台本概要

 343 views 

タイトル 押せない
作者名 シンタマ  (@UdonguRataN)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 性別変更可

 343 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
運転手 99 バスの運転手
小山内 98 押せない人
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
運転手:あの・・・。 小山内:私、ですか? 運転手:はい。急に話しかけてしまってすいません。 小山内:いえ。何の御用でしょうか? 運転手:・・・さっきも乗ってらっしゃいましたよね。バス。 小山内:はい。そうですね。 運転手:終点の駅で降りられて、そのまま停留所に残って。 小山内:はい。 運転手:今度は、今来た道を戻るバスに乗られてますよね? 小山内:いけませんか? 運転手:いえいえ、そんなことはないんですけど。ただ、その少し気になってしまって・・・。 小山内:そうですか。 運転手:バス、お好きなんですか? 小山内:そうですね。今、人生で初めて、私はバスが好きなのかどうか考えたくらいには、好きだと思います。 運転手:ほぼ興味ないってことですよね、それ。・・・お気遣いありがとうございます。 小山内:運転手さんはお好きなんですか? 運転手:はい? 小山内:バス。 運転手:僕ですか。僕は・・・どうでしょう。こういう仕事なので愛着はありますけど・・・。 運転手:うん、そうですね。好きか嫌いかだと、好きだと思います。 小山内:それは、よかったですね。 運転手:あははは・・・。そう、話を戻しますと。 小山内:ダメです。 運転手:ええ! 小山内:冗談ですよ。どうぞ。 運転手:・・・その、なぜ、降りてすぐ、折り返しのバスに乗られたんですか? 小山内:バスが好きだからです。 運転手:いや、それ嘘ですよね! 小山内:あら、分かります? 運転手:分かりますよ!むしろなんで、通せると思ったんですか! 小山内:乗ってた、とか乗った、と言いますかね。 運転手:はい。 小山内:降りそびれたんですよ。 運転手:はい? 小山内:降りそびれた、というのは降りることが出来なかった、という意味です。 運転手:それは分かります。 小山内:そうですか。そして理由は以上、です。 運転手:その・・・ 小山内:何ですか? 運転手:なぜ降りそびれたんでしょうか? 小山内:随分グイグイきますね。あなた、私の事好きなんですか? 運転手:いや!そんなことはないです・・・。すいません。 小山内:そうですか。じゃあ話しません。 運転手:え?そんな・・・ 小山内:話しません。 運転手:う・・・。・・・好きです。だからお願いします。 小山内:バスより? 運転手:・・・バスより。 小山内:ほんと?私とバスが同時に溺れてたとしたら、どっちを先に助けます? 運転手:それ単純にあなたの乗ったバスが、海だか池に飛び込んだだけですから! 運転手:人命最優先!勿論あなたを助けますよ・・・。 小山内:そう。信じるわ。 運転手:ありがとうございます・・・。 小山内:私、押せないんですよ。 運転手:は? 小山内:こんな恥ずかしいこと何度も言わせないで下さい! 運転手:すいません。あのでも、もう一度お願いします。 小山内:・・・もう二度と言いませんからね。 運転手:はい。 小山内:私、ボタンを押せないんです。 運転手:ボタンを押せない・・・? 小山内:あー恥ずかしい!もうこの話は終わり!他の話をしましょう。 運転手:お願いですから!もう少しだけ、詳しく。 小山内:・・・はぁ。もう少しだけですよ。 運転手:ありがとうございます。・・・えーと、つまりあなたはボタンが押せなくて降りられなかった、 運転手:ということですか? 小山内:降りられなかったんじゃありません。降りそびれたんです。 運転手:一緒じゃないですか。 小山内:降りられなかった、なんて、少し幼稚に聞こえるじゃないですか。 小山内:子供みたい。 運転手:分かりました・・・。降りそびれたんですね。 小山内:とっかえひっかえバスを乗り換える尻軽女じゃなくてお生憎様。 運転手:誰も思いませんよそんなこと! 小山内:どうだか。 運転手:本当ですよ。でも、なんで押せないんですか? 小山内:なんでって・・・。怖いのよ。 運転手:ただのボタンですよ。 小山内:タダでもエクスペンシブでも怖いものは怖いの! 運転手:えー・・・。バスだけですか怖いのは?他のボタンは? 小山内:他のって? 運転手:押さないと信号変わらない横断歩道とか。 小山内:そんなの100%他の人が来るまで待つわ。それか迂回する。 運転手:エレベーター。 小山内:余裕で待ちよ。 運転手:ファミレスとかのスタッフさん呼び出し。 小山内:適切な距離を保ちつつ、全力で、来て頂戴アピール。 運転手:自動販売機! 小山内:心からコンビニ大国であることに感謝してるわね。 運転手:・・・ほんとに押せないんですね・・・。 小山内:私から言わせたらそんなにポンポン押せる方がどうかと思うわ。 運転手:そんな大袈裟な。 小山内:ボタンを押す、ってことは何かが起こるってことでしょ? 運転手:というかその為のボタンですから。 小山内:そこよ。 運転手:なんです? 小山内:運転手さんは、地面にあなたの好きな食べ物・・・ 小山内:そうね、ハンバーグがあったとしましょう。 運転手:まぁ好きですが。それで? 小山内:それ食べる? 運転手:食べませんよ。 小山内:いい匂いもするし、ちゃんとお皿に乗ってて綺麗にラップもされてる。それでも? 運転手:絶対食べません。 小山内:それはなんで? 運転手:そんなの怪しいじゃないですか。 小山内:ただのハンバーグよ。 運転手:そんなのただのじゃ・・・あ。 小山内:分かってもらえたかしら。 運転手:えー・・・でも大分状況が違うような。 小山内:一緒よ。このボタンは降りたい意思を表明するものよね。 運転手:そうですよ。 小山内:でも証拠がないじゃない!昨日まで、さっきまではそうだった、かも知れない。 小山内:今この瞬間に爆破スイッチになってる可能性だって・・・。 運転手:爆破スイッチって、そんな訳ないじゃないですか! 小山内:丁度1000回押したら爆破、かもしれない。 小山内:そしていま目の前にあるこのスイッチは999回目・・・ 小山内:市営バスが殺戮兵器に代わる瞬間よ! 運転手:ありえません! 小山内:でも分からないじゃない! 運転手:とにかく・・・考えすぎです。 小山内:(溜息)・・・ほんとはね。分かってるのよ私だって・・・。 運転手:はい? 小山内:ボタンはただのボタン。押せば信号が変わる、スタッフは来てくれる、 小山内:バスは、降りたい場所で止まる。それだけだって。 運転手:じゃあなんで・・・。 小山内:私、小さい頃はボタン押すの大好きだったの。 運転手:え。そう、だったんですか。 小山内:ふふ・・・。よく親にせがんで押させてもらったわ。 小山内:勿論バスのボタンもね。あの頃の私にとって、 小山内:ボタンは押せば何かが変わる、何かが起こる。 小山内:・・・そう、新しい未来へのスイッチだったのよ。 運転手:・・・。 小山内:そして私はやらかした。 運転手:やら・・・かした? 小山内:小学校4年の時・・・あれは、友達の誰かが囃し立て(はやしたて)たんだか 小山内:私が勝手にテンション上がったのか、押しちゃったのよね。 運転手:何をです? 小山内:あるでしょ。非常ベル。 運転手:あ・・・ 小山内:押した瞬間、凄い音がして、学校中がざわめいた気がした。 小山内:・・・私はもう、真っ白になった。 運転手:・・・。 小山内:慌ててとんできた先生達や周りの友達に何かを言われたりしたけど、 小山内:何も耳に入ってこなかった。体も動かなかった。 小山内:ボタンを押した姿のまま、私は停止したの。 運転手:そう・・・だったんですね。 小山内:その日から、私はボタンが押せなくなった。 小山内:ボタンは、未来へのスイッチなんかじゃない。 小山内:全てを壊して、時間も止めてしまう怖いものなんだって。 運転手:・・・。 小山内:はい!これで全部です。この話は今度こそ終了! 運転手:その、聞かせて下さってありがとうございます。 小山内:本当に恥ずかしいんだから。 運転手:すいません。 小山内:・・・でも前はこんなこと話せなかった。少しは成長したのかな? 運転手:はい。そうだと、思います。 小山内:・・・。 運転手:ところで、今回はどうやって・・・ 小山内:どう、って? 運転手:降りられるのかなと。 小山内:ああ、そのこと。 運転手:この時間は結構利用される方も少ないですし、 運転手:乗ってこられても都合よく同じ停留所かどうかは・・・ 小山内:それは困ったわね。また終点で折り返しかしら。 運転手:でしたら、僕が押しましょうか。その・・・あなたの代わりに。 小山内:本当ですか?嬉しい。 運転手:こんなことでよかったら全然。 小山内:でも結構です。 運転手:え! 小山内:運転手さんは運転するのがお仕事。 小山内:ボタンを押して、降りる場所を決めるのは乗客の特権よ。 運転手:なんですかその理屈。それに・・・じゃあ本当にどうすれば 小山内:(堪えきれず吹き出す) 運転手:なんですか! 小山内:あー可笑し。ごめんなさい。 小山内:大丈夫。ちゃんと今回は降りたい場所で降りるわ。 運転手:どうやってですか? 小山内:あなた本当に運転手さん?バスはどうやったら止まるのか分からない? 運転手:どうやったらって、降車ボタンを押すか、停留所にお客様がいれば・・・そうか。 小山内:正解。流石プロドライバー! 運転手:やめて下さいよ。 小山内:バスが往復したくらいの時間になっても、 小山内:私が家に帰って来なかったら、家族の誰かが停留所で待っててくれるのよ。 小山内:だから大丈夫。 運転手:ならよかったです。・・・というか最初から言ってくださいよ! 小山内:だって、私だけあんなに恥ずかしい話を暴露して、 小山内:運転手さんは何もなし、ってのも不公平じゃない。 運転手:そんな理由ですか・・・ 小山内:でも代わりに押してあげる、って言われたのは本当嬉しかった。 運転手:はいはい。 小山内:・・・さて、次で降りるわ。ちょっと楽しかった。 運転手:僕もその、いい時間でした。 小山内:・・・あーあ、結局今日も押せなかった。 運転手:・・・着くまでまだ少しあります。 小山内:え? 運転手:無理にとは言いません。でも、もう一回、挑戦してみませんか? 小山内:運転手さん・・・。 運転手:さっき、ボタンは未来へのスイッチだと思ってたって言ったじゃないですか。 小山内:・・・ええ。 運転手:言われて僕も思ったんです。 運転手:このバスには毎日色んな方が乗られます。 運転手:それぞれの場所で乗って、ボタンを押して、 運転手:それぞれの降りるべき場所で降りる。 運転手:次に進む為の、未来へのスイッチだな、って。 小山内:・・・。 運転手:だから。その・・・また押せたらいいなって。 小山内:・・・分かったわ。やってみる。 運転手:は、はい! 小山内:絶対、後ろ見ないでよ。 運転手:運転中ですから見ませんよ。 小山内:バックミラーも禁止! 運転手:だから運転中ですって! 小山内:いくわ・・・ふぅ・・・ 運転手:・・・ 小山内:・・・・・・。ダメね。やっぱり押せない。 運転手:少し押せてませんでしたか? 小山内:押したらポーンって音がなるでしょ。 小山内:そんな慰めはいりませーん。 運転手:通じませんでしたか。 小山内:お気持ちだけは通じたわ。あ、今日は妹が待っててくれてる。 運転手:ご乗車ありがとうございます。 小山内:こちらこそ。素敵なドライブありがとうございます。 小山内:ではまたお願いしますね。 運転手:・・・あの。 小山内:何ですか? 運転手:この先1000回だって2000回だって僕はバスを運転します。 運転手:そしてずっと待ってます。あなたを。あなたがボタンをまた押せる日を。 小山内:運転手さん・・・ 運転手:だって、僕のバスの降車ボタンは、押すとバスは止まり、 運転手:皆の未来が動き出す、最高のスイッチなんですから!

運転手:あの・・・。 小山内:私、ですか? 運転手:はい。急に話しかけてしまってすいません。 小山内:いえ。何の御用でしょうか? 運転手:・・・さっきも乗ってらっしゃいましたよね。バス。 小山内:はい。そうですね。 運転手:終点の駅で降りられて、そのまま停留所に残って。 小山内:はい。 運転手:今度は、今来た道を戻るバスに乗られてますよね? 小山内:いけませんか? 運転手:いえいえ、そんなことはないんですけど。ただ、その少し気になってしまって・・・。 小山内:そうですか。 運転手:バス、お好きなんですか? 小山内:そうですね。今、人生で初めて、私はバスが好きなのかどうか考えたくらいには、好きだと思います。 運転手:ほぼ興味ないってことですよね、それ。・・・お気遣いありがとうございます。 小山内:運転手さんはお好きなんですか? 運転手:はい? 小山内:バス。 運転手:僕ですか。僕は・・・どうでしょう。こういう仕事なので愛着はありますけど・・・。 運転手:うん、そうですね。好きか嫌いかだと、好きだと思います。 小山内:それは、よかったですね。 運転手:あははは・・・。そう、話を戻しますと。 小山内:ダメです。 運転手:ええ! 小山内:冗談ですよ。どうぞ。 運転手:・・・その、なぜ、降りてすぐ、折り返しのバスに乗られたんですか? 小山内:バスが好きだからです。 運転手:いや、それ嘘ですよね! 小山内:あら、分かります? 運転手:分かりますよ!むしろなんで、通せると思ったんですか! 小山内:乗ってた、とか乗った、と言いますかね。 運転手:はい。 小山内:降りそびれたんですよ。 運転手:はい? 小山内:降りそびれた、というのは降りることが出来なかった、という意味です。 運転手:それは分かります。 小山内:そうですか。そして理由は以上、です。 運転手:その・・・ 小山内:何ですか? 運転手:なぜ降りそびれたんでしょうか? 小山内:随分グイグイきますね。あなた、私の事好きなんですか? 運転手:いや!そんなことはないです・・・。すいません。 小山内:そうですか。じゃあ話しません。 運転手:え?そんな・・・ 小山内:話しません。 運転手:う・・・。・・・好きです。だからお願いします。 小山内:バスより? 運転手:・・・バスより。 小山内:ほんと?私とバスが同時に溺れてたとしたら、どっちを先に助けます? 運転手:それ単純にあなたの乗ったバスが、海だか池に飛び込んだだけですから! 運転手:人命最優先!勿論あなたを助けますよ・・・。 小山内:そう。信じるわ。 運転手:ありがとうございます・・・。 小山内:私、押せないんですよ。 運転手:は? 小山内:こんな恥ずかしいこと何度も言わせないで下さい! 運転手:すいません。あのでも、もう一度お願いします。 小山内:・・・もう二度と言いませんからね。 運転手:はい。 小山内:私、ボタンを押せないんです。 運転手:ボタンを押せない・・・? 小山内:あー恥ずかしい!もうこの話は終わり!他の話をしましょう。 運転手:お願いですから!もう少しだけ、詳しく。 小山内:・・・はぁ。もう少しだけですよ。 運転手:ありがとうございます。・・・えーと、つまりあなたはボタンが押せなくて降りられなかった、 運転手:ということですか? 小山内:降りられなかったんじゃありません。降りそびれたんです。 運転手:一緒じゃないですか。 小山内:降りられなかった、なんて、少し幼稚に聞こえるじゃないですか。 小山内:子供みたい。 運転手:分かりました・・・。降りそびれたんですね。 小山内:とっかえひっかえバスを乗り換える尻軽女じゃなくてお生憎様。 運転手:誰も思いませんよそんなこと! 小山内:どうだか。 運転手:本当ですよ。でも、なんで押せないんですか? 小山内:なんでって・・・。怖いのよ。 運転手:ただのボタンですよ。 小山内:タダでもエクスペンシブでも怖いものは怖いの! 運転手:えー・・・。バスだけですか怖いのは?他のボタンは? 小山内:他のって? 運転手:押さないと信号変わらない横断歩道とか。 小山内:そんなの100%他の人が来るまで待つわ。それか迂回する。 運転手:エレベーター。 小山内:余裕で待ちよ。 運転手:ファミレスとかのスタッフさん呼び出し。 小山内:適切な距離を保ちつつ、全力で、来て頂戴アピール。 運転手:自動販売機! 小山内:心からコンビニ大国であることに感謝してるわね。 運転手:・・・ほんとに押せないんですね・・・。 小山内:私から言わせたらそんなにポンポン押せる方がどうかと思うわ。 運転手:そんな大袈裟な。 小山内:ボタンを押す、ってことは何かが起こるってことでしょ? 運転手:というかその為のボタンですから。 小山内:そこよ。 運転手:なんです? 小山内:運転手さんは、地面にあなたの好きな食べ物・・・ 小山内:そうね、ハンバーグがあったとしましょう。 運転手:まぁ好きですが。それで? 小山内:それ食べる? 運転手:食べませんよ。 小山内:いい匂いもするし、ちゃんとお皿に乗ってて綺麗にラップもされてる。それでも? 運転手:絶対食べません。 小山内:それはなんで? 運転手:そんなの怪しいじゃないですか。 小山内:ただのハンバーグよ。 運転手:そんなのただのじゃ・・・あ。 小山内:分かってもらえたかしら。 運転手:えー・・・でも大分状況が違うような。 小山内:一緒よ。このボタンは降りたい意思を表明するものよね。 運転手:そうですよ。 小山内:でも証拠がないじゃない!昨日まで、さっきまではそうだった、かも知れない。 小山内:今この瞬間に爆破スイッチになってる可能性だって・・・。 運転手:爆破スイッチって、そんな訳ないじゃないですか! 小山内:丁度1000回押したら爆破、かもしれない。 小山内:そしていま目の前にあるこのスイッチは999回目・・・ 小山内:市営バスが殺戮兵器に代わる瞬間よ! 運転手:ありえません! 小山内:でも分からないじゃない! 運転手:とにかく・・・考えすぎです。 小山内:(溜息)・・・ほんとはね。分かってるのよ私だって・・・。 運転手:はい? 小山内:ボタンはただのボタン。押せば信号が変わる、スタッフは来てくれる、 小山内:バスは、降りたい場所で止まる。それだけだって。 運転手:じゃあなんで・・・。 小山内:私、小さい頃はボタン押すの大好きだったの。 運転手:え。そう、だったんですか。 小山内:ふふ・・・。よく親にせがんで押させてもらったわ。 小山内:勿論バスのボタンもね。あの頃の私にとって、 小山内:ボタンは押せば何かが変わる、何かが起こる。 小山内:・・・そう、新しい未来へのスイッチだったのよ。 運転手:・・・。 小山内:そして私はやらかした。 運転手:やら・・・かした? 小山内:小学校4年の時・・・あれは、友達の誰かが囃し立て(はやしたて)たんだか 小山内:私が勝手にテンション上がったのか、押しちゃったのよね。 運転手:何をです? 小山内:あるでしょ。非常ベル。 運転手:あ・・・ 小山内:押した瞬間、凄い音がして、学校中がざわめいた気がした。 小山内:・・・私はもう、真っ白になった。 運転手:・・・。 小山内:慌ててとんできた先生達や周りの友達に何かを言われたりしたけど、 小山内:何も耳に入ってこなかった。体も動かなかった。 小山内:ボタンを押した姿のまま、私は停止したの。 運転手:そう・・・だったんですね。 小山内:その日から、私はボタンが押せなくなった。 小山内:ボタンは、未来へのスイッチなんかじゃない。 小山内:全てを壊して、時間も止めてしまう怖いものなんだって。 運転手:・・・。 小山内:はい!これで全部です。この話は今度こそ終了! 運転手:その、聞かせて下さってありがとうございます。 小山内:本当に恥ずかしいんだから。 運転手:すいません。 小山内:・・・でも前はこんなこと話せなかった。少しは成長したのかな? 運転手:はい。そうだと、思います。 小山内:・・・。 運転手:ところで、今回はどうやって・・・ 小山内:どう、って? 運転手:降りられるのかなと。 小山内:ああ、そのこと。 運転手:この時間は結構利用される方も少ないですし、 運転手:乗ってこられても都合よく同じ停留所かどうかは・・・ 小山内:それは困ったわね。また終点で折り返しかしら。 運転手:でしたら、僕が押しましょうか。その・・・あなたの代わりに。 小山内:本当ですか?嬉しい。 運転手:こんなことでよかったら全然。 小山内:でも結構です。 運転手:え! 小山内:運転手さんは運転するのがお仕事。 小山内:ボタンを押して、降りる場所を決めるのは乗客の特権よ。 運転手:なんですかその理屈。それに・・・じゃあ本当にどうすれば 小山内:(堪えきれず吹き出す) 運転手:なんですか! 小山内:あー可笑し。ごめんなさい。 小山内:大丈夫。ちゃんと今回は降りたい場所で降りるわ。 運転手:どうやってですか? 小山内:あなた本当に運転手さん?バスはどうやったら止まるのか分からない? 運転手:どうやったらって、降車ボタンを押すか、停留所にお客様がいれば・・・そうか。 小山内:正解。流石プロドライバー! 運転手:やめて下さいよ。 小山内:バスが往復したくらいの時間になっても、 小山内:私が家に帰って来なかったら、家族の誰かが停留所で待っててくれるのよ。 小山内:だから大丈夫。 運転手:ならよかったです。・・・というか最初から言ってくださいよ! 小山内:だって、私だけあんなに恥ずかしい話を暴露して、 小山内:運転手さんは何もなし、ってのも不公平じゃない。 運転手:そんな理由ですか・・・ 小山内:でも代わりに押してあげる、って言われたのは本当嬉しかった。 運転手:はいはい。 小山内:・・・さて、次で降りるわ。ちょっと楽しかった。 運転手:僕もその、いい時間でした。 小山内:・・・あーあ、結局今日も押せなかった。 運転手:・・・着くまでまだ少しあります。 小山内:え? 運転手:無理にとは言いません。でも、もう一回、挑戦してみませんか? 小山内:運転手さん・・・。 運転手:さっき、ボタンは未来へのスイッチだと思ってたって言ったじゃないですか。 小山内:・・・ええ。 運転手:言われて僕も思ったんです。 運転手:このバスには毎日色んな方が乗られます。 運転手:それぞれの場所で乗って、ボタンを押して、 運転手:それぞれの降りるべき場所で降りる。 運転手:次に進む為の、未来へのスイッチだな、って。 小山内:・・・。 運転手:だから。その・・・また押せたらいいなって。 小山内:・・・分かったわ。やってみる。 運転手:は、はい! 小山内:絶対、後ろ見ないでよ。 運転手:運転中ですから見ませんよ。 小山内:バックミラーも禁止! 運転手:だから運転中ですって! 小山内:いくわ・・・ふぅ・・・ 運転手:・・・ 小山内:・・・・・・。ダメね。やっぱり押せない。 運転手:少し押せてませんでしたか? 小山内:押したらポーンって音がなるでしょ。 小山内:そんな慰めはいりませーん。 運転手:通じませんでしたか。 小山内:お気持ちだけは通じたわ。あ、今日は妹が待っててくれてる。 運転手:ご乗車ありがとうございます。 小山内:こちらこそ。素敵なドライブありがとうございます。 小山内:ではまたお願いしますね。 運転手:・・・あの。 小山内:何ですか? 運転手:この先1000回だって2000回だって僕はバスを運転します。 運転手:そしてずっと待ってます。あなたを。あなたがボタンをまた押せる日を。 小山内:運転手さん・・・ 運転手:だって、僕のバスの降車ボタンは、押すとバスは止まり、 運転手:皆の未来が動き出す、最高のスイッチなんですから!