台本概要
841 views
タイトル | 繋がる声は、きっと運命で |
---|---|
作者名 | 月儚レイ&栞星 (@rose_moon44) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
*こちらの作品は、月儚(つくも)レイと栞星(かんら)による合同作品です。 配信者とリスナー。 同じゲームのプレーヤー。 それだけの、関係だった。 偶然から繋がる、声と、心と、運命と。 秘密を抱えながらも、惹かれていく。 「君に救われた」 「見つけてくれて、ありがとう」 そんな可愛いラブストーリー。 性別変更:不可 誤字、脱字等ありましたら、月儚レイ、栞星の、どちらかの作者までご連絡をお願いいたします。 読んでみて、演じてみての感想もいただけると嬉しいです。 841 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
実結 | 女 | 54 | 実結(みゆ)。フリートーク配信者 |
海斗 | 男 | 51 | 海斗(かいと)。リスナー。ゲーム内では「マリン」という女性ユーザーとして登録 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:一人称、語尾等の変更は、演者様間でお話の上、ご自由に楽しんでいただければと思います。
0:なお、世界観、内容が変わるほどの変更やアドリブは、ご遠慮ください。
0:
0:(役紹介)
0:【実結】実結(みゆ)。フリートーク配信者
0:【海斗】海斗(かいと)。リスナー。ゲーム内では「マリン」という女性ユーザーとして登録
0:
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:――(上演開始)――
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実結:「後輩の女の子が資料を印刷するのを忘れててね。 ちょうどお昼休み前だったから、一緒に印刷してあげたの。 会議には間に合うから大丈夫だよーって言ってたんだけど、その子、すっごく気にしちゃってて。 可哀想だった」
海斗:「『ごめん。 そろそろ仕事だから抜けるね』っと」
実結:「あっ、海斗君、これからお仕事なんだね。 お仕事、頑張ってね! 気を付けて行ってらっしゃい! 来てくれてありがとう」
海斗:「『またね』」
実結:「うん、またね」
海斗:リスナーをしていたアプリを落とし、仕事用にカスタマイズを施(ほどこ)したパソコンを立ち上げる。
海斗:「さてと、始めるか」
海斗:起動するまでの、ほんのわずかな時間。
海斗:寝る前にもまた、彼女の声が聴けたらいいな、と、願ってしまう。
:
海斗:彼女との、いや、正確には彼女の配信との出会いは、仕事仲間との意見の食い違いから、ストレスを抱えて眠れない日々を送っていたときだった。
海斗:偶然開いたアプリ。 上から三番目。
海斗:何気なく目に止まったアイコンから、配信を覗いてみた。
海斗:内容は特に面白いものではなく、ごくごく普通の、日常の出来事をリスナーと共有する、アットホームな雰囲気を楽しむタイプの配信だった。
海斗:彼女とリスナーの、とりとめもないやり取りが、のんびりと流れていく。 なんだろう……すごく安心する……。
海斗:気が付くと、ぼんやりと配信を聴いているうちに、うとうとしていた。 その状況にびっくりする。
海斗:毎日毎日ずっと落ち着かなくて、何をしてもぜんぜん寝付けなかったのに……。
海斗:胸の辺りでモヤモヤしていた感情も消え、久しぶりに随分と穏やかな気持ちになっている。
海斗:そうか……。 彼女のゆったりとした優しくて温かい声が……疲れきっていた心を癒してくれたんだ。 何だか救われたような……すっきりとした感覚だった。
海斗:彼女の声に、僕は救われた。 僕も彼女に、何か少しでも返すことができたら……。
海斗:もっと声が聴きたい。 もっと仲良くなりたい。
海斗:そう思った。
海斗:そして、この日をきっかけに、彼女の配信へ通いはじめた。
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:(少し間を置く)
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実結:「みんな、ありがとう! またね」
実結:配信を切る。
実結:「わっ、今日、三時間も配信してたんだ! アスカさん、ずっといてくれたけど、時間とか大丈夫だったかな?」
実結:最初は、軽い気持ちで始めた配信。 いつしか、生活の一部になっていた。
実結:うまく喋れるか不安もあったけれど……少しずつ色んな人が聴きにきてくれて、いっぱいコメントをして、お話をしてくれる。
実結:いつも来てくれる人も増えて、リスナーさん達とどんどん仲良くなっていくのがとても嬉しかった。
実結:必ず一番に来てくれる人……、冗談ばっかり言う人……、最初から最後までずっと居てくれる人……。
実結:みんな本当に面白くて、優しくて。 一緒に過ごす時間が心地よくて、大好き。
実結:だからついついたくさんお喋りしたくなって、もっとみんなと居たくて……そんなみんなに癒されて……。 こうして、時間が経つのを忘れちゃう。
実結:今ではもう、私にとってかけがえのない、大切な場所の一つだ。
:
実結:「あっ、今日の分のガチャ、まだしてなかったんだった」
実結:配信とは別に、一つのゲームにもハマっている。 オンラインで友達とも交流が楽しめるRPG。
実結:「……っ! えっ、やった! 欲しかったキャラだ! 嬉しい……! 早速、育成しちゃお」
実結:「あっ……。 育成素材、苦手なところにあるものが必要なんだ。 どうしよう……誰かフレンドさん、ログインしてないかな」
実結:「……あっ、マリンちゃん、ログインしてる!」
実結:マリンちゃんは、ゲーム内のマッチングで知り合い、助けてもらったところから仲良くなった、ゲーマーの女の子。
実結:すっごく上手で、よく一緒に周回もしてもらっている。
実結:ゲーム以外にも、アニメや、コンビニスイーツ情報もシェアしたり。 今では、悩み相談もしちゃうくらいの仲良しさん。
実結:本当は通話しながら周回したいんだけど、マリンちゃんはマイクとか持っていないらしくて。
実結:「『こんばんは! もし時間があったら、素材集めを手伝って欲しいの』っと。 送信!」
海斗:「ん? メッセージ? 誰からだろ? えっ、実結(みゆ)ちゃん?!」
海斗:「えっと、『五分後なら、大丈夫だよ』っと」
実結:「『ありがとう!』」
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:(少し間を置く)
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実結:「『良かった! マリンちゃんがいてくれて』」
海斗:「『どうしたの? 実結ちゃんがこんな時間までゲームしてるの、珍しいね!』」
実結:「『そうなの、聞いて! ガチャ、当たったの!』」
海斗:「『おめでとう! それで素材集めなんだね』」
実結:「『ありがとう! そうなの! 助けてー!』」
海斗:「『もちろん! それじゃあ、行っちゃおー!』」
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:(少し間を置く)
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実結:「『やった! 集まった! ありがとう!』」
海斗:「『良かったね! またいつでもメッセージ送ってね』」
実結:「『うん、そうする!』」
実結:「『やっぱり、通話しながら周回したくなっちゃうね』」
海斗:「『ごめんね。 私が機材を持ってないからできなくて』」
実結:「『ううん! でも、買ったら教えてね!』」
海斗:「『もちろん! あっ、そろそろ寝る?』」
実結:「『そうだね! おやすみ、マリンちゃん』」
海斗:「『おやすみ、実結ちゃん』」
海斗:ゲームをログアウトし、視線を右側に移す。
海斗:視界には、配信用のマイクとヘッドホンがある。
海斗:「通話なんて、できるわけ……ない、よな」
海斗:ゲームには、女で登録している。
海斗:実結ちゃんも当然、僕のことを女だと思ってる。
海斗:そう……この距離感も、話の内容も……全部、実結ちゃんが女同士だと思っているから成立していることだ。
海斗:こうやって会話をしたり、ゲームをしたりして一緒に過ごす時間はもちろん楽しい。
海斗:だけど……楽しい分、罪悪感や不安もいつだって、心のどこかにある。
海斗:騙すつもりなんかないけれど……結果として実結ちゃんを騙してしまっている、罪悪感……。
海斗:でも、本当の事を言ってしまったら……もしも、バレてしまったら……この関係はきっと崩れ去ってしまう。 実結ちゃんのことも傷付けてしまう。
海斗:それは……嫌だ……。
海斗:僕は、今日もマイクとヘッドホンから視線を逸らし、目をぎゅっと瞑(つむ)った。
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:(少し間を置く)
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実結:「なんだろう? メッセージ……? えっ、オフ会があるんだ! キャラの育成方法とか、チームの組み方とか色々聞けるかな」
実結:ゲームのオフ会が都内で開催されるらしく、その招待メッセージが届いていた。
実結:「うーん……。 あっ、そうだ! マリンちゃんに行くか聞いてみよっ! 『ねぇ、オフ会の招待来た? マリンちゃんも行く?』っと」
実結:マリンちゃんも、同じ都内に住んでいることは知っていた。 もし会えるなら、オフ会の前に待ち合わせをして、カフェに行ったりできるかな。
実結:マリンちゃんは、今はログインしていないから、すぐには返事は来ないだろう。 二人でカフェに行ってお話しているところを想像したらワクワクして、気がついたら返事を待たずに集合場所近くのカフェを探し始めていた。
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:(少し間を置く)
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海斗:「『招待メッセージ、来たよ。 でも、その日は予定があるから行けないの』」
実結:「『そっか。 残念だけど、仕方ないね』」
海斗:「『実結ちゃんは行くの?』」
実結:「『行こうと思ってるよ。 色々と話しが聞けるかな、って思って』」
海斗:「『一緒に行くフレンドさんはいるの?』」
実結:「『ううん。 まだいないよ』」
海斗:「『女の子一人で行くのは止めた方がいいよ。 何かあったら危ないし』」
実結:「『大丈夫だよ! 女性のユーザーさんもたくさんいるゲームだし! 他にも女の子がいっぱい来ると思うから』」
海斗:女の子のユーザーがたくさんいる……? 僕もだけど、女性ユーザーとして登録している。
海斗:一体、どれだけの人が正しい性別で登録しているだろうか。 確かに、他のゲームよりは女性受けの要素も多いから、それなりに女性比率も高い。
海斗:けど、オフ会への参加者となると話は別だ。 女の子を安心させるために、いくらでも裏工作ができる。
海斗:それに、本当に交流だけが目的なら、昼間から集まるはずだ。 しかし、集合は夜。 場所は居酒屋を貸し切り。 幹事は男。
海斗:訝(いぶか)しむ要素は、揃っている。 幹事の男のこと、……ちょっと調べてみるか。
実結:「『マリンちゃん、落ちちゃった?』」
海斗:返信が止まったことが気になったのか、実結ちゃんからメッセージが届いた。
海斗:「『ごめんね。 ちょっと考え事しちゃってた』」
海斗:「『行くなら、危ないって思ったらすぐ逃げてね?』」
実結:「『マリンちゃんは心配性だなぁ。 でも、ありがとう! そうするね』」
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:(少し間を置く)
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実結:「全然、ゲームの話にならない……」
実結:オフ会が始まってしばらく経った。
実結:けれど……私が思っていたオフ会とはまったく違うもので……。
実結:席を決める時も、女の子の近くに座ろうとしたら……男の人ばかりの席に移動させられた。
実結:飲み物や料理が揃って、場が温まり始めても……ゲームの話は一切せず、住んでいる場所とか、お酒のこととか……プライベートなことばかりを聞かれる。
実結:これじゃまるで……オフ会じゃなくて、合コンじゃない……。
実結:マリンちゃんの心配してくれた言葉が脳裏をよぎる。
実結:マリンちゃんの言う事、ちゃんと聞いておけば良かった……。
実結:楽しく、大好きなゲームをしていた日常が、遥か遠くに行ってしまったような感覚に襲われる。
実結:全然知らない世界に、突然一人、放り出されたような……。
実結:こわい……こわい。 不安で、胸の辺りが潰れてしまいそうになる……。
実結:勧められた料理も飲み物も、全然味がしない。 今すぐここから逃げ出したい……。
実結:それに、隣の人も、なんだか距離が近い……。
実結:なぜか私の後ろに手を付いて、こちら側に身体を寄せて話しかけてくる。
実結:耐えきれずに私は、
実結:「あっ、すみません。 ちょっと、トイレに……」
実結:カバンを持って、トイレへと逃げ込んだ。
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:(少し間を置く)
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実結:「やっぱり、もう帰ろう」
実結:幹事さんを探してお金を渡して帰ろう。
実結:そう決めて、元いた場所に戻ろうとしたところで、
実結:「あっ、さっきの。 えっ、なんですか? 放してください! やだっ!」
実結:隣の席に座っていた男の人が廊下にいて、腕を掴まれた。
海斗:「手、放せよ。 彼女が嫌がってるだろ?」
:(掛け合いのため、少し間を置く)
海斗:「放せって言ってるだろっ!」
実結:目を開けると、腕を掴んできた男の人が座り込んでいて、間には一人の男性が立ち塞がっていた。
:(掛け合いのため、少し間を置く)
海斗:「はぁ。 今でもそんな捨て台詞言うヤツいるんだ。 ……って、大丈夫?」
実結:「あっ、助けてくださってありがとうございます。 その、さっきの、凄いですね」
海斗:「あぁ、ちょっと空手を習っていたことがあったから。 それより、怪我とかしてない?」
実結:「大丈夫です、ありがとうございます!」
海斗:「……。 手、赤くなってる……。 ごめん。 もっと、ちゃんと止めておくべきだった」
実結:「えっ?」
海斗:「……僕、マリン」
実結:「えっ?! うそっ! だって、マリンちゃんは女の子ですよ!」
海斗:「ちょっと理由(わけ)があって、女で登録してるんだ。 ……はい、これ、アカウント」
実結:「……! ほんとだ……。 私とのやり取りも残ってる」
海斗:「……信じてくれた?」
実結:「……はい。 でも、どうしてここに?」
海斗:「実結ちゃん、あの感じだとオフ会に参加しそうだったから。 幹事の男のこと、調べたらちょっとヤバそうなヤツだったし、やっぱり心配で」
実結:「そうだったんですね、ありがとうございます」
海斗:「……あのさ、さっきのヤツが戻ってこないとも限らないから、場所を変えたいんだけど。 近くのカフェとかに移動してもいいかな? それとも、あんなことがあった後だし、男と二人はイヤ……かな?」
実結:「マリンちゃんなら……大丈夫です。 あっ、マリン君って言った方がいいのかな?」
海斗:「ふっ。 いいよ、マリンちゃんで。 その方が、呼び慣れてるだろうし」
実結:「…くすっ! うん、ありがとう!」
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:(少し間を置く)
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海斗:「……。 ゲームにマリンって女の子として登録してる理由なんだけど、前はさ、男で登録してやってたんだ。 だけど……ちょっと一緒に周回しただけで、勝手に彼女だって名乗る女の子が出てきて……さ」
実結:「そうなんだ。 マリンちゃん、強いもんね。 好きになっちゃったのかな」
海斗:「で、面倒臭くなって、一回アカウント消してるんだよね」
実結:「えっ、もったいない!」
海斗:「ふっ。 まぁ、そんなことがあったから、今回は女でアカウントを作ったんだ。 実結ちゃんのことは、騙していたことになるんだけど……ごめん」
実結:「ううん。 そんなことがあったのなら仕方ないよ。 それに、今日も助けてもらっちゃったし。 でも、スイーツの話とか、男の人なのにすっごく詳しいんだね! マリンちゃんと話してて、全然気が付かなかった」
海斗:「あぁ、職業柄、糖分は欲しくなるから甘いものをよく食べるんだ。 それに……」
実結:「? それに?」
海斗:「実結ちゃんの配信も聞いてるから、食べてたら、あぁ、きっとこれも好きなんじゃないかなぁって思ったりして、ね」
実結:「えっ、マリンちゃん、配信も聞きに来てくれてたの?! えっ、コメントくれたら良かったのに」
海斗:「してたよ」
実結:「えっ? マリンちゃんの名前、見掛けたことないよ? 別の人の配信と勘違いしちゃってるのかな」
海斗:「海斗。 配信には、海斗ってアカウントで聞きに行ってるんだ。 そっちが本名」
実結:「あっ! えっ、海斗君?! えっ、海斗君とマリンちゃん、おんなじ人だったんだ! びっくりしたー」
海斗:「だから、声だけで実結ちゃんだってわかったんだよ」
実結:「あっ、そっか! そうだよね。 そうじゃないと私だってわからないよね」
海斗:「……実結ちゃんの声は、絶対に間違えないよ」
実結:「えっ?」
海斗:「ゲームばっかりしてると、気が高ぶって、寝辛くなるときがあるんだ。 チームメンバーと揉めたりしてストレス抱えてると、なおさら寝れなくて」
海斗:「そんなときに実結ちゃんの配信に出会った。 声を聞いてたら、癒されて、寝れたんだ」
実結:「……そうだったんだ」
海斗:「それからちょっとして、マッチングで会って。 そのときの対戦とか、巡ったルートの話とかを配信してるの聞いて、実結ちゃん本人だったんだって、確信を持った」
海斗:「……でも、なかなか言い出せなくて。 今日、行かないって言ったのも、本当は男だってバレるのがイヤだったからなんだ。 でも結果的には、実結ちゃんを嫌な目にあわせた」
実結:「違っ! マリンちゃんは止めてくれたよ! それでも私が行くって言って聞かなかったの。 だから、マリンちゃんは悪くないよ」
海斗:「……あの、さ。 ゲームのとき、僕に助けてって頼ってくれるの、嬉しかった。 これからは、リアルでも僕のこと、頼ってくれないかな?」
実結:「えっ、それって――」
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:(少し間を置く)
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実結:「海斗君、またご飯食べてないんでしょ!」
海斗:「あっ、ごめん! ゲームに夢中になりすぎてた」
実結:「ご飯、作ってきたから、一緒に食べよー」
海斗:「うん、ありがとう」
実結:「でも、初めて聞いたときは本当に驚いたよ。 配信で、今からお仕事だって、コメントくれる時間が不規則だったから、どんな仕事をしてる人なんだろうって気になってたけど、まさか、プロゲーマーさんだったなんて」
海斗:「まぁ、聞かれない限り、職業なんて言わないからね。 でも、そこから繋がって、実結と出会えたんだから、偶然って凄いよね」
実結:「……私はね、運命だって思ってるよ」
海斗:「ん? うん……めい?」
実結:「……私、配信では実を結ぶって書いて、みゆってアカウント名にしてるでしょ? 本当は、水に唯一の唯(ゆい)って書いて、みゆ、なの」
実結:「後ろから読んだら、ただの水って読めちゃうから、あんまり好きじゃなかった」
実結:「でも、海斗君と出会って、付き合って、好きになってからは、自分の名前も好きになれた。 だって、海斗君の海を作ってるのは、水だもん」
海斗:「そう……なんだ」
実結:「だから、ありがとう。 助けに来てくれて。 付き合おうって言ってくれて。 見つけてくれて」
実結:涙が出そうになるくらい、幸せと大好きの想いが溢れて来て、言葉が出る。
実結:あれから少し経つけれど……まだ、なんだか夢を見ているみたい……。
実結:マリンちゃんと過ごしていると本当に楽しかったし、なんでも話せたし……もし恋人が出来るならこんな人だったらいいのに、なんて思ったこともあった。
実結:そんなマリンちゃんが実は男の子で……しかも、王子様みたいにピンチの時に駆けつけて、助けてくれて……恋人になれるなんて。
実結:本当に夢みたい……でも、海斗君の温もりを感じるたびに、これが現実だって事を教えてくれて……また幸せに包まれる。
実結:好きじゃなかった自分の名前も、今では海斗君と運命の糸で繋がっているみたいで、愛しく思う。
実結:水と海が、導かれるように惹かれあって……。
実結:この、広いネットの海の中で私を見つけ出してくれた。
実結:もう、離れたくない。 本当に、本当に、ありがとう……。
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:(少し間を置く)
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海斗:「実結、やった! 優勝したよ。 日本一になれた」
実結:「……っ。 おめでとうっ」
海斗:「……あれ? もしかして、泣いてる?」
実結:「だって、嬉しくて。 海斗君、凄く頑張ってたのを知ってるから」
海斗:「……ありがとう。 ……あのさ、日本一になれたら伝えたいと思っていたことがあるんだ」
実結:「えっ、何?」
海斗:「実結のお陰でここまで来れた。 あのとき、実結に出会わなければ、ここには来れなかった。 だから……」
海斗:「結婚してください。 そして、これからも、僕のことを応援して欲しい。 一番近くで」
実結:「……うんっ、もちろん!」
海斗:あの日、何気なく開いた、君の配信。
海斗:あそこで君に救われていなければ……今の僕は居なかった。
海斗:君の声に救われて……もっともっと、君の声を聴きたいと思って……恩返しがしたくて……いつの間にか惹かれていって。 そのたびに、僕の世界は温かい色を得た気がした。
海斗:でも、これからは声だけじゃない。
海斗:君の笑顔も、温もりも、僕の隣に居てくれる。 君が隣に居てくれたら、僕はどこまでだって行ける。
海斗:そして……これからは一生を賭けて恩返しができる。 ……君を必ず、必ず、幸せにする。
海斗:実結……君は、世界で一番大切で、大好きで、愛しい人。
海斗:ありがとう、実結。 君を、愛しています。
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:――(上演終了)――
0:一人称、語尾等の変更は、演者様間でお話の上、ご自由に楽しんでいただければと思います。
0:なお、世界観、内容が変わるほどの変更やアドリブは、ご遠慮ください。
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0:(役紹介)
0:【実結】実結(みゆ)。フリートーク配信者
0:【海斗】海斗(かいと)。リスナー。ゲーム内では「マリン」という女性ユーザーとして登録
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:――(上演開始)――
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実結:「後輩の女の子が資料を印刷するのを忘れててね。 ちょうどお昼休み前だったから、一緒に印刷してあげたの。 会議には間に合うから大丈夫だよーって言ってたんだけど、その子、すっごく気にしちゃってて。 可哀想だった」
海斗:「『ごめん。 そろそろ仕事だから抜けるね』っと」
実結:「あっ、海斗君、これからお仕事なんだね。 お仕事、頑張ってね! 気を付けて行ってらっしゃい! 来てくれてありがとう」
海斗:「『またね』」
実結:「うん、またね」
海斗:リスナーをしていたアプリを落とし、仕事用にカスタマイズを施(ほどこ)したパソコンを立ち上げる。
海斗:「さてと、始めるか」
海斗:起動するまでの、ほんのわずかな時間。
海斗:寝る前にもまた、彼女の声が聴けたらいいな、と、願ってしまう。
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海斗:彼女との、いや、正確には彼女の配信との出会いは、仕事仲間との意見の食い違いから、ストレスを抱えて眠れない日々を送っていたときだった。
海斗:偶然開いたアプリ。 上から三番目。
海斗:何気なく目に止まったアイコンから、配信を覗いてみた。
海斗:内容は特に面白いものではなく、ごくごく普通の、日常の出来事をリスナーと共有する、アットホームな雰囲気を楽しむタイプの配信だった。
海斗:彼女とリスナーの、とりとめもないやり取りが、のんびりと流れていく。 なんだろう……すごく安心する……。
海斗:気が付くと、ぼんやりと配信を聴いているうちに、うとうとしていた。 その状況にびっくりする。
海斗:毎日毎日ずっと落ち着かなくて、何をしてもぜんぜん寝付けなかったのに……。
海斗:胸の辺りでモヤモヤしていた感情も消え、久しぶりに随分と穏やかな気持ちになっている。
海斗:そうか……。 彼女のゆったりとした優しくて温かい声が……疲れきっていた心を癒してくれたんだ。 何だか救われたような……すっきりとした感覚だった。
海斗:彼女の声に、僕は救われた。 僕も彼女に、何か少しでも返すことができたら……。
海斗:もっと声が聴きたい。 もっと仲良くなりたい。
海斗:そう思った。
海斗:そして、この日をきっかけに、彼女の配信へ通いはじめた。
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:(少し間を置く)
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実結:「みんな、ありがとう! またね」
実結:配信を切る。
実結:「わっ、今日、三時間も配信してたんだ! アスカさん、ずっといてくれたけど、時間とか大丈夫だったかな?」
実結:最初は、軽い気持ちで始めた配信。 いつしか、生活の一部になっていた。
実結:うまく喋れるか不安もあったけれど……少しずつ色んな人が聴きにきてくれて、いっぱいコメントをして、お話をしてくれる。
実結:いつも来てくれる人も増えて、リスナーさん達とどんどん仲良くなっていくのがとても嬉しかった。
実結:必ず一番に来てくれる人……、冗談ばっかり言う人……、最初から最後までずっと居てくれる人……。
実結:みんな本当に面白くて、優しくて。 一緒に過ごす時間が心地よくて、大好き。
実結:だからついついたくさんお喋りしたくなって、もっとみんなと居たくて……そんなみんなに癒されて……。 こうして、時間が経つのを忘れちゃう。
実結:今ではもう、私にとってかけがえのない、大切な場所の一つだ。
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実結:「あっ、今日の分のガチャ、まだしてなかったんだった」
実結:配信とは別に、一つのゲームにもハマっている。 オンラインで友達とも交流が楽しめるRPG。
実結:「……っ! えっ、やった! 欲しかったキャラだ! 嬉しい……! 早速、育成しちゃお」
実結:「あっ……。 育成素材、苦手なところにあるものが必要なんだ。 どうしよう……誰かフレンドさん、ログインしてないかな」
実結:「……あっ、マリンちゃん、ログインしてる!」
実結:マリンちゃんは、ゲーム内のマッチングで知り合い、助けてもらったところから仲良くなった、ゲーマーの女の子。
実結:すっごく上手で、よく一緒に周回もしてもらっている。
実結:ゲーム以外にも、アニメや、コンビニスイーツ情報もシェアしたり。 今では、悩み相談もしちゃうくらいの仲良しさん。
実結:本当は通話しながら周回したいんだけど、マリンちゃんはマイクとか持っていないらしくて。
実結:「『こんばんは! もし時間があったら、素材集めを手伝って欲しいの』っと。 送信!」
海斗:「ん? メッセージ? 誰からだろ? えっ、実結(みゆ)ちゃん?!」
海斗:「えっと、『五分後なら、大丈夫だよ』っと」
実結:「『ありがとう!』」
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実結:「『良かった! マリンちゃんがいてくれて』」
海斗:「『どうしたの? 実結ちゃんがこんな時間までゲームしてるの、珍しいね!』」
実結:「『そうなの、聞いて! ガチャ、当たったの!』」
海斗:「『おめでとう! それで素材集めなんだね』」
実結:「『ありがとう! そうなの! 助けてー!』」
海斗:「『もちろん! それじゃあ、行っちゃおー!』」
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実結:「『やった! 集まった! ありがとう!』」
海斗:「『良かったね! またいつでもメッセージ送ってね』」
実結:「『うん、そうする!』」
実結:「『やっぱり、通話しながら周回したくなっちゃうね』」
海斗:「『ごめんね。 私が機材を持ってないからできなくて』」
実結:「『ううん! でも、買ったら教えてね!』」
海斗:「『もちろん! あっ、そろそろ寝る?』」
実結:「『そうだね! おやすみ、マリンちゃん』」
海斗:「『おやすみ、実結ちゃん』」
海斗:ゲームをログアウトし、視線を右側に移す。
海斗:視界には、配信用のマイクとヘッドホンがある。
海斗:「通話なんて、できるわけ……ない、よな」
海斗:ゲームには、女で登録している。
海斗:実結ちゃんも当然、僕のことを女だと思ってる。
海斗:そう……この距離感も、話の内容も……全部、実結ちゃんが女同士だと思っているから成立していることだ。
海斗:こうやって会話をしたり、ゲームをしたりして一緒に過ごす時間はもちろん楽しい。
海斗:だけど……楽しい分、罪悪感や不安もいつだって、心のどこかにある。
海斗:騙すつもりなんかないけれど……結果として実結ちゃんを騙してしまっている、罪悪感……。
海斗:でも、本当の事を言ってしまったら……もしも、バレてしまったら……この関係はきっと崩れ去ってしまう。 実結ちゃんのことも傷付けてしまう。
海斗:それは……嫌だ……。
海斗:僕は、今日もマイクとヘッドホンから視線を逸らし、目をぎゅっと瞑(つむ)った。
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:(少し間を置く)
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実結:「なんだろう? メッセージ……? えっ、オフ会があるんだ! キャラの育成方法とか、チームの組み方とか色々聞けるかな」
実結:ゲームのオフ会が都内で開催されるらしく、その招待メッセージが届いていた。
実結:「うーん……。 あっ、そうだ! マリンちゃんに行くか聞いてみよっ! 『ねぇ、オフ会の招待来た? マリンちゃんも行く?』っと」
実結:マリンちゃんも、同じ都内に住んでいることは知っていた。 もし会えるなら、オフ会の前に待ち合わせをして、カフェに行ったりできるかな。
実結:マリンちゃんは、今はログインしていないから、すぐには返事は来ないだろう。 二人でカフェに行ってお話しているところを想像したらワクワクして、気がついたら返事を待たずに集合場所近くのカフェを探し始めていた。
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:(少し間を置く)
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海斗:「『招待メッセージ、来たよ。 でも、その日は予定があるから行けないの』」
実結:「『そっか。 残念だけど、仕方ないね』」
海斗:「『実結ちゃんは行くの?』」
実結:「『行こうと思ってるよ。 色々と話しが聞けるかな、って思って』」
海斗:「『一緒に行くフレンドさんはいるの?』」
実結:「『ううん。 まだいないよ』」
海斗:「『女の子一人で行くのは止めた方がいいよ。 何かあったら危ないし』」
実結:「『大丈夫だよ! 女性のユーザーさんもたくさんいるゲームだし! 他にも女の子がいっぱい来ると思うから』」
海斗:女の子のユーザーがたくさんいる……? 僕もだけど、女性ユーザーとして登録している。
海斗:一体、どれだけの人が正しい性別で登録しているだろうか。 確かに、他のゲームよりは女性受けの要素も多いから、それなりに女性比率も高い。
海斗:けど、オフ会への参加者となると話は別だ。 女の子を安心させるために、いくらでも裏工作ができる。
海斗:それに、本当に交流だけが目的なら、昼間から集まるはずだ。 しかし、集合は夜。 場所は居酒屋を貸し切り。 幹事は男。
海斗:訝(いぶか)しむ要素は、揃っている。 幹事の男のこと、……ちょっと調べてみるか。
実結:「『マリンちゃん、落ちちゃった?』」
海斗:返信が止まったことが気になったのか、実結ちゃんからメッセージが届いた。
海斗:「『ごめんね。 ちょっと考え事しちゃってた』」
海斗:「『行くなら、危ないって思ったらすぐ逃げてね?』」
実結:「『マリンちゃんは心配性だなぁ。 でも、ありがとう! そうするね』」
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:(少し間を置く)
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実結:「全然、ゲームの話にならない……」
実結:オフ会が始まってしばらく経った。
実結:けれど……私が思っていたオフ会とはまったく違うもので……。
実結:席を決める時も、女の子の近くに座ろうとしたら……男の人ばかりの席に移動させられた。
実結:飲み物や料理が揃って、場が温まり始めても……ゲームの話は一切せず、住んでいる場所とか、お酒のこととか……プライベートなことばかりを聞かれる。
実結:これじゃまるで……オフ会じゃなくて、合コンじゃない……。
実結:マリンちゃんの心配してくれた言葉が脳裏をよぎる。
実結:マリンちゃんの言う事、ちゃんと聞いておけば良かった……。
実結:楽しく、大好きなゲームをしていた日常が、遥か遠くに行ってしまったような感覚に襲われる。
実結:全然知らない世界に、突然一人、放り出されたような……。
実結:こわい……こわい。 不安で、胸の辺りが潰れてしまいそうになる……。
実結:勧められた料理も飲み物も、全然味がしない。 今すぐここから逃げ出したい……。
実結:それに、隣の人も、なんだか距離が近い……。
実結:なぜか私の後ろに手を付いて、こちら側に身体を寄せて話しかけてくる。
実結:耐えきれずに私は、
実結:「あっ、すみません。 ちょっと、トイレに……」
実結:カバンを持って、トイレへと逃げ込んだ。
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:(少し間を置く)
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実結:「やっぱり、もう帰ろう」
実結:幹事さんを探してお金を渡して帰ろう。
実結:そう決めて、元いた場所に戻ろうとしたところで、
実結:「あっ、さっきの。 えっ、なんですか? 放してください! やだっ!」
実結:隣の席に座っていた男の人が廊下にいて、腕を掴まれた。
海斗:「手、放せよ。 彼女が嫌がってるだろ?」
:(掛け合いのため、少し間を置く)
海斗:「放せって言ってるだろっ!」
実結:目を開けると、腕を掴んできた男の人が座り込んでいて、間には一人の男性が立ち塞がっていた。
:(掛け合いのため、少し間を置く)
海斗:「はぁ。 今でもそんな捨て台詞言うヤツいるんだ。 ……って、大丈夫?」
実結:「あっ、助けてくださってありがとうございます。 その、さっきの、凄いですね」
海斗:「あぁ、ちょっと空手を習っていたことがあったから。 それより、怪我とかしてない?」
実結:「大丈夫です、ありがとうございます!」
海斗:「……。 手、赤くなってる……。 ごめん。 もっと、ちゃんと止めておくべきだった」
実結:「えっ?」
海斗:「……僕、マリン」
実結:「えっ?! うそっ! だって、マリンちゃんは女の子ですよ!」
海斗:「ちょっと理由(わけ)があって、女で登録してるんだ。 ……はい、これ、アカウント」
実結:「……! ほんとだ……。 私とのやり取りも残ってる」
海斗:「……信じてくれた?」
実結:「……はい。 でも、どうしてここに?」
海斗:「実結ちゃん、あの感じだとオフ会に参加しそうだったから。 幹事の男のこと、調べたらちょっとヤバそうなヤツだったし、やっぱり心配で」
実結:「そうだったんですね、ありがとうございます」
海斗:「……あのさ、さっきのヤツが戻ってこないとも限らないから、場所を変えたいんだけど。 近くのカフェとかに移動してもいいかな? それとも、あんなことがあった後だし、男と二人はイヤ……かな?」
実結:「マリンちゃんなら……大丈夫です。 あっ、マリン君って言った方がいいのかな?」
海斗:「ふっ。 いいよ、マリンちゃんで。 その方が、呼び慣れてるだろうし」
実結:「…くすっ! うん、ありがとう!」
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:(少し間を置く)
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海斗:「……。 ゲームにマリンって女の子として登録してる理由なんだけど、前はさ、男で登録してやってたんだ。 だけど……ちょっと一緒に周回しただけで、勝手に彼女だって名乗る女の子が出てきて……さ」
実結:「そうなんだ。 マリンちゃん、強いもんね。 好きになっちゃったのかな」
海斗:「で、面倒臭くなって、一回アカウント消してるんだよね」
実結:「えっ、もったいない!」
海斗:「ふっ。 まぁ、そんなことがあったから、今回は女でアカウントを作ったんだ。 実結ちゃんのことは、騙していたことになるんだけど……ごめん」
実結:「ううん。 そんなことがあったのなら仕方ないよ。 それに、今日も助けてもらっちゃったし。 でも、スイーツの話とか、男の人なのにすっごく詳しいんだね! マリンちゃんと話してて、全然気が付かなかった」
海斗:「あぁ、職業柄、糖分は欲しくなるから甘いものをよく食べるんだ。 それに……」
実結:「? それに?」
海斗:「実結ちゃんの配信も聞いてるから、食べてたら、あぁ、きっとこれも好きなんじゃないかなぁって思ったりして、ね」
実結:「えっ、マリンちゃん、配信も聞きに来てくれてたの?! えっ、コメントくれたら良かったのに」
海斗:「してたよ」
実結:「えっ? マリンちゃんの名前、見掛けたことないよ? 別の人の配信と勘違いしちゃってるのかな」
海斗:「海斗。 配信には、海斗ってアカウントで聞きに行ってるんだ。 そっちが本名」
実結:「あっ! えっ、海斗君?! えっ、海斗君とマリンちゃん、おんなじ人だったんだ! びっくりしたー」
海斗:「だから、声だけで実結ちゃんだってわかったんだよ」
実結:「あっ、そっか! そうだよね。 そうじゃないと私だってわからないよね」
海斗:「……実結ちゃんの声は、絶対に間違えないよ」
実結:「えっ?」
海斗:「ゲームばっかりしてると、気が高ぶって、寝辛くなるときがあるんだ。 チームメンバーと揉めたりしてストレス抱えてると、なおさら寝れなくて」
海斗:「そんなときに実結ちゃんの配信に出会った。 声を聞いてたら、癒されて、寝れたんだ」
実結:「……そうだったんだ」
海斗:「それからちょっとして、マッチングで会って。 そのときの対戦とか、巡ったルートの話とかを配信してるの聞いて、実結ちゃん本人だったんだって、確信を持った」
海斗:「……でも、なかなか言い出せなくて。 今日、行かないって言ったのも、本当は男だってバレるのがイヤだったからなんだ。 でも結果的には、実結ちゃんを嫌な目にあわせた」
実結:「違っ! マリンちゃんは止めてくれたよ! それでも私が行くって言って聞かなかったの。 だから、マリンちゃんは悪くないよ」
海斗:「……あの、さ。 ゲームのとき、僕に助けてって頼ってくれるの、嬉しかった。 これからは、リアルでも僕のこと、頼ってくれないかな?」
実結:「えっ、それって――」
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:(少し間を置く)
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実結:「海斗君、またご飯食べてないんでしょ!」
海斗:「あっ、ごめん! ゲームに夢中になりすぎてた」
実結:「ご飯、作ってきたから、一緒に食べよー」
海斗:「うん、ありがとう」
実結:「でも、初めて聞いたときは本当に驚いたよ。 配信で、今からお仕事だって、コメントくれる時間が不規則だったから、どんな仕事をしてる人なんだろうって気になってたけど、まさか、プロゲーマーさんだったなんて」
海斗:「まぁ、聞かれない限り、職業なんて言わないからね。 でも、そこから繋がって、実結と出会えたんだから、偶然って凄いよね」
実結:「……私はね、運命だって思ってるよ」
海斗:「ん? うん……めい?」
実結:「……私、配信では実を結ぶって書いて、みゆってアカウント名にしてるでしょ? 本当は、水に唯一の唯(ゆい)って書いて、みゆ、なの」
実結:「後ろから読んだら、ただの水って読めちゃうから、あんまり好きじゃなかった」
実結:「でも、海斗君と出会って、付き合って、好きになってからは、自分の名前も好きになれた。 だって、海斗君の海を作ってるのは、水だもん」
海斗:「そう……なんだ」
実結:「だから、ありがとう。 助けに来てくれて。 付き合おうって言ってくれて。 見つけてくれて」
実結:涙が出そうになるくらい、幸せと大好きの想いが溢れて来て、言葉が出る。
実結:あれから少し経つけれど……まだ、なんだか夢を見ているみたい……。
実結:マリンちゃんと過ごしていると本当に楽しかったし、なんでも話せたし……もし恋人が出来るならこんな人だったらいいのに、なんて思ったこともあった。
実結:そんなマリンちゃんが実は男の子で……しかも、王子様みたいにピンチの時に駆けつけて、助けてくれて……恋人になれるなんて。
実結:本当に夢みたい……でも、海斗君の温もりを感じるたびに、これが現実だって事を教えてくれて……また幸せに包まれる。
実結:好きじゃなかった自分の名前も、今では海斗君と運命の糸で繋がっているみたいで、愛しく思う。
実結:水と海が、導かれるように惹かれあって……。
実結:この、広いネットの海の中で私を見つけ出してくれた。
実結:もう、離れたくない。 本当に、本当に、ありがとう……。
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:(少し間を置く)
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海斗:「実結、やった! 優勝したよ。 日本一になれた」
実結:「……っ。 おめでとうっ」
海斗:「……あれ? もしかして、泣いてる?」
実結:「だって、嬉しくて。 海斗君、凄く頑張ってたのを知ってるから」
海斗:「……ありがとう。 ……あのさ、日本一になれたら伝えたいと思っていたことがあるんだ」
実結:「えっ、何?」
海斗:「実結のお陰でここまで来れた。 あのとき、実結に出会わなければ、ここには来れなかった。 だから……」
海斗:「結婚してください。 そして、これからも、僕のことを応援して欲しい。 一番近くで」
実結:「……うんっ、もちろん!」
海斗:あの日、何気なく開いた、君の配信。
海斗:あそこで君に救われていなければ……今の僕は居なかった。
海斗:君の声に救われて……もっともっと、君の声を聴きたいと思って……恩返しがしたくて……いつの間にか惹かれていって。 そのたびに、僕の世界は温かい色を得た気がした。
海斗:でも、これからは声だけじゃない。
海斗:君の笑顔も、温もりも、僕の隣に居てくれる。 君が隣に居てくれたら、僕はどこまでだって行ける。
海斗:そして……これからは一生を賭けて恩返しができる。 ……君を必ず、必ず、幸せにする。
海斗:実結……君は、世界で一番大切で、大好きで、愛しい人。
海斗:ありがとう、実結。 君を、愛しています。
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:――(上演終了)――