台本概要

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タイトル 痛みは悪魔、快楽は神
作者名 早錐 蓼  (@sagirit723)
ジャンル その他
演者人数 9人用台本(男6、女2、不問1) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 商用、非商用問わず作者へ連絡要
説明 とある国のお話、「神の薬」を売っている商人と神を広める為に外国から宣教活動に来た聖職者の話
正直世に出すか考えるほどの結構エグい内容になっていますのでご注意ください。
ただ、とてもいい作品なので是非見てください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
商人 - 普段は明るいが内心は人に対して不信感を持っている
聖職者 - 純粋、闇が一つもなく人を見捨てることが出来ない
少年 - 明るくて笑顔がある
ナレーション 不問 - ナレーション
客1 - ヤク中
男1 - ヤク中モブ
女1 - ヤク中モブ
男2 - ヤク中モブ
女2 - ヤク中モブ
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
ナレーション    18世紀中ごろに杏林(きょうりん)という国があった。 銀や金などの資源と茶葉や小麦の農業が盛んな国であり他国に対しての貿易で国の財政も潤っていた。 住んでいる国民も政治家も廃ることはないだろうと思い生活をしていたがこの国はもう現代の地図に載っていない。 この話はそんな国で万物に聞く「神の薬」を売っていた商人と廃れた国に「神」を普及しようとした宣教者の物語である。 少年        お兄さん、「神の薬」って書いてあるこれは何に聞くんだい? 商人        ん?あぁこれですか。咳やら下痢やら喘息なんかがこの町で流行っていますよね? みんな苦しそうだしつらいそうにしています。なので輸入品の中からたまたま見つけたこの薬を 売ってみることにしました。この薬は煙管に入れて火を付けて出た煙を吸うと吸った人間は 今まで苦しんでいたはずの病気を忘れたんじゃないかってくらいに幸せな顔をする。 坊やは元気そうで薬なんていらなそうですけどなぜ薬を求めているんですか? 少年        おいらはいらないけど母ちゃんが汚い煙と砂を吸ったみたいで喘息が止まらないんだ。 それに腰とかが痛いみたいで毎日苦しんでいるんだよ。 どうにかしたいんだけどおいら金がなくて医者にも連れていけないんだ。 商人        そうか、それはつらいですよね。じゃあ話をしてくれたお礼にこの薬と煙管をあげますよ。火打石はあるかい? 少年        え、いいよそんなお兄さんにも生活があるでしょ?ただでもらうなんてそんなの申し訳なくて仕方ないよ。 商人        子供ってのは笑顔で物を貰うのがお仕事なんですよ。それにただじゃないですとも。 坊やが稼ぐようになったその時はこの薬のお代を持ってきてくださいな。 この契約でしたら坊やも罪悪感なくそれを持っていけますよね。それでいいですか? 少年        出世払いってやつだね!分かった!じゃあその時はまたここに来るよ! 商人        ふふ、じゃあどうぞ。あんまり吸わせすぎてはいけませんよ。 少年        ありがとう!大事にするよ! ナレーション    少年は商人からもらった煙管と薬をもって家へと走っていった。 商人        あーあ、あんなに急いだらこけちゃいますよ。はぁ明日から別の場所で商売をするかな。 ナレーション    商人は最近輸入されてきた「神の薬」を安価で売っていた。元々輸入品を仕入れて売っていたこの男は最近 他の商人は信じもしなかった「神の薬」に目を付けてこの国で唯一この薬を売り始めた。 聖職者       優しいんですね。輸入品だからだいぶ高いはずなのに。 商人        あら見られていたんですね、のぞき見なんて趣味が悪いです。お兄さん。あなたも薬が欲しくて来たのですか? 聖職者       いや、私は結構です。独身ですし体も元気ですので大丈夫ですよ。 商人        そうですか、私は忙しんで買う気がないのでしたらおかえりください。 聖職者       私の目にはお客さんがいない様に見えますが? 商人        今度は嫌味ですか?全く、話したい話があるならさっさと話してくださいな。 聖職者       流石商売人ですね。お客さんが何したいかすぐわかるなんて。 商人        買い物もしていない人をお客さんとは言わないですよ。 聖職者       なら、この煙管を1つと薬を2つくださいな。 商人        はい、毎度あり。それで話したい事ってのは何ですか? 聖職者       あなたは神を信じているのでしょうか? ナレーター     男は懐から分厚い本を取り出した。男は他国から宣教の為に来た牧師だった。 商人        あぁなんだ聖職者の方でしたか。早く言ってくれたら意地悪を言わなくて済んだのに。出身はどこですか。 聖職者       アセノリアです。 商人        なるほどね、暇なんで是非お話お聞かせください。ちょっと暇だからあなたが信じている神様のお話を           聞かせてくださいな。 ナレーター     この国は特に輸入の規制をしているわけでもないので各国の商人や文化が集まっている。           そのため今までになかった宗教を伝道するためにいろんな教えを伝える宣教者が渡来していた。 聖職者       ありがとうございます。もう1ヶ月以上こうやって声をかけているのですが誰も話を聞いてくれなくて… 商人        そりゃそうでしょうね、この国はどんどんと栄えていますがそのせいで民衆は昔あったはずの「余裕」が           なくなりました。金の事なんて考えてなかった時代は義理人情でやり取りしていたんですが今じゃ感情が           死んだみたいに仕事や生活に追われています。そのおかげで国はどんどん栄えてもっと住みやすくする為に           自然環境を壊し工場やら道路を作った。それの影響で体を壊す国民が増えてねもっと生活を苦しめる           ようになった。国民はまるで無機質に生きる死体ですよ。そんな奴らに宗教の話なんて伝わるわけがないですよね。 聖職者       なるほど、それならこの国にも神の教えが必要ですね。           神は私たちを大切にしたいと思ってので祈り、神の教えを信じることで安らぎや幸せを与えてくださります。           仕事は何のためにしているのですか?生きる為でしょ?           そのためになぜ苦しむ必要があるのでしょうか。もっと気楽に生きる為にも神が必要なのです。 商人        ふーん、私もこうやって神の薬を売っているのでそりゃみんなが楽に           なってくれたらうれしいです。ですがね、祈ったり教えを信じたり実行しないと救われないのはどうですかね?           それでまた苦労するんじゃないですか? 聖職者       では、質問しますがあなたが売っている神の薬は必要としている           人の元に必要な分勝手に届くのですか?そんなことないですよね。           あなたの事を信じてここで買う必要があります。           何か願いを叶えるためには自分で考え動かないといけないのです。           その考えた道が違う道でしたら不幸せにまっしぐらになりませんか? ナレーター     宣教者は身振り手振りをしてニコニコしながら説明した。           商人はその話を聞いて宣教者の目を見て笑った。 商人        はははは、そりゃそうですね。動けるときに動けないと救う道もないですね。           でも一つ思うのですが、神様が作った世界なのにそもそもなぜ人を苦しめる病気だとか死とかがあるのでしょうか? 聖職者       確かにこの国を作ったのは神様です、ですが今この世界を支配しているのは悪魔です。           悪魔が支配しているので苦しい事や悲しいことが起きるのです。 商人        なんで今の世の中を悪魔が牛耳っているんですか? 聖職者       悪魔はこの世界を自由に生きるべきだと考え人類を堕落させ死という呪いを与えた。           神はそれに怒りましたがすぐに世界を滅ぼすのではなく今は悪魔に世界を支配させ後の滅びの日まで           人類にどの道に進むか選択肢を与えてくれているのです。 商人        ふーん、でも自由に生きるのってそんなに悪い事ですかね?           神様に言われた通りに生きる必要ってホントにあるのかい? 聖職者       さっきあなたがおっしゃったとおりですが、人類が選択してこの世界を開拓している           この状況で幸せになっている人は何人いるのでしょうか? 商人        それもそうですね、いったいなんのためにこのくにははってんしているのでしょうかね。 ナレーション    二人は産業革命で灰色になった空を見て商人は煙管に煙草の葉を入れ火を付けて煙を吸った。           宣教者は本をもって神に祈った。その後また神の話をしてまた後日会う約束をして二人は別れた。 ナレーター     次の日商人は昨日とは別の場所で風呂敷を敷いて商売をしていた。           昨日また輸入会社から仕入れた神の薬を置いていた。 商人        さーて、今日も一生懸命にお仕事しますかね。 聖職者       おや?今日もお仕事ですか?生が出ますね 商人        おや、宣教者さん今日も伝道活動ですか?そちらも忙しそうで 聖職者       そうですか?楽しいですよ。気楽にやっていますし神の力もいただいていますしね。 商人        変わった人だこと、商売の邪魔にならないなら其処らへんで伝道活動していてもいいですよ。 聖職者       ありがとうございます。ではお言葉に甘えて場所をお借りしますね。 商人        ご飯は食べましたか?食べてないのでしたらよかったらこれ食べてくださいな。 ナレーター     商人は懐からおにぎりを取り出して宣教者に渡した。 聖職者       え、いいんですか?あなたの分とかだったりしませんか? 商人        あぁ別にいいですよ。こういう時の為に余分に作っているんですよ。 聖職者       本当にやさしい人ですね。ではお言葉に甘えて食べさせていただきますね。 ナレーター     朝食を抜いていた宣教師は商人からもらったおにぎりをゆっくりと食べ始めた。           それを横で商人はニコニコした顔で見た。 商人        おいしいですか? 聖職者       はい、とてもおいしいですよ 商人        それはよかった、丹精込めて作っているんでゆっくり食べてくださいな 聖職者       ありがとうございます。大事に食べますね。 ナレーター     二人でしゃべっていると少年が走って来た。 少年        あ、昨日のお兄さん! 商人        あら、昨日来てくれた坊やじゃないですか。見つからないように場所変えたのに。 聖職者       まぁ世間は狭いですからね 商人        それもそうですね 少年        商人さん!その、昨日のお礼とか用意できてなくて… 商人        あぁそれならこのお兄さんが払ってくれたから構いませんよ 聖職者       え? ナレーター     商人は宣教者の腕の肉を少しつねりウインクをした。 少年        え?本当ですか!その、ありがとうございます。お礼とか 商人        お礼はいいからお兄さんが話を聞いてほしいみたいだよ。 聖職者       だ、だめですよ嘘をついてまで神の話をするつもりなど・・・ ナレーター     商人は少年に見えないように聖職者の耳元に口を近づけてひそひそ話を始めた。 商人        嘘も方便ってやつですよ。それに嘘をついたのは僕ですよ           あとは貴方の力で神のすばらしさをこの子に伝えてあげてくださいな。 聖職者       それは…わかりました。素晴らしい機会をありがとうございます。 少年        何の話をしているの? 商人        いやいや、気にしないで。ちょうどそこに座れる場所があるからそっちでお兄さんとしゃべっておいで 少年        うん!わかった! ナレーター     聖職者と少年は近くの椅子に座り神様の話を始めた。           両方ともニコニコしながら話しているのを見て商人は笑顔で煙草をふかした。           少しするとボロボロの服を着た老人が商人の前に立った。 商人        おやおやお客さんですか。いらっしゃいませ。何か気になる物がありますか? 客1        すみません、この神の薬を一つもらえませんか? 商人        お、お目が高いですね。この薬の使い方は分かりますか? 客1        あぁ分かっていますよ、煙管に入れて火を付けて吸えばいいんですよね。 少年        あ、おじさん!おじさんも薬を買いに来たのかい? 商人        あら、坊やの知り合いなのかい。 客1        まぁ、その子の家の隣に住んでいる者ですよ。長い付き合いでね。           昨日その子が買って来た薬を奥さんが吸って元気になっているところを見てね           私も持病を持っているので是非使ってみたいなと思いまして。 商人        そうだったんですね、これで元気になるといいですね。 客1        ありがとうございます。早速家で使ってみます。 ナレーター     男はトボトボ歩いて帰っていった。聖職者と少年は話が終わったようで商人の近くまで歩いてきていた。           少年は神の話を母にする約束をして家へと走っていった。 聖職者       ほんと、人にいいことをするもんですね。 商人        商売人ってのは物だけじゃなくて幸せという感情も売るんですよ。           そうするとこうやって幸せの伝染が始まるんです。 聖職者       いい言葉ですね。参考にさせて頂きます。 商人        私のようなものの言葉よりその本に書かれている言葉の方がいい言葉載っているんじゃないですか? 聖職者       それはそうですが、今を生きる人の言葉も大切ですよ。 商人        そうかい、それじゃまた神の話でも教えてくれよ。 聖職者       もちろんですとも、何か神について気になる事はありますか? 商人        そうだね、そういえば安らぎを与えるって言っているけど本当に安らぎなんて与えられるんですか?           「余裕」がないと信仰につながらないと思うのですが 聖職者       いい質問ですね、もしその神が余裕を与えることも出来たらどうでしょうか? 商人        うーん、それはあんまり信じられないな…だってその余裕を生む為に人々は苦労して生きているわけで、           安息地もなければ落ち着けるほどの稼ぎもない。神様が金を生み出してくれるわけじゃないですか。 聖職者       そうですね、私が今神を信じている人が今は少数派ですがもし同じ基準で生きている人たちが           群れとなってそこであなたが言っていたように義理人情だけで生きれる環境があるとしたらどうですか? 商人        そうなると確かに安息の場所かもしれないですね。 聖職者       ですよね、そうなると収入を考えなくてもよくなりますよね。           基準が一緒だと犯罪が起こる可能性も減るし平和になるとは思いませんか? 商人        神の名のもとに集まった組織ねぇそれは確かにいいかもしれない。           今はみんなの基準がバラバラだからこんな地獄になってしまう。           それなら一つの思想で固めた組織に所属すればいいのかもしれないですね。 聖職者       そうですよね、私のあこがれなんです。そうやってみんなが幸せに           なるのをまじかで見ることが 商人        いいですね、それは私も同じです。さっきの坊やと男性みたいにみんなが希望をもって生きていける           そんな街になればいいのに。 聖職者       では、私は神の教えであなたは薬の力でこの町をもっとよりよくしましょうよ。           お互い心が折れそうになった時はお互いを助け会えるようにしましょう。 商人        いいですね、なら明日からも是非私の近くで神の話をしてくださいな。 聖職者       もちろんですとも!今後ともよろしくお願いします。 ナレーター     二人はニコニコ笑って別れた。それから神の薬の効果を聞いた人々が日に日に神の薬を購入していた。           聖職者もその効果でたくさんの人に神の話を聞いてもらえるようになった。           商人は神の薬の仕入れ数を増やした。商人が稼いでいるのを回りで見ていた別の商人も次第に神の薬を           仕入れるようになった。 ナレーター     神の薬は数日で国全体に広がり薬を求める人たちで市場はにぎわい始めた。聖職者が信仰している宗教も少しずつ           信仰者が増えて他の宗教ほど多くはないが宣教をしている信者が増えるようになり地道に規模を増やしていた。           聖職者と商人は一緒にいる時間が次第に減りそれぞれの場所で仕事をするようになった。           そんなある日宣教活動中の聖職者はとある場面に遭遇した。 聖職者       あれから私の手伝いをしてくれてありがとうございます。 少年        いえいえ、母ちゃんを助けてくれたお礼だよ!僕が出来ることはなんだってするさ! 聖職者       ふふ、元気があって素晴らしいですね。もうそろそろ日が落ちるのでまた明日、宣教活動しましょうね。 少年        うん!またねー ナレーター     聖職者と少年は手を振って別れを告げた。 聖職者       さて、私もそろそろ帰りますか。 客1        あ、いた!聖職者さん探しましたよ。 聖職者       おや、あなたは坊やの近所に住んでいる方でしたよね ナレーター     聖職者の目の前にいたのは数日前に商人の店で薬を買っていた男だった。           男は数日前よりだいぶ痩せており目もうつろになっていた。 客1        へへへ、聞いてくださいよ。私はついに神様を見たんです!           神々しくて私の悩みを全部聞いてくれましたよ今もあそこにいると思いますよ。 聖職者       神がいた?そんなことはないと思いますよ、神は見えない存在です。だから… 客1        俺が言ったことを信じないのか、俺は間違いなく神を見たんだ!           早くしないと逃げちまう!こっちに来てくれ。 聖職者       ちょっと何しているんですか。離してください。 ナレーター     男は聖職者の腕をつかんで裏路地へと連れて行った。 客1        よかった、まだいた。神様あなたを信仰している者をつれてきました。 ナレーター     聖職者は暴力を振るわれるのではないかと怖がっていたがそんな妄想           よりも絶望的な光景が目の前に広がっていた。           男は聖職者の顔も見ず路地裏にあるゴミだまりに向かってひれ伏し祈りのような言葉をぼそぼそとつぶやいていた。           男以外にもその場にいたがりがりの人間が何人もゴミだまりに向かってひれ伏し男と同じようにぼそぼそと           祈りのようなものをつぶやいていた。 聖職者       なんだよ…これ           何をしているんですか!こんなところで!今すぐそれをやめなさい。 客1        黙れ!神の前だぞ!聖職者の貴様が神に祈らないなぞあり得る事か! 女1        あぁ聖職者様!私たちの祈りではまだ足りないようです。どうか           あなた様もお祈りください。 男1        頼む、頼むよ祈れば祈るほど痛みが安らぐ。そろそろ時間が来ちまう           俺らには金がねぇだ、だから頼むよ俺らの為にも祈ってくれ 聖職者       痛み・・・金・・・時間ま、まさか ナレーター     聖職者はすぐに察した。ここにきてから周りの人間の様子がおかしい           事も理解していた。全員の目がうっすらと赤くうつろになり           口からはよだれを垂らしていた。           他国から来た聖職者は実物を見たことはなかったが自分の国で流行っているというとある薬を思い出した。 聖職者       アヘン・・・ ナレーター     そう、全員がアヘン中毒になっていたのだ。 聖職者       あのお客さんがアヘン中毒者ってことはもしかして「神の薬」って… 客1        おい、何をしている。神は祈りを求めているんだ。早く、祈ってくれよ ナレーター     聖職者は逃げようとした。だが、祈りを求めている人が多すぎた           逃げたところで痛覚もない彼らは自分よりも強い力で襲ってくる           だろう、そうなったら最後殺される可能性だってあると察した。 聖職者       この人たちだって好きでこうなってしまったわけではない。           私の力不足でこうなってしまったのも事実です。 ナレーター     聖職者は群衆と同じ姿勢になり目をつぶり祈りを始めた。 聖職者       おお神よ、私の声を聞いてください。この者たちは           騙されて体をボロボロにされました。悪魔の仕向けた罠に           引っ掛かり体を壊すほど働かされもっと体を壊したにもかか           わらず今度は薬物中毒でどうしようもなくなってしまいました。           彼らがあなたを信じ真の安らぎを受けられるようにしてください。 ナレーター     聖職者はゴミ溜めに向けて必死に祈り続けた。           祈りが聞こえていないのか試練なのか灰色の空から雨が降り始めた。           雨は次第に強くなるがそれでも聖職者は祈りを止めることはなかった。           時間が経つにつれて周りからうめき声が聞こえ始めた 客1        聖職者さん。痛いよ、痛い助けてくれ。 男1        助けてくれ、神様痛いんだ!!頼むよ!! 女1        薬、薬が欲しいあれがあれば私たちは救われるんだ。 男2        神よ!薬を薬を分けてくれ!頼む 女2        早く!!早く薬をよこせよ!! 聖職者       絶対薬に頼らないでください!!神は貴方たちを絶対に見放さない。           だから祈り続けなさい!!お願いです!! ナレーター     聖職者は祈りを続けるが服のポケットから煙管と薬が落ちた。 男1        薬だ!!神が薬を与えてくれたんだ!! 聖職者       しまった、違うこれは吸ってはいけません 客1        なにやってんだ、早くそれを吸わせてくれ。 女2        もしかして独り占めしようとしているんじゃないか! 男2        ふざけるな!俺らはこんなに祈っているのに痛みが取れないんだぞそれをよこせよ 聖職者       絶対に渡しません!! ナレーター     聖職者は薬に覆いかぶさるように地面に寝そべった。寝そべった聖職者を中毒者たちはタコ殴りにした。           それでも聖職者はあきらめず祈り続けた。だが中毒者の群れは暴力を止めることはなかった。           聖職者は気付いたら気を失っていた。薬を奪われボロボロのまま外に投げ出された。           聖職者が目を覚ますとそこは温かい部屋だった。目を開けるとスープを手に持った商人と目が合った。 商人        聖職者さんいきていましたか。よかった。閉店の準備をしていたら           坊やが来てね近くのおじさんと母ちゃんがいないっていうから探してたらたまたまボロボロに           なったあなたを発見してね。いやぁ流石に裏路地であんなにボロボロになっていたら心配しますよ。           ほら、とりあえず温かいものでも飲んでくださいな。 ナレーター     商人はニコニコと嗤いながらスープを聖職者の前に置いた。           聖職者は薄暗い顔で商人をみた。 聖職者       商人さん、一つ質問をしていいですか? ナレーター     はい、どうぞ 聖職者       あなたは神の薬が麻薬だという事を知っていましたか? 商人        あぁ、やっぱりあれ麻薬だったんだ。中毒性があるってことは聞いて           いましたのでそうなんじゃないかなと思ってはいましたが。 聖職者       なら、なぜあなたはそんな薬を売ってしまったんですか!! 商人        聖職者さん、商人が物売る理由なんて簡単ですよね。「必要としているから」ですよ。           この国に必要なものがこれだと思って私は売ったまでです。 聖職者       麻薬が必要になる国なんて存在しませんよ。そんな人の体を壊すようなものを 商人        あるんだよ!住んでいる奴らが生きる屍だけになったこの国には。           先も見えないくせに周りに意地張って必要もない発展をして人々の           体も心も壊したこの地獄にはただ吸うだけで何も考えないで痛みも忘れて安らぎを与える「神の薬」がな。           薬を見ただけで麻薬だと疑う事すらできない誰かには見えない世界が存在するんだよ。           聖職者さん、僕はねあなたから神の話を聞いていた時にあこがれを抱いたんです。           人類を縛り付ける神にではなく人類に楽に自由を与えた悪魔に。それが僕の答えですよ。 ナレーター     聖職者は胸倉をつかんで押し倒した。そして商人を思いっきり殴った。 商人        まさかあなたが殴ってくるとは。あなたが持ってるその本には人を殴っていいと乗っているのでしょうか。 聖職者       心優しいあなたが周りのせいで汚れて罪を行い続けるなら私だってこのくらいの罪を犯しますよ。 商人        手が震えていますよ聖職者さん。無理をしてはいけません。 ナレーター     商人はやさしく自分を殴った聖職者の手を握りしめてにこりと笑った。 聖職者       私は人生で初めて人を殴りました。人を殴るというのはこんなにも痛いものなんですね。 商人        温室育ちの輝かしい聖職者様ならそんなものですよね。           僕みたいに小汚い生き方をしたやつなんて殴った後の痛みだとかそんなもの感じなくなりましたよ。 聖職者       私は神だけを見て生きてきました。そのため人類がこんなにも汚れている事に目をつぶっていました。           そのせいであなたが売っていた薬がアヘンだと気づけなかったのですが。           あなたは勝手な思想を押し付けて他の人間を汚すという罪を犯しました。           でも、あなたの優しさを私は体験しました。だからどうかもう罪を犯すはやめてください。 商人        聖職者さん、僕はやっぱりあなたのようにきれいになれないようです。 ナレーター     商人自分が吸っていた煙管を手に取り咥え口を聖職者の口に付けて           聖職者の鼻を別の口で摘まんだ。急なことに驚いた聖職者は煙管からでる煙を吸ってしまった。 聖職者       こ、これは…甘い 商人        僕もね罪悪感がないわけじゃない。毎日寝る前に気付いたら涙が出るくらいに。           アヘンを使おうって何回も思いましたよ。でも人に売っているくせに怖くてね。           知識を持っていればいるほど怖い事ってあるんですね。           でももう限界だったんだ。だから今日使ってみようと思ったんだ。そんな時あなたがうちにきた。           本当に要るんだと思ったよ。悪魔がね。 ナレーター     商人は聖職者に向かってにこりと笑った。           聖職者は不意に恐怖を覚え商人の家から出て行った。 商人        逃げちゃうんですね。あぁまた僕は独りぼっちか ナレーター     聖職者は雨の中走った。どこに行くかも考えずにただひたすらに           国に、人に、薬に恐怖を感じながら。           次第に商人を殴って痛かったはずの手の痛みがなくなりさっきまで           感じていた恐怖も薄れ快楽に堕ちそうになっていた。 聖職者       だめだ、絶対にこの恐怖を忘れちゃいけない痛みを忘れちゃいけない。           頼む、頼む、頼む。神よ!どうか私に力をお与えください!!           汚れてしまった私を許し私に耐える力を与えてください!!           そしてどうかわたしを助けてくれた商人さんをお助けください。 ナレーター     聖職者は裏路地へと逃げ込みその日は夜が明けた。           日が開けると聖職者は宣教活動の準備をしたが           昨日約束していたはずの少年が来ない。           少し待ったが一向に来ないので来そうな場所に行こうと思い           トボトボと歩いて市場へとたどり着いた。           どうやら少年も商人は来ていないようだ。 聖職者       やはり坊やはいませんか、今日は仕事をしないのでしょうか。逃げるように帰ってしまった事を謝りたいのですが、           もう会えないのでしょうか。 ナレーター     聖職者は少年に神の話をした椅子に座った。すると目の前で           少年の近所に住んでいた男が市場に来ている所を見つけた。 聖職者       彼は、そうか薬の調達にでも来たんですね。あれだけ耐えて           いたのに1日たてばあぁなってしまうのですね。           中毒だから数日で治るとは思えませんが。やはり悲しいですね ナレーター     聖職者が男に声をかけようとしたときある違和感を感じた。           お金が入っているであろう袋がパンパンに膨らんでいたのだ。 聖職者       そういえば昨日彼お金がないって言っていませんでしたっけ… ナレーター     聖職者の顔から血の気が引いた。自分が思い描く最悪なシナリオではないことを節に願った。           そしてこの国が神に見放されないよう目をつぶり祈りを始めた。

ナレーション    18世紀中ごろに杏林(きょうりん)という国があった。 銀や金などの資源と茶葉や小麦の農業が盛んな国であり他国に対しての貿易で国の財政も潤っていた。 住んでいる国民も政治家も廃ることはないだろうと思い生活をしていたがこの国はもう現代の地図に載っていない。 この話はそんな国で万物に聞く「神の薬」を売っていた商人と廃れた国に「神」を普及しようとした宣教者の物語である。 少年        お兄さん、「神の薬」って書いてあるこれは何に聞くんだい? 商人        ん?あぁこれですか。咳やら下痢やら喘息なんかがこの町で流行っていますよね? みんな苦しそうだしつらいそうにしています。なので輸入品の中からたまたま見つけたこの薬を 売ってみることにしました。この薬は煙管に入れて火を付けて出た煙を吸うと吸った人間は 今まで苦しんでいたはずの病気を忘れたんじゃないかってくらいに幸せな顔をする。 坊やは元気そうで薬なんていらなそうですけどなぜ薬を求めているんですか? 少年        おいらはいらないけど母ちゃんが汚い煙と砂を吸ったみたいで喘息が止まらないんだ。 それに腰とかが痛いみたいで毎日苦しんでいるんだよ。 どうにかしたいんだけどおいら金がなくて医者にも連れていけないんだ。 商人        そうか、それはつらいですよね。じゃあ話をしてくれたお礼にこの薬と煙管をあげますよ。火打石はあるかい? 少年        え、いいよそんなお兄さんにも生活があるでしょ?ただでもらうなんてそんなの申し訳なくて仕方ないよ。 商人        子供ってのは笑顔で物を貰うのがお仕事なんですよ。それにただじゃないですとも。 坊やが稼ぐようになったその時はこの薬のお代を持ってきてくださいな。 この契約でしたら坊やも罪悪感なくそれを持っていけますよね。それでいいですか? 少年        出世払いってやつだね!分かった!じゃあその時はまたここに来るよ! 商人        ふふ、じゃあどうぞ。あんまり吸わせすぎてはいけませんよ。 少年        ありがとう!大事にするよ! ナレーション    少年は商人からもらった煙管と薬をもって家へと走っていった。 商人        あーあ、あんなに急いだらこけちゃいますよ。はぁ明日から別の場所で商売をするかな。 ナレーション    商人は最近輸入されてきた「神の薬」を安価で売っていた。元々輸入品を仕入れて売っていたこの男は最近 他の商人は信じもしなかった「神の薬」に目を付けてこの国で唯一この薬を売り始めた。 聖職者       優しいんですね。輸入品だからだいぶ高いはずなのに。 商人        あら見られていたんですね、のぞき見なんて趣味が悪いです。お兄さん。あなたも薬が欲しくて来たのですか? 聖職者       いや、私は結構です。独身ですし体も元気ですので大丈夫ですよ。 商人        そうですか、私は忙しんで買う気がないのでしたらおかえりください。 聖職者       私の目にはお客さんがいない様に見えますが? 商人        今度は嫌味ですか?全く、話したい話があるならさっさと話してくださいな。 聖職者       流石商売人ですね。お客さんが何したいかすぐわかるなんて。 商人        買い物もしていない人をお客さんとは言わないですよ。 聖職者       なら、この煙管を1つと薬を2つくださいな。 商人        はい、毎度あり。それで話したい事ってのは何ですか? 聖職者       あなたは神を信じているのでしょうか? ナレーター     男は懐から分厚い本を取り出した。男は他国から宣教の為に来た牧師だった。 商人        あぁなんだ聖職者の方でしたか。早く言ってくれたら意地悪を言わなくて済んだのに。出身はどこですか。 聖職者       アセノリアです。 商人        なるほどね、暇なんで是非お話お聞かせください。ちょっと暇だからあなたが信じている神様のお話を           聞かせてくださいな。 ナレーター     この国は特に輸入の規制をしているわけでもないので各国の商人や文化が集まっている。           そのため今までになかった宗教を伝道するためにいろんな教えを伝える宣教者が渡来していた。 聖職者       ありがとうございます。もう1ヶ月以上こうやって声をかけているのですが誰も話を聞いてくれなくて… 商人        そりゃそうでしょうね、この国はどんどんと栄えていますがそのせいで民衆は昔あったはずの「余裕」が           なくなりました。金の事なんて考えてなかった時代は義理人情でやり取りしていたんですが今じゃ感情が           死んだみたいに仕事や生活に追われています。そのおかげで国はどんどん栄えてもっと住みやすくする為に           自然環境を壊し工場やら道路を作った。それの影響で体を壊す国民が増えてねもっと生活を苦しめる           ようになった。国民はまるで無機質に生きる死体ですよ。そんな奴らに宗教の話なんて伝わるわけがないですよね。 聖職者       なるほど、それならこの国にも神の教えが必要ですね。           神は私たちを大切にしたいと思ってので祈り、神の教えを信じることで安らぎや幸せを与えてくださります。           仕事は何のためにしているのですか?生きる為でしょ?           そのためになぜ苦しむ必要があるのでしょうか。もっと気楽に生きる為にも神が必要なのです。 商人        ふーん、私もこうやって神の薬を売っているのでそりゃみんなが楽に           なってくれたらうれしいです。ですがね、祈ったり教えを信じたり実行しないと救われないのはどうですかね?           それでまた苦労するんじゃないですか? 聖職者       では、質問しますがあなたが売っている神の薬は必要としている           人の元に必要な分勝手に届くのですか?そんなことないですよね。           あなたの事を信じてここで買う必要があります。           何か願いを叶えるためには自分で考え動かないといけないのです。           その考えた道が違う道でしたら不幸せにまっしぐらになりませんか? ナレーター     宣教者は身振り手振りをしてニコニコしながら説明した。           商人はその話を聞いて宣教者の目を見て笑った。 商人        はははは、そりゃそうですね。動けるときに動けないと救う道もないですね。           でも一つ思うのですが、神様が作った世界なのにそもそもなぜ人を苦しめる病気だとか死とかがあるのでしょうか? 聖職者       確かにこの国を作ったのは神様です、ですが今この世界を支配しているのは悪魔です。           悪魔が支配しているので苦しい事や悲しいことが起きるのです。 商人        なんで今の世の中を悪魔が牛耳っているんですか? 聖職者       悪魔はこの世界を自由に生きるべきだと考え人類を堕落させ死という呪いを与えた。           神はそれに怒りましたがすぐに世界を滅ぼすのではなく今は悪魔に世界を支配させ後の滅びの日まで           人類にどの道に進むか選択肢を与えてくれているのです。 商人        ふーん、でも自由に生きるのってそんなに悪い事ですかね?           神様に言われた通りに生きる必要ってホントにあるのかい? 聖職者       さっきあなたがおっしゃったとおりですが、人類が選択してこの世界を開拓している           この状況で幸せになっている人は何人いるのでしょうか? 商人        それもそうですね、いったいなんのためにこのくにははってんしているのでしょうかね。 ナレーション    二人は産業革命で灰色になった空を見て商人は煙管に煙草の葉を入れ火を付けて煙を吸った。           宣教者は本をもって神に祈った。その後また神の話をしてまた後日会う約束をして二人は別れた。 ナレーター     次の日商人は昨日とは別の場所で風呂敷を敷いて商売をしていた。           昨日また輸入会社から仕入れた神の薬を置いていた。 商人        さーて、今日も一生懸命にお仕事しますかね。 聖職者       おや?今日もお仕事ですか?生が出ますね 商人        おや、宣教者さん今日も伝道活動ですか?そちらも忙しそうで 聖職者       そうですか?楽しいですよ。気楽にやっていますし神の力もいただいていますしね。 商人        変わった人だこと、商売の邪魔にならないなら其処らへんで伝道活動していてもいいですよ。 聖職者       ありがとうございます。ではお言葉に甘えて場所をお借りしますね。 商人        ご飯は食べましたか?食べてないのでしたらよかったらこれ食べてくださいな。 ナレーター     商人は懐からおにぎりを取り出して宣教者に渡した。 聖職者       え、いいんですか?あなたの分とかだったりしませんか? 商人        あぁ別にいいですよ。こういう時の為に余分に作っているんですよ。 聖職者       本当にやさしい人ですね。ではお言葉に甘えて食べさせていただきますね。 ナレーター     朝食を抜いていた宣教師は商人からもらったおにぎりをゆっくりと食べ始めた。           それを横で商人はニコニコした顔で見た。 商人        おいしいですか? 聖職者       はい、とてもおいしいですよ 商人        それはよかった、丹精込めて作っているんでゆっくり食べてくださいな 聖職者       ありがとうございます。大事に食べますね。 ナレーター     二人でしゃべっていると少年が走って来た。 少年        あ、昨日のお兄さん! 商人        あら、昨日来てくれた坊やじゃないですか。見つからないように場所変えたのに。 聖職者       まぁ世間は狭いですからね 商人        それもそうですね 少年        商人さん!その、昨日のお礼とか用意できてなくて… 商人        あぁそれならこのお兄さんが払ってくれたから構いませんよ 聖職者       え? ナレーター     商人は宣教者の腕の肉を少しつねりウインクをした。 少年        え?本当ですか!その、ありがとうございます。お礼とか 商人        お礼はいいからお兄さんが話を聞いてほしいみたいだよ。 聖職者       だ、だめですよ嘘をついてまで神の話をするつもりなど・・・ ナレーター     商人は少年に見えないように聖職者の耳元に口を近づけてひそひそ話を始めた。 商人        嘘も方便ってやつですよ。それに嘘をついたのは僕ですよ           あとは貴方の力で神のすばらしさをこの子に伝えてあげてくださいな。 聖職者       それは…わかりました。素晴らしい機会をありがとうございます。 少年        何の話をしているの? 商人        いやいや、気にしないで。ちょうどそこに座れる場所があるからそっちでお兄さんとしゃべっておいで 少年        うん!わかった! ナレーター     聖職者と少年は近くの椅子に座り神様の話を始めた。           両方ともニコニコしながら話しているのを見て商人は笑顔で煙草をふかした。           少しするとボロボロの服を着た老人が商人の前に立った。 商人        おやおやお客さんですか。いらっしゃいませ。何か気になる物がありますか? 客1        すみません、この神の薬を一つもらえませんか? 商人        お、お目が高いですね。この薬の使い方は分かりますか? 客1        あぁ分かっていますよ、煙管に入れて火を付けて吸えばいいんですよね。 少年        あ、おじさん!おじさんも薬を買いに来たのかい? 商人        あら、坊やの知り合いなのかい。 客1        まぁ、その子の家の隣に住んでいる者ですよ。長い付き合いでね。           昨日その子が買って来た薬を奥さんが吸って元気になっているところを見てね           私も持病を持っているので是非使ってみたいなと思いまして。 商人        そうだったんですね、これで元気になるといいですね。 客1        ありがとうございます。早速家で使ってみます。 ナレーター     男はトボトボ歩いて帰っていった。聖職者と少年は話が終わったようで商人の近くまで歩いてきていた。           少年は神の話を母にする約束をして家へと走っていった。 聖職者       ほんと、人にいいことをするもんですね。 商人        商売人ってのは物だけじゃなくて幸せという感情も売るんですよ。           そうするとこうやって幸せの伝染が始まるんです。 聖職者       いい言葉ですね。参考にさせて頂きます。 商人        私のようなものの言葉よりその本に書かれている言葉の方がいい言葉載っているんじゃないですか? 聖職者       それはそうですが、今を生きる人の言葉も大切ですよ。 商人        そうかい、それじゃまた神の話でも教えてくれよ。 聖職者       もちろんですとも、何か神について気になる事はありますか? 商人        そうだね、そういえば安らぎを与えるって言っているけど本当に安らぎなんて与えられるんですか?           「余裕」がないと信仰につながらないと思うのですが 聖職者       いい質問ですね、もしその神が余裕を与えることも出来たらどうでしょうか? 商人        うーん、それはあんまり信じられないな…だってその余裕を生む為に人々は苦労して生きているわけで、           安息地もなければ落ち着けるほどの稼ぎもない。神様が金を生み出してくれるわけじゃないですか。 聖職者       そうですね、私が今神を信じている人が今は少数派ですがもし同じ基準で生きている人たちが           群れとなってそこであなたが言っていたように義理人情だけで生きれる環境があるとしたらどうですか? 商人        そうなると確かに安息の場所かもしれないですね。 聖職者       ですよね、そうなると収入を考えなくてもよくなりますよね。           基準が一緒だと犯罪が起こる可能性も減るし平和になるとは思いませんか? 商人        神の名のもとに集まった組織ねぇそれは確かにいいかもしれない。           今はみんなの基準がバラバラだからこんな地獄になってしまう。           それなら一つの思想で固めた組織に所属すればいいのかもしれないですね。 聖職者       そうですよね、私のあこがれなんです。そうやってみんなが幸せに           なるのをまじかで見ることが 商人        いいですね、それは私も同じです。さっきの坊やと男性みたいにみんなが希望をもって生きていける           そんな街になればいいのに。 聖職者       では、私は神の教えであなたは薬の力でこの町をもっとよりよくしましょうよ。           お互い心が折れそうになった時はお互いを助け会えるようにしましょう。 商人        いいですね、なら明日からも是非私の近くで神の話をしてくださいな。 聖職者       もちろんですとも!今後ともよろしくお願いします。 ナレーター     二人はニコニコ笑って別れた。それから神の薬の効果を聞いた人々が日に日に神の薬を購入していた。           聖職者もその効果でたくさんの人に神の話を聞いてもらえるようになった。           商人は神の薬の仕入れ数を増やした。商人が稼いでいるのを回りで見ていた別の商人も次第に神の薬を           仕入れるようになった。 ナレーター     神の薬は数日で国全体に広がり薬を求める人たちで市場はにぎわい始めた。聖職者が信仰している宗教も少しずつ           信仰者が増えて他の宗教ほど多くはないが宣教をしている信者が増えるようになり地道に規模を増やしていた。           聖職者と商人は一緒にいる時間が次第に減りそれぞれの場所で仕事をするようになった。           そんなある日宣教活動中の聖職者はとある場面に遭遇した。 聖職者       あれから私の手伝いをしてくれてありがとうございます。 少年        いえいえ、母ちゃんを助けてくれたお礼だよ!僕が出来ることはなんだってするさ! 聖職者       ふふ、元気があって素晴らしいですね。もうそろそろ日が落ちるのでまた明日、宣教活動しましょうね。 少年        うん!またねー ナレーター     聖職者と少年は手を振って別れを告げた。 聖職者       さて、私もそろそろ帰りますか。 客1        あ、いた!聖職者さん探しましたよ。 聖職者       おや、あなたは坊やの近所に住んでいる方でしたよね ナレーター     聖職者の目の前にいたのは数日前に商人の店で薬を買っていた男だった。           男は数日前よりだいぶ痩せており目もうつろになっていた。 客1        へへへ、聞いてくださいよ。私はついに神様を見たんです!           神々しくて私の悩みを全部聞いてくれましたよ今もあそこにいると思いますよ。 聖職者       神がいた?そんなことはないと思いますよ、神は見えない存在です。だから… 客1        俺が言ったことを信じないのか、俺は間違いなく神を見たんだ!           早くしないと逃げちまう!こっちに来てくれ。 聖職者       ちょっと何しているんですか。離してください。 ナレーター     男は聖職者の腕をつかんで裏路地へと連れて行った。 客1        よかった、まだいた。神様あなたを信仰している者をつれてきました。 ナレーター     聖職者は暴力を振るわれるのではないかと怖がっていたがそんな妄想           よりも絶望的な光景が目の前に広がっていた。           男は聖職者の顔も見ず路地裏にあるゴミだまりに向かってひれ伏し祈りのような言葉をぼそぼそとつぶやいていた。           男以外にもその場にいたがりがりの人間が何人もゴミだまりに向かってひれ伏し男と同じようにぼそぼそと           祈りのようなものをつぶやいていた。 聖職者       なんだよ…これ           何をしているんですか!こんなところで!今すぐそれをやめなさい。 客1        黙れ!神の前だぞ!聖職者の貴様が神に祈らないなぞあり得る事か! 女1        あぁ聖職者様!私たちの祈りではまだ足りないようです。どうか           あなた様もお祈りください。 男1        頼む、頼むよ祈れば祈るほど痛みが安らぐ。そろそろ時間が来ちまう           俺らには金がねぇだ、だから頼むよ俺らの為にも祈ってくれ 聖職者       痛み・・・金・・・時間ま、まさか ナレーター     聖職者はすぐに察した。ここにきてから周りの人間の様子がおかしい           事も理解していた。全員の目がうっすらと赤くうつろになり           口からはよだれを垂らしていた。           他国から来た聖職者は実物を見たことはなかったが自分の国で流行っているというとある薬を思い出した。 聖職者       アヘン・・・ ナレーター     そう、全員がアヘン中毒になっていたのだ。 聖職者       あのお客さんがアヘン中毒者ってことはもしかして「神の薬」って… 客1        おい、何をしている。神は祈りを求めているんだ。早く、祈ってくれよ ナレーター     聖職者は逃げようとした。だが、祈りを求めている人が多すぎた           逃げたところで痛覚もない彼らは自分よりも強い力で襲ってくる           だろう、そうなったら最後殺される可能性だってあると察した。 聖職者       この人たちだって好きでこうなってしまったわけではない。           私の力不足でこうなってしまったのも事実です。 ナレーター     聖職者は群衆と同じ姿勢になり目をつぶり祈りを始めた。 聖職者       おお神よ、私の声を聞いてください。この者たちは           騙されて体をボロボロにされました。悪魔の仕向けた罠に           引っ掛かり体を壊すほど働かされもっと体を壊したにもかか           わらず今度は薬物中毒でどうしようもなくなってしまいました。           彼らがあなたを信じ真の安らぎを受けられるようにしてください。 ナレーター     聖職者はゴミ溜めに向けて必死に祈り続けた。           祈りが聞こえていないのか試練なのか灰色の空から雨が降り始めた。           雨は次第に強くなるがそれでも聖職者は祈りを止めることはなかった。           時間が経つにつれて周りからうめき声が聞こえ始めた 客1        聖職者さん。痛いよ、痛い助けてくれ。 男1        助けてくれ、神様痛いんだ!!頼むよ!! 女1        薬、薬が欲しいあれがあれば私たちは救われるんだ。 男2        神よ!薬を薬を分けてくれ!頼む 女2        早く!!早く薬をよこせよ!! 聖職者       絶対薬に頼らないでください!!神は貴方たちを絶対に見放さない。           だから祈り続けなさい!!お願いです!! ナレーター     聖職者は祈りを続けるが服のポケットから煙管と薬が落ちた。 男1        薬だ!!神が薬を与えてくれたんだ!! 聖職者       しまった、違うこれは吸ってはいけません 客1        なにやってんだ、早くそれを吸わせてくれ。 女2        もしかして独り占めしようとしているんじゃないか! 男2        ふざけるな!俺らはこんなに祈っているのに痛みが取れないんだぞそれをよこせよ 聖職者       絶対に渡しません!! ナレーター     聖職者は薬に覆いかぶさるように地面に寝そべった。寝そべった聖職者を中毒者たちはタコ殴りにした。           それでも聖職者はあきらめず祈り続けた。だが中毒者の群れは暴力を止めることはなかった。           聖職者は気付いたら気を失っていた。薬を奪われボロボロのまま外に投げ出された。           聖職者が目を覚ますとそこは温かい部屋だった。目を開けるとスープを手に持った商人と目が合った。 商人        聖職者さんいきていましたか。よかった。閉店の準備をしていたら           坊やが来てね近くのおじさんと母ちゃんがいないっていうから探してたらたまたまボロボロに           なったあなたを発見してね。いやぁ流石に裏路地であんなにボロボロになっていたら心配しますよ。           ほら、とりあえず温かいものでも飲んでくださいな。 ナレーター     商人はニコニコと嗤いながらスープを聖職者の前に置いた。           聖職者は薄暗い顔で商人をみた。 聖職者       商人さん、一つ質問をしていいですか? ナレーター     はい、どうぞ 聖職者       あなたは神の薬が麻薬だという事を知っていましたか? 商人        あぁ、やっぱりあれ麻薬だったんだ。中毒性があるってことは聞いて           いましたのでそうなんじゃないかなと思ってはいましたが。 聖職者       なら、なぜあなたはそんな薬を売ってしまったんですか!! 商人        聖職者さん、商人が物売る理由なんて簡単ですよね。「必要としているから」ですよ。           この国に必要なものがこれだと思って私は売ったまでです。 聖職者       麻薬が必要になる国なんて存在しませんよ。そんな人の体を壊すようなものを 商人        あるんだよ!住んでいる奴らが生きる屍だけになったこの国には。           先も見えないくせに周りに意地張って必要もない発展をして人々の           体も心も壊したこの地獄にはただ吸うだけで何も考えないで痛みも忘れて安らぎを与える「神の薬」がな。           薬を見ただけで麻薬だと疑う事すらできない誰かには見えない世界が存在するんだよ。           聖職者さん、僕はねあなたから神の話を聞いていた時にあこがれを抱いたんです。           人類を縛り付ける神にではなく人類に楽に自由を与えた悪魔に。それが僕の答えですよ。 ナレーター     聖職者は胸倉をつかんで押し倒した。そして商人を思いっきり殴った。 商人        まさかあなたが殴ってくるとは。あなたが持ってるその本には人を殴っていいと乗っているのでしょうか。 聖職者       心優しいあなたが周りのせいで汚れて罪を行い続けるなら私だってこのくらいの罪を犯しますよ。 商人        手が震えていますよ聖職者さん。無理をしてはいけません。 ナレーター     商人はやさしく自分を殴った聖職者の手を握りしめてにこりと笑った。 聖職者       私は人生で初めて人を殴りました。人を殴るというのはこんなにも痛いものなんですね。 商人        温室育ちの輝かしい聖職者様ならそんなものですよね。           僕みたいに小汚い生き方をしたやつなんて殴った後の痛みだとかそんなもの感じなくなりましたよ。 聖職者       私は神だけを見て生きてきました。そのため人類がこんなにも汚れている事に目をつぶっていました。           そのせいであなたが売っていた薬がアヘンだと気づけなかったのですが。           あなたは勝手な思想を押し付けて他の人間を汚すという罪を犯しました。           でも、あなたの優しさを私は体験しました。だからどうかもう罪を犯すはやめてください。 商人        聖職者さん、僕はやっぱりあなたのようにきれいになれないようです。 ナレーター     商人自分が吸っていた煙管を手に取り咥え口を聖職者の口に付けて           聖職者の鼻を別の口で摘まんだ。急なことに驚いた聖職者は煙管からでる煙を吸ってしまった。 聖職者       こ、これは…甘い 商人        僕もね罪悪感がないわけじゃない。毎日寝る前に気付いたら涙が出るくらいに。           アヘンを使おうって何回も思いましたよ。でも人に売っているくせに怖くてね。           知識を持っていればいるほど怖い事ってあるんですね。           でももう限界だったんだ。だから今日使ってみようと思ったんだ。そんな時あなたがうちにきた。           本当に要るんだと思ったよ。悪魔がね。 ナレーター     商人は聖職者に向かってにこりと笑った。           聖職者は不意に恐怖を覚え商人の家から出て行った。 商人        逃げちゃうんですね。あぁまた僕は独りぼっちか ナレーター     聖職者は雨の中走った。どこに行くかも考えずにただひたすらに           国に、人に、薬に恐怖を感じながら。           次第に商人を殴って痛かったはずの手の痛みがなくなりさっきまで           感じていた恐怖も薄れ快楽に堕ちそうになっていた。 聖職者       だめだ、絶対にこの恐怖を忘れちゃいけない痛みを忘れちゃいけない。           頼む、頼む、頼む。神よ!どうか私に力をお与えください!!           汚れてしまった私を許し私に耐える力を与えてください!!           そしてどうかわたしを助けてくれた商人さんをお助けください。 ナレーター     聖職者は裏路地へと逃げ込みその日は夜が明けた。           日が開けると聖職者は宣教活動の準備をしたが           昨日約束していたはずの少年が来ない。           少し待ったが一向に来ないので来そうな場所に行こうと思い           トボトボと歩いて市場へとたどり着いた。           どうやら少年も商人は来ていないようだ。 聖職者       やはり坊やはいませんか、今日は仕事をしないのでしょうか。逃げるように帰ってしまった事を謝りたいのですが、           もう会えないのでしょうか。 ナレーター     聖職者は少年に神の話をした椅子に座った。すると目の前で           少年の近所に住んでいた男が市場に来ている所を見つけた。 聖職者       彼は、そうか薬の調達にでも来たんですね。あれだけ耐えて           いたのに1日たてばあぁなってしまうのですね。           中毒だから数日で治るとは思えませんが。やはり悲しいですね ナレーター     聖職者が男に声をかけようとしたときある違和感を感じた。           お金が入っているであろう袋がパンパンに膨らんでいたのだ。 聖職者       そういえば昨日彼お金がないって言っていませんでしたっけ… ナレーター     聖職者の顔から血の気が引いた。自分が思い描く最悪なシナリオではないことを節に願った。           そしてこの国が神に見放されないよう目をつぶり祈りを始めた。