台本概要

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タイトル 『時を戻せた男』
作者名 気分屋  (@Kodokusensi)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 1人用台本(不問1) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 語り手が紡ぐとある男の話。
愛する人の為に時を戻した儚き物語

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
語り手 不問 24 語り手 兼役:祐介
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
『時を戻せた男』 語り手:今宵(こよい)語るは、時を戻せた男の話。 語り手:愛する人の為に、己が命を捧げる儚き物語でございます。 語り手:どうぞごゆるりとお楽しみください。 0:『初めまして』 語り手:二人はとある病院の一室で出会いました。 語り手:彼は事故に合い病院へ、彼女は難病で入院をしているところでした。 語り手:病室には、窓際のベッドで外を眺めている彼女と、その隣のベッドに居る彼だけでした。 語り手:幸い彼は、事故での怪我は軽く 語り手:暇を持て余したのか、彼女へ声をかけました。 祐介:「あの、初めまして」 語り手:そう彼が声をかけると、窓の外を眺めていた彼女が 語り手:クルリと彼の方を向きました。 語り手:『見返り美人』なんて言うのがございますが、振り返った彼女はとても美しく、彼はひと目で恋に落ちました。 祐介:「お、俺は祐介(ゆうすけ)って言います」 語り手:慌てて自己紹介をした彼に対し、 語り手:彼女は笑顔で会釈をし、ノートに字を書き始めました。 語り手:彼が彼女を不思議そうに見ていると、どうやら書き終わったらしく 語り手:彼にノートを渡しました。 語り手:ノートには 語り手:『私は美優(みゆ)と申します』 語り手:『申し訳ないのですが、私は難病で声が出せません。 語り手:なので筆談でのお話になってしまうことをお許し下さい』 語り手:と書かれていました。 語り手:彼が彼女の方を見ると、彼女は申し訳なさそうな表情で頭を下げました。 祐介:「あぁ、謝らないでください!こちらこそ気が回らず申し訳ありません」 語り手:彼が謝罪をすると、彼女は首を横に振り、「大丈夫ですよ」と言わんばかりに笑っていました。 語り手:彼がその笑顔に、さらに惹かれたのは言うまでもないですかね。 語り手:それから一ヶ月ほど経ちました。 語り手:お互いの趣味や好きな物、入院する前の話などをし 語り手:筆談にも慣れ始めた頃でした。 語り手:彼女の様態が悪化し、緊急で手術が必要らしく、病室が移ることになりました。 語り手:病室が移る前、彼女は彼にこう伝えました。 語り手:『もし私が無事に手術を終えたら、桜の花を添えた栞をくださいさいませんか?』 祐介:「勿論です。 祐介:とびっきり綺麗なやつを用意しておくので……必ず無事に帰って来てくださいね」 語り手:と彼は答え、彼女の手を強く握りしめながら見送りました。 祐介:「神様、どうかお願いです…… 祐介:俺の寿命を削ってでもいい! 祐介:どうか……どうか美優さんを助けてください……」 語り手:一緒に過ごした時間は 語り手:たったの一ヶ月ほど。 語り手:それでも、彼らが仲を深めるには充分すぎる程の時間でした。 語り手:それから一週間 語り手:彼は美しい桜を添えた栞を用意して、彼女が戻るのを待ちました。 語り手:しかし、彼女はなかなか戻ってきませんでした。 語り手:不意に、眠気とは違う何かが彼の意識を遠のかせました。 0:『戻された時間』 語り手:彼が目を覚ますと、目の前には見慣れた天井が広がっていました。 祐介:「あれ?俺いつの間に寝たんだ?」 語り手:見慣れた場所での目覚めに対し、彼は不思議な違和感を感じていました。 語り手:ふと横を見ると、外の景色を眺めている彼女が居ました。 語り手:まるで初めて会った時のようだと感傷に浸りつつ、彼女に声をかけました。 祐介:「お帰りなさい 祐介:手術、無事成功したんですね」 語り手:すると彼女は少し困ったような顔をした後、ノートに文字を書き始めました。 語り手:『貴方は、誰ですか?』 祐介:「誰って…嫌だな、僕ですよ 祐介:祐介ですよ。忘れちゃいました?」 語り手:彼が冗談交じりにそう言うと、彼女は再び困ったような表情で文字を書き始めました。 語り手:『祐介さん?は今日ここに運ばれたばかりですよね? 語り手:お会いするのは初めてだと思うのですが……』 祐介:「今日……運ばれた?」 語り手:彼が慌てて日付を確認すると、自分が事故に合い、運ばれた日になっていました。 祐介:「どう……して……」 語り手:パニックになりながらも彼は 祐介:「すみません、事故にあったせいか、気が動転してしまったみたいで」 語り手:と、誤魔化すように笑顔で彼女に言いました。 語り手:彼女は『お大事に』とノートに書き、小さく会釈をしてから 語り手:再び外の景色を眺めていました。 語り手:それからというもの、彼はどこか上の空で、呆然としていました。 語り手:気づいた頃には一ヶ月が経っており、再び彼女の様態が悪化し、病室が移ってしまいました。 語り手:そして一週間後、再び彼の意識は遠のいていきました。 語り手:目が覚めると、いつも通りの天井と隣で外を眺めている彼女。 語り手:見慣れた光景に安堵をしつつ、時が戻る原因を探りながら 語り手:彼は一ヶ月間を過ごしました。 語り手:以前同様彼女が病室を移り、彼は何か情報がないかと、院内を散策していました。 語り手:しかしそう都合よく分かるはずもなく、一週間が経とうとした時でした。 語り手:彼女が移った病室が何やら騒がしかったのです。 語り手:彼が気になり近づくと、医師の謝罪と誰かの泣く声が聞こえました。 語り手:どうやら手術に失敗したらしく、両親と思われる人の泣き声が、病室に響いていました。 語り手:そして廊下で響く泣き声がもうひとつ…… 語り手:彼はガクリと膝から崩れ落ちました。 語り手:まるで現実を受け止められないと言わんばかりに、 語り手:「嘘だ……嘘だ」と自分に言い聞かせていました。 語り手:そして視界がグニャリと歪み、再び彼の意識は遠のいていきました。 0:『繰り返す出会い』 語り手:いつも通りの天井、外を眺めている彼女、見慣れた光景……これで三度目。 語り手:『彼女が死ぬと時間が戻る』 語り手:『時間が戻る時、自分の寿命が削られている』 語り手:彼は本能的にこの現象を理解しました。 語り手:どうしてわかるのか 語り手:それは彼にさえ分かりませんでした。 語り手:しかし、分かったところで彼女の死を止めることなどできるはずもなく 語り手:彼はただ、時が戻される度に彼女の死を感じ続けました。 語り手:やがて彼は、彼女との出会いに幸福を感じるようになりました。 語り手:そうでもしないと、『彼女の死』という悲しみに押し潰されてしまうから。 祐介:「初めまして」 語り手:今となっては、彼女と筆談をしている時間が心地好くさえありました。 語り手:彼女が字を書く音、それを待つ時間、全てが愛おしく感じていました。 語り手:趣味や好きな物の話で埋め尽くされていく彼女のノート。 語り手:彼にとっては、全て知っている話でしたが、嬉しそうに筆談をする彼女を眺めているだけで幸せでした。 語り手:そうしてまた一ヶ月が過ぎました。 語り手:この瞬間は、何度経験しても辛いままでした。 語り手:目が覚めてから会う彼女は、楽しく話した時間も、桜を一緒に見に行く約束も、自分のことを……何も覚えていない…… 語り手:今まで一緒に過ごした時間が、まるで無かったかのようになってしまう。 語り手:そう考えるだけで、辛くて、悲しくて、苦しかったのです。 語り手:彼は桜の花を添えた栞をそっと握りしめ 祐介:「大丈夫、彼女との思い出はちゃんとここにある」 語り手:そう言い聞かせ、再び意識が遠のいていきました。 0:『お別れ』 語り手:彼は今までにない違和感を感じつつ、目を覚ましました。 語り手:隣に彼女は居らず、見慣れていない光景。 語り手:日付は出会った日ではなく 語り手:彼女が死んでいたはずの次の日を示していました。 祐介:「あぁ、ついにか……」 語り手:薄々と感じていた、削りすぎた寿命。 語り手:ついに寿命が尽きてしまったのです。 祐介:「そうだ!美優さんは!?」 語り手:ハッとなり、彼女の安否を確認しにいきました。 語り手:病室へつくと、そこにはスヤスヤと眠っている彼女の姿がありました。 語り手:どうやら手術が成功したらしく、麻酔の効果で眠っている様でした。 祐介:「そっか…良かった……良かったっ……」 語り手:あの日流した涙とは、真逆の涙。 祐介:「俺、死んじゃったけど……君が生きてて…本当に良かった……」 語り手:噛み締めるように喜びを感じていたものの、虚しくも彼の体は薄くなりつつありました。 祐介:「俺より先に死んで欲しくないって願いは叶ったけど、君との約束…叶えられなくてごめんね…… 祐介:きっと君は覚えてないだろうけど……ごめんね… 祐介:もっといっぱい、君にしてあげたいことがあったんだけどなぁ……」 語り手:彼がそう呟いていると、眠っている彼女がポロリと涙を零しました。 語り手:彼は彼女の頬に手をあて、そっと涙を拭いました。 祐介:「良かった…こんな俺でも君の涙を拭うことはできるみたいだ 祐介:泣かないで、君は笑顔の方が似合ってるよ 祐介:もし君がまた泣いていたら、俺が涙を拭うから…… 祐介:だから……笑って生きてね」 語り手:彼はそう言い残すと、光の粒のようになって 語り手:何処かへ消えてしまいました。 語り手:彼女の頬に、温かさと桜の花を添えた栞を残して。 0:『手紙』 手紙:『名前も知らない貴方へ』 手紙:『この栞をくれた貴方へ、今私は手紙を書いています。 手紙:今名前も知らない人への手紙なんて可笑しいって思いました? 手紙:不思議ですよね。 手紙:記憶に無いのに、なんだか分かるんです。 手紙:きっとこの栞をくれた人と、私は沢山お話して、沢山応援してもらったんだと思います。 手紙:でないと、私が桜と読書が好きなんて分かるはずがないですから。 手紙:この栞を見た途端、凄く心が温まったんです。 手紙:きっと貴方が、いっぱい私のことを思ってくれてたんだって 手紙:何故か分かったんです。 手紙:だから貴方に感謝を伝えたくて手紙を書いています。 手紙:本当にありがとうございました。 手紙:それから、私は貴方のことが……』 美優:「大好きです!」

『時を戻せた男』 語り手:今宵(こよい)語るは、時を戻せた男の話。 語り手:愛する人の為に、己が命を捧げる儚き物語でございます。 語り手:どうぞごゆるりとお楽しみください。 0:『初めまして』 語り手:二人はとある病院の一室で出会いました。 語り手:彼は事故に合い病院へ、彼女は難病で入院をしているところでした。 語り手:病室には、窓際のベッドで外を眺めている彼女と、その隣のベッドに居る彼だけでした。 語り手:幸い彼は、事故での怪我は軽く 語り手:暇を持て余したのか、彼女へ声をかけました。 祐介:「あの、初めまして」 語り手:そう彼が声をかけると、窓の外を眺めていた彼女が 語り手:クルリと彼の方を向きました。 語り手:『見返り美人』なんて言うのがございますが、振り返った彼女はとても美しく、彼はひと目で恋に落ちました。 祐介:「お、俺は祐介(ゆうすけ)って言います」 語り手:慌てて自己紹介をした彼に対し、 語り手:彼女は笑顔で会釈をし、ノートに字を書き始めました。 語り手:彼が彼女を不思議そうに見ていると、どうやら書き終わったらしく 語り手:彼にノートを渡しました。 語り手:ノートには 語り手:『私は美優(みゆ)と申します』 語り手:『申し訳ないのですが、私は難病で声が出せません。 語り手:なので筆談でのお話になってしまうことをお許し下さい』 語り手:と書かれていました。 語り手:彼が彼女の方を見ると、彼女は申し訳なさそうな表情で頭を下げました。 祐介:「あぁ、謝らないでください!こちらこそ気が回らず申し訳ありません」 語り手:彼が謝罪をすると、彼女は首を横に振り、「大丈夫ですよ」と言わんばかりに笑っていました。 語り手:彼がその笑顔に、さらに惹かれたのは言うまでもないですかね。 語り手:それから一ヶ月ほど経ちました。 語り手:お互いの趣味や好きな物、入院する前の話などをし 語り手:筆談にも慣れ始めた頃でした。 語り手:彼女の様態が悪化し、緊急で手術が必要らしく、病室が移ることになりました。 語り手:病室が移る前、彼女は彼にこう伝えました。 語り手:『もし私が無事に手術を終えたら、桜の花を添えた栞をくださいさいませんか?』 祐介:「勿論です。 祐介:とびっきり綺麗なやつを用意しておくので……必ず無事に帰って来てくださいね」 語り手:と彼は答え、彼女の手を強く握りしめながら見送りました。 祐介:「神様、どうかお願いです…… 祐介:俺の寿命を削ってでもいい! 祐介:どうか……どうか美優さんを助けてください……」 語り手:一緒に過ごした時間は 語り手:たったの一ヶ月ほど。 語り手:それでも、彼らが仲を深めるには充分すぎる程の時間でした。 語り手:それから一週間 語り手:彼は美しい桜を添えた栞を用意して、彼女が戻るのを待ちました。 語り手:しかし、彼女はなかなか戻ってきませんでした。 語り手:不意に、眠気とは違う何かが彼の意識を遠のかせました。 0:『戻された時間』 語り手:彼が目を覚ますと、目の前には見慣れた天井が広がっていました。 祐介:「あれ?俺いつの間に寝たんだ?」 語り手:見慣れた場所での目覚めに対し、彼は不思議な違和感を感じていました。 語り手:ふと横を見ると、外の景色を眺めている彼女が居ました。 語り手:まるで初めて会った時のようだと感傷に浸りつつ、彼女に声をかけました。 祐介:「お帰りなさい 祐介:手術、無事成功したんですね」 語り手:すると彼女は少し困ったような顔をした後、ノートに文字を書き始めました。 語り手:『貴方は、誰ですか?』 祐介:「誰って…嫌だな、僕ですよ 祐介:祐介ですよ。忘れちゃいました?」 語り手:彼が冗談交じりにそう言うと、彼女は再び困ったような表情で文字を書き始めました。 語り手:『祐介さん?は今日ここに運ばれたばかりですよね? 語り手:お会いするのは初めてだと思うのですが……』 祐介:「今日……運ばれた?」 語り手:彼が慌てて日付を確認すると、自分が事故に合い、運ばれた日になっていました。 祐介:「どう……して……」 語り手:パニックになりながらも彼は 祐介:「すみません、事故にあったせいか、気が動転してしまったみたいで」 語り手:と、誤魔化すように笑顔で彼女に言いました。 語り手:彼女は『お大事に』とノートに書き、小さく会釈をしてから 語り手:再び外の景色を眺めていました。 語り手:それからというもの、彼はどこか上の空で、呆然としていました。 語り手:気づいた頃には一ヶ月が経っており、再び彼女の様態が悪化し、病室が移ってしまいました。 語り手:そして一週間後、再び彼の意識は遠のいていきました。 語り手:目が覚めると、いつも通りの天井と隣で外を眺めている彼女。 語り手:見慣れた光景に安堵をしつつ、時が戻る原因を探りながら 語り手:彼は一ヶ月間を過ごしました。 語り手:以前同様彼女が病室を移り、彼は何か情報がないかと、院内を散策していました。 語り手:しかしそう都合よく分かるはずもなく、一週間が経とうとした時でした。 語り手:彼女が移った病室が何やら騒がしかったのです。 語り手:彼が気になり近づくと、医師の謝罪と誰かの泣く声が聞こえました。 語り手:どうやら手術に失敗したらしく、両親と思われる人の泣き声が、病室に響いていました。 語り手:そして廊下で響く泣き声がもうひとつ…… 語り手:彼はガクリと膝から崩れ落ちました。 語り手:まるで現実を受け止められないと言わんばかりに、 語り手:「嘘だ……嘘だ」と自分に言い聞かせていました。 語り手:そして視界がグニャリと歪み、再び彼の意識は遠のいていきました。 0:『繰り返す出会い』 語り手:いつも通りの天井、外を眺めている彼女、見慣れた光景……これで三度目。 語り手:『彼女が死ぬと時間が戻る』 語り手:『時間が戻る時、自分の寿命が削られている』 語り手:彼は本能的にこの現象を理解しました。 語り手:どうしてわかるのか 語り手:それは彼にさえ分かりませんでした。 語り手:しかし、分かったところで彼女の死を止めることなどできるはずもなく 語り手:彼はただ、時が戻される度に彼女の死を感じ続けました。 語り手:やがて彼は、彼女との出会いに幸福を感じるようになりました。 語り手:そうでもしないと、『彼女の死』という悲しみに押し潰されてしまうから。 祐介:「初めまして」 語り手:今となっては、彼女と筆談をしている時間が心地好くさえありました。 語り手:彼女が字を書く音、それを待つ時間、全てが愛おしく感じていました。 語り手:趣味や好きな物の話で埋め尽くされていく彼女のノート。 語り手:彼にとっては、全て知っている話でしたが、嬉しそうに筆談をする彼女を眺めているだけで幸せでした。 語り手:そうしてまた一ヶ月が過ぎました。 語り手:この瞬間は、何度経験しても辛いままでした。 語り手:目が覚めてから会う彼女は、楽しく話した時間も、桜を一緒に見に行く約束も、自分のことを……何も覚えていない…… 語り手:今まで一緒に過ごした時間が、まるで無かったかのようになってしまう。 語り手:そう考えるだけで、辛くて、悲しくて、苦しかったのです。 語り手:彼は桜の花を添えた栞をそっと握りしめ 祐介:「大丈夫、彼女との思い出はちゃんとここにある」 語り手:そう言い聞かせ、再び意識が遠のいていきました。 0:『お別れ』 語り手:彼は今までにない違和感を感じつつ、目を覚ましました。 語り手:隣に彼女は居らず、見慣れていない光景。 語り手:日付は出会った日ではなく 語り手:彼女が死んでいたはずの次の日を示していました。 祐介:「あぁ、ついにか……」 語り手:薄々と感じていた、削りすぎた寿命。 語り手:ついに寿命が尽きてしまったのです。 祐介:「そうだ!美優さんは!?」 語り手:ハッとなり、彼女の安否を確認しにいきました。 語り手:病室へつくと、そこにはスヤスヤと眠っている彼女の姿がありました。 語り手:どうやら手術が成功したらしく、麻酔の効果で眠っている様でした。 祐介:「そっか…良かった……良かったっ……」 語り手:あの日流した涙とは、真逆の涙。 祐介:「俺、死んじゃったけど……君が生きてて…本当に良かった……」 語り手:噛み締めるように喜びを感じていたものの、虚しくも彼の体は薄くなりつつありました。 祐介:「俺より先に死んで欲しくないって願いは叶ったけど、君との約束…叶えられなくてごめんね…… 祐介:きっと君は覚えてないだろうけど……ごめんね… 祐介:もっといっぱい、君にしてあげたいことがあったんだけどなぁ……」 語り手:彼がそう呟いていると、眠っている彼女がポロリと涙を零しました。 語り手:彼は彼女の頬に手をあて、そっと涙を拭いました。 祐介:「良かった…こんな俺でも君の涙を拭うことはできるみたいだ 祐介:泣かないで、君は笑顔の方が似合ってるよ 祐介:もし君がまた泣いていたら、俺が涙を拭うから…… 祐介:だから……笑って生きてね」 語り手:彼はそう言い残すと、光の粒のようになって 語り手:何処かへ消えてしまいました。 語り手:彼女の頬に、温かさと桜の花を添えた栞を残して。 0:『手紙』 手紙:『名前も知らない貴方へ』 手紙:『この栞をくれた貴方へ、今私は手紙を書いています。 手紙:今名前も知らない人への手紙なんて可笑しいって思いました? 手紙:不思議ですよね。 手紙:記憶に無いのに、なんだか分かるんです。 手紙:きっとこの栞をくれた人と、私は沢山お話して、沢山応援してもらったんだと思います。 手紙:でないと、私が桜と読書が好きなんて分かるはずがないですから。 手紙:この栞を見た途端、凄く心が温まったんです。 手紙:きっと貴方が、いっぱい私のことを思ってくれてたんだって 手紙:何故か分かったんです。 手紙:だから貴方に感謝を伝えたくて手紙を書いています。 手紙:本当にありがとうございました。 手紙:それから、私は貴方のことが……』 美優:「大好きです!」