台本概要

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タイトル Legend of Halloween
作者名 てまり  (@temash73)
ジャンル ファンタジー
演者人数 3人用台本(女2、不問1) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 この街には、古い言い伝えがある。
『ハロウィンの夜。男女一組の子供を、家に招き入れてはいけない』
それを破るとどうなのるのか。多くの結末が語られてはいるが、その言い伝えを体験した人は、誰一人としていない。
そもそも玄関先でお菓子を渡すだけなのだから、家に招き入れるなんてこと、そうそうあり得ないのだけど。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
エレン 71 閑静な住宅街から、また少し離れた場所に住む女性。物腰が柔らかく、子供にもよく懐かれる。 ※エレンとエレン(M)どちらもお読みください。マーカーはシナリオ内から『エレン(M)』もタップしてください
カイ 34 冷静で言葉遣いの綺麗な、優等生タイプの男の子。街の議会長の息子で品があるが、イザベラとは言い争いが絶えない。 ※男性役ですが、少年ですので女性が演じて頂いても問題ありません。ラストに一言『カイ(M)』があります
ジョシュア 不問 11 【カイ:兼ね役】カイよりも歳の若い、小さな男の子。メアリーが好きだが、素直になれないやんちゃ坊主。
イザベラ 不問 43 元気が良く、可愛いものが大好きな女の子。今年、ジュニアハイスクールを卒業。 ※ラストに一言『イザベラ(M)』があります
メアリー 17 【イザベラ:兼ね役】イザベラよりも歳の若い、小さな女の子。ジョシュアについて回っている、内気な子。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
【場面】:プロローグ エレン(M):この街には、古い言い伝えがある。 エレン(M):『ハロウィンの夜。男女一組の子供を、家に招き入れてはいけない』 エレン(M):それを破るとどうなるのか。 エレン(M):多くの結末が語られてはいるが、どれも見聞だったり憶測だったり・・・ エレン(M):実際に、その言い伝えを体験した人は、誰一人としていない。 エレン(M):そもそも玄関先でお菓子を渡すだけなのだから、家に招き入れるなんてこと、そうそうあり得ないのだけど。 0: 【場面】:エレンの家 エレン:カボチャパイ完成、っと・・・。うん、いい香り。上出来ね エレン(M):今夜はハロウィン。 エレン(M):日頃、訪ねる人が郵便配達員くらいの私の家にも、今日は日が沈み始めるくらいから、幾人かの子供が訪問しに来ていた。 エレン(M):閑静な住宅街から、また少し離れた私の家。 エレン(M):周りが緑に覆われていて、少し不気味に映る家も、ハロウィンでなら最高のロケーションだ。 エレン(M):玄関先に小さなランタンをぶら下げて、カボチャで作ったジャック・オー・ランタン。 エレン(M):お墓にコウモリをあしらったオーナメントを置けば、それが子供を招く合図になる。 【SE】:チャイムの音 エレン:ん・・・。次のお客様がいらしたかな?はいはーい ジョシュア:トリック・オア・トリートぉ! エレン:わっ、可愛いミイラね。ジョシュア ジョシュア:可愛くなんてないよ!怖い怖いミイラだもん! ジョシュア:ねぇ、トリック・オア・トリート! エレン:あはは、そうだったわね。 エレン:はい、お菓子をどーぞ。だからイタズラなんてしちゃダメよ? ジョシュア:やったー!ねね、これ何!? エレン:カボチャのカップケーキよ。 エレン:あとはラズベリーを練り込んだ、コウモリ型のクッキー ジョシュア:本当!?俺、このクッキー大好き! エレン:ふふ、そう?それならよかった。 エレン:さ、他のお家も周ってらっしゃいな ジョシュア:うん!エレン、ありがとう! エレン:本当に元気の良い子・・・あれじゃ、死者の魂を騙せないんじゃないかしら(苦笑) エレン:・・・あら?そこにいるのは、メアリー? メアリー:っ!エレンさん・・・こんばんは エレン:そんなところで何してるの? エレン:あなたもお菓子を貰いに来たんでしょう?こっちにいらっしゃいな メアリー:・・・笑わない? エレン:笑う?どうして? エレン:今年のメアリーはどんな仮装をしているのか、とっても楽しみにしてたのよ? メアリー:・・・これ エレン:まぁ・・・可愛い妖精さんじゃない! エレン:どうして隠すの?とっても可愛いのに、もったいないわ? メアリー:・・・ジョシュアが『そんなの全然怖くない。お菓子なんかもらえないぞ』って・・・ エレン:もう、ジョシュアったら・・・。 エレン:メアリー、よく聞いて?ハロウィンにみんなが仮装する理由、メアリーだって知ってるわよね? メアリー:うん・・・。死者の魂が、子供を連れ去ってしまうから・・・。 メアリー:それを隠す為に、死者の魂と同じ格好をするって・・・ エレン:その通りよ。もちろん死者の魂の中には、怖い怪物だったり、お化けも存在するわ? エレン:でも妖精さんだって、たくさんいるのよ? メアリー:・・・本当? エレン:えぇ。そうね・・・じゃあこれはメアリーにだけ、教えてあげる。 エレン:私ね・・・子供の時に、死者の魂を見た事があるの。それも妖精のね メアリー:えっ?だ、大丈夫なの? エレン:大丈夫よ、私も仮装してたもの メアリー:・・・本当に、妖精もいるんだ。どんな妖精だった? エレン:とーっても可愛かったわよ。 エレン:淡い緑色の・・・そうね、今のメアリーみたいなドレスを着てた メアリー:私と一緒・・・ エレン:ええ。でもそうね・・・メアリーの方が、ずっとずーっと可愛いかしら メアリー:っ!そうなんだ・・・。 メアリー:妖精でも、お菓子たくさんもらえるかな・・・? エレン:もちろん!それとね、次にジョシュアに会ったら、こう聞いてみなさい?(耳打ち) メアリー:(耳打ちを聞いて)・・・また、笑われないかな? エレン:大丈夫!だって、きっとあの子・・・ ジョシュア:(被せて)あっ、メアリーまだここにいたのかよ! ジョシュア:さっきまで後ろにいたのに、いなくなったから探してたんだぞ! メアリー:えっ、あっ・・・ごめん。ジョシュア・・・ ジョシュア:ほら見てみろよ!こーんなにお菓子もらったんだ! ジョシュア:こんだけいっぱいあったら、メアリーの分も・・・ メアリー:(被せて)ねぇ、ジョシュア・・・? ジョシュア:・・・ん?なんだよ メアリー:・・・私、可愛いかな? ジョシュア:っ、なっ、何言ってんだよ! ジョシュア:今日はハロウィンだぞ!可愛いとかそういうのは・・・ メアリー:(被せて)ハロウィンとかじゃなくて、その・・・ジョシュアは、どう思う・・・? ジョシュア:え・・・あ、う・・・。・・・可愛い、と思う メアリー:本当? ジョシュア:本当だよ!そ、そんなことより、貰ったお菓子でパーティするんだろ?早く行くぞ! メアリー:・・・うんっ!あ。エレンさん、ありがとう! エレン:どういたしまして。楽しいハロウィンを! 0:  【場面】:時間経過・夜 エレン:・・・よしっ。パンプキンパイもラッピング完了、と エレン(M):時刻は午後8時。小さな子供はともかくとして、まだこれから子供はやってくるだろう。 エレン(M):手軽なマフィンケーキは既に完売。これから来る子たちには、このパイをあげて・・・残ったら、数日間の私のデザートになる。 エレン:・・・一人で食べきれるかしら? 【SE】:再びチャイムの音 イザベラ:エレーン?こんばんはー! エレン:ん。この声は、イザベラね?はいはい、今開けるわ イザベラ:ハッピーハロウィーン! エレン:ハッピーハロウィン、イザベラ。あら、今年は魔女の仮装? イザベラ:そうそう。どう?結構シックでおしゃれじゃない? エレン:そうね。 エレン:去年のサキュバスもセクシーでキュートだったけど、今年は大人のレディにも見えるわ イザベラ:ふふっ、私も今年で卒業だから!最後くらいはね エレン:卒業・・・あぁ、ジュニアハイスクールのこと? エレン:そうね、本当に大きくなったわ。おばあ様はお元気? イザベラ:元気元気。今日なんか、せっかくアレンジした衣装にケチつけられたのよ? イザベラ:『伝統の衣装にスリットなんて入れてはしたない』な~んて、もう! エレン:イザベラは美人さんだから心配なのかもしれないわ。 エレン:でも、大切な衣装なのかしら?伝統って・・・ イザベラ:あー、ううん!それはこっちの話。 イザベラ:そうだ、ちょっとエレンお願いがあるんだけど エレン:あら、何? イザベラ:えっとぉ・・・トイレ、貸して! イザベラ:スリットが深すぎたのか、お腹痛くて・・・w エレン:まぁ・・・。いいわ、入ってらっしゃいな。場所は知っているでしょう? イザベラ:うん!ありがとう、エレン! エレン:・・・イザベラがジュニアハイスクール卒業か。 エレン:なんだか、あっという間・・・って、やだわ。私だって、まだ老け込む歳じゃないはずよ カイ:そうですよ。エレンさんは、昔から綺麗ですから エレン:えっ?! エレン:あ・・・カイ。もう、びっくりさせないで。いつからここに? カイ:つい今しがた エレン:そうだったの。ハッピーハロウィン、カイ カイ:・・・ハッピーハロウィン。エレンさん エレン:カイは・・・ヴァンパイアかしら? エレン:高貴な感じがぴったりね・・・って、これ前にも言ったかしら? カイ:えぇ。僕は小さい頃から、ヴァンパイアの仮装しかしたことありませんからね エレン:そういえばそうだったわ。他にしたい仮装はなかったの? カイ:特には・・・それに、これは我が家のしきたりですから エレン:しきたり・・・ カイ:あぁ、そんな深く考えないでください。 カイ:エレンさんの言う通り、ヴァンパイアは魔族の貴族みたいなものですから。 カイ:うちの家族が好きなだけですよ エレン:そうなのね。カイも将来はお父様と同じ、議会長さんになるのかしら? エレン:誰にでも公平で優しく紳士的ですもの カイ:いえ、そんなことは・・・ イザベラ:(被せて)あーっ、カイだ!やっほー! エレン:あら、イザベラ。 エレン:おかえりなさい、お腹はもう平気? イザベラ:あーん!エレン、しーっ。 イザベラ:カイがいるのにそんなこと言ったら・・・ カイ:(被せて)君のお腹の調子に興味はないよ。 カイ:じゃあ、エレンさん。僕はこのへんで エレン:え?カイ、お菓子はいらないの? カイ:えぇ。僕はただご挨拶をしに来ただけですので・・・ イザベラ:(被せて)えーっ!何これ何これっ、めっちゃ美味しそう!! イザベラ:ねぇ、カイも見てよ!エレンのお菓子、めちゃめちゃ美味しそうなの!! カイ:・・・何を今更。 カイ:エレンさんの料理が上手なのは、君も知ってるだろ? イザベラ:知ってるけどぉ!ラッピングとかちょ~可愛いんだけど!! イザベラ:え、エレン!他のお菓子もラッピングしよーよ!私もやってみたい! エレン:え?あぁ・・・いいわよ。 エレン:やってみる?まだラッピング材は残ってるの イザベラ:本当!?やったぁ! イザベラ:よぉし・・・カイ!勝負よ!! カイ:は?何を勝手に・・・ イザベラ:(被せて)なぁにぃ?もしかしてぇ・・・ イザベラ:不器用過ぎて、下手くそ―って言われるのが怖いのぉ?? カイ:なっ・・・! カイ:・・・いいだろう。僕の芸術センスにひれ伏すと良い イザベラ:あっはは、カイってばちょろ~い! エレン:くすくす・・・カイってば、イザベラが相手の時だけ、年相応に・・・・・・あっ・・・ 0:  エレン(M):カイが憤慨しながらも、スラリと伸びた手足で品良くイザベラに並ぶ。 エレン(M):そこでふと、あの言い伝えを思い出す。 エレン(M):『ハロウィンの夜。男女一組の子供を、家に招き入れてはいけない』 0:  カイ:エレンさん?どうかしましたか? イザベラ:ねぇ、エレン!早く早くっ! イザベラ:エレンも一緒にやろう? エレン:え・・・あ、そうね。 エレン:待ってて、今ラッピング材を出してくるわ 0:  エレン:(心の声)『嫌ね。あんなもの、迷信に決まってるわ・・・』 エレン(M):無邪気に笑うイザベラと、優し気に微笑むカイ。 エレン(M):この二人の笑顔と、私の選択を・・・私はきっと、この先ずっと。忘れない 0:  【場面】:時間経過 イザベラ:出来たぁ!じゃじゃーん! イザベラ:見てっ、ちょー可愛い!黒猫のチャームとか、めっちゃお洒落じゃない?! エレン:本当ね。イザベラの手先が器用だとは思わなかったわ。 エレン:すごい上手 イザベラ:えっ、それ褒められてる? エレン:あ・・・ごめんなさいw エレン:でも本当、イザベラらしくて可愛い出来栄えよ カイ:エレンさん。もっとはっきり言ってやってもいいんですよ。 カイ:目がチカチカして賑やかすぎるってね イザベラ:えぇー!? イザベラ:そんなこと言って、カイのは・・・・・・うっわ、すご・・・ エレン:・・・本当。有名店で売ってるプレゼントみたいね・・・ エレン:私のなんてことないお菓子が、宝石のよう カイ:何を言うんですか。エレンさんのお菓子があってこそ、ですよ。 カイ:それにしても・・・ イザベラ:ん?なぁに? カイ:君に素直に褒められるっていうのは、何ともぎこちないものだね イザベラ:ちょっとぉ、どーゆー意味ぃ? エレン:くすくす・・・本当に、二人は仲良しなのね。 エレン:二人ともガールフレンドやボーイフレンドはいないの? イザベラ:うっ・・・エレンてば、容赦なーい! カイ:僕もそうですね・・・まだ・・・ エレン:そうだったの、ごめんなさいね。 エレン:あまりにも二人が仲良しだから、二人がそういう関係なんだと思ったわ イザベラ:ないない!カイってば自分にも人にも厳し過ぎるもん。 イザベラ:それに私は、自分の好みの人には絶対振り向いてもらえる秘策があるし♡ カイ:君みたいな軽率な人には、僕は合わないだろうね。 カイ:僕に合うのは優しくて美しく品のある・・・ 0:  エレン(M):そう言って、伏し目がちに話していたカイが、私の目をじっと見つめる。 エレン(M):その瞬間、私の体はピクリと動くことすらできなくなってしまった。 エレン(M):カイのあまりにも熱い眼差しに緊張した、なんてロマンティックな話ではない。 エレン(M):そう、それはまるで・・・蛇に睨まれたカエルの様な・・・被捕食者としての、恐怖。 0:  イザベラ:・・・くすっ、くすくすっ・・・なぁんだ。 イザベラ:結局、エレンで決まりなんじゃない。もったいぶっちゃってさ? カイ:当然だろう?僕らの命は長い。 カイ:それに一生付き添うことになるんだ、慎重な事に越したことはない イザベラ:飽きちゃったら記憶を消して、野に放てばいいのよ。 イザベラ:ポーン!ってね? カイ:君らはそういった秘薬を作るのに長けてるからね。 カイ:こういった部分で軽薄になるのは、理解できなくもないが、僕ら一族は・・・ イザベラ:(被せて)わかってるってばぁ。 イザベラ:『貴族たる者、一人を愛し、命の果てまで道連れに』でしょ? カイ:あぁ・・・僕はヴァンパイア。 カイ:魔族の中で最も古く、最も深い愛の意味を知る者 エレン:・・・カイ・・・あなたが、ヴァンパイア・・・? カイ:えぇ。そうですよ、エレン。 カイ:僕ら魔族は、いつの世も、人に紛れて生きてきた。 カイ:しかし寿命が長いと言っても永遠ではない。 カイ:命を、世代を繋ぐには人と同様、種を残す必要がある。しかし・・・ イザベラ:『最古参の魔族』って意識が強すぎたんでしょーね。 イザベラ:血が濃すぎて、ある時代に流行った病によって数が激減してしまったの カイ:それを打開すべく、我々に近い人間を積極的に誘惑し、種を残そうとするヴァンパイアがいました。 カイ:しかし我々の膨大な魔力に耐えうる人間は、そういない。 カイ:結果、知性の欠片もない眷属が増えるだけ・・・ イザベラ:力が強すぎるっていうのは厄介以外の何物でもなくてね? イザベラ:眷属を排除しなきゃいけないし、おまけにそれが原因でヴァンパイア・ハンターが発足して・・・ カイ:種のためとは言え、彼の選択は魔族を脅かす結果となってしまった。 カイ:その時から我々一族と魔女の一族は手を結ぶことになりました エレン:・・・魔女・・・イザ、ベラが・・・? イザベラ:ふふっ。言ったでしょう?魔力に耐えられる人間はそう多くないって。 イザベラ:私たち魔女はその魔力に耐えるための力を一時的に人間に付与できる カイ:彼女らにはヴァンパイアの婚姻のため、力を借りている。 カイ:代わりに我々は、本来戦闘に向いていない魔女を守る盟約を結んだ イザベラ:そうそう。人間は魔女がファンタジーで言う、魔法使いと同義だと思ってるみたいだけど。 イザベラ:大半の魔女はただの研究者だもの。かよわい存在なのよ? エレン:・・・そんなの、知らな・・・待って。私はどうなるの・・・? カイ:何も怖がらなくていい・・・君は僕の一族に選ばれた 0:  エレン(M):目の前にカイが迫る。背後には姿を確認できないが、イザベラ。 エレン(M):私の体は、依然動かない。 0:  イザベラ:そう、怖くないわ・・・。 イザベラ:むしろ長い間、今の綺麗なままでいられるの・・・だから、ね・・・? 0:  エレン(M):背後から耳に息を吹きかける様に、イザベラが私を諭し、呪文を唱える。 エレン(M):魔女特有の言語なのか、その内容を私が判別する術はない。 エレン(M):イザベラが呪文を唱える反対側の首筋に、カイが顔を埋める。 エレン(M):牙を立てる直前、その刹那・・・。 0:  カイ:愛しているよ。エレン 0:  【場面】:時間経過・数日後 エレン:お世話になりました。後は、よろしくお願いします。 エレン(M):あれから数日。私は手に持てるだけの荷物を手に、家を後にした。 エレン(M):私が去った後、次の居住者が見つかるまでは、街の不動産が管理をしてくれるらしい。 エレン(M):家に残っている家具はそのまま、次に住む人にプレゼントすると伝えた。 エレン(M):別段こだわっていたわけではないけど、大切に使っていたものばかり。気に入ってくれたら嬉しいと思う。 エレン(M):もう私が使っていても、私が朽ちるより先に、朽ちてしまうだろうから。 エレン:はい、今日が最後で。お世話になりました 0:  エレン(M):街を出るまでに、今までお世話になった人たちと挨拶を交わす。 エレン(M):魚を売る元気なおじさま。お肉を卸すシャイな青年。果物に囲まれた笑顔の眩しいお姉さん。 エレン(M)誰もが優しく、暖かかった。 0:  エレン:・・・あ、この匂い エレン(M):香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。大好きだったパン屋さん。もうここに来ることもないのだろう。 エレン(M):なんだか少し切なくなり、木組みのガラス張りの扉を開いて、店内に入った。小麦の香りが一層強くなる。 0:  エレン:こんにちは。えぇ、今日この街を・・・あ。 エレン:それイザベラの・・・ エレン(M):ふと、カウンターの中に掛けられた、黒猫をモチーフにしたリースを目にして、口に出し・・・唐突にやめた。 エレン(M):恰幅の良いおかみさんの顔が、怪訝そうに歪められる。 エレン(M):そうよね・・・だって・・・ 0:  エレン:ごめんなさい、なんでもないわ。 エレン:じゃあ、私はこれで・・・ エレン(M):パン屋を出て、街の役場に行き、手続きを終える。 エレン(M):北の街道を一人歩いていたところで・・・ 0:  イザベラ:あ、やぁっと来た エレン:イザベラ。どうしてここに? イザベラ:どうしてって、あなたを待ってたのよ。 イザベラ:カイが早く連れてこいってうるさくて エレン:そうだったの・・・。ごめんなさいね イザベラ:いいわよ。それにあなたも慣れておいたほうがいいから エレン:慣れる? イザベラ:うん。だって魔女の一族とヴァンパイアの一族は一連托生だからね。 イザベラ:この先も乗ることが多いと思うから エレン:・・・ふふっ、なるほどね 0:  エレン(M):イザベラの箒に腰を掛け、彼女の細い腰に腕を回す。 エレン(M):次の瞬間、ふわりと体が持ち上がった。 0:  エレン:わぁ・・・本当に魔女って飛ぶのね? イザベラ:そうよー。でも私、箒って好きじゃないのよね エレン:あら、どうして?すごくファンタジックで素敵だわ? イザベラ:だぁって、すーぐお尻が痛くなるもの。 イザベラ:あなたたちはいいわよね、翼があって エレン:翼・・・私はないのだけど、私にも生えてくるのかしら? イザベラ:翼って言っても、魔力の集合体だからね。 イザベラ:別に生えてなくても飛べるって、カイは言ってたわよ? エレン:へぇ・・・そうなんだ。 エレン:ねぇ、私からも魔力を感じる? イザベラ:もちろん。なんてったって、あのカイの奥さんだもん。 イザベラ:その辺のヴァンパイアなんて目じゃないわ エレン:そう・・・ 0:  【場面】:霧に包まれ密やかにそびえ立つ古城  イザベラ:カイー?連れてきたわよー!!カイー? カイ:聞こえてるよ、イザベラ。 カイ:何度も呼ばないでくれ、頭が痛くなる イザベラ:はいはーい。すいませんでしたぁ カイ:全く・・・。・・・エレン、良く来たね エレン:カイ。お待たせして、ごめんなさい カイ:いや、いいよ。 カイ:あのまま君を攫うこともできたけど、住人達の記憶を消す必要もあったし、君もお別れをしたかっただろう? エレン:そうね。ゆっくりと準備が出来て、とても助かったわ カイ:そう。それは良かった・・・ん、この匂い・・・ エレン:あぁ・・・ごめんなさい。 エレン:最後に馴染みのパン屋さんに寄ってきたのだけど、ガーリックの匂いがついてしまったわ カイ:・・・いいさ。君が選んだことに僕は文句なんて言わないよ。 カイ:美味しかったかい?ガーリックトーストは エレン:いいえ・・・。 エレン:本当は最後にパンを買おうと思ったのだけど、ガーリックの匂いが辛くて エレン:早々にお店を出て来てしまったの カイ:それはそれは・・・もう立派にヴァンパイアだね エレン:ふふっ、そんなことはないわ? エレン:魔力のコントロールだってこれから覚えなくてはいけないし・・・ エレン:ねぇ、カイ。教えてくれる? カイ:もちろん。だって君は、僕の愛する人だからね・・・ エレン:カイ・・・ イザベラ:はいはい。いちゃつくのは後にしてくれる? イザベラ:街の人からエレンの記憶を抹消したって報告が来たわ。 イザベラ:それと、これ エレン:・・・契約書ね イザベラ:そう。今日からあなたも正式にヴァンパイア一族の一人。 イザベラ:今後は魔女との盟約を遵守してもらう エレン:えぇ・・・わかっているわ 0:  イザベラ(M):この世界のとある街には、古い言い伝えがある。 カイ(M):『ハロウィンの夜。男女一組の子供を、家に招き入れてはいけない』 エレン(M):何故なら彼らは魔族。あなたは彼らに見初められた、一人なのだから。 0:  【Fin.】: 

【場面】:プロローグ エレン(M):この街には、古い言い伝えがある。 エレン(M):『ハロウィンの夜。男女一組の子供を、家に招き入れてはいけない』 エレン(M):それを破るとどうなるのか。 エレン(M):多くの結末が語られてはいるが、どれも見聞だったり憶測だったり・・・ エレン(M):実際に、その言い伝えを体験した人は、誰一人としていない。 エレン(M):そもそも玄関先でお菓子を渡すだけなのだから、家に招き入れるなんてこと、そうそうあり得ないのだけど。 0: 【場面】:エレンの家 エレン:カボチャパイ完成、っと・・・。うん、いい香り。上出来ね エレン(M):今夜はハロウィン。 エレン(M):日頃、訪ねる人が郵便配達員くらいの私の家にも、今日は日が沈み始めるくらいから、幾人かの子供が訪問しに来ていた。 エレン(M):閑静な住宅街から、また少し離れた私の家。 エレン(M):周りが緑に覆われていて、少し不気味に映る家も、ハロウィンでなら最高のロケーションだ。 エレン(M):玄関先に小さなランタンをぶら下げて、カボチャで作ったジャック・オー・ランタン。 エレン(M):お墓にコウモリをあしらったオーナメントを置けば、それが子供を招く合図になる。 【SE】:チャイムの音 エレン:ん・・・。次のお客様がいらしたかな?はいはーい ジョシュア:トリック・オア・トリートぉ! エレン:わっ、可愛いミイラね。ジョシュア ジョシュア:可愛くなんてないよ!怖い怖いミイラだもん! ジョシュア:ねぇ、トリック・オア・トリート! エレン:あはは、そうだったわね。 エレン:はい、お菓子をどーぞ。だからイタズラなんてしちゃダメよ? ジョシュア:やったー!ねね、これ何!? エレン:カボチャのカップケーキよ。 エレン:あとはラズベリーを練り込んだ、コウモリ型のクッキー ジョシュア:本当!?俺、このクッキー大好き! エレン:ふふ、そう?それならよかった。 エレン:さ、他のお家も周ってらっしゃいな ジョシュア:うん!エレン、ありがとう! エレン:本当に元気の良い子・・・あれじゃ、死者の魂を騙せないんじゃないかしら(苦笑) エレン:・・・あら?そこにいるのは、メアリー? メアリー:っ!エレンさん・・・こんばんは エレン:そんなところで何してるの? エレン:あなたもお菓子を貰いに来たんでしょう?こっちにいらっしゃいな メアリー:・・・笑わない? エレン:笑う?どうして? エレン:今年のメアリーはどんな仮装をしているのか、とっても楽しみにしてたのよ? メアリー:・・・これ エレン:まぁ・・・可愛い妖精さんじゃない! エレン:どうして隠すの?とっても可愛いのに、もったいないわ? メアリー:・・・ジョシュアが『そんなの全然怖くない。お菓子なんかもらえないぞ』って・・・ エレン:もう、ジョシュアったら・・・。 エレン:メアリー、よく聞いて?ハロウィンにみんなが仮装する理由、メアリーだって知ってるわよね? メアリー:うん・・・。死者の魂が、子供を連れ去ってしまうから・・・。 メアリー:それを隠す為に、死者の魂と同じ格好をするって・・・ エレン:その通りよ。もちろん死者の魂の中には、怖い怪物だったり、お化けも存在するわ? エレン:でも妖精さんだって、たくさんいるのよ? メアリー:・・・本当? エレン:えぇ。そうね・・・じゃあこれはメアリーにだけ、教えてあげる。 エレン:私ね・・・子供の時に、死者の魂を見た事があるの。それも妖精のね メアリー:えっ?だ、大丈夫なの? エレン:大丈夫よ、私も仮装してたもの メアリー:・・・本当に、妖精もいるんだ。どんな妖精だった? エレン:とーっても可愛かったわよ。 エレン:淡い緑色の・・・そうね、今のメアリーみたいなドレスを着てた メアリー:私と一緒・・・ エレン:ええ。でもそうね・・・メアリーの方が、ずっとずーっと可愛いかしら メアリー:っ!そうなんだ・・・。 メアリー:妖精でも、お菓子たくさんもらえるかな・・・? エレン:もちろん!それとね、次にジョシュアに会ったら、こう聞いてみなさい?(耳打ち) メアリー:(耳打ちを聞いて)・・・また、笑われないかな? エレン:大丈夫!だって、きっとあの子・・・ ジョシュア:(被せて)あっ、メアリーまだここにいたのかよ! ジョシュア:さっきまで後ろにいたのに、いなくなったから探してたんだぞ! メアリー:えっ、あっ・・・ごめん。ジョシュア・・・ ジョシュア:ほら見てみろよ!こーんなにお菓子もらったんだ! ジョシュア:こんだけいっぱいあったら、メアリーの分も・・・ メアリー:(被せて)ねぇ、ジョシュア・・・? ジョシュア:・・・ん?なんだよ メアリー:・・・私、可愛いかな? ジョシュア:っ、なっ、何言ってんだよ! ジョシュア:今日はハロウィンだぞ!可愛いとかそういうのは・・・ メアリー:(被せて)ハロウィンとかじゃなくて、その・・・ジョシュアは、どう思う・・・? ジョシュア:え・・・あ、う・・・。・・・可愛い、と思う メアリー:本当? ジョシュア:本当だよ!そ、そんなことより、貰ったお菓子でパーティするんだろ?早く行くぞ! メアリー:・・・うんっ!あ。エレンさん、ありがとう! エレン:どういたしまして。楽しいハロウィンを! 0:  【場面】:時間経過・夜 エレン:・・・よしっ。パンプキンパイもラッピング完了、と エレン(M):時刻は午後8時。小さな子供はともかくとして、まだこれから子供はやってくるだろう。 エレン(M):手軽なマフィンケーキは既に完売。これから来る子たちには、このパイをあげて・・・残ったら、数日間の私のデザートになる。 エレン:・・・一人で食べきれるかしら? 【SE】:再びチャイムの音 イザベラ:エレーン?こんばんはー! エレン:ん。この声は、イザベラね?はいはい、今開けるわ イザベラ:ハッピーハロウィーン! エレン:ハッピーハロウィン、イザベラ。あら、今年は魔女の仮装? イザベラ:そうそう。どう?結構シックでおしゃれじゃない? エレン:そうね。 エレン:去年のサキュバスもセクシーでキュートだったけど、今年は大人のレディにも見えるわ イザベラ:ふふっ、私も今年で卒業だから!最後くらいはね エレン:卒業・・・あぁ、ジュニアハイスクールのこと? エレン:そうね、本当に大きくなったわ。おばあ様はお元気? イザベラ:元気元気。今日なんか、せっかくアレンジした衣装にケチつけられたのよ? イザベラ:『伝統の衣装にスリットなんて入れてはしたない』な~んて、もう! エレン:イザベラは美人さんだから心配なのかもしれないわ。 エレン:でも、大切な衣装なのかしら?伝統って・・・ イザベラ:あー、ううん!それはこっちの話。 イザベラ:そうだ、ちょっとエレンお願いがあるんだけど エレン:あら、何? イザベラ:えっとぉ・・・トイレ、貸して! イザベラ:スリットが深すぎたのか、お腹痛くて・・・w エレン:まぁ・・・。いいわ、入ってらっしゃいな。場所は知っているでしょう? イザベラ:うん!ありがとう、エレン! エレン:・・・イザベラがジュニアハイスクール卒業か。 エレン:なんだか、あっという間・・・って、やだわ。私だって、まだ老け込む歳じゃないはずよ カイ:そうですよ。エレンさんは、昔から綺麗ですから エレン:えっ?! エレン:あ・・・カイ。もう、びっくりさせないで。いつからここに? カイ:つい今しがた エレン:そうだったの。ハッピーハロウィン、カイ カイ:・・・ハッピーハロウィン。エレンさん エレン:カイは・・・ヴァンパイアかしら? エレン:高貴な感じがぴったりね・・・って、これ前にも言ったかしら? カイ:えぇ。僕は小さい頃から、ヴァンパイアの仮装しかしたことありませんからね エレン:そういえばそうだったわ。他にしたい仮装はなかったの? カイ:特には・・・それに、これは我が家のしきたりですから エレン:しきたり・・・ カイ:あぁ、そんな深く考えないでください。 カイ:エレンさんの言う通り、ヴァンパイアは魔族の貴族みたいなものですから。 カイ:うちの家族が好きなだけですよ エレン:そうなのね。カイも将来はお父様と同じ、議会長さんになるのかしら? エレン:誰にでも公平で優しく紳士的ですもの カイ:いえ、そんなことは・・・ イザベラ:(被せて)あーっ、カイだ!やっほー! エレン:あら、イザベラ。 エレン:おかえりなさい、お腹はもう平気? イザベラ:あーん!エレン、しーっ。 イザベラ:カイがいるのにそんなこと言ったら・・・ カイ:(被せて)君のお腹の調子に興味はないよ。 カイ:じゃあ、エレンさん。僕はこのへんで エレン:え?カイ、お菓子はいらないの? カイ:えぇ。僕はただご挨拶をしに来ただけですので・・・ イザベラ:(被せて)えーっ!何これ何これっ、めっちゃ美味しそう!! イザベラ:ねぇ、カイも見てよ!エレンのお菓子、めちゃめちゃ美味しそうなの!! カイ:・・・何を今更。 カイ:エレンさんの料理が上手なのは、君も知ってるだろ? イザベラ:知ってるけどぉ!ラッピングとかちょ~可愛いんだけど!! イザベラ:え、エレン!他のお菓子もラッピングしよーよ!私もやってみたい! エレン:え?あぁ・・・いいわよ。 エレン:やってみる?まだラッピング材は残ってるの イザベラ:本当!?やったぁ! イザベラ:よぉし・・・カイ!勝負よ!! カイ:は?何を勝手に・・・ イザベラ:(被せて)なぁにぃ?もしかしてぇ・・・ イザベラ:不器用過ぎて、下手くそ―って言われるのが怖いのぉ?? カイ:なっ・・・! カイ:・・・いいだろう。僕の芸術センスにひれ伏すと良い イザベラ:あっはは、カイってばちょろ~い! エレン:くすくす・・・カイってば、イザベラが相手の時だけ、年相応に・・・・・・あっ・・・ 0:  エレン(M):カイが憤慨しながらも、スラリと伸びた手足で品良くイザベラに並ぶ。 エレン(M):そこでふと、あの言い伝えを思い出す。 エレン(M):『ハロウィンの夜。男女一組の子供を、家に招き入れてはいけない』 0:  カイ:エレンさん?どうかしましたか? イザベラ:ねぇ、エレン!早く早くっ! イザベラ:エレンも一緒にやろう? エレン:え・・・あ、そうね。 エレン:待ってて、今ラッピング材を出してくるわ 0:  エレン:(心の声)『嫌ね。あんなもの、迷信に決まってるわ・・・』 エレン(M):無邪気に笑うイザベラと、優し気に微笑むカイ。 エレン(M):この二人の笑顔と、私の選択を・・・私はきっと、この先ずっと。忘れない 0:  【場面】:時間経過 イザベラ:出来たぁ!じゃじゃーん! イザベラ:見てっ、ちょー可愛い!黒猫のチャームとか、めっちゃお洒落じゃない?! エレン:本当ね。イザベラの手先が器用だとは思わなかったわ。 エレン:すごい上手 イザベラ:えっ、それ褒められてる? エレン:あ・・・ごめんなさいw エレン:でも本当、イザベラらしくて可愛い出来栄えよ カイ:エレンさん。もっとはっきり言ってやってもいいんですよ。 カイ:目がチカチカして賑やかすぎるってね イザベラ:えぇー!? イザベラ:そんなこと言って、カイのは・・・・・・うっわ、すご・・・ エレン:・・・本当。有名店で売ってるプレゼントみたいね・・・ エレン:私のなんてことないお菓子が、宝石のよう カイ:何を言うんですか。エレンさんのお菓子があってこそ、ですよ。 カイ:それにしても・・・ イザベラ:ん?なぁに? カイ:君に素直に褒められるっていうのは、何ともぎこちないものだね イザベラ:ちょっとぉ、どーゆー意味ぃ? エレン:くすくす・・・本当に、二人は仲良しなのね。 エレン:二人ともガールフレンドやボーイフレンドはいないの? イザベラ:うっ・・・エレンてば、容赦なーい! カイ:僕もそうですね・・・まだ・・・ エレン:そうだったの、ごめんなさいね。 エレン:あまりにも二人が仲良しだから、二人がそういう関係なんだと思ったわ イザベラ:ないない!カイってば自分にも人にも厳し過ぎるもん。 イザベラ:それに私は、自分の好みの人には絶対振り向いてもらえる秘策があるし♡ カイ:君みたいな軽率な人には、僕は合わないだろうね。 カイ:僕に合うのは優しくて美しく品のある・・・ 0:  エレン(M):そう言って、伏し目がちに話していたカイが、私の目をじっと見つめる。 エレン(M):その瞬間、私の体はピクリと動くことすらできなくなってしまった。 エレン(M):カイのあまりにも熱い眼差しに緊張した、なんてロマンティックな話ではない。 エレン(M):そう、それはまるで・・・蛇に睨まれたカエルの様な・・・被捕食者としての、恐怖。 0:  イザベラ:・・・くすっ、くすくすっ・・・なぁんだ。 イザベラ:結局、エレンで決まりなんじゃない。もったいぶっちゃってさ? カイ:当然だろう?僕らの命は長い。 カイ:それに一生付き添うことになるんだ、慎重な事に越したことはない イザベラ:飽きちゃったら記憶を消して、野に放てばいいのよ。 イザベラ:ポーン!ってね? カイ:君らはそういった秘薬を作るのに長けてるからね。 カイ:こういった部分で軽薄になるのは、理解できなくもないが、僕ら一族は・・・ イザベラ:(被せて)わかってるってばぁ。 イザベラ:『貴族たる者、一人を愛し、命の果てまで道連れに』でしょ? カイ:あぁ・・・僕はヴァンパイア。 カイ:魔族の中で最も古く、最も深い愛の意味を知る者 エレン:・・・カイ・・・あなたが、ヴァンパイア・・・? カイ:えぇ。そうですよ、エレン。 カイ:僕ら魔族は、いつの世も、人に紛れて生きてきた。 カイ:しかし寿命が長いと言っても永遠ではない。 カイ:命を、世代を繋ぐには人と同様、種を残す必要がある。しかし・・・ イザベラ:『最古参の魔族』って意識が強すぎたんでしょーね。 イザベラ:血が濃すぎて、ある時代に流行った病によって数が激減してしまったの カイ:それを打開すべく、我々に近い人間を積極的に誘惑し、種を残そうとするヴァンパイアがいました。 カイ:しかし我々の膨大な魔力に耐えうる人間は、そういない。 カイ:結果、知性の欠片もない眷属が増えるだけ・・・ イザベラ:力が強すぎるっていうのは厄介以外の何物でもなくてね? イザベラ:眷属を排除しなきゃいけないし、おまけにそれが原因でヴァンパイア・ハンターが発足して・・・ カイ:種のためとは言え、彼の選択は魔族を脅かす結果となってしまった。 カイ:その時から我々一族と魔女の一族は手を結ぶことになりました エレン:・・・魔女・・・イザ、ベラが・・・? イザベラ:ふふっ。言ったでしょう?魔力に耐えられる人間はそう多くないって。 イザベラ:私たち魔女はその魔力に耐えるための力を一時的に人間に付与できる カイ:彼女らにはヴァンパイアの婚姻のため、力を借りている。 カイ:代わりに我々は、本来戦闘に向いていない魔女を守る盟約を結んだ イザベラ:そうそう。人間は魔女がファンタジーで言う、魔法使いと同義だと思ってるみたいだけど。 イザベラ:大半の魔女はただの研究者だもの。かよわい存在なのよ? エレン:・・・そんなの、知らな・・・待って。私はどうなるの・・・? カイ:何も怖がらなくていい・・・君は僕の一族に選ばれた 0:  エレン(M):目の前にカイが迫る。背後には姿を確認できないが、イザベラ。 エレン(M):私の体は、依然動かない。 0:  イザベラ:そう、怖くないわ・・・。 イザベラ:むしろ長い間、今の綺麗なままでいられるの・・・だから、ね・・・? 0:  エレン(M):背後から耳に息を吹きかける様に、イザベラが私を諭し、呪文を唱える。 エレン(M):魔女特有の言語なのか、その内容を私が判別する術はない。 エレン(M):イザベラが呪文を唱える反対側の首筋に、カイが顔を埋める。 エレン(M):牙を立てる直前、その刹那・・・。 0:  カイ:愛しているよ。エレン 0:  【場面】:時間経過・数日後 エレン:お世話になりました。後は、よろしくお願いします。 エレン(M):あれから数日。私は手に持てるだけの荷物を手に、家を後にした。 エレン(M):私が去った後、次の居住者が見つかるまでは、街の不動産が管理をしてくれるらしい。 エレン(M):家に残っている家具はそのまま、次に住む人にプレゼントすると伝えた。 エレン(M):別段こだわっていたわけではないけど、大切に使っていたものばかり。気に入ってくれたら嬉しいと思う。 エレン(M):もう私が使っていても、私が朽ちるより先に、朽ちてしまうだろうから。 エレン:はい、今日が最後で。お世話になりました 0:  エレン(M):街を出るまでに、今までお世話になった人たちと挨拶を交わす。 エレン(M):魚を売る元気なおじさま。お肉を卸すシャイな青年。果物に囲まれた笑顔の眩しいお姉さん。 エレン(M)誰もが優しく、暖かかった。 0:  エレン:・・・あ、この匂い エレン(M):香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。大好きだったパン屋さん。もうここに来ることもないのだろう。 エレン(M):なんだか少し切なくなり、木組みのガラス張りの扉を開いて、店内に入った。小麦の香りが一層強くなる。 0:  エレン:こんにちは。えぇ、今日この街を・・・あ。 エレン:それイザベラの・・・ エレン(M):ふと、カウンターの中に掛けられた、黒猫をモチーフにしたリースを目にして、口に出し・・・唐突にやめた。 エレン(M):恰幅の良いおかみさんの顔が、怪訝そうに歪められる。 エレン(M):そうよね・・・だって・・・ 0:  エレン:ごめんなさい、なんでもないわ。 エレン:じゃあ、私はこれで・・・ エレン(M):パン屋を出て、街の役場に行き、手続きを終える。 エレン(M):北の街道を一人歩いていたところで・・・ 0:  イザベラ:あ、やぁっと来た エレン:イザベラ。どうしてここに? イザベラ:どうしてって、あなたを待ってたのよ。 イザベラ:カイが早く連れてこいってうるさくて エレン:そうだったの・・・。ごめんなさいね イザベラ:いいわよ。それにあなたも慣れておいたほうがいいから エレン:慣れる? イザベラ:うん。だって魔女の一族とヴァンパイアの一族は一連托生だからね。 イザベラ:この先も乗ることが多いと思うから エレン:・・・ふふっ、なるほどね 0:  エレン(M):イザベラの箒に腰を掛け、彼女の細い腰に腕を回す。 エレン(M):次の瞬間、ふわりと体が持ち上がった。 0:  エレン:わぁ・・・本当に魔女って飛ぶのね? イザベラ:そうよー。でも私、箒って好きじゃないのよね エレン:あら、どうして?すごくファンタジックで素敵だわ? イザベラ:だぁって、すーぐお尻が痛くなるもの。 イザベラ:あなたたちはいいわよね、翼があって エレン:翼・・・私はないのだけど、私にも生えてくるのかしら? イザベラ:翼って言っても、魔力の集合体だからね。 イザベラ:別に生えてなくても飛べるって、カイは言ってたわよ? エレン:へぇ・・・そうなんだ。 エレン:ねぇ、私からも魔力を感じる? イザベラ:もちろん。なんてったって、あのカイの奥さんだもん。 イザベラ:その辺のヴァンパイアなんて目じゃないわ エレン:そう・・・ 0:  【場面】:霧に包まれ密やかにそびえ立つ古城  イザベラ:カイー?連れてきたわよー!!カイー? カイ:聞こえてるよ、イザベラ。 カイ:何度も呼ばないでくれ、頭が痛くなる イザベラ:はいはーい。すいませんでしたぁ カイ:全く・・・。・・・エレン、良く来たね エレン:カイ。お待たせして、ごめんなさい カイ:いや、いいよ。 カイ:あのまま君を攫うこともできたけど、住人達の記憶を消す必要もあったし、君もお別れをしたかっただろう? エレン:そうね。ゆっくりと準備が出来て、とても助かったわ カイ:そう。それは良かった・・・ん、この匂い・・・ エレン:あぁ・・・ごめんなさい。 エレン:最後に馴染みのパン屋さんに寄ってきたのだけど、ガーリックの匂いがついてしまったわ カイ:・・・いいさ。君が選んだことに僕は文句なんて言わないよ。 カイ:美味しかったかい?ガーリックトーストは エレン:いいえ・・・。 エレン:本当は最後にパンを買おうと思ったのだけど、ガーリックの匂いが辛くて エレン:早々にお店を出て来てしまったの カイ:それはそれは・・・もう立派にヴァンパイアだね エレン:ふふっ、そんなことはないわ? エレン:魔力のコントロールだってこれから覚えなくてはいけないし・・・ エレン:ねぇ、カイ。教えてくれる? カイ:もちろん。だって君は、僕の愛する人だからね・・・ エレン:カイ・・・ イザベラ:はいはい。いちゃつくのは後にしてくれる? イザベラ:街の人からエレンの記憶を抹消したって報告が来たわ。 イザベラ:それと、これ エレン:・・・契約書ね イザベラ:そう。今日からあなたも正式にヴァンパイア一族の一人。 イザベラ:今後は魔女との盟約を遵守してもらう エレン:えぇ・・・わかっているわ 0:  イザベラ(M):この世界のとある街には、古い言い伝えがある。 カイ(M):『ハロウィンの夜。男女一組の子供を、家に招き入れてはいけない』 エレン(M):何故なら彼らは魔族。あなたは彼らに見初められた、一人なのだから。 0:  【Fin.】: