台本概要
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タイトル | 旅人と森の魔女 |
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作者名 | ハスキ (@e8E3z1ze9Yecxs2) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
森の魔女と呼ばれるエルフの女性と傷付いて倒れていた旅人の男。魔女は旅人を助け自らの家で看病することに。しかし男はエルフにある秘密を隠していた…。後半全ての謎が明らかに! シリアス&ラブコメストーリー 世界観を壊さない範囲のアドリブOK! 716 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ハフエル | 女 | 244 | エルフ?(森の魔女)。森に住んでいて怪しげな薬を作っているという噂から「森の魔女」と言われているエルフ。 本人は至ってそんなつもりは無く、人の役に立つ薬を作る事が生きがい。恋愛経験が無くツンデレ。 |
ヘイシー | 男 | 240 | 旅人?。森に入った時、魔物と交戦し致命傷の傷を受けた旅人。行き倒れになっていた所、森に住む魔女に助けられる |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
- 旅人と森の魔女 -
:森の中を一人のエルフが歩いている
ハフエル:ふー、もうこんな時間か。今日は少し遅くなっちゃったね。
ハフエル:ん?あれは…『一つ目ウサギ』、どうしてこんな所に…もしかして…。
:間
ハフエル:やっぱり。お前、怪我してたんだね。
:
ハフエル:この傷…人間か…。ほら、怖くないからこっち来な。…よーし、偉い子だ。じゃあ、この私の特製ポーションをお飲み。
:間
ハフエル:よし、もう大丈夫よ。ふふ、じゃあね、バイバイ。…今度は、人間と会わないようにするんだよ。…さて、帰るとするか。
ヘイシー:う、うぅ…。
ハフエル:え…?
ヘイシー:はぁ、はぁ…だ、誰か…
ハフエル:嘘でしょ…。一日に二度も?しかも今度は…人間ね。…チッ、まったく、仕方ないね。
ヘイシー:も、もう…駄目…だ…
ハフエル:おい!しっかりしろ、そこの人間!
ヘイシー:え…だ、誰だ…?
ハフエル:うるさい、喋らずじっとしてな!傷口が広がっちまうだろ。
ヘイシー:う、分かった…
ハフエル:…傷が深いな。よし、確かまだ予備の上級ポーションがあったね。…ほらっ!これをゆっくり飲みな!
ヘイシー:こ、これは…?
ハフエル:いいから早く飲め!
ヘイシー:ッ!…んぐ、んぐ…ブハァッ!ハァ、ハァ…。
ハフエル:具合はどうだい?
ヘイシー:え…?あれ…痛みが…消えてる!?
ハフエル:そりゃ良かったね。
ヘイシー:ああ…ありが…ッ!?
ハフエル:ん、どうかしたかい?
ヘイシー:いや、そ、その…あんたは…
ハフエル:なんだ、今頃気が付いたのかい?そうだよ、私がこの森に住む「魔女」だよ。
ヘイシー:う、噂には聞いていたが…あんたがあの、「森の魔女」…。
ハフエル:まったく、誰が言い始めたか知らないけど、私はあんまりその呼ばれ方は好きじゃないんだけどね。
ヘイシー:…。
ハフエル:ん…?ああ、この耳が気になるのかい?
ヘイシー:わ、悪い。ジロジロ見るつもりは無かったんだが…気に触ったのなら申し訳ない。
ハフエル:まったく、この耳がそんなに珍しいのかね。ちょっと人間より長いくらいだろ。
ヘイシー:…っ!そ、そうだ、さっきは、ありがとう、助かったよ。
ハフエル:気にしなくて良いよ。たまたま家に帰る途中通りかかっただけだから。それより、どうしてあそこで倒れてたんだい?
ヘイシー:え…?そ、それは…
ハフエル:それに、さっきの大きな傷痕は「一つ目ウサギ」の牙による傷だろ?違うかい?
ヘイシー:ッ!な、なんで…分かったんだ…?
ハフエル:私が何年この森で住んでると思ってるんだい?そんなの見ればわかるよ。
ヘイシー:さすが、魔女…
ハフエル:ん?なんか言ったかい??
ヘイシー:いやその!マ、マ、マジック!みたいな洞察力だな~!って言いたかったんだ!
ハフエル:へ~。まあいいけどね。で、どうしてこんな森の奥にいたんだい?
ヘイシー:それは…。
:
ヘイシー:実は、今は世界を巡る旅の途中で、この森を抜けて隣町に行く予定だったんだが、どうやら道に迷ってしまったようだ。
ハフエル:なるほど、旅人かい。確かにこの森は「迷いの森」って言われるような場所だからね。地図があっても役にはたたないだろうね。
ヘイシー:まあそんな時に、運悪く凶暴な魔物に出くわしてしまったんだがな。
ハフエル:凶暴な魔物ね…。あんた、そいつに、先に手を出したんじゃないかい?
ヘイシー:え?それは…魔物だったし当たり前だろ?
ハフエル:はぁ…。あんたを襲ったその「一つ目ウサギ」っていう魔物が、どんな魔物か知ってるかい?
ヘイシー:え…?それは…
ハフエル:大方、大昔からの言い伝えで聞きかじってるような「魔物は魔族より生み出された存在で、神の子である人間を狙って襲う凶暴な生き物」ってやつだろ?
ヘイシー:そうだ…それが昔からの魔物に対する人間の認識だ。
ハフエル:それは間違いだね。
ヘイシー:間違い…?
ハフエル:確かに魔物は魔族が大昔に生み出した存在だが、けして人を狙って襲うような危険な生き物じゃない。むしろその逆さ。
ヘイシー:逆だって?あんな醜悪(しゅうあく)な見た目の…ゴホン(咳)いや、あんなちょっと、ヒドイ見た目の生き物がか?
ハフエル:あんた、それは全然フォロー出来てないよ。まあ見た目がアレなのは認めるけど、森や大地に取ってはとてもありがたい存在だよ。
ヘイシー:それはどういう…ウッ!グハッ!
ハフエル:ああ、言ってなかったけど、さっき飲ませたポーションは応急処置みたいなもんだからね。
ヘイシー:なん…だと…?
ハフエル:大怪我だったんだ、身体の内部にはまだダメージが残ってるはずだよ。
ヘイシー:そ、それで…
ハフエル:そのまま2、3日横になってれば回復すると思うけど…その前に野生の狼辺りに食われるかもね。
ヘイシー:な、なんだって!?
ハフエル:まあ後はなんとか自力で頑張りな、じゃあね。
ヘイシー:く、俺は、こんな所で死ぬ訳には…いかないんだ…
ハフエル:…はぁ。まったく、仕方ないね。
ヘイシー:え…?
ハフエル:私の家がこの近くにあるから、身体が良くなるまで休んでいきな。
ヘイシー:ま、まさか…助けてくれるのか?
ハフエル:嫌ならいいんだよ?ほら、私の気が変わる前にさっさと決めな。
ヘイシー:わ、分かった!すまないが世話になる。
ハフエル:ほら。
ヘイシー:ん?なんだ、この木の棒は?
ハフエル:何って、起こす為の棒だろ。ほら、早く捕まれ。
ヘイシー:いや、それはありがたいが…なんで手じゃなくて、棒なんだ?
ハフエル:え!?そ、そりゃ…触りたくないからに決まってるだろ!
ヘイシー:あー…。やはり、エルフが人間嫌いと言うのはほんとだったんだな。
ハフエル:はっ!?嫌いじゃないよ!
ヘイシー:え?
ハフエル:あ…いや、今のは…
ヘイシー:ん?人間が嫌いじゃないなら、何故なんだ?
ハフエル:それは…その…
ヘイシー:あ!あれか?変な病気を持ってるか心配なんだな?大丈夫だ。この間、町の治療院でちゃんと見てもらってるからな。健康そのものとのお墨付きだ。
ハフエル:そんな心配してない!そうじゃなくて!あ~!もういいから早く捕まれ!!
ヘイシー:わ、分かった、よく分からないが…よし、掴んだぞ。
ハフエル:よーし、今起こしてやるからまってろ。フンッ!
ヘイシー:あー、ありが…
ハフエル:フンッ!フンッ!クッ!
ヘイシー:お、おい…
ハフエル:フンッ!え!?なんだ、気が散るから話しかけるな!フンッ!
ヘイシー:いや…全然動いてないんだが。
ハフエル:はあ…やっぱり無理だ、諦めて狼の餌になれ。
ヘイシー:いや、簡単に諦めないでくれ!もうちょっと、なんか他の方法とかあるだろ!?
ハフエル:…仕方ない。これだけは使いたくなかったんだけど。
ヘイシー:お、なんか閃いたのか!
ハフエル:えーと…あったコレだ。
ヘイシー:ん?それは、薬…?な、なんか毒々しい見た目だな…。
ハフエル:ほら、これを飲め。
ヘイシー:え?こ、これを?俺が?
ハフエル:他に誰がいる?いいから、死にたくなかったらさっさと飲め。
ヘイシー:うぅ…なんか嫌だな…うわっ!臭!これめちゃくちゃ臭いぞ!
ハフエル:いちいちうるさい奴だな、早くしろ!男だろ!
ヘイシー:うぅ…。…ング!ブハッ!ハァ、ハァ…苦くて…まず…
ハフエル:よし、飲んだな。もう立てれるはずだぞ。
ヘイシー:ハァ、ハァ…。はぁ?何言って…え!?嘘だろ…足が動く…?
ハフエル:当たり前だ。今お前に飲ませたのは身体強化薬の「プロテイーン」だからね。まあ持続力は10分程度だけどね。
ヘイシー:う、うおー!すごい!いつもより身体の調子が嘘みたいに良いぞ!
ハフエル:ふん、それはもちろん天才の私が作った薬だからね。
ヘイシー:え?さっきの薬って、あんたが作ったのか?凄い効き目だな!
ハフエル:でしょ?ふふ、もっと褒めてもいいんだよ?
ヘイシー:いやー、回復薬といい、この身体強化の薬といい、何から何までありがとう。改めて礼を言わせてくれ。
ハフエル:っ!?
ヘイシー:ん?どうした、固まって?
ハフエル:手、手…
ヘイシー:ん、手?ああ、すまん。感謝の気持ちを込めて、あんたと握手がしたくなったんだ。
ハフエル:手~~~!!!
ヘイシー:えー!!どどどうした!?
ハフエル:イィ~~ヤァ~~~~!!!!
ヘイシー:え!?ちょっ!待ってくれ!おいて行かないでくれーー!?
:間
ヘイシー:ハァ、ハァ、こ、ここが魔女の住んでる家か…。あの魔女、やたら足が早くて振り切られそうだったな…。
:間
ヘイシー:さ、先程は失礼な事をしてしまった!すまないが!ここを開けてくれないか!?
ハフエル:…開いてるよ。
ヘイシー:あ、ああそうか。ではお邪魔するぞ。
ハフエル:…よし、まあ、これでいいだろ。
ヘイシー:あ、俺の寝る場所を構えてくれていたのか?
ハフエル:それは…私のベッドは使わせたくなかったし、かといって客を床にそのまま寝かせる訳にはいかないからね…
ヘイシー:…優しいんだな。
ハフエル:き、気まぐれだよ。それより、さっきは…
ヘイシー:あ…その、さっきは急に手を握ってしまってすまなかった。まさかあんな反応するとは思わなかってな。
ハフエル:びっくりして心臓が止まるかと思ったんだよ!
ヘイシー:え!そんなに!?い、いや、ほんとにすまかった!この通りだ!
ハフエル:…もういいよ。まあ、悪気もなかったようだしね。
ヘイシー:よ、良かった…。ああ、俺の名はヘイシーだ。
ハフエル:そうかい。私の名は…
ヘイシー:あれ?なんか急に眠くなってきたな。す、すまないが先に休ませてもら…
ハフエル:あ、そういえば、そろそろ薬が切れ…
ヘイシー:う、足の力が…あっ。
ハフエル:っ!?
ヘイシー:あ、いや、これはその、抱きつきたかった訳じゃなくてな…
ハフエル:イ、イヤァ~~~!!!(突き飛ばす)
ヘイシー:うわっ!グハーー!!
:間
ハフエル:ハァ、ハァ…。
ヘイシー:ぐ、い、痛たた…。全身が痛い…
ハフエル:す、すまないね。まさかあんなに勢いよく吹っ飛ぶとは思わなくてね。
ヘイシー:いや、あれは俺が全面的に悪い。う、痛た…
ハフエル:ああ、後、全身が痛いのはたぶん、薬のせいだと思うよ。
ヘイシー:薬?って、さっき飲んだ「プロテイーン」とかいうやつか?
ハフエル:ああ。「プロテイーン」は10分間、全身の運動能力を飛躍的に向上させる事が出来るんだが…
ヘイシー:ま、まさか…
ハフエル:そう、薬が切れると反動で全身を立っていられないほどの激しい痛みが襲うのさ。
ヘイシー:とんでもない副作用だな!そんな危険なものを俺に飲ませたのか!?
ハフエル:へー、あのまま野垂れ死んでて良かったと…?
ヘイシー:ありがとうございます魔女さん、薬、とても助かりました!
ハフエル:まったく…。あと、その魔女って呼ぶの、やめてくれるかい?
ヘイシー:あ…すまない、嫌いな呼び方だったよな。
ハフエル:ふー…。『ハフエル』よ。
ヘイシー:ハフエル、か…。なんか、可愛い名前だな。
ハフエル:はっ!?か、可愛いって!?
ヘイシー:ああ。小さい頃、家で飼ってた子豚の名前がちょうどハフ子って名前でな。
ハフエル:子豚!?
ヘイシー:ああ。まだ小さくてブヒブヒ鳴けなくて、ハフッ、ハフッって健気に鳴くやつだったんだ。今も目を閉じるとハフ子のハフハフ声と可愛く走り回る姿が…
ハフエル:「エル!」
ヘイシー:え?
ハフエル:特別に!あんたには「エル」って呼んでいい事にするわ。
ヘイシー:え、でもハフエルの方が…
ハフエル:異論は認めないよ!ほら、もういいから怪我人はさっさと寝ろ!
ヘイシー:あ、ああ。じゃあお先に、おやすみ…。
:間
ハフエル:…やっと静かに寝たか。
:
ハフエル:ふー。今日は私も疲れたね。いきなり、手を握られたり、だ、抱きつかれたり…うぅ~、今思い出しても顔が熱くなっちまうよ~!
ヘイシー:ハフ…
ハフエル:っ!まさかあんた起きて…!?
ヘイシー:ほらほら~ハフ子~お前の大好きな餌だぞ~、ははは、そんなにがっつかなくても無くならないぞ~…
ハフエル:寝言かい!はぁ…寝てても厄介なやつだね、まったく。
:
ハフエル:でも、まさか私が人間とこうやって一緒に一夜を共にする事になるなんてね…。一夜…って、な、なんかいやらしいね!…あはは…私も寝るか。
:間
ヘイシー:う…うん?…ここは…?
ハフエル:起きたか、人間。
ヘイシー:あ…そうか、俺は昨日魔物にやられて…
ハフエル:死にかかってた所、偶然通りかかった、親切で優しい、わ・た・し・が、助けてやったんだったね?
ヘイシー:そう…だけど、「私」の部分を妙に強調するのはなぜだ…?
ハフエル:ふん。身体の調子はどうなんだい?
ヘイシー:ああ。お陰様で、昨日より随分楽になってるよ。でも…まだ、起き上がれそうはないがな。
ハフエル:そうかい。まあ予想してた通りだ。
ヘイシー:ははは…。
ハフエル:まあ、仕方ないからね。もう2、3日はそのまま安静にしとくんだね。
ヘイシー:世話をかけるな。
ハフエル:仕方なく、だよ。ほら、朝ごはんを作っといてやったよ。
ヘイシー:おっ!ほんとか!?それはありがたい。実は、昨日の朝から何も食べてなくてな、腹ぺこだったんだ。
ハフエル:その、不味くても知らな…
ヘイシー:おー!このキノコの炒めたやつに焼きたてのパン、それにスープ!どれも最高に美味いな!モグモグ…
ハフエル:そ、そうか…ちょっと嬉しいね(小声)
ヘイシー:ぷはー!あー美味かった~。
ハフエル:嬉しい…んだが、もうちょっと味わってくれるか…?
:間
ヘイシー:なあ、エル。それは、何をしてるんだ?
ハフエル:ん?ああ、これかい?これは私の仕事兼、趣味の薬の調合だよ。
ヘイシー:ま、まさか…呪いを付与するような、怪しい薬を作ってるとかか!?
ハフエル:だから魔女じゃないって言ってるだろ!?…明日から飯は要らないようだね?
ヘイシー:そ、それは!…わ、悪かった、もう言わないから、飯抜きは勘弁してくれ…。
ハフエル:ふん。分かればいいさ。
ヘイシー:怒らすと怖いな、エルって…
ハフエル:えーと、これと、これを入れて…そんで最後に一つ目ウサギの糞を入れて…
ヘイシー:んん!?ちょっ、ちょっと待った!なんか、今、聞き慣れた名前の物が入らなかったか!?
ハフエル:ああ、一つ目ウサギの糞の事かい?
ヘイシー:そう、それだ!昨日俺に怪我を負わせたヤツのじゃないか!
ハフエル:その通りさ。だから昨日言っただろ?魔物は色んな恩恵をもたらす存在だって。
ヘイシー:あ、ああ。エルが昨日、そんな事を言ってたな。
ハフエル:昨日あんたが出くわした「一つ目ウサギ」、その糞は身体の中で蓄積された魔力をたっぷり含んでて、それが森の木々にとって重要な栄養素になってるんだ。
ヘイシー:森の…てことは、この森全部…
ハフエル:そうだよ。この森は「一つ目ウサギ」や、その他のいろんな魔物の糞や死骸によって得た魔力を元に昔から成長を続けている「魔の森」なんだよ。
ヘイシー:魔の森…もしかして、森に入ってから、やたら頭痛や身体のだるさが取れないのは…
ハフエル:それは魔力酔いを起こしてる証拠だね。魔力が元々少ない人間にはちょっと刺激が強いだろうね。
ヘイシー:どうりで…。
ハフエル:だから私は薬の材料に、森は栄養をもらう事で魔物とは共生関係になってる、ってわけさ。
ヘイシー:なるほど…。で、今、それは何の薬を作ってるんだ?
ハフエル:「プロテイーン」だよ。
ヘイシー:なるほど、プロテイーンの薬か…んんっ!?
ハフエル:なんだい突然、そんなビックリした顔して。
ヘイシー:エ、エル…そ、その薬って、俺が昨日飲んだ、薬だよな…?
ハフエル:ああ、それがどうしたんだい?
ヘイシー:ぶはーー!!ゴホ!ゴホ!あ、あれ!糞が入ってたのかよ~~~!!
ハフエル:知らずに飲んでたのか?
ヘイシー:知るかーー!!
ハフエル:てっきり、知ってて飲んだのかと思ってたよ。
ヘイシー:知ってたら飲まなかったよ!ペッ!ペッ!思い出して来たら、口の中が苦い糞の味がしてきたみたいだ!
ハフエル:まったく、そんな大袈裟にするような事じゃないだろ。たかが糞で。
ヘイシー:はあ~?じゃあ、エルは飲んだ事あるのか!?
ハフエル:それは…その…その薬は、町で売る用の薬だからねぇ。
ヘイシー:飲んだ事ないんじゃないか!くそ、騙された~!
ハフエル:騙したなんて心外だね、あのままじゃ、あんた死んでたかも知れないんだよ?
ヘイシー:う…そ、それは…
ハフエル:死ぬか、糞を飲むか、って言われたら、当然?
ヘイシー:…糞。
ハフエル:ふふ。そうだろそうだろ。
ヘイシー:クソッ!…あんなもん、二度と飲まないぞ…
:間
ハフエル:うん、材料はこれでよし、と。
ヘイシー:完成したのか?
ハフエル:まあ見ておけ。…「森の精霊達よ…私に力を、貸しておくれ…ハッ!」
ヘイシー:ひ、光った!?
ハフエル:…これで完成だよ。
ヘイシー:い、今のは…?
ハフエル:今のかい?薬ってのは材料を混ぜるだけなら普通の効果しか出せないが、私の魔力を込めた薬は薬の効果を何倍にも引き上げる事が出来るのさ。
ヘイシー:す、すごい…さすがエルフだな…。
ハフエル:…こんなの、大したことじゃないよ…。さ、今日はもう休むんだよ。
ヘイシー:ん?あ、ああ…。
:間
ハフエル:よし、ゆっくり立ち上がってごらん。
ヘイシー:よし…。う…お?おーー!
ハフエル:ふん。どうやら、もうすっかり良くなったみたいだね。
ヘイシー:エル!ありがとう!あんたのおかげだ!
ハフエル:いや…感謝なんてしなくていいよ。最初は、見捨てようとしたんだしさ。
ヘイシー:それでも、最後には俺を助けてくれた。見ず知らずの俺をだ。誰にでも出来る事じゃないさ。だから、改めて感謝させてくれ。
ハフエル:ま、まあ…気持ちだけ、もらっとくよ…。
ヘイシー:ふふ、素直じゃないな、エルは。
ハフエル:ほ、ほっときな!
ヘイシー:ハハハ。
:間
ハフエル:…で、行くんだろ?
ヘイシー:え?
ハフエル:その…あんたは、世界を巡る旅の途中だったんだろ?
ヘイシー:あー…。そう、だったな。
ハフエル:…ま、まあお前が居なくなってくれれば、ここも静かになるし、私だって…厄介者の相手をしなくて済むから清々するよ!…ふん。
ヘイシー:そう、なのか?
ハフエル:ああ、そうさ。何百年も一人でこの暮らしを続けてきたんだ。…べ、別に寂しいとかじゃないからね!
ヘイシー:…。
ハフエル:ほら…私に構わず、さっさと何処にでも好きな所に行けばいいだろ。
ヘイシー:…決めた。
ハフエル:は?
ヘイシー:エル、頼みがある。
ハフエル:な、なんだい、改まって…。
ヘイシー:もうしばらく、ここに居させてくれ。
ハフエル:え…?
ヘイシー:エルは薬を作るのが仕事だって言ってただろ?
ハフエル:ああ…確かに、言ったけど…。
ヘイシー:その材料を森で集めて、薬にして、町に売りに行ってるんだよな?
ハフエル:そ、そうだけど、何が言いたいんだい?
ヘイシー:その仕事、俺にも手伝わさせてくれ。
ハフエル:え、いきなり何を…
ヘイシー:あの時エルに助けてもらわなかったら、俺は死んでいたかも知れない。だから、助けてもらった恩を、ぜひ返させて欲しいんだ。
ハフエル:いや…しかし…
ヘイシー:薬作りの材料集めや運搬など、何かと力仕事が必要な事があるだろ?
ハフエル:う…確かに、手伝ってくれたら助かるけど…
ヘイシー:昔から力だけは人一倍あるんだ、どうだ?
俺をここで働かせてもらえないか?
ハフエル:…し、仕方ないね。そこまで言うんなら、特別に働かせてやっても…いいけど。
ヘイシー:ほんとか!良かった…。
ハフエル:ただし条件がある!
ヘイシー:ん?ああ、なんでも言ってくれ。
ハフエル:…急に手を握ったり、抱きつくのは禁止だからね!
ヘイシー:え?
ハフエル:わかったね!
ヘイシー:あ、ああ!もちろんだ。
ハフエル:わ、私は向こうで調合の準備をしてるから後でちゃんと来るんだよ!
ヘイシー:わ、分かった!
:
ヘイシー:…すごい剣幕だったな。…あれ?さっきのって、急じゃなかったらOKって事か…?
:間
ハフエル:その薬草とバジリスクの糞を混ぜておくれ。
ヘイシー:分かった、コレとコレだな、任せとけ。
ハフエル:…随分手際が良くなったな。
ヘイシー:ん、そうか?
ハフエル:ああ。手伝い始めたばかりは酷いもんだったけどね。今は私が作ったやつと遜色(そんしょく)ない腕前だよ。
ヘイシー:ほー、べた褒めしてくるじゃないか。
ハフエル:ふん、私は正当な評価をしているだけだよ。
ヘイシー:じゃあ、きっと美人で優しい、師匠の教えが良いんじゃないか?
ハフエル:はぁっ!?そ、そんな訳ないだろ!?
ヘイシー:そうか?俺も正当な評価をしただけだぜ?
ハフエル:~~!!(赤面しながら)。…お前、どうせその口の上手さで人間の女共を取っかえ引っ変えしてるんだろ!?
ヘイシー:そ、そんなわけあるか!
ハフエル:どうだかな…。
ヘイシー:…恥ずかしい話、まだ誰とも恋仲になった女は居ないよ。
ハフエル:っ!へ、へえ~そうかい。…良かった…。(小声)
:間 (夜)
ヘイシー:…エル、まだ起きてるか?
ハフエル:っ!?…あ、ああ…起きてるよ…
ヘイシー:それは良かった。
ハフエル:…ど、どうしたんだい…?
ヘイシー:エルに聞きたい事があるんだ。
ハフエル:えっ?聞きたい事…?
ヘイシー:ああ。
ハフエル:な、なんだ…。
ヘイシー:ん?なんでそんなに残念そうなんだ?
ハフエル:い、いやいや!なんでもないよ!。
ヘイシー:そ、そうか?
ハフエル:…で、私に何を聞きたいんだい?
ヘイシー:…エルはなんで、一人でこの森に住んでるんだ?
ハフエル:なんで、だって?
ヘイシー:その、聞いた話ではエルフ族は人間との接触を避けて深い森の奥で集落を形成して、ヒッソリと暮らしていると聞いた事があってな。
ハフエル:ああ、そういう事かい。…確かに、「本物のエルフ」ならそうやって暮らしてるだろね。
ヘイシー:え…?エルも、同じエルフ族だろ?
ハフエル:…ふぅ。これは、出来れば言いたくなかったんだけど…あんたになら…私の「秘密」を、特別に教えてやってもいいよ。
ヘイシー:秘密…。それが、この森で一人で住んでる理由なのか?
ハフエル:ああ…。最初に言っとくけど、あんまり気持ちのいい話じゃないよ。
ヘイシー:…分かった、聞くよ。
ハフエル:…まず私はエルフじゃない。あー、正確には、「半分」エルフの血が混じっているね。
ヘイシー:半分って事は…
ハフエル:「ハーフエルフ」だよ。
ヘイシー:ハーフエルフ…人間と…エルフの…混血?
ハフエル:ビックリしたかい?
ヘイシー:あ、ああ。まさか人間とエルフ族が、その…交わった事があった、なんてな…。
ハフエル:そ、そうだね…(赤面)。そ、そんな事は今どうでもいいんだよ!とにかく、話を続けるよ!
ヘイシー:す、すまない、続けてくれ。
ハフエル:ゴホン(咳)。…私は、親の顔を知らない。物心ついた時には、北にある王国の教会で、孤児として育てられていた。
ヘイシー:そう、だったのか…。
ハフエル:まあ事情は分からないけど、きっと望まれて生まれてきた存在じゃなかったんだろね…。
ヘイシー:…どんな理由があっても、生まれてすぐの子供を手放していいわけがあるか…。
ハフエル:…ありがとう。でも、教会のシスター達は優しい人ばかりだったよ。今はもうみんな生きちゃいないが、私が独り立ちするまで、しっかり面倒を見てくれたんだ。
ヘイシー:そうか、優しい人達だったんだな…。
ハフエル:ああ…。それから独り立ちした私は、ある時エルフ特有の能力に目覚め、それを活かして薬作りを始めたんだ。
ヘイシー:この間見た、呪文みたいなあれか。でも、そんな若い頃から薬作りをしてたのか。
ハフエル:そうだね…。
ヘイシー:…エル?
ハフエル:なーに、ちょっと昔を思い出しちゃってね…。
ヘイシー:うまくいかなかったのか?
ハフエル:最初は良かったよ。安くて凄い効果だ、って町のみんなにも喜んでもらえてたからね。だけど…ある時、王国から御触(おふ)れが出たんだよ。
ヘイシー:王国から…?
ハフエル:ああ。それは「王国内で怪しい薬を売る魔女がいる。その薬を服用すると呪われる恐れがあるので購入しないように」だとさ。
ヘイシー:なんだと!いったい何を根拠に!?
ハフエル:当時の王国の事情が絡んでたんだろうね。私が薬を作り出す以前は、王国お抱えの魔術師が作る魔法薬が一般的に出回ってたんだ。…ようするに、私が目障りだったのさ。
ヘイシー:なんて酷い話だ…自分達の利益の為に、妨害工作をしようとするなんて…。
ハフエル:それで最後は民を焚き付けて魔女狩りを始めるって言い出してね。
ヘイシー:なっ!?
ハフエル:教会のシスター達の協力もあって、なんとか森にあった潰れかけの廃屋(はいおく)まで逃げて来られる事が出来たんだ。
:
ハフエル:それからは、薬を作り続けながら息を潜(ひそ)めるようにここでひっそりと生きた。…これが私の全てだよ。
ヘイシー:…辛い話をさせてしまったな…。王国め…。
ハフエル:…いいよ。私はあんたがそうやって怒って、悲しんでくれただけで救われるよ。
ヘイシー:過去は変えられないが…苦労した分、エルにはこれからいっぱい幸せになってもらいたい。
ハフエル:…ありがとう。
:
ハフエル:…あんたと過ごしてる今が、一番の幸せだよ…(小声)
:間
ヘイシー:ヨッ!と。よし、この崖(がけ)を登ったら薬草がある山頂に着くぞ。
ハフエル:ハァ、ハァ、わ、分かった。
ヘイシー:…エル、手を握ってもいいか?
ハフエル:え!?
ヘイシー:へ、変な意味じゃないぞ!手を引いて登った方が崖を楽に登れるだろ?
ハフエル:そ、そういう事なら…お願いするよ。
ヘイシー:よし、あともう一息だぞ!
ハフエル:…ちゃんと約束、守ってるじゃないか…。
:間
ヘイシー:は~、相変わらず凄い見晴らしの良さだな。
ハフエル:だろ?私のお気に入りの場所だからね。
ヘイシー:ああ。こんな素晴らしい場所を教えてくれてありがとうな、エル。
ハフエル:と、特別だからね…。
ヘイシー:それは嬉しいな。
ハフエル:さ、さーてと!薬草取りまくるよ…ん?「アレ」はなんだい?
ヘイシー:っ!?
ハフエル:森を囲うように何かが…あ、あれはまさか!王国軍かい!?
ヘイシー:…ついに、来たか…。
ハフエル:え?あんたは王国軍が来る事を知ってたのかい!?
ヘイシー:…知っていた。
ハフエル:ど、どういう事だい…?
ヘイシー:エル、すまない…。
ハフエル:なんで急に謝るんだい!?
ヘイシー:俺はエルに嘘をついていたんだ。
ハフエル:嘘…?
ヘイシー:落ち着いて聞いてくれ。俺は…実は、王国の兵士なんだ。
ハフエル:な、なんだって!あんたが…王国の兵士だなんて…嘘だろ!?
ヘイシー:…本当なんだ。
ハフエル:な、なんでそんな嘘を…。
ヘイシー:俺の仕事は…「森の魔女を暗殺する事」だったんだ。
ハフエル:…ずっと、私を騙してたのかい!
ヘイシー:それは違う!
ハフエル:何が違うっていうんだい!現にあんたは王国の兵士で、王国軍が森に攻めて来てるじゃないか!
ヘイシー:聞いてくれ!確かに最初は王国にあんたを暗殺するよう依頼された。だが…
ハフエル:…。
ヘイシー:俺は王国から聞かされていた森の魔女についての話に、以前から疑問があったんだ。
:
ヘイシー:そこで調べてみたら、あんたから薬を買ったと言う町の人間は、みんなあんたに対してとても感謝していたんだ。だから…自分の目で確かめて判断する事にしたんだ。
ハフエル:それで…私はあんたからどう見えたんだい?
ヘイシー:…自分の身体があまり強くないクセに、危険をかえりみず人の為になる薬を一生懸命作り続ける、俺たちと何も変わらない、「人」だったよ。
ハフエル:う…。
ヘイシー:それから…少し怒りっぽいが優しくて、料理が上手く、とても美しくて可愛い、俺がこれからも「守っていきたい」「人」だ。
ハフエル:な、何恥ずかしいセリフを…
ヘイシー:これが本心だ。…俺はエルが好きだ。
ハフエル:っ!…わ、私は…
ヘイシー:いいんだ。俺が勝手に惚れただけだ。今言った事は忘れてくれ…じゃあな。
ハフエル:ど、どこに行くんだい!?
ヘイシー:俺はエルを「守る」と決めたんだ。だから俺が、王国軍を止めてみせる。
ハフエル:馬鹿じゃないかい!あんな人数を、あんた一人でどうにか出来る訳ないだろ!?
ヘイシー:出来る出来ないではない、「やるんだ」。安心しろ、こんな事もあろうかと、身体強化薬を大量に作っといたからな。
ハフエル:ッ!~~~(声にならない声)。
ヘイシー:それじゃあ、元気でな…。
ハフエル:待ちなさい!
ヘイシー:え?
ハフエル:私も行くわ。
ヘイシー:は…?
ハフエル:私もあんたに着いていく。
ヘイシー:な、何を言ってるんだエル!正気か!?
ハフエル:何、文句あるのかい?
ヘイシー:ああ大ありだ!王国軍が迫って来てるんだぞ?一緒に死ぬつもりか!?
ハフエル:もちろん分かってるよ。私は死ぬつもりもなければ、あんたを死なせたりもしないよ。
ヘイシー:どういう事だ…?
ハフエル:ま、まだあんたには薬の調合について、教え切れてない事がまだ沢山残ってる、そんな中途半端が、嫌なだけさ…。
ヘイシー:エル…。
ハフエル:そ、それに、身体強化薬を使って戦ったとしても、身体は傷つくんだよ?あんた一人で誰が回復をしてくれるのさ?
ヘイシー:そ、それは…。
ハフエル:私はあんたみたいに戦う力は無いけど…回復のサポートをするくらいは出来るよ、だから私も着いて行かせておくれ!
ヘイシー:それで…本当にいいんだな?
ハフエル:ああ。
ヘイシー:…分かった。すまないが、回復役は任せたぞエル。
ハフエル:ふん、任せときな!
:間
ヘイシー:おおおぉぉ!!!まだまだぁぁーー!!
ハフエル:…す、凄まじい戦い方だね…。これだけ離れてるのに、ここまで衝撃波が届いてくるなんて…。
ヘイシー:はぁ、はぁ、お前ら、俺の大事な人に、手をだすんじゃねえぇーーー!!
ハフエル:っ!あ、あいつ、何をどさくさに紛れて~~~。(赤面)
ヘイシー:ハァ、ハァ、エル、悪いが回復を頼めるか?
ハフエル:な、何言ってんだい、その為に私が居るんだろ、任せときな。「森の精霊達よ…癒しの力を…」ハッ!よし、これを飲みなヘイシー。
ヘイシー:あ、ああ、ありがとう…。ングッ、プハァッ!おおっしゃーー!!完全回復だぜーー!!
ハフエル:よし、傷も全部塞がったみたいだね。…でも、絶対に無茶するんじゃないよヘイシー?
ヘイシー:ああ、エルを心配させない為にも、俺は無事に生き抜いてやる。
ハフエル:…分かった。私はもう何も言わないよ。さ、行ってきな。
ヘイシー:ああ。…あ、あのよ…
ハフエル:ん…?まだ何かあるかい?
ヘイシー:名前、呼んでくれてありがとな…。じゃあ、行ってくるぜ!おおおぉぉりゃぁぁーーー!!
ハフエル:っ!(赤面)、な、何を…。
:
ハフエル:…ヘイシー、私もやっぱり…あんたの事が…
:間
ヘイシー:ハァ、ハァ、ハァ…こ、これで、全員か…。身体強化薬を事前に身体に慣らす練習をしておいたが…流石に…もう立てないぜ…。
ハフエル:ヘイシー!大丈夫か!?
ヘイシー:ああ…なんとか、生きてるぞ…。
ハフエル:ほら、回復薬だ。…まったく、無茶をして。最後まで、全員殺さずに戦うなんて…。
ヘイシー:エルは…人間が死ぬのも、本当は嫌なんだろ?
ハフエル:っ!…そ、そうだけどさ…
ヘイシー:俺に着いてきた事で、エルに後悔を残させたくなかったからな。
ハフエル:はは…本当に馬鹿だね…。でも、ありがとう…。
ヘイシー:しかし、やっちまったな…。これで俺もバッチリお尋ね者の仲間入りだ。
ハフエル:…後悔してるのか?
ヘイシー:いや、それは全く無いな。俺が望んでやった事だしな。それより…
ハフエル:ん?私かい?…まあ確かに、直接何かした訳じゃないけど、たった一人の人間に王国軍を壊滅させるだけの薬を作ったのは間違いないね。
ヘイシー:それ、なんだよなー…。
ハフエル:ふふ、これで私も仲良くお尋ね者だね。
ヘイシー:わ、笑い事じゃないだろ!
ハフエル:いい事考えたよ。
ヘイシー:え?
ハフエル:ヘイシー、確かあんた旅人だったろ?私もその旅に同行させておくれ。
ヘイシー:な!?あ、あれはエルに近づく為の嘘で…
ハフエル:なら、旅の経験は無いのかい?
ヘイシー:いや、元々俺は仕事を探して隣りの大陸から海を渡って旅をして来たから旅経験はあるが…。
ハフエル:へー、そうだったのかい。ヘイシーが居た大陸には大きな森はあるかい?
ヘイシー:あ、ああ。俺が生まれた場所は田舎だったから近くに魔物が出る大森林があるが…
ハフエル:もしかして、そこにエルフが住んでたりしないかい?
ヘイシー:確か…昔、爺さんが大森林の奥深くにエルフの集落があるって話てたな…ってまさか!?
ハフエル:よし、じゃあ決まりだね。本物のエルフ族にはまだ会った事ないから見てみたかったんだよ。
ヘイシー:エル、本気で言ってるのか!危険な旅になるかも知れないんだぞ!?
ハフエル:ふふ、それなら心配ないよ。だって、ヘイシーが「守って」くれるんだろ?
ヘイシー:う…。…善処する。
ハフエル:頼もしいねえ、期待してるよ。
ヘイシー:どうなる事やら…。
ハフエル:おや?もうこんなに暗くなってたのかい。これは出発は明日だね。
ヘイシー:そうだな…。月は出てるが暗い中の旅は危険すぎるからな。
ハフエル:…あ、あの、ヘイシー…
ヘイシー:ん?なんだ?
ハフエル:その…「月が綺麗、だね」
ヘイシー:ん?なんだ突然。月なんて毎日見飽きてるだろ?
ハフエル:うぅ…古文書の嘘付きめ…。もういい!私は先に帰るからね!
ヘイシー:あ!ちょっ待て!俺はまだ足に力が入らなくて立てないんだぞ!?お、おい、エル!待ってくれ~~~!!!
完…?
- 旅人と森の魔女 -
:森の中を一人のエルフが歩いている
ハフエル:ふー、もうこんな時間か。今日は少し遅くなっちゃったね。
ハフエル:ん?あれは…『一つ目ウサギ』、どうしてこんな所に…もしかして…。
:間
ハフエル:やっぱり。お前、怪我してたんだね。
:
ハフエル:この傷…人間か…。ほら、怖くないからこっち来な。…よーし、偉い子だ。じゃあ、この私の特製ポーションをお飲み。
:間
ハフエル:よし、もう大丈夫よ。ふふ、じゃあね、バイバイ。…今度は、人間と会わないようにするんだよ。…さて、帰るとするか。
ヘイシー:う、うぅ…。
ハフエル:え…?
ヘイシー:はぁ、はぁ…だ、誰か…
ハフエル:嘘でしょ…。一日に二度も?しかも今度は…人間ね。…チッ、まったく、仕方ないね。
ヘイシー:も、もう…駄目…だ…
ハフエル:おい!しっかりしろ、そこの人間!
ヘイシー:え…だ、誰だ…?
ハフエル:うるさい、喋らずじっとしてな!傷口が広がっちまうだろ。
ヘイシー:う、分かった…
ハフエル:…傷が深いな。よし、確かまだ予備の上級ポーションがあったね。…ほらっ!これをゆっくり飲みな!
ヘイシー:こ、これは…?
ハフエル:いいから早く飲め!
ヘイシー:ッ!…んぐ、んぐ…ブハァッ!ハァ、ハァ…。
ハフエル:具合はどうだい?
ヘイシー:え…?あれ…痛みが…消えてる!?
ハフエル:そりゃ良かったね。
ヘイシー:ああ…ありが…ッ!?
ハフエル:ん、どうかしたかい?
ヘイシー:いや、そ、その…あんたは…
ハフエル:なんだ、今頃気が付いたのかい?そうだよ、私がこの森に住む「魔女」だよ。
ヘイシー:う、噂には聞いていたが…あんたがあの、「森の魔女」…。
ハフエル:まったく、誰が言い始めたか知らないけど、私はあんまりその呼ばれ方は好きじゃないんだけどね。
ヘイシー:…。
ハフエル:ん…?ああ、この耳が気になるのかい?
ヘイシー:わ、悪い。ジロジロ見るつもりは無かったんだが…気に触ったのなら申し訳ない。
ハフエル:まったく、この耳がそんなに珍しいのかね。ちょっと人間より長いくらいだろ。
ヘイシー:…っ!そ、そうだ、さっきは、ありがとう、助かったよ。
ハフエル:気にしなくて良いよ。たまたま家に帰る途中通りかかっただけだから。それより、どうしてあそこで倒れてたんだい?
ヘイシー:え…?そ、それは…
ハフエル:それに、さっきの大きな傷痕は「一つ目ウサギ」の牙による傷だろ?違うかい?
ヘイシー:ッ!な、なんで…分かったんだ…?
ハフエル:私が何年この森で住んでると思ってるんだい?そんなの見ればわかるよ。
ヘイシー:さすが、魔女…
ハフエル:ん?なんか言ったかい??
ヘイシー:いやその!マ、マ、マジック!みたいな洞察力だな~!って言いたかったんだ!
ハフエル:へ~。まあいいけどね。で、どうしてこんな森の奥にいたんだい?
ヘイシー:それは…。
:
ヘイシー:実は、今は世界を巡る旅の途中で、この森を抜けて隣町に行く予定だったんだが、どうやら道に迷ってしまったようだ。
ハフエル:なるほど、旅人かい。確かにこの森は「迷いの森」って言われるような場所だからね。地図があっても役にはたたないだろうね。
ヘイシー:まあそんな時に、運悪く凶暴な魔物に出くわしてしまったんだがな。
ハフエル:凶暴な魔物ね…。あんた、そいつに、先に手を出したんじゃないかい?
ヘイシー:え?それは…魔物だったし当たり前だろ?
ハフエル:はぁ…。あんたを襲ったその「一つ目ウサギ」っていう魔物が、どんな魔物か知ってるかい?
ヘイシー:え…?それは…
ハフエル:大方、大昔からの言い伝えで聞きかじってるような「魔物は魔族より生み出された存在で、神の子である人間を狙って襲う凶暴な生き物」ってやつだろ?
ヘイシー:そうだ…それが昔からの魔物に対する人間の認識だ。
ハフエル:それは間違いだね。
ヘイシー:間違い…?
ハフエル:確かに魔物は魔族が大昔に生み出した存在だが、けして人を狙って襲うような危険な生き物じゃない。むしろその逆さ。
ヘイシー:逆だって?あんな醜悪(しゅうあく)な見た目の…ゴホン(咳)いや、あんなちょっと、ヒドイ見た目の生き物がか?
ハフエル:あんた、それは全然フォロー出来てないよ。まあ見た目がアレなのは認めるけど、森や大地に取ってはとてもありがたい存在だよ。
ヘイシー:それはどういう…ウッ!グハッ!
ハフエル:ああ、言ってなかったけど、さっき飲ませたポーションは応急処置みたいなもんだからね。
ヘイシー:なん…だと…?
ハフエル:大怪我だったんだ、身体の内部にはまだダメージが残ってるはずだよ。
ヘイシー:そ、それで…
ハフエル:そのまま2、3日横になってれば回復すると思うけど…その前に野生の狼辺りに食われるかもね。
ヘイシー:な、なんだって!?
ハフエル:まあ後はなんとか自力で頑張りな、じゃあね。
ヘイシー:く、俺は、こんな所で死ぬ訳には…いかないんだ…
ハフエル:…はぁ。まったく、仕方ないね。
ヘイシー:え…?
ハフエル:私の家がこの近くにあるから、身体が良くなるまで休んでいきな。
ヘイシー:ま、まさか…助けてくれるのか?
ハフエル:嫌ならいいんだよ?ほら、私の気が変わる前にさっさと決めな。
ヘイシー:わ、分かった!すまないが世話になる。
ハフエル:ほら。
ヘイシー:ん?なんだ、この木の棒は?
ハフエル:何って、起こす為の棒だろ。ほら、早く捕まれ。
ヘイシー:いや、それはありがたいが…なんで手じゃなくて、棒なんだ?
ハフエル:え!?そ、そりゃ…触りたくないからに決まってるだろ!
ヘイシー:あー…。やはり、エルフが人間嫌いと言うのはほんとだったんだな。
ハフエル:はっ!?嫌いじゃないよ!
ヘイシー:え?
ハフエル:あ…いや、今のは…
ヘイシー:ん?人間が嫌いじゃないなら、何故なんだ?
ハフエル:それは…その…
ヘイシー:あ!あれか?変な病気を持ってるか心配なんだな?大丈夫だ。この間、町の治療院でちゃんと見てもらってるからな。健康そのものとのお墨付きだ。
ハフエル:そんな心配してない!そうじゃなくて!あ~!もういいから早く捕まれ!!
ヘイシー:わ、分かった、よく分からないが…よし、掴んだぞ。
ハフエル:よーし、今起こしてやるからまってろ。フンッ!
ヘイシー:あー、ありが…
ハフエル:フンッ!フンッ!クッ!
ヘイシー:お、おい…
ハフエル:フンッ!え!?なんだ、気が散るから話しかけるな!フンッ!
ヘイシー:いや…全然動いてないんだが。
ハフエル:はあ…やっぱり無理だ、諦めて狼の餌になれ。
ヘイシー:いや、簡単に諦めないでくれ!もうちょっと、なんか他の方法とかあるだろ!?
ハフエル:…仕方ない。これだけは使いたくなかったんだけど。
ヘイシー:お、なんか閃いたのか!
ハフエル:えーと…あったコレだ。
ヘイシー:ん?それは、薬…?な、なんか毒々しい見た目だな…。
ハフエル:ほら、これを飲め。
ヘイシー:え?こ、これを?俺が?
ハフエル:他に誰がいる?いいから、死にたくなかったらさっさと飲め。
ヘイシー:うぅ…なんか嫌だな…うわっ!臭!これめちゃくちゃ臭いぞ!
ハフエル:いちいちうるさい奴だな、早くしろ!男だろ!
ヘイシー:うぅ…。…ング!ブハッ!ハァ、ハァ…苦くて…まず…
ハフエル:よし、飲んだな。もう立てれるはずだぞ。
ヘイシー:ハァ、ハァ…。はぁ?何言って…え!?嘘だろ…足が動く…?
ハフエル:当たり前だ。今お前に飲ませたのは身体強化薬の「プロテイーン」だからね。まあ持続力は10分程度だけどね。
ヘイシー:う、うおー!すごい!いつもより身体の調子が嘘みたいに良いぞ!
ハフエル:ふん、それはもちろん天才の私が作った薬だからね。
ヘイシー:え?さっきの薬って、あんたが作ったのか?凄い効き目だな!
ハフエル:でしょ?ふふ、もっと褒めてもいいんだよ?
ヘイシー:いやー、回復薬といい、この身体強化の薬といい、何から何までありがとう。改めて礼を言わせてくれ。
ハフエル:っ!?
ヘイシー:ん?どうした、固まって?
ハフエル:手、手…
ヘイシー:ん、手?ああ、すまん。感謝の気持ちを込めて、あんたと握手がしたくなったんだ。
ハフエル:手~~~!!!
ヘイシー:えー!!どどどうした!?
ハフエル:イィ~~ヤァ~~~~!!!!
ヘイシー:え!?ちょっ!待ってくれ!おいて行かないでくれーー!?
:間
ヘイシー:ハァ、ハァ、こ、ここが魔女の住んでる家か…。あの魔女、やたら足が早くて振り切られそうだったな…。
:間
ヘイシー:さ、先程は失礼な事をしてしまった!すまないが!ここを開けてくれないか!?
ハフエル:…開いてるよ。
ヘイシー:あ、ああそうか。ではお邪魔するぞ。
ハフエル:…よし、まあ、これでいいだろ。
ヘイシー:あ、俺の寝る場所を構えてくれていたのか?
ハフエル:それは…私のベッドは使わせたくなかったし、かといって客を床にそのまま寝かせる訳にはいかないからね…
ヘイシー:…優しいんだな。
ハフエル:き、気まぐれだよ。それより、さっきは…
ヘイシー:あ…その、さっきは急に手を握ってしまってすまなかった。まさかあんな反応するとは思わなかってな。
ハフエル:びっくりして心臓が止まるかと思ったんだよ!
ヘイシー:え!そんなに!?い、いや、ほんとにすまかった!この通りだ!
ハフエル:…もういいよ。まあ、悪気もなかったようだしね。
ヘイシー:よ、良かった…。ああ、俺の名はヘイシーだ。
ハフエル:そうかい。私の名は…
ヘイシー:あれ?なんか急に眠くなってきたな。す、すまないが先に休ませてもら…
ハフエル:あ、そういえば、そろそろ薬が切れ…
ヘイシー:う、足の力が…あっ。
ハフエル:っ!?
ヘイシー:あ、いや、これはその、抱きつきたかった訳じゃなくてな…
ハフエル:イ、イヤァ~~~!!!(突き飛ばす)
ヘイシー:うわっ!グハーー!!
:間
ハフエル:ハァ、ハァ…。
ヘイシー:ぐ、い、痛たた…。全身が痛い…
ハフエル:す、すまないね。まさかあんなに勢いよく吹っ飛ぶとは思わなくてね。
ヘイシー:いや、あれは俺が全面的に悪い。う、痛た…
ハフエル:ああ、後、全身が痛いのはたぶん、薬のせいだと思うよ。
ヘイシー:薬?って、さっき飲んだ「プロテイーン」とかいうやつか?
ハフエル:ああ。「プロテイーン」は10分間、全身の運動能力を飛躍的に向上させる事が出来るんだが…
ヘイシー:ま、まさか…
ハフエル:そう、薬が切れると反動で全身を立っていられないほどの激しい痛みが襲うのさ。
ヘイシー:とんでもない副作用だな!そんな危険なものを俺に飲ませたのか!?
ハフエル:へー、あのまま野垂れ死んでて良かったと…?
ヘイシー:ありがとうございます魔女さん、薬、とても助かりました!
ハフエル:まったく…。あと、その魔女って呼ぶの、やめてくれるかい?
ヘイシー:あ…すまない、嫌いな呼び方だったよな。
ハフエル:ふー…。『ハフエル』よ。
ヘイシー:ハフエル、か…。なんか、可愛い名前だな。
ハフエル:はっ!?か、可愛いって!?
ヘイシー:ああ。小さい頃、家で飼ってた子豚の名前がちょうどハフ子って名前でな。
ハフエル:子豚!?
ヘイシー:ああ。まだ小さくてブヒブヒ鳴けなくて、ハフッ、ハフッって健気に鳴くやつだったんだ。今も目を閉じるとハフ子のハフハフ声と可愛く走り回る姿が…
ハフエル:「エル!」
ヘイシー:え?
ハフエル:特別に!あんたには「エル」って呼んでいい事にするわ。
ヘイシー:え、でもハフエルの方が…
ハフエル:異論は認めないよ!ほら、もういいから怪我人はさっさと寝ろ!
ヘイシー:あ、ああ。じゃあお先に、おやすみ…。
:間
ハフエル:…やっと静かに寝たか。
:
ハフエル:ふー。今日は私も疲れたね。いきなり、手を握られたり、だ、抱きつかれたり…うぅ~、今思い出しても顔が熱くなっちまうよ~!
ヘイシー:ハフ…
ハフエル:っ!まさかあんた起きて…!?
ヘイシー:ほらほら~ハフ子~お前の大好きな餌だぞ~、ははは、そんなにがっつかなくても無くならないぞ~…
ハフエル:寝言かい!はぁ…寝てても厄介なやつだね、まったく。
:
ハフエル:でも、まさか私が人間とこうやって一緒に一夜を共にする事になるなんてね…。一夜…って、な、なんかいやらしいね!…あはは…私も寝るか。
:間
ヘイシー:う…うん?…ここは…?
ハフエル:起きたか、人間。
ヘイシー:あ…そうか、俺は昨日魔物にやられて…
ハフエル:死にかかってた所、偶然通りかかった、親切で優しい、わ・た・し・が、助けてやったんだったね?
ヘイシー:そう…だけど、「私」の部分を妙に強調するのはなぜだ…?
ハフエル:ふん。身体の調子はどうなんだい?
ヘイシー:ああ。お陰様で、昨日より随分楽になってるよ。でも…まだ、起き上がれそうはないがな。
ハフエル:そうかい。まあ予想してた通りだ。
ヘイシー:ははは…。
ハフエル:まあ、仕方ないからね。もう2、3日はそのまま安静にしとくんだね。
ヘイシー:世話をかけるな。
ハフエル:仕方なく、だよ。ほら、朝ごはんを作っといてやったよ。
ヘイシー:おっ!ほんとか!?それはありがたい。実は、昨日の朝から何も食べてなくてな、腹ぺこだったんだ。
ハフエル:その、不味くても知らな…
ヘイシー:おー!このキノコの炒めたやつに焼きたてのパン、それにスープ!どれも最高に美味いな!モグモグ…
ハフエル:そ、そうか…ちょっと嬉しいね(小声)
ヘイシー:ぷはー!あー美味かった~。
ハフエル:嬉しい…んだが、もうちょっと味わってくれるか…?
:間
ヘイシー:なあ、エル。それは、何をしてるんだ?
ハフエル:ん?ああ、これかい?これは私の仕事兼、趣味の薬の調合だよ。
ヘイシー:ま、まさか…呪いを付与するような、怪しい薬を作ってるとかか!?
ハフエル:だから魔女じゃないって言ってるだろ!?…明日から飯は要らないようだね?
ヘイシー:そ、それは!…わ、悪かった、もう言わないから、飯抜きは勘弁してくれ…。
ハフエル:ふん。分かればいいさ。
ヘイシー:怒らすと怖いな、エルって…
ハフエル:えーと、これと、これを入れて…そんで最後に一つ目ウサギの糞を入れて…
ヘイシー:んん!?ちょっ、ちょっと待った!なんか、今、聞き慣れた名前の物が入らなかったか!?
ハフエル:ああ、一つ目ウサギの糞の事かい?
ヘイシー:そう、それだ!昨日俺に怪我を負わせたヤツのじゃないか!
ハフエル:その通りさ。だから昨日言っただろ?魔物は色んな恩恵をもたらす存在だって。
ヘイシー:あ、ああ。エルが昨日、そんな事を言ってたな。
ハフエル:昨日あんたが出くわした「一つ目ウサギ」、その糞は身体の中で蓄積された魔力をたっぷり含んでて、それが森の木々にとって重要な栄養素になってるんだ。
ヘイシー:森の…てことは、この森全部…
ハフエル:そうだよ。この森は「一つ目ウサギ」や、その他のいろんな魔物の糞や死骸によって得た魔力を元に昔から成長を続けている「魔の森」なんだよ。
ヘイシー:魔の森…もしかして、森に入ってから、やたら頭痛や身体のだるさが取れないのは…
ハフエル:それは魔力酔いを起こしてる証拠だね。魔力が元々少ない人間にはちょっと刺激が強いだろうね。
ヘイシー:どうりで…。
ハフエル:だから私は薬の材料に、森は栄養をもらう事で魔物とは共生関係になってる、ってわけさ。
ヘイシー:なるほど…。で、今、それは何の薬を作ってるんだ?
ハフエル:「プロテイーン」だよ。
ヘイシー:なるほど、プロテイーンの薬か…んんっ!?
ハフエル:なんだい突然、そんなビックリした顔して。
ヘイシー:エ、エル…そ、その薬って、俺が昨日飲んだ、薬だよな…?
ハフエル:ああ、それがどうしたんだい?
ヘイシー:ぶはーー!!ゴホ!ゴホ!あ、あれ!糞が入ってたのかよ~~~!!
ハフエル:知らずに飲んでたのか?
ヘイシー:知るかーー!!
ハフエル:てっきり、知ってて飲んだのかと思ってたよ。
ヘイシー:知ってたら飲まなかったよ!ペッ!ペッ!思い出して来たら、口の中が苦い糞の味がしてきたみたいだ!
ハフエル:まったく、そんな大袈裟にするような事じゃないだろ。たかが糞で。
ヘイシー:はあ~?じゃあ、エルは飲んだ事あるのか!?
ハフエル:それは…その…その薬は、町で売る用の薬だからねぇ。
ヘイシー:飲んだ事ないんじゃないか!くそ、騙された~!
ハフエル:騙したなんて心外だね、あのままじゃ、あんた死んでたかも知れないんだよ?
ヘイシー:う…そ、それは…
ハフエル:死ぬか、糞を飲むか、って言われたら、当然?
ヘイシー:…糞。
ハフエル:ふふ。そうだろそうだろ。
ヘイシー:クソッ!…あんなもん、二度と飲まないぞ…
:間
ハフエル:うん、材料はこれでよし、と。
ヘイシー:完成したのか?
ハフエル:まあ見ておけ。…「森の精霊達よ…私に力を、貸しておくれ…ハッ!」
ヘイシー:ひ、光った!?
ハフエル:…これで完成だよ。
ヘイシー:い、今のは…?
ハフエル:今のかい?薬ってのは材料を混ぜるだけなら普通の効果しか出せないが、私の魔力を込めた薬は薬の効果を何倍にも引き上げる事が出来るのさ。
ヘイシー:す、すごい…さすがエルフだな…。
ハフエル:…こんなの、大したことじゃないよ…。さ、今日はもう休むんだよ。
ヘイシー:ん?あ、ああ…。
:間
ハフエル:よし、ゆっくり立ち上がってごらん。
ヘイシー:よし…。う…お?おーー!
ハフエル:ふん。どうやら、もうすっかり良くなったみたいだね。
ヘイシー:エル!ありがとう!あんたのおかげだ!
ハフエル:いや…感謝なんてしなくていいよ。最初は、見捨てようとしたんだしさ。
ヘイシー:それでも、最後には俺を助けてくれた。見ず知らずの俺をだ。誰にでも出来る事じゃないさ。だから、改めて感謝させてくれ。
ハフエル:ま、まあ…気持ちだけ、もらっとくよ…。
ヘイシー:ふふ、素直じゃないな、エルは。
ハフエル:ほ、ほっときな!
ヘイシー:ハハハ。
:間
ハフエル:…で、行くんだろ?
ヘイシー:え?
ハフエル:その…あんたは、世界を巡る旅の途中だったんだろ?
ヘイシー:あー…。そう、だったな。
ハフエル:…ま、まあお前が居なくなってくれれば、ここも静かになるし、私だって…厄介者の相手をしなくて済むから清々するよ!…ふん。
ヘイシー:そう、なのか?
ハフエル:ああ、そうさ。何百年も一人でこの暮らしを続けてきたんだ。…べ、別に寂しいとかじゃないからね!
ヘイシー:…。
ハフエル:ほら…私に構わず、さっさと何処にでも好きな所に行けばいいだろ。
ヘイシー:…決めた。
ハフエル:は?
ヘイシー:エル、頼みがある。
ハフエル:な、なんだい、改まって…。
ヘイシー:もうしばらく、ここに居させてくれ。
ハフエル:え…?
ヘイシー:エルは薬を作るのが仕事だって言ってただろ?
ハフエル:ああ…確かに、言ったけど…。
ヘイシー:その材料を森で集めて、薬にして、町に売りに行ってるんだよな?
ハフエル:そ、そうだけど、何が言いたいんだい?
ヘイシー:その仕事、俺にも手伝わさせてくれ。
ハフエル:え、いきなり何を…
ヘイシー:あの時エルに助けてもらわなかったら、俺は死んでいたかも知れない。だから、助けてもらった恩を、ぜひ返させて欲しいんだ。
ハフエル:いや…しかし…
ヘイシー:薬作りの材料集めや運搬など、何かと力仕事が必要な事があるだろ?
ハフエル:う…確かに、手伝ってくれたら助かるけど…
ヘイシー:昔から力だけは人一倍あるんだ、どうだ?
俺をここで働かせてもらえないか?
ハフエル:…し、仕方ないね。そこまで言うんなら、特別に働かせてやっても…いいけど。
ヘイシー:ほんとか!良かった…。
ハフエル:ただし条件がある!
ヘイシー:ん?ああ、なんでも言ってくれ。
ハフエル:…急に手を握ったり、抱きつくのは禁止だからね!
ヘイシー:え?
ハフエル:わかったね!
ヘイシー:あ、ああ!もちろんだ。
ハフエル:わ、私は向こうで調合の準備をしてるから後でちゃんと来るんだよ!
ヘイシー:わ、分かった!
:
ヘイシー:…すごい剣幕だったな。…あれ?さっきのって、急じゃなかったらOKって事か…?
:間
ハフエル:その薬草とバジリスクの糞を混ぜておくれ。
ヘイシー:分かった、コレとコレだな、任せとけ。
ハフエル:…随分手際が良くなったな。
ヘイシー:ん、そうか?
ハフエル:ああ。手伝い始めたばかりは酷いもんだったけどね。今は私が作ったやつと遜色(そんしょく)ない腕前だよ。
ヘイシー:ほー、べた褒めしてくるじゃないか。
ハフエル:ふん、私は正当な評価をしているだけだよ。
ヘイシー:じゃあ、きっと美人で優しい、師匠の教えが良いんじゃないか?
ハフエル:はぁっ!?そ、そんな訳ないだろ!?
ヘイシー:そうか?俺も正当な評価をしただけだぜ?
ハフエル:~~!!(赤面しながら)。…お前、どうせその口の上手さで人間の女共を取っかえ引っ変えしてるんだろ!?
ヘイシー:そ、そんなわけあるか!
ハフエル:どうだかな…。
ヘイシー:…恥ずかしい話、まだ誰とも恋仲になった女は居ないよ。
ハフエル:っ!へ、へえ~そうかい。…良かった…。(小声)
:間 (夜)
ヘイシー:…エル、まだ起きてるか?
ハフエル:っ!?…あ、ああ…起きてるよ…
ヘイシー:それは良かった。
ハフエル:…ど、どうしたんだい…?
ヘイシー:エルに聞きたい事があるんだ。
ハフエル:えっ?聞きたい事…?
ヘイシー:ああ。
ハフエル:な、なんだ…。
ヘイシー:ん?なんでそんなに残念そうなんだ?
ハフエル:い、いやいや!なんでもないよ!。
ヘイシー:そ、そうか?
ハフエル:…で、私に何を聞きたいんだい?
ヘイシー:…エルはなんで、一人でこの森に住んでるんだ?
ハフエル:なんで、だって?
ヘイシー:その、聞いた話ではエルフ族は人間との接触を避けて深い森の奥で集落を形成して、ヒッソリと暮らしていると聞いた事があってな。
ハフエル:ああ、そういう事かい。…確かに、「本物のエルフ」ならそうやって暮らしてるだろね。
ヘイシー:え…?エルも、同じエルフ族だろ?
ハフエル:…ふぅ。これは、出来れば言いたくなかったんだけど…あんたになら…私の「秘密」を、特別に教えてやってもいいよ。
ヘイシー:秘密…。それが、この森で一人で住んでる理由なのか?
ハフエル:ああ…。最初に言っとくけど、あんまり気持ちのいい話じゃないよ。
ヘイシー:…分かった、聞くよ。
ハフエル:…まず私はエルフじゃない。あー、正確には、「半分」エルフの血が混じっているね。
ヘイシー:半分って事は…
ハフエル:「ハーフエルフ」だよ。
ヘイシー:ハーフエルフ…人間と…エルフの…混血?
ハフエル:ビックリしたかい?
ヘイシー:あ、ああ。まさか人間とエルフ族が、その…交わった事があった、なんてな…。
ハフエル:そ、そうだね…(赤面)。そ、そんな事は今どうでもいいんだよ!とにかく、話を続けるよ!
ヘイシー:す、すまない、続けてくれ。
ハフエル:ゴホン(咳)。…私は、親の顔を知らない。物心ついた時には、北にある王国の教会で、孤児として育てられていた。
ヘイシー:そう、だったのか…。
ハフエル:まあ事情は分からないけど、きっと望まれて生まれてきた存在じゃなかったんだろね…。
ヘイシー:…どんな理由があっても、生まれてすぐの子供を手放していいわけがあるか…。
ハフエル:…ありがとう。でも、教会のシスター達は優しい人ばかりだったよ。今はもうみんな生きちゃいないが、私が独り立ちするまで、しっかり面倒を見てくれたんだ。
ヘイシー:そうか、優しい人達だったんだな…。
ハフエル:ああ…。それから独り立ちした私は、ある時エルフ特有の能力に目覚め、それを活かして薬作りを始めたんだ。
ヘイシー:この間見た、呪文みたいなあれか。でも、そんな若い頃から薬作りをしてたのか。
ハフエル:そうだね…。
ヘイシー:…エル?
ハフエル:なーに、ちょっと昔を思い出しちゃってね…。
ヘイシー:うまくいかなかったのか?
ハフエル:最初は良かったよ。安くて凄い効果だ、って町のみんなにも喜んでもらえてたからね。だけど…ある時、王国から御触(おふ)れが出たんだよ。
ヘイシー:王国から…?
ハフエル:ああ。それは「王国内で怪しい薬を売る魔女がいる。その薬を服用すると呪われる恐れがあるので購入しないように」だとさ。
ヘイシー:なんだと!いったい何を根拠に!?
ハフエル:当時の王国の事情が絡んでたんだろうね。私が薬を作り出す以前は、王国お抱えの魔術師が作る魔法薬が一般的に出回ってたんだ。…ようするに、私が目障りだったのさ。
ヘイシー:なんて酷い話だ…自分達の利益の為に、妨害工作をしようとするなんて…。
ハフエル:それで最後は民を焚き付けて魔女狩りを始めるって言い出してね。
ヘイシー:なっ!?
ハフエル:教会のシスター達の協力もあって、なんとか森にあった潰れかけの廃屋(はいおく)まで逃げて来られる事が出来たんだ。
:
ハフエル:それからは、薬を作り続けながら息を潜(ひそ)めるようにここでひっそりと生きた。…これが私の全てだよ。
ヘイシー:…辛い話をさせてしまったな…。王国め…。
ハフエル:…いいよ。私はあんたがそうやって怒って、悲しんでくれただけで救われるよ。
ヘイシー:過去は変えられないが…苦労した分、エルにはこれからいっぱい幸せになってもらいたい。
ハフエル:…ありがとう。
:
ハフエル:…あんたと過ごしてる今が、一番の幸せだよ…(小声)
:間
ヘイシー:ヨッ!と。よし、この崖(がけ)を登ったら薬草がある山頂に着くぞ。
ハフエル:ハァ、ハァ、わ、分かった。
ヘイシー:…エル、手を握ってもいいか?
ハフエル:え!?
ヘイシー:へ、変な意味じゃないぞ!手を引いて登った方が崖を楽に登れるだろ?
ハフエル:そ、そういう事なら…お願いするよ。
ヘイシー:よし、あともう一息だぞ!
ハフエル:…ちゃんと約束、守ってるじゃないか…。
:間
ヘイシー:は~、相変わらず凄い見晴らしの良さだな。
ハフエル:だろ?私のお気に入りの場所だからね。
ヘイシー:ああ。こんな素晴らしい場所を教えてくれてありがとうな、エル。
ハフエル:と、特別だからね…。
ヘイシー:それは嬉しいな。
ハフエル:さ、さーてと!薬草取りまくるよ…ん?「アレ」はなんだい?
ヘイシー:っ!?
ハフエル:森を囲うように何かが…あ、あれはまさか!王国軍かい!?
ヘイシー:…ついに、来たか…。
ハフエル:え?あんたは王国軍が来る事を知ってたのかい!?
ヘイシー:…知っていた。
ハフエル:ど、どういう事だい…?
ヘイシー:エル、すまない…。
ハフエル:なんで急に謝るんだい!?
ヘイシー:俺はエルに嘘をついていたんだ。
ハフエル:嘘…?
ヘイシー:落ち着いて聞いてくれ。俺は…実は、王国の兵士なんだ。
ハフエル:な、なんだって!あんたが…王国の兵士だなんて…嘘だろ!?
ヘイシー:…本当なんだ。
ハフエル:な、なんでそんな嘘を…。
ヘイシー:俺の仕事は…「森の魔女を暗殺する事」だったんだ。
ハフエル:…ずっと、私を騙してたのかい!
ヘイシー:それは違う!
ハフエル:何が違うっていうんだい!現にあんたは王国の兵士で、王国軍が森に攻めて来てるじゃないか!
ヘイシー:聞いてくれ!確かに最初は王国にあんたを暗殺するよう依頼された。だが…
ハフエル:…。
ヘイシー:俺は王国から聞かされていた森の魔女についての話に、以前から疑問があったんだ。
:
ヘイシー:そこで調べてみたら、あんたから薬を買ったと言う町の人間は、みんなあんたに対してとても感謝していたんだ。だから…自分の目で確かめて判断する事にしたんだ。
ハフエル:それで…私はあんたからどう見えたんだい?
ヘイシー:…自分の身体があまり強くないクセに、危険をかえりみず人の為になる薬を一生懸命作り続ける、俺たちと何も変わらない、「人」だったよ。
ハフエル:う…。
ヘイシー:それから…少し怒りっぽいが優しくて、料理が上手く、とても美しくて可愛い、俺がこれからも「守っていきたい」「人」だ。
ハフエル:な、何恥ずかしいセリフを…
ヘイシー:これが本心だ。…俺はエルが好きだ。
ハフエル:っ!…わ、私は…
ヘイシー:いいんだ。俺が勝手に惚れただけだ。今言った事は忘れてくれ…じゃあな。
ハフエル:ど、どこに行くんだい!?
ヘイシー:俺はエルを「守る」と決めたんだ。だから俺が、王国軍を止めてみせる。
ハフエル:馬鹿じゃないかい!あんな人数を、あんた一人でどうにか出来る訳ないだろ!?
ヘイシー:出来る出来ないではない、「やるんだ」。安心しろ、こんな事もあろうかと、身体強化薬を大量に作っといたからな。
ハフエル:ッ!~~~(声にならない声)。
ヘイシー:それじゃあ、元気でな…。
ハフエル:待ちなさい!
ヘイシー:え?
ハフエル:私も行くわ。
ヘイシー:は…?
ハフエル:私もあんたに着いていく。
ヘイシー:な、何を言ってるんだエル!正気か!?
ハフエル:何、文句あるのかい?
ヘイシー:ああ大ありだ!王国軍が迫って来てるんだぞ?一緒に死ぬつもりか!?
ハフエル:もちろん分かってるよ。私は死ぬつもりもなければ、あんたを死なせたりもしないよ。
ヘイシー:どういう事だ…?
ハフエル:ま、まだあんたには薬の調合について、教え切れてない事がまだ沢山残ってる、そんな中途半端が、嫌なだけさ…。
ヘイシー:エル…。
ハフエル:そ、それに、身体強化薬を使って戦ったとしても、身体は傷つくんだよ?あんた一人で誰が回復をしてくれるのさ?
ヘイシー:そ、それは…。
ハフエル:私はあんたみたいに戦う力は無いけど…回復のサポートをするくらいは出来るよ、だから私も着いて行かせておくれ!
ヘイシー:それで…本当にいいんだな?
ハフエル:ああ。
ヘイシー:…分かった。すまないが、回復役は任せたぞエル。
ハフエル:ふん、任せときな!
:間
ヘイシー:おおおぉぉ!!!まだまだぁぁーー!!
ハフエル:…す、凄まじい戦い方だね…。これだけ離れてるのに、ここまで衝撃波が届いてくるなんて…。
ヘイシー:はぁ、はぁ、お前ら、俺の大事な人に、手をだすんじゃねえぇーーー!!
ハフエル:っ!あ、あいつ、何をどさくさに紛れて~~~。(赤面)
ヘイシー:ハァ、ハァ、エル、悪いが回復を頼めるか?
ハフエル:な、何言ってんだい、その為に私が居るんだろ、任せときな。「森の精霊達よ…癒しの力を…」ハッ!よし、これを飲みなヘイシー。
ヘイシー:あ、ああ、ありがとう…。ングッ、プハァッ!おおっしゃーー!!完全回復だぜーー!!
ハフエル:よし、傷も全部塞がったみたいだね。…でも、絶対に無茶するんじゃないよヘイシー?
ヘイシー:ああ、エルを心配させない為にも、俺は無事に生き抜いてやる。
ハフエル:…分かった。私はもう何も言わないよ。さ、行ってきな。
ヘイシー:ああ。…あ、あのよ…
ハフエル:ん…?まだ何かあるかい?
ヘイシー:名前、呼んでくれてありがとな…。じゃあ、行ってくるぜ!おおおぉぉりゃぁぁーーー!!
ハフエル:っ!(赤面)、な、何を…。
:
ハフエル:…ヘイシー、私もやっぱり…あんたの事が…
:間
ヘイシー:ハァ、ハァ、ハァ…こ、これで、全員か…。身体強化薬を事前に身体に慣らす練習をしておいたが…流石に…もう立てないぜ…。
ハフエル:ヘイシー!大丈夫か!?
ヘイシー:ああ…なんとか、生きてるぞ…。
ハフエル:ほら、回復薬だ。…まったく、無茶をして。最後まで、全員殺さずに戦うなんて…。
ヘイシー:エルは…人間が死ぬのも、本当は嫌なんだろ?
ハフエル:っ!…そ、そうだけどさ…
ヘイシー:俺に着いてきた事で、エルに後悔を残させたくなかったからな。
ハフエル:はは…本当に馬鹿だね…。でも、ありがとう…。
ヘイシー:しかし、やっちまったな…。これで俺もバッチリお尋ね者の仲間入りだ。
ハフエル:…後悔してるのか?
ヘイシー:いや、それは全く無いな。俺が望んでやった事だしな。それより…
ハフエル:ん?私かい?…まあ確かに、直接何かした訳じゃないけど、たった一人の人間に王国軍を壊滅させるだけの薬を作ったのは間違いないね。
ヘイシー:それ、なんだよなー…。
ハフエル:ふふ、これで私も仲良くお尋ね者だね。
ヘイシー:わ、笑い事じゃないだろ!
ハフエル:いい事考えたよ。
ヘイシー:え?
ハフエル:ヘイシー、確かあんた旅人だったろ?私もその旅に同行させておくれ。
ヘイシー:な!?あ、あれはエルに近づく為の嘘で…
ハフエル:なら、旅の経験は無いのかい?
ヘイシー:いや、元々俺は仕事を探して隣りの大陸から海を渡って旅をして来たから旅経験はあるが…。
ハフエル:へー、そうだったのかい。ヘイシーが居た大陸には大きな森はあるかい?
ヘイシー:あ、ああ。俺が生まれた場所は田舎だったから近くに魔物が出る大森林があるが…
ハフエル:もしかして、そこにエルフが住んでたりしないかい?
ヘイシー:確か…昔、爺さんが大森林の奥深くにエルフの集落があるって話てたな…ってまさか!?
ハフエル:よし、じゃあ決まりだね。本物のエルフ族にはまだ会った事ないから見てみたかったんだよ。
ヘイシー:エル、本気で言ってるのか!危険な旅になるかも知れないんだぞ!?
ハフエル:ふふ、それなら心配ないよ。だって、ヘイシーが「守って」くれるんだろ?
ヘイシー:う…。…善処する。
ハフエル:頼もしいねえ、期待してるよ。
ヘイシー:どうなる事やら…。
ハフエル:おや?もうこんなに暗くなってたのかい。これは出発は明日だね。
ヘイシー:そうだな…。月は出てるが暗い中の旅は危険すぎるからな。
ハフエル:…あ、あの、ヘイシー…
ヘイシー:ん?なんだ?
ハフエル:その…「月が綺麗、だね」
ヘイシー:ん?なんだ突然。月なんて毎日見飽きてるだろ?
ハフエル:うぅ…古文書の嘘付きめ…。もういい!私は先に帰るからね!
ヘイシー:あ!ちょっ待て!俺はまだ足に力が入らなくて立てないんだぞ!?お、おい、エル!待ってくれ~~~!!!
完…?