台本概要

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タイトル 毒と薬屋
作者名 大輝宇宙@ひろきうちゅう  (@hiro55308671)
ジャンル 童話
演者人数 1人用台本(不問1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 謎の毒に侵された女が
森の薬屋へ、迷い込む。
比喩表現多めの一人読み台本。

内容を変えるほどでなければアドリブや一人称の変更可。
ご自由にどうぞ。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
語り手 不問 - 語り手
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0: 0:  :女がひとり ふらふらと霧の中の扉を開いた  :中にはこの店の主がひとり  :長い髪を床まで垂らし佇んでいる  :女は声にならぬ声で主に助けを求めた  :主は焦りとも微笑みともとれぬ顔で  :おや、いけない。あなた 毒に侵されていますよ。と言った。 0:  :主は女を椅子に座らせると  :額に手を当てたり  :舌を引っ張って色を確かめたりしたのち  :戸棚から星空色の瓶を取り出し、  :ぐにゃりと曲線を描いた匙で中を拭うように  :どろっとした夜空を取り出した。 0:  :女は生まれたての宝石を飲んだようだと思った。  :それは確かに燃えるように熱く  :のどを粘るように進み  :腹に沈殿するのを感じた。 0:  :主は、女がそれを飲み込むのを見ると  :満足そうに向かいの揺り椅子に腰掛け、  :ストーブから薬缶(やかん)を持ち上げると  :自分のカップに乳白色を注ぎ、ゆっくりと味わっている。 0:  :女は、あーだの、うーだの 自分の声が出ることを確かめると  :聞きたいことを言いかけて、また飲み込んだようになる。  :主は何だね?と目で促すとテーブルの上に伏せられたマグカップをひっくり返し、同じように乳白色を注いだ。  :ズズっとカップを女の前へ持ってきてやると、女は持ち手に手をかけ、それを口へ運ぶ。  :口の中へ馴染んでゆく温度と甘さに  :先程腹に沈殿した夜空に天の川が溶け、やがて空を飲み込み広がってゆく  :女は自分の体を取り戻したことを悟ると、ゆっくりと主に質問した。  :ここはどこで あなたは誰で 私に何が起きたかと。 0:  :主は淡々と  :ここは薬屋で 自分は薬師(くすし)で あなたは毒に侵されていたと答えた。  :女には心当たりがない。  :なにか悪いものを口にしただろうか。  :誰かに毒を盛られたのだろうか。  :女は思いを巡らせて一点を見つめている。  :その様子が主にはとても滑稽に映った。  :自分で作り出した毒に、あなたは侵されたのだ。  :それほど広くない木造の薬屋に、  :主の低い声が響いた。  :女はますます意味が分からず、  :自分の毒?と主の言葉を繰り返した。  :主は、そうだとうなずき、  :皆自分で自分を殺す毒を作れる。そんな常識も知らないのかと心底憐れんだ声をだしてみせた。  :自分で毒を作り出す人間がいるものかと女は驚き、  :主のバカにしたような態度に少し腹を立てた。  :ムッとしている女を意に介さず主は続ける。  :他人に腹を立てる、他人を羨む、蔑む、バカにする。  :口に出さぬ時、それらの毒は少しずつ少しずつ己の体に溜まっていく。  :時に吐き出さねば毒は心を蝕んでゆく。  :だから  :女が口を開く  :だから昨晩、私は同じ思いの友人と酒を飲み交わしながら毒を吐いてきたのだと。  :自分の中の毒をすっかりあの場に明けてきたのだと。  :主は口の端を吊り上げて笑う。  :外に出た毒は、何度も掻き回してはいけない。  :出した毒の代わりに楽しい話を腹に収めなければ、毒はまた己に帰ってくる。  :運の悪いことに友人の毒も引き受けることになってもおかしくないと。  :吐き出した毒をまた拾い ネタにして食べ  :また吐き出しては食べを繰り返すような真似は  :毒を濃縮させ やがて自分たちが何を話しているかも分からなくなり  :その場に溜まった「妬み」「嫉み」「嫌悪」という悪口を煮詰め  :やがてその毒に自分自身が侵されてしまうのだと。 0: 0:  :女は震えながら昨晩のことを思い出していた。  :いい人のふりをして皆に合わせている 中身のないあの女  :己が一番優れていると思いこんでいる あの男の振る舞い  :自分の存在を認めてほしいばかりで同じ年頃の連中と人間関係が築けない ガキ  :不摂生からくる病を他人にウツサレタと 声高に叫ぶ女  :話を自らの容姿に持って行きたがる ナルシスト女  :優しさと言いなりを履き違えた 男 0:  :昨日自分が吐き出した毒が  :あんなにも自分を蝕んだのか  :ああ・・他人の悪口など言うものではなかった  :女が心底落胆していると  :主はまた微笑みとも憐れみともつかぬ顔で言った。 0:  :毒は薬にもなりうる  :それだけ多くのことを見る目があるとも言える。  :用法用量を守って 正しく毒をコントロールすることだ。  :そんなことが出来るのかと、女は思考を巡らせた。  :主はそんな女の考えを見透かすように  :見えるならば 見ないことだ 近づかぬことだと続ける。  :多くの毒を抱える時  :自分はその毒に当てられてしまうかもしれないと思っているだけで  :随分と体は用心する  :それだけでも効果がある  :主はおもむろに立ち上がり、薬棚のいくつかの瓶を無造作にまとめて握った  :テーブルに勢いよく置かれたそれらは  :5月の新鮮な苔 悪趣味な魔女の下着 大蜜蜂が塗れる花粉の色をしていた  :これらも量によっては死に到れる毒だ  :そう言って主は うっとりと笑った 0:  :自ら作り出した毒で 自分を蝕むなんて馬鹿らしい 0:  :しばらくすると  :女は自分の家の前に立っていた  :どこへ行っていたのかも  :どう帰ってきたのかも  :思い出せない  :ただ 誰かの無理やり吊り上げたような  :口の端だけが上がった笑顔が ぼんやりと頭に浮かんでいる気がした 0: 0:

0: 0:  :女がひとり ふらふらと霧の中の扉を開いた  :中にはこの店の主がひとり  :長い髪を床まで垂らし佇んでいる  :女は声にならぬ声で主に助けを求めた  :主は焦りとも微笑みともとれぬ顔で  :おや、いけない。あなた 毒に侵されていますよ。と言った。 0:  :主は女を椅子に座らせると  :額に手を当てたり  :舌を引っ張って色を確かめたりしたのち  :戸棚から星空色の瓶を取り出し、  :ぐにゃりと曲線を描いた匙で中を拭うように  :どろっとした夜空を取り出した。 0:  :女は生まれたての宝石を飲んだようだと思った。  :それは確かに燃えるように熱く  :のどを粘るように進み  :腹に沈殿するのを感じた。 0:  :主は、女がそれを飲み込むのを見ると  :満足そうに向かいの揺り椅子に腰掛け、  :ストーブから薬缶(やかん)を持ち上げると  :自分のカップに乳白色を注ぎ、ゆっくりと味わっている。 0:  :女は、あーだの、うーだの 自分の声が出ることを確かめると  :聞きたいことを言いかけて、また飲み込んだようになる。  :主は何だね?と目で促すとテーブルの上に伏せられたマグカップをひっくり返し、同じように乳白色を注いだ。  :ズズっとカップを女の前へ持ってきてやると、女は持ち手に手をかけ、それを口へ運ぶ。  :口の中へ馴染んでゆく温度と甘さに  :先程腹に沈殿した夜空に天の川が溶け、やがて空を飲み込み広がってゆく  :女は自分の体を取り戻したことを悟ると、ゆっくりと主に質問した。  :ここはどこで あなたは誰で 私に何が起きたかと。 0:  :主は淡々と  :ここは薬屋で 自分は薬師(くすし)で あなたは毒に侵されていたと答えた。  :女には心当たりがない。  :なにか悪いものを口にしただろうか。  :誰かに毒を盛られたのだろうか。  :女は思いを巡らせて一点を見つめている。  :その様子が主にはとても滑稽に映った。  :自分で作り出した毒に、あなたは侵されたのだ。  :それほど広くない木造の薬屋に、  :主の低い声が響いた。  :女はますます意味が分からず、  :自分の毒?と主の言葉を繰り返した。  :主は、そうだとうなずき、  :皆自分で自分を殺す毒を作れる。そんな常識も知らないのかと心底憐れんだ声をだしてみせた。  :自分で毒を作り出す人間がいるものかと女は驚き、  :主のバカにしたような態度に少し腹を立てた。  :ムッとしている女を意に介さず主は続ける。  :他人に腹を立てる、他人を羨む、蔑む、バカにする。  :口に出さぬ時、それらの毒は少しずつ少しずつ己の体に溜まっていく。  :時に吐き出さねば毒は心を蝕んでゆく。  :だから  :女が口を開く  :だから昨晩、私は同じ思いの友人と酒を飲み交わしながら毒を吐いてきたのだと。  :自分の中の毒をすっかりあの場に明けてきたのだと。  :主は口の端を吊り上げて笑う。  :外に出た毒は、何度も掻き回してはいけない。  :出した毒の代わりに楽しい話を腹に収めなければ、毒はまた己に帰ってくる。  :運の悪いことに友人の毒も引き受けることになってもおかしくないと。  :吐き出した毒をまた拾い ネタにして食べ  :また吐き出しては食べを繰り返すような真似は  :毒を濃縮させ やがて自分たちが何を話しているかも分からなくなり  :その場に溜まった「妬み」「嫉み」「嫌悪」という悪口を煮詰め  :やがてその毒に自分自身が侵されてしまうのだと。 0: 0:  :女は震えながら昨晩のことを思い出していた。  :いい人のふりをして皆に合わせている 中身のないあの女  :己が一番優れていると思いこんでいる あの男の振る舞い  :自分の存在を認めてほしいばかりで同じ年頃の連中と人間関係が築けない ガキ  :不摂生からくる病を他人にウツサレタと 声高に叫ぶ女  :話を自らの容姿に持って行きたがる ナルシスト女  :優しさと言いなりを履き違えた 男 0:  :昨日自分が吐き出した毒が  :あんなにも自分を蝕んだのか  :ああ・・他人の悪口など言うものではなかった  :女が心底落胆していると  :主はまた微笑みとも憐れみともつかぬ顔で言った。 0:  :毒は薬にもなりうる  :それだけ多くのことを見る目があるとも言える。  :用法用量を守って 正しく毒をコントロールすることだ。  :そんなことが出来るのかと、女は思考を巡らせた。  :主はそんな女の考えを見透かすように  :見えるならば 見ないことだ 近づかぬことだと続ける。  :多くの毒を抱える時  :自分はその毒に当てられてしまうかもしれないと思っているだけで  :随分と体は用心する  :それだけでも効果がある  :主はおもむろに立ち上がり、薬棚のいくつかの瓶を無造作にまとめて握った  :テーブルに勢いよく置かれたそれらは  :5月の新鮮な苔 悪趣味な魔女の下着 大蜜蜂が塗れる花粉の色をしていた  :これらも量によっては死に到れる毒だ  :そう言って主は うっとりと笑った 0:  :自ら作り出した毒で 自分を蝕むなんて馬鹿らしい 0:  :しばらくすると  :女は自分の家の前に立っていた  :どこへ行っていたのかも  :どう帰ってきたのかも  :思い出せない  :ただ 誰かの無理やり吊り上げたような  :口の端だけが上がった笑顔が ぼんやりと頭に浮かんでいる気がした 0: 0: