台本概要
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タイトル | アンダーインクコリダー第1場 |
---|---|
作者名 | 冷凍みかん-光柑- (@mikanchilled) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 5人用台本(男2、女1、不問2) |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
第1場『巨大な地下空間』。地下には巨大な書庫がある。歴史の闇に葬られた奈落の底で、ルビは焚書された書物の復元に励む。一方地上では、帝国主義が跋扈して世界大戦の兆しが見える中、3人の若者が未知の巨大地下空間の探索に乗り出すのだった。
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キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ルビ | 女 | 32 | 地下書庫で、焚書された書物の復元に生涯を捧げる16歳の少女。控えめな性格だが、優しさと勇気を併せ持つ。 |
アイオリス | 不問 | 41 | 明るく適当な性格の少年。夢を捨て、フラフラと生きている。女性の方に演じてほしい気がする。 |
ドーリア | 男 | 13 | 現実主義な青年。資本主義に辟易しながらも、自らもその恩恵にあやかっていることを自覚している。 |
イオニア | 男 | 12 | 古い王家の血を引く若者。次期ロザリオブルク大公爵と期待されている。アイオリスとドーリアを洞窟探検に誘う。 |
ノヴァ | 不問 | 19 | 地下に生息する、活発な緊急警報用の人工精霊。地下に潜むあらゆる危険を察知する能力を持つ。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:じりじりと、ロウソクの芯が焦げる音の他には、紙面を走る羽ペンの音だけが聞こえる。
ルビ:少しずつ、言葉を思い出しながら紡いでゆく。
ルビ:ああ、そうだ。ここだ。私はこの一節に惹かれたのだ。
ルビ:よかった。まだ、覚えてて…
ルビ:私の大好きな物語は、今となってはもう私の頭の中にしか存在しない。
ルビ:”12月の焚書”は全てを焼いてしまった。
ルビ:小説、歴史書、紀行文。古き神々の伝説さえも。
ルビ:先人たちの想い。私の宝物。
ルビ:忘れてなるものか。全てを書き残し、次の世界に伝えるまでは。
ノヴァ:〈タイトルコール〉『アンダー・インク・コリダー第1場”巨大な地下空間”』
0:暗い洞窟を三人の若者が探索している。
イオニア:冷たっ!今なんか濡れたぞ!?
アイオリス:平気だよ、ただの水さ。
ドーリア:ここは溶食洞だからね。近くに水脈があるんだろう
アイオリス:洋食堂…お腹空いたなあ
イオニア:2人とも、本当に付き合ってくれてありがとう
アイオリス:気にするなよ。幼い頃から”三つ山(みっつやま)”で遊んだ仲じゃないか
イオニア:ありがとう、アイオリス
ドーリア:今では二つは禿げ上がって、残る一つは坑道でスカスカだけどね
アイオリス:文明の犠牲とはいえ、ひどい話だよ。
イオニア:ああ。緑を愛していた総統閣下のことを思うと、本当に心が痛むよ。
ドーリア:おかげで、俺は儲けさせてもらったがな。重工業が発展すれば、政府も潤う。閣下も許してくれるさ。
アイオリス:なあ、今回の探索は閣下直々のお願いなんだろ?どうして秘密裏に進める必要があるのさ。
アイオリス:なあどうしてさ、イオニア・ロザリオブルク大公殿っ!
イオニア:大公殿は止してくれよ、アイオリス。
ドーリア:国境付近だからだよ、アイオリス。
ドーリア:もし”巨大な地下空間”が本当に存在するのなら、戦略的価値は十分にある。
ドーリア:なんせ地上からは何が建設されようが観測できないわけだからね。
アイオリス:戦争…戦争か。戦争をするのか?僕たちの国は
イオニア:そうならないために僕がいる。こんな所で失踪するわけにはいかない。
ドーリア:俺も。まだまだ儲けさせてもらうからね。
イオニア:なあ。アイオリス、君はまだ詩を書いているの?
アイオリス:え?ああ…詩ね。そんなの、とっくにやめちゃったよ。
アイオリス:…文字なんて帳簿と契約書を書ければ十分ってね!
ドーリア:同感だね。
イオニア:そうか…
0:アイオリスは、白い石灰質に似た岩肌を撫でながら首をひねる
アイオリス:おっかしーなー!?
0:アイオリスの声が洞窟に木霊する
ドーリア:大声を出すなアイオリス。耳に響く
イオニア:反響…事前調査をした時は、こんなに狭い洞窟じゃないと思っていたが…
ドーリア:こんなもんだろ。いつだってロマンを砕くのが現実さ。
アイオリス:あれ?割れ目がある。活断層じゃないよね?ここ
0:ピッケルの腹で、割れ目を叩くアイオリス
0:コーン…コーン…
イオニア:反響してるぞ…!
ドーリア:ははあ。なるほどな
アイオリス:〈キラキラ目〉割れ目の先に洞窟は続いている…
ドーリア:そうと分かれば、よいしょっと。
0:三人は背嚢から取り出した爆薬の包装に雷管をねじ込み、ペンチで導火線を固定する
アイオリス:2人とも準備はいい?
イオニア:いいよ。
ドーリア:爆薬セット完了した。
アイオリス:OK!2人とも離れてね。
アイオリス:現実を打ち砕くのもまた
アイオリス:ロマンッ!!〈カチッ〉
0:ちゅどおおおん!!
ドーリア:これが文明の力。もはや恐れるものは何もないな。
0:ズゴゴゴ…
イオニア:なんだ?この音は…
0:洞窟全体が揺れ始め、天井からパラパラと粉が降る
ドーリア:まさか、落盤する…?
アイオリス:うそだ!?生き埋めはイヤだ~ッ!
0:一方、地下のとある部屋ではロウソクの灯りを頼りに、ルビが写本作業をしていた。
ルビ:〈モノローグ〉気がつけば、ガチョウの羽をインクに浸したはずなのに
ルビ:紙に墨がのらなくなってしまった。
ルビ:どれほどの時間が過ぎたのだろう。
ルビ:インク壺は渇いていた。
0:ちゅどおおおん!!
ルビ:今のは、爆破音…?
0:薄手のカーディガンを羽織り、扉を開け表に出ると、すでに警報用の人工精霊が現場へと向かっていた
ノヴァ:危険です!危険です!住民はその場で待機してください!
ルビ:何があったの?
ノヴァ:書架030A群が崩落しました!危険です!落盤の連鎖する恐れがあります!
ルビ:030…百科事典の棚だわ…!
ルビ:…!〈走り出す〉
ノヴァ:駄目ですルビ!危険ですよ!!
ノヴァ:ああ、行っちゃった…
ルビ:〈モノローグ〉もし、今までの書物が台無しになってしまったら?
ルビ:一日に書ける文量には限度がある…他にも書き残すモノが残っているのに!
0:書架030A群にたどり着くと、木製の棚は石灰質の瓦礫に押しつぶされていた
ルビ:ひどい…何があったの…?
アイオリス:たす、けて…
ルビ:っ!どなたですか…?
アイオリス:ごめ、なさい…たすけて…
ルビ:しっかりして下さい!今引っ張り出します!
アイオリス:〈うめき声〉う、ああああ!!
0:ブチブチブチッ…!!
ルビ:ごめんなさい…!あなたの脚が…!わたし、そんなつもりじゃ…!
0:挟まったアイオリスの左脚が引きちぎれ、瓦礫に置き去りにされる
アイオリス:あ、ああ、あ…〈気絶〉
0:激しい痛みの中で、アイオリスはゆっくりと意識を失った
0:
アイオリス:〈モノローグ〉気がつくと僕は、ベッドの上で横たわっていた。
アイオリス:左足は宙吊りにされて、ズキズキと痛む。
アイオリス:まって!?脚が、ある!!ああ、よかった…
アイオリス:辺りを見渡すと、部屋全体が薄暗く、ロウソクの灯りで大小二つの影が揺れていた。
ノヴァ:まったくう!私が駆けつけなければ、どうやって助けたと言うんですかあ!!
ルビ:ノヴァ。本当に助かったよ…
ノヴァ:貴女はいつもそうです!生きるのが下手くそなのに!本のこととなると見境がないんだから!
ルビ:うう…ご、ごめんね…
ノヴァ:本当ですよ!とれた脚だって糊でくっつくワケじゃないんですからね!
アイオリス:あ、あの…
ルビ:あ、気がついたんですね、よかった。
ノヴァ:動いちゃダメですよ!単なる応急処置ですから!
0:起きかけたアイオリスは、再び枕に頭をつけた。
アイオリス:まずは助けてくれてありがとう…そして、ここはどこですか?
ルビ:王国の地下書庫です。この部屋は私の仕事部屋です…
アイオリス:まさか洞窟の奥に人がいたなんて…
アイオリス:先ほど爆破したのは僕です
ルビ:そう、でしたか…
アイオリス:ごめんなさい!いってて…
ノヴァ:動かないで下さいってば!ね、ルビ。ひとまず許してあげましょ。
ノヴァ:罰はこの通り受けてるわけですし…
0:アイオリスの傷は深く、薬が切れてしまえばまた激痛が彼を襲うだろう
ルビ:罰とか、許すとか、そういう問題じゃないです…
ノヴァ:ルビ…
アイオリス:あの…政府に連絡できますか?この事を報告しないと。
ルビ:…政府、ですか?
アイオリス:はい。…そうだ!2人!僕の他に、あと2人いませんでしたかっ?
ルビ:いえ、瓦礫に挟まっていたのはあなただけでしたけど…
ノヴァ:もしかしたら2人とも生き埋めになっているかもしれませんね。
アイオリス:そんな…ドーリア、イオニア…
ルビ:っ…大丈夫ですよ…きっと、誰かが先に助け出したでしょう…
アイオリス:は、そっか、よかった…
ノヴァ:どうですかね。この地下書庫で人を助けようだなんてお人好しは
ノヴァ:ルビ、貴女くらいのモノでしょう。
0:ゴゴゴゴゴ…!!
アイオリス:〈N〉突然、部屋が大きく揺れ始めた
ルビ:まって!燭台が!!
アイオリス:〈N〉落下した衝撃で燭台は激しい音を鳴らし、ロウソクの火が消える
アイオリス:〈N〉部屋が暗闇に包まれると、いつの間にか揺れは収まった
アイオリス:〈N〉あとにはただ、煙の匂いが漂っている
ルビ:また誰かが爆破したのかしら…
ノヴァ:いいえ、この揺れは深層からです。いま仲間と交信します!
アイオリス:〈N〉暗闇の中で、ノヴァの瞳がチカチカ光る
アイオリス:〈モノローグ〉交信中?電話線も無しにどうやって…
ルビ:んしょ、うんしょ…
アイオリス:何をしてるの?
ルビ:脱出、準備です…念のため。
アイオリス:脱出、て…?
0:ズゴゴゴゴ!!
アイオリス:また地震!?どんどん大きくなってるぞ!!
ノヴァ:暗号を受信!震源は”ワーム・スケルター”と断定。対象は地上に向かって上昇中…
ノヴァ:座標を特定…まさか…!
ノヴァ:この部屋の真下です!!
アイオリス:ええっ!?この部屋て!!
ノヴァ:動いてください!早く!!
アイオリス:嘘!?いたたた!
ノヴァ:脚に命は替えられませんよ!!
ルビ:肩を貸します!掴まって、アイオリス…!
アイオリス:…うん!
ルビ:うひゃあ!
0:ルビに掴まって立ち上がろうとしたら、ルビの方が倒れてきた
アイオリス:ええ!?ちょっと、体幹よわッ!
ルビ:すみません…普段全く運動してないモノですから…
ノヴァ:もう2人とも何してるんですか!!投げますよ!
ルビ:きゃあ!
0:2人の体がひょいと宙に上がると、
ノヴァ:えーい!!
0:たちまちドアの外へと放り出された。
アイオリス:いてて…
ルビ:っ!ノヴァ、早くこっちへ!
ノヴァ:〈覚悟を決める〉
ノヴァ:…救難信号を発信しました。あとは”ほかの私”を頼って下さい。
ノヴァ:〈笑顔〉まったく、わたしが居なかったら死んでましたよ?
ノヴァ:あなた達は。
ルビ:ノヴァ!!
アイオリス:〈モノローグ〉次の瞬間、巨大な虫の腹が、部屋の床下から天井へと突き抜ける。
アイオリス:虫の掘り進むスピードはすさまじく、長い長い胴が過ぎ去るまで、絶えず強風が吹き荒れた。
アイオリス:ルビの部屋はドアだけを残して、もぬけの殻となった。
アイオリス:今の僕は、何を見ている?
アイオリス:状況が現実のものとして、全く飲み込めない…
ルビ:そんな…ノヴァ…
アイオリス:ルビ…
0:呆然としながら、空っぽの部屋を見つめるルビ
ルビ:いつからでしょうか…私の部屋も安全じゃないって…分かっていたはずなのに…
ルビ:怖い…この世界が怖いです…
アイオリス:〈モノローグ〉かける言葉が見つからない。
アイオリス:これは僕のせいなのか…?
アイオリス:イオニアやドーリアは無事なのか。
ルビ:なんで…どうしてこんな目に…
アイオリス:っ!ごめんルビ…ごめんね…
0:ノヴァを失った小さな二人は
0:冷たい書庫の廊下に投げ出され、そのままひしと抱き合って泣いた。
0:
0:ー続くー
0:じりじりと、ロウソクの芯が焦げる音の他には、紙面を走る羽ペンの音だけが聞こえる。
ルビ:少しずつ、言葉を思い出しながら紡いでゆく。
ルビ:ああ、そうだ。ここだ。私はこの一節に惹かれたのだ。
ルビ:よかった。まだ、覚えてて…
ルビ:私の大好きな物語は、今となってはもう私の頭の中にしか存在しない。
ルビ:”12月の焚書”は全てを焼いてしまった。
ルビ:小説、歴史書、紀行文。古き神々の伝説さえも。
ルビ:先人たちの想い。私の宝物。
ルビ:忘れてなるものか。全てを書き残し、次の世界に伝えるまでは。
ノヴァ:〈タイトルコール〉『アンダー・インク・コリダー第1場”巨大な地下空間”』
0:暗い洞窟を三人の若者が探索している。
イオニア:冷たっ!今なんか濡れたぞ!?
アイオリス:平気だよ、ただの水さ。
ドーリア:ここは溶食洞だからね。近くに水脈があるんだろう
アイオリス:洋食堂…お腹空いたなあ
イオニア:2人とも、本当に付き合ってくれてありがとう
アイオリス:気にするなよ。幼い頃から”三つ山(みっつやま)”で遊んだ仲じゃないか
イオニア:ありがとう、アイオリス
ドーリア:今では二つは禿げ上がって、残る一つは坑道でスカスカだけどね
アイオリス:文明の犠牲とはいえ、ひどい話だよ。
イオニア:ああ。緑を愛していた総統閣下のことを思うと、本当に心が痛むよ。
ドーリア:おかげで、俺は儲けさせてもらったがな。重工業が発展すれば、政府も潤う。閣下も許してくれるさ。
アイオリス:なあ、今回の探索は閣下直々のお願いなんだろ?どうして秘密裏に進める必要があるのさ。
アイオリス:なあどうしてさ、イオニア・ロザリオブルク大公殿っ!
イオニア:大公殿は止してくれよ、アイオリス。
ドーリア:国境付近だからだよ、アイオリス。
ドーリア:もし”巨大な地下空間”が本当に存在するのなら、戦略的価値は十分にある。
ドーリア:なんせ地上からは何が建設されようが観測できないわけだからね。
アイオリス:戦争…戦争か。戦争をするのか?僕たちの国は
イオニア:そうならないために僕がいる。こんな所で失踪するわけにはいかない。
ドーリア:俺も。まだまだ儲けさせてもらうからね。
イオニア:なあ。アイオリス、君はまだ詩を書いているの?
アイオリス:え?ああ…詩ね。そんなの、とっくにやめちゃったよ。
アイオリス:…文字なんて帳簿と契約書を書ければ十分ってね!
ドーリア:同感だね。
イオニア:そうか…
0:アイオリスは、白い石灰質に似た岩肌を撫でながら首をひねる
アイオリス:おっかしーなー!?
0:アイオリスの声が洞窟に木霊する
ドーリア:大声を出すなアイオリス。耳に響く
イオニア:反響…事前調査をした時は、こんなに狭い洞窟じゃないと思っていたが…
ドーリア:こんなもんだろ。いつだってロマンを砕くのが現実さ。
アイオリス:あれ?割れ目がある。活断層じゃないよね?ここ
0:ピッケルの腹で、割れ目を叩くアイオリス
0:コーン…コーン…
イオニア:反響してるぞ…!
ドーリア:ははあ。なるほどな
アイオリス:〈キラキラ目〉割れ目の先に洞窟は続いている…
ドーリア:そうと分かれば、よいしょっと。
0:三人は背嚢から取り出した爆薬の包装に雷管をねじ込み、ペンチで導火線を固定する
アイオリス:2人とも準備はいい?
イオニア:いいよ。
ドーリア:爆薬セット完了した。
アイオリス:OK!2人とも離れてね。
アイオリス:現実を打ち砕くのもまた
アイオリス:ロマンッ!!〈カチッ〉
0:ちゅどおおおん!!
ドーリア:これが文明の力。もはや恐れるものは何もないな。
0:ズゴゴゴ…
イオニア:なんだ?この音は…
0:洞窟全体が揺れ始め、天井からパラパラと粉が降る
ドーリア:まさか、落盤する…?
アイオリス:うそだ!?生き埋めはイヤだ~ッ!
0:一方、地下のとある部屋ではロウソクの灯りを頼りに、ルビが写本作業をしていた。
ルビ:〈モノローグ〉気がつけば、ガチョウの羽をインクに浸したはずなのに
ルビ:紙に墨がのらなくなってしまった。
ルビ:どれほどの時間が過ぎたのだろう。
ルビ:インク壺は渇いていた。
0:ちゅどおおおん!!
ルビ:今のは、爆破音…?
0:薄手のカーディガンを羽織り、扉を開け表に出ると、すでに警報用の人工精霊が現場へと向かっていた
ノヴァ:危険です!危険です!住民はその場で待機してください!
ルビ:何があったの?
ノヴァ:書架030A群が崩落しました!危険です!落盤の連鎖する恐れがあります!
ルビ:030…百科事典の棚だわ…!
ルビ:…!〈走り出す〉
ノヴァ:駄目ですルビ!危険ですよ!!
ノヴァ:ああ、行っちゃった…
ルビ:〈モノローグ〉もし、今までの書物が台無しになってしまったら?
ルビ:一日に書ける文量には限度がある…他にも書き残すモノが残っているのに!
0:書架030A群にたどり着くと、木製の棚は石灰質の瓦礫に押しつぶされていた
ルビ:ひどい…何があったの…?
アイオリス:たす、けて…
ルビ:っ!どなたですか…?
アイオリス:ごめ、なさい…たすけて…
ルビ:しっかりして下さい!今引っ張り出します!
アイオリス:〈うめき声〉う、ああああ!!
0:ブチブチブチッ…!!
ルビ:ごめんなさい…!あなたの脚が…!わたし、そんなつもりじゃ…!
0:挟まったアイオリスの左脚が引きちぎれ、瓦礫に置き去りにされる
アイオリス:あ、ああ、あ…〈気絶〉
0:激しい痛みの中で、アイオリスはゆっくりと意識を失った
0:
アイオリス:〈モノローグ〉気がつくと僕は、ベッドの上で横たわっていた。
アイオリス:左足は宙吊りにされて、ズキズキと痛む。
アイオリス:まって!?脚が、ある!!ああ、よかった…
アイオリス:辺りを見渡すと、部屋全体が薄暗く、ロウソクの灯りで大小二つの影が揺れていた。
ノヴァ:まったくう!私が駆けつけなければ、どうやって助けたと言うんですかあ!!
ルビ:ノヴァ。本当に助かったよ…
ノヴァ:貴女はいつもそうです!生きるのが下手くそなのに!本のこととなると見境がないんだから!
ルビ:うう…ご、ごめんね…
ノヴァ:本当ですよ!とれた脚だって糊でくっつくワケじゃないんですからね!
アイオリス:あ、あの…
ルビ:あ、気がついたんですね、よかった。
ノヴァ:動いちゃダメですよ!単なる応急処置ですから!
0:起きかけたアイオリスは、再び枕に頭をつけた。
アイオリス:まずは助けてくれてありがとう…そして、ここはどこですか?
ルビ:王国の地下書庫です。この部屋は私の仕事部屋です…
アイオリス:まさか洞窟の奥に人がいたなんて…
アイオリス:先ほど爆破したのは僕です
ルビ:そう、でしたか…
アイオリス:ごめんなさい!いってて…
ノヴァ:動かないで下さいってば!ね、ルビ。ひとまず許してあげましょ。
ノヴァ:罰はこの通り受けてるわけですし…
0:アイオリスの傷は深く、薬が切れてしまえばまた激痛が彼を襲うだろう
ルビ:罰とか、許すとか、そういう問題じゃないです…
ノヴァ:ルビ…
アイオリス:あの…政府に連絡できますか?この事を報告しないと。
ルビ:…政府、ですか?
アイオリス:はい。…そうだ!2人!僕の他に、あと2人いませんでしたかっ?
ルビ:いえ、瓦礫に挟まっていたのはあなただけでしたけど…
ノヴァ:もしかしたら2人とも生き埋めになっているかもしれませんね。
アイオリス:そんな…ドーリア、イオニア…
ルビ:っ…大丈夫ですよ…きっと、誰かが先に助け出したでしょう…
アイオリス:は、そっか、よかった…
ノヴァ:どうですかね。この地下書庫で人を助けようだなんてお人好しは
ノヴァ:ルビ、貴女くらいのモノでしょう。
0:ゴゴゴゴゴ…!!
アイオリス:〈N〉突然、部屋が大きく揺れ始めた
ルビ:まって!燭台が!!
アイオリス:〈N〉落下した衝撃で燭台は激しい音を鳴らし、ロウソクの火が消える
アイオリス:〈N〉部屋が暗闇に包まれると、いつの間にか揺れは収まった
アイオリス:〈N〉あとにはただ、煙の匂いが漂っている
ルビ:また誰かが爆破したのかしら…
ノヴァ:いいえ、この揺れは深層からです。いま仲間と交信します!
アイオリス:〈N〉暗闇の中で、ノヴァの瞳がチカチカ光る
アイオリス:〈モノローグ〉交信中?電話線も無しにどうやって…
ルビ:んしょ、うんしょ…
アイオリス:何をしてるの?
ルビ:脱出、準備です…念のため。
アイオリス:脱出、て…?
0:ズゴゴゴゴ!!
アイオリス:また地震!?どんどん大きくなってるぞ!!
ノヴァ:暗号を受信!震源は”ワーム・スケルター”と断定。対象は地上に向かって上昇中…
ノヴァ:座標を特定…まさか…!
ノヴァ:この部屋の真下です!!
アイオリス:ええっ!?この部屋て!!
ノヴァ:動いてください!早く!!
アイオリス:嘘!?いたたた!
ノヴァ:脚に命は替えられませんよ!!
ルビ:肩を貸します!掴まって、アイオリス…!
アイオリス:…うん!
ルビ:うひゃあ!
0:ルビに掴まって立ち上がろうとしたら、ルビの方が倒れてきた
アイオリス:ええ!?ちょっと、体幹よわッ!
ルビ:すみません…普段全く運動してないモノですから…
ノヴァ:もう2人とも何してるんですか!!投げますよ!
ルビ:きゃあ!
0:2人の体がひょいと宙に上がると、
ノヴァ:えーい!!
0:たちまちドアの外へと放り出された。
アイオリス:いてて…
ルビ:っ!ノヴァ、早くこっちへ!
ノヴァ:〈覚悟を決める〉
ノヴァ:…救難信号を発信しました。あとは”ほかの私”を頼って下さい。
ノヴァ:〈笑顔〉まったく、わたしが居なかったら死んでましたよ?
ノヴァ:あなた達は。
ルビ:ノヴァ!!
アイオリス:〈モノローグ〉次の瞬間、巨大な虫の腹が、部屋の床下から天井へと突き抜ける。
アイオリス:虫の掘り進むスピードはすさまじく、長い長い胴が過ぎ去るまで、絶えず強風が吹き荒れた。
アイオリス:ルビの部屋はドアだけを残して、もぬけの殻となった。
アイオリス:今の僕は、何を見ている?
アイオリス:状況が現実のものとして、全く飲み込めない…
ルビ:そんな…ノヴァ…
アイオリス:ルビ…
0:呆然としながら、空っぽの部屋を見つめるルビ
ルビ:いつからでしょうか…私の部屋も安全じゃないって…分かっていたはずなのに…
ルビ:怖い…この世界が怖いです…
アイオリス:〈モノローグ〉かける言葉が見つからない。
アイオリス:これは僕のせいなのか…?
アイオリス:イオニアやドーリアは無事なのか。
ルビ:なんで…どうしてこんな目に…
アイオリス:っ!ごめんルビ…ごめんね…
0:ノヴァを失った小さな二人は
0:冷たい書庫の廊下に投げ出され、そのままひしと抱き合って泣いた。
0:
0:ー続くー