台本概要

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タイトル 「どこかの世界の貴方へ」
作者名 つるば香澄  (@sumiakarinokoe)
ジャンル その他
演者人数 1人用台本(不問1)
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 「どこかの世界の貴方」にあてた手紙です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
不問 22 手紙を書いた人
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
「どこかの世界の貴方へ」: : 私:拝啓、 私:こちらの世界は温度の変化が酷かった日々を越して、静かな日が続くようになりました。 私:そちらの気候、人口、生物はお変わりありませんでしょうか。 : 私:先日、愚鈍な選択が、鈍感な自分の感覚で、片割れを失いました。 私:…突然すぎましたね。 私:失礼致しました。 : 私:まず、順を追いながら綴ろうかと思います。 私:こちらは、「世界」が終わろうとしています。 私:もう植物は新しい芽を付けようとせず、土はさらさらと湿り気を無くし、雨は有害でとても危険です。 : 私:遺伝子というものがもう、ちぐはぐだそうです。 私:私はこの分野には詳しくないので、こんな形ででしか伝えられないのですが、同じコロニーで過ごした仲間が言っていました。 私:頭がいい人間は、すごいですね。データを残すことが難しくなってきた現状では、人伝ででしか学べず、私にはついていけませんでした。 私:ただ、仲間の表情から、この世界の先がわかりました。 : 私:私の立場は、そうですね…。 私:皆が行けない場所へ行き、場所の現状を有識者に伝える、そんなことをしています。 私:私がせめてできる事です。 : 私:でもこれは私にとっては、充実した時間でした。 : : : 私:とある、かつて有名だった歴史的建物に、 私:新しい生命体だったと思えるものが巻きつき絶命していました。 私:今までの資料にものっていない生命体を、どう言葉にして伝えれば良いのか…。 私:何かに例えるという事が難しいのです。そこは割愛させてください。 私:その生命体の亡骸が建物を支え、それに、ひとつの「美しさ」を感じたのです。 私:生命体には眼の様なものは見つからず、触感でその造形美を理解したのか、など勝手な想像までしました。 私:…ただ安らかな空間であったので、私はこれを他者へは伝えませんでした。 : : 私:ある場所では、不思議な体験をしました。 私:迷い込んだ空洞。 私:何がいるかあるかわからないのでいつも慎重に歩んでいたのに、その空洞では、とても小さいはずの足音がこだましたのです。 : 私:(足音が繰り返す音を声で) 私:ざ…ざ…ざ…ざ… : 私:くらくらするくらい空間中に広がりました。 私:また、静かに進むと、歌声が聞えたのです。 私:そこには、何かが埋まっていそうな地面のふくらみと、枯れた花。 私:そして…人型だったと思える亡骸。 私:歌声がドーム状のそこではリフレインし、まるで…そう、どこか懐かしいメロディに聴えました。 私:これもまた勝手な想像ですが、捧げた歌だったのでは、と。 私:しばらく全く動かず息も殺しました。いえ、自然と呼吸を止めてしまっていました。 私:静かに聞き、不思議な空間を眼に焼き付け、静かに立ち去りました。 : : : 私:そんななか、共にいた片割れが私にはいたのです。 私:その片割れが、時々、「身体で感じたい」と、時折重たい服を脱ぎ、深く息をするのです。 私:ああ、すみません。伝えていませんでしたね。 私:こちらの世界は、全身に隙間のない服と、酸素のボンベが必要です。 私:現在の世界にとって、空気は人類には毒、なのです。 : 私:私の片割れは、命に危険なこと定期的にしていたのです。 私:でも、その全てを外した姿に、 私:「生」と「美しさ」を感じていたのです。 私:片割れは、今とても自由なのだと。 私:もちろん毎回注意はしますし、最初は強く怒りました。 私:「全身で体感したことを伝えるから。」と、ごめんごめんと軽く笑い言う片割れに、何ももう言えませんでした。 私:私も、知りたかったのです。 私:この世界をそのまま、感じた感覚を。 私:動ける人間の少ない中、私まで動けなくなってしまってはいけない。 私:なら、片割れから教えてもらおう、と。 : 私:そして、片割れの笑顔が今まで見た中で一番きれいだった。そんな理由でした。 : : 私:片割れは、そう、最初に伝えてしまったようにもう、いません。 私:…私は、愚鈍でした。 私:…いえ、自分を責めて何かが変わることではないのです。 私:だから、これは、どうしようもない事。 私:そもそも、生命は、世界は終わっていく。片割れの終わりは、早まっただけの事。 : 私:でも、片割れが最後に言ったのです。 私:毒で生きることをやめていく身体で、最後の最後に。 私:「君の知りたいことの、役に立てた?」 : 私:、と。 : 私:一緒にいた片割れ。 私:いつも傍にいた人間の思っている事に気付けもせず、私は世界を追いかけていた。 私:傍にいてくれた人間よりも滅んでいくこの世界が知りたかった。 : : 私:ついさっき、私は片割れと同じように全てを外そうとしました。 私:でも、手が止まりました。 私:ここまできた私にしかできない事。 私:この世界の終わりを見届けたいのです。 : : : 私:…そちらの世界はどうですか。 私:人と人、国と国は、まだ争っていますか。 私:世界に、美しいと思えるものはありますか。 私:それが、毒を孕んでいても、美しいと思える何かが。 : 私:私は、片割れのあの笑顔とともに、最後まで生き抜きます。 私:どうか、私と同じ世界ではない貴方に、祝福を。 私:後悔が残っても、皮肉な運命を感じても、 私:命を最後まで貴方らしく、美しく生き抜いてください。 : : 私:とある、もう無い古い国の文化の形式で終わります。 私:世界の違う貴方と私を、敬意で結びたいと思います。 私:貴方と私に「また」がある事を願います。 : : 私: 敬具 私: 私: 某日。 私: 私:終わろうとする世界で片割れと最後を見届ける者より。 私: 私:何処かの世界の貴方へ。 : :

「どこかの世界の貴方へ」: : 私:拝啓、 私:こちらの世界は温度の変化が酷かった日々を越して、静かな日が続くようになりました。 私:そちらの気候、人口、生物はお変わりありませんでしょうか。 : 私:先日、愚鈍な選択が、鈍感な自分の感覚で、片割れを失いました。 私:…突然すぎましたね。 私:失礼致しました。 : 私:まず、順を追いながら綴ろうかと思います。 私:こちらは、「世界」が終わろうとしています。 私:もう植物は新しい芽を付けようとせず、土はさらさらと湿り気を無くし、雨は有害でとても危険です。 : 私:遺伝子というものがもう、ちぐはぐだそうです。 私:私はこの分野には詳しくないので、こんな形ででしか伝えられないのですが、同じコロニーで過ごした仲間が言っていました。 私:頭がいい人間は、すごいですね。データを残すことが難しくなってきた現状では、人伝ででしか学べず、私にはついていけませんでした。 私:ただ、仲間の表情から、この世界の先がわかりました。 : 私:私の立場は、そうですね…。 私:皆が行けない場所へ行き、場所の現状を有識者に伝える、そんなことをしています。 私:私がせめてできる事です。 : 私:でもこれは私にとっては、充実した時間でした。 : : : 私:とある、かつて有名だった歴史的建物に、 私:新しい生命体だったと思えるものが巻きつき絶命していました。 私:今までの資料にものっていない生命体を、どう言葉にして伝えれば良いのか…。 私:何かに例えるという事が難しいのです。そこは割愛させてください。 私:その生命体の亡骸が建物を支え、それに、ひとつの「美しさ」を感じたのです。 私:生命体には眼の様なものは見つからず、触感でその造形美を理解したのか、など勝手な想像までしました。 私:…ただ安らかな空間であったので、私はこれを他者へは伝えませんでした。 : : 私:ある場所では、不思議な体験をしました。 私:迷い込んだ空洞。 私:何がいるかあるかわからないのでいつも慎重に歩んでいたのに、その空洞では、とても小さいはずの足音がこだましたのです。 : 私:(足音が繰り返す音を声で) 私:ざ…ざ…ざ…ざ… : 私:くらくらするくらい空間中に広がりました。 私:また、静かに進むと、歌声が聞えたのです。 私:そこには、何かが埋まっていそうな地面のふくらみと、枯れた花。 私:そして…人型だったと思える亡骸。 私:歌声がドーム状のそこではリフレインし、まるで…そう、どこか懐かしいメロディに聴えました。 私:これもまた勝手な想像ですが、捧げた歌だったのでは、と。 私:しばらく全く動かず息も殺しました。いえ、自然と呼吸を止めてしまっていました。 私:静かに聞き、不思議な空間を眼に焼き付け、静かに立ち去りました。 : : : 私:そんななか、共にいた片割れが私にはいたのです。 私:その片割れが、時々、「身体で感じたい」と、時折重たい服を脱ぎ、深く息をするのです。 私:ああ、すみません。伝えていませんでしたね。 私:こちらの世界は、全身に隙間のない服と、酸素のボンベが必要です。 私:現在の世界にとって、空気は人類には毒、なのです。 : 私:私の片割れは、命に危険なこと定期的にしていたのです。 私:でも、その全てを外した姿に、 私:「生」と「美しさ」を感じていたのです。 私:片割れは、今とても自由なのだと。 私:もちろん毎回注意はしますし、最初は強く怒りました。 私:「全身で体感したことを伝えるから。」と、ごめんごめんと軽く笑い言う片割れに、何ももう言えませんでした。 私:私も、知りたかったのです。 私:この世界をそのまま、感じた感覚を。 私:動ける人間の少ない中、私まで動けなくなってしまってはいけない。 私:なら、片割れから教えてもらおう、と。 : 私:そして、片割れの笑顔が今まで見た中で一番きれいだった。そんな理由でした。 : : 私:片割れは、そう、最初に伝えてしまったようにもう、いません。 私:…私は、愚鈍でした。 私:…いえ、自分を責めて何かが変わることではないのです。 私:だから、これは、どうしようもない事。 私:そもそも、生命は、世界は終わっていく。片割れの終わりは、早まっただけの事。 : 私:でも、片割れが最後に言ったのです。 私:毒で生きることをやめていく身体で、最後の最後に。 私:「君の知りたいことの、役に立てた?」 : 私:、と。 : 私:一緒にいた片割れ。 私:いつも傍にいた人間の思っている事に気付けもせず、私は世界を追いかけていた。 私:傍にいてくれた人間よりも滅んでいくこの世界が知りたかった。 : : 私:ついさっき、私は片割れと同じように全てを外そうとしました。 私:でも、手が止まりました。 私:ここまできた私にしかできない事。 私:この世界の終わりを見届けたいのです。 : : : 私:…そちらの世界はどうですか。 私:人と人、国と国は、まだ争っていますか。 私:世界に、美しいと思えるものはありますか。 私:それが、毒を孕んでいても、美しいと思える何かが。 : 私:私は、片割れのあの笑顔とともに、最後まで生き抜きます。 私:どうか、私と同じ世界ではない貴方に、祝福を。 私:後悔が残っても、皮肉な運命を感じても、 私:命を最後まで貴方らしく、美しく生き抜いてください。 : : 私:とある、もう無い古い国の文化の形式で終わります。 私:世界の違う貴方と私を、敬意で結びたいと思います。 私:貴方と私に「また」がある事を願います。 : : 私: 敬具 私: 私: 某日。 私: 私:終わろうとする世界で片割れと最後を見届ける者より。 私: 私:何処かの世界の貴方へ。 : :