台本概要

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タイトル $Moscow Mule$
作者名 アール/ドラゴス  (@Dragoss_R)
ジャンル その他
演者人数 3人用台本(男1、女1、不問1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 モスコミュール。

ヴェロニカが路地でたばこを吸っていると、そこに現れたのは、
とある用件で英国に滞在しているはずのシャオロンだった。
そして二人は流れでバーに行くことになり、ヴェロニカはあの頃を懐古する。

さあ、カードは再び“怪物”の下へと集った。

「時間とは残酷なものだ。しかし、我が盟友の伝説は久遠に続くだろう。」

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ヴェロニカ 64 ファーコートを身に纏う女性。 荒々しい口調で、ヘヴィスモーカー。
シャオロン 不問 68 丸サングラスにチャイナ服の胡散臭い中国人。 言葉の節々が軽く、少し読めない。
エックス 49 スタンダードなスーツと、四角い眼鏡をかけた黒人の男性。 物腰はとても柔らかく、口調はまるで召使のようだ。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:夜。暗い路地裏に、ファーコートを纏った女性が一人。 0:足元には数人の死体が転がっている。女性はおもむろにたばこを取り出し、ジッポライターで火をつける。そして、携帯電話を取りだし―――。 ヴェロニカ:(電話をかける)…もしもし、ヴェロニカだ。言われた通り目標を始末したんで連絡を入れた。場所は通りのグラフィティがある壁の隣の路地、それでわかんだろ?…はっ、「ご苦労」、ねぇ…。そりゃ大層ご苦労な働きをしたぜ、アタシは。(たばこを吸って、吐く)気兼ねなく家で晩酌してたらいきなり“偉大なる守銭奴サマ”に至急の用事だ何だと言われて呼び出され、クソの掃除をしなくちゃあいけなくなったんだからな。それもアタシがわざわざ足を運ぶ必要がないくらい雑魚。どうせテメェの頭のおかしい契約を違えた阿呆ギャングかそこらだろうが。こんなクソみたいな仕事をわざわざアタシにやらせたんだ、今回の報酬はたっぷり弾んでくれるんだろうなあ、ウォッ―――。(電話が切れる) ヴェロニカ:チッ、あの野郎切りやがった…!次会ったら絶対に一発殴るっ…!! シャオロン:アハハ~、どうやらかなりご立腹だね~? ヴェロニカ:…なに?その声は―――。 0:振り返ると、そこにはチャイナ服に丸サングラスをした、胡散臭そうな人物が立っていた。 シャオロン:你好(ニーハオ)~。 ヴェロニカ:…シャオロン。 シャオロン:いえーす、君の親友、シャオロンくんだよぉ。久しぶりだね、ヴェロちゃん。 ヴェロニカ:その呼称はやめろと何度も言っているはずだが。 シャオロン:えぇ~、いいじゃん。可愛らしいだろう。それに、きみもホンキで嫌がってるカンジじゃないしねぇ。内心は嬉しかったりするんじゃないの、そこらへんどーなの、ねぇねぇ。 ヴェロニカ:潰す。 シャオロン:おっとと。これは怖い。ゴメンナサイ。気をつけまーす。 ヴェロニカ:……はぁぁ。…というか、なんでお前がここに居る。お前は確か英国に滞在してたはずだろ。それに、どうしてアタシがここに居ることを知ってるんだ。 シャオロン:その二つとも答えは凡庸、シンプルさ。ぼくがここに居るのは我が盟友に呼ばれたから。きみがここに居るのを知っているのは、盟友に急な招集を受けてぷっつんしてるきみの後ろを追跡してたから~。 ヴェロニカ:…あたしの後を?なんのために。 シャオロン:きみとお話をするため。 ヴェロニカ:用件なら手短にしろ。アタシはさっさと家に帰って飲み直さなきゃいけないんだ。 シャオロン:ざざざ残念。それは無理なご相談だね。 ヴェロニカ:あ? シャオロン:なぜならば…、きみには今からぼくと一緒に酒の席についてもらうから。 ヴェロニカ:…アタシに飲みに付き合えと? シャオロン:そゆこと。勿論お金はぼくが出そう。ダメかな。一人飲みの気分だったりする? ヴェロニカ:…いや。構わねえ。一人酒より仲間といるほうが好きだし、久しぶりにお前に会えたことだしな。 シャオロン:お、やったね。ヴェロちゃん確保ー。 ヴェロニカ:しかし言っておくが、アイツが先に居たり後から来たりしたら問答無用で帰るからな。 シャオロン:そこはご安心。とは言っても、実は誘ってたんだけどね。どうやら我が盟友は膨大な仕事に追われているらしく、今回はパスとのことだ。 ヴェロニカ:…ならいい。 シャオロン:にしてもヴェロちゃん、まだそんなに盟友のこと嫌い? ヴェロニカ:当たり前だろ。今日だってあのクソ野郎に急に呼び出されて雑魚の処理をする羽目になったんだ。 シャオロン:アハハ~。まあ人使い荒いからねぇ、盟友は。そこはご愛嬌だろう。 ヴェロニカ:舐めんな、どこも愛くるしくないだろあんなもん。 シャオロン:フフ、そうかもねぇ…。さあてさて、立ち話はこの辺にして、そろそろお店に移動するとしよう!これ以上待たせると流石の彼も怒りそうだしね。 ヴェロニカ:あぁ?サシ飲みじゃねえのかよ。 シャオロン:ん?そうだよ~?もう一人だけね。さ、お店へレッツゴーだ! ヴェロニカ:…ったく、なんでアタシの知り合いは説明が足りねえヤツばっかりなんだ―――。 シャオロン:(ヴェロニカの台詞の途中から鼻歌)~♪ 0:既に歩き出しているシャオロン。 ヴェロニカ:―――って、おい!置いてくんじゃねえー! 0:場面転換。良い雰囲気のバーに到着する二人。 シャオロン:着いた、ここが目的地だよ。 ヴェロニカ:…へぇ、このあたりにこんな洒落た雰囲気のバーがあるとはな。 シャオロン:知らなかったでしょ?立地的に建物自体がかなり隠れてるから、まさに知る人ぞ知る名店なのさ。 エックス:お待ちしておりました、シャオロン様。 0:店の中から二人を出迎えたのは、四角い眼鏡をかけ、スタンダードなスーツを身に纏う黒人の男性。 ヴェロニカ:な…。 シャオロン:待たせちゃってごめんねエックス~。ちょっとヴェロちゃんを口説くのに時間かかっちゃってさ。 エックス:まったく問題ありません。お久しぶりです、ヴェロニカ様。 ヴェロニカ:…お前がシャオロンの言ってたもうひとりか? エックス:はい。もしや、ご不満だったでしょうか。 ヴェロニカ:いや、そんなことはねえ。お前を嫌う理由はない。…ただ、珍しいと思ったんだ。お前はいつも仕事に追われてるし、酒もそんな得意じゃなかったろ。 エックス:ええ。ですが、せっかくシャオロン様がこちらにいらっしゃったのです。たまには仕事を休め、共にお酒を嗜むのも良いかと思いまして。あの方も許可を出してくださいましたので、本日はご一緒する運びとなりました。 ヴェロニカ:んなもんいちいち聞かなくたっていいだろうに…、本当に真面目だよな、お前。 エックス:お褒めの言葉として受け取ります。さて積もる話もありますが、外は冷えますし、この先はお店の中で。待っている間に席は取っておきました。 シャオロン:おお、ありがとう。流石はエックス、助かるよ。さ、それでは三名様ご来店~。 ヴェロニカ:ファミレスかよ。 0:店に入り、席に着く三人。 シャオロン:マスター、ぼくは楊貴妃(ようきひ)を貰おうか。二人はどうする? エックス:わたくしはエメラルド・ミストをお願いします。 ヴェロニカ:アタシは…、そうだな。モスコミュールをくれ。 0:バーテンダーが「かしこまりました」と答えグラスを用意し始めた。 シャオロン:なんだか懐かしい気分だよ。こうして集まるのって、どれくらいぶりだったっけ。 エックス:シャオロン様が英国に移ってから一年半ほどですから、それくらいかと。 ヴェロニカ:マジか。つい数か月前にシャオロンを空港で見送ったような感覚なんだが…、そんな経つのか。 エックス:わたくしも同感です。あの頃のような激動の毎日という訳でもないのに…。時の流れと言うのは面白いですね。 ヴェロニカ:しかしそうなると、あの野郎が突拍子もなく「会社を起業する」だとか言い出しやがったのももう三年前か。 エックス:そうなりますね。 シャオロン:早いなあ。まったく、時というものは残酷だ。だけど同時に、美しくもある。…きみたちもそう思わないかい? ヴェロニカ:…急に何言ってんだ、お前。 シャオロン:いつもの世迷言(よまいごと)さ~。だけど…、時間の流れにも負けず、我が盟友たちとの栄光は永久に不滅なのだろうと、再び思っただけだとも。 ヴェロニカ:お前なあ。まだ酒も入ってねえのに語り部か?流石に早すぎるだろ。 エックス:きっとシャオロン様は久しぶりの再会を噛みしめてらっしゃるのですよ。我々はあの方と共に凄まじい激動の日々を生き抜き、伝説を遺し、富を得ました。あの日々と比べれば今の生活はとても緩やかで、趣味や仕事に打ち込む日常も板についてきました。しかし、あるのですよ。海馬と網膜に焼き付いた、忙しないあの頃の記憶に思いを馳せる時が。…そしてそれはきっと、貴女にも。 ヴェロニカ:……なんだよ、エックス。お前も懐古モードか。…ま、否定はしねえ。あの日々はアタシにとって最悪だった。殺って殺られて身を潜めて、場所を移しても殺して騙して騙されて。…なーんてやってたあのクソみたいな日々の刺激が、安息を得た今となっちゃあちょいと恋しい。あんな経験は二度とゴメンだがな。 0:しばしの沈黙。それを破ったのは、三人のうちの誰でもなく。 0:「お待たせいたしました。」 シャオロン:…ん?おっとと、謝謝(シェイシェイ)、バーテンダーさん。三人分だって言うのに早いね。ドウゾ、是非チップを受け取ってほしい。ほ~ら二人とも、お酒が来たよ。 エックス:ありがとうございます。…これは素晴らしい。前評判通り、綺麗なエメラルド色ですね。 ヴェロニカ:…乾杯、するか。 エックス:そうですね。シャオロン様。 シャオロン:うん。それじゃ、再びここに集えたことに。 : シャオロン:乾杯。 : ヴェロニカ:乾杯。 : エックス:乾杯。 : 0:グラスが合わさる音は鳴らない。三人は小さくグラスを掲げると、そのまま口へと運んだ。 シャオロン:…ん~、好喝(ハオフー)。 エックス:これはなかなか…。流石、シャオロン様の行きつけなだけありますね。 ヴェロニカ:ああ。こんな穴場があるとはな…。おいシャオロン、さっきの言い方的にお前、英国に行く前に既にここ知ってただろ。なんでアタシに教えてくれなかったんだ。 シャオロン:だってぼくこのお店、我が盟友に教えてもらったんだもん。きみに勧めたらいつかきっと盟友と鉢合わせするだろうし、それで文句を言われたらイヤだなあと思って~。 ヴェロニカ:…ならいい、悪かった。 エックス:ふふ…。流石、シャオロン様はヴェロニカ様のことをよくわかっていらっしゃいますね。 シャオロン:当然だろう?盟友とヴェロちゃんの仲を良くしたのは紛れもないこのぼくだからね! ヴェロニカ:今でもアイツと仲良くしているつもりはないっ! シャオロン:おっと、そ~れは失礼いたしました。 ヴェロニカ:…ったく。あー、ここってたばこ吸えんのか? エックス:残念ながら禁煙のようです。喫煙スペースは…、どうやらお店の外にあるようですよ。 ヴェロニカ:マジかよ。…仕方ない、少し吸って来る。 シャオロン:いってらっしゃ~い。 0:ヴェロニカが離席する。 エックス:…シャオロン様。 シャオロン:なんだいエックス。 エックス:本日、あの方が来られなかったのは仕事が多忙の為と聞き及んでおりますが、“混沌”様はどうされたのです?本来なら、今回の集まりはフルメンバーのはずだったのですよね。 シャオロン:あ~あ~。道化くんは来られるはずだったんだけどねー、急遽別の仕事が入ってしまったらしくて、ドタキャンされちゃったんだよね。 エックス:そうでしたか。“混沌”様も大変ですね。 シャオロン:最近は結構引っ張りだこらしいよ。なんでも【クラウディウス】っていうマフィア組織に相当気に入られてるらしくてね、組織に入らないかって誘いも受けてるんだって。 エックス:なんと、それは存じませんでした。それで、“混沌”様はなんと? シャオロン:「考え中」(シンキングタイム)、だってさ。ちなみにぼくは止めたよ、待たれよ待たれよってね。我が盟友はフリーダムだから何でも許すだろうけど、劇場と殺し屋、それにマフィアを兼業だなんて、草鞋(わらじ)を履く足がないだろう。 エックス:ふふ…、それは確かに。しかし、もし“混沌”様が組織に入ってしまえば、また全員で揃うことがかなり難しくなりそうですね。 シャオロン:ヴェロちゃんが盟友を遠ざけてる今も十分難しいと思うけどね~。 エックス:いえ、それは大丈夫でしょう。 シャオロン:ほう~、その心は? エックス:彼女がモスコミュールを頼んでいたからです。 シャオロン:…なるほど。覚えてないけど、確かにそんな感じだった気がする。エックスはそういうのよく調べてるよね。 エックス:趣味ですよ。迷信めいたものであるとわかってはいても、副業で宝石職人をしている手前、そこを疎かにするのはいただけないかと思いまして。 シャオロン:ストイック~。 エックス:お褒めに預かり光栄です。…ところで少し話が戻りますが、“混沌”様に例の話は既に? シャオロン:いや、まだ話してないよ。だけど、近日中にとっ捕まえてぼくから話す予定さ。盟友はしばらくスケジュールが確保できないらしいから。 エックス:なるほど、把握いたしました。しかし、話を伝えるだけならばわたくしが代わりに―――。 シャオロン:(被せて)だぁ~め。きみも忙しいだろう、エックス。今一番忙しくないのはヴェロちゃんでも道化くんでもなく、休暇扱いで英国からコチラにやってきているぼくだ。伝達の役目は一番手が空いている者が行うものさ。それに、きみのような有能な人材には、猫の手も借りたいほど忙しい我が盟友を、いつだって近くでサポートしていてもらいたいしね。 エックス:…かしこまりました。そしてありがとうございます。預かった役目、必ず果たさせていただきます。 シャオロン:あはは~、生真面目だなあ。そんなに重く受け止めないでいいよ。 エックス:承知いたしました。…と、おかえりなさいませ、ヴェロニカ様。 0:ヴェロニカが喫煙所から帰って来る。 シャオロン:おー、ぼくらのエースが帰ってきた。おかえり。 ヴェロニカ:…そのエースって言うのやめろよ、小っ恥ずかしい…。 シャオロン:あー、ヴェロちゃんが照れてるー、可愛い~。 ヴェロニカ:…やろー。 シャオロン:ねえ、エックスもそう思うよね? エックス:はい。素敵で可愛らしいと思いますよ。 ヴェロニカ:こいつ…っ。ああ、この話やめるぞ!やめなきゃ潰す!脳天割ってやる! シャオロン:あはは~、これは怖い。それじゃあこの話はやめて…、そろそろ本題に入ろうか。 ヴェロニカ:本題だぁ? エックス:実を言うと、本日ヴェロニカ様を誘ったのは、とあるお話をするためだったのですよ。 シャオロン:正確に言えば、本題五割、普通に一緒にお酒を酌み交わしたい五割の半々が正しいんだけどね。 ヴェロニカ:…その話は何絡みの話なんだ? エックス:当然、あの方です。 ヴェロニカ:…はぁ。話せ。 シャオロン:おや、拒否しないんだね~? ヴェロニカ:どうせ首を振ったところで強制参加だろ、その手の話は。だったらその無駄な時間は酒とおしゃべりに使ったほうが有意義だ。 シャオロン:よくお分かりで。それじゃあエックス、説明はお願いしてもいいかい? エックス:勿論です。それでは事の発端から参りましょう。ヴェロニカ様は、あの方が一年ほど前からとある女性に接触していることをご存知ですか。 ヴェロニカ:ああ、話は聞いてるよ。元々金を持ってた女に金を投資して、大富豪にしちまったんだろ。あの“守銭奴”と呼ばれるようなヤツが金を貸すんでもなく投資するとは、どういう風の吹き回しかと思っていたが。 エックス:ありがとうございます。ならば、そこの説明は不要ですね。では次に。遡ること二か月と少し前、その女性が率いる少数チームのメンバーが、とある組織と接触しました。組織名は『セクト』、と言うそうです。 ヴェロニカ:『セクト』?聞いたことがねえな。 エックス:それもそのはずです。どうやらセクトは二年ほど前から今日にいたるまで完璧な情報統制を敷いており、普通の手段で情報を入手することは不可能らしいのです。そして、そんな『セクト』の一員が、女性のチームのメンバーに殺害予告を言い放ちました。 ヴェロニカ:…そいつは凄いな。だがしかし、この話が出回ったってことはどっかで綻(ほころ)んだのか。 エックス:ええ。一か月前にその女性のチームとはまた別の方々がセクトの情報を入手したそうで、そこと交渉をすることで情報を得ることに成功したようです。そちらの方々もセクトと接触し、絶対に殺す、みたいなことを言われていたようですね。そして、その交渉にはあの方も同席していました。 ヴェロニカ:ふぅん。…まあ、大体読めたが、続きを頼む。 エックス:はい。二週間前に行われた交渉で、大富豪の女性のチームと情報を得たチームは次の条件でまとまりました。一つ、セクトの件がひと段落するまでお互いに協力し合うこと。二つ、裏切りは許さないこと。そして三つ…、あの方の親しい部下…、つまり我々もセクトの問題を解決するために動くこと。 ヴェロニカ:…なるほど。よくわかった。つまりアタシたちは、勝手に抗争に巻き込まれたってわけだな。 エックス:端的に言えばそうなります。…ですので、近日中にその隠密している組織を探す仕事が始まります。駆り出されるメンバーはわたくしとヴェロニカ様、シャオロン様と“混沌”様のいつもの四人。 ヴェロニカ:ったく…、マジで勝手なことしてくれるな、あの野郎。次会ったら二発殴る。 シャオロン:でもさヴェロちゃん、逆に考えてみてよ。これはまたとない機会じゃないかい。 ヴェロニカ:ああ?何がだよ。 シャオロン:さっき、お酒が出される前に少し話しただろう?今のゆったりとした生活もいいけど、昔みたいな激動の日々が恋しくもあるよね~、みたいなこと。…今回ぼくらが任されたのは、違反者の処理でもなく、テキトーなシノギでもない、きちんと実力を持った敵組織との抗争。これはまさに、ぼくたちが心の奥底で願っていた忙しないあの頃のような仕事だ。そうだろう? ヴェロニカ:…そう、だな。 シャオロン:そう考えれば、ねえ?エックス。 エックス:…はい。わたくしは、血が騒いでしまいます。ヴェロニカ様はいかがですか。…昔のような忙しない日々を、再び体験してみたくはありませんか。 ヴェロニカ:…はっ。お前たち、戦闘狂過ぎんだろ。それはアタシの出自を知って言ってんのか?だとしたら…、ハハ、ハハハハ。ああ。最高だな。…いいぜ、やってやろうじゃねえか。要はそのセクトってやつらを探し出して全員の息の根を止めりゃいいんだろ? シャオロン:そゆこと。どうやらやる気を出してくれたみたいだねぇ。 ヴェロニカ:あいつの無茶ぶりを聞かなきゃなんねえのは本意じゃない。だが…、今回に限っては喜んで引き受けてやる。緩やかな日常にも適度な刺激は必要だからな。 エックス:ふふ…。心なしか、ヴェロニカ様の眼に闘志が灯っているように感じます。これは、再びヴェロニカ様の勇姿が見れる日も近いかもしれませんね。 シャオロン:再びヴェロちゃんやエックスと共に本気で戦える日が来るかもしれないなんて、嬉しいよ。 ヴェロニカ:しっかし…、あの野郎は本当に何がしたいんだ?女に投資したのも、今回の話も、最終目的が一切読めねえ。行動がチープで陳腐でちんぷんかんぷんだ。 シャオロン:何言ってるの、ヴェロちゃん。我が盟友はエクスペンシヴだよ、相当ね。エックスもそう思うだろう? エックス:ええ、それは間違いありません。あの方の敷居が高く、名声が今も声高らかに響いているからこそ、わたくしたちは素晴らしいエクスペリエンスをさせて貰えているのですから。 ヴェロニカ:その代わり、あいつの大権まがいの命令に振り回されるのはクソムカつくけどな。 エックス:ふふ…、まあ、それはご愛嬌ということで。 ヴェロニカ:だからあれに愛しい要素は皆無だろうが。 シャオロン:フフ、なんだかデジャヴだねぇ。…ちなみにこれはぼくの話なんだけど、実は今回の仕事で楽しみなことがもう一つある。 エックス:そうなのですか? シャオロン:実は一か月前の英国で、我が盟友が投資しているチームの一員とバッタリ出くわしてさ。その出会った彼…、彼女?中性的だったからどっちかわからないけれど、あの子からは底知れない何かを感じてね。今回の仕事やこれからの付き合いでまた話したり共闘することになるだろうから、それが楽しみなのさ。 ヴェロニカ:へぇ。お前が言うんなら逸材なんだろうな。名前はなんて言うんだ? シャオロン:コードネーム、“深淵”。まあ出会えばすぐワカルさ。雰囲気もまさにって感じだからね。きっとヴェロちゃんやエックスも気に入ると思う。…でも、一番気が合いそうなのは道化くんかな~。 エックス:なるほど、“深淵”と“混沌”…、確かに似ていますが、確実に非なるもの。 シャオロン:面白そうだろう~?フライングであんな興味深い子を知れて嬉しい限りだよ、ぼくは。 エックス:シャオロン様がそれほど絶賛されるとは…、その名前、記憶しておきます。 シャオロン:うん、是非そうしてほしい。さて…、本題は以上だよ。最後に何か質問、あったりする? ヴェロニカ:なんだその聞き方、説明会か講義かなんかかよ。門外漢(もんがいかん)で恐縮ですが…、なんて、アタシが言うと思うか? シャオロン:一応の確認だとも。じゃ、特にないということで。それでは話は終わり、ここから先はお酒とともに、様々な話の花を咲かせるとしよう。 ヴェロニカ:…ふっ、ああ。そうだな。……(モスコミュールを飲み干して)っあぁ…。美味い。バーテン、もう一杯モスコミュールをくれ。 シャオロン:おやおや。 エックス:ふふ…、一気飲みは体調を壊してしまいますよ。 ヴェロニカ:大丈夫だよ、ちゃんと研究したからな。いろんなカクテルや酒を試して、自分に合わない酒は把握済みだ。 シャオロン:勤勉~。 エックス:ヴェロニカ様がお酒にお詳しいのはそういうことだったのですね。 ヴェロニカ:まあな。 0:モスコミュールが再び運ばれてくる。 ヴェロニカ:おっと、ありがとうなバーテン。流石仕事が早くて助かる。…さて、そんじゃあここからは正真正銘の飲み会と洒落込もうか。 シャオロン:そうだねぇ。ぼくがいなかったこの一年半で一体どんなことがあったのか、詳しく聞かせてほしい。 エックス:わたくしはシャオロン様の英国でのお話も楽しみにしておりますよ。 シャオロン:勿論。話したいことは山ほどある、飽きさせないことを約束するよ。それじゃあ改めて、乾杯を。 エックス:はい。 : エックス:…仲間との再会と、新たな物語の始まりに。 : ヴェロニカ:はぁ…。ったく。…美味い酒と、スウィングジャズを纏う他愛もない会話に。 : シャオロン:懐かしい記憶と、我が盟友。“財貨の怪物”、ジャバウォックに。乾杯。 : 0:揃ったカードは三枚。いつか必ず、最強の役は再び揃う。 : 0:End

0:夜。暗い路地裏に、ファーコートを纏った女性が一人。 0:足元には数人の死体が転がっている。女性はおもむろにたばこを取り出し、ジッポライターで火をつける。そして、携帯電話を取りだし―――。 ヴェロニカ:(電話をかける)…もしもし、ヴェロニカだ。言われた通り目標を始末したんで連絡を入れた。場所は通りのグラフィティがある壁の隣の路地、それでわかんだろ?…はっ、「ご苦労」、ねぇ…。そりゃ大層ご苦労な働きをしたぜ、アタシは。(たばこを吸って、吐く)気兼ねなく家で晩酌してたらいきなり“偉大なる守銭奴サマ”に至急の用事だ何だと言われて呼び出され、クソの掃除をしなくちゃあいけなくなったんだからな。それもアタシがわざわざ足を運ぶ必要がないくらい雑魚。どうせテメェの頭のおかしい契約を違えた阿呆ギャングかそこらだろうが。こんなクソみたいな仕事をわざわざアタシにやらせたんだ、今回の報酬はたっぷり弾んでくれるんだろうなあ、ウォッ―――。(電話が切れる) ヴェロニカ:チッ、あの野郎切りやがった…!次会ったら絶対に一発殴るっ…!! シャオロン:アハハ~、どうやらかなりご立腹だね~? ヴェロニカ:…なに?その声は―――。 0:振り返ると、そこにはチャイナ服に丸サングラスをした、胡散臭そうな人物が立っていた。 シャオロン:你好(ニーハオ)~。 ヴェロニカ:…シャオロン。 シャオロン:いえーす、君の親友、シャオロンくんだよぉ。久しぶりだね、ヴェロちゃん。 ヴェロニカ:その呼称はやめろと何度も言っているはずだが。 シャオロン:えぇ~、いいじゃん。可愛らしいだろう。それに、きみもホンキで嫌がってるカンジじゃないしねぇ。内心は嬉しかったりするんじゃないの、そこらへんどーなの、ねぇねぇ。 ヴェロニカ:潰す。 シャオロン:おっとと。これは怖い。ゴメンナサイ。気をつけまーす。 ヴェロニカ:……はぁぁ。…というか、なんでお前がここに居る。お前は確か英国に滞在してたはずだろ。それに、どうしてアタシがここに居ることを知ってるんだ。 シャオロン:その二つとも答えは凡庸、シンプルさ。ぼくがここに居るのは我が盟友に呼ばれたから。きみがここに居るのを知っているのは、盟友に急な招集を受けてぷっつんしてるきみの後ろを追跡してたから~。 ヴェロニカ:…あたしの後を?なんのために。 シャオロン:きみとお話をするため。 ヴェロニカ:用件なら手短にしろ。アタシはさっさと家に帰って飲み直さなきゃいけないんだ。 シャオロン:ざざざ残念。それは無理なご相談だね。 ヴェロニカ:あ? シャオロン:なぜならば…、きみには今からぼくと一緒に酒の席についてもらうから。 ヴェロニカ:…アタシに飲みに付き合えと? シャオロン:そゆこと。勿論お金はぼくが出そう。ダメかな。一人飲みの気分だったりする? ヴェロニカ:…いや。構わねえ。一人酒より仲間といるほうが好きだし、久しぶりにお前に会えたことだしな。 シャオロン:お、やったね。ヴェロちゃん確保ー。 ヴェロニカ:しかし言っておくが、アイツが先に居たり後から来たりしたら問答無用で帰るからな。 シャオロン:そこはご安心。とは言っても、実は誘ってたんだけどね。どうやら我が盟友は膨大な仕事に追われているらしく、今回はパスとのことだ。 ヴェロニカ:…ならいい。 シャオロン:にしてもヴェロちゃん、まだそんなに盟友のこと嫌い? ヴェロニカ:当たり前だろ。今日だってあのクソ野郎に急に呼び出されて雑魚の処理をする羽目になったんだ。 シャオロン:アハハ~。まあ人使い荒いからねぇ、盟友は。そこはご愛嬌だろう。 ヴェロニカ:舐めんな、どこも愛くるしくないだろあんなもん。 シャオロン:フフ、そうかもねぇ…。さあてさて、立ち話はこの辺にして、そろそろお店に移動するとしよう!これ以上待たせると流石の彼も怒りそうだしね。 ヴェロニカ:あぁ?サシ飲みじゃねえのかよ。 シャオロン:ん?そうだよ~?もう一人だけね。さ、お店へレッツゴーだ! ヴェロニカ:…ったく、なんでアタシの知り合いは説明が足りねえヤツばっかりなんだ―――。 シャオロン:(ヴェロニカの台詞の途中から鼻歌)~♪ 0:既に歩き出しているシャオロン。 ヴェロニカ:―――って、おい!置いてくんじゃねえー! 0:場面転換。良い雰囲気のバーに到着する二人。 シャオロン:着いた、ここが目的地だよ。 ヴェロニカ:…へぇ、このあたりにこんな洒落た雰囲気のバーがあるとはな。 シャオロン:知らなかったでしょ?立地的に建物自体がかなり隠れてるから、まさに知る人ぞ知る名店なのさ。 エックス:お待ちしておりました、シャオロン様。 0:店の中から二人を出迎えたのは、四角い眼鏡をかけ、スタンダードなスーツを身に纏う黒人の男性。 ヴェロニカ:な…。 シャオロン:待たせちゃってごめんねエックス~。ちょっとヴェロちゃんを口説くのに時間かかっちゃってさ。 エックス:まったく問題ありません。お久しぶりです、ヴェロニカ様。 ヴェロニカ:…お前がシャオロンの言ってたもうひとりか? エックス:はい。もしや、ご不満だったでしょうか。 ヴェロニカ:いや、そんなことはねえ。お前を嫌う理由はない。…ただ、珍しいと思ったんだ。お前はいつも仕事に追われてるし、酒もそんな得意じゃなかったろ。 エックス:ええ。ですが、せっかくシャオロン様がこちらにいらっしゃったのです。たまには仕事を休め、共にお酒を嗜むのも良いかと思いまして。あの方も許可を出してくださいましたので、本日はご一緒する運びとなりました。 ヴェロニカ:んなもんいちいち聞かなくたっていいだろうに…、本当に真面目だよな、お前。 エックス:お褒めの言葉として受け取ります。さて積もる話もありますが、外は冷えますし、この先はお店の中で。待っている間に席は取っておきました。 シャオロン:おお、ありがとう。流石はエックス、助かるよ。さ、それでは三名様ご来店~。 ヴェロニカ:ファミレスかよ。 0:店に入り、席に着く三人。 シャオロン:マスター、ぼくは楊貴妃(ようきひ)を貰おうか。二人はどうする? エックス:わたくしはエメラルド・ミストをお願いします。 ヴェロニカ:アタシは…、そうだな。モスコミュールをくれ。 0:バーテンダーが「かしこまりました」と答えグラスを用意し始めた。 シャオロン:なんだか懐かしい気分だよ。こうして集まるのって、どれくらいぶりだったっけ。 エックス:シャオロン様が英国に移ってから一年半ほどですから、それくらいかと。 ヴェロニカ:マジか。つい数か月前にシャオロンを空港で見送ったような感覚なんだが…、そんな経つのか。 エックス:わたくしも同感です。あの頃のような激動の毎日という訳でもないのに…。時の流れと言うのは面白いですね。 ヴェロニカ:しかしそうなると、あの野郎が突拍子もなく「会社を起業する」だとか言い出しやがったのももう三年前か。 エックス:そうなりますね。 シャオロン:早いなあ。まったく、時というものは残酷だ。だけど同時に、美しくもある。…きみたちもそう思わないかい? ヴェロニカ:…急に何言ってんだ、お前。 シャオロン:いつもの世迷言(よまいごと)さ~。だけど…、時間の流れにも負けず、我が盟友たちとの栄光は永久に不滅なのだろうと、再び思っただけだとも。 ヴェロニカ:お前なあ。まだ酒も入ってねえのに語り部か?流石に早すぎるだろ。 エックス:きっとシャオロン様は久しぶりの再会を噛みしめてらっしゃるのですよ。我々はあの方と共に凄まじい激動の日々を生き抜き、伝説を遺し、富を得ました。あの日々と比べれば今の生活はとても緩やかで、趣味や仕事に打ち込む日常も板についてきました。しかし、あるのですよ。海馬と網膜に焼き付いた、忙しないあの頃の記憶に思いを馳せる時が。…そしてそれはきっと、貴女にも。 ヴェロニカ:……なんだよ、エックス。お前も懐古モードか。…ま、否定はしねえ。あの日々はアタシにとって最悪だった。殺って殺られて身を潜めて、場所を移しても殺して騙して騙されて。…なーんてやってたあのクソみたいな日々の刺激が、安息を得た今となっちゃあちょいと恋しい。あんな経験は二度とゴメンだがな。 0:しばしの沈黙。それを破ったのは、三人のうちの誰でもなく。 0:「お待たせいたしました。」 シャオロン:…ん?おっとと、謝謝(シェイシェイ)、バーテンダーさん。三人分だって言うのに早いね。ドウゾ、是非チップを受け取ってほしい。ほ~ら二人とも、お酒が来たよ。 エックス:ありがとうございます。…これは素晴らしい。前評判通り、綺麗なエメラルド色ですね。 ヴェロニカ:…乾杯、するか。 エックス:そうですね。シャオロン様。 シャオロン:うん。それじゃ、再びここに集えたことに。 : シャオロン:乾杯。 : ヴェロニカ:乾杯。 : エックス:乾杯。 : 0:グラスが合わさる音は鳴らない。三人は小さくグラスを掲げると、そのまま口へと運んだ。 シャオロン:…ん~、好喝(ハオフー)。 エックス:これはなかなか…。流石、シャオロン様の行きつけなだけありますね。 ヴェロニカ:ああ。こんな穴場があるとはな…。おいシャオロン、さっきの言い方的にお前、英国に行く前に既にここ知ってただろ。なんでアタシに教えてくれなかったんだ。 シャオロン:だってぼくこのお店、我が盟友に教えてもらったんだもん。きみに勧めたらいつかきっと盟友と鉢合わせするだろうし、それで文句を言われたらイヤだなあと思って~。 ヴェロニカ:…ならいい、悪かった。 エックス:ふふ…。流石、シャオロン様はヴェロニカ様のことをよくわかっていらっしゃいますね。 シャオロン:当然だろう?盟友とヴェロちゃんの仲を良くしたのは紛れもないこのぼくだからね! ヴェロニカ:今でもアイツと仲良くしているつもりはないっ! シャオロン:おっと、そ~れは失礼いたしました。 ヴェロニカ:…ったく。あー、ここってたばこ吸えんのか? エックス:残念ながら禁煙のようです。喫煙スペースは…、どうやらお店の外にあるようですよ。 ヴェロニカ:マジかよ。…仕方ない、少し吸って来る。 シャオロン:いってらっしゃ~い。 0:ヴェロニカが離席する。 エックス:…シャオロン様。 シャオロン:なんだいエックス。 エックス:本日、あの方が来られなかったのは仕事が多忙の為と聞き及んでおりますが、“混沌”様はどうされたのです?本来なら、今回の集まりはフルメンバーのはずだったのですよね。 シャオロン:あ~あ~。道化くんは来られるはずだったんだけどねー、急遽別の仕事が入ってしまったらしくて、ドタキャンされちゃったんだよね。 エックス:そうでしたか。“混沌”様も大変ですね。 シャオロン:最近は結構引っ張りだこらしいよ。なんでも【クラウディウス】っていうマフィア組織に相当気に入られてるらしくてね、組織に入らないかって誘いも受けてるんだって。 エックス:なんと、それは存じませんでした。それで、“混沌”様はなんと? シャオロン:「考え中」(シンキングタイム)、だってさ。ちなみにぼくは止めたよ、待たれよ待たれよってね。我が盟友はフリーダムだから何でも許すだろうけど、劇場と殺し屋、それにマフィアを兼業だなんて、草鞋(わらじ)を履く足がないだろう。 エックス:ふふ…、それは確かに。しかし、もし“混沌”様が組織に入ってしまえば、また全員で揃うことがかなり難しくなりそうですね。 シャオロン:ヴェロちゃんが盟友を遠ざけてる今も十分難しいと思うけどね~。 エックス:いえ、それは大丈夫でしょう。 シャオロン:ほう~、その心は? エックス:彼女がモスコミュールを頼んでいたからです。 シャオロン:…なるほど。覚えてないけど、確かにそんな感じだった気がする。エックスはそういうのよく調べてるよね。 エックス:趣味ですよ。迷信めいたものであるとわかってはいても、副業で宝石職人をしている手前、そこを疎かにするのはいただけないかと思いまして。 シャオロン:ストイック~。 エックス:お褒めに預かり光栄です。…ところで少し話が戻りますが、“混沌”様に例の話は既に? シャオロン:いや、まだ話してないよ。だけど、近日中にとっ捕まえてぼくから話す予定さ。盟友はしばらくスケジュールが確保できないらしいから。 エックス:なるほど、把握いたしました。しかし、話を伝えるだけならばわたくしが代わりに―――。 シャオロン:(被せて)だぁ~め。きみも忙しいだろう、エックス。今一番忙しくないのはヴェロちゃんでも道化くんでもなく、休暇扱いで英国からコチラにやってきているぼくだ。伝達の役目は一番手が空いている者が行うものさ。それに、きみのような有能な人材には、猫の手も借りたいほど忙しい我が盟友を、いつだって近くでサポートしていてもらいたいしね。 エックス:…かしこまりました。そしてありがとうございます。預かった役目、必ず果たさせていただきます。 シャオロン:あはは~、生真面目だなあ。そんなに重く受け止めないでいいよ。 エックス:承知いたしました。…と、おかえりなさいませ、ヴェロニカ様。 0:ヴェロニカが喫煙所から帰って来る。 シャオロン:おー、ぼくらのエースが帰ってきた。おかえり。 ヴェロニカ:…そのエースって言うのやめろよ、小っ恥ずかしい…。 シャオロン:あー、ヴェロちゃんが照れてるー、可愛い~。 ヴェロニカ:…やろー。 シャオロン:ねえ、エックスもそう思うよね? エックス:はい。素敵で可愛らしいと思いますよ。 ヴェロニカ:こいつ…っ。ああ、この話やめるぞ!やめなきゃ潰す!脳天割ってやる! シャオロン:あはは~、これは怖い。それじゃあこの話はやめて…、そろそろ本題に入ろうか。 ヴェロニカ:本題だぁ? エックス:実を言うと、本日ヴェロニカ様を誘ったのは、とあるお話をするためだったのですよ。 シャオロン:正確に言えば、本題五割、普通に一緒にお酒を酌み交わしたい五割の半々が正しいんだけどね。 ヴェロニカ:…その話は何絡みの話なんだ? エックス:当然、あの方です。 ヴェロニカ:…はぁ。話せ。 シャオロン:おや、拒否しないんだね~? ヴェロニカ:どうせ首を振ったところで強制参加だろ、その手の話は。だったらその無駄な時間は酒とおしゃべりに使ったほうが有意義だ。 シャオロン:よくお分かりで。それじゃあエックス、説明はお願いしてもいいかい? エックス:勿論です。それでは事の発端から参りましょう。ヴェロニカ様は、あの方が一年ほど前からとある女性に接触していることをご存知ですか。 ヴェロニカ:ああ、話は聞いてるよ。元々金を持ってた女に金を投資して、大富豪にしちまったんだろ。あの“守銭奴”と呼ばれるようなヤツが金を貸すんでもなく投資するとは、どういう風の吹き回しかと思っていたが。 エックス:ありがとうございます。ならば、そこの説明は不要ですね。では次に。遡ること二か月と少し前、その女性が率いる少数チームのメンバーが、とある組織と接触しました。組織名は『セクト』、と言うそうです。 ヴェロニカ:『セクト』?聞いたことがねえな。 エックス:それもそのはずです。どうやらセクトは二年ほど前から今日にいたるまで完璧な情報統制を敷いており、普通の手段で情報を入手することは不可能らしいのです。そして、そんな『セクト』の一員が、女性のチームのメンバーに殺害予告を言い放ちました。 ヴェロニカ:…そいつは凄いな。だがしかし、この話が出回ったってことはどっかで綻(ほころ)んだのか。 エックス:ええ。一か月前にその女性のチームとはまた別の方々がセクトの情報を入手したそうで、そこと交渉をすることで情報を得ることに成功したようです。そちらの方々もセクトと接触し、絶対に殺す、みたいなことを言われていたようですね。そして、その交渉にはあの方も同席していました。 ヴェロニカ:ふぅん。…まあ、大体読めたが、続きを頼む。 エックス:はい。二週間前に行われた交渉で、大富豪の女性のチームと情報を得たチームは次の条件でまとまりました。一つ、セクトの件がひと段落するまでお互いに協力し合うこと。二つ、裏切りは許さないこと。そして三つ…、あの方の親しい部下…、つまり我々もセクトの問題を解決するために動くこと。 ヴェロニカ:…なるほど。よくわかった。つまりアタシたちは、勝手に抗争に巻き込まれたってわけだな。 エックス:端的に言えばそうなります。…ですので、近日中にその隠密している組織を探す仕事が始まります。駆り出されるメンバーはわたくしとヴェロニカ様、シャオロン様と“混沌”様のいつもの四人。 ヴェロニカ:ったく…、マジで勝手なことしてくれるな、あの野郎。次会ったら二発殴る。 シャオロン:でもさヴェロちゃん、逆に考えてみてよ。これはまたとない機会じゃないかい。 ヴェロニカ:ああ?何がだよ。 シャオロン:さっき、お酒が出される前に少し話しただろう?今のゆったりとした生活もいいけど、昔みたいな激動の日々が恋しくもあるよね~、みたいなこと。…今回ぼくらが任されたのは、違反者の処理でもなく、テキトーなシノギでもない、きちんと実力を持った敵組織との抗争。これはまさに、ぼくたちが心の奥底で願っていた忙しないあの頃のような仕事だ。そうだろう? ヴェロニカ:…そう、だな。 シャオロン:そう考えれば、ねえ?エックス。 エックス:…はい。わたくしは、血が騒いでしまいます。ヴェロニカ様はいかがですか。…昔のような忙しない日々を、再び体験してみたくはありませんか。 ヴェロニカ:…はっ。お前たち、戦闘狂過ぎんだろ。それはアタシの出自を知って言ってんのか?だとしたら…、ハハ、ハハハハ。ああ。最高だな。…いいぜ、やってやろうじゃねえか。要はそのセクトってやつらを探し出して全員の息の根を止めりゃいいんだろ? シャオロン:そゆこと。どうやらやる気を出してくれたみたいだねぇ。 ヴェロニカ:あいつの無茶ぶりを聞かなきゃなんねえのは本意じゃない。だが…、今回に限っては喜んで引き受けてやる。緩やかな日常にも適度な刺激は必要だからな。 エックス:ふふ…。心なしか、ヴェロニカ様の眼に闘志が灯っているように感じます。これは、再びヴェロニカ様の勇姿が見れる日も近いかもしれませんね。 シャオロン:再びヴェロちゃんやエックスと共に本気で戦える日が来るかもしれないなんて、嬉しいよ。 ヴェロニカ:しっかし…、あの野郎は本当に何がしたいんだ?女に投資したのも、今回の話も、最終目的が一切読めねえ。行動がチープで陳腐でちんぷんかんぷんだ。 シャオロン:何言ってるの、ヴェロちゃん。我が盟友はエクスペンシヴだよ、相当ね。エックスもそう思うだろう? エックス:ええ、それは間違いありません。あの方の敷居が高く、名声が今も声高らかに響いているからこそ、わたくしたちは素晴らしいエクスペリエンスをさせて貰えているのですから。 ヴェロニカ:その代わり、あいつの大権まがいの命令に振り回されるのはクソムカつくけどな。 エックス:ふふ…、まあ、それはご愛嬌ということで。 ヴェロニカ:だからあれに愛しい要素は皆無だろうが。 シャオロン:フフ、なんだかデジャヴだねぇ。…ちなみにこれはぼくの話なんだけど、実は今回の仕事で楽しみなことがもう一つある。 エックス:そうなのですか? シャオロン:実は一か月前の英国で、我が盟友が投資しているチームの一員とバッタリ出くわしてさ。その出会った彼…、彼女?中性的だったからどっちかわからないけれど、あの子からは底知れない何かを感じてね。今回の仕事やこれからの付き合いでまた話したり共闘することになるだろうから、それが楽しみなのさ。 ヴェロニカ:へぇ。お前が言うんなら逸材なんだろうな。名前はなんて言うんだ? シャオロン:コードネーム、“深淵”。まあ出会えばすぐワカルさ。雰囲気もまさにって感じだからね。きっとヴェロちゃんやエックスも気に入ると思う。…でも、一番気が合いそうなのは道化くんかな~。 エックス:なるほど、“深淵”と“混沌”…、確かに似ていますが、確実に非なるもの。 シャオロン:面白そうだろう~?フライングであんな興味深い子を知れて嬉しい限りだよ、ぼくは。 エックス:シャオロン様がそれほど絶賛されるとは…、その名前、記憶しておきます。 シャオロン:うん、是非そうしてほしい。さて…、本題は以上だよ。最後に何か質問、あったりする? ヴェロニカ:なんだその聞き方、説明会か講義かなんかかよ。門外漢(もんがいかん)で恐縮ですが…、なんて、アタシが言うと思うか? シャオロン:一応の確認だとも。じゃ、特にないということで。それでは話は終わり、ここから先はお酒とともに、様々な話の花を咲かせるとしよう。 ヴェロニカ:…ふっ、ああ。そうだな。……(モスコミュールを飲み干して)っあぁ…。美味い。バーテン、もう一杯モスコミュールをくれ。 シャオロン:おやおや。 エックス:ふふ…、一気飲みは体調を壊してしまいますよ。 ヴェロニカ:大丈夫だよ、ちゃんと研究したからな。いろんなカクテルや酒を試して、自分に合わない酒は把握済みだ。 シャオロン:勤勉~。 エックス:ヴェロニカ様がお酒にお詳しいのはそういうことだったのですね。 ヴェロニカ:まあな。 0:モスコミュールが再び運ばれてくる。 ヴェロニカ:おっと、ありがとうなバーテン。流石仕事が早くて助かる。…さて、そんじゃあここからは正真正銘の飲み会と洒落込もうか。 シャオロン:そうだねぇ。ぼくがいなかったこの一年半で一体どんなことがあったのか、詳しく聞かせてほしい。 エックス:わたくしはシャオロン様の英国でのお話も楽しみにしておりますよ。 シャオロン:勿論。話したいことは山ほどある、飽きさせないことを約束するよ。それじゃあ改めて、乾杯を。 エックス:はい。 : エックス:…仲間との再会と、新たな物語の始まりに。 : ヴェロニカ:はぁ…。ったく。…美味い酒と、スウィングジャズを纏う他愛もない会話に。 : シャオロン:懐かしい記憶と、我が盟友。“財貨の怪物”、ジャバウォックに。乾杯。 : 0:揃ったカードは三枚。いつか必ず、最強の役は再び揃う。 : 0:End