台本概要

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タイトル 『美しき桜の栞』
作者名 気分屋  (@Kodokusensi)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(女1、不問1) ※兼役あり
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 美しき桜の下で手紙を書く女性。
そんな女性の元へ1人の人物がやってくる。

※『時を戻せた男』の関連シナリオです

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
21 女性/N(ナレーション) 桜の下へ手紙を書きに来た女性
不問 22 男/語り手 男と書いてありますが、女性でも可です
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
『美しき桜の栞』 私:今年も綺麗に咲いたなぁ N:美しく咲き誇る桜の木を前に、私はポツリと呟いた。 N:ここは私が子供の頃に見つけた秘密の場所。 N:人が滅多に来ることがなく N:静かで気持ちのいい風が吹いている。 男:今晩は、お嬢さん N:私が声の方を向くと、一人の男性が立っていた。 私:今晩は 男:……おや?喋ることができたのですか 私:はい? 男:これは失礼致しました 男:知り合いの方から、貴方様は喋ることが出来ず、文字で会話をしていると伺ったものでして…… N:彼は少し焦った様子で私に謝罪をしてきた。 私:あぁいえ、大丈夫ですよ 私:数年前まで喋れなかったのは事実ですから 男:そう……でしたか 私:そんなことより、私に何か用ですか? 男:……桜の木を背に、手紙を書く貴方様のお姿が 男:あまりにも美しく、つい声をかけてしまいました N:彼は紳士の様にお辞儀をし、続けた。 男:愛する方への手紙ですか? 私:そうです……って言いたいところなんですけどね 男:と、言いますと? 私:私……彼のこと何も知らないんです。 私:存在しているのかさえも 男:……… 私:おかしいですよね。この世界に居るかさえ分からない人が好き、だなんて。 私:そんな人に手紙を書いていることも…… 男:その方へ手紙を書かれるのは、初めてでしょうか? 私:いいえ。毎年、桜の咲く季節に書いているんです。 私:『毎年』……と言っても、ちょうど二年前からですが 男:二年前ですか 私:私は二年前、難病で入院していたんです。 私:病状は悪くて、喋ることが出来ない状態でした。 私:ある日様態が悪化して別の病室へ運ばれる時 私:意識が朦朧としている私の手を、誰かが強く握りしめて 私:『とびっきり綺麗な桜を添えた栞を用意して待っているから、必ず無事に帰ってきてください』 私:っていう、男性の声が聞こえたんです。 私:その人の声に聞き覚えは無かったし、あの時あの場所には、私の家族とお医者様以外誰も居ないはずだったのに。 私:でも私は、何故か彼の存在を信じて 私:『桜の花を添えた栞……欲しいなぁ』 私:なんて考えてたんです。 私:そしたら何故か勇気が出てきて 私:手術を受けようって思ったんです。 私:……無事手術は成功して、目が覚めたら 私:私の枕元にこの栞があったんです。 私:だから私は、彼が居ることを信じているし 私:彼の事が……大好きなんです。 私:すみません、初対面の方に長々と 男:いえ……その栞、少し見させて頂いても? 私:……?どうぞ 男:ありがとうございます。 男:………やはり 私:? 男:ありがとうございました 私:あぁ、はい 男:二年目ということは、今日書いていた手紙は三通目ということでしょうか? 私:そうです。 私:まぁ一通目は何処かに飛んでいってしまったんですが 男:なるほど……通りで嬉しそうだった訳だ 私:嬉しそうだった? 男:いえ、こちらの話です 私:はぁ 男:……お嬢さんは、もしその男性が居たとしたら 男:どんな方だったのか……知りたいですか? 私:居たとしたら……ですか? 私:当然知りたいですよ 男:畏まりました N:彼がペコリとお辞儀をすると、一冊の本が飛んで来た。 男:貴方の不思議な体験にちなんで 男:私の不思議な力をお一つ、お話致しましょう。 男:私は『記憶の図書館』という 男:万人の記憶が本となって集う図書館を持っていまして 男:色々な方の記憶を読んでは、人々に忘れられることの無いように、語り継いでいるのです。 男:そしてこの本に描かれているのは…… 男:貴方の愛した方の記憶でございます 私:……ッ!?そ、それ……読ませて頂けませんか!? 男:申し訳ないのですが、それは出来ません。 男:本を閲覧することは、私にのみ許された事ですから。 男:代わりに…と言ってはなんですが 男:私に、今宵…貴方様の為だけに 男:この記憶を語らせては頂けませんか? 私:……お願いします 男:では招待致しましょう。 男:貴方にはその権利がある 私:招待? 男:お手をどうぞ。 男:私の手が離れる感覚があるまで、目を閉じて頂けますか? 男:ご安心ください、ほんの少しだけで御座いますから 私:わ、わかりました N:私が目を閉じると、『パチン』と指を鳴らす音が聞こえ、握っていたはずの彼の手がするりとどこかへ消えた。 N:私がゆっくりと目を開けると N:そこに今までの景色はなく、どこかの劇場の観客席に私は座っていた。 N:そして舞台の上には先程までの彼が立っていた。 語り手:ようこそ、私の劇場へ。 語り手:今宵招待致しましたは 語り手:悲しくも、愛した男性と過ごした時間と記憶を失ってしまった 語り手:美しきお嬢様にございます 語り手:そして語るは 語り手:時を戻せた男の話。 語り手:愛する人の為に、己が命を捧げる儚き物語でございます。 語り手:どうぞごゆるりとお楽しみください。 N:彼のお辞儀と同時に、開演を知らせるブザーの音が響き N:私の意識は、舞台上の彼の声に惹き込まれていった……

『美しき桜の栞』 私:今年も綺麗に咲いたなぁ N:美しく咲き誇る桜の木を前に、私はポツリと呟いた。 N:ここは私が子供の頃に見つけた秘密の場所。 N:人が滅多に来ることがなく N:静かで気持ちのいい風が吹いている。 男:今晩は、お嬢さん N:私が声の方を向くと、一人の男性が立っていた。 私:今晩は 男:……おや?喋ることができたのですか 私:はい? 男:これは失礼致しました 男:知り合いの方から、貴方様は喋ることが出来ず、文字で会話をしていると伺ったものでして…… N:彼は少し焦った様子で私に謝罪をしてきた。 私:あぁいえ、大丈夫ですよ 私:数年前まで喋れなかったのは事実ですから 男:そう……でしたか 私:そんなことより、私に何か用ですか? 男:……桜の木を背に、手紙を書く貴方様のお姿が 男:あまりにも美しく、つい声をかけてしまいました N:彼は紳士の様にお辞儀をし、続けた。 男:愛する方への手紙ですか? 私:そうです……って言いたいところなんですけどね 男:と、言いますと? 私:私……彼のこと何も知らないんです。 私:存在しているのかさえも 男:……… 私:おかしいですよね。この世界に居るかさえ分からない人が好き、だなんて。 私:そんな人に手紙を書いていることも…… 男:その方へ手紙を書かれるのは、初めてでしょうか? 私:いいえ。毎年、桜の咲く季節に書いているんです。 私:『毎年』……と言っても、ちょうど二年前からですが 男:二年前ですか 私:私は二年前、難病で入院していたんです。 私:病状は悪くて、喋ることが出来ない状態でした。 私:ある日様態が悪化して別の病室へ運ばれる時 私:意識が朦朧としている私の手を、誰かが強く握りしめて 私:『とびっきり綺麗な桜を添えた栞を用意して待っているから、必ず無事に帰ってきてください』 私:っていう、男性の声が聞こえたんです。 私:その人の声に聞き覚えは無かったし、あの時あの場所には、私の家族とお医者様以外誰も居ないはずだったのに。 私:でも私は、何故か彼の存在を信じて 私:『桜の花を添えた栞……欲しいなぁ』 私:なんて考えてたんです。 私:そしたら何故か勇気が出てきて 私:手術を受けようって思ったんです。 私:……無事手術は成功して、目が覚めたら 私:私の枕元にこの栞があったんです。 私:だから私は、彼が居ることを信じているし 私:彼の事が……大好きなんです。 私:すみません、初対面の方に長々と 男:いえ……その栞、少し見させて頂いても? 私:……?どうぞ 男:ありがとうございます。 男:………やはり 私:? 男:ありがとうございました 私:あぁ、はい 男:二年目ということは、今日書いていた手紙は三通目ということでしょうか? 私:そうです。 私:まぁ一通目は何処かに飛んでいってしまったんですが 男:なるほど……通りで嬉しそうだった訳だ 私:嬉しそうだった? 男:いえ、こちらの話です 私:はぁ 男:……お嬢さんは、もしその男性が居たとしたら 男:どんな方だったのか……知りたいですか? 私:居たとしたら……ですか? 私:当然知りたいですよ 男:畏まりました N:彼がペコリとお辞儀をすると、一冊の本が飛んで来た。 男:貴方の不思議な体験にちなんで 男:私の不思議な力をお一つ、お話致しましょう。 男:私は『記憶の図書館』という 男:万人の記憶が本となって集う図書館を持っていまして 男:色々な方の記憶を読んでは、人々に忘れられることの無いように、語り継いでいるのです。 男:そしてこの本に描かれているのは…… 男:貴方の愛した方の記憶でございます 私:……ッ!?そ、それ……読ませて頂けませんか!? 男:申し訳ないのですが、それは出来ません。 男:本を閲覧することは、私にのみ許された事ですから。 男:代わりに…と言ってはなんですが 男:私に、今宵…貴方様の為だけに 男:この記憶を語らせては頂けませんか? 私:……お願いします 男:では招待致しましょう。 男:貴方にはその権利がある 私:招待? 男:お手をどうぞ。 男:私の手が離れる感覚があるまで、目を閉じて頂けますか? 男:ご安心ください、ほんの少しだけで御座いますから 私:わ、わかりました N:私が目を閉じると、『パチン』と指を鳴らす音が聞こえ、握っていたはずの彼の手がするりとどこかへ消えた。 N:私がゆっくりと目を開けると N:そこに今までの景色はなく、どこかの劇場の観客席に私は座っていた。 N:そして舞台の上には先程までの彼が立っていた。 語り手:ようこそ、私の劇場へ。 語り手:今宵招待致しましたは 語り手:悲しくも、愛した男性と過ごした時間と記憶を失ってしまった 語り手:美しきお嬢様にございます 語り手:そして語るは 語り手:時を戻せた男の話。 語り手:愛する人の為に、己が命を捧げる儚き物語でございます。 語り手:どうぞごゆるりとお楽しみください。 N:彼のお辞儀と同時に、開演を知らせるブザーの音が響き N:私の意識は、舞台上の彼の声に惹き込まれていった……