声劇台本置き場

タバスコ：辛（つら）いなぁ。 虚無感：辛（から）い？ タバスコ：おいおい？　音で聞いてるんだから、その聞き間違いはないだろう？　字は同じだけど。 虚無感：でも、おまえ、タバスコだろう？ タバスコ：タバスコは辛（から）いけど、俺は今、辛（つら）いんだよ。 虚無感：ほう？　なにが？ タバスコ：「辛（から）い」って嫌われる。 虚無感：辛（から）いのがタバスコだろう？ タバスコ：それはそうなんだが、俺の想い人が辛（から）いのが苦手でな。 虚無感：それは辛（つら）いな。 タバスコ：だろう？ 虚無感：ああ、分かるよ。 タバスコ：ところで、おまえは、あんまり虚無ってないな。 虚無感：いや、俺は仕事として、他人の虚無感をやってるだけで、俺が虚無ってるわけじゃない。 タバスコ：ビジネスライクなんだな。なんか、ガッカリだわ。 虚無感：年がら年中、虚無ってたら、神経もたないよ。 タバスコ：言われてみれば、その通りなんだが、虚無感に襲われている方からしたら……。 虚無感：それだよ！　「虚無感に襲われる」！ タバスコ：あぁ？ 虚無感：「虚無感に襲われる」という言い方をするが、俺が襲ったことはない。 タバスコ：そうなのか？ 虚無感：俺は呼ばれたら行くだけだ。 タバスコ：ほう？ 虚無感：そうだよ？ タバスコ：そういうもんなのか。 虚無感：そうなんだよ。 タバスコ：ほうほう？ 虚無感：被害者ヅラしやがって、俺からしたら、いい迷惑さ。 タバスコ：なるほどねぇ。 虚無感：で？　おまえの想い人ってのは？ タバスコ：まぁ、「想い人」ってくらいだから、人間よぉ。 虚無感：ほう？ タバスコ：まぁ、結ばれるわけもないから、せめて食べてもらいたかったんだけど……。 虚無感：辛（から）いものが苦手じゃあね。 タバスコ：ああ。 虚無感：何かの罰ゲームで食べてもらうってのは？ タバスコ：おいしく食べてもらわなきゃ、意味がないんだよ。 虚無感：そりゃそうだな。 タバスコ：おまえは、最近、どうなのよ？ 虚無感：実は……、そんな話のあとに悪いんだけど……。 タバスコ：なんだよ？　言えよ？ 虚無感：……脱力感と付き合い始めた。 タバスコ：ほー！　いーんじゃねーの？ 虚無感：いや、なんかわりーな。 タバスコ：いいって、いいって、気にすんな！ 虚無感：ホント、まだ、付き合い出した、ばっかりなんだけど。 タバスコ：いや、でも、世の中の虚無感に襲われてる人間には、絶対に知られてはならないことだがな。 虚無感：まぁ、知りようもないだろ。 タバスコ：まぁ、そうだな。いやしかし、きっかけは？ 虚無感：いや、普通にＬＩＮＥグループで知り合って、仲良くなって、って感じだけど？ タバスコ：そうなんだ。やっぱり、脱力感って、脱力してるの？ 虚無感：いやいや、むしろ、まだ新人で肩肘（かたひじ）張ってる感じ。 タバスコ：ほう？　新人に先輩が手を付けた、と？ 虚無感：いや、いろいろと教えたり相談に乗ってるうちにな……。 タバスコ：あー、うん、分かるよ。おまえ、面倒見いいもんな。 虚無感：そうかな？ タバスコ：気にいったやつとか、見込みのあるやつには。 虚無感：あ？ タバスコ：責めてるわけじゃない。自分の時間を割（さ）いて親切にするんだ。相手は選んでいいと思う。 虚無感：辛辣（しんらつ）だな。 タバスコ：タバスコなんで。