台本概要
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タイトル | 語彙力なし王国 |
---|---|
作者名 | れん (@madteadrinker1) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 4人用台本(男3、女1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
あらすじ 社畜OL高原杏里はある日トラックに轢かれ、プレイしていた乙女ゲー「ローゼンギルト-優美なる詩(うた)」の世界に転生してしまう! しかし華麗な世界を夢見ていたはずなのにここは……どこかおかしい。 なんと杏里が転生した先は悪い魔法使いによってすべての人間の語彙力が奪われた「語彙力なし乙女ゲー」だったのだ!! 403 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
アンドレアス | 男 | - | 金髪碧眼の王道王子様。性格は真っすぐで清廉潔白。家臣からの信頼も厚く、政治能力に長けている。 悪い魔法使い(アンドレアス役):アンドレアスの方の兼ね役。逆恨み魔法使い。 |
コンラート | 男 | 15 | 肌が小麦色の茶髪のワイルド系王子様。軍の元帥で剣術と馬術の達人。 無骨な軍人と思いきや、意外に知性的な面も兼ね備えている。 ナレーター(コンラート役):コンラートの方の兼ね役 呼びかける運命の声。 |
ジークフリート | 男 | 13 | 長髪傲慢系王子様。黒髪でこの国では不吉とされる闇魔法に天性の才能を持っている。 その才能を恐れられ、幼い頃は僻地の城に幽閉されていた。そのためか人を信じず、孤高の雰囲気がある。 |
高原杏里 | 女 | 32 | 語彙力だけはあるオタク |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:語彙力なし王国
0:あらすじ
0:社畜OL高原杏里はある日トラックに轢かれ、プレイしていた乙女ゲー「ローゼンギルト-優美なる詩(うた)」の世界に転生してしまう!
0:しかし華麗な世界を夢見ていたはずなのにここは……どこかおかしい。
0:なんと杏里が転生した先は悪い魔法使いによってすべての人間の語彙力が奪われた「語彙力なし乙女ゲー」だったのだ!!
0:乙女ゲー ローゼンギルト-優美なる詩(うた)について
0:剣と魔法の世界、ヨーロッパ風ファンタジーの一国であるローゼンギルト。
0:そこでは、二百年ごとに聖女が王家と国民の救い主として現れる。
0:救い主たる聖女は繁栄をもたらすため。王家の血を引くものと誠の愛を持って結婚しないといけない。
0:銀髪の聖女は証たる百合の冠をかぶり、泉の真ん中に現れるという。
アンドレアス:金髪碧眼の王道王子様。性格は真っすぐで清廉潔白。家臣からの信頼も厚く、政治能力に長けている。
悪い魔法使い(アンドレアス役):アンドレアスの方の兼ね役。逆恨み魔法使い。
コンラート:肌が小麦色の茶髪のワイルド系王子様。軍の元帥で剣術と馬術の達人。
コンラート:無骨な軍人と思いきや、意外に知性的な面も兼ね備えている。
ナレーター(コンラート役):コンラートの方の兼ね役 呼びかける運命の声。
ジークフリート:長髪傲慢系王子様。黒髪でこの国では不吉とされる闇魔法に天性の才能を持っている。
ジークフリート:その才能を恐れられ、幼い頃は僻地の城に幽閉されていた。そのためか人を信じず、孤高の雰囲気がある。
高原杏里:語彙力だけはあるオタク
高原杏里 M:高原杏里のモノローグです。
0:
高原杏里 M:私の名前は高原杏里(たかはらあんり)。正真正銘のオタク、そして社畜!
高原杏里 M:あまりにも語彙力がなくて、推しを見てもやばいとしか言えなくなったことに最近、危機感を覚え
高原杏里 M:推しのすばらしさを表現するために、辞書を読んで言葉の勉強をしている。
高原杏里 M:そんな私がハマっているのが、古き良き言葉使いや恥ずかしくなるような華麗な言葉が出てくる
高原杏里 M:「ローゼンギルト-優美なる詩(うた)」だ。とても大好きな作品で昼夜を惜しんでプレイし、
高原杏里 M:本日発売のプレミアム版も事前予約で購入済みだ。手に入れたらまたぶっ通しでプレイしようと思っている。
高原杏里 M:本当に素敵なんだよなぁ……。
高原杏里 M:ローゼンギルトは魔法が存在する中世ヨーロッパ風の世界が舞台。
高原杏里 M:まあ厳密には中世じゃないんだけど、これについて語ると長くなりそうだからやめとくね。
高原杏里 M:主人公は突然トラックに轢かれて転生してきた女子高生。
高原杏里 M:目が覚めると周りに百合の咲く泉の中心のあずまやにいることに気づくの。
高原杏里 M:実はそこは二百年ごとに選ばれし百合の聖女が現れる場所なんだけど、
高原杏里 M:聖女は王家の血筋を引く人間と絶対に結婚しないといけないということになっていて、
高原杏里 M:いきなり王子様たちが主人公に求婚してくるっていうぶっ飛び展開なんだよね~。
高原杏里 M:攻略対象はまず、金髪碧眼(へきがん)の王道王子様、アンドレアス!
アンドレアス:(タイトルコール)ローゼンギルト-優美なる詩(うた)
アンドレアス:僕の名前はアンドレアス。シュバイン王国第一王子、第一王位継承者です。
アンドレアス:清らかな百合の聖女よ、どうぞお見知りおきを。
アンドレアス:美しい方、王冠に抱かれる二つの宝石のように、僕とこの国を共に導いていただけませんか。
高原杏里 M:それから肌が小麦色の茶髪のワイルド系王子様、コンラート!
コンラート:(タイトルコール)ローゼンギルト-優美なる詩(うた)
コンラート:俺の名はコンラート:シュバイン王国第二王子だ。軍人、連隊の元帥をやっている。
コンラート:剣術と戦闘なら任せておけ。俺の剣は獰猛な竜の吐く燃え盛る吐息のように舞い、敵共を打ち倒す。
コンラート:聖女、お前の白い手を俺の燃える胸に置いてくれ。この闘志に焼きつくされそうな騎士に、天の加護があるように……。
高原杏里 M:そして最後に、長髪傲慢(ごうまん)系王子様、ジークフリート。
ジークフリート:(タイトルコール)ローゼンギルト-優美なる詩(うた)
ジークフリート:フン、貴様に名乗りなどしたくはないが……シュバイン王国第三王子、ジークフリートだ。
ジークフリート:最初に言っておくが、私は聖女などというものは信じぬ。あんなものは王家が愚かにも信奉するたわ言だ。
ジークフリート:私の心は、永久に溶けることなき凍土。まやかしの貴様の言葉などに、私は騙(だま)されぬ……何?私が怖くない、だと?
ジークフリート:菫(すみれ)のようにかよわい身でありながら、何と恐れ知らずな……フン、貴様おもしろい乙女だな。
高原杏里 M:いや~本当に三人とも素敵!!それでね、それでね、今日なんとこのローゼンギルト、略してロゼギルのプレミアムエディションが発売なの!!
高原杏里 M:さらにグラフィックも綺麗になって、特典ディスクまでついてるんだって!ってしまった!私すっかり夢中になっちゃった!!
高原杏里 M:こういう時って目の前何も見えてなかったりして危険なのよね
0:高原杏里、曲がり角に差しかかる。迫りくるトラックには気づいていない。
高原杏里 M:ローゼンギルトの主人公もこういう曲がり角でトラックに轢かれて死んじゃったし!
高原杏里 M:ってえ!?何……ダンプカー!?うそうそ、こんな早いフラグ回収笑えないって!それにこれがもし死ぬ瞬間だとしたら私喋りすぎじゃない?
高原杏里 M:そんな、そんな訳……きゃああああああああああああ!!!
0:高原杏里、トラックに轢かれて気を失う。
0:高原杏里、転生し聖女として百合の咲く泉の中心のあずまや(小さな小屋)で眠っている
ナレーター(コンラート役):聖女……聖女よ……。この世界をお救いなさい……。
高原杏里:ん……?
ナレーター(コンラート役):邪悪な魔法使いに世界が奪われたものを……取り戻すのです……。
高原杏里:百合の、香り……??え?てか何これ!!!ここ完全にローゼンギルトの最初のスチルの場所なんですけど!!!かっこオタク特有の理解力の速さかっことじ!
高原杏里:じゃあもしかして私、転生したのかな?前世は地味なOLだったけど、澄んだ空に現れたかすかに見える月のように~とか言われる、儚げな聖女様に!
高原杏里:(泉に顔を映そうとする)確かゲームだと戸惑ってこんな感じで周りの泉に顔を映して確かめようとしていると、王子様達に会うのよね♪
高原杏里:攻略対象がすぐに分かるのは良い導入だったなぁ
アンドレアス:……っ!あなたは……?
高原杏里:え?ー-(以下心の声)ちょ、ちょっと待って、この声……まさか……?
アンドレアス:……聖女?
高原杏里:(うわ……ちょっと待って、かすかな月の明かりに揺れて光る金の髪、けぶるようなその金がはっとするように深い青い目を縁取っていて、
高原杏里:すらりと伸びた鼻はどこまでも形良くその下へ続き、花とも見まがう美しい唇がその下に収まっている。
高原杏里:美しい、なんて言葉では表せない。王侯にしか着られない白の高貴な絹の衣装に、勲章がついた、肩から伸びている金の帯。
高原杏里:その優雅な立ち姿を見ただけで、この人が王子様だって分かるわ。)
アンドレアス:その髪は……。
高原杏里:(その髪は透き通った銀のように輝く、って台詞だったわよね、確か初登場の時は)
アンドレアス:……きらきら……。
高原杏里:え?
アンドレアス:(良い声で)……なんか、えっと、よく分からないけど、その、とてもきらきらでとにかくやばいですね……!!
アンドレアス:あなたが選ばれし聖女に違いない!
高原杏里:え、待って、どういうこと……?語彙力が、なさすぎる……。
コンラート:おい、アンドレアス、どうした、!?(主人公に気づく)お、お前は……!?
高原杏里:(あ、第二王子のコンラート!褐色の肌でアンドレアスとは全然違うけど、ワイルドで凛々しい顔立ち。)
コンラート:まさか、お前が、みんなが言ってる聖女ってやつか!?信じられない、本当に現れるなんて!
コンラート:その、髪に乗せてる、なんだ、えっと、その……なんかよくわかんないけどめちゃくちゃ良い匂いするやつ!
コンラート:それイコール聖女って意味だろう!?
高原杏里:(そこの台詞は、その百合の冠は、聖女たる証、か……?でしょ!まずい、ワイルド系の王子がちょっと知性的な面を見せるはずなのに
高原杏里:あまりにも語彙力なさすぎてただのギャル男みたいになってるよ~!あと、すごくどうでも良いんだけど、なんで乙女ゲーの攻略対象って、
高原杏里:無駄に胸の筋肉を見せるような、前が開いたジャケット着てるんだろ……現実に絶対そんな服ないよね?)
ジークフリート:……フン、なんだ、騒がしい。何をわめいている?
高原杏里:(あ、待って!これは第三王子の傲慢で孤高なるジークフリートじゃない?夜の闇のように深い黒髪が美しいんだよね!)
ジークフリート:な、貴様……!!!聖女、などと俺は認めぬ。そんなものはただの愚民共(ぐみんども)のたわ言だ!
高原杏里:(待って!?ジークフリートは普通だ!!じゃあ私も主人公らしく返しておかなきゃ!)
高原杏里:ちょっとあなた聖女って何?訳が分からないわよ!でもいきなり認めない、だなんて。あなた何様なの?
ジークフリート:なんと!フ……貴様……なんか、その、アレだ、アレ……えー、あの、……ふっ、おもしろい乙女だな。
高原杏里:(やっぱりあなたもかー-い!!しかもなんか言い切れなくて最後決め台詞でごまかしたわね?お、おかしい……みんな語彙力がない……。
高原杏里:なんかあんなにミステリアスで格好良く見えてたジークフリートの髪型が台詞のせいで気になってきちゃった……その長い髪、邪魔じゃない?
高原杏里:というか乙女ゲーあるあるの無駄にはらりと睫毛と美しい顔に落ちかかる前髪、それ、前見えなくない?)
アンドレアス:聖女!我々をお救いください。我々の国は今なんかアレで大変なのです!!
コンラート:そうだ!ここにお前が来たのもなんか神様的なアレが、良い感じにしようと思ったに違いない!
ジークフリート:ふ、俺は信じないぞ。貴様が我が王国を助けるっぽいことを……。
高原杏里:ボキャブラリーが貧困すぎて何を言っているのか全然分からない!!
アンドレアス:やな感じの魔法使いが奪ったのです!私たちのキラキラ……大事なアレを。
コンラート:だからこうなんだよ!俺はいつもこんなんじゃない。信じてくれ。
ジークフリート:ええい、どちらも役立たずめが!つまりこういうことだ。なんかこう喋るのを良い感じにするアレ……と言えば伝わるだろうか?
高原杏里:分かった。分かったわ。あなたたち、悪い魔法使いに奪われたのね。このゲームの根幹でもあり、乙女をときめかせるのに重要な言葉の紡ぐ宝石、
高原杏里:「語彙力」を。……ゲームのあなたたちが目の前に現れた時は、まるで夢見心地でその美しさに目を奪われてしまったけれど、
高原杏里:今なら分かるわ。いくら顔が綺麗でも台詞って本当に重要なのね。
ジークフリート:ふ、分かったようなことを言うな。
高原杏里:え、風がふわりとジークフリートの顔を掠め、ぬばたまのように黒いその髪が静かに揺れて、その下の整った造形はまるで精緻(せいち)な人形のよう。
高原杏里:陰鬱(いんうつ)にも見えるけれど、底知れない何か、孤高の気高さがジークフリートの顔からは伝わってくる……。
高原杏里:ボキャブラリー幼稚園の台詞しか言ってないのに、乙女ゲー王子様パワーで億兆(おくちょう)戦闘力の顔面ずるすぎるでしょ……。
0:一行は悪い魔法使いに会うために魔法使いへの根城へと入る。
高原杏里 M:こうして私たちは悪い魔法使いを倒すため、嵐が吹きすさび雷の落ちる魔法使いの城……コンラート曰く「なんかやばい城」に向かった。
高原杏里:あなたが悪い魔法使いね!国中から奪った語彙力を返しなさい!!
高原杏里:王様が「なんかアレ持ってこい」しか言えなくなって、業務に支障が出まくって大変なのよ!!!
悪い魔法使い(アンドレアス役):フ、ついに来たか……。言っておくが俺は金輪際あの力を返す気はない。
悪い魔法使い(アンドレアス役):この、惨めな思い……。お前には俺の気持ちは分からない……。
高原杏里:分かる訳ないでしょう!
悪い魔法使い(アンドレアス役):ある時、王の宮殿で結婚式があると聞いた。
高原杏里:あー招かれなかったのね、よくあるやつ!
悪い魔法使い(アンドレアス役):違う!奴らは俺に丁寧な招待状を送ってきた。知恵ある者としてぜひ出席してほしいと。
悪い魔法使い(アンドレアス役):その時、俺はスピーチを任されたんだ。だが俺はその時語彙力がなさすぎて
悪い魔法使い(アンドレアス役):「この結婚式、めちゃエモ」としか言えなかった……。
悪い魔法使い(アンドレアス役):そうしたら魔法伝書鳩で国中に晒されたんだよ!
悪い魔法使い(アンドレアス役):賢者かと思いきや語彙力なさすぎ?って。
高原杏里:それはまあ、なんというか……。
悪い魔法使い(アンドレアス役):だから俺は!こんな悲しい思いをさせたこの王国を!絶対に許さない!みんなあの時の俺と同じぐらい
悪い魔法使い(アンドレアス役):ボキャブラリーが一生貧困になればいいのだ!!
コンラート:それは、逆恨みがやばいぞ。
高原杏里:魔法使いさん、それは違うわ。
悪い魔法使い(アンドレアス役):え?
高原杏里:私だって、昔は全然語彙力がなかったよ。もちろん今もあるとは言えないけど。
高原杏里:でも昔は本当に、推しを見ても「やばい」とか「萌え死にました」とかしか言えなくて
高原杏里:その内に、自分が感じたこととか考えたことが全部、そういう種類のない言葉の中に吸収されていることに気づいたの。
高原杏里:私は推しを見て色々なことを思っているはずなのに、全部を「やばい」って言葉だけに込めてきたな、って。
高原杏里:推しの魅力について自分が感じてることをもっと上手く話せたら、もっと推しの魅力について、大好きなことについて話せるんじゃないかって。
高原杏里:語彙力や言葉は、他の人に自分をアピールのにももちろん使えるよ。でも、一番重要なことはたくさんの表現を覚えることで、自分の感じたことに
高原杏里:様々な模様や色がついて、もっと素敵な人生になるってことじゃないかな?
悪い魔法使い(アンドレアス役):(ハッとして)俺は……。……分かった。聖女とやら、俺が奪った語彙力を返してやろう。
コンラート:本当か!?すごい!!
悪い魔法使い(アンドレアス役):だが、一つ条件がある。この者たちに語彙力を返してやる代わりに……お前の最も大事なものを代償としてもらおう。
高原杏里:え……それは命、ってこと?
悪い魔法使い(アンドレアス役):その通り、お前の命だ。
コンラート:聖女、だめだ!俺が何かをアレで……とりあえず何とかする!
ジークフリート:クソ魔法使い、私の何かすごいやつを食らいたいか……?
高原杏里:いいえ、みんな、いいよ。止めないで。だって私がこの世界に呼ばれたのは、みんなの危機を救うためでしょう?
高原杏里:それが聖女の役割ってことなら、役目を果たすまでだよ。……それに、自分を犠牲に推しを助けるとか……オタク冥利に尽きるじゃん。
コンラート:待て……!
悪い魔法使い(アンドレアス役):言葉通り、消え失せるが良い!(呪文を唱え始め)綾なす言葉の海、かつて最初にありし光、財なきものの宝石、今闇に還りしものは光に、
悪い魔法使い(アンドレアス役):光は闇に、我が高らかなる呼びかけにこたえ再び立ち現われよ!
コンラート:聖女、聖女ー--!!
0:場面転換。城の外で倒れている杏里。
高原杏里:あれ……?
アンドレアス:聖女、気づかれましたか。その花のような面(おもて)をどうか上げてください。
高原杏里:私、死んでない……?
コンラート:無事みたいだな。ったく、心配して獅子のごとき俺の心も震えたぜ。
ジークフリート:フン、無事だったか。ここまで運ぶのは骨だった。
ジークフリート:別に貴様のことを案じている訳ではないが、あのまま死なれては寝覚めが悪いからな。
高原杏里:みんなの語彙力が、戻ってる……?それって……やばすぎる!!!
アンドレアス:え?
高原杏里:え?嘘やばい。
コンラート:は?
高原杏里:意味わかんない。やばいんだけど。
ジークフリート:貴様……。
アンドレアス:どうやら聖女の語彙力が今度は奪われてしまったようですね。
高原杏里:マ~ジで~!!命ってそういうこと!?
高原杏里:噓嘘、ありえないって!マジで本当にないって!だっていっぱい勉強したのにまたやばいしか言えないのやばいって!!
高原杏里:あの魔法使い本当に激萎え。マジでありえない。でも言葉喋る推し、かっこいい~!!尊みがやばい。
アンドレアス:(すっと息を飲み)安心してください、聖女。今度は僕たちがあなたのお側にいます。
アンドレアス:銀の百合の聖女。改めて、僕は第一王子のアンドレアスと申します。
アンドレアス:ゆるやかな春の風に揺れる谷間の花のように優雅な、あなたの語彙力を取り戻すため、僕は力を尽くします。
コンラート:俺の剣の力を見くびってもらっては困るぜ!あのような邪悪な魔法使いなどこの大剣(たいけん)で一刀両断、
コンラート:騎士の恩義(おんぎ)、お前の前に見事語彙力を取り戻してみせよう。
ジークフリート:フン……俺は貴様を聖女だなどとまだ認めた訳ではない。だが……己の身を顧(かえり)みない先ほどの所業……。
ジークフリート:このような戯(たわ)けた真似ができるのは、それこそ世に聞く伝説の聖女か、それとも希代(きだい)の愚か者であろう。
ジークフリート:借りを作るのも貴族として癪(しゃく)に障(さわ)る。私も同行する。……貴様が本物の聖女なのか、私が見極めてやろう。
高原杏里:み、みんなみんな、……私のためにそのありがとう、
高原杏里:あのみんなって本当に(咳ばらいをしてお礼をしようとするが以下の言葉しか出てこない)……。
アンドレアス:しかと聞け、聖女様のお言葉だぞ!
コンラート:そうだ、みんなもっと近づけ!
ジークフリート:フン、聞いてやろうではないか。
高原杏里:あの、みんな、……か、顔がいい~~!!!
0:語彙力なし王国
0:あらすじ
0:社畜OL高原杏里はある日トラックに轢かれ、プレイしていた乙女ゲー「ローゼンギルト-優美なる詩(うた)」の世界に転生してしまう!
0:しかし華麗な世界を夢見ていたはずなのにここは……どこかおかしい。
0:なんと杏里が転生した先は悪い魔法使いによってすべての人間の語彙力が奪われた「語彙力なし乙女ゲー」だったのだ!!
0:乙女ゲー ローゼンギルト-優美なる詩(うた)について
0:剣と魔法の世界、ヨーロッパ風ファンタジーの一国であるローゼンギルト。
0:そこでは、二百年ごとに聖女が王家と国民の救い主として現れる。
0:救い主たる聖女は繁栄をもたらすため。王家の血を引くものと誠の愛を持って結婚しないといけない。
0:銀髪の聖女は証たる百合の冠をかぶり、泉の真ん中に現れるという。
アンドレアス:金髪碧眼の王道王子様。性格は真っすぐで清廉潔白。家臣からの信頼も厚く、政治能力に長けている。
悪い魔法使い(アンドレアス役):アンドレアスの方の兼ね役。逆恨み魔法使い。
コンラート:肌が小麦色の茶髪のワイルド系王子様。軍の元帥で剣術と馬術の達人。
コンラート:無骨な軍人と思いきや、意外に知性的な面も兼ね備えている。
ナレーター(コンラート役):コンラートの方の兼ね役 呼びかける運命の声。
ジークフリート:長髪傲慢系王子様。黒髪でこの国では不吉とされる闇魔法に天性の才能を持っている。
ジークフリート:その才能を恐れられ、幼い頃は僻地の城に幽閉されていた。そのためか人を信じず、孤高の雰囲気がある。
高原杏里:語彙力だけはあるオタク
高原杏里 M:高原杏里のモノローグです。
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高原杏里 M:私の名前は高原杏里(たかはらあんり)。正真正銘のオタク、そして社畜!
高原杏里 M:あまりにも語彙力がなくて、推しを見てもやばいとしか言えなくなったことに最近、危機感を覚え
高原杏里 M:推しのすばらしさを表現するために、辞書を読んで言葉の勉強をしている。
高原杏里 M:そんな私がハマっているのが、古き良き言葉使いや恥ずかしくなるような華麗な言葉が出てくる
高原杏里 M:「ローゼンギルト-優美なる詩(うた)」だ。とても大好きな作品で昼夜を惜しんでプレイし、
高原杏里 M:本日発売のプレミアム版も事前予約で購入済みだ。手に入れたらまたぶっ通しでプレイしようと思っている。
高原杏里 M:本当に素敵なんだよなぁ……。
高原杏里 M:ローゼンギルトは魔法が存在する中世ヨーロッパ風の世界が舞台。
高原杏里 M:まあ厳密には中世じゃないんだけど、これについて語ると長くなりそうだからやめとくね。
高原杏里 M:主人公は突然トラックに轢かれて転生してきた女子高生。
高原杏里 M:目が覚めると周りに百合の咲く泉の中心のあずまやにいることに気づくの。
高原杏里 M:実はそこは二百年ごとに選ばれし百合の聖女が現れる場所なんだけど、
高原杏里 M:聖女は王家の血筋を引く人間と絶対に結婚しないといけないということになっていて、
高原杏里 M:いきなり王子様たちが主人公に求婚してくるっていうぶっ飛び展開なんだよね~。
高原杏里 M:攻略対象はまず、金髪碧眼(へきがん)の王道王子様、アンドレアス!
アンドレアス:(タイトルコール)ローゼンギルト-優美なる詩(うた)
アンドレアス:僕の名前はアンドレアス。シュバイン王国第一王子、第一王位継承者です。
アンドレアス:清らかな百合の聖女よ、どうぞお見知りおきを。
アンドレアス:美しい方、王冠に抱かれる二つの宝石のように、僕とこの国を共に導いていただけませんか。
高原杏里 M:それから肌が小麦色の茶髪のワイルド系王子様、コンラート!
コンラート:(タイトルコール)ローゼンギルト-優美なる詩(うた)
コンラート:俺の名はコンラート:シュバイン王国第二王子だ。軍人、連隊の元帥をやっている。
コンラート:剣術と戦闘なら任せておけ。俺の剣は獰猛な竜の吐く燃え盛る吐息のように舞い、敵共を打ち倒す。
コンラート:聖女、お前の白い手を俺の燃える胸に置いてくれ。この闘志に焼きつくされそうな騎士に、天の加護があるように……。
高原杏里 M:そして最後に、長髪傲慢(ごうまん)系王子様、ジークフリート。
ジークフリート:(タイトルコール)ローゼンギルト-優美なる詩(うた)
ジークフリート:フン、貴様に名乗りなどしたくはないが……シュバイン王国第三王子、ジークフリートだ。
ジークフリート:最初に言っておくが、私は聖女などというものは信じぬ。あんなものは王家が愚かにも信奉するたわ言だ。
ジークフリート:私の心は、永久に溶けることなき凍土。まやかしの貴様の言葉などに、私は騙(だま)されぬ……何?私が怖くない、だと?
ジークフリート:菫(すみれ)のようにかよわい身でありながら、何と恐れ知らずな……フン、貴様おもしろい乙女だな。
高原杏里 M:いや~本当に三人とも素敵!!それでね、それでね、今日なんとこのローゼンギルト、略してロゼギルのプレミアムエディションが発売なの!!
高原杏里 M:さらにグラフィックも綺麗になって、特典ディスクまでついてるんだって!ってしまった!私すっかり夢中になっちゃった!!
高原杏里 M:こういう時って目の前何も見えてなかったりして危険なのよね
0:高原杏里、曲がり角に差しかかる。迫りくるトラックには気づいていない。
高原杏里 M:ローゼンギルトの主人公もこういう曲がり角でトラックに轢かれて死んじゃったし!
高原杏里 M:ってえ!?何……ダンプカー!?うそうそ、こんな早いフラグ回収笑えないって!それにこれがもし死ぬ瞬間だとしたら私喋りすぎじゃない?
高原杏里 M:そんな、そんな訳……きゃああああああああああああ!!!
0:高原杏里、トラックに轢かれて気を失う。
0:高原杏里、転生し聖女として百合の咲く泉の中心のあずまや(小さな小屋)で眠っている
ナレーター(コンラート役):聖女……聖女よ……。この世界をお救いなさい……。
高原杏里:ん……?
ナレーター(コンラート役):邪悪な魔法使いに世界が奪われたものを……取り戻すのです……。
高原杏里:百合の、香り……??え?てか何これ!!!ここ完全にローゼンギルトの最初のスチルの場所なんですけど!!!かっこオタク特有の理解力の速さかっことじ!
高原杏里:じゃあもしかして私、転生したのかな?前世は地味なOLだったけど、澄んだ空に現れたかすかに見える月のように~とか言われる、儚げな聖女様に!
高原杏里:(泉に顔を映そうとする)確かゲームだと戸惑ってこんな感じで周りの泉に顔を映して確かめようとしていると、王子様達に会うのよね♪
高原杏里:攻略対象がすぐに分かるのは良い導入だったなぁ
アンドレアス:……っ!あなたは……?
高原杏里:え?ー-(以下心の声)ちょ、ちょっと待って、この声……まさか……?
アンドレアス:……聖女?
高原杏里:(うわ……ちょっと待って、かすかな月の明かりに揺れて光る金の髪、けぶるようなその金がはっとするように深い青い目を縁取っていて、
高原杏里:すらりと伸びた鼻はどこまでも形良くその下へ続き、花とも見まがう美しい唇がその下に収まっている。
高原杏里:美しい、なんて言葉では表せない。王侯にしか着られない白の高貴な絹の衣装に、勲章がついた、肩から伸びている金の帯。
高原杏里:その優雅な立ち姿を見ただけで、この人が王子様だって分かるわ。)
アンドレアス:その髪は……。
高原杏里:(その髪は透き通った銀のように輝く、って台詞だったわよね、確か初登場の時は)
アンドレアス:……きらきら……。
高原杏里:え?
アンドレアス:(良い声で)……なんか、えっと、よく分からないけど、その、とてもきらきらでとにかくやばいですね……!!
アンドレアス:あなたが選ばれし聖女に違いない!
高原杏里:え、待って、どういうこと……?語彙力が、なさすぎる……。
コンラート:おい、アンドレアス、どうした、!?(主人公に気づく)お、お前は……!?
高原杏里:(あ、第二王子のコンラート!褐色の肌でアンドレアスとは全然違うけど、ワイルドで凛々しい顔立ち。)
コンラート:まさか、お前が、みんなが言ってる聖女ってやつか!?信じられない、本当に現れるなんて!
コンラート:その、髪に乗せてる、なんだ、えっと、その……なんかよくわかんないけどめちゃくちゃ良い匂いするやつ!
コンラート:それイコール聖女って意味だろう!?
高原杏里:(そこの台詞は、その百合の冠は、聖女たる証、か……?でしょ!まずい、ワイルド系の王子がちょっと知性的な面を見せるはずなのに
高原杏里:あまりにも語彙力なさすぎてただのギャル男みたいになってるよ~!あと、すごくどうでも良いんだけど、なんで乙女ゲーの攻略対象って、
高原杏里:無駄に胸の筋肉を見せるような、前が開いたジャケット着てるんだろ……現実に絶対そんな服ないよね?)
ジークフリート:……フン、なんだ、騒がしい。何をわめいている?
高原杏里:(あ、待って!これは第三王子の傲慢で孤高なるジークフリートじゃない?夜の闇のように深い黒髪が美しいんだよね!)
ジークフリート:な、貴様……!!!聖女、などと俺は認めぬ。そんなものはただの愚民共(ぐみんども)のたわ言だ!
高原杏里:(待って!?ジークフリートは普通だ!!じゃあ私も主人公らしく返しておかなきゃ!)
高原杏里:ちょっとあなた聖女って何?訳が分からないわよ!でもいきなり認めない、だなんて。あなた何様なの?
ジークフリート:なんと!フ……貴様……なんか、その、アレだ、アレ……えー、あの、……ふっ、おもしろい乙女だな。
高原杏里:(やっぱりあなたもかー-い!!しかもなんか言い切れなくて最後決め台詞でごまかしたわね?お、おかしい……みんな語彙力がない……。
高原杏里:なんかあんなにミステリアスで格好良く見えてたジークフリートの髪型が台詞のせいで気になってきちゃった……その長い髪、邪魔じゃない?
高原杏里:というか乙女ゲーあるあるの無駄にはらりと睫毛と美しい顔に落ちかかる前髪、それ、前見えなくない?)
アンドレアス:聖女!我々をお救いください。我々の国は今なんかアレで大変なのです!!
コンラート:そうだ!ここにお前が来たのもなんか神様的なアレが、良い感じにしようと思ったに違いない!
ジークフリート:ふ、俺は信じないぞ。貴様が我が王国を助けるっぽいことを……。
高原杏里:ボキャブラリーが貧困すぎて何を言っているのか全然分からない!!
アンドレアス:やな感じの魔法使いが奪ったのです!私たちのキラキラ……大事なアレを。
コンラート:だからこうなんだよ!俺はいつもこんなんじゃない。信じてくれ。
ジークフリート:ええい、どちらも役立たずめが!つまりこういうことだ。なんかこう喋るのを良い感じにするアレ……と言えば伝わるだろうか?
高原杏里:分かった。分かったわ。あなたたち、悪い魔法使いに奪われたのね。このゲームの根幹でもあり、乙女をときめかせるのに重要な言葉の紡ぐ宝石、
高原杏里:「語彙力」を。……ゲームのあなたたちが目の前に現れた時は、まるで夢見心地でその美しさに目を奪われてしまったけれど、
高原杏里:今なら分かるわ。いくら顔が綺麗でも台詞って本当に重要なのね。
ジークフリート:ふ、分かったようなことを言うな。
高原杏里:え、風がふわりとジークフリートの顔を掠め、ぬばたまのように黒いその髪が静かに揺れて、その下の整った造形はまるで精緻(せいち)な人形のよう。
高原杏里:陰鬱(いんうつ)にも見えるけれど、底知れない何か、孤高の気高さがジークフリートの顔からは伝わってくる……。
高原杏里:ボキャブラリー幼稚園の台詞しか言ってないのに、乙女ゲー王子様パワーで億兆(おくちょう)戦闘力の顔面ずるすぎるでしょ……。
0:一行は悪い魔法使いに会うために魔法使いへの根城へと入る。
高原杏里 M:こうして私たちは悪い魔法使いを倒すため、嵐が吹きすさび雷の落ちる魔法使いの城……コンラート曰く「なんかやばい城」に向かった。
高原杏里:あなたが悪い魔法使いね!国中から奪った語彙力を返しなさい!!
高原杏里:王様が「なんかアレ持ってこい」しか言えなくなって、業務に支障が出まくって大変なのよ!!!
悪い魔法使い(アンドレアス役):フ、ついに来たか……。言っておくが俺は金輪際あの力を返す気はない。
悪い魔法使い(アンドレアス役):この、惨めな思い……。お前には俺の気持ちは分からない……。
高原杏里:分かる訳ないでしょう!
悪い魔法使い(アンドレアス役):ある時、王の宮殿で結婚式があると聞いた。
高原杏里:あー招かれなかったのね、よくあるやつ!
悪い魔法使い(アンドレアス役):違う!奴らは俺に丁寧な招待状を送ってきた。知恵ある者としてぜひ出席してほしいと。
悪い魔法使い(アンドレアス役):その時、俺はスピーチを任されたんだ。だが俺はその時語彙力がなさすぎて
悪い魔法使い(アンドレアス役):「この結婚式、めちゃエモ」としか言えなかった……。
悪い魔法使い(アンドレアス役):そうしたら魔法伝書鳩で国中に晒されたんだよ!
悪い魔法使い(アンドレアス役):賢者かと思いきや語彙力なさすぎ?って。
高原杏里:それはまあ、なんというか……。
悪い魔法使い(アンドレアス役):だから俺は!こんな悲しい思いをさせたこの王国を!絶対に許さない!みんなあの時の俺と同じぐらい
悪い魔法使い(アンドレアス役):ボキャブラリーが一生貧困になればいいのだ!!
コンラート:それは、逆恨みがやばいぞ。
高原杏里:魔法使いさん、それは違うわ。
悪い魔法使い(アンドレアス役):え?
高原杏里:私だって、昔は全然語彙力がなかったよ。もちろん今もあるとは言えないけど。
高原杏里:でも昔は本当に、推しを見ても「やばい」とか「萌え死にました」とかしか言えなくて
高原杏里:その内に、自分が感じたこととか考えたことが全部、そういう種類のない言葉の中に吸収されていることに気づいたの。
高原杏里:私は推しを見て色々なことを思っているはずなのに、全部を「やばい」って言葉だけに込めてきたな、って。
高原杏里:推しの魅力について自分が感じてることをもっと上手く話せたら、もっと推しの魅力について、大好きなことについて話せるんじゃないかって。
高原杏里:語彙力や言葉は、他の人に自分をアピールのにももちろん使えるよ。でも、一番重要なことはたくさんの表現を覚えることで、自分の感じたことに
高原杏里:様々な模様や色がついて、もっと素敵な人生になるってことじゃないかな?
悪い魔法使い(アンドレアス役):(ハッとして)俺は……。……分かった。聖女とやら、俺が奪った語彙力を返してやろう。
コンラート:本当か!?すごい!!
悪い魔法使い(アンドレアス役):だが、一つ条件がある。この者たちに語彙力を返してやる代わりに……お前の最も大事なものを代償としてもらおう。
高原杏里:え……それは命、ってこと?
悪い魔法使い(アンドレアス役):その通り、お前の命だ。
コンラート:聖女、だめだ!俺が何かをアレで……とりあえず何とかする!
ジークフリート:クソ魔法使い、私の何かすごいやつを食らいたいか……?
高原杏里:いいえ、みんな、いいよ。止めないで。だって私がこの世界に呼ばれたのは、みんなの危機を救うためでしょう?
高原杏里:それが聖女の役割ってことなら、役目を果たすまでだよ。……それに、自分を犠牲に推しを助けるとか……オタク冥利に尽きるじゃん。
コンラート:待て……!
悪い魔法使い(アンドレアス役):言葉通り、消え失せるが良い!(呪文を唱え始め)綾なす言葉の海、かつて最初にありし光、財なきものの宝石、今闇に還りしものは光に、
悪い魔法使い(アンドレアス役):光は闇に、我が高らかなる呼びかけにこたえ再び立ち現われよ!
コンラート:聖女、聖女ー--!!
0:場面転換。城の外で倒れている杏里。
高原杏里:あれ……?
アンドレアス:聖女、気づかれましたか。その花のような面(おもて)をどうか上げてください。
高原杏里:私、死んでない……?
コンラート:無事みたいだな。ったく、心配して獅子のごとき俺の心も震えたぜ。
ジークフリート:フン、無事だったか。ここまで運ぶのは骨だった。
ジークフリート:別に貴様のことを案じている訳ではないが、あのまま死なれては寝覚めが悪いからな。
高原杏里:みんなの語彙力が、戻ってる……?それって……やばすぎる!!!
アンドレアス:え?
高原杏里:え?嘘やばい。
コンラート:は?
高原杏里:意味わかんない。やばいんだけど。
ジークフリート:貴様……。
アンドレアス:どうやら聖女の語彙力が今度は奪われてしまったようですね。
高原杏里:マ~ジで~!!命ってそういうこと!?
高原杏里:噓嘘、ありえないって!マジで本当にないって!だっていっぱい勉強したのにまたやばいしか言えないのやばいって!!
高原杏里:あの魔法使い本当に激萎え。マジでありえない。でも言葉喋る推し、かっこいい~!!尊みがやばい。
アンドレアス:(すっと息を飲み)安心してください、聖女。今度は僕たちがあなたのお側にいます。
アンドレアス:銀の百合の聖女。改めて、僕は第一王子のアンドレアスと申します。
アンドレアス:ゆるやかな春の風に揺れる谷間の花のように優雅な、あなたの語彙力を取り戻すため、僕は力を尽くします。
コンラート:俺の剣の力を見くびってもらっては困るぜ!あのような邪悪な魔法使いなどこの大剣(たいけん)で一刀両断、
コンラート:騎士の恩義(おんぎ)、お前の前に見事語彙力を取り戻してみせよう。
ジークフリート:フン……俺は貴様を聖女だなどとまだ認めた訳ではない。だが……己の身を顧(かえり)みない先ほどの所業……。
ジークフリート:このような戯(たわ)けた真似ができるのは、それこそ世に聞く伝説の聖女か、それとも希代(きだい)の愚か者であろう。
ジークフリート:借りを作るのも貴族として癪(しゃく)に障(さわ)る。私も同行する。……貴様が本物の聖女なのか、私が見極めてやろう。
高原杏里:み、みんなみんな、……私のためにそのありがとう、
高原杏里:あのみんなって本当に(咳ばらいをしてお礼をしようとするが以下の言葉しか出てこない)……。
アンドレアス:しかと聞け、聖女様のお言葉だぞ!
コンラート:そうだ、みんなもっと近づけ!
ジークフリート:フン、聞いてやろうではないか。
高原杏里:あの、みんな、……か、顔がいい~~!!!