお仕置をせねばならんのぉ・・・」 鈴音:「(少年)やだぁ・・・怖いよぉ・・・!パパー!ママー!」 蘭:「ふふふ、怖い?怖いわよねぇ?思わず逃げたくなっちゃうわよねぇ・・・」 潤吉:「(少年)お、おいやべぇって・・・みんな、逃げるぞ・・・!」 夜行:「逃げる?・・・よし、それじゃあこうしようじゃないか」 夜行:「みんなで仲良く鬼ごっこだ」 0:しばらくの間。夜行、少年としてセリフを読む 蘭:「・・・むかしむかしね、私一人の男の子に恋をしたの。近所に住む幼馴染でねぇ、将来は一緒になろうって小さい頃から約束してた」 夜行:「ひ、ひぃっ・・・ゆ、幽霊だ・・・!」 蘭:「私は待ってた。ずっとずぅっと待っていた・・・その約束を信じて。けど、男の子は来てくれなかった。私を捨てて違う女の子と結婚してしまった・・・」 夜行:「いやだ、いやだ・・・近寄るな・・・近寄るなって・・・!」 蘭:「私は待っていたのに・・・彼のこと、ずっとずっと待っていたのに・・・。首を長くして待っていたのに・・・。だから、私ね・・・」 蘭:「・・・ホントに首がながぁくなっちゃった」 夜行:「ひぃっ・・・」 蘭:「うふふ、そんなに怖がらないで?・・・まぁ、よぉく見たらアナタ、あの男の子に似てるわぁ。ねぇ、良ければおねぇさんと遊ばなァい?」 夜行:「い、嫌だァ!ろくろ首となんて遊ばないー!」 蘭:「・・・あらあら、逃げちゃった。そんなに怖がらなくたって良いじゃない。もう・・・男って本当に酷いんだから・・・」 蘭:「・・・ま、あんな酷い男の顔なんて、とっくの昔に忘れてやったけどね」 0:しばらくの間。鈴音、少年としてセリフを読む 鈴音:「はぁ・・・はぁ・・・みんな、どこいっちゃったんだろう・・・?必死で逃げてたら、はぐれちゃった・・・。薄暗いし・・・怖いし・・・疲れたし・・・もう走りたくないよぉ・・・」 潤吉:「・・・お坊ちゃん」 鈴音:「うわっ!・・・ビックリした・・・。なんだよ、ただのじいちゃんか・・・。おどかすなよ・・・」 潤吉:「お坊ちゃん・・・そんなに急いでどこに行くんだい?」 鈴音:「どこに、って・・・そんなのわかんないよぉ・・・。僕はただ、みんなが行くっていうから着いてきただけなのに・・・」 潤吉:「なるほどなぁ。じゃあ、お前さんはユウキちゃんを虐めたわけじゃないんじゃな?」 鈴音:「それは・・・ええと・・・」 潤吉:「・・・ふぅむ。そうかそうか、だったらワシがこの場所から外に出る方法を教えてしんぜよう」 鈴音:「ほ、ホントに!?」 潤吉:「ああ、けれどワシは今腰を痛めてしまっておってのう・・・悪いが、ちょっと手を貸してくれると嬉しいんじゃが・・・」 鈴音:「えっ、嫌だよ!僕だっていっぱい走って疲れたもん。自分で頑張って歩いてくれよ」 潤吉:「なんと・・・冷たい子じゃのう・・・。年寄りには優しくせいと親から教わらなかったのか?」 鈴音:「知らないよ!うるさいなぁ!もういいよ!歩けないんだったら帰り道だけ教えてよ!僕一人で歩いて行くから!」 潤吉:「わかったわかった・・・なら、仕方ない。じゃが、教える前にワシのとっておきのダジャレをひとつ、聞いていってはくれんかの?」 鈴音:「ダジャレ・・・?仕方ないなぁ・・・。まぁ、それくらいだったら・・・」 潤吉:「うむうむ。ではいくぞ・・・『もしもし?お隣さん、そんなに震えてどうしたんだい?いや・・・そこに・・・怨念がおんねん』」 鈴音:「・・・全然面白くない」 潤吉:「なんじゃと・・・渾身のダジャレだったのに少しも笑わんとは・・・ああ、悲しや・・・恨めしやぁ・・・」 鈴音:「うっ・・・なんだ・・・急に、身体が、重く・・・」 潤吉:「・・・重いじゃろ?苦しいじゃろ?これがワシの悲しみじゃ・・・これが他人の悲しみじゃ・・・。じっくりじっくり、味わうがよい・・・うっ・・・うっ・・・」 鈴音:「ぐっ・・・苦しい・・・苦しいよぉ・・・。た、助け、てぇ・・・」 潤吉:「うーらーめーしーやー・・・。ーーーおや、気絶してしもうたか。少しやり過ぎたかの?」 0:しばらくの間。蘭、少女としてセリフを読む 蘭:「もー!どうしてこんな事になっちゃったの・・・。だから、私は初めから嫌だって言ったのよ。お気に入りの髪飾りは無くすし、手も足も転んでどろどろだし・・・!最悪、最悪、最悪!」 鈴音:「・・・にゃぁん」 蘭:「・・・ひっ!・・・えっ?猫?なんだ、驚かせないでよ・・・」 鈴音:「にゃぁん」 蘭:「何よ?何こっちをじっと見てるのよ。餌なら持ってないわよ。そもそも、私だってお腹減ってるんだから・・・」 鈴音:「にゃぁん」 蘭:「ちょっと!近寄らないでよ!この服、お気に入りなんだから!アンタの毛でも付いたらどうすんのよ!しっしっ!あっち行って!」 鈴音:「にゃーん・・・」 蘭:「あっち行けって言ってるでしょ!しつこいわねぇ、石投げるわよ!ほら、早くどこかに行きなさ・・・」 鈴音:「・・・そうやって、弱い者を傷付けるの?」 蘭:「・・・え?」 鈴音:「アンタ、そうやって弱い者を傷付けるの?自分が良ければいいって理由で、平気で誰かを傷付けるの?」 蘭:「な、何?誰がしゃべってるの・・・?」 鈴音:「・・・見ているよ」 蘭:「ひっ・・・」 鈴音:「どこかで、誰かが見ているよ。綺麗な服や、髪飾りで着飾ったって隠しきれない醜いその姿、金色の目を光らせてどこかで誰かが見ているよ」 蘭:「い、嫌・・・この猫・・・しゃべって・・・!」 鈴音:「・・・ほぉら、今もみぃつけた。弱い者虐めをしようとする悪い子は・・・この爪で八つ裂きにしてやるにゃぁぁあっ!!」 蘭:「きゃああああああ!」 鈴音:「ふふっ、良い逃げっぷりだねぇ。少しは懲りてくれるといいけど。・・・ま、猫は執念深いからね。これからは気を付けて過ごすんだよ」 鈴音:「・・・さぁて、残りはもう一人。あとは任せたよ、夜行」 0:しばらくの間。潤吉、少年としてセリフを読む 潤吉:「・・・よし・・・逃げ切ったか?ちっ・・・なんなんだよ、ユウキのヤツ・・・。急に呼び出すから何だと思ったら、変な仲間を連れてきやがって・・・」 潤吉:「まさか、アイツ・・・本当に『妖怪の街』を見つけて・・・?いや、そんなハズない。あの弱虫ユウキだぞ。一人でそんなことができるわけ・・・」 潤吉:「・・・そうだ。これはきっと夢だ・・・!じゃなきゃ、映画やドラマの撮影だ!そうに決まってる!ははは!アイツ、俺たちを脅かす為だけにこんな作り物を用意して!馬っ鹿じゃねぇの!弱虫で泣き虫の、嘘つきユウキ!ははっ、はははははっ!」 夜行:「・・・誰が作り物だって?」 潤吉:「・・・え?」 夜行:「答えろ。誰が作り物だって?」 潤吉:「な、なんだよ、この声・・・どこから聞こえるんだ・・・?」 夜行:「はぁ、作り物とは俺たちも舐められたモンだなぁ・・・。全く、近頃のガキは可愛げが無くていけねぇや」 潤吉:「おい!誰だ!誰だよ!どうせどこかでカメラ回して撮影してるんだろ!?卑怯者!隠れてないで出てこい!」 夜行:「・・・卑怯者?へぇ、そいつはいったい誰のことを言ってるんだ?」 潤吉:「ひっ・・・!なんだお前・・・!?いつの間に俺の後ろに・・・」 夜行:「おいガキ。一つ俺の質問に答えろ。卑怯者っていうのは誰のことだ?」 潤吉:「はぁ・・・?そんなの決まってんだろ?お前らだよ!陰に隠れてコソコソ人を脅かして、楽しんでいるお前らみたいなヤツだよ!」 夜行:「へぇ・・・そうかい。でも俺は、お前らみたいに寄って集(たか)って人の事を虐めるようなヤツらを、卑怯者って言うんじゃないかと思うがねぇ」 潤吉:「なっ・・・」 夜行:「まぁ、いいさ。お前が俺たちを卑怯者呼ばわりするのは構わない。だが、弱い者虐めは良くねぇな。それだけは許せねぇ」 潤吉:「なんだよ!カッコつけやがって・・・別にお前にはそんなの関係ないだろ!」 夜行:「関係ない?いや、そんなことねぇぞ。何故なら、ユウキは俺たちの仲間だからな」 潤吉:「仲間?じゃあ、やっぱりお前らも嘘つきだ!嘘つきユウキの友だちは、みんなみんな嘘つきだ!」 夜行:「・・・へぇ、じゃあ嘘かどうか試してみるか?」 潤吉:「は・・・?」 夜行:「おい!お前ら!出てきやがれ!妖怪横丁の礼儀、こいつに教えてやろうぜ!」 潤吉:「ひぃっ・・・何だ!?ば、化け物がいっぱい・・・!?」 夜行:「おいガキ。もう一度聞く。こいつらを目の前にしても、ユウキのことを嘘つきだって言えるのか?」 潤吉:「いやだ・・・来るな・・・来るなよ・・・」 夜行:「こんな恐ろしいヤツらを目の前にして、逃げ出さなかったユウキを、弱虫だと笑うのか?」 潤吉:「やめろ、やめろよ・・・!頼む、頼むから・・・!」 夜行:「こんなにたくさんの仲間を引き連れたユウキを・・・独りぼっちだと虐めるのか?」 潤吉:「だ、誰かぁ・・・たすけ・・・」 夜行:「・・・まぁ、折角だ。少し灸を据えてやる。ーーーさぁさ、ゆっくりしていきな。妖怪横丁名物、百鬼夜行の始まり!始まりぃ!」 0:(しばらくの間) 夜行:老いも若きもおいでませ 夜行:ここは良い街 宵(よい)の街 蘭:さあさ みなさんおいでませ 蘭:妖怪横丁三丁目 潤吉:坊ちゃん嬢ちゃんおいでませ 潤吉:ここは陽気な 妖(よう)の街 鈴音:ほらほら どなたもおいでませ 鈴音:妖怪横丁三丁目 鈴音:愉快な横丁三丁目 0:(しばらくの間) 鈴音:「・・・ふぅ、これで少しはあの子たちも懲りたかな?」 夜行:「まぁ、だいぶしっかり言い聞かせてやったからな。簡単に手を出してくることはないだろ」 蘭:「これを機に改心してくれると嬉しいんだけど・・・」 潤吉:「なぁに、彼らはまだほんの子どもじゃ。良いも悪いも生きていく中でこれからたくさん学んで、自分なりに正しい道を見つけていくじゃろうて」 ユウキ:「・・・あの・・・みんなは・・・?」 夜行:「ああ、アイツらか?なぁに、心配するな。きちんと家まで送り返しておいた。今頃、信じられないって顔して家の前に立っているだろうさ」 ユウキ:「そっか・・・良かった・・・」 鈴音:「本当にユウキちゃんは優しくて良い子なんだねぇ。どこかの誰かさんに爪の垢を煎じて、飲ませてやりたいよ」 夜行:「・・・どこかの誰かって誰だよ」 鈴音:「えー?誰かって?そうだなぁー。例えば、ほらそこの半人前の誰かさんとか・・・」 夜行:「おい!」 鈴音:「あはは!この程度で怒ってるようじゃ、まだまだだねぇ〜!」 蘭:「こぉら、二人とも。喧嘩しないの」 潤吉:「まぁまぁ、喧嘩するほど何とやら、じゃよ、お蘭ちゃん。・・・さ、そんな二人はほっておいて、ワシらはユウキちゃんを家まで送って・・・」 ユウキ:「・・・」 潤吉:「おや、ユウキちゃん?どうしたんじゃ、悲しそうな顔して。大丈夫か?どこか痛むのか?」 ユウキ:「・・・ううん、大丈夫。どこも痛くない」 蘭:「じゃあ、どうしてそんな顔をしているの?ねぇ、良ければ理由を聞かせてちょうだい」 ユウキ:「・・・やっぱり、居なかったんだなぁって思って」 蘭:「居なかった?」 ユウキ:「うん。お父さんとお母さん、やっぱり居なかったんだなぁって・・・。もしかしたら、って思ってここまで来たから・・・その、帰っても二人とも居ないって考えたら、ちょっと寂しくなっちゃって・・・」 蘭:「ユウキちゃん・・・それは・・・」 夜行:「あーあー!なぁに暗い顔してんだよ!せっかく虐めっ子を懲らしめてやったのに、そんな顔されちゃ、困っちまうぜ。全く!」 鈴音:「夜行!ちょっとアンタ・・・!」 夜行:「・・・大丈夫だ」 ユウキ:「・・・え?」 夜行:「大丈夫だ。確かにここにはお前の親は居なかった。けど、お前のことを心配し、大事に思うヤツらがいる。だから、大丈夫だ」 ユウキ:「でも・・・」 夜行:「つらかったら、いつでも来い。その・・・今度来た時は、出ていけなんて言わねぇからよ」 ユウキ:「・・・!」 鈴音:「そうだよ!夜行の言う通りだ!」 蘭:「ええ、私たちはもうお友だち。いつだってアナタのことを見守っているわ」 潤吉:「困った時や、寂しい時はいつでも遊びに来るがええ。ワシらはお前さんの友であり、家族じゃ。家族と会うのに遠慮はいらんからの。ほっほっほ」 ユウキ:「みんな・・・!・・・っ、ありがとう。本当にありがとう・・・!」 潤吉:「さて、もうすぐ夜が深くなる。良い子はもう眠る時間じゃ」 蘭:「またいらっしゃい、ユウキちゃん。今度来た時は、うちのお店自慢の料理を用意して待ってるから」 鈴音:「案内したい場所もたくさんあるんだ!だから、またおいで!アタシ、色々考えておくから!」 ユウキ:「うん・・・!私、絶対遊びに来る!絶対にまた来るからね・・・!」 夜行:「・・・おう、いつでも大歓迎だ。妖怪横丁一同、楽しみに待ってるぜ!」 0:(しばらくの間) 鈴音:「・・・行っちゃったね」 夜行:「ああ、そうだな」 鈴音:「でも、また会えるよね!だって、アタシたちもう家族だもんね」 夜行:「・・・ああ、そうだな」 鈴音:「ふふっ・・・!それにしても夜行、見事な仕切りっぷりだったよ。さすが次期頭領だねぇ」 夜行:「ふん・・・今更分かったのか?」 鈴音:「うん。半人前なんて言って、その・・・ごめんね」 夜行:「へぇ・・・珍しく殊勝じゃねぇか、まぁ俺は心が広いからな。そんなの全然気にしない・・・」 鈴音:「半人前って言ったのは取り消すよ!今度からアタシ、アンタのこと未熟者って呼ぶことにするね!」 夜行:「・・・余計に悪くなってんじゃねぇか!」 鈴音:「きゃー!夜行が怒ったー!にっげろー!にゃはははは〜!」 夜行:「てめ、鈴音!許さねぇぞ!おいコラ!待て!待ちやがれー!」 0:〜めでたし めでたし〜