台本概要
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タイトル | あなたの言葉に魅せられて |
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作者名 | ふらん☆くりん (@Frank_lin01) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 4人用台本(男2、女2) ※兼役あり |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
【あらすじ】 あなたの言葉に惑わされ、操られ、そして…堕ちる。 【著作権について】 本作品の著作権は全て作者である「ふらん☆くりん」に帰属します。 また、いかなる場合であっても当方は著作権の放棄はいたしません。 【禁止事項】 ●商業目的での利用 ●台本の無断使用、無断転載、自作発言等 ●過度なアドリブ、セリフの大幅な改変等 【ご利用に際してのお願い】 ●台本の利用に際しては作者X(旧ツイッター)DMに連絡をお願いいたします。 ●配信等で利用される場合は①作品名、②作者名、③台本掲載URLを掲示していただけると嬉しいです。 ●たくさんの方の演技を聴きに行きたいので、可能であれば告知文にメンションを付けていただけると嬉しいです。 483 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ミハル | 男 | 104 | 神谷(かみや)ミハル・・・高校2年生。人が口にする「負の言葉」を「正の言葉」に変換する能力を持つ。 |
しおり | 女 | 112 | 片山しおり・・・高校2年生でミハルと同級生。怪奇探偵クラブ部長。いつも元気いっぱいで人懐っこい性格。女生徒A、女性Cと兼役。 |
ボンド | 男 | 42 | 能力者。人と人との関係性を変化させる能力を持つ。 |
シャドウ | 女 | 81 | 能力者。数ある能力者の中では珍しく性質の違う2つの能力を操る。女生徒B、女性Dと兼役。 |
女生徒A | 女 | 6 | クラスメイト。しおり役の人が演じてください。 |
女生徒B | 女 | 6 | クラスメイト。シャドウ役の人が演じてください。 |
女性C | 女 | 9 | 公園を散歩していた女性。しおり役の人が演じてください。 |
女性D | 女 | 9 | 公園を散歩していた女性。シャドウ役の人が演じてください。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
タイトル:あなたの言葉に魅せられて
:
登場人物:
ミハル:*神谷《かみや》ミハル・・・高校2年生。人が口にする「負の言葉」を「正の言葉」に変換する能力を持つ。
しおり:片山しおり・・・高校2年生でミハルと同級生。怪奇探偵クラブ部長。いつも元気いっぱいで人懐っこい性格。女生徒A、女性Cと兼役。
ボンド:能力者。人と人との関係性を変化させる能力を持つ。
シャドウ:能力者。数ある能力者の中では珍しく性質の違う2つの能力を操る。女生徒B、女性Dと兼役。
女生徒A:クラスメイト。しおり役の人が演じてください。
女生徒B:クラスメイト。シャドウ役の人が演じてください。
女性C:公園を散歩していた女性。しおり役の人が演じてください。
女性D:公園を散歩していた女性。シャドウ役の人が演じてください。
:(M)はモノローグ(独白)、〈〉はト書き、()は心の声です。
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本編:
ミハル:(M)僕には幼い頃から他の人にはない不思議な能力があった。それは…。
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:-------------------(昼休み)
女生徒A:ねぇ知ってる?隣のクラスに山田タカシっているじゃん?アイツさ、めっちゃ暗くてキモイから誰も寄り付かなくて、2年間ずっと毎日トイレで弁当食べてるらしいよ!
女生徒B:何それ!めっちゃウケるんですけど!あはははは!
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ミハル:……はぁ。この会話、憂鬱だなぁ。
ミハル:(M)聞きたくもないのに毎日のように耳に流れ込んでくる愚痴や悪口の数々。なんで人間はこんなにも簡単に負の言葉を口にしたがるのだろう。
女生徒A:おまけにアイツ運動神経も腐っててさ、こないだ体育で走ってる姿見たんだけどね、これがめちゃくちゃダサ…
ミハル:〈被せて〉『素敵だったの』
女生徒A:素敵だったの!でね!私思わず見とれちゃって!それからは私、四六時中タカシ君のことばかり考えてて何も手に付かないの♡
女生徒B:ちょ、ちょっと!あんた急にどうしちゃったのよ?さっきまで山田のこと散々悪く言ってたのに…。
女生徒A:え?何言ってんの?私がタカシ君のことを悪く言うわけないじゃない。変なこと言わないでよ!
女生徒B:はぁ?変なこと言ってんはあんたでしょーが!あんな気持ち悪…。
ミハル:〈被せて〉『魅力的な』
女生徒B:魅力的な男性と私も付き合いたいわ♡ はぁ…見てるだけで溜息出ちゃう♡
女生徒A:ほんとだよね!私…告っちゃおうかなぁ♡
女生徒B:あ!ズルい!私が告るの!
:-----------------------------
:
ミハル:(M)僕は人間の「負の言葉」を「正の言葉」に変換する能力を持っている。そして僕によって言葉を変換された人間は、その瞬間から僕の言葉に沿った行動を取るようになる。そう、先程の彼女たちのように。
しおり:よっ!ミハル!何やってんの?
ミハル:なんだ、しおりか。別になーんにも。
ミハル:(M)こいつはクラスメイトの片山しおり。怪奇探偵クラブの部長でヒマを見つけては僕に絡んでくる。ちなみに彼女の中では、僕も怪奇探偵クラブの一員ということになっているらしい。まあ僕としては、しおりの人懐っこい性格にだいぶ癒されている部分もあるのだが…。
しおり:また能力使ったでしょ?
ミハル:使ってないよ。
しおり:私、見てたんだからね!さっきの女の子たちの変わり*様《よう》、明らかにおかしかったんだもん。
ミハル:僕はただ、他人の負の言葉を聞くのが嫌なだけだよ。
ミハル:(M)そして、彼女は僕の能力を知っている数少ない理解者でもある。
しおり:だからって、人の人生ねじ曲げて良いわけないんだからね!それに、その能力は…。
ミハル:はいはい、どうもすみませんでした。これからはなるべく使わないようにするよ。
しおり:うー…何よ、その投げやりな態度は!人がせっかく心配してあげてるってのに!
ミハル:あはは…ごめんごめん。マジでもう使わないから許してよ。
しおり:はぁ…仕方ないなぁ。じゃあ今回だけ特別ね。それよりミハル。
ミハル:ん?何?
しおり:最近、奇妙な事件が立て続けに起きてるって知ってる?
ミハル:奇妙な事件?
しおり:うん。私も詳しくは知らないんだけどさ、普段温厚そうな人が急に凶悪犯罪に手を染めたり、笑いながらビルから飛び降りたり。とにかくその行動に説明が付かない事件が頻発してるんだって。
ミハル:説明が付かない事件…ねぇ。
しおり:私はね、能力者の仕業じゃないかって*睨《にら》んでるの。
ミハル:でもまだそうと決め付けるには早すぎるんじゃない?
しおり:だから、私と一緒に調査して欲しいの。
ミハル:でもそういうのは警察がやるべきことで、僕たちがやって良いことじゃない気がするんだけど。
しおり:ふーん…やりたくないなら別に良いけど~。あーあ、さっきの女の子の件、ミハルがやったってバラしちゃってもいいのかなぁ。あーあ、きっと傷付くだろうなぁ。
ミハル:わ、分かった!分かったって!手伝うからさ。勘弁してよ。
しおり:ふっふーん。分かればよろしい。
ミハル:で、具体的に僕は何をすればいいの?
しおり:ミハルには事件のあった場所に行って能力の気配が残ってないか調べて欲しいの。もし能力が使われていたなら何か感知できるはずだから。
ミハル:分かった。やってみるよ。
しおり:じゃあ私は別ルートから探ってみるわ。
ミハル:気をつけてね。しおり。
しおり:うん。ミハルもね。
:
:-------------------(殺人事件現場)
ミハル:(ここが先週通り魔殺人事件があった場所か。確か犯人の女性は幼稚園に勤務していて、いつも笑顔で園児たちに接するとても優しい先生だったそうだ。そんな人がなぜ通り魔なんて真似を…。)
ミハル:しおりが言うには、能力を持つ者同士なら時間が経っていても何かしらの気配を感じ取れるらしいが…今のところは特に何も感じないな。ん?あれは…。
ボンド:こんにちは。
女性C:こんにちは~。〈同時に〉
女性D:こんにちは~。〈同時に〉
ボンド:君たちお友達同士かい?とても仲が良さそうで幸せに満ち*溢《あふ》れているね。
女性C:は、はぁ…。
女性D:私たち急いでるんで失礼します…。
ボンド:待ちたまえ。
女性C:な、何ですか?
ボンド:ここで会ったのも何かの縁だ。私から君たちにプレゼントをあげよう。
女性D:いりません。さ、行こ。
ボンド:まあそう言わずに。
ボンド:『*汝《なんじ》らの関係に黒く*穢《けが》れた祝福を』
ボンド:〈手から出た黒い糸のシャワーが二人に絡みついて染み込んでいく〉
女性C:あっ…。〈同時に〉
女性D:あっ…。〈同時に〉
ボンド:ふふふ…どうです?私の手から放たれた黒い糸のシャワーによって、今この瞬間から君たちは仲の良い友人ではなく憎むべき*仇《かたき》同士となった。さぁ、存分に殺し合いを楽しみたまえ!
女性C:…よくも私の大切な人の命を…絶対に許さない!!
女性D:それはこっちのセリフよ!ここでアンタを殺せば彼の無念を晴らすことができる!覚悟しなさい!
女性C:はぁぁぁ!!死になさ…
ミハル:〈被せて〉『大好きよ』
女性C:大好きよ!あなたは私の大切な人の命を奪った仇だけど、それでもあなたのことはずっと好きでいたいの。
女性D:な、なんだ急に、大好きだなんて気持ち悪い。まあいいわ、宣言通り殺してあげ…。
ミハル:〈被せて〉『仲良しでいたいの』
女性D:仲良しでいたいの!ごめんなさい…私が間違っていたわ。そもそもあなたが彼を殺すはずがないもの。だからお願い。これからも仲良くしてね。
女性C:嬉しい…もちろんよ!
女性D:ありがとう…大好きよ!
:〈二人が立ち去る〉
ボンド:なっ!二人の関係性に新たな影響を与えただと!?ちっ…あともう少しで楽しい殺し合いが見られたというのに…。さて、誰だか知らないが、私の楽しみを邪魔した罪は重いぞ!
ミハル:残念だけど罪を償うのはアンタの方だ。やはり一連の事件には能力者が絡んでいたんだな?しおりの読み通りってわけか。
ボンド:ほう…能力者のことをご存知ですか。もしかして、先程の力…あなたも能力を持つ者ですか。
ミハル:その通り。僕は神谷ミハル。さぁ、もう観念しなよ。さしずめアンタの能力は「対象の関係性を変化させる力」ってとこかな?
ボンド:ふふふ。ご明察。一度見ただけでそこまで見抜くとは…これは少々見くびっていたようですね。
ミハル:褒めても許してやんないよ。警察が来るまでそこで大人しくしてなよ。
ボンド:そう言われて大人しく従うわけがないでしょう!ふん!〈発煙弾を投げる〉
ミハル:くっ…煙幕か…。
ボンド:残念だが、ミハル君。今日の所は*退《ひ》かせてもらうよ。
ボンド:私の名はボンド。機会があったらまた会おう!〈姿を消す〉
ミハル:待て!…逃げられたか。まあいい。それなりに収穫もあったしな。それはそうと、しおりの方は大丈夫かな。無茶してなきゃいいけど。
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しおり:えっと、ここで合ってるよね?
しおり:(報道によると3日前の13時頃、この場所で資産家の男性が通りすがりの女性にめった刺しにされて亡くなった。犯人は近くの金融会社に勤める23歳OL。ちなみに犯人と被害者の面識はなしっと。なになに…目撃者の証言によるとランチを終えた男性が通りを歩いていると、向こうから歩いて来た犯人にすれ違いざまに後頭部を鈍器のような物で殴打され転倒。その後、持っていたナイフで計30箇所以上も刺され死亡。なお、犯人の女性は警官に取り押さえられる直前まで笑いながら男性を刺し続けた…か。)
しおり:この事件、どう考えても不自然よね。絶対何か裏があるはずよ。まずはとりあえず聞き込みから始めなくちゃ。
シャドウ:あら、そこのお嬢さん。
しおり:えっ?わ、私のことですか?
シャドウ:そう、あなたよ。浮かない顔をしてどうしたのかしら?
しおり:あ、あの…実は私、趣味で探偵をやっていまして、3日前にここで起きた殺人事件について調べているんですが、何かご存知ありませんか?
シャドウ:ふふ…可愛いらしい探偵さんね。…殺人事件ねぇ。知っていると言えば知ってるけど、聞きたい?
しおり:えっ!?本当ですか?ぜひ教えてください!(やったー!こんなにも簡単に事件を知っている人に出会えるなんて、今日の私ラッキーかも)
シャドウ:じゃあ立ち話もなんだから私の事務所で話しましょ。ついてらっしゃい。
しおり:は、はい。(え…大丈夫かな?でも優しそうな人だし、まあ行けば何とかなるっしょ)
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:-------------------(事務所にて)
シャドウ:さぁ、着いたわ。どうぞ中に入って。
しおり:あ、はい。お邪魔します。
シャドウ:そこのソファに座って。
しおり:失礼します。〈ソファに腰掛ける〉
しおり:それにしてもオシャレな事務所ですね。えっと…
シャドウ:シャドウよ。私の事務所を褒めてくれて嬉しいわ。
しおり:い、いえ…。それよりシャドウさん、本日はお忙しいところ事務所までお招きいただきありがとうございます。私は片山しおりって言います。
シャドウ:しおりちゃんね。素敵なお名前だこと。良いのよ、私もちょうど退屈してたところだし。
しおり:素敵だなんて…そんな。
シャドウ:うふふ…照れてる姿も可愛いわ。はい、お茶どうぞ。〈お茶を出す〉
しおり:あ、ありがとうございます。いただきます。ゴクリ…。〈お茶を飲む〉
シャドウ:そうそう、事件のことについて知りたいんだったわよね?
しおり:はい。
シャドウ:私も直接その場にいた訳じゃないんだけど、犯人の女性とは少し面識があってね。
しおり:えっ!?そうなんですか。(ビンゴじゃん!)
シャドウ:彼女は私の患者さんだったの。
しおり:シャドウさんの患者さん?
シャドウ:ええ、そうよ。実は私、人の悩みを聞いて心を軽くするカウンセリングクリニックを経営しててね、ちょうど一週間前くらいに彼女から悩みを解決して欲しいって相談を受けたの。
しおり:ちなみにその相談の内容はどんな物だったんですか?
シャドウ:そうねぇ…でもこれは個人情報だからさすがに教えられないかな。
しおり:あ…そうですよね。
シャドウ:でもしおりちゃんは可愛いから特別に教えてあげるわ。
しおり:ほんとですか!?ありがとうございます!
シャドウ:彼女は自分自身の消極的な性格にずっと悩んでいてね、そのせいで仕事も恋も上手くいかなくてすっかりやる気を失ってたの。
しおり:そうだったんですか。
シャドウ:ほら、誰にだってあるじゃない?例えばしおりちゃん、あなたの中で嫌いな所は何かしら?
しおり:そうですね…私は辛いことがあっても元気なフリして我慢しちゃう所ですかね。
シャドウ:どうして我慢しちゃうの?
しおり:…私、元気だけが*取り柄《とりえ》なんです。だから、そうじゃない自分だと嫌われちゃいそうな気がして怖くて…。
シャドウ:そう…。嫌われるのが怖いのね。良いのよ、我慢しなくても。
しおり:えっ?あはは…やだなぁ、私の話は聞いてくれなくても良いんですよ。患者さんじゃないんですから。それよりその人の話を…
シャドウ:あなたは何をしても嫌われない。たとえどんなことをしてもみんな笑顔で受け止めてくれるわ。
しおり:(何だろう…シャドウさんの声にどんどん引き込まれていく…)
しおり:…みんな…受け止めてくれる…。
シャドウ:そうよ。だから心の*赴《おもむ》くままにあなたのやりたいことをやりなさい。
しおり:…心の…*赴《おもむ》くままに…。
シャドウ:しおりちゃん、私があなたの心を解放してあげるわ。
シャドウ:『囚われし*哀《あわれ》な心、その忌まわしき呪縛から解放せん』
しおり:あぁ…。
シャドウ:うふふ…今の気分はどう?
しおり:なんか…心が軽くなってとっても気持ちが良いの…今まで我慢してきた欲望が次々に解き放たれていくわ。はぁ…素敵♡
シャドウ:しおりちゃん、一つ聞いてもいい?
しおり:ん?なぁに?
シャドウ:あなたが今したいことは何かしら?
しおり:私はね、ミハルと一緒に色んな所に行ってずっと楽しいことしていたいの。
シャドウ:そっか。しおりちゃんは、そのミハル君っていう子のことが好きなんだ?
しおり:うん…だぁい好き♡
シャドウ:でも周りの人はみんなミハル君のことを狙ってるわよ。
しおり:えっ…そんなのいやだ。ミハルは私だけのモノなのに。
シャドウ:そうよね。じゃあ、あなたからミハル君を奪おうとする人たちをどうしたい?
しおり:消したい…私からミハルを奪おうとする人なんてみんな消えちゃえばいいんだ!
シャドウ:うふふ…それじゃあ、しおりちゃんのその気持ちに私が力を与えてあげる。
シャドウ:『清き心は黒に染まりて転生せん』
しおり:ふぁぁ♡…何この感覚…私の心が真っ黒に塗り替えられていくわ…。
シャドウ:さぁ、あなたはこれから生まれ変わるの。純粋な悪の心を持つ存在としてね。
しおり:はぁ♡ 最高の気分だわ!どす黒い感情が次々と湧き出して来るの!あぁ…邪魔な奴らを今すぐにでも殺したい…殺して、潰して、ぐっちゃぐちゃになるまで壊し尽くすの!うふふ…。
シャドウ:おめでとう、しおり。これであなたも立派な*殺戮《さつりく》の天使よ。
しおり:嬉しい…大好きよ!シャドウお姉様♡
シャドウ:ふふふ…。じゃあね、そんなあなたにはこれをあげるわ。
シャドウ:〈しおりに一振りの刀を渡す〉
しおり:これは…刀?
シャドウ:そう。これで好きなだけ殺人を楽しみなさい。
しおり:いいの?ありがとう!
しおり:〈刀を抜いてみる〉
しおり:わぁ!なんて美しい刀身なの!この刀で人間を切り刻めると思うとゾクゾクするわ♡
シャドウ:うふふ…頼もしいわね。
:
:ドアが開いてボンドが入ってくる
ボンド:ちくしょう…おや?珍しいねぇ。人嫌いのあなたがここに部外者を入れるなんて。
シャドウ:おかえりボンド。どう?この子可愛いでしょ?さっき出来上がったばかりの私の妹なの。
ボンド:ほう…それはそれは。
しおり:あなたはだぁれ?
ボンド:これは失礼いたしました。私はボンドと申します。シャドウさんと同じ組織に所属する能力者です。以後お見知り置きを。
しおり:ふぅん、ボンドさんって言うんだ。私は片山しおり。よろしくね!
ボンド:ん?しおりさん…ですか。もしやあなた、神谷ミハルという少年をご存知ですか?
しおり:うん!知ってるよ。私が大好きな人なの!
ボンド:なっ!?シャドウさん!この子から離れて!
シャドウ:なに焦ってんのよ。
ボンド:私は先程そのミハルという少年に楽しみを邪魔されたばかりなんだ。
シャドウ:へぇー…あなたほどの人が失敗するなんて珍しいわね。
ボンド:アイツも俺たちと同じ能力者だった。もしこの子が彼と連絡を取ってここがバレでもしたら厄介だ。今のうちに始末してしまおう!
シャドウ:だから大丈夫だって。少しは落ち着きなさいな。
ボンド:し、しかし…。
シャドウ:言ったでしょ?「さっき出来上がったばかりだ」って。
ボンド:じゃあ…この子は?
シャドウ:もう「こちら側」の人間よ。それにミハル君が能力者だって言うならむしろ好都合じゃない。ぜひ来てもらいましょう。感動的なシーンが見られるわよ。
ボンド:なるほど。ふふふ…確かにそれは楽しめそうだ。
シャドウ:良いわよね?しおり?
しおり:ここにミハルを呼んでいいの?やったぁ!
シャドウ:うふふ…嬉しそう。じゃあ決まりね。ちなみに、ミハル君の能力について教えてくれるかしら?
しおり:ミハルはね、「負の言葉」を「正の言葉」に変換することが出来るの。
ボンド:やはりな。だからあの時私の能力で変化させた二人の関係性に新たな影響を与えることが出来たのか。
シャドウ:他には?
しおり:あとはないよ。でもね、ミハルの能力には重大な欠点があるの。それはね…。〈耳打ちする〉
シャドウ:ふふふ…それは良いことを聞いたわ。ありがとう、しおり。
ボンド:おいおい、私にも教えてくれよ。
しおり:嫌だよ〜。これは私とシャドウお姉様だけの秘密なの♡
シャドウ:だそうよ。そういうことだから諦めなさい。
ボンド:はぁ…まったく。分かりましたよ。
シャドウ:状況が*掴《つか》めたことだし、そろそろミハル君をご招待しましょうか。しおり、頼めるかしら?
しおり:任せて!シャドウお姉様。
しおり:〈ミハルのスマホに電話を掛ける〉
しおり:うぅ…ミ、ミハル…。
ミハル:「しおり?どうした?何かあったのか?」
しおり:はぁ、はぁ…ごめん…私、ドジ踏んじゃった…。
ミハル:「しおり、大丈夫か?今どこにいるんだ?」
しおり:うぐっ…今から場所を、送る…ね。〈場所をメールで送る〉
ミハル:「ここは…分かった。今から行くから待ってろ!」
しおり:うん…待ってる。きゃあ!〈殴られたフリ〉
ミハル:「しおり!」〈電話が切れる〉
:-----------------------------
シャドウ:〈拍手〉なんて素晴らしい演技なの!さすが私の妹だわ。
しおり:えへへ。褒められちゃった。
シャドウ:さてと、それじゃあこちらもミハル君を盛大にお迎えする準備をしないとね。
ボンド:くくく…彼の苦痛に*歪《ゆが》んだ表情を見られると思うと自然と顔がニヤけてしまうよ。
シャドウ:しおりにも手伝ってもらうわよ。
しおり:うん!もちろん!
:
:-------------------(30分後)
ミハル:(しおりが送って来たメールに書いてあった場所はここだな…。ん?ドアの鍵が空いてる…。)
ミハル:…〈慎重に中に入る〉
シャドウ:初めまして神谷ミハル君。
ミハル:!?…アンタ誰だよ?
シャドウ:私の名前はシャドウ。よろしくね。
ミハル:しおりはどこにいる?
シャドウ:安心して。彼女ならちゃんと生きてるわよ。多分ね。
ミハル:しおりを返せ!
シャドウ:それはあなた次第ね。
ミハル:どういう意味だ?
シャドウ:しおりちゃんから聞いたわよ。あなた「能力者」なんでしょ?
ミハル:だったら何だって言うんだ?
シャドウ:私に協力してくれたらしおりちゃんを解放してあげるわ。
ミハル:その前にまずはしおりの無事を確認してからだ。
シャドウ:ふふふ。意外と冷静なのね。良いわよ、しおりちゃんに会わせてあげる。ボンド!
ボンド:よぅ、さっきは世話になったな。
ミハル:アンタ、ここに逃げ込んでたのか…さっさとしおりに会わせろ。
ボンド:ちっ…つまんねーリアクションだな。まぁいい…ほらよ。
ボンド:〈後ろ手に手錠をはめられ、口にテープを貼られたしおりを連れてくる〉
ミハル:しおり!
しおり:んー!!
ボンド:待ってな。今、口のテープをはがしてやっから。
しおり:ぷはぁ…ミハル!
ミハル:しおり!良かった…無事で。
シャドウ:約束は守ったよ。で?君はどうするんだい?
ミハル:アンタたちの目的は何だ?
シャドウ:私たちはね、能力を持つ者たちを集めて理想の世界を作り上げるのが夢なの。それでその実現のために君にも協力して欲しいなって思ってるわけ。
ミハル:最近頻発している不可解な事件に能力者が関わっていることは、そこのボンドとかいう人のおかげで何となくは分かっている。
ボンド:ぐっ…。
シャドウ:あら、さすがね。そうよ。あれは全部私たちがやった事よ。
ミハル:!?何のためにあんな酷いことを…?
ボンド:我々の理想を叶えるための布石だよ。
ミハル:布石…だと?
ボンド:能力者が支配する世界…その実現のためには世間に能力者の存在と恐怖を知らしめる必要があってね。
ミハル:そんなことのために関係ない人たちを巻き込んだのか!
シャドウ:彼らには本当に申し訳ないことをしたと思ってるわ。でも仕方なかったのよ。
ミハル:…どうかしてる。
シャドウ:君もこっちに来ればその素晴らしさが分かるわ。それで、答えは決まったの?
ミハル:断る…。
ボンド:んー?聞こえないな。今何て言った?
ミハル:僕はアンタらには協力しない。
ボンド:ほう…ということはこの子がどうなっても良いって言うんだな?
しおり:ミハル…お願い、助けて!
ボンド:ほらほら、可愛い彼女が助けを求めてるぞ。良いのかい?見殺しにしても?
ミハル:しおりを解放しろ!
シャドウ:はぁ、仕方ないねぇ…それじゃあ特別大サービスよ。彼女を解放してあげるわ。
ミハル:本当だろうな?
シャドウ:本当よ。〈手錠を外す〉
シャドウ:さぁどうぞ。
しおり:ミハル!
しおり:〈ミハルの元へ駆け寄る〉
ミハル:しおり。無事で良かった…。
しおり:うぅ…ミハル…私、怖かったよぉ…。
ミハル:もう大丈夫だ。あとは僕に任せて。
しおり:うん…。
シャドウ:さぁ、愛しのしおりちゃんも解放したんだ。もう君に断るという選択肢は残ってないよ。
ミハル:しおり、帰るぞ。そもそもこんな茶番に付き合う義理なんて僕達にはないんだから。
しおり:ミハル…待って。
ミハル:えっ…?
しおり:私、この人たちと一緒にいたいの。
ミハル:は?いきなり何言い出すんだよ。コイツらはお前が調査してた事件の首謀者なんだぞ。
しおり:分かってる…分かってるんだけど。私ね、捕まってる時にいろいろ聞いたんだ。シャドウさん達が作ろうとしている世界のこと。最初は許せないって思ったけど、話を聞いているうちにだんだん素敵な物に思えてきてね。私も二人の力になりたいなって思ってるの。
ミハル:しおり…。いいか、コイツらのやっていることは、平和に暮らしている人を能力で犯罪者に仕立て上げ、無関係な人たちを殺していく*様《さま》を遠くから見て楽しんでいるだけに過ぎないんだ。そんな奴らの作る世界が素敵なわけがないだろう?
しおり:あら、とっても素敵じゃない?何にも縛られることなく誰もが自由に生きられる世界…気に入らない奴がいれば殺したって構わない。やりたいことをやりたいようにできるのよ。はぁ…♡ 考えただけでうっとりしちゃうわ♡
ミハル:しおり!一体どうしたんだよ!お前がこんなこと言うなんて絶対おかしいだろ!
しおり:私はどうもしてないわよ。ただ、私の知らない素敵な世界について知っただけよ。
ミハル:お前…まるで別人じゃないか。まさか、コイツらに操られて…。
ミハル:(何だこの感覚?しおりから負のオーラを感じる)
ミハル:はっ!?〈咄嗟にしおりから離れる〉
しおり:うふふ♡ …どぉしたの?…なんで私から離れるのよ。
ミハル:おい、アンタら!しおりに何をした!
ボンド:俺は別に何もしちゃいないよ。
シャドウ:私もよ。
ミハル:そんなわけないだろ!僕が知ってるしおりはこんなんじゃない!
シャドウ:うふ♡ そうねぇ…強いて言えば、窮屈そうな心を解き放ってあげただけよ。
ミハル:やっぱり…アンタがしおりをこんな目に!絶対に許さない!
シャドウ:許さない…ねぇ。それで?どうするつもり?
ミハル:アンタらを倒してしおりを元に戻す!
シャドウ:どうやって?君の能力は確か「負の言葉」を「正の言葉」に変換する力だったわよね。そんなちっぽけな力でどうやって私たちを倒すって言うのかしら?それとも、今ここで使ってみても良いのよ?じゃあいくわね。私はこれからも弱い人間を殺し続けるわ!殺して、殺して、殺しまくるの!
ミハル:くっ…。
シャドウ:うふふ…使えないわよね。だって負の感情に囚われた状態で能力を使ったら感情が逆流して暴走しちゃうんですものね。
ミハル:だ、黙れ!
ボンド:ほほう…そんな欠点だったとは。それにしても、全て見抜かれて動揺しているみたいだな。こんな雑魚、わざわざシャドウさんが出るまでもない。ここは一つ私が相手をしてあげよう。
シャドウ:待ちなさいボンド。あなたよりミハル君にはもっと良い相手がいるわ。
ミハル:まさか…。
シャドウ:しおり、これを!〈しおりの刀を投げる〉
しおり:よっと!〈刀を受け取る〉
シャドウ:ミハル君を可愛がってあげなさい。
しおり:はぁい♡ うふふ…この刀の初めての相手がミハルだなんて…興奮しちゃうわ♡
ミハル:し、しおり…やめろ。僕はお前とは戦いたくない。
しおり:じゃあミハルも私たちの仲間になってよ。
ミハル:それは…できない。
しおり:そっかぁ。私ね…ミハルのこと大好きなんだぁ。
ミハル:しおり…。
しおり:誰にも渡したくないの。だからミハルが仲間になってくれないなら、ここでミハルを殺して私だけのモノにするんだぁ♡
ミハル:そうか…ごめんな。
しおり:えっ…?
ミハル:『*言の葉《ことのは》は力となりて汝の心を操らん』
ミハル:『眠れ。』
しおり:ふぁ…。〈その場に倒れ込む〉
しおり:すぅ…すぅ…。
ミハル:ちょっと待ってろ。すぐに終わらせてくるから。
シャドウ:一瞬でしおりを眠らせた?ちょ、ちょっと。何なのよその能力!
ボンド:聞いてないぞ!
ミハル:僕の能力の本質は「*言霊《ことだま》」。「負の言葉」を「正の言葉」に変換するなんてのはそのおまけに過ぎない。この能力を解放したが最後。誰も僕の言葉には抗えない。さぁ、アンタら、覚悟しろ!
ボンド:ならば私が!『汝らの関係に黒く*穢《けが》れた祝福を』
ボンド:〈手から出た黒い糸のシャワーがミハルとシャドウに絡み付き染み込んでいく〉
ボンド:私の黒い糸の洗礼を受けるがいい!!
シャドウ:!?
ミハル:!?
ボンド:ふははは!抗えないなら取り込んでしまえば良いだけのこと!さぁ…これで君はシャドウさんの奴隷だ!
ミハル:『リセット』
ボンド:なっ!私の能力がかき消されただと!
ミハル:お返しだ。『死ね』
ボンド:な、なんだ?手が勝手に…私の首を締めて…ぐ、ぐぁ…苦しい…助け…。
ボンド:〈絶命する〉
ミハル:さて、残るはアンタだけだな。シャドウさんよ。
シャドウ:くっ…おのれ、こんな所で終わってたまるか!
シャドウ:『清き心は黒に染まりて…』
ミハル:『黙れ』
シャドウ:う…うぐっ…。
ミハル:アンタはしおりを傷付けた。そう簡単には死なせないよ。
シャドウ:くっ…。
ミハル:それに、いろいろと聞きたいこともあるしな。
ミハル:『我に従え』
シャドウ:あぁ!…はい。ミハル様。
ミハル:さてと、あとはしおりだけだな。
しおり:すぅ…すぅ…。
ミハル:しおり。『目覚めよ』
しおり:う…ううん…はっ!私は眠らされていたの?そう言えばミハルは?
ミハル:おはようしおり。あとはお前だけだ。
しおり:えっ?しゃ、シャドウお姉様?ボンドさん?二人とも何で動かないの?
ミハル:もう終わったんだ。何もかも。だからいつものしおりに戻ってよ。
しおり:い、いや!私はこれからこの刀でたくさんの人を殺すんだから!
ミハル:〈被せて〉『リセット』
しおり:あっ…、あれ?私こんな所で何やってんの?…えっ!刀?何で私こんな物持ってんの!
しおり:〈慌てて刀を捨てる〉
ミハル:おかえり。しおり。
しおり:ミハル?なんでここにいるの?
ミハル:しおりのおかげで事件は無事解決したよ。
しおり:解決…?私何かしたっけ?そう言えば私シャドウさんのお話聞いてて…って、シャドウさん!大丈夫ですか?ぼーっとしちゃって。
ミハル:大丈夫だよ。彼女は僕達に協力してくれるそうだよ。ね?そうでしょ?
シャドウ:はい…何でもお答えします。
しおり:ひょえー…私が寝ている間に事態が進み過ぎてて頭がついて行かないんだけど!あのさ…さっきから気になってたんだけど、あの人ずっとうずくまってるけど大丈夫なの?
ミハル:ああ、あれね。多分大丈夫だと思うよ。僕が来た時からあの状態だったから。
しおり:へ、へぇ…そうなんだ。
ミハル:さぁ、帰ろうか。しおり。
しおり:うん!
:-----------------------------
:
しおり:(M)こうして謎に包まれていた一連の不可解な事件は、シャドウさんの自白によって全て明るみになり、能力者犯罪組織は壊滅した。また、シャドウさんの能力でおかしくなっていた人たちもミハルのおかげで全員元に戻った。これで全てが解決…したかに思えた。だが…。
:
:-------------------(数日後)
しおり:ねぇ…ミハル、どうして?…どうしてなの!
ミハル:素晴らしい!!闇の力がこれ程までとはな!俺はこの力で世界を作り変えてやるんだ!
シャドウ:うふふ…ミハル様、とっても素敵です!これこそ私が追い求めていた理想の世界です!私、一生ついて行きますわ♡
しおり:お願い…。いつものミハルに戻ってよ…。
:-----------------------------
:
しおり:(M)異変が起きたのは事件が解決してしばらく経ってからだった。
:
しおり:やっほーミハル!
ミハル:はぁ…はぁ…。
しおり:えっ?大丈夫?
ミハル:来ちゃ…ダメだ。
しおり:えっ?
ミハル:もうこれ以上…抑え切れない…。
しおり:ど、どうしちゃったのよ!
ミハル:力の…代償だよ。
しおり:力の代償?
ミハル:ああ…僕の能力は…絶対的な強さ…と引き替えに、一度解放すると…心に封印していた闇の力に…精神を…*侵《おか》されていく…んだ。はぁ…はぁ。
しおり:ミハル!しっかりしてよ!
ミハル:早く…逃げ…て。
しおり:ミハル!
ミハル:…ふふ…あははは!今日はなんて気分が良いんだ!
しおり:み、ミハル?
ミハル:やぁ、しおり。
しおり:本当にミハル…なの?
ミハル:ああ、そうだよ。それより見てよ!僕の体を流れるこの闇の力を!
しおり:闇の…力?
:-----------------------------
:
しおり:うぅ…私、こんな世界…もう嫌だ。
ミハル:そっかぁ…僕の*傍《そば》であれほど見せてあげたのに、まだこの力の素晴らしさを理解してくれないなんて…本当に残念だよ。それじゃあさ、しおりにも僕の力を分けてあげるよ。
しおり:い、いや…!!
:
しおり:(M)そしてこの世界は…。
:
ミハル:『凍てつく漆黒の吹雪にて、*汝《なんじ》を闇に*凍《こお》らせん』
しおり:あ…あああ!!私の心が闇に覆われて…真っ黒に凍り付いていく!
ミハル:しおり、闇に飲まれていく気分はどうだ?
しおり:はぁぁ…♡ 漆黒の世界が心の中に広がって、私を優しく包み込んでくれるの…とっても幸せ♡ うふふ…ミハル様ぁ♡ しおりの全てをあなた様に捧げます!共に世界を闇に染めましょう!
:
しおり:(M)完全に闇に堕ちた。
:
:~完~
タイトル:あなたの言葉に魅せられて
:
登場人物:
ミハル:*神谷《かみや》ミハル・・・高校2年生。人が口にする「負の言葉」を「正の言葉」に変換する能力を持つ。
しおり:片山しおり・・・高校2年生でミハルと同級生。怪奇探偵クラブ部長。いつも元気いっぱいで人懐っこい性格。女生徒A、女性Cと兼役。
ボンド:能力者。人と人との関係性を変化させる能力を持つ。
シャドウ:能力者。数ある能力者の中では珍しく性質の違う2つの能力を操る。女生徒B、女性Dと兼役。
女生徒A:クラスメイト。しおり役の人が演じてください。
女生徒B:クラスメイト。シャドウ役の人が演じてください。
女性C:公園を散歩していた女性。しおり役の人が演じてください。
女性D:公園を散歩していた女性。シャドウ役の人が演じてください。
:(M)はモノローグ(独白)、〈〉はト書き、()は心の声です。
:
本編:
ミハル:(M)僕には幼い頃から他の人にはない不思議な能力があった。それは…。
:
:-------------------(昼休み)
女生徒A:ねぇ知ってる?隣のクラスに山田タカシっているじゃん?アイツさ、めっちゃ暗くてキモイから誰も寄り付かなくて、2年間ずっと毎日トイレで弁当食べてるらしいよ!
女生徒B:何それ!めっちゃウケるんですけど!あはははは!
:
ミハル:……はぁ。この会話、憂鬱だなぁ。
ミハル:(M)聞きたくもないのに毎日のように耳に流れ込んでくる愚痴や悪口の数々。なんで人間はこんなにも簡単に負の言葉を口にしたがるのだろう。
女生徒A:おまけにアイツ運動神経も腐っててさ、こないだ体育で走ってる姿見たんだけどね、これがめちゃくちゃダサ…
ミハル:〈被せて〉『素敵だったの』
女生徒A:素敵だったの!でね!私思わず見とれちゃって!それからは私、四六時中タカシ君のことばかり考えてて何も手に付かないの♡
女生徒B:ちょ、ちょっと!あんた急にどうしちゃったのよ?さっきまで山田のこと散々悪く言ってたのに…。
女生徒A:え?何言ってんの?私がタカシ君のことを悪く言うわけないじゃない。変なこと言わないでよ!
女生徒B:はぁ?変なこと言ってんはあんたでしょーが!あんな気持ち悪…。
ミハル:〈被せて〉『魅力的な』
女生徒B:魅力的な男性と私も付き合いたいわ♡ はぁ…見てるだけで溜息出ちゃう♡
女生徒A:ほんとだよね!私…告っちゃおうかなぁ♡
女生徒B:あ!ズルい!私が告るの!
:-----------------------------
:
ミハル:(M)僕は人間の「負の言葉」を「正の言葉」に変換する能力を持っている。そして僕によって言葉を変換された人間は、その瞬間から僕の言葉に沿った行動を取るようになる。そう、先程の彼女たちのように。
しおり:よっ!ミハル!何やってんの?
ミハル:なんだ、しおりか。別になーんにも。
ミハル:(M)こいつはクラスメイトの片山しおり。怪奇探偵クラブの部長でヒマを見つけては僕に絡んでくる。ちなみに彼女の中では、僕も怪奇探偵クラブの一員ということになっているらしい。まあ僕としては、しおりの人懐っこい性格にだいぶ癒されている部分もあるのだが…。
しおり:また能力使ったでしょ?
ミハル:使ってないよ。
しおり:私、見てたんだからね!さっきの女の子たちの変わり*様《よう》、明らかにおかしかったんだもん。
ミハル:僕はただ、他人の負の言葉を聞くのが嫌なだけだよ。
ミハル:(M)そして、彼女は僕の能力を知っている数少ない理解者でもある。
しおり:だからって、人の人生ねじ曲げて良いわけないんだからね!それに、その能力は…。
ミハル:はいはい、どうもすみませんでした。これからはなるべく使わないようにするよ。
しおり:うー…何よ、その投げやりな態度は!人がせっかく心配してあげてるってのに!
ミハル:あはは…ごめんごめん。マジでもう使わないから許してよ。
しおり:はぁ…仕方ないなぁ。じゃあ今回だけ特別ね。それよりミハル。
ミハル:ん?何?
しおり:最近、奇妙な事件が立て続けに起きてるって知ってる?
ミハル:奇妙な事件?
しおり:うん。私も詳しくは知らないんだけどさ、普段温厚そうな人が急に凶悪犯罪に手を染めたり、笑いながらビルから飛び降りたり。とにかくその行動に説明が付かない事件が頻発してるんだって。
ミハル:説明が付かない事件…ねぇ。
しおり:私はね、能力者の仕業じゃないかって*睨《にら》んでるの。
ミハル:でもまだそうと決め付けるには早すぎるんじゃない?
しおり:だから、私と一緒に調査して欲しいの。
ミハル:でもそういうのは警察がやるべきことで、僕たちがやって良いことじゃない気がするんだけど。
しおり:ふーん…やりたくないなら別に良いけど~。あーあ、さっきの女の子の件、ミハルがやったってバラしちゃってもいいのかなぁ。あーあ、きっと傷付くだろうなぁ。
ミハル:わ、分かった!分かったって!手伝うからさ。勘弁してよ。
しおり:ふっふーん。分かればよろしい。
ミハル:で、具体的に僕は何をすればいいの?
しおり:ミハルには事件のあった場所に行って能力の気配が残ってないか調べて欲しいの。もし能力が使われていたなら何か感知できるはずだから。
ミハル:分かった。やってみるよ。
しおり:じゃあ私は別ルートから探ってみるわ。
ミハル:気をつけてね。しおり。
しおり:うん。ミハルもね。
:
:-------------------(殺人事件現場)
ミハル:(ここが先週通り魔殺人事件があった場所か。確か犯人の女性は幼稚園に勤務していて、いつも笑顔で園児たちに接するとても優しい先生だったそうだ。そんな人がなぜ通り魔なんて真似を…。)
ミハル:しおりが言うには、能力を持つ者同士なら時間が経っていても何かしらの気配を感じ取れるらしいが…今のところは特に何も感じないな。ん?あれは…。
ボンド:こんにちは。
女性C:こんにちは~。〈同時に〉
女性D:こんにちは~。〈同時に〉
ボンド:君たちお友達同士かい?とても仲が良さそうで幸せに満ち*溢《あふ》れているね。
女性C:は、はぁ…。
女性D:私たち急いでるんで失礼します…。
ボンド:待ちたまえ。
女性C:な、何ですか?
ボンド:ここで会ったのも何かの縁だ。私から君たちにプレゼントをあげよう。
女性D:いりません。さ、行こ。
ボンド:まあそう言わずに。
ボンド:『*汝《なんじ》らの関係に黒く*穢《けが》れた祝福を』
ボンド:〈手から出た黒い糸のシャワーが二人に絡みついて染み込んでいく〉
女性C:あっ…。〈同時に〉
女性D:あっ…。〈同時に〉
ボンド:ふふふ…どうです?私の手から放たれた黒い糸のシャワーによって、今この瞬間から君たちは仲の良い友人ではなく憎むべき*仇《かたき》同士となった。さぁ、存分に殺し合いを楽しみたまえ!
女性C:…よくも私の大切な人の命を…絶対に許さない!!
女性D:それはこっちのセリフよ!ここでアンタを殺せば彼の無念を晴らすことができる!覚悟しなさい!
女性C:はぁぁぁ!!死になさ…
ミハル:〈被せて〉『大好きよ』
女性C:大好きよ!あなたは私の大切な人の命を奪った仇だけど、それでもあなたのことはずっと好きでいたいの。
女性D:な、なんだ急に、大好きだなんて気持ち悪い。まあいいわ、宣言通り殺してあげ…。
ミハル:〈被せて〉『仲良しでいたいの』
女性D:仲良しでいたいの!ごめんなさい…私が間違っていたわ。そもそもあなたが彼を殺すはずがないもの。だからお願い。これからも仲良くしてね。
女性C:嬉しい…もちろんよ!
女性D:ありがとう…大好きよ!
:〈二人が立ち去る〉
ボンド:なっ!二人の関係性に新たな影響を与えただと!?ちっ…あともう少しで楽しい殺し合いが見られたというのに…。さて、誰だか知らないが、私の楽しみを邪魔した罪は重いぞ!
ミハル:残念だけど罪を償うのはアンタの方だ。やはり一連の事件には能力者が絡んでいたんだな?しおりの読み通りってわけか。
ボンド:ほう…能力者のことをご存知ですか。もしかして、先程の力…あなたも能力を持つ者ですか。
ミハル:その通り。僕は神谷ミハル。さぁ、もう観念しなよ。さしずめアンタの能力は「対象の関係性を変化させる力」ってとこかな?
ボンド:ふふふ。ご明察。一度見ただけでそこまで見抜くとは…これは少々見くびっていたようですね。
ミハル:褒めても許してやんないよ。警察が来るまでそこで大人しくしてなよ。
ボンド:そう言われて大人しく従うわけがないでしょう!ふん!〈発煙弾を投げる〉
ミハル:くっ…煙幕か…。
ボンド:残念だが、ミハル君。今日の所は*退《ひ》かせてもらうよ。
ボンド:私の名はボンド。機会があったらまた会おう!〈姿を消す〉
ミハル:待て!…逃げられたか。まあいい。それなりに収穫もあったしな。それはそうと、しおりの方は大丈夫かな。無茶してなきゃいいけど。
:-----------------------------
:
しおり:えっと、ここで合ってるよね?
しおり:(報道によると3日前の13時頃、この場所で資産家の男性が通りすがりの女性にめった刺しにされて亡くなった。犯人は近くの金融会社に勤める23歳OL。ちなみに犯人と被害者の面識はなしっと。なになに…目撃者の証言によるとランチを終えた男性が通りを歩いていると、向こうから歩いて来た犯人にすれ違いざまに後頭部を鈍器のような物で殴打され転倒。その後、持っていたナイフで計30箇所以上も刺され死亡。なお、犯人の女性は警官に取り押さえられる直前まで笑いながら男性を刺し続けた…か。)
しおり:この事件、どう考えても不自然よね。絶対何か裏があるはずよ。まずはとりあえず聞き込みから始めなくちゃ。
シャドウ:あら、そこのお嬢さん。
しおり:えっ?わ、私のことですか?
シャドウ:そう、あなたよ。浮かない顔をしてどうしたのかしら?
しおり:あ、あの…実は私、趣味で探偵をやっていまして、3日前にここで起きた殺人事件について調べているんですが、何かご存知ありませんか?
シャドウ:ふふ…可愛いらしい探偵さんね。…殺人事件ねぇ。知っていると言えば知ってるけど、聞きたい?
しおり:えっ!?本当ですか?ぜひ教えてください!(やったー!こんなにも簡単に事件を知っている人に出会えるなんて、今日の私ラッキーかも)
シャドウ:じゃあ立ち話もなんだから私の事務所で話しましょ。ついてらっしゃい。
しおり:は、はい。(え…大丈夫かな?でも優しそうな人だし、まあ行けば何とかなるっしょ)
:
:-------------------(事務所にて)
シャドウ:さぁ、着いたわ。どうぞ中に入って。
しおり:あ、はい。お邪魔します。
シャドウ:そこのソファに座って。
しおり:失礼します。〈ソファに腰掛ける〉
しおり:それにしてもオシャレな事務所ですね。えっと…
シャドウ:シャドウよ。私の事務所を褒めてくれて嬉しいわ。
しおり:い、いえ…。それよりシャドウさん、本日はお忙しいところ事務所までお招きいただきありがとうございます。私は片山しおりって言います。
シャドウ:しおりちゃんね。素敵なお名前だこと。良いのよ、私もちょうど退屈してたところだし。
しおり:素敵だなんて…そんな。
シャドウ:うふふ…照れてる姿も可愛いわ。はい、お茶どうぞ。〈お茶を出す〉
しおり:あ、ありがとうございます。いただきます。ゴクリ…。〈お茶を飲む〉
シャドウ:そうそう、事件のことについて知りたいんだったわよね?
しおり:はい。
シャドウ:私も直接その場にいた訳じゃないんだけど、犯人の女性とは少し面識があってね。
しおり:えっ!?そうなんですか。(ビンゴじゃん!)
シャドウ:彼女は私の患者さんだったの。
しおり:シャドウさんの患者さん?
シャドウ:ええ、そうよ。実は私、人の悩みを聞いて心を軽くするカウンセリングクリニックを経営しててね、ちょうど一週間前くらいに彼女から悩みを解決して欲しいって相談を受けたの。
しおり:ちなみにその相談の内容はどんな物だったんですか?
シャドウ:そうねぇ…でもこれは個人情報だからさすがに教えられないかな。
しおり:あ…そうですよね。
シャドウ:でもしおりちゃんは可愛いから特別に教えてあげるわ。
しおり:ほんとですか!?ありがとうございます!
シャドウ:彼女は自分自身の消極的な性格にずっと悩んでいてね、そのせいで仕事も恋も上手くいかなくてすっかりやる気を失ってたの。
しおり:そうだったんですか。
シャドウ:ほら、誰にだってあるじゃない?例えばしおりちゃん、あなたの中で嫌いな所は何かしら?
しおり:そうですね…私は辛いことがあっても元気なフリして我慢しちゃう所ですかね。
シャドウ:どうして我慢しちゃうの?
しおり:…私、元気だけが*取り柄《とりえ》なんです。だから、そうじゃない自分だと嫌われちゃいそうな気がして怖くて…。
シャドウ:そう…。嫌われるのが怖いのね。良いのよ、我慢しなくても。
しおり:えっ?あはは…やだなぁ、私の話は聞いてくれなくても良いんですよ。患者さんじゃないんですから。それよりその人の話を…
シャドウ:あなたは何をしても嫌われない。たとえどんなことをしてもみんな笑顔で受け止めてくれるわ。
しおり:(何だろう…シャドウさんの声にどんどん引き込まれていく…)
しおり:…みんな…受け止めてくれる…。
シャドウ:そうよ。だから心の*赴《おもむ》くままにあなたのやりたいことをやりなさい。
しおり:…心の…*赴《おもむ》くままに…。
シャドウ:しおりちゃん、私があなたの心を解放してあげるわ。
シャドウ:『囚われし*哀《あわれ》な心、その忌まわしき呪縛から解放せん』
しおり:あぁ…。
シャドウ:うふふ…今の気分はどう?
しおり:なんか…心が軽くなってとっても気持ちが良いの…今まで我慢してきた欲望が次々に解き放たれていくわ。はぁ…素敵♡
シャドウ:しおりちゃん、一つ聞いてもいい?
しおり:ん?なぁに?
シャドウ:あなたが今したいことは何かしら?
しおり:私はね、ミハルと一緒に色んな所に行ってずっと楽しいことしていたいの。
シャドウ:そっか。しおりちゃんは、そのミハル君っていう子のことが好きなんだ?
しおり:うん…だぁい好き♡
シャドウ:でも周りの人はみんなミハル君のことを狙ってるわよ。
しおり:えっ…そんなのいやだ。ミハルは私だけのモノなのに。
シャドウ:そうよね。じゃあ、あなたからミハル君を奪おうとする人たちをどうしたい?
しおり:消したい…私からミハルを奪おうとする人なんてみんな消えちゃえばいいんだ!
シャドウ:うふふ…それじゃあ、しおりちゃんのその気持ちに私が力を与えてあげる。
シャドウ:『清き心は黒に染まりて転生せん』
しおり:ふぁぁ♡…何この感覚…私の心が真っ黒に塗り替えられていくわ…。
シャドウ:さぁ、あなたはこれから生まれ変わるの。純粋な悪の心を持つ存在としてね。
しおり:はぁ♡ 最高の気分だわ!どす黒い感情が次々と湧き出して来るの!あぁ…邪魔な奴らを今すぐにでも殺したい…殺して、潰して、ぐっちゃぐちゃになるまで壊し尽くすの!うふふ…。
シャドウ:おめでとう、しおり。これであなたも立派な*殺戮《さつりく》の天使よ。
しおり:嬉しい…大好きよ!シャドウお姉様♡
シャドウ:ふふふ…。じゃあね、そんなあなたにはこれをあげるわ。
シャドウ:〈しおりに一振りの刀を渡す〉
しおり:これは…刀?
シャドウ:そう。これで好きなだけ殺人を楽しみなさい。
しおり:いいの?ありがとう!
しおり:〈刀を抜いてみる〉
しおり:わぁ!なんて美しい刀身なの!この刀で人間を切り刻めると思うとゾクゾクするわ♡
シャドウ:うふふ…頼もしいわね。
:
:ドアが開いてボンドが入ってくる
ボンド:ちくしょう…おや?珍しいねぇ。人嫌いのあなたがここに部外者を入れるなんて。
シャドウ:おかえりボンド。どう?この子可愛いでしょ?さっき出来上がったばかりの私の妹なの。
ボンド:ほう…それはそれは。
しおり:あなたはだぁれ?
ボンド:これは失礼いたしました。私はボンドと申します。シャドウさんと同じ組織に所属する能力者です。以後お見知り置きを。
しおり:ふぅん、ボンドさんって言うんだ。私は片山しおり。よろしくね!
ボンド:ん?しおりさん…ですか。もしやあなた、神谷ミハルという少年をご存知ですか?
しおり:うん!知ってるよ。私が大好きな人なの!
ボンド:なっ!?シャドウさん!この子から離れて!
シャドウ:なに焦ってんのよ。
ボンド:私は先程そのミハルという少年に楽しみを邪魔されたばかりなんだ。
シャドウ:へぇー…あなたほどの人が失敗するなんて珍しいわね。
ボンド:アイツも俺たちと同じ能力者だった。もしこの子が彼と連絡を取ってここがバレでもしたら厄介だ。今のうちに始末してしまおう!
シャドウ:だから大丈夫だって。少しは落ち着きなさいな。
ボンド:し、しかし…。
シャドウ:言ったでしょ?「さっき出来上がったばかりだ」って。
ボンド:じゃあ…この子は?
シャドウ:もう「こちら側」の人間よ。それにミハル君が能力者だって言うならむしろ好都合じゃない。ぜひ来てもらいましょう。感動的なシーンが見られるわよ。
ボンド:なるほど。ふふふ…確かにそれは楽しめそうだ。
シャドウ:良いわよね?しおり?
しおり:ここにミハルを呼んでいいの?やったぁ!
シャドウ:うふふ…嬉しそう。じゃあ決まりね。ちなみに、ミハル君の能力について教えてくれるかしら?
しおり:ミハルはね、「負の言葉」を「正の言葉」に変換することが出来るの。
ボンド:やはりな。だからあの時私の能力で変化させた二人の関係性に新たな影響を与えることが出来たのか。
シャドウ:他には?
しおり:あとはないよ。でもね、ミハルの能力には重大な欠点があるの。それはね…。〈耳打ちする〉
シャドウ:ふふふ…それは良いことを聞いたわ。ありがとう、しおり。
ボンド:おいおい、私にも教えてくれよ。
しおり:嫌だよ〜。これは私とシャドウお姉様だけの秘密なの♡
シャドウ:だそうよ。そういうことだから諦めなさい。
ボンド:はぁ…まったく。分かりましたよ。
シャドウ:状況が*掴《つか》めたことだし、そろそろミハル君をご招待しましょうか。しおり、頼めるかしら?
しおり:任せて!シャドウお姉様。
しおり:〈ミハルのスマホに電話を掛ける〉
しおり:うぅ…ミ、ミハル…。
ミハル:「しおり?どうした?何かあったのか?」
しおり:はぁ、はぁ…ごめん…私、ドジ踏んじゃった…。
ミハル:「しおり、大丈夫か?今どこにいるんだ?」
しおり:うぐっ…今から場所を、送る…ね。〈場所をメールで送る〉
ミハル:「ここは…分かった。今から行くから待ってろ!」
しおり:うん…待ってる。きゃあ!〈殴られたフリ〉
ミハル:「しおり!」〈電話が切れる〉
:-----------------------------
シャドウ:〈拍手〉なんて素晴らしい演技なの!さすが私の妹だわ。
しおり:えへへ。褒められちゃった。
シャドウ:さてと、それじゃあこちらもミハル君を盛大にお迎えする準備をしないとね。
ボンド:くくく…彼の苦痛に*歪《ゆが》んだ表情を見られると思うと自然と顔がニヤけてしまうよ。
シャドウ:しおりにも手伝ってもらうわよ。
しおり:うん!もちろん!
:
:-------------------(30分後)
ミハル:(しおりが送って来たメールに書いてあった場所はここだな…。ん?ドアの鍵が空いてる…。)
ミハル:…〈慎重に中に入る〉
シャドウ:初めまして神谷ミハル君。
ミハル:!?…アンタ誰だよ?
シャドウ:私の名前はシャドウ。よろしくね。
ミハル:しおりはどこにいる?
シャドウ:安心して。彼女ならちゃんと生きてるわよ。多分ね。
ミハル:しおりを返せ!
シャドウ:それはあなた次第ね。
ミハル:どういう意味だ?
シャドウ:しおりちゃんから聞いたわよ。あなた「能力者」なんでしょ?
ミハル:だったら何だって言うんだ?
シャドウ:私に協力してくれたらしおりちゃんを解放してあげるわ。
ミハル:その前にまずはしおりの無事を確認してからだ。
シャドウ:ふふふ。意外と冷静なのね。良いわよ、しおりちゃんに会わせてあげる。ボンド!
ボンド:よぅ、さっきは世話になったな。
ミハル:アンタ、ここに逃げ込んでたのか…さっさとしおりに会わせろ。
ボンド:ちっ…つまんねーリアクションだな。まぁいい…ほらよ。
ボンド:〈後ろ手に手錠をはめられ、口にテープを貼られたしおりを連れてくる〉
ミハル:しおり!
しおり:んー!!
ボンド:待ってな。今、口のテープをはがしてやっから。
しおり:ぷはぁ…ミハル!
ミハル:しおり!良かった…無事で。
シャドウ:約束は守ったよ。で?君はどうするんだい?
ミハル:アンタたちの目的は何だ?
シャドウ:私たちはね、能力を持つ者たちを集めて理想の世界を作り上げるのが夢なの。それでその実現のために君にも協力して欲しいなって思ってるわけ。
ミハル:最近頻発している不可解な事件に能力者が関わっていることは、そこのボンドとかいう人のおかげで何となくは分かっている。
ボンド:ぐっ…。
シャドウ:あら、さすがね。そうよ。あれは全部私たちがやった事よ。
ミハル:!?何のためにあんな酷いことを…?
ボンド:我々の理想を叶えるための布石だよ。
ミハル:布石…だと?
ボンド:能力者が支配する世界…その実現のためには世間に能力者の存在と恐怖を知らしめる必要があってね。
ミハル:そんなことのために関係ない人たちを巻き込んだのか!
シャドウ:彼らには本当に申し訳ないことをしたと思ってるわ。でも仕方なかったのよ。
ミハル:…どうかしてる。
シャドウ:君もこっちに来ればその素晴らしさが分かるわ。それで、答えは決まったの?
ミハル:断る…。
ボンド:んー?聞こえないな。今何て言った?
ミハル:僕はアンタらには協力しない。
ボンド:ほう…ということはこの子がどうなっても良いって言うんだな?
しおり:ミハル…お願い、助けて!
ボンド:ほらほら、可愛い彼女が助けを求めてるぞ。良いのかい?見殺しにしても?
ミハル:しおりを解放しろ!
シャドウ:はぁ、仕方ないねぇ…それじゃあ特別大サービスよ。彼女を解放してあげるわ。
ミハル:本当だろうな?
シャドウ:本当よ。〈手錠を外す〉
シャドウ:さぁどうぞ。
しおり:ミハル!
しおり:〈ミハルの元へ駆け寄る〉
ミハル:しおり。無事で良かった…。
しおり:うぅ…ミハル…私、怖かったよぉ…。
ミハル:もう大丈夫だ。あとは僕に任せて。
しおり:うん…。
シャドウ:さぁ、愛しのしおりちゃんも解放したんだ。もう君に断るという選択肢は残ってないよ。
ミハル:しおり、帰るぞ。そもそもこんな茶番に付き合う義理なんて僕達にはないんだから。
しおり:ミハル…待って。
ミハル:えっ…?
しおり:私、この人たちと一緒にいたいの。
ミハル:は?いきなり何言い出すんだよ。コイツらはお前が調査してた事件の首謀者なんだぞ。
しおり:分かってる…分かってるんだけど。私ね、捕まってる時にいろいろ聞いたんだ。シャドウさん達が作ろうとしている世界のこと。最初は許せないって思ったけど、話を聞いているうちにだんだん素敵な物に思えてきてね。私も二人の力になりたいなって思ってるの。
ミハル:しおり…。いいか、コイツらのやっていることは、平和に暮らしている人を能力で犯罪者に仕立て上げ、無関係な人たちを殺していく*様《さま》を遠くから見て楽しんでいるだけに過ぎないんだ。そんな奴らの作る世界が素敵なわけがないだろう?
しおり:あら、とっても素敵じゃない?何にも縛られることなく誰もが自由に生きられる世界…気に入らない奴がいれば殺したって構わない。やりたいことをやりたいようにできるのよ。はぁ…♡ 考えただけでうっとりしちゃうわ♡
ミハル:しおり!一体どうしたんだよ!お前がこんなこと言うなんて絶対おかしいだろ!
しおり:私はどうもしてないわよ。ただ、私の知らない素敵な世界について知っただけよ。
ミハル:お前…まるで別人じゃないか。まさか、コイツらに操られて…。
ミハル:(何だこの感覚?しおりから負のオーラを感じる)
ミハル:はっ!?〈咄嗟にしおりから離れる〉
しおり:うふふ♡ …どぉしたの?…なんで私から離れるのよ。
ミハル:おい、アンタら!しおりに何をした!
ボンド:俺は別に何もしちゃいないよ。
シャドウ:私もよ。
ミハル:そんなわけないだろ!僕が知ってるしおりはこんなんじゃない!
シャドウ:うふ♡ そうねぇ…強いて言えば、窮屈そうな心を解き放ってあげただけよ。
ミハル:やっぱり…アンタがしおりをこんな目に!絶対に許さない!
シャドウ:許さない…ねぇ。それで?どうするつもり?
ミハル:アンタらを倒してしおりを元に戻す!
シャドウ:どうやって?君の能力は確か「負の言葉」を「正の言葉」に変換する力だったわよね。そんなちっぽけな力でどうやって私たちを倒すって言うのかしら?それとも、今ここで使ってみても良いのよ?じゃあいくわね。私はこれからも弱い人間を殺し続けるわ!殺して、殺して、殺しまくるの!
ミハル:くっ…。
シャドウ:うふふ…使えないわよね。だって負の感情に囚われた状態で能力を使ったら感情が逆流して暴走しちゃうんですものね。
ミハル:だ、黙れ!
ボンド:ほほう…そんな欠点だったとは。それにしても、全て見抜かれて動揺しているみたいだな。こんな雑魚、わざわざシャドウさんが出るまでもない。ここは一つ私が相手をしてあげよう。
シャドウ:待ちなさいボンド。あなたよりミハル君にはもっと良い相手がいるわ。
ミハル:まさか…。
シャドウ:しおり、これを!〈しおりの刀を投げる〉
しおり:よっと!〈刀を受け取る〉
シャドウ:ミハル君を可愛がってあげなさい。
しおり:はぁい♡ うふふ…この刀の初めての相手がミハルだなんて…興奮しちゃうわ♡
ミハル:し、しおり…やめろ。僕はお前とは戦いたくない。
しおり:じゃあミハルも私たちの仲間になってよ。
ミハル:それは…できない。
しおり:そっかぁ。私ね…ミハルのこと大好きなんだぁ。
ミハル:しおり…。
しおり:誰にも渡したくないの。だからミハルが仲間になってくれないなら、ここでミハルを殺して私だけのモノにするんだぁ♡
ミハル:そうか…ごめんな。
しおり:えっ…?
ミハル:『*言の葉《ことのは》は力となりて汝の心を操らん』
ミハル:『眠れ。』
しおり:ふぁ…。〈その場に倒れ込む〉
しおり:すぅ…すぅ…。
ミハル:ちょっと待ってろ。すぐに終わらせてくるから。
シャドウ:一瞬でしおりを眠らせた?ちょ、ちょっと。何なのよその能力!
ボンド:聞いてないぞ!
ミハル:僕の能力の本質は「*言霊《ことだま》」。「負の言葉」を「正の言葉」に変換するなんてのはそのおまけに過ぎない。この能力を解放したが最後。誰も僕の言葉には抗えない。さぁ、アンタら、覚悟しろ!
ボンド:ならば私が!『汝らの関係に黒く*穢《けが》れた祝福を』
ボンド:〈手から出た黒い糸のシャワーがミハルとシャドウに絡み付き染み込んでいく〉
ボンド:私の黒い糸の洗礼を受けるがいい!!
シャドウ:!?
ミハル:!?
ボンド:ふははは!抗えないなら取り込んでしまえば良いだけのこと!さぁ…これで君はシャドウさんの奴隷だ!
ミハル:『リセット』
ボンド:なっ!私の能力がかき消されただと!
ミハル:お返しだ。『死ね』
ボンド:な、なんだ?手が勝手に…私の首を締めて…ぐ、ぐぁ…苦しい…助け…。
ボンド:〈絶命する〉
ミハル:さて、残るはアンタだけだな。シャドウさんよ。
シャドウ:くっ…おのれ、こんな所で終わってたまるか!
シャドウ:『清き心は黒に染まりて…』
ミハル:『黙れ』
シャドウ:う…うぐっ…。
ミハル:アンタはしおりを傷付けた。そう簡単には死なせないよ。
シャドウ:くっ…。
ミハル:それに、いろいろと聞きたいこともあるしな。
ミハル:『我に従え』
シャドウ:あぁ!…はい。ミハル様。
ミハル:さてと、あとはしおりだけだな。
しおり:すぅ…すぅ…。
ミハル:しおり。『目覚めよ』
しおり:う…ううん…はっ!私は眠らされていたの?そう言えばミハルは?
ミハル:おはようしおり。あとはお前だけだ。
しおり:えっ?しゃ、シャドウお姉様?ボンドさん?二人とも何で動かないの?
ミハル:もう終わったんだ。何もかも。だからいつものしおりに戻ってよ。
しおり:い、いや!私はこれからこの刀でたくさんの人を殺すんだから!
ミハル:〈被せて〉『リセット』
しおり:あっ…、あれ?私こんな所で何やってんの?…えっ!刀?何で私こんな物持ってんの!
しおり:〈慌てて刀を捨てる〉
ミハル:おかえり。しおり。
しおり:ミハル?なんでここにいるの?
ミハル:しおりのおかげで事件は無事解決したよ。
しおり:解決…?私何かしたっけ?そう言えば私シャドウさんのお話聞いてて…って、シャドウさん!大丈夫ですか?ぼーっとしちゃって。
ミハル:大丈夫だよ。彼女は僕達に協力してくれるそうだよ。ね?そうでしょ?
シャドウ:はい…何でもお答えします。
しおり:ひょえー…私が寝ている間に事態が進み過ぎてて頭がついて行かないんだけど!あのさ…さっきから気になってたんだけど、あの人ずっとうずくまってるけど大丈夫なの?
ミハル:ああ、あれね。多分大丈夫だと思うよ。僕が来た時からあの状態だったから。
しおり:へ、へぇ…そうなんだ。
ミハル:さぁ、帰ろうか。しおり。
しおり:うん!
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しおり:(M)こうして謎に包まれていた一連の不可解な事件は、シャドウさんの自白によって全て明るみになり、能力者犯罪組織は壊滅した。また、シャドウさんの能力でおかしくなっていた人たちもミハルのおかげで全員元に戻った。これで全てが解決…したかに思えた。だが…。
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:-------------------(数日後)
しおり:ねぇ…ミハル、どうして?…どうしてなの!
ミハル:素晴らしい!!闇の力がこれ程までとはな!俺はこの力で世界を作り変えてやるんだ!
シャドウ:うふふ…ミハル様、とっても素敵です!これこそ私が追い求めていた理想の世界です!私、一生ついて行きますわ♡
しおり:お願い…。いつものミハルに戻ってよ…。
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しおり:(M)異変が起きたのは事件が解決してしばらく経ってからだった。
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しおり:やっほーミハル!
ミハル:はぁ…はぁ…。
しおり:えっ?大丈夫?
ミハル:来ちゃ…ダメだ。
しおり:えっ?
ミハル:もうこれ以上…抑え切れない…。
しおり:ど、どうしちゃったのよ!
ミハル:力の…代償だよ。
しおり:力の代償?
ミハル:ああ…僕の能力は…絶対的な強さ…と引き替えに、一度解放すると…心に封印していた闇の力に…精神を…*侵《おか》されていく…んだ。はぁ…はぁ。
しおり:ミハル!しっかりしてよ!
ミハル:早く…逃げ…て。
しおり:ミハル!
ミハル:…ふふ…あははは!今日はなんて気分が良いんだ!
しおり:み、ミハル?
ミハル:やぁ、しおり。
しおり:本当にミハル…なの?
ミハル:ああ、そうだよ。それより見てよ!僕の体を流れるこの闇の力を!
しおり:闇の…力?
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しおり:うぅ…私、こんな世界…もう嫌だ。
ミハル:そっかぁ…僕の*傍《そば》であれほど見せてあげたのに、まだこの力の素晴らしさを理解してくれないなんて…本当に残念だよ。それじゃあさ、しおりにも僕の力を分けてあげるよ。
しおり:い、いや…!!
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しおり:(M)そしてこの世界は…。
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ミハル:『凍てつく漆黒の吹雪にて、*汝《なんじ》を闇に*凍《こお》らせん』
しおり:あ…あああ!!私の心が闇に覆われて…真っ黒に凍り付いていく!
ミハル:しおり、闇に飲まれていく気分はどうだ?
しおり:はぁぁ…♡ 漆黒の世界が心の中に広がって、私を優しく包み込んでくれるの…とっても幸せ♡ うふふ…ミハル様ぁ♡ しおりの全てをあなた様に捧げます!共に世界を闇に染めましょう!
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しおり:(M)完全に闇に堕ちた。
:
:~完~