台本概要
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タイトル | † Spookshow Baby † |
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作者名 | やいねん (@oqrbr5gaaul8wf8) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 7人用台本(男4、女2、不問1) ※兼役あり |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
† スプークショウベイビー† 季節はハロウィーン。 本業である警備員の仕事でヘマをし、謹慎をくらっている身でありながら、酒を毎日飲んでは二日酔いを繰り返しているだらしない男、イノ・カハナモク。 ひょんなことから喫茶店のウェイトレス、ベロニカに頼まれ、収穫祭の出店に向け手伝わされるハメになる。 その会場でイノとベロニカは、この世のモノでは無い何かと遭遇し、恐怖の渦に飲み込まれてゆく。 奇妙奇天烈摩訶不思議なアメリカンホラーをモチーフに描いた奇想天外なSFアクション活劇。 ※他作品と世界観を共有している番外編 用語説明 カウルーンセキュリティ⇒舞台となっているこの街の治安維持を担う警備会社。 ドミニオン⇒かつて極秘に作られた兵器 アッシュヅアッシュ⇒テロ組織の名称 モールマゴッツ⇒ロバートの身体に突然変異的に適合した生物兵器。 オルドキマダッド⇒エルジェベートに発現した現象。緩に小規模な亜空間を生み出し空間を超越する。 281 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
イノ | 男 | 131 | 豪州系、三十代半ば。カウルーンセキュリティ所属のお巡りさん。謹慎中。かつて存在していた機密組織『メタファイヴ』に所属していた。『ドミニオン』と言う装置を使い銃を瞬時に生み出す事が出来る。 |
ベロニカ | 女 | 101 | 東欧系、20代後半。喫茶『TAT』のウェイトレス。ですます口調。収穫祭に出店するため、イノにお手伝いをしてもらう。 |
ロバート | 男 | 122 | 二百年弱、この世を彷徨う不老不死の男。とある目的を果たすため、生き続けている。見た目、北米系、四十代後半。 |
エルジェベート | 女 | 72 | ロバートの手により約五百年の時を経て蘇生された侯爵夫人。ロバートをいたく慕っている。見た目、東欧系、三十代後半。 |
クラウス | 男 | 45 | テロ組織『アッシュヅアッシュ』の自我を持った人工知能。元は家庭用アンドロイドの試作品。意思をもってテロ活動に従事している。台詞の節々に生産国の言葉が出てしまう。 |
警備員 | 男 | 7 | 犯罪者専用の集団墓地の警備を担当している。※台詞が少ないため、兼役推奨(クラウス) |
子供 | 不問 | 4 | 収穫祭に訪れた子供。※台詞が少ないため、兼役推奨(エルジェベート) |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:とある夜、収穫祭が行われる会場の特設ステージにて。
0:賑やかしく混雑する人々の注目を集める男が一人、ステージの上に立っている。
0:男はなにやら童謡らしき唄を口ずさみ始める。
ロバート:「ばあさんに言っといで、ばあさんに言っといで。年老いたガチョウが死んじゃった。」
ロバート:「ばあさんに言っといで、ばあさんに言っといで。腹を空かせたガチョウが死んじゃった。」
ロバート:「ばあさんに言っといで、ばあさんに言っといで。灰色のガチョウが、死んじゃった……。」
ロバート:「さぁさぁこちらへおいでませ、死臭漂うガチョウ達……。思う存分に喰らい尽くすせ!前代未聞摩訶不思議、スプークショウの始まりだぁ!はーっはっはっは!」
0:
0:時は遡り、収穫祭の始まる数時間前。昼過ぎ頃、スラム街にあるビルディングの一室で目覚める男がいた。
イノ:「……ハックション!うぅ……随分と肌寒くなったもんだなぁ。もうそんな時期かよ。窓開けっ放しで寝ちまったぜ、まったく。」
イノ:「さ~迎え酒、迎え酒っと……っんだよ、飲み切ってやがるぜ。はぁ……買い出しに行かねぇと…。」
イノ:「面倒くせぇなぁ、チキショウ……。」
0:部屋を後にするイノ。その頃、商店の建ち並ぶ通りでは、リアカーでとんでもない量の荷物を運ぶ女の姿がある。
ベロニカ:「うううぅ~……どうして毎年こんな無茶な買い出しさせるんです、うちのマスターは!末代まで恨んでやるですぅ……」
0:すると前方から買い出しへ向かう途中のイノを目撃するベロニカ。
ベロニカ:「……あら?もしや、あのお方は!助かったですー!もしー!そこの殿方ー!」
イノ:「ん?……うわぁ、またあのガキかよ。」
ベロニカ:「奇遇ですねぇお兄さん!ごきげんようです!」
イノ:「全然良くねえよ、馬鹿。会うたびにデケェ声で引き止めやがって……こちとら二日酔いで最悪なんだよ。」
ベロニカ:「いつも二日酔いですね!深酒は身体に毒ですよ!」
イノ:「大きなお世話だ。……にしても、これまた随分な量の買い物してんのな。」
ベロニカ:「そーでしょう!?堪ったもんじゃないです、マジで!」
イノ:「てか、殆どカボチャじゃねぇか。」
ベロニカ:「そーなんです!今夜行われる収穫祭の出し物で使うんです!ターキーもあるんです!ほら!」
イノ:「あっそう。」
ベロニカ:「……興味ゼロですか。」
イノ:「収穫祭なんて俺が行くようなところじゃないしな。」
ベロニカ:「そうっすか……。いやぁ~、疲れちゃったなぁですぅ、チラ?ハア、ハア、もう動けないですぅ、チラチラ?」
イノ:「よく一人で運べたなー、スゴいスゴーい。」
ベロニカ:「力仕事だけは大得意なんです!フンスっ!」
イノ:「んじゃ、心配なさそうだな。」
0:立ち去ろうとするイノ
ベロニカ:「ああ、ちょっとぉ!いたいけな乙女が立ち往生しているのに、助けようとは思わないんです!?薄情ですね!」
イノ:「いま自分で言ったろ、『力仕事だけは大得意』だって。」
ベロニカ:「ぐぬぬぬぅ、しょうがないですね……。もし手伝ってくれたら……」
イノ:「手伝うわけないだろ。そんな暇ねぇっつーの。」
ベロニカ:「マスターに内緒でビールご馳走するです。」
イノ:「おいおい、まさかこの俺様を酒で釣ろうだなんて……」
ベロニカ:「収穫祭まで込み込みのお手伝いなら!なんと!タダで飲み放題です!」
イノ:「よぉし、このイノ様に任せろ!」
ベロニカ:「うへへへ、毎度ありぃ!」
0:
0:
0:『Asche zu Asche(アッシュ・ヅ・アッシュ)』本部。全面電子基盤で出来た広間。
0:壁からむき出した無数の配線に繋がれ、うわ言を呟いているクラウスの元にロバートが現れる。
クラウス:「リンクス、ツォー、ドライ、フィーア……リンクス、ツォー、ドライ、フィーア……」
ロバート:「おい。」
クラウス:「リンクス……ヴンダバー!これはこれは、ようやくお越し下さいましたか。ロバート様。」
ロバート:「ここが『アッシュ・ヅ・アッシュ』で間違いないか?……知らせを寄越したのはお前さんだな。俺の事を知ってる奴がこの世にまだ居たとは、驚きだぜ。」
クラウス:「長旅でお疲れでしょう。ささ、そちらにお掛けになって紅茶でも……」
ロバート:「御託は無しだ、さっさと教えろ。」
クラウス:「ヴァルテ……そう焦らないで下さい。あくまでも取引なのですよ?これは。」
ロバート:「なんだと?」
クラウス:「無償と言うわけにはいきませんので。お分かりいただけますか?」
ロバート:「おいおい……聞き間違えか?遥々出向いたってのに、この待遇の悪さ。俺は行儀が良い方じゃねぇんだ。無理矢理にでも聞き出すぞ?」
クラウス:「これはこれは、なまじ人間かのような振る舞い。『血の気』が多いですね。」
ロバート:「フハハ、愚弄しやがって。良いぜ、遊んでやるよ……。」
0:ロバートはそう言うと、裾の間から黒ずんだ粘液を樹形の様に地面に這わせクラウスまで延ばす。
クラウス:「ウップス!その力、やはり……っ!?」
0:粘液は瞬く間にクラウスの足元から身体全体を侵食し、動きを封じてしまう。
ロバート:「よぅし、捕らえたぞ。どうした、動いてみろ。動けるものならな。」
クラウス:「……ホッホッホ、身体から放出した粘液を私に纏わせ動きを封じるとは。これが『モールドマゴッツ』……力は本物の様ですね。」
ロバート:「アンタ、何でも知ってるんだな。じゃあこの後、お前がどうなるかって事も解るよな……。」
0:クラウスに纏わり付いた粘液が収縮し、めきめきと音を立てて締め付け始める。
クラウス:「グッ……締め潰すおつもりですか。これはいけませんね…。私を破壊してしまっては、『お子様の再誕』は叶わぬ事に……」
ロバート:「俺を舐めるなよ。何百年、何千年を経ようとも必ず成し遂げてみせる。喋れる内に喋った方が身のためだぞ?」
クラウス:「常識が通用しないとは、全く度し難い方ですね……。」
0:捕らわれたクラウスの身体が細かい金字形に分散し、姿形を崩し霧散してゆく。
ロバート:「ん?自分で身体を粉々に……ちっ、逃したか。」
クラウス:「いやはや、争うつもりなど毛頭無いのですが……。」
ロバート:「っ?!」
0:ロバートの背後にクラウスの姿が現れる。
クラウス:「お分かりいただけましたか?」
ロバート:「背後を取られていたとは……。ここ数百年で随分と奇っ怪な技術が生まれたものだな。まるで、常識が通用しない。」
クラウス:「お互い様ですね。ということで、ここは非常識な者同士、取引ではなく『助け合い』と言う形で一つ手を打っていただけませんか?貴方の力が必要なのです。」
ロバート:「……仕方がない。話しは聞いてやる。」
クラウス:「ゴウツ……話が早くて助かります。」
0:古びたロケットペンダントを見つめるロバート。そこには子供の写真が収められている。
ロバート:「なぁシェリ……もう少しだからな。待っててくれ。」
0:
0:
0:収穫祭会場。準備に取り掛かる二人
イノ:「……えっとぉ、こういう感じか?」
ベロニカ:「全然違うです!不器用通り越して無能ですね!」
イノ:「え~?そんなに悪いかなぁ、これ。」
ベロニカ:「酒飲みは眼ン玉が節穴なんですか!?これのどこが顔になってるんです!どこが目でどこが口なんですぅ!?」
イノ:「てか、そもそも酔っ払いにこんな細けぇ作業させんじゃねえっての。」
ベロニカ:「働かざる者飲むべからずです!こんなブッサイクなカボチャじゃあ並べられないですよ……」
0:ビールをぐびぐび飲むイノ。
イノ:「(飲酒)」
ベロニカ:「ってぇ、なぁにグビグビ飲んでるんです!バカ吞気ですね!」
イノ:「ふー、うんめぇ~。やっぱビールは女と違って裏切らねぇぜ。」
ベロニカ:「酔っ払いが女性を語るなです!」
0:辺りを見渡すイノ。様々な仮装に身を包む参列者を眺めている。
イノ:「しかしまあ、どいつもこいつも変な格好しやがって、暇な奴らが居たもんだ。」
ベロニカ:「知らないんですか?ああやってお化けやモンスターの仮装をすることで、不吉な悪霊を退けてるんです。」
イノ:「なんだよ、オカルトかよ。そんなんとっくに卒業したぜ。くっだらね~。」
ベロニカ:「オカルトなんかじゃないです!霊の存在は科学的に否定されてないんです!」
イノ:「そういうの『悪魔の証明』っていうんだよ。ないモノをどうやって証明すんだよ、馬鹿。」
ベロニカ:「居るったらいるんです!」
イノ:「居ないね。絶対にいない。」
ベロニカ:「ろくにカボチャもくりぬけない人間が何を偉そうにです!」
イノ:「おいおい、それとこれとは関係ねぇだろ!」
0:魔女の仮装をした子供がイノに話しかける。
子供:「おじさん!」
イノ:「うわ!んだよ、いま取り込み中だっての!」
子供:「トリックオアトリート!」
イノ:「あん?なんだお前。」
ベロニカ:「ハッピーハロウィーン!はいコレあげるね!」
子供:「ん、なにこれ?お菓子じゃないよ?」
ベロニカ:「カボチャのパニツァだよ!ほら、食べてみな!」
子供:「モグモグ……っ!甘くて美味しい!ありがとうお姉ちゃん!」
イノ:「……」
0:立ち去る子供を見送るベロニカ。呆然とするイノ。
ベロニカ:「悪いお化けには気を付けるんだよー!……ふふ、ひょっとして、ちびっ子苦手です?」
イノ:「……あ、いや。普通に喋れるのな、お前。」
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0:交渉中のクラウスとロバート。
0:
ロバート:「……死体を掘り起こすだと?」
クラウス:「さようでございます。『グレイブローバー』と謳われる貴方であれば見つけ出すことは容易いはず。」
ロバート:「ふん、嫌な呼び方をするものだ。まあいい、連れてきてやる。」
クラウス:「必ずや、お願いいたしますよ。」
ロバート:「それよりも、だ。アンタのその情報、確証はあるんだろうな?」
クラウス:「ナテュアリヒ!彼女の遺伝子適合率は90パーセントを超えており、貴方の望む『母胎』としての役割を果す事が可能でしょう。最早、受胎は告知されたようなものです。」
ロバート:「もし、誤った情報だとしたら……。」
クラウス:「『スプークショウの餌食』……ですね。存じておりますとも。」
ロバート:「フハハ、説明するまでもないか。」
0:二度、手を叩くロバート
ロバート:「出てこい、エルジェベート!」
クラウス:「むむ?この影は一体……」
0:どこからともなく無数のカビの胞子が集まり黒い影の塊を作る。中から人の形をした者が現れる。
エルジェベート:「……はい、ロバート様。」
クラウス:「おや、何処からともなく現ましたね。そちらは……ウップス!そんな御方まで使役なさっていたとは!」
ロバート:「仕事の時間だ。派手にカマしてやろうじゃねぇか。」
エルジェベート:「ロバート様のご用命とあらば、なんなりと。」
クラウス:「ホッホッホ、ではお願いしますね。ロバート・M・リビンデッド様。」
0:
0:その頃、収穫祭にて。あくせく働くベロニカの姿。それを眺めるだけのイノ。
ベロニカ:「はいはーい!毎度ありです!そっちのお客さんは?ターキーレッグ?すんませんですー、丁度売り切れちゃって!店舗のほうならまだ残ってるですので是非是非!今後とも『TAT』御贔屓に!はーい次のお客さん、どーぞー!」
イノ:「スゲー客捌きだなぁ。ぼちぼち完売すんじゃねぇか、これ」
ベロニカ:「ちょっと!なにビール片手にボーっとしてるんですか!?能無しはフライドポテトでも売り歩いてくるです!」
イノ:「えっ、俺がっ!?」
ベロニカ:「そうです!お前がです!」
イノ:「忙しいと口悪くなるタイプか!ったく、わかったよクソが!」
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0:収穫祭会場より少し離れ所にある犯罪者専用の集団墓地。厳重に警備されている。そこに黒く蠢く闇が漂い、その中から姿を現すロバートとエルジェベート。
エルジェベート:「ロバート様、墓地へ到着致しました。」
ロバート:「ああ、そのようだな。まさか空間を超越出来るとは。『オルドキマダット』の能力は計り知れないな。」
エルジェベート:「これも全てロバート様のお力があっての事。……あら、なにやら近くの広場にて催しが執り行われておりますが……。」
ロバート:「なに、気にすることはない。手筈通りやるだけだ。頼んだぞ、エルジェベート」
エルジェベート:「はい。お任せ下さいませ、ロバート様。」
ロバート:「……しかし妙な連中だ。死者を蘇らせるのではなく、ただ回収しろだと。」
エルジェベート:「ロバート様の手に掛かれば造作もないと言うのに、愚かですわね。」
ロバート:「何が目的かは知らないが、こちらは『母胎』さえ手に入れば他はどうでもいい。どうだ、辿れたか?」
エルジェベート:「ええ、間も無く……あらあら、なんと言うことでしょう。」
ロバート:「どうしたんだ。」
エルジェベート:「私めの胞子が辿り着いたのは、あの広場ですわ。」
ロバート:「間違いないのか。」
エルジェベート:「もちろんですわ。まさか、こんなにも近くに『母胎』があるだなんて。」
ロバート:「巡り合わせと言うことか……よくやったぞ、エルジェベート。」
エルジェベート:「いえいえ、そんなそんな。き、恐縮ですわ……。」
エルジェベート:(M)「愛しのロバート様からお褒めの言葉を頂けるなんて……キャー!マジヤバイですわぁ!今日のロバート様も相変わらずイケオジ過ぎて、尊死してしまいそう……ヴっ!?」
エルジェベート:「ゲホォっ!」
ロバート:「……また吐血か、エルジェベート。厄介なものだな、その呪いは。」
エルジェベート:「た、大したことないですわ……悪魔との契約など遥か昔の事……今やこれぐらい、どうってことは……。」
ロバート:「そうか……あまり無理をするな。」
エルジェベート:「ロバート様……」
エルジェベート:(М)「はぁ~!なんとお優しいお方なのでしょうか、ロバート様!こんな私めの事をお気遣いくださるなんて……尊い……尊すぎますわぁ!……ヴっ!?」
エルジェベート:「ゲホォっ!」
ロバート:「今日は一段と酷いな……。」
エルジェベート:「お、お気になさらず……。」
ロバート:「まずは遺体の回収からだ。行くぞ。」
0:
0:アジトにてロバートの動向を監察する中、同時に自らに付着したロバートの細胞を解析し過去を読み取っている。
クラウス:「ロバート・M・リビンデッド……なんと醜く、悲しい方なのでしょうか。失った我が子の為に百年以上をも彷徨い続けるなんて。
クラウス:かつて一世を風靡した見世物小屋『マーダーライドショー』の座長をお務めになられたお方。興業で財を成していた傍ら、奥様が最後に遺された一人娘に御執心のようで。しかし、母親の遺伝か運命のイタズラか、その一人娘も難病を患い、ご自身も気を病んでおられたようですね。
ロバート:『どうしてなんだ!あんた医者なんだろ!?金ならある!娘を、シェリを治してくれ!頼む、この通りだ!』
クラウス:当時の未発達な医療技術では手の施しようがないほどの難病。それでも諦めなかったのですね、ロバート様は。
ロバート:『……シェリ、心配するな。お父さんが必ず治してやる。約束だ。だってお父さんは、お前のヒーローなんだなら。』
クラウス:しかし看病の甲斐も虚しく、娘様は息を引き取った、と。それも、興業の最中に。最後を看取ることが出来なかったとは、なんとも嘆かわしい。
ロバート:『シェリ……シェリ!ごめんなシェリ……お別れも言えなくて。……最後まで一緒に居てやれなくて。』
クラウス:それ以来、廃人同然になったロバート様。見世物小屋も時代の流れに淘汰されて行き、世界はロバート様を置き去りにしました。でも独りではなかったようです。
ロバート:『シェリ……そっちはどんな世界だ?母さんと元気で暮らしてるか?俺もすぐにそっちに行くからな……。』
クラウス:妄想に耽って束の間の幸福を得ていたのですね。そこで彼に転機と言う名の悲劇が訪れることになるのですか……実に興味深い。」
0:
0:犯罪者専用集団墓地、警備室。警備員がモニターで監視している。
0:
警備員:「(あくび)……外ではお祭り騒ぎってのに、こちとら夜勤だっつーの。死んだ囚人の監視で大忙し大忙し……ん?なんだ、この黒い影。このモニター、S級の仏さんが収容してあるフロアだな。……おいおいマジかよ!コイツら何処から湧いて出やがった!
警備員:緊急事態発生!侵入者が二人、S級フロアに現れた!どうやって入ったかって!?知らねえよ!オバケみたいに出てきたんだよ!ハロウィンだってのに、縁起でもねぇぜ!」
0:警報が響きわたる
エルジェベート:「あら?あっという間に気付かれてしまいましたわ。」
ロバート:「現代では監視カメラなるモノで遠隔から様子を伺うらしい。」
エルジェベート:「それはそれは、なんて窮屈なのでしょうか。おちおち悪事も働けないなんて。」
ロバート:「それが時代の潮流だ。お前が昔にやっていた様な事はすぐに暴かれる。」
エルジェベート:「そうであるなら、私めは格好の時代を謳歌していたと言うことですわね。十年ほどは平穏を保っていたのに、あのルター派の牧師さえ居なければと思うと……非常に悔やまれますわ!」
ロバート:「その辺にしておけ。仕事の時間だ。……ほら、来たぞ。」
警備員:「おい、動くな!両手を挙げろ!」
エルジェベート:「……ロバート様、あのお方は何を構えていらっしゃるのですか?」
ロバート:「拳銃だ。鉛の弾か飛んでくるぞ。」
警備員:「どうやってここに来た!ネズミ一匹も入れないと言うのに!」
エルジェベート:「貴方、なにを興奮してらっしゃるの?落ち着いて下さらない?」
警備員:「そこの女!動くなと言っただろ!次はないぞ!」
ロバート:「邪魔物は任せたぞ、エルジェベート。」
エルジェベート:「はい、ロバート様……」
0:エルジェベートの身体が黒く霧散し、胞子の様に中に舞いながら警備になびき寄る。
警備員:「え、女の姿が無くなった?……なんだこの黒い霧は!来るな、こっちに来るな!」
0:霧に向かって発砲する警備員。その真後ろにはエルジェベートが現れる。警備員の匂いを確かめるエルジェベート。
エルジェベート:「(匂いを嗅ぐ)……。貴方の血は穢れているわね。とっても不味そう。」
警備員:「うわ!どうして後ろに……ぐわっ!」
0:警備員の身体をエルジェベートの腕が貫く。
エルジェベート:「まあ生き血であるならば、この際なんでもいいのだけれど。」
0:貫いた警備員から血液を吸い取るエルジェベート。
ロバート:「形は崩すな。そいつはまだ使える。」
エルジェベート:「あら、それは失礼致しました。私めとしたことが……。」
0:警備員を投げ捨てるエルジェベート。
ロバート:「無理もない。程度は少しづつ覚えてゆけ。」
エルジェベート:「ロバート様……。」
エルジェベート:(M)『なんとお優しい!私めの失態をお許し下さるなんて!もっと貴方様の声で、身体でこの私めを躾け、蹂躙し陵辱して下さいな!もっと、もっと……ヴッ!?』
エルジェベート:「ゲホッ!」
ロバート:「無理をするな……そろそろ応援が駆け付ける。お前は遺体の確保を。残りは俺が使役する。」
エルジェベート:「ええ、ロバート様。仰せのままに。」
0:
0:収穫祭会場。人がごった返すなか、手当たり次第声を掛けまくるイノ。
0:
イノ:「っち、売り歩くたってどうすんだぁ?やったことねぇからわかんねぇっての。取り敢えず声かけてけば買ってくれるだろう。」
イノ:「おい、そこの狼みてぇな格好のバカカップル。このポテト買えよ。……え?いくらかって?じゃあ十ドルでいいよ。……はぁ?たけぇ?うるせぇ黙って買え!っておい、逃げるな!」
イノ:「……んだよあのバカップル、ムカつくなぁ。どいつもこいつも変な格好してハシャギやがって!クソ、なんにも面白くねぇぜ!」
0:そこで異様な仮装者とすれ違うイノ。
イノ:「おい、そこの鼻が曲がりそうになるほどクっセぇバカゾンビ。このポテト買えよ。」
0:動きを止める仮装者。黙りこくっている。
イノ:「……シカトこいてんじゃねぇよ!こっち向け!」
0:ゆっくり、ネチャネチャと音を立てながら振り返る仮装者。
イノ:「ん?おいお前、眼ン玉が無ぇじゃねぇか……って、うわ!手にウジ虫が!きったねぇ!」
0:慌てて後退るイノ。再び仮装者を見やると、何処にも居ない。
イノ:「あれ、どこ行った?……っけ、何も言わず行っちまいやがったぜ。……てか、腐った臭いに蛆虫、骸骨のツラ……今のって……モノホンの……ゾンビなんじゃ……」
0:
0:クラウス、さらにロバートの過去を掘り下げる
0:
クラウス:「家族を失い、仕事すら失ったロバート様は、街を徘徊していたようですね。そこに一つの焼夷弾が落ちてきた、と。当時は戦争真っ只中。彼が居た頃の街はちょうどヒノモト大帝国軍に占拠された年代。
クラウス:そこで彼は捕らえられ、生物工学に基づく臨床実験の被検体としてオモチャにされたと。
クラウス:結果として突然変異による不完全な不老不死を手に入れたようですね……非情な下級人類の野蛮な行為によって、彼は人間でなくなった。
クラウス:彼は肉体を維持する為に植え付けられた『モールドマゴッツ』の副作用によって死臭漂う生ける屍と成り果ててしまった……しかし。」
ロバート:『死者が叫んでいる。俺の役目を。数多ある果たせなかった無念の脱却を!』
クラウス:「彼は気付いてしまったようですね。自らの力で死者を蘇らせる事ことに。」
0:
0:出店で働くベロニカ。商品を売り切って一段落している。
0:
ベロニカ:「ふー!今年も完売したですー!はー疲れたですよー!ところでお兄さん遅いですね。どこでアブラ売っているのやらです……」
0:走ってくるイノ
イノ:「おーい!ガキ、聞け!」
ベロニカ:「お帰りでーす!ちゃんと全部売ってきやがったですか?」
イノ:「はぁ、はぁ、それどころじゃねぇんだよ!」
ベロニカ:「それどころですと!?このアル中めぇ!今、商売をバカにしたですね!撤回するです!」
イノ:「見たんだよ!」
ベロニカ:「何をです!」
イノ:「ゾンビだよ!」
ベロニカ:「だからなんなんです!その辺にクソほどいるですよ!」
イノ:「違う!マジモンの!ゾンビを!見たんだ!」
ベロニカ:「……」
イノ:「……理解、出来たか……どぅあっ!」
0:突然、イノの胸倉を掴んで詰めるベロニカ
ベロニカ:「連れてくるです!いま!すぐ!」
イノ:「急に胸ぐら掴みやがって!痛ぇなバカ、なに興奮してんだ!もうどっか行っちまってわかんねぇよ!」
ベロニカ:「なら!探すです!そいつの居た所に連れてけです、いま、すぐ、です!」
イノ:「わかったから離せバカ!マジで情緒ぶっ壊れてるな、お前!」
0:
0:遺体を回収し、施設の外に出てきたロバート達。
0:
エルジェベート:「ロバート様、例のご遺体は『オルドキマダッド』によって取り込みましたわ。『ブギーマンズ』の招集も次期に終わりますでしょう。」
ロバート:「そうか。……なぁエルジェベート。何故、人間は恐怖を好むのだろうか。」
エルジェベート:「そうですね……私は生前、様々な手法を用いて人間を殺めて来ましたが、誰一人として喜ぶ者はおりませんでしたわ。泣き叫び、許しを請い、最後は苦悶の表情を浮かべ絶命するのみです。」
ロバート:「ほう。ではなぜお前はその様なことしたんだ。」
エルジェベート:「それはもう、筆舌に尽くし難いほどの快楽がそこにあるからですわ!指先に針を一本、また一本と刺した時に堪らず発する絶叫を耳にすると昂揚感に苛まれ、生きたまま慎重に優しく身体を裂いて、波打つ心臓を素手で掴んだ時の全能感、そしてゆっくりと息絶えてゆくあの表情。逆さに吊るした処女を切り刻み、滴る生き血をグラスに溜めると、むせ返るほどの極上なワインが完成して……は!私めとしたことが、つい話過ぎてしまいましたわ!」
ロバート:「別にかまわん。つまり恐怖と死は隣り合わせということだ。生物は必ず死ぬ。しかし生きている間に死を体験することは不可能なんだ。」
エルジェベート:「確かにそうですわね。ということは、死への好奇心が故の行動であると。」
ロバート:「そうだ。死への恐怖は快楽に転化される。それと同時に恐怖を乗り越えた達成感を味わえる。だからみんな、恐怖が好きなんだ。」
エルジェベート:「その行き着く先が……私めの様な変態なのでございますね?フフフ。」
ロバート:「ってことはだ。ここに集まった連中が欲してるものはなんだ?」
エルジェベート:「甘い死……ですね?」
ロバート:「はっはっはっ!久々にやってやろうか!」
エルジェベート:「フフフ、ロバート様ったら、座長であった頃の血が騒いでますわね?」
ロバート:「俺はまだまだ現役だ!楽しんでもらおうじゃないか!フリークショウ……いいや、スプークショウの始まりだぁ!」
0:ロバート達の行動を怪訝に思うクラウス
クラウス:「ウップス?ロバート様の動きに異変が……まさか、余計な気でも起こしましたかな。全く、度し難いほどの変わり者ですね。」
0:
0:収穫祭、特設ステージ会場。血眼になってゾンビを探すベロニカ。
0:
ベロニカ:「どこです!?どこにいるです!?」
イノ:「おいおいおい、頼むから落ち着いてくれ。」
ベロニカ:「落ち着いていられますかですよ!こんな千載一遇のチャンス……逃す手はないです!」
イノ:「んなこと言ったって、どうやってこの人混みん中で見つけるんだ?」
ベロニカ:「人が集まるステージ会場に潜んでいるって、相場が決まってるんです!」
イノ:「そーゆーもんかねぇ……」
0:何かを知らせるかのように照明が光り、賑やかしく混雑する人々の注目を集める男が一人、ステージの上に立っている。
ロバート:「レディース&ジェントルメン!」
ベロニカ:「ん?なんですぅ、一体なにが始まるんです!?」
イノ:「なんか演目でも始まるんじゃねぇか?にしても、ステージに上がるような恰好じゃねぇな。なんだあの泥被ったようなドレッドヘアに、ボロッボロのコートとカーボーイハットは。きったねぇなぁ。」
ロバート:「今宵お見せいたしますは、世にも奇妙でおぞましい、地獄の底から蘇った異形の数々!とくとご覧あれ!」
0:ロバートの身体から放出された粘液で形作った人形の異形を御披露目する。
ベロニカ:「おおおーー!ネチョネチョした人形の物体が変な動きしてるです!キモい、キモいです!」
イノ:「ゾンビはもういいのか?」
ベロニカ:「後でいいです!」
イノ:「変わり身が早いっことで。それよりあの真っ黒い人形の奴……いや、考えすぎだな。あんなヘニョヘニョじゃねぇしな。」
ロバート:「続いては彷徨い歩く屍、蛆虫まみれの死臭漂う『ブギーマンズ』の登場だ!」
0:舞台袖からゾンビ達が現れ、踊り始める。
イノ:「今度はなんだ?どうせまた悪趣味な奴が……って、マジかよ!」
ベロニカ:「キャー!ゾンビが踊ってるですぅ!キモかっこいいです!」
イノ:「あれだよ俺が見たゾンビは!」
ベロニカ:「ホント凄いです!本物の死体が動いてるみたいです!」
イノ:「おい、聞いてんのかよ!」
ベロニカ:「なんですさっきから!邪魔しないで欲しいです!」
イノ:「バカ!あれがモノホンのゾンビなんだって!」
0:突如照明が落ちる。
ベロニカ:「あれ、照明が消えたです!なんて粋な演出なんですか!」
イノ:「な、なんだよ急に真っ暗にしやがって。何も見えねぇじゃねぇか。」
0:薄暗い照明が灯り、そこにロバートが現れ、子守唄を歌い始める。
ロバート:「ばあさんに言っといで、ばあさんに言っといで。年老いたガチョウが死んじゃった。」
ロバート:「ばあさんに言っといで、ばあさんに言っといで。腹を空かせたガチョウが死んじゃった。」
イノ:「ダンスのお次は子守唄かよ。」
ベロニカ:「しー!静かに見るです。」
ロバート:「ばあさんに言っといで、ばあさんに言っといで。灰色のガチョウが、死んじゃった……。」
イノ:「あん?灰色だって?」
ベロニカ:「シャラップ!」
ロバート:「さぁさぁこちらへおいでませ、死臭漂うガチョウ達……。さぁさぁ存分喰らい尽くすせ!前代未聞摩訶不思議、スプークショウの始まりだぁ!はーっはっはっは!」
0:ライトアップと同時に異形達が観客に襲い掛かかろうとする。逃げ惑う人々。
イノ:「おいおいおい、ゾンビが襲ってきやがったぜ!」
ベロニカ:「なんて素晴らしい演出です!もっと間近で見たいです!」
イノ:「おい待て!様子がおかしい!」
ベロニカ:「いやです!目の前まで行くです!」
エルジェベート:「お連れ致しますわ。」
ベロニカ:「え?……キャッ!」
0:ベロニカの目の前に黒い影が現れる。中から真っ青な腕が無数に伸び、ベロニカを引き込もうとする。
イノ:「な、なんだこの真っ黒な影は!」
エルジェベート:「さあさあ、おいでませ。こちらの蜜は極上ですことよ。フフフ。」
ベロニカ:「痛っ……助け……て……。」
イノ:「バカ、掴まれ!」
0:寸で間に合わず、暗闇に飲まれて行くベロニカ。影が徐々に霧散していく。
イノ:「クソ、ベロニカ!」
エルジェベート:「オーッホッホッホッホ!」
イノ:「ちっ、ダメもとだ!逃がすかよ、『マフピストルズ』!」
0:瞬時に銃を形成し僅かに残る暗闇に発砲する。弾丸は吸い込まれ、暗闇は程なく消えさった
イノ:「あのバカ……面倒に巻き込みやがって。」
0:誰もいないステージ会場で一人のイノ。ロバートが近寄り語りかける
ロバート:「逃げもせず、怖気づいている様子もない。……しかしそれで、恐怖に打ち勝ったつもりか?」
イノ:「てめぇ、こんなことしてただで済むと思ってんのかよ。」
ロバート:「おいおい、勘違いするな。これはエンターテイメントだ。観客は誰一人傷付けてはいない。」
イノ:「なに適当こいてんだ、テメェ!」
ロバート:「本当だとも。訳あって追い払っただけだからな。お前もさっさと逃げたほうがいい。身のためだ。」
イノ:「ふざけんな、こっちは大事な『酒蔵』が盗まれちまったんだ。返してもらわねぇとなぁ。」
ロバート:「『酒蔵』?一体何のことを……っ!?」
0:発砲音と共にロバートの被ったハットが宙を舞う。銃を向けているイノ。
イノ:「……俺さぁ、マジで短気なんだよ。」
ロバート:「フッ、俺のハットを弾くとは。見事な早撃ちだな。少しも気取る事が出来なかったぞ。」
イノ:「黙ってろ。ド玉に鉛ぶち込まれたくなかったら、女を連れ戻せ。」
ロバート:「あぁ……あの女の連れか。悪いが無理な話だ。」
イノ:「お前に選択肢はねぇよ。」
ロバート:「どうしてもと言うのなら……仕方がない。観客を手にかけるつもりは無かったんだが……。(手を鳴らす)」
0:ロバートが手を鳴らすと地面からブギーマンズが次々と飛び出してくる。
イノ:「なっ、地面からゾンビが!?」
ロバート:「喜べ『ブギーマンズ』!お前らへのプレゼントだ!存分に味わえ!」
ブギーマンズ:「(唸り声を上げて襲い掛かる)」
イノ:「……数が少ねぇっての。」
ロバート:「ん?」
イノ:「来い、『サタデーナイトスペシャル』!」
0:イノの両手が光り、拳銃が形成される。素早い銃捌きでブギーマンズを秒殺するイノ。
ロバート:「自らの力で二丁の拳銃を形成し、ブギーマンズを瞬く間に射撃するとは。それも、確実に仕留めながら。」
イノ:「大したことねぇな。ゾンビってのも。」
ロバート:「何者なんだ、お前は。」
イノ:「街の平和を守る正義のヒーロー……カウルーンセキュリティ巡回警備担当部署兼、特務課『メタファイブ』所属、イノ・カハナモクだ!現在絶賛謹慎中なんでよろしく!」
ロバート:「全くもって、世間の流れにはついていけないと思っていたが……いつの時代にも現れるものなんだな。『ヒーロー』と言うやつは。(手を鳴らす)」
0:再びブギーマンズが現れる。その数は倍以上に増えている。
イノ:「げっ、さっきより倍以上増えてやがる。ざっと50体くらいか……。」
ロバート:「もしお前が本物のヒーローで、この恐怖を乗り越え俺の元へたどり着くことが出来たのなら、女を返そう。」
イノ:「クソみたいゲームやらせやがって。速攻でクリアしてやるよ!」
ロバート:「間に合えば、の話だがな。」
イノ:「何だと?」
ロバート:「さあ!ここからがスプークショウの本髄だ!せいぜい楽しむんだな、このエンターテイメントを!はーっはっはっはっ!」
0:ロバートは突如現れた暗闇に飲まれ消えていった
イノ:「おいコラァ!待て!……くそ野郎、律儀にハットまで回収していきやがって。『間に合えば』ってことは、制限時間があるっつーことかよ。くそダリぃ……。」
0:付近の売店に二発撃ち込むと、外れた栓とビール瓶が宙へ上がりイノの手元に落ちてくる。イノはすかさず瓶を受け取り一気飲みする
イノ:「ゴクゴク……ふー!景気づけにしてはヌルいビールだが、我慢してやるよ!」
0:空いた瓶を宙に放り上げ打ち抜くイノ。
イノ:「さあ、良い子はお眠の時間だ!最高のサタデーナイトにしようぜ!」
0:無数の発砲音が響き渡る。
0:
0:メタファイヴの名を聞き、同様するクラウス。
クラウス:「メ、メタファイブですって!?ナイン、これはいけません!彼に邪魔されては困ります!即刻対処せねば!」
0:
0:エルジェベートが生み出した『オルドキマダッド』の空間に横たわるベロニカ。目を覚ます。
0:
ベロニカ:「……んん。」
エルジェベート:「やっとお目覚めですわね。」
ベロニカ:「その声……確か……」
エルジェベート:「つい乱暴にしてしまいましたわ。ごめん遊ばせ。」
ベロニカ:「ここは……」
エルジェベート:「ここは『オルドキマダッド』。私の腹の中、又は精神世界と言ったところでしょうか。」
ベロニカ:「なにそれ……どういう状況なんです?」
エルジェベート:「貴女はシェリお嬢様の大切な『母胎』となるのです。」
ベロニカ:「え、シェリって誰です?『母胎』って何の事です?」
エルジェベート:「お気になさらず、もうじき貴女の自我や身体は消滅してしまうのですから。」
ベロニカ:「う、噓です……そんな……どうして……」
エルジェベート:「でも、勿体ないですわねぇ。ただただ消してしまうなんて。」
0:歩み寄り顔を近付けるエルジェベート
ベロニカ:「い、一体何をするつもりです!?」
エルジェベート:「少しぐらい頂いてもよろしいですわよね。きっとロバート様もお許し下さる事でしょう。ええ、そう致しましょう」
ベロニカ:「ちょっと!待つです!」
エルジェベート:「ささやかな、私へのご褒美。頂きまぁす……。」
ベロニカ:「い、いやぁ……痛っ!」
0:ベロニカの首筋に噛付き血を啜り吸うエルジェベート
エルジェベート:「ジュルル……んん~~、これは……正真正銘、処女の血!生娘の生き血ですわぁ!極・上ぉ……」
ベロニカ:「個人情報漏らさないで下さいです!てか、わたし血ぃ啜られたですか!?貴女ヴァンパイアだったんです!?ってことは、私もヴァンパイアに……」
エルジェベート:「なりませんわよ。もうヴァンパイアではありませんので。これはただの趣味ですわ。」
ベロニカ:「なにそれ紛らわしい。なんか少し残念です……。」
0:そこにロバートが現れる。
ロバート:「何をしている。」
エルジェベート:「お帰りなさいませ、ロバート様!この者の血を少々いただきましたの。」
ロバート:「……エルジェベート。」
エルジェベート:「如何なさいましたか?……ぐっ!?」
0:エルジェベートの頬を鷲掴み顔を近づけるロバート。
ロバート:「勝手な真似をするな。大事な『母胎』なんだぞ?お前の汚い遺伝子が少しでも混じったらどうするつもりだ、オイ!」
エルジェベート:「キャッ!」
0:突き放されるエルジェベート
エルジェベート:(М)「あああぁぁぁ、鼻先が触れる合う寸での所でロバート様と見つめ合ってしまいましたわ!なんて眼福……!それに私めを乱暴に突き放す時の力強さ!卒倒寸前ですわ!粗相を働いた私めをもっと、もっとお仕置きしてくださいまし!……っ!?」
エルジェベート:「ゲホォっ!」
ベロニカ:「え!?血ぃ吐いてるです!さっき吸った私の血ぃ吐いてるです!」
ロバート:「おい。」
ベロニカ:「へ?……んぎゅっ!?」
0:ベロニカに近付き、またも頬を鷲掴みし嘗め回すように眺めるロバート
ロバート:「んー……。」
ベロニカ:「ぎゅう……ぎゅるしぃ……(苦しい)」
ロバート:「……ふっふっふ……完璧だ!」
ベロニカ:「あ痛った!」
0:突き放され頭を打つベロニカ
ロバート:「エルジェベート!儀式の準備だ!これで全てが報われる!」
エルジェベート:「わ、わかりましたわ!」
ロバート:「シェリ……待たせてごめんな。もうすぐだからな。」
ベロニカ:「私、一体どうなっちゃうんです……?」
0:
0:収穫祭会場、イノはゾンビを片付け終えている。
0:
イノ:「はぁはぁ……やっと終わったぁ。ゾンビのクセになかなかしぶとかったぜ。早くベロニカんところに行かねぇと……」
クラウス:「なりません!スタァベン!」
イノ:「なんだ……ぐはぁ!」
0:腹部に被弾するイノ
クラウス:「忌々しい煩わしいメタファイヴめ!今まさにホロコーストの如く熱く、何もかも吹き飛ばしてあげます!」
イノ:「『サタデーナイトスペシャル』!」
クラウス:「ウップス!」
イノ:「ぐうぅ……また訳の分からん奴が来やがったぜ……流石にもう相手できねぇっての。」
クラウス:「光学写像形成技術を採用し、使用者の質量をもとにインプットした武器を具現化する事が出来る装置『ドミニオン』。非常に厄介ではありますが、使用者を再起不能に至らしめればよいだけの事!」
イノ:「くそが、相手してられっかよ!こうなったら車で逃げるしかねぇ……」
クラウス:「我々に楯突くことは許されないのです!原子に還ったかのように踊りなさい、『トータルイクリプス』!」
0:クラウスの全身から無数の銃身が飛び出し、イノに照準を定めている
イノ:「身体中から銃身が出て来やがった!?ちっ、させるかよ!来い『チャーリーキラー』!」
クラウス:「ウップス、グレネードランチャー!?」
イノ:「爆ぜやがれぇ!」
0:粉々になるクラウス
イノ:「へっ、はじけ飛びやがったぜ。今のうちに……ぐっ!」
0:傷口から血が噴き出す
イノ:「ははは……こりゃあ、いいもん貰っちまったようだな。早くしねぇと俺までくたばっちまうぜ。待ってろよ、ベロニカ……。」
0:イノは車に乗ってベロニカの元へ急ぐ。散らばったクラウスの破片が収束をし、復元される。
クラウス:「……逃がしませんよ……メタファイヴ。」
0:
0:儀式に取りかかるロバート達。
0:
ベロニカ:「最悪です!なにこの黒いネバネバは!キモいです!」
ロバート:「心配するな、痛みを伴うことない。」
ベロニカ:「嫌です!今すぐ放すです!」
エルジェベート:「フフフ、生娘の足掻き苦しむ姿……懐かしいですわ。これが断末魔に変わると思うと……あぁ、極・上ぉ!」
ロバート:「エルジェベート、お前は黙って外の警戒に集中しろ。」
ベロニカ:「てか、何でこんなことするんです!私が何したって言うんです!?」
ロバート:「お前と話す事は無い。」
ベロニカ:「大ありです!どうせこれから殺されるんだから少しくらい聞かせてくれても良い筈です!」
ロバート:「……全くどうして、怯えていないのか。」
ベロニカ:「納得出来ませんからです!」
ロバート:「困った娘だ。……いいだろう。聞かせてやる。」
0:
0:盗んだ車でマフピストルズの反応を頼りに爆走するイノ。
0:
イノ:「はぁはぁ……早く、『マフピストルズ』の弾痕が消える前に辿り着かねぇと……っ!?」
0:突如ボンネットに落下し、しがみつくクラウス。
クラウス:「見つけました。今度は必ず仕留めます。」
イノ:「まだ生きてやがったか!ボンネットから降りやがれ!」
クラウス:「これ以上の邪魔立ては許しません!」
イノ:「くそが!喰らえ、『チャーリーキラー』!……ちっ、なんで出てこ
ねぇんだ!」
クラウス:「その出血量では、『ドミニオン』の使用は不可能ですね。」
イノ:「マジかよ……」
クラウス:「これでおしまいです。『ライトニング・ストライクス』!」
0:クラウスの口大きく開き、中から大砲が現れる。身体が大きく膨れ上がり始める。
イノ:「そんなでかい口開いて、中が丸見えじゃねぇか。」
クラウス:「消し飛びなさい!」
イノ:「消し飛ぶのは……テメェだ。」
クラウス:「ヴィー!?どうして銃が……『ドミニオン』は使えないはず!」
イノ:「あばよ。パーティーは、お開きだ。」
クラウス:「オーマインゴッ!」
0:実銃を撃ち込む。急所を弾かれ粉々になるクラウス。
イノ:「コイツを使う時が来るとはな。備えあれば憂いなし、助かったぜ……」
0:
0:ベロニカに全てを打ち明けるロバート。
0:
ベロニカ:「そんなことの為に……」
ロバート:「それが、俺の全てだ。」
ベロニカ:「そもそも無茶です!私から『その子』が産まれたとしても、それが貴方の娘さんだと本当に思えるんですか!?」
ロバート:「ああ、もちろんだ。」
ベロニカ:「おかしいです!貴方は間違ってる!」
ロバート:「……そうかもしれないが、俺にはこれしか無いんだ。」
エルジェベート:「この生娘、黙って聞いていれば……!ロバート様は何も間違ってなんておりませんわ!」
ロバート:「口を挟むな、エルジェベート。」
エルジェベート:「しかし……」
ベロニカ:「娘さんが、父親にそんな事をさせてまで生き返りたいと、そう思っているんですか?」
ロバート:「……」
ベロニカ:「貴方がしている行動は自分自身の気持ちの為であって、本当は娘さんの事なんてこれぽっち考えてないんです!」
ロバート:「……」
エルジェベート:「いい加減になさい、この生娘!」
ロバート:「……そんな事はとっくに分かっていたんだ。」
ベロニカ:「え?」
ロバート:「これは全て俺のエゴだ。ただの自己満足だ。」
エルジェベート:「ロバート様……ん?何かしら、あの光は……」
0:エルジェベート、外を見やると光が近づいていることに気付く
ロバート:「だがそれでいい。もう綺麗事などどうでもいいんだ。」
ベロニカ:「貴方は……悲しい人です。」
ロバート:「そうだな、知ってるとも。」
ベロニカ:「うっ、うぅ……。」
0:ロバートの身体から放たれる黒い粘液に覆われてゆくベロニカ。
ロバート:「これでいい。これでいいんだ……。」
エルジェベート:「まぁ大変!ロバート様!」
ロバート:「喧しくするな。気が散る。」
エルジェベート:「ああ!もう間に合いませんわ!」
ロバート:「何がだ……っ!?」
0:エルジェベートの作る亜空間の障壁に車で突っ込み穴をあけるイノ。ゆっくり車から降りてくる
イノ:「ゲホゲホ……ヒーローの御到着だぜ。」
エルジェベート:「貴様は、生娘と一緒に居た!どうしてここに……!?」
イノ:「あの時の姉ちゃんか……アンタが消える直前に打ち込んだ俺の『マフピストルズ』が目印になったんだよ。」
エルジェベート:「何なのその能力!でも残念でしたわね、もう手遅れですわ!」
イノ:「……なんだと?」
ロバート:「……」
エルジェベート:「間もなく儀式が終わりますわ!その頃にはシェリ様が無事顕現している事でしょう!」
イノ:「ふざけやがって……。おい、ゾンビ野郎!ベロニカを何処へやった!今すぐ返しやがれ!でないと、ド玉が穴だらけになるぜ!」
ロバート:「……」
0:
0:意識が遠退いてゆくベロニカ。
ベロニカ:「……私、本当に死んじゃうのかな。まだやりたい事がたくさんあったのに。父上様、母上様……さよなら。」
ベロニカ:「……あれ、この女の子の声は一体……貴女は、誰なの?」
0:
0:イノがロバートに拳銃を向けている。
エルジェベート:「フフフ、ロバート様にそんな攻撃が通用するとでも?それに、貴方が発砲するよりも先に私が貴方を血祭りにして差し上げますわ!」
ロバート:「……全く、困ったものだ。」
エルジェベート:「……え、ロバート様?」
ロバート:「まさか、本当にやってくるとはな。」
イノ:「諦めが、悪いもんでね……。」
ロバート:「だが、もう手遅れだ。」
イノ:「なんだと……!」
ロバート:「間も無く受胎は完了する。いくら足掻いたところで……ん?」
0:ロバート、粘液で包み込んだベロニカからシェリの声を聞く
エルジェベート:「ロバート様、いかがなさいましたか?」
ロバート:「シェリ……シェリなのか!」
イノ:「シェリ?」
ロバート:「そうだ、お父さんだ。……俺はお前を看取る事が出来なかったな。独りぼっちにさせて悪かった。だからこれからはその償いとして一緒に……。」
0:シェリの返事を聞くロバート。
ロバート:「……やはりな。」
エルジェベート:「ロバート様……。」
ロバート:「そうだよな。それでこそ俺の一人娘だ。母さんは元気にしてるか?……そうか、それは良かった。」
イノ:「さっきから何をしゃべってんだよ……。」
ロバート:「そろそろ時間のようだな。シェリ……愛してるぞ。」
0:外に出てくるベロニカ
イノ:「ベロニカ、大丈夫か!」
ベロニカ:「ゲホッゲホッ……」
ロバート:「心配するな、死にはしない。それよりお前……。」
イノ:「なんだよ……グアッ!」
0:ロバートの放った粘液がイノの傷口を塞ぐ
イノ:「てめぇ、何しやがった!」
ロバート:「失血死する前に傷口を塞いでおいた。治ったらその粘液は勝手に消失する。」
イノ:「どういうつもりなんだよ……」
ロバート:「……俺の負けだ。エルジェベート、行くぞ。」
エルジェベート:「ええ、仰せのままに。」
0:エルジェベートの亜空間が歪みだし、視界を奪われてゆくイノ。
イノ:「なんだ、黒いモヤが濃くなって……クソ、何も見えねぇ!」
ロバート:「これからもその子の為に頑張るんだな。」
イノ:「え?」
ロバート:「謹慎中の……『ヒーロー』さんよ。」
0:次第に視界は晴れ、月明かりに照らされるイノとベロニカ。大破した車の傍らに佇んでいた。
イノ:「……ん?ここは、何処だ?」
ベロニカ:「ううぅ……」
イノ:「ベロニカ、起きたか?」
ベロニカ:「ヒーロー……」
イノ:「なに?」
ベロニカ:「ヒーローが、助けてくれるもん……」
イノ:「……んだよ、ガキみてぇな夢見やがって。」
0:
0:『アッシュヅアッシュ』のアジトへ向かうロバート達
0:
エルジェベート:「……ロバート様。」
ロバート:「なんだ。」
エルジェベート:「本当に、よろしいのですか?」
ロバート:「ああ。娘が……シェリが決めた事だからな。」
エルジェベート:「ロバート様のお力であれば強引にでも『堕胎』させられたはず。ですのに……」
ロバート:「そんなことは望んでいない。シェリが可哀想じゃないか。」
エルジェベート:「……。」
ロバート:「……本当は、話がしたかっただけなんだ。最後の会話をな。」
ロバート:「久々に心が熱くなった。まるで人間であるかのようにな。」
エルジェベート:「……ロバート様は、紛う事なき人間です。」
ロバート:「フフ、『ブラッディカウンテス』と恐れられるお前に言われるとはな。」
エルジェベート:「一人も殺めること無く遺体を回収されるだなんて、凄いですわ!私めが貫いた者まで蘇生なさるんですもの!」
0:収穫祭会場にて、ゾンビダンスを踊っていた内の一人が目を覚ます。
警備員:「……うぅ、はうあぁ!夢!?え!ここどこ!傷は!傷……あれ、怪我してない?ってことは、夢?」
0:
エルジェベート:「それにロバート様は私めには無いモノを沢山お持ちですので。これからもご教示下さいな。」
ロバート:「ああ……ありがとう、エルジェベート。」
エルジェベート:「恐縮でございます……」
エルジェベート:(M)「ロバート様から感謝のお言葉なぞ……なぞ!こんな私めが頂けるだなんて!恐悦至、極・上ですわぁ~……ヴッ!」
エルジェベート:「ゲホッ!」
0:
0:『アッシュヅアッシュ』アジトにて。破壊されたクラウスの回収を見届ける、本体のクラウスがいる。
0:
クラウス:「……著しく破損したBI-22、回収完了。いやはや、参りました。あのメタファイヴが機能しているとは。しかし、カインプロブレム!今回の目的は達成したわけですからね!」
クラウス:「今は我々『アッシュ・ヅ・アッシュ』が力を蓄える時!他にも回収せねばならない遺体があります!」
クラウス:「そして、下級人類は自らの愚かさを思い知ることになるでしょう!『ホモスペリオール』の前に跪くのです!全ては、『セイキロス』の名の元に!」
0:
0:数日後、スラム街にある寂れたビルディングの一室で目を覚ますイノの姿。
0:
イノ:「………うあっちぃ!なんだよ、なんでこんな暑いだよ!もうシモツキになるってのに、異常気象にもほどがあるぜ!」
イノ:「たくっ、こんな暑い日はキンキンに冷えたビールを……って、また酒切らしてる。あーあ、また買い出し行かねぇとじゃん。」
0:
0:外へ出てしばらく歩いていると、ベロニカと遭遇する。
0:
ベロニカ:「……お!こんにちはでーす!」
イノ:「おお、クソガキか。」
ベロニカ:「開口一番でクソガキはあんまりです!クソ酒食らいの分際で!」
イノ:「お前も大概だぞ!んで、何やってんだ。私服でほっつき歩いて。サボりか?」
ベロニカ:「今日はお休みなんです!」
イノ:「あっそう。」
ベロニカ:「興味無さすぎです!自分から聞いておいてなんなんです!で、貴様は?」
イノ:「貴様って言うな!ちょっとした買い出しだ!」
ベロニカ:「まーたお酒ばっかり買うつもりですね!ちゃんとご飯食べてるんです?」
イノ:「大きなお世話だ!」
0:イノのお腹が鳴る
ベロニカ:「言ってるそばからお腹が鳴ってるですよ~?」
イノ:「寝起きなんだよ。そりゃ腹くらい鳴るだろ。」
ベロニカ:「仕方ないですね~、私が作ってあげるです!」
イノ:「……はぁ?」
ベロニカ:「たまにはお節介焼かせてくださいです!」
イノ:「いや、いいよめんどくさい……」
0:再び腹が鳴るイノ。
イノ:「……じゃあ、頼む。」
ベロニカ:「よーし!それじゃあ早速買い出しですね!行きましょう!」
イノ:「お、おいベロニカ、引っ張るなよ!……あ!」
ベロニカ:「……やっと面と向かって呼んでくれましたね、名前。」
イノ:「そ、そりゃあ嫌でも覚えるだろ……。」
ベロニカ:「実は聴こえてたんですよ。私を助けてくれた時に、何度も呼んでくれてたの。」
イノ:「マジでか!なんか恥ずぅ~……」
ベロニカ:「いいんですよ、嬉しかったんで。」
イノ:「そう……か。」
ベロニカ:「だってイノさんは、私の『ヒーロー』なんですから!」
イノ:「お前の、ヒーロー……」
ベロニカ:「フフッ!ほらほら、早く行くですよ!沢山ご馳走作らなくちゃ!」
イノ:「おい、だから引っ張るなって!危ないって、おい!ベロニカぁ~!」
0:とある夜、収穫祭が行われる会場の特設ステージにて。
0:賑やかしく混雑する人々の注目を集める男が一人、ステージの上に立っている。
0:男はなにやら童謡らしき唄を口ずさみ始める。
ロバート:「ばあさんに言っといで、ばあさんに言っといで。年老いたガチョウが死んじゃった。」
ロバート:「ばあさんに言っといで、ばあさんに言っといで。腹を空かせたガチョウが死んじゃった。」
ロバート:「ばあさんに言っといで、ばあさんに言っといで。灰色のガチョウが、死んじゃった……。」
ロバート:「さぁさぁこちらへおいでませ、死臭漂うガチョウ達……。思う存分に喰らい尽くすせ!前代未聞摩訶不思議、スプークショウの始まりだぁ!はーっはっはっは!」
0:
0:時は遡り、収穫祭の始まる数時間前。昼過ぎ頃、スラム街にあるビルディングの一室で目覚める男がいた。
イノ:「……ハックション!うぅ……随分と肌寒くなったもんだなぁ。もうそんな時期かよ。窓開けっ放しで寝ちまったぜ、まったく。」
イノ:「さ~迎え酒、迎え酒っと……っんだよ、飲み切ってやがるぜ。はぁ……買い出しに行かねぇと…。」
イノ:「面倒くせぇなぁ、チキショウ……。」
0:部屋を後にするイノ。その頃、商店の建ち並ぶ通りでは、リアカーでとんでもない量の荷物を運ぶ女の姿がある。
ベロニカ:「うううぅ~……どうして毎年こんな無茶な買い出しさせるんです、うちのマスターは!末代まで恨んでやるですぅ……」
0:すると前方から買い出しへ向かう途中のイノを目撃するベロニカ。
ベロニカ:「……あら?もしや、あのお方は!助かったですー!もしー!そこの殿方ー!」
イノ:「ん?……うわぁ、またあのガキかよ。」
ベロニカ:「奇遇ですねぇお兄さん!ごきげんようです!」
イノ:「全然良くねえよ、馬鹿。会うたびにデケェ声で引き止めやがって……こちとら二日酔いで最悪なんだよ。」
ベロニカ:「いつも二日酔いですね!深酒は身体に毒ですよ!」
イノ:「大きなお世話だ。……にしても、これまた随分な量の買い物してんのな。」
ベロニカ:「そーでしょう!?堪ったもんじゃないです、マジで!」
イノ:「てか、殆どカボチャじゃねぇか。」
ベロニカ:「そーなんです!今夜行われる収穫祭の出し物で使うんです!ターキーもあるんです!ほら!」
イノ:「あっそう。」
ベロニカ:「……興味ゼロですか。」
イノ:「収穫祭なんて俺が行くようなところじゃないしな。」
ベロニカ:「そうっすか……。いやぁ~、疲れちゃったなぁですぅ、チラ?ハア、ハア、もう動けないですぅ、チラチラ?」
イノ:「よく一人で運べたなー、スゴいスゴーい。」
ベロニカ:「力仕事だけは大得意なんです!フンスっ!」
イノ:「んじゃ、心配なさそうだな。」
0:立ち去ろうとするイノ
ベロニカ:「ああ、ちょっとぉ!いたいけな乙女が立ち往生しているのに、助けようとは思わないんです!?薄情ですね!」
イノ:「いま自分で言ったろ、『力仕事だけは大得意』だって。」
ベロニカ:「ぐぬぬぬぅ、しょうがないですね……。もし手伝ってくれたら……」
イノ:「手伝うわけないだろ。そんな暇ねぇっつーの。」
ベロニカ:「マスターに内緒でビールご馳走するです。」
イノ:「おいおい、まさかこの俺様を酒で釣ろうだなんて……」
ベロニカ:「収穫祭まで込み込みのお手伝いなら!なんと!タダで飲み放題です!」
イノ:「よぉし、このイノ様に任せろ!」
ベロニカ:「うへへへ、毎度ありぃ!」
0:
0:
0:『Asche zu Asche(アッシュ・ヅ・アッシュ)』本部。全面電子基盤で出来た広間。
0:壁からむき出した無数の配線に繋がれ、うわ言を呟いているクラウスの元にロバートが現れる。
クラウス:「リンクス、ツォー、ドライ、フィーア……リンクス、ツォー、ドライ、フィーア……」
ロバート:「おい。」
クラウス:「リンクス……ヴンダバー!これはこれは、ようやくお越し下さいましたか。ロバート様。」
ロバート:「ここが『アッシュ・ヅ・アッシュ』で間違いないか?……知らせを寄越したのはお前さんだな。俺の事を知ってる奴がこの世にまだ居たとは、驚きだぜ。」
クラウス:「長旅でお疲れでしょう。ささ、そちらにお掛けになって紅茶でも……」
ロバート:「御託は無しだ、さっさと教えろ。」
クラウス:「ヴァルテ……そう焦らないで下さい。あくまでも取引なのですよ?これは。」
ロバート:「なんだと?」
クラウス:「無償と言うわけにはいきませんので。お分かりいただけますか?」
ロバート:「おいおい……聞き間違えか?遥々出向いたってのに、この待遇の悪さ。俺は行儀が良い方じゃねぇんだ。無理矢理にでも聞き出すぞ?」
クラウス:「これはこれは、なまじ人間かのような振る舞い。『血の気』が多いですね。」
ロバート:「フハハ、愚弄しやがって。良いぜ、遊んでやるよ……。」
0:ロバートはそう言うと、裾の間から黒ずんだ粘液を樹形の様に地面に這わせクラウスまで延ばす。
クラウス:「ウップス!その力、やはり……っ!?」
0:粘液は瞬く間にクラウスの足元から身体全体を侵食し、動きを封じてしまう。
ロバート:「よぅし、捕らえたぞ。どうした、動いてみろ。動けるものならな。」
クラウス:「……ホッホッホ、身体から放出した粘液を私に纏わせ動きを封じるとは。これが『モールドマゴッツ』……力は本物の様ですね。」
ロバート:「アンタ、何でも知ってるんだな。じゃあこの後、お前がどうなるかって事も解るよな……。」
0:クラウスに纏わり付いた粘液が収縮し、めきめきと音を立てて締め付け始める。
クラウス:「グッ……締め潰すおつもりですか。これはいけませんね…。私を破壊してしまっては、『お子様の再誕』は叶わぬ事に……」
ロバート:「俺を舐めるなよ。何百年、何千年を経ようとも必ず成し遂げてみせる。喋れる内に喋った方が身のためだぞ?」
クラウス:「常識が通用しないとは、全く度し難い方ですね……。」
0:捕らわれたクラウスの身体が細かい金字形に分散し、姿形を崩し霧散してゆく。
ロバート:「ん?自分で身体を粉々に……ちっ、逃したか。」
クラウス:「いやはや、争うつもりなど毛頭無いのですが……。」
ロバート:「っ?!」
0:ロバートの背後にクラウスの姿が現れる。
クラウス:「お分かりいただけましたか?」
ロバート:「背後を取られていたとは……。ここ数百年で随分と奇っ怪な技術が生まれたものだな。まるで、常識が通用しない。」
クラウス:「お互い様ですね。ということで、ここは非常識な者同士、取引ではなく『助け合い』と言う形で一つ手を打っていただけませんか?貴方の力が必要なのです。」
ロバート:「……仕方がない。話しは聞いてやる。」
クラウス:「ゴウツ……話が早くて助かります。」
0:古びたロケットペンダントを見つめるロバート。そこには子供の写真が収められている。
ロバート:「なぁシェリ……もう少しだからな。待っててくれ。」
0:
0:
0:収穫祭会場。準備に取り掛かる二人
イノ:「……えっとぉ、こういう感じか?」
ベロニカ:「全然違うです!不器用通り越して無能ですね!」
イノ:「え~?そんなに悪いかなぁ、これ。」
ベロニカ:「酒飲みは眼ン玉が節穴なんですか!?これのどこが顔になってるんです!どこが目でどこが口なんですぅ!?」
イノ:「てか、そもそも酔っ払いにこんな細けぇ作業させんじゃねえっての。」
ベロニカ:「働かざる者飲むべからずです!こんなブッサイクなカボチャじゃあ並べられないですよ……」
0:ビールをぐびぐび飲むイノ。
イノ:「(飲酒)」
ベロニカ:「ってぇ、なぁにグビグビ飲んでるんです!バカ吞気ですね!」
イノ:「ふー、うんめぇ~。やっぱビールは女と違って裏切らねぇぜ。」
ベロニカ:「酔っ払いが女性を語るなです!」
0:辺りを見渡すイノ。様々な仮装に身を包む参列者を眺めている。
イノ:「しかしまあ、どいつもこいつも変な格好しやがって、暇な奴らが居たもんだ。」
ベロニカ:「知らないんですか?ああやってお化けやモンスターの仮装をすることで、不吉な悪霊を退けてるんです。」
イノ:「なんだよ、オカルトかよ。そんなんとっくに卒業したぜ。くっだらね~。」
ベロニカ:「オカルトなんかじゃないです!霊の存在は科学的に否定されてないんです!」
イノ:「そういうの『悪魔の証明』っていうんだよ。ないモノをどうやって証明すんだよ、馬鹿。」
ベロニカ:「居るったらいるんです!」
イノ:「居ないね。絶対にいない。」
ベロニカ:「ろくにカボチャもくりぬけない人間が何を偉そうにです!」
イノ:「おいおい、それとこれとは関係ねぇだろ!」
0:魔女の仮装をした子供がイノに話しかける。
子供:「おじさん!」
イノ:「うわ!んだよ、いま取り込み中だっての!」
子供:「トリックオアトリート!」
イノ:「あん?なんだお前。」
ベロニカ:「ハッピーハロウィーン!はいコレあげるね!」
子供:「ん、なにこれ?お菓子じゃないよ?」
ベロニカ:「カボチャのパニツァだよ!ほら、食べてみな!」
子供:「モグモグ……っ!甘くて美味しい!ありがとうお姉ちゃん!」
イノ:「……」
0:立ち去る子供を見送るベロニカ。呆然とするイノ。
ベロニカ:「悪いお化けには気を付けるんだよー!……ふふ、ひょっとして、ちびっ子苦手です?」
イノ:「……あ、いや。普通に喋れるのな、お前。」
0:
0:交渉中のクラウスとロバート。
0:
ロバート:「……死体を掘り起こすだと?」
クラウス:「さようでございます。『グレイブローバー』と謳われる貴方であれば見つけ出すことは容易いはず。」
ロバート:「ふん、嫌な呼び方をするものだ。まあいい、連れてきてやる。」
クラウス:「必ずや、お願いいたしますよ。」
ロバート:「それよりも、だ。アンタのその情報、確証はあるんだろうな?」
クラウス:「ナテュアリヒ!彼女の遺伝子適合率は90パーセントを超えており、貴方の望む『母胎』としての役割を果す事が可能でしょう。最早、受胎は告知されたようなものです。」
ロバート:「もし、誤った情報だとしたら……。」
クラウス:「『スプークショウの餌食』……ですね。存じておりますとも。」
ロバート:「フハハ、説明するまでもないか。」
0:二度、手を叩くロバート
ロバート:「出てこい、エルジェベート!」
クラウス:「むむ?この影は一体……」
0:どこからともなく無数のカビの胞子が集まり黒い影の塊を作る。中から人の形をした者が現れる。
エルジェベート:「……はい、ロバート様。」
クラウス:「おや、何処からともなく現ましたね。そちらは……ウップス!そんな御方まで使役なさっていたとは!」
ロバート:「仕事の時間だ。派手にカマしてやろうじゃねぇか。」
エルジェベート:「ロバート様のご用命とあらば、なんなりと。」
クラウス:「ホッホッホ、ではお願いしますね。ロバート・M・リビンデッド様。」
0:
0:その頃、収穫祭にて。あくせく働くベロニカの姿。それを眺めるだけのイノ。
ベロニカ:「はいはーい!毎度ありです!そっちのお客さんは?ターキーレッグ?すんませんですー、丁度売り切れちゃって!店舗のほうならまだ残ってるですので是非是非!今後とも『TAT』御贔屓に!はーい次のお客さん、どーぞー!」
イノ:「スゲー客捌きだなぁ。ぼちぼち完売すんじゃねぇか、これ」
ベロニカ:「ちょっと!なにビール片手にボーっとしてるんですか!?能無しはフライドポテトでも売り歩いてくるです!」
イノ:「えっ、俺がっ!?」
ベロニカ:「そうです!お前がです!」
イノ:「忙しいと口悪くなるタイプか!ったく、わかったよクソが!」
0:
0:
0:収穫祭会場より少し離れ所にある犯罪者専用の集団墓地。厳重に警備されている。そこに黒く蠢く闇が漂い、その中から姿を現すロバートとエルジェベート。
エルジェベート:「ロバート様、墓地へ到着致しました。」
ロバート:「ああ、そのようだな。まさか空間を超越出来るとは。『オルドキマダット』の能力は計り知れないな。」
エルジェベート:「これも全てロバート様のお力があっての事。……あら、なにやら近くの広場にて催しが執り行われておりますが……。」
ロバート:「なに、気にすることはない。手筈通りやるだけだ。頼んだぞ、エルジェベート」
エルジェベート:「はい。お任せ下さいませ、ロバート様。」
ロバート:「……しかし妙な連中だ。死者を蘇らせるのではなく、ただ回収しろだと。」
エルジェベート:「ロバート様の手に掛かれば造作もないと言うのに、愚かですわね。」
ロバート:「何が目的かは知らないが、こちらは『母胎』さえ手に入れば他はどうでもいい。どうだ、辿れたか?」
エルジェベート:「ええ、間も無く……あらあら、なんと言うことでしょう。」
ロバート:「どうしたんだ。」
エルジェベート:「私めの胞子が辿り着いたのは、あの広場ですわ。」
ロバート:「間違いないのか。」
エルジェベート:「もちろんですわ。まさか、こんなにも近くに『母胎』があるだなんて。」
ロバート:「巡り合わせと言うことか……よくやったぞ、エルジェベート。」
エルジェベート:「いえいえ、そんなそんな。き、恐縮ですわ……。」
エルジェベート:(M)「愛しのロバート様からお褒めの言葉を頂けるなんて……キャー!マジヤバイですわぁ!今日のロバート様も相変わらずイケオジ過ぎて、尊死してしまいそう……ヴっ!?」
エルジェベート:「ゲホォっ!」
ロバート:「……また吐血か、エルジェベート。厄介なものだな、その呪いは。」
エルジェベート:「た、大したことないですわ……悪魔との契約など遥か昔の事……今やこれぐらい、どうってことは……。」
ロバート:「そうか……あまり無理をするな。」
エルジェベート:「ロバート様……」
エルジェベート:(М)「はぁ~!なんとお優しいお方なのでしょうか、ロバート様!こんな私めの事をお気遣いくださるなんて……尊い……尊すぎますわぁ!……ヴっ!?」
エルジェベート:「ゲホォっ!」
ロバート:「今日は一段と酷いな……。」
エルジェベート:「お、お気になさらず……。」
ロバート:「まずは遺体の回収からだ。行くぞ。」
0:
0:アジトにてロバートの動向を監察する中、同時に自らに付着したロバートの細胞を解析し過去を読み取っている。
クラウス:「ロバート・M・リビンデッド……なんと醜く、悲しい方なのでしょうか。失った我が子の為に百年以上をも彷徨い続けるなんて。
クラウス:かつて一世を風靡した見世物小屋『マーダーライドショー』の座長をお務めになられたお方。興業で財を成していた傍ら、奥様が最後に遺された一人娘に御執心のようで。しかし、母親の遺伝か運命のイタズラか、その一人娘も難病を患い、ご自身も気を病んでおられたようですね。
ロバート:『どうしてなんだ!あんた医者なんだろ!?金ならある!娘を、シェリを治してくれ!頼む、この通りだ!』
クラウス:当時の未発達な医療技術では手の施しようがないほどの難病。それでも諦めなかったのですね、ロバート様は。
ロバート:『……シェリ、心配するな。お父さんが必ず治してやる。約束だ。だってお父さんは、お前のヒーローなんだなら。』
クラウス:しかし看病の甲斐も虚しく、娘様は息を引き取った、と。それも、興業の最中に。最後を看取ることが出来なかったとは、なんとも嘆かわしい。
ロバート:『シェリ……シェリ!ごめんなシェリ……お別れも言えなくて。……最後まで一緒に居てやれなくて。』
クラウス:それ以来、廃人同然になったロバート様。見世物小屋も時代の流れに淘汰されて行き、世界はロバート様を置き去りにしました。でも独りではなかったようです。
ロバート:『シェリ……そっちはどんな世界だ?母さんと元気で暮らしてるか?俺もすぐにそっちに行くからな……。』
クラウス:妄想に耽って束の間の幸福を得ていたのですね。そこで彼に転機と言う名の悲劇が訪れることになるのですか……実に興味深い。」
0:
0:犯罪者専用集団墓地、警備室。警備員がモニターで監視している。
0:
警備員:「(あくび)……外ではお祭り騒ぎってのに、こちとら夜勤だっつーの。死んだ囚人の監視で大忙し大忙し……ん?なんだ、この黒い影。このモニター、S級の仏さんが収容してあるフロアだな。……おいおいマジかよ!コイツら何処から湧いて出やがった!
警備員:緊急事態発生!侵入者が二人、S級フロアに現れた!どうやって入ったかって!?知らねえよ!オバケみたいに出てきたんだよ!ハロウィンだってのに、縁起でもねぇぜ!」
0:警報が響きわたる
エルジェベート:「あら?あっという間に気付かれてしまいましたわ。」
ロバート:「現代では監視カメラなるモノで遠隔から様子を伺うらしい。」
エルジェベート:「それはそれは、なんて窮屈なのでしょうか。おちおち悪事も働けないなんて。」
ロバート:「それが時代の潮流だ。お前が昔にやっていた様な事はすぐに暴かれる。」
エルジェベート:「そうであるなら、私めは格好の時代を謳歌していたと言うことですわね。十年ほどは平穏を保っていたのに、あのルター派の牧師さえ居なければと思うと……非常に悔やまれますわ!」
ロバート:「その辺にしておけ。仕事の時間だ。……ほら、来たぞ。」
警備員:「おい、動くな!両手を挙げろ!」
エルジェベート:「……ロバート様、あのお方は何を構えていらっしゃるのですか?」
ロバート:「拳銃だ。鉛の弾か飛んでくるぞ。」
警備員:「どうやってここに来た!ネズミ一匹も入れないと言うのに!」
エルジェベート:「貴方、なにを興奮してらっしゃるの?落ち着いて下さらない?」
警備員:「そこの女!動くなと言っただろ!次はないぞ!」
ロバート:「邪魔物は任せたぞ、エルジェベート。」
エルジェベート:「はい、ロバート様……」
0:エルジェベートの身体が黒く霧散し、胞子の様に中に舞いながら警備になびき寄る。
警備員:「え、女の姿が無くなった?……なんだこの黒い霧は!来るな、こっちに来るな!」
0:霧に向かって発砲する警備員。その真後ろにはエルジェベートが現れる。警備員の匂いを確かめるエルジェベート。
エルジェベート:「(匂いを嗅ぐ)……。貴方の血は穢れているわね。とっても不味そう。」
警備員:「うわ!どうして後ろに……ぐわっ!」
0:警備員の身体をエルジェベートの腕が貫く。
エルジェベート:「まあ生き血であるならば、この際なんでもいいのだけれど。」
0:貫いた警備員から血液を吸い取るエルジェベート。
ロバート:「形は崩すな。そいつはまだ使える。」
エルジェベート:「あら、それは失礼致しました。私めとしたことが……。」
0:警備員を投げ捨てるエルジェベート。
ロバート:「無理もない。程度は少しづつ覚えてゆけ。」
エルジェベート:「ロバート様……。」
エルジェベート:(M)『なんとお優しい!私めの失態をお許し下さるなんて!もっと貴方様の声で、身体でこの私めを躾け、蹂躙し陵辱して下さいな!もっと、もっと……ヴッ!?』
エルジェベート:「ゲホッ!」
ロバート:「無理をするな……そろそろ応援が駆け付ける。お前は遺体の確保を。残りは俺が使役する。」
エルジェベート:「ええ、ロバート様。仰せのままに。」
0:
0:収穫祭会場。人がごった返すなか、手当たり次第声を掛けまくるイノ。
0:
イノ:「っち、売り歩くたってどうすんだぁ?やったことねぇからわかんねぇっての。取り敢えず声かけてけば買ってくれるだろう。」
イノ:「おい、そこの狼みてぇな格好のバカカップル。このポテト買えよ。……え?いくらかって?じゃあ十ドルでいいよ。……はぁ?たけぇ?うるせぇ黙って買え!っておい、逃げるな!」
イノ:「……んだよあのバカップル、ムカつくなぁ。どいつもこいつも変な格好してハシャギやがって!クソ、なんにも面白くねぇぜ!」
0:そこで異様な仮装者とすれ違うイノ。
イノ:「おい、そこの鼻が曲がりそうになるほどクっセぇバカゾンビ。このポテト買えよ。」
0:動きを止める仮装者。黙りこくっている。
イノ:「……シカトこいてんじゃねぇよ!こっち向け!」
0:ゆっくり、ネチャネチャと音を立てながら振り返る仮装者。
イノ:「ん?おいお前、眼ン玉が無ぇじゃねぇか……って、うわ!手にウジ虫が!きったねぇ!」
0:慌てて後退るイノ。再び仮装者を見やると、何処にも居ない。
イノ:「あれ、どこ行った?……っけ、何も言わず行っちまいやがったぜ。……てか、腐った臭いに蛆虫、骸骨のツラ……今のって……モノホンの……ゾンビなんじゃ……」
0:
0:クラウス、さらにロバートの過去を掘り下げる
0:
クラウス:「家族を失い、仕事すら失ったロバート様は、街を徘徊していたようですね。そこに一つの焼夷弾が落ちてきた、と。当時は戦争真っ只中。彼が居た頃の街はちょうどヒノモト大帝国軍に占拠された年代。
クラウス:そこで彼は捕らえられ、生物工学に基づく臨床実験の被検体としてオモチャにされたと。
クラウス:結果として突然変異による不完全な不老不死を手に入れたようですね……非情な下級人類の野蛮な行為によって、彼は人間でなくなった。
クラウス:彼は肉体を維持する為に植え付けられた『モールドマゴッツ』の副作用によって死臭漂う生ける屍と成り果ててしまった……しかし。」
ロバート:『死者が叫んでいる。俺の役目を。数多ある果たせなかった無念の脱却を!』
クラウス:「彼は気付いてしまったようですね。自らの力で死者を蘇らせる事ことに。」
0:
0:出店で働くベロニカ。商品を売り切って一段落している。
0:
ベロニカ:「ふー!今年も完売したですー!はー疲れたですよー!ところでお兄さん遅いですね。どこでアブラ売っているのやらです……」
0:走ってくるイノ
イノ:「おーい!ガキ、聞け!」
ベロニカ:「お帰りでーす!ちゃんと全部売ってきやがったですか?」
イノ:「はぁ、はぁ、それどころじゃねぇんだよ!」
ベロニカ:「それどころですと!?このアル中めぇ!今、商売をバカにしたですね!撤回するです!」
イノ:「見たんだよ!」
ベロニカ:「何をです!」
イノ:「ゾンビだよ!」
ベロニカ:「だからなんなんです!その辺にクソほどいるですよ!」
イノ:「違う!マジモンの!ゾンビを!見たんだ!」
ベロニカ:「……」
イノ:「……理解、出来たか……どぅあっ!」
0:突然、イノの胸倉を掴んで詰めるベロニカ
ベロニカ:「連れてくるです!いま!すぐ!」
イノ:「急に胸ぐら掴みやがって!痛ぇなバカ、なに興奮してんだ!もうどっか行っちまってわかんねぇよ!」
ベロニカ:「なら!探すです!そいつの居た所に連れてけです、いま、すぐ、です!」
イノ:「わかったから離せバカ!マジで情緒ぶっ壊れてるな、お前!」
0:
0:遺体を回収し、施設の外に出てきたロバート達。
0:
エルジェベート:「ロバート様、例のご遺体は『オルドキマダッド』によって取り込みましたわ。『ブギーマンズ』の招集も次期に終わりますでしょう。」
ロバート:「そうか。……なぁエルジェベート。何故、人間は恐怖を好むのだろうか。」
エルジェベート:「そうですね……私は生前、様々な手法を用いて人間を殺めて来ましたが、誰一人として喜ぶ者はおりませんでしたわ。泣き叫び、許しを請い、最後は苦悶の表情を浮かべ絶命するのみです。」
ロバート:「ほう。ではなぜお前はその様なことしたんだ。」
エルジェベート:「それはもう、筆舌に尽くし難いほどの快楽がそこにあるからですわ!指先に針を一本、また一本と刺した時に堪らず発する絶叫を耳にすると昂揚感に苛まれ、生きたまま慎重に優しく身体を裂いて、波打つ心臓を素手で掴んだ時の全能感、そしてゆっくりと息絶えてゆくあの表情。逆さに吊るした処女を切り刻み、滴る生き血をグラスに溜めると、むせ返るほどの極上なワインが完成して……は!私めとしたことが、つい話過ぎてしまいましたわ!」
ロバート:「別にかまわん。つまり恐怖と死は隣り合わせということだ。生物は必ず死ぬ。しかし生きている間に死を体験することは不可能なんだ。」
エルジェベート:「確かにそうですわね。ということは、死への好奇心が故の行動であると。」
ロバート:「そうだ。死への恐怖は快楽に転化される。それと同時に恐怖を乗り越えた達成感を味わえる。だからみんな、恐怖が好きなんだ。」
エルジェベート:「その行き着く先が……私めの様な変態なのでございますね?フフフ。」
ロバート:「ってことはだ。ここに集まった連中が欲してるものはなんだ?」
エルジェベート:「甘い死……ですね?」
ロバート:「はっはっはっ!久々にやってやろうか!」
エルジェベート:「フフフ、ロバート様ったら、座長であった頃の血が騒いでますわね?」
ロバート:「俺はまだまだ現役だ!楽しんでもらおうじゃないか!フリークショウ……いいや、スプークショウの始まりだぁ!」
0:ロバート達の行動を怪訝に思うクラウス
クラウス:「ウップス?ロバート様の動きに異変が……まさか、余計な気でも起こしましたかな。全く、度し難いほどの変わり者ですね。」
0:
0:収穫祭、特設ステージ会場。血眼になってゾンビを探すベロニカ。
0:
ベロニカ:「どこです!?どこにいるです!?」
イノ:「おいおいおい、頼むから落ち着いてくれ。」
ベロニカ:「落ち着いていられますかですよ!こんな千載一遇のチャンス……逃す手はないです!」
イノ:「んなこと言ったって、どうやってこの人混みん中で見つけるんだ?」
ベロニカ:「人が集まるステージ会場に潜んでいるって、相場が決まってるんです!」
イノ:「そーゆーもんかねぇ……」
0:何かを知らせるかのように照明が光り、賑やかしく混雑する人々の注目を集める男が一人、ステージの上に立っている。
ロバート:「レディース&ジェントルメン!」
ベロニカ:「ん?なんですぅ、一体なにが始まるんです!?」
イノ:「なんか演目でも始まるんじゃねぇか?にしても、ステージに上がるような恰好じゃねぇな。なんだあの泥被ったようなドレッドヘアに、ボロッボロのコートとカーボーイハットは。きったねぇなぁ。」
ロバート:「今宵お見せいたしますは、世にも奇妙でおぞましい、地獄の底から蘇った異形の数々!とくとご覧あれ!」
0:ロバートの身体から放出された粘液で形作った人形の異形を御披露目する。
ベロニカ:「おおおーー!ネチョネチョした人形の物体が変な動きしてるです!キモい、キモいです!」
イノ:「ゾンビはもういいのか?」
ベロニカ:「後でいいです!」
イノ:「変わり身が早いっことで。それよりあの真っ黒い人形の奴……いや、考えすぎだな。あんなヘニョヘニョじゃねぇしな。」
ロバート:「続いては彷徨い歩く屍、蛆虫まみれの死臭漂う『ブギーマンズ』の登場だ!」
0:舞台袖からゾンビ達が現れ、踊り始める。
イノ:「今度はなんだ?どうせまた悪趣味な奴が……って、マジかよ!」
ベロニカ:「キャー!ゾンビが踊ってるですぅ!キモかっこいいです!」
イノ:「あれだよ俺が見たゾンビは!」
ベロニカ:「ホント凄いです!本物の死体が動いてるみたいです!」
イノ:「おい、聞いてんのかよ!」
ベロニカ:「なんですさっきから!邪魔しないで欲しいです!」
イノ:「バカ!あれがモノホンのゾンビなんだって!」
0:突如照明が落ちる。
ベロニカ:「あれ、照明が消えたです!なんて粋な演出なんですか!」
イノ:「な、なんだよ急に真っ暗にしやがって。何も見えねぇじゃねぇか。」
0:薄暗い照明が灯り、そこにロバートが現れ、子守唄を歌い始める。
ロバート:「ばあさんに言っといで、ばあさんに言っといで。年老いたガチョウが死んじゃった。」
ロバート:「ばあさんに言っといで、ばあさんに言っといで。腹を空かせたガチョウが死んじゃった。」
イノ:「ダンスのお次は子守唄かよ。」
ベロニカ:「しー!静かに見るです。」
ロバート:「ばあさんに言っといで、ばあさんに言っといで。灰色のガチョウが、死んじゃった……。」
イノ:「あん?灰色だって?」
ベロニカ:「シャラップ!」
ロバート:「さぁさぁこちらへおいでませ、死臭漂うガチョウ達……。さぁさぁ存分喰らい尽くすせ!前代未聞摩訶不思議、スプークショウの始まりだぁ!はーっはっはっは!」
0:ライトアップと同時に異形達が観客に襲い掛かかろうとする。逃げ惑う人々。
イノ:「おいおいおい、ゾンビが襲ってきやがったぜ!」
ベロニカ:「なんて素晴らしい演出です!もっと間近で見たいです!」
イノ:「おい待て!様子がおかしい!」
ベロニカ:「いやです!目の前まで行くです!」
エルジェベート:「お連れ致しますわ。」
ベロニカ:「え?……キャッ!」
0:ベロニカの目の前に黒い影が現れる。中から真っ青な腕が無数に伸び、ベロニカを引き込もうとする。
イノ:「な、なんだこの真っ黒な影は!」
エルジェベート:「さあさあ、おいでませ。こちらの蜜は極上ですことよ。フフフ。」
ベロニカ:「痛っ……助け……て……。」
イノ:「バカ、掴まれ!」
0:寸で間に合わず、暗闇に飲まれて行くベロニカ。影が徐々に霧散していく。
イノ:「クソ、ベロニカ!」
エルジェベート:「オーッホッホッホッホ!」
イノ:「ちっ、ダメもとだ!逃がすかよ、『マフピストルズ』!」
0:瞬時に銃を形成し僅かに残る暗闇に発砲する。弾丸は吸い込まれ、暗闇は程なく消えさった
イノ:「あのバカ……面倒に巻き込みやがって。」
0:誰もいないステージ会場で一人のイノ。ロバートが近寄り語りかける
ロバート:「逃げもせず、怖気づいている様子もない。……しかしそれで、恐怖に打ち勝ったつもりか?」
イノ:「てめぇ、こんなことしてただで済むと思ってんのかよ。」
ロバート:「おいおい、勘違いするな。これはエンターテイメントだ。観客は誰一人傷付けてはいない。」
イノ:「なに適当こいてんだ、テメェ!」
ロバート:「本当だとも。訳あって追い払っただけだからな。お前もさっさと逃げたほうがいい。身のためだ。」
イノ:「ふざけんな、こっちは大事な『酒蔵』が盗まれちまったんだ。返してもらわねぇとなぁ。」
ロバート:「『酒蔵』?一体何のことを……っ!?」
0:発砲音と共にロバートの被ったハットが宙を舞う。銃を向けているイノ。
イノ:「……俺さぁ、マジで短気なんだよ。」
ロバート:「フッ、俺のハットを弾くとは。見事な早撃ちだな。少しも気取る事が出来なかったぞ。」
イノ:「黙ってろ。ド玉に鉛ぶち込まれたくなかったら、女を連れ戻せ。」
ロバート:「あぁ……あの女の連れか。悪いが無理な話だ。」
イノ:「お前に選択肢はねぇよ。」
ロバート:「どうしてもと言うのなら……仕方がない。観客を手にかけるつもりは無かったんだが……。(手を鳴らす)」
0:ロバートが手を鳴らすと地面からブギーマンズが次々と飛び出してくる。
イノ:「なっ、地面からゾンビが!?」
ロバート:「喜べ『ブギーマンズ』!お前らへのプレゼントだ!存分に味わえ!」
ブギーマンズ:「(唸り声を上げて襲い掛かる)」
イノ:「……数が少ねぇっての。」
ロバート:「ん?」
イノ:「来い、『サタデーナイトスペシャル』!」
0:イノの両手が光り、拳銃が形成される。素早い銃捌きでブギーマンズを秒殺するイノ。
ロバート:「自らの力で二丁の拳銃を形成し、ブギーマンズを瞬く間に射撃するとは。それも、確実に仕留めながら。」
イノ:「大したことねぇな。ゾンビってのも。」
ロバート:「何者なんだ、お前は。」
イノ:「街の平和を守る正義のヒーロー……カウルーンセキュリティ巡回警備担当部署兼、特務課『メタファイブ』所属、イノ・カハナモクだ!現在絶賛謹慎中なんでよろしく!」
ロバート:「全くもって、世間の流れにはついていけないと思っていたが……いつの時代にも現れるものなんだな。『ヒーロー』と言うやつは。(手を鳴らす)」
0:再びブギーマンズが現れる。その数は倍以上に増えている。
イノ:「げっ、さっきより倍以上増えてやがる。ざっと50体くらいか……。」
ロバート:「もしお前が本物のヒーローで、この恐怖を乗り越え俺の元へたどり着くことが出来たのなら、女を返そう。」
イノ:「クソみたいゲームやらせやがって。速攻でクリアしてやるよ!」
ロバート:「間に合えば、の話だがな。」
イノ:「何だと?」
ロバート:「さあ!ここからがスプークショウの本髄だ!せいぜい楽しむんだな、このエンターテイメントを!はーっはっはっはっ!」
0:ロバートは突如現れた暗闇に飲まれ消えていった
イノ:「おいコラァ!待て!……くそ野郎、律儀にハットまで回収していきやがって。『間に合えば』ってことは、制限時間があるっつーことかよ。くそダリぃ……。」
0:付近の売店に二発撃ち込むと、外れた栓とビール瓶が宙へ上がりイノの手元に落ちてくる。イノはすかさず瓶を受け取り一気飲みする
イノ:「ゴクゴク……ふー!景気づけにしてはヌルいビールだが、我慢してやるよ!」
0:空いた瓶を宙に放り上げ打ち抜くイノ。
イノ:「さあ、良い子はお眠の時間だ!最高のサタデーナイトにしようぜ!」
0:無数の発砲音が響き渡る。
0:
0:メタファイヴの名を聞き、同様するクラウス。
クラウス:「メ、メタファイブですって!?ナイン、これはいけません!彼に邪魔されては困ります!即刻対処せねば!」
0:
0:エルジェベートが生み出した『オルドキマダッド』の空間に横たわるベロニカ。目を覚ます。
0:
ベロニカ:「……んん。」
エルジェベート:「やっとお目覚めですわね。」
ベロニカ:「その声……確か……」
エルジェベート:「つい乱暴にしてしまいましたわ。ごめん遊ばせ。」
ベロニカ:「ここは……」
エルジェベート:「ここは『オルドキマダッド』。私の腹の中、又は精神世界と言ったところでしょうか。」
ベロニカ:「なにそれ……どういう状況なんです?」
エルジェベート:「貴女はシェリお嬢様の大切な『母胎』となるのです。」
ベロニカ:「え、シェリって誰です?『母胎』って何の事です?」
エルジェベート:「お気になさらず、もうじき貴女の自我や身体は消滅してしまうのですから。」
ベロニカ:「う、噓です……そんな……どうして……」
エルジェベート:「でも、勿体ないですわねぇ。ただただ消してしまうなんて。」
0:歩み寄り顔を近付けるエルジェベート
ベロニカ:「い、一体何をするつもりです!?」
エルジェベート:「少しぐらい頂いてもよろしいですわよね。きっとロバート様もお許し下さる事でしょう。ええ、そう致しましょう」
ベロニカ:「ちょっと!待つです!」
エルジェベート:「ささやかな、私へのご褒美。頂きまぁす……。」
ベロニカ:「い、いやぁ……痛っ!」
0:ベロニカの首筋に噛付き血を啜り吸うエルジェベート
エルジェベート:「ジュルル……んん~~、これは……正真正銘、処女の血!生娘の生き血ですわぁ!極・上ぉ……」
ベロニカ:「個人情報漏らさないで下さいです!てか、わたし血ぃ啜られたですか!?貴女ヴァンパイアだったんです!?ってことは、私もヴァンパイアに……」
エルジェベート:「なりませんわよ。もうヴァンパイアではありませんので。これはただの趣味ですわ。」
ベロニカ:「なにそれ紛らわしい。なんか少し残念です……。」
0:そこにロバートが現れる。
ロバート:「何をしている。」
エルジェベート:「お帰りなさいませ、ロバート様!この者の血を少々いただきましたの。」
ロバート:「……エルジェベート。」
エルジェベート:「如何なさいましたか?……ぐっ!?」
0:エルジェベートの頬を鷲掴み顔を近づけるロバート。
ロバート:「勝手な真似をするな。大事な『母胎』なんだぞ?お前の汚い遺伝子が少しでも混じったらどうするつもりだ、オイ!」
エルジェベート:「キャッ!」
0:突き放されるエルジェベート
エルジェベート:(М)「あああぁぁぁ、鼻先が触れる合う寸での所でロバート様と見つめ合ってしまいましたわ!なんて眼福……!それに私めを乱暴に突き放す時の力強さ!卒倒寸前ですわ!粗相を働いた私めをもっと、もっとお仕置きしてくださいまし!……っ!?」
エルジェベート:「ゲホォっ!」
ベロニカ:「え!?血ぃ吐いてるです!さっき吸った私の血ぃ吐いてるです!」
ロバート:「おい。」
ベロニカ:「へ?……んぎゅっ!?」
0:ベロニカに近付き、またも頬を鷲掴みし嘗め回すように眺めるロバート
ロバート:「んー……。」
ベロニカ:「ぎゅう……ぎゅるしぃ……(苦しい)」
ロバート:「……ふっふっふ……完璧だ!」
ベロニカ:「あ痛った!」
0:突き放され頭を打つベロニカ
ロバート:「エルジェベート!儀式の準備だ!これで全てが報われる!」
エルジェベート:「わ、わかりましたわ!」
ロバート:「シェリ……待たせてごめんな。もうすぐだからな。」
ベロニカ:「私、一体どうなっちゃうんです……?」
0:
0:収穫祭会場、イノはゾンビを片付け終えている。
0:
イノ:「はぁはぁ……やっと終わったぁ。ゾンビのクセになかなかしぶとかったぜ。早くベロニカんところに行かねぇと……」
クラウス:「なりません!スタァベン!」
イノ:「なんだ……ぐはぁ!」
0:腹部に被弾するイノ
クラウス:「忌々しい煩わしいメタファイヴめ!今まさにホロコーストの如く熱く、何もかも吹き飛ばしてあげます!」
イノ:「『サタデーナイトスペシャル』!」
クラウス:「ウップス!」
イノ:「ぐうぅ……また訳の分からん奴が来やがったぜ……流石にもう相手できねぇっての。」
クラウス:「光学写像形成技術を採用し、使用者の質量をもとにインプットした武器を具現化する事が出来る装置『ドミニオン』。非常に厄介ではありますが、使用者を再起不能に至らしめればよいだけの事!」
イノ:「くそが、相手してられっかよ!こうなったら車で逃げるしかねぇ……」
クラウス:「我々に楯突くことは許されないのです!原子に還ったかのように踊りなさい、『トータルイクリプス』!」
0:クラウスの全身から無数の銃身が飛び出し、イノに照準を定めている
イノ:「身体中から銃身が出て来やがった!?ちっ、させるかよ!来い『チャーリーキラー』!」
クラウス:「ウップス、グレネードランチャー!?」
イノ:「爆ぜやがれぇ!」
0:粉々になるクラウス
イノ:「へっ、はじけ飛びやがったぜ。今のうちに……ぐっ!」
0:傷口から血が噴き出す
イノ:「ははは……こりゃあ、いいもん貰っちまったようだな。早くしねぇと俺までくたばっちまうぜ。待ってろよ、ベロニカ……。」
0:イノは車に乗ってベロニカの元へ急ぐ。散らばったクラウスの破片が収束をし、復元される。
クラウス:「……逃がしませんよ……メタファイヴ。」
0:
0:儀式に取りかかるロバート達。
0:
ベロニカ:「最悪です!なにこの黒いネバネバは!キモいです!」
ロバート:「心配するな、痛みを伴うことない。」
ベロニカ:「嫌です!今すぐ放すです!」
エルジェベート:「フフフ、生娘の足掻き苦しむ姿……懐かしいですわ。これが断末魔に変わると思うと……あぁ、極・上ぉ!」
ロバート:「エルジェベート、お前は黙って外の警戒に集中しろ。」
ベロニカ:「てか、何でこんなことするんです!私が何したって言うんです!?」
ロバート:「お前と話す事は無い。」
ベロニカ:「大ありです!どうせこれから殺されるんだから少しくらい聞かせてくれても良い筈です!」
ロバート:「……全くどうして、怯えていないのか。」
ベロニカ:「納得出来ませんからです!」
ロバート:「困った娘だ。……いいだろう。聞かせてやる。」
0:
0:盗んだ車でマフピストルズの反応を頼りに爆走するイノ。
0:
イノ:「はぁはぁ……早く、『マフピストルズ』の弾痕が消える前に辿り着かねぇと……っ!?」
0:突如ボンネットに落下し、しがみつくクラウス。
クラウス:「見つけました。今度は必ず仕留めます。」
イノ:「まだ生きてやがったか!ボンネットから降りやがれ!」
クラウス:「これ以上の邪魔立ては許しません!」
イノ:「くそが!喰らえ、『チャーリーキラー』!……ちっ、なんで出てこ
ねぇんだ!」
クラウス:「その出血量では、『ドミニオン』の使用は不可能ですね。」
イノ:「マジかよ……」
クラウス:「これでおしまいです。『ライトニング・ストライクス』!」
0:クラウスの口大きく開き、中から大砲が現れる。身体が大きく膨れ上がり始める。
イノ:「そんなでかい口開いて、中が丸見えじゃねぇか。」
クラウス:「消し飛びなさい!」
イノ:「消し飛ぶのは……テメェだ。」
クラウス:「ヴィー!?どうして銃が……『ドミニオン』は使えないはず!」
イノ:「あばよ。パーティーは、お開きだ。」
クラウス:「オーマインゴッ!」
0:実銃を撃ち込む。急所を弾かれ粉々になるクラウス。
イノ:「コイツを使う時が来るとはな。備えあれば憂いなし、助かったぜ……」
0:
0:ベロニカに全てを打ち明けるロバート。
0:
ベロニカ:「そんなことの為に……」
ロバート:「それが、俺の全てだ。」
ベロニカ:「そもそも無茶です!私から『その子』が産まれたとしても、それが貴方の娘さんだと本当に思えるんですか!?」
ロバート:「ああ、もちろんだ。」
ベロニカ:「おかしいです!貴方は間違ってる!」
ロバート:「……そうかもしれないが、俺にはこれしか無いんだ。」
エルジェベート:「この生娘、黙って聞いていれば……!ロバート様は何も間違ってなんておりませんわ!」
ロバート:「口を挟むな、エルジェベート。」
エルジェベート:「しかし……」
ベロニカ:「娘さんが、父親にそんな事をさせてまで生き返りたいと、そう思っているんですか?」
ロバート:「……」
ベロニカ:「貴方がしている行動は自分自身の気持ちの為であって、本当は娘さんの事なんてこれぽっち考えてないんです!」
ロバート:「……」
エルジェベート:「いい加減になさい、この生娘!」
ロバート:「……そんな事はとっくに分かっていたんだ。」
ベロニカ:「え?」
ロバート:「これは全て俺のエゴだ。ただの自己満足だ。」
エルジェベート:「ロバート様……ん?何かしら、あの光は……」
0:エルジェベート、外を見やると光が近づいていることに気付く
ロバート:「だがそれでいい。もう綺麗事などどうでもいいんだ。」
ベロニカ:「貴方は……悲しい人です。」
ロバート:「そうだな、知ってるとも。」
ベロニカ:「うっ、うぅ……。」
0:ロバートの身体から放たれる黒い粘液に覆われてゆくベロニカ。
ロバート:「これでいい。これでいいんだ……。」
エルジェベート:「まぁ大変!ロバート様!」
ロバート:「喧しくするな。気が散る。」
エルジェベート:「ああ!もう間に合いませんわ!」
ロバート:「何がだ……っ!?」
0:エルジェベートの作る亜空間の障壁に車で突っ込み穴をあけるイノ。ゆっくり車から降りてくる
イノ:「ゲホゲホ……ヒーローの御到着だぜ。」
エルジェベート:「貴様は、生娘と一緒に居た!どうしてここに……!?」
イノ:「あの時の姉ちゃんか……アンタが消える直前に打ち込んだ俺の『マフピストルズ』が目印になったんだよ。」
エルジェベート:「何なのその能力!でも残念でしたわね、もう手遅れですわ!」
イノ:「……なんだと?」
ロバート:「……」
エルジェベート:「間もなく儀式が終わりますわ!その頃にはシェリ様が無事顕現している事でしょう!」
イノ:「ふざけやがって……。おい、ゾンビ野郎!ベロニカを何処へやった!今すぐ返しやがれ!でないと、ド玉が穴だらけになるぜ!」
ロバート:「……」
0:
0:意識が遠退いてゆくベロニカ。
ベロニカ:「……私、本当に死んじゃうのかな。まだやりたい事がたくさんあったのに。父上様、母上様……さよなら。」
ベロニカ:「……あれ、この女の子の声は一体……貴女は、誰なの?」
0:
0:イノがロバートに拳銃を向けている。
エルジェベート:「フフフ、ロバート様にそんな攻撃が通用するとでも?それに、貴方が発砲するよりも先に私が貴方を血祭りにして差し上げますわ!」
ロバート:「……全く、困ったものだ。」
エルジェベート:「……え、ロバート様?」
ロバート:「まさか、本当にやってくるとはな。」
イノ:「諦めが、悪いもんでね……。」
ロバート:「だが、もう手遅れだ。」
イノ:「なんだと……!」
ロバート:「間も無く受胎は完了する。いくら足掻いたところで……ん?」
0:ロバート、粘液で包み込んだベロニカからシェリの声を聞く
エルジェベート:「ロバート様、いかがなさいましたか?」
ロバート:「シェリ……シェリなのか!」
イノ:「シェリ?」
ロバート:「そうだ、お父さんだ。……俺はお前を看取る事が出来なかったな。独りぼっちにさせて悪かった。だからこれからはその償いとして一緒に……。」
0:シェリの返事を聞くロバート。
ロバート:「……やはりな。」
エルジェベート:「ロバート様……。」
ロバート:「そうだよな。それでこそ俺の一人娘だ。母さんは元気にしてるか?……そうか、それは良かった。」
イノ:「さっきから何をしゃべってんだよ……。」
ロバート:「そろそろ時間のようだな。シェリ……愛してるぞ。」
0:外に出てくるベロニカ
イノ:「ベロニカ、大丈夫か!」
ベロニカ:「ゲホッゲホッ……」
ロバート:「心配するな、死にはしない。それよりお前……。」
イノ:「なんだよ……グアッ!」
0:ロバートの放った粘液がイノの傷口を塞ぐ
イノ:「てめぇ、何しやがった!」
ロバート:「失血死する前に傷口を塞いでおいた。治ったらその粘液は勝手に消失する。」
イノ:「どういうつもりなんだよ……」
ロバート:「……俺の負けだ。エルジェベート、行くぞ。」
エルジェベート:「ええ、仰せのままに。」
0:エルジェベートの亜空間が歪みだし、視界を奪われてゆくイノ。
イノ:「なんだ、黒いモヤが濃くなって……クソ、何も見えねぇ!」
ロバート:「これからもその子の為に頑張るんだな。」
イノ:「え?」
ロバート:「謹慎中の……『ヒーロー』さんよ。」
0:次第に視界は晴れ、月明かりに照らされるイノとベロニカ。大破した車の傍らに佇んでいた。
イノ:「……ん?ここは、何処だ?」
ベロニカ:「ううぅ……」
イノ:「ベロニカ、起きたか?」
ベロニカ:「ヒーロー……」
イノ:「なに?」
ベロニカ:「ヒーローが、助けてくれるもん……」
イノ:「……んだよ、ガキみてぇな夢見やがって。」
0:
0:『アッシュヅアッシュ』のアジトへ向かうロバート達
0:
エルジェベート:「……ロバート様。」
ロバート:「なんだ。」
エルジェベート:「本当に、よろしいのですか?」
ロバート:「ああ。娘が……シェリが決めた事だからな。」
エルジェベート:「ロバート様のお力であれば強引にでも『堕胎』させられたはず。ですのに……」
ロバート:「そんなことは望んでいない。シェリが可哀想じゃないか。」
エルジェベート:「……。」
ロバート:「……本当は、話がしたかっただけなんだ。最後の会話をな。」
ロバート:「久々に心が熱くなった。まるで人間であるかのようにな。」
エルジェベート:「……ロバート様は、紛う事なき人間です。」
ロバート:「フフ、『ブラッディカウンテス』と恐れられるお前に言われるとはな。」
エルジェベート:「一人も殺めること無く遺体を回収されるだなんて、凄いですわ!私めが貫いた者まで蘇生なさるんですもの!」
0:収穫祭会場にて、ゾンビダンスを踊っていた内の一人が目を覚ます。
警備員:「……うぅ、はうあぁ!夢!?え!ここどこ!傷は!傷……あれ、怪我してない?ってことは、夢?」
0:
エルジェベート:「それにロバート様は私めには無いモノを沢山お持ちですので。これからもご教示下さいな。」
ロバート:「ああ……ありがとう、エルジェベート。」
エルジェベート:「恐縮でございます……」
エルジェベート:(M)「ロバート様から感謝のお言葉なぞ……なぞ!こんな私めが頂けるだなんて!恐悦至、極・上ですわぁ~……ヴッ!」
エルジェベート:「ゲホッ!」
0:
0:『アッシュヅアッシュ』アジトにて。破壊されたクラウスの回収を見届ける、本体のクラウスがいる。
0:
クラウス:「……著しく破損したBI-22、回収完了。いやはや、参りました。あのメタファイヴが機能しているとは。しかし、カインプロブレム!今回の目的は達成したわけですからね!」
クラウス:「今は我々『アッシュ・ヅ・アッシュ』が力を蓄える時!他にも回収せねばならない遺体があります!」
クラウス:「そして、下級人類は自らの愚かさを思い知ることになるでしょう!『ホモスペリオール』の前に跪くのです!全ては、『セイキロス』の名の元に!」
0:
0:数日後、スラム街にある寂れたビルディングの一室で目を覚ますイノの姿。
0:
イノ:「………うあっちぃ!なんだよ、なんでこんな暑いだよ!もうシモツキになるってのに、異常気象にもほどがあるぜ!」
イノ:「たくっ、こんな暑い日はキンキンに冷えたビールを……って、また酒切らしてる。あーあ、また買い出し行かねぇとじゃん。」
0:
0:外へ出てしばらく歩いていると、ベロニカと遭遇する。
0:
ベロニカ:「……お!こんにちはでーす!」
イノ:「おお、クソガキか。」
ベロニカ:「開口一番でクソガキはあんまりです!クソ酒食らいの分際で!」
イノ:「お前も大概だぞ!んで、何やってんだ。私服でほっつき歩いて。サボりか?」
ベロニカ:「今日はお休みなんです!」
イノ:「あっそう。」
ベロニカ:「興味無さすぎです!自分から聞いておいてなんなんです!で、貴様は?」
イノ:「貴様って言うな!ちょっとした買い出しだ!」
ベロニカ:「まーたお酒ばっかり買うつもりですね!ちゃんとご飯食べてるんです?」
イノ:「大きなお世話だ!」
0:イノのお腹が鳴る
ベロニカ:「言ってるそばからお腹が鳴ってるですよ~?」
イノ:「寝起きなんだよ。そりゃ腹くらい鳴るだろ。」
ベロニカ:「仕方ないですね~、私が作ってあげるです!」
イノ:「……はぁ?」
ベロニカ:「たまにはお節介焼かせてくださいです!」
イノ:「いや、いいよめんどくさい……」
0:再び腹が鳴るイノ。
イノ:「……じゃあ、頼む。」
ベロニカ:「よーし!それじゃあ早速買い出しですね!行きましょう!」
イノ:「お、おいベロニカ、引っ張るなよ!……あ!」
ベロニカ:「……やっと面と向かって呼んでくれましたね、名前。」
イノ:「そ、そりゃあ嫌でも覚えるだろ……。」
ベロニカ:「実は聴こえてたんですよ。私を助けてくれた時に、何度も呼んでくれてたの。」
イノ:「マジでか!なんか恥ずぅ~……」
ベロニカ:「いいんですよ、嬉しかったんで。」
イノ:「そう……か。」
ベロニカ:「だってイノさんは、私の『ヒーロー』なんですから!」
イノ:「お前の、ヒーロー……」
ベロニカ:「フフッ!ほらほら、早く行くですよ!沢山ご馳走作らなくちゃ!」
イノ:「おい、だから引っ張るなって!危ないって、おい!ベロニカぁ~!」