台本概要
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タイトル | 死神の鎮魂歌~requiem of grim reaper~第二番 双哀 |
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作者名 | 神風雷神 (@populight) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 5人用台本(男3、女2) |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
私達は双子。私達は、いつも一緒だった。 遊びも一緒。勉強も一緒。何をするにも一緒だった。 でも、性格も、好きなものも違うし、得意なことも少し違う。 高校は、別々のところだけど、私達は、同じ夢を持っていた。 そして、その夢を二人で叶える約束をした。 きっと、私達は、いつまでも一緒なんだ。 あぁ・・・。良いよなぁ。皆楽しそうでいいよなぁ。怒れるのも良いよなぁ。特に・・・泣けるのはも~~っと羨ましいなぁ。いいなぁいいなぁ。そんな奴らが恐怖で顔が引き攣る瞬間の顔。また見たいなぁ。・・・なぁ、見せてくれよぉ。お前の死に様をよぉ!!! どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。『死神事務所』。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。今日も今日とて、死神の一日が始まる。 手に取ってくださった方々に敬意を。使ったことを伝えてくださったら、めっちゃ喜びます。 373 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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冥助 | 男 | 137 | 天川冥助(アマカワメイスケ) とある町にある「天川死神事務所」の死神。この話の主人公。見た目は軽い感じで死神の仕事をめんどくさがる一方で、困っている人を放っておけない性格の男。普段は事務所兼空き地でのんびりしているが、人の悲しみや憎しみに反応し、面倒くさがるものの、願いを聴き届けて大鎌を振るう。 |
矢吹 | 男 | 96 | 矢吹迅(ヤブキジン) 事件や事故の情報をすぐに収集する情報屋。どこからともなく現れたり、人間技とは思えない速さで仕事をこなし、幽霊や死神が見えるが、間違いなく人間。天川がこの町に来た時からの知り合いで、何故かいつも天川に協力する人物。町にいる幽霊を天川のところに案内している。 |
優希 | 女 | 72 | 立花優希(タチバナユウキ) 高校三年生。双子の姉で、活発な女性。双子の妹の瑞希と画家になることを目指して、高校でとにかく絵を描き、コンクールで受賞するほどの逸材。思ったことをすぐに口に出してしまう性格で、喧嘩になることもしばしば。 |
瑞希 | 女 | 58 | 立花瑞希(タチバナミズキ) 高校三年生。双子の妹で、大人しい。双子の姉の優希と画家の道を目指していたが、途中で優希の才能に引け目を感じ、別々の高校に進学したが、優希には伝えられずにいる。しかし、優希と一緒に仕事をしたい思いはあり、別の形で寄り添えたらと思っている。 |
蓮 | 男 | 48 | 松川蓮(マツカワレン) 今回の話の被疑者。連続通り魔殺人事件の犯人で、各地を転々として逃げ回っている。人に泣き顔に対して非常に執着心が強く、衝動的に殺意を覚えてしまう。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
優希:私達は双子。私達は、いつも一緒だった。
瑞希:遊びも一緒。勉強も一緒。何をするにも一緒だった。
優希:でも、性格も、好きなものも違うし、得意なことも少し違う。
瑞希:高校は、別々のところだけど、私達は、同じ夢を持っていた。
優希:そして、その夢を二人で叶える約束をした。
瑞希:きっと、私達は、いつまでも一緒なんだ。
0:
蓮:あぁ・・・。良いよなぁ。皆楽しそうでいいよなぁ。怒れるのも良いよなぁ。特に・・・泣けるのはも~~っと羨ましいなぁ。いいなぁいいなぁ。
蓮:そんな奴らが恐怖で顔が引き攣る瞬間の顔。また見たいなぁ。・・・なぁ、見せてくれよぉ。お前の死に様をよぉ!!!
0:
矢吹:どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。『死神事務所』。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。
矢吹:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。
矢吹:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。
矢吹:今日も今日とて、死神の一日が始まる。
0:
0:
0:―天川死神事務所(空き地)―
冥助:えーーーっとぉ・・・この人は病死・・・畜生界で、この人は、事故死・・・ああ、人間界で・・・はぁぁぁ・・・また書類の山じゃねぇか。
冥助:一人送る度に何時間も手書きの書類を作らないといけねえのに・・・今日だけで4人・・・。あああ!今日は止めだ止めだ!・・・・・あ、そういえば、矢吹が気になることを言ってたな・・・。
0:
矢吹:どうやら最近、連続通り魔殺人事件が世間を賑わせてるみたいだ。犯人は各地を転々としていて、なかなか所在が分からなくて、警察も困っているらしい。で、どうやらこの町のどこかに逃げ込んできたらしいんだ。
矢吹:次の被害者は、この町で出るかもしれない。冥助は殺意の声が聞こえるんだから、用心するんだよ?じゃ、ここに新聞、置いておくからね。
0:
冥助:とか何とか言ってたよなぁ。たしかここに・・・お、あった。何々・・・
0:
冥助:『連続通り魔殺人事件 止まらない犠牲者 N県で20代女性が腹部などを数か所刺され死亡した。』
冥助:『同様の犯行がK県やS県、H県でも見られ、警察は同一犯の可能性が高いとして、捜査を進めている。しかし、犯人の居場所が依然掴めず、捜査が難航している。』
0:
冥助:ん~~~。この犯人、一体何がしたいんだ?絶対にいかれてるぜ。犠牲者の数は・・・8人か。しかも立て続け・・・最初の犯行が・・・3週間前か。男女問わず・・・こりゃぁ、恐ろしいなぁ。
優希:ねぇ!ここ、知ってる?この空き地、幽霊が出るらしいよ?
瑞希:え~?本当に?怖いよ。見えたらどうすんのよ。
冥助:―――ん?何だこいつら。
優希:ほら、そこに新聞なんて落ちてるし、もしかしたら幽霊が見てるかもよ?
瑞希:ちょっと!本当にやめてよ!帰ったらお母さんに言いつけてやるんだから!
優希:本当に、いつまで経ってもお子ちゃまね。私達双子なのに、こういうところは似てないんだよね。
瑞希:・・・そうだね。でも、私達二卵性だし、似てなくてもおかしくないんだよ。
優希:でも、こ~んなに一緒にいるんだよ?なんか変よね~。・・・もしかして、何かにとりつかれてるんじゃない?
瑞希:もう・・・!いい加減にしてよ!
冥助:・・・もしもぉぉぉぉし!聞こえてませんかぁぁぁ?・・・ま、聞こえるわけねぇけど・・・はぁ・・・見えてないとはいえ、こんな何もねぇ空き地のど真ん中で何やってんだよ・・・。他所でやれよ、まったく・・・。
優希:―――でさ、瑞希は進路、そろそろ決めたよね?
瑞希:え?あ、うん・・・。
優希:もちろん、瑞希は絵画も上手いし、美術大学だよね?
瑞希:あ・・・。
優希:私も美術大学にしたよ!一緒に画家を目指して、二人で誰にも真似できないようなアートを作ろうねって言ったんだから、ね?
瑞希:あ、あの、優希・・・?
優希:ん?どうしたのよ、瑞希?
瑞希:えっと・・・私、違う大学に行こうと思うんだ。
優希:・・・え、え?何で?
瑞希:優希、あのね―――?
優希:何でよ!私達、一緒の夢を叶えようって、昔からいつも一緒だって!言ってきたじゃない!何で?!何で一緒の大学じゃないの?!私たちの夢、忘れたの?
瑞希:ゆ、優希、落ち着いて聞いてよ―――。
優希:嫌よ!どうしてよ!学部は何受けるのよ!
瑞希:け、経営学部―――。
優希:ほら!何も美術と関係ないじゃん!私との約束、忘れてんじゃん!
瑞希:違うんだって!落ち着いて聴いてよ!
優希:嫌よ!聞きたくない!私ばっかり舞い上がってたのが馬鹿みたい!瑞希の嘘つき!もう知らない!
0:悔しさからか、優希は涙を流しながらその場を走り去った。瑞希は、その場を動くことができなかった。
瑞希:あ、優希!
0:一連のやり取りを見ていた冥助は、盛大にため息をついた。
冥助:ふうぅぅぅぅぅ・・・修羅場だなぁ、怖い怖い。いやぁ、若いなぁ。ま、俺には関係ねえな。さてと、それじゃあ仕方ないし、書類の続きを―――、
0:―――するかと言いかけたところで、冥助は止まった。妙な声が、冥助の脳内に飛び込んできたからだ。
蓮:あの子、何で泣いてるのかなぁ?喧嘩かなぁ?・・・あああ、もっとぐしゃぐしゃになった顔、見てみたいなぁ。さぁて・・・ヤるかぁ。
冥助:?!今のは・・・!
0:冥助は、足元にあった新聞に目を落とした。
冥助:まさか・・・矢吹が言ってた通り魔か?!しかも泣いてるっておいおいまさか・・・おい、お前!おい!!!気づいてくれ!!!
瑞希:・・・やっぱり、上手く伝わらなかったな。いつもそうだ・・・。どうしたらいいんだろう・・・?
冥助:だああああ!!!聞こえねえよな!そうだよな!仕方ねえ、矢吹を探すか!
0:冥助は、この町の唯一の伝達者、矢吹を探しに飛び立った。
0:
0:―街中 路地裏―
冥助:矢吹!
矢吹:遅いぞ、冥助。
冥助:何?
矢吹:あれを見ろ。
冥助:あ、あれは・・・。
矢吹:ああ。連続通り魔の、新たな被害者だ。
冥助:ちくしょう、やられたか。・・・あれ?幽霊が出てこない・・・?まだ、生きてるのか?
矢吹:どうやら、僕が現れたタイミングが良かったみたいで、致命傷は刺されずに済んだみたいだ。とりあえず救急車には通報した。
冥助:サンキュー。・・・やっぱり、この子か。
矢吹:知ってるのか?
冥助:ああ。ついさっきまで、俺の事務所に勝手に上がり込んでグダグダグダグダ喋ってた。
矢吹:あの何もない殺風景な空き地が事務所なんて、誰にもわかるわけがないけどね。
冥助:黙ってろ。・・・で、双子で喧嘩話になって一人で突っ走った結果、通り魔に襲われた、って感じだな。
矢吹:なるほど。・・・背中と足、全部で3か所の刺し傷。・・・やっぱり、急所は外れてるみたいだな。さて、そろそろ救急車も到着する頃だ。冥助、ここは離れよう。話したいことがある。
冥助:何だ?・・・おいおい、まさかもう集めたのか?
矢吹:ああ。この町のことじゃないから、そこまでの情報は無いけど、かき集めてみたよ。今回の犯人の情報。
0:
蓮:あああ・・・、やっぱりあの苦痛と驚きで目を見開いたあの顔・・・最高だったなぁ・・・。刺していく度にどんどん苦痛と恐怖から絶望に変わっていくあの顔・・・たまらないねぇ・・・。
蓮:それにしても・・・なんてタイミングで邪魔が入るんだよ・・・。最期の顔が見れなかったじゃねぇか。
蓮:・・・あああああ、思い出しただけで虫唾が走る・・・!あああ、もう一度見てえ。どこか・・・どこかにいい泣き顔のやつはいないかなぁ・・・。
0:
矢吹:通り魔の名は、松川蓮。新聞記事に書いてた通り、8人の無差別殺人。ただ、どうやら全部に共通点があるようだ。
冥助:共通点?若い人とか、何かを持ってた、とかか?
矢吹:いや、40代の被害者もいるし、手ぶらだった人が被害者にもなってる。共通点は、事件直前の被害者の状況だ。
冥助:被害者の状況・・・って、いやいや、おいおい、まさか、冗談だろ?
矢吹:いいや。被害者は皆、直前に泣いていたようだ。
冥助:そんなの、たまたまだろ?そんな恐怖を味わったら誰でも泣くぞ?その涙と勘違いしてんだろ?
矢吹:・・・一人目、三人目、五人目、六人目、七人目の被害者は恋人との喧嘩で泣いていた。二人目、八人目の被害者は葬式の帰り道。四人目に至っては友達と感動の映画を見て泣いていた・・・偶然にしては、出来すぎてないか?
冥助:・・・・・どんな涙も関係ねえ、ってことか?
矢吹:ああ。調べた限りでは、そういうことだな。悲しみ、苦しみ、喜び。どんな状況でも涙っていうのは時として出るものだけど、どうやら犯人にとっては関係ないみたいだ。
冥助:・・・・・こいつ、人間じゃねえだろ・・・。
矢吹:残念ながら、正真正銘の人間さ。ま、人の皮を被った悪魔、と言っても過言では無いね。
冥助:でも、どうして俺にこの情報を?俺にはどうすることもできないんだぜ?
矢吹:僕のことを探しに来た君がそれを言うかい?気になってたんだろう?この町に来ているっていう通り魔を。僕もさっき、犯人の声が聞こえたからね。きっと僕のところに来ると思ってたよ。
冥助:・・・何かお前の掌の上で転がされてるようで嫌だ。
矢吹:ははっ。怒るなよ。でも・・・きっとそのうち、これが必要になるはずだ。
冥助:・・・ま、そうならないことを祈るけど、どうだろうなぁ・・・。
0:
0:―総合病院―
瑞希:優希・・・優希・・・!ごめん・・・ごめんね・・・?さっきまで一緒にいたのに、私がちゃんと話せなかったから、こんなことに・・・。お願い・・・お願いだから、目を開けてよ・・・。
0:
瑞希:あ!先生!優希は!優希は、大丈夫なんですか?!・・・え?まだ、分からない?今夜が、山・・・?どうして・・・優希・・・。
0:さめざめと泣き、崩れ落ちる瑞希。その姿を廊下から聴いている二人。
冥助:・・・・・。
矢吹:気になるんだね。二人のことが。
冥助:・・・いや、矢吹に言われて気づいた。俺の予想が正しかったら、そろそろのはずだ。
矢吹:何がだい?
冥助:あの優希って子、出てくるはずだ。さっきニュースで、意識不明の重体ってなってたからな。この子は、まだ死んでねえ。それが分かれば、あいつの声が聞こえるはずだ。
矢吹:ふふっ・・・気づいたね。さすが死神さん。
冥助:・・・っ!
0:
蓮:何だよ。あいつ、生きてやがったのかよ。つまんねえ。じゃあ俺が見たあの女の顔は、嘘の顔じゃねえかよ・・・。
蓮:ダメだ。ダメだダメだダメだ!しっかりこの手で殺して、最期の顔を見ないと気が済まねえ!どこだ!どこの病院だ、あのガキがぁ・・・!
0:
矢吹:・・・聞こえたかい?
冥助:ああ。クソみたいな声がな。さあ、そろそろ出てくるはずだ。身勝手な恨みを持たれてしまった、哀れな魂がな・・・。
0:すると、優希の霊体がフッと宙に浮かび上がり、外に出てくる。すぐに話しかけようと冥助は目の前まで近づいた。
優希:・・・・・んん・・・あれ、ここは・・・?
冥助:おお、気が付いたかい?お嬢ちゃん?
優希:え・・・きゃああああ!!!
0:普通に考えれば当然だろう。驚いた優希は、目の前の冥助を思いきり引っ叩いた。
冥助:へべぁっ!!!
矢吹:お~~~。派手にやられるなぁ。いきなり目の前にいたら当然だろう。
優希:な、何々??なんなの?あんた達、誰よ?!
矢吹:ま、そうなるよねえ。僕は矢吹迅。で、そこで痛がってるのが、死神の天川冥助。
優希:・・・え?死神?え?
冥助:あ~~~いってぇ・・・。おいおいお嬢ちゃん、いきなりビンタするヤツがあるかよ。少しは話をきいてから―――
0:冥助が言い終わらないうちに、優希は冥助の胸倉を掴んで必死に訴えかける。
優希:嫌よ!私、死にたくない!死にたくない!
冥助:おおおおおい!落ち着けって!まずは話を聞ぐえぇっ!
0:またもや冥助が言い終わらないうちに、優希は冥助の肩を持って揺さぶった。相当な力だ。振り子のように頭を揺さぶられる冥助。
優希:私はまだまだこれからなのぉ!こんなところでしにたくないのぉ!死神でも何でもいいから助けてよぉ!何でもするからぁ!!!
矢吹:お、お嬢さん。そ、それ以上振ると、死神でも気を失うよ?
優希:え?・・・あ・・・。
冥助:うえぇぇぇ~~~・・・。
0:死神とはいえ人のような体。頭を揺さぶられた冥助は、その場でぐったりと倒れ込んだ。
0:
0:―総合病院 廊下―
優希:ごめんなさい。私、何が何だか分からなくて・・・。
矢吹:最初はそんなものさ。それを目の前で驚かせたこの馬鹿死神が悪い。
冥助:おい、俺が悪いのかよ・・・。で?落ち着いたか?
優希:は、はい・・・。
冥助:まったく・・・双子でも誰でも、話を聞かずに突っ走る癖がありそうだな。
優希:え?何で―――
冥助:あんな幽霊が出るかもしれない空き地のど真ん中で、あれだけ盛大に喧嘩しておいてよく言うぜ。
優希:き、聞いてたの?!
冥助:聞いてたのじゃねえよ!事務所のど真ん中で大声で喧嘩されて、はいそうですか、って聞き流せるわけねえだろ!
優希:え?あの場所、本当に幽霊スポットだったの?
冥助:・・・正式には、幽霊スポットじゃねえ。天川死神事務所だ。この町で死んだ人間が、次の行き先を決めて黄泉の世界に行くための場所。なのに双子で揃ってどこの大学に行くんだって揉めて―――。
0:冥助の愚痴のような台詞を、矢吹は遮って話し始めた。
矢吹:そ・れ・で!今の君の状況を説明してあげようと思ったのさ。
優希:え?私、死んだんじゃないの?
矢吹:死んでないよ。気を失ってるだけだ。普通、気を失ってるだけなら何も起こらないんだが・・・―――
冥助:気を失ってるヤツを殺したいって思ってるヤツがいたら、その気を失ってるヤツは、霊体として動くことができるみたいだ。何でかは、知らねえけど。
優希:待って待って。ちょっと頭が追いつかない・・・。
矢吹:まあ、そうだろうね。
優希:えっと・・・私は殺されかけて、今は病院で気を失ってて、その犯人が今も私を殺そうとしている、ってこと?
冥助:そうだ。頭が回ってきたな。
優希:そんな・・・。じゃあ、どうにかして犯人を止める方法は―――
冥助:無い。
優希:―――え?
矢吹:おい、冥助。
冥助:だってそうだろ?今のままだと、俺が直接あの殺人鬼に手を下すのは不可能だ。お前もあの瑞希っていう子に伝えるのは不可能だし、この矢吹も人間だけど、このことを他の人に伝えたらダメだ。
優希:何でよ!生きてるんだったら伝えてくれたっていいじゃない―――!
0:優希の言葉を制止するように、冥助がピシャリと伝えた。
冥助:伝えたら、お前は消滅する。つまり、死ぬってことだ。
優希:え・・・あ・・・。
矢吹:そういうことなんだ。君が死んでいないことを伝えることはタブーとされている。これを伝えてしまったら、君の命は死後の世界に強制的に送られる。
矢吹:だから僕から他の人に、君のことを伝えることは出来ないんだ。
優希:そんな・・・じゃあ私、どうしたらいいの・・・?
冥助:・・・・・・。
0:優希は壁をすり抜け、瑞希のそばまで駆け寄る。
優希:ねえ、瑞希。瑞希!聞いてよ!私の声を聞いてよ!
瑞希:・・・・・・優希、ごめんね?そばにいてなくて・・・。
優希:今あんたの側にいるじゃない!ねえ!こっち向いてよ!話を聞いてよ!!!ねえ!!!
0:必死になる優希に、冥助が駆け寄る。
冥助:落ち着け!・・・とりあえず、ここにいるといい。また話に来る。
優希:・・・・・・。
0:意気消沈としている優希を置き、廊下に出てきた冥助は矢吹を一瞥した。
冥助:おい、矢吹。
矢吹:・・・ああ。
0:
0:
冥助:おい、どうすんだよ。
矢吹:何がだい?
冥助:お前が一番よく分かってんだろ?俺があいつを何とかするには、生きてる人間と死んでる人間、それぞれからの願いを受けないといけねえ。
冥助:でも、今のままだと瑞希っていうあの子には接触できねえし、お前が無暗に接触したら、契約に基づいて―――
0:どうなるのかは、矢吹自身がよく分かっている。だからこそ、矢吹は冥助の言葉を力強く止めた。
矢吹:分かっている!分かっているさ・・・。はぁ・・・やっぱりダメだねえ。僕は人に過干渉になりがちなのかもしれない。
冥助:なりがちじゃなくて、なってんだよ。
矢吹:・・・・・・。
冥助:・・・で?どうすればいい?
矢吹:え?
冥助:俺に何ができるんだ?
矢吹:・・・ふふっ。さすがはこの街の何でも相談事務所所長、天川冥助。誰にでも優しいまるで神様。おっとそうだ、死神様だったね。
冥助:まったく・・・。調子が良くなるとすぐこれだぜ。
矢吹:・・・ありがとう。だが、冥助が今できることは何もない。しいて言えば、あの子たちを見守るくらいだな。
冥助:それは、するつもりだ。
矢吹:・・・ありがとう、冥助。
冥助:・・・おう。
0:
0:廊下の端で蹲っている優希。そこに矢吹が近寄り、話しかけた。
矢吹:やあ、落ち着いたかい?
優希:・・・・・。
矢吹:まあ、話したくなるわけない、か。瑞希さんは?
優希:多分疲れたんでしょうね。寝ちゃったわ。
矢吹:そうか。
優希:・・・ねえ。あんた、私のこと、助けてくれなかった?
矢吹:え?
優希:私の勘違いだったら、それでいいんだけど・・・、後ろから刺されて、馬乗りになられて、もうだめだって思った時に、声が聞こえたの。
優希:何かを叫んでて、慌てて犯人が逃げ出したの。あのまま何度も刺されてたら、私、本当に死んでたんだろうな、って。
矢吹:・・・・・さあ?運がよかったんだね。僕はただ、死神さんをサポートしている人間なだけさ。それ以上でも、それ以下でもないよ。
優希:そう・・・。
優希:・・・あのさ、くだらないこと、言っていい?
矢吹:何だい?何だって聴いてあげるよ?
優希:・・・私達、双子で画家を目指してたの。昔からいつも一緒で、絵を描くのが大好きで、いつも絵を描いて、どっちが上手いとか、ここをこうしたほうがとか言い合って、本当に楽しかったんだ。
優希:だけど、高校の時に別々の学校で、してる勉強も環境もガラッと変わって、二人で絵を描く時間も減っていった。
矢吹:なるほど。高校が別々っていうのは、良くある話だね。
優希:まあね。でも、私は諦めてなかった。中学を卒業した時に、瑞希と約束したんだ。一緒の大学に合格して、また二人で画家を目指そうねって。
優希:私はそれを信じて、この三年間頑張ってきた。なのに・・・それなのに・・・。瑞希は、違う大学に行くって言ってきたの。
矢吹:なるほど。それで君は、怒っちゃったのかい?
優希:そう。だって、まだ芸術学科のところなら、私もそっちに行くって言えた!でも、瑞希は、経営学部に行くって言ったの。話が違うって思った。私たちの約束は、こんなに軽いものだったんだって、そう思ったの。
矢吹:経営学部・・・。なるほどね。
優希:私はそこで、何も聞きたくなくなっちゃったんだ。でも、今考えたら、もう少し話を聞けばよかったなあって、思っちゃったのよね。今、どれだけ話しかけても、瑞希には、届かないから・・・。
矢吹:・・・伝えられない苦しさ、よく分かったみたいだね。
優希:・・・。ねえ、矢吹さん。
矢吹:ん?
優希:あの犯人、本当にどうにかできないの?このままだったら、私のことを襲いに来るかもしれないし、そんなことになったら、瑞希まで・・・。そんなの、耐えられないの!お願い!犯人を止めて!止めてよぉ!あの犯人を・・・裁いてよぉ・・・!
矢吹:・・・・・・・。ごめんね。でも、やれることはするから。
優希:え・・・?
矢吹:今の君の話は、心からの声だ。僕にはよく分かる。その声は僕だけじゃなく、さっきの死神様にも届いている。実は今も、君たち二人のことをずっと見守ってくれてるんだ。大丈夫。僕達に任せてくれ。
優希:・・・お願いします。
矢吹:じゃあ、ゆっくりしてるといい。幽霊だって、休息は必要さ。しっかり休んでおいて。
優希:わ、かった・・・。
0:
0:
0:
瑞希:・・・あ、私、寝ちゃってたんだ・・・。優希、こんな姉妹で、ごめんね?こんな、頼りなくて、出来ない姉妹で、ごめんね・・・。何も伝えられなかった・・・。伝えたいこと、たくさんあったのに・・・。
0:溢れる涙を拭いて、瑞希は笑顔を作った。
瑞希:わ、私、ちょっと飲み物買ってくるから、待っててね。
0:
冥助:―――・・・ん?あー、飲み物を買いにか。だったらすぐに―――っ!
0:
蓮:ここかぁ。さっきの女が寝てるっていう病院は。なんとかして、なんとかして殺さねえと気が済まねえ・・・!さあ、どうすっかなあ・・・!
0:
冥助:あいつ・・・!もうここまで嗅ぎつけやがったのか!・・・あれ、たしかこの病院って・・・。
0:
瑞希:―――ダメだなぁ、私。こんな時に、涙、止まんないや・・・。ココアでも飲んで落ち着こうっと。
0:
冥助:自販機は外だ!まずい!!!
0:
蓮:ん?何だ、あの女・・・。おいおい、泣いてんじゃねえかよお。何で泣いてるんだ?人が死ぬ悲しみか?恐怖か?絶望か?泣けるんだなぁ。羨ましいなぁ。いいなぁ、いいなぁ。
0:
冥助:鉢合うまでに何とか!ああ、くそっ!!!早く矢吹を呼ばねえと!!!
0:
0:
0:
優希:あ、あれ?
矢吹:どうした?
優希:何か、力、入らない・・・。何で・・・?
矢吹:・・・ああ。きっと、意識が戻る合図だ。起きたら、瑞希さんに話せばいい。
優希:うん。ありがと。じゃあ、行ってくる。
矢吹:ああ。
0:矢吹が、消えていく優希を笑顔で見送った、その直後だった。
矢吹:―――――!?
0:矢吹にも流れ込んできた、あの声が届いたのは。
冥助:おい、矢吹!大変だ!
矢吹:ああ!今気づいた!くそっ!すぐに行く!
冥助:ああ、頼む!
0:
0:
0:―総合病院 屋外―
瑞希:えっと、ココアっと・・・。
蓮:―――お嬢さん。
瑞希:え―――――。
0:瑞希は声に振り返る、ことができなかった。背中に一気に広がる熱と痛み。その瞬間、瑞希は自分がナイフで刺されたと理解した。
瑞希:あぁっ・・・!
蓮:どうして、泣いてるのかなあ?悲しいの?感動したのぉ?
瑞希:う、うううぅぅっ・・・!
0:そのまま前のめりに倒れそうになる瑞希。それを松川は無理矢理仰向けにさせて、馬乗りの形になった。
蓮:ねえねえ!どうして泣けるの?羨ましいなあ!だから、最期まで君の泣き顔、俺によく見せてよぉ!!
瑞希:あ、あなたが・・・優希を・・・よくも・・・よくもぉ!!!
蓮:あ?ああ、あの女かぁ!あの知り合いかぁ!いいねえいいねえ!ラッキーだねえ!あいつと一緒の世界に送ってやるよっ!!
0:松川は、瑞希の腹に一刺しした。
瑞希:ぐぅっ!―――ぁぁ・・・っ・・・!
蓮:ヒハハハハハ!!!いいねえ!恨みを込めたような涙が最期に見れていいねえ!そんな顔なんだねえ!ほぉら、終いだっ!
0:最後に胸のあたりに一突きする。溢れ出る赤いものに、熱を帯びていた瑞希の身体は、一気に冷めていく。
瑞希:っ!!・・・ぁ・・ゅ・・ぅき・・・―――。
矢吹:おい!何してる!
蓮:!やべっ!くそっ!またかよぉ!
0:矢吹が来たことに慌てた松川は、ナイフもそのままに脱兎の如く走り去った。
矢吹:おい!待て!!!―――っ!おい!大丈夫か!
瑞希:・・・ぁぁ・・・どぅして・・・こう、なるんだろう、な・・・。
矢吹:・・・・・。
瑞希:・・・ゅう、き・・・いま・・・いくね・・・―――――。
矢吹:・・・・・・。
0:瑞希の身体が、霊体となって浮かび上がる。瑞希には、何が起こっているのか理解できなかった。
瑞希:・・・え?あ、あれ?私、今、刺されて・・・?
冥助:くそっ!!!遅かったか!!
瑞希:あれ?え?この人、浮いてる?
冥助:どうでもいい!話はあとだ!おい、矢吹!犯人はどこ行・・・・った・・・。
矢吹:・・・・・。
冥助:矢吹・・・?
矢吹:・・・もしもし。そちらの病院の前に女性が倒れています。至急来てください。では・・・。
冥助:・・・・・。
矢吹:・・・瑞希さん、だね?
瑞希:あ、はい。
矢吹:一緒に来てくれるかな。聞いてもらいたいことがある。
瑞希:え、あ、あの・・・。
矢吹:いいから、早く。
瑞希:わ、分かりました。
冥助:・・・・・。
0:
0:―総合病院 室内―
優希:・・・あ、矢吹さん。
矢吹:優希さん。
優希:目が覚めたら、瑞希がいなくてさ。どこ行ったんだろうね、ホント。
矢吹:・・・・・。
優希:矢吹さん?
矢吹:ごめん、優希さん・・・。
優希:え・・・?
矢吹:瑞希さん・・・今、僕の隣にいるんだ・・・。
優希:え・・・?嘘でしょ?ねえ。そんないらない嘘いわないでよ、ねえ。
瑞希:本当だよ。優希。私、ここにいるよ?
矢吹:・・・おそらく、瑞希さんは助からない。
優希:え・・・。
瑞希:・・・・・。
矢吹:やられたんだ。あの犯人に。
優希:う、嘘よ・・・そんな・・・嘘よぉ・・・。
瑞希:ゆ、優希・・・。
優希:私・・・まだちゃんと、向き合って話してないのに・・・どうして・・・。
矢吹:優希さん。犯人が、憎いかい?
優希:・・・当たり前じゃない・・・。何で、瑞希が・・・許せないわよ・・・。
矢吹:・・・冥助。聴いたか?
冥助:はぁ・・・まったく・・・矢吹。やってることがルールスレスレだぞ?この優希ってのが矢吹がどういう人間かを知ってるからギリギリ引っかからねえけど、一歩間違えたら―――。
矢吹:分かってる!・・・分かってるさ。だから僕は―――。
冥助:分かった分かった。・・・では、聴こう。立花瑞希。お前はあの犯人―――松川蓮をどうしたい?
瑞希:・・・今すぐにでも、殺したいですよ・・・。見たこともない顔なのに・・・すぐに分かりました。この人が、優希を殺そうとしたんだって・・・。その瞬間・・・殺したいほど憎しみが、湧いて出てきたんです・・・。でも、どうすることもできなかった・・・。
冥助:で、お前はどうなることを望む?
瑞希:・・・お願いします。あの人を・・・殺してください。
冥助:・・・分かった。その覚悟、受け取った。
矢吹:冥助。きっと松川蓮はこの近くにいる。頼んだぞ。
冥助:きっとじゃねえよ。この病院の中だ。・・・さぁて・・・いきますか。
矢吹:おいおい、死神さん。この前みたいに派手にやりすぎるなよ?
冥助:分かってるよ。始末書五万字なんてまっぴらごめんだ。でも・・・ああ、そうだ。立花瑞希さん?
瑞希:は、はい。
冥助:そこの優希は、あんたが思ってる以上に、あんたのことを考えて過ごしてきてたんだよ。そんでもって、あんたも優希のことを考えて生きてきた。
瑞希:え・・・?!
冥助:喧嘩するほど仲がいい。相思相愛なんだよ、お前ら二人は。・・・それを、忘れんな。恨むな。後悔するな。想われていたと、心に刻んでおけ。
瑞希:・・・はい。
冥助:・・・矢吹。俺の言葉を、優希に伝えてくれ。
矢吹:あぁ、もちろん。・・・優希さん。
優希:・・・何?
矢吹:心の声は、生きている者同士では届かない。でも思いは、言葉となって、行動になって、いつか必ず相手に届く。一時の感情に身を任せんな。優希の思いは・・・すっごく伝わってるよ、瑞希さんに、ってさ。
優希:・・・っ!
冥助:(被せるように)・・・あとは、任せろ。
矢吹:(被せるように)・・・あとは、任せろ。
0:
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蓮:この病院のどこかにいるんだよなあ・・・。早く・・・早く殺さねえと・・・。それにしても・・・夜の病院は不気味だなあ。こんなに暗いもんなのか?
冥助:もしもし、そこのおじさん。こんな夜遅くになにしてんだ?見回りか?
蓮:―――っ!!!誰だっ!!!
冥助:お?何だ?怖すぎて漏らしそうになったか?情けねえなあ、おい。
蓮:誰だよ!どこにいんだよ!さっさと姿見せろよ!
冥助:お前、殺しそこなった女のところに行こうとしてんだろ?残念だったなぁ。一発で決められなくてよお。
蓮:な、何だよ!う、うるせえよ!もうあの女は用済みなんだ!あの恐怖で強張った泣き顔を見たんだ!もうあの女は死んでいい!
冥助:・・・・・てめえが、人の命の行き先を決めてんじゃねえよ。
蓮:・・・え?
冥助:最後に聴く。お前は死神か?
蓮:な、何だよ?わけわかんねぇ―――
冥助:どうなんだよ。おまえは、死神なのか?
蓮:へ、へへっ・・・たしかに、俺は何人も殺してきた。命を手玉に取って遊んできた。そんなことができるのは死神だけかもしれないなぁ!ハハハハハ!
冥助:・・・・・てめえが、死神を語るな。
蓮:な、何・・・?
冥助:命っていうのは、その人間が最期まで持っているものだ。人が勝手に奪っていいもんじゃねえんだよ。
0:蓮の目の前の闇から溶け出すように現れる冥助。
蓮:な、何だよ、お前・・・!そうか!あの女の男だな?!そうだろう!
冥助:男?彼氏ってことか?・・・くくっ・・・はっはっはっはっはっは!!!
蓮:な、何だよ、何がおかしいんだよ!
冥助:いやぁ、つくづく頭の中がおめでたい奴だなってなぁ。・・・ああ、だからか。だから身勝手に何人も何人も殺せるわけだ。
蓮:・・・っ!
冥助:お前は、大きな過ちを犯してるよなぁ。9件の殺人。1件の殺人未遂。死体遺棄もあるし・・・お、どうやら窃盗もあるんだなあ。
冥助:で・・・そのポケットに入ってるナイフは、ホームセンターから盗んだやつか。なるほど。
蓮:何で・・・何で・・・。
冥助:ん?何だよ、怖くなってきたか?何なら、お前が殺した9人の名前、全員教えてやろうか?松川蓮さんよぉ。
蓮:何なんだよ!お前、誰なんだよ!
冥助:俺は天川冥助。この町の担当の死神。契約により、お前の命を刈りに来た。
蓮:し、死神?
冥助:本来、俺達死神は、人の生殺与奪に関与することはできねぇ。だが、生きている者と死んでいる者の強い思いが重なった時、俺達が関与することが認められる。
冥助:生きている者からは、立花優希。お前が数時間前、殺しそこなった女だよ。で、死んでいる者は、立花瑞希。さっき自動販売機の前で刺したあの女だ。
冥助:合計二人。受理されるには生きている者と死んでいる者からそれぞれ一人は申請が必要だが、一人ずつある。申し分無し。
蓮:お前・・・見てたのか?!いや、アイツだ!二回ともあの男に邪魔された!アイツの関係者だろう?!
0:喚き散らす蓮に、冥助が視線を一閃する。それは、蓮を瞬時に出らせるのには十分なほど恐怖だった。
冥助:黙れ。
蓮:ひっ・・・!
冥助:この二人の契約により、死後の世界のだれもが関与できるようになった。だから・・・見てるぞ?この二人だけじゃなく、お前が殺したほかの八人も全員がなぁ。
蓮:・・・へ、へへ、何だよ!そう言いながら、怖がらせるだけだろ?!コスプレか何かかよ!脅かしやがって!そんな嘘、誰が信じると――――
冥助:―――黙れよ、クズが。(左手の小指が切り落とされる)
蓮:・・・え?あ?あああ?!?!痛えええ!!!指!俺の指がぁ!!!
冥助:おいおいおい、小指一本やられただけで何言ってんだよ?お前が殺してきた命は、もっと痛みを抱えてこっちに来てんだ。もっと生きたがってたんだ。
蓮:何なんだよ・・・何なんだよ!その鎌!
冥助:これか?便利だろ?こんだけでけえのに、狙ったところだけを斬り取れる、死神専用の鎌なんだ。
0:自慢するように笑顔で語る冥助。しかし、死神の顔にすぐに戻る。
冥助:だから・・・これでお前の命に、失った人達の思いを、死後も忘れられないほど刻みつけてやる。
蓮:ひ、ひいぃぃぃ・・・。
冥助:さぁて、お前が襲った人間はちょうど10人だ。・・・おお、ちょうどきりよく同じ数があるじゃねえか。てめえの指の数が、なぁ?
蓮:い、嫌だ・・・!嫌だあぁぁぁぁあぁぁ!!!!!
0:恐怖を顔に貼りつけながら、蓮はその場から逃げていった。冥助はその行動にもだが、背後の気配に対しても盛大にため息をついた。
冥助:・・・・・おい、お嬢ちゃん。見せもんじゃねえんだぞ?
瑞希:・・・ごめんなさい。気になってしまって・・・。
冥助:まったく・・・。でも、これが死神の仕事。処刑っていうのはこういうことだ。怖気づいたなら、今だぜ?
瑞希:・・・・・いえ。お願いします。
冥助:ほお。いいんだな?
瑞希:・・・私、大学で経営学を学ぶつもりだったんです。優希と一緒に、画家姉妹を目指そうって約束しました。でも、高校で私、気づいたんです。私は、絵を綺麗に描くことしかできないんです。ただ、それだけ。
冥助:・・・・・・・・・。
瑞希:・・・私には、優希が持ってるようなアイデアは何も浮かばなかった。だから、私が優希を支えて、一緒に画家として成功させようって、そう思ってたんです。それなのに・・・それなのに・・・。
冥助:・・・・・。
瑞希:もし、死神さんが殺さないなら、私が―――
冥助:無理だっつーの!お前が生きてる人間に手を加えることなんてできねえよ。でも・・・分かった。それが、お前の覚悟だな。
瑞希:・・・はい。私達二人の思いを・・・どうか・・・。
冥助:・・・やっと、言えたな。
瑞希:・・・え?
冥助:立花瑞希の、立花優希への本当の思い。今まで勝手に劣等感抱えて、勝手に逃げて、勝手に後悔してきた人生。
瑞希:・・・・・・・・・。
冥助:・・・でも、お前は今、それを口にできた。打ち明けることができた。お前には今、覚悟ができた。
瑞希:・・・・・・はい!
冥助:・・・あとは任せて、大人しくしてな。
0:
0:
蓮:はぁ・・・はぁ・・・!ま、撒いたか?!くそぉ、いってえなぁ。何なんだよ、あいつはよぉ・・・。出口は・・・出口はどこだ?
蓮:・・・あれ?何で階段を下りてんのに、いつまでも一階に行けねえんだ?どうなってんだよ?!
冥助:お~い、おじさん?そろそろ落ち着いたかい?
蓮:っ!!!どこまでついてくるんだよ!!
冥助:どこまで?あ~・・・逃げられると思うなよ?どこまでもお前のことは追っていくぜ?でもって・・・しっかり送ってやるよ。地獄の門までな?
蓮:し、死にたくない・・・死にたくない死にたくない死にたくない!!
冥助:うるせえよ。お前、今までどれだけのことしでかしてきたのか、分かってんのか?それで恨まれて、死神に処刑されかけて、死にたくないです、だあ?虫が良すぎるだろうがよぉ。
蓮:死にたくない死にたくない死にたくなあああああ!!!!!
0:死にたくないと連呼する蓮を遮るように、冥助はもう片方の手の小指を一閃した。蓮の小指が斬られ、宙に舞ったそれは、消し炭の如く消えていく。
冥助:うるせえんだよ!さあ、今ので2本目だ。両方の小指が消えた気分はどうだ?ん?
蓮:はぁ・・・はぁ・・・!
冥助:さあ、次は3人目の分だぜ?覚悟はいいよな・・・って・・・・・ほぉ、なるほどねえ。
蓮:・・・?
冥助:あぁ・・・。良いよなぁ。皆楽しそうでいいよなぁ。怒れるのも良いよなぁ。特に・・・泣けるのはも~~っと羨ましいなぁ。
冥助:いいなぁいいなぁ。そんな奴らが恐怖で顔が引き攣る瞬間の顔。また見たいなぁ。・・・なぁ、見せてくれよぉ。お前の死に様をよぉ!!!
蓮:な、何なんだよ・・・。何でそれ―――
冥助:俺にはな、死んだ奴の思いが聴こえてくるんだよ。死の間際に言われた言葉も、その死んだ奴の思いも、言葉に乗って全部。俺の頭に届くんだよ。
冥助:・・・で、どうやら他の奴にも同じようなこと言ってたみたいだな?
蓮:・・・っ!
冥助:おい。今、お前が今までに殺してきた人間全員が、お前のことを見ている。お前が心底反省しているのなら、これで許してくれるかもしれねえぜ?
蓮:へ?え?あ、わ、私が悪かったです!心の底から反省してます!すぐに警察に行って罪を認めます!ごめんなさい!許してください!お願いしますぅ!!!
冥助:・・・だってさ。どうだ?・・・・・。ああ、なるほどねえ。それ大賛成。
蓮:ど、どうなんだ?助かるのか?!
冥助:おい、松川蓮さんよぉ。もちろんだけど、殺した人間の名前。全員覚えてるよなぁ。
蓮:・・・へ?
冥助:全員の名前が言えたら、許してくれるってよ。どうなんだ?
蓮:そんな・・・覚えてるわけねぇだろ!そんな殺した人間なんて!
冥助:・・・だってさ。・・・ふぅ、やっぱりだな。お前、言ってたもんな。俺は何人も殺してきた。命を手玉に取って遊んできた。ってさ。
冥助:それは死神じゃねえ。お前がやってることは、ただ自分の欲を満たしたいだけの獣だ。
蓮:・・・・・。
冥助:なぁ。死んでいった人達全員の思い、教えてやるよ。
蓮:な、何・・・?
冥助:―――泣き顔、いいなぁいいなぁ。そんな奴が恐怖で顔が引き攣る瞬間の顔。見たいなぁ。・・・なぁ、見せてくれよぉ。お前の死に様をよぉ!ってさ。
冥助:これが、死んでいった人達全員の思いだよ・・・!
0:断罪の時。冥助は大鎌を両手で上段に構えた。
蓮:や、やめろ!やめて!やめてください!!!死にたくないいぃぃぃ!!!
冥助:人の命を、自分の欲求のために玩具のように使う獣がよぉ!あの世で、しっかりと反省してこい!
0:恐怖と後悔が入交じり、逃げようとする蓮を許さない。冥助は蓮に、その大鎌を振り下ろしたのだった。
0:
0:
矢吹:『病院内で変死体 連続殺人犯と断定』先日病院内で発見された指の無い変死体が、連続殺人犯として指名手配されていた、松川蓮であることが、警察署の調べで判明した・・・。今回も派手にやったねぇ、冥助。
冥助:うるせえんだよ!元はと言えば、お前がこうなるようにけしかけたからこうなったんだろうが!見ろよ!なあ!これがその代償だよ!始末書だけで本が書けるレベルだぞ、おい!
矢吹:悪かったと思ってるよ。でも、僕はそこまでやれとは言ってないさ。
冥助:けっ!こんな時は絶対に、完全には俺の味方になってくれねえんだよなぁ。
矢吹:おいおい。これでも僕は、永遠の君の味方だよ。
冥助:・・・まったくよ。お前は本当に変わんねえし、何だかんだで熱い男だっていうのは知ってたからな。
矢吹:お褒めに預かり、光栄です、死神様。
冥助:褒めてねえんだよ。・・・で?そんな冷やかしをしに来ただけか?
矢吹:・・・どうやらこの松川蓮。両親のスパルタ教育が原因で心的障害を発症。それにより、涙を出すことができなかったらしい。
矢吹:で、泣いている人に対して異常な反応を示すようになり、泣くっていうものは、恐怖に支配されることによって起こるものだと思い込み、相手の精神を書き換えるような行為に陶酔して、殺人を繰り返していたんだと・・・。
冥助:―――だからと言って、人を殺していいわけがねえ。許されねえことだ。
矢吹:ああ、そうだ。だが、やるせないね。結局、あの殺人鬼を作り上げたのは、殺人鬼になるまで追い込んだ、同じ人間なんだと思うと、ね。
冥助:・・・人間は、どうしてこう同じことを何度も繰り返すんだろうな。
矢吹:・・・そうだね。
冥助:しっかし・・・今回の文字数増えすぎだろ。倍以上だぞ?
矢吹:そりゃあそうだろうね。何せ、死神法違反をしたんだ。まさか、契約を交わした相手が生き返るなんて、まさに奇想天外とはこのことだね。刺した相手にとてつもない恨みがあって、それで霊体になってたなんてね。
冥助:誰のせいだと思ってんだよ!お前絶対に知ってただろ?まったく、踏んだり蹴ったりだ!
矢吹:ははは。・・・でも、良かったじゃないか。松川は相当な恨みを買っていたから、お咎めがそれで済んだんだし、何より・・・すっきりしただろ?
冥助:・・・まあな。
矢吹:あ、そうそう。彼女たちから伝言の音声を預かってるよ。どうしてもお礼が言いたいって。
冥助:どうでもいい。見なくても分かるぜ。あいつらなら大丈夫だろうよ。今回、命を使ってお互いが向き合ったんだ。二人の関係も、心も、簡単には折れねえよ。
矢吹:・・・ああ、そうだな。
冥助:しばらくは俺のことを見ることもねえだろうし、何より・・・普通でいけば、もう会うことはねえだろうからな。
矢吹:・・・・・・冥助。
冥助:分かってるさ。でも、何だかんだで俺はこの仕事が好きだ。だから、最後までやりたいようにやるさ。
矢吹:そうか・・・。すまないな。じゃあ音声、流しておくぞ?あ、そういえば、あの女性の死神、高嶺響子(たかねきょうこ)の手伝いに行くのはいつなんだ?
冥助:って、おい!何で知ってんだよ!
矢吹:だから言ってるだろう?情報屋を甘く見るな、ってね。ふふふ・・・。
0:
0:
優希:ヤッホー、死神さん!私達の仇を討ってくれて、本当にありがとうね!
瑞希:ありがとうございます。死んでいたはずなのに、いつの間にか、元に戻ってて・・・。
優希:きっと死神さんからのプレゼントだよ!だって、神様なんだもん!
瑞希:ふふっ・・・優希、嬉しそうね。
優希:当たり前じゃない!こうして、二人とも生きてる!瑞希と二人で、これからも生きていける!
瑞希:・・・私も、優希と一緒に生きていける。死を意識して分かった。本当に嬉しいことなんだって。
優希:・・・あ、死神さん!矢吹さん!喧嘩の話、解決したよ!瑞希が経営学部に行こうとした理由、やっと分かったよ!
瑞希:優希!あんまり大きい声で言わないで!恥ずかしいよ!
優希:良いじゃないの!あのね、実は―――――。
0:
0:
矢吹:どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。死神事務所。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。
矢吹:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。
矢吹:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。
矢吹:貴方は、死神に伝えたい本当の思い、ありますか?あるのならば、近くの寂れた空き地を探してみてください。もしかすると死神が、貴方のために力を貸してくれるかもしれませんよ。
0:
優希:私達は双子。私達は、いつも一緒だった。
瑞希:遊びも一緒。勉強も一緒。何をするにも一緒だった。
優希:でも、性格も、好きなものも違うし、得意なことも少し違う。
瑞希:高校は、別々のところだけど、私達は、同じ夢を持っていた。
優希:そして、その夢を二人で叶える約束をした。
瑞希:きっと、私達は、いつまでも一緒なんだ。
0:
蓮:あぁ・・・。良いよなぁ。皆楽しそうでいいよなぁ。怒れるのも良いよなぁ。特に・・・泣けるのはも~~っと羨ましいなぁ。いいなぁいいなぁ。
蓮:そんな奴らが恐怖で顔が引き攣る瞬間の顔。また見たいなぁ。・・・なぁ、見せてくれよぉ。お前の死に様をよぉ!!!
0:
矢吹:どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。『死神事務所』。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。
矢吹:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。
矢吹:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。
矢吹:今日も今日とて、死神の一日が始まる。
0:
0:
0:―天川死神事務所(空き地)―
冥助:えーーーっとぉ・・・この人は病死・・・畜生界で、この人は、事故死・・・ああ、人間界で・・・はぁぁぁ・・・また書類の山じゃねぇか。
冥助:一人送る度に何時間も手書きの書類を作らないといけねえのに・・・今日だけで4人・・・。あああ!今日は止めだ止めだ!・・・・・あ、そういえば、矢吹が気になることを言ってたな・・・。
0:
矢吹:どうやら最近、連続通り魔殺人事件が世間を賑わせてるみたいだ。犯人は各地を転々としていて、なかなか所在が分からなくて、警察も困っているらしい。で、どうやらこの町のどこかに逃げ込んできたらしいんだ。
矢吹:次の被害者は、この町で出るかもしれない。冥助は殺意の声が聞こえるんだから、用心するんだよ?じゃ、ここに新聞、置いておくからね。
0:
冥助:とか何とか言ってたよなぁ。たしかここに・・・お、あった。何々・・・
0:
冥助:『連続通り魔殺人事件 止まらない犠牲者 N県で20代女性が腹部などを数か所刺され死亡した。』
冥助:『同様の犯行がK県やS県、H県でも見られ、警察は同一犯の可能性が高いとして、捜査を進めている。しかし、犯人の居場所が依然掴めず、捜査が難航している。』
0:
冥助:ん~~~。この犯人、一体何がしたいんだ?絶対にいかれてるぜ。犠牲者の数は・・・8人か。しかも立て続け・・・最初の犯行が・・・3週間前か。男女問わず・・・こりゃぁ、恐ろしいなぁ。
優希:ねぇ!ここ、知ってる?この空き地、幽霊が出るらしいよ?
瑞希:え~?本当に?怖いよ。見えたらどうすんのよ。
冥助:―――ん?何だこいつら。
優希:ほら、そこに新聞なんて落ちてるし、もしかしたら幽霊が見てるかもよ?
瑞希:ちょっと!本当にやめてよ!帰ったらお母さんに言いつけてやるんだから!
優希:本当に、いつまで経ってもお子ちゃまね。私達双子なのに、こういうところは似てないんだよね。
瑞希:・・・そうだね。でも、私達二卵性だし、似てなくてもおかしくないんだよ。
優希:でも、こ~んなに一緒にいるんだよ?なんか変よね~。・・・もしかして、何かにとりつかれてるんじゃない?
瑞希:もう・・・!いい加減にしてよ!
冥助:・・・もしもぉぉぉぉし!聞こえてませんかぁぁぁ?・・・ま、聞こえるわけねぇけど・・・はぁ・・・見えてないとはいえ、こんな何もねぇ空き地のど真ん中で何やってんだよ・・・。他所でやれよ、まったく・・・。
優希:―――でさ、瑞希は進路、そろそろ決めたよね?
瑞希:え?あ、うん・・・。
優希:もちろん、瑞希は絵画も上手いし、美術大学だよね?
瑞希:あ・・・。
優希:私も美術大学にしたよ!一緒に画家を目指して、二人で誰にも真似できないようなアートを作ろうねって言ったんだから、ね?
瑞希:あ、あの、優希・・・?
優希:ん?どうしたのよ、瑞希?
瑞希:えっと・・・私、違う大学に行こうと思うんだ。
優希:・・・え、え?何で?
瑞希:優希、あのね―――?
優希:何でよ!私達、一緒の夢を叶えようって、昔からいつも一緒だって!言ってきたじゃない!何で?!何で一緒の大学じゃないの?!私たちの夢、忘れたの?
瑞希:ゆ、優希、落ち着いて聞いてよ―――。
優希:嫌よ!どうしてよ!学部は何受けるのよ!
瑞希:け、経営学部―――。
優希:ほら!何も美術と関係ないじゃん!私との約束、忘れてんじゃん!
瑞希:違うんだって!落ち着いて聴いてよ!
優希:嫌よ!聞きたくない!私ばっかり舞い上がってたのが馬鹿みたい!瑞希の嘘つき!もう知らない!
0:悔しさからか、優希は涙を流しながらその場を走り去った。瑞希は、その場を動くことができなかった。
瑞希:あ、優希!
0:一連のやり取りを見ていた冥助は、盛大にため息をついた。
冥助:ふうぅぅぅぅぅ・・・修羅場だなぁ、怖い怖い。いやぁ、若いなぁ。ま、俺には関係ねえな。さてと、それじゃあ仕方ないし、書類の続きを―――、
0:―――するかと言いかけたところで、冥助は止まった。妙な声が、冥助の脳内に飛び込んできたからだ。
蓮:あの子、何で泣いてるのかなぁ?喧嘩かなぁ?・・・あああ、もっとぐしゃぐしゃになった顔、見てみたいなぁ。さぁて・・・ヤるかぁ。
冥助:?!今のは・・・!
0:冥助は、足元にあった新聞に目を落とした。
冥助:まさか・・・矢吹が言ってた通り魔か?!しかも泣いてるっておいおいまさか・・・おい、お前!おい!!!気づいてくれ!!!
瑞希:・・・やっぱり、上手く伝わらなかったな。いつもそうだ・・・。どうしたらいいんだろう・・・?
冥助:だああああ!!!聞こえねえよな!そうだよな!仕方ねえ、矢吹を探すか!
0:冥助は、この町の唯一の伝達者、矢吹を探しに飛び立った。
0:
0:―街中 路地裏―
冥助:矢吹!
矢吹:遅いぞ、冥助。
冥助:何?
矢吹:あれを見ろ。
冥助:あ、あれは・・・。
矢吹:ああ。連続通り魔の、新たな被害者だ。
冥助:ちくしょう、やられたか。・・・あれ?幽霊が出てこない・・・?まだ、生きてるのか?
矢吹:どうやら、僕が現れたタイミングが良かったみたいで、致命傷は刺されずに済んだみたいだ。とりあえず救急車には通報した。
冥助:サンキュー。・・・やっぱり、この子か。
矢吹:知ってるのか?
冥助:ああ。ついさっきまで、俺の事務所に勝手に上がり込んでグダグダグダグダ喋ってた。
矢吹:あの何もない殺風景な空き地が事務所なんて、誰にもわかるわけがないけどね。
冥助:黙ってろ。・・・で、双子で喧嘩話になって一人で突っ走った結果、通り魔に襲われた、って感じだな。
矢吹:なるほど。・・・背中と足、全部で3か所の刺し傷。・・・やっぱり、急所は外れてるみたいだな。さて、そろそろ救急車も到着する頃だ。冥助、ここは離れよう。話したいことがある。
冥助:何だ?・・・おいおい、まさかもう集めたのか?
矢吹:ああ。この町のことじゃないから、そこまでの情報は無いけど、かき集めてみたよ。今回の犯人の情報。
0:
蓮:あああ・・・、やっぱりあの苦痛と驚きで目を見開いたあの顔・・・最高だったなぁ・・・。刺していく度にどんどん苦痛と恐怖から絶望に変わっていくあの顔・・・たまらないねぇ・・・。
蓮:それにしても・・・なんてタイミングで邪魔が入るんだよ・・・。最期の顔が見れなかったじゃねぇか。
蓮:・・・あああああ、思い出しただけで虫唾が走る・・・!あああ、もう一度見てえ。どこか・・・どこかにいい泣き顔のやつはいないかなぁ・・・。
0:
矢吹:通り魔の名は、松川蓮。新聞記事に書いてた通り、8人の無差別殺人。ただ、どうやら全部に共通点があるようだ。
冥助:共通点?若い人とか、何かを持ってた、とかか?
矢吹:いや、40代の被害者もいるし、手ぶらだった人が被害者にもなってる。共通点は、事件直前の被害者の状況だ。
冥助:被害者の状況・・・って、いやいや、おいおい、まさか、冗談だろ?
矢吹:いいや。被害者は皆、直前に泣いていたようだ。
冥助:そんなの、たまたまだろ?そんな恐怖を味わったら誰でも泣くぞ?その涙と勘違いしてんだろ?
矢吹:・・・一人目、三人目、五人目、六人目、七人目の被害者は恋人との喧嘩で泣いていた。二人目、八人目の被害者は葬式の帰り道。四人目に至っては友達と感動の映画を見て泣いていた・・・偶然にしては、出来すぎてないか?
冥助:・・・・・どんな涙も関係ねえ、ってことか?
矢吹:ああ。調べた限りでは、そういうことだな。悲しみ、苦しみ、喜び。どんな状況でも涙っていうのは時として出るものだけど、どうやら犯人にとっては関係ないみたいだ。
冥助:・・・・・こいつ、人間じゃねえだろ・・・。
矢吹:残念ながら、正真正銘の人間さ。ま、人の皮を被った悪魔、と言っても過言では無いね。
冥助:でも、どうして俺にこの情報を?俺にはどうすることもできないんだぜ?
矢吹:僕のことを探しに来た君がそれを言うかい?気になってたんだろう?この町に来ているっていう通り魔を。僕もさっき、犯人の声が聞こえたからね。きっと僕のところに来ると思ってたよ。
冥助:・・・何かお前の掌の上で転がされてるようで嫌だ。
矢吹:ははっ。怒るなよ。でも・・・きっとそのうち、これが必要になるはずだ。
冥助:・・・ま、そうならないことを祈るけど、どうだろうなぁ・・・。
0:
0:―総合病院―
瑞希:優希・・・優希・・・!ごめん・・・ごめんね・・・?さっきまで一緒にいたのに、私がちゃんと話せなかったから、こんなことに・・・。お願い・・・お願いだから、目を開けてよ・・・。
0:
瑞希:あ!先生!優希は!優希は、大丈夫なんですか?!・・・え?まだ、分からない?今夜が、山・・・?どうして・・・優希・・・。
0:さめざめと泣き、崩れ落ちる瑞希。その姿を廊下から聴いている二人。
冥助:・・・・・。
矢吹:気になるんだね。二人のことが。
冥助:・・・いや、矢吹に言われて気づいた。俺の予想が正しかったら、そろそろのはずだ。
矢吹:何がだい?
冥助:あの優希って子、出てくるはずだ。さっきニュースで、意識不明の重体ってなってたからな。この子は、まだ死んでねえ。それが分かれば、あいつの声が聞こえるはずだ。
矢吹:ふふっ・・・気づいたね。さすが死神さん。
冥助:・・・っ!
0:
蓮:何だよ。あいつ、生きてやがったのかよ。つまんねえ。じゃあ俺が見たあの女の顔は、嘘の顔じゃねえかよ・・・。
蓮:ダメだ。ダメだダメだダメだ!しっかりこの手で殺して、最期の顔を見ないと気が済まねえ!どこだ!どこの病院だ、あのガキがぁ・・・!
0:
矢吹:・・・聞こえたかい?
冥助:ああ。クソみたいな声がな。さあ、そろそろ出てくるはずだ。身勝手な恨みを持たれてしまった、哀れな魂がな・・・。
0:すると、優希の霊体がフッと宙に浮かび上がり、外に出てくる。すぐに話しかけようと冥助は目の前まで近づいた。
優希:・・・・・んん・・・あれ、ここは・・・?
冥助:おお、気が付いたかい?お嬢ちゃん?
優希:え・・・きゃああああ!!!
0:普通に考えれば当然だろう。驚いた優希は、目の前の冥助を思いきり引っ叩いた。
冥助:へべぁっ!!!
矢吹:お~~~。派手にやられるなぁ。いきなり目の前にいたら当然だろう。
優希:な、何々??なんなの?あんた達、誰よ?!
矢吹:ま、そうなるよねえ。僕は矢吹迅。で、そこで痛がってるのが、死神の天川冥助。
優希:・・・え?死神?え?
冥助:あ~~~いってぇ・・・。おいおいお嬢ちゃん、いきなりビンタするヤツがあるかよ。少しは話をきいてから―――
0:冥助が言い終わらないうちに、優希は冥助の胸倉を掴んで必死に訴えかける。
優希:嫌よ!私、死にたくない!死にたくない!
冥助:おおおおおい!落ち着けって!まずは話を聞ぐえぇっ!
0:またもや冥助が言い終わらないうちに、優希は冥助の肩を持って揺さぶった。相当な力だ。振り子のように頭を揺さぶられる冥助。
優希:私はまだまだこれからなのぉ!こんなところでしにたくないのぉ!死神でも何でもいいから助けてよぉ!何でもするからぁ!!!
矢吹:お、お嬢さん。そ、それ以上振ると、死神でも気を失うよ?
優希:え?・・・あ・・・。
冥助:うえぇぇぇ~~~・・・。
0:死神とはいえ人のような体。頭を揺さぶられた冥助は、その場でぐったりと倒れ込んだ。
0:
0:―総合病院 廊下―
優希:ごめんなさい。私、何が何だか分からなくて・・・。
矢吹:最初はそんなものさ。それを目の前で驚かせたこの馬鹿死神が悪い。
冥助:おい、俺が悪いのかよ・・・。で?落ち着いたか?
優希:は、はい・・・。
冥助:まったく・・・双子でも誰でも、話を聞かずに突っ走る癖がありそうだな。
優希:え?何で―――
冥助:あんな幽霊が出るかもしれない空き地のど真ん中で、あれだけ盛大に喧嘩しておいてよく言うぜ。
優希:き、聞いてたの?!
冥助:聞いてたのじゃねえよ!事務所のど真ん中で大声で喧嘩されて、はいそうですか、って聞き流せるわけねえだろ!
優希:え?あの場所、本当に幽霊スポットだったの?
冥助:・・・正式には、幽霊スポットじゃねえ。天川死神事務所だ。この町で死んだ人間が、次の行き先を決めて黄泉の世界に行くための場所。なのに双子で揃ってどこの大学に行くんだって揉めて―――。
0:冥助の愚痴のような台詞を、矢吹は遮って話し始めた。
矢吹:そ・れ・で!今の君の状況を説明してあげようと思ったのさ。
優希:え?私、死んだんじゃないの?
矢吹:死んでないよ。気を失ってるだけだ。普通、気を失ってるだけなら何も起こらないんだが・・・―――
冥助:気を失ってるヤツを殺したいって思ってるヤツがいたら、その気を失ってるヤツは、霊体として動くことができるみたいだ。何でかは、知らねえけど。
優希:待って待って。ちょっと頭が追いつかない・・・。
矢吹:まあ、そうだろうね。
優希:えっと・・・私は殺されかけて、今は病院で気を失ってて、その犯人が今も私を殺そうとしている、ってこと?
冥助:そうだ。頭が回ってきたな。
優希:そんな・・・。じゃあ、どうにかして犯人を止める方法は―――
冥助:無い。
優希:―――え?
矢吹:おい、冥助。
冥助:だってそうだろ?今のままだと、俺が直接あの殺人鬼に手を下すのは不可能だ。お前もあの瑞希っていう子に伝えるのは不可能だし、この矢吹も人間だけど、このことを他の人に伝えたらダメだ。
優希:何でよ!生きてるんだったら伝えてくれたっていいじゃない―――!
0:優希の言葉を制止するように、冥助がピシャリと伝えた。
冥助:伝えたら、お前は消滅する。つまり、死ぬってことだ。
優希:え・・・あ・・・。
矢吹:そういうことなんだ。君が死んでいないことを伝えることはタブーとされている。これを伝えてしまったら、君の命は死後の世界に強制的に送られる。
矢吹:だから僕から他の人に、君のことを伝えることは出来ないんだ。
優希:そんな・・・じゃあ私、どうしたらいいの・・・?
冥助:・・・・・・。
0:優希は壁をすり抜け、瑞希のそばまで駆け寄る。
優希:ねえ、瑞希。瑞希!聞いてよ!私の声を聞いてよ!
瑞希:・・・・・・優希、ごめんね?そばにいてなくて・・・。
優希:今あんたの側にいるじゃない!ねえ!こっち向いてよ!話を聞いてよ!!!ねえ!!!
0:必死になる優希に、冥助が駆け寄る。
冥助:落ち着け!・・・とりあえず、ここにいるといい。また話に来る。
優希:・・・・・・。
0:意気消沈としている優希を置き、廊下に出てきた冥助は矢吹を一瞥した。
冥助:おい、矢吹。
矢吹:・・・ああ。
0:
0:
冥助:おい、どうすんだよ。
矢吹:何がだい?
冥助:お前が一番よく分かってんだろ?俺があいつを何とかするには、生きてる人間と死んでる人間、それぞれからの願いを受けないといけねえ。
冥助:でも、今のままだと瑞希っていうあの子には接触できねえし、お前が無暗に接触したら、契約に基づいて―――
0:どうなるのかは、矢吹自身がよく分かっている。だからこそ、矢吹は冥助の言葉を力強く止めた。
矢吹:分かっている!分かっているさ・・・。はぁ・・・やっぱりダメだねえ。僕は人に過干渉になりがちなのかもしれない。
冥助:なりがちじゃなくて、なってんだよ。
矢吹:・・・・・・。
冥助:・・・で?どうすればいい?
矢吹:え?
冥助:俺に何ができるんだ?
矢吹:・・・ふふっ。さすがはこの街の何でも相談事務所所長、天川冥助。誰にでも優しいまるで神様。おっとそうだ、死神様だったね。
冥助:まったく・・・。調子が良くなるとすぐこれだぜ。
矢吹:・・・ありがとう。だが、冥助が今できることは何もない。しいて言えば、あの子たちを見守るくらいだな。
冥助:それは、するつもりだ。
矢吹:・・・ありがとう、冥助。
冥助:・・・おう。
0:
0:廊下の端で蹲っている優希。そこに矢吹が近寄り、話しかけた。
矢吹:やあ、落ち着いたかい?
優希:・・・・・。
矢吹:まあ、話したくなるわけない、か。瑞希さんは?
優希:多分疲れたんでしょうね。寝ちゃったわ。
矢吹:そうか。
優希:・・・ねえ。あんた、私のこと、助けてくれなかった?
矢吹:え?
優希:私の勘違いだったら、それでいいんだけど・・・、後ろから刺されて、馬乗りになられて、もうだめだって思った時に、声が聞こえたの。
優希:何かを叫んでて、慌てて犯人が逃げ出したの。あのまま何度も刺されてたら、私、本当に死んでたんだろうな、って。
矢吹:・・・・・さあ?運がよかったんだね。僕はただ、死神さんをサポートしている人間なだけさ。それ以上でも、それ以下でもないよ。
優希:そう・・・。
優希:・・・あのさ、くだらないこと、言っていい?
矢吹:何だい?何だって聴いてあげるよ?
優希:・・・私達、双子で画家を目指してたの。昔からいつも一緒で、絵を描くのが大好きで、いつも絵を描いて、どっちが上手いとか、ここをこうしたほうがとか言い合って、本当に楽しかったんだ。
優希:だけど、高校の時に別々の学校で、してる勉強も環境もガラッと変わって、二人で絵を描く時間も減っていった。
矢吹:なるほど。高校が別々っていうのは、良くある話だね。
優希:まあね。でも、私は諦めてなかった。中学を卒業した時に、瑞希と約束したんだ。一緒の大学に合格して、また二人で画家を目指そうねって。
優希:私はそれを信じて、この三年間頑張ってきた。なのに・・・それなのに・・・。瑞希は、違う大学に行くって言ってきたの。
矢吹:なるほど。それで君は、怒っちゃったのかい?
優希:そう。だって、まだ芸術学科のところなら、私もそっちに行くって言えた!でも、瑞希は、経営学部に行くって言ったの。話が違うって思った。私たちの約束は、こんなに軽いものだったんだって、そう思ったの。
矢吹:経営学部・・・。なるほどね。
優希:私はそこで、何も聞きたくなくなっちゃったんだ。でも、今考えたら、もう少し話を聞けばよかったなあって、思っちゃったのよね。今、どれだけ話しかけても、瑞希には、届かないから・・・。
矢吹:・・・伝えられない苦しさ、よく分かったみたいだね。
優希:・・・。ねえ、矢吹さん。
矢吹:ん?
優希:あの犯人、本当にどうにかできないの?このままだったら、私のことを襲いに来るかもしれないし、そんなことになったら、瑞希まで・・・。そんなの、耐えられないの!お願い!犯人を止めて!止めてよぉ!あの犯人を・・・裁いてよぉ・・・!
矢吹:・・・・・・・。ごめんね。でも、やれることはするから。
優希:え・・・?
矢吹:今の君の話は、心からの声だ。僕にはよく分かる。その声は僕だけじゃなく、さっきの死神様にも届いている。実は今も、君たち二人のことをずっと見守ってくれてるんだ。大丈夫。僕達に任せてくれ。
優希:・・・お願いします。
矢吹:じゃあ、ゆっくりしてるといい。幽霊だって、休息は必要さ。しっかり休んでおいて。
優希:わ、かった・・・。
0:
0:
0:
瑞希:・・・あ、私、寝ちゃってたんだ・・・。優希、こんな姉妹で、ごめんね?こんな、頼りなくて、出来ない姉妹で、ごめんね・・・。何も伝えられなかった・・・。伝えたいこと、たくさんあったのに・・・。
0:溢れる涙を拭いて、瑞希は笑顔を作った。
瑞希:わ、私、ちょっと飲み物買ってくるから、待っててね。
0:
冥助:―――・・・ん?あー、飲み物を買いにか。だったらすぐに―――っ!
0:
蓮:ここかぁ。さっきの女が寝てるっていう病院は。なんとかして、なんとかして殺さねえと気が済まねえ・・・!さあ、どうすっかなあ・・・!
0:
冥助:あいつ・・・!もうここまで嗅ぎつけやがったのか!・・・あれ、たしかこの病院って・・・。
0:
瑞希:―――ダメだなぁ、私。こんな時に、涙、止まんないや・・・。ココアでも飲んで落ち着こうっと。
0:
冥助:自販機は外だ!まずい!!!
0:
蓮:ん?何だ、あの女・・・。おいおい、泣いてんじゃねえかよお。何で泣いてるんだ?人が死ぬ悲しみか?恐怖か?絶望か?泣けるんだなぁ。羨ましいなぁ。いいなぁ、いいなぁ。
0:
冥助:鉢合うまでに何とか!ああ、くそっ!!!早く矢吹を呼ばねえと!!!
0:
0:
0:
優希:あ、あれ?
矢吹:どうした?
優希:何か、力、入らない・・・。何で・・・?
矢吹:・・・ああ。きっと、意識が戻る合図だ。起きたら、瑞希さんに話せばいい。
優希:うん。ありがと。じゃあ、行ってくる。
矢吹:ああ。
0:矢吹が、消えていく優希を笑顔で見送った、その直後だった。
矢吹:―――――!?
0:矢吹にも流れ込んできた、あの声が届いたのは。
冥助:おい、矢吹!大変だ!
矢吹:ああ!今気づいた!くそっ!すぐに行く!
冥助:ああ、頼む!
0:
0:
0:―総合病院 屋外―
瑞希:えっと、ココアっと・・・。
蓮:―――お嬢さん。
瑞希:え―――――。
0:瑞希は声に振り返る、ことができなかった。背中に一気に広がる熱と痛み。その瞬間、瑞希は自分がナイフで刺されたと理解した。
瑞希:あぁっ・・・!
蓮:どうして、泣いてるのかなあ?悲しいの?感動したのぉ?
瑞希:う、うううぅぅっ・・・!
0:そのまま前のめりに倒れそうになる瑞希。それを松川は無理矢理仰向けにさせて、馬乗りの形になった。
蓮:ねえねえ!どうして泣けるの?羨ましいなあ!だから、最期まで君の泣き顔、俺によく見せてよぉ!!
瑞希:あ、あなたが・・・優希を・・・よくも・・・よくもぉ!!!
蓮:あ?ああ、あの女かぁ!あの知り合いかぁ!いいねえいいねえ!ラッキーだねえ!あいつと一緒の世界に送ってやるよっ!!
0:松川は、瑞希の腹に一刺しした。
瑞希:ぐぅっ!―――ぁぁ・・・っ・・・!
蓮:ヒハハハハハ!!!いいねえ!恨みを込めたような涙が最期に見れていいねえ!そんな顔なんだねえ!ほぉら、終いだっ!
0:最後に胸のあたりに一突きする。溢れ出る赤いものに、熱を帯びていた瑞希の身体は、一気に冷めていく。
瑞希:っ!!・・・ぁ・・ゅ・・ぅき・・・―――。
矢吹:おい!何してる!
蓮:!やべっ!くそっ!またかよぉ!
0:矢吹が来たことに慌てた松川は、ナイフもそのままに脱兎の如く走り去った。
矢吹:おい!待て!!!―――っ!おい!大丈夫か!
瑞希:・・・ぁぁ・・・どぅして・・・こう、なるんだろう、な・・・。
矢吹:・・・・・。
瑞希:・・・ゅう、き・・・いま・・・いくね・・・―――――。
矢吹:・・・・・・。
0:瑞希の身体が、霊体となって浮かび上がる。瑞希には、何が起こっているのか理解できなかった。
瑞希:・・・え?あ、あれ?私、今、刺されて・・・?
冥助:くそっ!!!遅かったか!!
瑞希:あれ?え?この人、浮いてる?
冥助:どうでもいい!話はあとだ!おい、矢吹!犯人はどこ行・・・・った・・・。
矢吹:・・・・・。
冥助:矢吹・・・?
矢吹:・・・もしもし。そちらの病院の前に女性が倒れています。至急来てください。では・・・。
冥助:・・・・・。
矢吹:・・・瑞希さん、だね?
瑞希:あ、はい。
矢吹:一緒に来てくれるかな。聞いてもらいたいことがある。
瑞希:え、あ、あの・・・。
矢吹:いいから、早く。
瑞希:わ、分かりました。
冥助:・・・・・。
0:
0:―総合病院 室内―
優希:・・・あ、矢吹さん。
矢吹:優希さん。
優希:目が覚めたら、瑞希がいなくてさ。どこ行ったんだろうね、ホント。
矢吹:・・・・・。
優希:矢吹さん?
矢吹:ごめん、優希さん・・・。
優希:え・・・?
矢吹:瑞希さん・・・今、僕の隣にいるんだ・・・。
優希:え・・・?嘘でしょ?ねえ。そんないらない嘘いわないでよ、ねえ。
瑞希:本当だよ。優希。私、ここにいるよ?
矢吹:・・・おそらく、瑞希さんは助からない。
優希:え・・・。
瑞希:・・・・・。
矢吹:やられたんだ。あの犯人に。
優希:う、嘘よ・・・そんな・・・嘘よぉ・・・。
瑞希:ゆ、優希・・・。
優希:私・・・まだちゃんと、向き合って話してないのに・・・どうして・・・。
矢吹:優希さん。犯人が、憎いかい?
優希:・・・当たり前じゃない・・・。何で、瑞希が・・・許せないわよ・・・。
矢吹:・・・冥助。聴いたか?
冥助:はぁ・・・まったく・・・矢吹。やってることがルールスレスレだぞ?この優希ってのが矢吹がどういう人間かを知ってるからギリギリ引っかからねえけど、一歩間違えたら―――。
矢吹:分かってる!・・・分かってるさ。だから僕は―――。
冥助:分かった分かった。・・・では、聴こう。立花瑞希。お前はあの犯人―――松川蓮をどうしたい?
瑞希:・・・今すぐにでも、殺したいですよ・・・。見たこともない顔なのに・・・すぐに分かりました。この人が、優希を殺そうとしたんだって・・・。その瞬間・・・殺したいほど憎しみが、湧いて出てきたんです・・・。でも、どうすることもできなかった・・・。
冥助:で、お前はどうなることを望む?
瑞希:・・・お願いします。あの人を・・・殺してください。
冥助:・・・分かった。その覚悟、受け取った。
矢吹:冥助。きっと松川蓮はこの近くにいる。頼んだぞ。
冥助:きっとじゃねえよ。この病院の中だ。・・・さぁて・・・いきますか。
矢吹:おいおい、死神さん。この前みたいに派手にやりすぎるなよ?
冥助:分かってるよ。始末書五万字なんてまっぴらごめんだ。でも・・・ああ、そうだ。立花瑞希さん?
瑞希:は、はい。
冥助:そこの優希は、あんたが思ってる以上に、あんたのことを考えて過ごしてきてたんだよ。そんでもって、あんたも優希のことを考えて生きてきた。
瑞希:え・・・?!
冥助:喧嘩するほど仲がいい。相思相愛なんだよ、お前ら二人は。・・・それを、忘れんな。恨むな。後悔するな。想われていたと、心に刻んでおけ。
瑞希:・・・はい。
冥助:・・・矢吹。俺の言葉を、優希に伝えてくれ。
矢吹:あぁ、もちろん。・・・優希さん。
優希:・・・何?
矢吹:心の声は、生きている者同士では届かない。でも思いは、言葉となって、行動になって、いつか必ず相手に届く。一時の感情に身を任せんな。優希の思いは・・・すっごく伝わってるよ、瑞希さんに、ってさ。
優希:・・・っ!
冥助:(被せるように)・・・あとは、任せろ。
矢吹:(被せるように)・・・あとは、任せろ。
0:
0:
0:
蓮:この病院のどこかにいるんだよなあ・・・。早く・・・早く殺さねえと・・・。それにしても・・・夜の病院は不気味だなあ。こんなに暗いもんなのか?
冥助:もしもし、そこのおじさん。こんな夜遅くになにしてんだ?見回りか?
蓮:―――っ!!!誰だっ!!!
冥助:お?何だ?怖すぎて漏らしそうになったか?情けねえなあ、おい。
蓮:誰だよ!どこにいんだよ!さっさと姿見せろよ!
冥助:お前、殺しそこなった女のところに行こうとしてんだろ?残念だったなぁ。一発で決められなくてよお。
蓮:な、何だよ!う、うるせえよ!もうあの女は用済みなんだ!あの恐怖で強張った泣き顔を見たんだ!もうあの女は死んでいい!
冥助:・・・・・てめえが、人の命の行き先を決めてんじゃねえよ。
蓮:・・・え?
冥助:最後に聴く。お前は死神か?
蓮:な、何だよ?わけわかんねぇ―――
冥助:どうなんだよ。おまえは、死神なのか?
蓮:へ、へへっ・・・たしかに、俺は何人も殺してきた。命を手玉に取って遊んできた。そんなことができるのは死神だけかもしれないなぁ!ハハハハハ!
冥助:・・・・・てめえが、死神を語るな。
蓮:な、何・・・?
冥助:命っていうのは、その人間が最期まで持っているものだ。人が勝手に奪っていいもんじゃねえんだよ。
0:蓮の目の前の闇から溶け出すように現れる冥助。
蓮:な、何だよ、お前・・・!そうか!あの女の男だな?!そうだろう!
冥助:男?彼氏ってことか?・・・くくっ・・・はっはっはっはっはっは!!!
蓮:な、何だよ、何がおかしいんだよ!
冥助:いやぁ、つくづく頭の中がおめでたい奴だなってなぁ。・・・ああ、だからか。だから身勝手に何人も何人も殺せるわけだ。
蓮:・・・っ!
冥助:お前は、大きな過ちを犯してるよなぁ。9件の殺人。1件の殺人未遂。死体遺棄もあるし・・・お、どうやら窃盗もあるんだなあ。
冥助:で・・・そのポケットに入ってるナイフは、ホームセンターから盗んだやつか。なるほど。
蓮:何で・・・何で・・・。
冥助:ん?何だよ、怖くなってきたか?何なら、お前が殺した9人の名前、全員教えてやろうか?松川蓮さんよぉ。
蓮:何なんだよ!お前、誰なんだよ!
冥助:俺は天川冥助。この町の担当の死神。契約により、お前の命を刈りに来た。
蓮:し、死神?
冥助:本来、俺達死神は、人の生殺与奪に関与することはできねぇ。だが、生きている者と死んでいる者の強い思いが重なった時、俺達が関与することが認められる。
冥助:生きている者からは、立花優希。お前が数時間前、殺しそこなった女だよ。で、死んでいる者は、立花瑞希。さっき自動販売機の前で刺したあの女だ。
冥助:合計二人。受理されるには生きている者と死んでいる者からそれぞれ一人は申請が必要だが、一人ずつある。申し分無し。
蓮:お前・・・見てたのか?!いや、アイツだ!二回ともあの男に邪魔された!アイツの関係者だろう?!
0:喚き散らす蓮に、冥助が視線を一閃する。それは、蓮を瞬時に出らせるのには十分なほど恐怖だった。
冥助:黙れ。
蓮:ひっ・・・!
冥助:この二人の契約により、死後の世界のだれもが関与できるようになった。だから・・・見てるぞ?この二人だけじゃなく、お前が殺したほかの八人も全員がなぁ。
蓮:・・・へ、へへ、何だよ!そう言いながら、怖がらせるだけだろ?!コスプレか何かかよ!脅かしやがって!そんな嘘、誰が信じると――――
冥助:―――黙れよ、クズが。(左手の小指が切り落とされる)
蓮:・・・え?あ?あああ?!?!痛えええ!!!指!俺の指がぁ!!!
冥助:おいおいおい、小指一本やられただけで何言ってんだよ?お前が殺してきた命は、もっと痛みを抱えてこっちに来てんだ。もっと生きたがってたんだ。
蓮:何なんだよ・・・何なんだよ!その鎌!
冥助:これか?便利だろ?こんだけでけえのに、狙ったところだけを斬り取れる、死神専用の鎌なんだ。
0:自慢するように笑顔で語る冥助。しかし、死神の顔にすぐに戻る。
冥助:だから・・・これでお前の命に、失った人達の思いを、死後も忘れられないほど刻みつけてやる。
蓮:ひ、ひいぃぃぃ・・・。
冥助:さぁて、お前が襲った人間はちょうど10人だ。・・・おお、ちょうどきりよく同じ数があるじゃねえか。てめえの指の数が、なぁ?
蓮:い、嫌だ・・・!嫌だあぁぁぁぁあぁぁ!!!!!
0:恐怖を顔に貼りつけながら、蓮はその場から逃げていった。冥助はその行動にもだが、背後の気配に対しても盛大にため息をついた。
冥助:・・・・・おい、お嬢ちゃん。見せもんじゃねえんだぞ?
瑞希:・・・ごめんなさい。気になってしまって・・・。
冥助:まったく・・・。でも、これが死神の仕事。処刑っていうのはこういうことだ。怖気づいたなら、今だぜ?
瑞希:・・・・・いえ。お願いします。
冥助:ほお。いいんだな?
瑞希:・・・私、大学で経営学を学ぶつもりだったんです。優希と一緒に、画家姉妹を目指そうって約束しました。でも、高校で私、気づいたんです。私は、絵を綺麗に描くことしかできないんです。ただ、それだけ。
冥助:・・・・・・・・・。
瑞希:・・・私には、優希が持ってるようなアイデアは何も浮かばなかった。だから、私が優希を支えて、一緒に画家として成功させようって、そう思ってたんです。それなのに・・・それなのに・・・。
冥助:・・・・・。
瑞希:もし、死神さんが殺さないなら、私が―――
冥助:無理だっつーの!お前が生きてる人間に手を加えることなんてできねえよ。でも・・・分かった。それが、お前の覚悟だな。
瑞希:・・・はい。私達二人の思いを・・・どうか・・・。
冥助:・・・やっと、言えたな。
瑞希:・・・え?
冥助:立花瑞希の、立花優希への本当の思い。今まで勝手に劣等感抱えて、勝手に逃げて、勝手に後悔してきた人生。
瑞希:・・・・・・・・・。
冥助:・・・でも、お前は今、それを口にできた。打ち明けることができた。お前には今、覚悟ができた。
瑞希:・・・・・・はい!
冥助:・・・あとは任せて、大人しくしてな。
0:
0:
蓮:はぁ・・・はぁ・・・!ま、撒いたか?!くそぉ、いってえなぁ。何なんだよ、あいつはよぉ・・・。出口は・・・出口はどこだ?
蓮:・・・あれ?何で階段を下りてんのに、いつまでも一階に行けねえんだ?どうなってんだよ?!
冥助:お~い、おじさん?そろそろ落ち着いたかい?
蓮:っ!!!どこまでついてくるんだよ!!
冥助:どこまで?あ~・・・逃げられると思うなよ?どこまでもお前のことは追っていくぜ?でもって・・・しっかり送ってやるよ。地獄の門までな?
蓮:し、死にたくない・・・死にたくない死にたくない死にたくない!!
冥助:うるせえよ。お前、今までどれだけのことしでかしてきたのか、分かってんのか?それで恨まれて、死神に処刑されかけて、死にたくないです、だあ?虫が良すぎるだろうがよぉ。
蓮:死にたくない死にたくない死にたくなあああああ!!!!!
0:死にたくないと連呼する蓮を遮るように、冥助はもう片方の手の小指を一閃した。蓮の小指が斬られ、宙に舞ったそれは、消し炭の如く消えていく。
冥助:うるせえんだよ!さあ、今ので2本目だ。両方の小指が消えた気分はどうだ?ん?
蓮:はぁ・・・はぁ・・・!
冥助:さあ、次は3人目の分だぜ?覚悟はいいよな・・・って・・・・・ほぉ、なるほどねえ。
蓮:・・・?
冥助:あぁ・・・。良いよなぁ。皆楽しそうでいいよなぁ。怒れるのも良いよなぁ。特に・・・泣けるのはも~~っと羨ましいなぁ。
冥助:いいなぁいいなぁ。そんな奴らが恐怖で顔が引き攣る瞬間の顔。また見たいなぁ。・・・なぁ、見せてくれよぉ。お前の死に様をよぉ!!!
蓮:な、何なんだよ・・・。何でそれ―――
冥助:俺にはな、死んだ奴の思いが聴こえてくるんだよ。死の間際に言われた言葉も、その死んだ奴の思いも、言葉に乗って全部。俺の頭に届くんだよ。
冥助:・・・で、どうやら他の奴にも同じようなこと言ってたみたいだな?
蓮:・・・っ!
冥助:おい。今、お前が今までに殺してきた人間全員が、お前のことを見ている。お前が心底反省しているのなら、これで許してくれるかもしれねえぜ?
蓮:へ?え?あ、わ、私が悪かったです!心の底から反省してます!すぐに警察に行って罪を認めます!ごめんなさい!許してください!お願いしますぅ!!!
冥助:・・・だってさ。どうだ?・・・・・。ああ、なるほどねえ。それ大賛成。
蓮:ど、どうなんだ?助かるのか?!
冥助:おい、松川蓮さんよぉ。もちろんだけど、殺した人間の名前。全員覚えてるよなぁ。
蓮:・・・へ?
冥助:全員の名前が言えたら、許してくれるってよ。どうなんだ?
蓮:そんな・・・覚えてるわけねぇだろ!そんな殺した人間なんて!
冥助:・・・だってさ。・・・ふぅ、やっぱりだな。お前、言ってたもんな。俺は何人も殺してきた。命を手玉に取って遊んできた。ってさ。
冥助:それは死神じゃねえ。お前がやってることは、ただ自分の欲を満たしたいだけの獣だ。
蓮:・・・・・。
冥助:なぁ。死んでいった人達全員の思い、教えてやるよ。
蓮:な、何・・・?
冥助:―――泣き顔、いいなぁいいなぁ。そんな奴が恐怖で顔が引き攣る瞬間の顔。見たいなぁ。・・・なぁ、見せてくれよぉ。お前の死に様をよぉ!ってさ。
冥助:これが、死んでいった人達全員の思いだよ・・・!
0:断罪の時。冥助は大鎌を両手で上段に構えた。
蓮:や、やめろ!やめて!やめてください!!!死にたくないいぃぃぃ!!!
冥助:人の命を、自分の欲求のために玩具のように使う獣がよぉ!あの世で、しっかりと反省してこい!
0:恐怖と後悔が入交じり、逃げようとする蓮を許さない。冥助は蓮に、その大鎌を振り下ろしたのだった。
0:
0:
矢吹:『病院内で変死体 連続殺人犯と断定』先日病院内で発見された指の無い変死体が、連続殺人犯として指名手配されていた、松川蓮であることが、警察署の調べで判明した・・・。今回も派手にやったねぇ、冥助。
冥助:うるせえんだよ!元はと言えば、お前がこうなるようにけしかけたからこうなったんだろうが!見ろよ!なあ!これがその代償だよ!始末書だけで本が書けるレベルだぞ、おい!
矢吹:悪かったと思ってるよ。でも、僕はそこまでやれとは言ってないさ。
冥助:けっ!こんな時は絶対に、完全には俺の味方になってくれねえんだよなぁ。
矢吹:おいおい。これでも僕は、永遠の君の味方だよ。
冥助:・・・まったくよ。お前は本当に変わんねえし、何だかんだで熱い男だっていうのは知ってたからな。
矢吹:お褒めに預かり、光栄です、死神様。
冥助:褒めてねえんだよ。・・・で?そんな冷やかしをしに来ただけか?
矢吹:・・・どうやらこの松川蓮。両親のスパルタ教育が原因で心的障害を発症。それにより、涙を出すことができなかったらしい。
矢吹:で、泣いている人に対して異常な反応を示すようになり、泣くっていうものは、恐怖に支配されることによって起こるものだと思い込み、相手の精神を書き換えるような行為に陶酔して、殺人を繰り返していたんだと・・・。
冥助:―――だからと言って、人を殺していいわけがねえ。許されねえことだ。
矢吹:ああ、そうだ。だが、やるせないね。結局、あの殺人鬼を作り上げたのは、殺人鬼になるまで追い込んだ、同じ人間なんだと思うと、ね。
冥助:・・・人間は、どうしてこう同じことを何度も繰り返すんだろうな。
矢吹:・・・そうだね。
冥助:しっかし・・・今回の文字数増えすぎだろ。倍以上だぞ?
矢吹:そりゃあそうだろうね。何せ、死神法違反をしたんだ。まさか、契約を交わした相手が生き返るなんて、まさに奇想天外とはこのことだね。刺した相手にとてつもない恨みがあって、それで霊体になってたなんてね。
冥助:誰のせいだと思ってんだよ!お前絶対に知ってただろ?まったく、踏んだり蹴ったりだ!
矢吹:ははは。・・・でも、良かったじゃないか。松川は相当な恨みを買っていたから、お咎めがそれで済んだんだし、何より・・・すっきりしただろ?
冥助:・・・まあな。
矢吹:あ、そうそう。彼女たちから伝言の音声を預かってるよ。どうしてもお礼が言いたいって。
冥助:どうでもいい。見なくても分かるぜ。あいつらなら大丈夫だろうよ。今回、命を使ってお互いが向き合ったんだ。二人の関係も、心も、簡単には折れねえよ。
矢吹:・・・ああ、そうだな。
冥助:しばらくは俺のことを見ることもねえだろうし、何より・・・普通でいけば、もう会うことはねえだろうからな。
矢吹:・・・・・・冥助。
冥助:分かってるさ。でも、何だかんだで俺はこの仕事が好きだ。だから、最後までやりたいようにやるさ。
矢吹:そうか・・・。すまないな。じゃあ音声、流しておくぞ?あ、そういえば、あの女性の死神、高嶺響子(たかねきょうこ)の手伝いに行くのはいつなんだ?
冥助:って、おい!何で知ってんだよ!
矢吹:だから言ってるだろう?情報屋を甘く見るな、ってね。ふふふ・・・。
0:
0:
優希:ヤッホー、死神さん!私達の仇を討ってくれて、本当にありがとうね!
瑞希:ありがとうございます。死んでいたはずなのに、いつの間にか、元に戻ってて・・・。
優希:きっと死神さんからのプレゼントだよ!だって、神様なんだもん!
瑞希:ふふっ・・・優希、嬉しそうね。
優希:当たり前じゃない!こうして、二人とも生きてる!瑞希と二人で、これからも生きていける!
瑞希:・・・私も、優希と一緒に生きていける。死を意識して分かった。本当に嬉しいことなんだって。
優希:・・・あ、死神さん!矢吹さん!喧嘩の話、解決したよ!瑞希が経営学部に行こうとした理由、やっと分かったよ!
瑞希:優希!あんまり大きい声で言わないで!恥ずかしいよ!
優希:良いじゃないの!あのね、実は―――――。
0:
0:
矢吹:どこにでもある、街の寂れた空き地。そこには、人間には見えない事務所が存在することがある。死神事務所。事務所というが、建物があるわけではない。その場所には死神が存在する。
矢吹:しかしその死神は、人の命をむやみに奪ったりはしない。あくまで神様として、普段は見ているだけ。近づいたからといって、からかったからといって何もしない。
矢吹:死神は、全ての声が聴こえる。生きている者、死んでいる者、その心の声を聴き、時には動き、時にはその力を振るう。
矢吹:貴方は、死神に伝えたい本当の思い、ありますか?あるのならば、近くの寂れた空き地を探してみてください。もしかすると死神が、貴方のために力を貸してくれるかもしれませんよ。