台本概要
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タイトル | 輝宴晩盛 |
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作者名 | アール/ドラゴス (@Dragoss_R) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 5人用台本(男1、女1、不問3) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
きえんばんじょう。 とあるマフィア組織。 共通の師の提案によって、五人が特別チームを組んでから一年と半年が経過した。 そして今日は、仕事の打ち上げの日。 彼らは、思い出のホテルに再び集う。 「この一年半でいろいろなことが変わった。だが、一つだけ変わらないことがある。それは、このチームが最高、最強だということだ!」 2148 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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ロータス | 男 | 59 | チームのリーダーで、十九歳。 通称【蓮の子】、だが……。 昔は自分に自信がなかったようだが、このチームに入って大きく成長した。 |
エクレア | 女 | 52 | 各方面から最も恐れられている戦闘狂。 通称【破壊の雷光】。 ロータスが大好きで、彼を傷つけるものを許さない。 |
ベイカー | 不問 | 52 | 面倒見のいい兄(姉)貴肌のマフィア。 通称【火薬風味のパン屋さん】。 組織で都市伝説となるほどの凄腕ボマーで、パン好き。 |
レイヴン | 不問 | 50 | 元は二つ隣の国で活動していた情報屋。 通称【ウォッチャー】。 人をからかうのが好きで、最高峰の情報ネットワークを持つ。 |
シャンディ | 不問 | 52 | いつも悲観的で静かな酒好き。 通称【告別の黄金酒】。 本人はいつも自己嫌悪気味だが、 実際はエクレアと並ぶ戦闘の天才で、暗殺者。 (女性がやっても男性がやっても構いません。) |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:夜。とあるホテルの一室。
0:ピアスが印象的な人物が扉を開く。
シャンディ:あら…、今回はあたしが一番なのね。少し来るのが早すぎたかしら。丸い机に椅子が五つ…、驚いたわ。冷蔵庫の位置まで同じだなんて…。ふふっ。
0:そう言ってシャンディ・ガフは椅子のうちの一つに腰掛ける。
シャンディ:ほんと、うちのリーダーさんはそういうところ粋なんだから…。
レイヴン:うんうん、皆から慕われる所以(ゆえん)だよね!
0:丸いテーブルの下から丸眼鏡の人物が顔を出す。
シャンディ:…レイヴン。もしかしてあなた、あたしが来るまでずっとこのテーブルの下で待っていたの?よく気が触れなかったわね…。
レイヴン:…僕はあらぬところからいきなり飛び出してやったのに、驚くどころか精神の心配をする君の方がよっぽど気が触れていると思うよ、シャンディ。
シャンディ:気配でバレバレなのよ…。ごめんなさいね、期待に沿えなくて…。
レイヴン:その言葉が君の悲観的な部分から来てるのか、憐れみなのか煽りなのかは、もう一年半以上の付き合いになる僕にも計り知れない所だね。
シャンディ:そう?よくわかってると思ったけれど。…あと、いつまでもそこで窮屈そうにしていないで、座ったらどうかしら。
レイヴン:…そうするよ。
0:レイヴンがシャンディの左隣に座る。
レイヴン:あぁ、そうそう。ロータスとエクレアは少し遅れるってさ。なんでも“ボス”にお呼び出しを食らったそうで。
シャンディ:…“彼”自ら招集を?もしかしてあたしたち、なにかまずいことしちゃったのかしら…。
レイヴン:その心配はないと思うよ。むしろその逆さ。僕らはこの街に這い寄る「ノイズ」を消し去ることに成功した。放っておいたら確実に組織の「目を潰されてしまう」くらい大きな雑音をね。そしてその指令を成し遂げたのが“ボス”自ら育て上げた若いマフィアだっていうんだから―――。
シャンディ:―――(間を開けずに)『きっと“彼”の「鼻」は高いだろう。』…なんて言うつもりじゃないわよね?
レイヴン:あれ、よくわかったね?
シャンディ:ええ。だってあたしたち、もう一年半以上の付き合いになるでしょう?
レイヴン:…あはは、今日のシャンディはなかなか手強いなぁ。…おや?
0:足音がして、扉が勢いよく開かれる。入ってきたのは、黒スーツを着た人物。
ベイカー:入るぜー!って、おォー。どうやらまた私が三番目のようだが、前と先に来てたメンツが逆になってるなァ。
レイヴン:やぁ、ベイカー。「パン」につられて登場とは、らしいねえ。
ベイカー:(パンに反応して)パン!?今日の打ち上げ、パン用意されてんの!?マジでェ!?
シャンディ:…はぁ。されてないわよ。このアホカラスが言ってる「パン」は口に入るんじゃなく、口から無限に出てくる方…。
ベイカー:なァんだ、そっちか。少し期待しちまったじゃねえか!とっておきを披露したい気持ちはわかるが、ほどほどにしとけよレイヴン。あんまりしつこいとウザがられるからなァー?
レイヴン:あはは、ごめんごめん。でもほら、僕らここ一か月はずっと大きなヤマに追われてて、ようやく仕事が終わって息をついたところだろう?だから気が緩んでるのさ、少しのユーモアくらいは許してくれよー!
シャンディ:…そうね。ジョークはあまり得意じゃないけれど…、今日は打ち上げだもの。少しくらいはユーモアがあってもいいと思うわ。
ベイカー:おぉ?アンタがそんなことを言うなんてなかなか珍しいなァ。なんだ、好きなコメディ映画でもできたのか?
シャンディ:違うわ…。この一か月にそんな暇あったわけないの、あなたもわかってるでしょう?普通に過労で疲れてるのよ、はぁ…。
ベイカー:ハハッ、成程ォ。確かに私たち、相当動き回ったもんなァ、今回のヤマは。
レイヴン:まず僕がクスリのルートを探って、そこから割れた取引先と思しき連中をシャンディとエクレアが殲滅したんだよね。
ベイカー:そうそう!んで、そっからはそいつらのまとめ役をあぶり出すために私とロータスで爆破したり工作したり…、いや、マジであれは骨が折れたぜ。
シャンディ:本当にお疲れ様…、ちなみに、全部で何軒爆破したの?
ベイカー:うーん、いくつだったかなァ…、ま、大体、組織のお偉いさんにやり過ぎだって鬼の形相で怒鳴られるくらいだな。どうやら、流石に隠蔽と口止めにかかる金が馬鹿にならなかったらしい。
レイヴン:あはは、バックアップの人たちも大変だなぁ。…というか、もしかしてロータスたちはそれの件で呼び出し食らってるんじゃ?
シャンディ:ないでしょ…。“彼”が同じ件で二回呼び出すことはないし、それだったらベイカーが呼ばれるはずよ。
ベイカー:なんだ、珍しく遅ェと思ったが、あの二人は“兄貴”に呼び出されてんのか?
レイヴン:どうやらね。どういう要件かはわからないんだけど、直々に話があるって言われたみたいでさ。
ベイカー:へェ…、そういうことなら、だいぶ遅くなりそうだな。ま、気長に待つかァ。
シャンディ:…いや、案外早かったみたいよ。
レイヴン:ん?…あぁ本当だ、足音がするね。それも走って向かってきてる。
ベイカー:おぉ、ならロータスとエクレアで間違いねェな! そんじゃ、盛大に我らがリーダーを迎えるとしようかァ!
0:そして扉が開かれる。まず部屋に入ってきたのは、凛々しい青年。さらにその後ろに、ローブを纏った女性が続く。
ロータス:はぁ、はぁ…。すまない、遅れてしまったな…。
シャンディ:全然待ってないから大丈夫よ。お疲れさま、ロータスにエクレア。
エクレア:ありがとうございます。…あぁ、いけませんロータスくん。膝に手をついて立っているより、そこの椅子で座ったほうが断然休まります。さあ、早くこちらに……!
ロータス:はは、ありがとうエクレア。
0:ロータスが席に着く。
ベイカー:別に走って来なくてもよかったのに…、ホント真面目だよなァ、ロータスは。
ロータス:そうか?俺が打ち上げにこのホテルとこの時間を選んだんだ、なるべく遅れないようにするのは当然だと思ったんだが…。
シャンディ:ふふ、どこにだって、その当然ができない奴がわんさかいるから素晴らしいのよ…。ほんと、どこかのカラスとは大違いね…。
レイヴン:はいはい、ごめんなさーい。
ベイカー:コイツ…。まァいいか。そんなことより、リーダーも到着したことだし、そろそろグラスに酒入れて乾杯しようぜェ。
ロータス:えっ?まだ誰も飲んでなかったのか?てっきりもう酒を開けてるものだと思ってたが。
シャンディ:流石に二人がまだ来てないのに乾杯なんてできないわよ…。さぁ、リーダーさん。まずはどのお酒を注ぐか、選んでちょうだい。
ロータス:そうだな…、ならここは、あの時と同じシャンパーニュにするか。今取って来るから少し待っていてくれ。
エクレア:その必要はありませんよ。ロータスくんならきっとそういうと思ってましたので、ワタシが先にやっておきました。
レイヴン:先に…?って、あれ!?
0:四人が視線をテーブルに戻すと、全員分のグラスに既に酒が注がれている。
ベイカー:凄ェ!いつの間に全員分のグラス用意して酒入れてたんだァ!?全然気づかなかったぜ!
シャンディ:まるで手品ね…。
レイヴン:確かにエクレアって、普段荒々しいから忘れがちだけど、気配を消すのも上手いんだったっけ…。
エクレア:ええ。嵐は必ず静かにやって来るものですので。それに、この程度のことでロータスくんの手を煩わせるわけにはいきませんから。
ロータス:気を利かせてくれてありがとう、エクレア。助かったよ。
エクレア:とんでもないです。クククッ……。
シャンディ:…まあ何はともあれ、お酒も揃ったことだし…、お願いするわ、リーダーさん。
ロータス:そうだな。じゃあみんな、グラスは持ったか?よし。それじゃあ…、更なるチームの結束と組織の繁栄を願って。
0:
ロータス:乾杯。
0:
エクレア:カンパイ。(同時に)
ベイカー:乾杯ーッ!(同時に)
レイヴン:乾杯!(同時に)
シャンディ:かんぱーい。(同時に)
0:
ロータス:…うん、美味い。自分でセッティングしておいてなんだが、この景色にこの酒に…、なんだかあの日に戻ったような感覚だ。
ベイカー:ハハッ、本当に懐かしいよなァ!しっかし、あの頃はまだ可愛らしかったロータスが、今はもう一丁前のリーダーだもんなァ。時の流れってのは早ェもんだぜ…。
エクレア:ですね。初々しかったロータスくんも最高でしたが、今の威厳たっぷりのロータスくんも最高です……!
シャンディ:エクレアは何にも変わってないわね…。
レイヴン:そうかい?変わってると思うけどなあ。ほら、愛の重さが青天井に増してるでしょ?
ベイカー:ハハッ、そりゃ間違いねェな!
ロータス:はいはい、あんたらその辺にしとけ。せっかくの宴会のなかで雷に撃たれても俺は知らないからな。
ベイカー:アイアイサー。
エクレア:ロータスくん……。ククッ、クククッ……。
シャンディ:はぁ…。少し話を戻すけれど、本当に成長したわよね、ロータス。…もう“蓮の子”なんてコードネームが似合わないほどに。
エクレア:ええ。ですので、もうロータスくんは“蓮の子”ではなくなりましたよ。
ベイカー:…はァ?
レイヴン:えっと、それはどういう?
ロータス:…エクレア。
エクレア:はい。
ロータス:その話は場が盛り上がってから話そうって言ったよな…?
エクレア:ええ。ですので、乾杯をした後なら平気かと思ったのですが……、もしかして、まだ時期尚早(じきしょうそう)でしたか?
ロータス:…俺としては、もう少し待って欲しかったかな。
シャンディ:えっと…、その反応を見るに、結構重要な話なのかしら?
ロータス:結構どころじゃないくらい重要な話だな…。だから変に緊張が走らないよう、全員酔いが回ったあたりで言おうと思ってたんだが…、まあ仕方ない。今話すとしよう。
エクレア:先走ってしまい、申し訳ありませんでしたロータスくん……。この失態はワタシの命で―――。
ロータス:(被せて)払わなくていい払わなくていい!あんたがいなくなったらこのチームに不和が生まれるし、“リーダー”やチーム・ブラックのみんなも悲しむだろ! それに、なにより…。
エクレア:…なんです?
ロータス:…その、俺が寂しくなる。
エクレア:!! そう、ですか……。ククッ、ククククッ……、アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!
レイヴン:あーあ、またロータスがエクレアのハート撃ち抜いちゃったよ。
シャンディ:凶悪なのはあの発言が確実に無自覚なところかしら…。罪な男ね…。
ベイカー:つーかお二人さんよォ、イチャつくのは全然構わねえンだが、とりあえず私たちのアタマの上に浮かんでるハテナを解消してからにしてくれねェか。
ロータス:そうだな。だいぶ脱線してしまった、すまない。言い方が強張っていたから悪い話と思われているかもしれないが、とてもいい知らせだから、肩の力を抜いて聞いてくれ。
ベイカー:おう!
ロータス:それじゃあまずはどういう話かってところだ。三人ともレイヴンから聞いてると思うが、俺とエクレアは今日ここに来る前にリーd…じゃなかった、“ボス”から呼び出しを受けていた。その時に伝えられた内容が今回の話だ。
レイヴン:なるほどね。ということはもしかして、今回のヤマの報酬の話かい?
ロータス:流石、勘がいいなレイヴン。その通りだ。五人の少数チームで、このあたり一帯を脅かす麻薬の密売ルート壊滅という大仕事を成し遂げたことを讃えて、特別報酬を“ボス”に用意していただいた。エクレア。
エクレア:はい、ロータスくん。
0:ロータスが指示を出すと、エクレアは着ていたローブの中から一枚の紙を取り出した。
ベイカー:んァ?なんだそりゃァ。
シャンディ:…書類? …その押印、まさかそれって…!?
ロータス:エクレア、読み上げてくれ。
エクレア:仰せのままに。
0:
エクレア:「日頃の功績を讃え、本日をもって、コードネーム“ロータス”を幹部に昇進とする。またそれに伴い、チームの名称を『特別チーム』から『チーム・ロータス』へ変更。幹部チームとして、今後も変わらぬ忠誠と更なる活躍を期待する。」…、以上です。
0:
ベイカー:は…、はぁぁァァアーーーッ!?
レイヴン:ロータスが組織の幹部…、当然のことだけど、つまり僕達は幹部チームの一員になったってことだよね?
ロータス:そうだ。だから、今の俺たちはあのチーム・ブラックと並んでいるってことになるな。
エクレア:確か“あの方”曰く、「今回お前たちが成し遂げたことの恩恵は組織にとってあまりにも大きい。薬物が街に蔓延るのを阻止しただけじゃなく、組織に潜む膿(うみ)の排除、ルールの抜け穴の発見、その他エトセトラ…。素晴らしい成果を出してくれた。流石は俺の見込んだ五人だ。」みたいなこと言ってましたっけ。
ロータス:なんで一字一句覚えてるんだよあんた…、だがまあ、そういうことらしい。流石に“ボス”の贔屓も少しはあると思うが。
シャンディ:開いた口が塞がらないわ…。
ロータス:…正直、俺もめちゃくちゃ驚いてるよ。一年半で幹部昇進だなんて…、レイヴンが言ってたアレみたいだな。あの、ジャパニーズアニメの…、あの、ナル…、
レイヴン:あぁー、『なろう系』、のことかな?
ロータス:そう、それだ。レイヴンに教えてもらって作品を漁ってみたんだが、とても沢山あったのを覚えてる。
エクレア:……。
レイヴン:うーん、僕たちがアニメの主人公、か…。確かにスピード出世だし、“ボス”には気に入られてるし、まさにだねー…、ま、別に僕らは完全無欠ってわけじゃないけど。それはそうとして、アニメが見たいなら、今度僕のお勧めを教えてあげるよ―――。
エクレア:(台詞を遮るように)―――みなさん、夢のような話に酔うのもいいですが、もう一つこれと同じくらい大事な報告があります。
ベイカー:マジでッ!?
ロータス:…いや、そこまで重要じゃない話だ。エクレアにとっては同じくらい大事だと思う、が…。
シャンディ:…えっと、それはもしかして、“蓮の子”の話かしら?
ベイカー:あァ?ロータスの話はもうしただろ?
レイヴン:いや、そうなんだけどそういうことじゃないね、シャンディが言ってるのは。
ベイカー:…ンー?どういうこった?
ロータス:俺の異名の話だよ。「幹部なのに二つ名で子ども扱いするのはいけないな」って“リーダー”…、すまん、“ボス”が言ってくれてな。“蓮の子”に代わる俺の新しい通り名を考えてくれたんだ。だから今後はその名前で通ることが多くなるだろうって話だ。
シャンディ:ふふふ、それはいいわね…。それで、なんて言う名前なの?
ロータス:…自分から言うのは少し小恥ずかしいから、エクレア。代わりに…。
エクレア:勿論です。それでは僭越ながら。ロータスくんの新たな通り名は、“蓮の子”改め…、
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エクレア:“異彩の蓮華”(いさいのれんげ)、です。
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ベイカー:おぉ、めちゃくちゃカッケェじゃねェか!流石は“兄貴”、センスいいねェ!
レイヴン:組織幹部、“異彩の蓮華”(いさいのれんげ)ロータス…。ヒュゥー、カッコいいじゃん。
ロータス:ありがとう…。だが、その…、少しカッコ良すぎないか?名前に着せられているというか、俺には似合わないと思うんだが…。
エクレア:何を仰いますか!前に“あの方”が言っていたように大輪を咲かせたロータスくんに相応しい二つ名かと……!
シャンディ:そうそう。大丈夫よ、あたしはカッコいいと思うし…、なにより、あたしが着せられてる異名(ふく)よりは絶対に似合ってるから…。
エクレア:おや、そうですか?ワタシとしてはアナタの“告別の黄金酒”(こくべつのおうごんしゅ)、雰囲気に合ってて良いと思ってましたが。
ベイカー:“雷光”がロータス以外を褒めたァ!?
レイヴン:明日は午前から午後にかけて十文字槍(じゅうもんじやり)が降り注ぐでしょう。
エクレア:失礼ですね。今部屋の中に稲妻を作ってもいいんですよ?
シャンディ:やめておきなさい。カラスが墜落してパン屋が閉まるだけならいいけれど、せっかく咲いた蓮の花が燃えかねないわよ。
エクレア:むぅ…。やめておきます。
シャンディ:よろしい。…はぁ。
ロータス:…いつの間にシャンディは舵を取るのが上手くなったんだ?(小声)
0:少し時間が経ち、別の話題へ。
ベイカー:やぁー、まあでも確かに、今回のヤマは幹部昇進しても問題ないくらい大変だったよなァ。
ロータス:そうだな。それにまるでドラマみたいな筋書だった。
エクレア:まさに。まず情報を探るところから始まり、まとめ役を文字通り炙り出したところで組織大幹部の裏切りが発覚だなんて。
レイヴン:でも確かに、僕もおかしいとは思ってたんだよ。僕の情報網をいくら使っても黒幕がわからないなんて、よほどの大物を相手取ってるのかもしれないってね。まあ“財貨の怪物”とか“セクト”じゃなかっただけマシだったけど。
ベイカー:しっかしまさか、そこの始末まで私たちに任されるとは思わなかったよなァ。超人揃いとはいえ、「五人でどうにかできる問題じゃねェだろ!」って全力でツッコんだっけかァ。
エクレア:ワタシとしては、少しウキウキしましたがね。いつもロータスくんを見下してたあのゴミクズをぶち壊せるって考えただけでニヤけが止まりませんでした……!
ロータス:それで本当に最後の後片づけのとき無双したんだから凄いよ…。いや、俺のことを思って怒ってくれるのは嬉しいんだが。
シャンディ:ほんと、敵さんとドンパチするときはもうエクレア一人でいいんじゃないかしら…。
ベイカー:それ私も思った!やァー、用意してた爆薬一個も使うことなく終わっちまうとは思わねェよなァ。
レイヴン:でもよかったんじゃないかい?流石にこれ以上爆破したら“ボス”からお叱りが来そうだし。
ベイカー:ヒェ、そいつは勘弁だぜ…。
ロータス:…“ボス”、か。もう三か月も前のことなのに、未だに呼び慣れないな。
シャンディ:ふふ…。さっきも何度か呼び違えていたものね。
エクレア:呼び間違えるたびに首を振って訂正するロータスくん、可愛かったですよ。
ロータス:あ、ありがとう…?
レイヴン:あはは。でも、僕としては“彼”が王座に就くのも納得かな。先代のやり方は荒々しすぎた。
エクレア:まったくです。毎回思うのですが、『絶対的君主』として降臨しようとすること自体無謀なのではないですかね。それも陰謀溢れるこのウラの世界で。権力を手にして好き勝手やりたくなる気持ちはわかりますが、文字通りの激しい生存競争のなかを暴君として通してしまえば、ロクな死に方をしないのが目に見えないのでしょうか。
0:静まり返る四人。
エクレア:おや、皆さんどうしたのです。ワタシ、何か気に障ることを言ってしまいましたか?
ベイカー:いやいや!そんなこたァ全然ねえンだが…、その…、初めてアンタのそういう意見聞いたなァ、と思ってよォ。
ロータス:…多分、俺も初めて聞いた。驚いたよ、そういうことについては無関心だと思ってたから。
エクレア:そうですね。こういう堅苦しい話はあんまりしないです。ロータスくんを飽きさせてしまいますので。それに皆さんの思っている通り、マフィアとしての在り方?と言えばいいのでしょうか。ほとんど無関心ですよ。しかし考えなくてはならないんです。いつかこのチームが玉座を勝ち取って、この組織の権限を恣(ほしいまま)にしたとき、ロータスくんを下衆な輩に殺させるわけにはいきませんから。
0:再び刹那の沈黙。それを破ったのはカラスの笑い声。
レイヴン:ぷっ…、あはは!良かったねリーダー!君のことが大好きな最強美人お姉さんが、君を悪い方向へは行かせないってさ!いやぁー、こりゃ将来安泰だね!
ロータス:ははは、そうだな。…玉座、か。俺でも、いつか手が届くんだろうか。今“リーダー”がいるところに。
ベイカー:なァに言ってんだロータス!届くに決まってンだろ!だって考えても見ろよ、お前今何歳だっけ?
ロータス:あと二週間足らずで二十歳になる。
シャンディ:…若っ。
ベイカー:だよな?大人が九割九分を占めてるこの世界で、二十歳になる前に幹部に昇進したンだぜ?早咲きにも程があるって話だろ!
レイヴン:ま、それには勿論チームメンバーである僕らの力もあるけどね!
エクレア:カラス。今ベイカーがロータスくんを褒めているのです、醜い自画自賛を挟まないでください壊しますよ?
レイヴン:ひぇ…。なんか段々僕の扱いがひどくなっていってる気がするなぁ…。
ベイカー:ハハッ、当然の報いだな!まあそれはさておいて。だからロータス。お前は必ず届く。お前一人じゃァ厳しくても、後ろにはいつだって私たちがいるだろ?それに、元はと言えばこの五人が同じチームになったのも“兄貴”の計らいだ。ボスになった漢(おとこ)の招集したチームだぜ?そんなの間違いなく、『最高で最強』だろ?
ロータス:…はは。そうだったな。ありがとうベイカー。とっても自信になった。
ベイカー:おう!
エクレア:……ですが、不覚でした。最悪の見落としです。
シャンディ:…? なにがかしら?
エクレア:忘れていたのですよ……。ロータスくんがもうすぐ年を重ねることを……!それも、人生にとって最も重要と言っても過言ではない、二十歳の誕生日を……!!
レイヴン:なんてこった、そりゃ本当に珍しいね。命よりもロータスを優先する君が。
エクレア:ああ、ああ……!今からでは最高のプレゼントの用意が間に合いません……!ワタシは、ワタシは一体どうすれば……!!
ロータス:落ち着け、エクレア。大きなヤマをずっと抱えてたんだ、そんな些細なことを忘れるのなんて仕方ないさ。だから―――。
エクレア:(食い気味)些細ではありません……!!ロータスくんの誕生日、何に換えても最優先すべき事柄です……!!そんな自分のことを下げないでください……!!
ロータス:…そんなつもりはなかったが。
ベイカー:そんじゃあエクレア。私から一つ提案がある。
エクレア:……なんです?
ベイカー:今回の誕生日プレゼントは、チーム・ブラックの方々と我らが“ボス”…、“兄貴”を呼んで、豪華絢爛に誕生日パーティーを開く、ってのはどうだ?そうすりゃ、何にも代えられない思い出をプレゼントできるだろ!
ロータス:“リーダー”を呼ぶのか!?流石に無理だろ…!?
シャンディ:…いや、案外何とかなるんじゃないかしら。“彼”、祝い事なら飛んでくると思うわよ。それもアナタの誕生日となればなおさら。
レイヴン:うんうん。それに、確かここ数週間はチーム・ブラックも“彼”も忙しくなかったと思うし…、まあ例え無理だったとしても、ダメ元で連絡してみてもいいんじゃないかな。誘うだけならタダだしね。
エクレア:……アナタが言うなら予定は間違いないですね。……ベイカー。ありがとうございます。打ち上げが終わったら、すぐ連絡してみます。
ベイカー:おう!あ、でも勿論そのパーティーには私たちも呼べよー?
エクレア:当然そのように。……良いでしょうか、ロータスくん。今年の誕生日プレゼント、仮案はそれで。
ロータス:…ああ、勿論だ!楽しみにしてる!
エクレア:……昔のようなあどけない笑顔のロータスくん、可愛いです。……クククッ、ククククッ……!!
0:またまた時間が経ち、別の話題へ。全員少しずつ酔いが回ってきている。
レイヴン:―――あはは。なんだか思い返せば思い返すほど、この一年半は波乱万丈だったね。いろいろ飛び回った挙句、殺して捜して爆破して…、ああ、交渉(ネゴ)もしたっけ。
シャンディ:そして今回の一件以外、全部手こずることはなかった、なんて…、無敵過ぎないかしら。お荷物の酒カスがいるっていうのに、みんな強過ぎね…。はぁ。
ベイカー:またまたァ、そんなこと言って。私は忘れてねェぞ、半年前のヤマのときのこと!
エクレア:ああ、あれですか。全員ホテルで寝てたのに、シャンディだけ敵の奇襲に気づいて一人で寝巻のまま全員返り討ちにしたやつ。
ロータス:俺も覚えているよ。朝起きたら部屋の床に数人の死体が転がってて、返り血が少ししかついてないシャンディがその横でバーボンを飲んでた。寝ぼけていたからかもしれないが、あの時のシャンディはまさに『死神』って感じのオーラを放ってたな…。
レイヴン:ね。あれは僕もビビったよ…。というか、なんで死体の横で晩酌、いやもう朝だったから朝酌(あさしゃく)?してたんだい?
シャンディ:…だって、あの頃は不眠が酷かったんだもの。ただでさえ寝れないのに、急に襲ってこられたら余計眠気が覚めるでしょ…。だから、お酒飲んだら寝れるかな、って思って…。床でしてたのは疲れててテーブルにいく元気がなかったからね。冷蔵庫からグラスとお酒だけとって床にへたり込んだの。
レイヴン:…血の臭いより疲れをとったってこと?
シャンディ:ええ。別に慣れてるもの。血と硝煙なんて、ねえ…?
レイヴン:…目に光が入ってないなあ。
ベイカー:でも、抗争やら暗殺やらを日常的にやってるヤツはみんなそんな感じなんじゃないかねェ。そこらへんどうなんだい、“雷光”さんよ。
エクレア:そうですね。チーム・ブラックの頃の話ですが、敵を始末した後の部屋で祝杯をあげたことは何回かありました。部屋にいいお酒があったときですね。みんなお酒好きでしたから、我慢ができなかったようで。ですが双方ともに、シャンディ程ではないです。
レイヴン:…確かに、彼らは全員お酒に目がなかったね。でも考えられないなあ、死体のあるところで乾杯なんて…。
シャンディ:ほんと、綺麗好きよね。カラスのくせに。
レイヴン:だからこそ、Fair(フェア)な仕事をしているのさ。情報屋としてね。
ベイカー:冗談キツいぜレイヴン!情報屋なんか一番Foul(ファウル)だろ!
シャンディ:はいはい、そこまで。レイヴンがきれいで穢(きたな)いのはよくわかったわ…。ふふ。
ロータス:ああ、そうだ。チーム・ブラックの話で思い出したんだが、ずっと気になってたことがあってな。“リーダー”がボスになった今、あそこは誰が指揮を執ってるのか、誰か知ってないか?
エクレア:おや、ロータスくんはまだ知らなかったのですか。今はデラスさんがリーダーになりましたよ。そしてチームの指導権を握ると同時に、彼もまた幹部入りしました。
ロータス:デラス先輩か…!今思い出せば、あの人にもいろいろ学ばせてもらうことがあったな。今度、それこそ誕生日パーティーで会えたら。きちんと挨拶をしなくっちゃあな。
シャンディ:…まあ、アイツならそれくらいの器あるわよね。
ベイカー:ンン?なんだいシャンディ、アンタそのデラスって人と知り合いなのか?
シャンディ:ええ。昔からの友人…、というより腐れ縁ね。最近は会えてないけれど、昔はよく一緒にバーに行ったわ。
ロータス:ははは、なんだか想像できるな。シャンディとデラス先輩…、並んで飲んでる姿、カッコイイんだろうなぁ。
レイヴン:(ケータイをいじりながら)うん、凛々しくてかっこよかったよ、二人の飲み姿…、(ケータイをロータスに見せて)ほら、これ写真。
シャンディ:ちょっ、なんで持ってるのよ…!?
レイヴン:そりゃ情報屋ですからー。
ロータス:おお…!…なあ、四人とも。俺も二人みたいな年になったら、こうやってグラスを傾ける姿が似合う、そんな大人になれると思うか…?
エクレア:っ…、勿論です、ロータスくん……!
ロータス:ほんとか?やった、エクレアが言うのなら間違いないな…!
エクレア:ああ、ああ……!酔いが回ってきて、お二人を見て目をキラキラさせるロータスくんかわいいです……!!クククッ、ククククッ……!!アハハハハハハッ……!!
ベイカー:…なんかこの光景、前も見たなァ。レイヴンが餌を提供して、エクレアが暴走モードに入るの。
シャンディ:…はぁ。あなた、情報屋よりもパパラッチのが向いてると思うわよ。
レイヴン:かもねー。…ハッ。もしかして、シャンディの色んな姿を撮って、あのピンク髪の子に渡せば滅茶苦茶いい商売になるんじゃ!?
シャンディ:そんなことをしたらあなたの羽根を毟(むし)って嘴(くちばし)を砕いたあと釜茹でにして殺してやるわ。
ベイカー:フッ、ハハハハハッ!聞いたことあるぜ釜茹で!確かそれって、昔の日本の大泥棒の話だろ?良かったじゃねェかレイヴン!大好きなジャパニーズ・ニンジャと同じ方法で殺してくれるってよォ!
レイヴン:…すみませんでしたー!
0:そしてまただいぶ経過。時間は午前二時。
ロータス:あぁ…、今日はだいぶ飲んだな。少しくらくらする。
エクレア:それはいけませんね。直ぐにお水を取ってきます。
ロータス:助かるよ。
ベイカー:はァー、今すごい気分いいぜ…、このまま寝れちまいそうだ。
シャンディ:我慢したほうが良いわよ…。お酒を飲んだ時は変な場所で寝るより、ふかふかのベッドで寝るほうがよっぽどいいわ。
レイヴン:そうだねー…、あー、雰囲気的にそろそろお開きかぁー、もう少し楽しみたかったなあ。
エクレア:馬鹿を言わないでください。皆さん気づいてますか、もう夜中の二時です。そろそろ解散しないと、明日から始まるヤマに差し支えますよ。
ベイカー:うぉ、通りでこんだけ眠いわけだなァ。ふわぁー…。明日からまた仕事かァ、嫌だなァー…。
エクレア:はい、ロータスくん。お水です。
ロータス:ありがとう、エクレア。…(グラスの水を一気に飲み干し)あぁ…。…よし。みんな、眠たいのはわかるが気力を振り絞って聞いてくれ。俺たちは今日より、晴れて組織の幹部チームとなった。これに伴って、きっと“リーダー”からの直々の指令も多くなるはずだ…、全員、より一層気を引き締めていくぞ。くれぐれも今日のテンションを明日に持ち越さないようにな。
エクレア:(揃えなくていいので同時に)はい、リーダー。
レイヴン:(揃えなくていいので同時に)はいはーい。
ベイカー:(揃えなくていいので同時に)了解ッ。
シャンディ:(揃えなくていいので同時に)もちろんよ。
ロータス:…本当に大丈夫なんだろうか。
0:その時、外からホテルの前に数台の車が止まる音が聞こえる。
ロータス:…ん?今、このホテルの前に車が止まる音がしなかったか?
エクレア:しましたね…、それも5、6台はいるでしょうか。
ベイカー:ははァーン、さては誰か、迎えのタクシーでも呼んだなァー?
レイヴン:…そうであってほしかったけど、違いそうだね。結構な足音が下の階から聞こえてきてるよ。…歩幅が全員広そうだな。これはさては、若造が幹部になったことが気に入らない組織のおじさん連中かなー?
シャンディ:…数は30くらい…?いや、もっといるわね。…はぁ、せっかく今日はいい気分で寝れると思ったのに。というかこの光景もデジャヴね。…もしかしてこのホテル、呪われてるんじゃないかしら?
ロータス:ハハッ、思い出のホテルが呪われてるなんて、あんまり考えたくないな。…みんな、出来上がってるところ悪いが、応戦準備だ。
ベイカー:あいよー…。ったく、酔っぱらってるところを討ちにくるなんざ、無粋な連中だなァ。
シャンディ:仕方ないわよ、暗殺の基本だから…。で、リーダーさん、今回はどういく?
ロータス:そうだな…。あの日と同じように行く。全員、覚えていたら自分の役割を言ってみてくれ。
エクレア:ワタシが陽動。暴れまわって敵の気を引きます。
シャンディ:そっちに気を取られている連中を静かに殺すのがあたしの役目…。
ベイカー:私とロータスはレイヴンの近くについて護衛…、だったが、どうするリーダー。今回はどうやらレイヴンが狙いじゃないみたいだぜ?
ロータス:ああ。だが、基本は同じだ。俺とベイカー、そしてレイヴンの三人一組で行動する。幹部チームの団結力を奴らに見せつけてやるとしよう。
レイヴン:了解ー。
シャンディ:それじゃあ、リーダー。…いつもの、お願いね。
ベイカー:酔っぱらってるから気合いが入るやつを頼むぜ!
ロータス:…気合いが入るのって、どんなだ。
エクレア:いつも通りでいいと思います。だって、ロータスくんの号令は絶対に気合いが入りますから。…さあ、リーダー。
ロータス:…ははは。そうか、よし。
0:
ロータス:初めて五人がこのホテルに集ったあの日から、一年半が経過し、俺たちは更なる成長を重ね、研鑽を積んできた。この期間で、互いの印象や関係値、組織の内情は大きく変わっているだろう。だが、一つだけ変わらないことがある。このチームは最高、最強だということだ。クソったれた緑の眼をした怪物に、俺たちの実力を存分に見せつけてやれ!そして、すべて終わらせた暁には、空を照らす朝焼けを全員で望むとしよう。…さあ。
0:
ロータス:仕事の時間だ!野郎ども!!
0:
0:銃声の合図で、五人はホテルを駆けていく。
0:その勢い、猛り狂う炎の如く。
0:
0:End
0:夜。とあるホテルの一室。
0:ピアスが印象的な人物が扉を開く。
シャンディ:あら…、今回はあたしが一番なのね。少し来るのが早すぎたかしら。丸い机に椅子が五つ…、驚いたわ。冷蔵庫の位置まで同じだなんて…。ふふっ。
0:そう言ってシャンディ・ガフは椅子のうちの一つに腰掛ける。
シャンディ:ほんと、うちのリーダーさんはそういうところ粋なんだから…。
レイヴン:うんうん、皆から慕われる所以(ゆえん)だよね!
0:丸いテーブルの下から丸眼鏡の人物が顔を出す。
シャンディ:…レイヴン。もしかしてあなた、あたしが来るまでずっとこのテーブルの下で待っていたの?よく気が触れなかったわね…。
レイヴン:…僕はあらぬところからいきなり飛び出してやったのに、驚くどころか精神の心配をする君の方がよっぽど気が触れていると思うよ、シャンディ。
シャンディ:気配でバレバレなのよ…。ごめんなさいね、期待に沿えなくて…。
レイヴン:その言葉が君の悲観的な部分から来てるのか、憐れみなのか煽りなのかは、もう一年半以上の付き合いになる僕にも計り知れない所だね。
シャンディ:そう?よくわかってると思ったけれど。…あと、いつまでもそこで窮屈そうにしていないで、座ったらどうかしら。
レイヴン:…そうするよ。
0:レイヴンがシャンディの左隣に座る。
レイヴン:あぁ、そうそう。ロータスとエクレアは少し遅れるってさ。なんでも“ボス”にお呼び出しを食らったそうで。
シャンディ:…“彼”自ら招集を?もしかしてあたしたち、なにかまずいことしちゃったのかしら…。
レイヴン:その心配はないと思うよ。むしろその逆さ。僕らはこの街に這い寄る「ノイズ」を消し去ることに成功した。放っておいたら確実に組織の「目を潰されてしまう」くらい大きな雑音をね。そしてその指令を成し遂げたのが“ボス”自ら育て上げた若いマフィアだっていうんだから―――。
シャンディ:―――(間を開けずに)『きっと“彼”の「鼻」は高いだろう。』…なんて言うつもりじゃないわよね?
レイヴン:あれ、よくわかったね?
シャンディ:ええ。だってあたしたち、もう一年半以上の付き合いになるでしょう?
レイヴン:…あはは、今日のシャンディはなかなか手強いなぁ。…おや?
0:足音がして、扉が勢いよく開かれる。入ってきたのは、黒スーツを着た人物。
ベイカー:入るぜー!って、おォー。どうやらまた私が三番目のようだが、前と先に来てたメンツが逆になってるなァ。
レイヴン:やぁ、ベイカー。「パン」につられて登場とは、らしいねえ。
ベイカー:(パンに反応して)パン!?今日の打ち上げ、パン用意されてんの!?マジでェ!?
シャンディ:…はぁ。されてないわよ。このアホカラスが言ってる「パン」は口に入るんじゃなく、口から無限に出てくる方…。
ベイカー:なァんだ、そっちか。少し期待しちまったじゃねえか!とっておきを披露したい気持ちはわかるが、ほどほどにしとけよレイヴン。あんまりしつこいとウザがられるからなァー?
レイヴン:あはは、ごめんごめん。でもほら、僕らここ一か月はずっと大きなヤマに追われてて、ようやく仕事が終わって息をついたところだろう?だから気が緩んでるのさ、少しのユーモアくらいは許してくれよー!
シャンディ:…そうね。ジョークはあまり得意じゃないけれど…、今日は打ち上げだもの。少しくらいはユーモアがあってもいいと思うわ。
ベイカー:おぉ?アンタがそんなことを言うなんてなかなか珍しいなァ。なんだ、好きなコメディ映画でもできたのか?
シャンディ:違うわ…。この一か月にそんな暇あったわけないの、あなたもわかってるでしょう?普通に過労で疲れてるのよ、はぁ…。
ベイカー:ハハッ、成程ォ。確かに私たち、相当動き回ったもんなァ、今回のヤマは。
レイヴン:まず僕がクスリのルートを探って、そこから割れた取引先と思しき連中をシャンディとエクレアが殲滅したんだよね。
ベイカー:そうそう!んで、そっからはそいつらのまとめ役をあぶり出すために私とロータスで爆破したり工作したり…、いや、マジであれは骨が折れたぜ。
シャンディ:本当にお疲れ様…、ちなみに、全部で何軒爆破したの?
ベイカー:うーん、いくつだったかなァ…、ま、大体、組織のお偉いさんにやり過ぎだって鬼の形相で怒鳴られるくらいだな。どうやら、流石に隠蔽と口止めにかかる金が馬鹿にならなかったらしい。
レイヴン:あはは、バックアップの人たちも大変だなぁ。…というか、もしかしてロータスたちはそれの件で呼び出し食らってるんじゃ?
シャンディ:ないでしょ…。“彼”が同じ件で二回呼び出すことはないし、それだったらベイカーが呼ばれるはずよ。
ベイカー:なんだ、珍しく遅ェと思ったが、あの二人は“兄貴”に呼び出されてんのか?
レイヴン:どうやらね。どういう要件かはわからないんだけど、直々に話があるって言われたみたいでさ。
ベイカー:へェ…、そういうことなら、だいぶ遅くなりそうだな。ま、気長に待つかァ。
シャンディ:…いや、案外早かったみたいよ。
レイヴン:ん?…あぁ本当だ、足音がするね。それも走って向かってきてる。
ベイカー:おぉ、ならロータスとエクレアで間違いねェな! そんじゃ、盛大に我らがリーダーを迎えるとしようかァ!
0:そして扉が開かれる。まず部屋に入ってきたのは、凛々しい青年。さらにその後ろに、ローブを纏った女性が続く。
ロータス:はぁ、はぁ…。すまない、遅れてしまったな…。
シャンディ:全然待ってないから大丈夫よ。お疲れさま、ロータスにエクレア。
エクレア:ありがとうございます。…あぁ、いけませんロータスくん。膝に手をついて立っているより、そこの椅子で座ったほうが断然休まります。さあ、早くこちらに……!
ロータス:はは、ありがとうエクレア。
0:ロータスが席に着く。
ベイカー:別に走って来なくてもよかったのに…、ホント真面目だよなァ、ロータスは。
ロータス:そうか?俺が打ち上げにこのホテルとこの時間を選んだんだ、なるべく遅れないようにするのは当然だと思ったんだが…。
シャンディ:ふふ、どこにだって、その当然ができない奴がわんさかいるから素晴らしいのよ…。ほんと、どこかのカラスとは大違いね…。
レイヴン:はいはい、ごめんなさーい。
ベイカー:コイツ…。まァいいか。そんなことより、リーダーも到着したことだし、そろそろグラスに酒入れて乾杯しようぜェ。
ロータス:えっ?まだ誰も飲んでなかったのか?てっきりもう酒を開けてるものだと思ってたが。
シャンディ:流石に二人がまだ来てないのに乾杯なんてできないわよ…。さぁ、リーダーさん。まずはどのお酒を注ぐか、選んでちょうだい。
ロータス:そうだな…、ならここは、あの時と同じシャンパーニュにするか。今取って来るから少し待っていてくれ。
エクレア:その必要はありませんよ。ロータスくんならきっとそういうと思ってましたので、ワタシが先にやっておきました。
レイヴン:先に…?って、あれ!?
0:四人が視線をテーブルに戻すと、全員分のグラスに既に酒が注がれている。
ベイカー:凄ェ!いつの間に全員分のグラス用意して酒入れてたんだァ!?全然気づかなかったぜ!
シャンディ:まるで手品ね…。
レイヴン:確かにエクレアって、普段荒々しいから忘れがちだけど、気配を消すのも上手いんだったっけ…。
エクレア:ええ。嵐は必ず静かにやって来るものですので。それに、この程度のことでロータスくんの手を煩わせるわけにはいきませんから。
ロータス:気を利かせてくれてありがとう、エクレア。助かったよ。
エクレア:とんでもないです。クククッ……。
シャンディ:…まあ何はともあれ、お酒も揃ったことだし…、お願いするわ、リーダーさん。
ロータス:そうだな。じゃあみんな、グラスは持ったか?よし。それじゃあ…、更なるチームの結束と組織の繁栄を願って。
0:
ロータス:乾杯。
0:
エクレア:カンパイ。(同時に)
ベイカー:乾杯ーッ!(同時に)
レイヴン:乾杯!(同時に)
シャンディ:かんぱーい。(同時に)
0:
ロータス:…うん、美味い。自分でセッティングしておいてなんだが、この景色にこの酒に…、なんだかあの日に戻ったような感覚だ。
ベイカー:ハハッ、本当に懐かしいよなァ!しっかし、あの頃はまだ可愛らしかったロータスが、今はもう一丁前のリーダーだもんなァ。時の流れってのは早ェもんだぜ…。
エクレア:ですね。初々しかったロータスくんも最高でしたが、今の威厳たっぷりのロータスくんも最高です……!
シャンディ:エクレアは何にも変わってないわね…。
レイヴン:そうかい?変わってると思うけどなあ。ほら、愛の重さが青天井に増してるでしょ?
ベイカー:ハハッ、そりゃ間違いねェな!
ロータス:はいはい、あんたらその辺にしとけ。せっかくの宴会のなかで雷に撃たれても俺は知らないからな。
ベイカー:アイアイサー。
エクレア:ロータスくん……。ククッ、クククッ……。
シャンディ:はぁ…。少し話を戻すけれど、本当に成長したわよね、ロータス。…もう“蓮の子”なんてコードネームが似合わないほどに。
エクレア:ええ。ですので、もうロータスくんは“蓮の子”ではなくなりましたよ。
ベイカー:…はァ?
レイヴン:えっと、それはどういう?
ロータス:…エクレア。
エクレア:はい。
ロータス:その話は場が盛り上がってから話そうって言ったよな…?
エクレア:ええ。ですので、乾杯をした後なら平気かと思ったのですが……、もしかして、まだ時期尚早(じきしょうそう)でしたか?
ロータス:…俺としては、もう少し待って欲しかったかな。
シャンディ:えっと…、その反応を見るに、結構重要な話なのかしら?
ロータス:結構どころじゃないくらい重要な話だな…。だから変に緊張が走らないよう、全員酔いが回ったあたりで言おうと思ってたんだが…、まあ仕方ない。今話すとしよう。
エクレア:先走ってしまい、申し訳ありませんでしたロータスくん……。この失態はワタシの命で―――。
ロータス:(被せて)払わなくていい払わなくていい!あんたがいなくなったらこのチームに不和が生まれるし、“リーダー”やチーム・ブラックのみんなも悲しむだろ! それに、なにより…。
エクレア:…なんです?
ロータス:…その、俺が寂しくなる。
エクレア:!! そう、ですか……。ククッ、ククククッ……、アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!
レイヴン:あーあ、またロータスがエクレアのハート撃ち抜いちゃったよ。
シャンディ:凶悪なのはあの発言が確実に無自覚なところかしら…。罪な男ね…。
ベイカー:つーかお二人さんよォ、イチャつくのは全然構わねえンだが、とりあえず私たちのアタマの上に浮かんでるハテナを解消してからにしてくれねェか。
ロータス:そうだな。だいぶ脱線してしまった、すまない。言い方が強張っていたから悪い話と思われているかもしれないが、とてもいい知らせだから、肩の力を抜いて聞いてくれ。
ベイカー:おう!
ロータス:それじゃあまずはどういう話かってところだ。三人ともレイヴンから聞いてると思うが、俺とエクレアは今日ここに来る前にリーd…じゃなかった、“ボス”から呼び出しを受けていた。その時に伝えられた内容が今回の話だ。
レイヴン:なるほどね。ということはもしかして、今回のヤマの報酬の話かい?
ロータス:流石、勘がいいなレイヴン。その通りだ。五人の少数チームで、このあたり一帯を脅かす麻薬の密売ルート壊滅という大仕事を成し遂げたことを讃えて、特別報酬を“ボス”に用意していただいた。エクレア。
エクレア:はい、ロータスくん。
0:ロータスが指示を出すと、エクレアは着ていたローブの中から一枚の紙を取り出した。
ベイカー:んァ?なんだそりゃァ。
シャンディ:…書類? …その押印、まさかそれって…!?
ロータス:エクレア、読み上げてくれ。
エクレア:仰せのままに。
0:
エクレア:「日頃の功績を讃え、本日をもって、コードネーム“ロータス”を幹部に昇進とする。またそれに伴い、チームの名称を『特別チーム』から『チーム・ロータス』へ変更。幹部チームとして、今後も変わらぬ忠誠と更なる活躍を期待する。」…、以上です。
0:
ベイカー:は…、はぁぁァァアーーーッ!?
レイヴン:ロータスが組織の幹部…、当然のことだけど、つまり僕達は幹部チームの一員になったってことだよね?
ロータス:そうだ。だから、今の俺たちはあのチーム・ブラックと並んでいるってことになるな。
エクレア:確か“あの方”曰く、「今回お前たちが成し遂げたことの恩恵は組織にとってあまりにも大きい。薬物が街に蔓延るのを阻止しただけじゃなく、組織に潜む膿(うみ)の排除、ルールの抜け穴の発見、その他エトセトラ…。素晴らしい成果を出してくれた。流石は俺の見込んだ五人だ。」みたいなこと言ってましたっけ。
ロータス:なんで一字一句覚えてるんだよあんた…、だがまあ、そういうことらしい。流石に“ボス”の贔屓も少しはあると思うが。
シャンディ:開いた口が塞がらないわ…。
ロータス:…正直、俺もめちゃくちゃ驚いてるよ。一年半で幹部昇進だなんて…、レイヴンが言ってたアレみたいだな。あの、ジャパニーズアニメの…、あの、ナル…、
レイヴン:あぁー、『なろう系』、のことかな?
ロータス:そう、それだ。レイヴンに教えてもらって作品を漁ってみたんだが、とても沢山あったのを覚えてる。
エクレア:……。
レイヴン:うーん、僕たちがアニメの主人公、か…。確かにスピード出世だし、“ボス”には気に入られてるし、まさにだねー…、ま、別に僕らは完全無欠ってわけじゃないけど。それはそうとして、アニメが見たいなら、今度僕のお勧めを教えてあげるよ―――。
エクレア:(台詞を遮るように)―――みなさん、夢のような話に酔うのもいいですが、もう一つこれと同じくらい大事な報告があります。
ベイカー:マジでッ!?
ロータス:…いや、そこまで重要じゃない話だ。エクレアにとっては同じくらい大事だと思う、が…。
シャンディ:…えっと、それはもしかして、“蓮の子”の話かしら?
ベイカー:あァ?ロータスの話はもうしただろ?
レイヴン:いや、そうなんだけどそういうことじゃないね、シャンディが言ってるのは。
ベイカー:…ンー?どういうこった?
ロータス:俺の異名の話だよ。「幹部なのに二つ名で子ども扱いするのはいけないな」って“リーダー”…、すまん、“ボス”が言ってくれてな。“蓮の子”に代わる俺の新しい通り名を考えてくれたんだ。だから今後はその名前で通ることが多くなるだろうって話だ。
シャンディ:ふふふ、それはいいわね…。それで、なんて言う名前なの?
ロータス:…自分から言うのは少し小恥ずかしいから、エクレア。代わりに…。
エクレア:勿論です。それでは僭越ながら。ロータスくんの新たな通り名は、“蓮の子”改め…、
0:
エクレア:“異彩の蓮華”(いさいのれんげ)、です。
0:
ベイカー:おぉ、めちゃくちゃカッケェじゃねェか!流石は“兄貴”、センスいいねェ!
レイヴン:組織幹部、“異彩の蓮華”(いさいのれんげ)ロータス…。ヒュゥー、カッコいいじゃん。
ロータス:ありがとう…。だが、その…、少しカッコ良すぎないか?名前に着せられているというか、俺には似合わないと思うんだが…。
エクレア:何を仰いますか!前に“あの方”が言っていたように大輪を咲かせたロータスくんに相応しい二つ名かと……!
シャンディ:そうそう。大丈夫よ、あたしはカッコいいと思うし…、なにより、あたしが着せられてる異名(ふく)よりは絶対に似合ってるから…。
エクレア:おや、そうですか?ワタシとしてはアナタの“告別の黄金酒”(こくべつのおうごんしゅ)、雰囲気に合ってて良いと思ってましたが。
ベイカー:“雷光”がロータス以外を褒めたァ!?
レイヴン:明日は午前から午後にかけて十文字槍(じゅうもんじやり)が降り注ぐでしょう。
エクレア:失礼ですね。今部屋の中に稲妻を作ってもいいんですよ?
シャンディ:やめておきなさい。カラスが墜落してパン屋が閉まるだけならいいけれど、せっかく咲いた蓮の花が燃えかねないわよ。
エクレア:むぅ…。やめておきます。
シャンディ:よろしい。…はぁ。
ロータス:…いつの間にシャンディは舵を取るのが上手くなったんだ?(小声)
0:少し時間が経ち、別の話題へ。
ベイカー:やぁー、まあでも確かに、今回のヤマは幹部昇進しても問題ないくらい大変だったよなァ。
ロータス:そうだな。それにまるでドラマみたいな筋書だった。
エクレア:まさに。まず情報を探るところから始まり、まとめ役を文字通り炙り出したところで組織大幹部の裏切りが発覚だなんて。
レイヴン:でも確かに、僕もおかしいとは思ってたんだよ。僕の情報網をいくら使っても黒幕がわからないなんて、よほどの大物を相手取ってるのかもしれないってね。まあ“財貨の怪物”とか“セクト”じゃなかっただけマシだったけど。
ベイカー:しっかしまさか、そこの始末まで私たちに任されるとは思わなかったよなァ。超人揃いとはいえ、「五人でどうにかできる問題じゃねェだろ!」って全力でツッコんだっけかァ。
エクレア:ワタシとしては、少しウキウキしましたがね。いつもロータスくんを見下してたあのゴミクズをぶち壊せるって考えただけでニヤけが止まりませんでした……!
ロータス:それで本当に最後の後片づけのとき無双したんだから凄いよ…。いや、俺のことを思って怒ってくれるのは嬉しいんだが。
シャンディ:ほんと、敵さんとドンパチするときはもうエクレア一人でいいんじゃないかしら…。
ベイカー:それ私も思った!やァー、用意してた爆薬一個も使うことなく終わっちまうとは思わねェよなァ。
レイヴン:でもよかったんじゃないかい?流石にこれ以上爆破したら“ボス”からお叱りが来そうだし。
ベイカー:ヒェ、そいつは勘弁だぜ…。
ロータス:…“ボス”、か。もう三か月も前のことなのに、未だに呼び慣れないな。
シャンディ:ふふ…。さっきも何度か呼び違えていたものね。
エクレア:呼び間違えるたびに首を振って訂正するロータスくん、可愛かったですよ。
ロータス:あ、ありがとう…?
レイヴン:あはは。でも、僕としては“彼”が王座に就くのも納得かな。先代のやり方は荒々しすぎた。
エクレア:まったくです。毎回思うのですが、『絶対的君主』として降臨しようとすること自体無謀なのではないですかね。それも陰謀溢れるこのウラの世界で。権力を手にして好き勝手やりたくなる気持ちはわかりますが、文字通りの激しい生存競争のなかを暴君として通してしまえば、ロクな死に方をしないのが目に見えないのでしょうか。
0:静まり返る四人。
エクレア:おや、皆さんどうしたのです。ワタシ、何か気に障ることを言ってしまいましたか?
ベイカー:いやいや!そんなこたァ全然ねえンだが…、その…、初めてアンタのそういう意見聞いたなァ、と思ってよォ。
ロータス:…多分、俺も初めて聞いた。驚いたよ、そういうことについては無関心だと思ってたから。
エクレア:そうですね。こういう堅苦しい話はあんまりしないです。ロータスくんを飽きさせてしまいますので。それに皆さんの思っている通り、マフィアとしての在り方?と言えばいいのでしょうか。ほとんど無関心ですよ。しかし考えなくてはならないんです。いつかこのチームが玉座を勝ち取って、この組織の権限を恣(ほしいまま)にしたとき、ロータスくんを下衆な輩に殺させるわけにはいきませんから。
0:再び刹那の沈黙。それを破ったのはカラスの笑い声。
レイヴン:ぷっ…、あはは!良かったねリーダー!君のことが大好きな最強美人お姉さんが、君を悪い方向へは行かせないってさ!いやぁー、こりゃ将来安泰だね!
ロータス:ははは、そうだな。…玉座、か。俺でも、いつか手が届くんだろうか。今“リーダー”がいるところに。
ベイカー:なァに言ってんだロータス!届くに決まってンだろ!だって考えても見ろよ、お前今何歳だっけ?
ロータス:あと二週間足らずで二十歳になる。
シャンディ:…若っ。
ベイカー:だよな?大人が九割九分を占めてるこの世界で、二十歳になる前に幹部に昇進したンだぜ?早咲きにも程があるって話だろ!
レイヴン:ま、それには勿論チームメンバーである僕らの力もあるけどね!
エクレア:カラス。今ベイカーがロータスくんを褒めているのです、醜い自画自賛を挟まないでください壊しますよ?
レイヴン:ひぇ…。なんか段々僕の扱いがひどくなっていってる気がするなぁ…。
ベイカー:ハハッ、当然の報いだな!まあそれはさておいて。だからロータス。お前は必ず届く。お前一人じゃァ厳しくても、後ろにはいつだって私たちがいるだろ?それに、元はと言えばこの五人が同じチームになったのも“兄貴”の計らいだ。ボスになった漢(おとこ)の招集したチームだぜ?そんなの間違いなく、『最高で最強』だろ?
ロータス:…はは。そうだったな。ありがとうベイカー。とっても自信になった。
ベイカー:おう!
エクレア:……ですが、不覚でした。最悪の見落としです。
シャンディ:…? なにがかしら?
エクレア:忘れていたのですよ……。ロータスくんがもうすぐ年を重ねることを……!それも、人生にとって最も重要と言っても過言ではない、二十歳の誕生日を……!!
レイヴン:なんてこった、そりゃ本当に珍しいね。命よりもロータスを優先する君が。
エクレア:ああ、ああ……!今からでは最高のプレゼントの用意が間に合いません……!ワタシは、ワタシは一体どうすれば……!!
ロータス:落ち着け、エクレア。大きなヤマをずっと抱えてたんだ、そんな些細なことを忘れるのなんて仕方ないさ。だから―――。
エクレア:(食い気味)些細ではありません……!!ロータスくんの誕生日、何に換えても最優先すべき事柄です……!!そんな自分のことを下げないでください……!!
ロータス:…そんなつもりはなかったが。
ベイカー:そんじゃあエクレア。私から一つ提案がある。
エクレア:……なんです?
ベイカー:今回の誕生日プレゼントは、チーム・ブラックの方々と我らが“ボス”…、“兄貴”を呼んで、豪華絢爛に誕生日パーティーを開く、ってのはどうだ?そうすりゃ、何にも代えられない思い出をプレゼントできるだろ!
ロータス:“リーダー”を呼ぶのか!?流石に無理だろ…!?
シャンディ:…いや、案外何とかなるんじゃないかしら。“彼”、祝い事なら飛んでくると思うわよ。それもアナタの誕生日となればなおさら。
レイヴン:うんうん。それに、確かここ数週間はチーム・ブラックも“彼”も忙しくなかったと思うし…、まあ例え無理だったとしても、ダメ元で連絡してみてもいいんじゃないかな。誘うだけならタダだしね。
エクレア:……アナタが言うなら予定は間違いないですね。……ベイカー。ありがとうございます。打ち上げが終わったら、すぐ連絡してみます。
ベイカー:おう!あ、でも勿論そのパーティーには私たちも呼べよー?
エクレア:当然そのように。……良いでしょうか、ロータスくん。今年の誕生日プレゼント、仮案はそれで。
ロータス:…ああ、勿論だ!楽しみにしてる!
エクレア:……昔のようなあどけない笑顔のロータスくん、可愛いです。……クククッ、ククククッ……!!
0:またまた時間が経ち、別の話題へ。全員少しずつ酔いが回ってきている。
レイヴン:―――あはは。なんだか思い返せば思い返すほど、この一年半は波乱万丈だったね。いろいろ飛び回った挙句、殺して捜して爆破して…、ああ、交渉(ネゴ)もしたっけ。
シャンディ:そして今回の一件以外、全部手こずることはなかった、なんて…、無敵過ぎないかしら。お荷物の酒カスがいるっていうのに、みんな強過ぎね…。はぁ。
ベイカー:またまたァ、そんなこと言って。私は忘れてねェぞ、半年前のヤマのときのこと!
エクレア:ああ、あれですか。全員ホテルで寝てたのに、シャンディだけ敵の奇襲に気づいて一人で寝巻のまま全員返り討ちにしたやつ。
ロータス:俺も覚えているよ。朝起きたら部屋の床に数人の死体が転がってて、返り血が少ししかついてないシャンディがその横でバーボンを飲んでた。寝ぼけていたからかもしれないが、あの時のシャンディはまさに『死神』って感じのオーラを放ってたな…。
レイヴン:ね。あれは僕もビビったよ…。というか、なんで死体の横で晩酌、いやもう朝だったから朝酌(あさしゃく)?してたんだい?
シャンディ:…だって、あの頃は不眠が酷かったんだもの。ただでさえ寝れないのに、急に襲ってこられたら余計眠気が覚めるでしょ…。だから、お酒飲んだら寝れるかな、って思って…。床でしてたのは疲れててテーブルにいく元気がなかったからね。冷蔵庫からグラスとお酒だけとって床にへたり込んだの。
レイヴン:…血の臭いより疲れをとったってこと?
シャンディ:ええ。別に慣れてるもの。血と硝煙なんて、ねえ…?
レイヴン:…目に光が入ってないなあ。
ベイカー:でも、抗争やら暗殺やらを日常的にやってるヤツはみんなそんな感じなんじゃないかねェ。そこらへんどうなんだい、“雷光”さんよ。
エクレア:そうですね。チーム・ブラックの頃の話ですが、敵を始末した後の部屋で祝杯をあげたことは何回かありました。部屋にいいお酒があったときですね。みんなお酒好きでしたから、我慢ができなかったようで。ですが双方ともに、シャンディ程ではないです。
レイヴン:…確かに、彼らは全員お酒に目がなかったね。でも考えられないなあ、死体のあるところで乾杯なんて…。
シャンディ:ほんと、綺麗好きよね。カラスのくせに。
レイヴン:だからこそ、Fair(フェア)な仕事をしているのさ。情報屋としてね。
ベイカー:冗談キツいぜレイヴン!情報屋なんか一番Foul(ファウル)だろ!
シャンディ:はいはい、そこまで。レイヴンがきれいで穢(きたな)いのはよくわかったわ…。ふふ。
ロータス:ああ、そうだ。チーム・ブラックの話で思い出したんだが、ずっと気になってたことがあってな。“リーダー”がボスになった今、あそこは誰が指揮を執ってるのか、誰か知ってないか?
エクレア:おや、ロータスくんはまだ知らなかったのですか。今はデラスさんがリーダーになりましたよ。そしてチームの指導権を握ると同時に、彼もまた幹部入りしました。
ロータス:デラス先輩か…!今思い出せば、あの人にもいろいろ学ばせてもらうことがあったな。今度、それこそ誕生日パーティーで会えたら。きちんと挨拶をしなくっちゃあな。
シャンディ:…まあ、アイツならそれくらいの器あるわよね。
ベイカー:ンン?なんだいシャンディ、アンタそのデラスって人と知り合いなのか?
シャンディ:ええ。昔からの友人…、というより腐れ縁ね。最近は会えてないけれど、昔はよく一緒にバーに行ったわ。
ロータス:ははは、なんだか想像できるな。シャンディとデラス先輩…、並んで飲んでる姿、カッコイイんだろうなぁ。
レイヴン:(ケータイをいじりながら)うん、凛々しくてかっこよかったよ、二人の飲み姿…、(ケータイをロータスに見せて)ほら、これ写真。
シャンディ:ちょっ、なんで持ってるのよ…!?
レイヴン:そりゃ情報屋ですからー。
ロータス:おお…!…なあ、四人とも。俺も二人みたいな年になったら、こうやってグラスを傾ける姿が似合う、そんな大人になれると思うか…?
エクレア:っ…、勿論です、ロータスくん……!
ロータス:ほんとか?やった、エクレアが言うのなら間違いないな…!
エクレア:ああ、ああ……!酔いが回ってきて、お二人を見て目をキラキラさせるロータスくんかわいいです……!!クククッ、ククククッ……!!アハハハハハハッ……!!
ベイカー:…なんかこの光景、前も見たなァ。レイヴンが餌を提供して、エクレアが暴走モードに入るの。
シャンディ:…はぁ。あなた、情報屋よりもパパラッチのが向いてると思うわよ。
レイヴン:かもねー。…ハッ。もしかして、シャンディの色んな姿を撮って、あのピンク髪の子に渡せば滅茶苦茶いい商売になるんじゃ!?
シャンディ:そんなことをしたらあなたの羽根を毟(むし)って嘴(くちばし)を砕いたあと釜茹でにして殺してやるわ。
ベイカー:フッ、ハハハハハッ!聞いたことあるぜ釜茹で!確かそれって、昔の日本の大泥棒の話だろ?良かったじゃねェかレイヴン!大好きなジャパニーズ・ニンジャと同じ方法で殺してくれるってよォ!
レイヴン:…すみませんでしたー!
0:そしてまただいぶ経過。時間は午前二時。
ロータス:あぁ…、今日はだいぶ飲んだな。少しくらくらする。
エクレア:それはいけませんね。直ぐにお水を取ってきます。
ロータス:助かるよ。
ベイカー:はァー、今すごい気分いいぜ…、このまま寝れちまいそうだ。
シャンディ:我慢したほうが良いわよ…。お酒を飲んだ時は変な場所で寝るより、ふかふかのベッドで寝るほうがよっぽどいいわ。
レイヴン:そうだねー…、あー、雰囲気的にそろそろお開きかぁー、もう少し楽しみたかったなあ。
エクレア:馬鹿を言わないでください。皆さん気づいてますか、もう夜中の二時です。そろそろ解散しないと、明日から始まるヤマに差し支えますよ。
ベイカー:うぉ、通りでこんだけ眠いわけだなァ。ふわぁー…。明日からまた仕事かァ、嫌だなァー…。
エクレア:はい、ロータスくん。お水です。
ロータス:ありがとう、エクレア。…(グラスの水を一気に飲み干し)あぁ…。…よし。みんな、眠たいのはわかるが気力を振り絞って聞いてくれ。俺たちは今日より、晴れて組織の幹部チームとなった。これに伴って、きっと“リーダー”からの直々の指令も多くなるはずだ…、全員、より一層気を引き締めていくぞ。くれぐれも今日のテンションを明日に持ち越さないようにな。
エクレア:(揃えなくていいので同時に)はい、リーダー。
レイヴン:(揃えなくていいので同時に)はいはーい。
ベイカー:(揃えなくていいので同時に)了解ッ。
シャンディ:(揃えなくていいので同時に)もちろんよ。
ロータス:…本当に大丈夫なんだろうか。
0:その時、外からホテルの前に数台の車が止まる音が聞こえる。
ロータス:…ん?今、このホテルの前に車が止まる音がしなかったか?
エクレア:しましたね…、それも5、6台はいるでしょうか。
ベイカー:ははァーン、さては誰か、迎えのタクシーでも呼んだなァー?
レイヴン:…そうであってほしかったけど、違いそうだね。結構な足音が下の階から聞こえてきてるよ。…歩幅が全員広そうだな。これはさては、若造が幹部になったことが気に入らない組織のおじさん連中かなー?
シャンディ:…数は30くらい…?いや、もっといるわね。…はぁ、せっかく今日はいい気分で寝れると思ったのに。というかこの光景もデジャヴね。…もしかしてこのホテル、呪われてるんじゃないかしら?
ロータス:ハハッ、思い出のホテルが呪われてるなんて、あんまり考えたくないな。…みんな、出来上がってるところ悪いが、応戦準備だ。
ベイカー:あいよー…。ったく、酔っぱらってるところを討ちにくるなんざ、無粋な連中だなァ。
シャンディ:仕方ないわよ、暗殺の基本だから…。で、リーダーさん、今回はどういく?
ロータス:そうだな…。あの日と同じように行く。全員、覚えていたら自分の役割を言ってみてくれ。
エクレア:ワタシが陽動。暴れまわって敵の気を引きます。
シャンディ:そっちに気を取られている連中を静かに殺すのがあたしの役目…。
ベイカー:私とロータスはレイヴンの近くについて護衛…、だったが、どうするリーダー。今回はどうやらレイヴンが狙いじゃないみたいだぜ?
ロータス:ああ。だが、基本は同じだ。俺とベイカー、そしてレイヴンの三人一組で行動する。幹部チームの団結力を奴らに見せつけてやるとしよう。
レイヴン:了解ー。
シャンディ:それじゃあ、リーダー。…いつもの、お願いね。
ベイカー:酔っぱらってるから気合いが入るやつを頼むぜ!
ロータス:…気合いが入るのって、どんなだ。
エクレア:いつも通りでいいと思います。だって、ロータスくんの号令は絶対に気合いが入りますから。…さあ、リーダー。
ロータス:…ははは。そうか、よし。
0:
ロータス:初めて五人がこのホテルに集ったあの日から、一年半が経過し、俺たちは更なる成長を重ね、研鑽を積んできた。この期間で、互いの印象や関係値、組織の内情は大きく変わっているだろう。だが、一つだけ変わらないことがある。このチームは最高、最強だということだ。クソったれた緑の眼をした怪物に、俺たちの実力を存分に見せつけてやれ!そして、すべて終わらせた暁には、空を照らす朝焼けを全員で望むとしよう。…さあ。
0:
ロータス:仕事の時間だ!野郎ども!!
0:
0:銃声の合図で、五人はホテルを駆けていく。
0:その勢い、猛り狂う炎の如く。
0:
0:End