台本概要

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タイトル 脳力者-Brains-
作者名 VAL  (@bakemonohouse)
ジャンル ファンタジー
演者人数 5人用台本(男3、女2)
時間 60 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 現代異能系です。
性別変換、アドリブ等自由にしてください。
特に制限はありません。
楽しんで!

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
我夢 146 南野我夢。みなみのがむ
161 北里澱。きたざとよどみ
胡桃 135 西条胡桃。さいじょうくるみ
花菜 120 東山花菜。ひがしやまかな
覚醒者 104 本名、中川紫苑。なかがわしおん
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
覚醒者:ある科学者は言った。人間は10%しか脳を使っていない。別の者は2%、さらに別の者は5~7%とも。 覚醒者:それぞれの主張に差はあれど、共通していることは。 覚醒者:人間は極一部の脳力しか使えていないという事。 覚醒者:しかし稀にだが、脳の力を自由に使える人間もいると言う。私がいた研究所では、その者たちを、脳力者。ブレーンズと呼んだ。 0:間 胡桃:いらっしゃいませー!何名様でしょうかー?テーブル席どうぞー! 花菜:あー今回の新刊も良かったなぁ!次も楽しみ。……この後どうなるんだろ。んー!気になって眠れない! 澱:158円が1点、263円が1点、580円が1点、こちら温めます?お箸とフォークどちらにしますか? 我夢:すみません、お先に失礼します。え、明日っすか?明日は難しいっすね。また誘ってください。じゃ、お疲れ様でーす。 0:間 我夢:俺たちは過酷な運命から逃れ、平凡な人生を送っていた。 澱:どこにでもいる何の特徴もない人間として生きる。それが俺たちの幸せだった。 花菜:嫌な記憶は頭の片隅に押し込めて、全部順調にいってたのに。 胡桃:1度私たちを掴んだ見えない力は、より一層強い力で逃がしてくれなかったんだ。 0:真っ白く四角い部屋の隅に4人の男女 覚醒者:やあみんな。起きる時間だよ。 0:しばらく無言が続く 覚醒者:そろそろ起きてくださいねー! 澱:うるさっ…… 花菜:なんですかぁ? 胡桃:……え? 我夢:どういう状況?これ。 覚醒者:やっと目が覚めましたか?待ちくたびれましたよ。 胡桃:この声……どこから? 澱:どこかにスピーカーでもあんだろ。 覚醒者:残念。私は君たちの頭に直接話しかけてます。 花菜:頭に、直接? 我夢:有り得ないね。どうやってそんな事が出来るって言うんだ? 覚醒者:おっと。君たちともあろう者が、分からないとは言わせないぞ? 花菜:嘘……そんな…… 澱:まさか…… 胡桃:……研究所の生き残り? 我夢:何でそれを―― 覚醒者:大正解!私は君たちの生まれ故郷、脳力者研究所の生き残りだ。 澱:君たち……ってことは。 花菜:ここにいるみんな、5年前の爆発事故の…… 覚醒者:そう。君たちは全員、同じ施設で生まれ育ったのさ。もはや家族と言っても良い。生き別れた家族をわざわざ探し出して、再会までさせてあげた私に感謝してくれてもいいんだよ? 胡桃:ふざけないで!私はやっと普通に生きれてるの!昔のことなんて思い出したくもない!大体ね、会ったことも話したこともない奴らと急に家族だとか言われても、ただの迷惑だから! 澱:全くもって同感だな。繋がりなんて邪魔なだけだ。家族であろうが何であろうが俺を縛り付ける奴らは許さねえ。 花菜:そうよ……私たちは独りで何とかやっていけてるんです。早くここから出してください! 我夢:…… 覚醒者:南野くんは何も言わないのかい? 我夢:まだお前の要求を聞いていない。 澱:はあ?なんで俺がこんな奴の要求を聞かなきゃなんねぇんだよ。 我夢:今は俺の番だ。少し黙ってろ。 澱:な、何だと―― 覚醒者:いやー同じ環境で同じ年数だけ過ごしたはずなのに、こうも考え方が違うものか。やはり人間は面白い。 我夢:質問に答えてくれないか。 覚醒者:あーそうだったね。まあ端的に言えば……君達の脳を起こそうと思って。 花菜:もうさっき起こしたじゃないですか。馬鹿みたいに大きな声で。 胡桃:馬鹿はあんたよ…… 花菜:え? 胡桃:この状況で脳を起こすなんて1つしか無いじゃない…… 我夢:研究を再開するつもりなのか。 澱:っ!!冗談じゃねえ!!俺はやらねえぞ!あんな糞みたいな実験、二度とごめんだ! 覚醒者:他にやりたくない者はいるかい? 胡桃:やりたくないに決まってる。当たり前でしょ。 花菜:私も嫌です!絶対嫌! 我夢:…… 覚醒者:そうか。まあやりたくないなら無理強いはしないよ。 花菜:え?じゃあ家に帰れるんですか? 覚醒者:それは少し違う。 澱:はっきり言えよ糞野郎。 覚醒者:嫌なら死んでもらうだけだ。使えない駒は必要ないからね。君たちは研究を受け入れずに済む。僕は無駄な経費を削減できる。うん。win-winだね。 胡桃:どこがよ…… 澱:お前……絶対殺してやるからな。 覚醒者:無理だよ。どこにいるかも分からないくせに。出来ないことは黙っていた方が美徳だ。 澱:っ!んの野郎…… 我夢:わかった。協力する。 覚醒者:お? 胡桃:ちょっと……あんた正気? 我夢:ああ。まだやりたいことがある。今死ぬには早い。 花菜:わ、私も!協力します…… 胡桃:あーもう!私もするわよ! 覚醒者:聞き分けが良くて助かるよ。北里くんは? 澱:…… 我夢:ただ殺されるよりはマシだと思うぞ。 澱:チッ……わかったよ。俺もやる。 覚醒者:全員参加ありがとう。共に良い結果を作り上げようね。じゃあ早速、今の脳力を知るために身体測定をやって行きます。 0:部屋に突如4つの扉が現れる。 覚醒者:ではそれぞれ扉に入ってください。どの扉でもいいからね。同じ扉に入っても別にいいけどセクハラで捕まっても知らないぞ? 澱:いちいち腹立つな…… 我夢:最後に1つ。 覚醒者:なんだい? 我夢:なんて呼べばいい? 覚醒者:……覚醒者。とでも呼んでくれ。では私は失礼する。また後で。 0:プツンと声が切れ、4人は会話を交わすことも無く、それぞれ扉に入り十数分が経過した。 胡桃:私が最後ね。 澱:何か測られたか? 胡桃:いいえ、色んな光がチカチカしてたけど、何を測ってるのかわからないわ。 花菜:私も同じでした。 我夢:俺もだ。 澱:みんな同じか。なんかの洗脳とかじゃないだろうなあ…… 覚醒者:安心してくれ。そんな事はしないよ。 澱:おわっ!急に話しかけるなよ! 覚醒者:それでは身体測定の結果を発表する。 澱:無視かよ…… 覚醒者:まず東山花菜。 花菜:はい。何でしょうか…… 覚醒者:感覚神経の発達が著しいね。視力9.6は流石だよ。 胡桃:9.6!?どんな目してんのよあんた。 花菜:漫画とかアニメを見るのが好きで……気付いたら……えへへ。 覚醒者:続いて北里澱。 胡桃:珍しい名前ね。 澱:まあな。世話になった人から貰った。 覚醒者:北里くんは身体能力が高いね。握力120kg。脚力は100m走、想定8.2秒。よく普通に暮らせてきたね。 澱:目立つのは嫌いだ。まあもう意味ないけどな。 覚醒者:次は南野我夢。思っていた通り、君は聡明なようだ。純粋な脳力が高いね。IQ180。しかもまだまだ覚醒の余地がある。そのうち私も抜かれそうだ。 花菜:賢そうな感じしますよね。南野くん。 澱:鼻につくけどな。 覚醒者:最後は西条胡桃。君は…… 胡桃:何よ。はっきり言ってくれる? 覚醒者:健康そのものだ。 胡桃:は? 覚醒者:君に特出した力は無い。でも安心してくれ。これから開花する可能性も少しはある。 胡桃:……別にいいわよ。私は普通の人間として生きていくんだから、余計な力なんて必要ない。 我夢:でもそれじゃあここから生きて出られない。 胡桃:……何言ってんのよあんた。 覚醒者:本当に察しがいいね。 花菜:どういう意味ですか? 我夢:研究所にいた時のシステムがそのままなら、俺たちはきっと4人1組で研究者の出したゲームをクリアしなければならない。ここだと覚醒者がその役目だろう。脳と体に負荷を与えるプロセスだ。 覚醒者:ご名答。南野くんの言った通り、君たちはこれからチームだ。僕のゲームに参加してもらうよ。 澱:おい。ちょっと待てよ。そのゲームのことは俺もよく覚えてる。忌々しい時間だったからな。あれはお前らの暇つぶしの1部だったろうが。 覚醒者:私をあんな脳無し共と同じにしないでもらいたい。君たちにぴったり合ったステージを用意してるよ。 澱:ぴったりだあ?1人明確に脳力の無い奴がいるじゃねーか。 胡桃:は?なら置いて行けば?私は別の出方を探すから。 覚醒者:残念だけど、それは出来ないよ。4人揃ってクリアするか、全員まとめて死んでもらうかしか結末は用意して無いんだ。 澱:……糞が。 花菜:……どんなゲームなんですか? 覚醒者:それはステージを移動してからのお楽しみだよ。早速移動するかい? 我夢:その前にみんなで自己紹介をしたい。名前はさっきのでわかったけど情報は少しでも多い方が良い。 覚醒者:いいよ。なるべく早くね。 我夢:俺は南野我夢。極普通のサラリーマンをしてる。昨日は帰宅していた途中から記憶が無い。 花菜:東山花菜です。漫画家のアシスタントをしてます。昨日はずっと自宅にいました。 胡桃:……西条胡桃。居酒屋で働いてる。私も帰宅途中から記憶が無いわ。 我夢:……あとは澱。君だけだ。 澱:気安く名前を呼ぶな。 我夢:我慢しろ。俺のことも我夢と呼んでくれて構わない。 澱:ちっ……北里澱だ。コンビニ勤務。仮眠から目覚めたらここにいた。これで満足か? 我夢:ああ。ありがとう。 覚醒者:終わったかな?それじゃあみんな後ろの扉に入ってくれ。 0:全員が背後を見るといつの間にか扉が現れていた。恐る恐る全員進む。 花菜:さっきの部屋より広いですね…… 胡桃:相変わらず何にもない部屋ね。気が狂いそう。 澱:っ! 0:入ってきた扉が閉まって消えた。 覚醒者:ようこそ第一の間へ。 澱:何が第一の間だ。んで?俺らは何をすれば良いんだよ。 覚醒者:君は本当にせっかちだね。ではお望み通り簡潔に説明してあげようじゃないか。ここを出て次の部屋に辿り着けたらクリアだよ。 花菜:ここを出るんですか? 胡桃:それが出来たらもう家に帰ってるわよ。 覚醒者:生憎、この部屋には外に出る通路は無いんだ。ごめんね?次の部屋に繋がる扉だけはあるよ。 我夢:隠し扉か。 覚醒者:そうそう。さっきの部屋にもあっただろう? 0:我夢、壁に触れる。 我夢:なるほど。そういう仕組みか。 胡桃:何か分かったの? 我夢:扉が消えたり現れたりする理由がわかった。 澱:もったいぶらずに早く教えろよ。 我夢:単純な事だ。隙間なく綺麗にはめこむと人の目には1つの物体に見える。不思議な鉄のキューブで似たようなの見たことないか? 花菜:マジックメタルキューブですね。マジシャンが使ったりします。 胡桃:へえ。詳しいのね。 花菜:マジシャンが主人公の「あなたのハートはジャックが奪う」って少女漫画があるんです。その主人公のジョウって男の子がカッコイイんですよ!この間、新刊が出たんですけどヒロインに正体がバレちゃいましてね!それで―― 胡桃:ちょっ!今度聞くから少し落ち着きなさいよ! 花菜:ああ!すみません!私、好きな物の話をし出すと止まらなくなっちゃうんです!ごめんなさい! 澱:変な奴ばっかりだな。 我夢:……まあとりあえず手分けして探すしかないな。時間制限とかはあるのか? 覚醒者:うーん。最初だし無制限にしてあげるよ。それに私は優しいから第一の間をクリア出来たら好きな物を食べさせてあげちゃうぞ。さあそれぞれ好物を教えて。 澱:いくつ言えばいいんだ? 覚醒者:強欲だね。仕方ないな。2つまで許してあげるよ。 澱:2つかよ。じゃあ酒、肉。 花菜:私はオレンジジュースとクロワッサンがいいです。 胡桃:水と鶏ササミで。ダイエット中なの。 澱:こんな時に何の意味があるのかねぇ。 胡桃:何? 澱:別に。 我夢:俺は完熟したバナナと煙草が欲しい。銘柄はクロスアグレウスの8mmで頼む。 覚醒者:随分と用心深い注文をするね。 我夢:食えない物や嫌いな物を渡されても困るからな。 澱:っ!それじゃあ―― 覚醒者:大丈夫だよ。ちゃんと加熱しないといけない物はするし、食器も用意するから。 我夢:そうしてくれ。 覚醒者:はいはい。では、みんな餓死する前に抜け出してね。ヒントとかはあげないつもりだから期待しないように。じゃあまたー。 0:プツンと声が途絶える。 澱:よし。俄然やる気が出てきたわ。 胡桃:とは言っても、何からやればいいのよ。 我夢:花菜。君の視力なら何か見えたりしないか? 花菜:え!?私ですか!? 澱:そうじゃん。お前、目良いんだろ? 花菜:そうですけど…… 胡桃:今は何の手がかりも無いの。1度試してみてくれない? 花菜:わ、わかりました。やってみます。 0:花菜は部屋の壁をゆっくり凝視しながら一周する。 我夢:どうだ?何か見えたか? 花菜:……ごめんなさい。全然分かりません。 澱:あーもうマジかよ。お前も役立たずか。 花菜:ごめんなさい…… 胡桃:っ…… 我夢:そう言う言い方はやめろ。今俺たちはチームだ。助け合わないと。 澱:何なんだよお前。リーダー気取ってんのか? 我夢:そんなもんに興味ねえよ。お前がリーダーやるか? 澱:いらねーよ。……悪かった。八つ当たりだ。 花菜:いえ……大丈夫です。 胡桃:ちゃんと謝れるのね。 澱:うるせぇ。お前も何か考えろよ。 胡桃:うーん。じゃあこれはどうかな。壁を叩きながら違和感を探す。 澱:結局それかよ。 胡桃:あんたも思い付いてたの? 花菜:私もそう思ってました…… 我夢:今はそれしか無さそうだな。 0:各々、四方に別れ壁を叩き音を聞く。 0:暫くノックする音。 澱:あー!うるせぇな!こっちの音が聞こえねえよ! 胡桃:そんなのお互い様でしょ?早く手を動かしなさいよ。我夢を見習って。 花菜:……どうしたんですか?南野くん。怖い顔してますよ…… 我夢:ん?ああごめん。少しね。澱、もう少しだけ我慢して続けてくれないか? 澱:どうせそれしか無いんだろ?やるしかねーじゃねーか。 0:また少しノックする音。 我夢:……困ったな。 花菜:何かありましたか? 我夢:ああ。俺の叩いてる壁。俺たちが出てきた壁なんだよ。 澱:知ってるよ。お前が率先して選んだんじゃねーか。 胡桃:……もしかして。 我夢:音の違いがない。 澱:そっちの壁がハズレってだけじゃねーのか? 花菜:いえ……どの壁も同じです。多分。 澱:は? 我夢:少なくともこの壁には1つ扉があるんだよ。 胡桃:それで音がしないってことは…… 花菜:叩いても隠し扉は見つからない…… 我夢:そういう事だ。振り出しだな。 澱:ちっ!糞が!! 0:4人は部屋の中央に集まり話し合う。 澱:で、どうすんだよ。このままじゃ本当に餓死するぞ! 胡桃:落ち着きなさいよ。余計にカロリーを消費するわよ。 我夢:…… 花菜:私が……もっと役にたててれば。 胡桃:あんたのせいじゃないわよ。私なんて1番何も出来ないから…… 澱:っ! 胡桃:ちょっとあんた!何するつもり!? 澱:おらぁ!! 0:澱は壁を殴り始めた。 胡桃:な、何してんのよ! 澱:俺の脳力はきっと身体能力系だ。この部屋が俺のためのステージなら、殴り続けることで覚醒するかも知れないだろ。ふん!! 花菜:北里くん!やめてください!血が出てます! 澱:他に出来る事がねーだろ! 花菜:……それは。 澱:だあ!!っ!ほら!見てみろ少しへこんだぞ。この調子なら…… 花菜:そっちには通路がありません。途方もないですよ…… 我夢:っ!?見えてるのか? 花菜:え? 我夢:俺達が出てきた扉はどっちだ? 花菜:え、あっちです……あれ。私、見えてる……見えてます!扉の先まで! 胡桃:それって透視ってこと? 我夢:きっとそうだ。他の扉は見えないか? 花菜:見てみます! 胡桃:……どう? 花菜:……ありません。どこにも扉がありません…… 我夢:くっ…… 澱:何だよ……結局、俺らはアイツの暇つぶしに付き合わされただけかよ! 花菜:ごめんなさい……私はやっぱり何の役にも…… 0:花菜は泣き出し、下を向く。 我夢:花菜はよくやってくれたよ。これから―― 花菜:ありました…… 澱:っ!何があった! 花菜:部屋です!この部屋の下に! 我夢:床か!盲点だった…… 胡桃:扉はどこなの? 花菜:扉はありません。でも西条さんの足元の床半径1m、円状にはっきり見えます! 我夢:澱。頼めるか? 澱:ああ。いくらでもやってやる! 胡桃:拳は大丈夫なの? 澱:大丈夫だ。骨は折れてねえ。少し離れてろ。 胡桃:わかった! 澱:おらぁ!っ!はははっ!感触が違う!これなら、割れる! 0:澱が何度か拳を打ち込むと床が軋みひび割れる。 澱:割れろ!おらぁ!!うおっ!! 0:床と一緒に澱が落ちる。 我夢:澱!大丈夫か! 澱:問題ねーよ!そんなに深くねーからお前らも来いよ。 我夢:ああ!ふっ! 花菜:よし……えい! 胡桃:…… 澱:どうした?お前も来いよ。 胡桃:私は…… 澱:安心しろ。受け止めてやっから。 胡桃:……わかった。約束よ!っ! 澱:よいしょっと!軽いな。ダイエットいらねーだろ。 胡桃:なっ……いいから!早く降ろして! 澱:暴れるなって!ほら。 胡桃:……ありがとう。 澱:ん?何だって―― 覚醒者:おめでとうみんな!流石だねえ。思ったより早かったよ。 澱:見たかよ。糞野郎! 覚醒者:うん。ちゃんと見てたよ。しっかり力を合わせてクリア出来たね。素晴らしい!それから東山さん。覚醒おめでとう。どうだい見え方は。 花菜:特に変わった様子は…… 覚醒者:じゃあ北里くんを「見よう」として見てごらん? 花菜:え、はい。……っ!北里くん!何で脱いでるんですか!? 澱:はあ?何言ってんだ? 覚醒者:あははははは!そりゃ見ようとしたら服なんて透けちゃうよねー!あはははは! 我夢:悪趣味な…… 胡桃:最低ね。 花菜:うう…… 胡桃:可哀想に。おいで。 花菜:西条さーん…… 覚醒者:ごめんごめん。ついね。 澱:おい。クリアしたんだから肉と酒をよこせよ。 覚醒者:そうだったね。ほら右手の扉、開けてご覧。そのハンドルを回せば君達の望んだ物があるよ。 澱:これか?よいしょっと。随分重いな。っと!開いたぜ。 覚醒者:やっぱり君もか。北里くん。 澱:は? 覚醒者:そのハンドルをひねるのに必要な力は2トン。それを軽々開けてみせた君も覚醒したという訳だ。だけど君の力は気を付けなきゃいけないよ? 澱:何でだよ。 我夢:頭に血が上って、俺の顔でも殴ったら首が飛んでいくことになるからだ。 覚醒者:そういうこと。まあ元々強い力を隠しながら生きてきた経験がここで活きるかもね。さあ、お腹も空いているだろう?早く食べるといい。特別にテーブルと椅子も用意したから、ゆったり食事を楽しむといい。 我夢:これも時間制限はないのか? 覚醒者:私もこの部屋を片付ける必要があるからね。1時間くらいしたらまたここに来てくれ。 我夢:わかった。 覚醒者:しっかり食べるんだよ南野くん。いざと言う時にカロリーが切れたらまた、盲点が増えるよ? 我夢:……余計なお世話だ。 覚醒者:ではみんな、また後で。 0:声がやみ、4人は沢山の食料が積まれたテーブルへと向かう。 花菜:うわぁぁぁすごいです! 澱:でっけえテーブルだなあ……食料もなんだこれ何十人前だあ? 我夢:脳力を使えば膨大なカロリーを消費するんだろう。覚醒者の心遣いってやつかもな。 胡桃:それにしては少し意地悪じゃない?ライターが無いわよ。せっかく煙草貰ったのに。 我夢:まあ何とかなる。煙苦手な奴いるか? 胡桃:私は大丈夫よ。客の副流煙で慣れたわ。 花菜:うちの作業場も喫煙者多いので大丈夫ですよ。 澱:俺も平気だ。でもどうやって吸うんだ? 我夢:まあ見てて。 0:我夢はテーブルのナイフと煙草を持って壁へと進む。そしてナイフと壁を擦り合わせた火花で上手く煙草に火をつけた。 我夢:……ふー。火打石の応用だ。 花菜:その壁、燃えるんですか? 我夢:いや、燃えてるのはナイフの方だよ。鋼に固いものをぶつけると鉄粉が舞うんだ。その衝撃で急速に酸化した鉄は―― 澱:この肉うっめえ!いくらでも食えそうだ! 胡桃:興味無さそうね。 我夢:そうだな。まあとりあえず火は心配ないよ。さ、俺達も食べよう。 胡桃:ええ。 花菜:はい!お腹ペコペコです!んー!このクロワッサン、すっごく美味しいです!南野くんも西条さんもいかがですか? 胡桃:私は…… 澱:貰っとけよ。次いつ食えるかわかんねーし。今はダイエットとか言ってる場合じゃないだろ。東山、俺にも1つくれ。肉いるか? 花菜:はい!じゃあ……1枚頂きます! 胡桃:…… 我夢:胡桃。今回は澱の言う通りだ。貰っといた方がいい。 胡桃:そうじゃなくて―― 我夢:君は役に立ってる。負い目を感じる事は無い。 澱:何だあ?そんな事気にしてたのか? 胡桃:……あんたが言ったんじゃない。役立たずって。 澱:あー……確かに。悪かった。 胡桃:あ、ごめんなさい。今のはそう言う意味じゃ…… 澱:俺だって全然役に立てなかった。 胡桃:な、何言ってんのよ。あんたが、澱が床を割ってくれた。それに私を受け止めてくれたからクリア出来たんじゃない。 澱:東山が居なかったらそこまで辿り着けなかった。 花菜:私も1人じゃ何も出来ませんでした。南野くんが任せてくれて、西条さんが励ましてくれたから頑張れたんです。 我夢:俺だってそうだ。みんなが助けてくれたからここにいる。俺たちはチームだ。 胡桃:みんな…… 澱:ほら、だから食えよ。俺の肉も食うか? 花菜:私のクロワッサンも!あ、オレンジジュースもどうぞ! 我夢:バナナは栄養豊富だぞ。 胡桃:……ありがとう。頂くわ! 澱:よし!……にしても野菜がねーな。 花菜:そうですね……こんなことなら私が頼んでおくべきでした。 胡桃:まあ1人、食材じゃないもの貰ってるしね。 我夢:……それはごめん。 澱:ふっ!はははは!いーよ別に。あん時はみんな自分の事しか考えてなかったし。 胡桃:本当、そうね。ふふふ。 花菜:そうですね。私も自分の好きな物だけお願いしちゃいました。ふふ。 我夢:よくよく考えたらバナナだけはキツいな。 0:全員笑い合う。 花菜:私、こんなに笑ったの久しぶりです。それこそ研究所から逃げ出した日以来くらい。 澱:確かにな。似た境遇の奴なんてお前らくらいしかいないし、なんか気楽だわ。 胡桃:そうね。覚醒者が言ってた家族ってこんな感じなのかな。 我夢:外に出たらまた皆でご飯でも行こう。 胡桃:良いわね!でも今度は野菜も頼んでよ? 我夢:……約束するよ。みんな笑いすぎだ。 胡桃:ごめんなさい。つい。 我夢:まあとにかく。俺たちの未来のために頑張ろう。 澱:ああ! 胡桃:ええ! 花菜:はい! 0:4人は結束を固め、楽しい食事となった。 覚醒者:彼らなら……きっと彼らなら終わらせれる。君たちが最後の希望だ。頼むよ。みんな…… 0:1時間が過ぎ、4人が部屋から出ると扉が締まり消えた。 澱:よっし!ここもさっさとクリアして早く外に出ようぜ! 花菜:賛成です!頑張りましょう! 覚醒者:随分やる気みたいだね。何よりだけど。 我夢:次のルールを教えてくれ。 覚醒者:もちろん。ようこそ!第二の間へ。今回は次の扉の場所を教えてあげよう。右手側を見てごらん。 0:壁から扉が浮き出し開く。 胡桃:え?最初から開いてるじゃない。 覚醒者:北里くん。その部屋の中に入ってみてごらん。 澱:何か罠とかねーだろうな…… 花菜:見てみましたけど、上下に広い空間があるのが見えます。 澱:おい、それって落とし穴とかじゃ―― 覚醒者:違うよ。入って見ればわかるから。 澱:……あー、なるほどな。 我夢:中に何かあるか? 澱:こいつはエレベーターだ。 胡桃:それで外に出れるってこと? 覚醒者:それは違うよ。次のステージがかなり地下でね。それで向かうしかないんだ。時間制限も特に無いからゆっくり待ってるよ。他に何か質問はあるかい? 胡桃:ステージは残りいくつあるの? 覚醒者:やっぱり終わりが見えないと不安かあ。全部で4つ。ここをクリアしたら残り2つだよ。 澱:おいボタン押せねーぞ! 覚醒者:当たり前でしょ。そんな楽なステージに意味無いじゃん。どうにかそれを動かして次のステージに来てね。僕はそこで待ってるよ。じゃあまた。 胡桃:……何かアイツ焦ってなかった? 澱:思ったより俺らが早くクリアしてるからじゃね?さっきも言ってたしよ。 胡桃:そう……なのかな。 我夢:まあとりあえずはこのエレベーターをどう動かすか。だな。花菜、何か見えるか? 花菜:そうですね……いくつかの配線と……あれは何でしょう。えっと…… 胡桃:どんな形? 花菜:四角い……あ、長方形の箱みたいな……っ! 胡桃:どうしたの!?大丈夫!? 花菜:だ、大丈夫です。ちょっと頭痛がしただけで…… 我夢:脳力を使えばもちろん脳に負荷がかかる。慣れればマシになるはずだ。少し休め。 花菜:はい……ありがとうございます。 澱:とりあえずどうするよ。 我夢:エレベーターの中を探してみよう。何か見つかるかもしれない。 胡桃:……ダメね。何も無いわ。また壁でも叩く? 澱:それは勘弁してくれ。もうあれはやりたくねーよ。 我夢:八方塞がりか…… 花菜:もう少し待ってもらえばまた見れると思いますので…… 我夢:ゆっくりで良いからな。俺達も少し休もう。食事したばかりだし。 0:4人、床に座る。 澱:なあ。研究所での事ってどれくらい覚えてる? 胡桃:思い出したくないけど嫌ってくらい覚えてるわ。 花菜:私もです。毎日朝が怖くてたまりませんでした…… 我夢:今でもたまに夢に見る。所長の顔とかな。 澱:……アイツ。マジで嫌いだったわ。俺らの事を物以下としか見てねー感じとかな。 胡桃:中川ね……もう2度と会いたくないわ。 花菜:でもあの事故で死んだんじゃ…… 我夢:どうだろうな。逃げるのに必死で、そこまで確認出来なかったから。 澱:もし生きてたら5年も野放しにはなってねーよ。 胡桃:それもそうね。 澱:あ。あと定期テストみたいなやつ糞ほど嫌いだったわ。 花菜:わかります!何ですかあのよく分からない問題!大体、私たちは研究所の外のことなんて分からないに決まってるんですよ!出たことないんですし!なのに、名所がどうとか県庁所在地がどうとか何のために覚えるって言うんですか!しかもですよ!?出てから役に立つのかなって思い返しましたけど、一切!役に立たなかったんです!あれは許せません! 胡桃:アンタ……嫌いなものに対しても凄い喋るわね。 花菜:あ。ごめんなさい。つい。 我夢:もう頭痛は大丈夫なのか? 花菜:あっかなり良くなりました。もう脳力を使っても平気だと思います。 澱:そうか!やっと始めれるな。 花菜:みなさんにも見てもらえたらもっと簡単なんですけどね。 胡桃:っ!今、一瞬透けなかった? 花菜:え!? 我夢:花菜!もう1度、「見せよう」としてみてくれ! 花菜:あ、はい! 澱:うお!床が消えた! 我夢:恐らく長くは持たない。みんなよく見るんだ。 澱:わかった! 胡桃:ええ! 花菜:うぅ……もう限界みたいです…… 我夢:ありがとう。充分だ。 澱:マジかよ。さっき東山が言ってたことくらいしか見えなかったぞ。 胡桃:私も……あの箱みたいなの何なんだろ。 我夢:バッテリーだ。配線は2本。このエレベーターを動かすためだけにあるみたいだ。 澱:ん?配線みたいなのもっといっぱい無かったか? 胡桃:そうよね。何か箱の周りにこうグルグルって。 我夢:ボタンの下は恐らく鉄だ。透け方が違った。澱、開けれるか? 澱:鉄くらいなら……よっと。あれ、こんな柔らかかったっけ? 我夢:脳力の成長によるものだろう。ともかくありがとう。やっぱりコイツだったか。 花菜:針金……銅線ですかね? 胡桃:えらく長いわね。 我夢:……やっぱりそういうことか。 澱:1人で納得するなよ。教えてくれ。 我夢:今から電気を起こす。 花菜:電気って起こせるんですか? 我夢:ああ。澱、何回も悪いけどエレベーターの天板を外してくれ。 澱:お、おう。……本当に外れた。意外に軽いな。 胡桃:きっと澱だけよ。持ち上げられるの。 0:我夢はポケットからナイフを取り出し、天板に近づける。するとナイフが張り付いた。 胡桃:……磁石? 花菜:こんな大きな磁石あるんですね。何に使うんです? 我夢:これで電気が作れる。 胡桃:じゃあもうクリアが近いのね! 澱:……にしては、暗い顔してんな。 我夢:澱と胡桃に負担をかけることになる。ここにあるもので電気を生み出すには、磁石を両端に配置して、その間をコイルが回転することで可能なんだ。 胡桃:私達が磁石を持って、澱がコイル役って言うことね。 澱:それのどこが負担なんだ? 我夢:どこって……胡桃は銅線を通じて配線に電気を送らないと行けない。言ってみれば感電するのと同じだ。澱だってかなりの時間走り続けなきゃいけないんだ。 澱:知ってるよ。それが俺の仕事だろ。 胡桃:私もわかってるわよ。それに我夢だって同じじゃない。何も出来なくて見てるだけの方が苦痛よ。 我夢:2人とも……最高だな。お前らとチームで良かったよ。 花菜:私も何かやりたいです! 胡桃:花菜。あんたはもうやってくれたわよ。それに脳力を酷使した後に電気を浴びるのは危険よ。そうよね? 我夢:きっとな。今回は俺たちを応援してくれ。 花菜:……わかりました!精一杯応援します! 澱:よし!それじゃあやるか!とりあえずこの磁石、2つに割ればいいのか? 我夢:ああ。頼む。 0:我夢と胡桃は対の壁に立ち、磁石を抱え片手に銅線を持つ。澱は体に銅線を巻き付け部屋の中心へ。 花菜:……銅線繋げられました! 我夢:よし。澱頼む。 澱:おっけー!最初からフルスロットルで行くぜ!! 我夢:く…… 胡桃:う…… 0:澱は目にも止まらない速度で円状に走る。次第に我夢と胡桃を電流が襲う。 胡桃:つぅっ!! 花菜:西条さん!手が! 胡桃:大丈夫よ!火傷くらい全然平気だから! 我夢:バッテリーの容量的にあと少しだ!花菜、エレベーターを見ててくれ! 花菜:っ!はい!みなさん!頑張ってください!! 澱:うおおおあああああ!! 我夢:ぐぅ! 胡桃:あぁ! 花菜:っ!!みなさん!エレベーターが動き出しました!! 澱:よっしゃ!おわっ!! 我夢:澱! 澱:ははっ……急に止まったら吹っ飛んじまった。 胡桃:慣性の法則ってやつよ。ゆっくり止まらなきゃね。 我夢:胡桃、大丈夫か?その手。 胡桃:我夢も同じでしょ。大丈夫よ。ほら早く行きましょ。 我夢:そうだな。ほら、澱。 澱:お。助かるわ。ちょっと足がガクついててよ。 0:澱は我夢の手を取り、肩を借りながらエレベーターに乗り込む。4人が入ると自動的に動き出し、第三の間への扉を開けた。 覚醒者:やあみんな待ってたよ。想定より遥かに早かったけど。 澱:また焦らせて悪いな。 覚醒者:何のことやら。だが私もちゃんと用意していたよ。この第三の間を。早速説明をしても構わないかな? 胡桃:今回は報酬は無しなのね。 覚醒者:まあね。なんたって今回は時間制限がある。 花菜:何時間なんですか? 覚醒者:30分だ。30分で脱出してくれ。 澱:はあ!?おいおい、焦ってるにしてもやりすぎだろーが! 覚醒者:私は焦ってなどいない。誰よりも君たちの成長を望みそして喜んでいる。きっと君たちなら、この地獄を終わらせれるんだ。 胡桃:あんたが用意した地獄でしょう!? 覚醒者:全てが終わった時に教えよう。南野くん。 我夢:……何だ。 覚醒者:やはり君はここに来る前から目覚めていたね。さらに成長してくれて何よりだよ。 我夢:そうか。 覚醒者:期待している。頑張ってくれ。 0:覚醒者の声が消えた。 澱:くそ!どこまでも勝手な奴だ! 花菜:とりあえず私、見てみます! 胡桃:にしても今までと比べてかなり小さな部屋ね。 澱:それに何だ?床が穴だらけだ。通気口か? 花菜:……そんな……嘘…… 澱:ど、どうしたんだよ。 花菜:何も無いです…… 胡桃:嘘よ。何かあったんでしょ? 花菜:違うんです……この部屋の周りに何も無いんです!!通路も!部屋も!それに…… 胡桃:……それに? 花菜:床下にマグマがあります。しかも徐々に上がって来てるんです…… 我夢:どのくらいのスピードだ? 花菜:見せてみます! 澱:っ……時間制限ってそういう意味かよ…… 胡桃:かなり早いわね……どうする?我夢……我夢? 0:我夢は壁の方へ歩きナイフと煙草を取り出し火を着ける。 澱:おい……まさか諦めたのか? 我夢:少しだけ話をしないか? 胡桃:……わかったわ。 澱:お前もかよ!最後の最後にそれはねーだろ! 花菜:落ち着いて下さい!きっと何かあるんです。南野くんがいなかったら、私たちはここにたどり着くまでに終わってたかもしれません。私は南野くんを信じます。 澱:っ……あーもう。わかったよ。 我夢:みんなありがとう。……ここを出たら一緒に食事でもしようって言ってたよな。他に何がしたい? 花菜:……私はやっぱり漫画が読みたいです。楽しみにしてる新刊がまだまだあるので、それにさっき言ってた「ハー奪」のアニメ化も楽しみです! 我夢:そうか。そこまで言うなら俺も気になってきたよ。胡桃は? 胡桃:私は……もうすぐ社員登用試験があるの。それでゆくゆくは自分の店を持ちたいって思ってる。それが私のやりたいこと。 我夢:胡桃ならきっとできるよ。他人を思いやる姿勢は天性の物だ。その店にも行ってみたい。澱はどうだ? 澱:俺は何でもいい。ただ毎日生きていれりゃ何だって。でもまあこんなに力があるんだ。被災地のボランティアに少し興味がある。 我夢:お前は不器用だ。理解されるまで少し時間はかかるかもしれないけど、みんな絶対わかってくれる。誰よりも優しい人間だってな。 胡桃:ちょっと……我夢。 我夢:お前たちの脳力は強力だ。使い方を間違えれば、想像もできないような事件に繋がる。きっとみんなわかってるとは思うけどな。俺はお前たちを信じてる。 花菜:南野くん…… 我夢:俺はここに残る。 澱:おい! 我夢:今回のクリア条件は脱出だ。エレベーターの下降時間と速度を考えれば、第二の間までの距離は約30m。花菜と胡桃を澱が抱えて登れるギリギリの距離だ。 澱:何言ってんだ! 我夢:それしか無いんだよ!何万回も考えたさ!これが最善策だ…… 胡桃:上から磁石を持ってきたらどう!?さっきと同じようにエレベーターを動かせれば―― 我夢:この部屋の広さじゃ澱は走れない。 澱:俺が往復すればいいんだろ?それなら―― 我夢:マグマの上昇速度を計算した。あと3分で床の穴から吹き出す。澱が上に着く頃にはエレベータ―全てが燃え尽きる。少し話しすぎたかな。 花菜:初めからそのつもりで…… 胡桃:まだあと1つ残ってるのよ!?あんたが必要なの! 花菜:そうです!南野くんがいないと…… 我夢:俺はただみんなより考えるのが早いだけだ。 胡桃:それにどれだけ救われたと思ってるの!? 我夢:なら今回も俺に従ってくれ。 澱:馬鹿野郎!……俺じゃ……我夢、お前を……殴れねーんだよ…… 我夢:ああ。ごめんな…… 花菜:もうそこまで上がってきてます…… 我夢:澱、急いでくれ。このままだと4人とも死んでしまう。 澱:……わかった。 胡桃:ダメよ…… 澱:だったらどうする―― 胡桃:私が!私が死なせない……誰も失わせたりしない!! 花菜:西条さん……目が…… 澱:っ!!我夢と東山の体が浮いて…… 我夢:サイコキネシスか! 胡桃:澱!私を抱えて登って!今は2人を浮かすので精一杯。でも、絶対離したりしない! 澱:っ!任せろ!俺も絶対落とさねーからよ! 胡桃:信じてるわよ。 澱:行くぞ! 0:澱は胡桃を肩に抱え、エレベーターの上に乗り壁を昇る。 澱:意外と遠いなあ! 花菜:エレベーターの中にマグマが入ってきてます! 胡桃:大丈夫よ!澱は絶対落ちないから。 澱:おう、任せとけ!!お前も頼むぞ! 胡桃:ええ!信じなさい! 我夢:ああ。信じてるよ2人とも。……ありがとう。 0:やっとの思いで4人は第二の間へ戻った。 澱:はあはあ……あー疲れた。 胡桃:私も……もう限界…… 花菜:2人とも凄いです!ありがとうございました! 我夢:ごめん……2人とも。 澱:おい……我夢。 花菜:北里くん…… 0:我夢に近寄る澱。 澱:この馬鹿野郎! 我夢:っ!……ごほっ…… 胡桃:ちょっと! 澱:今は手が痺れてるからよ。全然力が出ねぇ。 我夢:それでもヘビー級だよ…… 澱:これで許してやるんだから感謝して欲しいくらいだ。 我夢:ああ。ありがとう。 澱:どういたしまして! 花菜:西条さん……私、何かドキドキしてきました。 胡桃:花菜……それは開けてはいけない扉よ。戻ってきなさい。 覚醒者:みんなおめでとう。 胡桃:また急な登場ね。 覚醒者:一応、空気は読んだつもりだよ。西条さん。おめでとう。強力な脳力を手に入れたようだね。 我夢:お前、まさかここまで読んでいたのか? 覚醒者:私は君ほど頭が良くないんだ。読んでいたんじゃない。時間をかけて計画を立てていただけだ。 我夢:お前、一体何者だ? 覚醒者:それは最後のステージが終わった後に。 澱:じゃあさっさと教えてくれよ。言っとくが、今の俺らは無敵だぜ? 覚醒者:この中に1人嘘つきがいる。それを見つけ出してくれ。時間制限は……5分だ。 澱:おいおいマジかよ。 胡桃:驚きね。 花菜:ここに来てそれですか。 我夢:同感だ。 覚醒者:短すぎたかな? 我夢:逆だ。 澱:俺らを舐めすぎだ。覚醒者さんよ。 胡桃:今すぐ答えを出せるわ。 覚醒者:……聞かせてもらおうじゃないか。 我夢:……お前の事だろ?覚醒者。 胡桃:この中に……ってことはもちろんアンタも含まれてるわよね? 澱:最後に信じる心でも試したかったのか? 花菜:私たちがお互いを疑うことは有り得ません。私たちは家族ですから。それに、私は南野くんみたいに賢くないですし、どちらかと言うと馬鹿ですけど、透けてますよ。あなたと言う人間が。 覚醒者:……ふふ。はははははは。最高だ!君たちは最高だよ! 我夢:さあ、教えてもらおうか。お前の正体。そして、本当の目的を。 覚醒者:その前に私……いや、僕もそっちにいくよ。 0:4人が登ってきた場所に上から新たなエレベーターが降りてくる。そして扉が開き、電動車椅子の青年が出てきた。 覚醒者:初めましてみんな。僕が覚醒者だ。 胡桃:思ったより若いのね。 花菜:そうですね。私達と変わらないくらい。 澱:……お前の顔、どっかで見たことあるぞ。 覚醒者:僕の名前は中川紫苑。君たちがいた研究所の所長の息子だ。 澱:なっ!?お前……アイツの…… 我夢:澱!落ち着け!今は聞くんだ。 澱:……わかった。 胡桃:で、所長のご子息が私たちに今さら何の用よ。 覚醒者:君たちが成人するのを待ってたんだ。君たちを逃がしたあの日からずっと。 花菜:え!?あの爆発事故は……あなたが? 覚醒者:そうだよ。5年前、僕は脳力に目覚めた。テレキネシス系のね。君たちと念話したり、電子機器を意のままに操れる。それはこの脳力のおかげだ。 我夢:なるほどな。 覚醒者:僕はずっと疑問を持っていた。脳力を目覚めさせる意味について。君たちも外で日常を送って気付いただろ?こんな力は必要ないと。 澱:まあな。普通に生きるには邪魔なだけだ。 覚醒者:父は君たちを戦争の道具にしようとしていた。もちろん僕のことも。だから僕は……父を殺し、研究所を爆破した。君たちのいるエリアは避けてね。 覚醒者:我ながら上手くいったと思う。誤算だったのは、未熟な脳で強い脳力を使った代償に身体機能が麻痺したことだ。あの日から僕の手足は動かない。 花菜:私たちのために…… 覚醒者:自分のためでもある。後悔はしていない。この体でも君たちのサポートは出来たしね。成人するまでに行き倒れられたら全て台無しになる。 胡桃:それで、無事成人した私たちをまた集めたってわけ? 覚醒者:そうだよ。 花菜:でもどうして私たちなんですか?他にもたくさん生き延びた人がいたのに。 覚醒者:君たちを測定した時の事、覚えてるかい?この世の中は光に溢れている。テレビや信号機、それを通して逃亡者たちを測定した結果、1番いいチームを選んだつもりだ。 我夢:それで俺たちに何をさせるつもりなんだ? 覚醒者:君たちの親を殺してもらいたい。 澱:親だあ?俺たちはブレーンズを生み出すために作られた人間だろ? 覚醒者:0から人間を作ることは出来ない。僕達はクローンだ。僕は父、中川陽向のクローン。君たちにもオリジナルがいる。そして彼らはこの日本でまだ研究を続けているんだ。僕はそれを壊したい。 胡桃:私たちの…… 花菜:オリジナル…… 覚醒者:君たちのような悲しい過去を持つ人間を作っちゃダメなんだよ。どうか力を貸してくれ。頼む。 我夢:わかった。協力する。 澱:おい我夢!本気かよ…… 我夢:確かにこいつには散々な目に合わされた。でも俺には大事な家族に出会えた恩がある。 胡桃:確かにね。でも仕事の合間によ。私は夢も諦めたくないんだから。 花菜:私も手伝います。1人でも泣いてる子供が減るんだったら。 澱:あーわかったよ!やればいいんだろ!お前のことは嫌いだけど、子供たちに罪は無いからな! 覚醒者:みんな……ありがとう。やっぱり最高のチーム……最高の家族だ。 0:時は流れ、神奈川県某所にて。 覚醒者:みんな、僕の声は聞こえる? 澱:聞こえてるよ!急に話しかけんな! 胡桃:ちょっと澱!あんたの声の方が大きいわよ! 花菜:胡桃さんも澱くんに負けてませんよ…… 澱:そうだよな花菜。もっと言ってやれ! 我夢:もうちょっと緊張感持ってくれよ。毎回これだと疲れる。 澱:わりーわりー。それより我夢。大丈夫なのか? 花菜:我夢くんのオリジナルですよね?今回の所長。 覚醒者:大丈夫でしょ。1回自分を殺そうとしたことあるし。 澱:(同時)お前のせいだろーが! 胡桃:(同時)あんたのせいでしょ! 花菜:(同時)あなたのせいじゃないですか! 覚醒者:ちょ!ごめんって!みんなして言わないでくれよ…… 我夢:はは。大丈夫だよ。紫苑。扉のロックや監視カメラは任せるぞ。 覚醒者:おっけー任せといて。 我夢:澱、警備員は見つけ次第、気絶させろ。手加減はしろよ。 澱:大丈夫だって!だいぶ慣れてきたからよ。 我夢:胡桃は子供達の避難を。 胡桃:了解!1人残らず持ち上げてあげる! 我夢:花菜は何か見えたらすぐ教えてくれ。 花菜:はい!私に見えないものはありませんから! 覚醒者:早く終わらそうね。「ハー奪」のアニメ見なきゃだから。 花菜:あー!ずるいです!私は録画なのに! 覚醒者:リモートワークの特権だよ。 胡桃:もう!いいから集中しなさい! 澱:よーし我夢。やるか! 我夢:ああ!みんな行くぞ! 我夢:父さん。今夜、俺たちがあなたの命、奪いにいきますよ。 0:fin...

覚醒者:ある科学者は言った。人間は10%しか脳を使っていない。別の者は2%、さらに別の者は5~7%とも。 覚醒者:それぞれの主張に差はあれど、共通していることは。 覚醒者:人間は極一部の脳力しか使えていないという事。 覚醒者:しかし稀にだが、脳の力を自由に使える人間もいると言う。私がいた研究所では、その者たちを、脳力者。ブレーンズと呼んだ。 0:間 胡桃:いらっしゃいませー!何名様でしょうかー?テーブル席どうぞー! 花菜:あー今回の新刊も良かったなぁ!次も楽しみ。……この後どうなるんだろ。んー!気になって眠れない! 澱:158円が1点、263円が1点、580円が1点、こちら温めます?お箸とフォークどちらにしますか? 我夢:すみません、お先に失礼します。え、明日っすか?明日は難しいっすね。また誘ってください。じゃ、お疲れ様でーす。 0:間 我夢:俺たちは過酷な運命から逃れ、平凡な人生を送っていた。 澱:どこにでもいる何の特徴もない人間として生きる。それが俺たちの幸せだった。 花菜:嫌な記憶は頭の片隅に押し込めて、全部順調にいってたのに。 胡桃:1度私たちを掴んだ見えない力は、より一層強い力で逃がしてくれなかったんだ。 0:真っ白く四角い部屋の隅に4人の男女 覚醒者:やあみんな。起きる時間だよ。 0:しばらく無言が続く 覚醒者:そろそろ起きてくださいねー! 澱:うるさっ…… 花菜:なんですかぁ? 胡桃:……え? 我夢:どういう状況?これ。 覚醒者:やっと目が覚めましたか?待ちくたびれましたよ。 胡桃:この声……どこから? 澱:どこかにスピーカーでもあんだろ。 覚醒者:残念。私は君たちの頭に直接話しかけてます。 花菜:頭に、直接? 我夢:有り得ないね。どうやってそんな事が出来るって言うんだ? 覚醒者:おっと。君たちともあろう者が、分からないとは言わせないぞ? 花菜:嘘……そんな…… 澱:まさか…… 胡桃:……研究所の生き残り? 我夢:何でそれを―― 覚醒者:大正解!私は君たちの生まれ故郷、脳力者研究所の生き残りだ。 澱:君たち……ってことは。 花菜:ここにいるみんな、5年前の爆発事故の…… 覚醒者:そう。君たちは全員、同じ施設で生まれ育ったのさ。もはや家族と言っても良い。生き別れた家族をわざわざ探し出して、再会までさせてあげた私に感謝してくれてもいいんだよ? 胡桃:ふざけないで!私はやっと普通に生きれてるの!昔のことなんて思い出したくもない!大体ね、会ったことも話したこともない奴らと急に家族だとか言われても、ただの迷惑だから! 澱:全くもって同感だな。繋がりなんて邪魔なだけだ。家族であろうが何であろうが俺を縛り付ける奴らは許さねえ。 花菜:そうよ……私たちは独りで何とかやっていけてるんです。早くここから出してください! 我夢:…… 覚醒者:南野くんは何も言わないのかい? 我夢:まだお前の要求を聞いていない。 澱:はあ?なんで俺がこんな奴の要求を聞かなきゃなんねぇんだよ。 我夢:今は俺の番だ。少し黙ってろ。 澱:な、何だと―― 覚醒者:いやー同じ環境で同じ年数だけ過ごしたはずなのに、こうも考え方が違うものか。やはり人間は面白い。 我夢:質問に答えてくれないか。 覚醒者:あーそうだったね。まあ端的に言えば……君達の脳を起こそうと思って。 花菜:もうさっき起こしたじゃないですか。馬鹿みたいに大きな声で。 胡桃:馬鹿はあんたよ…… 花菜:え? 胡桃:この状況で脳を起こすなんて1つしか無いじゃない…… 我夢:研究を再開するつもりなのか。 澱:っ!!冗談じゃねえ!!俺はやらねえぞ!あんな糞みたいな実験、二度とごめんだ! 覚醒者:他にやりたくない者はいるかい? 胡桃:やりたくないに決まってる。当たり前でしょ。 花菜:私も嫌です!絶対嫌! 我夢:…… 覚醒者:そうか。まあやりたくないなら無理強いはしないよ。 花菜:え?じゃあ家に帰れるんですか? 覚醒者:それは少し違う。 澱:はっきり言えよ糞野郎。 覚醒者:嫌なら死んでもらうだけだ。使えない駒は必要ないからね。君たちは研究を受け入れずに済む。僕は無駄な経費を削減できる。うん。win-winだね。 胡桃:どこがよ…… 澱:お前……絶対殺してやるからな。 覚醒者:無理だよ。どこにいるかも分からないくせに。出来ないことは黙っていた方が美徳だ。 澱:っ!んの野郎…… 我夢:わかった。協力する。 覚醒者:お? 胡桃:ちょっと……あんた正気? 我夢:ああ。まだやりたいことがある。今死ぬには早い。 花菜:わ、私も!協力します…… 胡桃:あーもう!私もするわよ! 覚醒者:聞き分けが良くて助かるよ。北里くんは? 澱:…… 我夢:ただ殺されるよりはマシだと思うぞ。 澱:チッ……わかったよ。俺もやる。 覚醒者:全員参加ありがとう。共に良い結果を作り上げようね。じゃあ早速、今の脳力を知るために身体測定をやって行きます。 0:部屋に突如4つの扉が現れる。 覚醒者:ではそれぞれ扉に入ってください。どの扉でもいいからね。同じ扉に入っても別にいいけどセクハラで捕まっても知らないぞ? 澱:いちいち腹立つな…… 我夢:最後に1つ。 覚醒者:なんだい? 我夢:なんて呼べばいい? 覚醒者:……覚醒者。とでも呼んでくれ。では私は失礼する。また後で。 0:プツンと声が切れ、4人は会話を交わすことも無く、それぞれ扉に入り十数分が経過した。 胡桃:私が最後ね。 澱:何か測られたか? 胡桃:いいえ、色んな光がチカチカしてたけど、何を測ってるのかわからないわ。 花菜:私も同じでした。 我夢:俺もだ。 澱:みんな同じか。なんかの洗脳とかじゃないだろうなあ…… 覚醒者:安心してくれ。そんな事はしないよ。 澱:おわっ!急に話しかけるなよ! 覚醒者:それでは身体測定の結果を発表する。 澱:無視かよ…… 覚醒者:まず東山花菜。 花菜:はい。何でしょうか…… 覚醒者:感覚神経の発達が著しいね。視力9.6は流石だよ。 胡桃:9.6!?どんな目してんのよあんた。 花菜:漫画とかアニメを見るのが好きで……気付いたら……えへへ。 覚醒者:続いて北里澱。 胡桃:珍しい名前ね。 澱:まあな。世話になった人から貰った。 覚醒者:北里くんは身体能力が高いね。握力120kg。脚力は100m走、想定8.2秒。よく普通に暮らせてきたね。 澱:目立つのは嫌いだ。まあもう意味ないけどな。 覚醒者:次は南野我夢。思っていた通り、君は聡明なようだ。純粋な脳力が高いね。IQ180。しかもまだまだ覚醒の余地がある。そのうち私も抜かれそうだ。 花菜:賢そうな感じしますよね。南野くん。 澱:鼻につくけどな。 覚醒者:最後は西条胡桃。君は…… 胡桃:何よ。はっきり言ってくれる? 覚醒者:健康そのものだ。 胡桃:は? 覚醒者:君に特出した力は無い。でも安心してくれ。これから開花する可能性も少しはある。 胡桃:……別にいいわよ。私は普通の人間として生きていくんだから、余計な力なんて必要ない。 我夢:でもそれじゃあここから生きて出られない。 胡桃:……何言ってんのよあんた。 覚醒者:本当に察しがいいね。 花菜:どういう意味ですか? 我夢:研究所にいた時のシステムがそのままなら、俺たちはきっと4人1組で研究者の出したゲームをクリアしなければならない。ここだと覚醒者がその役目だろう。脳と体に負荷を与えるプロセスだ。 覚醒者:ご名答。南野くんの言った通り、君たちはこれからチームだ。僕のゲームに参加してもらうよ。 澱:おい。ちょっと待てよ。そのゲームのことは俺もよく覚えてる。忌々しい時間だったからな。あれはお前らの暇つぶしの1部だったろうが。 覚醒者:私をあんな脳無し共と同じにしないでもらいたい。君たちにぴったり合ったステージを用意してるよ。 澱:ぴったりだあ?1人明確に脳力の無い奴がいるじゃねーか。 胡桃:は?なら置いて行けば?私は別の出方を探すから。 覚醒者:残念だけど、それは出来ないよ。4人揃ってクリアするか、全員まとめて死んでもらうかしか結末は用意して無いんだ。 澱:……糞が。 花菜:……どんなゲームなんですか? 覚醒者:それはステージを移動してからのお楽しみだよ。早速移動するかい? 我夢:その前にみんなで自己紹介をしたい。名前はさっきのでわかったけど情報は少しでも多い方が良い。 覚醒者:いいよ。なるべく早くね。 我夢:俺は南野我夢。極普通のサラリーマンをしてる。昨日は帰宅していた途中から記憶が無い。 花菜:東山花菜です。漫画家のアシスタントをしてます。昨日はずっと自宅にいました。 胡桃:……西条胡桃。居酒屋で働いてる。私も帰宅途中から記憶が無いわ。 我夢:……あとは澱。君だけだ。 澱:気安く名前を呼ぶな。 我夢:我慢しろ。俺のことも我夢と呼んでくれて構わない。 澱:ちっ……北里澱だ。コンビニ勤務。仮眠から目覚めたらここにいた。これで満足か? 我夢:ああ。ありがとう。 覚醒者:終わったかな?それじゃあみんな後ろの扉に入ってくれ。 0:全員が背後を見るといつの間にか扉が現れていた。恐る恐る全員進む。 花菜:さっきの部屋より広いですね…… 胡桃:相変わらず何にもない部屋ね。気が狂いそう。 澱:っ! 0:入ってきた扉が閉まって消えた。 覚醒者:ようこそ第一の間へ。 澱:何が第一の間だ。んで?俺らは何をすれば良いんだよ。 覚醒者:君は本当にせっかちだね。ではお望み通り簡潔に説明してあげようじゃないか。ここを出て次の部屋に辿り着けたらクリアだよ。 花菜:ここを出るんですか? 胡桃:それが出来たらもう家に帰ってるわよ。 覚醒者:生憎、この部屋には外に出る通路は無いんだ。ごめんね?次の部屋に繋がる扉だけはあるよ。 我夢:隠し扉か。 覚醒者:そうそう。さっきの部屋にもあっただろう? 0:我夢、壁に触れる。 我夢:なるほど。そういう仕組みか。 胡桃:何か分かったの? 我夢:扉が消えたり現れたりする理由がわかった。 澱:もったいぶらずに早く教えろよ。 我夢:単純な事だ。隙間なく綺麗にはめこむと人の目には1つの物体に見える。不思議な鉄のキューブで似たようなの見たことないか? 花菜:マジックメタルキューブですね。マジシャンが使ったりします。 胡桃:へえ。詳しいのね。 花菜:マジシャンが主人公の「あなたのハートはジャックが奪う」って少女漫画があるんです。その主人公のジョウって男の子がカッコイイんですよ!この間、新刊が出たんですけどヒロインに正体がバレちゃいましてね!それで―― 胡桃:ちょっ!今度聞くから少し落ち着きなさいよ! 花菜:ああ!すみません!私、好きな物の話をし出すと止まらなくなっちゃうんです!ごめんなさい! 澱:変な奴ばっかりだな。 我夢:……まあとりあえず手分けして探すしかないな。時間制限とかはあるのか? 覚醒者:うーん。最初だし無制限にしてあげるよ。それに私は優しいから第一の間をクリア出来たら好きな物を食べさせてあげちゃうぞ。さあそれぞれ好物を教えて。 澱:いくつ言えばいいんだ? 覚醒者:強欲だね。仕方ないな。2つまで許してあげるよ。 澱:2つかよ。じゃあ酒、肉。 花菜:私はオレンジジュースとクロワッサンがいいです。 胡桃:水と鶏ササミで。ダイエット中なの。 澱:こんな時に何の意味があるのかねぇ。 胡桃:何? 澱:別に。 我夢:俺は完熟したバナナと煙草が欲しい。銘柄はクロスアグレウスの8mmで頼む。 覚醒者:随分と用心深い注文をするね。 我夢:食えない物や嫌いな物を渡されても困るからな。 澱:っ!それじゃあ―― 覚醒者:大丈夫だよ。ちゃんと加熱しないといけない物はするし、食器も用意するから。 我夢:そうしてくれ。 覚醒者:はいはい。では、みんな餓死する前に抜け出してね。ヒントとかはあげないつもりだから期待しないように。じゃあまたー。 0:プツンと声が途絶える。 澱:よし。俄然やる気が出てきたわ。 胡桃:とは言っても、何からやればいいのよ。 我夢:花菜。君の視力なら何か見えたりしないか? 花菜:え!?私ですか!? 澱:そうじゃん。お前、目良いんだろ? 花菜:そうですけど…… 胡桃:今は何の手がかりも無いの。1度試してみてくれない? 花菜:わ、わかりました。やってみます。 0:花菜は部屋の壁をゆっくり凝視しながら一周する。 我夢:どうだ?何か見えたか? 花菜:……ごめんなさい。全然分かりません。 澱:あーもうマジかよ。お前も役立たずか。 花菜:ごめんなさい…… 胡桃:っ…… 我夢:そう言う言い方はやめろ。今俺たちはチームだ。助け合わないと。 澱:何なんだよお前。リーダー気取ってんのか? 我夢:そんなもんに興味ねえよ。お前がリーダーやるか? 澱:いらねーよ。……悪かった。八つ当たりだ。 花菜:いえ……大丈夫です。 胡桃:ちゃんと謝れるのね。 澱:うるせぇ。お前も何か考えろよ。 胡桃:うーん。じゃあこれはどうかな。壁を叩きながら違和感を探す。 澱:結局それかよ。 胡桃:あんたも思い付いてたの? 花菜:私もそう思ってました…… 我夢:今はそれしか無さそうだな。 0:各々、四方に別れ壁を叩き音を聞く。 0:暫くノックする音。 澱:あー!うるせぇな!こっちの音が聞こえねえよ! 胡桃:そんなのお互い様でしょ?早く手を動かしなさいよ。我夢を見習って。 花菜:……どうしたんですか?南野くん。怖い顔してますよ…… 我夢:ん?ああごめん。少しね。澱、もう少しだけ我慢して続けてくれないか? 澱:どうせそれしか無いんだろ?やるしかねーじゃねーか。 0:また少しノックする音。 我夢:……困ったな。 花菜:何かありましたか? 我夢:ああ。俺の叩いてる壁。俺たちが出てきた壁なんだよ。 澱:知ってるよ。お前が率先して選んだんじゃねーか。 胡桃:……もしかして。 我夢:音の違いがない。 澱:そっちの壁がハズレってだけじゃねーのか? 花菜:いえ……どの壁も同じです。多分。 澱:は? 我夢:少なくともこの壁には1つ扉があるんだよ。 胡桃:それで音がしないってことは…… 花菜:叩いても隠し扉は見つからない…… 我夢:そういう事だ。振り出しだな。 澱:ちっ!糞が!! 0:4人は部屋の中央に集まり話し合う。 澱:で、どうすんだよ。このままじゃ本当に餓死するぞ! 胡桃:落ち着きなさいよ。余計にカロリーを消費するわよ。 我夢:…… 花菜:私が……もっと役にたててれば。 胡桃:あんたのせいじゃないわよ。私なんて1番何も出来ないから…… 澱:っ! 胡桃:ちょっとあんた!何するつもり!? 澱:おらぁ!! 0:澱は壁を殴り始めた。 胡桃:な、何してんのよ! 澱:俺の脳力はきっと身体能力系だ。この部屋が俺のためのステージなら、殴り続けることで覚醒するかも知れないだろ。ふん!! 花菜:北里くん!やめてください!血が出てます! 澱:他に出来る事がねーだろ! 花菜:……それは。 澱:だあ!!っ!ほら!見てみろ少しへこんだぞ。この調子なら…… 花菜:そっちには通路がありません。途方もないですよ…… 我夢:っ!?見えてるのか? 花菜:え? 我夢:俺達が出てきた扉はどっちだ? 花菜:え、あっちです……あれ。私、見えてる……見えてます!扉の先まで! 胡桃:それって透視ってこと? 我夢:きっとそうだ。他の扉は見えないか? 花菜:見てみます! 胡桃:……どう? 花菜:……ありません。どこにも扉がありません…… 我夢:くっ…… 澱:何だよ……結局、俺らはアイツの暇つぶしに付き合わされただけかよ! 花菜:ごめんなさい……私はやっぱり何の役にも…… 0:花菜は泣き出し、下を向く。 我夢:花菜はよくやってくれたよ。これから―― 花菜:ありました…… 澱:っ!何があった! 花菜:部屋です!この部屋の下に! 我夢:床か!盲点だった…… 胡桃:扉はどこなの? 花菜:扉はありません。でも西条さんの足元の床半径1m、円状にはっきり見えます! 我夢:澱。頼めるか? 澱:ああ。いくらでもやってやる! 胡桃:拳は大丈夫なの? 澱:大丈夫だ。骨は折れてねえ。少し離れてろ。 胡桃:わかった! 澱:おらぁ!っ!はははっ!感触が違う!これなら、割れる! 0:澱が何度か拳を打ち込むと床が軋みひび割れる。 澱:割れろ!おらぁ!!うおっ!! 0:床と一緒に澱が落ちる。 我夢:澱!大丈夫か! 澱:問題ねーよ!そんなに深くねーからお前らも来いよ。 我夢:ああ!ふっ! 花菜:よし……えい! 胡桃:…… 澱:どうした?お前も来いよ。 胡桃:私は…… 澱:安心しろ。受け止めてやっから。 胡桃:……わかった。約束よ!っ! 澱:よいしょっと!軽いな。ダイエットいらねーだろ。 胡桃:なっ……いいから!早く降ろして! 澱:暴れるなって!ほら。 胡桃:……ありがとう。 澱:ん?何だって―― 覚醒者:おめでとうみんな!流石だねえ。思ったより早かったよ。 澱:見たかよ。糞野郎! 覚醒者:うん。ちゃんと見てたよ。しっかり力を合わせてクリア出来たね。素晴らしい!それから東山さん。覚醒おめでとう。どうだい見え方は。 花菜:特に変わった様子は…… 覚醒者:じゃあ北里くんを「見よう」として見てごらん? 花菜:え、はい。……っ!北里くん!何で脱いでるんですか!? 澱:はあ?何言ってんだ? 覚醒者:あははははは!そりゃ見ようとしたら服なんて透けちゃうよねー!あはははは! 我夢:悪趣味な…… 胡桃:最低ね。 花菜:うう…… 胡桃:可哀想に。おいで。 花菜:西条さーん…… 覚醒者:ごめんごめん。ついね。 澱:おい。クリアしたんだから肉と酒をよこせよ。 覚醒者:そうだったね。ほら右手の扉、開けてご覧。そのハンドルを回せば君達の望んだ物があるよ。 澱:これか?よいしょっと。随分重いな。っと!開いたぜ。 覚醒者:やっぱり君もか。北里くん。 澱:は? 覚醒者:そのハンドルをひねるのに必要な力は2トン。それを軽々開けてみせた君も覚醒したという訳だ。だけど君の力は気を付けなきゃいけないよ? 澱:何でだよ。 我夢:頭に血が上って、俺の顔でも殴ったら首が飛んでいくことになるからだ。 覚醒者:そういうこと。まあ元々強い力を隠しながら生きてきた経験がここで活きるかもね。さあ、お腹も空いているだろう?早く食べるといい。特別にテーブルと椅子も用意したから、ゆったり食事を楽しむといい。 我夢:これも時間制限はないのか? 覚醒者:私もこの部屋を片付ける必要があるからね。1時間くらいしたらまたここに来てくれ。 我夢:わかった。 覚醒者:しっかり食べるんだよ南野くん。いざと言う時にカロリーが切れたらまた、盲点が増えるよ? 我夢:……余計なお世話だ。 覚醒者:ではみんな、また後で。 0:声がやみ、4人は沢山の食料が積まれたテーブルへと向かう。 花菜:うわぁぁぁすごいです! 澱:でっけえテーブルだなあ……食料もなんだこれ何十人前だあ? 我夢:脳力を使えば膨大なカロリーを消費するんだろう。覚醒者の心遣いってやつかもな。 胡桃:それにしては少し意地悪じゃない?ライターが無いわよ。せっかく煙草貰ったのに。 我夢:まあ何とかなる。煙苦手な奴いるか? 胡桃:私は大丈夫よ。客の副流煙で慣れたわ。 花菜:うちの作業場も喫煙者多いので大丈夫ですよ。 澱:俺も平気だ。でもどうやって吸うんだ? 我夢:まあ見てて。 0:我夢はテーブルのナイフと煙草を持って壁へと進む。そしてナイフと壁を擦り合わせた火花で上手く煙草に火をつけた。 我夢:……ふー。火打石の応用だ。 花菜:その壁、燃えるんですか? 我夢:いや、燃えてるのはナイフの方だよ。鋼に固いものをぶつけると鉄粉が舞うんだ。その衝撃で急速に酸化した鉄は―― 澱:この肉うっめえ!いくらでも食えそうだ! 胡桃:興味無さそうね。 我夢:そうだな。まあとりあえず火は心配ないよ。さ、俺達も食べよう。 胡桃:ええ。 花菜:はい!お腹ペコペコです!んー!このクロワッサン、すっごく美味しいです!南野くんも西条さんもいかがですか? 胡桃:私は…… 澱:貰っとけよ。次いつ食えるかわかんねーし。今はダイエットとか言ってる場合じゃないだろ。東山、俺にも1つくれ。肉いるか? 花菜:はい!じゃあ……1枚頂きます! 胡桃:…… 我夢:胡桃。今回は澱の言う通りだ。貰っといた方がいい。 胡桃:そうじゃなくて―― 我夢:君は役に立ってる。負い目を感じる事は無い。 澱:何だあ?そんな事気にしてたのか? 胡桃:……あんたが言ったんじゃない。役立たずって。 澱:あー……確かに。悪かった。 胡桃:あ、ごめんなさい。今のはそう言う意味じゃ…… 澱:俺だって全然役に立てなかった。 胡桃:な、何言ってんのよ。あんたが、澱が床を割ってくれた。それに私を受け止めてくれたからクリア出来たんじゃない。 澱:東山が居なかったらそこまで辿り着けなかった。 花菜:私も1人じゃ何も出来ませんでした。南野くんが任せてくれて、西条さんが励ましてくれたから頑張れたんです。 我夢:俺だってそうだ。みんなが助けてくれたからここにいる。俺たちはチームだ。 胡桃:みんな…… 澱:ほら、だから食えよ。俺の肉も食うか? 花菜:私のクロワッサンも!あ、オレンジジュースもどうぞ! 我夢:バナナは栄養豊富だぞ。 胡桃:……ありがとう。頂くわ! 澱:よし!……にしても野菜がねーな。 花菜:そうですね……こんなことなら私が頼んでおくべきでした。 胡桃:まあ1人、食材じゃないもの貰ってるしね。 我夢:……それはごめん。 澱:ふっ!はははは!いーよ別に。あん時はみんな自分の事しか考えてなかったし。 胡桃:本当、そうね。ふふふ。 花菜:そうですね。私も自分の好きな物だけお願いしちゃいました。ふふ。 我夢:よくよく考えたらバナナだけはキツいな。 0:全員笑い合う。 花菜:私、こんなに笑ったの久しぶりです。それこそ研究所から逃げ出した日以来くらい。 澱:確かにな。似た境遇の奴なんてお前らくらいしかいないし、なんか気楽だわ。 胡桃:そうね。覚醒者が言ってた家族ってこんな感じなのかな。 我夢:外に出たらまた皆でご飯でも行こう。 胡桃:良いわね!でも今度は野菜も頼んでよ? 我夢:……約束するよ。みんな笑いすぎだ。 胡桃:ごめんなさい。つい。 我夢:まあとにかく。俺たちの未来のために頑張ろう。 澱:ああ! 胡桃:ええ! 花菜:はい! 0:4人は結束を固め、楽しい食事となった。 覚醒者:彼らなら……きっと彼らなら終わらせれる。君たちが最後の希望だ。頼むよ。みんな…… 0:1時間が過ぎ、4人が部屋から出ると扉が締まり消えた。 澱:よっし!ここもさっさとクリアして早く外に出ようぜ! 花菜:賛成です!頑張りましょう! 覚醒者:随分やる気みたいだね。何よりだけど。 我夢:次のルールを教えてくれ。 覚醒者:もちろん。ようこそ!第二の間へ。今回は次の扉の場所を教えてあげよう。右手側を見てごらん。 0:壁から扉が浮き出し開く。 胡桃:え?最初から開いてるじゃない。 覚醒者:北里くん。その部屋の中に入ってみてごらん。 澱:何か罠とかねーだろうな…… 花菜:見てみましたけど、上下に広い空間があるのが見えます。 澱:おい、それって落とし穴とかじゃ―― 覚醒者:違うよ。入って見ればわかるから。 澱:……あー、なるほどな。 我夢:中に何かあるか? 澱:こいつはエレベーターだ。 胡桃:それで外に出れるってこと? 覚醒者:それは違うよ。次のステージがかなり地下でね。それで向かうしかないんだ。時間制限も特に無いからゆっくり待ってるよ。他に何か質問はあるかい? 胡桃:ステージは残りいくつあるの? 覚醒者:やっぱり終わりが見えないと不安かあ。全部で4つ。ここをクリアしたら残り2つだよ。 澱:おいボタン押せねーぞ! 覚醒者:当たり前でしょ。そんな楽なステージに意味無いじゃん。どうにかそれを動かして次のステージに来てね。僕はそこで待ってるよ。じゃあまた。 胡桃:……何かアイツ焦ってなかった? 澱:思ったより俺らが早くクリアしてるからじゃね?さっきも言ってたしよ。 胡桃:そう……なのかな。 我夢:まあとりあえずはこのエレベーターをどう動かすか。だな。花菜、何か見えるか? 花菜:そうですね……いくつかの配線と……あれは何でしょう。えっと…… 胡桃:どんな形? 花菜:四角い……あ、長方形の箱みたいな……っ! 胡桃:どうしたの!?大丈夫!? 花菜:だ、大丈夫です。ちょっと頭痛がしただけで…… 我夢:脳力を使えばもちろん脳に負荷がかかる。慣れればマシになるはずだ。少し休め。 花菜:はい……ありがとうございます。 澱:とりあえずどうするよ。 我夢:エレベーターの中を探してみよう。何か見つかるかもしれない。 胡桃:……ダメね。何も無いわ。また壁でも叩く? 澱:それは勘弁してくれ。もうあれはやりたくねーよ。 我夢:八方塞がりか…… 花菜:もう少し待ってもらえばまた見れると思いますので…… 我夢:ゆっくりで良いからな。俺達も少し休もう。食事したばかりだし。 0:4人、床に座る。 澱:なあ。研究所での事ってどれくらい覚えてる? 胡桃:思い出したくないけど嫌ってくらい覚えてるわ。 花菜:私もです。毎日朝が怖くてたまりませんでした…… 我夢:今でもたまに夢に見る。所長の顔とかな。 澱:……アイツ。マジで嫌いだったわ。俺らの事を物以下としか見てねー感じとかな。 胡桃:中川ね……もう2度と会いたくないわ。 花菜:でもあの事故で死んだんじゃ…… 我夢:どうだろうな。逃げるのに必死で、そこまで確認出来なかったから。 澱:もし生きてたら5年も野放しにはなってねーよ。 胡桃:それもそうね。 澱:あ。あと定期テストみたいなやつ糞ほど嫌いだったわ。 花菜:わかります!何ですかあのよく分からない問題!大体、私たちは研究所の外のことなんて分からないに決まってるんですよ!出たことないんですし!なのに、名所がどうとか県庁所在地がどうとか何のために覚えるって言うんですか!しかもですよ!?出てから役に立つのかなって思い返しましたけど、一切!役に立たなかったんです!あれは許せません! 胡桃:アンタ……嫌いなものに対しても凄い喋るわね。 花菜:あ。ごめんなさい。つい。 我夢:もう頭痛は大丈夫なのか? 花菜:あっかなり良くなりました。もう脳力を使っても平気だと思います。 澱:そうか!やっと始めれるな。 花菜:みなさんにも見てもらえたらもっと簡単なんですけどね。 胡桃:っ!今、一瞬透けなかった? 花菜:え!? 我夢:花菜!もう1度、「見せよう」としてみてくれ! 花菜:あ、はい! 澱:うお!床が消えた! 我夢:恐らく長くは持たない。みんなよく見るんだ。 澱:わかった! 胡桃:ええ! 花菜:うぅ……もう限界みたいです…… 我夢:ありがとう。充分だ。 澱:マジかよ。さっき東山が言ってたことくらいしか見えなかったぞ。 胡桃:私も……あの箱みたいなの何なんだろ。 我夢:バッテリーだ。配線は2本。このエレベーターを動かすためだけにあるみたいだ。 澱:ん?配線みたいなのもっといっぱい無かったか? 胡桃:そうよね。何か箱の周りにこうグルグルって。 我夢:ボタンの下は恐らく鉄だ。透け方が違った。澱、開けれるか? 澱:鉄くらいなら……よっと。あれ、こんな柔らかかったっけ? 我夢:脳力の成長によるものだろう。ともかくありがとう。やっぱりコイツだったか。 花菜:針金……銅線ですかね? 胡桃:えらく長いわね。 我夢:……やっぱりそういうことか。 澱:1人で納得するなよ。教えてくれ。 我夢:今から電気を起こす。 花菜:電気って起こせるんですか? 我夢:ああ。澱、何回も悪いけどエレベーターの天板を外してくれ。 澱:お、おう。……本当に外れた。意外に軽いな。 胡桃:きっと澱だけよ。持ち上げられるの。 0:我夢はポケットからナイフを取り出し、天板に近づける。するとナイフが張り付いた。 胡桃:……磁石? 花菜:こんな大きな磁石あるんですね。何に使うんです? 我夢:これで電気が作れる。 胡桃:じゃあもうクリアが近いのね! 澱:……にしては、暗い顔してんな。 我夢:澱と胡桃に負担をかけることになる。ここにあるもので電気を生み出すには、磁石を両端に配置して、その間をコイルが回転することで可能なんだ。 胡桃:私達が磁石を持って、澱がコイル役って言うことね。 澱:それのどこが負担なんだ? 我夢:どこって……胡桃は銅線を通じて配線に電気を送らないと行けない。言ってみれば感電するのと同じだ。澱だってかなりの時間走り続けなきゃいけないんだ。 澱:知ってるよ。それが俺の仕事だろ。 胡桃:私もわかってるわよ。それに我夢だって同じじゃない。何も出来なくて見てるだけの方が苦痛よ。 我夢:2人とも……最高だな。お前らとチームで良かったよ。 花菜:私も何かやりたいです! 胡桃:花菜。あんたはもうやってくれたわよ。それに脳力を酷使した後に電気を浴びるのは危険よ。そうよね? 我夢:きっとな。今回は俺たちを応援してくれ。 花菜:……わかりました!精一杯応援します! 澱:よし!それじゃあやるか!とりあえずこの磁石、2つに割ればいいのか? 我夢:ああ。頼む。 0:我夢と胡桃は対の壁に立ち、磁石を抱え片手に銅線を持つ。澱は体に銅線を巻き付け部屋の中心へ。 花菜:……銅線繋げられました! 我夢:よし。澱頼む。 澱:おっけー!最初からフルスロットルで行くぜ!! 我夢:く…… 胡桃:う…… 0:澱は目にも止まらない速度で円状に走る。次第に我夢と胡桃を電流が襲う。 胡桃:つぅっ!! 花菜:西条さん!手が! 胡桃:大丈夫よ!火傷くらい全然平気だから! 我夢:バッテリーの容量的にあと少しだ!花菜、エレベーターを見ててくれ! 花菜:っ!はい!みなさん!頑張ってください!! 澱:うおおおあああああ!! 我夢:ぐぅ! 胡桃:あぁ! 花菜:っ!!みなさん!エレベーターが動き出しました!! 澱:よっしゃ!おわっ!! 我夢:澱! 澱:ははっ……急に止まったら吹っ飛んじまった。 胡桃:慣性の法則ってやつよ。ゆっくり止まらなきゃね。 我夢:胡桃、大丈夫か?その手。 胡桃:我夢も同じでしょ。大丈夫よ。ほら早く行きましょ。 我夢:そうだな。ほら、澱。 澱:お。助かるわ。ちょっと足がガクついててよ。 0:澱は我夢の手を取り、肩を借りながらエレベーターに乗り込む。4人が入ると自動的に動き出し、第三の間への扉を開けた。 覚醒者:やあみんな待ってたよ。想定より遥かに早かったけど。 澱:また焦らせて悪いな。 覚醒者:何のことやら。だが私もちゃんと用意していたよ。この第三の間を。早速説明をしても構わないかな? 胡桃:今回は報酬は無しなのね。 覚醒者:まあね。なんたって今回は時間制限がある。 花菜:何時間なんですか? 覚醒者:30分だ。30分で脱出してくれ。 澱:はあ!?おいおい、焦ってるにしてもやりすぎだろーが! 覚醒者:私は焦ってなどいない。誰よりも君たちの成長を望みそして喜んでいる。きっと君たちなら、この地獄を終わらせれるんだ。 胡桃:あんたが用意した地獄でしょう!? 覚醒者:全てが終わった時に教えよう。南野くん。 我夢:……何だ。 覚醒者:やはり君はここに来る前から目覚めていたね。さらに成長してくれて何よりだよ。 我夢:そうか。 覚醒者:期待している。頑張ってくれ。 0:覚醒者の声が消えた。 澱:くそ!どこまでも勝手な奴だ! 花菜:とりあえず私、見てみます! 胡桃:にしても今までと比べてかなり小さな部屋ね。 澱:それに何だ?床が穴だらけだ。通気口か? 花菜:……そんな……嘘…… 澱:ど、どうしたんだよ。 花菜:何も無いです…… 胡桃:嘘よ。何かあったんでしょ? 花菜:違うんです……この部屋の周りに何も無いんです!!通路も!部屋も!それに…… 胡桃:……それに? 花菜:床下にマグマがあります。しかも徐々に上がって来てるんです…… 我夢:どのくらいのスピードだ? 花菜:見せてみます! 澱:っ……時間制限ってそういう意味かよ…… 胡桃:かなり早いわね……どうする?我夢……我夢? 0:我夢は壁の方へ歩きナイフと煙草を取り出し火を着ける。 澱:おい……まさか諦めたのか? 我夢:少しだけ話をしないか? 胡桃:……わかったわ。 澱:お前もかよ!最後の最後にそれはねーだろ! 花菜:落ち着いて下さい!きっと何かあるんです。南野くんがいなかったら、私たちはここにたどり着くまでに終わってたかもしれません。私は南野くんを信じます。 澱:っ……あーもう。わかったよ。 我夢:みんなありがとう。……ここを出たら一緒に食事でもしようって言ってたよな。他に何がしたい? 花菜:……私はやっぱり漫画が読みたいです。楽しみにしてる新刊がまだまだあるので、それにさっき言ってた「ハー奪」のアニメ化も楽しみです! 我夢:そうか。そこまで言うなら俺も気になってきたよ。胡桃は? 胡桃:私は……もうすぐ社員登用試験があるの。それでゆくゆくは自分の店を持ちたいって思ってる。それが私のやりたいこと。 我夢:胡桃ならきっとできるよ。他人を思いやる姿勢は天性の物だ。その店にも行ってみたい。澱はどうだ? 澱:俺は何でもいい。ただ毎日生きていれりゃ何だって。でもまあこんなに力があるんだ。被災地のボランティアに少し興味がある。 我夢:お前は不器用だ。理解されるまで少し時間はかかるかもしれないけど、みんな絶対わかってくれる。誰よりも優しい人間だってな。 胡桃:ちょっと……我夢。 我夢:お前たちの脳力は強力だ。使い方を間違えれば、想像もできないような事件に繋がる。きっとみんなわかってるとは思うけどな。俺はお前たちを信じてる。 花菜:南野くん…… 我夢:俺はここに残る。 澱:おい! 我夢:今回のクリア条件は脱出だ。エレベーターの下降時間と速度を考えれば、第二の間までの距離は約30m。花菜と胡桃を澱が抱えて登れるギリギリの距離だ。 澱:何言ってんだ! 我夢:それしか無いんだよ!何万回も考えたさ!これが最善策だ…… 胡桃:上から磁石を持ってきたらどう!?さっきと同じようにエレベーターを動かせれば―― 我夢:この部屋の広さじゃ澱は走れない。 澱:俺が往復すればいいんだろ?それなら―― 我夢:マグマの上昇速度を計算した。あと3分で床の穴から吹き出す。澱が上に着く頃にはエレベータ―全てが燃え尽きる。少し話しすぎたかな。 花菜:初めからそのつもりで…… 胡桃:まだあと1つ残ってるのよ!?あんたが必要なの! 花菜:そうです!南野くんがいないと…… 我夢:俺はただみんなより考えるのが早いだけだ。 胡桃:それにどれだけ救われたと思ってるの!? 我夢:なら今回も俺に従ってくれ。 澱:馬鹿野郎!……俺じゃ……我夢、お前を……殴れねーんだよ…… 我夢:ああ。ごめんな…… 花菜:もうそこまで上がってきてます…… 我夢:澱、急いでくれ。このままだと4人とも死んでしまう。 澱:……わかった。 胡桃:ダメよ…… 澱:だったらどうする―― 胡桃:私が!私が死なせない……誰も失わせたりしない!! 花菜:西条さん……目が…… 澱:っ!!我夢と東山の体が浮いて…… 我夢:サイコキネシスか! 胡桃:澱!私を抱えて登って!今は2人を浮かすので精一杯。でも、絶対離したりしない! 澱:っ!任せろ!俺も絶対落とさねーからよ! 胡桃:信じてるわよ。 澱:行くぞ! 0:澱は胡桃を肩に抱え、エレベーターの上に乗り壁を昇る。 澱:意外と遠いなあ! 花菜:エレベーターの中にマグマが入ってきてます! 胡桃:大丈夫よ!澱は絶対落ちないから。 澱:おう、任せとけ!!お前も頼むぞ! 胡桃:ええ!信じなさい! 我夢:ああ。信じてるよ2人とも。……ありがとう。 0:やっとの思いで4人は第二の間へ戻った。 澱:はあはあ……あー疲れた。 胡桃:私も……もう限界…… 花菜:2人とも凄いです!ありがとうございました! 我夢:ごめん……2人とも。 澱:おい……我夢。 花菜:北里くん…… 0:我夢に近寄る澱。 澱:この馬鹿野郎! 我夢:っ!……ごほっ…… 胡桃:ちょっと! 澱:今は手が痺れてるからよ。全然力が出ねぇ。 我夢:それでもヘビー級だよ…… 澱:これで許してやるんだから感謝して欲しいくらいだ。 我夢:ああ。ありがとう。 澱:どういたしまして! 花菜:西条さん……私、何かドキドキしてきました。 胡桃:花菜……それは開けてはいけない扉よ。戻ってきなさい。 覚醒者:みんなおめでとう。 胡桃:また急な登場ね。 覚醒者:一応、空気は読んだつもりだよ。西条さん。おめでとう。強力な脳力を手に入れたようだね。 我夢:お前、まさかここまで読んでいたのか? 覚醒者:私は君ほど頭が良くないんだ。読んでいたんじゃない。時間をかけて計画を立てていただけだ。 我夢:お前、一体何者だ? 覚醒者:それは最後のステージが終わった後に。 澱:じゃあさっさと教えてくれよ。言っとくが、今の俺らは無敵だぜ? 覚醒者:この中に1人嘘つきがいる。それを見つけ出してくれ。時間制限は……5分だ。 澱:おいおいマジかよ。 胡桃:驚きね。 花菜:ここに来てそれですか。 我夢:同感だ。 覚醒者:短すぎたかな? 我夢:逆だ。 澱:俺らを舐めすぎだ。覚醒者さんよ。 胡桃:今すぐ答えを出せるわ。 覚醒者:……聞かせてもらおうじゃないか。 我夢:……お前の事だろ?覚醒者。 胡桃:この中に……ってことはもちろんアンタも含まれてるわよね? 澱:最後に信じる心でも試したかったのか? 花菜:私たちがお互いを疑うことは有り得ません。私たちは家族ですから。それに、私は南野くんみたいに賢くないですし、どちらかと言うと馬鹿ですけど、透けてますよ。あなたと言う人間が。 覚醒者:……ふふ。はははははは。最高だ!君たちは最高だよ! 我夢:さあ、教えてもらおうか。お前の正体。そして、本当の目的を。 覚醒者:その前に私……いや、僕もそっちにいくよ。 0:4人が登ってきた場所に上から新たなエレベーターが降りてくる。そして扉が開き、電動車椅子の青年が出てきた。 覚醒者:初めましてみんな。僕が覚醒者だ。 胡桃:思ったより若いのね。 花菜:そうですね。私達と変わらないくらい。 澱:……お前の顔、どっかで見たことあるぞ。 覚醒者:僕の名前は中川紫苑。君たちがいた研究所の所長の息子だ。 澱:なっ!?お前……アイツの…… 我夢:澱!落ち着け!今は聞くんだ。 澱:……わかった。 胡桃:で、所長のご子息が私たちに今さら何の用よ。 覚醒者:君たちが成人するのを待ってたんだ。君たちを逃がしたあの日からずっと。 花菜:え!?あの爆発事故は……あなたが? 覚醒者:そうだよ。5年前、僕は脳力に目覚めた。テレキネシス系のね。君たちと念話したり、電子機器を意のままに操れる。それはこの脳力のおかげだ。 我夢:なるほどな。 覚醒者:僕はずっと疑問を持っていた。脳力を目覚めさせる意味について。君たちも外で日常を送って気付いただろ?こんな力は必要ないと。 澱:まあな。普通に生きるには邪魔なだけだ。 覚醒者:父は君たちを戦争の道具にしようとしていた。もちろん僕のことも。だから僕は……父を殺し、研究所を爆破した。君たちのいるエリアは避けてね。 覚醒者:我ながら上手くいったと思う。誤算だったのは、未熟な脳で強い脳力を使った代償に身体機能が麻痺したことだ。あの日から僕の手足は動かない。 花菜:私たちのために…… 覚醒者:自分のためでもある。後悔はしていない。この体でも君たちのサポートは出来たしね。成人するまでに行き倒れられたら全て台無しになる。 胡桃:それで、無事成人した私たちをまた集めたってわけ? 覚醒者:そうだよ。 花菜:でもどうして私たちなんですか?他にもたくさん生き延びた人がいたのに。 覚醒者:君たちを測定した時の事、覚えてるかい?この世の中は光に溢れている。テレビや信号機、それを通して逃亡者たちを測定した結果、1番いいチームを選んだつもりだ。 我夢:それで俺たちに何をさせるつもりなんだ? 覚醒者:君たちの親を殺してもらいたい。 澱:親だあ?俺たちはブレーンズを生み出すために作られた人間だろ? 覚醒者:0から人間を作ることは出来ない。僕達はクローンだ。僕は父、中川陽向のクローン。君たちにもオリジナルがいる。そして彼らはこの日本でまだ研究を続けているんだ。僕はそれを壊したい。 胡桃:私たちの…… 花菜:オリジナル…… 覚醒者:君たちのような悲しい過去を持つ人間を作っちゃダメなんだよ。どうか力を貸してくれ。頼む。 我夢:わかった。協力する。 澱:おい我夢!本気かよ…… 我夢:確かにこいつには散々な目に合わされた。でも俺には大事な家族に出会えた恩がある。 胡桃:確かにね。でも仕事の合間によ。私は夢も諦めたくないんだから。 花菜:私も手伝います。1人でも泣いてる子供が減るんだったら。 澱:あーわかったよ!やればいいんだろ!お前のことは嫌いだけど、子供たちに罪は無いからな! 覚醒者:みんな……ありがとう。やっぱり最高のチーム……最高の家族だ。 0:時は流れ、神奈川県某所にて。 覚醒者:みんな、僕の声は聞こえる? 澱:聞こえてるよ!急に話しかけんな! 胡桃:ちょっと澱!あんたの声の方が大きいわよ! 花菜:胡桃さんも澱くんに負けてませんよ…… 澱:そうだよな花菜。もっと言ってやれ! 我夢:もうちょっと緊張感持ってくれよ。毎回これだと疲れる。 澱:わりーわりー。それより我夢。大丈夫なのか? 花菜:我夢くんのオリジナルですよね?今回の所長。 覚醒者:大丈夫でしょ。1回自分を殺そうとしたことあるし。 澱:(同時)お前のせいだろーが! 胡桃:(同時)あんたのせいでしょ! 花菜:(同時)あなたのせいじゃないですか! 覚醒者:ちょ!ごめんって!みんなして言わないでくれよ…… 我夢:はは。大丈夫だよ。紫苑。扉のロックや監視カメラは任せるぞ。 覚醒者:おっけー任せといて。 我夢:澱、警備員は見つけ次第、気絶させろ。手加減はしろよ。 澱:大丈夫だって!だいぶ慣れてきたからよ。 我夢:胡桃は子供達の避難を。 胡桃:了解!1人残らず持ち上げてあげる! 我夢:花菜は何か見えたらすぐ教えてくれ。 花菜:はい!私に見えないものはありませんから! 覚醒者:早く終わらそうね。「ハー奪」のアニメ見なきゃだから。 花菜:あー!ずるいです!私は録画なのに! 覚醒者:リモートワークの特権だよ。 胡桃:もう!いいから集中しなさい! 澱:よーし我夢。やるか! 我夢:ああ!みんな行くぞ! 我夢:父さん。今夜、俺たちがあなたの命、奪いにいきますよ。 0:fin...