声劇台本置き場

0：執務室 テオバルト：やあ、久しぶりだね。 テオバルト：元気にしていたかい？ クラウス：おかげさまで。 テオバルト：それは良かった。 テオバルト：ほら、ここへ座りたまえ。 クラウス：いえ、そんな恐れ多い。 テオバルト：なんだい、遠慮することはない。 テオバルト：さあ、おいで。 クラウス：でも・・・。 テオバルト：おいで。 クラウス：・・・。 テオバルト：来い。 クラウス：っ・・・。 テオバルト：どうした。 テオバルト：私の命令が聞けないのか。 クラウス：わ、私はっ・・・。 テオバルト：・・・はは、冗談だ。 テオバルト：それで、今日は何の用だい？ クラウス：・・・本日は、セントハイム領の軍事支援について、ご相談願えればと思いまして。 テオバルト：またそれか。 クラウス：すみません。 テオバルト：それはできないと伝えたはずだが？ クラウス：はい。 クラウス：電報は受け取っております。 クラウス：しかし―。 テオバルト：しかしなんだ。 テオバルト：お前を差し出すから兵を寄越せと。 クラウス：っ！ テオバルト：セントハイム伯爵はそうお考えか？ クラウス：それは・・・。 テオバルト：わざわざ遠方から使いを送るというから、まさかとは思ったが。 テオバルト：お前が来るとはな、クラウス。 クラウス：・・・。 テオバルト：お前はそれでいいのか？ テオバルト：なぜ断らなかった。 クラウス：父上の命令は絶対でございます。 テオバルト：そうか。 テオバルト：そういえば私の命令にも反（そむ）くことは無かったな。 クラウス：っ。 テオバルト：あの頃は、な。 クラウス：あの時は貴方様が我が主でございましたから・・・。 テオバルト：また私のものになる気か、クラウス。 クラウス：・・・兵を増強していただけるのならば。 テオバルト：・・・そうか。 ：（席を立つ） クラウス：テオバルト様、どこへ行かれるのですかっ。 テオバルト：一晩考えさせてくれたまえ。 テオバルト：君も長旅で疲れたろう。 テオバルト：部屋を用意しておいたから休むと良い。 クラウス：ま、待ってください！ ：（衝動的に抱きつく） テオバルト：何のつもりだ。 クラウス：・・・お願いします、テオバルト様。 クラウス：私は何でもいたします。 クラウス：ですから―。 ：（顔を掴む） テオバルト：黙れ。 クラウス：っ・・・。 テオバルト：変わったなクラウス。 テオバルト：命令に逆らいはしなくとも媚びることなどなかったであろう。 クラウス：・・・今の私はお嫌いですか？ ：（真っ直ぐ見つめ合う） テオバルト：・・・はぁ、今夜１０時に私の部屋へ来い。 クラウス：承知いたしました。 ： 0：間 0：テオバルトの部屋 ：（ノックの音） テオバルト：入りたまえ。 クラウス：失礼いたします。 テオバルト：そこに座るといい。 クラウス：いえ。 テオバルト：２人きりの時くらい階級のことは気にするな。 クラウス：分かりました。では失礼いたします。 テオバルト：それで、今回の戦況はどうなんだ。 クラウス：え？ テオバルト：隣国との戦争のことだ。 テオバルト：そのための兵が欲しいのだろう？ クラウス：は、はい。 クラウス：どうやら隣国の参謀（さんぼう）に新しい者が就（つ）いたようなのですが・・・。 テオバルト：少し聞いたことがあるな。 クラウス：左様でございますか。 テオバルト：ああ、確かクロイツ領を落としたやつだろう。 クラウス：そうだったのですか・・・。 クラウス：どうりで。 テオバルト：そいつが来てから戦況が悪くなったってところか。 クラウス：はい。 テオバルト：なるほどな。 テオバルト：しかし他の領土にも人手が足りているわけではないんだ。 クラウス：重々承知しております。 テオバルト：さらに言うと、君のところは辺境なうえに資源も乏（とぼ）しい。 クラウス：・・・はい。 テオバルト：はっきり言うと、見限られても仕方のない土地だ。 クラウス：・・・っ。 テオバルト：兵の扱いも上手くはない。 テオバルト：反乱もしばしば起きている様だ。 テオバルト：本部としてはこれ以上手を貸す気にはなれない。 クラウス：はい・・・。 テオバルト：しかしだ。 テオバルト：私が命じればすぐにでも援軍が行くだろう。 テオバルト：私にはその権限がある。 テオバルト：お前はそのための贄としてここへ来た。 クラウス：その通りでございます。 テオバルト：傲慢だな。 クラウス：え？ テオバルト：お前１人のために私が動くと思っているのか。 クラウス：そ、それは・・・。 テオバルト：確かにお前は私のお気に入りだった。 テオバルト：だがそれは遠い昔の話だ。 クラウス：・・・はい。 テオバルト：今はもう私の手を離れている。 クラウス：くっ・・・。 テオバルト：話は終わりだな。 テオバルト：明日、帰りの馬車を―。 クラウス：テオバルト様！ クラウス：私は貴方にもう一度好いていただけるよう努力いたします。 クラウス：ですから、一度だけ、もう一度だけチャンスをいただけないでしょうか。 テオバルト：ほう？ テオバルト：私を誘うというのか、クラウス。 クラウス：お願いします、テオバルト様・・・。 テオバルト：後悔は、しないか？ クラウス：はい。 テオバルト：・・・最中はテオと呼べ、いいな。 クラウス：分かりました。 ： 0：間 クラウス：（テオ、テオ・・・。） クラウス：（大好き。） クラウス：（やっと、また側（そば）に来れた。） クラウス：（（泣きながら）・・・とても、嬉しい。） ： 0：事後 テオバルト：・・・はぁ。 クラウス：（寝息） テオバルト：まったく、ひどい顔だな。 テオバルト：涙でぐちゃぐちゃだ。 クラウス：んぅ・・・。 テオバルト：私と寝るのは泣くほど嫌か。 テオバルト：・・・まぁ、それもそうか。 テオバルト：それはあの時から変わっていないな。 ： 0：過去 テオバルト：おいでクラウス。 クラウス：はい。 テオバルト：お前は可愛いな。 クラウス：ぼ、僕は可愛いくなんて・・・。 テオバルト：いいんだ、お前は可愛いよ。 クラウス：恥ずかしいです、テオ。 0：心の声 テオバルト：あの頃のクラウスは私によく懐いてくれていた。 テオバルト：彼の存在は、１人だった私の唯一の癒しだった。 テオバルト：しかし、あの日私はその信頼をすべて失ってしまった。 テオバルト：自分の手で壊してしまったのだ。 0：過去 クラウス：テオ、やだ！やめてください！ テオバルト：・・・。 クラウス：テオ・・・、どうしたのテオ？ ： 0：間 クラウス：うっ・・・ひっく・・・。 テオバルト：大丈夫か、クラウス。 クラウス：やっ・・・。 0：（手を振り払う） クラウス：あ・・・ごめんなさい・・・。 テオバルト：いい、私が悪かった。 クラウス：・・・。 テオバルト：・・・明日、帰りの馬車を手配してある。 クラウス：え？ テオバルト：お前はもう自由だ、クラウス。 0：過去終わり ： テオバルト：ここには辛い思い出があるだろうに。 テオバルト：なぜ、戻ってきてしまったんだ・・・。 ： 0：朝 クラウス：ん・・・んぅ・・・。 テオバルト：おはよう。 クラウス：んー、テオ？ テオバルト：ああ。 テオバルト：可愛いなお前は。 クラウス：僕は可愛いくなんて・・・。 クラウス：っ！ クラウス：お、おはようございます、テオバルト様！ テオバルト：テオで良かったんだがな。 クラウス：いいえ、滅相もございません。 テオバルト：そうか。 テオバルト：朝食ができているぞ。 クラウス：は、はい。 クラウス：（昨日はあの後どうなったんだっけ。） クラウス：（確かテオに抱かれ・・・） テオバルト：どうした、顔が赤いぞ。 クラウス：だ、大丈夫です。 テオバルト：そうか？ テオバルト：だが今日はゆっくり休みたまえ。 クラウス：え、それじゃあ。 テオバルト：援軍の件については検討してみよう。 テオバルト：お前には措置（そち）が決まるまで、ここに居てもらう。 クラウス：ありがとうございます！ テオバルト：（ありがとうございます？） テオバルト：（ここに居るのは嫌だろうに。） テオバルト：（君はどうしてそんなに健気なんだ。） クラウス：どうかされましたか？ テオバルト：いや、まぁ、いい。 テオバルト：あとで昼食を持って来よう。 テオバルト：それまでは１人でゆっくりしていてくれ。 クラウス：テオバルト様の自室でですか？ クラウス：私なんかが居てはご迷惑では。 テオバルト：気にしなくていい。 テオバルト：昔みたいに寛（くつろ）いでくれたまえ。 クラウス：は、はい。 テオバルト：じゃあな。 ：（出て行く） クラウス：（・・・ふぅ。） クラウス：（なんとか、なった。） クラウス：（やっと、テオにまた会えた。） クラウス：（ふふ、テオの布団だ、テオの匂いだ。） クラウス：（とても落ち着く・・・。） クラウス：（やっぱり僕はテオのことが大好きだ。） クラウス：（小さい頃からずっと、ずっと大好きだ。） クラウス：（でも、テオは僕のことどう思ってるんだろう。） クラウス：（どう思って、僕を抱いてくれたんだろう。） クラウス：（可愛いって言ってくれたけど・・・。） クラウス：（はは、ただのリップサービスかな。） クラウス：（だって僕は、とっくの昔に嫌われちゃったんだから・・・。） クラウス：（でもそれならなんで、またこの部屋に入れてくれたんだろう？） クラウス：（なんだっていい、なんだっていいや。） クラウス：（少しでもテオと一緒に居れる。） クラウス：（それだけで僕は幸せだ。） ： 0：執務室 ：（通信） テオバルト：ああ、そうか。 テオバルト：分かった。 テオバルト：向こうの状況は？ テオバルト：・・・そう、か。 テオバルト：また連絡してくれ。 ：（通信終わり） テオバルト：（当分あいつを帰すわけにはいかないな。） テオバルト：（思っていたより戦況が良くない。） テオバルト：（それに、少しでも長く傍（そば）に置いておきたい・・・。） テオバルト：（いや、それはダメだ。） テオバルト：（私は彼にとてもひどいことをした。） テオバルト：（許されるわけがない。） テオバルト：（昨日も自分を大切にしない彼に憤（いきどお）りを感じて、つい弱みに付け込んでしまった。） テオバルト：（私は何と愚（おろ）かな男なんだろうか。） テオバルト：（早急に彼を帰さなければ。） テオバルト：（私はさらに彼を傷付けてしまうだろう。） テオバルト：（しかし、現在補填（ほてん）できる兵士は・・・。） テオバルト：（っと、もうこんな時間か。） ： 0：テオバルトの部屋 0：（ノックの音） テオバルト：クラウス、入るぞ。 テオバルト：昼食を持ってきた。 クラウス：ありがとうございます。 テオバルト：調子はどうだ？ テオバルト：立って大丈夫か？ クラウス：大袈裟ですよ、大丈夫です。 テオバルト：そうか。 テオバルト：クラウス。 クラウス：はい？ テオバルト：お前、セントハイム領に帰りたいか？ クラウス：えっ。 テオバルト：すまない、帰りたいに決まっているよな。 クラウス：（小声）・・・りたくないです。 テオバルト：え、今なんて・・・。 クラウス：あっ、いえ、はい。 クラウス：お父様も待っておりますし。 テオバルト：そうだな。 テオバルト：しかし、申し訳ないが、しばらくは帰してやれそうにない。 クラウス：それはどういう・・・。 テオバルト：今帰せばお前が危険な目に遭うだろう。 テオバルト：だから、もう少しだけ我慢してくれ。 クラウス：・・・分かりました。 テオバルト：すまないな。 テオバルト：食べ終わったらそこにでも置いといてくれ。 クラウス：はい。 テオバルト：じゃあまた、夜にな。 ：（出て行く） クラウス：（我慢だなんて・・・。） クラウス：（我慢ならずっとしてきました。） ： 0：執務室 テオバルト：（夜に、なんて言ってしまったが、彼をずっと私の部屋に居させていいものだろうか。） テオバルト：（昨日のことを思い出させてしまうかもしれない。） テオバルト：（それにだ、そもそも私の理性が持たない・・・。） テオバルト：（つい昔の感覚でクラウスを私の部屋へ置いてしまったが・・・。） テオバルト：（そうだ、クラウスに別の部屋を使ってもらおう。） ： 0：テオバルトの部屋 クラウス：（僕はどうしたいんだろう。） クラウス：（今まではテオに会うためだけに頑張ってきたけど。） クラウス：（いざ会えたら、この後どうしたらいいのか分からないや。） クラウス：（僕はただ、また、テオと一緒に居たかっただけ―。） テオバルト：（被せるように）クラウス。 クラウス：（びっくりして）はいっ！ テオバルト：まだ起きていたか。 テオバルト：遅くなってすまない。 クラウス：い、いえ。 テオバルト：それで、今更で悪いがお前に部屋を与える。 テオバルト：付いてきてくれ。 クラウス：え・・・。 テオバルト：おっと、その格好では冷えてしまうか。 テオバルト：すまない、配慮が足りなかった。 クラウス：いや、です。 テオバルト：ほら、羽織を貸してやるから許してくれ。 クラウス：いや・・・。 テオバルト：どうしたんだ？ クラウス：テ、テオバルト様は私を慰（なぐさ）みものとして、お側に置いていらっしゃるのでしょう。 クラウス：でしたら、夜こそ一緒にいるべきなのではないでしょうか。 テオバルト：・・・。 クラウス：テオバルト様？ テオバルト：昨晩、散々泣いていたやつが何を言っている。 テオバルト：お前を手元に置いているのは、セントハイム領へ帰すと危険だからだ。 クラウス：そんな・・・。 テオバルト：ほら、おいで。 クラウス：・・・はい。 ： 0：間 0：クラウスの部屋 テオバルト：私の部屋よりは手狭（てぜま）だが許してくれ。 クラウス：いえ・・・。 テオバルト：明かりは消すか？ クラウス：お願いします・・・。 テオバルト：分かった。 テオバルト：おやすみ、クラウス。 クラウス：おやすみ、なさい・・・。 ：（テオバルトが出て行く） クラウス：（昔みたいにずっと側に置いてくれると思ってた。） クラウス：（バカみたいだ。） クラウス：（テオはもう、僕のこと好きでも何でもないんだ。） クラウス：（テオにとって僕は、ただの部下の１人。） クラウス：（それも、救いようの無い領土の伯爵の息子。） クラウス：（本来なら顔も知らないような存在なんだ。） クラウス：（せっかくテオに会えたのに、こんな悲しい気持ちになると思わなかった。） クラウス：（僕の居場所は、もう何処にも無いんだ。） ： 0：テオバルトの部屋 テオバルト：（眠れん。） テオバルト：（１つ屋根の下にクラウスがいると思うと眠れるわけがない。） テオバルト：（いかんいかん。） テオバルト：（そもそもクラウスのことは忘れようとしていたんだ。） テオバルト：（彼の未来を案じて、この手を離したあの日から。） テオバルト：（意識するな、テオ、抑えるんだ。） 0：間 テオバルト：（はぁ・・・。） テオバルト：（そんなの、できるわけがない、な・・・。） テオバルト：（私がどれほどクラウスのことを愛しているか。） テオバルト：（再び彼に会って嫌でも自覚してしまった・・・。） テオバルト：（寝顔を見るくらいなら許されるだろうか。） ： 0：クラウスの部屋 テオバルト：（起こさないようにしないとな。） クラウス：やっ・・・。 テオバルト：！ テオバルト：（まずい、起こしてしまったか。） クラウス：お、父様・・・、いや・・・。 テオバルト：（お父様？） クラウス：やめてください、お父様・・・。 クラウス：ひっく・・・うぅ・・・。 テオバルト：クラウス・・・。 ：（そっと頭を撫でる） クラウス：（泣く） テオバルト：悲しい夢でもみているのか。 クラウス：テオ・・・。 クラウス：助け、て・・・テオ。 テオバルト：ああ、私はここにいるぞ。 クラウス：テオ・・・。 テオバルト：どうした。 クラウス：テオ・・・。 テオバルト：うん。 クラウス：す・・・き・・・。 テオバルト：っ・・・。 テオバルト：クラウス・・・。 クラウス：（寝息） ： 0：朝 クラウス：んー・・・。 ：（目を開けるとテオバルトが寝ている） クラウス：ぅわあっ！ テオバルト：んん、なんだうるさい。 クラウス：な、なぜテオバルト様が、ここに。 テオバルト：ああ。 クラウス：自室でお休みになられたのでは。 テオバルト：あー・・・、これには深い訳があってだな。 クラウス：なんですか、訳って。 テオバルト：それよりもクラウス。 クラウス：はい、何でしょうか。 テオバルト：私もお前に聞かなくてはいけないことがあるんだが。 クラウス：はい？ テオバルト：昨晩お前はうなされていた。 テオバルト：お父様、と呟きながらな。 クラウス：っ！ テオバルト：夢にみるほど辛いことがあったのか？ クラウス：そ、それはっ・・・。 テオバルト：どういうことか説明をしてくれ。 クラウス：あ、悪夢でもみたのではないでしょうか。 クラウス：お恥ずかしいところをお見せしてしまい申し訳ありません。 テオバルト：悪夢か。 テオバルト：それで、お父様というのはどういうことだ。 クラウス：悪夢では父の身に何か起きたのでしょう。 クラウス：きっとそれで―。 テオバルト：「やめてください、お父様。」と言っていたが？ クラウス：っ・・・。 テオバルト：それに、私に助けを求めていたぞ。 クラウス：・・・。 テオバルト：クラウス。 クラウス：・・・わ、私は。 テオバルト：ああ。 クラウス：っ・・・。 クラウス：言えません。 テオバルト：何故だ。 クラウス：私の個人的な話です。 クラウス：あなたには関係ありません。 テオバルト：命令はしたくない。 テオバルト：お願いだクラウス、教えてくれないか。 クラウス：（言いよどむ） テオバルト：頼む。 テオバルト：そんな怯えた表情の君を放ってはおけない。 クラウス：テオ・・・バルト様。 テオバルト：大丈夫だ、ほら。 クラウス：（震える声で）・・・私は、父から虐待を受けていました。 テオバルト：・・・いつからだ。 クラウス：・・・テオバルト様の元を去ってからです。 テオバルト：くっ・・・。 クラウス：でも仕方がないんです。 クラウス：私が何もできない役立たずだから。 クラウス：だからっ・・・（泣く）。 テオバルト：クラウス。 ：（抱き締める） テオバルト：すまなかった。 クラウス：なぜ、あなたが謝るのですか？ テオバルト：あの時、お前を手放すべきではなかった。 テオバルト：お前を、帰すのではなかった。 クラウス：テオバルト様。 テオバルト：どうして私はこんなに愚かなのだろうか。 クラウス：そんな、テオバルト様は立派なお方です！ テオバルト：違う。 テオバルト：私は、自分の気持ちをお前に伝えるのが怖くて逃げてしまった臆病者だ。 クラウス：どういうことですか？ テオバルト：私は、お前の気持ちを聞いてやっと言えるような弱い男なのだ。 テオバルト：だが、その恥を承知で言わせてくれ。 テオバルト：クラウス、私はお前のことが好きだ。 クラウス：え・・・。 テオバルト：一眼見たときに惹かれていた。 テオバルト：一緒に過ごすうちにどうしようもなく好きになった。 クラウス：テオバルト様・・・。 クラウス：そんな・・・。 クラウス：ではなぜ、あの時私を帰したのですか！！ テオバルト：私とずっと一緒にいては、お前の未来を奪ってしまうと思ったからだ。 テオバルト：それに、手を出さない自信がなかった。 テオバルト：現（げん）に、お前を帰す直前に手を出してしまった。 テオバルト：泣いているお前を見て、本当に本当に、後悔した。 クラウス：あの時は初めてでビックリしてしまって。 テオバルト：そうだろう。 テオバルト：私は何てことを・・・。 テオバルト：そういえば昨日もお前は泣いていたな。 テオバルト：よほどトラウマになってしまっt―。 クラウス：違います！ クラウス：昨日のは違います。 テオバルト：何が違うんだ？ クラウス：昨日は、嬉しかったんです。 テオバルト：嬉しかった？ クラウス：はい。 クラウス：テオバルト様と離れてから、私はずっとあなたに恋焦がれていました。 テオバルト：ひどいことをした私を、どうして。 クラウス：あなたはずっと私に愛情を向けてくださっていました。 クラウス：私に無関心だった親とは違い、私を愛してくださっていました。 クラウス：だから、あなたとずっと一緒に居たかったんです。 テオバルト：クラウス。 クラウス：でも、あなたは私に帰れと言いました。 クラウス：今でもあの時の絶望感を覚えています。 クラウス：あなたに嫌われたのだと思っていました。 クラウス：だから、どんな形であれ、再びあなたに愛されて嬉しかったんです。 テオバルト：そうだったのか・・・。 クラウス：昨日も、急に別の部屋に移されて・・・。 クラウス：テオバルト様に私はもう必要ないんだと思って・・・（泣く）。 テオバルト：違う、それは、お前に手を出さないようにだな。 クラウス：あはは・・・、そうだったのですね。 テオバルト：私だってずっとお前のことを忘れられなかった！ テオバルト：どんなに忘れようとしても、無邪気なお前の顔が頭から離れなかった。 テオバルト：そして、成長したお前と再会しても、この想いは変わらなかった。 クラウス：テオバルト様。 クラウス：私も、私もずっとお慕（した）いしておりました。 テオバルト：愛しいクラウス。 テオバルト：どうか私のものになってくれないか。 クラウス：・・・もちろんです。 クラウス：私も・・・テオ、貴方のことが大好きです。 テオバルト：やっとその名で呼んでくれたな。 クラウス：お嫌ですか？ テオバルト：まさか、とても嬉しいよ。 テオバルト：君に様付けで呼ばれるのは、とてももどかしかった。 テオバルト：君がとても遠くにいるような感じがして胸が苦しかった。 テオバルト：そうしてしまったのは私だというのにな。 クラウス：今度は手放したりしないでくださいね。 テオバルト：ああ、約束しよう。 クラウス：ふふ、嬉しいです。 テオバルト：ほら、おいでクラウス。 クラウス：はい、テオ。 0：（抱き合う） テオバルト：ああ、再び君を昔みたいに抱き締めることができるなんて夢みたいだ。 クラウス：私もずっとこの温もりを夢見ていました。 テオバルト：・・・たくさん辛い思いをさせたな。 テオバルト：すまなかった。 クラウス：テオ・・・（泣く）。 テオバルト：もう、大丈夫だからな。 クラウス：（泣きながら）はい。 テオバルト：もう一度、会いに来てくれてありがとう。 クラウス：（泣きながら）うん。 テオバルト：これからはずっと一緒に居よう。 クラウス：はい、ずっとお側（そば）に。