台本概要

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タイトル クリスマスの奇跡
作者名 冷凍みかん-光柑-  (@mikanchilled)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 4人用台本(男2、女2) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 今年のノーベル文学賞にかこつけて、イプセンの戯曲『人形の家』をハートフルにしてみました!
ご自由に楽しんでくださると共に、原作との違いを味わって頂ければ幸いです。
感動エンドをどうぞっ!

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ノア 85 閏目ノア(うるめノア)元気で明るい主人公。夫の友信に秘密を隠している。原作の”人形”ノーラ・ヘルメル。
友信 86 閏目友信(うるめトモノブ)幼い性格が急成長を遂げる。若くして大学の学長になるも、借金により精神病を患う。原作のトラヴァル・ヘルメル。
73 谷✕(たにカケル)怪しく淡々としている。講師の仕事を解雇され、閏目夫妻に復讐を企てる。原作のニルス・クルクスタ。
来栖 29 来栖リン(くるすリン)クールで思慮深いが、同じくらい思いやりに溢れている。谷の元恋人で、谷と入れ替わるように出世する。原作のリンデ夫人(クリスティーネ)。
倉野教授 - 原作のドクトル・ランク。この台本でも不遇な男。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
人形の家 倉野教授 谷×(タニ・カケル) 閏目ノア 閏目友信(トモノブ)学長 来栖リン 谷:〈モノローグ〉秋は過ぎ去り、本格的な冬が訪れようとしていた。街にはイルミネーションが飾られ、クリスマスの空気に包まれている。 谷:大学構内に生徒はおらず、ただ事務員が年末のあれこれに追われて足早に行き交うだけだ。 谷:私は閏目(うるめ)学長の執務室に向かう途中で、ふと彼女の後姿を見つけた。 0: 谷:やあ、来栖(くるす)! 来栖:谷くん?もう冬休みなのにどうして? 谷:学長に呼ばれてね。話があるみたいなんだ 来栖:そうなのね 谷:来栖、今年のクリスマスの予定は? 来栖:谷くん、私達もうそういう関係じゃないのよ 谷:分かっているけどさ、また一緒に付き合うことはできないかな 来栖:谷くん…私あれからまた色々変わってね、今はとにかく忙しいの。 来栖:奇跡でも起きない限り、それは無理よ 谷:奇跡、か。そっか。うん、何かあったら頼ってくれよ 来栖:ありがとう。それじゃ 0:コンコン。学長室の扉を叩く谷 谷:谷です。 友信:ああ、入ってくれ。 谷:失礼します。話ってなんですか 友信:まずは掛けてくれ。 0:谷を来客用のソファに促す友信。谷は一番入口に近いソファに座る。 谷:もしかして例の話、考えてくれたんですか 友信:ああ、君を名誉教授にするという話だね。そのことについてだ。 谷:やった! 友信:まあ聞いてくれ。谷くん、君はよくやってくれてる。 友信:今まで教授ではなく、講師として扱ったのが心苦しいくらいにね。 友信:僕が若くしてこの地位につけたのも、君のお陰だと思っている。 谷:いえ、僕は経理を少し手伝ったくらいですよ。 友信:そんなこと言うな。困難な時期も傍にいてくれた。本当に感謝している。 谷:止してください、照れるじゃないですか。 友信:ところで、生徒とは上手くいっているかな? 谷:え?ええ、まあ。 友信:〈渋りながら〉君の授業だがね、うけもつ生徒は提出物を必ず期限に間に合わせているし、試験の結果も申し分ない。 友信:ただ… 谷:もちろん。特に厳しくしていますから。 友信:そこなんだよ谷君。君は生徒からの人気がすこぶるよくない。学期末のアンケートでは最下位だった。 谷:すみません。これからは優しくしてみます。 友信:それだけじゃない、君の講義そのものが不人気なんだ。 谷:行政書士の試験対策が、ですか? 友信:知っての通り行政書士の合格率は全体の4%…これは東大への合格率よりもずっと低い。間違いなく最難関の国家試験だ。 谷:ええ。国の行政に関わる資格ですからね。 友信:そこなんだよ。実際に就職してからは、役所や官公庁での書類作成が中心。表に出ることはない。 谷:表に出るだけが人の価値ですか? 友信:言いたいことは分かる。しかし似たような資格の司法書士と比較してみてくれ。 谷:ギクッ… 友信:こちらも最難関の資格だが、就職先は行政から法人へと引く手数多(あまた)だ。 友信:弁護士事務所にも所属できるし、昇給も期待できる。 友信:分かるか?華があるんだよ 谷:でも…必要な人材です。誰かがやらないと。 友信:それがうちの生徒である必要はないんだ。すすんでそうなりたい生徒は本当に少ない。 友信:行政書士のイメージと言ったら、どこまで行っても”お役所”だ。司法書士のように”先生”と呼ばれることもないばかりか、きな臭さが拭えない。 谷:言い過ぎです!そんなの偏見だ! 友信:偏見だよ!当たり前だ!評判とはそういうモノだッ! 友信:どこの大学出身か?親の仕事は何だ?大学では何を学んだ?? 友信:周囲の目なんて、いい加減なくせに、残酷だ! 友信:この地位に昇りつめるまでに、僕がどれほど苦労したか!君なら分かるだろ…! 谷:…分かりました。確かに行政書士は不人気な資格です。話を続けて下さい。 友信:ああ、つまり来年度から行政書士の講座を設けないことにしたんだ。 谷:なんですって? 友信:君の契約を切ることにした。 谷:そんな… 谷:いや、ははは。なるほど?それで次は何を教えたらいいんですか。 友信:君に与(あずか)ってもらう教科はない。正真正銘のクビだ。 谷:僕、経理も分かります!そうだ、倉野(くらの)教授が助手を欲しがっていたはずだ! 友信:そのポストは既に埋まっている 谷:なんだって? 友信:… 谷:ありえないでしょう!僕を差し置いて! 谷:ふざけてる! 友信:話は以上だ 谷:なあ、本当に終わりなのか、友信(とものぶ)… 友信:今は閏目(うるめ)学長と呼んでくれ。頼むよ。 谷:学長、僕はてっきり、これからも一緒に仕事ができるものだと、 谷:そう思っていました。 友信:今の経営には君を抱える余裕はない。それこそ奇跡でも起きない限りな 谷:奇跡、ですか?馬鹿にしてる… 友信:… 谷:わかりました。今までお世話になりました。 0:立ち上がり、退室しようとする谷。 友信:待ってくれ谷君。 谷:まだ何か。 友信:せめて明日のパーティに来てくれないか?君の歓送会を兼ねて。 友信:これが一緒に過ごす最後のクリスマスだ。 谷:違うね。 友信:? 谷:最後のクリスマスは、”去年”だよ。 0:自宅の居間で、私服に着替えてくつろぐ友信。 友信:〈モノローグ〉なんだ?谷のヤツ。私からの誘いを無下にするなんて。 友信:そんなことだから「人付き合いが悪い」と言われて、生徒にも好かれないんだ。 友信:ヤツは次の職場でも失敗するだろう。いや構いはしない。谷のことなど、もうどうでもいい。 ノア:友信?難しい顔をしてどうしたの? 友信:なんでもないよ ノア:ねえ見てよ、ツリーの飾りつけはこんなものかしら 友信:おい、昨年よりも増えていないか?余計なモノを買うなよ… ノア:いいじゃない、少しくらい 友信:〈ハッとする〉いや、ダメだ!…無駄遣いをして、お金が無くなったら!! 友信:借金をする羽目になったら…どうするつもりだ! ノア:友信、大丈夫…大丈夫だから…! 友信:大丈夫じゃない!働いて返せばいいとでも思っているのか?なんなら僕が突然、死にでもしたらどうするつもりだ? ノア:そんな恐ろしい事、言わないで… 友信:なあどうするつもりなんだよお! ノア:アナタが死んでしまったら、借金なんてあってもなくても同じだわ。 友信:貸した側はどうなる…! ノア:知らないわよ。他人のことなんて! 友信:ああ、それだよ!君は本当に考え足らずだ!! 友信:借金をすれば、他人の目がガラリと変わる!惨め惨め惨めッ!! 友信:そんな生活、僕は二度とご免なんだッ!! 0:ガチャガチャ!ガチャガチャ! ノア:ちょっと、何をしてるの? 友信:ドアノブの強度を確かめているッ!自殺の失敗が一番惨めだからな… ノア:自殺?何を言ってるの! 友信:〈聞こえてない〉ちがうちがう…自殺はダメだ、保険金が下りない…事故死、事故死にしないと… ノア:〈モノローグ〉病気、友信は病気だわ…方々になじられてから、すっかり変わってしまった… 0: ノア:ごめんなさい…私、考えが足りなかったわ。 友信:ああ…僕はまた。すまない、そんなに落ち込まないでくれ、ノア。 友信:〈笑顔になって〉そうだ、明日披露するダンスのおさらいをしよう ノア:いけない!すっかり忘れてた! ノア:間に合うかしら? 友信:大丈夫、僕の言うとおりにするんだよ… 友信:123、223。ほら、やってみて ノア:123、223… 0:ピンポーン ノア:誰かしら… 友信:僕なら留守だよ…!そう伝えてくれッ ノア:わかった。はーい今行きます! 0:ガチャリ 来栖:ひさしぶり、ノア。 ノア:えっと、どちら様でしょうか… 来栖:分からない?もう十年になるものね ノア:まさか、リン…?あなたなのね! 来栖:当たり。 ノア:私ったら、あなたが分からないなんて…!…ずいぶん変わったのね。 来栖:色々あったからね。でももういいの ノア:とにかく上がって。お母様のことも、弟さんたちのことも大変だったでしょう。 来栖:まあね。弟たちも自立したから今は自由の身よ。 来栖:新しい仕事も見つかったしね。 ノア:仕事?どんな仕事なの。 友信:〈ぬっと現れる〉来栖さんには、来年度から倉野教授の助手になってもらうんだ。 ノア:友信… 来栖:こんばんは、閏目学長。 友信:こんばんは来栖さん。 ノア:どういうこと?知り合いなの?? 来栖:ええっと… 友信:来栖さんはウチの大学の事務員だよ。言ってなかったっけ…? ノア:初耳だわ… 来栖:ごめんね。言おうかずっと迷ってて。ほら、ずっと疎遠だったし。 ノア:…いや、いいのよ。お互い様だし。それに、こんなにも嬉しい。 来栖:そう!嬉しいことだわ。またこうして会えて。 友信:ささ、上がってくれ。 来栖:いえ、結構です。明日のパーティにまた。 友信:そうか。じゃあ夜道に気をつけて。 来栖:ええ。お邪魔しました。またねノア。 ノア:またね、リン。 0: 友信:… 友信:何しに来たんだ?あの女は。 ノア:ねえ、どうして言ってくれなかったの?リンが同じ職場だったなんて。 友信:同じ職場じゃないよ。顔を合わせることは滅多にない。 0:ピンポーン 友信:おっと、またお客か。 ノア:どうしよう… 友信:誰なんだ? ノア:谷先生よ。 友信:追い払ってくれ。僕は留守だからな。 ノア:友達でしょ? 友信:もう違うさ。 0: 谷:谷です。開けてください。 0:ガチャリ。玄関のドアを開けるノア。 ノア:あの、主人なら居ませんけれど… 谷:かまいませんよ。用があるのは貴女です、ノアさん。 ノア:…!お金ならもう返したでしょう…! 谷:ええ。ですが借用書に不可解な点がありまして。 ノア:…何のことかしら。 谷:少し話を。場所を替えましょう。 ノア:…わかったわ。 谷:メールで伝えます。それではまた。 0:谷は去り、ノアはリビングに戻る。 友信:谷は何だって? ノア:ごめんなさい。 友信:は? ノア:ちょっと、出かけて来るわ。 0:とある喫茶店。 谷:今年の冬は冷えますね。暖房の近くに陣取れてよかった。 ノア:先に言っておくけど、あなたの解雇については何の関係もないから、私。 谷:お腹すきませんか? ノア:コーヒーで結構です。 谷:…まあ明日のパーティのために、今は倹約の時でしょう。さぞ豪勢でしょうから。 谷:〈店員に〉コーヒー、ふたつ。 ノア:話って? 谷:閏目ノアさん。あなたは今年度の5月5日に私から50万円借りましたね。 谷:理由は閏目学長の療養のため。 ノア:ええ。主人は精神的に病んでいましたので、休暇をとって鎌倉の別荘地で過ごさせました。 谷:そこなんですよ。閏目学長は精神病に悩まされていた。その原因は? ノア:… 谷:そう。方々(ほうぼう)からの借金のためです。 谷:ここに借用書のコピーがあります。覚えがありますね? 谷:いや、問題となっている箇所には、”書き覚え”などないはずですが。 ノア:… 谷:連帯保証人の署名欄、ここには確かに「閏目友信」と書かれています。 谷:おかしいと思いませんか。借金にトラウマを抱えた人間が、誰かの連帯保証人になるなんて。 ノア:さあ。そういうこともあるでしょう。 谷:単刀直入に伺いますが。ノアさん、この署名は貴女が学長に成りすましたものではないですか。 ノア:そんなまさか。 谷:それを聞いて安心しました。 谷:参考程度にお話しますと、連帯保証人の詐称は有印私文書偽造罪にあたります。 谷:刑法159条により「偽造した者は、3月以上5年以下の懲役に処」されます。 ノア:〈モノローグ〉懲役ですって…?冗談じゃないわ!だって、仕方なかったもの! ノア:友信に知られずに借金をするには、私独りで抱えるしかなかった! ノア:病気だって治りかけただけで、最近はまた悪化しているというのに! ノア:ああ!このことを知ったら、友信はきっと絶望するわ…! ノア:秘密に借金をしていたばかりか、私が犯罪者だなんて! ノア:…とにかく、彼に借用書を知られてはいけない! 谷:いやあ、「公正証書にしないでほしい」という貴女の要望には些か疑問がありましたが、 谷:学長本人の署名であるならば、法的に全く問題ありませんよね。 ノア:そ、そうよね。借金も完済したことだし、もうこれっきりにしてくれない? 谷:ええ。もちろんです。 0:店員がコーヒーを持ってくる。 谷:美味しいですね。 ノア:へっ? 谷:コーヒー。 ノア:そ、そうね… ノア:〈モノローグ〉促されるままカップに口をつけると、熱い黒々としたものが、私の喉奥に広がるのを感じた… 谷:これでおしまいにします。 ノア:そう。なら…私はもう帰るわ。 谷:ですが。 ノア:…? 谷:履行済みの借用書を持っていても仕方ないので。 谷:お返ししますよ。 ノア:原本を今持っているの? ノア:〈モノローグ〉しめたわ。これで友信の目に触れることなく借用書を処分できる… 谷:先ほど”ある者”に借用書を渡すよう言伝(ことづて)しました。 谷:遅くとも今夜中には届くでしょう。 谷:もしかしたら借用書はもう、貴女の家に届いているかもしれませんね。 ノア:なんてことをしてくれたのよッ!! 0:立ち上がり、急いで店を出るノア。 谷:〈モノローグ〉やはり偽造だったか… 谷:友信、僕はこのことを世間に公表しないよ。 谷:だが妻に騙されていたことを知り、生涯孤独に苛まれるんだな… 0:家の玄関のドアを勢いよく開け、ノアはリビングに飛び込んだ。 ノア:友信! 友信:… 0:友信はクリスマスツリーをじっと見て佇んでいる。 ノア:友信? 友信:ノア… 0:友信はゆっくりと振り返る 友信:〈笑顔で〉飾りを増やして正解だったな! ノア:え…? 友信:去年はなんだか寂しいと思ってたんだ~!この方が、ずっと見栄えがいいよ! ノア:〈モノローグ〉…バレてない?よかった、間に合ったのね? 0:ピンポーン ノア:インターホン?誰ッ!?だれなのッ!? 友信:ああ、きっとオードブルだよ。 ノア:オードブル? 友信:明日のパーティに出すために、冷蔵のモノを注文しといたんだ~! ノア:〈モノローグ〉ほっ、なんだ… 谷:〈回想〉「”ある者”に借用書を渡すよう言伝しました。」 谷:「明日のパーティは、さぞ豪勢でしょうから。」 ノア:〈モノローグ〉はっ…まさか!? 友信:はいはい、今出ますよっと。 ノア:駄目よッ!私が出るわ!! 友信:なんで? ノア:〈無理に笑って〉「男子厨房に入らず」っ!料理は妻である私に任せればいいの! 友信:…そ、そうか? 0:お会計を済ませ、廊下を歩く2人 友信:なあ、オードブル重いだろ? ノア:平気よ全然!!さ、友信はソファに座ってて!崩れたオードブルを整えなくちゃ! 友信:うん、わかった… ノア:〈モノローグ〉オードブルの中に借用書は仕込まれていない… ノア:よかった… 友信:じゃあ、僕は開封の儀でも行うとするかね… ノア:何?その荷物…? 友信:ストーブだよ。今年も寒くなるぞ~! 谷:〈回想〉「暖房の近くに陣取れてよかった」 ノア:はっ…! ノア:駄目よ!私が開ける! 友信:おいおい、僕にも何かやらせてくれよ。 ノア:機械は女の領分でしょ!? 友信:どちらかと言うと男じゃないかな… ノア:どっちでもいいのよ!私得意なんだからっ! 友信:まあ、いいか。 ノア:友信、向こうを向いてよ。 友信:え、なんで?? ノア:ストーブを脱がすんだから、あ、当たり前でしょ??/// 友信:えっと、ノア?僕は機械に対してそういう趣味はないよ? ノア:いいから早く! 友信:…わかったよ。 ノア:〈モノローグ〉お願い友信。私は貴方との生活を台無しにしたくないの… ノア:あれ?どういうこと?ストーブにも借用書はないじゃないッ!! ノア:谷は本当に借用書を送ったの?? ノア:まったく…どうなってるのよッ! 友信:おっと、メールだ。 ノア:誰から…!? 友信:倉野教授から。新年度の書類を今持ってくるってさ。 ノア:〈モノローグ〉まって…いや間違いない! ノア:谷は倉野教授に頼んだのだわ! ノア:面識があるはずよ!谷は大学で講師をしていたんだもの! 0:ピンポーン 友信:お、もう来たのか。早いな。 ノア:駄目よ!出てはダメ! 友信:ノア、いい加減にしてくれないか。 ノア:倉野教授は明日のパーティも来るんでしょう!?その時でいいじゃない! ノア:今は…ダメなの! 友信:なぜだ。どうして今はダメなんだ! ノア:私、えっと…えっと…! ノア:そうよ!ダンス!友信、ダンスを教えて! 友信:あとで教えるさ。 ノア:今じゃなきゃイヤ!ほら…見てっ? ノア:123…!223…! ノア:友信!私、ちゃんと踊れているかしらっ?? 友信:ああ、うまいうまい。 ノア:ちゃんと見て!友信お願い! ノア:私を見て!私だけを見てよッ! 0:不意に友信がノアを抱きしめる ノア:…! 友信:ノア… ノア:友、信… 友信:ちゃんと見ているさ。 友信:僕は君のパートナーなんだから。 0:夜が更け、寂しい街燈に照らされたベンチに谷が座っている。 谷:〈モノローグ〉人生は孤独だ… 谷:友達と呼べる者はもういない。 谷:クビを切られたことにカッとして、最後は僕が終止符を打った… 谷:クリスマスも、365ある内の一夜にすぎない… 谷:奇跡なんて、起こるはずもない… 来栖:こんばんは。無職さん。 谷:来栖… 来栖:やっぱりここにいた。 谷:ここがなんだ? 来栖:告白してくれたでしょう?そんなことも忘れちゃったの? 谷:ああ、そう言えばそうだな… 来栖:まさかあんな物を渡そうとするなんてね 谷:中身は見るなと言っただろ。 来栖:見たわよ。 来栖:あなたの目が見てくれって言ってた。 谷:フン… 来栖:ねえ、アナタたち本当に終わりなの? 谷:男の友情だって脆いさ。 来栖:そんなことないわよ。 谷:なんなんださっきから… 来栖:そんなことない。 谷:… 来栖:ねえ谷くん。もう一度やり直しましょう? 谷:来栖、僕と、やり直してくれるのか? 来栖:ええ。まあいいかな。 谷:こんな男だぞ? 来栖:そうよ。 谷:無職なのに? 来栖:…仕事はちゃんと見つけて? 谷:〈つぶやくように〉はは、嘘みたいだ。 来栖:〈優しく覗き込んで〉なに? 谷:奇跡だよ、今。奇跡が起きたんだ。 0:ノアを抱きしめたまま、友信は口を開く。 友信:借用書、見たよ。 ノア:そんな… 友信:ううん。来栖さん言ってたよ。 友信:「夫婦の間に、嘘やごまかしがあったらいけない」って… 友信:でも僕、君が帰って来てからも、ずっと切り出せなくて… ノア:友信… 友信:ノア。君の嘘は、僕を守るためだったんだよね…? ノア:私、分からない…何が本当かも、何が本心かも… 友信:そうかな。少なくとも僕は今、とても幸せだ。 友信:それが本当だよ。それが本心さ。 ノア:友信、ごめん…本当にごめんなさい… 友信:いいんだ。ノア、これからも一緒に歩いてくれる? ノア:ええ。 ノア:もちろんよ。 ノア:〈モノローグ〉それから私たち二人はダンスの練習をした。 ノア:クリスマスパーティには、谷も来栖も来てくれて、ひと悶着あったけれど、 ノア:楽しい時を過ごした。 ノア:友信はそれからというもの、2度と死を望むことはなくなった。 ノア:それこそが、私の望んだ最大の奇跡。 0:完 0:

人形の家 倉野教授 谷×(タニ・カケル) 閏目ノア 閏目友信(トモノブ)学長 来栖リン 谷:〈モノローグ〉秋は過ぎ去り、本格的な冬が訪れようとしていた。街にはイルミネーションが飾られ、クリスマスの空気に包まれている。 谷:大学構内に生徒はおらず、ただ事務員が年末のあれこれに追われて足早に行き交うだけだ。 谷:私は閏目(うるめ)学長の執務室に向かう途中で、ふと彼女の後姿を見つけた。 0: 谷:やあ、来栖(くるす)! 来栖:谷くん?もう冬休みなのにどうして? 谷:学長に呼ばれてね。話があるみたいなんだ 来栖:そうなのね 谷:来栖、今年のクリスマスの予定は? 来栖:谷くん、私達もうそういう関係じゃないのよ 谷:分かっているけどさ、また一緒に付き合うことはできないかな 来栖:谷くん…私あれからまた色々変わってね、今はとにかく忙しいの。 来栖:奇跡でも起きない限り、それは無理よ 谷:奇跡、か。そっか。うん、何かあったら頼ってくれよ 来栖:ありがとう。それじゃ 0:コンコン。学長室の扉を叩く谷 谷:谷です。 友信:ああ、入ってくれ。 谷:失礼します。話ってなんですか 友信:まずは掛けてくれ。 0:谷を来客用のソファに促す友信。谷は一番入口に近いソファに座る。 谷:もしかして例の話、考えてくれたんですか 友信:ああ、君を名誉教授にするという話だね。そのことについてだ。 谷:やった! 友信:まあ聞いてくれ。谷くん、君はよくやってくれてる。 友信:今まで教授ではなく、講師として扱ったのが心苦しいくらいにね。 友信:僕が若くしてこの地位につけたのも、君のお陰だと思っている。 谷:いえ、僕は経理を少し手伝ったくらいですよ。 友信:そんなこと言うな。困難な時期も傍にいてくれた。本当に感謝している。 谷:止してください、照れるじゃないですか。 友信:ところで、生徒とは上手くいっているかな? 谷:え?ええ、まあ。 友信:〈渋りながら〉君の授業だがね、うけもつ生徒は提出物を必ず期限に間に合わせているし、試験の結果も申し分ない。 友信:ただ… 谷:もちろん。特に厳しくしていますから。 友信:そこなんだよ谷君。君は生徒からの人気がすこぶるよくない。学期末のアンケートでは最下位だった。 谷:すみません。これからは優しくしてみます。 友信:それだけじゃない、君の講義そのものが不人気なんだ。 谷:行政書士の試験対策が、ですか? 友信:知っての通り行政書士の合格率は全体の4%…これは東大への合格率よりもずっと低い。間違いなく最難関の国家試験だ。 谷:ええ。国の行政に関わる資格ですからね。 友信:そこなんだよ。実際に就職してからは、役所や官公庁での書類作成が中心。表に出ることはない。 谷:表に出るだけが人の価値ですか? 友信:言いたいことは分かる。しかし似たような資格の司法書士と比較してみてくれ。 谷:ギクッ… 友信:こちらも最難関の資格だが、就職先は行政から法人へと引く手数多(あまた)だ。 友信:弁護士事務所にも所属できるし、昇給も期待できる。 友信:分かるか?華があるんだよ 谷:でも…必要な人材です。誰かがやらないと。 友信:それがうちの生徒である必要はないんだ。すすんでそうなりたい生徒は本当に少ない。 友信:行政書士のイメージと言ったら、どこまで行っても”お役所”だ。司法書士のように”先生”と呼ばれることもないばかりか、きな臭さが拭えない。 谷:言い過ぎです!そんなの偏見だ! 友信:偏見だよ!当たり前だ!評判とはそういうモノだッ! 友信:どこの大学出身か?親の仕事は何だ?大学では何を学んだ?? 友信:周囲の目なんて、いい加減なくせに、残酷だ! 友信:この地位に昇りつめるまでに、僕がどれほど苦労したか!君なら分かるだろ…! 谷:…分かりました。確かに行政書士は不人気な資格です。話を続けて下さい。 友信:ああ、つまり来年度から行政書士の講座を設けないことにしたんだ。 谷:なんですって? 友信:君の契約を切ることにした。 谷:そんな… 谷:いや、ははは。なるほど?それで次は何を教えたらいいんですか。 友信:君に与(あずか)ってもらう教科はない。正真正銘のクビだ。 谷:僕、経理も分かります!そうだ、倉野(くらの)教授が助手を欲しがっていたはずだ! 友信:そのポストは既に埋まっている 谷:なんだって? 友信:… 谷:ありえないでしょう!僕を差し置いて! 谷:ふざけてる! 友信:話は以上だ 谷:なあ、本当に終わりなのか、友信(とものぶ)… 友信:今は閏目(うるめ)学長と呼んでくれ。頼むよ。 谷:学長、僕はてっきり、これからも一緒に仕事ができるものだと、 谷:そう思っていました。 友信:今の経営には君を抱える余裕はない。それこそ奇跡でも起きない限りな 谷:奇跡、ですか?馬鹿にしてる… 友信:… 谷:わかりました。今までお世話になりました。 0:立ち上がり、退室しようとする谷。 友信:待ってくれ谷君。 谷:まだ何か。 友信:せめて明日のパーティに来てくれないか?君の歓送会を兼ねて。 友信:これが一緒に過ごす最後のクリスマスだ。 谷:違うね。 友信:? 谷:最後のクリスマスは、”去年”だよ。 0:自宅の居間で、私服に着替えてくつろぐ友信。 友信:〈モノローグ〉なんだ?谷のヤツ。私からの誘いを無下にするなんて。 友信:そんなことだから「人付き合いが悪い」と言われて、生徒にも好かれないんだ。 友信:ヤツは次の職場でも失敗するだろう。いや構いはしない。谷のことなど、もうどうでもいい。 ノア:友信?難しい顔をしてどうしたの? 友信:なんでもないよ ノア:ねえ見てよ、ツリーの飾りつけはこんなものかしら 友信:おい、昨年よりも増えていないか?余計なモノを買うなよ… ノア:いいじゃない、少しくらい 友信:〈ハッとする〉いや、ダメだ!…無駄遣いをして、お金が無くなったら!! 友信:借金をする羽目になったら…どうするつもりだ! ノア:友信、大丈夫…大丈夫だから…! 友信:大丈夫じゃない!働いて返せばいいとでも思っているのか?なんなら僕が突然、死にでもしたらどうするつもりだ? ノア:そんな恐ろしい事、言わないで… 友信:なあどうするつもりなんだよお! ノア:アナタが死んでしまったら、借金なんてあってもなくても同じだわ。 友信:貸した側はどうなる…! ノア:知らないわよ。他人のことなんて! 友信:ああ、それだよ!君は本当に考え足らずだ!! 友信:借金をすれば、他人の目がガラリと変わる!惨め惨め惨めッ!! 友信:そんな生活、僕は二度とご免なんだッ!! 0:ガチャガチャ!ガチャガチャ! ノア:ちょっと、何をしてるの? 友信:ドアノブの強度を確かめているッ!自殺の失敗が一番惨めだからな… ノア:自殺?何を言ってるの! 友信:〈聞こえてない〉ちがうちがう…自殺はダメだ、保険金が下りない…事故死、事故死にしないと… ノア:〈モノローグ〉病気、友信は病気だわ…方々になじられてから、すっかり変わってしまった… 0: ノア:ごめんなさい…私、考えが足りなかったわ。 友信:ああ…僕はまた。すまない、そんなに落ち込まないでくれ、ノア。 友信:〈笑顔になって〉そうだ、明日披露するダンスのおさらいをしよう ノア:いけない!すっかり忘れてた! ノア:間に合うかしら? 友信:大丈夫、僕の言うとおりにするんだよ… 友信:123、223。ほら、やってみて ノア:123、223… 0:ピンポーン ノア:誰かしら… 友信:僕なら留守だよ…!そう伝えてくれッ ノア:わかった。はーい今行きます! 0:ガチャリ 来栖:ひさしぶり、ノア。 ノア:えっと、どちら様でしょうか… 来栖:分からない?もう十年になるものね ノア:まさか、リン…?あなたなのね! 来栖:当たり。 ノア:私ったら、あなたが分からないなんて…!…ずいぶん変わったのね。 来栖:色々あったからね。でももういいの ノア:とにかく上がって。お母様のことも、弟さんたちのことも大変だったでしょう。 来栖:まあね。弟たちも自立したから今は自由の身よ。 来栖:新しい仕事も見つかったしね。 ノア:仕事?どんな仕事なの。 友信:〈ぬっと現れる〉来栖さんには、来年度から倉野教授の助手になってもらうんだ。 ノア:友信… 来栖:こんばんは、閏目学長。 友信:こんばんは来栖さん。 ノア:どういうこと?知り合いなの?? 来栖:ええっと… 友信:来栖さんはウチの大学の事務員だよ。言ってなかったっけ…? ノア:初耳だわ… 来栖:ごめんね。言おうかずっと迷ってて。ほら、ずっと疎遠だったし。 ノア:…いや、いいのよ。お互い様だし。それに、こんなにも嬉しい。 来栖:そう!嬉しいことだわ。またこうして会えて。 友信:ささ、上がってくれ。 来栖:いえ、結構です。明日のパーティにまた。 友信:そうか。じゃあ夜道に気をつけて。 来栖:ええ。お邪魔しました。またねノア。 ノア:またね、リン。 0: 友信:… 友信:何しに来たんだ?あの女は。 ノア:ねえ、どうして言ってくれなかったの?リンが同じ職場だったなんて。 友信:同じ職場じゃないよ。顔を合わせることは滅多にない。 0:ピンポーン 友信:おっと、またお客か。 ノア:どうしよう… 友信:誰なんだ? ノア:谷先生よ。 友信:追い払ってくれ。僕は留守だからな。 ノア:友達でしょ? 友信:もう違うさ。 0: 谷:谷です。開けてください。 0:ガチャリ。玄関のドアを開けるノア。 ノア:あの、主人なら居ませんけれど… 谷:かまいませんよ。用があるのは貴女です、ノアさん。 ノア:…!お金ならもう返したでしょう…! 谷:ええ。ですが借用書に不可解な点がありまして。 ノア:…何のことかしら。 谷:少し話を。場所を替えましょう。 ノア:…わかったわ。 谷:メールで伝えます。それではまた。 0:谷は去り、ノアはリビングに戻る。 友信:谷は何だって? ノア:ごめんなさい。 友信:は? ノア:ちょっと、出かけて来るわ。 0:とある喫茶店。 谷:今年の冬は冷えますね。暖房の近くに陣取れてよかった。 ノア:先に言っておくけど、あなたの解雇については何の関係もないから、私。 谷:お腹すきませんか? ノア:コーヒーで結構です。 谷:…まあ明日のパーティのために、今は倹約の時でしょう。さぞ豪勢でしょうから。 谷:〈店員に〉コーヒー、ふたつ。 ノア:話って? 谷:閏目ノアさん。あなたは今年度の5月5日に私から50万円借りましたね。 谷:理由は閏目学長の療養のため。 ノア:ええ。主人は精神的に病んでいましたので、休暇をとって鎌倉の別荘地で過ごさせました。 谷:そこなんですよ。閏目学長は精神病に悩まされていた。その原因は? ノア:… 谷:そう。方々(ほうぼう)からの借金のためです。 谷:ここに借用書のコピーがあります。覚えがありますね? 谷:いや、問題となっている箇所には、”書き覚え”などないはずですが。 ノア:… 谷:連帯保証人の署名欄、ここには確かに「閏目友信」と書かれています。 谷:おかしいと思いませんか。借金にトラウマを抱えた人間が、誰かの連帯保証人になるなんて。 ノア:さあ。そういうこともあるでしょう。 谷:単刀直入に伺いますが。ノアさん、この署名は貴女が学長に成りすましたものではないですか。 ノア:そんなまさか。 谷:それを聞いて安心しました。 谷:参考程度にお話しますと、連帯保証人の詐称は有印私文書偽造罪にあたります。 谷:刑法159条により「偽造した者は、3月以上5年以下の懲役に処」されます。 ノア:〈モノローグ〉懲役ですって…?冗談じゃないわ!だって、仕方なかったもの! ノア:友信に知られずに借金をするには、私独りで抱えるしかなかった! ノア:病気だって治りかけただけで、最近はまた悪化しているというのに! ノア:ああ!このことを知ったら、友信はきっと絶望するわ…! ノア:秘密に借金をしていたばかりか、私が犯罪者だなんて! ノア:…とにかく、彼に借用書を知られてはいけない! 谷:いやあ、「公正証書にしないでほしい」という貴女の要望には些か疑問がありましたが、 谷:学長本人の署名であるならば、法的に全く問題ありませんよね。 ノア:そ、そうよね。借金も完済したことだし、もうこれっきりにしてくれない? 谷:ええ。もちろんです。 0:店員がコーヒーを持ってくる。 谷:美味しいですね。 ノア:へっ? 谷:コーヒー。 ノア:そ、そうね… ノア:〈モノローグ〉促されるままカップに口をつけると、熱い黒々としたものが、私の喉奥に広がるのを感じた… 谷:これでおしまいにします。 ノア:そう。なら…私はもう帰るわ。 谷:ですが。 ノア:…? 谷:履行済みの借用書を持っていても仕方ないので。 谷:お返ししますよ。 ノア:原本を今持っているの? ノア:〈モノローグ〉しめたわ。これで友信の目に触れることなく借用書を処分できる… 谷:先ほど”ある者”に借用書を渡すよう言伝(ことづて)しました。 谷:遅くとも今夜中には届くでしょう。 谷:もしかしたら借用書はもう、貴女の家に届いているかもしれませんね。 ノア:なんてことをしてくれたのよッ!! 0:立ち上がり、急いで店を出るノア。 谷:〈モノローグ〉やはり偽造だったか… 谷:友信、僕はこのことを世間に公表しないよ。 谷:だが妻に騙されていたことを知り、生涯孤独に苛まれるんだな… 0:家の玄関のドアを勢いよく開け、ノアはリビングに飛び込んだ。 ノア:友信! 友信:… 0:友信はクリスマスツリーをじっと見て佇んでいる。 ノア:友信? 友信:ノア… 0:友信はゆっくりと振り返る 友信:〈笑顔で〉飾りを増やして正解だったな! ノア:え…? 友信:去年はなんだか寂しいと思ってたんだ~!この方が、ずっと見栄えがいいよ! ノア:〈モノローグ〉…バレてない?よかった、間に合ったのね? 0:ピンポーン ノア:インターホン?誰ッ!?だれなのッ!? 友信:ああ、きっとオードブルだよ。 ノア:オードブル? 友信:明日のパーティに出すために、冷蔵のモノを注文しといたんだ~! ノア:〈モノローグ〉ほっ、なんだ… 谷:〈回想〉「”ある者”に借用書を渡すよう言伝しました。」 谷:「明日のパーティは、さぞ豪勢でしょうから。」 ノア:〈モノローグ〉はっ…まさか!? 友信:はいはい、今出ますよっと。 ノア:駄目よッ!私が出るわ!! 友信:なんで? ノア:〈無理に笑って〉「男子厨房に入らず」っ!料理は妻である私に任せればいいの! 友信:…そ、そうか? 0:お会計を済ませ、廊下を歩く2人 友信:なあ、オードブル重いだろ? ノア:平気よ全然!!さ、友信はソファに座ってて!崩れたオードブルを整えなくちゃ! 友信:うん、わかった… ノア:〈モノローグ〉オードブルの中に借用書は仕込まれていない… ノア:よかった… 友信:じゃあ、僕は開封の儀でも行うとするかね… ノア:何?その荷物…? 友信:ストーブだよ。今年も寒くなるぞ~! 谷:〈回想〉「暖房の近くに陣取れてよかった」 ノア:はっ…! ノア:駄目よ!私が開ける! 友信:おいおい、僕にも何かやらせてくれよ。 ノア:機械は女の領分でしょ!? 友信:どちらかと言うと男じゃないかな… ノア:どっちでもいいのよ!私得意なんだからっ! 友信:まあ、いいか。 ノア:友信、向こうを向いてよ。 友信:え、なんで?? ノア:ストーブを脱がすんだから、あ、当たり前でしょ??/// 友信:えっと、ノア?僕は機械に対してそういう趣味はないよ? ノア:いいから早く! 友信:…わかったよ。 ノア:〈モノローグ〉お願い友信。私は貴方との生活を台無しにしたくないの… ノア:あれ?どういうこと?ストーブにも借用書はないじゃないッ!! ノア:谷は本当に借用書を送ったの?? ノア:まったく…どうなってるのよッ! 友信:おっと、メールだ。 ノア:誰から…!? 友信:倉野教授から。新年度の書類を今持ってくるってさ。 ノア:〈モノローグ〉まって…いや間違いない! ノア:谷は倉野教授に頼んだのだわ! ノア:面識があるはずよ!谷は大学で講師をしていたんだもの! 0:ピンポーン 友信:お、もう来たのか。早いな。 ノア:駄目よ!出てはダメ! 友信:ノア、いい加減にしてくれないか。 ノア:倉野教授は明日のパーティも来るんでしょう!?その時でいいじゃない! ノア:今は…ダメなの! 友信:なぜだ。どうして今はダメなんだ! ノア:私、えっと…えっと…! ノア:そうよ!ダンス!友信、ダンスを教えて! 友信:あとで教えるさ。 ノア:今じゃなきゃイヤ!ほら…見てっ? ノア:123…!223…! ノア:友信!私、ちゃんと踊れているかしらっ?? 友信:ああ、うまいうまい。 ノア:ちゃんと見て!友信お願い! ノア:私を見て!私だけを見てよッ! 0:不意に友信がノアを抱きしめる ノア:…! 友信:ノア… ノア:友、信… 友信:ちゃんと見ているさ。 友信:僕は君のパートナーなんだから。 0:夜が更け、寂しい街燈に照らされたベンチに谷が座っている。 谷:〈モノローグ〉人生は孤独だ… 谷:友達と呼べる者はもういない。 谷:クビを切られたことにカッとして、最後は僕が終止符を打った… 谷:クリスマスも、365ある内の一夜にすぎない… 谷:奇跡なんて、起こるはずもない… 来栖:こんばんは。無職さん。 谷:来栖… 来栖:やっぱりここにいた。 谷:ここがなんだ? 来栖:告白してくれたでしょう?そんなことも忘れちゃったの? 谷:ああ、そう言えばそうだな… 来栖:まさかあんな物を渡そうとするなんてね 谷:中身は見るなと言っただろ。 来栖:見たわよ。 来栖:あなたの目が見てくれって言ってた。 谷:フン… 来栖:ねえ、アナタたち本当に終わりなの? 谷:男の友情だって脆いさ。 来栖:そんなことないわよ。 谷:なんなんださっきから… 来栖:そんなことない。 谷:… 来栖:ねえ谷くん。もう一度やり直しましょう? 谷:来栖、僕と、やり直してくれるのか? 来栖:ええ。まあいいかな。 谷:こんな男だぞ? 来栖:そうよ。 谷:無職なのに? 来栖:…仕事はちゃんと見つけて? 谷:〈つぶやくように〉はは、嘘みたいだ。 来栖:〈優しく覗き込んで〉なに? 谷:奇跡だよ、今。奇跡が起きたんだ。 0:ノアを抱きしめたまま、友信は口を開く。 友信:借用書、見たよ。 ノア:そんな… 友信:ううん。来栖さん言ってたよ。 友信:「夫婦の間に、嘘やごまかしがあったらいけない」って… 友信:でも僕、君が帰って来てからも、ずっと切り出せなくて… ノア:友信… 友信:ノア。君の嘘は、僕を守るためだったんだよね…? ノア:私、分からない…何が本当かも、何が本心かも… 友信:そうかな。少なくとも僕は今、とても幸せだ。 友信:それが本当だよ。それが本心さ。 ノア:友信、ごめん…本当にごめんなさい… 友信:いいんだ。ノア、これからも一緒に歩いてくれる? ノア:ええ。 ノア:もちろんよ。 ノア:〈モノローグ〉それから私たち二人はダンスの練習をした。 ノア:クリスマスパーティには、谷も来栖も来てくれて、ひと悶着あったけれど、 ノア:楽しい時を過ごした。 ノア:友信はそれからというもの、2度と死を望むことはなくなった。 ノア:それこそが、私の望んだ最大の奇跡。 0:完 0: