台本概要
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タイトル | 死神さんのごはん |
---|---|
作者名 | 塩結ノ介 (@siodemusunde) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
ある土曜日の朝。 いつものように青年が目を覚ますと、見知らぬ少女が四畳半の畳の上にちょこんと座っていた。 少女は死神だと名乗り、死ぬ前に3つ願いを叶えるという。 697 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
青年 | 男 | 73 | 1年前に母を亡くし、友達とも父親とも疎遠になって仕事に没頭していた青年。 |
死神さん | 女 | 69 | 突然青年の部屋に現れた真っ黒コートの少女。自称死神。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
青年:ん……ふわぁ…あーよく寝た。スマホスマホ…。
死神さん:おはようございます!おにーさん!
青年:ん、あーおはようございます……………ん?
死神さん:おはよーございます!!
0:目を輝かせて元気よく挨拶をする黒い服を着た少女と、寝起きの回っていない頭のまま少女を見つめて固まる青年。
0:両者表情を変えることなく数秒間固まる。その後一気に目が覚めて
青年:……え!?は!?だ、誰!?
青年:おいおいおい、男のワンルームにかわいい女の子…この状況って……まさか俺…ついにやったか!?誘拐!?監禁罪!?
青年:おおおおお願いします通報は勘弁してくださいほんの出来心で!!いや全く心当たりがないから出来心もクソもないんだけど!!
死神さん:えぇ!?お、落ち着いてくださいお兄さん!違うんです!わたしが勝手に上がり込んでるだけで、お兄さんは全く悪くなくて…
死神さん:とにかくお兄さんは何も悪くないので落ち着いてください!!
青年:神様仏様お母さま、罪深き私めをどうか…え?あ、そ、そう…?そうなの…?ならよかった……のか?
青年:……いやよくはないけど…それじゃ君は…?
死神さん:あ、申し遅れました!私、通りすがりの死神をやっているものです!決して怪しいものではありません!
青年:いや十分怪しいわ。何だよ通りすがりの死神って、日常的にそんなの通りすがってたら怖いんだけど。
死神さん:あぁ、死神って人間が知らないだけで実は身近で生活してるんですよ。
死神さん:みんな普段は普通に過ごしていて、お仕事の時はこうやって死期の近い人間の前に現れるんです!
青年:えぇ…そういうもんなの……?登録制イベント系バイトなの……??確かによく見たら、さっきから浮いてるね君……
青年:ってちょっと待て
死神さん:はい!なんでしょう?
青年:君の話を全部信じるとすると、君は死神で、もうすぐ俺が死ぬから今目の前に現れたってことになるんだけど…。
青年:
青年:え、死ぬの?俺。
死神さん:え?あ、はい!み、三日後に!
青年:三日後!?
死神さん:三日後の夕方……えっと、交通事故で!
青年:それはまたリアルな……マジで?
死神さん:ま………まじです。
青年:ハ…ハハハ…そっかぁ…三日後…三日後かぁ…。
0:あまりの情報量にさっきまで寝ていた布団に倒れこむ青年。
0:その様子をまるで予想外だったというような顔で眺める少女。
死神さん:あの……信じて、くれるんですか…?
青年:なんとなく納得したというか…今週の星座占いてんびん座最下位だったしな。
青年:それに君みたいな子供、この状況で疑ったってしょうがないだろ。
青年:ていうかその方がありがたい、そうじゃなかったらあやうく犯罪だから。
死神さん:あ、ありがとうございます…!よかった…。
青年:それで?そんな死神さんが死に際の俺なんかになんの用?ちゃんと三日後に死ぬか監視しにきたとか?
死神さん:か、監視だなんてとんでもない!私はただ、お兄さんの悔いを晴らすためのお手伝いをしに来たんです!
青年:悔いを晴らす手伝い…?
死神さん:こほん、説明しましょう!
死神さん:私たち死神は、人間が死ぬ前に3つだけ願いを叶える役目があるんです。
死神さん:ただし、お金を増やすとか願い事を増やすとかはできません。
死神さん:犯罪に関わるものやえっちなのもダメです。
青年:なんかどこぞのランプの魔人みたいなシステムだな、死に際だってのに…。
青年:あ、ということはもしかして魔法とか使えるのか?!
死神さん:使えるわけないじゃないですか、そんな非科学的なもの。
青年:使えねーのかよ…って死神さんがそれ言う!?
死神さん:うぐ……と、とにかく!私に出来ることは何でもしますから!ほらほらはやく!時間がもったいないですよ!
青年:そんな急に言われてもなぁ…うーーん…
0:考え込む青年をわくわく目を輝かせながら待つ少女。
0:別にそれほど悔いの残るものはないしな…と考えるうちにふと思い出したように青年が顔を上げた。
青年:あ、
死神さん:なんですか!?
青年:手料理が食べたい。
死神さん:手料理…?
青年:俺、ずっと一人暮らしでほとんどコンビニ弁当生活でさ。別に豪華じゃなくていいんだ。
青年:ただ最後の三日くらい、誰かが作った手料理を誰かと一緒に食べたいなー…なんて。どうかな。
死神さん:わぁ…!お安い御用です、おまかせください!私、お兄さんが食べたいものいーーっぱい作ります!
青年:ははは、そんなに喜ぶか?じゃあ、三日間よろしく。
0:
青年:(N)こうして、俺と小さな死神さんの奇妙な三日間が始まった。
0:一日目の昼ごはん。とりあえずかろうじて冷蔵庫にあったもので作ってもらった。
0:机に並んだのは、ご馳走という訳でもなくごく普通の少女の手料理。
0:正直久しぶりの手料理で期待はしていたが、期待以上のものに思わず関心してしまった。
青年:おぉ…ちゃんとできてる…。
死神さん:ふふん!これでも料理にはそこそこ自信あるんですよ!ささ、早く食べましょ!
青年:い、いただきます!
0:緊張した顔で死神さんが見守る中、青年がご飯を口に運ぶ。
死神さん:どうでしょうか…。
青年:……美味い!すごいな死神さん!
死神さん:よかった…!えへへ、頑張った甲斐がありました!じゃあわたしも、いただきます。
青年:うわ、人の手料理なんて何年ぶりだろ…なんか涙出てきた。
死神さん:えー?大げさですよ(笑)
青年:いやほんとに……ん?
死神さん:どうしました?
青年:この卵焼き…めっちゃくちゃ美味い。絶品。
死神さん:!!
青年:あっいや、全部美味しいんだけどさ!ただ…なんか懐かしい感じがして。
死神さん:お口にあったようでなによりです!…卵焼き、たくさん練習したかいがありました。
死神さん:お母さんには負けちゃうけど。
青年:お母さん?
死神さん:初めてお母さんに教わった料理だったんです。
死神さん:難しいよって言われても聞かずに練習して…ふふ、なつかしいな。
青年:へぇ…いいお母さんだな。
死神さん:はい!自慢のやさしいお母さんなんです!そんな母直伝の手料理ですよ!
青年:ははは!じゃあ死神さんはきっといいお嫁さんになるな!
死神さん:…そ、そうですか?死神の旦那さん、もらえるかなぁ…!
0:2日目の夜。外から帰ってくると、ちょうど死神さんがご飯の準備をしているところだった。
青年:ただいまー。
死神さん:おかえりなさい!あ、ごはんもうちょっとで出来ます!
青年:あぁ、ありがとう。…死神さん。これ、よかったらもらってくれないかな。
死神さん:えっ?これ……お洋服?
青年:うん。死神だし余計かなって思ったけど、せっかく女の子なんだし。
死神さん:そんな…も、申し訳ないです!ここまでしていただくなんて…
青年:いいんだよ、俺がしたくてしてることだし。…それと、お願いも聞いてほしくて。
死神さん:あっ2つ目ですね!どんとこいです!
青年:明日…最後の日、夕方まで死神さんと遊びに行きたい。
死神さん:え…私と?
青年:うん。死神さんが行きたいところに行って、一緒に遊びたい。その時にこの服も着てさ。…だめかな?
死神さん:い、いえ!とんでもない!!
死神さん:わかりました、そういうことでしたら明日はめいっぱい遊びましょう!!
青年:よかった、じゃあ行きたいところ考えといて。
死神さん:はい!わぁぁどこにしよう…!!おいしいものとか…楽しいとことか…!!
死神さん:お兄さん!完っ璧なコース準備しますから楽しみにしててください!!
0:----------
0:--------------
0:2日目の深夜、電気が消えた部屋で寝息をたてている死神さんに青年がそっと布団をかけ直す
青年:明日で最期…か。なんか実感無いなぁ…。ほんとに死ぬのかな、俺。
青年:あ、親父に連絡…いや、いいか。第一なんて説明するんだよ、明日俺死ぬから…とか。意味わかんねーよな。
青年:………ちょっと散歩しよ。ごめんね死神さん、いってきます。
0:青年が出ていった後、途中から起きていた死神さんが体を起こす。
死神さん:お兄さん、寝れないのかな…。そりゃそうだよね、明日で最後なんだし。
死神さん:ご飯、練習しといてよかった。もっと練習してたら、もっと喜んでもらえたのにな。
死神さん:最後…か。
死神さん:………お兄さん、ごめんね。
0:--------------
0:----------
0:そんなたわいもない日常をすごし、最後の願い事が決まらないまま3日目の朝を迎えた。
0:味噌汁の香りを感じながら、本当に今日が最期なのかとぼんやり考えた。
死神さん:あ、おはようございます!お兄さん!
青年:おはよ、死神さん。
青年:…お、よく似合ってるじゃん。
死神さん:えへへ、ありがとうございます!すっごくかわいくて気に入りました…!
死神さん:あっ朝ごはんできてますよ!早く食べましょう!
青年:うん、今日もありがと。いただきます。
死神さん:いただきまーす!
0:2人で手を合わせて食べ始める。卵焼きの優しい味にふと笑みが零れた。
青年:……うん、やっぱ卵焼きすげー美味い。
死神さん:む……卵焼きだけ、ですか?
青年:んっ!?あぁいやいや!!もちろん全部美味いよ!!
死神さん:ふふふ、冗談ですよ。ありがとうございます。
0:しばらくの沈黙。何やら考え込んでいた死神が、不意に箸をおいて口を開く。
死神さん:……あ、あの、お兄さん。
青年:ん?
死神さん:なんで今日、私と遊びたいって思ってくれたんですか…?
死神さん:一応最期の日、なんですよ…?
0:思い詰めたような顔の死神。その様子に青年は少し考えると、にこりと笑った。
青年:最期だからだよ。この2日間、俺の為にご飯作ってくれたのすげー嬉しかったし、その恩返しも含めて。
青年:それにさ、察してると思うけど、俺こんな時でも一緒に遊ぶ友達もいないんだよ。
青年:最期くらい思いっきり遊びたいじゃん?付き合ってよ。
死神さん:でも、それならお兄さんの行きたいところに行った方が…
青年:死神さん。
青年:俺、死神さんが思いっきり楽しんでる笑顔が見たいんだ。見れなかったら絶対それが悔いになる。
青年:ほら、仕事の目的と一致してるじゃん。…ね?
死神さん:……わかりました!遊びましょう!!もっと生きたくなるくらいめいっぱい!遊び倒しましょう…!!
青年:ハハハ!それじゃあ悔いが残りそうじゃん!
青年:まぁでも、そうなるくらい遊ぼうか。じゃあ急いで出かけないとな!
死神さん:はい!
0:
青年:(N)それから俺達は、動物園、プラネタリウム、ゲーセンにペットショップ。あらゆる所で遊び倒した。
青年:(N)初めて飲んだタピオカは思った以上に甘くてきつかったが、死神さんがまるで普通の女の子のようにはしゃいで目を輝かせていたのでよしとしよう。
死神さん:お兄さん!今日は楽しかったですね!
青年:そうだな……タピオカがあんなに甘いなんて知らなかった……よくあんなの飲んでるな巷のJK……。
死神さん:ふふっ、1口飲んだ時のお兄さんすっごい顔してました!
青年:えー?どんな顔だよ
死神さん:こーーんな顔!!
青年:ははは、確かにそんな顔してたわ。…まぁでも、俺も死神さんのいろんな顔を見れていい一日だったよ。
死神さん:えぇ!?ど、どんな顔ですか!?
青年:すーっごく楽しそうな、かわいい笑顔とか。
死神さん:かっ………!?ちゃ、茶化さないでください!私は仕事をしてるんです!
青年:ごめんごめん、そうだったな。
死神さん:もー…あんまり茶化すと最後のお願い、私が勝手に決めちゃいますからね!
青年:あー、そういえば残ってたな。すっかり忘れてた。
死神さん:何かないんですか?やり残したこと。
青年:うーん…悔いがない、といえば嘘になるんだけど…でも思いつかないからなぁ…。
0:少女は立ち止まりすこし考えると、のんびり歩く青年の背中に向かって呼びかけた。
死神さん:……あの、お兄さん。
青年:ん?どうした?
死神さん:もし…もしこのまま死ぬことなく生き続けられるとしたら、お兄さんは何がしたいですか?
青年:え、何その質問。今聞く?
死神さん:いいから、答えてください。
青年:うーん…とりあえず、父さんと酒でも飲みたいかな。
死神さん:………。
青年:もともと父さんとは会話が少なかったんだけどさ、母さんが死んでからは俺も仕事ばっかりでどんどん疎遠になって。
青年:たった1人の家族だし、もっといろいろ話しとくべきだったなー…ってさ。
死神さん:家族想い、なんですね。
青年:そんなことないよ、親の前に死ぬとんだ親不孝者だ。
青年:…結局死ぬ前だってのに連絡のひとつもしなかったし。
死神さん:……やっぱりお兄さんは、まだ死んじゃダメです。やらなきゃいけないこと、たくさん残ってる。
青年:ははは、俺、これから死ぬんでしょ?今更だよ。
0:青年がそう言って笑うと、少女は顔を曇らせて俯いた。
0:青年がどうしたのかと様子を伺っていると、少女が覚悟を決めた様に口を開く。
死神さん:……お兄さん、ごめんなさい。私嘘ついてました。
青年:え?何、嘘って…。
死神さん:お兄さんは死にません。交通事故にも合わないし、私は死神じゃないし、お兄さんはこれからもちゃんと生きていけます。
死神さん:お父さんにも会いに行けます。全部全部嘘なんです。
青年:……え?ちょっとまって、どういうこと?頭が追いつかないんだけど……。
青年:え、じゃあ君は…?
死神さん:私はお兄さんに恩返しをしに来た、ただのおばけなんです。
死神さん:…覚えていませんか?3年前の、この交差点で起きた大きなトラック事故。
青年:恩返し……?3年前のトラック事故……って、
死神さん:そうです。お兄さんが助けようとした、あの時の私です。
死神さん:お兄さんは見ず知らずの私を庇って飛び込んできてくれた。
死神さん:そんなことしなければあんなにぼろぼろにならずにすんだのに、必死で守ろうとしてくれた。
青年:でも俺は結局君を助けられなかった…それなのに、なんで…
死神さん:お兄さん、あのね。私、本当は即死だったらしいんです。
死神さん:でもなんとか命が繋がって、目を開けるともう会えないと思っていたお父さんとお母さんの顔が見えました。
死神さん:すごく…すごく嬉しかったんです。
死神さん:ちゃんと伝わったかは分からないけど、ありがとう、大好きだよって言えたんです…!
死神さん:それが、どれだけ幸せだったか…!
青年:そんな…俺がもっと早く庇っていれば君はもしかしたら生きていたかもしれない。
青年:それどころか…俺のせいで余計に痛い思いをさせることに
死神さん:違う!お兄さんがそうやって自分のことせめてたの、私ずっと見てた…。
死神さん:違うのに、お兄さんのおかげなのに!ありがとうって言いたかったのに…!
死神さん:死んじゃっても諦められなくて、でも…伝えられなくて…。
死神さん:だから神様にお願いしたの。三日間だけ、私にチャンスをください、そしたらちゃんと成仏するからって。
青年:あり、がとう…?なんで…?
死神さん:私、自分が不幸だなんて思ってないよ。
死神さん:ひとりぼっちにならなかったのは、最後に後悔を残さずにすんだのは全部お兄さんのおかげ。
死神さん:…だれもお兄さんを責めてないから、お兄さんも自分を許してあげて。
青年:……。
死神さん:…ごめんなさい、そろそろタイムリミットかな。
青年:タイムリミット…?3日目の夕方ってまさか…!
死神さん:うん。さよならだね、お兄さん。
死神さん:本当にありがとう、私今日まですっごく幸せだった!
死神さん:悔いどころか思い出でいっぱいになっちゃった…!
死神さん:これでもう、神様のところに行けるよ。
青年:体が、透けてる…。そんな、待ってくれ!!礼を言うのは、俺の方だ…!
青年:死神さんがきてくれて、久しぶりに生きてる実感が持てた、もっと生きたいって思えたんだ!
青年:本当に…本当にありがとう。
死神さん:!!…えへへっ!作戦成功だ!…ばいばい、お兄さん。元気でね!
0:少女の姿が夕焼けに溶ける。まるでそこには誰もいなかったかのように、影の一つも落ちていない。
青年:………消えた…。はは、言うだけ言って消えやがった…。もしかして全部、夢だったりしてな。
0:少女の痕跡を探して、ふと尻ポケットの財布を見てみると、金の代わりにさっきまで遊び倒したレシートで詰まっているのを見て思わず笑いがこみあげた
青年:なんだよ…悔いを晴らすって言いながらしっかり人の金で楽しみやがって。
青年:また会ったら出世払いで返してもらうからな。
青年:………酒くらい、買えるか。
0:財布をしまって電話をかける。空を見上げると、綺麗な夕焼け空だった。
青年:……あ、もしもし、父さん?今から帰るからさ、久しぶりにのもうよ。
青年:
青年:…あ、そうだ。卵、あるかな。
青年:ん……ふわぁ…あーよく寝た。スマホスマホ…。
死神さん:おはようございます!おにーさん!
青年:ん、あーおはようございます……………ん?
死神さん:おはよーございます!!
0:目を輝かせて元気よく挨拶をする黒い服を着た少女と、寝起きの回っていない頭のまま少女を見つめて固まる青年。
0:両者表情を変えることなく数秒間固まる。その後一気に目が覚めて
青年:……え!?は!?だ、誰!?
青年:おいおいおい、男のワンルームにかわいい女の子…この状況って……まさか俺…ついにやったか!?誘拐!?監禁罪!?
青年:おおおおお願いします通報は勘弁してくださいほんの出来心で!!いや全く心当たりがないから出来心もクソもないんだけど!!
死神さん:えぇ!?お、落ち着いてくださいお兄さん!違うんです!わたしが勝手に上がり込んでるだけで、お兄さんは全く悪くなくて…
死神さん:とにかくお兄さんは何も悪くないので落ち着いてください!!
青年:神様仏様お母さま、罪深き私めをどうか…え?あ、そ、そう…?そうなの…?ならよかった……のか?
青年:……いやよくはないけど…それじゃ君は…?
死神さん:あ、申し遅れました!私、通りすがりの死神をやっているものです!決して怪しいものではありません!
青年:いや十分怪しいわ。何だよ通りすがりの死神って、日常的にそんなの通りすがってたら怖いんだけど。
死神さん:あぁ、死神って人間が知らないだけで実は身近で生活してるんですよ。
死神さん:みんな普段は普通に過ごしていて、お仕事の時はこうやって死期の近い人間の前に現れるんです!
青年:えぇ…そういうもんなの……?登録制イベント系バイトなの……??確かによく見たら、さっきから浮いてるね君……
青年:ってちょっと待て
死神さん:はい!なんでしょう?
青年:君の話を全部信じるとすると、君は死神で、もうすぐ俺が死ぬから今目の前に現れたってことになるんだけど…。
青年:
青年:え、死ぬの?俺。
死神さん:え?あ、はい!み、三日後に!
青年:三日後!?
死神さん:三日後の夕方……えっと、交通事故で!
青年:それはまたリアルな……マジで?
死神さん:ま………まじです。
青年:ハ…ハハハ…そっかぁ…三日後…三日後かぁ…。
0:あまりの情報量にさっきまで寝ていた布団に倒れこむ青年。
0:その様子をまるで予想外だったというような顔で眺める少女。
死神さん:あの……信じて、くれるんですか…?
青年:なんとなく納得したというか…今週の星座占いてんびん座最下位だったしな。
青年:それに君みたいな子供、この状況で疑ったってしょうがないだろ。
青年:ていうかその方がありがたい、そうじゃなかったらあやうく犯罪だから。
死神さん:あ、ありがとうございます…!よかった…。
青年:それで?そんな死神さんが死に際の俺なんかになんの用?ちゃんと三日後に死ぬか監視しにきたとか?
死神さん:か、監視だなんてとんでもない!私はただ、お兄さんの悔いを晴らすためのお手伝いをしに来たんです!
青年:悔いを晴らす手伝い…?
死神さん:こほん、説明しましょう!
死神さん:私たち死神は、人間が死ぬ前に3つだけ願いを叶える役目があるんです。
死神さん:ただし、お金を増やすとか願い事を増やすとかはできません。
死神さん:犯罪に関わるものやえっちなのもダメです。
青年:なんかどこぞのランプの魔人みたいなシステムだな、死に際だってのに…。
青年:あ、ということはもしかして魔法とか使えるのか?!
死神さん:使えるわけないじゃないですか、そんな非科学的なもの。
青年:使えねーのかよ…って死神さんがそれ言う!?
死神さん:うぐ……と、とにかく!私に出来ることは何でもしますから!ほらほらはやく!時間がもったいないですよ!
青年:そんな急に言われてもなぁ…うーーん…
0:考え込む青年をわくわく目を輝かせながら待つ少女。
0:別にそれほど悔いの残るものはないしな…と考えるうちにふと思い出したように青年が顔を上げた。
青年:あ、
死神さん:なんですか!?
青年:手料理が食べたい。
死神さん:手料理…?
青年:俺、ずっと一人暮らしでほとんどコンビニ弁当生活でさ。別に豪華じゃなくていいんだ。
青年:ただ最後の三日くらい、誰かが作った手料理を誰かと一緒に食べたいなー…なんて。どうかな。
死神さん:わぁ…!お安い御用です、おまかせください!私、お兄さんが食べたいものいーーっぱい作ります!
青年:ははは、そんなに喜ぶか?じゃあ、三日間よろしく。
0:
青年:(N)こうして、俺と小さな死神さんの奇妙な三日間が始まった。
0:一日目の昼ごはん。とりあえずかろうじて冷蔵庫にあったもので作ってもらった。
0:机に並んだのは、ご馳走という訳でもなくごく普通の少女の手料理。
0:正直久しぶりの手料理で期待はしていたが、期待以上のものに思わず関心してしまった。
青年:おぉ…ちゃんとできてる…。
死神さん:ふふん!これでも料理にはそこそこ自信あるんですよ!ささ、早く食べましょ!
青年:い、いただきます!
0:緊張した顔で死神さんが見守る中、青年がご飯を口に運ぶ。
死神さん:どうでしょうか…。
青年:……美味い!すごいな死神さん!
死神さん:よかった…!えへへ、頑張った甲斐がありました!じゃあわたしも、いただきます。
青年:うわ、人の手料理なんて何年ぶりだろ…なんか涙出てきた。
死神さん:えー?大げさですよ(笑)
青年:いやほんとに……ん?
死神さん:どうしました?
青年:この卵焼き…めっちゃくちゃ美味い。絶品。
死神さん:!!
青年:あっいや、全部美味しいんだけどさ!ただ…なんか懐かしい感じがして。
死神さん:お口にあったようでなによりです!…卵焼き、たくさん練習したかいがありました。
死神さん:お母さんには負けちゃうけど。
青年:お母さん?
死神さん:初めてお母さんに教わった料理だったんです。
死神さん:難しいよって言われても聞かずに練習して…ふふ、なつかしいな。
青年:へぇ…いいお母さんだな。
死神さん:はい!自慢のやさしいお母さんなんです!そんな母直伝の手料理ですよ!
青年:ははは!じゃあ死神さんはきっといいお嫁さんになるな!
死神さん:…そ、そうですか?死神の旦那さん、もらえるかなぁ…!
0:2日目の夜。外から帰ってくると、ちょうど死神さんがご飯の準備をしているところだった。
青年:ただいまー。
死神さん:おかえりなさい!あ、ごはんもうちょっとで出来ます!
青年:あぁ、ありがとう。…死神さん。これ、よかったらもらってくれないかな。
死神さん:えっ?これ……お洋服?
青年:うん。死神だし余計かなって思ったけど、せっかく女の子なんだし。
死神さん:そんな…も、申し訳ないです!ここまでしていただくなんて…
青年:いいんだよ、俺がしたくてしてることだし。…それと、お願いも聞いてほしくて。
死神さん:あっ2つ目ですね!どんとこいです!
青年:明日…最後の日、夕方まで死神さんと遊びに行きたい。
死神さん:え…私と?
青年:うん。死神さんが行きたいところに行って、一緒に遊びたい。その時にこの服も着てさ。…だめかな?
死神さん:い、いえ!とんでもない!!
死神さん:わかりました、そういうことでしたら明日はめいっぱい遊びましょう!!
青年:よかった、じゃあ行きたいところ考えといて。
死神さん:はい!わぁぁどこにしよう…!!おいしいものとか…楽しいとことか…!!
死神さん:お兄さん!完っ璧なコース準備しますから楽しみにしててください!!
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0:2日目の深夜、電気が消えた部屋で寝息をたてている死神さんに青年がそっと布団をかけ直す
青年:明日で最期…か。なんか実感無いなぁ…。ほんとに死ぬのかな、俺。
青年:あ、親父に連絡…いや、いいか。第一なんて説明するんだよ、明日俺死ぬから…とか。意味わかんねーよな。
青年:………ちょっと散歩しよ。ごめんね死神さん、いってきます。
0:青年が出ていった後、途中から起きていた死神さんが体を起こす。
死神さん:お兄さん、寝れないのかな…。そりゃそうだよね、明日で最後なんだし。
死神さん:ご飯、練習しといてよかった。もっと練習してたら、もっと喜んでもらえたのにな。
死神さん:最後…か。
死神さん:………お兄さん、ごめんね。
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0:そんなたわいもない日常をすごし、最後の願い事が決まらないまま3日目の朝を迎えた。
0:味噌汁の香りを感じながら、本当に今日が最期なのかとぼんやり考えた。
死神さん:あ、おはようございます!お兄さん!
青年:おはよ、死神さん。
青年:…お、よく似合ってるじゃん。
死神さん:えへへ、ありがとうございます!すっごくかわいくて気に入りました…!
死神さん:あっ朝ごはんできてますよ!早く食べましょう!
青年:うん、今日もありがと。いただきます。
死神さん:いただきまーす!
0:2人で手を合わせて食べ始める。卵焼きの優しい味にふと笑みが零れた。
青年:……うん、やっぱ卵焼きすげー美味い。
死神さん:む……卵焼きだけ、ですか?
青年:んっ!?あぁいやいや!!もちろん全部美味いよ!!
死神さん:ふふふ、冗談ですよ。ありがとうございます。
0:しばらくの沈黙。何やら考え込んでいた死神が、不意に箸をおいて口を開く。
死神さん:……あ、あの、お兄さん。
青年:ん?
死神さん:なんで今日、私と遊びたいって思ってくれたんですか…?
死神さん:一応最期の日、なんですよ…?
0:思い詰めたような顔の死神。その様子に青年は少し考えると、にこりと笑った。
青年:最期だからだよ。この2日間、俺の為にご飯作ってくれたのすげー嬉しかったし、その恩返しも含めて。
青年:それにさ、察してると思うけど、俺こんな時でも一緒に遊ぶ友達もいないんだよ。
青年:最期くらい思いっきり遊びたいじゃん?付き合ってよ。
死神さん:でも、それならお兄さんの行きたいところに行った方が…
青年:死神さん。
青年:俺、死神さんが思いっきり楽しんでる笑顔が見たいんだ。見れなかったら絶対それが悔いになる。
青年:ほら、仕事の目的と一致してるじゃん。…ね?
死神さん:……わかりました!遊びましょう!!もっと生きたくなるくらいめいっぱい!遊び倒しましょう…!!
青年:ハハハ!それじゃあ悔いが残りそうじゃん!
青年:まぁでも、そうなるくらい遊ぼうか。じゃあ急いで出かけないとな!
死神さん:はい!
0:
青年:(N)それから俺達は、動物園、プラネタリウム、ゲーセンにペットショップ。あらゆる所で遊び倒した。
青年:(N)初めて飲んだタピオカは思った以上に甘くてきつかったが、死神さんがまるで普通の女の子のようにはしゃいで目を輝かせていたのでよしとしよう。
死神さん:お兄さん!今日は楽しかったですね!
青年:そうだな……タピオカがあんなに甘いなんて知らなかった……よくあんなの飲んでるな巷のJK……。
死神さん:ふふっ、1口飲んだ時のお兄さんすっごい顔してました!
青年:えー?どんな顔だよ
死神さん:こーーんな顔!!
青年:ははは、確かにそんな顔してたわ。…まぁでも、俺も死神さんのいろんな顔を見れていい一日だったよ。
死神さん:えぇ!?ど、どんな顔ですか!?
青年:すーっごく楽しそうな、かわいい笑顔とか。
死神さん:かっ………!?ちゃ、茶化さないでください!私は仕事をしてるんです!
青年:ごめんごめん、そうだったな。
死神さん:もー…あんまり茶化すと最後のお願い、私が勝手に決めちゃいますからね!
青年:あー、そういえば残ってたな。すっかり忘れてた。
死神さん:何かないんですか?やり残したこと。
青年:うーん…悔いがない、といえば嘘になるんだけど…でも思いつかないからなぁ…。
0:少女は立ち止まりすこし考えると、のんびり歩く青年の背中に向かって呼びかけた。
死神さん:……あの、お兄さん。
青年:ん?どうした?
死神さん:もし…もしこのまま死ぬことなく生き続けられるとしたら、お兄さんは何がしたいですか?
青年:え、何その質問。今聞く?
死神さん:いいから、答えてください。
青年:うーん…とりあえず、父さんと酒でも飲みたいかな。
死神さん:………。
青年:もともと父さんとは会話が少なかったんだけどさ、母さんが死んでからは俺も仕事ばっかりでどんどん疎遠になって。
青年:たった1人の家族だし、もっといろいろ話しとくべきだったなー…ってさ。
死神さん:家族想い、なんですね。
青年:そんなことないよ、親の前に死ぬとんだ親不孝者だ。
青年:…結局死ぬ前だってのに連絡のひとつもしなかったし。
死神さん:……やっぱりお兄さんは、まだ死んじゃダメです。やらなきゃいけないこと、たくさん残ってる。
青年:ははは、俺、これから死ぬんでしょ?今更だよ。
0:青年がそう言って笑うと、少女は顔を曇らせて俯いた。
0:青年がどうしたのかと様子を伺っていると、少女が覚悟を決めた様に口を開く。
死神さん:……お兄さん、ごめんなさい。私嘘ついてました。
青年:え?何、嘘って…。
死神さん:お兄さんは死にません。交通事故にも合わないし、私は死神じゃないし、お兄さんはこれからもちゃんと生きていけます。
死神さん:お父さんにも会いに行けます。全部全部嘘なんです。
青年:……え?ちょっとまって、どういうこと?頭が追いつかないんだけど……。
青年:え、じゃあ君は…?
死神さん:私はお兄さんに恩返しをしに来た、ただのおばけなんです。
死神さん:…覚えていませんか?3年前の、この交差点で起きた大きなトラック事故。
青年:恩返し……?3年前のトラック事故……って、
死神さん:そうです。お兄さんが助けようとした、あの時の私です。
死神さん:お兄さんは見ず知らずの私を庇って飛び込んできてくれた。
死神さん:そんなことしなければあんなにぼろぼろにならずにすんだのに、必死で守ろうとしてくれた。
青年:でも俺は結局君を助けられなかった…それなのに、なんで…
死神さん:お兄さん、あのね。私、本当は即死だったらしいんです。
死神さん:でもなんとか命が繋がって、目を開けるともう会えないと思っていたお父さんとお母さんの顔が見えました。
死神さん:すごく…すごく嬉しかったんです。
死神さん:ちゃんと伝わったかは分からないけど、ありがとう、大好きだよって言えたんです…!
死神さん:それが、どれだけ幸せだったか…!
青年:そんな…俺がもっと早く庇っていれば君はもしかしたら生きていたかもしれない。
青年:それどころか…俺のせいで余計に痛い思いをさせることに
死神さん:違う!お兄さんがそうやって自分のことせめてたの、私ずっと見てた…。
死神さん:違うのに、お兄さんのおかげなのに!ありがとうって言いたかったのに…!
死神さん:死んじゃっても諦められなくて、でも…伝えられなくて…。
死神さん:だから神様にお願いしたの。三日間だけ、私にチャンスをください、そしたらちゃんと成仏するからって。
青年:あり、がとう…?なんで…?
死神さん:私、自分が不幸だなんて思ってないよ。
死神さん:ひとりぼっちにならなかったのは、最後に後悔を残さずにすんだのは全部お兄さんのおかげ。
死神さん:…だれもお兄さんを責めてないから、お兄さんも自分を許してあげて。
青年:……。
死神さん:…ごめんなさい、そろそろタイムリミットかな。
青年:タイムリミット…?3日目の夕方ってまさか…!
死神さん:うん。さよならだね、お兄さん。
死神さん:本当にありがとう、私今日まですっごく幸せだった!
死神さん:悔いどころか思い出でいっぱいになっちゃった…!
死神さん:これでもう、神様のところに行けるよ。
青年:体が、透けてる…。そんな、待ってくれ!!礼を言うのは、俺の方だ…!
青年:死神さんがきてくれて、久しぶりに生きてる実感が持てた、もっと生きたいって思えたんだ!
青年:本当に…本当にありがとう。
死神さん:!!…えへへっ!作戦成功だ!…ばいばい、お兄さん。元気でね!
0:少女の姿が夕焼けに溶ける。まるでそこには誰もいなかったかのように、影の一つも落ちていない。
青年:………消えた…。はは、言うだけ言って消えやがった…。もしかして全部、夢だったりしてな。
0:少女の痕跡を探して、ふと尻ポケットの財布を見てみると、金の代わりにさっきまで遊び倒したレシートで詰まっているのを見て思わず笑いがこみあげた
青年:なんだよ…悔いを晴らすって言いながらしっかり人の金で楽しみやがって。
青年:また会ったら出世払いで返してもらうからな。
青年:………酒くらい、買えるか。
0:財布をしまって電話をかける。空を見上げると、綺麗な夕焼け空だった。
青年:……あ、もしもし、父さん?今から帰るからさ、久しぶりにのもうよ。
青年:
青年:…あ、そうだ。卵、あるかな。