台本概要

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タイトル 終末世界で君に会えたら
作者名 風音万愛  (@sosaku_senden)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 4人用台本(男1、女1、不問2) ※兼役あり
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 かつて謎のウイルスが蔓延した。
一度は収束したかに思えたが、数年後にかつての感染者が後遺症を発症し、そこから再びウイルスが蔓延。防護服なしでは外にも出られなくなった世界。
その中で唯一抗体を持っている花音は、研究施設に収容され血液を提供する日々。
趣味である配信巡りをしていると、サツキという配信者に出会い――。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
花音 137 柴原花音(しばはら・かのん) ハンドルネームは「ハナ」
サツキ 97 東雲皐月(しののめ・さつき) ハンドルネームは「サツキ」
研究員 不問 28 花音の血液を採取する人とサツキの部屋に案内する人といるがそれぞれ別の人物。2人でやる場合はサツキ役の人が兼役
放送 不問 1 一言しか登場しない。 2人でやる場合は花音役の人が兼役
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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: 花音:(N) 花音:その昔、世界に謎のウイルスが蔓延(まんえん)した。 花音:ウイルスの感染力はとどまることを知らず、人々の体を蝕(むしば)み、多くの死者を出した。 花音:この国の高度な医療体制や度重なる研究の甲斐あって、感染しても投薬治療を施すことにより完治といわれるまでに回復することができた。 花音:また、政府や国民の懸命な対策によって感染拡大を抑え、事態は終息へ近づきつつあると思われた。 花音:しかし、数年後。 花音:かつての感染者に新たな症状が現れた。 花音:全身の肌が焼けたようにただれ、やがて体内にも拡(ひろ)がり、命を落とすのだ。 花音:ウィルスによる病の後遺症だと考えられた。 花音:さらに、かつて完治したはずの感染者の体内にはまだウイルスが残っていることが判明。 花音:この感染症は、投薬治療も効果をなさないーー不治の病であることが証明された。 花音:彼らの体液を通して、感染は再び拡大した。 花音:世界は、防護服なしでは外も歩けなくなった。 : : 0:二XXX年 0:とある研究施設にて : 0:朝 0:殺風景な部屋のなかに少女がひとり 0:部屋の鍵が開き、防護服を身にまとった研究員が入ってくる : 研究員:「やぁ、おはよう」 花音:「……」 研究員:「気分はどうだい?」 花音:「いいわけないでしょ」 研究員:「ははっ。文句が言えるなら元気だな」 研究員:「朝食の前に『採取』だ。腕を出して」 花音:「……(腕を出す)」 0:腕には無数の注射痕 研究員:「……よし」 花音:「……毎日毎日、飽きもしないでよくやるわね」 花音:「ご飯持ってきて、人の血を採って、同じことの繰り返し。私と同じだわ」 花音:「ご飯食べて、血を採られて、暇を潰して……。ただ生きるだけ」 研究員:「そう卑屈になるな」 研究員:「この世界において、君が生きていることに意味があるんだよ」 研究員:「君は、この世界を救うかもしれないんだ」 研究員:「朝食はここに置いておく。……いい一日を」 0:研究員が部屋から出ていく 花音:「世界なんて……もう終わってるくせに」 : : 花音:(N) 花音:ここは、世界がウイルスに侵されてから設立された研究施設だ。 花音:謎のウイルスの研究を専門とし、その結果をもとにワクチンや新薬の開発に努めている……らしい。 花音:最近では「後遺症」により死期が近い人を引き取り、命尽きるまで資料として使うのだそうだ。 花音: 花音:私が研究材料としてこの施設に連れてこられたのは数年前ーーかつての感染者が「後遺症」を発症し始めた頃だ。 花音:家族や親戚が「後遺症」に倒れ命を落とす中、同じくかつての感染者である私には何の症状も現れなかった。 花音:検査すると、私の中にはウイルスに対する抗体ができていたらしい。だから「後遺症」の症状が出なかったのだと。 花音:それに目をつけた研究員たちは、身寄りがない、かわいそうな子どもを保護するという名目で施設に持ち帰った。 花音:ワクチンや治療薬を作るために、私の血液から抗体を採取し、研究するんだと。 花音:薬なんて、どうせ作れやしないのに。 花音:それから、私はこの部屋でずっと過ごしている。 花音: 花音:とはいえ、生活環境が劣悪なわけではない。 花音:タオルなどのアメニティは完備されているし、一日一回、血を採らせさえすればご飯だって食べさせてもらえる。 花音:監視カメラもないし、部屋の中さえ出なければ何をしていても自由だ。 花音:パソコンもあるし、スマフォの持ち込みもあり。研究員に言えば、刃物以外なら何でも買ってもらえる。 花音:ここまで優遇されているのは、ストレスで私が自ら命を絶つのを危惧(きぐ)してのことだろう。 花音:大切な「研究材料」がいなくなっては困るから。 花音: 花音:だから、そんな生活の中でも楽しみはある。 : 花音:「さてと。今日はどの人の配信聴こうかな」 : 花音:(N) 花音:私は配信アプリで色々な人の配信を聴くのが趣味だ。 花音:家にいてもできるからか、こんな世界になっても案外普及している。 : 花音:「そろそろ最推しさんが配信する時間かな……」 花音:「あ。お知らせ、更新されてる」 花音:「……最推しさん。『後遺症』出ちゃったか」 花音:「……(ため息)。もう、嫌になっちゃう」 花音:「仕方ない……。枠周りするか」 : 0:数十分後 : 花音:「うーん。どの枠もいまいち……」 花音:「……やっぱり、最推しさんが一番だったなぁ」 花音:「……あ、この人。ニューマークついてる」 花音:「『サツキ』さん、かぁ」 花音:「リスナー、まだ誰もいない……」 花音:「始めたばっかりなのかな。……入ってみるか」 : サツキ:「~♪」(鼻唄) サツキ:「……あっ!『ハナ』さん、いらっしゃい!」 サツキ:「よかったら、ゆっくりしてってね!」 : 花音:(N) 花音:「ハナ」は私のハンドルネームだ。 花音:私はコメント欄に書き込みをしていく。 : 花音:『こんにちは、初見です!』 サツキ:「こんにちは!来てくれてありがとうございます!」 サツキ:「あ。自己紹介、貼っておきますね!」 サツキ:「名前は『サツキ』で年齢は十六。性別は男で、趣味は歌うことです!」 サツキ:「よかったら、仲良くしてね!」 花音:『ないじこ!』 花音:『すみません、お名前だけ見て勝手に女性の方かと思ってました……(笑)』 サツキ:「あー、よく言われます」 サツキ:「これ、適当に本名から取っただけなんですけどね」 サツキ:「まぎらわしくて、すみません」 花音:『私の名前も本名をもじっただけなので、似たようなものです!』 花音:『あ。私も自己紹介、貼りますね!』 花音:『名前はハナ。年齢は十八。性別は女。趣味は配信を聴くことです!』 サツキ:「ないじこ!」 サツキ:「ハナさんは色んな人の配信を回ってるってことですかね?」 サツキ:「僕、これで初配信だから不馴れなんですけど……大丈夫です?」 花音:『別に、人の枠を評価とかしませんよ(笑)』 花音:『枠主が楽しむのが一番だと思います!』 サツキ:「ありがとうございます!」 サツキ:「ハナさん、優しいぃぃ」 花音:「(なに、この人。反応、かわいいかよ)」 : 花音:(N) 花音:その後、結局リスナーは私しかいなくて、二人で他愛もない話をした。 花音:そうしていたら、あっという間に配信終了時間が近づいた。 : サツキ:「あっ、もう終わりの時間なんですね。早いなぁ」 花音:『楽しかったです!ありがとうございました!』 サツキ:「こちらこそ、最後までいてくれてありがとうございました!」 サツキ:「多分、たまにこうやって配信することあると思うんで、また来てくれたら嬉しいです!」 0:配信終了画面になる 花音:「んんー……!(大きく伸びをする)」 花音:「久々に、なんか楽しかった……かも」 花音:「……うーん」 花音:「フォローしとくか」 花音:「……あ、秒でフォロバされた」 : 花音:(N) 花音:それから私は、サツキさんが配信するたび聴きに行った。 : サツキ:「ハナさん!いらっしゃい!」 花音:『こんにちは!』 花音:『また来ちゃいました(笑)』 サツキ:「ふふっ! ありがとう!」 サツキ:「あのあと、すぐフォローしてくれたでしょ?」 サツキ:「こんな配信でも、気に入ってくれたならすごく嬉しいです!」 花音:『いえいえ、そんなそんな』 花音:『ていうか、秒でフォロバされたの笑いました(笑)』 サツキ:「そりゃ、しますよ!」 サツキ:「……」 サツキ:「……えーと。なに話そうかな」 サツキ:「家にいるだけだと、話すことって尽きちゃいますよね」 花音:『あー、分かります!』 花音:『毎日同じことの繰り返しって感じで』 サツキ:「そうそう!分かってくれます?」 サツキ:「他の人の枠、見てるとすごいですよね! なんであんなに話が続くんだろう」 花音:『リスナーさんが多い枠だと、コメント拾ってるだけで時間が過ぎてるって感じですけどね』 花音:『まぁ、見てきた感じだと、コメントから話を広げてますよね』 サツキ:「なるほど……。さすがハナさん!」 花音:『昨日の感じだと、それはできてたからいいとして』 花音:『話題提供が難しいところですね』 サツキ:「そうなんですよー!実は僕、普段そんなに話せるタイプじゃなくて」 花音:『意外ですね!昨日はめちゃくちゃ話せてたじゃないですか』 サツキ:「あれは多分、ハナさんが話しやすかったからですよ」 サツキ:「他の配信者の方を見てて楽しそうだなって思って配信始めてみたんですけど……やっぱり難しいですね(苦笑)」 花音:『うーん。そんなに気を張らなくていいと思いますよ?』 花音:『楽しむのが目的なら、リスナーの数とかにこだわってたら疲れちゃいますし』 花音:『私、この枠にいるの楽しいですし!』 サツキ:「ハナさん、やっぱり優しいぃぃぃ」 サツキ:「ありがとうございます!」 : 0: : サツキ:「あっ、ハナさん!いらっしゃい!」 花音:『こんにちは!』 サツキ:「いつも来てくれてありがとう!」 花音:『いえいえ!』 花音:『あ、そういえば気になってたことがあったんですけど』 サツキ:「?」 花音:『あのとき歌ってたの、なんて曲ですか?』 サツキ:「……あのとき?」 サツキ:「ハナさんの前で歌ったことありましたっけ?」 花音:『ありますよ!初めて会ったとき、なんか歌ってましたよね?』 花音:『鼻唄だったけど』 サツキ:「え?……えっと、それって、いつですか?」 花音:『私が入室したときです』 サツキ:「うわぁぁぁぁぁ!あれ、聞かれてたのかぁぁぁ!」 花音:『気づいてなかったんですか!?』 サツキ:「うわぁぁぁぁぁ恥ずかしいぃぃぃ!」 花音:『そんなに恥ずかしがらなくても』 サツキ:「いやいや!恥ずかしいですって!」 花音:『別にいいじゃないですか。上手かったし』 サツキ:「鼻唄に上手いもなにもないでしょ!?」 花音:『ていうか前から思ってたんですけど、サツキさんって反応かわいいですよね』 サツキ:「なんですか藪から棒に!ていうか、かわいくないですぅー!」 花音:『その反応がかわいい』 サツキ:「もー!かわいいって言わないでくださいよー!」 : 花音:(N) 花音:いつしか、サツキさんの配信を楽しみにしている自分がいた。 : サツキ:「あっ、ハナさん!」 サツキ:「今日はね……コラボ機能、つけてみました!」 サツキ:「よかったら、あがってきてもらえませんか……?」 0:コラボボタンを押す花音 サツキ:「こんにちは!」 花音:「……こ、こんにちは」 サツキ:「わぁ……!きれいな声!」 花音:「き、きれいじゃないしっ……!」 サツキ:「なんで?きれいじゃん!」 サツキ:「あっ……、ごめんなさい。つい、タメ口が……」 花音:「……ふふっ。いいよ、別に」 サツキ:「えっ、でも……。年上の方ですし」 花音:「私、呼びタメ歓迎!ってタイプの人間だから」 花音:「それに、私もタメ口使っちゃってるし、おあいこでしょ?」 サツキ:「うぅぅ、ありがたいぃぃぃ」 サツキ:「じゃあ、遠慮なく!」 花音:「うん!」 : 花音:(N) 花音:いつの間にか、私はサツキさんを推していた。 花音:いや、それ以上に、彼ともっと仲良くなりたいと思うようになっていた。 : サツキ:「ハナさん、いらっしゃい!」 サツキ:「今日もコラボ、あがってく?」 0:コラボボタンを押す花音 花音:「やっほー」 サツキ:「やほ!」 花音:「……」 サツキ:「……」 サツキ:「……な、なんか、話すこと、なくなっちゃうね(苦笑)」 花音:「それなー」 サツキ:「ハナさんと話したいけど、話題がないというか……」 サツキ:「あ、じゃあ、なんか歌おうかな!」 花音:「マジか。鼻唄、恥ずかしがってたのに大丈夫なん?」 サツキ:「聴かせるのと聴かれるのは違うんですぅー!」 花音:「そっか。てか、その間、私どうしたらいいの」 サツキ:「あー、えーと……聴いてて!」 花音:「えええ」 0:数分後 サツキ:「けほっ……。えーと、次は……」 花音:「いやいや、のど痛いならやめときな!?」 サツキ:「だって……ハナさん、喜んでくれるし」 花音:「無理して歌われても嬉しくないわ。ほら、休憩」 サツキ:「はーい」 0:しばらく沈黙になる 花音:「……えっと。サツキさんは、歌以外に趣味とかないの?」 サツキ:「んー……特には。ハナさんは?」 花音:「私も、特には……。部屋にある本も読み飽きたし、外にも出られないし」 サツキ:「あー、確かに。ちょっとした買い物も行けない」 花音:「前は買い物にも、旅行にも……キャンプとか、カラオケにだって気軽に行けたのにね」 花音:「カフェやファミレスで友達と一日中話したこと、ない?」 サツキ:「それは、ないかも」 花音:「あ、そっか。男子とは感覚が違うよね」 サツキ:「僕は元々インドア派でさ。でも……家に集まって一緒にゲームとかしてたかな」 花音:「ゲームかぁ。今はわざわざ集まらなくても一緒にできるらしいね」 サツキ:「インターネットに繋げばね。相手がもう、いないけど……」 花音:「……」 サツキ:「……」 花音:「……こんな世界じゃなければ、君に会いに行けたのかな」 サツキ:「えっ?」 花音:「えっ、あ、いや!なんでもない!」 サツキ:「……そっか」 サツキ:「……僕も、ハナさんに会ってみたい」 花音:「~っ!?き、聞こえてたんじゃん!」 サツキ:「あははっ!ごめんって。でも……本心だよ」 サツキ:「ハナさんに会って、直接話してみたい」 サツキ:「僕ら、リアルでもきっと仲良くなれるよ!」 花音:「……うん」 サツキ:「話題とか、尽きないんだろうな」 花音:「う、うーん……。それはどうだろう。いつも『話すことないねー』って言ってるじゃん」 サツキ:「うぅ……、否(いな)めない……」 花音:「ふふっ!」 花音:「……話せなくたって、いいよ」 花音:「ずっと沈黙でもいい。ただ隣にいるだけで、いいのに……」 サツキ:「ハナさん……」 サツキ:「……会いましょう」 花音:「え?」 サツキ:「この国、色々とすごいから……薬とか、ワクチンとか作ってくれると思う」 サツキ:「いつか、普通に外を歩ける日がまた来る」 サツキ:「そのときは、真っ先にハナさんに会いに行くよ!」 サツキ:「だから、それまでお互い、生きていようね!」 花音:「……うん。約束だよ」 : 0: : サツキ:「……ハナさん。いらっしゃい(落ち込んでいる感じで)」 サツキ:「……コラボ、あがってきてくれない?」 0:花音、コラボボタンを押す サツキ:「……やほ」 花音:「やほ……。どうしたの?なんか、元気ない……?」 サツキ:「……ハナさんの声、聞いてると落ち着く」 サツキ:「……安心する」 花音:「……サツキさん。本当に、どうした?」 サツキ:「……」 花音:「何かあったなら……話、聞くよ?」 サツキ:「……友達が、亡くなったんだ」 花音:「……っ」 サツキ:「元々、感染者だった……」 サツキ:「最近『後遺症』も出てきて……。ずっと、会えなくて……」 サツキ:「それで、そのまま……」 花音:「……そう、なんだ」 サツキ:「……もう、やだよ」 サツキ:「家族も、友達も……みんないなくなってく」 花音:「……サツキさん?」 サツキ:「僕も……、いつか、ああやって死んでいくんだ……」 花音:「サツキさん! 落ち着いて!」 花音:「いつか会おうってこの前約束したじゃん!」 サツキ:「……ごめん。その約束……守れない」 花音:「なんで……、なんでそんなこと言うの……?」 花音:「周りの人たちが亡くなって悲しいのは分かるけど、サツキさんがそうなるとは限らないじゃない!そもそも、感染してなければ」 サツキ:「(さえぎるように)だから……なるんだって、僕は!」 花音:「……っ!」 花音:「……サツキさん、まさか」 サツキ:「……うん」 花音:「……!」 サツキ:「だから、いつか『後遺症』が出ることは決まってる……」 花音:「で、でも……薬とか、ワクチンとかができれば」 サツキ:「気休め言うなよ!そんなもの、できるわけない!」 花音:「……」 サツキ:「……ごめん、なさい」 サツキ:「……これ以上、ハナさんに当たりたくないから……枠、閉じるね」 花音:「サツキさん……!待って!」 0:配信終了画面が表示される : 花音:(N) 花音:あれから、サツキさんが配信を開くことはなくなってしまった。 花音:ブロックをされたわけじゃないみたいだが、私からしたら同じようなものだ。 花音:サツキさんとの関わりを絶たれたことに変わりはないのだから……。 花音:そんな矢先のことだった。 : : 0:昼 0:研究員が部屋に入ってくる 研究員:「やぁ。昼食の時間だ」 研究員:「おや?今日はスマフォ、いじらないのか?」 花音:「……うるさい」 研究員:「……えらく不機嫌だな」 花音:「話しかけてこなくていいから、そこに置いてさっさと出ていってよ」 研究員:「あぁ。そうさせてもらう」 研究員:「その前に『採取』だ」 花音:「……は?」 研究員:「さぁ、腕を出して」 花音:「ちょ、ちょっと待って!それなら朝もやったでしょ!?」 研究員:「ああ。これからは昼も『採取』させてもらう」 花音:「……理由は?」 研究員:「あ?」 花音:「『採取』の頻度(ひんど)を増やさなきゃいけなくなった理由はなに!?」 花音:「もしかして……研究、あんまり進んでないの?」 花音:「こっちだって、体の一部を提供してるみたいなもんなんだから!有効活用してもらわなきゃ困る!」 研究員:「君になにが分かる!?」 研究員:「こっちは寝る間も惜しんで、この国を救うために研究して……薬やワクチンを開発するのに試行錯誤してるんだよ!」 研究員:「だが……追いつかないんだ」 研究員:「研究の進捗(しんちょく)に対して、感染のスピードが……」 研究員:「このままでは、成果をあげる前に人類は滅亡する」 研究員:「それを防ぐために、もっと抗体を採取する必要があるんだよ」 研究員:「分かったら、さっさと腕を出せ!」 花音:「……(腕を出す)」 研究員:「……それでいい」 : : 花音:(N) 花音:それから、日を追うごとに『採取』の回数は一日に二回、三回と増えていった。 花音:同時に、サツキさんが配信をしなくなって何日も経った。 : 花音:「(もう……サツキさんの声、聴けないのかな)」 0:通知音が鳴る 花音:「……!サツキさん……!」 : サツキ:「……ハナさん。いらっしゃい」 花音:「(あれっ……。コラボ機能がついてない……)」 サツキ:「……今日はね、ハナさんに伝えたいことがあって枠を開いたんだ」 サツキ:「だから、コラボ機能はつけてない」 サツキ:「まず……この前は本当にごめんなさい。僕のこと、慰めようとしてくれたのに……あんなことを言ってしまって」 サツキ:「ずっと謝りたかったんだけど、勇気がでなくて……」 サツキ:「でも……ちゃんと言わなきゃ、後悔するって思ったから」 : 花音:(N) 花音:コメントを打ちこむ指が、ひどく震えた。 : 花音:『そんなこと、全然いいよ!』 花音:『私こそ……サツキさんの気持ち、うまく汲み取ってあげられなくてごめんね』 サツキ:「……ハナさんは、なにも悪くないよ」 サツキ:「……あのね。僕、ハナさんに出会えて、よかった」 サツキ:「ハナさんはいつも優しくてさ。こんな不馴れな配信にいつも来てくれて……」 サツキ:「……君と話せて、すっごく楽しかった」 : 花音:(N)嫌な予感がした。 : 花音:『いきなり、どうしたの?』 花音:『なんで、これが最後みたいな言い方するの……?』 サツキ:「……これで、最後だからだよ」 花音:「……っ!」 サツキ:「……出たんだ。『後遺症』が」 サツキ:「僕は多分もう……長くない」 花音:『待って!あきらめないで!』 花音:『ずっと言ってなかったことがあるの』 花音:『私も昔、感染者だったの。でも、ウイルスに対する抗体ができて『後遺症』が出なかった』 花音:『今、その抗体を使った研究が進められてるの!』 花音:『薬やワクチンができるのだって、夢じゃないんだよ!?』 サツキ:「……ありがとう」 サツキ:「でも……そんな嘘、つかなくていい」 花音:『嘘じゃない!』 サツキ:「……もうひとつだけ、伝えたいことがあるんだ。聞いてくれるかな?」 花音:『……?』 サツキ:「言うつもりなかったんだけどさ。……このままだと、未練が残っちゃうから」 サツキ:「……あのね、ハナさん。顔も見たことのない相手が、こんなこと言うの、滑稽(こっけい)かもしれないんだけど」 サツキ:「僕は……ハナさんのことが、好きです」 花音:「……!」 サツキ:「本当は、ハナさんに会ってみたかった。どこにもいけなくても……、隣にいてくれればそれでよかったのに……」 サツキ:「ねぇ。さっきの話がもし本当なら……ハナさんはこれからも生きていけるってことだよね?」 サツキ:「だったらさ……君だけは幸せになってよ」 サツキ:「僕は……遠くから見守ってるから」 サツキ:「……それじゃ。枠、閉じるね」 花音:「(待って……!)」 サツキ:「今までありがとう……大好きだよ」 花音:『私も、サツキさんのことが好き 0:送信する前に配信終了画面が表示される : : 花音:(N) 花音:あれから、サツキさんは本当に配信をやめてしまった。 花音:サツキさんがいない日々が、何日も続いていく。 花音:研究の進捗も『採取』の頻度も相変わらずで、次第に私の体力は消耗していった。 : 花音:「(……気分、悪い)」 花音:「(……くらくらする)」 花音:「(このままだと……私も、もう長くないんだろうな)」 : : 0:ある日 0:部屋の外から、研究員の話し声が聞こえる : 研究員:「あぁ、これか?新しく入った『資料』から没収したんだよ」 研究員:「スマフォを持ってること自体は問題じゃないんだが……ただれた指から出血して感染が拡がったら困るから、一応な」 研究員:「それにしても、かわいそうにな……まだ十六歳なんだろ?」 研究員:「二〇一号室の、東雲皐月(しののめ・さつき)って子」 花音:「(……さつき?)」 : サツキ:『これ、適当に本名から取っただけなんですけどね』 : 花音:「……サツキさんが、この施設に、いる……?」 : 花音:(N) 花音:それが分かって、ふと思いついた。 花音:同じ施設にいるということは、やり方次第では会いに行ける。 花音:そういえば……抗体をわざわざ取り出して薬にすることになんの意味がある? 花音:直接、私の血を飲ませれば早いじゃないか。 花音:私なら、サツキさんを救える。 花音:そのために、会いに行くーーどんな手を使っても。 : : 0:次の日 0:研究員、部屋に入ってくる 研究員:「おはよう。『採取』の時間だ」 研究員:「腕を出して」 花音:「……(腕を出す)」 研究員:「……よし。朝食はここに置いておくからな」 0:研究員、部屋を出ようと背を向ける 0:花音、後ろから突進して研究員を転ばせる 0:怯んだ隙に持っていたタオルを研究員の首に巻いて思い切り引っ張る 研究員:「ぐっ……、が……ぁ……」(動かなくなる) 花音:「はぁ……、はぁ……」 0:研究員の防護服を脱がして自分が着る 0:『採取』した血液と注射器を持ち出して部屋を出る 花音:「(……ふらふら、する)」 花音:「(他の研究員に見つかる前に、部屋を見つけなきゃ……)」 花音:「(ここは、一階か……)」 0:後ろから声をかけられる 研究員:「……おい、お前!」 花音:「……っ!(ビクッ)」 研究員:「大丈夫か?ふらついているみたいだが……」 花音:「……」 研究員:「体調悪いのか……?」 花音:「大丈夫、です」 研究員:「無理すんなって!」 花音:「……そんなことより、二○一号室って、どこですか?」 研究員:「……二○一号室?」 花音:「ちょっとそこに……仕事が」 研究員:「なんだお前、新人か?」 研究員:「んー……分かった。連れてってやるから、仕事が終わったら早退しろよ?」 研究員:「念のため、検査もしてもらえ」 花音:「……はい」 : 0:二○一号室前 研究員:「ほら、着いたぞ」 花音:「ありがとう、ございます……」 研究員:「ところで、お前、こんなところになんの用事が……」 0:警報が鳴る 放送:「全職員に告ぐ。柴原花音(しばはら・かのん)が職員一名を殺害し脱走した。見つけた者は直ちに捕獲せよ!」 研究員:「うわ、マジか……」 花音:「っ!」 研究員:「おい。仕事は後回しにして、俺らも探しに……ぐあっ!?」 0:花音、研究員の顔面に頭突きする 0:ふらついた隙に持っていた注射器で研究員の喉元を刺す 研究員:「……っ!」 研究員:「お、まえ……、ま、さか……」 研究員:「ぁ……」(動かなくなる) 0:花音、研究員を突っ張り棒にして部屋の中に入る 0:ガラス部屋との二重構造。その向こうにベッドに寝ているサツキの姿 花音:「(ここには鍵がかかってるのか)」 花音:「(……叩いて割るしかない)」 花音:「(……っ!ダメ、意識が……)」 花音:「(でも……やめるわけには、いかない……!)」 0:何回か叩いてガラスを割り、部屋に入る 花音:「……(息切れしながら)」 サツキ:「……?(寝ながら首だけで振り返る)」 花音:「……サツキさん、だよね?」 サツキ:「……」 花音:「……私、です。……『ハナ』です」 サツキ:「……!」 サツキ:「ハナ、さん……」 0:サツキ、ゆっくりと体を起こす サツキ:「ハナ、さん……。怪我、してる……」 花音:「平気……、これくらい……」 花音:「そんな、ことより……やっと、会えた……」 サツキ:「……うん。……うれし」 花音:「……サツキ、さん。これ……、飲んで……」 花音:「私の、血……。汚いかも、だけど……」 花音:「抗体、入ってる、から……もしかしたら」 サツキ:「もう、いいんだ……。それ、より、も……」 サツキ:「……抱きしめ、させて」 花音:「……!……うん」 サツキ:「……あったかい」 サツキ:「……ハナさんが、いる」 花音:「……うん」 サツキ:「夢、みたいだ……」 花音:「あっ……、サツキさん、血が……」 サツキ:「……離れ、ないで」(さらに強く抱きしめる) 花音:「……うん」 花音:「あの、ね、サツキさん……」 花音:「あの、ときから、言いたいこと、あったの」 サツキ:「……?」 花音:「私も、サツキ、さんの、ことが……好き」 サツキ:「……!」 サツキ:「そっか……。両、想い、だったんだ……」 花音:「そう、だよ……。返事、する前に、配信、閉じるから……」 サツキ:「ははっ……、それ、は、ごめん」 0: サツキ:「……なんか、眠く、なって、きた」 花音:「……ん。私、も……」 サツキ:「……一緒、に、寝よ?」 花音:「……うん」 0:抱きしめ合いながら寝転がる サツキ:「幸せ、だなぁ……」 花音:「私、も……」 サツキ:「ハナ、さん……、ありが、とう……」 サツキ:「出会って、くれて……、会いに、来て、くれて……」 サツキ:「好きに、なって、くれて……」 花音:「なに、言ってるの……」 花音:「全部、こっちの、せりふ、だよ……」 サツキ:「……ふふっ」 サツキ:「……大好き、だよ」 花音:「……うん」 花音:「私、も……大好き」 サツキ:「……」 花音:「……」 : : 0:数十分後、研究員の捜索により、柴原花音と東雲皐月が発見された。二人は寄り添うように、息絶えていたという

: 花音:(N) 花音:その昔、世界に謎のウイルスが蔓延(まんえん)した。 花音:ウイルスの感染力はとどまることを知らず、人々の体を蝕(むしば)み、多くの死者を出した。 花音:この国の高度な医療体制や度重なる研究の甲斐あって、感染しても投薬治療を施すことにより完治といわれるまでに回復することができた。 花音:また、政府や国民の懸命な対策によって感染拡大を抑え、事態は終息へ近づきつつあると思われた。 花音:しかし、数年後。 花音:かつての感染者に新たな症状が現れた。 花音:全身の肌が焼けたようにただれ、やがて体内にも拡(ひろ)がり、命を落とすのだ。 花音:ウィルスによる病の後遺症だと考えられた。 花音:さらに、かつて完治したはずの感染者の体内にはまだウイルスが残っていることが判明。 花音:この感染症は、投薬治療も効果をなさないーー不治の病であることが証明された。 花音:彼らの体液を通して、感染は再び拡大した。 花音:世界は、防護服なしでは外も歩けなくなった。 : : 0:二XXX年 0:とある研究施設にて : 0:朝 0:殺風景な部屋のなかに少女がひとり 0:部屋の鍵が開き、防護服を身にまとった研究員が入ってくる : 研究員:「やぁ、おはよう」 花音:「……」 研究員:「気分はどうだい?」 花音:「いいわけないでしょ」 研究員:「ははっ。文句が言えるなら元気だな」 研究員:「朝食の前に『採取』だ。腕を出して」 花音:「……(腕を出す)」 0:腕には無数の注射痕 研究員:「……よし」 花音:「……毎日毎日、飽きもしないでよくやるわね」 花音:「ご飯持ってきて、人の血を採って、同じことの繰り返し。私と同じだわ」 花音:「ご飯食べて、血を採られて、暇を潰して……。ただ生きるだけ」 研究員:「そう卑屈になるな」 研究員:「この世界において、君が生きていることに意味があるんだよ」 研究員:「君は、この世界を救うかもしれないんだ」 研究員:「朝食はここに置いておく。……いい一日を」 0:研究員が部屋から出ていく 花音:「世界なんて……もう終わってるくせに」 : : 花音:(N) 花音:ここは、世界がウイルスに侵されてから設立された研究施設だ。 花音:謎のウイルスの研究を専門とし、その結果をもとにワクチンや新薬の開発に努めている……らしい。 花音:最近では「後遺症」により死期が近い人を引き取り、命尽きるまで資料として使うのだそうだ。 花音: 花音:私が研究材料としてこの施設に連れてこられたのは数年前ーーかつての感染者が「後遺症」を発症し始めた頃だ。 花音:家族や親戚が「後遺症」に倒れ命を落とす中、同じくかつての感染者である私には何の症状も現れなかった。 花音:検査すると、私の中にはウイルスに対する抗体ができていたらしい。だから「後遺症」の症状が出なかったのだと。 花音:それに目をつけた研究員たちは、身寄りがない、かわいそうな子どもを保護するという名目で施設に持ち帰った。 花音:ワクチンや治療薬を作るために、私の血液から抗体を採取し、研究するんだと。 花音:薬なんて、どうせ作れやしないのに。 花音:それから、私はこの部屋でずっと過ごしている。 花音: 花音:とはいえ、生活環境が劣悪なわけではない。 花音:タオルなどのアメニティは完備されているし、一日一回、血を採らせさえすればご飯だって食べさせてもらえる。 花音:監視カメラもないし、部屋の中さえ出なければ何をしていても自由だ。 花音:パソコンもあるし、スマフォの持ち込みもあり。研究員に言えば、刃物以外なら何でも買ってもらえる。 花音:ここまで優遇されているのは、ストレスで私が自ら命を絶つのを危惧(きぐ)してのことだろう。 花音:大切な「研究材料」がいなくなっては困るから。 花音: 花音:だから、そんな生活の中でも楽しみはある。 : 花音:「さてと。今日はどの人の配信聴こうかな」 : 花音:(N) 花音:私は配信アプリで色々な人の配信を聴くのが趣味だ。 花音:家にいてもできるからか、こんな世界になっても案外普及している。 : 花音:「そろそろ最推しさんが配信する時間かな……」 花音:「あ。お知らせ、更新されてる」 花音:「……最推しさん。『後遺症』出ちゃったか」 花音:「……(ため息)。もう、嫌になっちゃう」 花音:「仕方ない……。枠周りするか」 : 0:数十分後 : 花音:「うーん。どの枠もいまいち……」 花音:「……やっぱり、最推しさんが一番だったなぁ」 花音:「……あ、この人。ニューマークついてる」 花音:「『サツキ』さん、かぁ」 花音:「リスナー、まだ誰もいない……」 花音:「始めたばっかりなのかな。……入ってみるか」 : サツキ:「~♪」(鼻唄) サツキ:「……あっ!『ハナ』さん、いらっしゃい!」 サツキ:「よかったら、ゆっくりしてってね!」 : 花音:(N) 花音:「ハナ」は私のハンドルネームだ。 花音:私はコメント欄に書き込みをしていく。 : 花音:『こんにちは、初見です!』 サツキ:「こんにちは!来てくれてありがとうございます!」 サツキ:「あ。自己紹介、貼っておきますね!」 サツキ:「名前は『サツキ』で年齢は十六。性別は男で、趣味は歌うことです!」 サツキ:「よかったら、仲良くしてね!」 花音:『ないじこ!』 花音:『すみません、お名前だけ見て勝手に女性の方かと思ってました……(笑)』 サツキ:「あー、よく言われます」 サツキ:「これ、適当に本名から取っただけなんですけどね」 サツキ:「まぎらわしくて、すみません」 花音:『私の名前も本名をもじっただけなので、似たようなものです!』 花音:『あ。私も自己紹介、貼りますね!』 花音:『名前はハナ。年齢は十八。性別は女。趣味は配信を聴くことです!』 サツキ:「ないじこ!」 サツキ:「ハナさんは色んな人の配信を回ってるってことですかね?」 サツキ:「僕、これで初配信だから不馴れなんですけど……大丈夫です?」 花音:『別に、人の枠を評価とかしませんよ(笑)』 花音:『枠主が楽しむのが一番だと思います!』 サツキ:「ありがとうございます!」 サツキ:「ハナさん、優しいぃぃ」 花音:「(なに、この人。反応、かわいいかよ)」 : 花音:(N) 花音:その後、結局リスナーは私しかいなくて、二人で他愛もない話をした。 花音:そうしていたら、あっという間に配信終了時間が近づいた。 : サツキ:「あっ、もう終わりの時間なんですね。早いなぁ」 花音:『楽しかったです!ありがとうございました!』 サツキ:「こちらこそ、最後までいてくれてありがとうございました!」 サツキ:「多分、たまにこうやって配信することあると思うんで、また来てくれたら嬉しいです!」 0:配信終了画面になる 花音:「んんー……!(大きく伸びをする)」 花音:「久々に、なんか楽しかった……かも」 花音:「……うーん」 花音:「フォローしとくか」 花音:「……あ、秒でフォロバされた」 : 花音:(N) 花音:それから私は、サツキさんが配信するたび聴きに行った。 : サツキ:「ハナさん!いらっしゃい!」 花音:『こんにちは!』 花音:『また来ちゃいました(笑)』 サツキ:「ふふっ! ありがとう!」 サツキ:「あのあと、すぐフォローしてくれたでしょ?」 サツキ:「こんな配信でも、気に入ってくれたならすごく嬉しいです!」 花音:『いえいえ、そんなそんな』 花音:『ていうか、秒でフォロバされたの笑いました(笑)』 サツキ:「そりゃ、しますよ!」 サツキ:「……」 サツキ:「……えーと。なに話そうかな」 サツキ:「家にいるだけだと、話すことって尽きちゃいますよね」 花音:『あー、分かります!』 花音:『毎日同じことの繰り返しって感じで』 サツキ:「そうそう!分かってくれます?」 サツキ:「他の人の枠、見てるとすごいですよね! なんであんなに話が続くんだろう」 花音:『リスナーさんが多い枠だと、コメント拾ってるだけで時間が過ぎてるって感じですけどね』 花音:『まぁ、見てきた感じだと、コメントから話を広げてますよね』 サツキ:「なるほど……。さすがハナさん!」 花音:『昨日の感じだと、それはできてたからいいとして』 花音:『話題提供が難しいところですね』 サツキ:「そうなんですよー!実は僕、普段そんなに話せるタイプじゃなくて」 花音:『意外ですね!昨日はめちゃくちゃ話せてたじゃないですか』 サツキ:「あれは多分、ハナさんが話しやすかったからですよ」 サツキ:「他の配信者の方を見てて楽しそうだなって思って配信始めてみたんですけど……やっぱり難しいですね(苦笑)」 花音:『うーん。そんなに気を張らなくていいと思いますよ?』 花音:『楽しむのが目的なら、リスナーの数とかにこだわってたら疲れちゃいますし』 花音:『私、この枠にいるの楽しいですし!』 サツキ:「ハナさん、やっぱり優しいぃぃぃ」 サツキ:「ありがとうございます!」 : 0: : サツキ:「あっ、ハナさん!いらっしゃい!」 花音:『こんにちは!』 サツキ:「いつも来てくれてありがとう!」 花音:『いえいえ!』 花音:『あ、そういえば気になってたことがあったんですけど』 サツキ:「?」 花音:『あのとき歌ってたの、なんて曲ですか?』 サツキ:「……あのとき?」 サツキ:「ハナさんの前で歌ったことありましたっけ?」 花音:『ありますよ!初めて会ったとき、なんか歌ってましたよね?』 花音:『鼻唄だったけど』 サツキ:「え?……えっと、それって、いつですか?」 花音:『私が入室したときです』 サツキ:「うわぁぁぁぁぁ!あれ、聞かれてたのかぁぁぁ!」 花音:『気づいてなかったんですか!?』 サツキ:「うわぁぁぁぁぁ恥ずかしいぃぃぃ!」 花音:『そんなに恥ずかしがらなくても』 サツキ:「いやいや!恥ずかしいですって!」 花音:『別にいいじゃないですか。上手かったし』 サツキ:「鼻唄に上手いもなにもないでしょ!?」 花音:『ていうか前から思ってたんですけど、サツキさんって反応かわいいですよね』 サツキ:「なんですか藪から棒に!ていうか、かわいくないですぅー!」 花音:『その反応がかわいい』 サツキ:「もー!かわいいって言わないでくださいよー!」 : 花音:(N) 花音:いつしか、サツキさんの配信を楽しみにしている自分がいた。 : サツキ:「あっ、ハナさん!」 サツキ:「今日はね……コラボ機能、つけてみました!」 サツキ:「よかったら、あがってきてもらえませんか……?」 0:コラボボタンを押す花音 サツキ:「こんにちは!」 花音:「……こ、こんにちは」 サツキ:「わぁ……!きれいな声!」 花音:「き、きれいじゃないしっ……!」 サツキ:「なんで?きれいじゃん!」 サツキ:「あっ……、ごめんなさい。つい、タメ口が……」 花音:「……ふふっ。いいよ、別に」 サツキ:「えっ、でも……。年上の方ですし」 花音:「私、呼びタメ歓迎!ってタイプの人間だから」 花音:「それに、私もタメ口使っちゃってるし、おあいこでしょ?」 サツキ:「うぅぅ、ありがたいぃぃぃ」 サツキ:「じゃあ、遠慮なく!」 花音:「うん!」 : 花音:(N) 花音:いつの間にか、私はサツキさんを推していた。 花音:いや、それ以上に、彼ともっと仲良くなりたいと思うようになっていた。 : サツキ:「ハナさん、いらっしゃい!」 サツキ:「今日もコラボ、あがってく?」 0:コラボボタンを押す花音 花音:「やっほー」 サツキ:「やほ!」 花音:「……」 サツキ:「……」 サツキ:「……な、なんか、話すこと、なくなっちゃうね(苦笑)」 花音:「それなー」 サツキ:「ハナさんと話したいけど、話題がないというか……」 サツキ:「あ、じゃあ、なんか歌おうかな!」 花音:「マジか。鼻唄、恥ずかしがってたのに大丈夫なん?」 サツキ:「聴かせるのと聴かれるのは違うんですぅー!」 花音:「そっか。てか、その間、私どうしたらいいの」 サツキ:「あー、えーと……聴いてて!」 花音:「えええ」 0:数分後 サツキ:「けほっ……。えーと、次は……」 花音:「いやいや、のど痛いならやめときな!?」 サツキ:「だって……ハナさん、喜んでくれるし」 花音:「無理して歌われても嬉しくないわ。ほら、休憩」 サツキ:「はーい」 0:しばらく沈黙になる 花音:「……えっと。サツキさんは、歌以外に趣味とかないの?」 サツキ:「んー……特には。ハナさんは?」 花音:「私も、特には……。部屋にある本も読み飽きたし、外にも出られないし」 サツキ:「あー、確かに。ちょっとした買い物も行けない」 花音:「前は買い物にも、旅行にも……キャンプとか、カラオケにだって気軽に行けたのにね」 花音:「カフェやファミレスで友達と一日中話したこと、ない?」 サツキ:「それは、ないかも」 花音:「あ、そっか。男子とは感覚が違うよね」 サツキ:「僕は元々インドア派でさ。でも……家に集まって一緒にゲームとかしてたかな」 花音:「ゲームかぁ。今はわざわざ集まらなくても一緒にできるらしいね」 サツキ:「インターネットに繋げばね。相手がもう、いないけど……」 花音:「……」 サツキ:「……」 花音:「……こんな世界じゃなければ、君に会いに行けたのかな」 サツキ:「えっ?」 花音:「えっ、あ、いや!なんでもない!」 サツキ:「……そっか」 サツキ:「……僕も、ハナさんに会ってみたい」 花音:「~っ!?き、聞こえてたんじゃん!」 サツキ:「あははっ!ごめんって。でも……本心だよ」 サツキ:「ハナさんに会って、直接話してみたい」 サツキ:「僕ら、リアルでもきっと仲良くなれるよ!」 花音:「……うん」 サツキ:「話題とか、尽きないんだろうな」 花音:「う、うーん……。それはどうだろう。いつも『話すことないねー』って言ってるじゃん」 サツキ:「うぅ……、否(いな)めない……」 花音:「ふふっ!」 花音:「……話せなくたって、いいよ」 花音:「ずっと沈黙でもいい。ただ隣にいるだけで、いいのに……」 サツキ:「ハナさん……」 サツキ:「……会いましょう」 花音:「え?」 サツキ:「この国、色々とすごいから……薬とか、ワクチンとか作ってくれると思う」 サツキ:「いつか、普通に外を歩ける日がまた来る」 サツキ:「そのときは、真っ先にハナさんに会いに行くよ!」 サツキ:「だから、それまでお互い、生きていようね!」 花音:「……うん。約束だよ」 : 0: : サツキ:「……ハナさん。いらっしゃい(落ち込んでいる感じで)」 サツキ:「……コラボ、あがってきてくれない?」 0:花音、コラボボタンを押す サツキ:「……やほ」 花音:「やほ……。どうしたの?なんか、元気ない……?」 サツキ:「……ハナさんの声、聞いてると落ち着く」 サツキ:「……安心する」 花音:「……サツキさん。本当に、どうした?」 サツキ:「……」 花音:「何かあったなら……話、聞くよ?」 サツキ:「……友達が、亡くなったんだ」 花音:「……っ」 サツキ:「元々、感染者だった……」 サツキ:「最近『後遺症』も出てきて……。ずっと、会えなくて……」 サツキ:「それで、そのまま……」 花音:「……そう、なんだ」 サツキ:「……もう、やだよ」 サツキ:「家族も、友達も……みんないなくなってく」 花音:「……サツキさん?」 サツキ:「僕も……、いつか、ああやって死んでいくんだ……」 花音:「サツキさん! 落ち着いて!」 花音:「いつか会おうってこの前約束したじゃん!」 サツキ:「……ごめん。その約束……守れない」 花音:「なんで……、なんでそんなこと言うの……?」 花音:「周りの人たちが亡くなって悲しいのは分かるけど、サツキさんがそうなるとは限らないじゃない!そもそも、感染してなければ」 サツキ:「(さえぎるように)だから……なるんだって、僕は!」 花音:「……っ!」 花音:「……サツキさん、まさか」 サツキ:「……うん」 花音:「……!」 サツキ:「だから、いつか『後遺症』が出ることは決まってる……」 花音:「で、でも……薬とか、ワクチンとかができれば」 サツキ:「気休め言うなよ!そんなもの、できるわけない!」 花音:「……」 サツキ:「……ごめん、なさい」 サツキ:「……これ以上、ハナさんに当たりたくないから……枠、閉じるね」 花音:「サツキさん……!待って!」 0:配信終了画面が表示される : 花音:(N) 花音:あれから、サツキさんが配信を開くことはなくなってしまった。 花音:ブロックをされたわけじゃないみたいだが、私からしたら同じようなものだ。 花音:サツキさんとの関わりを絶たれたことに変わりはないのだから……。 花音:そんな矢先のことだった。 : : 0:昼 0:研究員が部屋に入ってくる 研究員:「やぁ。昼食の時間だ」 研究員:「おや?今日はスマフォ、いじらないのか?」 花音:「……うるさい」 研究員:「……えらく不機嫌だな」 花音:「話しかけてこなくていいから、そこに置いてさっさと出ていってよ」 研究員:「あぁ。そうさせてもらう」 研究員:「その前に『採取』だ」 花音:「……は?」 研究員:「さぁ、腕を出して」 花音:「ちょ、ちょっと待って!それなら朝もやったでしょ!?」 研究員:「ああ。これからは昼も『採取』させてもらう」 花音:「……理由は?」 研究員:「あ?」 花音:「『採取』の頻度(ひんど)を増やさなきゃいけなくなった理由はなに!?」 花音:「もしかして……研究、あんまり進んでないの?」 花音:「こっちだって、体の一部を提供してるみたいなもんなんだから!有効活用してもらわなきゃ困る!」 研究員:「君になにが分かる!?」 研究員:「こっちは寝る間も惜しんで、この国を救うために研究して……薬やワクチンを開発するのに試行錯誤してるんだよ!」 研究員:「だが……追いつかないんだ」 研究員:「研究の進捗(しんちょく)に対して、感染のスピードが……」 研究員:「このままでは、成果をあげる前に人類は滅亡する」 研究員:「それを防ぐために、もっと抗体を採取する必要があるんだよ」 研究員:「分かったら、さっさと腕を出せ!」 花音:「……(腕を出す)」 研究員:「……それでいい」 : : 花音:(N) 花音:それから、日を追うごとに『採取』の回数は一日に二回、三回と増えていった。 花音:同時に、サツキさんが配信をしなくなって何日も経った。 : 花音:「(もう……サツキさんの声、聴けないのかな)」 0:通知音が鳴る 花音:「……!サツキさん……!」 : サツキ:「……ハナさん。いらっしゃい」 花音:「(あれっ……。コラボ機能がついてない……)」 サツキ:「……今日はね、ハナさんに伝えたいことがあって枠を開いたんだ」 サツキ:「だから、コラボ機能はつけてない」 サツキ:「まず……この前は本当にごめんなさい。僕のこと、慰めようとしてくれたのに……あんなことを言ってしまって」 サツキ:「ずっと謝りたかったんだけど、勇気がでなくて……」 サツキ:「でも……ちゃんと言わなきゃ、後悔するって思ったから」 : 花音:(N) 花音:コメントを打ちこむ指が、ひどく震えた。 : 花音:『そんなこと、全然いいよ!』 花音:『私こそ……サツキさんの気持ち、うまく汲み取ってあげられなくてごめんね』 サツキ:「……ハナさんは、なにも悪くないよ」 サツキ:「……あのね。僕、ハナさんに出会えて、よかった」 サツキ:「ハナさんはいつも優しくてさ。こんな不馴れな配信にいつも来てくれて……」 サツキ:「……君と話せて、すっごく楽しかった」 : 花音:(N)嫌な予感がした。 : 花音:『いきなり、どうしたの?』 花音:『なんで、これが最後みたいな言い方するの……?』 サツキ:「……これで、最後だからだよ」 花音:「……っ!」 サツキ:「……出たんだ。『後遺症』が」 サツキ:「僕は多分もう……長くない」 花音:『待って!あきらめないで!』 花音:『ずっと言ってなかったことがあるの』 花音:『私も昔、感染者だったの。でも、ウイルスに対する抗体ができて『後遺症』が出なかった』 花音:『今、その抗体を使った研究が進められてるの!』 花音:『薬やワクチンができるのだって、夢じゃないんだよ!?』 サツキ:「……ありがとう」 サツキ:「でも……そんな嘘、つかなくていい」 花音:『嘘じゃない!』 サツキ:「……もうひとつだけ、伝えたいことがあるんだ。聞いてくれるかな?」 花音:『……?』 サツキ:「言うつもりなかったんだけどさ。……このままだと、未練が残っちゃうから」 サツキ:「……あのね、ハナさん。顔も見たことのない相手が、こんなこと言うの、滑稽(こっけい)かもしれないんだけど」 サツキ:「僕は……ハナさんのことが、好きです」 花音:「……!」 サツキ:「本当は、ハナさんに会ってみたかった。どこにもいけなくても……、隣にいてくれればそれでよかったのに……」 サツキ:「ねぇ。さっきの話がもし本当なら……ハナさんはこれからも生きていけるってことだよね?」 サツキ:「だったらさ……君だけは幸せになってよ」 サツキ:「僕は……遠くから見守ってるから」 サツキ:「……それじゃ。枠、閉じるね」 花音:「(待って……!)」 サツキ:「今までありがとう……大好きだよ」 花音:『私も、サツキさんのことが好き 0:送信する前に配信終了画面が表示される : : 花音:(N) 花音:あれから、サツキさんは本当に配信をやめてしまった。 花音:サツキさんがいない日々が、何日も続いていく。 花音:研究の進捗も『採取』の頻度も相変わらずで、次第に私の体力は消耗していった。 : 花音:「(……気分、悪い)」 花音:「(……くらくらする)」 花音:「(このままだと……私も、もう長くないんだろうな)」 : : 0:ある日 0:部屋の外から、研究員の話し声が聞こえる : 研究員:「あぁ、これか?新しく入った『資料』から没収したんだよ」 研究員:「スマフォを持ってること自体は問題じゃないんだが……ただれた指から出血して感染が拡がったら困るから、一応な」 研究員:「それにしても、かわいそうにな……まだ十六歳なんだろ?」 研究員:「二〇一号室の、東雲皐月(しののめ・さつき)って子」 花音:「(……さつき?)」 : サツキ:『これ、適当に本名から取っただけなんですけどね』 : 花音:「……サツキさんが、この施設に、いる……?」 : 花音:(N) 花音:それが分かって、ふと思いついた。 花音:同じ施設にいるということは、やり方次第では会いに行ける。 花音:そういえば……抗体をわざわざ取り出して薬にすることになんの意味がある? 花音:直接、私の血を飲ませれば早いじゃないか。 花音:私なら、サツキさんを救える。 花音:そのために、会いに行くーーどんな手を使っても。 : : 0:次の日 0:研究員、部屋に入ってくる 研究員:「おはよう。『採取』の時間だ」 研究員:「腕を出して」 花音:「……(腕を出す)」 研究員:「……よし。朝食はここに置いておくからな」 0:研究員、部屋を出ようと背を向ける 0:花音、後ろから突進して研究員を転ばせる 0:怯んだ隙に持っていたタオルを研究員の首に巻いて思い切り引っ張る 研究員:「ぐっ……、が……ぁ……」(動かなくなる) 花音:「はぁ……、はぁ……」 0:研究員の防護服を脱がして自分が着る 0:『採取』した血液と注射器を持ち出して部屋を出る 花音:「(……ふらふら、する)」 花音:「(他の研究員に見つかる前に、部屋を見つけなきゃ……)」 花音:「(ここは、一階か……)」 0:後ろから声をかけられる 研究員:「……おい、お前!」 花音:「……っ!(ビクッ)」 研究員:「大丈夫か?ふらついているみたいだが……」 花音:「……」 研究員:「体調悪いのか……?」 花音:「大丈夫、です」 研究員:「無理すんなって!」 花音:「……そんなことより、二○一号室って、どこですか?」 研究員:「……二○一号室?」 花音:「ちょっとそこに……仕事が」 研究員:「なんだお前、新人か?」 研究員:「んー……分かった。連れてってやるから、仕事が終わったら早退しろよ?」 研究員:「念のため、検査もしてもらえ」 花音:「……はい」 : 0:二○一号室前 研究員:「ほら、着いたぞ」 花音:「ありがとう、ございます……」 研究員:「ところで、お前、こんなところになんの用事が……」 0:警報が鳴る 放送:「全職員に告ぐ。柴原花音(しばはら・かのん)が職員一名を殺害し脱走した。見つけた者は直ちに捕獲せよ!」 研究員:「うわ、マジか……」 花音:「っ!」 研究員:「おい。仕事は後回しにして、俺らも探しに……ぐあっ!?」 0:花音、研究員の顔面に頭突きする 0:ふらついた隙に持っていた注射器で研究員の喉元を刺す 研究員:「……っ!」 研究員:「お、まえ……、ま、さか……」 研究員:「ぁ……」(動かなくなる) 0:花音、研究員を突っ張り棒にして部屋の中に入る 0:ガラス部屋との二重構造。その向こうにベッドに寝ているサツキの姿 花音:「(ここには鍵がかかってるのか)」 花音:「(……叩いて割るしかない)」 花音:「(……っ!ダメ、意識が……)」 花音:「(でも……やめるわけには、いかない……!)」 0:何回か叩いてガラスを割り、部屋に入る 花音:「……(息切れしながら)」 サツキ:「……?(寝ながら首だけで振り返る)」 花音:「……サツキさん、だよね?」 サツキ:「……」 花音:「……私、です。……『ハナ』です」 サツキ:「……!」 サツキ:「ハナ、さん……」 0:サツキ、ゆっくりと体を起こす サツキ:「ハナ、さん……。怪我、してる……」 花音:「平気……、これくらい……」 花音:「そんな、ことより……やっと、会えた……」 サツキ:「……うん。……うれし」 花音:「……サツキ、さん。これ……、飲んで……」 花音:「私の、血……。汚いかも、だけど……」 花音:「抗体、入ってる、から……もしかしたら」 サツキ:「もう、いいんだ……。それ、より、も……」 サツキ:「……抱きしめ、させて」 花音:「……!……うん」 サツキ:「……あったかい」 サツキ:「……ハナさんが、いる」 花音:「……うん」 サツキ:「夢、みたいだ……」 花音:「あっ……、サツキさん、血が……」 サツキ:「……離れ、ないで」(さらに強く抱きしめる) 花音:「……うん」 花音:「あの、ね、サツキさん……」 花音:「あの、ときから、言いたいこと、あったの」 サツキ:「……?」 花音:「私も、サツキ、さんの、ことが……好き」 サツキ:「……!」 サツキ:「そっか……。両、想い、だったんだ……」 花音:「そう、だよ……。返事、する前に、配信、閉じるから……」 サツキ:「ははっ……、それ、は、ごめん」 0: サツキ:「……なんか、眠く、なって、きた」 花音:「……ん。私、も……」 サツキ:「……一緒、に、寝よ?」 花音:「……うん」 0:抱きしめ合いながら寝転がる サツキ:「幸せ、だなぁ……」 花音:「私、も……」 サツキ:「ハナ、さん……、ありが、とう……」 サツキ:「出会って、くれて……、会いに、来て、くれて……」 サツキ:「好きに、なって、くれて……」 花音:「なに、言ってるの……」 花音:「全部、こっちの、せりふ、だよ……」 サツキ:「……ふふっ」 サツキ:「……大好き、だよ」 花音:「……うん」 花音:「私、も……大好き」 サツキ:「……」 花音:「……」 : : 0:数十分後、研究員の捜索により、柴原花音と東雲皐月が発見された。二人は寄り添うように、息絶えていたという