台本概要

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タイトル Dusty Gate
作者名 アール/ドラゴス  (@Dragoss_R)
ジャンル その他
演者人数 4人用台本(男1、女1、不問2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ダスティ・ゲート。

埃被った扉を蹴破った先にあるものは、明日への希望か、堕落へ続く道か、それとも。

「裏切り者はいつも欺かれるものです。そう、ブルトゥスのように。」


【怨念の悪魔】第二幕 埃の章

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ウィリアム 不問 33 何が目的かもわからない謎の人物。
トパーズ 59 マフィア組織、“ジュリアス”の№2。 通称【黄金の右腕】。 ボスに対してとても忠実だが孤高。
ルージュ 42 “ジュリアス”の№3。通称【鮮血の左腕】。 使えるものは何でも使い、仲間も容易く切り捨てる性格。 今回トパーズを呼び出した張本人。
フロイド 不問 31 “ジュリアス”のメンバーによく情報を売っている情報屋。 通称【鷹の眼】。 今回の台本の舞台となっているクラブを経営している。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:ウィリアムのナレーション 0: ウィリアム:『安心、それが人間の最も近くにいる敵である。』…。 ウィリアム:まさにその通り。人はいつも、自分の信頼しているモノに欺かれる。 ウィリアム:さて…今宵の物語を始めるといたしましょう。 0: 0: 0:夜。都会の街の賑わうクラブに、男が一人訪れる。 トパーズ:…ハァ。 0:男は真っ先に受付に向かうと、店員に言う。 0: トパーズ:『怪物はいつも我らの胸に。』通してもらうぞ。 0: 0:男がそう言うと、店員は男を【STAFF ONLY】と書かれた扉に通す。 0:扉が開かれると、そこはクラブの音も聞こえない静かなバーだった。 0:そこにはカウンターに立つ人物が一人とカウンターで酒を嗜む人物が二人。 0: トパーズ:急に呼び出すとはどういう了見だ?ルージュ。 ルージュ:もう、遅いわよトパーズ。もう私、これ三杯目よ? フロイド:本当、“鮮血”さんはお酒のペースが速いよねぇ。 ルージュ:だって、飲まないとやっていられないもの。さ、トパーズもこっちに来て。 ルージュ:一緒に飲みましょう? トパーズ:…待て。それよりも先に俺の質問に答えろ。 ルージュ:なぁに、“黄金の右腕”さん。 トパーズ:“情報屋”はいい。だが…。そいつは誰だ? 0: 0:そうしてトパーズはグラスを傾けているウィリアムを指さす。 0: フロイド:あぁ、彼(彼女)は僕の友人だよ。 トパーズ:お前の話は聞いてない。俺はそこの女に聞いている。答えろ。 ルージュ:…もう、用心深いんだから。彼はただの一般人よ。殺し屋でも、なんなら裏世界の住人でもない。 トパーズ:なに…? ウィリアム:お初にお目にかかります、トパーズ殿。貴方の噂はかねがね…。 フロイド:彼(彼女)の名前はウィリアム。僕たちの世界のことをよく知っているが、知っているだけだ。 トパーズ:…信用ならん。 ルージュ:でしょうね。 ウィリアム:ですが、私は本当に何者でもない。そう、貴方が思っているような卑劣な殺し屋などでは。 トパーズ:…おい。やっぱりこいつ只者じゃねぇだろ。一般人がそんな思考に至るわけねぇだろうが。 ウィリアム:まぁ、一般人と言うのは間違いかもしれませんなぁ。 ウィリアム:なにせ、私はあなたたちのことをよく知っていますゆえ。 トパーズ:ほぅ。何を知っているというんだ? ウィリアム:ふむ…。そうですなぁ。では。今あなた方ファミリーの中で「セクト」が暴れていること。 ウィリアム:そして「セクト」によって組織の構成員が次々葬られている。 ウィリアム:つまり、今あなた方の組織…「ジュリアス」は混乱に陥っている。 ルージュ:わお、全部知ってるじゃない♪ ルージュ:そして、その件が今日あなたをここに呼んだ理由よ。 フロイド:あぁ、先に言っておくけど、僕達が先に告げ口してたわけじゃないよ。 フロイド:というか、ウィリアムは僕よりも遥かに情報を握っている。だが、彼は裏世界の人間ではない。 ルージュ:そして、表で生きる人間でもない。 トパーズ:…だから、“何者でもない”、と? ウィリアム:その通り。そして、私はこの場においては居るだけの人間。そんなに深く考えず結構です。 トパーズ:…はぁ。頭が混乱しやがる。 ルージュ:うふふ。でも安心して。本当に私たちはあなたを暗殺しようとかそういう考えは持っていないから。 トパーズ:…はぁ。いいだろう。今は信用してやる。だが下手な動きを見せたら容赦なく撃ち殺す。 ルージュ:いいわよ。まぁ、とにかくあなたもこっちに来なさい。話をしましょう? トパーズ:……。 0: 0:トパーズは二人の席から一つ離れた席に座る。 0: ウィリアム:話には聞いていましたが、本当に用心深いお方ですなぁ。 ルージュ:まぁ、そういうところが評価されて彼は成り上がったのだけれどね。 ルージュ:ボス以外の誰も信用しないそのやり方…。ふふ。私は好きよ。 トパーズ:だからそれはいい。早く要件を言え。 フロイド:あれ、君は飲まないのかい?“黄金”。 トパーズ:いらん。用件を聞いたらすぐ帰る。 ルージュ:もう…。本当、つれないわね。 ウィリアム:まぁまぁ。飲みたい者が飲めばよいのです。 フロイド:それもそうだね。さて、じゃあ何から話そうか? ルージュ:そうねぇ。じゃあまずは「セクト」の話かしら。 フロイド:そうだね、それから話すのが早い。 トパーズ:…ボスが頭を抱えている問題だ、流石に俺でも知っているぞ。 ルージュ:何を言っているの。ここがどこか忘れたのかしら? トパーズ:…そうか。お前は「セクト」に関わる情報を握っているのか。“鷹の眼”。 フロイド:当たり前だよ、トパーズ。君たちマフィアの話で、僕に握れない情報はない。 フロイド:そして僕は知っている。今、「セクト」に無関心なように見える君が、 フロイド:今一番「セクト」の情報を欲している。 トパーズ:…チッ。そういうことかよルージュ。 ルージュ:どういうことかしら? トパーズ:お前は俺に「セクト」の情報を売る代わりに俺から金か、何らかの情報を引き出そうとしている。 トパーズ:それで、“情報屋”とウィリアムはルージュに情報を売って金儲けがしたかった。そんなとこだろう。 ウィリアム:なるほど、良い考察ですな。どうなんです?ルージュ殿。 ルージュ:ふふ。不正解よ。「セクト」の情報は私がももうフロイドから買った。 ルージュ:そしてそれをあなたにタダで公開してあげる。 トパーズ:なんだと…?お前は何がしたいんだ?“鮮血の左腕”さんよ。 ルージュ:まぁまぁ。とりあえず話を最後まで聞きなさいよ。私がしたいのは取引ではないの。 ルージュ:じゃ、フロイド。あなたが知ってる「セクト」の情報をトパーズにも教えてあげて。 フロイド:はいはーい、かしこまりましたー。じゃあ共通して知っているであろう情報から。 フロイド:数か月前、君たちの組織の中に「セクト」という派閥ができた。 フロイド:彼らは組織で内乱を起こしており、既に「セクト」によって組織のメンバーが何十人も葬られている。 フロイド:しかし不思議なことに、未だに誰が裏で糸を引いているのかも目的もメンバーも分からない。 フロイド:…君が知っているのはここまでなんじゃないかな? トパーズ:……そうだ。つまり、俺は「セクト」について何も掴めていない。 トパーズ:情けない話だ。ボスの安寧が脅かされているのに、組織の右腕である俺が何も掴めていない。 ルージュ:でも、それはあなたのやり方にも問題があると思うけれどね。 ルージュ:情報屋を頼れば早いはずなのに、あなたはフロイドと一度もコンタクトを取らなかった。 ウィリアム:それはやはり、あなたがたった一人で成り上がった“黄金”であるがゆえなのでしょうが、 ウィリアム:そのままでは組織はどんどんと崩壊していきますぞ? トパーズ:…うるせぇ。話がそれた。お前が知っている情報を寄こせ、“鷹の眼”。 フロイド:はいはい、ではここからが本題だ。 フロイド:「セクト」とはね…。僕達のことだ。 トパーズ:……は? ルージュ:だから、私たちが組織で内乱を起こしている「セクト」。メンバーはこの三人と、もう一人いるわ。 0: 0:ルージュが言い終わるとすぐに部屋に銃声とグラスの割れる音が響く。 0:トパーズの持つ銃の銃口がルージュの左手に向いており、 0:ルージュの持っていたグラスは割れ、ルージュの左手に少し破片が刺さっている。 0: ルージュ:…いった……。 フロイド:あはは!腕まではいかないが、これが本当の“鮮血の左手”かいルージュ!? トパーズ:うるせぇ! 0: 0:もう一度銃声が響き、今度はフロイドが立つバーカウンターの酒瓶が一つ割れる。 0:フロイドはそれを見ても怖気づかず、ただカウンターで立ち尽くしている。 0: トパーズ:おい、そのもう一人は誰だ。吐け。吐いた後ぶち殺してやる。 ルージュ:…はぁ。 0: 0:すると三人は示し合わせたように両手を頭の後ろに組む。 0: トパーズ:…なに? フロイド:僕たちは抵抗しないってことだよ。“黄金”。 ウィリアム:なにか意図がなければ、ボスの右腕であるあなたに『我々が犯人です』と名乗り出るわけないでしょう? ルージュ:つまり、まだ話は終わっていないわ、トパーズ。最後まで話を聞いてくれないかしら。 ルージュ:最後まで話を聞いてくれたら殺されてあげるから。 フロイド:君だって気になるだろう?僕たちがなぜ組織を壊滅させようとしているのか、最後の一人が誰なのか。 ウィリアム:えぇ。その方がすっきりしますし…なにより。 ウィリアム:あなたのボスもお喜びになるかと。 トパーズ:……さっさと全て教えろ。 ルージュ:うふふ。ありがとう、トパーズ。 トパーズ:早く答えろ。ボスのために仕事は手早く済ませたいんだ。 ルージュ:はいはい。…それじゃあ真相解明と行きましょう。 ルージュ:なぜ組織を壊滅させようとしているか。簡単よ。ボスのやり方が嫌になったからよ。 トパーズ:…やり方だと?あの人は無害な人を陥れるなんてことはしていないはずだが。 ルージュ:…やっぱり、あなたはそう思っていたのね。 フロイド:ひぇー、これだから情報統制って言うのは怖いんだよねぇ。 トパーズ:なんの話をしている。 ルージュ:いい?今から言うことを取り乱さないで聞いて。 ルージュ:ボスは…。あなた以外の構成員に手酷い仕打ちをしているのよ。 ルージュ:…ボスの左腕であるこの私にも。 トパーズ:…何を言っている? ウィリアム:良いですか、トパーズ殿。貴方の信頼する「ジュリアス」のボスはあなたの前ではそれはそれは優しいマフィアなのかもしれません。 ウィリアム:ですがその笑顔は彼が被っている仮面に過ぎませぬ。その仮面の裏に隠された本性は、邪知暴虐(じゃちぼうぎゃく)なる暴君。 ウィリアム:自身の気に入らないものは総て粛清し、己(おの)が地位を脅かす者は容赦なく叩き潰す。 ウィリアム:そういうやり方をするように“なってしまった”のです。 トパーズ:…お前たち。ボスを侮辱すれば俺が怒って照準が定まらなくなると思っているなら大間違いだぞ。 フロイド:違うよトパーズ。事実なんだ。頼む、最後まで聞いてくれ。 ルージュ:確かに、あの方は確かにあなたが思っているように誰にでも優しい方だったわ。 ルージュ:だけどあの日を境にボスは人が変わったように変わってしまったのよ。 ルージュ:そう…。“深淵”(しんえん)が死んだ日を境に。 トパーズ:“深淵”…? フロイド:一年前。とある館で二つの死体が見つかった事件を知っているかい? トパーズ:…知らんな。 フロイド:なら説明しよう。一年前、とある屋敷の主人が惨殺された。名前は“ジャイブ・マーキュリー”。 ウィリアム:……。 フロイド:ジャイブの死体は寝室で発見されていて、ナイフで滅多刺しだったそうなんだが…。 フロイド:その館の裏庭に、もう一つ死体があった。 フロイド:その死体はジャイブ邸の使用人でも、血縁者でもない。 フロイド:「殺し屋」だったんだ。 トパーズ:へぇ…。で?そのどっちかがお前の言う“深淵”ってやつなのか? ルージュ:察しが早くて助かるわ。そう。裏庭で見つかった死体が“深淵”…。コードネームはそのまま“アビス”。 ルージュ:私、彼とは昔仕事のパートナーだったのよ。少しの間だったけどね。 ルージュ:そして、一年前私は初めて知ったの。 ルージュ:アビスとのパートナー関係は、ただの偶然じゃない。 ルージュ:ボスが私の腕を買って、『アビスを私に預けた』んだって。 トパーズ:どういうことだ。そのアビスってやつは、ボスにとってそんなにも重要だったってのか? フロイド:ああ。最重要だった。何せ…。 フロイド:『親子』だもの。 トパーズ:えっ…? フロイド:“深淵”…。アビスとボスは血の繋がった親子関係にあった。 フロイド:そしてそれは情報屋である僕が持っている機密情報リストに載っている。 トパーズ:…なん、だって……? フロイド:ボスはアビスのことをとても大事にしていた。 フロイド:もしアビスを人質に取られたり、存在を知られたらアビスもボスも組織も危ない。 フロイド:だから、誰にも知らせなかった。…アビスが死ぬまで、ずっと。 ウィリアム:そして、その館で起きた事件は奇妙なことに事件現場には凶器はおろか、 ウィリアム:血痕や痕跡すらまったくもって見当たらない。 ウィリアム:まるで誰かがきれいに掃除したように。 ウィリアム:寝室にも、裏庭にも。どこを探しても…あるのは死体だけだったそうです。 ルージュ:その事件は未だに未解決。 ルージュ:ボスはその事件以来誰も信用しなくなって、 ルージュ:アビスを殺した犯人を今でも捜している、という訳よ。 フロイド:そしてアビスを失ったショックであの世界一優しいマフィアは、 フロイド:冷酷な暴君になってしまったんだ。 トパーズ:…いや、嘘だ。お前たちは俺を騙そうとしているっ…! トパーズ:ならなぜ、俺だけには優しい顔を見せるんだ!? トパーズ:そしてそんなにボスが冷酷になったのなら、少しは俺の耳に入ってくるはずだ!俺をおちょくるの(もいい加減にしろ) ウィリアム:(被せる)彼は、貴方のことを自分の第二の子供のように思っているのですよ。“黄金の右腕”殿。 トパーズ:っ……! ウィリアム:当時道端に捨てられていた貴方を拾い、一から育てたのは紛れもなく彼でしょう。 ウィリアム:そして、貴方がマフィアになりたいと言ったとき、彼は本気で止めたはずです。 ウィリアム:それほど彼にとって、貴方は大事であり…。例え我を忘れていても、『カッコつけたい相手』なのでしょう。 トパーズ:そ、それでも俺の耳にはいって来なかったのは説明がつかないだろっ…!! ルージュ:つくわよ。そもそもあなたはたった独りで行動するじゃない。それに…。 ルージュ:もしあなたにボスが暴君になったことを知らせたことがバレたら…どうなるか知ったことじゃない。 ルージュ:みんな、言えなかったのよ。そしてそれほどまでにボスは悪に染まってしまっている。 トパーズ:嘘、だ…。嘘だっ、嘘だ嘘だぁッ!! フロイド:残念だけど。…全部事実だ。そして…これが君に一番見せたかったものだ。 0: 0:そういってフロイドは書類をトパーズに見せる。 0: トパーズ:これ、は…? ウィリアム:国外マフィアとの契約書。まぁ、要約すれば…。 ウィリアム:「ジュリアス」が麻薬売買に手を染める、という旨の契約書ですな。 トパーズ:麻薬だと…!? ルージュ:えぇ。「ジュリアス」ではその手のシノギだけはご法度。 ルージュ:理由は…。言わなくてもわかるわよね? トパーズ:で、でもボスは…!『すべてのマフィアが、人が手を取り合える世界にしたい』と言っていた! フロイド:…悲しいが、もうそれは過去の話だよ。トパーズ。 フロイド:そんなことを今のボスがもう思っていないことは、この紙が物語っているだろう。 トパーズ:そん、な…。なんでですか、ボス……っ!! 0: 0:トパーズは銃を手から落とし、その場に崩れ落ちる。 0: ルージュ:…あなたは本当にボスに心酔していたものね。そうなるのも無理はないわ。 ルージュ:そして…畳みかけるようで悪いけど、ここからが本題よ。 ルージュ:私たちと一緒に…ボスを暗殺してほしいの。 トパーズ:……暗、殺…だと? トパーズ:そんなこと、させるわけがないだろう…!! フロイド:彼は今や、組織の一番上で踏ん反り返る暴君だ。 フロイド:ミスをした構成員を躊躇(ちゅうちょ)なく殺し、街中で市民を巻き込んで平気で抗争を起こし…。 フロイド:そして今度は、この街に違法薬物をバラ撒こうとしている。 ウィリアム:…ここで悪は断っておくべきでありましょう。 ルージュ:今のボスは誰も信用してないわ。 ルージュ:…あなたを除いてね。 ルージュ:今、ボスを殺せるのは…。あなたしかいないのよ。トパーズ。いえ…。 ルージュ:ボスの“黄金の右腕”。 トパーズ:ふざけるなっ…! トパーズ:例えボスが悪に堕ちていたとしても…っ! トパーズ:俺には、ボスの右腕としての、ボスの“息子”としての誇りがあるっ…!! トパーズ:だから…だからっ!俺は(ボスを殺さない) ルージュ:『道を踏み間違えたマフィアは、正義が裁かなければならない。』 ルージュ:これは、誰の言葉だったかしら。 トパーズ:そ、それは…。ボス、の…。 ルージュ:…一緒にボスを止めましょう。そして…。あなたががボスの後を継ぐの。 フロイド:君が、ボスが言っていた『すべての人が手を取り合う世界』の後任者になるんだ。 トパーズ:あ、ぁ……。俺、は…。 ウィリアム:…トパーズ殿。貴方がずっと追いかけていた『憧れのボス』は、もういない。 ウィリアム:貴方は一体、闇に堕ちた恩人に何を見るのです?何を思うのです? ウィリアム:理由はどうあれ、貴方の知っているボスはもういない。なら貴方がするべきことはなんだ?貴方が為すべきことは? ウィリアム:貴方の夢は?希望は?ボスと共に作り上げてきたこの街か?それとも親の背中を見て見栄を張っていただけなのか? ウィリアム:『お前の光は、今、何処にある?』 トパーズ:あ…あぁぁぁぁぁ……っ!!俺は、ボスを…っ!ボスをっ……!! 場面切り替え 0:後日。組織「ジュリアス」。ボスの部屋。 0:床には倒れ伏すボスと、割れたグラスとそこに入っていたであろうハーブティー。 0:それを見て、立ち尽くすトパーズ: 0: トパーズ:あ、あぁぁ…。ボス、ボス……っ。 0: 0:数日前と同じように床に崩れるトパーズ。 0:それを見計らったかのようにルージュとフロイドが部屋に入ってくる。 0: ルージュ:…成功したようね。お疲れさま、トパーズ。 ルージュ:これからは、あなたが「ジュリアス」のボスよ。 フロイド:ふぅ…。これで、解放されるんだね。 ルージュ:…あぁ、そうそう。あの日、『「セクト」のメンバーはもう一人いる』と言ったけれど、 ルージュ:そのもう一人は『あなた』のことよ。ようこそ、「セクト」へ。 フロイド:とは言っても、もう解散だけどね。 トパーズ:俺は…。この人なしでどう生きればいいのか、わからないっ……!! トパーズ:組織を良い方向に導ける気がしないんだ、ルージュ…! ルージュ:…でしょうね。なら。 0: 0:刹那、彼の視界が眩む。 0: 0: ルージュ:ここで死ねばいいわ。 0: 0: 0:ぐさり、という鈍い音と共に。 0: トパーズ:…は? 0: 0:鮮血が床に垂れる。 0:既に床に伏していた彼の後ろからナイフを突き刺したのは、 0:フロイドだった。 0: トパーズ:な、ぜ……。ルージュ…?フロイ、ド…? ルージュ:そんなの簡単よ。『全部嘘だったから』。 ルージュ:アビスの事件とパートナー関係は本当だけれどね。 フロイド:アビスがボスの子供っていうのはおろか、ボスが悪の道に走ったってのも嘘さ。 フロイド:つまり、君は…。 フロイド:何の罪もない、君が思う通りのボスを君自らの手で殺した、ってことさ。 トパーズ:そ、ん…な……。ボス……っ、俺は…なんてこと、を…。 ルージュ:よかったじゃない。憧れのボスと一緒に死ねるだなんて。幸福よ? ルージュ:これからは左腕だった私が「ジュリアス」のボスとしてやっていくから。 ルージュ:安心して死んで頂戴? フロイド:あぁ、そうそう。あの日見せた違法薬物取引の紙だけど。あれ、半分は本当でね? フロイド:契約をしたのはボスじゃなくて、僕とルージュ。 フロイド:これからは薬物取引も使って、より組織を拡大していくから。地獄で見守っててよ。 トパーズ:お前、ら…。クソ野郎ども、がぁぁ……っ! フロイド:君たちみたいな裏世界にいるのに中途半端で、カッコつけたマフィアはもういらないんだよ。 ルージュ:だから、もう喋らないで。さっさと、 0: 0: 0: ルージュ:死ね。 0: 0:部屋に、鈍い銃声が響いた……。 0:場面転換。 0: 0:「あなた」は劇場の観客席におり、舞台を見つめている。 0: 0:舞台の袖からウィリアムが出てきて、観客に向けて話し始める。 0: ウィリアム:皆さま。此度(こたび)も観劇、ありがとうございました。 0: ウィリアム:『「埃まみれの扉」を蹴破った先にあったのは。』 0: ウィリアム:『紛れもない絶望と、冷たい死であった。』 0: ウィリアム:『黄金』に輝いていた宝石は、 0: ウィリアム:『鮮血』に惑わされ、 0: ウィリアム:『裏切り者』となったとき、 0: ウィリアム:『黒く』淀(よど)み、いとも簡単に割れてしまった。 0: ウィリアム:ふふふ…。なんという悲劇でありましょうか。 0: ウィリアム:皆さまも、くれぐれもお気をつけて。 0: ウィリアム:この世に蔓延る“悪意”は…。いつ襲ってくるかわかりませぬ。 0: ウィリアム:そう、“我々”は…。いつでも、人の感情に溶け込むのです。 0: ウィリアム:ほら、今だって、 0: ウィリアム:悪意は、あなたのすぐそばに。 0: 0: 0:ウィリアムの薄気味悪い笑い声が響いている……。 0: 0:End

0:ウィリアムのナレーション 0: ウィリアム:『安心、それが人間の最も近くにいる敵である。』…。 ウィリアム:まさにその通り。人はいつも、自分の信頼しているモノに欺かれる。 ウィリアム:さて…今宵の物語を始めるといたしましょう。 0: 0: 0:夜。都会の街の賑わうクラブに、男が一人訪れる。 トパーズ:…ハァ。 0:男は真っ先に受付に向かうと、店員に言う。 0: トパーズ:『怪物はいつも我らの胸に。』通してもらうぞ。 0: 0:男がそう言うと、店員は男を【STAFF ONLY】と書かれた扉に通す。 0:扉が開かれると、そこはクラブの音も聞こえない静かなバーだった。 0:そこにはカウンターに立つ人物が一人とカウンターで酒を嗜む人物が二人。 0: トパーズ:急に呼び出すとはどういう了見だ?ルージュ。 ルージュ:もう、遅いわよトパーズ。もう私、これ三杯目よ? フロイド:本当、“鮮血”さんはお酒のペースが速いよねぇ。 ルージュ:だって、飲まないとやっていられないもの。さ、トパーズもこっちに来て。 ルージュ:一緒に飲みましょう? トパーズ:…待て。それよりも先に俺の質問に答えろ。 ルージュ:なぁに、“黄金の右腕”さん。 トパーズ:“情報屋”はいい。だが…。そいつは誰だ? 0: 0:そうしてトパーズはグラスを傾けているウィリアムを指さす。 0: フロイド:あぁ、彼(彼女)は僕の友人だよ。 トパーズ:お前の話は聞いてない。俺はそこの女に聞いている。答えろ。 ルージュ:…もう、用心深いんだから。彼はただの一般人よ。殺し屋でも、なんなら裏世界の住人でもない。 トパーズ:なに…? ウィリアム:お初にお目にかかります、トパーズ殿。貴方の噂はかねがね…。 フロイド:彼(彼女)の名前はウィリアム。僕たちの世界のことをよく知っているが、知っているだけだ。 トパーズ:…信用ならん。 ルージュ:でしょうね。 ウィリアム:ですが、私は本当に何者でもない。そう、貴方が思っているような卑劣な殺し屋などでは。 トパーズ:…おい。やっぱりこいつ只者じゃねぇだろ。一般人がそんな思考に至るわけねぇだろうが。 ウィリアム:まぁ、一般人と言うのは間違いかもしれませんなぁ。 ウィリアム:なにせ、私はあなたたちのことをよく知っていますゆえ。 トパーズ:ほぅ。何を知っているというんだ? ウィリアム:ふむ…。そうですなぁ。では。今あなた方ファミリーの中で「セクト」が暴れていること。 ウィリアム:そして「セクト」によって組織の構成員が次々葬られている。 ウィリアム:つまり、今あなた方の組織…「ジュリアス」は混乱に陥っている。 ルージュ:わお、全部知ってるじゃない♪ ルージュ:そして、その件が今日あなたをここに呼んだ理由よ。 フロイド:あぁ、先に言っておくけど、僕達が先に告げ口してたわけじゃないよ。 フロイド:というか、ウィリアムは僕よりも遥かに情報を握っている。だが、彼は裏世界の人間ではない。 ルージュ:そして、表で生きる人間でもない。 トパーズ:…だから、“何者でもない”、と? ウィリアム:その通り。そして、私はこの場においては居るだけの人間。そんなに深く考えず結構です。 トパーズ:…はぁ。頭が混乱しやがる。 ルージュ:うふふ。でも安心して。本当に私たちはあなたを暗殺しようとかそういう考えは持っていないから。 トパーズ:…はぁ。いいだろう。今は信用してやる。だが下手な動きを見せたら容赦なく撃ち殺す。 ルージュ:いいわよ。まぁ、とにかくあなたもこっちに来なさい。話をしましょう? トパーズ:……。 0: 0:トパーズは二人の席から一つ離れた席に座る。 0: ウィリアム:話には聞いていましたが、本当に用心深いお方ですなぁ。 ルージュ:まぁ、そういうところが評価されて彼は成り上がったのだけれどね。 ルージュ:ボス以外の誰も信用しないそのやり方…。ふふ。私は好きよ。 トパーズ:だからそれはいい。早く要件を言え。 フロイド:あれ、君は飲まないのかい?“黄金”。 トパーズ:いらん。用件を聞いたらすぐ帰る。 ルージュ:もう…。本当、つれないわね。 ウィリアム:まぁまぁ。飲みたい者が飲めばよいのです。 フロイド:それもそうだね。さて、じゃあ何から話そうか? ルージュ:そうねぇ。じゃあまずは「セクト」の話かしら。 フロイド:そうだね、それから話すのが早い。 トパーズ:…ボスが頭を抱えている問題だ、流石に俺でも知っているぞ。 ルージュ:何を言っているの。ここがどこか忘れたのかしら? トパーズ:…そうか。お前は「セクト」に関わる情報を握っているのか。“鷹の眼”。 フロイド:当たり前だよ、トパーズ。君たちマフィアの話で、僕に握れない情報はない。 フロイド:そして僕は知っている。今、「セクト」に無関心なように見える君が、 フロイド:今一番「セクト」の情報を欲している。 トパーズ:…チッ。そういうことかよルージュ。 ルージュ:どういうことかしら? トパーズ:お前は俺に「セクト」の情報を売る代わりに俺から金か、何らかの情報を引き出そうとしている。 トパーズ:それで、“情報屋”とウィリアムはルージュに情報を売って金儲けがしたかった。そんなとこだろう。 ウィリアム:なるほど、良い考察ですな。どうなんです?ルージュ殿。 ルージュ:ふふ。不正解よ。「セクト」の情報は私がももうフロイドから買った。 ルージュ:そしてそれをあなたにタダで公開してあげる。 トパーズ:なんだと…?お前は何がしたいんだ?“鮮血の左腕”さんよ。 ルージュ:まぁまぁ。とりあえず話を最後まで聞きなさいよ。私がしたいのは取引ではないの。 ルージュ:じゃ、フロイド。あなたが知ってる「セクト」の情報をトパーズにも教えてあげて。 フロイド:はいはーい、かしこまりましたー。じゃあ共通して知っているであろう情報から。 フロイド:数か月前、君たちの組織の中に「セクト」という派閥ができた。 フロイド:彼らは組織で内乱を起こしており、既に「セクト」によって組織のメンバーが何十人も葬られている。 フロイド:しかし不思議なことに、未だに誰が裏で糸を引いているのかも目的もメンバーも分からない。 フロイド:…君が知っているのはここまでなんじゃないかな? トパーズ:……そうだ。つまり、俺は「セクト」について何も掴めていない。 トパーズ:情けない話だ。ボスの安寧が脅かされているのに、組織の右腕である俺が何も掴めていない。 ルージュ:でも、それはあなたのやり方にも問題があると思うけれどね。 ルージュ:情報屋を頼れば早いはずなのに、あなたはフロイドと一度もコンタクトを取らなかった。 ウィリアム:それはやはり、あなたがたった一人で成り上がった“黄金”であるがゆえなのでしょうが、 ウィリアム:そのままでは組織はどんどんと崩壊していきますぞ? トパーズ:…うるせぇ。話がそれた。お前が知っている情報を寄こせ、“鷹の眼”。 フロイド:はいはい、ではここからが本題だ。 フロイド:「セクト」とはね…。僕達のことだ。 トパーズ:……は? ルージュ:だから、私たちが組織で内乱を起こしている「セクト」。メンバーはこの三人と、もう一人いるわ。 0: 0:ルージュが言い終わるとすぐに部屋に銃声とグラスの割れる音が響く。 0:トパーズの持つ銃の銃口がルージュの左手に向いており、 0:ルージュの持っていたグラスは割れ、ルージュの左手に少し破片が刺さっている。 0: ルージュ:…いった……。 フロイド:あはは!腕まではいかないが、これが本当の“鮮血の左手”かいルージュ!? トパーズ:うるせぇ! 0: 0:もう一度銃声が響き、今度はフロイドが立つバーカウンターの酒瓶が一つ割れる。 0:フロイドはそれを見ても怖気づかず、ただカウンターで立ち尽くしている。 0: トパーズ:おい、そのもう一人は誰だ。吐け。吐いた後ぶち殺してやる。 ルージュ:…はぁ。 0: 0:すると三人は示し合わせたように両手を頭の後ろに組む。 0: トパーズ:…なに? フロイド:僕たちは抵抗しないってことだよ。“黄金”。 ウィリアム:なにか意図がなければ、ボスの右腕であるあなたに『我々が犯人です』と名乗り出るわけないでしょう? ルージュ:つまり、まだ話は終わっていないわ、トパーズ。最後まで話を聞いてくれないかしら。 ルージュ:最後まで話を聞いてくれたら殺されてあげるから。 フロイド:君だって気になるだろう?僕たちがなぜ組織を壊滅させようとしているのか、最後の一人が誰なのか。 ウィリアム:えぇ。その方がすっきりしますし…なにより。 ウィリアム:あなたのボスもお喜びになるかと。 トパーズ:……さっさと全て教えろ。 ルージュ:うふふ。ありがとう、トパーズ。 トパーズ:早く答えろ。ボスのために仕事は手早く済ませたいんだ。 ルージュ:はいはい。…それじゃあ真相解明と行きましょう。 ルージュ:なぜ組織を壊滅させようとしているか。簡単よ。ボスのやり方が嫌になったからよ。 トパーズ:…やり方だと?あの人は無害な人を陥れるなんてことはしていないはずだが。 ルージュ:…やっぱり、あなたはそう思っていたのね。 フロイド:ひぇー、これだから情報統制って言うのは怖いんだよねぇ。 トパーズ:なんの話をしている。 ルージュ:いい?今から言うことを取り乱さないで聞いて。 ルージュ:ボスは…。あなた以外の構成員に手酷い仕打ちをしているのよ。 ルージュ:…ボスの左腕であるこの私にも。 トパーズ:…何を言っている? ウィリアム:良いですか、トパーズ殿。貴方の信頼する「ジュリアス」のボスはあなたの前ではそれはそれは優しいマフィアなのかもしれません。 ウィリアム:ですがその笑顔は彼が被っている仮面に過ぎませぬ。その仮面の裏に隠された本性は、邪知暴虐(じゃちぼうぎゃく)なる暴君。 ウィリアム:自身の気に入らないものは総て粛清し、己(おの)が地位を脅かす者は容赦なく叩き潰す。 ウィリアム:そういうやり方をするように“なってしまった”のです。 トパーズ:…お前たち。ボスを侮辱すれば俺が怒って照準が定まらなくなると思っているなら大間違いだぞ。 フロイド:違うよトパーズ。事実なんだ。頼む、最後まで聞いてくれ。 ルージュ:確かに、あの方は確かにあなたが思っているように誰にでも優しい方だったわ。 ルージュ:だけどあの日を境にボスは人が変わったように変わってしまったのよ。 ルージュ:そう…。“深淵”(しんえん)が死んだ日を境に。 トパーズ:“深淵”…? フロイド:一年前。とある館で二つの死体が見つかった事件を知っているかい? トパーズ:…知らんな。 フロイド:なら説明しよう。一年前、とある屋敷の主人が惨殺された。名前は“ジャイブ・マーキュリー”。 ウィリアム:……。 フロイド:ジャイブの死体は寝室で発見されていて、ナイフで滅多刺しだったそうなんだが…。 フロイド:その館の裏庭に、もう一つ死体があった。 フロイド:その死体はジャイブ邸の使用人でも、血縁者でもない。 フロイド:「殺し屋」だったんだ。 トパーズ:へぇ…。で?そのどっちかがお前の言う“深淵”ってやつなのか? ルージュ:察しが早くて助かるわ。そう。裏庭で見つかった死体が“深淵”…。コードネームはそのまま“アビス”。 ルージュ:私、彼とは昔仕事のパートナーだったのよ。少しの間だったけどね。 ルージュ:そして、一年前私は初めて知ったの。 ルージュ:アビスとのパートナー関係は、ただの偶然じゃない。 ルージュ:ボスが私の腕を買って、『アビスを私に預けた』んだって。 トパーズ:どういうことだ。そのアビスってやつは、ボスにとってそんなにも重要だったってのか? フロイド:ああ。最重要だった。何せ…。 フロイド:『親子』だもの。 トパーズ:えっ…? フロイド:“深淵”…。アビスとボスは血の繋がった親子関係にあった。 フロイド:そしてそれは情報屋である僕が持っている機密情報リストに載っている。 トパーズ:…なん、だって……? フロイド:ボスはアビスのことをとても大事にしていた。 フロイド:もしアビスを人質に取られたり、存在を知られたらアビスもボスも組織も危ない。 フロイド:だから、誰にも知らせなかった。…アビスが死ぬまで、ずっと。 ウィリアム:そして、その館で起きた事件は奇妙なことに事件現場には凶器はおろか、 ウィリアム:血痕や痕跡すらまったくもって見当たらない。 ウィリアム:まるで誰かがきれいに掃除したように。 ウィリアム:寝室にも、裏庭にも。どこを探しても…あるのは死体だけだったそうです。 ルージュ:その事件は未だに未解決。 ルージュ:ボスはその事件以来誰も信用しなくなって、 ルージュ:アビスを殺した犯人を今でも捜している、という訳よ。 フロイド:そしてアビスを失ったショックであの世界一優しいマフィアは、 フロイド:冷酷な暴君になってしまったんだ。 トパーズ:…いや、嘘だ。お前たちは俺を騙そうとしているっ…! トパーズ:ならなぜ、俺だけには優しい顔を見せるんだ!? トパーズ:そしてそんなにボスが冷酷になったのなら、少しは俺の耳に入ってくるはずだ!俺をおちょくるの(もいい加減にしろ) ウィリアム:(被せる)彼は、貴方のことを自分の第二の子供のように思っているのですよ。“黄金の右腕”殿。 トパーズ:っ……! ウィリアム:当時道端に捨てられていた貴方を拾い、一から育てたのは紛れもなく彼でしょう。 ウィリアム:そして、貴方がマフィアになりたいと言ったとき、彼は本気で止めたはずです。 ウィリアム:それほど彼にとって、貴方は大事であり…。例え我を忘れていても、『カッコつけたい相手』なのでしょう。 トパーズ:そ、それでも俺の耳にはいって来なかったのは説明がつかないだろっ…!! ルージュ:つくわよ。そもそもあなたはたった独りで行動するじゃない。それに…。 ルージュ:もしあなたにボスが暴君になったことを知らせたことがバレたら…どうなるか知ったことじゃない。 ルージュ:みんな、言えなかったのよ。そしてそれほどまでにボスは悪に染まってしまっている。 トパーズ:嘘、だ…。嘘だっ、嘘だ嘘だぁッ!! フロイド:残念だけど。…全部事実だ。そして…これが君に一番見せたかったものだ。 0: 0:そういってフロイドは書類をトパーズに見せる。 0: トパーズ:これ、は…? ウィリアム:国外マフィアとの契約書。まぁ、要約すれば…。 ウィリアム:「ジュリアス」が麻薬売買に手を染める、という旨の契約書ですな。 トパーズ:麻薬だと…!? ルージュ:えぇ。「ジュリアス」ではその手のシノギだけはご法度。 ルージュ:理由は…。言わなくてもわかるわよね? トパーズ:で、でもボスは…!『すべてのマフィアが、人が手を取り合える世界にしたい』と言っていた! フロイド:…悲しいが、もうそれは過去の話だよ。トパーズ。 フロイド:そんなことを今のボスがもう思っていないことは、この紙が物語っているだろう。 トパーズ:そん、な…。なんでですか、ボス……っ!! 0: 0:トパーズは銃を手から落とし、その場に崩れ落ちる。 0: ルージュ:…あなたは本当にボスに心酔していたものね。そうなるのも無理はないわ。 ルージュ:そして…畳みかけるようで悪いけど、ここからが本題よ。 ルージュ:私たちと一緒に…ボスを暗殺してほしいの。 トパーズ:……暗、殺…だと? トパーズ:そんなこと、させるわけがないだろう…!! フロイド:彼は今や、組織の一番上で踏ん反り返る暴君だ。 フロイド:ミスをした構成員を躊躇(ちゅうちょ)なく殺し、街中で市民を巻き込んで平気で抗争を起こし…。 フロイド:そして今度は、この街に違法薬物をバラ撒こうとしている。 ウィリアム:…ここで悪は断っておくべきでありましょう。 ルージュ:今のボスは誰も信用してないわ。 ルージュ:…あなたを除いてね。 ルージュ:今、ボスを殺せるのは…。あなたしかいないのよ。トパーズ。いえ…。 ルージュ:ボスの“黄金の右腕”。 トパーズ:ふざけるなっ…! トパーズ:例えボスが悪に堕ちていたとしても…っ! トパーズ:俺には、ボスの右腕としての、ボスの“息子”としての誇りがあるっ…!! トパーズ:だから…だからっ!俺は(ボスを殺さない) ルージュ:『道を踏み間違えたマフィアは、正義が裁かなければならない。』 ルージュ:これは、誰の言葉だったかしら。 トパーズ:そ、それは…。ボス、の…。 ルージュ:…一緒にボスを止めましょう。そして…。あなたががボスの後を継ぐの。 フロイド:君が、ボスが言っていた『すべての人が手を取り合う世界』の後任者になるんだ。 トパーズ:あ、ぁ……。俺、は…。 ウィリアム:…トパーズ殿。貴方がずっと追いかけていた『憧れのボス』は、もういない。 ウィリアム:貴方は一体、闇に堕ちた恩人に何を見るのです?何を思うのです? ウィリアム:理由はどうあれ、貴方の知っているボスはもういない。なら貴方がするべきことはなんだ?貴方が為すべきことは? ウィリアム:貴方の夢は?希望は?ボスと共に作り上げてきたこの街か?それとも親の背中を見て見栄を張っていただけなのか? ウィリアム:『お前の光は、今、何処にある?』 トパーズ:あ…あぁぁぁぁぁ……っ!!俺は、ボスを…っ!ボスをっ……!! 場面切り替え 0:後日。組織「ジュリアス」。ボスの部屋。 0:床には倒れ伏すボスと、割れたグラスとそこに入っていたであろうハーブティー。 0:それを見て、立ち尽くすトパーズ: 0: トパーズ:あ、あぁぁ…。ボス、ボス……っ。 0: 0:数日前と同じように床に崩れるトパーズ。 0:それを見計らったかのようにルージュとフロイドが部屋に入ってくる。 0: ルージュ:…成功したようね。お疲れさま、トパーズ。 ルージュ:これからは、あなたが「ジュリアス」のボスよ。 フロイド:ふぅ…。これで、解放されるんだね。 ルージュ:…あぁ、そうそう。あの日、『「セクト」のメンバーはもう一人いる』と言ったけれど、 ルージュ:そのもう一人は『あなた』のことよ。ようこそ、「セクト」へ。 フロイド:とは言っても、もう解散だけどね。 トパーズ:俺は…。この人なしでどう生きればいいのか、わからないっ……!! トパーズ:組織を良い方向に導ける気がしないんだ、ルージュ…! ルージュ:…でしょうね。なら。 0: 0:刹那、彼の視界が眩む。 0: 0: ルージュ:ここで死ねばいいわ。 0: 0: 0:ぐさり、という鈍い音と共に。 0: トパーズ:…は? 0: 0:鮮血が床に垂れる。 0:既に床に伏していた彼の後ろからナイフを突き刺したのは、 0:フロイドだった。 0: トパーズ:な、ぜ……。ルージュ…?フロイ、ド…? ルージュ:そんなの簡単よ。『全部嘘だったから』。 ルージュ:アビスの事件とパートナー関係は本当だけれどね。 フロイド:アビスがボスの子供っていうのはおろか、ボスが悪の道に走ったってのも嘘さ。 フロイド:つまり、君は…。 フロイド:何の罪もない、君が思う通りのボスを君自らの手で殺した、ってことさ。 トパーズ:そ、ん…な……。ボス……っ、俺は…なんてこと、を…。 ルージュ:よかったじゃない。憧れのボスと一緒に死ねるだなんて。幸福よ? ルージュ:これからは左腕だった私が「ジュリアス」のボスとしてやっていくから。 ルージュ:安心して死んで頂戴? フロイド:あぁ、そうそう。あの日見せた違法薬物取引の紙だけど。あれ、半分は本当でね? フロイド:契約をしたのはボスじゃなくて、僕とルージュ。 フロイド:これからは薬物取引も使って、より組織を拡大していくから。地獄で見守っててよ。 トパーズ:お前、ら…。クソ野郎ども、がぁぁ……っ! フロイド:君たちみたいな裏世界にいるのに中途半端で、カッコつけたマフィアはもういらないんだよ。 ルージュ:だから、もう喋らないで。さっさと、 0: 0: 0: ルージュ:死ね。 0: 0:部屋に、鈍い銃声が響いた……。 0:場面転換。 0: 0:「あなた」は劇場の観客席におり、舞台を見つめている。 0: 0:舞台の袖からウィリアムが出てきて、観客に向けて話し始める。 0: ウィリアム:皆さま。此度(こたび)も観劇、ありがとうございました。 0: ウィリアム:『「埃まみれの扉」を蹴破った先にあったのは。』 0: ウィリアム:『紛れもない絶望と、冷たい死であった。』 0: ウィリアム:『黄金』に輝いていた宝石は、 0: ウィリアム:『鮮血』に惑わされ、 0: ウィリアム:『裏切り者』となったとき、 0: ウィリアム:『黒く』淀(よど)み、いとも簡単に割れてしまった。 0: ウィリアム:ふふふ…。なんという悲劇でありましょうか。 0: ウィリアム:皆さまも、くれぐれもお気をつけて。 0: ウィリアム:この世に蔓延る“悪意”は…。いつ襲ってくるかわかりませぬ。 0: ウィリアム:そう、“我々”は…。いつでも、人の感情に溶け込むのです。 0: ウィリアム:ほら、今だって、 0: ウィリアム:悪意は、あなたのすぐそばに。 0: 0: 0:ウィリアムの薄気味悪い笑い声が響いている……。 0: 0:End