台本概要
1077 views
タイトル | コンクリートに花が咲く。 |
---|---|
作者名 | 鵠衣ウリエラ (@Urielalala) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 4人用台本(不問4) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
25~30分です。 一人称変更、役の性別や声の性別、お好きにどうぞ。 ▽一人称を書き換えて共有するとき用 https://writening.net/page?aYu56a ******役表コピペするやつ****** 『コンクリートに花が咲く。』作:鵠衣ウリエラ https://taltal3014.lsv.jp/app/public/script/detail/2029 リンダ: マキ: ニコル: テラ: 1077 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
リンダ | 不問 | 102 | 私、林田。2年生。理屈っぽい。一人称おれとかでもいいよ。 |
マキ | 不問 | 61 | 僕、牧原。3年生。まだ部長。一人称私とかでもいいよ。 |
ニコル | 不問 | 56 | わたし、二子玉川。1年生。ふんわり系。一人称ぼくとかでもいいですよ。 |
テラ | 不問 | 55 | おれ、寺沢。2年生。自由人。一人称アタシとかでもいいよ。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
◇:●演劇部の部室
リンダ:部長!私、書けません!
マキ:書けなくてもなんでもいいから、書いてね。
リンダ:あれ?パワハラかな?日本語わかってます?
リンダ:英語ならわかるカモシカ?
リンダ:アイ!キャント!ライティ~ングッ!!
マキ:観念しな。わが部の伝統なの。
マキ:誰であろうと卒業までに一本は台本書く!
リンダ:パワハラに加えて思考停止の老害時代遅れ~
マキ:僕がいるうちに書かなきゃ、ずっと書かないよね?
マキ:君こそモラハラで正式にひっぱたくよ?
リンダ:ああー!聴きましたか*傍聴席《ぼうちょうせき》の皆さま!
リンダ:これはれっきとした脅迫ぅ……、
リンダ:あ……、怒った?
マキ:怒った。
リンダ:じゃあ、、、土下座のポーズっ。
マキ:謝罪の意は?
リンダ:カタチだけ。
マキ:〈あたまをひっぱたく〉
リンダ:あたっ!ほんとにぶったぁ!
マキ:つべこべ言わずに書いてみなさいって。
マキ:おもしろいかどうかは、終わってから考えるの。
リンダ:だからぁ!書けないんですって!
リンダ:マキ部長とはちがうんですっ!
リンダ:私には物語を考える根本的な何かが欠けてるんですーっ!
マキ:終わって、から!考えるっ!
マキ:日本語わかる?Do you understand?
リンダ:~~!!〈なにか叫ぼうとして、寸前で諦める〉
リンダ:はぁ......。 ムリですよ。考えなくても分かります。
マキ:よく言うよね。それ。「考えなくても分かります」
リンダ:何度も試したって言ったじゃないですか。…何度も。
リンダ:それでムリだったんだから、実際にムリなんです。
リンダ:すでに検証済みだから考えなくても分かるんですっ。
マキ:どうしてムリなの?
リンダ:あれ?いいんですか…?理由を*述《の》べて。
リンダ:部長いつも「あれこれ理由を並べ立てるな!」って。
マキ:聞くだけ聞いてあげようかなと思って。今日だけね。
リンダ:今日だけ?……めずらし。
マキ:それで?理由は?
リンダ:…シンプルに、中身がつまんないんですよ。
リンダ:設定は考えられても、
リンダ:セリフが説明文みたいで、生きた会話になってないし。
リンダ:設定だけあっても、
リンダ:物語の始め方も進め方も、終わらせ方も分からないし。
マキ:なら、書き上げたことはないんだ?
リンダ:私だって書き上げたいですよ。…できるんだったら。
リンダ:でも脳みそ鉄筋コンクリートの私には、
リンダ:ゼロイチの創作はできないんです。だからこそ、
リンダ:一本の物語を書き上げられる人にどれだけ憧れるか……。
マキ:ほんとは書きたい人ってことなんだね。リンダくんは。
リンダ:もし書けるなら…ってだけですよ。
マキ:「もし書けるなら」……ね。
リンダ:ほかの子たちは、*拙《つたな》くても、ムリやりにでも、
リンダ:なんとか書いてカタチにしてくるじゃないですか。
マキ:ムリにでも書かせてるからね。
リンダ:<早口で>
リンダ:それだって私からすれば「なんで???」って感じで、
リンダ:出来てみれば設定はありきたりでも、ちゃんと会話してて、
リンダ:オトシどころが弱くても、一応でも物語に終わりがあって、
リンダ:それで「なんでみんなできるの?」って
リンダ:「なんで私にはできないの?」って。
リンダ:
リンダ:マキ部長がまったく泳げないのと同じで、つまり私には、
リンダ:物語を考える根本的な何かが欠けてるってことなんです!
マキ:さりげなく人の弱点を晒さない。
リンダ:誰にだって
リンダ:「がんばっても出来ないこと」があるって意味ですよ…!
リンダ:それが、私には、「台本を書くこと」なんです……。
マキ:…なるほどね。
リンダ:それでも私に、台本書けって言うんですか……?
マキ:……
リンダ:……
マキ:話が長い。
リンダ:はぇ??
マキ:あれこれ理由を並べ立てるな。
リンダ:部長が聞いてきたんでしょうがーっ!
マキ:ちなみに君が並べた理由は、ぜんぶ。間違ってるよ。
リンダ:は…?ぜん、ぶ……?
◇:●扉が開いて、後輩が入ってくる
ニコル:あれー?!おつかれさまですー!マキ部長。リンダ先輩。
マキ:ああ、おつかれさま。
リンダ:おつかれー。にこるん。
ニコル:え、え?今日は顧問も副顧問もいないから部活お休みって
ニコル:言ってませんでしたっけ?わたしまちがえました??
マキ:いいや。お休みで合ってるよニコルくん。
マキ:リンダくんとおしゃべりしてただけ。
ニコル:えー!ずるいですよ!かくれてそんな楽しそうなこと!
ニコル:ていうかカギどうしたんですか?わたし借りてきたのにぃ。
マキ:顧問と一年は知らないけど、後ろの扉。カギが壊れてるんだよ。
ニコル:ほんとですか!?じゃあ今までも内緒で……って――
ニコル:……あの、リンダ先輩、、、?
リンダ:へ?なに…?
ニコル:元気なさそうですけど、だいじょうぶですか…?
マキ:……。
リンダ:ぁ、いや、ぜんっぜん?いつも通りよ?たった今、
リンダ:人間の可能と不可能について部長とアツ~く語ってたから、
リンダ:それで、*険《けわ》しい顔してたんじゃない?
ニコル:あはは。なんだぁ。
ニコル:またむずかしいお話で盛り上がってたんですねー。
リンダ:そうそう。むずかしいお話。
ニコル:いいなぁ~。
リンダ:ん?なんでー?
ニコル:なんとなぁく、いいなぁ~って思いました。
ニコル:リンダ先輩と部長が演出の話とかしてるとき、
ニコル:私いつも「すごいなぁ」ってなってますもん。
マキ:いつも「ほへぇ~」ってなってるね。
リンダ:たしかに。「ほへぇ~」ってなってるよね。
ニコル:なにがどうなってこうなる~とか、
ニコル:理屈はちっともわかんないんですけど、
ニコル:聞いてるとなんだか面白くて、好きなんですよね!
リンダ:そうなんだぁ。
リンダ:てか話がわからなくても面白いなんてことあるの?
ニコル:2人にしかないふんいきと言うか、勢い?と言うか……、
ニコル:だってリンダ先輩がぐわ~ってなってて、
ニコル:部長がさらぁ~って何か言ったら
ニコル:しゅぅん……って大人しくなるのも面白いし、
リンダ:私は猛犬?
マキ:おすわり!
リンダ:おだまり。座ってるし。
ニコル:ふふふ。それでそのあと演出が入ったら、
ニコル:舞台が観やすくなったり動きやすくなったりして、
ニコル:部長も先輩も楽しそうになるので、わたしも楽しくなります!
リンダ:ふーん。そういうもんなのかぁ。
ニコル:だから、リンダ先輩がぐわ~ってなりはじめたら、
ニコル:「なにが起きるんだろう~?」ってワクワクしますよ。
マキ:良かったね。*慕《した》われてて。
リンダ:*慕《した》われてるの???
ニコル:*慕《した》ってますよ!だから元気だしてください!
リンダ:あ、ありがとう……。
ニコル:あ!ていうかわたしそんなにマヌケに
ニコル:「ほへぇ~」ってなってませんよ!?
リンダ:おそっ!!
マキ:あははは!
ニコル:もぉ……!
マキ:ふふっ。ところでニコルくんは、なにか忘れ物?
ニコル:そうだ!忘れてました!
ニコル:いや、わたしじゃないんですけど、
ニコル:たしか――あぁ、あれです。〈ゆびさし〉
リンダ:テラっちが置っきぱにしてる教科書??
マキ:どうして君が?
ニコル:課題に歴史の教科書使うから取ってきてくれー!って。
リンダ:あぁん?アイツふざけんなよぉ?
リンダ:にこるんに使いっぱしりとか。
マキ:しかも自分の*怠惰《たいだ》が原因と来た。
ニコル:えっと、なんか、
ニコル:「おれが職員室にカギを取りに行ったら、どこぞの先生に、
ニコル:なにかしらで*別件逮捕《べっけんたいほ》されるかも知れないので、
ニコル:なにとぞぉ!お頼み申すぅ~!!」って、お願いされました。
マキ:それも日頃の行いのせい。
リンダ:にこるん。テラっちまだ帰ってないよね?
ニコル:はい。*部室棟《ぶしつとう》の前で待ってると思います。
リンダ:いっしょに行ってアイツぶん*殴《なぐ》るわ。その教科書カバンで。
マキ:はい、クラブハンマー。部室的な意味で。
リンダ:よし。アイツに罪の重さを物理的に分からせてやる。
ニコル:あんまり痛くしないであげてくださいね…?
リンダ:だいじょうぶ。全治2日に*留《とど》めるから。
マキ:土日を有意義に過ごせるね。
ニコル:えぇ……。
リンダ:〈ガサゴソ…〉てか何?このカバン。
リンダ:ほとんどプリントばっかりでウエイトが足りな――
ニコル:先輩?…どうかしました?
リンダ:いや………。なんでもない…。
リンダ:っ…あーもう!あったま来た!!
リンダ:先にテラっちのとこ行ってくるーっ!!
ニコル:え、あの、、ホントに*殴《なぐ》っちゃダメですからねー!
マキ:……。さぁ、僕たちはカギを返しに行こう。
ニコル:はい。…だいじょうぶかなぁ…?
ニコル:すごく怒ってましたけど……。
マキ:どっちが心配?
ニコル:どちらもです…。
マキ:君は*鋭《するど》いね。
ニコル:へ??わたし、またなにかヘンなこと言いました?!
マキ:いいや。そんなことないよ。
ニコル:もしヘンなとこ気付いたら教えてくださいね!?
ニコル:いつもお母さんにおっちょこちょいってからかわれてて…
ニコル:「2回言われたことは、ちゃんと気を付けるのよ?」って、よく。
マキ:2回か。やさしいお母さんだね。うちは1回。
ニコル:へぇ~!わたし1回じゃ、ぜったいに忘れる自信あります!
ニコル:部長、記憶力良いですもんねー。いいなぁ~。
ニコル:もしかしてその家庭のしきたり?のせいだったりします?
マキ:かもね。覚えるだけなら、そんなに苦労しないよ。
ニコル:かっこいい!!わたしも言ってみたいです!
ニコル:「覚えるだけなら、そんなに苦労しないよ」…!
マキ:覚えてても、できなきゃ意味がないからね。
ニコル:たしかに…?
マキ:でも君は、直観で分かってるから、きっとだいじょうぶだよ。
ニコル:うぅん??むずかしいですよっ。お勉強も演劇も。
マキ:そうだね。……何回言われても、覚えてても。
マキ:自分じゃどうにもできないことだって、あるからね。
:
◇:●部室棟前
◇:●ラ○フガードとス○ィートキッスを手に持っている人物
テラ:『こちらP1。P2、応答してくれ。
テラ: 受け渡し場所に到着した。ターゲットはまだ確認できない。
テラ: ……ああ。わかっている。警戒は*怠《おこた》らない』
:
テラ:『ああ。ブツは用意した。とびきりの*上物《じょうもの》だ…。
テラ: あちらも満足してくれるに違いない。
テラ: なぁに。アブない橋を渡ってもらってるんだ。これくらい安い』
:
テラ:『世のなか、”まちつまたれつ”だからな。
テラ: まった…!誰か来る…。対象を確認する』
リンダ:『もちつもたれつ』でしょ?漢字まちがってるぞ、ばか。
テラ:『まずい…!イレギュラーが発生した…!
テラ:これは極秘任務。送り込んだエージェントに危険がおよぶ…!』
リンダ:や・め・ろ。私そういうアドリブ乗れないんだから。
テラ:え~。できなくても乗ればいいじゃん。フインキで。
リンダ:*雰囲《ふんい》――っ、*辻褄《つじつま》が合ってないのが気になって乗れないの。
テラ:リンダマンはカっタいなぁ~。
リンダ:わるいね。
テラ:でも豆腐メンタル。
リンダ:う……。
テラ:*木綿豆腐《もめんどうふ》だな!*木綿豆腐《もめんどうふ》マ~ン!〈楽○カードマンで〉
リンダ:うるさーい!これ、*溜《た》め*池《いけ》に放り投げるよ。
テラ:あー!おれのマイバック~!待ってたぜ~ぃ!
テラ:これで週明け、くまックスに殺されなくて済む~…!
リンダ:〈ボソっと〉
リンダ:“おれの” “マイ” “バック” ねぇ…
テラ:てかなんでリンダマンが持ってんの?ニコちゃんは?
リンダ:部長といっしょにカギ返しに行ってる。
リンダ:テラっちこそ、部室入ろうと思えば入れたのに
リンダ:なんで使いっぱしりなんかさせたの。
テラ:入れたの!?けど今日休みじゃね?
リンダ:後ろの扉。かぎ。
テラ:ん・・・?あーっ!!その手があったかぁ~!!
テラ:おれとしたことが!なんで忘れてたんだっ!
リンダ:いつも来るの遅いから、閉まってることないんでしょ。
テラ:たしかにー!じゃ、扉は今後、有効活用するとして…。
テラ:では、おれのカバンをお返しくださいー。
リンダ:……。
◇:●カバンを差し出すが、持ち手を強く握ったまま離さない
テラ:んぎぎ……っ!…あれ?
テラ:な、なぜ離さぬ…!?もしかして怒ってる?
テラ:ニコちゃん来たらちゃんとあやまるってー。
テラ:ほら、ちゃ~んと任務報酬もあるべ!
テラ:あー、こっちは、、、<ちらとジュースを見る>
テラ:ほ、欲しかったらやるよー!まだ開けてないし。
リンダ:……これ、
テラ:あ!そういえばマッキー部長も居んのか。
テラ:これはもう1本いるか…?まだカネあったかなぁ…。
テラ:ん?なんか言った?
リンダ:これって、ぜんぶテラっちの台本?,<カバンの中の紙束>
テラ:あー、それ?見ちゃったぁ??
テラ:だいたいはおれの台本的なやつ!
テラ:最近のだと『宇宙人ザビエル』がおすすめ。
リンダ:たしか、書いてきた台本って2本じゃなかったっけ?
テラ:うん。「共有するからWordに起こして」って
テラ:部長に言われたのが2本。
リンダ:私と部長でめッちゃ*誤字誤用《ごじごよう》なおした台本ね。
テラ:あれ面白いよな!情報室のパソコンに*映《うつ》して、
テラ:ぶわーって書き換わっていくやつ。
リンダ:あんた画面ながめてただけじゃん。
テラ:まあな!
リンダ:…手書きでこんなに書いてたんだ。プリントの裏まで…。
テラ:読む?
リンダ:今度でいいや。*字《じ》*汚《きたな》くて読めないし。はい。返す。
テラ:さんきゅー。
リンダ:それって完結してる?それとも書きかけばっかり?
テラ:いんや。ぜんぶ完結してるー。
リンダ:どうせ大爆発したり、夢だったりするんでしょ。
テラ:正解!よくわかるね。おれの王道!!
リンダ:でも終わらせられんの、えらいね。
テラ:そりゃマッキーが「終わってから考えろ」って言うから、
テラ:とりあえず終わらせるまではなーんにも考えてない。
リンダ:それができるのがすごいのよ。
テラ:うわ、リンダマンに*褒《ほ》められてる!?レアだレア!
リンダ:私だって*褒《ほ》めることくらいあるわっ!
テラ:あるー?か。たまには。ありがと!
テラ:そういうリンダマンは台本書かないの?
リンダ:……。まぁ……、どうだろ……。
テラ:なんだそれー?たしか去年、前の部長に言われて
テラ:いっしょに書き始めたときのやつはどうなったの?
テラ:ほら、あの、ドッペルゲンガーが入れ替わっていくやつ!
リンダ:…わすれた。よく覚えてるね。
テラ:めちゃくちゃ面白そうだったもん!
リンダ:みんなそう言うのよなー。
リンダ:私にはわかんないよ。どうなったら面白いのか。
リンダ:みんな、何を想像して「面白そう」って言うのか。
テラ:リンダマンも面白そうに考えてたじゃん。
リンダ:書き始めはねー。
リンダ:だけど、最後に悲しい選択があるって気付いて、
リンダ:私自身がそれを選べなくってさー。
リンダ:終わりに向かうのが怖くなって、やめた。
ニコル:リンダ先輩はやさしいんですね。
リンダ:おわッ!?にこるん!?
リンダ:……い、いつから居たの??
テラ:さっきから居たよ。
ニコル:テラ先輩が「リンダマンは台本書かないの?」
ニコル:って尋ねたあたりから。
リンダ:がっつり聞いてたのね…。気付いてたなら言ってよ…。
テラ:いやぁ、ニコちゃんが「しー…!」ってやってたから。
リンダ:わざとか。
ニコル:ごめんなさいっ。
リンダ:いいよ。あやまらなくて。
テラ:部長はいっしょじゃないの?
ニコル:あー。「ちょこっとやぼ用?」らしいです。
テラ:やぼ用ぉ??
リンダ:…ねぇ、にこるん。
ニコル:はい。なんですか?
リンダ:私ってやさしいの?とてもそうは思えないけど。
ニコル:なんとなくです。言葉にできないけど確信してます!
リンダ:…理由までは、、わかんないかー。
ニコル:すみません。うまく言えなくて…。
リンダ:いや、あや――
テラ:「あやまらなくていいよ」だろ。
テラ:そういうとこじゃない?ねぇ?ニコちゃん。
ニコル:そうですね。そういうところとか。いろいろです。
リンダ:ふーん。
テラ:だからおまえは*木綿豆腐《もめんどうふ》なんだよな。
リンダ:意味わかんない。いいし。美味しいから。*木綿豆腐《もめんどうふ》。
テラ:*拗《す》ねたな。
ニコル:*拗《す》ねましたね。
テラ:べつにけなしてないから気にすんなー。
テラ:褒めてもないけどなっ!
リンダ:なんかはらたつ。。。
テラ:納得しなくてもいいじゃん!
リンダ:根拠がほしい。
テラ:根拠なー。まぁ、おれバカだからわかんないけどさ――
リンダ:え˝…っ?!
テラ:なに?
リンダ:ほんとに言うやついるんだ…それ…。
テラ:ん?まぁ、わかんないけどさ、
テラ:おれとかニコちゃんの言ってること、信じらんないか?
リンダ:ぁ………
ニコル:根拠ならあります!
リンダ:……え?
ニコル:「あれこれ理由を並べ立てるな!」ですっ!
ニコル:部長のことも、信じてあげてください。
リンダ:…………。
リンダ:
リンダ:……ぷっ、あっはっはっはっは!!
リンダ:なにそれ?ぜんぜん根拠になってないし!
リンダ:…でも。なるほどね。……そっか。
ニコル:納得、できましたか?
リンダ:ちーっとも!……。
リンダ:……どうやら私、バカだったみたい。
リンダ:
リンダ:ま、私バカだから~?よくわかんないけどさ~!
リンダ:理由なんかより、気持ちのほうが正しいんだね。きっと。
テラ:だな!
リンダ:2人ともありがとね。書く。私。
ニコル:気持ちが晴れてよかったです。
テラ:来週、からあげオゴってくれな!
リンダ:覚えてたらね。
リンダ:あ、テラっち、ちょっと教えて。
テラ:なに?
リンダ:なにも考えず書き始めるコツ。
テラ:そんなもんねぇよー。
テラ:好きなもの登場させればいいんだよ!
リンダ:好きなものかー……ねこ、とか…?
ニコル:あ!わたし、悲しくならないお話がいいです!
リンダ:いいね。うけたまわりましたっ。
ニコル:たのしみにしてますね。
テラ:期待はせずにな。
リンダ:そのほうが助かる。じゃ、私、すぐ帰るから!
テラ:おう。おつかれ!
ニコル:おつかれさまです!
リンダ:うん。2人ともおつかれ!ありがとね!
リンダ:あ!部長にもありがとーって伝えといてー!
◇:●リンダが走って帰る
:
テラ:だってよー。部長さーん。
ニコル:聞こえてますかね?
マキ:しっかり聞こえてたよ。
マキ:大した役者だね。君たちは。
テラ:べつに。思ったこと言っただけっすよー。
ニコル:わたしだって。
マキ:演技は本来そういうものだよ。
マキ:感じた気持ちを表現するもの。
ニコル:自分の気持ちに素直になれてよかったですね。
ニコル:リンダ先輩。
マキ:あの子は手ごわかったよ。なかなか。
テラ:部長も、”手ごわかった”んすか?
マキ:それはもう。
マキ:「脳みそ鉄筋コンクリート」だからねっ。
ニコル:ふふふっ。むかしの部長、見てみたいです。
マキ:僕もカタい人間だから。あの子にできるのは
マキ:ぶつかって砕くことだけだった。
ニコル:そこで、わたしたちですか?
マキ:砕いたコンクリートから外へ飛び出すには
マキ:土と、水が、必要だからね。
テラ:どっちが土で、どっちが水?
マキ:テラくんが土で、ニコルくんが水かな。
ニコル:なんだかかわいいですね!お花に水やり。
テラ:書けるっすかね。リンダマン。
マキ:書いてくれなきゃ、僕が引退できないな。
テラ:それ言われるとちょっとフクザツっすねーっ。
ニコル:わたしも寂しいです…。
マキ:一本でも書かなきゃ、部長にしようとしても
マキ:あの子はぜったいに降りるから。
テラ:「台本すら書いたことない人間にはムリ!」
テラ:って駄々こねるっすよ!
ニコル:言いそうですねっ。
マキ:伝えたいことは伝えた。
マキ:…あとは、陽の光が見えるかどうか。だね。
マキ:2人とも、今日は遅くまでありがとう。おつかれさま。
:
◇:●週明けの放課後 演劇部室
リンダ:部長ッ!!……私、、、書けました……っ!!
マキ:おめでとう!リンダくん。〈拍手〉
ニコル:先輩、おめでとうございますー!
マキ:それじゃ、印刷してきて。
リンダ:え、、チェックは…
マキ:*誤字誤用《ごじごよう》ある?
リンダ:無い。ぜったい。
マキ:じゃあOK。
リンダ:ていうか、昼休みに*刷《す》りましたっ。
マキ:優秀だね。
リンダ:いいえ!私はバカです。期待しないでください。
テラ:カタさは変わんないのよな。
マキ:よーし、読み合わせするよぉー!
:
◇:●冊子を配り、声に出して読む
リンダ:『ある朝、一匹の猫が訪ねてきた。
リンダ:その日、ぼくのセカイに光が差した――』
◇:●おしまい
◇:●演劇部の部室
リンダ:部長!私、書けません!
マキ:書けなくてもなんでもいいから、書いてね。
リンダ:あれ?パワハラかな?日本語わかってます?
リンダ:英語ならわかるカモシカ?
リンダ:アイ!キャント!ライティ~ングッ!!
マキ:観念しな。わが部の伝統なの。
マキ:誰であろうと卒業までに一本は台本書く!
リンダ:パワハラに加えて思考停止の老害時代遅れ~
マキ:僕がいるうちに書かなきゃ、ずっと書かないよね?
マキ:君こそモラハラで正式にひっぱたくよ?
リンダ:ああー!聴きましたか*傍聴席《ぼうちょうせき》の皆さま!
リンダ:これはれっきとした脅迫ぅ……、
リンダ:あ……、怒った?
マキ:怒った。
リンダ:じゃあ、、、土下座のポーズっ。
マキ:謝罪の意は?
リンダ:カタチだけ。
マキ:〈あたまをひっぱたく〉
リンダ:あたっ!ほんとにぶったぁ!
マキ:つべこべ言わずに書いてみなさいって。
マキ:おもしろいかどうかは、終わってから考えるの。
リンダ:だからぁ!書けないんですって!
リンダ:マキ部長とはちがうんですっ!
リンダ:私には物語を考える根本的な何かが欠けてるんですーっ!
マキ:終わって、から!考えるっ!
マキ:日本語わかる?Do you understand?
リンダ:~~!!〈なにか叫ぼうとして、寸前で諦める〉
リンダ:はぁ......。 ムリですよ。考えなくても分かります。
マキ:よく言うよね。それ。「考えなくても分かります」
リンダ:何度も試したって言ったじゃないですか。…何度も。
リンダ:それでムリだったんだから、実際にムリなんです。
リンダ:すでに検証済みだから考えなくても分かるんですっ。
マキ:どうしてムリなの?
リンダ:あれ?いいんですか…?理由を*述《の》べて。
リンダ:部長いつも「あれこれ理由を並べ立てるな!」って。
マキ:聞くだけ聞いてあげようかなと思って。今日だけね。
リンダ:今日だけ?……めずらし。
マキ:それで?理由は?
リンダ:…シンプルに、中身がつまんないんですよ。
リンダ:設定は考えられても、
リンダ:セリフが説明文みたいで、生きた会話になってないし。
リンダ:設定だけあっても、
リンダ:物語の始め方も進め方も、終わらせ方も分からないし。
マキ:なら、書き上げたことはないんだ?
リンダ:私だって書き上げたいですよ。…できるんだったら。
リンダ:でも脳みそ鉄筋コンクリートの私には、
リンダ:ゼロイチの創作はできないんです。だからこそ、
リンダ:一本の物語を書き上げられる人にどれだけ憧れるか……。
マキ:ほんとは書きたい人ってことなんだね。リンダくんは。
リンダ:もし書けるなら…ってだけですよ。
マキ:「もし書けるなら」……ね。
リンダ:ほかの子たちは、*拙《つたな》くても、ムリやりにでも、
リンダ:なんとか書いてカタチにしてくるじゃないですか。
マキ:ムリにでも書かせてるからね。
リンダ:<早口で>
リンダ:それだって私からすれば「なんで???」って感じで、
リンダ:出来てみれば設定はありきたりでも、ちゃんと会話してて、
リンダ:オトシどころが弱くても、一応でも物語に終わりがあって、
リンダ:それで「なんでみんなできるの?」って
リンダ:「なんで私にはできないの?」って。
リンダ:
リンダ:マキ部長がまったく泳げないのと同じで、つまり私には、
リンダ:物語を考える根本的な何かが欠けてるってことなんです!
マキ:さりげなく人の弱点を晒さない。
リンダ:誰にだって
リンダ:「がんばっても出来ないこと」があるって意味ですよ…!
リンダ:それが、私には、「台本を書くこと」なんです……。
マキ:…なるほどね。
リンダ:それでも私に、台本書けって言うんですか……?
マキ:……
リンダ:……
マキ:話が長い。
リンダ:はぇ??
マキ:あれこれ理由を並べ立てるな。
リンダ:部長が聞いてきたんでしょうがーっ!
マキ:ちなみに君が並べた理由は、ぜんぶ。間違ってるよ。
リンダ:は…?ぜん、ぶ……?
◇:●扉が開いて、後輩が入ってくる
ニコル:あれー?!おつかれさまですー!マキ部長。リンダ先輩。
マキ:ああ、おつかれさま。
リンダ:おつかれー。にこるん。
ニコル:え、え?今日は顧問も副顧問もいないから部活お休みって
ニコル:言ってませんでしたっけ?わたしまちがえました??
マキ:いいや。お休みで合ってるよニコルくん。
マキ:リンダくんとおしゃべりしてただけ。
ニコル:えー!ずるいですよ!かくれてそんな楽しそうなこと!
ニコル:ていうかカギどうしたんですか?わたし借りてきたのにぃ。
マキ:顧問と一年は知らないけど、後ろの扉。カギが壊れてるんだよ。
ニコル:ほんとですか!?じゃあ今までも内緒で……って――
ニコル:……あの、リンダ先輩、、、?
リンダ:へ?なに…?
ニコル:元気なさそうですけど、だいじょうぶですか…?
マキ:……。
リンダ:ぁ、いや、ぜんっぜん?いつも通りよ?たった今、
リンダ:人間の可能と不可能について部長とアツ~く語ってたから、
リンダ:それで、*険《けわ》しい顔してたんじゃない?
ニコル:あはは。なんだぁ。
ニコル:またむずかしいお話で盛り上がってたんですねー。
リンダ:そうそう。むずかしいお話。
ニコル:いいなぁ~。
リンダ:ん?なんでー?
ニコル:なんとなぁく、いいなぁ~って思いました。
ニコル:リンダ先輩と部長が演出の話とかしてるとき、
ニコル:私いつも「すごいなぁ」ってなってますもん。
マキ:いつも「ほへぇ~」ってなってるね。
リンダ:たしかに。「ほへぇ~」ってなってるよね。
ニコル:なにがどうなってこうなる~とか、
ニコル:理屈はちっともわかんないんですけど、
ニコル:聞いてるとなんだか面白くて、好きなんですよね!
リンダ:そうなんだぁ。
リンダ:てか話がわからなくても面白いなんてことあるの?
ニコル:2人にしかないふんいきと言うか、勢い?と言うか……、
ニコル:だってリンダ先輩がぐわ~ってなってて、
ニコル:部長がさらぁ~って何か言ったら
ニコル:しゅぅん……って大人しくなるのも面白いし、
リンダ:私は猛犬?
マキ:おすわり!
リンダ:おだまり。座ってるし。
ニコル:ふふふ。それでそのあと演出が入ったら、
ニコル:舞台が観やすくなったり動きやすくなったりして、
ニコル:部長も先輩も楽しそうになるので、わたしも楽しくなります!
リンダ:ふーん。そういうもんなのかぁ。
ニコル:だから、リンダ先輩がぐわ~ってなりはじめたら、
ニコル:「なにが起きるんだろう~?」ってワクワクしますよ。
マキ:良かったね。*慕《した》われてて。
リンダ:*慕《した》われてるの???
ニコル:*慕《した》ってますよ!だから元気だしてください!
リンダ:あ、ありがとう……。
ニコル:あ!ていうかわたしそんなにマヌケに
ニコル:「ほへぇ~」ってなってませんよ!?
リンダ:おそっ!!
マキ:あははは!
ニコル:もぉ……!
マキ:ふふっ。ところでニコルくんは、なにか忘れ物?
ニコル:そうだ!忘れてました!
ニコル:いや、わたしじゃないんですけど、
ニコル:たしか――あぁ、あれです。〈ゆびさし〉
リンダ:テラっちが置っきぱにしてる教科書??
マキ:どうして君が?
ニコル:課題に歴史の教科書使うから取ってきてくれー!って。
リンダ:あぁん?アイツふざけんなよぉ?
リンダ:にこるんに使いっぱしりとか。
マキ:しかも自分の*怠惰《たいだ》が原因と来た。
ニコル:えっと、なんか、
ニコル:「おれが職員室にカギを取りに行ったら、どこぞの先生に、
ニコル:なにかしらで*別件逮捕《べっけんたいほ》されるかも知れないので、
ニコル:なにとぞぉ!お頼み申すぅ~!!」って、お願いされました。
マキ:それも日頃の行いのせい。
リンダ:にこるん。テラっちまだ帰ってないよね?
ニコル:はい。*部室棟《ぶしつとう》の前で待ってると思います。
リンダ:いっしょに行ってアイツぶん*殴《なぐ》るわ。その教科書カバンで。
マキ:はい、クラブハンマー。部室的な意味で。
リンダ:よし。アイツに罪の重さを物理的に分からせてやる。
ニコル:あんまり痛くしないであげてくださいね…?
リンダ:だいじょうぶ。全治2日に*留《とど》めるから。
マキ:土日を有意義に過ごせるね。
ニコル:えぇ……。
リンダ:〈ガサゴソ…〉てか何?このカバン。
リンダ:ほとんどプリントばっかりでウエイトが足りな――
ニコル:先輩?…どうかしました?
リンダ:いや………。なんでもない…。
リンダ:っ…あーもう!あったま来た!!
リンダ:先にテラっちのとこ行ってくるーっ!!
ニコル:え、あの、、ホントに*殴《なぐ》っちゃダメですからねー!
マキ:……。さぁ、僕たちはカギを返しに行こう。
ニコル:はい。…だいじょうぶかなぁ…?
ニコル:すごく怒ってましたけど……。
マキ:どっちが心配?
ニコル:どちらもです…。
マキ:君は*鋭《するど》いね。
ニコル:へ??わたし、またなにかヘンなこと言いました?!
マキ:いいや。そんなことないよ。
ニコル:もしヘンなとこ気付いたら教えてくださいね!?
ニコル:いつもお母さんにおっちょこちょいってからかわれてて…
ニコル:「2回言われたことは、ちゃんと気を付けるのよ?」って、よく。
マキ:2回か。やさしいお母さんだね。うちは1回。
ニコル:へぇ~!わたし1回じゃ、ぜったいに忘れる自信あります!
ニコル:部長、記憶力良いですもんねー。いいなぁ~。
ニコル:もしかしてその家庭のしきたり?のせいだったりします?
マキ:かもね。覚えるだけなら、そんなに苦労しないよ。
ニコル:かっこいい!!わたしも言ってみたいです!
ニコル:「覚えるだけなら、そんなに苦労しないよ」…!
マキ:覚えてても、できなきゃ意味がないからね。
ニコル:たしかに…?
マキ:でも君は、直観で分かってるから、きっとだいじょうぶだよ。
ニコル:うぅん??むずかしいですよっ。お勉強も演劇も。
マキ:そうだね。……何回言われても、覚えてても。
マキ:自分じゃどうにもできないことだって、あるからね。
:
◇:●部室棟前
◇:●ラ○フガードとス○ィートキッスを手に持っている人物
テラ:『こちらP1。P2、応答してくれ。
テラ: 受け渡し場所に到着した。ターゲットはまだ確認できない。
テラ: ……ああ。わかっている。警戒は*怠《おこた》らない』
:
テラ:『ああ。ブツは用意した。とびきりの*上物《じょうもの》だ…。
テラ: あちらも満足してくれるに違いない。
テラ: なぁに。アブない橋を渡ってもらってるんだ。これくらい安い』
:
テラ:『世のなか、”まちつまたれつ”だからな。
テラ: まった…!誰か来る…。対象を確認する』
リンダ:『もちつもたれつ』でしょ?漢字まちがってるぞ、ばか。
テラ:『まずい…!イレギュラーが発生した…!
テラ:これは極秘任務。送り込んだエージェントに危険がおよぶ…!』
リンダ:や・め・ろ。私そういうアドリブ乗れないんだから。
テラ:え~。できなくても乗ればいいじゃん。フインキで。
リンダ:*雰囲《ふんい》――っ、*辻褄《つじつま》が合ってないのが気になって乗れないの。
テラ:リンダマンはカっタいなぁ~。
リンダ:わるいね。
テラ:でも豆腐メンタル。
リンダ:う……。
テラ:*木綿豆腐《もめんどうふ》だな!*木綿豆腐《もめんどうふ》マ~ン!〈楽○カードマンで〉
リンダ:うるさーい!これ、*溜《た》め*池《いけ》に放り投げるよ。
テラ:あー!おれのマイバック~!待ってたぜ~ぃ!
テラ:これで週明け、くまックスに殺されなくて済む~…!
リンダ:〈ボソっと〉
リンダ:“おれの” “マイ” “バック” ねぇ…
テラ:てかなんでリンダマンが持ってんの?ニコちゃんは?
リンダ:部長といっしょにカギ返しに行ってる。
リンダ:テラっちこそ、部室入ろうと思えば入れたのに
リンダ:なんで使いっぱしりなんかさせたの。
テラ:入れたの!?けど今日休みじゃね?
リンダ:後ろの扉。かぎ。
テラ:ん・・・?あーっ!!その手があったかぁ~!!
テラ:おれとしたことが!なんで忘れてたんだっ!
リンダ:いつも来るの遅いから、閉まってることないんでしょ。
テラ:たしかにー!じゃ、扉は今後、有効活用するとして…。
テラ:では、おれのカバンをお返しくださいー。
リンダ:……。
◇:●カバンを差し出すが、持ち手を強く握ったまま離さない
テラ:んぎぎ……っ!…あれ?
テラ:な、なぜ離さぬ…!?もしかして怒ってる?
テラ:ニコちゃん来たらちゃんとあやまるってー。
テラ:ほら、ちゃ~んと任務報酬もあるべ!
テラ:あー、こっちは、、、<ちらとジュースを見る>
テラ:ほ、欲しかったらやるよー!まだ開けてないし。
リンダ:……これ、
テラ:あ!そういえばマッキー部長も居んのか。
テラ:これはもう1本いるか…?まだカネあったかなぁ…。
テラ:ん?なんか言った?
リンダ:これって、ぜんぶテラっちの台本?,<カバンの中の紙束>
テラ:あー、それ?見ちゃったぁ??
テラ:だいたいはおれの台本的なやつ!
テラ:最近のだと『宇宙人ザビエル』がおすすめ。
リンダ:たしか、書いてきた台本って2本じゃなかったっけ?
テラ:うん。「共有するからWordに起こして」って
テラ:部長に言われたのが2本。
リンダ:私と部長でめッちゃ*誤字誤用《ごじごよう》なおした台本ね。
テラ:あれ面白いよな!情報室のパソコンに*映《うつ》して、
テラ:ぶわーって書き換わっていくやつ。
リンダ:あんた画面ながめてただけじゃん。
テラ:まあな!
リンダ:…手書きでこんなに書いてたんだ。プリントの裏まで…。
テラ:読む?
リンダ:今度でいいや。*字《じ》*汚《きたな》くて読めないし。はい。返す。
テラ:さんきゅー。
リンダ:それって完結してる?それとも書きかけばっかり?
テラ:いんや。ぜんぶ完結してるー。
リンダ:どうせ大爆発したり、夢だったりするんでしょ。
テラ:正解!よくわかるね。おれの王道!!
リンダ:でも終わらせられんの、えらいね。
テラ:そりゃマッキーが「終わってから考えろ」って言うから、
テラ:とりあえず終わらせるまではなーんにも考えてない。
リンダ:それができるのがすごいのよ。
テラ:うわ、リンダマンに*褒《ほ》められてる!?レアだレア!
リンダ:私だって*褒《ほ》めることくらいあるわっ!
テラ:あるー?か。たまには。ありがと!
テラ:そういうリンダマンは台本書かないの?
リンダ:……。まぁ……、どうだろ……。
テラ:なんだそれー?たしか去年、前の部長に言われて
テラ:いっしょに書き始めたときのやつはどうなったの?
テラ:ほら、あの、ドッペルゲンガーが入れ替わっていくやつ!
リンダ:…わすれた。よく覚えてるね。
テラ:めちゃくちゃ面白そうだったもん!
リンダ:みんなそう言うのよなー。
リンダ:私にはわかんないよ。どうなったら面白いのか。
リンダ:みんな、何を想像して「面白そう」って言うのか。
テラ:リンダマンも面白そうに考えてたじゃん。
リンダ:書き始めはねー。
リンダ:だけど、最後に悲しい選択があるって気付いて、
リンダ:私自身がそれを選べなくってさー。
リンダ:終わりに向かうのが怖くなって、やめた。
ニコル:リンダ先輩はやさしいんですね。
リンダ:おわッ!?にこるん!?
リンダ:……い、いつから居たの??
テラ:さっきから居たよ。
ニコル:テラ先輩が「リンダマンは台本書かないの?」
ニコル:って尋ねたあたりから。
リンダ:がっつり聞いてたのね…。気付いてたなら言ってよ…。
テラ:いやぁ、ニコちゃんが「しー…!」ってやってたから。
リンダ:わざとか。
ニコル:ごめんなさいっ。
リンダ:いいよ。あやまらなくて。
テラ:部長はいっしょじゃないの?
ニコル:あー。「ちょこっとやぼ用?」らしいです。
テラ:やぼ用ぉ??
リンダ:…ねぇ、にこるん。
ニコル:はい。なんですか?
リンダ:私ってやさしいの?とてもそうは思えないけど。
ニコル:なんとなくです。言葉にできないけど確信してます!
リンダ:…理由までは、、わかんないかー。
ニコル:すみません。うまく言えなくて…。
リンダ:いや、あや――
テラ:「あやまらなくていいよ」だろ。
テラ:そういうとこじゃない?ねぇ?ニコちゃん。
ニコル:そうですね。そういうところとか。いろいろです。
リンダ:ふーん。
テラ:だからおまえは*木綿豆腐《もめんどうふ》なんだよな。
リンダ:意味わかんない。いいし。美味しいから。*木綿豆腐《もめんどうふ》。
テラ:*拗《す》ねたな。
ニコル:*拗《す》ねましたね。
テラ:べつにけなしてないから気にすんなー。
テラ:褒めてもないけどなっ!
リンダ:なんかはらたつ。。。
テラ:納得しなくてもいいじゃん!
リンダ:根拠がほしい。
テラ:根拠なー。まぁ、おれバカだからわかんないけどさ――
リンダ:え˝…っ?!
テラ:なに?
リンダ:ほんとに言うやついるんだ…それ…。
テラ:ん?まぁ、わかんないけどさ、
テラ:おれとかニコちゃんの言ってること、信じらんないか?
リンダ:ぁ………
ニコル:根拠ならあります!
リンダ:……え?
ニコル:「あれこれ理由を並べ立てるな!」ですっ!
ニコル:部長のことも、信じてあげてください。
リンダ:…………。
リンダ:
リンダ:……ぷっ、あっはっはっはっは!!
リンダ:なにそれ?ぜんぜん根拠になってないし!
リンダ:…でも。なるほどね。……そっか。
ニコル:納得、できましたか?
リンダ:ちーっとも!……。
リンダ:……どうやら私、バカだったみたい。
リンダ:
リンダ:ま、私バカだから~?よくわかんないけどさ~!
リンダ:理由なんかより、気持ちのほうが正しいんだね。きっと。
テラ:だな!
リンダ:2人ともありがとね。書く。私。
ニコル:気持ちが晴れてよかったです。
テラ:来週、からあげオゴってくれな!
リンダ:覚えてたらね。
リンダ:あ、テラっち、ちょっと教えて。
テラ:なに?
リンダ:なにも考えず書き始めるコツ。
テラ:そんなもんねぇよー。
テラ:好きなもの登場させればいいんだよ!
リンダ:好きなものかー……ねこ、とか…?
ニコル:あ!わたし、悲しくならないお話がいいです!
リンダ:いいね。うけたまわりましたっ。
ニコル:たのしみにしてますね。
テラ:期待はせずにな。
リンダ:そのほうが助かる。じゃ、私、すぐ帰るから!
テラ:おう。おつかれ!
ニコル:おつかれさまです!
リンダ:うん。2人ともおつかれ!ありがとね!
リンダ:あ!部長にもありがとーって伝えといてー!
◇:●リンダが走って帰る
:
テラ:だってよー。部長さーん。
ニコル:聞こえてますかね?
マキ:しっかり聞こえてたよ。
マキ:大した役者だね。君たちは。
テラ:べつに。思ったこと言っただけっすよー。
ニコル:わたしだって。
マキ:演技は本来そういうものだよ。
マキ:感じた気持ちを表現するもの。
ニコル:自分の気持ちに素直になれてよかったですね。
ニコル:リンダ先輩。
マキ:あの子は手ごわかったよ。なかなか。
テラ:部長も、”手ごわかった”んすか?
マキ:それはもう。
マキ:「脳みそ鉄筋コンクリート」だからねっ。
ニコル:ふふふっ。むかしの部長、見てみたいです。
マキ:僕もカタい人間だから。あの子にできるのは
マキ:ぶつかって砕くことだけだった。
ニコル:そこで、わたしたちですか?
マキ:砕いたコンクリートから外へ飛び出すには
マキ:土と、水が、必要だからね。
テラ:どっちが土で、どっちが水?
マキ:テラくんが土で、ニコルくんが水かな。
ニコル:なんだかかわいいですね!お花に水やり。
テラ:書けるっすかね。リンダマン。
マキ:書いてくれなきゃ、僕が引退できないな。
テラ:それ言われるとちょっとフクザツっすねーっ。
ニコル:わたしも寂しいです…。
マキ:一本でも書かなきゃ、部長にしようとしても
マキ:あの子はぜったいに降りるから。
テラ:「台本すら書いたことない人間にはムリ!」
テラ:って駄々こねるっすよ!
ニコル:言いそうですねっ。
マキ:伝えたいことは伝えた。
マキ:…あとは、陽の光が見えるかどうか。だね。
マキ:2人とも、今日は遅くまでありがとう。おつかれさま。
:
◇:●週明けの放課後 演劇部室
リンダ:部長ッ!!……私、、、書けました……っ!!
マキ:おめでとう!リンダくん。〈拍手〉
ニコル:先輩、おめでとうございますー!
マキ:それじゃ、印刷してきて。
リンダ:え、、チェックは…
マキ:*誤字誤用《ごじごよう》ある?
リンダ:無い。ぜったい。
マキ:じゃあOK。
リンダ:ていうか、昼休みに*刷《す》りましたっ。
マキ:優秀だね。
リンダ:いいえ!私はバカです。期待しないでください。
テラ:カタさは変わんないのよな。
マキ:よーし、読み合わせするよぉー!
:
◇:●冊子を配り、声に出して読む
リンダ:『ある朝、一匹の猫が訪ねてきた。
リンダ:その日、ぼくのセカイに光が差した――』
◇:●おしまい