台本概要

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タイトル アラン・フィンリー外伝 ~ジェニファー・コイルの憂鬱~
作者名 Danzig
ジャンル ミステリー
演者人数 2人用台本(女1、不問1)
時間 30 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 アラン・フィンリーの外伝3です。
女×男女不問版です。

この本は、アラン・フィンリー探偵事務所3を読んでから、読む事をお勧めします。
尚、これは、アラン・フィンリー探偵事務所の別の話であって、本編を補完するものではありません。
本編とは無関係と思っていただけると有難いです。
・・・という建前です。

ジェニファーに降りかかる災難とは・・・

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ジェニファー 75 ロンドン秘密情報部のエージェント
ローレン 不問 71 ロンドン秘密情報部の職員
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0: 0:ジェニファー・コイルの憂鬱 0: 0: ジェニファー(M):とある朝、ロンドンのイーストエンドで女性の死体が発見された。 ジェニファー(M):その死体の首の左脇辺りには、刃物のような物で切られた跡があったという ジェニファー(M):通常、こういった殺人事件は、警察の仕事であり、私達、秘密情報部には無縁の仕事だ。 ジェニファー(M):今回事件も、当初、死体は通常通り警察により検死(けんし)が行われた。 ジェニファー(M):しかし、その検死結果を受け、この事件には秘密情報部が介入する事となった。 : ジェニファー:ローレン、ちょっとお願い出来るかしら。 : ローレン:どうしたんですか、ジェニファーさん。 : ジェニファー:今日、ロンドン警視庁から死体が届けられるから、鑑識(かんしき)部門に回してくれる? ジェニファー:死体をもう一度、我々の視点で調査するようにって伝えて欲しいの。 : ローレン:分かりました。 ローレン:ちなみに、それはどんな死体なんですか? ローレン:警察から死体が回ってくるなんて、そんなに無い事ですよね。 : ジェニファー:本来はそうなんだけど・・・・最近続いててね : ローレン:前回は確か・・・あぁ、あの殺人鬼の。 ローレン:そういえば、あれもジェニファーさんでしたね : ジェニファー:ええ、嫌な事件だったわよ。 いろいろとね : ローレン:「いろいろと」ですか・・・大変だったんですね。 ローレン:で、今回のは? : ジェニファー:うーん・・・首の左脇辺りに刃物の切り跡があるんだけど、死因が不明なんですって : ローレン:首に切り跡があるなら、普通は失血死(しっけつし)だと思うんですけどね。 : ジェニファー:そうじゃないから、うちに来るんでしょ : ローレン:まぁ、そうですね : ジェニファー:その死体はあまり出血をしていないらしいの : ローレン:つまり、首の傷は死んでから付けられたって事ですか? : ジェニファー:ええ、そうなるわね。 ジェニファー:でも、傷は首にしか付いてないし、血液からも疑わしい成分は検出されなかったんですって。 : ローレン:それで、うちに。 : ジェニファー:そういう事。 ジェニファー:嫌な事件にならなきゃいいけどね・・・ : : ジェニファー(M):私はそれから、資料の作成や警察から送られてきたデータや写真のファイリングなどの処理に追われ、気が付いたら昼になっていた。 : ジェニファー:うーん・・・終わったぁ。 ジェニファー:あぁ、もうこんな時間かぁ・・・朝食は食べられなかったな ジェニファー:じゃぁ、仕事も一段落したし、今日のランチは、少し遠出をして、あの店まで行ってみようかな。 : ジェニファー(M):この時の私はまだ、この後に起こる一連の事件を想像すらしていなかった・・・ ジェニファー(M): ジェニファー(M):そして、死体の発見から数日後の午前4時頃、突然、私の携帯電話が鳴った。 ジェニファー(M):その日夜勤をしていた職員のローレンからの電話だった。 : ジェニファー:こんな時間に・・・ ジェニファー:はい、ジェニファー・コイル : ローレン:ジェニファーさん、今日、また例の殺人事件が起きたようです。 : ジェニファー:何ですって・・・ちょっと待ってて、直ぐに行くわ : ジェニファー(M):私はローレンからの連絡を受けて、直ぐに秘密情報部のオフィスへと向かった ジェニファー(M):オフィスに到着した私は、ローレンから今回の事件の概要(がいよう)を聞いた。 ジェニファー(M):昨日の夜中にイーストエンドの路地裏で首の左脇に切り跡のある死体が発見されたらしい。 ジェニファー(M):首に切り跡のある死体はこれで3体目になる。 ジェニファー(M):現在、死体は警察が回収し、検死を行っているが、今の所、まだ死亡推定時刻や死因は分かっていないという事だった。 : ローレン:一応、警察で一通りの検死を行った後、これまでと同じだったら、こちらに死体を回すそうです。 : ジェニファー:そう、分かったわ : ローレン:あと、死体発見当時の状況や、現在分かっているデータなどの、警察から連携された情報は、全てジェニファーさんのメールに送ってあります。 : ジェニファー:ありがとう、助かるわ ジェニファー:これまでの2つの死体の調査結果はまだ来てないわよね? : ローレン:まだですね。 ローレン:もし今回の死体がこっちに来るなら、比較の為に、もう数日はかかるんじゃないですかね。 : ジェニファー:そうね : ローレン:さて・・・じゃぁ、ちょっと早いですけど、私はもうこれで帰りますね。 : ジェニファー:分かったわ、お疲れ様。 : ジェニファー(M):夜勤明けのローレンを見送ったその二日後、3つの死体の調査結果が私の元に送られてくる事となる。 0: 0:(二日後) 0: ジェニファー:はぁ・・・ ジェニファー:また、あそこに行かなきゃいけないのか・・・ : ジェニファー(N):私は、秘密情報部の一室で、調査結果を見ながら、何とも言えない失意(しつい)を噛みしめていた : ローレン:どうしたんですか、ジェニファーさん : ジェニファー:ちょっとね・・・ : ローレン:例の死体の調査結果が届いたんですか? : ジェニファー:ええ・・・そうなんだけど・・・ : ローレン:どうだったんですか? : ジェニファー:これを見て頂戴 : ジェニファー(N):そう言って私はローレンに調査結果を見せた : ローレン:二つの穴と、唾液の成分? ローレン:へー、あのナイフの傷は、噛み跡を隠す為に付けたものだったんですね。 : ジェニファー:ええ : ローレン:首に噛みつくなんて、まるで吸血鬼(ヴァンパイア)みたいですね。 ローレン:この犯人は、ヴァンパイアになりたかったんですかね、それとも、本当に自分がヴァンパイアだと思ってるとか。 : ジェニファー:そうだといいんだけど : ローレン:どういう事ですか? : ジェニファー:死亡推定時刻を見て。 : ローレン:この時刻がどうかしたんですか? : ジェニファー:死体発見時とあまり変わらないのよ。 : ローレン:それって、死体をどっかから持って来たのではなく、死体の発見現場に被害者の死因があるって事ですか? : ジェニファー:そう、 ジェニファー:でも、死体の血液からは死因となる成分は検出されていないし、死体の傷は首にしかないのよ。 ジェニファー:そして、ナイフの切り傷からは血はあまり出ていない : ローレン:つまり、噛みついた事が死因だと? : ジェニファー:そういう事 : ローレン:ショック死ですかね? でも、それだと検死での特定は難しいと思いますけど・・・ : ジェニファー:そうね、検死ではショック死かどうかは分からないわ、だから、ひょっとしたら違う原因かもしれない。 ジェニファー:でも、分かっている事は、3つの死体が、どれも同じ結果だったって事よ : ローレン:うーん・・・なんとも不思議な話ですね。 ローレン:それじゃぁ、今回の事件は、一旦、犯人がヴァンパイアという事で動くんですか? : ジェニファー:ええ、一応は、そうするしかないわね : ローレン:そうですか・・・ ローレン:そういえば、ヴァンパイアといえば、確かヨークシャーに・・・ : ジェニファー:そうなの、ヨークシャーのヘリンで、うちの職員がヴァンパイアの監視をしているんだけど・・・ : ローレン:それじゃぁ、その人に詳しく聞いてみるんですか? : ジェニファー:それが、今、その職員とは連絡が取れなくなっているの : ローレン:お休みされてるって事ですか? : ジェニファー:どうも、そうじゃないらしいのよ、でも、幾つかの方法で連絡してみたんだけど、どの方法でもダメなの。 : ローレン:どうしたんですかね? : ジェニファー:それで、少し調べて見たら、どうやらヘリンでも、何軒かの殺人事件があったらしくて・・・ : ローレン:その職員の方も殺されたって事ですか? : ジェニファー:いえ、殺された人のリストの中には、その職員の名前はなかったわ : ローレン:うーん、不思議ですね。 : ジェニファー:ええ、それで、気になってそのヨークシャーの殺人事件と、ヴァンパイアの資料を一通り見てみたんだけど・・・ ジェニファー:これ : ローレン:ん? ヨークシャーの死体にも首に切り跡ですか・・・ ローレン:しかも、この資料に書いてあるヴァンパイアの殺し方も同じ・・・・ : ジェニファー:ええ、そうなの : ローレン:じゃぁ、もう決まりですかね : ジェニファー:はぁ・・・ : ローレン:何をそんなに落ち込んでるんですか? ローレン:ジェニファーさんが、そんなに落ち込むなんて珍しいですね。 : ジェニファー:どうして、こういう案件が私の所に回ってくるのよ・・・ : ローレン:それはたまたま・・・まぁそれか、ジェニファーさんが、そういう運を持っているか : ジェニファー:はぁ・・・私はこういう事で協力を頼める人間を一人しか知らないのよ・・・ : ローレン:あぁ・・あの、やたらお金のかかる民間人 : ジェニファー:ったく、今度はいくら取られるのよ・・・ : ローレン:ははは、またレイモンドさんにお小言を言われちゃいそうですね ローレン:でも、まぁ、実際にはキチンと事件は解決してるんだし・・・ : ジェニファー:その解決の方法も問題なのよ : ローレン:・・・何かあったんですか? : ジェニファー:思い出したくもないわ : ローレン:そうですか・・・ : ジェニファー:はぁ・・・ : : ジェニファー(M):そして、その数時間後、私は二度と行きたくないと思っていた、アラン・フィンリー探偵事務所のドアを叩いていた ジェニファー(M): ジェニファー(M):アランの事務所で、私はアランに今回の事件の説明をしたのだが、驚いた事に、アランはこの件に関して、私達が調べた以上の情報を持っていた。 ジェニファー(M):しかし、驚く事はそれだけではなかった。 ジェニファー(M):この件には先約があり、その依頼主が、現在連絡が取れなくなっていた職員のエリス・ランシーであり、しかも、エリスは、犯人であるヴァンパイアの姉であるという話を聞かされた。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):結局、先約ありという事で、私はアランに今回の依頼を断られてしまった。 ジェニファー(M):しかし、当初の私の目的は、危険な人外であろうと思われる「今回の犯人」を殺す事だから、 ジェニファー(M):それについては、アランが先約の依頼を引き受けた事で、どうやら達成出来そうだ。 ジェニファー(M):しかもタダで。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):今回の案件は、話の経緯(いきさつ)から、図(はか)らずも、私がアランの手伝いをするという形となったが、低予算で目的が達成できるのであれば、まぁ、それもいいだろう。 ジェニファー(M): ジェニファー(M): ジェニファー(M):それから暫くの間、アランの事務所で、私とアランとエリスの三人は、ヴァンパイアの事について話をした。 ジェニファー(M):その話の中で、ヴァンパイアの目的が、どうやらヴァンパイアが儀式を行う為のルビーではないかという話になったのだが、 ジェニファー(M):そのルビーは、300年前に国の役人がヨークシャーから持ち去ってしまい、今はどこにあるのか分からないという事であった。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):アランには「この国の人間は、欲しいものは何でもかんでも持って来る」と、嫌味と冷ややかな目を向けられたが、 ジェニファー(M):国の役人の仕業であるなら、秘密情報部で何とか分かるかもしれないと思い、私はローレンに電話を掛ける事にした。 : ローレン:はい、ローレンです。 : ジェニファー:私よ、ジェニファー。 ジェニファー:ちょっとローレンに大至急調べて欲しい事があるの : ローレン:なんですか、調べて欲しい事って? : ジェニファー:300年前に、国の役人が、ヨークシャーから「Rubeus luna(ルベウス・ルナ)」というルビーをロンドンに持ち去ったみたいなの。 ジェニファー:そのルビーの行方(ゆくえ)を捜して貰えないかしら。 : ローレン:ちょっと待ってくださいね・・・ルベウス・・・ルナですか? ローレン:どういう経緯(いきさつ)のルビーなのか分かりますか? : ジェニファー:ええ、 ジェニファー:ヨークシャーのヴァンパイアが儀式に使ったというルビーで、元々はレディングという一族のものだったらしいわ。 : ローレン:わかりました。 あのヴァンパイア絡みの品なんですね。 ローレン:国の役人っていう話なら、案外直ぐに分かるかもしれませんね。 ローレン:それで、時間はどれくらい貰えます? : ジェニファー:打ち合わせ中に欲しいから、なるべく早くお願いしたいの : ローレン:分かりました、では、もし時間がかかりそうでも、ある程度の段階で、一旦連絡を入れます。 : ジェニファー:分かった、お願いね。 : : ジェニファー(M):それから30分程過ぎた頃、ローレンから折り返しの電話が掛かって来た。 : ローレン:ジェニファーさん、分かりましたよ。 ローレン:「Rubeus luna(ルベウス・ルナ)」は、確かに300年程前に我々の組織の前身である「英国秘密情報局(えいこくひみつじょうほうきょく)」の人間が、治安維持の目的と称(しょう)して、ロンドンに持ち帰っているようです。 : ジェニファー:治安維持の目的? : ローレン:ええ、 ローレン:ヨークシャーにそのルビーがあると、ヴァンパイアが復活した時に犠牲者が大勢でるからだそうです。 : ジェニファー:それはまた、大層(たいそう)な屁理屈(へりくつ)ね : ローレン:まぁ、そうですね。 ローレン:で、そのルビーなんですが、ロンドンに持ち帰った当初は、ルビーの凄さに加えて、ヴァンパイアの逸話(いつわ)という付加価値が加わって、社交界ではちょっとした話題になったようです。 : ジェニファー:やっぱり、珍しいから欲しかったって事じゃないの・・・ったく・・・ ジェニファー:それで? : ローレン:当時は誰が所有するかで揉めたようで、取り合いにまでなったそうなんです。 ローレン:ですが、最初に所有した者が不思議な死に方をして、次の所有者も不慮(ふりょ)の事故にあって死んだりと、数年間のうちに持ち主がどんどん変わって行ったようです。 : ジェニファー:そうだったの・・・ ジェニファー:それで、ルビーは、今は何処にあるの? : ローレン:それが、そのうちに社交界では「不吉なルビー」と呼ばれるようになり、いつしか、どこにあるのか、誰が持っているのかが分からなくなったという事です。 : ジェニファー:そうなの・・・ ジェニファー:結局、所在は分からなかったという事なの? : ローレン:いえいえ ローレン:私はこれでも諜報機関の人間ですからね、資料に無いから分からないとは言いませんよ。 ローレン:そんな「曰く付き(いわくつき)」のルビーなら、絶対に欲しがる人がいるでしょ。 ローレン:ですから、欲しがりそうな所を探してみました。 : ジェニファー:欲しがりそうな所? : ローレン:ええ ローレン:ヴァンピリウム美術館です。 ローレン:あそこは、その界隈(かいわい)では有名な「オカルト好き」ですからね、名前もヴァンピリウムってくらいですし。 : ジェニファー:ヴァンピリウムって? : ローレン:ラテン語で「ヴァンパイアの居場所」って感じの意味になりますかね。 ローレン:で、そこの所蔵品の一覧を調べてみたら、やっぱりありましたよ「Rubeus luna(ルベウス・ルナ)」が。 ローレン:他にも幾つか調査候補(ちょうさこうほ)はあったんですが、一発でヒットしましたよ。 : ジェニファー:流石ね。 で、そこにあるってのは本当なの? : ローレン:ええ、でも今は一般公開はしていないようですね。 ローレン:特別な展示室という所で厳重に保管されていて、普段は人を入れないらしいです。 : ジェニファー:そうなの・・・ : ローレン:どうします、ジェニファーさん、あそこは公的機関ですし、私達が頼めば見せてもらう事くらいは出来ると思いますよ。 : ジェニファー:ありがとうローレン、助かったわ。 ジェニファー:見学については、ちょっとこっちで調整するから、また、後で連絡するわ。 : ローレン:わかりました、では、連絡をお待ちしています。 : ジェニファー(M):私はローレンとの電話を切った。 ジェニファー(M):そして、アランに今電話で聞いた事を伝え、私達は、その日のうちに、ヴァンピリウム美術館へと向う事となった。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):美術館では、ローレンが事前に連絡を入れておいてくれたお陰で、学芸員が私達を出迎えてくれた。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):案内された展示室で、私達は思いがけず、ヴァンパイアの、シャノン・レディングと遭遇した。 ジェニファー(M):結局、展示室にあったルビーはレプリカだった為、シャノンは何も取らずに去って行ったのだが、 ジェニファー(M):シャノンと遭遇する際に、展示室の大きな戸棚が倒され、私をとっさに庇(かば)ったアランが、左腕を負傷してしまった。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):シャノンは取り逃がす、アランは負傷、ルビーはレプリカという散々な結果で、私達は美術館を後にした。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):私はアランと別れた後、秘密情報部のオフィスに戻って、ローレンに美術館で起きた事の次第を話した。 : ローレン:そうですか、展示されていたルビーはレプリカだったんですか・・・ : ジェニファー:ええ、シャノンもそれに気づいて、何も取らずに去って行ったわ。 ジェニファー:それにしても、どうして美術館の展示品はレプリカだったのかしら・・・ : ローレン:そうですよね、美術館にレプリカがある事自体は珍しくはないのでしょうが、 ローレン:どうしてレプリカを、わざわざ人を入れない特別な展示室で厳重に保管してたのかって事ですよね。 : ジェニファー:美術館の職員がレプリカだと気づかなかったとか : ローレン:まさか・・・だって、ジェニファーさんと一緒に行った民間人も、そのルビーがレプリカだって気が付いたんですよね? ローレン:だったら、美術館の職員がレプリカだと気づかないって事は考えにくいんじゃないんですか? : ジェニファー:そうよね・・・ : ローレン:ちなみに、ジェニファーさんの連絡を受けてから、ヴァンピリウム美術館以外の候補でも「Rubeus luna(ルベウス・ルナ)」について、調べてみたのですが、どこにもヒットはしませんでした。 : ジェニファー:そうなると、本物の「Rubeus luna(ルベウス・ルナ)」は、もうどこにあるか分からない・・・か。 : ローレン:あるいは、ヴァンピリウム美術館が本物の「Rubeus luna(ルベウス・ルナ)」も所蔵しているか・・・ですよね。 : ジェニファー:やっぱり、怪しいわよね。 : ローレン:ええ、かなり。 ローレン:あの美術館は、公的機関ですからね、ルビーの存在を隠したくても所蔵品の一覧からルビーを消す訳には行きません。 : ジェニファー:だから、レプリカを作ってすり替える・・・ : ローレン:そう考えると、レプリカを厳重に保管していたとしても、辻褄(つじつま)が合いますよね。 : ジェニファー:一度、美術館を調べてみるしかないか・・・ : ローレン:そうですね、他にはもう当てはないですし : ジェニファー:そうね : ジェニファー(M):私とローレンがそんな会話をしていると、アランから電話が掛かって来た : ジェニファー:はい、ジェニファー・コイル : ジェニファー(M):アランは、探偵事務所で、シャノンを殺した事を報告してくれた。 ジェニファー(M):アランは電話の中で、この件の依頼人である、エリスが既にシャノンに殺されているだろうという事、 ジェニファー(M):シャノンが本物のヴァンパイアだった事、そして、シャノンの死体が消えてなくなってしまった事を語った。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):アランの電話を受け、私はアラン・フィンリー探偵事務所へ向かった ジェニファー(M):それと同時に、ローレンにエリスの宿泊先を捜索するよう依頼した。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):私がアラン・フィンリー探偵事務所に着くと、そこにはピアノ線が不規則に巻き付いたシャノンの衣服があった。 ジェニファー(M):衣服は、シャツのボタンやベルトなどがキチンと閉められており、死体だけが消えて無くなった事を物語っていた。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):私が証拠品として衣服を回収していると、エリスの宿泊先を捜索をしているローレンから電話が入った。 : ローレン:ジェニファーさん、ジェニファーさんの言った通り、エリス・ランシーの宿泊先には、エリスの死体がありました。 : ジェニファー:そう・・・ : ローレン:でも、この死体、同じ犯人が殺したにしては、他の死体とは、明らかに違っていますね。 : ジェニファー:どういう事? : ローレン:死体の首筋には、2つの歯の跡はありますが、ナイフで切ったような傷はありません。 ローレン:この死体に関しては、他の死体と比べると、犯人は随分と丁寧に扱ったように見られます。 ローレン:死体は、ベッドに寝かされて、衣服の乱れもなく、まるで眠るように死んでいます。 ローレン:それと、死体には、防御創(ぼうぎょそう)が見られませんから、殺される時に抵抗しなかったんじゃないかと思うんです。 : ジェニファー:防御創(ぼうぎょそう)がないのは、エリスに気づかれる前に、シャノンが殺したからとか : ローレン:いえ、死体は何やら見た事のないコインを、強く握りしめていました。 ローレン:死体の状態からは、死んでから握らされたものではなく、死ぬ前に握っていたと考えられます。 : ジェニファー:そうなの・・・ : ローレン:何か儀式のような事でも行われたのでしょうか? : ジェニファー:それは分からないわね。 ジェニファー:今となっては、二人の中で何があったのかは : ローレン:そうですね・・・ : ジェニファー:ローレン、その死体の処理に関してなんだけど、私に一任(いちにん)させて貰えないかしら : ローレン:どういう事でしょうか? : ジェニファー:その死体は解剖するんじゃなくて、故郷のヨークシャーにそのまま葬ってあげたいの : ローレン:そうですか・・・そういう条件で何かの取引をしたって事ですね。 : ジェニファー:ええ、察しがいいわね、お願い出来るかしら。 : ローレン:分かりました、では、そのように手続きをしておきます。 : ジェニファー:ありがとう、助かるわ : ジェニファー(M):そして、私はエリスの死体をアランに引き渡した。 ジェニファー(M):その後、アランからエリスの死体をヨークシャーに持ち帰り、丁寧に埋葬したという連絡をもらった。

0: 0:ジェニファー・コイルの憂鬱 0: 0: ジェニファー(M):とある朝、ロンドンのイーストエンドで女性の死体が発見された。 ジェニファー(M):その死体の首の左脇辺りには、刃物のような物で切られた跡があったという ジェニファー(M):通常、こういった殺人事件は、警察の仕事であり、私達、秘密情報部には無縁の仕事だ。 ジェニファー(M):今回事件も、当初、死体は通常通り警察により検死(けんし)が行われた。 ジェニファー(M):しかし、その検死結果を受け、この事件には秘密情報部が介入する事となった。 : ジェニファー:ローレン、ちょっとお願い出来るかしら。 : ローレン:どうしたんですか、ジェニファーさん。 : ジェニファー:今日、ロンドン警視庁から死体が届けられるから、鑑識(かんしき)部門に回してくれる? ジェニファー:死体をもう一度、我々の視点で調査するようにって伝えて欲しいの。 : ローレン:分かりました。 ローレン:ちなみに、それはどんな死体なんですか? ローレン:警察から死体が回ってくるなんて、そんなに無い事ですよね。 : ジェニファー:本来はそうなんだけど・・・・最近続いててね : ローレン:前回は確か・・・あぁ、あの殺人鬼の。 ローレン:そういえば、あれもジェニファーさんでしたね : ジェニファー:ええ、嫌な事件だったわよ。 いろいろとね : ローレン:「いろいろと」ですか・・・大変だったんですね。 ローレン:で、今回のは? : ジェニファー:うーん・・・首の左脇辺りに刃物の切り跡があるんだけど、死因が不明なんですって : ローレン:首に切り跡があるなら、普通は失血死(しっけつし)だと思うんですけどね。 : ジェニファー:そうじゃないから、うちに来るんでしょ : ローレン:まぁ、そうですね : ジェニファー:その死体はあまり出血をしていないらしいの : ローレン:つまり、首の傷は死んでから付けられたって事ですか? : ジェニファー:ええ、そうなるわね。 ジェニファー:でも、傷は首にしか付いてないし、血液からも疑わしい成分は検出されなかったんですって。 : ローレン:それで、うちに。 : ジェニファー:そういう事。 ジェニファー:嫌な事件にならなきゃいいけどね・・・ : : ジェニファー(M):私はそれから、資料の作成や警察から送られてきたデータや写真のファイリングなどの処理に追われ、気が付いたら昼になっていた。 : ジェニファー:うーん・・・終わったぁ。 ジェニファー:あぁ、もうこんな時間かぁ・・・朝食は食べられなかったな ジェニファー:じゃぁ、仕事も一段落したし、今日のランチは、少し遠出をして、あの店まで行ってみようかな。 : ジェニファー(M):この時の私はまだ、この後に起こる一連の事件を想像すらしていなかった・・・ ジェニファー(M): ジェニファー(M):そして、死体の発見から数日後の午前4時頃、突然、私の携帯電話が鳴った。 ジェニファー(M):その日夜勤をしていた職員のローレンからの電話だった。 : ジェニファー:こんな時間に・・・ ジェニファー:はい、ジェニファー・コイル : ローレン:ジェニファーさん、今日、また例の殺人事件が起きたようです。 : ジェニファー:何ですって・・・ちょっと待ってて、直ぐに行くわ : ジェニファー(M):私はローレンからの連絡を受けて、直ぐに秘密情報部のオフィスへと向かった ジェニファー(M):オフィスに到着した私は、ローレンから今回の事件の概要(がいよう)を聞いた。 ジェニファー(M):昨日の夜中にイーストエンドの路地裏で首の左脇に切り跡のある死体が発見されたらしい。 ジェニファー(M):首に切り跡のある死体はこれで3体目になる。 ジェニファー(M):現在、死体は警察が回収し、検死を行っているが、今の所、まだ死亡推定時刻や死因は分かっていないという事だった。 : ローレン:一応、警察で一通りの検死を行った後、これまでと同じだったら、こちらに死体を回すそうです。 : ジェニファー:そう、分かったわ : ローレン:あと、死体発見当時の状況や、現在分かっているデータなどの、警察から連携された情報は、全てジェニファーさんのメールに送ってあります。 : ジェニファー:ありがとう、助かるわ ジェニファー:これまでの2つの死体の調査結果はまだ来てないわよね? : ローレン:まだですね。 ローレン:もし今回の死体がこっちに来るなら、比較の為に、もう数日はかかるんじゃないですかね。 : ジェニファー:そうね : ローレン:さて・・・じゃぁ、ちょっと早いですけど、私はもうこれで帰りますね。 : ジェニファー:分かったわ、お疲れ様。 : ジェニファー(M):夜勤明けのローレンを見送ったその二日後、3つの死体の調査結果が私の元に送られてくる事となる。 0: 0:(二日後) 0: ジェニファー:はぁ・・・ ジェニファー:また、あそこに行かなきゃいけないのか・・・ : ジェニファー(N):私は、秘密情報部の一室で、調査結果を見ながら、何とも言えない失意(しつい)を噛みしめていた : ローレン:どうしたんですか、ジェニファーさん : ジェニファー:ちょっとね・・・ : ローレン:例の死体の調査結果が届いたんですか? : ジェニファー:ええ・・・そうなんだけど・・・ : ローレン:どうだったんですか? : ジェニファー:これを見て頂戴 : ジェニファー(N):そう言って私はローレンに調査結果を見せた : ローレン:二つの穴と、唾液の成分? ローレン:へー、あのナイフの傷は、噛み跡を隠す為に付けたものだったんですね。 : ジェニファー:ええ : ローレン:首に噛みつくなんて、まるで吸血鬼(ヴァンパイア)みたいですね。 ローレン:この犯人は、ヴァンパイアになりたかったんですかね、それとも、本当に自分がヴァンパイアだと思ってるとか。 : ジェニファー:そうだといいんだけど : ローレン:どういう事ですか? : ジェニファー:死亡推定時刻を見て。 : ローレン:この時刻がどうかしたんですか? : ジェニファー:死体発見時とあまり変わらないのよ。 : ローレン:それって、死体をどっかから持って来たのではなく、死体の発見現場に被害者の死因があるって事ですか? : ジェニファー:そう、 ジェニファー:でも、死体の血液からは死因となる成分は検出されていないし、死体の傷は首にしかないのよ。 ジェニファー:そして、ナイフの切り傷からは血はあまり出ていない : ローレン:つまり、噛みついた事が死因だと? : ジェニファー:そういう事 : ローレン:ショック死ですかね? でも、それだと検死での特定は難しいと思いますけど・・・ : ジェニファー:そうね、検死ではショック死かどうかは分からないわ、だから、ひょっとしたら違う原因かもしれない。 ジェニファー:でも、分かっている事は、3つの死体が、どれも同じ結果だったって事よ : ローレン:うーん・・・なんとも不思議な話ですね。 ローレン:それじゃぁ、今回の事件は、一旦、犯人がヴァンパイアという事で動くんですか? : ジェニファー:ええ、一応は、そうするしかないわね : ローレン:そうですか・・・ ローレン:そういえば、ヴァンパイアといえば、確かヨークシャーに・・・ : ジェニファー:そうなの、ヨークシャーのヘリンで、うちの職員がヴァンパイアの監視をしているんだけど・・・ : ローレン:それじゃぁ、その人に詳しく聞いてみるんですか? : ジェニファー:それが、今、その職員とは連絡が取れなくなっているの : ローレン:お休みされてるって事ですか? : ジェニファー:どうも、そうじゃないらしいのよ、でも、幾つかの方法で連絡してみたんだけど、どの方法でもダメなの。 : ローレン:どうしたんですかね? : ジェニファー:それで、少し調べて見たら、どうやらヘリンでも、何軒かの殺人事件があったらしくて・・・ : ローレン:その職員の方も殺されたって事ですか? : ジェニファー:いえ、殺された人のリストの中には、その職員の名前はなかったわ : ローレン:うーん、不思議ですね。 : ジェニファー:ええ、それで、気になってそのヨークシャーの殺人事件と、ヴァンパイアの資料を一通り見てみたんだけど・・・ ジェニファー:これ : ローレン:ん? ヨークシャーの死体にも首に切り跡ですか・・・ ローレン:しかも、この資料に書いてあるヴァンパイアの殺し方も同じ・・・・ : ジェニファー:ええ、そうなの : ローレン:じゃぁ、もう決まりですかね : ジェニファー:はぁ・・・ : ローレン:何をそんなに落ち込んでるんですか? ローレン:ジェニファーさんが、そんなに落ち込むなんて珍しいですね。 : ジェニファー:どうして、こういう案件が私の所に回ってくるのよ・・・ : ローレン:それはたまたま・・・まぁそれか、ジェニファーさんが、そういう運を持っているか : ジェニファー:はぁ・・・私はこういう事で協力を頼める人間を一人しか知らないのよ・・・ : ローレン:あぁ・・あの、やたらお金のかかる民間人 : ジェニファー:ったく、今度はいくら取られるのよ・・・ : ローレン:ははは、またレイモンドさんにお小言を言われちゃいそうですね ローレン:でも、まぁ、実際にはキチンと事件は解決してるんだし・・・ : ジェニファー:その解決の方法も問題なのよ : ローレン:・・・何かあったんですか? : ジェニファー:思い出したくもないわ : ローレン:そうですか・・・ : ジェニファー:はぁ・・・ : : ジェニファー(M):そして、その数時間後、私は二度と行きたくないと思っていた、アラン・フィンリー探偵事務所のドアを叩いていた ジェニファー(M): ジェニファー(M):アランの事務所で、私はアランに今回の事件の説明をしたのだが、驚いた事に、アランはこの件に関して、私達が調べた以上の情報を持っていた。 ジェニファー(M):しかし、驚く事はそれだけではなかった。 ジェニファー(M):この件には先約があり、その依頼主が、現在連絡が取れなくなっていた職員のエリス・ランシーであり、しかも、エリスは、犯人であるヴァンパイアの姉であるという話を聞かされた。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):結局、先約ありという事で、私はアランに今回の依頼を断られてしまった。 ジェニファー(M):しかし、当初の私の目的は、危険な人外であろうと思われる「今回の犯人」を殺す事だから、 ジェニファー(M):それについては、アランが先約の依頼を引き受けた事で、どうやら達成出来そうだ。 ジェニファー(M):しかもタダで。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):今回の案件は、話の経緯(いきさつ)から、図(はか)らずも、私がアランの手伝いをするという形となったが、低予算で目的が達成できるのであれば、まぁ、それもいいだろう。 ジェニファー(M): ジェニファー(M): ジェニファー(M):それから暫くの間、アランの事務所で、私とアランとエリスの三人は、ヴァンパイアの事について話をした。 ジェニファー(M):その話の中で、ヴァンパイアの目的が、どうやらヴァンパイアが儀式を行う為のルビーではないかという話になったのだが、 ジェニファー(M):そのルビーは、300年前に国の役人がヨークシャーから持ち去ってしまい、今はどこにあるのか分からないという事であった。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):アランには「この国の人間は、欲しいものは何でもかんでも持って来る」と、嫌味と冷ややかな目を向けられたが、 ジェニファー(M):国の役人の仕業であるなら、秘密情報部で何とか分かるかもしれないと思い、私はローレンに電話を掛ける事にした。 : ローレン:はい、ローレンです。 : ジェニファー:私よ、ジェニファー。 ジェニファー:ちょっとローレンに大至急調べて欲しい事があるの : ローレン:なんですか、調べて欲しい事って? : ジェニファー:300年前に、国の役人が、ヨークシャーから「Rubeus luna(ルベウス・ルナ)」というルビーをロンドンに持ち去ったみたいなの。 ジェニファー:そのルビーの行方(ゆくえ)を捜して貰えないかしら。 : ローレン:ちょっと待ってくださいね・・・ルベウス・・・ルナですか? ローレン:どういう経緯(いきさつ)のルビーなのか分かりますか? : ジェニファー:ええ、 ジェニファー:ヨークシャーのヴァンパイアが儀式に使ったというルビーで、元々はレディングという一族のものだったらしいわ。 : ローレン:わかりました。 あのヴァンパイア絡みの品なんですね。 ローレン:国の役人っていう話なら、案外直ぐに分かるかもしれませんね。 ローレン:それで、時間はどれくらい貰えます? : ジェニファー:打ち合わせ中に欲しいから、なるべく早くお願いしたいの : ローレン:分かりました、では、もし時間がかかりそうでも、ある程度の段階で、一旦連絡を入れます。 : ジェニファー:分かった、お願いね。 : : ジェニファー(M):それから30分程過ぎた頃、ローレンから折り返しの電話が掛かって来た。 : ローレン:ジェニファーさん、分かりましたよ。 ローレン:「Rubeus luna(ルベウス・ルナ)」は、確かに300年程前に我々の組織の前身である「英国秘密情報局(えいこくひみつじょうほうきょく)」の人間が、治安維持の目的と称(しょう)して、ロンドンに持ち帰っているようです。 : ジェニファー:治安維持の目的? : ローレン:ええ、 ローレン:ヨークシャーにそのルビーがあると、ヴァンパイアが復活した時に犠牲者が大勢でるからだそうです。 : ジェニファー:それはまた、大層(たいそう)な屁理屈(へりくつ)ね : ローレン:まぁ、そうですね。 ローレン:で、そのルビーなんですが、ロンドンに持ち帰った当初は、ルビーの凄さに加えて、ヴァンパイアの逸話(いつわ)という付加価値が加わって、社交界ではちょっとした話題になったようです。 : ジェニファー:やっぱり、珍しいから欲しかったって事じゃないの・・・ったく・・・ ジェニファー:それで? : ローレン:当時は誰が所有するかで揉めたようで、取り合いにまでなったそうなんです。 ローレン:ですが、最初に所有した者が不思議な死に方をして、次の所有者も不慮(ふりょ)の事故にあって死んだりと、数年間のうちに持ち主がどんどん変わって行ったようです。 : ジェニファー:そうだったの・・・ ジェニファー:それで、ルビーは、今は何処にあるの? : ローレン:それが、そのうちに社交界では「不吉なルビー」と呼ばれるようになり、いつしか、どこにあるのか、誰が持っているのかが分からなくなったという事です。 : ジェニファー:そうなの・・・ ジェニファー:結局、所在は分からなかったという事なの? : ローレン:いえいえ ローレン:私はこれでも諜報機関の人間ですからね、資料に無いから分からないとは言いませんよ。 ローレン:そんな「曰く付き(いわくつき)」のルビーなら、絶対に欲しがる人がいるでしょ。 ローレン:ですから、欲しがりそうな所を探してみました。 : ジェニファー:欲しがりそうな所? : ローレン:ええ ローレン:ヴァンピリウム美術館です。 ローレン:あそこは、その界隈(かいわい)では有名な「オカルト好き」ですからね、名前もヴァンピリウムってくらいですし。 : ジェニファー:ヴァンピリウムって? : ローレン:ラテン語で「ヴァンパイアの居場所」って感じの意味になりますかね。 ローレン:で、そこの所蔵品の一覧を調べてみたら、やっぱりありましたよ「Rubeus luna(ルベウス・ルナ)」が。 ローレン:他にも幾つか調査候補(ちょうさこうほ)はあったんですが、一発でヒットしましたよ。 : ジェニファー:流石ね。 で、そこにあるってのは本当なの? : ローレン:ええ、でも今は一般公開はしていないようですね。 ローレン:特別な展示室という所で厳重に保管されていて、普段は人を入れないらしいです。 : ジェニファー:そうなの・・・ : ローレン:どうします、ジェニファーさん、あそこは公的機関ですし、私達が頼めば見せてもらう事くらいは出来ると思いますよ。 : ジェニファー:ありがとうローレン、助かったわ。 ジェニファー:見学については、ちょっとこっちで調整するから、また、後で連絡するわ。 : ローレン:わかりました、では、連絡をお待ちしています。 : ジェニファー(M):私はローレンとの電話を切った。 ジェニファー(M):そして、アランに今電話で聞いた事を伝え、私達は、その日のうちに、ヴァンピリウム美術館へと向う事となった。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):美術館では、ローレンが事前に連絡を入れておいてくれたお陰で、学芸員が私達を出迎えてくれた。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):案内された展示室で、私達は思いがけず、ヴァンパイアの、シャノン・レディングと遭遇した。 ジェニファー(M):結局、展示室にあったルビーはレプリカだった為、シャノンは何も取らずに去って行ったのだが、 ジェニファー(M):シャノンと遭遇する際に、展示室の大きな戸棚が倒され、私をとっさに庇(かば)ったアランが、左腕を負傷してしまった。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):シャノンは取り逃がす、アランは負傷、ルビーはレプリカという散々な結果で、私達は美術館を後にした。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):私はアランと別れた後、秘密情報部のオフィスに戻って、ローレンに美術館で起きた事の次第を話した。 : ローレン:そうですか、展示されていたルビーはレプリカだったんですか・・・ : ジェニファー:ええ、シャノンもそれに気づいて、何も取らずに去って行ったわ。 ジェニファー:それにしても、どうして美術館の展示品はレプリカだったのかしら・・・ : ローレン:そうですよね、美術館にレプリカがある事自体は珍しくはないのでしょうが、 ローレン:どうしてレプリカを、わざわざ人を入れない特別な展示室で厳重に保管してたのかって事ですよね。 : ジェニファー:美術館の職員がレプリカだと気づかなかったとか : ローレン:まさか・・・だって、ジェニファーさんと一緒に行った民間人も、そのルビーがレプリカだって気が付いたんですよね? ローレン:だったら、美術館の職員がレプリカだと気づかないって事は考えにくいんじゃないんですか? : ジェニファー:そうよね・・・ : ローレン:ちなみに、ジェニファーさんの連絡を受けてから、ヴァンピリウム美術館以外の候補でも「Rubeus luna(ルベウス・ルナ)」について、調べてみたのですが、どこにもヒットはしませんでした。 : ジェニファー:そうなると、本物の「Rubeus luna(ルベウス・ルナ)」は、もうどこにあるか分からない・・・か。 : ローレン:あるいは、ヴァンピリウム美術館が本物の「Rubeus luna(ルベウス・ルナ)」も所蔵しているか・・・ですよね。 : ジェニファー:やっぱり、怪しいわよね。 : ローレン:ええ、かなり。 ローレン:あの美術館は、公的機関ですからね、ルビーの存在を隠したくても所蔵品の一覧からルビーを消す訳には行きません。 : ジェニファー:だから、レプリカを作ってすり替える・・・ : ローレン:そう考えると、レプリカを厳重に保管していたとしても、辻褄(つじつま)が合いますよね。 : ジェニファー:一度、美術館を調べてみるしかないか・・・ : ローレン:そうですね、他にはもう当てはないですし : ジェニファー:そうね : ジェニファー(M):私とローレンがそんな会話をしていると、アランから電話が掛かって来た : ジェニファー:はい、ジェニファー・コイル : ジェニファー(M):アランは、探偵事務所で、シャノンを殺した事を報告してくれた。 ジェニファー(M):アランは電話の中で、この件の依頼人である、エリスが既にシャノンに殺されているだろうという事、 ジェニファー(M):シャノンが本物のヴァンパイアだった事、そして、シャノンの死体が消えてなくなってしまった事を語った。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):アランの電話を受け、私はアラン・フィンリー探偵事務所へ向かった ジェニファー(M):それと同時に、ローレンにエリスの宿泊先を捜索するよう依頼した。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):私がアラン・フィンリー探偵事務所に着くと、そこにはピアノ線が不規則に巻き付いたシャノンの衣服があった。 ジェニファー(M):衣服は、シャツのボタンやベルトなどがキチンと閉められており、死体だけが消えて無くなった事を物語っていた。 ジェニファー(M): ジェニファー(M):私が証拠品として衣服を回収していると、エリスの宿泊先を捜索をしているローレンから電話が入った。 : ローレン:ジェニファーさん、ジェニファーさんの言った通り、エリス・ランシーの宿泊先には、エリスの死体がありました。 : ジェニファー:そう・・・ : ローレン:でも、この死体、同じ犯人が殺したにしては、他の死体とは、明らかに違っていますね。 : ジェニファー:どういう事? : ローレン:死体の首筋には、2つの歯の跡はありますが、ナイフで切ったような傷はありません。 ローレン:この死体に関しては、他の死体と比べると、犯人は随分と丁寧に扱ったように見られます。 ローレン:死体は、ベッドに寝かされて、衣服の乱れもなく、まるで眠るように死んでいます。 ローレン:それと、死体には、防御創(ぼうぎょそう)が見られませんから、殺される時に抵抗しなかったんじゃないかと思うんです。 : ジェニファー:防御創(ぼうぎょそう)がないのは、エリスに気づかれる前に、シャノンが殺したからとか : ローレン:いえ、死体は何やら見た事のないコインを、強く握りしめていました。 ローレン:死体の状態からは、死んでから握らされたものではなく、死ぬ前に握っていたと考えられます。 : ジェニファー:そうなの・・・ : ローレン:何か儀式のような事でも行われたのでしょうか? : ジェニファー:それは分からないわね。 ジェニファー:今となっては、二人の中で何があったのかは : ローレン:そうですね・・・ : ジェニファー:ローレン、その死体の処理に関してなんだけど、私に一任(いちにん)させて貰えないかしら : ローレン:どういう事でしょうか? : ジェニファー:その死体は解剖するんじゃなくて、故郷のヨークシャーにそのまま葬ってあげたいの : ローレン:そうですか・・・そういう条件で何かの取引をしたって事ですね。 : ジェニファー:ええ、察しがいいわね、お願い出来るかしら。 : ローレン:分かりました、では、そのように手続きをしておきます。 : ジェニファー:ありがとう、助かるわ : ジェニファー(M):そして、私はエリスの死体をアランに引き渡した。 ジェニファー(M):その後、アランからエリスの死体をヨークシャーに持ち帰り、丁寧に埋葬したという連絡をもらった。