台本概要

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タイトル 「解の守護者と不全の徒華」
作者名 アール/ドラゴス  (@Dragoss_R)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 理想のセカイを二人で探し、満足いくまで歩き続けよう。
その日常が縮まる距離までおいで。自由のない鎖をさあ、壊そうか。

「僕は“普通”が欲しい。どうしても、どうしても。」
「私の心には君が不可欠で、なによりも君が大切なんだ。」

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
アオイ 102 何も変わらない世界を抜け出そうともがいた者。
カオル 105 何が足りないのかわからなくて苦しんでいた者。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
アオイ:(N)生まれて落ちた最初から、鉛でできた枷(かせ)をつけられていた。 アオイ:(N)頑張らなきゃいけないのに苦しくて、辛くて。でも逃げられなくて。 アオイ:(N)募りに募って、勇気を出して抜け出して。そして―――。 0: 0: 0:「解の守護者と不全の徒華」 シーン転換。 0: 0:月が雲に隠れた休日の夜。 0: 0:繁華街の道の端で蹲(うずくま)るアオイ。 0:声をかける人は誰もいない。 0: アオイ:……はぁ。何やってるんだろう、僕……。 アオイ:………寒い…。 0: 0: カオル:あの、 0: カオル:大丈夫ですか? 0: 0: 0:不意に聞こえた声に顔を上げるアオイ。 0:見上げた先には、カオルが立っている。 0: カオル:あれ、君は。アオイくん? アオイ:あなた、は…。 カオル:わかるかな?同じバイオリン教室の。 アオイ:…カオル、先輩? カオル:そう。覚えててくれたんだ。って、そんなことは重要じゃない。こんなところでどうしたの。もう日付跨いじゃってるけど。 アオイ:あー…。えっと…。大丈夫ですよ、特に何かあったとかじゃないので…! カオル:いやいや、こんな夜道で一人で膝抱えてて、何もないわけないじゃん。それに、ずっとこんなとこに座り込んでたら、風邪ひいちゃうよ。 アオイ:……。 カオル:家には帰りたくない感じ? アオイ:……はい。 カオル:そっか。わかった。 カオル:じゃあ、とりあえず私の家においで。 アオイ:えっ、先輩の家に…ですか? カオル:そう。だって君、自分の家に帰りたくないんでしょ。だから、私の家で悩み、聞いてあげる。 アオイ:いや、でも…。 カオル:いいから。そのまま外で座り込んで、危ないことに巻き込まれたら大変だし。あぁ、迷惑とか心配してるなら大丈夫。私、一人暮らしだし。 アオイ:…僕、悩みとかないですから。大丈夫、です。 カオル:強がらないの。眼が笑ってないよ。どんな話でも、笑ったりなんかしないから。私のこと、信じて。 アオイ:…わかり、ました。 カオル:ありがとう。じゃあ、行くよ。立てる? アオイ:はい、大丈夫です…。…あの。 カオル:ん?まだ何かあった? アオイ:いえ、その…。本当に、ありがとうございます。 0: 0:場面転換。カオルの家。 0:整えられた部屋の中、ソファに座るアオイ。 0:カオルはキッチンで何かを作っている。 0: カオル:あぁ、寒かったらブランケットとか勝手に羽織っていいから。 アオイ:……。 カオル:よし。お待たせ。 0: 0:カオルがマグカップを二つ持ってキッチンから出てくる。 0:そして、それを自分とアオイの前に置く。 0: カオル:はい。これ、ホットミルク。よかったら。 アオイ:…すみません、ありがとうございます。 カオル:うん。落ち着いたらでいいから、なにがあったか話してごらん。その様子だと多分、一人で抱え込んでるんでしょ。 カオル:誰かに吐き捨てれば、少しは楽になると思うから。 アオイ:……。 0: 0:ホットミルクを口につけるアオイ。 0: カオル:どうかな。少しは落ち着いた? アオイ:…はい。この部屋もミルクも、外よりずっと暖かくて…。とても落ち着きます。 カオル:そう。それならよかった。 アオイ:…先輩。 カオル:なに? アオイ:…本当に、僕が今から吐き捨てることを、何も言わずにただ聞いてくれますか。 カオル:勿論。そのために私は君をここまで招き入れたわけだし。なんだか、辛そうだったからさ。少しでも肩代わりできればいいと思って。 アオイ:…先輩は優しいんですね。 カオル:いや、優しくなんかないよ。こうやって相談に乗るのもきっと、自分のためだから。 アオイ:…? カオル:ごめん、何でもないよ。話せそうかな? アオイ:…はい。少し長くなりますけど。先輩を信じて、お話します。 カオル:そんな固くならなくても、私は君の悩みを聞くためにいるんだから。君の思うままに、感情をぶつけていいんだよ。 アオイ:……はい。 シーン転換 アオイ:(N)僕は、中小企業を営む社長の一人息子として生まれた。 アオイ:(N)両親は僕をエリートに育てるために、惜しみなくお金を使い、僕は毎日勉強とバイオリンのレッスンに明け暮れた。 アオイ:(N)そんな両親には感謝しかない。でも、勉強のせいで僕には“友人”なんてできなかったし、僕と同じくらいの子が遊んでいるのを見て…。いつしか、その姿が羨ましくなった。 アオイ:(N)やがて高校に入って、自主勉強になった。だけど、それで何か変わるわけじゃなかった。 アオイ:(N)塾がなくなったからって勉強をやめていいわけじゃない。中高一貫の学校だから、友人を作ろうとしても上手くいかない。 アオイ:(N)退屈は何も変わらなくて、何もない毎日が辛くて、楽しそうな同級生が羨ましくて、親の期待が怖くて、ただ現実から逃げてるだけな気がして、でも全部投げ出したくなって、だから―――。 シーン転換 アオイ:今日は両親が二人とも家に帰らないので、夜に抜け出してみたんです。…本当は、昼も親がいないと外に出ちゃダメなんですけど。 カオル:それで、今日あそこで座り込んでたの? アオイ:…。(こくり、と頷く) カオル:そう、だったんだ。 アオイ:はい…。…本当にごめんなさい。家にまで上げていただいて、話すのがこんな話なんて。 アオイ:僕は、恵まれてるのに。普通の生活がしてみたいなんて。我儘ですよね。与えられたものを投げだしたい、だなんて。 カオル:いや。 0: 0:カオルはおもむろに立ち上がると、アオイの頭をぽんぽん、と撫でる。 0: アオイ:えっ、か、カオル先輩…? カオル:君は、本当に凄いと思う。 アオイ:あ、あの…? カオル:いい?君は間違ってなんかない。君は凄いんだよ。…きっと、君のご両親や周りからの視線や期待もプレッシャーだったでしょ。 カオル:外の世界に出れないで、弱音を吐ける人もいない。ずっと半分閉じ込められたような生活で…。辛かったよね。頑張ったね。 アオイ:……わかって、くれるんですか…? カオル:うん。そんな大きなプレッシャーを背負って今まで生きてきたんだね。…本当に、偉いと思う。 カオル:他の子がどう思うかは…私にはわからないけど。もし、私以外の全人類が否定したとしても、私だけは君の辛さを肯定してあげる。 カオル:苦しかったよね。友達が欲しかったよね。この寂しさを吐ける人が居なくて辛かったよね。 アオイ:せん、ぱい……。 カオル:大丈夫。私が君を理解してあげる。君の辛さを、少しでも肩代わりさせて。 アオイ:……はじめて、僕のことを、分かってくれる人に、出会えた……。 アオイ:僕が我儘なだけだ、って…。思ってた……。 カオル:ふふ。本当、君は可愛いくらいに真面目で…。健気だな。 アオイ:…先輩。 カオル:なあに? アオイ:今だけでいいです、今だけで、いいから…。先輩に、すがってもいいですか…?頼っても、いいですか…? カオル:…っ。 0: 0:カオルは涙目で訴えるアオイを抱きとめる。 0: アオイ:わっ…!?先輩っ…!? カオル:ごめん、びっくりしたよね。ほら、抱きしめられると安心するって言うでしょ。 カオル:…とは言っても、私も人を抱きしめるのなんて初めてなんだけどね。 0: 0:アオイの背中を優しくさするカオル。 0: カオル:辛かったね。苦しかったね。いくらでも泣いていいんだよ。縋(すが)っていいんだよ。私が傍にいるから。 アオイ:…はいっ。 0: 0:しばらくしてアオイが落ち着いてくる。そして、カオルがアオイに話しかける。 0: カオル:落ち着いた、かな? アオイ:はい…。本当にありがとうございました、先輩。…なんだか、救われた気がします。 カオル:救われた、か…。……私も、だよ。 アオイ:…? カオル:ねぇ、アオイ君。今度、一緒に喫茶店にでも行こうよ。 アオイ:えっ…。先輩と一緒に、ですか…? カオル:うん。だって君、みんなと同じような“普通”の生活がしてみたいんでしょ。安直な発想だけど、一緒に喫茶店でくつろいだり、映画館に遊びに行ったりするのって、なんというか…。“青春”って感じがしない? アオイ:…気持ちはとっても嬉しいです。でも…僕の両親が…。 カオル:大丈夫だよ。今は自主勉強してるって言ってたよね。なら、駅で待ち合わせをして、学校帰りに一緒に遊ぼう。そうすれば、君のご両親はわからない。 アオイ:た、確かに…。でも、それっていいんでしょうか…? カオル:良いに決まってる。例え君のご両親が許さなくたって、私が許してあげる。それに、バレなければいいわけだし。それに…。 アオイ:それに…? カオル:少しくらい背徳感があったほうが、なんだか校則を破ってるみたいで楽しいし。真面目に生きてるだけじゃ、つまらないからね。 アオイ:そ、そういうものなんでしょうか…? カオル:そういうものだよ。…安心して。なにがあっても、私が君を守るから。 アオイ:…かっこいい。 カオル:そうかな?ふふ、ありがとう。さて…。だいぶ夜も更けてきたけれど。…まだ、きっと寂しいよね。 アオイ:…はい。もう少しだけ、一緒にいたいです。 カオル:ふふ…。うん。わかった。よかったら、君のことたくさん教えて。 アオイ:はい…っ!! 0: 0:場面転換。 0: 0:朝日が昇る頃、カオルはアオイを最寄り駅の方まで送っている。 0: カオル:本当にここまでで大丈夫? アオイ:はい、もう日も昇ってますし家もすぐ近くなので。逆にこんな時間まで家にあげてもらって、本当にありがとうございました…! カオル:全然いいんだよ。私の方から家に招いたわけだし。…君のご両親にバレないといいけれど。 アオイ:それについては多分大丈夫だと思います。一応いつごろ帰ってくるとかは全て連絡してくれるので。 カオル:そっか。…じゃあ、気をつけて帰るんだよ。 アオイ:……はい。 カオル:…ふふっ。そんな名残惜しそうな顔しないの。また会えるから。連絡先も交換したし、いつでも相談乗るから。大丈夫。君はもう一人じゃない。 アオイ:…!…はいっ!! カオル:いい子。じゃあ、帰ったらゆっくり寝るんだよ。 アオイ:そうします…!…じゃあ、おやすみなさい。また、明日のバイオリン教室で。 カオル:うん。おやすみ。 0: 0:去っていくアオイの背中をじっと見つめるカオル。 0: カオル:―――やっと、見つけたよ。 カオル:(N)君の理想はありふれた“普通”で、それすらも許されない檻に君は囚われている。 カオル:(N)私は健気な君を護りたい。この気持ちは“初めて抱いた感情”だし、誰にも譲れない。 カオル:(N)君と出会えたことが、君を護ることこそが、きっと…。私の使命なんだ。 0: 0:場面転換。 0: 0:二人がアオイの親の目を盗んでよく遊ぶようになってから 0:数か月が経過したとある日。 0: 0:もうすぐ午後三時頃。カオルの家で遊ぶ二人。 0: アオイ:それにしても、この間見た映画、本当によかったですよね! カオル:うん。ストーリーも作りこまれてたし、映画館だったから臨場感もあったし。また行こうね。 アオイ:はいっ…!あと、帰りに寄ったレストランのハヤシライス、あれもとっても美味しかったからそこもまた行きましょうっ! カオル:勿論。君の望むところに連れて行ってあげる。…本当、健気だな。君は…。 アオイ:…ん?…あぁ~! カオル:どうしたの? アオイ:この棚に入ってるゲーム機、数か月前に発売された今話題のやつじゃないですか!?全世界で爆発的に売れてるってニュースでやってたやつ! カオル:あぁ…。確かに、ちょっと前にそんなのも買ったっけ…。 アオイ:買ったこと覚えてないの!? 0: 0:場面転換。 0: 0:数時間ゲームで遊んだ後、もう外はすっかり暗くなっている。 0: アオイ:あー、楽しかった!初めてやったゲームがこれで良かったです! カオル:そんなに喜んでもらえるなんて、買っておいて本当に良かったよ。 アオイ:はい!またやらせてくださいね! カオル:うん。勿論。…アオイ君。 アオイ:なんです? カオル:確か、今日は君のご両親、明日まで帰ってこないんだよね。 アオイ:はい。二人とも今持ってる仕事が忙しいみたいで…。 カオル:なら今日は久しぶりに、少し夜の街を散歩してみない? 0: 0:場面転換。 0: 0:もうすっかり暗くなった夜の街を歩く二人。 0: 0:夜の繁華街は色めき、光り輝いている。 0: カオル:んー、やっぱり夜の散歩はいいな。 アオイ:久しぶりの夜の街…。なんだか、前に来た時とは全然違う気がします。先輩と一緒だから、かな…? カオル:っ…。…ふふっ。本当、アオイ君は可愛いな。 アオイ:か、可愛くないですっ…! カオル:ふふふ。そういうところだよ。まったくもう…。…さて、着いた。 アオイ:…?ここを目指して歩いてたんですか? 0: 0:二人は川の上にかかる橋の上で足を止めた。 0: カオル:そう。ここは私のお気に入りの場所でね。ほら、見てごらん。 アオイ:…!! 0: 0:輝く街明かりが水面に反射し、 0:奥に見える夜空の星と共に幻想的な夜を作り出している。 0: アオイ:凄い、綺麗……。 カオル:ここからの景色を、君と一緒に見たかったんだ。…気に入ってもらえたかな? アオイ:はい…っ!いつも通ってる街にこんな綺麗な夜景があるなんて…。神秘的で、キラキラで…。本当に、きれい…。 カオル:その様子だと、気に入ってくれたみたいだね。本当、君はリアクションが大きくて可愛いな…。 カオル:…私、夜が好きなんだ。なんだか、夜の街を見ていると、自分のことを忘れられる気がしてね。静かで、暗くて――。 アオイ:…先輩? カオル:…あぁ、ごめんね。なんか変なこと言いそうになっちゃった。気にしないで。 アオイ:…先輩って、あんまり自分のことを話してくれませんよね。 カオル:えっ…? アオイ:だって、いつも僕のやりたいことや好きなことを聞いて連れて行ってくれるばっかりですし…。合わせてもらってるばっかりだなあ、って思って。 アオイ:なんだか申し訳なく思って来ちゃって。 カオル:…大丈夫だよ、私は君と話したりどこか行くだけで楽しいから。君のしたいことを私はただ叶えてあげたいの。…ね? アオイ:…じゃあ。僕は、先輩の好きなこととか、先輩の話を聞きたいです。今は、先輩のことをもっと知りたい。 アオイ:それとも…。先輩は、僕に話すのは嫌ですか?辛いこととかを抱えてるのなら、力になりたいです。…なれるかはわかりませんけれど。 カオル:…そっか。本当に健気だね。…じゃあ、ちょうどいい機会だし少し話そうか。私の…“性質”について。 アオイ:性質…? カオル:…ごめんね。 0: 0: カオル:私は、心にぽっかり穴が空いているんだよ。 シーン転換。 カオル:(N)生まれて堕ちた最初から、みんなとは違っていた。 カオル:(N)物心ついた時からずっと、私の心は虚無感に支配されていた。 カオル:(N)人を人たらしめる感情…。興味、関心、達成感。等しく感じるはずのそれを、私は持っていなかった。 カオル:(N)この虚無感を埋めたくて、みんなと同じになりたくて、“普通”の感情を持ちたくて、色んな事をしてみた。 カオル:(N)でも、何も変わらなかった。みんなと一緒に笑いたいのに、他人に関心を持てない。何かを始めてみても、楽しさがわからない。そのくせ、覚えるのが早いから達成感もなかった。 カオル:(N)ずっと、ずっとこの不足感を埋めるモノを探していた。探して、探して、彷徨(さまよ)って、そして―――。 シーン転換。 カオル:あの夜、君に出会って初めて私の世界に色が宿った。アオイ君。辛そうに話す君を見て、初めて思えたんだ。「この子を護りたい」…って。なんでかはわからないけれどね。 カオル:空っぽだった私の心は、君といる時だけ「嬉しい」や「楽しい」、「面白い」で満たされるの。 カオル:…でも、これは良いように言ってるだけでさ。…私は、自分の不足感を埋めるためにずっと君に依存して、利用していただけ。 カオル:だから…。ごめんね。私が自分の話を全然しない…いや、できないのは、これが理由。ごめんね。幻滅した、よね。 アオイ:先輩。 0: 0:アオイはカオルを優しく抱きとめる。 0: カオル:あ、アオイ君っ…!? アオイ:…先輩のばか。 カオル:…やっぱり怒ってる、よね。 アオイ:怒ってますよ。 カオル:……。 アオイ:僕が、それくらいのことで先輩が嫌いになると思ってたんですか。 カオル:え…。 アオイ:先輩がどういうつもりであれ、先輩は僕を、“非日常”に、“普通”に連れて行ってくれた。…僕の話を聞いて、君は間違ってない、凄いよって言ってくれた。僕にとっての先輩は…。唯一の理解者なんです。 アオイ:そんな恩人を、その程度のことで僕が嫌いになるわけないじゃないですか。僕の気持ちはそんなものじゃないんです…! カオル:あ、アオイくん? 0: 0:アオイはハグをやめてカオルに向き直る。 0: アオイ:…先輩の空いた心が僕で埋まるというのなら、ずっと傍にいます。…いや、違う。僕が、先輩の傍にいたいんです。 カオル:アオイ君、まるで告白(みたいなこと言ってる) アオイ:(被せる)まるで、じゃないですっ! カオル:えっ? アオイ:カオル先輩。 0: 0:アオイがカオルの手を掴む。 0: 0: アオイ:あの夜、出会った時からあなたに恋をしていました。僕を恋人にして、これからもずっとあなたの傍に居させてくれませんか。 0: 0: アオイ:…どう、ですか。これで僕の気持ち…。…伝(わりました) カオル:(被せる)アオイ君っ! アオイ:わっ!? 0: 0:今度はカオルの方からアオイを勢いよく、強く抱きしめる。 0: カオル:…本当、夢みたいだ。大好きな場所で、綺麗な夜景に見守られながらアオイ君に告白されるなんて…、ね。 カオル:そっか。君に出会った時に心に抱(いだ)いた、これは…。そっか、きっとそうだったんだ。 アオイ:せ、先輩…。ちょっと苦しいです。 カオル:ご、ごめん。 0: 0:カオルがアオイを離す。二人とも、顔が赤らんでいる。 0: アオイ:それで、その…。お返事、は? カオル:…聞く必要、ある? アオイ:答えは今の反応でわかりましたけど。…でも、先輩の口から聞きたいです。 カオル:…もう。仕方ないな。 0: 0: カオル:喜んで。これからもずっと、一緒に居させてください。 シーン転換。 0:場面転換。 0: 0:帰り道。二人は手をつないで歩いている。 0: カオル:だいぶ長い時間散歩したねー。 アオイ:ですね。…今日の散歩は本当、夢見心地でした。 カオル:私も。本当、楽しかったね。また夜の散歩、行こうね。 アオイ:はい!今度は喫茶店とかにも寄って―――。 0: 0:そんな二人の会話を遮るように、電話の着信音が鳴り響く。 0: カオル:…私じゃないね。 アオイ:……。 0: 0:アオイが携帯を取り出し、画面を確認する。 0: アオイ:…父さん、からだ。 カオル:もしかして、夜に外出してることバレちゃったのかな…。 アオイ:いや、多分大丈夫だと思います。…でも、この時間に父さんから連絡なんて…。…出てみます。 カオル:わかった。 0: 0:電話に出るアオイ。 0: アオイ:もしもし。何かあったの?……っ。…今、は……。…ッ!……なんでそういうこと言えるんだよ。…父さんは、父さんは僕のこと何にも知らないくせに!! カオル:あ、アオイ君…? アオイ:もういい!!何と言われようと今日はもう帰らない!!そうやっていつまでも口だけの心配をしてればいいよ!! 0: 0:電話を強引に切るアオイ。 0: カオル:…その感じだと外出、バレちゃったかな。…あんなこと言って、良かったの? アオイ:…はい。…今はもう父さんとは話したくないし、家には帰りたくないんです。…父さんも母さんも僕のこと、わかってくれないから。 アオイ:だから先輩。…今夜だけでいいから、今夜だけは…。僕と一緒に悪い子になってくれませんか? カオル:ふふっ。可愛いお誘いだなあ。…勿論いいよ。二人一緒に夜の世界に堕天(だてん)、しちゃおっか。 アオイ:はい、行きましょう、二人でどこまでも―――。 シーン転換。 アオイ:(N)一夜限り、二人ぼっちで夜の街を遊んだ。 カオル:(N)月と星の輝く夜、暗がりの世界を駆けた。 アオイ:(N)何もかも忘れて大切な人の手を握り締めて笑う。 カオル:(N)妖艶(ようえん)な夜が優しく二人を包み込む。 0: 0: 0: アオイ:はあー、この夜が永遠に続けばいいのに。 カオル:ふふっ。奇遇だね。私も今、そう思った。 アオイ:…夜が明けたら、次はどこに行きましょうか。 カオル:その前に、君のお父さんへの言い訳を考えなきゃね。 アオイ:うっ…。そうだった。…本当、どうしようかな…。 カオル:大丈夫。もし何を言われても、されても…。私が君を護ってあげるからさ。 アオイ:それなら大丈夫ですね、何も怖くない…! カオル:…アオイ君。 アオイ:ん、なんです? 0: 0: カオル:今度はビリヤード、とかどう? アオイ:かっこいい!ダーツもしてみたいですっ! カオル:いいねー!じゃあそのあとは―――。 0: 0: 0:End

アオイ:(N)生まれて落ちた最初から、鉛でできた枷(かせ)をつけられていた。 アオイ:(N)頑張らなきゃいけないのに苦しくて、辛くて。でも逃げられなくて。 アオイ:(N)募りに募って、勇気を出して抜け出して。そして―――。 0: 0: 0:「解の守護者と不全の徒華」 シーン転換。 0: 0:月が雲に隠れた休日の夜。 0: 0:繁華街の道の端で蹲(うずくま)るアオイ。 0:声をかける人は誰もいない。 0: アオイ:……はぁ。何やってるんだろう、僕……。 アオイ:………寒い…。 0: 0: カオル:あの、 0: カオル:大丈夫ですか? 0: 0: 0:不意に聞こえた声に顔を上げるアオイ。 0:見上げた先には、カオルが立っている。 0: カオル:あれ、君は。アオイくん? アオイ:あなた、は…。 カオル:わかるかな?同じバイオリン教室の。 アオイ:…カオル、先輩? カオル:そう。覚えててくれたんだ。って、そんなことは重要じゃない。こんなところでどうしたの。もう日付跨いじゃってるけど。 アオイ:あー…。えっと…。大丈夫ですよ、特に何かあったとかじゃないので…! カオル:いやいや、こんな夜道で一人で膝抱えてて、何もないわけないじゃん。それに、ずっとこんなとこに座り込んでたら、風邪ひいちゃうよ。 アオイ:……。 カオル:家には帰りたくない感じ? アオイ:……はい。 カオル:そっか。わかった。 カオル:じゃあ、とりあえず私の家においで。 アオイ:えっ、先輩の家に…ですか? カオル:そう。だって君、自分の家に帰りたくないんでしょ。だから、私の家で悩み、聞いてあげる。 アオイ:いや、でも…。 カオル:いいから。そのまま外で座り込んで、危ないことに巻き込まれたら大変だし。あぁ、迷惑とか心配してるなら大丈夫。私、一人暮らしだし。 アオイ:…僕、悩みとかないですから。大丈夫、です。 カオル:強がらないの。眼が笑ってないよ。どんな話でも、笑ったりなんかしないから。私のこと、信じて。 アオイ:…わかり、ました。 カオル:ありがとう。じゃあ、行くよ。立てる? アオイ:はい、大丈夫です…。…あの。 カオル:ん?まだ何かあった? アオイ:いえ、その…。本当に、ありがとうございます。 0: 0:場面転換。カオルの家。 0:整えられた部屋の中、ソファに座るアオイ。 0:カオルはキッチンで何かを作っている。 0: カオル:あぁ、寒かったらブランケットとか勝手に羽織っていいから。 アオイ:……。 カオル:よし。お待たせ。 0: 0:カオルがマグカップを二つ持ってキッチンから出てくる。 0:そして、それを自分とアオイの前に置く。 0: カオル:はい。これ、ホットミルク。よかったら。 アオイ:…すみません、ありがとうございます。 カオル:うん。落ち着いたらでいいから、なにがあったか話してごらん。その様子だと多分、一人で抱え込んでるんでしょ。 カオル:誰かに吐き捨てれば、少しは楽になると思うから。 アオイ:……。 0: 0:ホットミルクを口につけるアオイ。 0: カオル:どうかな。少しは落ち着いた? アオイ:…はい。この部屋もミルクも、外よりずっと暖かくて…。とても落ち着きます。 カオル:そう。それならよかった。 アオイ:…先輩。 カオル:なに? アオイ:…本当に、僕が今から吐き捨てることを、何も言わずにただ聞いてくれますか。 カオル:勿論。そのために私は君をここまで招き入れたわけだし。なんだか、辛そうだったからさ。少しでも肩代わりできればいいと思って。 アオイ:…先輩は優しいんですね。 カオル:いや、優しくなんかないよ。こうやって相談に乗るのもきっと、自分のためだから。 アオイ:…? カオル:ごめん、何でもないよ。話せそうかな? アオイ:…はい。少し長くなりますけど。先輩を信じて、お話します。 カオル:そんな固くならなくても、私は君の悩みを聞くためにいるんだから。君の思うままに、感情をぶつけていいんだよ。 アオイ:……はい。 シーン転換 アオイ:(N)僕は、中小企業を営む社長の一人息子として生まれた。 アオイ:(N)両親は僕をエリートに育てるために、惜しみなくお金を使い、僕は毎日勉強とバイオリンのレッスンに明け暮れた。 アオイ:(N)そんな両親には感謝しかない。でも、勉強のせいで僕には“友人”なんてできなかったし、僕と同じくらいの子が遊んでいるのを見て…。いつしか、その姿が羨ましくなった。 アオイ:(N)やがて高校に入って、自主勉強になった。だけど、それで何か変わるわけじゃなかった。 アオイ:(N)塾がなくなったからって勉強をやめていいわけじゃない。中高一貫の学校だから、友人を作ろうとしても上手くいかない。 アオイ:(N)退屈は何も変わらなくて、何もない毎日が辛くて、楽しそうな同級生が羨ましくて、親の期待が怖くて、ただ現実から逃げてるだけな気がして、でも全部投げ出したくなって、だから―――。 シーン転換 アオイ:今日は両親が二人とも家に帰らないので、夜に抜け出してみたんです。…本当は、昼も親がいないと外に出ちゃダメなんですけど。 カオル:それで、今日あそこで座り込んでたの? アオイ:…。(こくり、と頷く) カオル:そう、だったんだ。 アオイ:はい…。…本当にごめんなさい。家にまで上げていただいて、話すのがこんな話なんて。 アオイ:僕は、恵まれてるのに。普通の生活がしてみたいなんて。我儘ですよね。与えられたものを投げだしたい、だなんて。 カオル:いや。 0: 0:カオルはおもむろに立ち上がると、アオイの頭をぽんぽん、と撫でる。 0: アオイ:えっ、か、カオル先輩…? カオル:君は、本当に凄いと思う。 アオイ:あ、あの…? カオル:いい?君は間違ってなんかない。君は凄いんだよ。…きっと、君のご両親や周りからの視線や期待もプレッシャーだったでしょ。 カオル:外の世界に出れないで、弱音を吐ける人もいない。ずっと半分閉じ込められたような生活で…。辛かったよね。頑張ったね。 アオイ:……わかって、くれるんですか…? カオル:うん。そんな大きなプレッシャーを背負って今まで生きてきたんだね。…本当に、偉いと思う。 カオル:他の子がどう思うかは…私にはわからないけど。もし、私以外の全人類が否定したとしても、私だけは君の辛さを肯定してあげる。 カオル:苦しかったよね。友達が欲しかったよね。この寂しさを吐ける人が居なくて辛かったよね。 アオイ:せん、ぱい……。 カオル:大丈夫。私が君を理解してあげる。君の辛さを、少しでも肩代わりさせて。 アオイ:……はじめて、僕のことを、分かってくれる人に、出会えた……。 アオイ:僕が我儘なだけだ、って…。思ってた……。 カオル:ふふ。本当、君は可愛いくらいに真面目で…。健気だな。 アオイ:…先輩。 カオル:なあに? アオイ:今だけでいいです、今だけで、いいから…。先輩に、すがってもいいですか…?頼っても、いいですか…? カオル:…っ。 0: 0:カオルは涙目で訴えるアオイを抱きとめる。 0: アオイ:わっ…!?先輩っ…!? カオル:ごめん、びっくりしたよね。ほら、抱きしめられると安心するって言うでしょ。 カオル:…とは言っても、私も人を抱きしめるのなんて初めてなんだけどね。 0: 0:アオイの背中を優しくさするカオル。 0: カオル:辛かったね。苦しかったね。いくらでも泣いていいんだよ。縋(すが)っていいんだよ。私が傍にいるから。 アオイ:…はいっ。 0: 0:しばらくしてアオイが落ち着いてくる。そして、カオルがアオイに話しかける。 0: カオル:落ち着いた、かな? アオイ:はい…。本当にありがとうございました、先輩。…なんだか、救われた気がします。 カオル:救われた、か…。……私も、だよ。 アオイ:…? カオル:ねぇ、アオイ君。今度、一緒に喫茶店にでも行こうよ。 アオイ:えっ…。先輩と一緒に、ですか…? カオル:うん。だって君、みんなと同じような“普通”の生活がしてみたいんでしょ。安直な発想だけど、一緒に喫茶店でくつろいだり、映画館に遊びに行ったりするのって、なんというか…。“青春”って感じがしない? アオイ:…気持ちはとっても嬉しいです。でも…僕の両親が…。 カオル:大丈夫だよ。今は自主勉強してるって言ってたよね。なら、駅で待ち合わせをして、学校帰りに一緒に遊ぼう。そうすれば、君のご両親はわからない。 アオイ:た、確かに…。でも、それっていいんでしょうか…? カオル:良いに決まってる。例え君のご両親が許さなくたって、私が許してあげる。それに、バレなければいいわけだし。それに…。 アオイ:それに…? カオル:少しくらい背徳感があったほうが、なんだか校則を破ってるみたいで楽しいし。真面目に生きてるだけじゃ、つまらないからね。 アオイ:そ、そういうものなんでしょうか…? カオル:そういうものだよ。…安心して。なにがあっても、私が君を守るから。 アオイ:…かっこいい。 カオル:そうかな?ふふ、ありがとう。さて…。だいぶ夜も更けてきたけれど。…まだ、きっと寂しいよね。 アオイ:…はい。もう少しだけ、一緒にいたいです。 カオル:ふふ…。うん。わかった。よかったら、君のことたくさん教えて。 アオイ:はい…っ!! 0: 0:場面転換。 0: 0:朝日が昇る頃、カオルはアオイを最寄り駅の方まで送っている。 0: カオル:本当にここまでで大丈夫? アオイ:はい、もう日も昇ってますし家もすぐ近くなので。逆にこんな時間まで家にあげてもらって、本当にありがとうございました…! カオル:全然いいんだよ。私の方から家に招いたわけだし。…君のご両親にバレないといいけれど。 アオイ:それについては多分大丈夫だと思います。一応いつごろ帰ってくるとかは全て連絡してくれるので。 カオル:そっか。…じゃあ、気をつけて帰るんだよ。 アオイ:……はい。 カオル:…ふふっ。そんな名残惜しそうな顔しないの。また会えるから。連絡先も交換したし、いつでも相談乗るから。大丈夫。君はもう一人じゃない。 アオイ:…!…はいっ!! カオル:いい子。じゃあ、帰ったらゆっくり寝るんだよ。 アオイ:そうします…!…じゃあ、おやすみなさい。また、明日のバイオリン教室で。 カオル:うん。おやすみ。 0: 0:去っていくアオイの背中をじっと見つめるカオル。 0: カオル:―――やっと、見つけたよ。 カオル:(N)君の理想はありふれた“普通”で、それすらも許されない檻に君は囚われている。 カオル:(N)私は健気な君を護りたい。この気持ちは“初めて抱いた感情”だし、誰にも譲れない。 カオル:(N)君と出会えたことが、君を護ることこそが、きっと…。私の使命なんだ。 0: 0:場面転換。 0: 0:二人がアオイの親の目を盗んでよく遊ぶようになってから 0:数か月が経過したとある日。 0: 0:もうすぐ午後三時頃。カオルの家で遊ぶ二人。 0: アオイ:それにしても、この間見た映画、本当によかったですよね! カオル:うん。ストーリーも作りこまれてたし、映画館だったから臨場感もあったし。また行こうね。 アオイ:はいっ…!あと、帰りに寄ったレストランのハヤシライス、あれもとっても美味しかったからそこもまた行きましょうっ! カオル:勿論。君の望むところに連れて行ってあげる。…本当、健気だな。君は…。 アオイ:…ん?…あぁ~! カオル:どうしたの? アオイ:この棚に入ってるゲーム機、数か月前に発売された今話題のやつじゃないですか!?全世界で爆発的に売れてるってニュースでやってたやつ! カオル:あぁ…。確かに、ちょっと前にそんなのも買ったっけ…。 アオイ:買ったこと覚えてないの!? 0: 0:場面転換。 0: 0:数時間ゲームで遊んだ後、もう外はすっかり暗くなっている。 0: アオイ:あー、楽しかった!初めてやったゲームがこれで良かったです! カオル:そんなに喜んでもらえるなんて、買っておいて本当に良かったよ。 アオイ:はい!またやらせてくださいね! カオル:うん。勿論。…アオイ君。 アオイ:なんです? カオル:確か、今日は君のご両親、明日まで帰ってこないんだよね。 アオイ:はい。二人とも今持ってる仕事が忙しいみたいで…。 カオル:なら今日は久しぶりに、少し夜の街を散歩してみない? 0: 0:場面転換。 0: 0:もうすっかり暗くなった夜の街を歩く二人。 0: 0:夜の繁華街は色めき、光り輝いている。 0: カオル:んー、やっぱり夜の散歩はいいな。 アオイ:久しぶりの夜の街…。なんだか、前に来た時とは全然違う気がします。先輩と一緒だから、かな…? カオル:っ…。…ふふっ。本当、アオイ君は可愛いな。 アオイ:か、可愛くないですっ…! カオル:ふふふ。そういうところだよ。まったくもう…。…さて、着いた。 アオイ:…?ここを目指して歩いてたんですか? 0: 0:二人は川の上にかかる橋の上で足を止めた。 0: カオル:そう。ここは私のお気に入りの場所でね。ほら、見てごらん。 アオイ:…!! 0: 0:輝く街明かりが水面に反射し、 0:奥に見える夜空の星と共に幻想的な夜を作り出している。 0: アオイ:凄い、綺麗……。 カオル:ここからの景色を、君と一緒に見たかったんだ。…気に入ってもらえたかな? アオイ:はい…っ!いつも通ってる街にこんな綺麗な夜景があるなんて…。神秘的で、キラキラで…。本当に、きれい…。 カオル:その様子だと、気に入ってくれたみたいだね。本当、君はリアクションが大きくて可愛いな…。 カオル:…私、夜が好きなんだ。なんだか、夜の街を見ていると、自分のことを忘れられる気がしてね。静かで、暗くて――。 アオイ:…先輩? カオル:…あぁ、ごめんね。なんか変なこと言いそうになっちゃった。気にしないで。 アオイ:…先輩って、あんまり自分のことを話してくれませんよね。 カオル:えっ…? アオイ:だって、いつも僕のやりたいことや好きなことを聞いて連れて行ってくれるばっかりですし…。合わせてもらってるばっかりだなあ、って思って。 アオイ:なんだか申し訳なく思って来ちゃって。 カオル:…大丈夫だよ、私は君と話したりどこか行くだけで楽しいから。君のしたいことを私はただ叶えてあげたいの。…ね? アオイ:…じゃあ。僕は、先輩の好きなこととか、先輩の話を聞きたいです。今は、先輩のことをもっと知りたい。 アオイ:それとも…。先輩は、僕に話すのは嫌ですか?辛いこととかを抱えてるのなら、力になりたいです。…なれるかはわかりませんけれど。 カオル:…そっか。本当に健気だね。…じゃあ、ちょうどいい機会だし少し話そうか。私の…“性質”について。 アオイ:性質…? カオル:…ごめんね。 0: 0: カオル:私は、心にぽっかり穴が空いているんだよ。 シーン転換。 カオル:(N)生まれて堕ちた最初から、みんなとは違っていた。 カオル:(N)物心ついた時からずっと、私の心は虚無感に支配されていた。 カオル:(N)人を人たらしめる感情…。興味、関心、達成感。等しく感じるはずのそれを、私は持っていなかった。 カオル:(N)この虚無感を埋めたくて、みんなと同じになりたくて、“普通”の感情を持ちたくて、色んな事をしてみた。 カオル:(N)でも、何も変わらなかった。みんなと一緒に笑いたいのに、他人に関心を持てない。何かを始めてみても、楽しさがわからない。そのくせ、覚えるのが早いから達成感もなかった。 カオル:(N)ずっと、ずっとこの不足感を埋めるモノを探していた。探して、探して、彷徨(さまよ)って、そして―――。 シーン転換。 カオル:あの夜、君に出会って初めて私の世界に色が宿った。アオイ君。辛そうに話す君を見て、初めて思えたんだ。「この子を護りたい」…って。なんでかはわからないけれどね。 カオル:空っぽだった私の心は、君といる時だけ「嬉しい」や「楽しい」、「面白い」で満たされるの。 カオル:…でも、これは良いように言ってるだけでさ。…私は、自分の不足感を埋めるためにずっと君に依存して、利用していただけ。 カオル:だから…。ごめんね。私が自分の話を全然しない…いや、できないのは、これが理由。ごめんね。幻滅した、よね。 アオイ:先輩。 0: 0:アオイはカオルを優しく抱きとめる。 0: カオル:あ、アオイ君っ…!? アオイ:…先輩のばか。 カオル:…やっぱり怒ってる、よね。 アオイ:怒ってますよ。 カオル:……。 アオイ:僕が、それくらいのことで先輩が嫌いになると思ってたんですか。 カオル:え…。 アオイ:先輩がどういうつもりであれ、先輩は僕を、“非日常”に、“普通”に連れて行ってくれた。…僕の話を聞いて、君は間違ってない、凄いよって言ってくれた。僕にとっての先輩は…。唯一の理解者なんです。 アオイ:そんな恩人を、その程度のことで僕が嫌いになるわけないじゃないですか。僕の気持ちはそんなものじゃないんです…! カオル:あ、アオイくん? 0: 0:アオイはハグをやめてカオルに向き直る。 0: アオイ:…先輩の空いた心が僕で埋まるというのなら、ずっと傍にいます。…いや、違う。僕が、先輩の傍にいたいんです。 カオル:アオイ君、まるで告白(みたいなこと言ってる) アオイ:(被せる)まるで、じゃないですっ! カオル:えっ? アオイ:カオル先輩。 0: 0:アオイがカオルの手を掴む。 0: 0: アオイ:あの夜、出会った時からあなたに恋をしていました。僕を恋人にして、これからもずっとあなたの傍に居させてくれませんか。 0: 0: アオイ:…どう、ですか。これで僕の気持ち…。…伝(わりました) カオル:(被せる)アオイ君っ! アオイ:わっ!? 0: 0:今度はカオルの方からアオイを勢いよく、強く抱きしめる。 0: カオル:…本当、夢みたいだ。大好きな場所で、綺麗な夜景に見守られながらアオイ君に告白されるなんて…、ね。 カオル:そっか。君に出会った時に心に抱(いだ)いた、これは…。そっか、きっとそうだったんだ。 アオイ:せ、先輩…。ちょっと苦しいです。 カオル:ご、ごめん。 0: 0:カオルがアオイを離す。二人とも、顔が赤らんでいる。 0: アオイ:それで、その…。お返事、は? カオル:…聞く必要、ある? アオイ:答えは今の反応でわかりましたけど。…でも、先輩の口から聞きたいです。 カオル:…もう。仕方ないな。 0: 0: カオル:喜んで。これからもずっと、一緒に居させてください。 シーン転換。 0:場面転換。 0: 0:帰り道。二人は手をつないで歩いている。 0: カオル:だいぶ長い時間散歩したねー。 アオイ:ですね。…今日の散歩は本当、夢見心地でした。 カオル:私も。本当、楽しかったね。また夜の散歩、行こうね。 アオイ:はい!今度は喫茶店とかにも寄って―――。 0: 0:そんな二人の会話を遮るように、電話の着信音が鳴り響く。 0: カオル:…私じゃないね。 アオイ:……。 0: 0:アオイが携帯を取り出し、画面を確認する。 0: アオイ:…父さん、からだ。 カオル:もしかして、夜に外出してることバレちゃったのかな…。 アオイ:いや、多分大丈夫だと思います。…でも、この時間に父さんから連絡なんて…。…出てみます。 カオル:わかった。 0: 0:電話に出るアオイ。 0: アオイ:もしもし。何かあったの?……っ。…今、は……。…ッ!……なんでそういうこと言えるんだよ。…父さんは、父さんは僕のこと何にも知らないくせに!! カオル:あ、アオイ君…? アオイ:もういい!!何と言われようと今日はもう帰らない!!そうやっていつまでも口だけの心配をしてればいいよ!! 0: 0:電話を強引に切るアオイ。 0: カオル:…その感じだと外出、バレちゃったかな。…あんなこと言って、良かったの? アオイ:…はい。…今はもう父さんとは話したくないし、家には帰りたくないんです。…父さんも母さんも僕のこと、わかってくれないから。 アオイ:だから先輩。…今夜だけでいいから、今夜だけは…。僕と一緒に悪い子になってくれませんか? カオル:ふふっ。可愛いお誘いだなあ。…勿論いいよ。二人一緒に夜の世界に堕天(だてん)、しちゃおっか。 アオイ:はい、行きましょう、二人でどこまでも―――。 シーン転換。 アオイ:(N)一夜限り、二人ぼっちで夜の街を遊んだ。 カオル:(N)月と星の輝く夜、暗がりの世界を駆けた。 アオイ:(N)何もかも忘れて大切な人の手を握り締めて笑う。 カオル:(N)妖艶(ようえん)な夜が優しく二人を包み込む。 0: 0: 0: アオイ:はあー、この夜が永遠に続けばいいのに。 カオル:ふふっ。奇遇だね。私も今、そう思った。 アオイ:…夜が明けたら、次はどこに行きましょうか。 カオル:その前に、君のお父さんへの言い訳を考えなきゃね。 アオイ:うっ…。そうだった。…本当、どうしようかな…。 カオル:大丈夫。もし何を言われても、されても…。私が君を護ってあげるからさ。 アオイ:それなら大丈夫ですね、何も怖くない…! カオル:…アオイ君。 アオイ:ん、なんです? 0: 0: カオル:今度はビリヤード、とかどう? アオイ:かっこいい!ダーツもしてみたいですっ! カオル:いいねー!じゃあそのあとは―――。 0: 0: 0:End