台本概要

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タイトル Absence of emotion~薫の場合~
作者名 ぐら  (@gura2943)
ジャンル その他
演者人数 3人用台本(男1、不問2) ※兼役あり
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 それは突拍子もない噂話だった。
目を瞑って、路地裏に入り適当に歩く。
ここだと思った場所で深呼吸。
焦ってはいけない。ゆっくりと、三回。
そうすれば、困った人を助けてくれるお店が現れるらしい。

「だったら、試してみようか?」
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※性別変更可。
※語尾変更可。
※世界観を壊さないアドリブ許可。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
マスター 不問 46 きっとお店のマスター
ダル 不問 28 きっとお店の従業員
41 男子高校生
生徒A 不問 6 兼ね役
生徒B 不問 5 兼ね役
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
薫:それは突拍子もない噂話だった。 薫:目を瞑って、路地裏に入り適当に歩く。 薫:ここだと思った場所で深呼吸。 薫:焦ってはいけない。ゆっくりと、三回。 薫:そうすれば、困った人を助けてくれるお店が現れるらしい。 薫:よくある都市伝説みたいな形で同級生が話をしていた。 薫:本当なのかな、どうせ嘘でしょという声の中に一つ落ちる声。 薫:「だったら、試してみようか?」 0: 0: 0: 0: マスター:「あれから、また人は来ないか」 ダル:「頻繁に訪れられても困るでしょう」 マスター:「けれど、君も楽しみなんじゃないのかな?」 ダル:「…ええ、とても楽しみですよ。早く来客があれば良いのに」 マスター:「ふふ、それなら良かった。順調なようだね」 ダル:「そう言ってくれるのでしたら、受け入れた甲斐があります」 マスター:「それじゃあ何か飲み物を持ってきてくれるかな」 ダル:「何か、といいつつ紅茶ばかりではないですか」 マスター:「珈琲よりも紅茶の方が楽しそうに淹れているから、ついね」 ダル:「かしこまりました」 0: 0: 0: 0: マスター:ダルが奥へと行ったタイミングで、カランとドアベルが鳴る。 マスター:デジャブのようなものを感じながら扉へと視線を向ければ学生のような少年が一人立っていた。 マスター:「やぁ、いらっしゃい。何用かなお客さん」 薫:「え…?」 0: 薫:思い立って、適当な路地裏で実行したものの、こんな事があるなんて思わなかった。 薫:自然と口角が上がるのが、頬が上がるのが解る。 0: 薫:「ほ、本当だったんだ…!」 マスター:「何が本当だったのかは分からないけれど、さてどんなご用向きだろう」 0: 薫:胡散臭い感じのする店主らしき人はこちらを見たままに言う。 薫:よくよく見れば店内も統一性は無く、様々な国が入り交じり雑多な感じだ。 薫:しかし、一つだけおかしな事がある。 薫:僕は特段、困ってなどいなかったのだ。 0: 薫:「あ、の…すみません。僕、噂を聞いて試して見ただけで…お客という訳じゃないんです」 マスター:「おやおや、それは違うんじゃあないかな。ここはそういう店なのだからさ」 ダル:「お待たせしましたマスター、紅茶で…失礼、お客様ですか。いらっしゃいませ」 マスター:「前回に引き続き今回もタイミングが悪いねぇ。お客さんにも飲み物を」 ダル:「かしこまりました。珈琲に紅茶、ジュースもありますが如何されますか」 薫:「あ、じゃあジュースで」 0: 薫:苦いのは好きじゃない。無理やり甘くしたのも好きでは無い。 薫:従業員のような人は、僕の返事を聞くとすぐに奥へと引っ込んで行ってしまった。 0: マスター:「じゃあ早速、話を聞こうか」 薫:「いや…だから何も無いんです」 マスター:「そんなはずは無いよ。だってこの場所はそういう風に出来ているから」 薫:「そんな事を言われても…」 ダル:「お待たせしました。オレンジジュースで宜しいですか」 薫:「あ、ありがとうございます…」 0: 薫:居心地が悪い。 薫:ふざけてやってみただけなのに、どうしてこうなってしまったのか。 薫:困った人を助けてくれるらしいが、生憎(あいにく)僕には何も無い。 薫:本当に、どうしようか… ダル:「ここに来た経緯を伺っては如何でしょう」 マスター:「ああ、確かに。本人に心当たりが無くとも、経緯を聞けば何か分かるかもしれない」 マスター:「という事で、話して貰えるかな」 0: 0: 0: 0: ダル:お客様は少し考え込んだ様子で、暫くは口を開かなかった。 ダル:その後、悩んでいても仕方がないと高を括ったのだろう。 ダル:何度か顔を上げては俯いて、それからこの場所に来る事が出来た経緯を話し始めた。 0: 0: 0: 薫:「つまり、肝試しみたいな…度胸試しみたいなものなんです」 薫:「こんなお店の噂があるって学校で話題になって、試してみたいけどでも怖くないかって、どうせ嘘だって皆しり込みして」 薫:「だから僕が、試してみようかって言ったんです」 マスター:「誰もがしり込みしてたのに?」 薫:「だって…人に頼られるのって嬉しいじゃないですか」 0: マスター:目の前の少年は、とても良い笑顔でそう告げた。 0: 0:ダル:「嬉しい…ですか」 0: ダル:ポツリと口の中でだけ呟いた筈が、耳聡いマスターが視線を此方へと向ける。 0: マスター:「嬉しい、喜びを感じるって事かな」 薫:「そうです。だから、僕に出来ることは何でもやってあげたい」 マスター:「それはそれは、素晴らしい思想だね」 マスター:「もしかしたら、君は自分にできない事がある、という事に困っているのかもしれないなぁ」 薫:「ッ?!」 マスター:「おや、もしかして心当たりがあるのかな」 薫:「そうです、そうなんです…!どうしてもできない事はあって…そういう時はその、怒られちゃったりして……」 0: ダル:途端に歯切れが悪くなるお客様。 ダル:その後を継ぐように、マスターは続ける。 0: マスター:「なーるほど、なるほど。だからこそ、期待に応えられるようになりたいと。そういう事か」 薫:「そう、かも…きっとそうだ。僕がもっと何でも出来ればもっと喜んで貰えて、それで…」 マスター:「自分も、嬉しくなると」 薫:「そう!僕が困ってたのはそれです…!」 マスター:「そうかそうか。それならもう少しだけ詳しく話を聞こうか」 薫:「はい、お願いします!」 0: 0: 0: 0: ダル:それから彼は語った。 ダル:いかに自分が役立ってきたか、求められてきたか。 ダル:様々な場面でアテにされ、それに応えてきたか。 ダル:しかし、聞けば聞くほどそれはまるで…── 0: 0: 0: マスター:「それは凄い。では周りは今でも君なしでは居られないというのに…そこで弱点を克服してしまえば」 薫:「はい、もっともっと貢献出来ますよね!」 マスター:「お客さんは、その力が欲しいのかな?」 0: ダル:ああ、こうして引き込んで行くのかと心の中だけで言葉を吐く。 ダル:言ってはいけない言葉だろうから。 ダル:無条件で与えられるモノなんて無いというのに。 0: 薫:「欲しいです、欲しい…!」 マスター:「対価は貰うよ、それでも欲しいのかな?」 薫:「あの…学生なのでそんなに出せないんですけど…」 マスター:「ああ、大丈夫。だーいじょうぶ。お金なんて求めて無いから」 マスター:「持っていないモノを求めたりしないよ」 薫:「よく分からないけど、それなら良いです。僕が渡せるものなら」 マスター:「では、成立だね」 0: 0: 0: 薫:成立だね、という言葉と共に掌を翳された。 薫:目の前が一瞬暗くなり、そのせいか眩暈(めまい)すら覚え無意識に腕に力が入る。 薫:次の瞬間には、掌は退けられまた人工的な明かりが眼を射した。 0: 0: 0: 0: マスター:「はい、終わり」 薫:「え…これで終わりですか?何も変わってない気が…」 マスター:「そりゃあ、出来なかったことが出来るようになるっていうのは目に見えて何か変わるわけじゃないよ」 薫:「確かに…?」 マスター:「さて、ここで君にはもう一個サービスをしよう」 薫:「サービス…ですか?」 マスター:「そう。皆を助ける事が喜びだという献身的な君へのサービスだよ」 0: ダル:マスターがそう告げると、辺りの様子が変わっていく。 ダル:また一つ、彼の能力を知れた心地だった。 ダル:見渡せば、机と椅子が規則的に並んでいる。 ダル:見せられている場所はどうやら、教室、という場所らしいことが理解出来た。 0: 薫:「ここは…」 マスター:「そう、ここは君が通っている学校。そして君のクラス」 マスター:「そうして、映し出されるのは君の知らない話」 薫:「僕の知らない…話」 マスター:「うん。君が皆の役に立つのが嬉しいと言っていたからさ。どんな子達なのか見てみようかと思って」 薫:「そうだったんですか…!凄く良い人達ですよ、みんな」 マスター:「そっかそっか。じゃあ、見てみよう。そして聴いてみよう」 0: 0: 生徒A:「アイツ居ると便利だよな」 生徒B:「適当におだてりゃやってくれるもんな」 生徒A:「そうそう、面倒なのは全部押し付けときゃいい」 生徒B:「言えてる。そのお陰で遊ぶ時間も増えるし」 生徒A:「あの調子じゃグループに入ってない事も気付いてないよな」 生徒B:「無い無い。そもそも気付く訳ないじゃん」 生徒A:「アイツの前でそんな話もしないし、か?」 生徒B:「とろいし、居るだけで邪魔だもん」 生徒A:「そこまで言うかー?」 生徒B:「でも実際そうだろ?」 生徒A:「まぁなー」 0:笑い声 0: 0: 0: マスター:「……だ、そうだけど」 薫:「………」 ダル:「アレは楽しんでいるんですよね」 マスター:「そうだね、とても楽しそうだった」 薫:「……」 マスター:「ほら、君はもう何でも出来る。頑張っていたのはあの子達の為だろう?」 薫:「そう…です」 マスター:「なら良かったね。便利だって言われていたよ」 薫:「良かっ…」 ダル:「あれは良い事なんです?」 マスター:「だって、この子が言っていたからね。人に頼られるのが嬉しいって」 マスター:「相手も、便利だと喜んでいる。互いに喜んでいるなら…そうそう、ウィンウィンの関係ってやつだろう」 薫:「そんな、僕はそんなつもりで…」 薫:「皆が喜んでくれて、必要としてくれる…って」 0: 0: ダル:彼の身体が微かに震えているのが見てとれる。 ダル:楽しんでいる訳ではなさそうだ。 ダル:機微(きび)を逃さぬように見つめていれば、独白のような何かが続く。 0: 0: 薫:「僕は仲間だと思ってた、友達だと思ってた」 薫:「クラスのグループだってあるし、そこにはちゃんと入ってるし」 薫:「……嘘だ」 薫:「うそだ、嘘だこんなの嘘だ!」 薫:「友達のためだと思って頑張ったし、何でも出来るようになりたかったのに」 薫:「それがこんな…」 マスター:「信じようが信じまいが勝手だけれどさ」 マスター:「けれど、これが真実であるのは間違いない」 ダル:「楽しんでいるのに、いけないのでしょうか」 マスター:「時と場合によるかな」 マスター:「だってほら、お客さんはこんなにも憤ってる」 ダル:「なるほど…難しいですね」 薫:「何の話をしているんですか…!」 マスター:「いやいや、こっちの話だよ」 薫:「大体、あなたが変なものを見せるからこんな事に…」 マスター:「変なものとは心外だなぁ。親切心だよ親切心」 薫:「どこが…!!」 0: 0: ダル:マスターと彼の、というよりも彼からの一方的な憤りというものが続けられる。 ダル:未だに憤りというものは謎だけれど、少なくとも楽しいわけではなさそうだと一人納得をした。 ダル:彼が何を言おうと笑顔を浮かべたままのマスターは埒が明かないと感じたのだろう。 ダル:溜息をひとつ吐けば、彼へ掌を翳した。 0: 0: 0: 薫:「………え?」 薫:先程まで変な店の中に居たはずだ。 薫:そして 薫:そしてそこで真実を知った。 薫:いや、まだ真実だと判明した訳じゃない。 薫:スマホを取り出し、グループを見る。 薫:先程見たグループ名は『仲良し』。 薫:自分の入っているグループは、クラス名が書かれているだけ。 薫:その中から、友人…だと思っている相手に確認しようと通話ボタンを押した。 0: 0: 0: 0: ダル:「珍しいですね、あんな風に話を聞いてさしあげるなんて」 マスター:「まぁね。変な子だなって思ったから、どんな風になるか気になってさ」 ダル:「そうですか」 マスター:「でも、今回もちゃんと収穫はあったし良いじゃないか」 ダル:「また何の許可も取らずに、ですけどね」 マスター:「だから、ちゃんと事前に注意してるんだし平気だろう」 ダル:「………はぁ。言ったもん勝ちというものですね」 マスター:「そうそう、そういう事」 マスター:「それで、どう?湧いてくるかな、嬉しいって」 ダル:「確かに、新しく受け入れるとこは嬉しいですね。これが喜びという事ですか」 マスター:「良い感じだね。もう少しすれば最低限手に入りそうだ」 ダル:「ええ、楽しみですよ。非常に」 0: 0: 0: 0: 0:

薫:それは突拍子もない噂話だった。 薫:目を瞑って、路地裏に入り適当に歩く。 薫:ここだと思った場所で深呼吸。 薫:焦ってはいけない。ゆっくりと、三回。 薫:そうすれば、困った人を助けてくれるお店が現れるらしい。 薫:よくある都市伝説みたいな形で同級生が話をしていた。 薫:本当なのかな、どうせ嘘でしょという声の中に一つ落ちる声。 薫:「だったら、試してみようか?」 0: 0: 0: 0: マスター:「あれから、また人は来ないか」 ダル:「頻繁に訪れられても困るでしょう」 マスター:「けれど、君も楽しみなんじゃないのかな?」 ダル:「…ええ、とても楽しみですよ。早く来客があれば良いのに」 マスター:「ふふ、それなら良かった。順調なようだね」 ダル:「そう言ってくれるのでしたら、受け入れた甲斐があります」 マスター:「それじゃあ何か飲み物を持ってきてくれるかな」 ダル:「何か、といいつつ紅茶ばかりではないですか」 マスター:「珈琲よりも紅茶の方が楽しそうに淹れているから、ついね」 ダル:「かしこまりました」 0: 0: 0: 0: マスター:ダルが奥へと行ったタイミングで、カランとドアベルが鳴る。 マスター:デジャブのようなものを感じながら扉へと視線を向ければ学生のような少年が一人立っていた。 マスター:「やぁ、いらっしゃい。何用かなお客さん」 薫:「え…?」 0: 薫:思い立って、適当な路地裏で実行したものの、こんな事があるなんて思わなかった。 薫:自然と口角が上がるのが、頬が上がるのが解る。 0: 薫:「ほ、本当だったんだ…!」 マスター:「何が本当だったのかは分からないけれど、さてどんなご用向きだろう」 0: 薫:胡散臭い感じのする店主らしき人はこちらを見たままに言う。 薫:よくよく見れば店内も統一性は無く、様々な国が入り交じり雑多な感じだ。 薫:しかし、一つだけおかしな事がある。 薫:僕は特段、困ってなどいなかったのだ。 0: 薫:「あ、の…すみません。僕、噂を聞いて試して見ただけで…お客という訳じゃないんです」 マスター:「おやおや、それは違うんじゃあないかな。ここはそういう店なのだからさ」 ダル:「お待たせしましたマスター、紅茶で…失礼、お客様ですか。いらっしゃいませ」 マスター:「前回に引き続き今回もタイミングが悪いねぇ。お客さんにも飲み物を」 ダル:「かしこまりました。珈琲に紅茶、ジュースもありますが如何されますか」 薫:「あ、じゃあジュースで」 0: 薫:苦いのは好きじゃない。無理やり甘くしたのも好きでは無い。 薫:従業員のような人は、僕の返事を聞くとすぐに奥へと引っ込んで行ってしまった。 0: マスター:「じゃあ早速、話を聞こうか」 薫:「いや…だから何も無いんです」 マスター:「そんなはずは無いよ。だってこの場所はそういう風に出来ているから」 薫:「そんな事を言われても…」 ダル:「お待たせしました。オレンジジュースで宜しいですか」 薫:「あ、ありがとうございます…」 0: 薫:居心地が悪い。 薫:ふざけてやってみただけなのに、どうしてこうなってしまったのか。 薫:困った人を助けてくれるらしいが、生憎(あいにく)僕には何も無い。 薫:本当に、どうしようか… ダル:「ここに来た経緯を伺っては如何でしょう」 マスター:「ああ、確かに。本人に心当たりが無くとも、経緯を聞けば何か分かるかもしれない」 マスター:「という事で、話して貰えるかな」 0: 0: 0: 0: ダル:お客様は少し考え込んだ様子で、暫くは口を開かなかった。 ダル:その後、悩んでいても仕方がないと高を括ったのだろう。 ダル:何度か顔を上げては俯いて、それからこの場所に来る事が出来た経緯を話し始めた。 0: 0: 0: 薫:「つまり、肝試しみたいな…度胸試しみたいなものなんです」 薫:「こんなお店の噂があるって学校で話題になって、試してみたいけどでも怖くないかって、どうせ嘘だって皆しり込みして」 薫:「だから僕が、試してみようかって言ったんです」 マスター:「誰もがしり込みしてたのに?」 薫:「だって…人に頼られるのって嬉しいじゃないですか」 0: マスター:目の前の少年は、とても良い笑顔でそう告げた。 0: 0:ダル:「嬉しい…ですか」 0: ダル:ポツリと口の中でだけ呟いた筈が、耳聡いマスターが視線を此方へと向ける。 0: マスター:「嬉しい、喜びを感じるって事かな」 薫:「そうです。だから、僕に出来ることは何でもやってあげたい」 マスター:「それはそれは、素晴らしい思想だね」 マスター:「もしかしたら、君は自分にできない事がある、という事に困っているのかもしれないなぁ」 薫:「ッ?!」 マスター:「おや、もしかして心当たりがあるのかな」 薫:「そうです、そうなんです…!どうしてもできない事はあって…そういう時はその、怒られちゃったりして……」 0: ダル:途端に歯切れが悪くなるお客様。 ダル:その後を継ぐように、マスターは続ける。 0: マスター:「なーるほど、なるほど。だからこそ、期待に応えられるようになりたいと。そういう事か」 薫:「そう、かも…きっとそうだ。僕がもっと何でも出来ればもっと喜んで貰えて、それで…」 マスター:「自分も、嬉しくなると」 薫:「そう!僕が困ってたのはそれです…!」 マスター:「そうかそうか。それならもう少しだけ詳しく話を聞こうか」 薫:「はい、お願いします!」 0: 0: 0: 0: ダル:それから彼は語った。 ダル:いかに自分が役立ってきたか、求められてきたか。 ダル:様々な場面でアテにされ、それに応えてきたか。 ダル:しかし、聞けば聞くほどそれはまるで…── 0: 0: 0: マスター:「それは凄い。では周りは今でも君なしでは居られないというのに…そこで弱点を克服してしまえば」 薫:「はい、もっともっと貢献出来ますよね!」 マスター:「お客さんは、その力が欲しいのかな?」 0: ダル:ああ、こうして引き込んで行くのかと心の中だけで言葉を吐く。 ダル:言ってはいけない言葉だろうから。 ダル:無条件で与えられるモノなんて無いというのに。 0: 薫:「欲しいです、欲しい…!」 マスター:「対価は貰うよ、それでも欲しいのかな?」 薫:「あの…学生なのでそんなに出せないんですけど…」 マスター:「ああ、大丈夫。だーいじょうぶ。お金なんて求めて無いから」 マスター:「持っていないモノを求めたりしないよ」 薫:「よく分からないけど、それなら良いです。僕が渡せるものなら」 マスター:「では、成立だね」 0: 0: 0: 薫:成立だね、という言葉と共に掌を翳された。 薫:目の前が一瞬暗くなり、そのせいか眩暈(めまい)すら覚え無意識に腕に力が入る。 薫:次の瞬間には、掌は退けられまた人工的な明かりが眼を射した。 0: 0: 0: 0: マスター:「はい、終わり」 薫:「え…これで終わりですか?何も変わってない気が…」 マスター:「そりゃあ、出来なかったことが出来るようになるっていうのは目に見えて何か変わるわけじゃないよ」 薫:「確かに…?」 マスター:「さて、ここで君にはもう一個サービスをしよう」 薫:「サービス…ですか?」 マスター:「そう。皆を助ける事が喜びだという献身的な君へのサービスだよ」 0: ダル:マスターがそう告げると、辺りの様子が変わっていく。 ダル:また一つ、彼の能力を知れた心地だった。 ダル:見渡せば、机と椅子が規則的に並んでいる。 ダル:見せられている場所はどうやら、教室、という場所らしいことが理解出来た。 0: 薫:「ここは…」 マスター:「そう、ここは君が通っている学校。そして君のクラス」 マスター:「そうして、映し出されるのは君の知らない話」 薫:「僕の知らない…話」 マスター:「うん。君が皆の役に立つのが嬉しいと言っていたからさ。どんな子達なのか見てみようかと思って」 薫:「そうだったんですか…!凄く良い人達ですよ、みんな」 マスター:「そっかそっか。じゃあ、見てみよう。そして聴いてみよう」 0: 0: 生徒A:「アイツ居ると便利だよな」 生徒B:「適当におだてりゃやってくれるもんな」 生徒A:「そうそう、面倒なのは全部押し付けときゃいい」 生徒B:「言えてる。そのお陰で遊ぶ時間も増えるし」 生徒A:「あの調子じゃグループに入ってない事も気付いてないよな」 生徒B:「無い無い。そもそも気付く訳ないじゃん」 生徒A:「アイツの前でそんな話もしないし、か?」 生徒B:「とろいし、居るだけで邪魔だもん」 生徒A:「そこまで言うかー?」 生徒B:「でも実際そうだろ?」 生徒A:「まぁなー」 0:笑い声 0: 0: 0: マスター:「……だ、そうだけど」 薫:「………」 ダル:「アレは楽しんでいるんですよね」 マスター:「そうだね、とても楽しそうだった」 薫:「……」 マスター:「ほら、君はもう何でも出来る。頑張っていたのはあの子達の為だろう?」 薫:「そう…です」 マスター:「なら良かったね。便利だって言われていたよ」 薫:「良かっ…」 ダル:「あれは良い事なんです?」 マスター:「だって、この子が言っていたからね。人に頼られるのが嬉しいって」 マスター:「相手も、便利だと喜んでいる。互いに喜んでいるなら…そうそう、ウィンウィンの関係ってやつだろう」 薫:「そんな、僕はそんなつもりで…」 薫:「皆が喜んでくれて、必要としてくれる…って」 0: 0: ダル:彼の身体が微かに震えているのが見てとれる。 ダル:楽しんでいる訳ではなさそうだ。 ダル:機微(きび)を逃さぬように見つめていれば、独白のような何かが続く。 0: 0: 薫:「僕は仲間だと思ってた、友達だと思ってた」 薫:「クラスのグループだってあるし、そこにはちゃんと入ってるし」 薫:「……嘘だ」 薫:「うそだ、嘘だこんなの嘘だ!」 薫:「友達のためだと思って頑張ったし、何でも出来るようになりたかったのに」 薫:「それがこんな…」 マスター:「信じようが信じまいが勝手だけれどさ」 マスター:「けれど、これが真実であるのは間違いない」 ダル:「楽しんでいるのに、いけないのでしょうか」 マスター:「時と場合によるかな」 マスター:「だってほら、お客さんはこんなにも憤ってる」 ダル:「なるほど…難しいですね」 薫:「何の話をしているんですか…!」 マスター:「いやいや、こっちの話だよ」 薫:「大体、あなたが変なものを見せるからこんな事に…」 マスター:「変なものとは心外だなぁ。親切心だよ親切心」 薫:「どこが…!!」 0: 0: ダル:マスターと彼の、というよりも彼からの一方的な憤りというものが続けられる。 ダル:未だに憤りというものは謎だけれど、少なくとも楽しいわけではなさそうだと一人納得をした。 ダル:彼が何を言おうと笑顔を浮かべたままのマスターは埒が明かないと感じたのだろう。 ダル:溜息をひとつ吐けば、彼へ掌を翳した。 0: 0: 0: 薫:「………え?」 薫:先程まで変な店の中に居たはずだ。 薫:そして 薫:そしてそこで真実を知った。 薫:いや、まだ真実だと判明した訳じゃない。 薫:スマホを取り出し、グループを見る。 薫:先程見たグループ名は『仲良し』。 薫:自分の入っているグループは、クラス名が書かれているだけ。 薫:その中から、友人…だと思っている相手に確認しようと通話ボタンを押した。 0: 0: 0: 0: ダル:「珍しいですね、あんな風に話を聞いてさしあげるなんて」 マスター:「まぁね。変な子だなって思ったから、どんな風になるか気になってさ」 ダル:「そうですか」 マスター:「でも、今回もちゃんと収穫はあったし良いじゃないか」 ダル:「また何の許可も取らずに、ですけどね」 マスター:「だから、ちゃんと事前に注意してるんだし平気だろう」 ダル:「………はぁ。言ったもん勝ちというものですね」 マスター:「そうそう、そういう事」 マスター:「それで、どう?湧いてくるかな、嬉しいって」 ダル:「確かに、新しく受け入れるとこは嬉しいですね。これが喜びという事ですか」 マスター:「良い感じだね。もう少しすれば最低限手に入りそうだ」 ダル:「ええ、楽しみですよ。非常に」 0: 0: 0: 0: 0: