台本概要
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タイトル | 【5人】Dolce Unto loverー最愛ー |
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作者名 | 佐久間ユタカ (@sakusaku_yutaka) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 5人用台本(不問5) |
時間 | 50 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
Dolce Unto loverー最愛ー ドルチェ ウント ラバー最終回 ※最終回とありますが、他前作品は本作への前日譚・サイドストーリーのため本作のみの上演でも全く問題ありません ■完全に金銭が発生する場の利用はDMまでご連絡下さい ※課金がある配信アプリ可のためご安心ください ■モチベに繋がるためTwitterで呟いていただけると視聴に飛んでいけるため聴けたらとても嬉しいです! ※強制ではありません ■感想やリクエスト等ございましたらTwitterのDMまたはリプにていただけるととても嬉しいです ■一人称変更◎語尾変更◎ ※演者様の性別問いません。女性の方が俺と言ってもOKです。 ■あらすじ ドルチェ→イタリア語/甘い・優しい・柔らかい ウント→ドイツ語/英語でいうandと同義 ラバー→英語/愛人 ■最後に 初心者の方もベテランさんも楽しく遊んでいただけると嬉しいです 3031 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ホームズ | 不問 | 93 | 探偵 |
ワトソン | 不問 | 115 | 助手 |
アイリーン | 不問 | 83 | 研究者 |
ジャック | 不問 | 88 | 二重人格の殺人鬼。【裏】と表記がある場合は殺人鬼のジャックを演じてください |
モリアーティ | 不問 | 66 | 教授 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:Dolce Unto lover
0:(ドルチェ ウント ラバー)
0:最終章ー最愛ー
0:
ホームズ:【N】鳴り響く1発の銃声
アイリーン:ホームズ!!!
ホームズ:【N】音もなくゆるりと倒れる身体
ジャック:【裏】ひゃははははは!!!赤だぁ、真っ赤な赤だぁあぁ
モリアーティ:実に残念だよ、ホームズ君
ワトソン:あにきいいいいいいいい!!
ホームズ:【N】ドルチェ ウント ラバー、最終章ー最愛ー
0:
ホームズ:【N】時は2週間前に遡る
0:
ワトソン:うーーーん
ホームズ:…ふむ
ワトソン:ん~~~~~~うがあ!
ホームズ:少しは黙ってティーを嗜むことは出来ないのかキミは
ワトソン:無理ですよ兄貴!覚えてますか?!先日ジャックさんに連れられて、ここに!あの!モリアーティが来たんですよ!
ホームズ:そうだったなぁ
ワトソン:そうだったなぁ~じゃないんですよ!招待状、渡されましたよね!2週間後に迫ってきてるっていうのに、俺ら対策を打つどころか至極普通の生活を送ってますよね?!
ホームズ:それがどうした?
ワトソン:あのモリアーティですよ!?本当にこのままでいいんですか!俺は良くないと思うっすよ!
ホームズ:…はぁ
ワトソン:なんすか!その、やれやれ、って顔!
ホームズ:キミはあれだな、レディを追いかけている時と難事件を追いかけている時以外はどうしようもないな
ワトソン:なっ、なっ、なーにが悪いんすかそれの!!!
ホームズ:浅はかだと言っているんだよ
ワトソン:俺は兄貴を心配してるんすよ!
ホームズ:心配か、随分と可愛いことを言う
ワトソン:そうやって人をおちょくるのもいい加減にしてくださいよ!
ホームズ:事実だ
アイリーン:またワトソンをいじめてるのか、ホームズ
ホームズ:っ?!
ワトソン:アイリーンさん!!お久しぶりっす!
ホームズ:キミ、ノッ【遮る】
アイリーン:ノックはした。それに気づかなかったマヌケな探偵は誰だ
ホームズ:…わたしだ
アイリーン:素直なガキは嫌いじゃない
ホームズ:なぜキミがここにいる、確かフランクフルトに滞在していたはずだ
アイリーン:予定が変わったんだ、君のところの坊やが、僕を呼んだ
ホームズ:ワトソン
ワトソン:ぎっくぅ!!だっ、だって!仕方ないじゃないっすか!少しでも味方がいたほうが!
アイリーン:ワトソンを叱るな、僕だって不要と思えば来なかったさ
ホームズ:私は愛されているものだね
アイリーン:千差万別、多くの者から愛されるキミを僕は嫌いじゃないが、今回の件に関してはそれで済まないだろ?
ホームズ:嫌なことを言う性格は”相変わらず”のようで安心したよアイリーン
アイリーン:長期休暇を取った、しばらくはここに居させてもらう
ワトソン:まじっすか!?やったぁ!やったぁ!
ホームズ:はぁ…
ワトソン:兄貴は俺の言うことなんて聞いちゃいないっすからねぇ!やっぱりアイリーンさんからの言葉が1番っすよ!
アイリーン:ふっ、弟子にここまでの言われようとは、貴様も落ちたものだな
ホームズ:それほどキミは私にとっての弱点である、という認識をもったらいかがかな
アイリーン:弱点だからと言って、守備に徹するだけではなんの美学もないじゃないか
ホームズ:キミはそういう人だ
アイリーン:僕はキミにとってのクイーンであり、ジョーカーだ
ホームズ:ほぅ
アイリーン:少しは笑ったらどうだ?唯一の家族がわざわざ半年ぶりに姿を見せたのだぞ
ホームズ:生憎、振りまく愛想は依頼人相手にだけ、と決めている性分なものでね
ワトソン:本当に兄貴とアイリーンさんって似た者同士っすよね
ホームズ:ワトソン君、キミは随分と私に叱られたいようだね
ワトソン:お、俺!買い物行くんだった!ははは!ちょーっと行ってくるっすー!!
アイリーン:逃げられたな、ホームズ
ホームズ:随分と嬉しそうだなアイリーン
アイリーン:一人だった君の城が、随分と賑やかになっていて嬉しいんだよ
ホームズ:本を読む時間すら取れないよ
アイリーン:良いことだ
ホームズ:ふっ、キミは本当、どうしようもないな
アイリーン:ははっ、キミも、どうしようもない奴だ
0:【間】
モリアーティ:【N】街中にて
0:
ワトソン:はぁ~怖かった~危うくまた兄貴を怒らせるところだった
ジャック:またイタズラしたんですか?ワトソンさん
ワトソン:ジャックさん!!?何でこんなとこに?!
ジャック:こんにちは、ワトソンさん。本日は珍しく天気が良いですね
ワトソン:こ、こんにちはっす…じゃなくて!
ジャック:買い物ですよ、三番街でしか手に入らない薬が入用でして
ワトソン:ふ~~ん、そっすか
ジャック:あまり機嫌が良くないのですか?
ワトソン:何言ってんすか!俺らに宣戦布告してきたのはそっちっすよね!
ジャック:あぁ、この前の…それは申し訳ありません、私は、危害を加えるつもりはなくてですね
ワトソン:知ってるっすよ、でも言葉が足りないっす。昼のあんたは危害を加えるつもりはない、が正しいっすよね
ジャック:ははっ、困ったな。そこまで警戒されると悲しいですよ
ワトソン:昼のあんたは温厚で人当りも良くて俺も嫌いじゃないっすよ、でも、夜のあんたと切り離すことは出来ないんすよ
ジャック:ワトソンさん、あなたは女性の前でも同じ顔をしますか?
ワトソン:え?
ジャック:女性じゃなくとも、例えば家族や、愛するもの、幼子やご老体の方、または私のような殺人鬼に対しても同じ感情をもつことは出来ますか?
ワトソン:いきなりなんすか
ジャック:あなたが崇拝するホームズさんだって違う顔を持っているかもしれませんよ
ワトソン:何が言いたいんすか
ジャック:私だけが特殊なわけではないということですよ
ワトソン:俺は
ジャック:はい
ワトソン:悲しい時も楽しい時も俺っすよ。それ以上も以外もないっす
ジャック:ほぅ
ワトソン:サイコロみたいに転がるっす…色んなことがあるから、どんな目が出ても俺は俺っすよ、それが人だと俺は思うっす
ジャック:サイコロ…ははっ、ワトソンさんらしい、しかし、面白いですね
ワトソン:あんたに出会ってから色んな面を見てきたっす、でも嫌いじゃない、だからと言って罪を許す気もない
ジャック:寛大な心をお持ちですね
ワトソン:ジャック、俺らをなめるなよ
0:【間】
ワトソン:じゃ!俺は買い物行ってくるっす!
ジャック:午後から、天気が変わるそうですよ、早く帰った方がいい
ワトソン:2週間後楽しみにしてるっすよ
ジャック:えぇ、私も楽しみです
0:
アイリーン:【N】ワトソンを見送るジャックの背後に現れるモリアーティ
0:
モリアーティ:嬉しい事でもあったのかい?
ジャック:教授、やはりいらっしゃったのですね
モリアーティ:彼も気づいていたようだ
ジャック:そうみたいですね
モリアーティ:随分とアレは成長したようだね
ジャック:私と出会った頃はまだ子供だったのですが
モリアーティ:成長というのは子供は特に早いからな
ジャック:子の成長を見届けること程嬉しいことはありません
モリアーティ:それは僕も同感だよ
ジャック:孤児として拾われ…私の医院へ通いながら、あなた様自ら教鞭をとった子供が…今や、ホームズの助手ですよ
モリアーティ:感慨深いな、少々気に食わないが
ジャック:何か気に障る事でも?
モリアーティ:ふっ、僕たちがまるで悪者のようなシナリオの進み方じゃないか。あの子に捕まる未来が一瞬見えてしまったよ
ジャック:教授らしくないお言葉ですね
モリアーティ:感傷というものだろう、僕も人の子ということだ
ジャック:あなた様が人の子というのはなんとも信じ難いですね
モリアーティ:キミには僕が悪魔の子にでも見えるというのかい
ジャック:いいえ
モリアーティ:聞こうか
ジャック:あなた様は全てを無に帰す力もあり、そして無から有を生み出すこともする
モリアーティ:ほぅ
ジャック:神のようなお方だと…そう、認識しております
モリアーティ:いささかキミは僕を買い被る癖(へき)があるようだ
ジャック:そんなことはありません
モリアーティ:まぁいい。そうか…神か。おこがましい上にいつか本当の神に罰を下される気がするよ
ジャック:教授、今日のあなたは少々…そうですね、仰せのように、感傷に浸っておいでのようだ
モリアーティ:なぜだか分かるかい
ジャック:いいえ
モリアーティ:あと3分程でまた雨が降る
ジャック:3分ですか?珍しくこんなに良い天気だというのに?
モリアーティ:陽の光は、良くないな、眩しくて…幼き日を彷彿とさせる
ジャック:あなた様には夜がお似合いです
モリアーティ:キミもだよ、ジャック
ジャック:光栄なお言葉です
モリアーティ:行こうか、我々の時間がやってくる
ジャック:はい、教授
0:【間】
ワトソン:【N】1897年5月4日16時ジャスト。ライヘンバッハ、モリアーティ別荘宅にて
0:
ホームズ:本日はお招きいただき感謝するよ
ジャック:ようこそ、ホームズさん
ワトソン:こんな広い城を所有してるなんてさすがっすね
ジャック:教授のお力ですよ、ワトソンさん。ようこそ
アイリーン:僕は初めましてだね、ジャック君
ジャック:えぇ、初めまして、アイリーンさん。お噂は兼ねがね…お目にかかれて光栄です
アイリーン:僕もだよ
ジャック:さぁ皆様、ご案内致します。こちらへどうぞ、社交界随一のメインホールです
ワトソン:玄関ホールも広かったっすけど、パーティー会場は比にならないくらいの広さっすね
ホームズ:招待客も随分と大物ばかりのようだね
アイリーン:裏社会で一度は聞いたことのある貴族ばかりときたか
ジャック:何かありましたら使用人へお申しつけくださいね
ホームズ:私は預けるものは特にないよ
ワトソン:俺はコートとハットお願いするっす!
アイリーン:僕はトランクをお願いしようかな
ジャック:定刻になり次第教授からご挨拶がありますので、それまでどうぞご歓談ください、私は一旦失礼致します
ホームズ:ワトソン君、キミの好きなパエリアがあるようだ
ワトソン:え!まじっすか!くぁー!!スペインのアロンディを思い出して涙出てきそうっすよー!
アイリーン:ホームズ、キミの好きな白ワインも置いているようだよ、取ってきてもらうかい
ホームズ:教授の私への意向かな、有難く頂戴するとしよう
ワトソン:しっかし、こんだけ人がいるってのにな~んか不思議っすよね
アイリーン:あくまで僕たちはゲストということだ
ホームズ:そのようだ
ワトソン:は~ぁ~どんなんでも俺は社交界ってな~んか苦手っす
アイリーン:この中でキミが一番幼くみえるよワトソン
ワトソン:アイリーンさんまで兄貴みたいに俺をいじめるんすか!
アイリーン:ははっ、キミは楽しく鳴いてくれるものだからついね
モリアーティ:紳士淑女の諸君お待たせしてしまい申し訳ない
ワトソン:お出ましっすね
モリアーティ:今宵は当家主催のパーティーへお越しいただき感謝する
アイリーン:いつ見ても食えない顔をしているな
モリアーティ:まず初めに簡単な挨拶から失礼
モリアーティ:昨今の情勢について皆はどう捉えているだろうか、女王の旗のもとに集う民衆は幸福を感じているだろうか
モリアーティ:僕はこう思う
モリアーティ:真の平和とは失ってから気づくものだと
モリアーティ:戦場とは日常に溢れているのではないだろうか
モリアーティ:正しきものは本当に正しいのだろうか、与えられた正義に対してなぜ疑問を持たないのか
モリアーティ:今宵はその答えを聞くためにゲストを招待した。
モリアーティ:かの有名な名探偵、シャーロック・ホームズ、こちらへ来たまえ
ワトソン:なっ?!
アイリーン:ホームズ
ホームズ:ほぅ
モリアーティ:キミの考えを聞かせてくれないか?
ホームズ:上流階級の皆様にお話しすることなんて何もありませんよ、教授
モリアーティ:ここにいる者はキミに興味がある
ホームズ:ただのしがない探偵に期待をしないでもらいたい
モリアーティ:謙遜というやつか、似合わないことを
ホームズ:まぁ・・・そうですね、折角の場です。私から一つ、皆様へ謎かけをしましょう
モリアーティ:ほぅ、面白い
ホームズ:庶民向けの露店が立ち並ぶストリートで、不思議なことが起きました
ホームズ:客が来ているわけでもないのに、なくなるんですよ、カットフェルやラズベリーが
ホームズ:それも毎日、1つずつ
ホームズ:いつからなくなっていたのかは分かりませんが、明らかに減っていることに気づいた店主が少々細工をしたそうです
ホームズ:大量に置かれている籠の中、隣り合うカットフェルに少しの傷を入れ、本当になくなっているのかどうか様子を見ようと試みました
ホームズ:結果としては、やはりその日も1つ、なくなったんです
ホームズ:カラスにしては持ち運べるサイズではなく、ストリートチルドレンだとしても露店がひしめき合っていますからね、周りが気づくだろうと、それでは誰が?
ワトソン:この話ってあの時の
アイリーン:知っているのかワトソン
ワトソン:俺たちが最初に解決した事件っす
ホームズ:店主に詳しく話を聞くと、分かったことがありました、カットフェルがなくなる時間は決まって暗くなってからだと
ホームズ:あまりにも続いているのでゴーストの類ではないか、などと噂も広まったくらいです
ホームズ:さて、皆様はこの凡庸でシンプルな事件をどう紐解かれますか?
アイリーン:ワトソン、あいつは何が言いたいんだ
ワトソン:いや…俺も分からないっす…兄貴…?
モリアーティ:結末を聞こうか
ホームズ:犯人は、犬でした。それも真っ黒な雑種です
アイリーン:犬?
ホームズ:私は店主が施した細工に、更にひと手間くわえました、と言っても、小さな鈴をつけただけ、なのですがね
ホームズ:顛末としては簡単です、やはりその日も陽が落ちてからでした。鈴が鳴ったんです、それを追いかけた
ホームズ:うちには割と優秀な助手がいましてね、そんな彼でもギリギリ、といったところでしょうか、駆け抜ける鈴の音を追ったんですよ
ホームズ:行きついた先は村の外れにある小屋でした、家の灯が差してここでようやく相手が犬だったことが分かりました
モリアーティ:なんとも、くだらない顛末のようだな
ホームズ:この話がここで終われば、その感想が真っ当だと言えますね
アイリーン:どういうことだ?
ワトソン:躾られてたんすよ、徹底的に
アイリーン:躾?
ホームズ:犬というのは愛らしく主人に従順だ、小屋の住人は家族とも言えるその犬に、要は盗みのイロハを教え込んでいたんです
ホームズ:不可能なことではありません、実際に犬が行っていることはとてもシンプルでしたからね
ホームズ:教授に問いましょう、この事件は、躾た主人が悪いのか、それとも実際に盗みを働いた犬が悪いのか
モリアーティ:ふっ、愚問だな、躾というのはこういうことを言う
モリアーティ:ジャック
ジャック:【裏】あいよぉ!
ワトソン:なっ?!照明が!
アイリーン:くっ…視界を奪うかモリアーティ
モリアーティ:ここからが本当の余興の始まりだ
ワトソン:っ!照明が戻ったっすね…アイリーンさん!?
アイリーン:なるほど…な
ジャック:【裏】悪ぃなぁ、これが一番早ぇんだぁ
ワトソン:卑怯っすよ!!
アイリーン:動けば頸動脈一発だな、これは…
ワトソン:そのナイフを引くっす!
ジャック:【裏】馬鹿かぁおまえぇ、はい、引きます、なんて言うわけねーだろぉが!ひゃはははは!
アイリーン:ワトソン、落ち着け
ホームズ:教授、これはとても面白い余興ですね
モリアーティ:こんなものが余興とは言わないさ
ホームズ:では、いかがお考えでしょうか
モリアーティ:ワトソン君
ワトソン:なんすか
モリアーティ:キミを試そう
ワトソン:どういうことっすか!
ジャック:【裏】おまえの右ポケットだぁ、表の俺が既に仕込んでる
ワトソン:右…ポケット…なっ?!
ジャック:【裏】ひゃははは!ホームズの野郎をなぁ、おめぇのその手にある拳銃で
モリアーティ:撃て
ワトソン:嫌だ!!!
ジャック:【裏】ちげぇだろぉが!!!はい、喜んで♪だ、馬鹿が!!
アイリーン:くっ!
ジャック:【裏】おっとっと、悪ぃなぁ…ちょ~っと刃が当たっちまったぁ
ワトソン:あに、き…俺、無理っすよ…
アイリーン:僕に構わなくていいワトソン
モリアーティ:安心したまえ、ホームズを撃ったところでキミは捕まらない
ワトソン:そういうことじゃないと分かっていてそれを言うのか…モリアーティ!
モリアーティ:教授、だ
ワトソン:無理っすよ…俺が…撃つなんて…
ジャック:【裏】言い忘れてたけどよぉ、脚だとか腕だとか生ぬるい撃ち方したら、分かってるよなぁ?
ワトソン:む、無理っすよ…俺はこんなこと…
ホームズ:アイリーン、後は頼んだ
ホームズ:キミに賭けよう
ジャック:【裏】下手な真似はするんじゃねーぞホームズゥ
ホームズ:教授、物語というのは面白くあってこそ、ですよね?
モリアーティ:あぁ、勿論だ
ホームズ:ワトソン君、キミにも期待している
ワトソン:あに、き?
ホームズ:また会おう
ワトソン:なっ?!
ジャック:【裏】仕込み銃だぁ!?
ホームズ:【N】鳴り響く1発の銃声
アイリーン:ホームズ!!!
ホームズ:【N】音もなくゆるりと倒れる身体
ジャック:【裏】ひゃははははは!!!赤だぁ、真っ赤な赤だぁあぁ
モリアーティ:実に残念だよ、ホームズ君
ワトソン:あにきいいいいいいいい!!
モリアーティ:杖に仕込んだ銃で己を撃つか、なるほど…ふっ、はっはっはっはっ、面白い…僕の予想を超えてくる!さすがだよホームズ!
ワトソン:あにき!あにき!うわああああああ!!!!!
アイリーン:なぁ、ジャック
ジャック:【裏】あぁ!?俺は今超絶気分がいいんだぁ!!話しかけんな!うっかり手が滑っちまうかもしれねぇからよぉ
アイリーン:僕には特技があるんだ
ジャック:【裏】あぁ?特技だぁ?今そんなの関係ねぇだ(ろぉが)
アイリーン:(同時に被せる)ジャック。眠るんだ
モリアーティ:(同時に被せる)ジャック。眠るんだ
ジャック:【裏】なっ?!…んだとっっ!?く、そ…がぁ…
モリアーティ:これは随分と
アイリーン:モリアーティ教授、あなたの相棒には退場していただきますよ
アイリーン:ワトソン、立て
ワトソン:アイリーンさん…でも、あにきが…あにきが!!!
アイリーン:ホームズの左ポケットにキつけ薬(やく)がある、これを奴の口に放り込め、すぐ目を覚ます
ワトソン:わかりました!
アイリーン:教授、あなたに感謝を述べたい。メディアに露出が多いあなたのお陰で、声帯模写をするための材料に困ることはなかった
ワトソン:あにき!あにき!これ…でっ!どうっすか!?口に入れったす!
ホームズ:…ぐっ。
アイリーン:早く起きろホームズ
ワトソン:あにき!!!
ホームズ:もっとマシな味はなかったのか、アイリーン
アイリーン:次からは味の要望も出しておくんだな
ワトソン:あにきが生き返った…あにきぃぃぃ!!!
ホームズ:待ちたまえワトソン君
ワトソン:へっ?!
ホームズ:飛びついて来る気でいるのならば、今は遠慮してもらえると助かる
アイリーン:何本イった?
ホームズ:ろっ骨が2…いや、お陰様で1本で済んだようだ
ワトソン:あにき!血は?!傷は大丈夫なんすか?!
アイリーン:ワトソンすまないな、ホームズに弾は貫通していないんだ
ワトソン:え?!どういうことっすか?!
ホームズ:空砲と同時に仕込んでいた血のりを破裂させたんだよ
アイリーン:ゼロ距離で胸を撃つことは決めていたからな。鉄板の入った防弾ベストを装着させたが…さすがに空砲でもやはり折れたか
モリアーティ:本当にキミは、僕を驚かせてくれる
ホームズ:地獄に来るのは早いと門番に言われましてね。
アイリーン:あなたの剣をどうやって折るか、随分と悩みましたよ
ワトソン:も、もしかして…俺だけ知らなかったってオチっすか?!
ホームズ:キミに話したところで止められると思ったからね
アイリーン:怒らないでくれよワトソン
ワトソン:な!な!な!?…あったりまえじゃないっすか!!どっちにしろ怒るに決まってるっすよ!!!
ホームズ:大きい声を出すな、骨に響く
アイリーン:僕かキミが狙われることは想定していたんだ。素直なワトソンの反応がないと敵を欺けないと考えたから、より秘密にしておく必要があったんだ
ワトソン:まぁ…俺は確かに、演技とか出来ないっすから反論出来ねぇっす
モリアーティ:聞きたいのだが、そこに転がっているものが使い物にならなくなったからと言って、僕が終わるという根拠は何かあるのだろうか
ホームズ:えぇ、勿論。これであなたをラクに拘束出来る
モリアーティ:ふっ、拘束か…意味のないことを
アイリーン:意味だと?
モリアーティ:罪のない僕をどう裁くうもりだ
ホームズ:殺人、殺人教唆(きょうさ)、誘拐、横領、ドラッグ…埃は叩けば出るものですよ
モリアーティ:監獄に入ったとしても金と権力が全ての世の中だ、僕はすぐに釈放となるだろうな
ホームズ:それは無理です
モリアーティ:何を根拠に
ホームズ:女王からのお達しですよ、さすがにあなたの行動は目に余る、と。
モリアーティ:馬鹿げたことを…
ホームズ:本当ですよ。明朝(みょうちょう)、あなたは逮捕される
ホームズ:教授、チェックメイトですよ
0:【間】
モリアーティ:ふっ、僕は負ける勝負はしない主義だ
アイリーン:っ!?奴も仕込み銃を!?ホームズ!これを使え!弾入りだ!
ホームズ:感謝する
ワトソン:あにき!
アイリーン:動くなワトソン!
モリアーティ:終わるのはキミだ、ホームズ
0:【銃声】
ホームズ:【N】2発の銃声が、響き渡る
0:【間】
モリアーティ:ぐっ…!!
アイリーン:ホームズ!無事か?
ホームズ:問題ないよ
ワトソン:モリアーティは!?
モリアーティ:…(ジャ)ック……!
ホームズ:自身で動くことは無理だろう
モリアーティ:…(ジャ)ック!ジャック、起きろ!!
ジャック:はっ!
ワトソン:なに?!
ジャック:教授!!今お傍に!
アイリーン:行かせるか!
ジャック:邪魔です
アイリーン:くっ!!なんて動きだ!
ジャック:申し訳ございません、申し訳ございません教授…!!出血が…!あぁ…なんということだ…
モリアーティ:黙…れ
ジャック:すぐに止血します
モリアーティ:ジャック、命令だ
ジャック:何なりとお申し付けください
モリアーティ:僕のかわりに、あいつらを…殺せ
ジャック:承知しました
モリアーティ:いや、ここにいる者は皆殺しにしろ
ワトソン:なっ?!
アイリーン:ホームズ!まずいぞ!
モリアーティ:眠るんだ、ジャッ
ワトソン:させねーっすよ!!!
ジャック:ぐぁっ!!
ワトソン:アニキに教わった体術っす
ジャック:ごほっごほっ…良い蹴りでしたよ、ワトソンさん
ワトソン:俺は、ジャックさんやモリアーティ教授のやっていることが、正義とは思えないっす
ジャック:キミも分かっているはずですよ、この国の格差社会、欲にまみれた大人が蔓延(はびこ)る世の中のことを
ワトソン:当たり前じゃないっすか・・・だからこそ!俺は!今!光の傍にいるんだ!
ジャック:価値観の相違ですよ、私は教授こそが光だと思っているだけです
ワトソン:罪のない人を不幸にすることが正義なわけあるか!
ジャック:…っ!
ワトソン:あんたは!知ってるはずだ!あったかい陽だまりを!見てみぬフリをしてるんすよ!
ジャック:知りませんよ…どんなに目を開けても見えないものを…どう見ろというんですか!
ジャック:頭の中でもう一人の私は常に血を浴びている、殺せと囁く…気づけばもう何人も手に掛けて…
ワトソン:あんたのママはもういないんすよ!!
ジャック:あああああああああああああ!!!やめろ!言うな!ふ、ざっけんなぁ!が、ががが!ぁあ…ガキが…うるせぇんだよ!!
ワトソン:俺を見ろ!
ジャック:うる…せぇ!
ワトソン:俺を見ろって言ってんだ!ジャック!!!
ジャック:ぐぁっ!!!!
アイリーン:頭突きだと!?
ワトソン:おまえの目に俺は不幸に映るかよ!?人は、変わることが出来る!だから…ジャックさんも変われるんすよ!
ジャック:…ははっ、私の目にはあなたが眩しい、あなただけじゃない、私は、あなたたちと生きることが出来たらきっと…いえ、やめましょう、私は後悔していないんです
ワトソン:ジャックさん…
ジャック:失礼
ワトソン:ぐっ!!!
アイリーン:ワトソン!!
ジャック:鳩尾(みぞおち)です、少し動けなくなるだけなので、大丈夫ですよ
ホームズ:どうするつもりだ
ジャック:今宵はとても楽しい夜でした、一足先に私たちは失礼させていただきます
アイリーン:無理だ。そのテラスからは656フィートもの落差のある滝がすぐ傍にある、モリアーティを背負ったキミでは回避のしようがない
ホームズ:キミらしくない判断だと思うが
ジャック:ホームズさん、知っていますか?猫は死ぬとき主人の前からいなくなるそうです
ジャック:野良犬はどうなんでしょうね、はたまた、飼い犬であれば、どうなんでしょうか
ジャック:私は、私だったら、主人だけがいる世界で、傍にいることが出来たらそれでいいと、そう、思います
ワトソン:ダメっすよ…!
ジャック:ワトソンさん、本当に強くなりましたね
ワトソン:ジャックさん!!
ジャック:皆さん、またどこかでお会いしましょう
アイリーン:やめろ!!
ワトソン:ジャックさああああああああああん!!
ホームズ:【N】雨が止み、雲の切れ間から覗く月に照らされて…医者であり、民衆を恐怖に陥(おとしい)れた殺人鬼は、主人を背負い、微笑みながら、闇夜に身体を投げた
0:【4秒の間】
ジャック:ぷはぁ!げほっ!ごほっ!申し訳ございません教授、奴らから逃げるためにはこの方法しか思いつかなくてですね
モリアーティ:ごふっ、かはっ…かまわん
ジャック:さぁ、岸まで泳ぎますよ、少々揺れるのでもう少しだけ辛抱してくださいね
モリアーティ:表のおまえに…助けられるとは…
ジャック:私だってやる時はやりますよ
モリアーティ:…ぁあ、その…よ(ぅ)…だな…
ジャック:教授、大丈夫ですよ、もうすぐですからね
モリアーティ:ぁあ…
ジャック:教授?大丈夫ですか?
モリアーティ:なんだ、珍しい顔ぶれじゃないか、ポーロックにモラン…、ヘルダーまで、揃いもそろって…何の用だ
ジャック:教授…?
ジャック:…み、見てください!教授!珍しく雨が上がって月が見えていますよ!
モリアーティ:…チェスか…ふっ、僕は…負けないさ…、そう、だ…あたら…しい、情報…は…
ジャック:…今宵は満月ですよ教授!ほら、とても綺麗です!
モリアーティ:い…い、だろう…僕に、ついて…こ…ぃ
0:【間】
ジャック:…そう…だ、気分を変えて次は別の国へ行きませんか?態勢を立て直してまた世直しを仕掛けるんです
0:【間】
ジャック:教授、目を…開けないと、今宵の美しい月が見えませんよ、ほら…闇に浮かぶ、美しい、宝石ですよ
0:【間】
ジャック:ずっとずっと、一緒に…お傍にいます。ほら、見てください、教授、月が…綺麗ですよ
0:【長めの間】
アイリーン:【N】3日後、ホームズ邸にて
ワトソン:あにきいいい!あにきいいい!!!うわああああああん!
ホームズ:一応、話を聞こうか
ワトソン:セシリアが結婚してるらしいんすよ!!俺の心のオアシスがああああ!
ホームズ:私たちが世話になった病院のナースじゃないか
ワトソン:そうっすよ!3日前に俺たちが運び込まれた病院の天使っす!
ホームズ:キミにしては3日も待つとは珍しいな
ワトソン:そりゃあ、俺だって空気は読めるっすからね!舐めてもらっちゃ困るっす!
ホームズ:そのようだ
ワトソン:あ!そういえば、アイリーンさんは?
アイリーン:ここだ
ワトソン:んわぁ!?何してるんすかそんなとこで!!
アイリーン:見て分からないのか、掃除だ
ワトソン:掃除?
アイリーン:この馬鹿ホームズが病院は退屈だと我儘を言うもんだからな、自宅療養になったはいいが、どこを見ても本、本、本!捜査資料!紙の山じゃないか!埃を被った置物に、誰の趣味か分からんバイオリンに蓄音機、物が多すぎるからこうやって掃除を始めたんだ、看病といっても四六時中見張っているだけではつまらないからな
ホームズ:国へ帰ってもいいと何度も言っているんだが
アイリーン:おまえが治るまではいてやるから、有難く思え
ホームズ:この一点張りで私も困っている
ワトソン:ははっ、アイリーンさんには誰も勝てないっすね!
アイリーン:当たり前だ
ワトソン:そーだ!新聞来てたっす!ここ連日ずっと同じ内容っすよね
アイリーン:そりゃそうだろうな、モリアーティ教授の失墜と暴かれた裏の顔、そして行方不明ときたら…記者からしたらこれ程までに心躍る内容はないだろうさ
ホームズ:やはり遺体は見つからないか
ワトソン:そうみたいっすね…でも、あんな高さから滝つぼに落ちて、助かるもんなんすか?!
アイリーン:無理だ、断言出来る
ホームズ:道具を使わずに、落ちただけならね
ワトソン:え?どういうことっすか?
ホームズ:さぁ、どうだろうね、私にも未知の世界だからただの予測でしかない
アイリーン:何かしらの方法を使ったとなると助かっている可能性はあるが、正直、モリアーティ教授は厳しいだろうな
ワトソン:そうっすよね…
ホームズ:神のみぞ知る、という事象だ
ワトソン:アニキにも分からないことがあるんすね!
アイリーン:ははっ、確かにそうだな、よく言ったワトソン!
ホームズ:キミたちは、アフタヌーンティーはいらないということだね
ワトソン:いるっす!はいはいはーい!大天才のホームズ様!!お願いします!
アイリーン:あのなぁ、用意するのは僕なんだからな?
ホームズ:用意出来ないのであれば私が動こう
アイリーン:待て!おまえは絶対に安静だ!僕がやる!
ホームズ:そうか、助かるよアイリーン
アイリーン:ふんっ、すぐ持ってくるから待っていろ
ワトソン:そーいえば、少し前にモリアーティ教授が、愛を語る時おまえはどうするか?って問いかけがあったじゃないっすか
ホームズ:そんなこともあったね
ワトソン:俺ずっと気になってたんすよ、アニキはなんて答えるんだろうって
ホームズ:私か、そうだね
アイリーン:持ってきたぞ、ほら、机の上に置くからな
ワトソン:ありがとーっす!アイリーンさんが淹れたティー初めてっす!いっただきまーす!!んぐっ、んぐっ…ぐあああああああ!!?なんすかこれええええ?!
アイリーン:ん?元気が出る辛味成分を配合してみたのだが
ワトソン:げほっ、げほっ…なにしてるんすかぁ!!喉が焼けてるみたいに熱いっすよぉぉぉ!
アイリーン:おかしいな、配合が誤ったのだろうか
ワトソン:もー!!!勘弁してくれっすよ~アイリーンさぁん!!
アイリーン:ははっ!すまんな!
0:【間】
ホームズ:【M】私は愛を語らない。愛は、この目でみて触れて、愛でるものですよ、教授
0:【間】
ワトソン:アニキ!何笑ってるんすかぁ!!
アイリーン:ほぅ、こいつがこんな風に笑うなんて珍しいな
ワトソン:え!そうなんすか?!アニキはいっつも笑ってるっすよ?
アイリーン:なるほどな、僕の前では笑えない理由があるということだな、ホームズ!
ワトソン:え、え、え!俺なんかまずいこと言いました?!アニキィ!外なんて見てないでこっちなんとかしてくださいよぉ!!
ホームズ:【M】苦くて、甘くて、切り離せず、寄り添うように、私たちと共にある、情勢が変わっても知らぬ顔で全てを包み込み、洗い流す
0:
ホームズ:【M】飽きもせず何度だってこれからも思うのだろう、降り注ぐことを忘れるまできっと、永遠に。私の口癖が移るまで傍にいるキミのように、これからもずっと
0:
ホームズ:ぁあ、ロンドンの街は、今日も、雨だ
0:
0:END
0:Dolce Unto lover
0:(ドルチェ ウント ラバー)
0:最終章ー最愛ー
0:
ホームズ:【N】鳴り響く1発の銃声
アイリーン:ホームズ!!!
ホームズ:【N】音もなくゆるりと倒れる身体
ジャック:【裏】ひゃははははは!!!赤だぁ、真っ赤な赤だぁあぁ
モリアーティ:実に残念だよ、ホームズ君
ワトソン:あにきいいいいいいいい!!
ホームズ:【N】ドルチェ ウント ラバー、最終章ー最愛ー
0:
ホームズ:【N】時は2週間前に遡る
0:
ワトソン:うーーーん
ホームズ:…ふむ
ワトソン:ん~~~~~~うがあ!
ホームズ:少しは黙ってティーを嗜むことは出来ないのかキミは
ワトソン:無理ですよ兄貴!覚えてますか?!先日ジャックさんに連れられて、ここに!あの!モリアーティが来たんですよ!
ホームズ:そうだったなぁ
ワトソン:そうだったなぁ~じゃないんですよ!招待状、渡されましたよね!2週間後に迫ってきてるっていうのに、俺ら対策を打つどころか至極普通の生活を送ってますよね?!
ホームズ:それがどうした?
ワトソン:あのモリアーティですよ!?本当にこのままでいいんですか!俺は良くないと思うっすよ!
ホームズ:…はぁ
ワトソン:なんすか!その、やれやれ、って顔!
ホームズ:キミはあれだな、レディを追いかけている時と難事件を追いかけている時以外はどうしようもないな
ワトソン:なっ、なっ、なーにが悪いんすかそれの!!!
ホームズ:浅はかだと言っているんだよ
ワトソン:俺は兄貴を心配してるんすよ!
ホームズ:心配か、随分と可愛いことを言う
ワトソン:そうやって人をおちょくるのもいい加減にしてくださいよ!
ホームズ:事実だ
アイリーン:またワトソンをいじめてるのか、ホームズ
ホームズ:っ?!
ワトソン:アイリーンさん!!お久しぶりっす!
ホームズ:キミ、ノッ【遮る】
アイリーン:ノックはした。それに気づかなかったマヌケな探偵は誰だ
ホームズ:…わたしだ
アイリーン:素直なガキは嫌いじゃない
ホームズ:なぜキミがここにいる、確かフランクフルトに滞在していたはずだ
アイリーン:予定が変わったんだ、君のところの坊やが、僕を呼んだ
ホームズ:ワトソン
ワトソン:ぎっくぅ!!だっ、だって!仕方ないじゃないっすか!少しでも味方がいたほうが!
アイリーン:ワトソンを叱るな、僕だって不要と思えば来なかったさ
ホームズ:私は愛されているものだね
アイリーン:千差万別、多くの者から愛されるキミを僕は嫌いじゃないが、今回の件に関してはそれで済まないだろ?
ホームズ:嫌なことを言う性格は”相変わらず”のようで安心したよアイリーン
アイリーン:長期休暇を取った、しばらくはここに居させてもらう
ワトソン:まじっすか!?やったぁ!やったぁ!
ホームズ:はぁ…
ワトソン:兄貴は俺の言うことなんて聞いちゃいないっすからねぇ!やっぱりアイリーンさんからの言葉が1番っすよ!
アイリーン:ふっ、弟子にここまでの言われようとは、貴様も落ちたものだな
ホームズ:それほどキミは私にとっての弱点である、という認識をもったらいかがかな
アイリーン:弱点だからと言って、守備に徹するだけではなんの美学もないじゃないか
ホームズ:キミはそういう人だ
アイリーン:僕はキミにとってのクイーンであり、ジョーカーだ
ホームズ:ほぅ
アイリーン:少しは笑ったらどうだ?唯一の家族がわざわざ半年ぶりに姿を見せたのだぞ
ホームズ:生憎、振りまく愛想は依頼人相手にだけ、と決めている性分なものでね
ワトソン:本当に兄貴とアイリーンさんって似た者同士っすよね
ホームズ:ワトソン君、キミは随分と私に叱られたいようだね
ワトソン:お、俺!買い物行くんだった!ははは!ちょーっと行ってくるっすー!!
アイリーン:逃げられたな、ホームズ
ホームズ:随分と嬉しそうだなアイリーン
アイリーン:一人だった君の城が、随分と賑やかになっていて嬉しいんだよ
ホームズ:本を読む時間すら取れないよ
アイリーン:良いことだ
ホームズ:ふっ、キミは本当、どうしようもないな
アイリーン:ははっ、キミも、どうしようもない奴だ
0:【間】
モリアーティ:【N】街中にて
0:
ワトソン:はぁ~怖かった~危うくまた兄貴を怒らせるところだった
ジャック:またイタズラしたんですか?ワトソンさん
ワトソン:ジャックさん!!?何でこんなとこに?!
ジャック:こんにちは、ワトソンさん。本日は珍しく天気が良いですね
ワトソン:こ、こんにちはっす…じゃなくて!
ジャック:買い物ですよ、三番街でしか手に入らない薬が入用でして
ワトソン:ふ~~ん、そっすか
ジャック:あまり機嫌が良くないのですか?
ワトソン:何言ってんすか!俺らに宣戦布告してきたのはそっちっすよね!
ジャック:あぁ、この前の…それは申し訳ありません、私は、危害を加えるつもりはなくてですね
ワトソン:知ってるっすよ、でも言葉が足りないっす。昼のあんたは危害を加えるつもりはない、が正しいっすよね
ジャック:ははっ、困ったな。そこまで警戒されると悲しいですよ
ワトソン:昼のあんたは温厚で人当りも良くて俺も嫌いじゃないっすよ、でも、夜のあんたと切り離すことは出来ないんすよ
ジャック:ワトソンさん、あなたは女性の前でも同じ顔をしますか?
ワトソン:え?
ジャック:女性じゃなくとも、例えば家族や、愛するもの、幼子やご老体の方、または私のような殺人鬼に対しても同じ感情をもつことは出来ますか?
ワトソン:いきなりなんすか
ジャック:あなたが崇拝するホームズさんだって違う顔を持っているかもしれませんよ
ワトソン:何が言いたいんすか
ジャック:私だけが特殊なわけではないということですよ
ワトソン:俺は
ジャック:はい
ワトソン:悲しい時も楽しい時も俺っすよ。それ以上も以外もないっす
ジャック:ほぅ
ワトソン:サイコロみたいに転がるっす…色んなことがあるから、どんな目が出ても俺は俺っすよ、それが人だと俺は思うっす
ジャック:サイコロ…ははっ、ワトソンさんらしい、しかし、面白いですね
ワトソン:あんたに出会ってから色んな面を見てきたっす、でも嫌いじゃない、だからと言って罪を許す気もない
ジャック:寛大な心をお持ちですね
ワトソン:ジャック、俺らをなめるなよ
0:【間】
ワトソン:じゃ!俺は買い物行ってくるっす!
ジャック:午後から、天気が変わるそうですよ、早く帰った方がいい
ワトソン:2週間後楽しみにしてるっすよ
ジャック:えぇ、私も楽しみです
0:
アイリーン:【N】ワトソンを見送るジャックの背後に現れるモリアーティ
0:
モリアーティ:嬉しい事でもあったのかい?
ジャック:教授、やはりいらっしゃったのですね
モリアーティ:彼も気づいていたようだ
ジャック:そうみたいですね
モリアーティ:随分とアレは成長したようだね
ジャック:私と出会った頃はまだ子供だったのですが
モリアーティ:成長というのは子供は特に早いからな
ジャック:子の成長を見届けること程嬉しいことはありません
モリアーティ:それは僕も同感だよ
ジャック:孤児として拾われ…私の医院へ通いながら、あなた様自ら教鞭をとった子供が…今や、ホームズの助手ですよ
モリアーティ:感慨深いな、少々気に食わないが
ジャック:何か気に障る事でも?
モリアーティ:ふっ、僕たちがまるで悪者のようなシナリオの進み方じゃないか。あの子に捕まる未来が一瞬見えてしまったよ
ジャック:教授らしくないお言葉ですね
モリアーティ:感傷というものだろう、僕も人の子ということだ
ジャック:あなた様が人の子というのはなんとも信じ難いですね
モリアーティ:キミには僕が悪魔の子にでも見えるというのかい
ジャック:いいえ
モリアーティ:聞こうか
ジャック:あなた様は全てを無に帰す力もあり、そして無から有を生み出すこともする
モリアーティ:ほぅ
ジャック:神のようなお方だと…そう、認識しております
モリアーティ:いささかキミは僕を買い被る癖(へき)があるようだ
ジャック:そんなことはありません
モリアーティ:まぁいい。そうか…神か。おこがましい上にいつか本当の神に罰を下される気がするよ
ジャック:教授、今日のあなたは少々…そうですね、仰せのように、感傷に浸っておいでのようだ
モリアーティ:なぜだか分かるかい
ジャック:いいえ
モリアーティ:あと3分程でまた雨が降る
ジャック:3分ですか?珍しくこんなに良い天気だというのに?
モリアーティ:陽の光は、良くないな、眩しくて…幼き日を彷彿とさせる
ジャック:あなた様には夜がお似合いです
モリアーティ:キミもだよ、ジャック
ジャック:光栄なお言葉です
モリアーティ:行こうか、我々の時間がやってくる
ジャック:はい、教授
0:【間】
ワトソン:【N】1897年5月4日16時ジャスト。ライヘンバッハ、モリアーティ別荘宅にて
0:
ホームズ:本日はお招きいただき感謝するよ
ジャック:ようこそ、ホームズさん
ワトソン:こんな広い城を所有してるなんてさすがっすね
ジャック:教授のお力ですよ、ワトソンさん。ようこそ
アイリーン:僕は初めましてだね、ジャック君
ジャック:えぇ、初めまして、アイリーンさん。お噂は兼ねがね…お目にかかれて光栄です
アイリーン:僕もだよ
ジャック:さぁ皆様、ご案内致します。こちらへどうぞ、社交界随一のメインホールです
ワトソン:玄関ホールも広かったっすけど、パーティー会場は比にならないくらいの広さっすね
ホームズ:招待客も随分と大物ばかりのようだね
アイリーン:裏社会で一度は聞いたことのある貴族ばかりときたか
ジャック:何かありましたら使用人へお申しつけくださいね
ホームズ:私は預けるものは特にないよ
ワトソン:俺はコートとハットお願いするっす!
アイリーン:僕はトランクをお願いしようかな
ジャック:定刻になり次第教授からご挨拶がありますので、それまでどうぞご歓談ください、私は一旦失礼致します
ホームズ:ワトソン君、キミの好きなパエリアがあるようだ
ワトソン:え!まじっすか!くぁー!!スペインのアロンディを思い出して涙出てきそうっすよー!
アイリーン:ホームズ、キミの好きな白ワインも置いているようだよ、取ってきてもらうかい
ホームズ:教授の私への意向かな、有難く頂戴するとしよう
ワトソン:しっかし、こんだけ人がいるってのにな~んか不思議っすよね
アイリーン:あくまで僕たちはゲストということだ
ホームズ:そのようだ
ワトソン:は~ぁ~どんなんでも俺は社交界ってな~んか苦手っす
アイリーン:この中でキミが一番幼くみえるよワトソン
ワトソン:アイリーンさんまで兄貴みたいに俺をいじめるんすか!
アイリーン:ははっ、キミは楽しく鳴いてくれるものだからついね
モリアーティ:紳士淑女の諸君お待たせしてしまい申し訳ない
ワトソン:お出ましっすね
モリアーティ:今宵は当家主催のパーティーへお越しいただき感謝する
アイリーン:いつ見ても食えない顔をしているな
モリアーティ:まず初めに簡単な挨拶から失礼
モリアーティ:昨今の情勢について皆はどう捉えているだろうか、女王の旗のもとに集う民衆は幸福を感じているだろうか
モリアーティ:僕はこう思う
モリアーティ:真の平和とは失ってから気づくものだと
モリアーティ:戦場とは日常に溢れているのではないだろうか
モリアーティ:正しきものは本当に正しいのだろうか、与えられた正義に対してなぜ疑問を持たないのか
モリアーティ:今宵はその答えを聞くためにゲストを招待した。
モリアーティ:かの有名な名探偵、シャーロック・ホームズ、こちらへ来たまえ
ワトソン:なっ?!
アイリーン:ホームズ
ホームズ:ほぅ
モリアーティ:キミの考えを聞かせてくれないか?
ホームズ:上流階級の皆様にお話しすることなんて何もありませんよ、教授
モリアーティ:ここにいる者はキミに興味がある
ホームズ:ただのしがない探偵に期待をしないでもらいたい
モリアーティ:謙遜というやつか、似合わないことを
ホームズ:まぁ・・・そうですね、折角の場です。私から一つ、皆様へ謎かけをしましょう
モリアーティ:ほぅ、面白い
ホームズ:庶民向けの露店が立ち並ぶストリートで、不思議なことが起きました
ホームズ:客が来ているわけでもないのに、なくなるんですよ、カットフェルやラズベリーが
ホームズ:それも毎日、1つずつ
ホームズ:いつからなくなっていたのかは分かりませんが、明らかに減っていることに気づいた店主が少々細工をしたそうです
ホームズ:大量に置かれている籠の中、隣り合うカットフェルに少しの傷を入れ、本当になくなっているのかどうか様子を見ようと試みました
ホームズ:結果としては、やはりその日も1つ、なくなったんです
ホームズ:カラスにしては持ち運べるサイズではなく、ストリートチルドレンだとしても露店がひしめき合っていますからね、周りが気づくだろうと、それでは誰が?
ワトソン:この話ってあの時の
アイリーン:知っているのかワトソン
ワトソン:俺たちが最初に解決した事件っす
ホームズ:店主に詳しく話を聞くと、分かったことがありました、カットフェルがなくなる時間は決まって暗くなってからだと
ホームズ:あまりにも続いているのでゴーストの類ではないか、などと噂も広まったくらいです
ホームズ:さて、皆様はこの凡庸でシンプルな事件をどう紐解かれますか?
アイリーン:ワトソン、あいつは何が言いたいんだ
ワトソン:いや…俺も分からないっす…兄貴…?
モリアーティ:結末を聞こうか
ホームズ:犯人は、犬でした。それも真っ黒な雑種です
アイリーン:犬?
ホームズ:私は店主が施した細工に、更にひと手間くわえました、と言っても、小さな鈴をつけただけ、なのですがね
ホームズ:顛末としては簡単です、やはりその日も陽が落ちてからでした。鈴が鳴ったんです、それを追いかけた
ホームズ:うちには割と優秀な助手がいましてね、そんな彼でもギリギリ、といったところでしょうか、駆け抜ける鈴の音を追ったんですよ
ホームズ:行きついた先は村の外れにある小屋でした、家の灯が差してここでようやく相手が犬だったことが分かりました
モリアーティ:なんとも、くだらない顛末のようだな
ホームズ:この話がここで終われば、その感想が真っ当だと言えますね
アイリーン:どういうことだ?
ワトソン:躾られてたんすよ、徹底的に
アイリーン:躾?
ホームズ:犬というのは愛らしく主人に従順だ、小屋の住人は家族とも言えるその犬に、要は盗みのイロハを教え込んでいたんです
ホームズ:不可能なことではありません、実際に犬が行っていることはとてもシンプルでしたからね
ホームズ:教授に問いましょう、この事件は、躾た主人が悪いのか、それとも実際に盗みを働いた犬が悪いのか
モリアーティ:ふっ、愚問だな、躾というのはこういうことを言う
モリアーティ:ジャック
ジャック:【裏】あいよぉ!
ワトソン:なっ?!照明が!
アイリーン:くっ…視界を奪うかモリアーティ
モリアーティ:ここからが本当の余興の始まりだ
ワトソン:っ!照明が戻ったっすね…アイリーンさん!?
アイリーン:なるほど…な
ジャック:【裏】悪ぃなぁ、これが一番早ぇんだぁ
ワトソン:卑怯っすよ!!
アイリーン:動けば頸動脈一発だな、これは…
ワトソン:そのナイフを引くっす!
ジャック:【裏】馬鹿かぁおまえぇ、はい、引きます、なんて言うわけねーだろぉが!ひゃはははは!
アイリーン:ワトソン、落ち着け
ホームズ:教授、これはとても面白い余興ですね
モリアーティ:こんなものが余興とは言わないさ
ホームズ:では、いかがお考えでしょうか
モリアーティ:ワトソン君
ワトソン:なんすか
モリアーティ:キミを試そう
ワトソン:どういうことっすか!
ジャック:【裏】おまえの右ポケットだぁ、表の俺が既に仕込んでる
ワトソン:右…ポケット…なっ?!
ジャック:【裏】ひゃははは!ホームズの野郎をなぁ、おめぇのその手にある拳銃で
モリアーティ:撃て
ワトソン:嫌だ!!!
ジャック:【裏】ちげぇだろぉが!!!はい、喜んで♪だ、馬鹿が!!
アイリーン:くっ!
ジャック:【裏】おっとっと、悪ぃなぁ…ちょ~っと刃が当たっちまったぁ
ワトソン:あに、き…俺、無理っすよ…
アイリーン:僕に構わなくていいワトソン
モリアーティ:安心したまえ、ホームズを撃ったところでキミは捕まらない
ワトソン:そういうことじゃないと分かっていてそれを言うのか…モリアーティ!
モリアーティ:教授、だ
ワトソン:無理っすよ…俺が…撃つなんて…
ジャック:【裏】言い忘れてたけどよぉ、脚だとか腕だとか生ぬるい撃ち方したら、分かってるよなぁ?
ワトソン:む、無理っすよ…俺はこんなこと…
ホームズ:アイリーン、後は頼んだ
ホームズ:キミに賭けよう
ジャック:【裏】下手な真似はするんじゃねーぞホームズゥ
ホームズ:教授、物語というのは面白くあってこそ、ですよね?
モリアーティ:あぁ、勿論だ
ホームズ:ワトソン君、キミにも期待している
ワトソン:あに、き?
ホームズ:また会おう
ワトソン:なっ?!
ジャック:【裏】仕込み銃だぁ!?
ホームズ:【N】鳴り響く1発の銃声
アイリーン:ホームズ!!!
ホームズ:【N】音もなくゆるりと倒れる身体
ジャック:【裏】ひゃははははは!!!赤だぁ、真っ赤な赤だぁあぁ
モリアーティ:実に残念だよ、ホームズ君
ワトソン:あにきいいいいいいいい!!
モリアーティ:杖に仕込んだ銃で己を撃つか、なるほど…ふっ、はっはっはっはっ、面白い…僕の予想を超えてくる!さすがだよホームズ!
ワトソン:あにき!あにき!うわああああああ!!!!!
アイリーン:なぁ、ジャック
ジャック:【裏】あぁ!?俺は今超絶気分がいいんだぁ!!話しかけんな!うっかり手が滑っちまうかもしれねぇからよぉ
アイリーン:僕には特技があるんだ
ジャック:【裏】あぁ?特技だぁ?今そんなの関係ねぇだ(ろぉが)
アイリーン:(同時に被せる)ジャック。眠るんだ
モリアーティ:(同時に被せる)ジャック。眠るんだ
ジャック:【裏】なっ?!…んだとっっ!?く、そ…がぁ…
モリアーティ:これは随分と
アイリーン:モリアーティ教授、あなたの相棒には退場していただきますよ
アイリーン:ワトソン、立て
ワトソン:アイリーンさん…でも、あにきが…あにきが!!!
アイリーン:ホームズの左ポケットにキつけ薬(やく)がある、これを奴の口に放り込め、すぐ目を覚ます
ワトソン:わかりました!
アイリーン:教授、あなたに感謝を述べたい。メディアに露出が多いあなたのお陰で、声帯模写をするための材料に困ることはなかった
ワトソン:あにき!あにき!これ…でっ!どうっすか!?口に入れったす!
ホームズ:…ぐっ。
アイリーン:早く起きろホームズ
ワトソン:あにき!!!
ホームズ:もっとマシな味はなかったのか、アイリーン
アイリーン:次からは味の要望も出しておくんだな
ワトソン:あにきが生き返った…あにきぃぃぃ!!!
ホームズ:待ちたまえワトソン君
ワトソン:へっ?!
ホームズ:飛びついて来る気でいるのならば、今は遠慮してもらえると助かる
アイリーン:何本イった?
ホームズ:ろっ骨が2…いや、お陰様で1本で済んだようだ
ワトソン:あにき!血は?!傷は大丈夫なんすか?!
アイリーン:ワトソンすまないな、ホームズに弾は貫通していないんだ
ワトソン:え?!どういうことっすか?!
ホームズ:空砲と同時に仕込んでいた血のりを破裂させたんだよ
アイリーン:ゼロ距離で胸を撃つことは決めていたからな。鉄板の入った防弾ベストを装着させたが…さすがに空砲でもやはり折れたか
モリアーティ:本当にキミは、僕を驚かせてくれる
ホームズ:地獄に来るのは早いと門番に言われましてね。
アイリーン:あなたの剣をどうやって折るか、随分と悩みましたよ
ワトソン:も、もしかして…俺だけ知らなかったってオチっすか?!
ホームズ:キミに話したところで止められると思ったからね
アイリーン:怒らないでくれよワトソン
ワトソン:な!な!な!?…あったりまえじゃないっすか!!どっちにしろ怒るに決まってるっすよ!!!
ホームズ:大きい声を出すな、骨に響く
アイリーン:僕かキミが狙われることは想定していたんだ。素直なワトソンの反応がないと敵を欺けないと考えたから、より秘密にしておく必要があったんだ
ワトソン:まぁ…俺は確かに、演技とか出来ないっすから反論出来ねぇっす
モリアーティ:聞きたいのだが、そこに転がっているものが使い物にならなくなったからと言って、僕が終わるという根拠は何かあるのだろうか
ホームズ:えぇ、勿論。これであなたをラクに拘束出来る
モリアーティ:ふっ、拘束か…意味のないことを
アイリーン:意味だと?
モリアーティ:罪のない僕をどう裁くうもりだ
ホームズ:殺人、殺人教唆(きょうさ)、誘拐、横領、ドラッグ…埃は叩けば出るものですよ
モリアーティ:監獄に入ったとしても金と権力が全ての世の中だ、僕はすぐに釈放となるだろうな
ホームズ:それは無理です
モリアーティ:何を根拠に
ホームズ:女王からのお達しですよ、さすがにあなたの行動は目に余る、と。
モリアーティ:馬鹿げたことを…
ホームズ:本当ですよ。明朝(みょうちょう)、あなたは逮捕される
ホームズ:教授、チェックメイトですよ
0:【間】
モリアーティ:ふっ、僕は負ける勝負はしない主義だ
アイリーン:っ!?奴も仕込み銃を!?ホームズ!これを使え!弾入りだ!
ホームズ:感謝する
ワトソン:あにき!
アイリーン:動くなワトソン!
モリアーティ:終わるのはキミだ、ホームズ
0:【銃声】
ホームズ:【N】2発の銃声が、響き渡る
0:【間】
モリアーティ:ぐっ…!!
アイリーン:ホームズ!無事か?
ホームズ:問題ないよ
ワトソン:モリアーティは!?
モリアーティ:…(ジャ)ック……!
ホームズ:自身で動くことは無理だろう
モリアーティ:…(ジャ)ック!ジャック、起きろ!!
ジャック:はっ!
ワトソン:なに?!
ジャック:教授!!今お傍に!
アイリーン:行かせるか!
ジャック:邪魔です
アイリーン:くっ!!なんて動きだ!
ジャック:申し訳ございません、申し訳ございません教授…!!出血が…!あぁ…なんということだ…
モリアーティ:黙…れ
ジャック:すぐに止血します
モリアーティ:ジャック、命令だ
ジャック:何なりとお申し付けください
モリアーティ:僕のかわりに、あいつらを…殺せ
ジャック:承知しました
モリアーティ:いや、ここにいる者は皆殺しにしろ
ワトソン:なっ?!
アイリーン:ホームズ!まずいぞ!
モリアーティ:眠るんだ、ジャッ
ワトソン:させねーっすよ!!!
ジャック:ぐぁっ!!
ワトソン:アニキに教わった体術っす
ジャック:ごほっごほっ…良い蹴りでしたよ、ワトソンさん
ワトソン:俺は、ジャックさんやモリアーティ教授のやっていることが、正義とは思えないっす
ジャック:キミも分かっているはずですよ、この国の格差社会、欲にまみれた大人が蔓延(はびこ)る世の中のことを
ワトソン:当たり前じゃないっすか・・・だからこそ!俺は!今!光の傍にいるんだ!
ジャック:価値観の相違ですよ、私は教授こそが光だと思っているだけです
ワトソン:罪のない人を不幸にすることが正義なわけあるか!
ジャック:…っ!
ワトソン:あんたは!知ってるはずだ!あったかい陽だまりを!見てみぬフリをしてるんすよ!
ジャック:知りませんよ…どんなに目を開けても見えないものを…どう見ろというんですか!
ジャック:頭の中でもう一人の私は常に血を浴びている、殺せと囁く…気づけばもう何人も手に掛けて…
ワトソン:あんたのママはもういないんすよ!!
ジャック:あああああああああああああ!!!やめろ!言うな!ふ、ざっけんなぁ!が、ががが!ぁあ…ガキが…うるせぇんだよ!!
ワトソン:俺を見ろ!
ジャック:うる…せぇ!
ワトソン:俺を見ろって言ってんだ!ジャック!!!
ジャック:ぐぁっ!!!!
アイリーン:頭突きだと!?
ワトソン:おまえの目に俺は不幸に映るかよ!?人は、変わることが出来る!だから…ジャックさんも変われるんすよ!
ジャック:…ははっ、私の目にはあなたが眩しい、あなただけじゃない、私は、あなたたちと生きることが出来たらきっと…いえ、やめましょう、私は後悔していないんです
ワトソン:ジャックさん…
ジャック:失礼
ワトソン:ぐっ!!!
アイリーン:ワトソン!!
ジャック:鳩尾(みぞおち)です、少し動けなくなるだけなので、大丈夫ですよ
ホームズ:どうするつもりだ
ジャック:今宵はとても楽しい夜でした、一足先に私たちは失礼させていただきます
アイリーン:無理だ。そのテラスからは656フィートもの落差のある滝がすぐ傍にある、モリアーティを背負ったキミでは回避のしようがない
ホームズ:キミらしくない判断だと思うが
ジャック:ホームズさん、知っていますか?猫は死ぬとき主人の前からいなくなるそうです
ジャック:野良犬はどうなんでしょうね、はたまた、飼い犬であれば、どうなんでしょうか
ジャック:私は、私だったら、主人だけがいる世界で、傍にいることが出来たらそれでいいと、そう、思います
ワトソン:ダメっすよ…!
ジャック:ワトソンさん、本当に強くなりましたね
ワトソン:ジャックさん!!
ジャック:皆さん、またどこかでお会いしましょう
アイリーン:やめろ!!
ワトソン:ジャックさああああああああああん!!
ホームズ:【N】雨が止み、雲の切れ間から覗く月に照らされて…医者であり、民衆を恐怖に陥(おとしい)れた殺人鬼は、主人を背負い、微笑みながら、闇夜に身体を投げた
0:【4秒の間】
ジャック:ぷはぁ!げほっ!ごほっ!申し訳ございません教授、奴らから逃げるためにはこの方法しか思いつかなくてですね
モリアーティ:ごふっ、かはっ…かまわん
ジャック:さぁ、岸まで泳ぎますよ、少々揺れるのでもう少しだけ辛抱してくださいね
モリアーティ:表のおまえに…助けられるとは…
ジャック:私だってやる時はやりますよ
モリアーティ:…ぁあ、その…よ(ぅ)…だな…
ジャック:教授、大丈夫ですよ、もうすぐですからね
モリアーティ:ぁあ…
ジャック:教授?大丈夫ですか?
モリアーティ:なんだ、珍しい顔ぶれじゃないか、ポーロックにモラン…、ヘルダーまで、揃いもそろって…何の用だ
ジャック:教授…?
ジャック:…み、見てください!教授!珍しく雨が上がって月が見えていますよ!
モリアーティ:…チェスか…ふっ、僕は…負けないさ…、そう、だ…あたら…しい、情報…は…
ジャック:…今宵は満月ですよ教授!ほら、とても綺麗です!
モリアーティ:い…い、だろう…僕に、ついて…こ…ぃ
0:【間】
ジャック:…そう…だ、気分を変えて次は別の国へ行きませんか?態勢を立て直してまた世直しを仕掛けるんです
0:【間】
ジャック:教授、目を…開けないと、今宵の美しい月が見えませんよ、ほら…闇に浮かぶ、美しい、宝石ですよ
0:【間】
ジャック:ずっとずっと、一緒に…お傍にいます。ほら、見てください、教授、月が…綺麗ですよ
0:【長めの間】
アイリーン:【N】3日後、ホームズ邸にて
ワトソン:あにきいいい!あにきいいい!!!うわああああああん!
ホームズ:一応、話を聞こうか
ワトソン:セシリアが結婚してるらしいんすよ!!俺の心のオアシスがああああ!
ホームズ:私たちが世話になった病院のナースじゃないか
ワトソン:そうっすよ!3日前に俺たちが運び込まれた病院の天使っす!
ホームズ:キミにしては3日も待つとは珍しいな
ワトソン:そりゃあ、俺だって空気は読めるっすからね!舐めてもらっちゃ困るっす!
ホームズ:そのようだ
ワトソン:あ!そういえば、アイリーンさんは?
アイリーン:ここだ
ワトソン:んわぁ!?何してるんすかそんなとこで!!
アイリーン:見て分からないのか、掃除だ
ワトソン:掃除?
アイリーン:この馬鹿ホームズが病院は退屈だと我儘を言うもんだからな、自宅療養になったはいいが、どこを見ても本、本、本!捜査資料!紙の山じゃないか!埃を被った置物に、誰の趣味か分からんバイオリンに蓄音機、物が多すぎるからこうやって掃除を始めたんだ、看病といっても四六時中見張っているだけではつまらないからな
ホームズ:国へ帰ってもいいと何度も言っているんだが
アイリーン:おまえが治るまではいてやるから、有難く思え
ホームズ:この一点張りで私も困っている
ワトソン:ははっ、アイリーンさんには誰も勝てないっすね!
アイリーン:当たり前だ
ワトソン:そーだ!新聞来てたっす!ここ連日ずっと同じ内容っすよね
アイリーン:そりゃそうだろうな、モリアーティ教授の失墜と暴かれた裏の顔、そして行方不明ときたら…記者からしたらこれ程までに心躍る内容はないだろうさ
ホームズ:やはり遺体は見つからないか
ワトソン:そうみたいっすね…でも、あんな高さから滝つぼに落ちて、助かるもんなんすか?!
アイリーン:無理だ、断言出来る
ホームズ:道具を使わずに、落ちただけならね
ワトソン:え?どういうことっすか?
ホームズ:さぁ、どうだろうね、私にも未知の世界だからただの予測でしかない
アイリーン:何かしらの方法を使ったとなると助かっている可能性はあるが、正直、モリアーティ教授は厳しいだろうな
ワトソン:そうっすよね…
ホームズ:神のみぞ知る、という事象だ
ワトソン:アニキにも分からないことがあるんすね!
アイリーン:ははっ、確かにそうだな、よく言ったワトソン!
ホームズ:キミたちは、アフタヌーンティーはいらないということだね
ワトソン:いるっす!はいはいはーい!大天才のホームズ様!!お願いします!
アイリーン:あのなぁ、用意するのは僕なんだからな?
ホームズ:用意出来ないのであれば私が動こう
アイリーン:待て!おまえは絶対に安静だ!僕がやる!
ホームズ:そうか、助かるよアイリーン
アイリーン:ふんっ、すぐ持ってくるから待っていろ
ワトソン:そーいえば、少し前にモリアーティ教授が、愛を語る時おまえはどうするか?って問いかけがあったじゃないっすか
ホームズ:そんなこともあったね
ワトソン:俺ずっと気になってたんすよ、アニキはなんて答えるんだろうって
ホームズ:私か、そうだね
アイリーン:持ってきたぞ、ほら、机の上に置くからな
ワトソン:ありがとーっす!アイリーンさんが淹れたティー初めてっす!いっただきまーす!!んぐっ、んぐっ…ぐあああああああ!!?なんすかこれええええ?!
アイリーン:ん?元気が出る辛味成分を配合してみたのだが
ワトソン:げほっ、げほっ…なにしてるんすかぁ!!喉が焼けてるみたいに熱いっすよぉぉぉ!
アイリーン:おかしいな、配合が誤ったのだろうか
ワトソン:もー!!!勘弁してくれっすよ~アイリーンさぁん!!
アイリーン:ははっ!すまんな!
0:【間】
ホームズ:【M】私は愛を語らない。愛は、この目でみて触れて、愛でるものですよ、教授
0:【間】
ワトソン:アニキ!何笑ってるんすかぁ!!
アイリーン:ほぅ、こいつがこんな風に笑うなんて珍しいな
ワトソン:え!そうなんすか?!アニキはいっつも笑ってるっすよ?
アイリーン:なるほどな、僕の前では笑えない理由があるということだな、ホームズ!
ワトソン:え、え、え!俺なんかまずいこと言いました?!アニキィ!外なんて見てないでこっちなんとかしてくださいよぉ!!
ホームズ:【M】苦くて、甘くて、切り離せず、寄り添うように、私たちと共にある、情勢が変わっても知らぬ顔で全てを包み込み、洗い流す
0:
ホームズ:【M】飽きもせず何度だってこれからも思うのだろう、降り注ぐことを忘れるまできっと、永遠に。私の口癖が移るまで傍にいるキミのように、これからもずっと
0:
ホームズ:ぁあ、ロンドンの街は、今日も、雨だ
0:
0:END