台本概要
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タイトル | 【R15・BL】極道オメガバース年下攻め |
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作者名 | しーたけ (@shiitake8888888) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 3人用台本(男3) ※兼役あり |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
【上演許可】無料配信での利用(投げ銭は有料に含みません)に関しては連絡なしで使って頂いて構いません。 よければDMなどでお知らせ頂くと作者の励みになります。 【アドリブ】過度なアドリブ、改変はNGです。語尾などを少し変える等は各自の判断にお任せします。 【性別変更】× 【上演時間】約45分 【男女比】♂3(変更不可)演者の方の性別は問いません。 親父役の方が医者役も兼ねる想定で3人台本としております。(人数変更可) R-15・BLΩバース物の台本になります。 表示および配信方法など演者の方のお任せになりますがセンシティブな表現を含むためご注意下さい。 ※オメガ(Ω)バースとは 男女の性別に加えα・β・Ωの第二の性的特徴を持つ世界での話です。 詳しくは書きませんがΩであれば男性でも妊娠することがあり、定期的にヒートと呼ばれる発情期が来ます。 本編の後におまけ部分がついてます。 BL単行本の巻末についてるおまけマンガみたいなつもりのものです。 上演の際におまけ付きでされる。またはカットして本編完で終わる。どちらでもお好みで。 503 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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保章 | 男 | 204 | 葛城組組員の男32歳(冒頭)。ずっとβだと思っていたが作中冒頭でΩである事がわかる。母親が失踪して以降葛城組組長に育てられた。 |
瑛斗 | 男 | 151 | αの男27歳。高身長のイケメンで頭も良い。だってαなので |
親父 | 男 | 42 | 葛城組の組長。ちなみにα。 兼ね役で医者も演じて下さい。 |
医者 | 男 | 17 | 葛城組がかかりつけにしている医者。 親父役の方の兼ね役を想定。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
保章:はぁ?俺がオメガ??
医者:そうみたいだな
保章:何言ってんだ、俺はベータだって……
医者:オメガの特徴がまだ出て無かったんだろう
保章:バカ言え!俺はとっくに三十超えてんだぞ?オメガの特徴が出るとか、そんなの、十代半ばとかの話だろーがよ
医者:一般的にはな。ただ個人差はある
保章:個人差とか言っても、普通二十歳とかそれくらいだろうがよ、遅くても
医者:普通はな。俺もこれだけ遅くなってからオメガだって分かった奴は初めてだ、学会にレポートでも出してみるか?
保章:はぁ?やめろ!
医者:冗談だよ……身体の不調って言ってたけどこれが原因だろう
保章:これがって、なんだよ?
医者:だから、二次成長期。ホルモンバランスとか変わってダルかったり色々、身体の中で変化してんだよ。とりあえず薬出しとくけど、飲むタイミングとか分かるか?
保章:え?タイミング?そんなの食後とか、そういう奴だろ?それくらいわかるよ
医者:違うよ。発情期が来たら飲むの!
保章:発情期?!
医者:あぁ、発情期。そうだな、まだ周期が自分で分からないだろうから即効薬の注射も処方しておくぞ、必ず携帯するように
:
:― 間
:
保章:(M)俺がオメガ……あの女、俺の母親みたいに子供を産めてしまう身体だって事か?
:
:― 間
:
保章:(M)俺に父親はいない。正確には父親にあたる人は居たのかもしれないが、会った事も無いし、母親も誰が俺の父親か正確には分からなかったのだと思う
保章:(M)俺が記憶にある中でも、あの女(ひと)はそれくらい多くの男を家に連れ込んでいたし、男に依存して生きていた。俺はそんな母親が大嫌いだった
:
保章:でもまさか、捨てられるとは思って無かったけどな……
:
保章:(M)俺が12歳になる誕生日、小学校から家に帰ると母親の姿が家に無かった。日が暮れて、夜になって。気付いたら眠ってしまっていた俺が目を覚ましても、母親が帰宅した様子はないままで
保章:(M)家に食料はほとんどなくて、金も置かれてはいなかった……
:
親父:お前、幾つになった?
保章:え?あー俺ですか?
親父:お前以外に誰がいるんだよ!
保章:あー、もうすぐ33になります
親父:もうすぐ?
保章:俺、九月生まれなんで
親父:そうか、もうすぐ誕生日だったか。何か祝いしてやろうか?
保章:要らないっす
親父:ん?遠慮する事は無いんだぞ?
保章:誕生日とかまともに祝った事無いんで
親父:毎年何かにつけて断るからだろうが、最初なんて誕生日なんていつでもいいとか言いやがって、本当に可愛げの無いガキだった
保章:すみません
親父:まぁ良いよ。それだけお前にとって誕生日ってのが良い日じゃ無かったんだろ?
保章:……
親父:そういえばお前が此処に住むようになったのも九月だったな
保章:そうです
:
保章:(M)あの日、母親が帰らなくなった日から三日目。腹が減った俺は近所のコンビニで万引きをした。パンを握って店の外にとび出ると、後ろからTシャツの襟を掴まれ、コンビニの店長らしき男に捕まってしまった
:
保章:あの時は本当に助かりました
親父:何がだ?
保章:あの日、もしあのまま捕まっていたら、母親以外に身寄りのない俺はきっと施設に引き取られてた
親父:あぁ、ガキん時のコンビニの事か?あれはお前の母親の所に金を取立てようと思って向かってたら、見知ったガキが捕まってたから『人の所のガキを服が伸びるほど引っ張るのは 、防犯の域をこえて、それはもうただの暴力じゃないのか?』って声掛けただけだろ?
保章:あのコンビニのオッサン、親父の顔見て即、手を離して固まってたもんな
親父:儂はただガキ連れて行きゃあ居留守使われる事も無いだろうって腹積もりだったんだ。だが、まさかお前を置いて姿を消してるとはな
保章:すみません
親父:まぁ、今となってはお前の母親に貸した金より、お前が稼いだ金の方がデカいから言うなら先行投資したくらいに思えば安いモンよ
保章:親父のおかげで俺も自分で稼げる様になりました
親父:もっと真っ当な生き方が仕込める人間なら良かったんだがな
:
保章:(M)この極道の親父の世話になり、俺はこの家に居場所ができた
保章:(M)俺が選んだこの生き方、俺は組で生きる。そうガキの頃に腹を決めた
:
:― 間
:
:― 保章がスマホで通話している。
保章:あぁ、今女の所を出た。
保章:あ?ちげぇーよ。仕事だ仕事!
保章:んな事より準備はちゃんと出来てんだろーな?
保章:あー、そうだな、また着く頃に連絡する、おう
:― 通話を切りエレベーターに乗り込む保章。
:― エレベーター内には瑛斗が乗っている。
:
瑛斗:……
保章:(M)……はぁ胸糞悪い。この男、俺に背を向けて無言を貫いているのにこっちの様子伺ってんのバレバレだな。まぁ、明らかカタギにゃー見えないから気になるんだろうが
:
保章:俺がそんなに気になるか?
瑛斗:え?
保章:そんな風にこっちを伺われてると気持ち悪ぃんだよ
瑛斗:い、いや、僕は別に
保章:見てなくてもこっちを………
:
:― ガタンと音をたててエレベーター内が一瞬暗くなる
保章:うぉっ?!(急に止まったので体制を崩す)
瑛斗:おっと(反射的に保章を受け止めて支える)
瑛斗:……大丈夫ですか?
保章:あ、あぁ
瑛斗:停電……ですかね?
:― 非常システムに切り替わり電気が点く
瑛斗:あ、明かり点いた
保章:……これ止まってんのか?
瑛斗:みたいですね
保章:ちっ(舌打ちをする)
瑛斗:たしかこういう時って近くのフロアのボタンを押して、開いたらそこで降りるんでしたっけ?
保章:あ?そうなのか?
瑛斗:たしか何かで見た気が……こうでいいのかな?
:
:― 瑛斗がいくつかボタンを押すが動く気配がない
:
保章:……動かねぇじゃん
瑛斗:あれ?ですね
保章:ですねって……
瑛斗:非常連絡ボタンってこういう時に押してもいいんですよね?
保章:あ?……あぁ
瑛斗:……あ、はい。止まって動かないみたいで
瑛斗:あー、この一帯で停電ですか。一応近くの階のボタンは押してあるんですけど
瑛斗:え?あー、不具合……
保章:ちっ!(強く舌打ちする)
瑛斗:今から来る?はい。わかりました
保章:早くしろよ
瑛斗:え?
保章:この後用事があるんだよ!今すぐ、最速で来い!
:
:― 通信員が脅えた様子で『急ぎます』と返し連絡が切れる
:
保章:……クソっ!
瑛斗:……
:― 保章がスマホを出して電話をする。
保章:おー、いやまだだ、というか着くのが少し遅れそうでな、いや、停電か何かでエレベーターん中に閉じ込められちまってて、ああ。俺抜きで始められるか?ああ…
保章:分からねぇがまぁお前が居るんだ俺抜きでもなんとか出来んだろ?お、言ったな?じゃあ今日の仕切りはお前に任せてみるか!おぅ、じゃあまた後で
瑛斗:仕事ですか?
保章:あぁ
瑛斗:……
保章:……
瑛斗:ついて無いですね……
保章:あ?……あぁ、本当についてねぇ
瑛斗:……
保章:……なんか暑くないか?
瑛斗:え?そうですか?
保章:あちぃ……空調も止まったのか?……あちぃ……(少し息が荒くなる)
保章:ちくしょう、まだか!
瑛斗:そんなに時間はかからないって言ってたんで、すぐに管理会社の人が来ると思うし、少し落ち着きましょう
保章:あ!?俺は落ち着いてるよ!
瑛斗:……はい
保章:くそっ、……なんか、息、しずらい。空気
瑛斗:大丈夫です!エレベーターは密閉されてないって、空気は常に循環してるって何かで言ってました。だから……
保章:ならなんで……
瑛斗:!?(保章から発せられる匂いに気付く)アナタもしかしてオメガ……
保章:!!……うるさい!馬鹿にしてるのか
瑛斗:いや、そうではないんですが……ただ、具合が悪そう、だなって
保章:……すまない。そうだ、俺は……オメガだ
瑛斗:薬は?
保章:薬?
瑛斗:ヒートの抑制薬です。飲みましたか?
保章:はぁ?…もしかして、これがヒートか?
瑛斗:え?
保章:ヤバい。持ってない。……俺、初めてで
瑛斗:初め……え、何が?
保章:……ヒートだよ!最近までオメガだって知らなくて、それで
瑛斗:……薬は持ってないんですか?服用薬か、そうだ即効薬は?
保章:持ってねぇ。こんな風になると思ってなくて……
瑛斗:(M)マズいエレベーターの中でこんなにヒート中のフェロモンを吸わされたら……
保章:ヤバい……
:
:― 保章は立って居られなくなって座り込んでしまう。
瑛斗:大丈夫ですか?
保章:何か、変だ……俺……
瑛斗:も、もうすぐ、もうすぐ来る筈ですから、そしたら急いで薬を!家はこのマンションですか?
保章:違う、ここには仕事で……
瑛斗:(M)クソっ、ダメだ。俺も、もう……
保章:あちぃ……助けてくれ、俺、なんかおかしい
:
:
:― 長めの間
:― 場面は変わり、同マンション、瑛斗の部屋。
:
保章:(M)……あれ?俺……
保章:!?
:― 保章がベッドで身体を起こす。
瑛斗:あっ、おはようございます。よく寝てたんで起こさなかったんですけど、もうすっかり朝ですよ?
保章:え?お前……
瑛斗:ん?
保章:はっ!!
:
:― 保章は自身が裸である事に気付き、慌てて項に手をやり、その後瑛斗に視線をやった。
保章:その腕……
瑛斗:あー、これですか?
瑛斗:さすがに成り行きで番(つがい)になる訳にいかないですからね、貴方が手で項を覆った時、噛み付こうとしていた自分に驚いて、その衝動をどうにか自分で抑えようとしたんですよ
保章:(M)くっきりと残った歯型。その痛々しい痕に腹の底がキュッと縮んだ
保章:(M)そうか、俺は……
:
:― 保章は慌てて自分の身体を見直す。
瑛斗:よかったら珈琲、いやお茶でも飲……
保章:俺の服は?
瑛斗:え?
保章:服!俺の服だ!
瑛斗:それならそこに……
:― 保章は急いで服を着る。
瑛斗:え?あ、仕事ですか?でも、少しだけ話を
保章:話なんてねぇ!!
保章:(M)俺は急いで部屋を出た。自分の身体を見て思い出した。昨日俺が、俺達が何をしたのかを
保章:(M)最低だ。俺は俺の一番なりたく無いモノと同じ事をしてしまっていた
:
:― 間
:― 3ヶ月後
:
保章:そろそろ本格的な冬物のコートがないと無理だな……
保章:(M)あのエレベーターに閉じ込められた日以来、俺にヒートは来ていない。元々この歳までヒートが来なかったのだ、俺はヒートが来難(にく)い体質なのだろう
保章:(M)ただ念の為、即効薬の注射だけは携帯するようになった
保章:なんか、あそこの飯屋、味変わったか?……そうか?なんかいつもと違う様な
保章:……あ?そうか?そう言えば、前より食ってないかな。なんか最近調子のって食うと後で胸がムカムカすんだよ
保章:あぁ!?誰が歳だって?張っ倒すぞ
保章:(M)何が悪いって訳ではない少しの身体の不調。ダルさと、度々来る吐き気。
:
:― 間
医者:お前それって妊娠してるんじゃねぇのか?
保章:へ?
保章:(M)用事のついでに立ち寄ったいつもの医者で何気なく話した最近の不調について予想外の回答が来た
医者:吐き気があるって言うのもそうだが、その腹
保章:腹?
医者:男のオメガは筋肉があるせいで分かりずらいって言われてんだよ
保章:はぁ!?妊娠だって言うのか?俺が?
医者:いや可能性の話だよ。心当たりが無いなら単に肉が付いただけかもしれないし……ただ吐き気にダルさ、まるで妊娠初期の特徴みたいだなーってな
保章:……
医者:おい、まさか……
保章:でも、俺、番になってないし、子供なんて……
医者:番になっていなくても、お前の中で受精しちまえば関係なくガキは出来る
保章:……え?
医者:当然だろう。
保章:……なぁ、調べてくれ
医者:え?
保章:頼む!調べてくれ!!
医者:おいおい、ここは産科じゃ無いんだ。調べるにしても専門の医者にかかる方がいい
:
:― 間
保章:(M)紹介された産科に無理に今日中の予約を入れて貰った
保章:(M)結果は妊娠15週。もう性別も分かると産科医はテンションをあげていたが、俺はドン底の気分で、性別を聞かずにエコー検査を終えた
保章:おろします
保章:(M)そう言うと産科医は悲しげな顔をして、手術日の予定を入れ、手術同意書などいくつかの書類を俺に渡した
保章:最悪だ
保章:(M)産科医の話を必死で聞いたつもりだが、頭に入る前に何かに飲まれる様に内容が薄れ、ただただどうにかしなければという重りが頭の中で積み重なった
:
:― 間
保章:クソっ!なんでだ、なんでこんな
瑛斗:……あっ
瑛斗:ようやく見つけた!
保章:……は?……お前なんでこんな所に?
瑛斗:なんでって、この辺りの産科をずっとまわってたんですよ
保章:はぁ?なんで?
瑛斗:なんでって……
瑛斗:ヒート中のオメガとアルファである俺がそういう行為をしたんです、子供のできる可能性は限りなく高いでしょう?
保章:そ、そうなのか?
瑛斗:貴方は……自分の身体に関する事でしょう?知らなかったんですか?
保章:……
瑛斗:それで?
保章:それでって?
瑛斗:子供です!出来てたんですか?
保章:……あ、あぁ
瑛斗:僕達の子供、ですよね?
保章:……
瑛斗:それともあれから他の誰かと寝ましたか?
保章:そんな事する訳無いだろ!
瑛斗:じゃあその子は確実に俺との子だ
保章:あぁ
瑛斗:……あぁー
保章:(遮るように)心配するな、ちゃんとおろすか……
瑛斗:(遮るように被せて)良かった!なら俺達ちゃんと……
保章:ん?
瑛斗:え?……今なんて言いました?
保章:お前、今良かったって言ったか?
瑛斗:貴方今、おろすって?おろすって言いました?!そんな、なんで?
保章:俺はガキなんて望んでない!
瑛斗:え?
保章:俺はガキなんて……親になる自信もないし、それに、あんな風にはなりたくない
瑛斗:あんな風に?
保章:なんでも無い
瑛斗:いや、でも
保章:お前には関係無い
瑛斗:!……関係無い?関係大ありですよ!
保章:は?
瑛斗:その子は俺の子供でもあるんです!俺と貴方の子供でしょう?
保章:……でも
瑛斗:俺がどうして此処にいるか聞きましたよね?
保章:……
瑛斗:あの日、たしかに俺は衝動的に貴方とヤりました。ただ欲情に身を任せて行為に至った
瑛斗:でもね、起きて貴方を眺めていて思ったんです。『愛おしい』って
保章:!はぁ?!
瑛斗:ヒート中の貴方としたんです。きっとそのお腹には俺達の子供が宿る。そんな事を想像して、これからの事を考えて……
保章:……
瑛斗:それなのに貴方は名前も言わずに、俺の言葉も聞かずに家を飛び出して行った
瑛斗:腹が立ちました。どうにでもなればいい。そう思おうとした時もあった。でも、子供はどうなっただろうか、貴方が不安にしていないか
瑛斗:そんな事を考えたら居ても立っても居られなくなって、この近隣の産科を何回も、何回も見てまわってて。それくらいしか出来なくて
瑛斗:どうしてあの時無理にでも貴方を引き止めなかったのかと後悔して
保章:……
瑛斗:馬鹿みたいですよ!こんな風に勝手に心配して、貴方の顔を見た瞬間心の底から嬉しくなって、無事でいてくれて安心して、そんな風に勝手に俺の中で貴方の存在とこれからの俺達の未来を膨らませて、貴方もそれを望んでいるって勝手に決めつけて……
保章:俺達の?
瑛斗:衝動に任せて避妊もしなかった、その行動の責任をとるって意味もある。けど何より、俺は貴方と、貴方とそのお腹の中の子との未来が楽しみだったんです
保章:……子供
瑛斗:……
保章:すまない。俺、どうしていいかわからなくて。ヒートになったのも初めてで、誰かとあんな事をした事もなくて。ましてやいきなり妊娠なんて
瑛斗:(少し息を整えて)……俺の方こそすみません。こんないきなり、しかもこんな所で
保章:い、いや……
瑛斗:この後、お時間ありますか?
:
:― 間
:
保章:(M)瑛斗がタクシーを停め、瑛斗のマンションに向かった。タクシーの中では会話らしき会話のない気まずい空気が流れ、タクシーを降り、俺は促されるままに瑛斗の部屋のダイニングチェアに腰を下ろした
瑛斗:さっき、産科の前で子供を望んでないって言った時、貴方『あんな風にはなりたくない』って言いましたよね。
保章:あぁ
瑛斗:それが貴方が子供を産みたくない理由ですか?
保章:……あれは、俺の母親みたいになりたくないって、そう言う意味だ
瑛斗:母親?
保章:あぁ。俺の母親は次から次に家に男を連れて来る様な女だった
保章:男に媚びて直ぐに寝て、誰にでも好きなんて言葉を吐いて、それからどの男相手にも決まって刺青を入れるんだ
瑛斗:刺青?
保章:あぁ、名前やイニシャル、ハートとか何でも、それが相手の男への愛の表し方なんだとよ
保章:そしてすぐに捨てられてその刺青を掻き毟る……アイツはそういう奴だった
瑛斗:だから、嫌なんですか?同じになりそうだから?
保章:嫌だよ!あんな風になりたくない!
保章:俺は誰かに依存したくないし、それに……
保章:……っ!
瑛斗:……それに?
保章:俺は子供を捨てたりする様な奴になりたくない……
瑛斗:!?あなたは、その……
保章:そうだ、俺はアイツに、母親に捨てられた……そんな俺が普通に親になれると思うか?
保章:アイツみたいに腹を痛めて子供を産んだとしても、それでも子供を捨てられるんだ
保章:俺も、俺もきっとそうなる……
瑛斗:……
保章:そんなのは嫌だ。あんな奴と一緒には、なりたくない
瑛斗:貴方はきっと子供を産んでも大丈夫です。捨てたりなんてしないと思います
保章:は?何を根拠に……
瑛斗:貴方は知っているから、その辛さを。その子にそういう思いをさせない様に考えられる優しい人です。それに……
保章:それに?
瑛斗:もし、貴方が子供を産むのなら貴方は貴方の母親とは違う所があります
保章:違う、ところ?
瑛斗:俺がいます
瑛斗:俺が貴方を、そしてその子を1人になんてさせません
保章:……
瑛斗:もちろん、貴方が望んでくれればになるんですが。俺は、俺は貴方と番になって、出来れば子供も一緒に育てていきたい。そう思っています
保章:番になって、子供を?この子を……
:
:― 保章は自分の腹に手を当てる
瑛斗:嫌ですか?
保章:……わからない
瑛斗:でも絶対に堕ろしたいとは思ってない。少なくとも今はそう思っているんじゃないですか?
保章:……そう、かもしれない
瑛斗:ゆっくり考えてみてくれませんか?可能性があるなら、俺、待ちますから
:
:
保章:(M)正直どうしていいのか、どう答えて良いのか分からなかった
保章:(M)だが不思議な事にこの男の口から出た『番』『子供』『一緒に育てる』という言葉に俺は拒否感が湧いていなかった
:
瑛斗:日を改めて、落ち着いたら考えを聞かせて下さい
保章:……あぁ
瑛斗:下まで送ります。タクシーを拾いましょう
保章:(M)男に言われて部屋を出て、エレベーターに乗り込む……男はエレベーターの扉の方を向いている
瑛斗:……
保章:なぁ
瑛斗:はい?
保章:少しいいか?
瑛斗:え?
保章:(保章が瑛斗に後ろから抱きつく)
瑛斗:?!っへぁ?な、何をしてるんですか!?
保章:ちょっとだけ、こうして居たいんだ……いいか?
瑛斗:……(くすりと笑って)えぇ
保章:……
瑛斗:この体勢やっぱりダメです
保章:え?
瑛斗:俺も貴方を抱きしめたい
保章:抱きしめ……あ、いや違っ!
瑛斗:違うくないでしょう?ほらこんな風にギューって
:― 瑛斗が振り返り保章を抱きしめる
保章:……
瑛斗:嫌ですか?俺に抱きしめられるの?
保章:……嫌じゃない
瑛斗:……(小さく笑って)可愛い
保章:はぁ?!お前目ぇ腐ってんじゃねえのか?俺が、可愛いだと
瑛斗:可愛いですよ。貴方は可愛い
保章:馬鹿。三十超えたオッサン相手に何言ってんだよ。しかもこんななりだし……
瑛斗:三十超えてようが、ダブルのイカついスーツ着てようが俺には可愛く見えますよ
保章:……ムカつく。お前は何歳なんだよ?
瑛斗:26です
保章:7つも下のクセに……
瑛斗:ん?なんです?
保章:ちっなんでもねぇよ
:
:
:― エレベーターが1階に着き、扉が開く。
瑛斗:どうします?
保章:あ?
瑛斗:下、着いちゃいましたけど
保章:あぁ、着いたな
瑛斗:……
保章:……ん!(瑛斗の部屋のある階のボタンを押す)
瑛斗:……了解
:
:
:― 長めの間
:
瑛斗:え?貴方の家って……
保章:ここだ
瑛斗:(M)『会って欲しい人がいる』両親とも居ないと言っていた彼にそう言われて連れて来られた場所はあきらかヤクザの事務所だった
保章:ここで待っててくれ
瑛斗:え?あ、ちょっと……
:
:
:― 間
保章:親父。今時間大丈夫ですか?
親父:ヤス、お前どこ行ってた、昨夜(ゆうべ)から何度も……
保章:親父!会って欲しい人がいる!
親父:え?……ど、どうした急に
保章:すみません。俺、親父にちゃんと言いたくて、こんないきなりで勝手なのは重々承知ですが今連れて来てるんで
親父:今ぁ?!お前どうした、そんな焦って……どっかの女でも孕ませちまったか?ガキが出来ちまったから急いでるとか……
保章:ガキは出来た……
親父:ほー、めでてえじゃねぇか。よしその女連れて来い
保章:女じゃねぇんだ
親父:ん?
保章:連れて来てるの女じゃねぇんだ
親父:何言ってる。女じゃなかったら……
保章:俺が妊娠したんだ。最近自分がオメガだって分かって、それで……
親父:あぁ?!じゃあお前……
保章:だから相手はアルファの男で、その、ヒートとか俺分かってなくて、パニクってて、そのなんて言うか……
親父:おい、その男連れて来てんだな?
保章:え?あ、はい。連れて……え?親父、ちょっと待って、どこに
親父:どこに?その野郎ん所だ!どこの野郎だ?人ん所のガキを勝手に孕ませやがったクソ野郎は!
保章:え、親父、ちょっと、ちょっと待って……
:― 瑛斗の目の前の扉が開け親父が瑛斗の襟を掴む。
瑛斗:(扉越しに先程の言葉が聞こえていて)すみません!俺が衝動に負け……
親父:(被せて)歯ぁ食いしば…
:
:― 親父が腕を振りかぶり。二人の視線が合った。
瑛斗:(同時に)親父?
親父:(同時に)瑛斗?
:
:
:― 間
保章:二人は知り合い……って事?
親父:あん?……あぁ
瑛斗:えーっと、その、親父って組長って事?
親父:あぁ、言ってなかったのか、アイツ?
瑛斗:聞いてない
保章:アイツ??
親父:あぁ、コイツの母親
保章:……つまりコイツは親父の
親父:子供だ
保章:え?親父の奥さんってたしかもう……
親父:あぁ、死んじまってる
保章:じゃあ
瑛斗:俺はいわゆる愛人の子供って奴なの
保章:……
親父:コイツの母親が頑固でなー『亡くなった奥様に私は絶対に勝てない。だから私は貴方とは結婚しない』って何度も断られてなー
親父:それに俺の家族として迎えちまえばコイツはヤクザの縁者としての人生しか歩めなくなる。コイツの可能性を狭めて、勝手にこの組に入れるなんてのは、したく無かったんだ
瑛斗:ヤクザか何かっぽいなーとは思っていたけど、まさか組長だとは思ってなかったけどな
親父:見る目が無いなー、俺のこの組長としての風格を感じとれないとは
瑛斗:なんだよその組長としての風格ってww
保章:……
親父:で、お前達どうするんだ?
瑛斗:どうって?
親父:『会って欲しい人がいる』って言ったぐらいだ、覚悟決めてここに来たんだろう?
保章:親父、俺、コイツに俺がここの組の人間だって言う前にここに連れて来ちまって……
親父:そうか。それでヤス、お前は瑛斗とどうする予定なんだ?
保章:俺、コイツと一緒になる。それで子供を産んで育てたいと思ってる
親父:その割に番にはなって無いみたいだな?それで本気で一緒になる覚悟があるって言えるのか?
保章:それは、今は妊娠中でヒートが来ないから……番になる。それから、それから組を……
瑛斗:親父!一発、俺を殴ってくれ
保章:はぁ?!
親父:……瑛斗、なんでだ?
瑛斗:親父はさっき本気でキレてた。保章が妊娠させられたって聞いて
瑛斗:俺も殴られても当然の行為をしたと思ってる。初めてのヒートでパニックになってるこの人を衝動的に抱いたんだ。抑えが効かなかった……だから俺を一発
親父:……無茶言いやがる
親父:瑛斗、本気なんだな?お前は本気でヤスと一生一緒にそばに居るって言えるんだな?
瑛斗:あぁ。言える
親父:ヤス、お前は?
保章:もちろん言えます。俺は瑛斗とこの腹の中の子供と絶対に離れない。ずっと一緒に居るって、居たいって
:― 親父が保章と瑛斗の二人を両腕で抱きしめて来る。
親父:じゃあ、お前らは家族だ!俺の大切な家族だ……
保章:親父……?
親父:ヤス、これでこれからはちゃんと親子なんだ、だからちゃんと甘えろ。俺にちゃんと自分の子供として甘やかさせろ
保章:親父
瑛斗:……(軽く笑って)なんか良いな
親父:よし、これで話はまとまったな
親父:二人とも、もし別れるなんて言い出したら地獄見せるから、肝に銘じておけよ
瑛斗:親父がそれ言うと怖すぎるんだけど
保章:本当にww
:
:
:― 長めの間
:
保章:で、どうしてこうなった?
瑛斗:ん?何が?
保章:何がじゃねぇんだよ!
親父:本日はご多忙の中、我が葛城組若頭の新規就任。及びその若頭と我が組の保章の婚姻の祝賀の会にご出席頂き誠にありがとうございます
親父:組での経験の少ない我が息子瑛斗ではありますが、伴侶の保章に支えられつつ努力して参る事と思います。皆様、どうぞこれからもよろしくお願いします
保章:なんで、なんで俺がこんな……
保章:組ではみんな『姐さん』とか呼んで来るし、親父が『式の準備は任せろ』とかいうからまかせていたのに
瑛斗:可愛い。よく似合ってる、その白無垢。親父わかってるわー
保章:何がわかってるって言うんだよ!それになんだ、可愛いって年上を馬鹿にしてんのか?
瑛斗:可愛いよ、めっちゃそそられる
保章:……(赤面して)や、やめろ、馬鹿ぁぁーー!!
:
:
:
:― 本編 完
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:
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:― 以降 おまけシーン
:― 『あの日の朝と初めての〇〇』
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瑛斗:(寝おきで)まぶしい……
瑛斗:?!……あ、やばっ!寝てた!
瑛斗:(M)慌てて目を開け体を起こそうとして、自分の右腕に違和感を感じ
瑛斗:あっ……
瑛斗:(M)そうだ、俺は昨日この人と
保章:んん……
瑛斗:寝てても眉間に皺寄せてる……
瑛斗:(M)ヒートはとりあえず落ち着いたみた……そうか、ヒート中のオメガを抱いてしまったのか
瑛斗:(M)避妊なんてまるで頭に浮かばなかったな……ヒート中の性行為は妊娠の可能性がほぼ100%だって知っていたのに
瑛斗:(M)どう見ても年上なのに、初めてのヒートだと言うこの人
瑛斗:どうするか、ちゃんと話さなきゃな……この人が起きたら
瑛斗:(M)もし産むと言ったら俺はこの人と番になるのか?どういう人だろう?名前も歳も知らない……
瑛斗:(M)考え出すと落ち着かなくなって、俺は彼から身を離してキッチンに移動した。何か飲んで気持ちを落ち着けよう
:
:
:― 間
:
保章:何ニヤニヤしてるんだよ
瑛斗:え?
保章:何か良くない事考えてたんだろう?そういう顔してた
瑛斗:あー、たしかにこれは良くない記憶かもしれないなー
瑛斗:初めてのヒートだって言ってフェロモン撒きまくって人を誘っておきながら、翌朝まともに話もせずに家から出て行った男との記憶なんだけど……
保章:だ、だぁぁーーー!!言うな!忘れろ、んな記憶!!
瑛斗:忘れませんよ、俺と貴方の初めての記憶なのに
保章:……
瑛斗:愛しています。あの時からずっと
保章:……(照)
瑛斗:貴方は?
保章:え?
瑛斗:貴方は言ってくれないんですか?
保章:!……言わない!
瑛斗:えー?
保章:言わねぇよ!俺の事『貴方』って呼んでやがる奴にそんな奴に
瑛斗:……(少し笑って)可愛い
保章:は、はぁ?!
瑛斗:だって、今のは可愛いでしょー?
保章:ふざけんな……
瑛斗:保章、保章の事が好きで好きでたまりません。愛してます
保章:……(更に照れる)
瑛斗:保章、俺と番になってくれますか?
保章:そんな事今更確認すんなよ
瑛斗:いいえ、ちゃんと貴方の、保章の気持ちを聞きたいんです
瑛斗:ヒートで流されてでもなく、子供がいるからでもなく、一緒に住んでるからとかそういう事は全部別に置いておいて、ただ純粋に保章が俺をどう思っているのか?どうしたいのかそれをちゃんと言葉でも聞いておきたいんです
保章:……(小声で)好きだよ
瑛斗:えー?なんです?最近歳のせいか少し耳が遠くってー
保章:くそ!…好きだ!瑛斗の事が
保章:瑛斗と居るとヒートでもないのにドキドキするし、ずっと一緒にいたくなる
保章:俺、この言葉が正しいのか分からないけど……愛してる。瑛斗を愛してる。俺も番になりたいって思ってる
瑛斗:……嬉しいです
保章:……(照)
瑛斗:でも良いんですか?
保章:何がだ?
瑛斗:番になるって事は、俺は瑛斗の身体に噛み付く事になる。それこそ保章の体に痕の残る
瑛斗:貴方が刺青を入れていないのは、その……
保章:あぁ、そうだ。あの母親が男が出来たと言う度に増やしていくあの刺青という名の消えない痕が醜くて、嫌で……。刺青の一つくらい入れておいた方がヤクザとしてハクがつくって分かっていても、俺は身体にあんな物残したくなかった
保章:自分でも不思議なんだ。俺がお前の、瑛斗の物だって証なら体に残っても良いって思える
瑛斗:保章……
保章:瑛斗、お、俺……
瑛斗:?……ヒート、来ちゃいましたね。薬は……
保章:いいよ
瑛斗:え?
保章:今日はこのまま、して
:
:
:― 間
:
瑛斗:こんな時期にタートルネック、暑くない?
保章:だって……(項の辺りを手で擦る)
瑛斗:見せてくれてもいいのに、皆に保章は俺の物だって証
保章:は、恥ずかしい事言ってんな!……くそ、なんで俺ばっかり
瑛斗:ん?良いですよー?俺も保章の物だって証を残しても
瑛斗:タトゥーでも入れましょうか、ココにアイラブヤスアキとか
保章:馬鹿馬鹿馬鹿……それ、俺の方が恥ずかしいじゃねぇか
瑛斗:ふふふ
保章:馬鹿な事言ってないで珈琲入れてくれ
瑛斗:ダメです
保章:あ?
瑛斗:もう忘れたんですか?ヒート中の僕らがヤったんですよ?
保章:あ……って事は
瑛斗:次も男の子ですかね?それとも女の子かなー?
:
:
:― おまけ 完
保章:はぁ?俺がオメガ??
医者:そうみたいだな
保章:何言ってんだ、俺はベータだって……
医者:オメガの特徴がまだ出て無かったんだろう
保章:バカ言え!俺はとっくに三十超えてんだぞ?オメガの特徴が出るとか、そんなの、十代半ばとかの話だろーがよ
医者:一般的にはな。ただ個人差はある
保章:個人差とか言っても、普通二十歳とかそれくらいだろうがよ、遅くても
医者:普通はな。俺もこれだけ遅くなってからオメガだって分かった奴は初めてだ、学会にレポートでも出してみるか?
保章:はぁ?やめろ!
医者:冗談だよ……身体の不調って言ってたけどこれが原因だろう
保章:これがって、なんだよ?
医者:だから、二次成長期。ホルモンバランスとか変わってダルかったり色々、身体の中で変化してんだよ。とりあえず薬出しとくけど、飲むタイミングとか分かるか?
保章:え?タイミング?そんなの食後とか、そういう奴だろ?それくらいわかるよ
医者:違うよ。発情期が来たら飲むの!
保章:発情期?!
医者:あぁ、発情期。そうだな、まだ周期が自分で分からないだろうから即効薬の注射も処方しておくぞ、必ず携帯するように
:
:― 間
:
保章:(M)俺がオメガ……あの女、俺の母親みたいに子供を産めてしまう身体だって事か?
:
:― 間
:
保章:(M)俺に父親はいない。正確には父親にあたる人は居たのかもしれないが、会った事も無いし、母親も誰が俺の父親か正確には分からなかったのだと思う
保章:(M)俺が記憶にある中でも、あの女(ひと)はそれくらい多くの男を家に連れ込んでいたし、男に依存して生きていた。俺はそんな母親が大嫌いだった
:
保章:でもまさか、捨てられるとは思って無かったけどな……
:
保章:(M)俺が12歳になる誕生日、小学校から家に帰ると母親の姿が家に無かった。日が暮れて、夜になって。気付いたら眠ってしまっていた俺が目を覚ましても、母親が帰宅した様子はないままで
保章:(M)家に食料はほとんどなくて、金も置かれてはいなかった……
:
親父:お前、幾つになった?
保章:え?あー俺ですか?
親父:お前以外に誰がいるんだよ!
保章:あー、もうすぐ33になります
親父:もうすぐ?
保章:俺、九月生まれなんで
親父:そうか、もうすぐ誕生日だったか。何か祝いしてやろうか?
保章:要らないっす
親父:ん?遠慮する事は無いんだぞ?
保章:誕生日とかまともに祝った事無いんで
親父:毎年何かにつけて断るからだろうが、最初なんて誕生日なんていつでもいいとか言いやがって、本当に可愛げの無いガキだった
保章:すみません
親父:まぁ良いよ。それだけお前にとって誕生日ってのが良い日じゃ無かったんだろ?
保章:……
親父:そういえばお前が此処に住むようになったのも九月だったな
保章:そうです
:
保章:(M)あの日、母親が帰らなくなった日から三日目。腹が減った俺は近所のコンビニで万引きをした。パンを握って店の外にとび出ると、後ろからTシャツの襟を掴まれ、コンビニの店長らしき男に捕まってしまった
:
保章:あの時は本当に助かりました
親父:何がだ?
保章:あの日、もしあのまま捕まっていたら、母親以外に身寄りのない俺はきっと施設に引き取られてた
親父:あぁ、ガキん時のコンビニの事か?あれはお前の母親の所に金を取立てようと思って向かってたら、見知ったガキが捕まってたから『人の所のガキを服が伸びるほど引っ張るのは 、防犯の域をこえて、それはもうただの暴力じゃないのか?』って声掛けただけだろ?
保章:あのコンビニのオッサン、親父の顔見て即、手を離して固まってたもんな
親父:儂はただガキ連れて行きゃあ居留守使われる事も無いだろうって腹積もりだったんだ。だが、まさかお前を置いて姿を消してるとはな
保章:すみません
親父:まぁ、今となってはお前の母親に貸した金より、お前が稼いだ金の方がデカいから言うなら先行投資したくらいに思えば安いモンよ
保章:親父のおかげで俺も自分で稼げる様になりました
親父:もっと真っ当な生き方が仕込める人間なら良かったんだがな
:
保章:(M)この極道の親父の世話になり、俺はこの家に居場所ができた
保章:(M)俺が選んだこの生き方、俺は組で生きる。そうガキの頃に腹を決めた
:
:― 間
:
:― 保章がスマホで通話している。
保章:あぁ、今女の所を出た。
保章:あ?ちげぇーよ。仕事だ仕事!
保章:んな事より準備はちゃんと出来てんだろーな?
保章:あー、そうだな、また着く頃に連絡する、おう
:― 通話を切りエレベーターに乗り込む保章。
:― エレベーター内には瑛斗が乗っている。
:
瑛斗:……
保章:(M)……はぁ胸糞悪い。この男、俺に背を向けて無言を貫いているのにこっちの様子伺ってんのバレバレだな。まぁ、明らかカタギにゃー見えないから気になるんだろうが
:
保章:俺がそんなに気になるか?
瑛斗:え?
保章:そんな風にこっちを伺われてると気持ち悪ぃんだよ
瑛斗:い、いや、僕は別に
保章:見てなくてもこっちを………
:
:― ガタンと音をたててエレベーター内が一瞬暗くなる
保章:うぉっ?!(急に止まったので体制を崩す)
瑛斗:おっと(反射的に保章を受け止めて支える)
瑛斗:……大丈夫ですか?
保章:あ、あぁ
瑛斗:停電……ですかね?
:― 非常システムに切り替わり電気が点く
瑛斗:あ、明かり点いた
保章:……これ止まってんのか?
瑛斗:みたいですね
保章:ちっ(舌打ちをする)
瑛斗:たしかこういう時って近くのフロアのボタンを押して、開いたらそこで降りるんでしたっけ?
保章:あ?そうなのか?
瑛斗:たしか何かで見た気が……こうでいいのかな?
:
:― 瑛斗がいくつかボタンを押すが動く気配がない
:
保章:……動かねぇじゃん
瑛斗:あれ?ですね
保章:ですねって……
瑛斗:非常連絡ボタンってこういう時に押してもいいんですよね?
保章:あ?……あぁ
瑛斗:……あ、はい。止まって動かないみたいで
瑛斗:あー、この一帯で停電ですか。一応近くの階のボタンは押してあるんですけど
瑛斗:え?あー、不具合……
保章:ちっ!(強く舌打ちする)
瑛斗:今から来る?はい。わかりました
保章:早くしろよ
瑛斗:え?
保章:この後用事があるんだよ!今すぐ、最速で来い!
:
:― 通信員が脅えた様子で『急ぎます』と返し連絡が切れる
:
保章:……クソっ!
瑛斗:……
:― 保章がスマホを出して電話をする。
保章:おー、いやまだだ、というか着くのが少し遅れそうでな、いや、停電か何かでエレベーターん中に閉じ込められちまってて、ああ。俺抜きで始められるか?ああ…
保章:分からねぇがまぁお前が居るんだ俺抜きでもなんとか出来んだろ?お、言ったな?じゃあ今日の仕切りはお前に任せてみるか!おぅ、じゃあまた後で
瑛斗:仕事ですか?
保章:あぁ
瑛斗:……
保章:……
瑛斗:ついて無いですね……
保章:あ?……あぁ、本当についてねぇ
瑛斗:……
保章:……なんか暑くないか?
瑛斗:え?そうですか?
保章:あちぃ……空調も止まったのか?……あちぃ……(少し息が荒くなる)
保章:ちくしょう、まだか!
瑛斗:そんなに時間はかからないって言ってたんで、すぐに管理会社の人が来ると思うし、少し落ち着きましょう
保章:あ!?俺は落ち着いてるよ!
瑛斗:……はい
保章:くそっ、……なんか、息、しずらい。空気
瑛斗:大丈夫です!エレベーターは密閉されてないって、空気は常に循環してるって何かで言ってました。だから……
保章:ならなんで……
瑛斗:!?(保章から発せられる匂いに気付く)アナタもしかしてオメガ……
保章:!!……うるさい!馬鹿にしてるのか
瑛斗:いや、そうではないんですが……ただ、具合が悪そう、だなって
保章:……すまない。そうだ、俺は……オメガだ
瑛斗:薬は?
保章:薬?
瑛斗:ヒートの抑制薬です。飲みましたか?
保章:はぁ?…もしかして、これがヒートか?
瑛斗:え?
保章:ヤバい。持ってない。……俺、初めてで
瑛斗:初め……え、何が?
保章:……ヒートだよ!最近までオメガだって知らなくて、それで
瑛斗:……薬は持ってないんですか?服用薬か、そうだ即効薬は?
保章:持ってねぇ。こんな風になると思ってなくて……
瑛斗:(M)マズいエレベーターの中でこんなにヒート中のフェロモンを吸わされたら……
保章:ヤバい……
:
:― 保章は立って居られなくなって座り込んでしまう。
瑛斗:大丈夫ですか?
保章:何か、変だ……俺……
瑛斗:も、もうすぐ、もうすぐ来る筈ですから、そしたら急いで薬を!家はこのマンションですか?
保章:違う、ここには仕事で……
瑛斗:(M)クソっ、ダメだ。俺も、もう……
保章:あちぃ……助けてくれ、俺、なんかおかしい
:
:
:― 長めの間
:― 場面は変わり、同マンション、瑛斗の部屋。
:
保章:(M)……あれ?俺……
保章:!?
:― 保章がベッドで身体を起こす。
瑛斗:あっ、おはようございます。よく寝てたんで起こさなかったんですけど、もうすっかり朝ですよ?
保章:え?お前……
瑛斗:ん?
保章:はっ!!
:
:― 保章は自身が裸である事に気付き、慌てて項に手をやり、その後瑛斗に視線をやった。
保章:その腕……
瑛斗:あー、これですか?
瑛斗:さすがに成り行きで番(つがい)になる訳にいかないですからね、貴方が手で項を覆った時、噛み付こうとしていた自分に驚いて、その衝動をどうにか自分で抑えようとしたんですよ
保章:(M)くっきりと残った歯型。その痛々しい痕に腹の底がキュッと縮んだ
保章:(M)そうか、俺は……
:
:― 保章は慌てて自分の身体を見直す。
瑛斗:よかったら珈琲、いやお茶でも飲……
保章:俺の服は?
瑛斗:え?
保章:服!俺の服だ!
瑛斗:それならそこに……
:― 保章は急いで服を着る。
瑛斗:え?あ、仕事ですか?でも、少しだけ話を
保章:話なんてねぇ!!
保章:(M)俺は急いで部屋を出た。自分の身体を見て思い出した。昨日俺が、俺達が何をしたのかを
保章:(M)最低だ。俺は俺の一番なりたく無いモノと同じ事をしてしまっていた
:
:― 間
:― 3ヶ月後
:
保章:そろそろ本格的な冬物のコートがないと無理だな……
保章:(M)あのエレベーターに閉じ込められた日以来、俺にヒートは来ていない。元々この歳までヒートが来なかったのだ、俺はヒートが来難(にく)い体質なのだろう
保章:(M)ただ念の為、即効薬の注射だけは携帯するようになった
保章:なんか、あそこの飯屋、味変わったか?……そうか?なんかいつもと違う様な
保章:……あ?そうか?そう言えば、前より食ってないかな。なんか最近調子のって食うと後で胸がムカムカすんだよ
保章:あぁ!?誰が歳だって?張っ倒すぞ
保章:(M)何が悪いって訳ではない少しの身体の不調。ダルさと、度々来る吐き気。
:
:― 間
医者:お前それって妊娠してるんじゃねぇのか?
保章:へ?
保章:(M)用事のついでに立ち寄ったいつもの医者で何気なく話した最近の不調について予想外の回答が来た
医者:吐き気があるって言うのもそうだが、その腹
保章:腹?
医者:男のオメガは筋肉があるせいで分かりずらいって言われてんだよ
保章:はぁ!?妊娠だって言うのか?俺が?
医者:いや可能性の話だよ。心当たりが無いなら単に肉が付いただけかもしれないし……ただ吐き気にダルさ、まるで妊娠初期の特徴みたいだなーってな
保章:……
医者:おい、まさか……
保章:でも、俺、番になってないし、子供なんて……
医者:番になっていなくても、お前の中で受精しちまえば関係なくガキは出来る
保章:……え?
医者:当然だろう。
保章:……なぁ、調べてくれ
医者:え?
保章:頼む!調べてくれ!!
医者:おいおい、ここは産科じゃ無いんだ。調べるにしても専門の医者にかかる方がいい
:
:― 間
保章:(M)紹介された産科に無理に今日中の予約を入れて貰った
保章:(M)結果は妊娠15週。もう性別も分かると産科医はテンションをあげていたが、俺はドン底の気分で、性別を聞かずにエコー検査を終えた
保章:おろします
保章:(M)そう言うと産科医は悲しげな顔をして、手術日の予定を入れ、手術同意書などいくつかの書類を俺に渡した
保章:最悪だ
保章:(M)産科医の話を必死で聞いたつもりだが、頭に入る前に何かに飲まれる様に内容が薄れ、ただただどうにかしなければという重りが頭の中で積み重なった
:
:― 間
保章:クソっ!なんでだ、なんでこんな
瑛斗:……あっ
瑛斗:ようやく見つけた!
保章:……は?……お前なんでこんな所に?
瑛斗:なんでって、この辺りの産科をずっとまわってたんですよ
保章:はぁ?なんで?
瑛斗:なんでって……
瑛斗:ヒート中のオメガとアルファである俺がそういう行為をしたんです、子供のできる可能性は限りなく高いでしょう?
保章:そ、そうなのか?
瑛斗:貴方は……自分の身体に関する事でしょう?知らなかったんですか?
保章:……
瑛斗:それで?
保章:それでって?
瑛斗:子供です!出来てたんですか?
保章:……あ、あぁ
瑛斗:僕達の子供、ですよね?
保章:……
瑛斗:それともあれから他の誰かと寝ましたか?
保章:そんな事する訳無いだろ!
瑛斗:じゃあその子は確実に俺との子だ
保章:あぁ
瑛斗:……あぁー
保章:(遮るように)心配するな、ちゃんとおろすか……
瑛斗:(遮るように被せて)良かった!なら俺達ちゃんと……
保章:ん?
瑛斗:え?……今なんて言いました?
保章:お前、今良かったって言ったか?
瑛斗:貴方今、おろすって?おろすって言いました?!そんな、なんで?
保章:俺はガキなんて望んでない!
瑛斗:え?
保章:俺はガキなんて……親になる自信もないし、それに、あんな風にはなりたくない
瑛斗:あんな風に?
保章:なんでも無い
瑛斗:いや、でも
保章:お前には関係無い
瑛斗:!……関係無い?関係大ありですよ!
保章:は?
瑛斗:その子は俺の子供でもあるんです!俺と貴方の子供でしょう?
保章:……でも
瑛斗:俺がどうして此処にいるか聞きましたよね?
保章:……
瑛斗:あの日、たしかに俺は衝動的に貴方とヤりました。ただ欲情に身を任せて行為に至った
瑛斗:でもね、起きて貴方を眺めていて思ったんです。『愛おしい』って
保章:!はぁ?!
瑛斗:ヒート中の貴方としたんです。きっとそのお腹には俺達の子供が宿る。そんな事を想像して、これからの事を考えて……
保章:……
瑛斗:それなのに貴方は名前も言わずに、俺の言葉も聞かずに家を飛び出して行った
瑛斗:腹が立ちました。どうにでもなればいい。そう思おうとした時もあった。でも、子供はどうなっただろうか、貴方が不安にしていないか
瑛斗:そんな事を考えたら居ても立っても居られなくなって、この近隣の産科を何回も、何回も見てまわってて。それくらいしか出来なくて
瑛斗:どうしてあの時無理にでも貴方を引き止めなかったのかと後悔して
保章:……
瑛斗:馬鹿みたいですよ!こんな風に勝手に心配して、貴方の顔を見た瞬間心の底から嬉しくなって、無事でいてくれて安心して、そんな風に勝手に俺の中で貴方の存在とこれからの俺達の未来を膨らませて、貴方もそれを望んでいるって勝手に決めつけて……
保章:俺達の?
瑛斗:衝動に任せて避妊もしなかった、その行動の責任をとるって意味もある。けど何より、俺は貴方と、貴方とそのお腹の中の子との未来が楽しみだったんです
保章:……子供
瑛斗:……
保章:すまない。俺、どうしていいかわからなくて。ヒートになったのも初めてで、誰かとあんな事をした事もなくて。ましてやいきなり妊娠なんて
瑛斗:(少し息を整えて)……俺の方こそすみません。こんないきなり、しかもこんな所で
保章:い、いや……
瑛斗:この後、お時間ありますか?
:
:― 間
:
保章:(M)瑛斗がタクシーを停め、瑛斗のマンションに向かった。タクシーの中では会話らしき会話のない気まずい空気が流れ、タクシーを降り、俺は促されるままに瑛斗の部屋のダイニングチェアに腰を下ろした
瑛斗:さっき、産科の前で子供を望んでないって言った時、貴方『あんな風にはなりたくない』って言いましたよね。
保章:あぁ
瑛斗:それが貴方が子供を産みたくない理由ですか?
保章:……あれは、俺の母親みたいになりたくないって、そう言う意味だ
瑛斗:母親?
保章:あぁ。俺の母親は次から次に家に男を連れて来る様な女だった
保章:男に媚びて直ぐに寝て、誰にでも好きなんて言葉を吐いて、それからどの男相手にも決まって刺青を入れるんだ
瑛斗:刺青?
保章:あぁ、名前やイニシャル、ハートとか何でも、それが相手の男への愛の表し方なんだとよ
保章:そしてすぐに捨てられてその刺青を掻き毟る……アイツはそういう奴だった
瑛斗:だから、嫌なんですか?同じになりそうだから?
保章:嫌だよ!あんな風になりたくない!
保章:俺は誰かに依存したくないし、それに……
保章:……っ!
瑛斗:……それに?
保章:俺は子供を捨てたりする様な奴になりたくない……
瑛斗:!?あなたは、その……
保章:そうだ、俺はアイツに、母親に捨てられた……そんな俺が普通に親になれると思うか?
保章:アイツみたいに腹を痛めて子供を産んだとしても、それでも子供を捨てられるんだ
保章:俺も、俺もきっとそうなる……
瑛斗:……
保章:そんなのは嫌だ。あんな奴と一緒には、なりたくない
瑛斗:貴方はきっと子供を産んでも大丈夫です。捨てたりなんてしないと思います
保章:は?何を根拠に……
瑛斗:貴方は知っているから、その辛さを。その子にそういう思いをさせない様に考えられる優しい人です。それに……
保章:それに?
瑛斗:もし、貴方が子供を産むのなら貴方は貴方の母親とは違う所があります
保章:違う、ところ?
瑛斗:俺がいます
瑛斗:俺が貴方を、そしてその子を1人になんてさせません
保章:……
瑛斗:もちろん、貴方が望んでくれればになるんですが。俺は、俺は貴方と番になって、出来れば子供も一緒に育てていきたい。そう思っています
保章:番になって、子供を?この子を……
:
:― 保章は自分の腹に手を当てる
瑛斗:嫌ですか?
保章:……わからない
瑛斗:でも絶対に堕ろしたいとは思ってない。少なくとも今はそう思っているんじゃないですか?
保章:……そう、かもしれない
瑛斗:ゆっくり考えてみてくれませんか?可能性があるなら、俺、待ちますから
:
:
保章:(M)正直どうしていいのか、どう答えて良いのか分からなかった
保章:(M)だが不思議な事にこの男の口から出た『番』『子供』『一緒に育てる』という言葉に俺は拒否感が湧いていなかった
:
瑛斗:日を改めて、落ち着いたら考えを聞かせて下さい
保章:……あぁ
瑛斗:下まで送ります。タクシーを拾いましょう
保章:(M)男に言われて部屋を出て、エレベーターに乗り込む……男はエレベーターの扉の方を向いている
瑛斗:……
保章:なぁ
瑛斗:はい?
保章:少しいいか?
瑛斗:え?
保章:(保章が瑛斗に後ろから抱きつく)
瑛斗:?!っへぁ?な、何をしてるんですか!?
保章:ちょっとだけ、こうして居たいんだ……いいか?
瑛斗:……(くすりと笑って)えぇ
保章:……
瑛斗:この体勢やっぱりダメです
保章:え?
瑛斗:俺も貴方を抱きしめたい
保章:抱きしめ……あ、いや違っ!
瑛斗:違うくないでしょう?ほらこんな風にギューって
:― 瑛斗が振り返り保章を抱きしめる
保章:……
瑛斗:嫌ですか?俺に抱きしめられるの?
保章:……嫌じゃない
瑛斗:……(小さく笑って)可愛い
保章:はぁ?!お前目ぇ腐ってんじゃねえのか?俺が、可愛いだと
瑛斗:可愛いですよ。貴方は可愛い
保章:馬鹿。三十超えたオッサン相手に何言ってんだよ。しかもこんななりだし……
瑛斗:三十超えてようが、ダブルのイカついスーツ着てようが俺には可愛く見えますよ
保章:……ムカつく。お前は何歳なんだよ?
瑛斗:26です
保章:7つも下のクセに……
瑛斗:ん?なんです?
保章:ちっなんでもねぇよ
:
:
:― エレベーターが1階に着き、扉が開く。
瑛斗:どうします?
保章:あ?
瑛斗:下、着いちゃいましたけど
保章:あぁ、着いたな
瑛斗:……
保章:……ん!(瑛斗の部屋のある階のボタンを押す)
瑛斗:……了解
:
:
:― 長めの間
:
瑛斗:え?貴方の家って……
保章:ここだ
瑛斗:(M)『会って欲しい人がいる』両親とも居ないと言っていた彼にそう言われて連れて来られた場所はあきらかヤクザの事務所だった
保章:ここで待っててくれ
瑛斗:え?あ、ちょっと……
:
:
:― 間
保章:親父。今時間大丈夫ですか?
親父:ヤス、お前どこ行ってた、昨夜(ゆうべ)から何度も……
保章:親父!会って欲しい人がいる!
親父:え?……ど、どうした急に
保章:すみません。俺、親父にちゃんと言いたくて、こんないきなりで勝手なのは重々承知ですが今連れて来てるんで
親父:今ぁ?!お前どうした、そんな焦って……どっかの女でも孕ませちまったか?ガキが出来ちまったから急いでるとか……
保章:ガキは出来た……
親父:ほー、めでてえじゃねぇか。よしその女連れて来い
保章:女じゃねぇんだ
親父:ん?
保章:連れて来てるの女じゃねぇんだ
親父:何言ってる。女じゃなかったら……
保章:俺が妊娠したんだ。最近自分がオメガだって分かって、それで……
親父:あぁ?!じゃあお前……
保章:だから相手はアルファの男で、その、ヒートとか俺分かってなくて、パニクってて、そのなんて言うか……
親父:おい、その男連れて来てんだな?
保章:え?あ、はい。連れて……え?親父、ちょっと待って、どこに
親父:どこに?その野郎ん所だ!どこの野郎だ?人ん所のガキを勝手に孕ませやがったクソ野郎は!
保章:え、親父、ちょっと、ちょっと待って……
:― 瑛斗の目の前の扉が開け親父が瑛斗の襟を掴む。
瑛斗:(扉越しに先程の言葉が聞こえていて)すみません!俺が衝動に負け……
親父:(被せて)歯ぁ食いしば…
:
:― 親父が腕を振りかぶり。二人の視線が合った。
瑛斗:(同時に)親父?
親父:(同時に)瑛斗?
:
:
:― 間
保章:二人は知り合い……って事?
親父:あん?……あぁ
瑛斗:えーっと、その、親父って組長って事?
親父:あぁ、言ってなかったのか、アイツ?
瑛斗:聞いてない
保章:アイツ??
親父:あぁ、コイツの母親
保章:……つまりコイツは親父の
親父:子供だ
保章:え?親父の奥さんってたしかもう……
親父:あぁ、死んじまってる
保章:じゃあ
瑛斗:俺はいわゆる愛人の子供って奴なの
保章:……
親父:コイツの母親が頑固でなー『亡くなった奥様に私は絶対に勝てない。だから私は貴方とは結婚しない』って何度も断られてなー
親父:それに俺の家族として迎えちまえばコイツはヤクザの縁者としての人生しか歩めなくなる。コイツの可能性を狭めて、勝手にこの組に入れるなんてのは、したく無かったんだ
瑛斗:ヤクザか何かっぽいなーとは思っていたけど、まさか組長だとは思ってなかったけどな
親父:見る目が無いなー、俺のこの組長としての風格を感じとれないとは
瑛斗:なんだよその組長としての風格ってww
保章:……
親父:で、お前達どうするんだ?
瑛斗:どうって?
親父:『会って欲しい人がいる』って言ったぐらいだ、覚悟決めてここに来たんだろう?
保章:親父、俺、コイツに俺がここの組の人間だって言う前にここに連れて来ちまって……
親父:そうか。それでヤス、お前は瑛斗とどうする予定なんだ?
保章:俺、コイツと一緒になる。それで子供を産んで育てたいと思ってる
親父:その割に番にはなって無いみたいだな?それで本気で一緒になる覚悟があるって言えるのか?
保章:それは、今は妊娠中でヒートが来ないから……番になる。それから、それから組を……
瑛斗:親父!一発、俺を殴ってくれ
保章:はぁ?!
親父:……瑛斗、なんでだ?
瑛斗:親父はさっき本気でキレてた。保章が妊娠させられたって聞いて
瑛斗:俺も殴られても当然の行為をしたと思ってる。初めてのヒートでパニックになってるこの人を衝動的に抱いたんだ。抑えが効かなかった……だから俺を一発
親父:……無茶言いやがる
親父:瑛斗、本気なんだな?お前は本気でヤスと一生一緒にそばに居るって言えるんだな?
瑛斗:あぁ。言える
親父:ヤス、お前は?
保章:もちろん言えます。俺は瑛斗とこの腹の中の子供と絶対に離れない。ずっと一緒に居るって、居たいって
:― 親父が保章と瑛斗の二人を両腕で抱きしめて来る。
親父:じゃあ、お前らは家族だ!俺の大切な家族だ……
保章:親父……?
親父:ヤス、これでこれからはちゃんと親子なんだ、だからちゃんと甘えろ。俺にちゃんと自分の子供として甘やかさせろ
保章:親父
瑛斗:……(軽く笑って)なんか良いな
親父:よし、これで話はまとまったな
親父:二人とも、もし別れるなんて言い出したら地獄見せるから、肝に銘じておけよ
瑛斗:親父がそれ言うと怖すぎるんだけど
保章:本当にww
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:― 長めの間
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保章:で、どうしてこうなった?
瑛斗:ん?何が?
保章:何がじゃねぇんだよ!
親父:本日はご多忙の中、我が葛城組若頭の新規就任。及びその若頭と我が組の保章の婚姻の祝賀の会にご出席頂き誠にありがとうございます
親父:組での経験の少ない我が息子瑛斗ではありますが、伴侶の保章に支えられつつ努力して参る事と思います。皆様、どうぞこれからもよろしくお願いします
保章:なんで、なんで俺がこんな……
保章:組ではみんな『姐さん』とか呼んで来るし、親父が『式の準備は任せろ』とかいうからまかせていたのに
瑛斗:可愛い。よく似合ってる、その白無垢。親父わかってるわー
保章:何がわかってるって言うんだよ!それになんだ、可愛いって年上を馬鹿にしてんのか?
瑛斗:可愛いよ、めっちゃそそられる
保章:……(赤面して)や、やめろ、馬鹿ぁぁーー!!
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:― 本編 完
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:― 以降 おまけシーン
:― 『あの日の朝と初めての〇〇』
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瑛斗:(寝おきで)まぶしい……
瑛斗:?!……あ、やばっ!寝てた!
瑛斗:(M)慌てて目を開け体を起こそうとして、自分の右腕に違和感を感じ
瑛斗:あっ……
瑛斗:(M)そうだ、俺は昨日この人と
保章:んん……
瑛斗:寝てても眉間に皺寄せてる……
瑛斗:(M)ヒートはとりあえず落ち着いたみた……そうか、ヒート中のオメガを抱いてしまったのか
瑛斗:(M)避妊なんてまるで頭に浮かばなかったな……ヒート中の性行為は妊娠の可能性がほぼ100%だって知っていたのに
瑛斗:(M)どう見ても年上なのに、初めてのヒートだと言うこの人
瑛斗:どうするか、ちゃんと話さなきゃな……この人が起きたら
瑛斗:(M)もし産むと言ったら俺はこの人と番になるのか?どういう人だろう?名前も歳も知らない……
瑛斗:(M)考え出すと落ち着かなくなって、俺は彼から身を離してキッチンに移動した。何か飲んで気持ちを落ち着けよう
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:
:― 間
:
保章:何ニヤニヤしてるんだよ
瑛斗:え?
保章:何か良くない事考えてたんだろう?そういう顔してた
瑛斗:あー、たしかにこれは良くない記憶かもしれないなー
瑛斗:初めてのヒートだって言ってフェロモン撒きまくって人を誘っておきながら、翌朝まともに話もせずに家から出て行った男との記憶なんだけど……
保章:だ、だぁぁーーー!!言うな!忘れろ、んな記憶!!
瑛斗:忘れませんよ、俺と貴方の初めての記憶なのに
保章:……
瑛斗:愛しています。あの時からずっと
保章:……(照)
瑛斗:貴方は?
保章:え?
瑛斗:貴方は言ってくれないんですか?
保章:!……言わない!
瑛斗:えー?
保章:言わねぇよ!俺の事『貴方』って呼んでやがる奴にそんな奴に
瑛斗:……(少し笑って)可愛い
保章:は、はぁ?!
瑛斗:だって、今のは可愛いでしょー?
保章:ふざけんな……
瑛斗:保章、保章の事が好きで好きでたまりません。愛してます
保章:……(更に照れる)
瑛斗:保章、俺と番になってくれますか?
保章:そんな事今更確認すんなよ
瑛斗:いいえ、ちゃんと貴方の、保章の気持ちを聞きたいんです
瑛斗:ヒートで流されてでもなく、子供がいるからでもなく、一緒に住んでるからとかそういう事は全部別に置いておいて、ただ純粋に保章が俺をどう思っているのか?どうしたいのかそれをちゃんと言葉でも聞いておきたいんです
保章:……(小声で)好きだよ
瑛斗:えー?なんです?最近歳のせいか少し耳が遠くってー
保章:くそ!…好きだ!瑛斗の事が
保章:瑛斗と居るとヒートでもないのにドキドキするし、ずっと一緒にいたくなる
保章:俺、この言葉が正しいのか分からないけど……愛してる。瑛斗を愛してる。俺も番になりたいって思ってる
瑛斗:……嬉しいです
保章:……(照)
瑛斗:でも良いんですか?
保章:何がだ?
瑛斗:番になるって事は、俺は瑛斗の身体に噛み付く事になる。それこそ保章の体に痕の残る
瑛斗:貴方が刺青を入れていないのは、その……
保章:あぁ、そうだ。あの母親が男が出来たと言う度に増やしていくあの刺青という名の消えない痕が醜くて、嫌で……。刺青の一つくらい入れておいた方がヤクザとしてハクがつくって分かっていても、俺は身体にあんな物残したくなかった
保章:自分でも不思議なんだ。俺がお前の、瑛斗の物だって証なら体に残っても良いって思える
瑛斗:保章……
保章:瑛斗、お、俺……
瑛斗:?……ヒート、来ちゃいましたね。薬は……
保章:いいよ
瑛斗:え?
保章:今日はこのまま、して
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:
:― 間
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瑛斗:こんな時期にタートルネック、暑くない?
保章:だって……(項の辺りを手で擦る)
瑛斗:見せてくれてもいいのに、皆に保章は俺の物だって証
保章:は、恥ずかしい事言ってんな!……くそ、なんで俺ばっかり
瑛斗:ん?良いですよー?俺も保章の物だって証を残しても
瑛斗:タトゥーでも入れましょうか、ココにアイラブヤスアキとか
保章:馬鹿馬鹿馬鹿……それ、俺の方が恥ずかしいじゃねぇか
瑛斗:ふふふ
保章:馬鹿な事言ってないで珈琲入れてくれ
瑛斗:ダメです
保章:あ?
瑛斗:もう忘れたんですか?ヒート中の僕らがヤったんですよ?
保章:あ……って事は
瑛斗:次も男の子ですかね?それとも女の子かなー?
:
:
:― おまけ 完