台本概要

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タイトル ヴィーダー(男女)
作者名 天使レイ(あまつかれい)  (@Lay869)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 1度は手放した愛しい人。
2人の想いは交錯し、やがて実を結ぶー。

語尾の改変やアドリブは自由です。
許可を取る必要はありません。
演者様の性別も問いません。

どこかで演じていただけるときは教えていただけると大歓喜します。
また、商用利用する場合はイラストなどのお手伝いもできますので、ぜひご連絡ください。
よろしくお願いいたします。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
テオバルト 148 クラリスに一目惚れして一時は自分の元に置く。だが罪悪感から手放す。クラリスのことを忘れようとするが忘れられない。
クラリス 147 セントハイム伯爵の娘。唯一自分に愛情を向けてくれたテオバルトのことが好き。故郷に帰されたことからテオバルトに嫌われたと思っている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:執務室 テオバルト:やあ、久しぶりだね。 テオバルト:元気にしていたかい? クラリス:おかげさまで。 テオバルト:それは良かった。 テオバルト:ほら、ここへ座りたまえ。 クラリス:いえ、そんな恐れ多い。 テオバルト:なんだい、遠慮することはない。 テオバルト:さあ、おいで。 クラリス:でも・・・。 テオバルト:おいで。 クラリス:・・・。 テオバルト:来い。 クラリス:っ・・・。 テオバルト:どうした。 テオバルト:私の命令が聞けないのか。 クラリス:わ、私はっ・・・。 テオバルト:・・・はは、冗談だ。 テオバルト:それで、今日は何の用だい? クラリス:・・・本日は、セントハイム領の軍事支援について、ご相談願えればと思いまして。 テオバルト:またそれか。 クラリス:すみません。 テオバルト:それはできないと伝えたはずだが? クラリス:はい。 クラリス:電報は受け取っております。 クラリス:しかし―。 テオバルト:しかしなんだ。 テオバルト:お前を差し出すから兵を寄越せと。 クラリス:っ! テオバルト:セントハイム伯爵はそうお考えか? クラリス:それは・・・。 テオバルト:わざわざ遠方から使いを送るというから、まさかとは思ったが。 テオバルト:お前が来るとはな、クラリス。 クラリス:・・・。 テオバルト:お前はそれでいいのか? テオバルト:なぜ断らなかった。 クラリス:父上の命令は絶対でございます。 テオバルト:そうか。 テオバルト:そういえば私の命令にも反(そむ)くことは無かったな。 クラリス:っ。 テオバルト:あの頃は、な。 クラリス:あの時は貴方様が我が主でございましたから・・・。 テオバルト:また私のものになる気か、クラリス。 クラリス:・・・兵を増強していただけるのならば。 テオバルト:・・・そうか。 :(席を立つ) クラリス:テオバルト様、どこへ行かれるのですかっ。 テオバルト:一晩考えさせてくれたまえ。 テオバルト:君も長旅で疲れたろう。 テオバルト:部屋を用意しておいたから休むと良い。 クラリス:ま、待ってください! :(衝動的に抱きつく) テオバルト:何のつもりだ。 クラリス:・・・お願いします、テオバルト様。 クラリス:私は何でもいたします。 クラリス:ですから―。 :(顔を掴む) テオバルト:黙れ。 クラリス:っ・・・。 テオバルト:変わったなクラリス。 テオバルト:命令に逆らいはしなくとも媚びることなどなかったであろう。 クラリス:・・・今の私はお嫌いですか? :(真っ直ぐ見つめ合う) テオバルト:・・・はぁ、今夜10時に私の部屋へ来い。 クラリス:承知いたしました。 : 0:間 0:テオバルトの部屋 :(ノックの音) テオバルト:入りたまえ。 クラリス:失礼いたします。 テオバルト:そこに座るといい。 クラリス:いえ。 テオバルト:2人きりの時くらい階級のことは気にするな。 クラリス:分かりました。では失礼いたします。 テオバルト:それで、今回の戦況はどうなんだ。 クラリス:え? テオバルト:隣国との戦争のことだ。 テオバルト:そのための兵が欲しいのだろう? クラリス:は、はい。 クラリス:どうやら隣国の参謀(さんぼう)に新しい者が就(つ)いたようなのですが・・・。 テオバルト:少し聞いたことがあるな。 クラリス:左様でございますか。 テオバルト:ああ、確かクロイツ領を落としたやつだろう。 クラリス:そうだったのですか・・・。 クラリス:どうりで。 テオバルト:そいつが来てから戦況が悪くなったってところか。 クラリス:はい。 テオバルト:なるほどな。 テオバルト:しかし他の領土にも人手が足りているわけではないんだ。 クラリス:重々承知しております。 テオバルト:さらに言うと、君のところは辺境なうえに資源も乏(とぼ)しい。 クラリス:・・・はい。 テオバルト:はっきり言うと、見限られても仕方のない土地だ。 クラリス:・・・っ。 テオバルト:兵の扱いも上手くはない。 テオバルト:反乱もしばしば起きている様だ。 テオバルト:本部としてはこれ以上手を貸す気にはなれない。 クラリス:はい・・・。 テオバルト:しかしだ。 テオバルト:私が命じればすぐにでも援軍が行くだろう。 テオバルト:私にはその権限がある。 テオバルト:お前はそのための贄としてここへ来た。 クラリス:その通りでございます。 テオバルト:傲慢だな。 クラリス:え? テオバルト:お前1人のために私が動くと思っているのか。 クラリス:そ、それは・・・。 テオバルト:確かにお前は私のお気に入りだった。 テオバルト:だがそれは遠い昔の話だ。 クラリス:・・・はい。 テオバルト:今はもう私の手を離れている。 クラリス:くっ・・・。 テオバルト:話は終わりだな。 テオバルト:明日、帰りの馬車を―。 クラリス:テオバルト様! クラリス:私は貴方にもう一度好いていただけるよう努力いたします。 クラリス:ですから、一度だけ、もう一度だけチャンスをいただけないでしょうか。 テオバルト:ほう? テオバルト:私を誘うというのか、クラリス。 クラリス:お願いします、テオバルト様・・・。 テオバルト:後悔は、しないか? クラリス:はい。 テオバルト:・・・最中はテオと呼べ、いいな。 クラリス:分かりました。 : 0:間 クラリス:(テオ、テオ・・・。) クラリス:(大好き。) クラリス:(やっと、また側(そば)に来れた。) クラリス:((泣きながら)・・・とても、嬉しい。) : 0:事後 テオバルト:・・・はぁ。 クラリス:(寝息) テオバルト:まったく、ひどい顔だな。 テオバルト:涙でぐちゃぐちゃだ。 クラリス:んぅ・・・。 テオバルト:私と寝るのは泣くほど嫌か。 テオバルト:・・・まぁ、それもそうか。 テオバルト:それはあの時から変わっていないな。 : 0:過去 テオバルト:おいでクラリス。 クラリス:はい。 テオバルト:お前は可愛いな。 クラリス:わ、わたしは可愛いくなんて・・・。 テオバルト:いいんだ、お前は可愛いよ。 クラリス:恥ずかしいです、テオ。 0:心の声 テオバルト:あの頃のクラリスは私によく懐いてくれていた。 テオバルト:彼女の存在は、1人だった私の唯一の癒しだった。 テオバルト:しかし、あの日私はその信頼をすべて失ってしまった。 テオバルト:自分の手で壊してしまったのだ。 0:過去 クラリス:テオ、やだ!やめてください! テオバルト:・・・。 クラリス:テオ・・・、どうしたのテオ? : 0:間 クラリス:うっ・・・ひっく・・・。 テオバルト:大丈夫か、クラリス。 クラリス:やっ・・・。 0:(手を振り払う) クラリス:あ・・・ごめんなさい・・・。 テオバルト:いい、私が悪かった。 クラリス:・・・。 テオバルト:・・・明日、帰りの馬車を手配してある。 クラリス:え? テオバルト:お前はもう自由だ、クラリス。 0:過去終わり : テオバルト:ここには辛い思い出があるだろうに。 テオバルト:なぜ、戻ってきてしまったんだ・・・。 : 0:朝 クラリス:ん・・・んぅ・・・。 テオバルト:おはよう。 クラリス:んー、テオ? テオバルト:ああ。 テオバルト:可愛いなお前は。 クラリス:私は可愛いくなんて・・・。 クラリス:っ! クラリス:お、おはようございます、テオバルト様! テオバルト:テオで良かったんだがな。 クラリス:いいえ、滅相もございません。 テオバルト:そうか。 テオバルト:朝食ができているぞ。 クラリス:は、はい。 クラリス:(昨日はあの後どうなったんだっけ。) クラリス:(確かテオに抱かれ・・・) テオバルト:どうした、顔が赤いぞ。 クラリス:だ、大丈夫です。 テオバルト:そうか? テオバルト:だが今日はゆっくり休みたまえ。 クラリス:え、それじゃあ。 テオバルト:援軍の件については検討してみよう。 テオバルト:お前には措置(そち)が決まるまで、ここに居てもらう。 クラリス:ありがとうございます! テオバルト:(ありがとうございます?) テオバルト:(ここに居るのは嫌だろうに。) テオバルト:(君はどうしてそんなに健気なんだ。) クラリス:どうかされましたか? テオバルト:いや、まぁ、いい。 テオバルト:あとで昼食を持って来よう。 テオバルト:それまでは1人でゆっくりしていてくれ。 クラリス:テオバルト様の自室でですか? クラリス:私なんかが居てはご迷惑では。 テオバルト:気にしなくていい。 テオバルト:昔みたいに寛(くつろ)いでくれたまえ。 クラリス:は、はい。 テオバルト:じゃあな。 :(出て行く) クラリス:(・・・ふぅ。) クラリス:(なんとか、なった。) クラリス:(やっと、テオにまた会えた。) クラリス:(ふふ、テオの布団だ、テオの匂いだ。) クラリス:(とても落ち着く・・・。) クラリス:(やっぱり私はテオのことが大好きだ。) クラリス:(小さい頃からずっと、ずっと大好きだ。) クラリス:(でも、テオは私のことどう思ってるんだろう。) クラリス:(どう思って、私を抱いてくれたんだろう。) クラリス:(可愛いって言ってくれたけど・・・。) クラリス:(はは、ただのリップサービスかな。) クラリス:(だって私は、とっくの昔に嫌われちゃったんだから・・・。) クラリス:(でもそれならなんで、またこの部屋に入れてくれたんだろう?) クラリス:(なんだっていい、なんだっていいや。) クラリス:(少しでもテオと一緒に居れる。) クラリス:(それだけで私は幸せだ。) : 0:執務室 :(通信) テオバルト:ああ、そうか。 テオバルト:分かった。 テオバルト:向こうの状況は? テオバルト:・・・そう、か。 テオバルト:また連絡してくれ。 :(通信終わり) テオバルト:(当分あいつを帰すわけにはいかないな。) テオバルト:(思っていたより戦況が良くない。) テオバルト:(それに、少しでも長く傍(そば)に置いておきたい・・・。) テオバルト:(いや、それはダメだ。) テオバルト:(私は彼女にとてもひどいことをした。) テオバルト:(許されるわけがない。) テオバルト:(昨日も自分を大切にしない彼女に憤(いきどお)りを感じて、つい弱みに付け込んでしまった。) テオバルト:(私は何と愚(おろ)かな男なんだろうか。) テオバルト:(早急に彼女を帰さなければ。) テオバルト:(私はさらに彼女を傷付けてしまうだろう。) テオバルト:(しかし、現在補填(ほてん)できる兵士は・・・。) テオバルト:(っと、もうこんな時間か。) : 0:テオバルトの部屋 0:(ノックの音) テオバルト:クラリス、入るぞ。 テオバルト:昼食を持ってきた。 クラリス:ありがとうございます。 テオバルト:調子はどうだ? テオバルト:立って大丈夫か? クラリス:大袈裟ですよ、大丈夫です。 テオバルト:そうか。 テオバルト:クラリス。 クラリス:はい? テオバルト:お前、セントハイム領に帰りたいか? クラリス:えっ。 テオバルト:すまない、帰りたいに決まっているよな。 クラリス:(小声)・・・りたくないです。 テオバルト:え、今なんて・・・。 クラリス:あっ、いえ、はい。 クラリス:お父様も待っておりますし。 テオバルト:そうだな。 テオバルト:しかし、申し訳ないが、しばらくは帰してやれそうにない。 クラリス:それはどういう・・・。 テオバルト:今帰せばお前が危険な目に遭うだろう。 テオバルト:だから、もう少しだけ我慢してくれ。 クラリス:・・・分かりました。 テオバルト:すまないな。 テオバルト:食べ終わったらそこにでも置いといてくれ。 クラリス:はい。 テオバルト:じゃあまた、夜にな。 :(出て行く) クラリス:(我慢だなんて・・・。) クラリス:(我慢ならずっとしてきました。) : 0:執務室 テオバルト:(夜に、なんて言ってしまったが、彼女をずっと私の部屋に居させていいものだろうか。) テオバルト:(昨日のことを思い出させてしまうかもしれない。) テオバルト:(それにだ、そもそも私の理性が持たない・・・。) テオバルト:(つい昔の感覚でクラリスを私の部屋へ置いてしまったが・・・。) テオバルト:(そうだ、クラリスに別の部屋を使ってもらおう。) : 0:テオバルトの部屋 クラリス:(私はどうしたいんだろう。) クラリス:(今まではテオに会うためだけに頑張ってきたけど。) クラリス:(いざ会えたら、この後どうしたらいいのか分からないわ。) クラリス:(私はただ、また、テオと一緒に居たかっただけ―。) テオバルト:(被せるように)クラリス。 クラリス:(びっくりして)はいっ! テオバルト:まだ起きていたか。 テオバルト:遅くなってすまない。 クラリス:い、いえ。 テオバルト:それで、今更で悪いがお前に部屋を与える。 テオバルト:付いてきてくれ。 クラリス:え・・・。 テオバルト:おっと、その格好では冷えてしまうか。 テオバルト:すまない、配慮が足りなかった。 クラリス:いや、です。 テオバルト:ほら、羽織を貸してやるから許してくれ。 クラリス:いや・・・。 テオバルト:どうしたんだ? クラリス:テ、テオバルト様は私を慰(なぐさ)みものとして、お側に置いていらっしゃるのでしょう。 クラリス:でしたら、夜こそ一緒にいるべきなのではないでしょうか。 テオバルト:・・・。 クラリス:テオバルト様? テオバルト:昨晩、散々泣いていたやつが何を言っている。 テオバルト:お前を手元に置いているのは、セントハイム領へ帰すと危険だからだ。 クラリス:そんな・・・。 テオバルト:ほら、おいで。 クラリス:・・・はい。 : 0:間 0:クラリスの部屋 テオバルト:私の部屋よりは手狭(てぜま)だが許してくれ。 クラリス:いえ・・・。 テオバルト:明かりは消すか? クラリス:お願いします・・・。 テオバルト:分かった。 テオバルト:おやすみ、クラリス。 クラリス:おやすみ、なさい・・・。 :(テオバルトが出て行く) クラリス:(昔みたいにずっと側に置いてくれると思ってた。) クラリス:(バカみたいだ。) クラリス:(テオはもう、私のこと好きでも何でもないんだ。) クラリス:(テオにとって私は、ただの部下の1人。) クラリス:(それも、救いようの無い領土の伯爵の娘。) クラリス:(本来なら顔も知らないような存在なんだ。) クラリス:(せっかくテオに会えたのに、こんな悲しい気持ちになると思わなかった。) クラリス:(私の居場所は、もう何処にも無いんだ。) : 0:テオバルトの部屋 テオバルト:(眠れん。) テオバルト:(1つ屋根の下にクラリスがいると思うと眠れるわけがない。) テオバルト:(いかんいかん。) テオバルト:(そもそもクラリスのことは忘れようとしていたんだ。) テオバルト:(彼女の未来を案じて、この手を離したあの日から。) テオバルト:(意識するな、テオ、抑えるんだ。) 0:間 テオバルト:(はぁ・・・。) テオバルト:(そんなの、できるわけがない、な・・・。) テオバルト:(私がどれほどクラリスのことを愛しているか。) テオバルト:(再び彼女に会って嫌でも自覚してしまった・・・。) テオバルト:(寝顔を見るくらいなら許されるだろうか。) : 0:クラリスの部屋 テオバルト:(起こさないようにしないとな。) クラリス:やっ・・・。 テオバルト:! テオバルト:(まずい、起こしてしまったか。) クラリス:お、父様・・・、いや・・・。 テオバルト:(お父様?) クラリス:やめてください、お父様・・・。 クラリス:ひっく・・・うぅ・・・。 テオバルト:クラリス・・・。 :(そっと頭を撫でる) クラリス:(泣く) テオバルト:悲しい夢でもみているのか。 クラリス:テオ・・・。 クラリス:助け、て・・・テオ。 テオバルト:ああ、私はここにいるぞ。 クラリス:テオ・・・。 テオバルト:どうした。 クラリス:テオ・・・。 テオバルト:うん。 クラリス:す・・・き・・・。 テオバルト:っ・・・。 テオバルト:クラリス・・・。 クラリス:(寝息) : 0:朝 クラリス:んー・・・。 :(目を開けるとテオバルトが寝ている) クラリス:ぅわあっ! テオバルト:んん、なんだうるさい。 クラリス:な、なぜテオバルト様が、ここに。 テオバルト:ああ。 クラリス:自室でお休みになられたのでは。 テオバルト:あー・・・、これには深い訳があってだな。 クラリス:なんですか、訳って。 テオバルト:それよりもクラリス。 クラリス:はい、何でしょうか。 テオバルト:私もお前に聞かなくてはいけないことがあるんだが。 クラリス:はい? テオバルト:昨晩お前はうなされていた。 テオバルト:お父様、と呟きながらな。 クラリス:っ! テオバルト:夢にみるほど辛いことがあったのか? クラリス:そ、それはっ・・・。 テオバルト:どういうことか説明をしてくれ。 クラリス:あ、悪夢でもみたのではないでしょうか。 クラリス:お恥ずかしいところをお見せしてしまい申し訳ありません。 テオバルト:悪夢か。 テオバルト:それで、お父様というのはどういうことだ。 クラリス:悪夢では父の身に何か起きたのでしょう。 クラリス:きっとそれで―。 テオバルト:「やめてください、お父様。」と言っていたが? クラリス:っ・・・。 テオバルト:それに、私に助けを求めていたぞ。 クラリス:・・・。 テオバルト:クラリス。 クラリス:・・・わ、私は。 テオバルト:ああ。 クラリス:っ・・・。 クラリス:言えません。 テオバルト:何故だ。 クラリス:私の個人的な話です。 クラリス:あなたには関係ありません。 テオバルト:命令はしたくない。 テオバルト:お願いだクラリス、教えてくれないか。 クラリス:(言いよどむ) テオバルト:頼む。 テオバルト:そんな怯えた表情の君を放ってはおけない。 クラリス:テオ・・・バルト様。 テオバルト:大丈夫だ、ほら。 クラリス:(震える声で)・・・私は、父から虐待を受けていました。 テオバルト:・・・いつからだ。 クラリス:・・・テオバルト様の元を去ってからです。 テオバルト:くっ・・・。 クラリス:でも仕方がないんです。 クラリス:私が何もできない役立たずだから。 クラリス:だからっ・・・(泣く)。 テオバルト:クラリス。 :(抱き締める) テオバルト:すまなかった。 クラリス:なぜ、あなたが謝るのですか? テオバルト:あの時、お前を手放すべきではなかった。 テオバルト:お前を、帰すのではなかった。 クラリス:テオバルト様。 テオバルト:どうして私はこんなに愚かなのだろうか。 クラリス:そんな、テオバルト様は立派なお方です! テオバルト:違う。 テオバルト:私は、自分の気持ちをお前に伝えるのが怖くて逃げてしまった臆病者だ。 クラリス:どういうことですか? テオバルト:私は、お前の気持ちを聞いてやっと言えるような弱い男なのだ。 テオバルト:だが、その恥を承知で言わせてくれ。 テオバルト:クラリス、私はお前のことが好きだ。 クラリス:え・・・。 テオバルト:一眼見たときに惹かれていた。 テオバルト:一緒に過ごすうちにどうしようもなく好きになった。 クラリス:テオバルト様・・・。 クラリス:そんな・・・。 クラリス:ではなぜ、あの時私を帰したのですか!! テオバルト:私とずっと一緒にいては、お前の未来を奪ってしまうと思ったからだ。 テオバルト:それに、手を出さない自信がなかった。 テオバルト:現(げん)に、お前を帰す直前に手を出してしまった。 テオバルト:泣いているお前を見て、本当に本当に、後悔した。 クラリス:あの時は初めてでビックリしてしまって。 テオバルト:そうだろう。 テオバルト:私は何てことを・・・。 テオバルト:そういえば昨日もお前は泣いていたな。 テオバルト:よほどトラウマになってしまっt―。 クラリス:違います! クラリス:昨日のは違います。 テオバルト:何が違うんだ? クラリス:昨日は、嬉しかったんです。 テオバルト:嬉しかった? クラリス:はい。 クラリス:テオバルト様と離れてから、私はずっとあなたに恋焦がれていました。 テオバルト:ひどいことをした私を、どうして。 クラリス:あなたはずっと私に愛情を向けてくださっていました。 クラリス:私に無関心だった親とは違い、私を愛してくださっていました。 クラリス:だから、あなたとずっと一緒に居たかったんです。 テオバルト:クラリス。 クラリス:でも、あなたは私に帰れと言いました。 クラリス:今でもあの時の絶望感を覚えています。 クラリス:あなたに嫌われたのだと思っていました。 クラリス:だから、どんな形であれ、再びあなたに愛されて嬉しかったんです。 テオバルト:そうだったのか・・・。 クラリス:昨日も、急に別の部屋に移されて・・・。 クラリス:テオバルト様に私はもう必要ないんだと思って・・・(泣く)。 テオバルト:違う、それは、お前に手を出さないようにだな。 クラリス:あはは・・・、そうだったのですね。 テオバルト:私だってずっとお前のことを忘れられなかった! テオバルト:どんなに忘れようとしても、無邪気なお前の顔が頭から離れなかった。 テオバルト:そして、成長したお前と再会しても、この想いは変わらなかった。 クラリス:テオバルト様。 クラリス:私も、私もずっとお慕(した)いしておりました。 テオバルト:愛しいクラリス。 テオバルト:どうか私のものになってくれないか。 クラリス:・・・もちろんです。 クラリス:私も・・・テオ、貴方のことが大好きです。 テオバルト:やっとその名で呼んでくれたな。 クラリス:お嫌ですか? テオバルト:まさか、とても嬉しいよ。 テオバルト:君に様付けで呼ばれるのは、とてももどかしかった。 テオバルト:君がとても遠くにいるような感じがして胸が苦しかった。 テオバルト:そうしてしまったのは私だというのにな。 クラリス:今度は手放したりしないでくださいね。 テオバルト:ああ、約束しよう。 クラリス:ふふ、嬉しいです。 テオバルト:ほら、おいでクラリス。 クラリス:はい、テオ。 0:(抱き合う) テオバルト:ああ、再び君を昔みたいに抱き締めることができるなんて夢みたいだ。 クラリス:私もずっとこの温もりを夢見ていました。 テオバルト:・・・たくさん辛い思いをさせたな。 テオバルト:すまなかった。 クラリス:テオ・・・(泣く)。 テオバルト:もう、大丈夫だからな。 クラリス:(泣きながら)はい。 テオバルト:もう一度、会いに来てくれてありがとう。 クラリス:(泣きながら)うん。 テオバルト:これからはずっと一緒に居よう。 クラリス:はい、ずっとお側(そば)に。

0:執務室 テオバルト:やあ、久しぶりだね。 テオバルト:元気にしていたかい? クラリス:おかげさまで。 テオバルト:それは良かった。 テオバルト:ほら、ここへ座りたまえ。 クラリス:いえ、そんな恐れ多い。 テオバルト:なんだい、遠慮することはない。 テオバルト:さあ、おいで。 クラリス:でも・・・。 テオバルト:おいで。 クラリス:・・・。 テオバルト:来い。 クラリス:っ・・・。 テオバルト:どうした。 テオバルト:私の命令が聞けないのか。 クラリス:わ、私はっ・・・。 テオバルト:・・・はは、冗談だ。 テオバルト:それで、今日は何の用だい? クラリス:・・・本日は、セントハイム領の軍事支援について、ご相談願えればと思いまして。 テオバルト:またそれか。 クラリス:すみません。 テオバルト:それはできないと伝えたはずだが? クラリス:はい。 クラリス:電報は受け取っております。 クラリス:しかし―。 テオバルト:しかしなんだ。 テオバルト:お前を差し出すから兵を寄越せと。 クラリス:っ! テオバルト:セントハイム伯爵はそうお考えか? クラリス:それは・・・。 テオバルト:わざわざ遠方から使いを送るというから、まさかとは思ったが。 テオバルト:お前が来るとはな、クラリス。 クラリス:・・・。 テオバルト:お前はそれでいいのか? テオバルト:なぜ断らなかった。 クラリス:父上の命令は絶対でございます。 テオバルト:そうか。 テオバルト:そういえば私の命令にも反(そむ)くことは無かったな。 クラリス:っ。 テオバルト:あの頃は、な。 クラリス:あの時は貴方様が我が主でございましたから・・・。 テオバルト:また私のものになる気か、クラリス。 クラリス:・・・兵を増強していただけるのならば。 テオバルト:・・・そうか。 :(席を立つ) クラリス:テオバルト様、どこへ行かれるのですかっ。 テオバルト:一晩考えさせてくれたまえ。 テオバルト:君も長旅で疲れたろう。 テオバルト:部屋を用意しておいたから休むと良い。 クラリス:ま、待ってください! :(衝動的に抱きつく) テオバルト:何のつもりだ。 クラリス:・・・お願いします、テオバルト様。 クラリス:私は何でもいたします。 クラリス:ですから―。 :(顔を掴む) テオバルト:黙れ。 クラリス:っ・・・。 テオバルト:変わったなクラリス。 テオバルト:命令に逆らいはしなくとも媚びることなどなかったであろう。 クラリス:・・・今の私はお嫌いですか? :(真っ直ぐ見つめ合う) テオバルト:・・・はぁ、今夜10時に私の部屋へ来い。 クラリス:承知いたしました。 : 0:間 0:テオバルトの部屋 :(ノックの音) テオバルト:入りたまえ。 クラリス:失礼いたします。 テオバルト:そこに座るといい。 クラリス:いえ。 テオバルト:2人きりの時くらい階級のことは気にするな。 クラリス:分かりました。では失礼いたします。 テオバルト:それで、今回の戦況はどうなんだ。 クラリス:え? テオバルト:隣国との戦争のことだ。 テオバルト:そのための兵が欲しいのだろう? クラリス:は、はい。 クラリス:どうやら隣国の参謀(さんぼう)に新しい者が就(つ)いたようなのですが・・・。 テオバルト:少し聞いたことがあるな。 クラリス:左様でございますか。 テオバルト:ああ、確かクロイツ領を落としたやつだろう。 クラリス:そうだったのですか・・・。 クラリス:どうりで。 テオバルト:そいつが来てから戦況が悪くなったってところか。 クラリス:はい。 テオバルト:なるほどな。 テオバルト:しかし他の領土にも人手が足りているわけではないんだ。 クラリス:重々承知しております。 テオバルト:さらに言うと、君のところは辺境なうえに資源も乏(とぼ)しい。 クラリス:・・・はい。 テオバルト:はっきり言うと、見限られても仕方のない土地だ。 クラリス:・・・っ。 テオバルト:兵の扱いも上手くはない。 テオバルト:反乱もしばしば起きている様だ。 テオバルト:本部としてはこれ以上手を貸す気にはなれない。 クラリス:はい・・・。 テオバルト:しかしだ。 テオバルト:私が命じればすぐにでも援軍が行くだろう。 テオバルト:私にはその権限がある。 テオバルト:お前はそのための贄としてここへ来た。 クラリス:その通りでございます。 テオバルト:傲慢だな。 クラリス:え? テオバルト:お前1人のために私が動くと思っているのか。 クラリス:そ、それは・・・。 テオバルト:確かにお前は私のお気に入りだった。 テオバルト:だがそれは遠い昔の話だ。 クラリス:・・・はい。 テオバルト:今はもう私の手を離れている。 クラリス:くっ・・・。 テオバルト:話は終わりだな。 テオバルト:明日、帰りの馬車を―。 クラリス:テオバルト様! クラリス:私は貴方にもう一度好いていただけるよう努力いたします。 クラリス:ですから、一度だけ、もう一度だけチャンスをいただけないでしょうか。 テオバルト:ほう? テオバルト:私を誘うというのか、クラリス。 クラリス:お願いします、テオバルト様・・・。 テオバルト:後悔は、しないか? クラリス:はい。 テオバルト:・・・最中はテオと呼べ、いいな。 クラリス:分かりました。 : 0:間 クラリス:(テオ、テオ・・・。) クラリス:(大好き。) クラリス:(やっと、また側(そば)に来れた。) クラリス:((泣きながら)・・・とても、嬉しい。) : 0:事後 テオバルト:・・・はぁ。 クラリス:(寝息) テオバルト:まったく、ひどい顔だな。 テオバルト:涙でぐちゃぐちゃだ。 クラリス:んぅ・・・。 テオバルト:私と寝るのは泣くほど嫌か。 テオバルト:・・・まぁ、それもそうか。 テオバルト:それはあの時から変わっていないな。 : 0:過去 テオバルト:おいでクラリス。 クラリス:はい。 テオバルト:お前は可愛いな。 クラリス:わ、わたしは可愛いくなんて・・・。 テオバルト:いいんだ、お前は可愛いよ。 クラリス:恥ずかしいです、テオ。 0:心の声 テオバルト:あの頃のクラリスは私によく懐いてくれていた。 テオバルト:彼女の存在は、1人だった私の唯一の癒しだった。 テオバルト:しかし、あの日私はその信頼をすべて失ってしまった。 テオバルト:自分の手で壊してしまったのだ。 0:過去 クラリス:テオ、やだ!やめてください! テオバルト:・・・。 クラリス:テオ・・・、どうしたのテオ? : 0:間 クラリス:うっ・・・ひっく・・・。 テオバルト:大丈夫か、クラリス。 クラリス:やっ・・・。 0:(手を振り払う) クラリス:あ・・・ごめんなさい・・・。 テオバルト:いい、私が悪かった。 クラリス:・・・。 テオバルト:・・・明日、帰りの馬車を手配してある。 クラリス:え? テオバルト:お前はもう自由だ、クラリス。 0:過去終わり : テオバルト:ここには辛い思い出があるだろうに。 テオバルト:なぜ、戻ってきてしまったんだ・・・。 : 0:朝 クラリス:ん・・・んぅ・・・。 テオバルト:おはよう。 クラリス:んー、テオ? テオバルト:ああ。 テオバルト:可愛いなお前は。 クラリス:私は可愛いくなんて・・・。 クラリス:っ! クラリス:お、おはようございます、テオバルト様! テオバルト:テオで良かったんだがな。 クラリス:いいえ、滅相もございません。 テオバルト:そうか。 テオバルト:朝食ができているぞ。 クラリス:は、はい。 クラリス:(昨日はあの後どうなったんだっけ。) クラリス:(確かテオに抱かれ・・・) テオバルト:どうした、顔が赤いぞ。 クラリス:だ、大丈夫です。 テオバルト:そうか? テオバルト:だが今日はゆっくり休みたまえ。 クラリス:え、それじゃあ。 テオバルト:援軍の件については検討してみよう。 テオバルト:お前には措置(そち)が決まるまで、ここに居てもらう。 クラリス:ありがとうございます! テオバルト:(ありがとうございます?) テオバルト:(ここに居るのは嫌だろうに。) テオバルト:(君はどうしてそんなに健気なんだ。) クラリス:どうかされましたか? テオバルト:いや、まぁ、いい。 テオバルト:あとで昼食を持って来よう。 テオバルト:それまでは1人でゆっくりしていてくれ。 クラリス:テオバルト様の自室でですか? クラリス:私なんかが居てはご迷惑では。 テオバルト:気にしなくていい。 テオバルト:昔みたいに寛(くつろ)いでくれたまえ。 クラリス:は、はい。 テオバルト:じゃあな。 :(出て行く) クラリス:(・・・ふぅ。) クラリス:(なんとか、なった。) クラリス:(やっと、テオにまた会えた。) クラリス:(ふふ、テオの布団だ、テオの匂いだ。) クラリス:(とても落ち着く・・・。) クラリス:(やっぱり私はテオのことが大好きだ。) クラリス:(小さい頃からずっと、ずっと大好きだ。) クラリス:(でも、テオは私のことどう思ってるんだろう。) クラリス:(どう思って、私を抱いてくれたんだろう。) クラリス:(可愛いって言ってくれたけど・・・。) クラリス:(はは、ただのリップサービスかな。) クラリス:(だって私は、とっくの昔に嫌われちゃったんだから・・・。) クラリス:(でもそれならなんで、またこの部屋に入れてくれたんだろう?) クラリス:(なんだっていい、なんだっていいや。) クラリス:(少しでもテオと一緒に居れる。) クラリス:(それだけで私は幸せだ。) : 0:執務室 :(通信) テオバルト:ああ、そうか。 テオバルト:分かった。 テオバルト:向こうの状況は? テオバルト:・・・そう、か。 テオバルト:また連絡してくれ。 :(通信終わり) テオバルト:(当分あいつを帰すわけにはいかないな。) テオバルト:(思っていたより戦況が良くない。) テオバルト:(それに、少しでも長く傍(そば)に置いておきたい・・・。) テオバルト:(いや、それはダメだ。) テオバルト:(私は彼女にとてもひどいことをした。) テオバルト:(許されるわけがない。) テオバルト:(昨日も自分を大切にしない彼女に憤(いきどお)りを感じて、つい弱みに付け込んでしまった。) テオバルト:(私は何と愚(おろ)かな男なんだろうか。) テオバルト:(早急に彼女を帰さなければ。) テオバルト:(私はさらに彼女を傷付けてしまうだろう。) テオバルト:(しかし、現在補填(ほてん)できる兵士は・・・。) テオバルト:(っと、もうこんな時間か。) : 0:テオバルトの部屋 0:(ノックの音) テオバルト:クラリス、入るぞ。 テオバルト:昼食を持ってきた。 クラリス:ありがとうございます。 テオバルト:調子はどうだ? テオバルト:立って大丈夫か? クラリス:大袈裟ですよ、大丈夫です。 テオバルト:そうか。 テオバルト:クラリス。 クラリス:はい? テオバルト:お前、セントハイム領に帰りたいか? クラリス:えっ。 テオバルト:すまない、帰りたいに決まっているよな。 クラリス:(小声)・・・りたくないです。 テオバルト:え、今なんて・・・。 クラリス:あっ、いえ、はい。 クラリス:お父様も待っておりますし。 テオバルト:そうだな。 テオバルト:しかし、申し訳ないが、しばらくは帰してやれそうにない。 クラリス:それはどういう・・・。 テオバルト:今帰せばお前が危険な目に遭うだろう。 テオバルト:だから、もう少しだけ我慢してくれ。 クラリス:・・・分かりました。 テオバルト:すまないな。 テオバルト:食べ終わったらそこにでも置いといてくれ。 クラリス:はい。 テオバルト:じゃあまた、夜にな。 :(出て行く) クラリス:(我慢だなんて・・・。) クラリス:(我慢ならずっとしてきました。) : 0:執務室 テオバルト:(夜に、なんて言ってしまったが、彼女をずっと私の部屋に居させていいものだろうか。) テオバルト:(昨日のことを思い出させてしまうかもしれない。) テオバルト:(それにだ、そもそも私の理性が持たない・・・。) テオバルト:(つい昔の感覚でクラリスを私の部屋へ置いてしまったが・・・。) テオバルト:(そうだ、クラリスに別の部屋を使ってもらおう。) : 0:テオバルトの部屋 クラリス:(私はどうしたいんだろう。) クラリス:(今まではテオに会うためだけに頑張ってきたけど。) クラリス:(いざ会えたら、この後どうしたらいいのか分からないわ。) クラリス:(私はただ、また、テオと一緒に居たかっただけ―。) テオバルト:(被せるように)クラリス。 クラリス:(びっくりして)はいっ! テオバルト:まだ起きていたか。 テオバルト:遅くなってすまない。 クラリス:い、いえ。 テオバルト:それで、今更で悪いがお前に部屋を与える。 テオバルト:付いてきてくれ。 クラリス:え・・・。 テオバルト:おっと、その格好では冷えてしまうか。 テオバルト:すまない、配慮が足りなかった。 クラリス:いや、です。 テオバルト:ほら、羽織を貸してやるから許してくれ。 クラリス:いや・・・。 テオバルト:どうしたんだ? クラリス:テ、テオバルト様は私を慰(なぐさ)みものとして、お側に置いていらっしゃるのでしょう。 クラリス:でしたら、夜こそ一緒にいるべきなのではないでしょうか。 テオバルト:・・・。 クラリス:テオバルト様? テオバルト:昨晩、散々泣いていたやつが何を言っている。 テオバルト:お前を手元に置いているのは、セントハイム領へ帰すと危険だからだ。 クラリス:そんな・・・。 テオバルト:ほら、おいで。 クラリス:・・・はい。 : 0:間 0:クラリスの部屋 テオバルト:私の部屋よりは手狭(てぜま)だが許してくれ。 クラリス:いえ・・・。 テオバルト:明かりは消すか? クラリス:お願いします・・・。 テオバルト:分かった。 テオバルト:おやすみ、クラリス。 クラリス:おやすみ、なさい・・・。 :(テオバルトが出て行く) クラリス:(昔みたいにずっと側に置いてくれると思ってた。) クラリス:(バカみたいだ。) クラリス:(テオはもう、私のこと好きでも何でもないんだ。) クラリス:(テオにとって私は、ただの部下の1人。) クラリス:(それも、救いようの無い領土の伯爵の娘。) クラリス:(本来なら顔も知らないような存在なんだ。) クラリス:(せっかくテオに会えたのに、こんな悲しい気持ちになると思わなかった。) クラリス:(私の居場所は、もう何処にも無いんだ。) : 0:テオバルトの部屋 テオバルト:(眠れん。) テオバルト:(1つ屋根の下にクラリスがいると思うと眠れるわけがない。) テオバルト:(いかんいかん。) テオバルト:(そもそもクラリスのことは忘れようとしていたんだ。) テオバルト:(彼女の未来を案じて、この手を離したあの日から。) テオバルト:(意識するな、テオ、抑えるんだ。) 0:間 テオバルト:(はぁ・・・。) テオバルト:(そんなの、できるわけがない、な・・・。) テオバルト:(私がどれほどクラリスのことを愛しているか。) テオバルト:(再び彼女に会って嫌でも自覚してしまった・・・。) テオバルト:(寝顔を見るくらいなら許されるだろうか。) : 0:クラリスの部屋 テオバルト:(起こさないようにしないとな。) クラリス:やっ・・・。 テオバルト:! テオバルト:(まずい、起こしてしまったか。) クラリス:お、父様・・・、いや・・・。 テオバルト:(お父様?) クラリス:やめてください、お父様・・・。 クラリス:ひっく・・・うぅ・・・。 テオバルト:クラリス・・・。 :(そっと頭を撫でる) クラリス:(泣く) テオバルト:悲しい夢でもみているのか。 クラリス:テオ・・・。 クラリス:助け、て・・・テオ。 テオバルト:ああ、私はここにいるぞ。 クラリス:テオ・・・。 テオバルト:どうした。 クラリス:テオ・・・。 テオバルト:うん。 クラリス:す・・・き・・・。 テオバルト:っ・・・。 テオバルト:クラリス・・・。 クラリス:(寝息) : 0:朝 クラリス:んー・・・。 :(目を開けるとテオバルトが寝ている) クラリス:ぅわあっ! テオバルト:んん、なんだうるさい。 クラリス:な、なぜテオバルト様が、ここに。 テオバルト:ああ。 クラリス:自室でお休みになられたのでは。 テオバルト:あー・・・、これには深い訳があってだな。 クラリス:なんですか、訳って。 テオバルト:それよりもクラリス。 クラリス:はい、何でしょうか。 テオバルト:私もお前に聞かなくてはいけないことがあるんだが。 クラリス:はい? テオバルト:昨晩お前はうなされていた。 テオバルト:お父様、と呟きながらな。 クラリス:っ! テオバルト:夢にみるほど辛いことがあったのか? クラリス:そ、それはっ・・・。 テオバルト:どういうことか説明をしてくれ。 クラリス:あ、悪夢でもみたのではないでしょうか。 クラリス:お恥ずかしいところをお見せしてしまい申し訳ありません。 テオバルト:悪夢か。 テオバルト:それで、お父様というのはどういうことだ。 クラリス:悪夢では父の身に何か起きたのでしょう。 クラリス:きっとそれで―。 テオバルト:「やめてください、お父様。」と言っていたが? クラリス:っ・・・。 テオバルト:それに、私に助けを求めていたぞ。 クラリス:・・・。 テオバルト:クラリス。 クラリス:・・・わ、私は。 テオバルト:ああ。 クラリス:っ・・・。 クラリス:言えません。 テオバルト:何故だ。 クラリス:私の個人的な話です。 クラリス:あなたには関係ありません。 テオバルト:命令はしたくない。 テオバルト:お願いだクラリス、教えてくれないか。 クラリス:(言いよどむ) テオバルト:頼む。 テオバルト:そんな怯えた表情の君を放ってはおけない。 クラリス:テオ・・・バルト様。 テオバルト:大丈夫だ、ほら。 クラリス:(震える声で)・・・私は、父から虐待を受けていました。 テオバルト:・・・いつからだ。 クラリス:・・・テオバルト様の元を去ってからです。 テオバルト:くっ・・・。 クラリス:でも仕方がないんです。 クラリス:私が何もできない役立たずだから。 クラリス:だからっ・・・(泣く)。 テオバルト:クラリス。 :(抱き締める) テオバルト:すまなかった。 クラリス:なぜ、あなたが謝るのですか? テオバルト:あの時、お前を手放すべきではなかった。 テオバルト:お前を、帰すのではなかった。 クラリス:テオバルト様。 テオバルト:どうして私はこんなに愚かなのだろうか。 クラリス:そんな、テオバルト様は立派なお方です! テオバルト:違う。 テオバルト:私は、自分の気持ちをお前に伝えるのが怖くて逃げてしまった臆病者だ。 クラリス:どういうことですか? テオバルト:私は、お前の気持ちを聞いてやっと言えるような弱い男なのだ。 テオバルト:だが、その恥を承知で言わせてくれ。 テオバルト:クラリス、私はお前のことが好きだ。 クラリス:え・・・。 テオバルト:一眼見たときに惹かれていた。 テオバルト:一緒に過ごすうちにどうしようもなく好きになった。 クラリス:テオバルト様・・・。 クラリス:そんな・・・。 クラリス:ではなぜ、あの時私を帰したのですか!! テオバルト:私とずっと一緒にいては、お前の未来を奪ってしまうと思ったからだ。 テオバルト:それに、手を出さない自信がなかった。 テオバルト:現(げん)に、お前を帰す直前に手を出してしまった。 テオバルト:泣いているお前を見て、本当に本当に、後悔した。 クラリス:あの時は初めてでビックリしてしまって。 テオバルト:そうだろう。 テオバルト:私は何てことを・・・。 テオバルト:そういえば昨日もお前は泣いていたな。 テオバルト:よほどトラウマになってしまっt―。 クラリス:違います! クラリス:昨日のは違います。 テオバルト:何が違うんだ? クラリス:昨日は、嬉しかったんです。 テオバルト:嬉しかった? クラリス:はい。 クラリス:テオバルト様と離れてから、私はずっとあなたに恋焦がれていました。 テオバルト:ひどいことをした私を、どうして。 クラリス:あなたはずっと私に愛情を向けてくださっていました。 クラリス:私に無関心だった親とは違い、私を愛してくださっていました。 クラリス:だから、あなたとずっと一緒に居たかったんです。 テオバルト:クラリス。 クラリス:でも、あなたは私に帰れと言いました。 クラリス:今でもあの時の絶望感を覚えています。 クラリス:あなたに嫌われたのだと思っていました。 クラリス:だから、どんな形であれ、再びあなたに愛されて嬉しかったんです。 テオバルト:そうだったのか・・・。 クラリス:昨日も、急に別の部屋に移されて・・・。 クラリス:テオバルト様に私はもう必要ないんだと思って・・・(泣く)。 テオバルト:違う、それは、お前に手を出さないようにだな。 クラリス:あはは・・・、そうだったのですね。 テオバルト:私だってずっとお前のことを忘れられなかった! テオバルト:どんなに忘れようとしても、無邪気なお前の顔が頭から離れなかった。 テオバルト:そして、成長したお前と再会しても、この想いは変わらなかった。 クラリス:テオバルト様。 クラリス:私も、私もずっとお慕(した)いしておりました。 テオバルト:愛しいクラリス。 テオバルト:どうか私のものになってくれないか。 クラリス:・・・もちろんです。 クラリス:私も・・・テオ、貴方のことが大好きです。 テオバルト:やっとその名で呼んでくれたな。 クラリス:お嫌ですか? テオバルト:まさか、とても嬉しいよ。 テオバルト:君に様付けで呼ばれるのは、とてももどかしかった。 テオバルト:君がとても遠くにいるような感じがして胸が苦しかった。 テオバルト:そうしてしまったのは私だというのにな。 クラリス:今度は手放したりしないでくださいね。 テオバルト:ああ、約束しよう。 クラリス:ふふ、嬉しいです。 テオバルト:ほら、おいでクラリス。 クラリス:はい、テオ。 0:(抱き合う) テオバルト:ああ、再び君を昔みたいに抱き締めることができるなんて夢みたいだ。 クラリス:私もずっとこの温もりを夢見ていました。 テオバルト:・・・たくさん辛い思いをさせたな。 テオバルト:すまなかった。 クラリス:テオ・・・(泣く)。 テオバルト:もう、大丈夫だからな。 クラリス:(泣きながら)はい。 テオバルト:もう一度、会いに来てくれてありがとう。 クラリス:(泣きながら)うん。 テオバルト:これからはずっと一緒に居よう。 クラリス:はい、ずっとお側(そば)に。