台本概要

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タイトル Star Gazer
作者名 アール/ドラゴス  (@Dragoss_R)
ジャンル その他
演者人数 5人用台本(男3、女2)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 スター・ゲイザー。

舞台は日本の秋祭り。
料理人になる夢を持つナナミは、イズミの出店を手伝っていた。
そこに、ナナミの憧れの人であるタツヒサが現れ…。

「タツヒサさんのお誕生日を、私に祝わせて欲しいんですっ!」

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ナナミ 92 料理人になりたい女の子。 努力家で、みんなから応援されている。
タツヒサ 74 ナナミの先輩であり、超がつくお人好し。 昔イズミの店でバイトをしていた。
ツバキ 54 ナナミの親友で、バイト仲間。とてもおっとりした喋り方。 秋祭りの阿波踊りに参加し、笛を披露する。 (人台詞だけ出てくる「客」と兼ね役です。)
イズミ 54 ナナミたちのバイト先の店長。 みんなから慕われている、優しいおじさん。
オカモト 54 20代後半くらいの、ナナミのバイト仲間。 いつでも明るい言動ができるムードメイカー。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:時刻は十五時頃。 0: 0:とある商店街で開かれている秋祭り。 0:ナナミは露店で、焼き鳥を焼いていた。 0: ナナミ:いらっしゃいませ!…はい、二本ずつですねー。六百円になります! イズミ:はい、ちょうどお預かり。どうぞ、熱いので火傷に気を付けてくださいね。…ふぅ。 ナナミ:くぅ、炭火の煙で目が痛い…。 イズミ:頑張ってくれナナミちゃん。皆みんな君の焼き鳥を食べたくて来てくれてるんだからさ!俺も目痛いけど! ナナミ:は、はい!頑張ります! イズミ:よぉし。こっちは一旦列消えたな…。オカモト君は大丈夫そうー? オカモト:こっちはだいぶ暇ですよー。ソフトドリンク、ちょっと他のとこより値段高いから当然っちゃ当然ですけど。 イズミ:いやぁ、流石に二百円以下にしてくるとは思わなかったよなぁ…。 オカモト:まぁうちはドリンク以外にも売るものありますし、売り上げは多分問題ないですよ! ナナミ:あれ、そういえばタツヒサさんは? オカモト:あぁ、かき氷ブースが超大繁盛でさっき完売したから、借りもんのかき氷機をミタケさんとこに返しに行ったぜ。 イズミ:えっ、かき氷もう完売したの!?……本当だ、もう氷の在庫がない…。ちょっと取り寄せ少なすぎたかなぁ…。 オカモト:いや、多分ヤツの手際が良すぎるのもあるかと…。 ナナミ:もう売り切ったんだ…。タツヒサさん、やっぱり凄い……。 オカモト:本当な…。どうしたらあんなに動けるのやら。 0: 0:そんな話をしていると、法被姿のツバキが現れる。 0: ツバキ:みんな、お疲れさまー。練習がひと段落したんで様子見に来たっすよー。 オカモト:お、ツバキ。そっちも練習お疲れさま。調子はどうよ? ツバキ:まぁ、普通って感じっすかねぇ。でも、あんまり張り切りすぎて本番でミスっても嫌っすから、これくらいがちょうどいいっすよー。 ナナミ:あれ、ツバキちゃんって阿波踊りで何やるんだったけ。 ツバキ:篠笛(しのぶえ)だよー。もともと吹奏楽部だったから、その経験を活かしてこれになったー。 ナナミ:かっこいいじゃん!本番頑張ってね!焼き鳥焼きながら見守ってる! ツバキ:ありがとうナナミー。そっちも頑張ってねー。 イズミ:ナナミちゃん、お客さん来たよ! ナナミ:あぁ、すみません!いらっしゃいませー! 0: 0:そして、小走りで袋を持ったタツヒサが戻ってくる。 0: タツヒサ:かき氷機返し終わりましたよー。 イズミ:おぉ、お疲れ!本当仕事が早くて助かるよ!あれ、その袋は? タツヒサ:それが、いつもお世話になってるからってミタケさんのとこで作ってる焼きそばをいただいて。 オカモト:おぉー!そりゃありがてぇな! ツバキ:祭りの焼きそばは世界で一番おいしいっすからねー。 タツヒサ:あぁ、誰かと思えばツバキか。法被(はっぴ)来てるからわからなかったよ。 ツバキ:どもどもー。お疲れ様っすー。 オカモト:そんじゃ、ありがたく焼きそばをいただくとしますかー! タツヒサ:…あ。焼きそばが四つしかない。 イズミ:あぁ、そっか。今年はツバキちゃんが阿波踊りでいないから四人分なのかあ。 ツバキ:うー。あたしも食べたかったー…。 タツヒサ:大丈夫ですよ、僕ここに来る前少し食べてきましたから。ナナミも列ができてきて忙しそうだし、焼く係も変わってきますよ。 イズミ:いやいやタツヒサ君。そういう役割はおっさんに任せてもらわないと。さっきまで俺会計とかしかやってなかったから、俺がナナミちゃんと変わってくるよ。 タツヒサ:え、いいんですか? イズミ:大丈夫大丈夫。なんなら俺はさっき焼きそば食べてるし、ナナミちゃんもタツヒサ君と話したいだろうし。なにより、俺焼き鳥焼くの上手いし! オカモト:ま、今となってはナナミのが上手いッスけどね! イズミ:カッコつけてるときにそういうこと言わないでもらっていいー!? ツバキ:店長ー、あとであたしにも焼き鳥食べさせてくださいねー。 イズミ:あいよー!じゃ、行ってくる! 0: 0:そういってイズミがナナミと交代しに行く。 0: オカモト:まったく。店長もお前も、とんだお人好しだよなー。 タツヒサ:えぇ、そうですかね? ツバキ:そうじゃなかったら自分から進んでそーゆーこと言ったりとか人の持ってる役割肩代わりとかできませんってー。 タツヒサ:そうかな、そう言ってくれてありがとうね。ツバキ。 0: 0:イズミと交代したナナミが来る。 0: ナナミ:うー、久々に焼いたからかなぁ、目が本当に痛い…。 タツヒサ:お疲れさま、ナナミ。そういえば、僕の知らない間に料理がとっても上達したんだって?さっきイズミさんから聞いたよ。 ナナミ:タツヒサさん!そんなことないですよ、まだまだです…。 タツヒサ:そうかい?まぁ君が例えそう思っていたとしても、ナナミが頑張って努力をしたってだけで素敵だと僕は思うよ。 ナナミ:…もう。そうやってサラッとカッコいいこと言うんですから…。 オカモト:ははは。いつも通りイチャイチャしてんなぁ。 ナナミ:イチャイチャなんてしてないです! ツバキ:まあまあー。そんなことより、早く食べないと冷めちゃいますよー。 タツヒサ:そうだね。早く食べちゃおう。でも気を緩め過ぎずないようにね。もしお客さんが来たらちゃんと対応しないとだから。 ツバキ:流石元バイトリーダー。頼りになるー。 ナナミ:やっぱりタツヒサさんは凄いです…!! タツヒサ:あはは、ありがとうね。 0: 0: 0: オカモト:にしても…。このドリンク考えたの誰なんだ? ナナミ:このドリンクって? オカモト:これだよ。『黒糖タピオカミルクティー』…。すーげぇ甘そうなんだけど。 ツバキ:これ発案したのはあたしですー。というか、あたしが考えたんじゃなくて既存のメニューっすよー? オカモト:え、そうなの?俺タピオカミルクティーしか知らねぇわ…。 ナナミ:結構前からありますよ! タツヒサ:オカモトさんは最近の流行とか疎そうですもんね…。 オカモト:うるせぇなぁ、だってタピオカって何が美味いのかよくわからねぇんだもんよ。一回飲んでみたけどあんまうまくなかったしなぁ…。 ツバキ:えぇー、あの食感がいいんじゃないですかー。 タツヒサ:僕もそこまでタピオカがおいしいと感じたことがないな…。多分、好みの問題だとは思うけどね。 ナナミ:私は別に好きだけどあんまり飲まないなぁ。ツバキちゃんはよく飲むんだったっけ。 ツバキ:そうだよー。見かけたら買おっかなー、くらいだけどねー。 オカモト:年喰うと若者の流行りが本当にわかんなくなるんだよなぁ…。イズミ店長も言ってたよ。「タピオカはカエルの卵にしか見えない」って。 ナナミ:ちょっと!?なんてこと言うんですか!ここにタピオカがいっぱい入ってるボックスがあって私たちこれ売る側なんですよー!? ツバキ:やぱーい、言われてみると本当にそれに見えてきちゃったかもー…。 タツヒサ:あはは…。でも例えは秀逸ですね…。 オカモト:だろぉ? ナナミ:「だろぉ?」じゃないですよ!もう…。 0: イズミ:おーい、ツバキちゃーん! 0: 0:イズミがまた戻ってくる。 0: ツバキ:あれー、イズミ店長、どうしたんですー? イズミ:なんか阿波踊りの連(れん)の方でトラブルが起こったらしくて、ツバキちゃんに来てほしいって副連長(ふくれんちょう)さんが。 ツバキ:あれー、なんか道具の方で手違いでもあったのかなぁー…。 ナナミ:ツバキちゃんも大変だね。 タツヒサ:もう本番まで三十分くらいしかないし、急いだほうがいいと思うよ。 ツバキ:そうですねー…。じゃあ、ちょっと行ってきますー。本番前にまたちょっとだけ顔出ししますねー。 オカモト:おう!阿波踊り楽しみにしてるから、準備も頑張れよ! イズミ:大変だろうけど、応援してるよ! ツバキ:はーい、四人ともありがとー。行ってくるねー。 0: 0:そういってツバキが準備に向かう。 0: イズミ:さて、俺達も仕事頑張りますか。 オカモト:そうッスね。 タツヒサ:あの、かき氷完売してから僕何もしてないですし、そろそろ何か手伝いますよ。 ナナミ:あっ、私ももう十分休憩したのでやります! イズミ:あーいや、もうそろそろお客さんも減ってきたし、こっちは俺一人で大丈夫だよ! オカモト:俺んとこもお客さん来ねえしなあ。 ナナミ:あー…。完全に私たち余っちゃいましたね…。 オカモト:じゃあ、少し二人で祭り回ってきたらどうだ?当分やることねえし。いいですよね、店長? イズミ:うん。それがいいと思う。阿波踊りが始まる頃に戻っておいで。 タツヒサ:しかし、任せてしまって本当にいいんですか? イズミ:勿論。もし急に人が多くなったりトラブルが起きたりしたら呼ぶかもしれないけど、大丈夫。そんなことは起きないだろうからね! オカモト:仕事はおっさんどもに任せて、若い連中は今のうちに楽しんできな! タツヒサ:ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えることにしますね。じゃあ行こうか、ナナミ。 ナナミ:は、はーい!では、いってきます…! 0: 0:二人が屋台の方に歩き出していく。 0: イズミ:…オカモト君、焼き鳥食べる? オカモト:えぇっ、お客さんは? イズミ:今居ないから大丈夫、ちょっと焦げ焦げになっちゃった奴があってさぁ…。 オカモト:なんでそれ俺食わなきゃいけないんスか!? イズミ:だってもったいないじゃん!鳥が可哀そうじゃん!? オカモト:でも焦がしたのは店長でしょぉ!?店長が食えばいいじゃないスか! 0: 客:あのーすみません、黒糖タピオカミルクティー(と焼き鳥のモモをください) イズミ:(被せて同時に)いらっしゃいませー! オカモト:(被せて同時に)はい、いらっしゃい! 0: 0:タツヒサとナナミが二人で並んで歩いている。 0: タツヒサ:やっぱりここの秋祭りは毎度賑わうね。お客さんがいっぱいだ。 ナナミ:そうですね…。毎年道を埋め尽くす人だかり。まぁ、それくらい皆このお祭りを楽しみにしているってことですね。 タツヒサ:高校時代、ナナミたちと一緒にここを回ったのが懐かしいよ…。 ナナミ:私あの頃、ツバキちゃんも入れた三人で、ここでお姉さんにバルーンアート作ってもらったのを覚えてます! タツヒサ:ふふっ、あったあった。その写真、僕多分まだ写真フォルダに入ってるよ。 ナナミ:凄い!三、四年前だから多分もう私消しちゃったな…。 タツヒサ:大切な思い出はちゃんと手元に残しておきたいからね。ナナミが無くしちゃったなら、あとで送っておくよ。 ナナミ:本当ですか!すみません、じゃあそうしてもらえると…。 タツヒサ:分かった。…お、ここのたこ焼き美味しそう。ナナミ、食べる? ナナミ:食べます!あの、ここでドリンクも買っていいですか。さっき飲んだんですけど、もう喉乾いちゃって。 タツヒサ:もちろんだよ。すみませーん。たこ焼きをー……。 0: 0:場面転換。たこ焼きを買ってからおよそ二十分経過。 0:二人はたこ焼きを食べ終え、飲み歩きをしながら談笑していた。 0: ナナミ:本当、タツヒサさんは凄いと思います。私たち、今でも本当に頼りにしてしまってますし…! タツヒサ:そ、そうかなぁ…? ナナミ:そうですよ!今私が夢を持ててるのもあの日タツヒサさんがいたからなんですから…! タツヒサ:まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいけどね。でも、僕がいなくてもナナミはきちんとやれていたと思うよ? ナナミ:いや、本当にそんなことは…。だって私はあなたを…! 0: 0:そんな話をしていると、前から笛を持ったツバキが歩いてくる。 0: ツバキ:あー、タツヒサさんとナナミだー。今休憩中ー? タツヒサ:ツバキ。うん。お客さんが少なくなったから休んでもいいって言われてね。そっちの阿波踊りの方はもう大丈夫なのかい? ツバキ:んー。一人が法被とうちわ忘れちゃって、衣装の余りをあたしが管理してたからそれで呼ばれただけだったー。 ナナミ:準備お疲れ様。あ、さっきたこ焼き買ったけど、食べる? ツバキ:おー。それはありがたくいただきたいんだけど、もう時間がないんだよねー。 ナナミ:えっ、阿波踊りってもう始まるっけ!? ツバキ:うんー。あと十分くらいで本番ー。だから店長のとこに顔出しとこーって思ったんだけどー。 タツヒサ:…本当だ。もう十五時三十分か…。やっぱり、楽しく話していると時間の流れは速いね。 ツバキ:じゃあ、一緒に戻りましょー。 0: 0:そうして三人は露店へ歩き始める。 0: ツバキ:そういえばナナミー。アレ、結局どうするの? ナナミ:…?アレ、っていうのは? ツバキ:アレだよー、ナナミが一流のシェフになるためのー、アレ。 ナナミ:…もしかして、留学の話? ツバキ:そーそー。イタリアだっけー?しようか考えてるって言ってたじゃんー? タツヒサ:その話撲初めて聞いたな…。でも、それだけ自分の夢を叶えたいって思いがあるナナミは凄いと思うよ。 ツバキ:えぇ~?ナナミ、タツヒサ先輩にまだ話してなかったのー?ちょっと意外だなー。 ナナミ:あー…。…でも、実はまだ迷っていて……。 タツヒサ:えっ、そうなのかい? ナナミ:はい…。お金もかかりますし、私が本当にシェフになれるのかなって思ってしまって…。 ツバキ:えー。ナナミ、凄く頑張ってるじゃんかー。それに、店長もオカモトさんも応援してくれてるよー?ナナミの夢。 ナナミ:そうなんだけど…。まだいまいち決心がつかなくて。 タツヒサ:そっか。まあ自分のことだし、ゆっくり決めればいいと思うよ。まだ考える時間はあるんだろう? ナナミ:はい。留学が始めるのは来年の四月なので、今年中に決めればまだ間に合うんですけど…。 ツバキ:でもあと二か月かー。あんまり時間ないねー。 タツヒサ:そうだね…。まぁ、もし何か踏みとどまる理由があるのなら、話聞くよ。 ナナミ:ありがとうございます、タツヒサさん…。 0: 0:そんな話をしているうちにイズミ達のもとへたどり着く。 0: オカモト:はーい、黒糖タピオカミルクティーね。四百円になります!…はーい、ちょうど。毎度ね! イズミ:そっち、なんか客足多くなってない? オカモト:多くなって…ますね。もう祭りも佳境だから若者は飲み物が飲みたいんじゃないッスか?知らんけど! イズミ:そうなのかもねぇ…。っと、帰ってきたか二人とも。それにツバキちゃんも。 タツヒサ:ただいま戻りました。 ツバキ:ただいまですー。とは言っても私はもう行かなきゃなんですけどねー。 オカモト:おう、おかえり!少し客が増えてきたっていうときに帰ってきてくれてありがたいぜ、ベストタイミングだ!ツバキは阿波踊り、頑張れよ! ツバキ:はーい。頑張って笛吹いてきまーす。 イズミ:ナナミちゃんもおかえり。楽しめた? ナナミ:はい、タツヒサさんとお話しするの久々で楽しめました…。 イズミ:…?大丈夫?なんか元気なさそうだけど。 ナナミ:…いえ、全然大丈夫です! タツヒサ:さて、僕達は何を手伝えばいいですか? イズミ:そうだなぁ。じゃあ、二人にはこのブースに設置してあるごみ箱のごみ分別をお願いしていいかな?ちゃんとわけないといけないから…。汚いかもだけど、ごめんね。 タツヒサ:大丈夫です。そこのごみでいいですか? イズミ:うん、大丈夫!じゃあお願いね! ツバキ:さてさてー、あたしもそろそろ行きますかー。 オカモト:いやぁ、地図確認したら阿波踊りをやるのこの通りだったなんてな!ここから見れるからよかったぜ! ナナミ:ツバキちゃん、頑張ってね! イズミ:練習の成果、ばっちり発揮しておいで! タツヒサ:影ながら見守ってるよ。 ツバキ:みんなありがとー。じゃ、行ってきまーす。 0: 0:ツバキが阿波踊りの所定位置に向かう。 0: オカモト:いやぁ、楽しみだな!ツバキの篠笛(しのぶえ)! イズミ:オカモトくぅ~ん、ツバキちゃんたちに見とれて仕事を疎(おろそ)かにしないでねぇ~? オカモト:わかってますよ!ちゃんとやりやすよ! タツヒサ:あはは。さて、じゃあナナミ。僕達もごみの処理やろうか。 ナナミ:はい! イズミ:ありがとう二人とも、よろしくー! 0: 0:二人はごみ箱へ向かった。 0: ナナミ:ありゃー……。 タツヒサ:プラのコップに、焼き鳥やフランクフルトの串。紙皿に焼きそばが入ってたであろう入れ物…。 ナナミ:これはー…。大変な作業になりそうですね。 タツヒサ:そうだね。でもまぁ、ゆっくりやろう。もしかしたらまだごみが増えるかもしれないしね。 ナナミ:そうですね。…あ、これがゴミ袋ですね。とりあえず分別していきますか。 0: 0:そうして二人はごみの分別を始める。 0:しばらく黙々と作業をする二人だったが、 0:カカン、カカンという阿波踊りの鐘の音が聴こえて来たころでタツヒサが口を開く。 0: タツヒサ:…ナナミ。さっきの話なんだけどさ。 ナナミ:さっきの…話というのは。 タツヒサ:留学の話。 ナナミ:あぁー…。 タツヒサ:…さっきの反応聞いてて、もしかしたらナナミは留学にあまり行きたくないのかなって思ったんだ。 ナナミ:い、いやそんなことは…。 タツヒサ:それならいいんだけどね。もしそうなら、何か理由があるんじゃないかって思って。 ナナミ:……。 タツヒサ:何か悩んでいることがあるなら、僕でよければいつでも相談に乗る。一人で抱え込むのは良くないからね。少しでもナナミの不安を肩代わりできれば。 0: 0:阿波踊りの音がだんだん近づいてくる。 0: ナナミ:…実は…。不安なんです。ひとりで海外に十か月も滞在して、もし成果が出なかったらどうしよう、とか。そもそも生活できるのかな、とか…。 ナナミ:でも、シェフには勿論なりたいし、挑戦しなきゃ始まらない、なんてこと分かりきってるんですけど…。 タツヒサ:まだ踏ん切りがつかなくて、踏み出せずにいる、と…。 ナナミ:…はい。…それに、その…。 タツヒサ:ん?なんだい? ナナミ:…その、みんなやタツヒサさんと会えなくなるのは、その…。寂しい…ですし。 タツヒサ:寂しい、か…。ふふふっ。ナナミは時折かわいらしいことを言うよね。 ナナミ:か、可愛いですかね…? 0: 0:提灯の明かりがきれいに見えるようになってきたころ。 0:いつの間にか露店の前くらいに来ていた阿波踊りの連に、笛を吹くツバキの姿が見える。 0: ナナミ:…あっ。ツバキちゃんだ。なんかツバキちゃんの笛を演奏している姿って、普段のゆるゆるーってした感じとギャップがあってカッコいいですね。 タツヒサ:本当だね。……やっぱり、頑張っていたり、楽しんでいる人を見ていると、こっちも元気になるね。 ナナミ:はい。なんだか、こっちも頑張るぞって気持ちになれて…! タツヒサ:…ツバキからもだけど、僕はそれを君から感じているよ。 ナナミ:えっ? タツヒサ:ナナミが毎日料理を練習していることはイズミさんから聞いているし、今日だって焼き鳥を焼いて、お客さんの対応もして。 ナナミ:で、でも。私はタツヒサさんのようにてきぱきとは動けませんし、料理もまだまだ未熟です…。 タツヒサ:そう言ってくれてありがとう。でも、ナナミは毎日、もっと上達しよう、練習しようと努力しているだろう? タツヒサ:それが大事なんだよ、ナナミ。例え君がそんなことはないって謙虚に否定したとしても、オカモトさんやツバキだって君の努力を認めているし、それにーーー。 0: 0:ドンッ、と大太鼓が一つ大きく鳴り、踊り手が「はっ!」という掛け声とともに静止するのと同時に演奏が収まり、拍手が起こる。 0: 0: タツヒサ:君の頑張りは、僕だってよく知っているさ。 0: 0: 0:場面転換。イズミの運営する居酒屋での打ち上げ。 0: オカモト:……おぉっ!ナナミ!お前の作ったパスタ、これ超美味ぇ!とろとろのソースが麺に絡んで…。いやぁ、シメにぴったりだわこれ! ツバキ:…んー、美味しいー。パスタがちょっとかためなのが最高ー。 イズミ:まさか打ち上げのご飯をナナミちゃんが作ってくれるとはねぇ。 ナナミ:はい、ちょっと頑張ってみました! タツヒサ:……うん、とっても美味しい。このパスタもサラダもソテーも、まるでミシュランのシェフが作ったみたいだね。 ナナミ:やったぁ!タツヒサさんに褒めていただけて、凄く嬉しいですっ! ツバキ:ナナミったら、タツヒサさんに自分の頑張りを見てほしくて、前日から凄い考えたらしいですよー。 ナナミ:ちょっ!なんでバラすのツバキちゃん!? ツバキ:だってー、「憧れのタツヒサさんを喜ばせたいから、私頑張ってみるよ!」って一週間前からやる気満々だったじゃないー。その頑張りも本当は聞いてもらいたいんだろうなーっても思ってー。 イズミ:凄い、ちょっと似てる! ナナミ:一言一句バラさないでぇ!もう、恥ずかしいよぉ……。 タツヒサ:そうだったのかい?憧れ、だなんて…。ふふふっ。ナナミは可愛いね。ありがとう。でも大丈夫。ナナミの頑張りは、いつも伝わっているからさ。 オカモト:お前今の話聞いてそれ!?これがあれか?『イケメンムーブ』ってやつなのかぁ?! イズミ:だってさー。良かったね、ナナミちゃん。僕達も、「憧れのタツヒサさん」も絶賛だ! ナナミ:うぅ、凄く嬉しいけど死にそうなくらい恥ずかしい……。 オカモト:俺さぁ、最初なんだっけ?あのトマトとモッツァレラチーズのー、えぇー…、“カぺラーレ”? タツヒサ:惜しい、“カプレーゼ”です。 オカモト:そう、それ!あれ出てきたとき「あれ、ここ高級レストランだったっけ?」って思ってさぁ!食ったら口も高級レストランだったからびっくりしたわ! イズミ:しかも、こんなにオシャンティーな料理なのに、焼酎とかハイボールに合うんだよねぇ。 オカモト:そう!そうなんスよ!だから本当凄ぇ!ナナミ、お前本当に上達したよな料理!! イズミ:しかもこの料理を、この居酒屋のちょっとボロいキッチンで作ってるって考えたらもっとすごい…。 ツバキ:本当っすねー。ナナミー、洗い物はあたしにも手伝わせてねー。 ナナミ:いや、大丈夫。もうほぼ洗い終わってあとはフライパンが冷めたら洗うだけだから。 オカモト:は!?手際良すぎねぇか!? ツバキ:さすが未来の一流シェフー。 イズミ:あ、そういえば。留学の話、どうするんだい?もう時間がないんでしょ? ナナミ:…えーっと、実はまだ考え中で。 オカモト:まだ決心がつかない感じか? ナナミ:…はい。 イズミ:まぁ、確かに不安だもんね。たった一人で海外に行くのとか、もし失敗したらどうしようー、とか。 オカモト:俺はナナミなら大丈夫だと思うけどなぁ。こんだけもうやれてるんだし。それに、海外で特訓してきた後のナナミの料理はこれより進化してるわけだろ?俺はそんなナナミの料理食ってみてぇな! イズミ:勿論行くかどうかを決めるのはナナミちゃんだよ。だけど、ナナミちゃんが本気で夢を叶えたいなら、一歩踏み出してみることも重要だと思う。ましてや留学なんて貴重な体験だからね。 オカモト:何事もやってみることが大事ッスもんね!それに、学生時代にいろいろ経験しといたほうが大人になっていいことあると思うぜ!なにせ、俺が経験とか積んでなくて後悔したからな! ツバキ:まぁ、行くにしろ行かないにしろ、あたしたちはナナミが一流のシェフなる夢、ずっと応援してるよ。そしてその夢を叶えて、あたしたちにフルコースを振舞ってほしいなー。 タツヒサ:まぁ、でも…。 0: タツヒサ:もうナナミは、僕達からすれば立派な一流シェフだけどね。ねぇ、三人とも。 ナナミ:…!! ツバキ:本当にそれですよー。ナナミの旦那さんになる人は幸せなんだろうなー。一生ナナミの手料理が食べられるなんてー。 オカモト:しかも、これが才能じゃなくて努力の結果こうなったっつーのもカッコいいよな!ナナミは本当努力の天才だと思う!尊敬するわ! イズミ:ファイトだよ、ナナミちゃん!夢に向かって突っ走れー!ってね。 ナナミ:四人とも…。本当にありがとう!なんだか、心のもやが晴れたような気がします!! ツバキ:おっ。ということはー? ナナミ:はい!私、留学行くことにします! オカモト:お!決心ついたか!頑張れよー! イズミ:ナナミちゃんがお店にいないのは寂しくなるけれど、ずっと待ってるからね! ツバキ:帰ってきたらイタリア語教えてねー。 ナナミ:勿論!…って、なんで私の留学先知ってるの!? ツバキ:え?勘ー。 0: ナナミ:勘!?(同時に) タツヒサ:勘…。(同時に) イズミ:勘っ?(同時に) オカモト:勘ーっ!?(同時に) 0:場面転換。 0:打ち上げも終わり、五人は店を出て、帰路に就く。 0:暗い空には、薄雲に少しだけ隠れた半月が浮かんでいる。 0: オカモト:ふぅ、満腹で酔いもいい感じに回ってきて、凄いいい気分だぜ…。 タツヒサ:そうですね…。今日は本当、楽しかったです。 イズミ:うん。改めて、みんな今日はありがとう!みんなのおかげで今年も秋祭りの露店を成功させることができたよ!本当お疲れ様! ツバキ:まぁ、あたしは今年は阿波踊りでしたけどねー。 タツヒサ:いやぁ本当、遠くからしか聴こえなかったけど、とっても素敵な演奏だったよ。今度は間近で見たいな。 ナナミ:…でも、来年は多分私、秋祭りには来れないので…。 イズミ:あぁー、そっか。留学は確か一月の頭から十月の末までなんだっけ。 ナナミ:はい。だから、来年は多分手伝えないんです。 オカモト:そうかぁ。残念だなぁ、そりゃ…。 イズミ:というか、俺達が留学勧めたのに来年、一月から十月までナナミちゃんが不在になるって実感がなかった。想像すると普通に寂しいなぁ…。 ナナミ:私だって寂しいですよ…。 タツヒサ:じゃあ、定期的にビデオ通話とかしてみるのはどうだろう。 ツバキ:おー、なるほどー。名案っすねー。 オカモト:ビデオ通話!その手があったか! イズミ:その発想はオジさんには思いつかない発想だ!さすがタツヒサくん! ナナミ:じゃあ、もしその時はお互いの近況的なものを語り合いましょうね! タツヒサ:もちろん。イタリアでの出来事とか、色々な話を聞かせてほしいな。 ナナミ:はいっ! 0: 0: ツバキ:あっ。一番星みーっけ。 イズミ:おっ、本当だ。最近寒くなってきたからか、よく星が見えるね。 オカモト:「俺たちの距離がどれだけ離れようと、空にを見上げれば、俺達は同じ星を見ることができる…。」…ってな!なんかロマンチックじゃねぇか! ナナミ:えぇ、なんかちょっとダサくないですか? オカモト:ダサいとか言うなよお前ぇー! タツヒサ:そうかな?僕は良い言葉だと思いましたけど。 イズミ:よかったねオカモトくん!分かってくれる子がいたぞ! オカモト:おぅ、なんかありがとうなタツヒサ! ツバキ:でも、きっとナナミがいつも見上げている星はただの星じゃなくてー、自分の夢や、憧れの人なんじゃないかなー?そうなると、私たちが見上げる星って言うのは全員違うものになりますけどねー。 イズミ:ごめん、オカモトくん。俺ツバキちゃんの考え方のほうが好きだ。 オカモト:…やっぱ若い奴には敵わねぇな。 イズミ:まぁ、俺からすればオカモトくんもだいぶ若いけどね! ナナミ:…そっか。いつも見守ってくれてるんだ。 タツヒサ:ん?ナナミ? ナナミ:あぁ、いえ!なんでもありません! タツヒサ:そっか。ならいいんだけれど。 ツバキ:あー。そういえばナナミー。“アレ”、タツヒサ先輩に伝えておいた方がいいんじゃない? オカモト:あぁ、そうじゃんか!ナナミ、今伝えちまえ! タツヒサ:え?“アレ”…って言うのは? ナナミ:…えっと、実は、私たち計画していることがあって。 タツヒサ:ん?なんだい? ナナミ:その…。タツヒサさん、二週間後お誕生日じゃないですか。 タツヒサ:…あぁ、本当だ。ごめん、僕自身が忘れていたよ。 イズミ:自分の誕生日を忘れるのはオジさんに片足突っ込んでるよタツヒサくん! ナナミ:それで、タツヒサさんの記念すべき二十五歳の誕生日を祝わせてほしいんです!だから、その…。 0: ナナミ:私が料理とケーキを作るので、お誕生日会をしませんか! タツヒサ:…ふふっ。思い出した。だから一か月くらい前、誕生日の予定を開けるように言ってくれたのか。ありがとう、みんな。 ツバキ:いやー、これを計画して準備進めたのはほぼナナミ一人で、あたしたちは参加するだけなので―。感謝はナナミにー。 ナナミ:ちょっと!?それは恥ずかしいから言わないでいいって話だったじゃんー! ツバキ:いやぁ、つい、ねー。 タツヒサ:ふふふっ…。本当、ツバキとナナミは面白い子だな…。 オカモト:本当、いつも漫才かよって思うわ。 イズミ:まぁ、二人はそれくらい仲がいいし、ツバキちゃんはきっと、俺達よりもナナミちゃんのタツヒサ君に抱く憧れを知っているだろうしね。 ナナミ:そ、それで…。どう、でしょうか? タツヒサ:行かない、なんて選択肢はないよ。そんなに頑張って僕のことを祝おうとしてくれて、本当に嬉しい。 ナナミ:やったぁ…!ありがとうございます! タツヒサ:こちらこそだよ。二週間後、楽しみにしているからね。 ナナミ:はい!最高のコース料理を作って見せます! オカモト:参加者の俺たちも楽しみにしてるぜー? イズミ:あぁ、二週間後が待ち遠しいね。 ツバキ:さてさてー、それでは留学も決まってタツヒサ先輩の誕生日会のシェフも決まったところでー、決意表明をどうぞー。 ナナミ:け、決意表明? ツバキ:ノリでなんか言えばいいんだよー。あたしも特に考えてなかったー。 ナナミ:噓でしょ!? タツヒサ:うーん、そうだなぁ…。じゃあ、自分の将来の夢を今ここで宣言してみる、とか? ツバキ:じゃ、それでー。どうぞー。 ナナミ:えぇっ!?……じゃ、じゃあ…。ちょっと恥ずかしいけど。コホン。 0: 0: 0: ナナミ:私の夢は、みんなを、そして、「憧れの人」を笑顔にできるような…。 0: 0: 0: ナナミ:そんな、一流のシェフになることですっ!! 0: 0:End

0:時刻は十五時頃。 0: 0:とある商店街で開かれている秋祭り。 0:ナナミは露店で、焼き鳥を焼いていた。 0: ナナミ:いらっしゃいませ!…はい、二本ずつですねー。六百円になります! イズミ:はい、ちょうどお預かり。どうぞ、熱いので火傷に気を付けてくださいね。…ふぅ。 ナナミ:くぅ、炭火の煙で目が痛い…。 イズミ:頑張ってくれナナミちゃん。皆みんな君の焼き鳥を食べたくて来てくれてるんだからさ!俺も目痛いけど! ナナミ:は、はい!頑張ります! イズミ:よぉし。こっちは一旦列消えたな…。オカモト君は大丈夫そうー? オカモト:こっちはだいぶ暇ですよー。ソフトドリンク、ちょっと他のとこより値段高いから当然っちゃ当然ですけど。 イズミ:いやぁ、流石に二百円以下にしてくるとは思わなかったよなぁ…。 オカモト:まぁうちはドリンク以外にも売るものありますし、売り上げは多分問題ないですよ! ナナミ:あれ、そういえばタツヒサさんは? オカモト:あぁ、かき氷ブースが超大繁盛でさっき完売したから、借りもんのかき氷機をミタケさんとこに返しに行ったぜ。 イズミ:えっ、かき氷もう完売したの!?……本当だ、もう氷の在庫がない…。ちょっと取り寄せ少なすぎたかなぁ…。 オカモト:いや、多分ヤツの手際が良すぎるのもあるかと…。 ナナミ:もう売り切ったんだ…。タツヒサさん、やっぱり凄い……。 オカモト:本当な…。どうしたらあんなに動けるのやら。 0: 0:そんな話をしていると、法被姿のツバキが現れる。 0: ツバキ:みんな、お疲れさまー。練習がひと段落したんで様子見に来たっすよー。 オカモト:お、ツバキ。そっちも練習お疲れさま。調子はどうよ? ツバキ:まぁ、普通って感じっすかねぇ。でも、あんまり張り切りすぎて本番でミスっても嫌っすから、これくらいがちょうどいいっすよー。 ナナミ:あれ、ツバキちゃんって阿波踊りで何やるんだったけ。 ツバキ:篠笛(しのぶえ)だよー。もともと吹奏楽部だったから、その経験を活かしてこれになったー。 ナナミ:かっこいいじゃん!本番頑張ってね!焼き鳥焼きながら見守ってる! ツバキ:ありがとうナナミー。そっちも頑張ってねー。 イズミ:ナナミちゃん、お客さん来たよ! ナナミ:あぁ、すみません!いらっしゃいませー! 0: 0:そして、小走りで袋を持ったタツヒサが戻ってくる。 0: タツヒサ:かき氷機返し終わりましたよー。 イズミ:おぉ、お疲れ!本当仕事が早くて助かるよ!あれ、その袋は? タツヒサ:それが、いつもお世話になってるからってミタケさんのとこで作ってる焼きそばをいただいて。 オカモト:おぉー!そりゃありがてぇな! ツバキ:祭りの焼きそばは世界で一番おいしいっすからねー。 タツヒサ:あぁ、誰かと思えばツバキか。法被(はっぴ)来てるからわからなかったよ。 ツバキ:どもどもー。お疲れ様っすー。 オカモト:そんじゃ、ありがたく焼きそばをいただくとしますかー! タツヒサ:…あ。焼きそばが四つしかない。 イズミ:あぁ、そっか。今年はツバキちゃんが阿波踊りでいないから四人分なのかあ。 ツバキ:うー。あたしも食べたかったー…。 タツヒサ:大丈夫ですよ、僕ここに来る前少し食べてきましたから。ナナミも列ができてきて忙しそうだし、焼く係も変わってきますよ。 イズミ:いやいやタツヒサ君。そういう役割はおっさんに任せてもらわないと。さっきまで俺会計とかしかやってなかったから、俺がナナミちゃんと変わってくるよ。 タツヒサ:え、いいんですか? イズミ:大丈夫大丈夫。なんなら俺はさっき焼きそば食べてるし、ナナミちゃんもタツヒサ君と話したいだろうし。なにより、俺焼き鳥焼くの上手いし! オカモト:ま、今となってはナナミのが上手いッスけどね! イズミ:カッコつけてるときにそういうこと言わないでもらっていいー!? ツバキ:店長ー、あとであたしにも焼き鳥食べさせてくださいねー。 イズミ:あいよー!じゃ、行ってくる! 0: 0:そういってイズミがナナミと交代しに行く。 0: オカモト:まったく。店長もお前も、とんだお人好しだよなー。 タツヒサ:えぇ、そうですかね? ツバキ:そうじゃなかったら自分から進んでそーゆーこと言ったりとか人の持ってる役割肩代わりとかできませんってー。 タツヒサ:そうかな、そう言ってくれてありがとうね。ツバキ。 0: 0:イズミと交代したナナミが来る。 0: ナナミ:うー、久々に焼いたからかなぁ、目が本当に痛い…。 タツヒサ:お疲れさま、ナナミ。そういえば、僕の知らない間に料理がとっても上達したんだって?さっきイズミさんから聞いたよ。 ナナミ:タツヒサさん!そんなことないですよ、まだまだです…。 タツヒサ:そうかい?まぁ君が例えそう思っていたとしても、ナナミが頑張って努力をしたってだけで素敵だと僕は思うよ。 ナナミ:…もう。そうやってサラッとカッコいいこと言うんですから…。 オカモト:ははは。いつも通りイチャイチャしてんなぁ。 ナナミ:イチャイチャなんてしてないです! ツバキ:まあまあー。そんなことより、早く食べないと冷めちゃいますよー。 タツヒサ:そうだね。早く食べちゃおう。でも気を緩め過ぎずないようにね。もしお客さんが来たらちゃんと対応しないとだから。 ツバキ:流石元バイトリーダー。頼りになるー。 ナナミ:やっぱりタツヒサさんは凄いです…!! タツヒサ:あはは、ありがとうね。 0: 0: 0: オカモト:にしても…。このドリンク考えたの誰なんだ? ナナミ:このドリンクって? オカモト:これだよ。『黒糖タピオカミルクティー』…。すーげぇ甘そうなんだけど。 ツバキ:これ発案したのはあたしですー。というか、あたしが考えたんじゃなくて既存のメニューっすよー? オカモト:え、そうなの?俺タピオカミルクティーしか知らねぇわ…。 ナナミ:結構前からありますよ! タツヒサ:オカモトさんは最近の流行とか疎そうですもんね…。 オカモト:うるせぇなぁ、だってタピオカって何が美味いのかよくわからねぇんだもんよ。一回飲んでみたけどあんまうまくなかったしなぁ…。 ツバキ:えぇー、あの食感がいいんじゃないですかー。 タツヒサ:僕もそこまでタピオカがおいしいと感じたことがないな…。多分、好みの問題だとは思うけどね。 ナナミ:私は別に好きだけどあんまり飲まないなぁ。ツバキちゃんはよく飲むんだったっけ。 ツバキ:そうだよー。見かけたら買おっかなー、くらいだけどねー。 オカモト:年喰うと若者の流行りが本当にわかんなくなるんだよなぁ…。イズミ店長も言ってたよ。「タピオカはカエルの卵にしか見えない」って。 ナナミ:ちょっと!?なんてこと言うんですか!ここにタピオカがいっぱい入ってるボックスがあって私たちこれ売る側なんですよー!? ツバキ:やぱーい、言われてみると本当にそれに見えてきちゃったかもー…。 タツヒサ:あはは…。でも例えは秀逸ですね…。 オカモト:だろぉ? ナナミ:「だろぉ?」じゃないですよ!もう…。 0: イズミ:おーい、ツバキちゃーん! 0: 0:イズミがまた戻ってくる。 0: ツバキ:あれー、イズミ店長、どうしたんですー? イズミ:なんか阿波踊りの連(れん)の方でトラブルが起こったらしくて、ツバキちゃんに来てほしいって副連長(ふくれんちょう)さんが。 ツバキ:あれー、なんか道具の方で手違いでもあったのかなぁー…。 ナナミ:ツバキちゃんも大変だね。 タツヒサ:もう本番まで三十分くらいしかないし、急いだほうがいいと思うよ。 ツバキ:そうですねー…。じゃあ、ちょっと行ってきますー。本番前にまたちょっとだけ顔出ししますねー。 オカモト:おう!阿波踊り楽しみにしてるから、準備も頑張れよ! イズミ:大変だろうけど、応援してるよ! ツバキ:はーい、四人ともありがとー。行ってくるねー。 0: 0:そういってツバキが準備に向かう。 0: イズミ:さて、俺達も仕事頑張りますか。 オカモト:そうッスね。 タツヒサ:あの、かき氷完売してから僕何もしてないですし、そろそろ何か手伝いますよ。 ナナミ:あっ、私ももう十分休憩したのでやります! イズミ:あーいや、もうそろそろお客さんも減ってきたし、こっちは俺一人で大丈夫だよ! オカモト:俺んとこもお客さん来ねえしなあ。 ナナミ:あー…。完全に私たち余っちゃいましたね…。 オカモト:じゃあ、少し二人で祭り回ってきたらどうだ?当分やることねえし。いいですよね、店長? イズミ:うん。それがいいと思う。阿波踊りが始まる頃に戻っておいで。 タツヒサ:しかし、任せてしまって本当にいいんですか? イズミ:勿論。もし急に人が多くなったりトラブルが起きたりしたら呼ぶかもしれないけど、大丈夫。そんなことは起きないだろうからね! オカモト:仕事はおっさんどもに任せて、若い連中は今のうちに楽しんできな! タツヒサ:ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えることにしますね。じゃあ行こうか、ナナミ。 ナナミ:は、はーい!では、いってきます…! 0: 0:二人が屋台の方に歩き出していく。 0: イズミ:…オカモト君、焼き鳥食べる? オカモト:えぇっ、お客さんは? イズミ:今居ないから大丈夫、ちょっと焦げ焦げになっちゃった奴があってさぁ…。 オカモト:なんでそれ俺食わなきゃいけないんスか!? イズミ:だってもったいないじゃん!鳥が可哀そうじゃん!? オカモト:でも焦がしたのは店長でしょぉ!?店長が食えばいいじゃないスか! 0: 客:あのーすみません、黒糖タピオカミルクティー(と焼き鳥のモモをください) イズミ:(被せて同時に)いらっしゃいませー! オカモト:(被せて同時に)はい、いらっしゃい! 0: 0:タツヒサとナナミが二人で並んで歩いている。 0: タツヒサ:やっぱりここの秋祭りは毎度賑わうね。お客さんがいっぱいだ。 ナナミ:そうですね…。毎年道を埋め尽くす人だかり。まぁ、それくらい皆このお祭りを楽しみにしているってことですね。 タツヒサ:高校時代、ナナミたちと一緒にここを回ったのが懐かしいよ…。 ナナミ:私あの頃、ツバキちゃんも入れた三人で、ここでお姉さんにバルーンアート作ってもらったのを覚えてます! タツヒサ:ふふっ、あったあった。その写真、僕多分まだ写真フォルダに入ってるよ。 ナナミ:凄い!三、四年前だから多分もう私消しちゃったな…。 タツヒサ:大切な思い出はちゃんと手元に残しておきたいからね。ナナミが無くしちゃったなら、あとで送っておくよ。 ナナミ:本当ですか!すみません、じゃあそうしてもらえると…。 タツヒサ:分かった。…お、ここのたこ焼き美味しそう。ナナミ、食べる? ナナミ:食べます!あの、ここでドリンクも買っていいですか。さっき飲んだんですけど、もう喉乾いちゃって。 タツヒサ:もちろんだよ。すみませーん。たこ焼きをー……。 0: 0:場面転換。たこ焼きを買ってからおよそ二十分経過。 0:二人はたこ焼きを食べ終え、飲み歩きをしながら談笑していた。 0: ナナミ:本当、タツヒサさんは凄いと思います。私たち、今でも本当に頼りにしてしまってますし…! タツヒサ:そ、そうかなぁ…? ナナミ:そうですよ!今私が夢を持ててるのもあの日タツヒサさんがいたからなんですから…! タツヒサ:まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいけどね。でも、僕がいなくてもナナミはきちんとやれていたと思うよ? ナナミ:いや、本当にそんなことは…。だって私はあなたを…! 0: 0:そんな話をしていると、前から笛を持ったツバキが歩いてくる。 0: ツバキ:あー、タツヒサさんとナナミだー。今休憩中ー? タツヒサ:ツバキ。うん。お客さんが少なくなったから休んでもいいって言われてね。そっちの阿波踊りの方はもう大丈夫なのかい? ツバキ:んー。一人が法被とうちわ忘れちゃって、衣装の余りをあたしが管理してたからそれで呼ばれただけだったー。 ナナミ:準備お疲れ様。あ、さっきたこ焼き買ったけど、食べる? ツバキ:おー。それはありがたくいただきたいんだけど、もう時間がないんだよねー。 ナナミ:えっ、阿波踊りってもう始まるっけ!? ツバキ:うんー。あと十分くらいで本番ー。だから店長のとこに顔出しとこーって思ったんだけどー。 タツヒサ:…本当だ。もう十五時三十分か…。やっぱり、楽しく話していると時間の流れは速いね。 ツバキ:じゃあ、一緒に戻りましょー。 0: 0:そうして三人は露店へ歩き始める。 0: ツバキ:そういえばナナミー。アレ、結局どうするの? ナナミ:…?アレ、っていうのは? ツバキ:アレだよー、ナナミが一流のシェフになるためのー、アレ。 ナナミ:…もしかして、留学の話? ツバキ:そーそー。イタリアだっけー?しようか考えてるって言ってたじゃんー? タツヒサ:その話撲初めて聞いたな…。でも、それだけ自分の夢を叶えたいって思いがあるナナミは凄いと思うよ。 ツバキ:えぇ~?ナナミ、タツヒサ先輩にまだ話してなかったのー?ちょっと意外だなー。 ナナミ:あー…。…でも、実はまだ迷っていて……。 タツヒサ:えっ、そうなのかい? ナナミ:はい…。お金もかかりますし、私が本当にシェフになれるのかなって思ってしまって…。 ツバキ:えー。ナナミ、凄く頑張ってるじゃんかー。それに、店長もオカモトさんも応援してくれてるよー?ナナミの夢。 ナナミ:そうなんだけど…。まだいまいち決心がつかなくて。 タツヒサ:そっか。まあ自分のことだし、ゆっくり決めればいいと思うよ。まだ考える時間はあるんだろう? ナナミ:はい。留学が始めるのは来年の四月なので、今年中に決めればまだ間に合うんですけど…。 ツバキ:でもあと二か月かー。あんまり時間ないねー。 タツヒサ:そうだね…。まぁ、もし何か踏みとどまる理由があるのなら、話聞くよ。 ナナミ:ありがとうございます、タツヒサさん…。 0: 0:そんな話をしているうちにイズミ達のもとへたどり着く。 0: オカモト:はーい、黒糖タピオカミルクティーね。四百円になります!…はーい、ちょうど。毎度ね! イズミ:そっち、なんか客足多くなってない? オカモト:多くなって…ますね。もう祭りも佳境だから若者は飲み物が飲みたいんじゃないッスか?知らんけど! イズミ:そうなのかもねぇ…。っと、帰ってきたか二人とも。それにツバキちゃんも。 タツヒサ:ただいま戻りました。 ツバキ:ただいまですー。とは言っても私はもう行かなきゃなんですけどねー。 オカモト:おう、おかえり!少し客が増えてきたっていうときに帰ってきてくれてありがたいぜ、ベストタイミングだ!ツバキは阿波踊り、頑張れよ! ツバキ:はーい。頑張って笛吹いてきまーす。 イズミ:ナナミちゃんもおかえり。楽しめた? ナナミ:はい、タツヒサさんとお話しするの久々で楽しめました…。 イズミ:…?大丈夫?なんか元気なさそうだけど。 ナナミ:…いえ、全然大丈夫です! タツヒサ:さて、僕達は何を手伝えばいいですか? イズミ:そうだなぁ。じゃあ、二人にはこのブースに設置してあるごみ箱のごみ分別をお願いしていいかな?ちゃんとわけないといけないから…。汚いかもだけど、ごめんね。 タツヒサ:大丈夫です。そこのごみでいいですか? イズミ:うん、大丈夫!じゃあお願いね! ツバキ:さてさてー、あたしもそろそろ行きますかー。 オカモト:いやぁ、地図確認したら阿波踊りをやるのこの通りだったなんてな!ここから見れるからよかったぜ! ナナミ:ツバキちゃん、頑張ってね! イズミ:練習の成果、ばっちり発揮しておいで! タツヒサ:影ながら見守ってるよ。 ツバキ:みんなありがとー。じゃ、行ってきまーす。 0: 0:ツバキが阿波踊りの所定位置に向かう。 0: オカモト:いやぁ、楽しみだな!ツバキの篠笛(しのぶえ)! イズミ:オカモトくぅ~ん、ツバキちゃんたちに見とれて仕事を疎(おろそ)かにしないでねぇ~? オカモト:わかってますよ!ちゃんとやりやすよ! タツヒサ:あはは。さて、じゃあナナミ。僕達もごみの処理やろうか。 ナナミ:はい! イズミ:ありがとう二人とも、よろしくー! 0: 0:二人はごみ箱へ向かった。 0: ナナミ:ありゃー……。 タツヒサ:プラのコップに、焼き鳥やフランクフルトの串。紙皿に焼きそばが入ってたであろう入れ物…。 ナナミ:これはー…。大変な作業になりそうですね。 タツヒサ:そうだね。でもまぁ、ゆっくりやろう。もしかしたらまだごみが増えるかもしれないしね。 ナナミ:そうですね。…あ、これがゴミ袋ですね。とりあえず分別していきますか。 0: 0:そうして二人はごみの分別を始める。 0:しばらく黙々と作業をする二人だったが、 0:カカン、カカンという阿波踊りの鐘の音が聴こえて来たころでタツヒサが口を開く。 0: タツヒサ:…ナナミ。さっきの話なんだけどさ。 ナナミ:さっきの…話というのは。 タツヒサ:留学の話。 ナナミ:あぁー…。 タツヒサ:…さっきの反応聞いてて、もしかしたらナナミは留学にあまり行きたくないのかなって思ったんだ。 ナナミ:い、いやそんなことは…。 タツヒサ:それならいいんだけどね。もしそうなら、何か理由があるんじゃないかって思って。 ナナミ:……。 タツヒサ:何か悩んでいることがあるなら、僕でよければいつでも相談に乗る。一人で抱え込むのは良くないからね。少しでもナナミの不安を肩代わりできれば。 0: 0:阿波踊りの音がだんだん近づいてくる。 0: ナナミ:…実は…。不安なんです。ひとりで海外に十か月も滞在して、もし成果が出なかったらどうしよう、とか。そもそも生活できるのかな、とか…。 ナナミ:でも、シェフには勿論なりたいし、挑戦しなきゃ始まらない、なんてこと分かりきってるんですけど…。 タツヒサ:まだ踏ん切りがつかなくて、踏み出せずにいる、と…。 ナナミ:…はい。…それに、その…。 タツヒサ:ん?なんだい? ナナミ:…その、みんなやタツヒサさんと会えなくなるのは、その…。寂しい…ですし。 タツヒサ:寂しい、か…。ふふふっ。ナナミは時折かわいらしいことを言うよね。 ナナミ:か、可愛いですかね…? 0: 0:提灯の明かりがきれいに見えるようになってきたころ。 0:いつの間にか露店の前くらいに来ていた阿波踊りの連に、笛を吹くツバキの姿が見える。 0: ナナミ:…あっ。ツバキちゃんだ。なんかツバキちゃんの笛を演奏している姿って、普段のゆるゆるーってした感じとギャップがあってカッコいいですね。 タツヒサ:本当だね。……やっぱり、頑張っていたり、楽しんでいる人を見ていると、こっちも元気になるね。 ナナミ:はい。なんだか、こっちも頑張るぞって気持ちになれて…! タツヒサ:…ツバキからもだけど、僕はそれを君から感じているよ。 ナナミ:えっ? タツヒサ:ナナミが毎日料理を練習していることはイズミさんから聞いているし、今日だって焼き鳥を焼いて、お客さんの対応もして。 ナナミ:で、でも。私はタツヒサさんのようにてきぱきとは動けませんし、料理もまだまだ未熟です…。 タツヒサ:そう言ってくれてありがとう。でも、ナナミは毎日、もっと上達しよう、練習しようと努力しているだろう? タツヒサ:それが大事なんだよ、ナナミ。例え君がそんなことはないって謙虚に否定したとしても、オカモトさんやツバキだって君の努力を認めているし、それにーーー。 0: 0:ドンッ、と大太鼓が一つ大きく鳴り、踊り手が「はっ!」という掛け声とともに静止するのと同時に演奏が収まり、拍手が起こる。 0: 0: タツヒサ:君の頑張りは、僕だってよく知っているさ。 0: 0: 0:場面転換。イズミの運営する居酒屋での打ち上げ。 0: オカモト:……おぉっ!ナナミ!お前の作ったパスタ、これ超美味ぇ!とろとろのソースが麺に絡んで…。いやぁ、シメにぴったりだわこれ! ツバキ:…んー、美味しいー。パスタがちょっとかためなのが最高ー。 イズミ:まさか打ち上げのご飯をナナミちゃんが作ってくれるとはねぇ。 ナナミ:はい、ちょっと頑張ってみました! タツヒサ:……うん、とっても美味しい。このパスタもサラダもソテーも、まるでミシュランのシェフが作ったみたいだね。 ナナミ:やったぁ!タツヒサさんに褒めていただけて、凄く嬉しいですっ! ツバキ:ナナミったら、タツヒサさんに自分の頑張りを見てほしくて、前日から凄い考えたらしいですよー。 ナナミ:ちょっ!なんでバラすのツバキちゃん!? ツバキ:だってー、「憧れのタツヒサさんを喜ばせたいから、私頑張ってみるよ!」って一週間前からやる気満々だったじゃないー。その頑張りも本当は聞いてもらいたいんだろうなーっても思ってー。 イズミ:凄い、ちょっと似てる! ナナミ:一言一句バラさないでぇ!もう、恥ずかしいよぉ……。 タツヒサ:そうだったのかい?憧れ、だなんて…。ふふふっ。ナナミは可愛いね。ありがとう。でも大丈夫。ナナミの頑張りは、いつも伝わっているからさ。 オカモト:お前今の話聞いてそれ!?これがあれか?『イケメンムーブ』ってやつなのかぁ?! イズミ:だってさー。良かったね、ナナミちゃん。僕達も、「憧れのタツヒサさん」も絶賛だ! ナナミ:うぅ、凄く嬉しいけど死にそうなくらい恥ずかしい……。 オカモト:俺さぁ、最初なんだっけ?あのトマトとモッツァレラチーズのー、えぇー…、“カぺラーレ”? タツヒサ:惜しい、“カプレーゼ”です。 オカモト:そう、それ!あれ出てきたとき「あれ、ここ高級レストランだったっけ?」って思ってさぁ!食ったら口も高級レストランだったからびっくりしたわ! イズミ:しかも、こんなにオシャンティーな料理なのに、焼酎とかハイボールに合うんだよねぇ。 オカモト:そう!そうなんスよ!だから本当凄ぇ!ナナミ、お前本当に上達したよな料理!! イズミ:しかもこの料理を、この居酒屋のちょっとボロいキッチンで作ってるって考えたらもっとすごい…。 ツバキ:本当っすねー。ナナミー、洗い物はあたしにも手伝わせてねー。 ナナミ:いや、大丈夫。もうほぼ洗い終わってあとはフライパンが冷めたら洗うだけだから。 オカモト:は!?手際良すぎねぇか!? ツバキ:さすが未来の一流シェフー。 イズミ:あ、そういえば。留学の話、どうするんだい?もう時間がないんでしょ? ナナミ:…えーっと、実はまだ考え中で。 オカモト:まだ決心がつかない感じか? ナナミ:…はい。 イズミ:まぁ、確かに不安だもんね。たった一人で海外に行くのとか、もし失敗したらどうしようー、とか。 オカモト:俺はナナミなら大丈夫だと思うけどなぁ。こんだけもうやれてるんだし。それに、海外で特訓してきた後のナナミの料理はこれより進化してるわけだろ?俺はそんなナナミの料理食ってみてぇな! イズミ:勿論行くかどうかを決めるのはナナミちゃんだよ。だけど、ナナミちゃんが本気で夢を叶えたいなら、一歩踏み出してみることも重要だと思う。ましてや留学なんて貴重な体験だからね。 オカモト:何事もやってみることが大事ッスもんね!それに、学生時代にいろいろ経験しといたほうが大人になっていいことあると思うぜ!なにせ、俺が経験とか積んでなくて後悔したからな! ツバキ:まぁ、行くにしろ行かないにしろ、あたしたちはナナミが一流のシェフなる夢、ずっと応援してるよ。そしてその夢を叶えて、あたしたちにフルコースを振舞ってほしいなー。 タツヒサ:まぁ、でも…。 0: タツヒサ:もうナナミは、僕達からすれば立派な一流シェフだけどね。ねぇ、三人とも。 ナナミ:…!! ツバキ:本当にそれですよー。ナナミの旦那さんになる人は幸せなんだろうなー。一生ナナミの手料理が食べられるなんてー。 オカモト:しかも、これが才能じゃなくて努力の結果こうなったっつーのもカッコいいよな!ナナミは本当努力の天才だと思う!尊敬するわ! イズミ:ファイトだよ、ナナミちゃん!夢に向かって突っ走れー!ってね。 ナナミ:四人とも…。本当にありがとう!なんだか、心のもやが晴れたような気がします!! ツバキ:おっ。ということはー? ナナミ:はい!私、留学行くことにします! オカモト:お!決心ついたか!頑張れよー! イズミ:ナナミちゃんがお店にいないのは寂しくなるけれど、ずっと待ってるからね! ツバキ:帰ってきたらイタリア語教えてねー。 ナナミ:勿論!…って、なんで私の留学先知ってるの!? ツバキ:え?勘ー。 0: ナナミ:勘!?(同時に) タツヒサ:勘…。(同時に) イズミ:勘っ?(同時に) オカモト:勘ーっ!?(同時に) 0:場面転換。 0:打ち上げも終わり、五人は店を出て、帰路に就く。 0:暗い空には、薄雲に少しだけ隠れた半月が浮かんでいる。 0: オカモト:ふぅ、満腹で酔いもいい感じに回ってきて、凄いいい気分だぜ…。 タツヒサ:そうですね…。今日は本当、楽しかったです。 イズミ:うん。改めて、みんな今日はありがとう!みんなのおかげで今年も秋祭りの露店を成功させることができたよ!本当お疲れ様! ツバキ:まぁ、あたしは今年は阿波踊りでしたけどねー。 タツヒサ:いやぁ本当、遠くからしか聴こえなかったけど、とっても素敵な演奏だったよ。今度は間近で見たいな。 ナナミ:…でも、来年は多分私、秋祭りには来れないので…。 イズミ:あぁー、そっか。留学は確か一月の頭から十月の末までなんだっけ。 ナナミ:はい。だから、来年は多分手伝えないんです。 オカモト:そうかぁ。残念だなぁ、そりゃ…。 イズミ:というか、俺達が留学勧めたのに来年、一月から十月までナナミちゃんが不在になるって実感がなかった。想像すると普通に寂しいなぁ…。 ナナミ:私だって寂しいですよ…。 タツヒサ:じゃあ、定期的にビデオ通話とかしてみるのはどうだろう。 ツバキ:おー、なるほどー。名案っすねー。 オカモト:ビデオ通話!その手があったか! イズミ:その発想はオジさんには思いつかない発想だ!さすがタツヒサくん! ナナミ:じゃあ、もしその時はお互いの近況的なものを語り合いましょうね! タツヒサ:もちろん。イタリアでの出来事とか、色々な話を聞かせてほしいな。 ナナミ:はいっ! 0: 0: ツバキ:あっ。一番星みーっけ。 イズミ:おっ、本当だ。最近寒くなってきたからか、よく星が見えるね。 オカモト:「俺たちの距離がどれだけ離れようと、空にを見上げれば、俺達は同じ星を見ることができる…。」…ってな!なんかロマンチックじゃねぇか! ナナミ:えぇ、なんかちょっとダサくないですか? オカモト:ダサいとか言うなよお前ぇー! タツヒサ:そうかな?僕は良い言葉だと思いましたけど。 イズミ:よかったねオカモトくん!分かってくれる子がいたぞ! オカモト:おぅ、なんかありがとうなタツヒサ! ツバキ:でも、きっとナナミがいつも見上げている星はただの星じゃなくてー、自分の夢や、憧れの人なんじゃないかなー?そうなると、私たちが見上げる星って言うのは全員違うものになりますけどねー。 イズミ:ごめん、オカモトくん。俺ツバキちゃんの考え方のほうが好きだ。 オカモト:…やっぱ若い奴には敵わねぇな。 イズミ:まぁ、俺からすればオカモトくんもだいぶ若いけどね! ナナミ:…そっか。いつも見守ってくれてるんだ。 タツヒサ:ん?ナナミ? ナナミ:あぁ、いえ!なんでもありません! タツヒサ:そっか。ならいいんだけれど。 ツバキ:あー。そういえばナナミー。“アレ”、タツヒサ先輩に伝えておいた方がいいんじゃない? オカモト:あぁ、そうじゃんか!ナナミ、今伝えちまえ! タツヒサ:え?“アレ”…って言うのは? ナナミ:…えっと、実は、私たち計画していることがあって。 タツヒサ:ん?なんだい? ナナミ:その…。タツヒサさん、二週間後お誕生日じゃないですか。 タツヒサ:…あぁ、本当だ。ごめん、僕自身が忘れていたよ。 イズミ:自分の誕生日を忘れるのはオジさんに片足突っ込んでるよタツヒサくん! ナナミ:それで、タツヒサさんの記念すべき二十五歳の誕生日を祝わせてほしいんです!だから、その…。 0: ナナミ:私が料理とケーキを作るので、お誕生日会をしませんか! タツヒサ:…ふふっ。思い出した。だから一か月くらい前、誕生日の予定を開けるように言ってくれたのか。ありがとう、みんな。 ツバキ:いやー、これを計画して準備進めたのはほぼナナミ一人で、あたしたちは参加するだけなので―。感謝はナナミにー。 ナナミ:ちょっと!?それは恥ずかしいから言わないでいいって話だったじゃんー! ツバキ:いやぁ、つい、ねー。 タツヒサ:ふふふっ…。本当、ツバキとナナミは面白い子だな…。 オカモト:本当、いつも漫才かよって思うわ。 イズミ:まぁ、二人はそれくらい仲がいいし、ツバキちゃんはきっと、俺達よりもナナミちゃんのタツヒサ君に抱く憧れを知っているだろうしね。 ナナミ:そ、それで…。どう、でしょうか? タツヒサ:行かない、なんて選択肢はないよ。そんなに頑張って僕のことを祝おうとしてくれて、本当に嬉しい。 ナナミ:やったぁ…!ありがとうございます! タツヒサ:こちらこそだよ。二週間後、楽しみにしているからね。 ナナミ:はい!最高のコース料理を作って見せます! オカモト:参加者の俺たちも楽しみにしてるぜー? イズミ:あぁ、二週間後が待ち遠しいね。 ツバキ:さてさてー、それでは留学も決まってタツヒサ先輩の誕生日会のシェフも決まったところでー、決意表明をどうぞー。 ナナミ:け、決意表明? ツバキ:ノリでなんか言えばいいんだよー。あたしも特に考えてなかったー。 ナナミ:噓でしょ!? タツヒサ:うーん、そうだなぁ…。じゃあ、自分の将来の夢を今ここで宣言してみる、とか? ツバキ:じゃ、それでー。どうぞー。 ナナミ:えぇっ!?……じゃ、じゃあ…。ちょっと恥ずかしいけど。コホン。 0: 0: 0: ナナミ:私の夢は、みんなを、そして、「憧れの人」を笑顔にできるような…。 0: 0: 0: ナナミ:そんな、一流のシェフになることですっ!! 0: 0:End