台本概要

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タイトル アンダーインクコリダー第3場
作者名 冷凍みかん-光柑-  (@mikanchilled)
ジャンル ホラー
演者人数 5人用台本(男2、女2、不問1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 第3場”檻の中で”ワームスケルターの穴に落ち、大図書街(シェルフタウン)に堕ちたルビとアイオリス。ロザリオの案内のままに、超高層の最上階へと連れられる。その先の檻には何が潜むのか…巨大な地下空間を巡る冒険ファンタジー!

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
アイオリス 不問 66 地上へ帰るため、イオニアとドーリアを探す。
ルビ 49 地下書庫に住む少女。アイオリスを地上へ返すためについていく。息をひそめるように話す。
ロザリオ 32 大図書街のリーダー的な存在。地下の人々を想いながらも、強烈な地上への憧れを抱いている。
イオニア 24 先祖からの呪いを克服するために地下へ望むが、ロザリオに捕まってしまう。
ミマ 29 シェルフタウンの最高層の檻の中で暮らす少女。ルビとは旧知の仲であり、友情に異常な執着がある。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
ミマ:最上階の檻の中から、私は街を見下ろした。 ミマ:ここは永遠の夜の街。 ミマ:無限に並ぶ書棚の本。 ミマ:背表紙を照らす白熱電球。 ミマ:私にはこの街のすべてが見えている。 ミマ:でも実際はどうでもいいの。 ミマ:私が探すのはたった一つ。 ミマ:あなたの影。それだけ。 イオニア:〈タイトルコール〉『アンダー・インク・コリダー第3場”檻の中で”』 ロザリオ:さあ、こっちだこっち。 0:超高層の書棚群に見下ろされながら、アイオリスはシェルフ・タウンの通りを歩く アイオリス:誰もいない… ロザリオ:いいや。皆まだ避難から帰ってきていないだけさ。 ロザリオ:どうだい、地上でもこんな都会はないだろう アイオリス:地上に出たことがあるの? ロザリオ:いや、無いよ。憧れているけどね。 ロザリオ:出たくても出れないんだ。今はね。 ルビ:それも呪いのせいですか? ロザリオ:まあそんなとこかな。 アイオリス:呪いって? ロザリオ:フフフ。心配してくれるのかい?君は優しいねアイオリス。 アイオリス:〈モノローグ〉似ている。やはりイオニアの… ロザリオ:さ、着いたよ。乗ってくれ。外づけのエレベータで申し訳ないが。 0:アールヌーボーな鉄籠が降りてくると、ロザリオは柵を開いて中に乗るように促した ルビ:ほら、アイオリスも乗って。 アイオリス:うん。 ロザリオ:屋上へ参ります… 0:ロザリオが合図すると、エレベータはゆっくりと上昇を始めた。 アイオリス:すごいな。頂上まで行くの?動力源は何? ロザリオ:アイオリス、君は好奇心でいっぱいだね。気に入ったよ。 ロザリオ:エレベータは人力さ。 アイオリス:人力なのか。大丈夫なの? 0:エレベータが速度を緩やかに変化させるためには機動力を正確に制御しなければならない。 0:ゆえに動力源が人力のように不確かなモノだと、エレベータ内の安全性が著しく損なわれる。 ロザリオ:信頼していいよ。動かしているのは僕の兄弟たちだから。 ロザリオ:脳喰いに襲われようが、書棚が崩落しようが、彼らは僕がいいと言うまでエレベータを動かし続ける。 ロザリオ:そういう風に生きてるんだ。 アイオリス:なんだそれ。まるで軍隊じゃないか。 ロザリオ:さ、着いたよ。 0:中央に檜の浴室がぽつんと置かれているだけの、吹きさらしの階にてエレベータは止まった アイオリス:まだ屋上じゃないけど? ロザリオ:ははは。汚れたままでミマちゃんに合わせるわけにはいかないよ? ロザリオ:ミマちゃんが病気にでもなったらどうするんだ。 アイオリス:なるほど。そういうことなら ロザリオ:さ、君たちの服は下の階で洗うから、ここで脱いでくれ。 アイオリス:わかった。ルビ、先に入ってくれ。 ルビ:うん… ロザリオ:何を言ってるんだ?君たち”同時”だよ ルビ:ええっ!? アイオリス:こ、断るよ! ロザリオ:ワームスケルターのせいで水道管がやられてしまってね。水が貴重なんだ。 ロザリオ:僕の兄弟たちの飲み水だって、確保しなくちゃならない… ロザリオ:同時に入ってくれれば、本当に助かるんだけど… アイオリス:いや、でも… ルビ:どういうつもりですかロザリオ。 ロザリオ:ごめんねルビ。僕の意志じゃどうしようもない。 ルビ:ミマがそうしろと言ったんですね。 ロザリオ:…さあね。 ルビ:わかりました。 アイオリス:…ルビ? ルビ:絶対に… ルビ:絶対に覗かないで下さいね…!アイオリス! アイオリス:わ、分かってるよ… ロザリオ:話は決まりだね。シャンプーその他もちゃんと使うように。 ロザリオ:それじゃ。脱いだ脱いだ。 アイオリス:〈モノローグ〉はじめに僕が裸になり、目を閉じる アイオリス:階一帯が吹きさらしなのは、湿気をこもらせないようにするためらしい アイオリス:抜ける風で体が冷えこむのを感じる… ルビ:脱ぎました… ロザリオ:うん。上がるころには服を持ってくるから。 0:エレベータが音を鳴らして、下がり始める ルビ:寒い、早く浴室に行こう… アイオリス:うん ルビ:アイオリス、目を開けないでよ アイオリス:ああ ルビ:じゃあ、行くね… アイオリス:〈モノローグ〉ルビに手を引かれて、ひたひたと冷たいフロアを歩く ルビ:段差がある。気を付けて… アイオリス:わかった ルビ:ひっ! アイオリス:ルビ? ルビ:今…どこ触ろうとした…? アイオリス:〈震え声〉わからないよ…見えないから… ルビ:座って。 アイオリス:せ、正座でしょうか…? ルビ:ふざけてないで…椅子に。 0:アイオリスは手探りで椅子を見つけ、腰を下ろす アイオリス:ルビ、シャンプーとってくれない? ルビ:いい。私が洗う アイオリス:へっ? ルビ:この浴室狭いの。下手に動かれると触れかねない。 アイオリス:じゃあ、お願いします… 0:シャカシャカシャカシャカ… 0:ルビに頭を洗ってもらうアイオリス ルビ:ねえアイオリス。 アイオリス:なに…? ルビ:アナタの旅について回ることが、私のエゴだと言ったら怒る? アイオリス:怒るわけがない。 ルビ:そう… アイオリス:むしろ僕のせいでノヴァは… ルビ:言わないで。ノヴァはね、もともとそのために生まれたの。 ルビ:人の命を助けるという”目的ありきの存在”… ルビ:その点では脳喰いや、ロザリオの”兄弟たち”と一緒… アイオリス:ノヴァが脳喰いと一緒? ルビ:すべての生物は、自分の生まれたわけを知ってる。 ルビ:生きる意味で悩むのなんて、人間くらいのモノなの。 アイオリス:僕は、2人が…イオニアとドーリアがいなかったら、生きる意味なんてないんだ。 アイオリス:僕一人なんて、とるに足らない存在だ。 ルビ:あのねアイオリス… ルビ:ノヴァを作った奴はね、ノヴァ一体を紙切れ一片よりも軽い命だと思ってるの。 アイオリス:そんなの、あんまりじゃないか… ルビ:うん。私はそれが許せない… ルビ:なのにノヴァが自らの命を投げ出したとき、私は何故か納得してしまった… ルビ:大切だったはずなのに、私は… アイオリス:ルビ… アイオリス:きっとそれがノヴァの生きる意味だったんじゃないかな。 ルビ:アイオリス… アイオリス:僕も自分の意味を見つけるよ。もちろんイオニアとドーリアを救ってね。 ルビ:わかった。それならアナタを死なせやしないわアイオリス… ルビ:ノヴァの命だって、無駄にはしない。 アイオリス:ありがとうルビ。 0:階下のボイラー室では、蒸気管にイオニアが手錠をかけられて拘束されていた。 ロザリオ:やあ、イオニア。早くもキミの友人が来たよ。 イオニア:っ!!ドーリアか?アイオリスか!? ロザリオ:お友達はキミを探している。キミは自業自得なのにね… イオニア:ロザリオと言ったな…。ロザリオブルクは栄えある私の一族の名前だ…! ロザリオ:穢れた血統に誇りを持っているなんてな… イオニア:応えろ…”12月”に何があった…? イオニア:僕は何故、文字が読めない? ロザリオ:教えてやるよ…ただしキミが勝ったらな。 ロザリオ:賭け事は好きかい。 0:風呂から上がると、新しい服だけを乗せたエレベータが上がってきた。 ルビ:ロザリオさんがいない…? アイオリス:困ったな。服を持ってくると言ってくれたのに。 ルビ:いや、服はあるの。 アイオリス:妙だな。ロザリオさんどうしたんだろう。 ルビ:ひとまず着ましょう。風邪をひくから。 アイオリス:わかった。じゃあ着せてくれ。 ルビ:アイオリス?私はもう着たから、目を開けてもいいんだよ? アイオリス:あ… アイオリス:そっか…!そうだ、うん。 アイオリス:ロザリオさんは屋上に行けばいるかな。 ルビ:屋上…そうかもね アイオリス:ルビ、あんまり行きたくなさそうだね。 ルビ:そう?そんなことはないけど… アイオリス:〈モノローグ〉屋上には巨大な鳥かごが置かれていた。 アイオリス:籠の中には食器棚や天蓋つきのベッドなどが置かれていて、周りが檻でなければドールハウスのようだった。 アイオリス:中央の噴水からは、勢いを失った水がちょろちょろと流れるだけで、どうやら水不足というのは本当らしかった。 ミマ:ルビちゃん、約束通り来てくれたのね。大好き。 ルビ:シェルフタウンに降りたら、会いに行く約束でしたね。 ミマ:ルビちゃんは今でもまだ、私のこと大好き? ルビ:ええ。はい… ミマ:ふふふ… ミマ:私はもーっと…大好き。 アイオリス:あの…アナタは籠の中で何をしているの? ミマ:アナタ誰?どうしてずっとルビちゃんといるの? アイオリス:僕はアイオリス。ルビには、友達探しを手伝ってもらってる。 ミマ:ふーん。友達想いなんだ。 アイオリス:こうしている内にも、2人は危険な目に遭っているのかも… ミマ:お友達さん、見たよ。 アイオリス:本当か!?どこにいる!教えてくれ! ミマ:ヤダなー、そんなに必死な顔されたら ミマ:…”大好き”になっちゃうかも。 アイオリス:なんだ、この子… ミマ:ねえ、アイオリス…私とも友達にならない? 0:イオニアの前にテーブルを置き、カードを並べる ロザリオ:六枚のカードはイオニア、キミの体に対応している。頭と胴体、それに両手足だ。 イオニア:どういうつもりだ… ロザリオ:察しが悪いな…今からカードを順番に破り捨てるから。 ロザリオ:感覚がなくなる前に見事当てたら、キミの勝ちだよ。 0: アイオリス:君と友達になるのは構わないけれど、僕は先を急がなくちゃ。 アイオリス:2人の居場所を教えてくれないか? ミマ:でもロザリオから喋るなって言われてるしなー。 アイオリス:ロザリオさんが?どうして?? ミマ:あー、秘密のこと言っちゃったー。 ミマ:”友達になら”、もっといろいろ打ち明けちゃうんだけどなー。 アイオリス:わかった。どうすれば友達になってくれる? ミマ:簡単。したいことをするんだよ。友達ならね。 0: イオニア:ぐあああ!! ロザリオ:残念、右腕だ。キミって利き腕は右?それとも左? ロザリオ:どちらにせよ、もう二度と使えなくなっちゃったね。 0: ミマ:ねえアイオリス。友達って対等な関係でいるべきでしょ? ミマ:檻ごしだなんて、やっぱり友達じゃないよね? アイオリス:どうしよう、ルビ。 ルビ:たぶん大丈夫、ミマは血を流すようなことはしないの。綺麗好きだから。 アイオリス:わかった。檻に入ろう。 ミマ:んふふ、会いに来てくれるの?嬉しー。 0: イオニア:う、動かない…脚が、右脚が!! ロザリオ:はあ、当てる気あるの?本気でやりなよ。 イオニア:もういい!やめてくれッ! イオニア:過去のことはこれ以上詮索しないッ!お願いだ、帰らせてくれッ! ロザリオ:集中しろ。痛みで感覚がなくなる前にさ、 ロザリオ:ほんの一瞬、”合図”があるだろ? 0: ミマ:〈嗅ぐ〉すうう…はああーー。 ミマ:いい匂い。私と同じシャンプーだ。 アイオリス:そう、なんだ ミマ:服はロザリオの服?彼、趣味はいいけど私の友達って感じじゃないし… アイオリス:… ミマ:ねえ、アイオリス。私の服を着たらいいわ。 0: イオニア:〈泣〉うう…ううう… ロザリオ:泣くなっ泣くなよ!実はね、キミが勝ったら全部元通りになるんだよ? イオニア:ほ、本当か… ロザリオ:ほら、腕だって、今は僕の支配下にあるだけさ。ほらっ、ほらっ 0:イオニアのほほをぺちぺち叩いてみせる イオニア:や、やめろ!僕の体を操るな!! ロザリオ:あははっ。ね?ほら頑張って! ロザリオ:次は特別に選ばせてあげる。どのカードが、どの部位かな? 0:フリフリのワンピースを着たアイオリスに抱きつくミマ ミマ:かわいい~!アイオリスてば ミマ:可愛い顔してるのね。 アイオリス:これが、友達のすることか… ミマ:肩を出したのは正解だったわ。 ミマ:男っぽい肩とか鎖骨とか、そういうのが女の子の服から見えるなんて面白いでしょ? アイオリス:よく、分からないんだけど… ルビ:ミマ、もう十分楽しんだでしょっ!アイオリスを解放してッ! ミマ:〈イラついた声で〉ルビちゃん、なんでムキになるの? ルビ:別に、ムキになってないでしょ…? ミマ:嘘。ふーん、2人とも仲良しなんだ。 ミマ:私を抜いて、仲良しなんだ。 ミマ:ねえ、アイオリス? ミマ:私の足にキスをして 0: イオニア:〈息苦しそうに〉かっ、はっ、かっ…! ロザリオ:おー。胴体を引いてしまったのかい。 イオニア:〈息苦しそうに〉はっ、はっ…! ロザリオ:苦しいかな。まともに呼吸できないだろう?肺も胴体に含まれているからね。 ロザリオ:君の呼吸は今、僕が”させてあげてる”んだよ ロザリオ:さてイオニア。最後の一枚は何かな? ロザリオ:うん?うん。そうだねっ! ロザリオ:頭だよ。 ロザリオ:さようなら。イオニア 0: ルビ:いい加減にして… ミマ:〈おかしそうに〉何?ムキになってるって認める? ルビ:ミマ、アナタは度を越している。もしこれ以上アイオリスに嫌なことを強いるなら… ルビ:私はここで死ぬ ミマ:し、死ぬ…?…できるわけがない!! ルビ:そうかしら? ミマ:だって、だってルビちゃんは… アイオリス:ルビ、そんなことしなくていい。 ルビ:アイオリス… アイオリス:君はもう、ぼくの大切な友達なんだから。 0:アイオリスがミマの脚にキスをしようとしたとき、イオニアが現れる イオニア:アイオリス!! アイオリス:イ、イオニア!! イオニア:助けに来たよ!檻の鍵だ!さあ、出てきてくれ! ミマ:嘘よ、あり得ない… ルビ:アナタがイオニア? イオニア:そうだよ。アイオリス、さあ早く。 アイオリス:ロザリオさんはどこに行ったんだ? イオニア:さあ?負けが込んで”兄弟たち”と働いてるんじゃないか? アイオリス:…? ミマ:ルビちゃん、ごめんね。私… ミマ:もう私、友達じゃないよね… ルビ:ミマ、アナタは昔からやり過ぎなのよ。 ルビ:でも、あなたのことを友達じゃないなんて思ったことは一度もないわ。 ルビ:それはこれからも。 ミマ:ルビちゃん。 0:ガシャアン!! ミマ:…大好き。 イオニア:ミマ、ドーリアの行方を話してくれ。 アイオリス:〈着替えながら〉そうだ、教えてくれ! ミマ:いいよ。2人目の子はね、オラトリオと一緒に行った… ルビ:オラトリオ… アイオリス:誰? ルビ:ノヴァを作った人。でも、色々とおかしい人よ。 イオニア:すると、水道管の更に上の製紙工場か… ルビ:地上に行くには、どの道通らなければならないけど… アイオリス:なあイオニア。どうしてそんなに詳しいんだ? イオニア:アイオリスが来るまでの間、ロザリオさんから教えてもらったんだ。 イオニア:地上に帰りたいと言ったら、僕たちの気持ちに深く共感してくれたよ アイオリス:そうだったのか、できればロザリオさんも連れて行きたいな。 イオニア:どうして…? アイオリス:あの人もきっと、地上に行きたいんだろう。 イオニア:そうかもね、でももう意味ないよ。 アイオリス:なんでそんなことを言うんだ。 イオニア:ロザリオさんはもう死んでるから。 ルビ:そんな… イオニア:僕が殺した。 0:つづく

ミマ:最上階の檻の中から、私は街を見下ろした。 ミマ:ここは永遠の夜の街。 ミマ:無限に並ぶ書棚の本。 ミマ:背表紙を照らす白熱電球。 ミマ:私にはこの街のすべてが見えている。 ミマ:でも実際はどうでもいいの。 ミマ:私が探すのはたった一つ。 ミマ:あなたの影。それだけ。 イオニア:〈タイトルコール〉『アンダー・インク・コリダー第3場”檻の中で”』 ロザリオ:さあ、こっちだこっち。 0:超高層の書棚群に見下ろされながら、アイオリスはシェルフ・タウンの通りを歩く アイオリス:誰もいない… ロザリオ:いいや。皆まだ避難から帰ってきていないだけさ。 ロザリオ:どうだい、地上でもこんな都会はないだろう アイオリス:地上に出たことがあるの? ロザリオ:いや、無いよ。憧れているけどね。 ロザリオ:出たくても出れないんだ。今はね。 ルビ:それも呪いのせいですか? ロザリオ:まあそんなとこかな。 アイオリス:呪いって? ロザリオ:フフフ。心配してくれるのかい?君は優しいねアイオリス。 アイオリス:〈モノローグ〉似ている。やはりイオニアの… ロザリオ:さ、着いたよ。乗ってくれ。外づけのエレベータで申し訳ないが。 0:アールヌーボーな鉄籠が降りてくると、ロザリオは柵を開いて中に乗るように促した ルビ:ほら、アイオリスも乗って。 アイオリス:うん。 ロザリオ:屋上へ参ります… 0:ロザリオが合図すると、エレベータはゆっくりと上昇を始めた。 アイオリス:すごいな。頂上まで行くの?動力源は何? ロザリオ:アイオリス、君は好奇心でいっぱいだね。気に入ったよ。 ロザリオ:エレベータは人力さ。 アイオリス:人力なのか。大丈夫なの? 0:エレベータが速度を緩やかに変化させるためには機動力を正確に制御しなければならない。 0:ゆえに動力源が人力のように不確かなモノだと、エレベータ内の安全性が著しく損なわれる。 ロザリオ:信頼していいよ。動かしているのは僕の兄弟たちだから。 ロザリオ:脳喰いに襲われようが、書棚が崩落しようが、彼らは僕がいいと言うまでエレベータを動かし続ける。 ロザリオ:そういう風に生きてるんだ。 アイオリス:なんだそれ。まるで軍隊じゃないか。 ロザリオ:さ、着いたよ。 0:中央に檜の浴室がぽつんと置かれているだけの、吹きさらしの階にてエレベータは止まった アイオリス:まだ屋上じゃないけど? ロザリオ:ははは。汚れたままでミマちゃんに合わせるわけにはいかないよ? ロザリオ:ミマちゃんが病気にでもなったらどうするんだ。 アイオリス:なるほど。そういうことなら ロザリオ:さ、君たちの服は下の階で洗うから、ここで脱いでくれ。 アイオリス:わかった。ルビ、先に入ってくれ。 ルビ:うん… ロザリオ:何を言ってるんだ?君たち”同時”だよ ルビ:ええっ!? アイオリス:こ、断るよ! ロザリオ:ワームスケルターのせいで水道管がやられてしまってね。水が貴重なんだ。 ロザリオ:僕の兄弟たちの飲み水だって、確保しなくちゃならない… ロザリオ:同時に入ってくれれば、本当に助かるんだけど… アイオリス:いや、でも… ルビ:どういうつもりですかロザリオ。 ロザリオ:ごめんねルビ。僕の意志じゃどうしようもない。 ルビ:ミマがそうしろと言ったんですね。 ロザリオ:…さあね。 ルビ:わかりました。 アイオリス:…ルビ? ルビ:絶対に… ルビ:絶対に覗かないで下さいね…!アイオリス! アイオリス:わ、分かってるよ… ロザリオ:話は決まりだね。シャンプーその他もちゃんと使うように。 ロザリオ:それじゃ。脱いだ脱いだ。 アイオリス:〈モノローグ〉はじめに僕が裸になり、目を閉じる アイオリス:階一帯が吹きさらしなのは、湿気をこもらせないようにするためらしい アイオリス:抜ける風で体が冷えこむのを感じる… ルビ:脱ぎました… ロザリオ:うん。上がるころには服を持ってくるから。 0:エレベータが音を鳴らして、下がり始める ルビ:寒い、早く浴室に行こう… アイオリス:うん ルビ:アイオリス、目を開けないでよ アイオリス:ああ ルビ:じゃあ、行くね… アイオリス:〈モノローグ〉ルビに手を引かれて、ひたひたと冷たいフロアを歩く ルビ:段差がある。気を付けて… アイオリス:わかった ルビ:ひっ! アイオリス:ルビ? ルビ:今…どこ触ろうとした…? アイオリス:〈震え声〉わからないよ…見えないから… ルビ:座って。 アイオリス:せ、正座でしょうか…? ルビ:ふざけてないで…椅子に。 0:アイオリスは手探りで椅子を見つけ、腰を下ろす アイオリス:ルビ、シャンプーとってくれない? ルビ:いい。私が洗う アイオリス:へっ? ルビ:この浴室狭いの。下手に動かれると触れかねない。 アイオリス:じゃあ、お願いします… 0:シャカシャカシャカシャカ… 0:ルビに頭を洗ってもらうアイオリス ルビ:ねえアイオリス。 アイオリス:なに…? ルビ:アナタの旅について回ることが、私のエゴだと言ったら怒る? アイオリス:怒るわけがない。 ルビ:そう… アイオリス:むしろ僕のせいでノヴァは… ルビ:言わないで。ノヴァはね、もともとそのために生まれたの。 ルビ:人の命を助けるという”目的ありきの存在”… ルビ:その点では脳喰いや、ロザリオの”兄弟たち”と一緒… アイオリス:ノヴァが脳喰いと一緒? ルビ:すべての生物は、自分の生まれたわけを知ってる。 ルビ:生きる意味で悩むのなんて、人間くらいのモノなの。 アイオリス:僕は、2人が…イオニアとドーリアがいなかったら、生きる意味なんてないんだ。 アイオリス:僕一人なんて、とるに足らない存在だ。 ルビ:あのねアイオリス… ルビ:ノヴァを作った奴はね、ノヴァ一体を紙切れ一片よりも軽い命だと思ってるの。 アイオリス:そんなの、あんまりじゃないか… ルビ:うん。私はそれが許せない… ルビ:なのにノヴァが自らの命を投げ出したとき、私は何故か納得してしまった… ルビ:大切だったはずなのに、私は… アイオリス:ルビ… アイオリス:きっとそれがノヴァの生きる意味だったんじゃないかな。 ルビ:アイオリス… アイオリス:僕も自分の意味を見つけるよ。もちろんイオニアとドーリアを救ってね。 ルビ:わかった。それならアナタを死なせやしないわアイオリス… ルビ:ノヴァの命だって、無駄にはしない。 アイオリス:ありがとうルビ。 0:階下のボイラー室では、蒸気管にイオニアが手錠をかけられて拘束されていた。 ロザリオ:やあ、イオニア。早くもキミの友人が来たよ。 イオニア:っ!!ドーリアか?アイオリスか!? ロザリオ:お友達はキミを探している。キミは自業自得なのにね… イオニア:ロザリオと言ったな…。ロザリオブルクは栄えある私の一族の名前だ…! ロザリオ:穢れた血統に誇りを持っているなんてな… イオニア:応えろ…”12月”に何があった…? イオニア:僕は何故、文字が読めない? ロザリオ:教えてやるよ…ただしキミが勝ったらな。 ロザリオ:賭け事は好きかい。 0:風呂から上がると、新しい服だけを乗せたエレベータが上がってきた。 ルビ:ロザリオさんがいない…? アイオリス:困ったな。服を持ってくると言ってくれたのに。 ルビ:いや、服はあるの。 アイオリス:妙だな。ロザリオさんどうしたんだろう。 ルビ:ひとまず着ましょう。風邪をひくから。 アイオリス:わかった。じゃあ着せてくれ。 ルビ:アイオリス?私はもう着たから、目を開けてもいいんだよ? アイオリス:あ… アイオリス:そっか…!そうだ、うん。 アイオリス:ロザリオさんは屋上に行けばいるかな。 ルビ:屋上…そうかもね アイオリス:ルビ、あんまり行きたくなさそうだね。 ルビ:そう?そんなことはないけど… アイオリス:〈モノローグ〉屋上には巨大な鳥かごが置かれていた。 アイオリス:籠の中には食器棚や天蓋つきのベッドなどが置かれていて、周りが檻でなければドールハウスのようだった。 アイオリス:中央の噴水からは、勢いを失った水がちょろちょろと流れるだけで、どうやら水不足というのは本当らしかった。 ミマ:ルビちゃん、約束通り来てくれたのね。大好き。 ルビ:シェルフタウンに降りたら、会いに行く約束でしたね。 ミマ:ルビちゃんは今でもまだ、私のこと大好き? ルビ:ええ。はい… ミマ:ふふふ… ミマ:私はもーっと…大好き。 アイオリス:あの…アナタは籠の中で何をしているの? ミマ:アナタ誰?どうしてずっとルビちゃんといるの? アイオリス:僕はアイオリス。ルビには、友達探しを手伝ってもらってる。 ミマ:ふーん。友達想いなんだ。 アイオリス:こうしている内にも、2人は危険な目に遭っているのかも… ミマ:お友達さん、見たよ。 アイオリス:本当か!?どこにいる!教えてくれ! ミマ:ヤダなー、そんなに必死な顔されたら ミマ:…”大好き”になっちゃうかも。 アイオリス:なんだ、この子… ミマ:ねえ、アイオリス…私とも友達にならない? 0:イオニアの前にテーブルを置き、カードを並べる ロザリオ:六枚のカードはイオニア、キミの体に対応している。頭と胴体、それに両手足だ。 イオニア:どういうつもりだ… ロザリオ:察しが悪いな…今からカードを順番に破り捨てるから。 ロザリオ:感覚がなくなる前に見事当てたら、キミの勝ちだよ。 0: アイオリス:君と友達になるのは構わないけれど、僕は先を急がなくちゃ。 アイオリス:2人の居場所を教えてくれないか? ミマ:でもロザリオから喋るなって言われてるしなー。 アイオリス:ロザリオさんが?どうして?? ミマ:あー、秘密のこと言っちゃったー。 ミマ:”友達になら”、もっといろいろ打ち明けちゃうんだけどなー。 アイオリス:わかった。どうすれば友達になってくれる? ミマ:簡単。したいことをするんだよ。友達ならね。 0: イオニア:ぐあああ!! ロザリオ:残念、右腕だ。キミって利き腕は右?それとも左? ロザリオ:どちらにせよ、もう二度と使えなくなっちゃったね。 0: ミマ:ねえアイオリス。友達って対等な関係でいるべきでしょ? ミマ:檻ごしだなんて、やっぱり友達じゃないよね? アイオリス:どうしよう、ルビ。 ルビ:たぶん大丈夫、ミマは血を流すようなことはしないの。綺麗好きだから。 アイオリス:わかった。檻に入ろう。 ミマ:んふふ、会いに来てくれるの?嬉しー。 0: イオニア:う、動かない…脚が、右脚が!! ロザリオ:はあ、当てる気あるの?本気でやりなよ。 イオニア:もういい!やめてくれッ! イオニア:過去のことはこれ以上詮索しないッ!お願いだ、帰らせてくれッ! ロザリオ:集中しろ。痛みで感覚がなくなる前にさ、 ロザリオ:ほんの一瞬、”合図”があるだろ? 0: ミマ:〈嗅ぐ〉すうう…はああーー。 ミマ:いい匂い。私と同じシャンプーだ。 アイオリス:そう、なんだ ミマ:服はロザリオの服?彼、趣味はいいけど私の友達って感じじゃないし… アイオリス:… ミマ:ねえ、アイオリス。私の服を着たらいいわ。 0: イオニア:〈泣〉うう…ううう… ロザリオ:泣くなっ泣くなよ!実はね、キミが勝ったら全部元通りになるんだよ? イオニア:ほ、本当か… ロザリオ:ほら、腕だって、今は僕の支配下にあるだけさ。ほらっ、ほらっ 0:イオニアのほほをぺちぺち叩いてみせる イオニア:や、やめろ!僕の体を操るな!! ロザリオ:あははっ。ね?ほら頑張って! ロザリオ:次は特別に選ばせてあげる。どのカードが、どの部位かな? 0:フリフリのワンピースを着たアイオリスに抱きつくミマ ミマ:かわいい~!アイオリスてば ミマ:可愛い顔してるのね。 アイオリス:これが、友達のすることか… ミマ:肩を出したのは正解だったわ。 ミマ:男っぽい肩とか鎖骨とか、そういうのが女の子の服から見えるなんて面白いでしょ? アイオリス:よく、分からないんだけど… ルビ:ミマ、もう十分楽しんだでしょっ!アイオリスを解放してッ! ミマ:〈イラついた声で〉ルビちゃん、なんでムキになるの? ルビ:別に、ムキになってないでしょ…? ミマ:嘘。ふーん、2人とも仲良しなんだ。 ミマ:私を抜いて、仲良しなんだ。 ミマ:ねえ、アイオリス? ミマ:私の足にキスをして 0: イオニア:〈息苦しそうに〉かっ、はっ、かっ…! ロザリオ:おー。胴体を引いてしまったのかい。 イオニア:〈息苦しそうに〉はっ、はっ…! ロザリオ:苦しいかな。まともに呼吸できないだろう?肺も胴体に含まれているからね。 ロザリオ:君の呼吸は今、僕が”させてあげてる”んだよ ロザリオ:さてイオニア。最後の一枚は何かな? ロザリオ:うん?うん。そうだねっ! ロザリオ:頭だよ。 ロザリオ:さようなら。イオニア 0: ルビ:いい加減にして… ミマ:〈おかしそうに〉何?ムキになってるって認める? ルビ:ミマ、アナタは度を越している。もしこれ以上アイオリスに嫌なことを強いるなら… ルビ:私はここで死ぬ ミマ:し、死ぬ…?…できるわけがない!! ルビ:そうかしら? ミマ:だって、だってルビちゃんは… アイオリス:ルビ、そんなことしなくていい。 ルビ:アイオリス… アイオリス:君はもう、ぼくの大切な友達なんだから。 0:アイオリスがミマの脚にキスをしようとしたとき、イオニアが現れる イオニア:アイオリス!! アイオリス:イ、イオニア!! イオニア:助けに来たよ!檻の鍵だ!さあ、出てきてくれ! ミマ:嘘よ、あり得ない… ルビ:アナタがイオニア? イオニア:そうだよ。アイオリス、さあ早く。 アイオリス:ロザリオさんはどこに行ったんだ? イオニア:さあ?負けが込んで”兄弟たち”と働いてるんじゃないか? アイオリス:…? ミマ:ルビちゃん、ごめんね。私… ミマ:もう私、友達じゃないよね… ルビ:ミマ、アナタは昔からやり過ぎなのよ。 ルビ:でも、あなたのことを友達じゃないなんて思ったことは一度もないわ。 ルビ:それはこれからも。 ミマ:ルビちゃん。 0:ガシャアン!! ミマ:…大好き。 イオニア:ミマ、ドーリアの行方を話してくれ。 アイオリス:〈着替えながら〉そうだ、教えてくれ! ミマ:いいよ。2人目の子はね、オラトリオと一緒に行った… ルビ:オラトリオ… アイオリス:誰? ルビ:ノヴァを作った人。でも、色々とおかしい人よ。 イオニア:すると、水道管の更に上の製紙工場か… ルビ:地上に行くには、どの道通らなければならないけど… アイオリス:なあイオニア。どうしてそんなに詳しいんだ? イオニア:アイオリスが来るまでの間、ロザリオさんから教えてもらったんだ。 イオニア:地上に帰りたいと言ったら、僕たちの気持ちに深く共感してくれたよ アイオリス:そうだったのか、できればロザリオさんも連れて行きたいな。 イオニア:どうして…? アイオリス:あの人もきっと、地上に行きたいんだろう。 イオニア:そうかもね、でももう意味ないよ。 アイオリス:なんでそんなことを言うんだ。 イオニア:ロザリオさんはもう死んでるから。 ルビ:そんな… イオニア:僕が殺した。 0:つづく