台本概要

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タイトル 愛の鞭【女S・男M】
作者名 椿 麗華  (@Tsubaki_Reika)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 サディストプレイヤー・南 憂夜は、客として現れた北山 令子と出会い、Mに目覚めてしまう。そしてふたりの間に愛が生まれる。

男女サシ劇
25~30分程度

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
憂夜 70 南 憂夜(みなみ ゆうや) 界隈では有名なサディストプレイヤー。
令子 56 北山 令子(きたやま れいこ) SMクラブのオーナーの娘。元はマゾヒスト。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
   『愛の鞭【男女版(女S・男M】』       憂夜:(N)僕はサディスト・プレイヤー・南 憂夜(ゆうや)。 憂夜:(N)如何にしてMな女性を悦ばせるのかを追求しながら、僕自身もそれを楽しむ。 憂夜:(N)たとえそれが酷いプレイだとしても、相手から望まれれば、 憂夜:(N)息の出来るギリギリまで虐め抜くことを生き甲斐にしている。 憂夜:(N)慣れない頃はプレイをするたびに、決まって悪夢にうなされ、 憂夜:(N)「僕はこのままでいいのだろうか。もしや間違っているのだろうか」と自問自答する日が続いた。 憂夜(:N)しかし今はまるでそれが嘘のように、日々黙々とミッションをこなす。   憂夜:(N)今回の依頼人は新規の客だ。 憂夜:(N)知り合いから紹介された、三条令子(さんじょう れいこ)という女。年齢は聞かされていない。 憂夜:(N)そもそもSMのプレイというものには年齢など関係ない。 憂夜:(N)関係があるのは、ただひとつ・・・。はっきりとした主従関係だ。 憂夜:(N)たとえ初対面の相手であっても、その関係を作り上げることが出来なければ、サディスト失格だ。   憂夜:(N)今度の依頼人は自称ドMらしいが、はっきりと判定がつかないので、 憂夜:(N)本当にドMかどうか、テストして欲しいという依頼だ。 憂夜:(N)こんな挑戦状のような依頼は嫌いじゃない。むしろ、好きだ。   ある日の新宿の街   憂夜:(N)梅雨空で新宿の街全体が湿り気で覆われ、 憂夜:(N)どんよりとした雲が、街を見下ろしている。 憂夜:(N)僕は人混みを避けるように早足で横断歩道を渡り、 憂夜:(N)歌舞伎町のそばにある小さな喫茶店に入り、 憂夜:(N)いつもの濃いめの珈琲を飲む。 憂夜;(N)隣には大きな黒いスーツケースを置いて。   憂夜:(N)依頼人のいるホテルの部屋のブザーを押すと、静かにドアが開く。 憂夜:初めまして。南 憂夜と申します。 憂夜:三条令子さんで、お間違いないでしょうか? 令子:はい。私が三条です。三条・・・令子。中へどうぞ。 憂夜:(N)彼女は長身でスリムで髪が長く、端正な顔立ちをしていた。 憂夜:(N)プロのサディストの僕でさえ、心を奪われそうなほどに美しい女だ。     部屋に通されると、憂夜は仕事を始める。   憂夜:本日は、三条さんがドMなのかどうかをテストさせていただきます。 憂夜:僕はNG事項はありませんが、ひとつだけお願いがあります。 憂夜:決して演技をしないでください。 憂夜:もしもプレイ中にやめてほしくなったら「ギブアップ」と言ってください。 憂夜:それと、プレイ中にやりたいことが出てきたら遠慮なくどうぞ。 憂夜:ただ・・・僕はサディストです。その点だけはお忘れなきように。 令子:承知・・・しました。 憂夜:プレイ中にお呼びするお名前は・・・令子さん、でよろしいでしょうか? 令子:ええ。でも・・・名前なんてどうでもいいわ。 令子:『お前』でも、『アンタ』でも、『君』でも、好きにしてください。 憂夜:もしかして、何度かこういった実験・・・ 憂夜:つまり、令子さん自身が、Mであるかどうかというテストをしたことがあるんですか? 令子:そうですね・・・無くは・・・ないですよ。 令子:でも、何ていうか、決定的な決め手がない・・・。 令子:本当のプロに出会ったことがない、と言った方が正解でしょうか。 憂夜:なるほど。それは楽しみですね。腕が鳴りますよ。(自信ありげに言う) 令子:ふふふ・・・。楽しみですね。期待が膨らみます。 憂夜:(N)僕は部屋のライトを薄紫色に調節し、 憂夜:(N)ケイン、一本鞭、バラ鞭、縄、拘束テープ、手錠、ワセリン、オイル、目隠し、ロウソクなどをテーブルに並べた。 憂夜:さあ、気を楽にして。 令子:あの・・・シャワーは浴びないのですか? 憂夜:黙って僕の言うことを聞いて。 令子:だって・・・。 憂夜:だって・・・何? これは命令だ。シャワーを浴びるのを禁止する。 令子:待って・・・! それは・・・! 憂夜:ん? 何だ? 恥ずかしいのか? 令子:・・・あ・・・はい。 憂夜:最高じゃないか。それが羞恥心というものだよ。(不敵に笑う) 令子:(N)彼は私のワンピースのファスナーに手をかけ、それを静かに下ろしていった。 令子:(N)ただそれだけなのに、今まで味わったことのないような感情が、躰の奥から湧いてくるのを感じた。 令子:私・・・今夜は尋常な気分でいられないかもしれない・・・。 憂夜:(N)彼女の口からわずかに吐息が漏れる。 憂夜:綺麗な肌をしている・・・。 令子:(N)彼の温かい手が、私の胸に触れ、その瞬間にベッドに押し倒され、 令子:(N)右手で後ろから、髪の根元を掴まれ、左手で首を絞められ、背中にキスをされる。 令子:やめて・・・やめてください! あの・・・。 憂夜:何を言っている? まだ始まったばかりだぞ。 令子:だから、その・・・言いにくいんですが・・・下手くそです! 憂夜:下手・・・くそ・・・? 令子:ええ。下手くそです・・・! こうやるのよ・・・!     憂夜:(N)令子は僕の躰をうつ伏せにすると、後ろから首に手をかけた。 憂夜:何をする! やめないか! プレイの邪魔をしないでくれ!  憂夜:うぅっ・・・だ、誰に教わった・・・この絞め方・・・。(吐息混じりで) 令子:ふふ。気持ちいいでしょう?  令子:憂夜さん、首を指で押さえるポイントが、少しズレてる。 令子:これが本当のやり方ですよ。 憂夜:(N)次第に力を加えられるが、僕は抗うことを忘れ、 憂夜:(N)彼女に首を固定されながら背中への愛撫を受け入れるしかなかった。 憂夜:呼吸ができている・・・。しかもこんなに苦しいのに。 憂夜:僕のやり方とは違う・・・。だが・・・次は譲らないよ。 憂夜:(N)僕はバラ鞭を握ろうとしたが、それはすでに令子の手にあった。 憂夜:人の鞭を勝手に触るんじゃない! 令子:憂夜さん・・・。これ、持ち手の部分が紫色で・・・美しくてしっかりしてる。 令子:それに・・・とても良い皮を使ってる。どこで見つけたの?  令子:私も欲しい。少しだけ、使ってもいいですか?  憂夜:ダメだ! 返せ! 鞭は僕の魂だ。雑に扱われたくはないからな。 令子:大丈夫ですよ。大事に扱いますから、一度だけ・・・お願いします。 憂夜:仕方ない。一度だけだぞ。果たして僕が褒めるだけの叩き方ができるのか? 憂夜:(N)令子はゆっくりと、手慣れた様子でバラ鞭を手にする。 憂夜:(N)数秒後、バシッ!と重たさのある、しかし切れ味の良い音が部屋に鳴り響いた。 憂夜:(N)初心者ならば上から振り下ろすはずなのに、令子は斜め下に鞭を向け、迷うことなく僕の尻を叩いた。     響き渡る鞭の音(1回)。 憂夜:ああぁ・・・!(アドリブで激しく悶える) 令子:どうです? 感じてくれましたか?  令子:多分、一本鞭よりもバラ鞭の方が、イイ感じで気持ちがいいと思う。 令子:あと・・・愛情。相手への愛があるから叩くんです 令子:私は嫌いな人を叩いたりしない。叩きたい人を叩くの。 令子:もちろん、叩いたら喜んでくれる人をね。プレイは愛だから。 憂夜:・・・愛? 令子:そう。愛・・・。 令子:ねえ・・・憂夜さんの躰に、うっすらと紅く・・・花のような文様が浮かんできたわ。 令子:本当に・・・綺麗・・・。(うっとりするように言う)   令子は鞭を叩き続ける(鞭の音)(三回)。   憂夜:やめないか・・・! いや・・・もっと・・・!  憂夜:うぅ・・・。これが・・・愛なのか? んあぁ・・・!(一層激しく悶える!) 令子:もっと体の奥底まで、私の愛の鞭をあげる。待ってて 。 憂夜:(N)令子は僕の一番のお気に入りの一本鞭を持つと、にっこりと笑い、 憂夜:(N)そののちに冷酷な目をして鞭を振り上げた。 憂夜:(N)空気を斬る音が聞こえると同時に、自分の叫び声が部屋に響き渡る。     響き渡る一本鞭の鋭い音(一回)。   憂夜:うぅ・・・! それはやめろ・・・! 僕の体に・・・傷を・・・傷を付けないでくれ!  憂夜:頼む・・僕の体は、ひとりだけのものではないんだよ・・・! 憂夜:んあぁ・・・こ・・・これは・・・なんと・・・!  憂夜:骨の奥までジンジンしやがる・・・くあぁ・・・!(苦しさと快感に悶える。息切れしながら激しく) 令子:ごめんなさい・・・。随分と跡を付けてしまって。 令子:でも・・・久しぶりにこんなに上手く・・・叩けた気がする。 令子:憂夜さん、嬉しそう。私も嬉しい。もう一本、欲しい?     響き渡る鞭の音(一回)。   憂夜:あぁ・・・! 令子・・・さん・・・。 憂夜:もう、いい加減にしてくれ。もう・・・くぅ・・・!(激しく悶える) 令子:喜んでる憂夜さんを、もっと虐めたくなりました。 令子:もう手加減はしません・・・! 憂夜:(N)空中の微粒子までをも切り裂くように踊る一本鞭は、彼女に操られ、 憂夜:(N)踊る龍のごとく姿を変化させ、僕の躰に真っ赤な細い線状の跡を幾つも描いた。     響き渡る鞭の音(三回)。   憂夜:く・・・くぁぁ・・・う・・・体の奥も脳みそも・・・深くまで痺れる・・・! 憂夜:背中に火柱が走るみたいだ・・・!(吐息混じりに激しく悶える) 令子:堪らないよね・・・。 令子:悦びながら苦しむ憂夜さんを見ると、私も興奮するわ。 憂夜:(N)令子が鞭を振り上げる気配を感じるだけで体が疼く自分が不思議だった。 憂夜:(N)彼女が妖艶に見えて、恐ろしくて愛おしくて。 憂夜:(N)こんな思いを、初めて会う依頼人に対して抱くのは、今まで無かったことだ。 憂夜:(N)サディストは叩かれることを嫌う。なのに、嫌いではない自分がいる。 憂夜:畜生・・・! 僕としたことが・・・んあぁ・・・!!(より一層息を切らしながら激しく悶え狂う) 令子:憂夜さん、私はもっとあなたを・・・叩きます。容赦はしません!  令子:これから始まるのは・・・愛の時間です。 憂夜:(N)彼女は僕の耳元で囁いた。次第に、鞭を振り下ろす渇いた音が、BGMと化してゆく。     令子は鞭で憂夜をひたすら叩く(三回)。   令子:ほら! 嬉しい? それとも・・・まだ足りない? 憂夜:も・・・もっと、叩け・・・叩いてくれよ・・・!(ひたすら悶える) 令子:『叩いてください』でしょ?  令子:もっときちんとお願いしてくれないとわからないわよ!! 憂夜:お・・・お願いです・・・もっと・・・もっと・・・叩いてください(涙目で懇願するように) 憂夜:(N)令子は時間をかけ、何度も何度も鞭で僕を叩いた。     鞭の音と令子の声が部屋に響き渡る(五回)。   憂夜:・・・あぁぁ!!! 助けて・・・ください・・もう、限界です!(狂いそうに息を切らしながら) 令子:(N)恍惚の表情を浮かべる彼の躰に付いた、無数の赤い文様を指で優しくなぞる私は、もはや、『S』だった。 令子:だいぶ満足してくれたようですね。でも・・・まだ終わりじゃないですよ。 憂夜:(N)令子は悶える僕の両手首に手錠をかけ、仰向けにすると、僕の躰をまたぎ、 憂夜:(N)見下ろすようにベッドの上で仁王立ちになり、ケインの先端で僕のあごを持ち上げた。 令子:大人しく言うことを聞きなさい! いいわね? そう・・・静かにするのよ。 憂夜:(N)彼女は赤いピンヒールを履き、僕のそれを弄ぶ。   悶える憂夜。   令子:こういうのも・・・悪くないわね、憂夜・・・さん?  令子:ほら、もう我慢できないって顔して。かわいい。 令子:私のこと・・・欲しいなんて言わないでね 憂夜:バカ・・・。言うわけ・・・。(焦らされて悶える) 令子:言ってもいいわよ。その台詞。 憂夜:僕はサディストだ。言わない・・・言うわけがない。(必死で我慢している) 令子:もういいわよ。言っても。 憂夜:・・・・・・ 令子:言いなさい!! 憂夜:(N)赤いピンヒールのかかとが、僕の太ももにゆっくりと時間をかけて食い込んでくる。 憂夜:(N)その痛みがやけに快感だった。 令子:どう? 気持ちいい? んふふ・・・いい顔してる。 憂夜:お願いです。手のひらにも、そのピンヒールを・・・ください 令子:随分と我が儘なのね。いいわよ。踏んであげるわ。ほら、これでいい? 憂夜:あぁ・・・気持ちがいいです・・・! 令子:手のひらが感じるなんて、面白いわね。 令子:んふふ、あなた・・・本当のドMなのね。 憂夜:僕に・・・ください・・・。(震えながら) 令子:声が小さいわよ。 憂夜:お願いです。僕に・・・ください! 令子:聞こえない。もっと大きな声で言って! 憂夜:・・・令子さん・・・あなたが・・・欲しい・・・! 震えるほど、欲しいです・・・。 憂夜:(N)令子は僕の手錠を外し、ケインを置き、ピンヒールを脱ぎ、僕の唇に優しく口づけをし、 憂夜:(N)手錠の跡がついた手首を優しくさすりながら、包み込むように、僕を抱きしめてくれた。   令子:そろそろご褒美を・・・と思ったけれど、ひとつ、忘れてたわ。 憂夜:何を・・・ですか? 令子:ビンタ、欲しいんじゃないの? 令子:ふふ・・・。欲しそうな目をして。 憂夜:・・・欲しいです! 令子:じゃ、いくわよ・・・!   令子が憂夜の頬を思い切り叩く音がした(可能であれば、お好きな回数のビンタ音をどうぞ)。   憂夜:ああ・・・!!  た・・堪らないです・・・! もっと・・・お願いします! 令子:あらあら、欲しがりさんねぇ。じゃ、もう一回だけよ。     再び令子は憂夜の頬を叩く(可能であればビンタ音一回)。   憂夜:ああっ・・・!! 令子:んふふ。いいわね、その顔。 令子:それじゃあ、ちゃーんとご褒美を・・・あげるわね。 憂夜:令子さんを・・・僕に・・・ください・・・ 令子:・・・もっと、別の言い方があるでしょ? 憂夜:あなたが・・・欲しい。令子さん、どうか、あなたの中に・・・僕を・・・。 令子:いいわよ。 令子:(N)散々敏感になった彼の躰に、軽くスパンキングをしながらひとつになると、 令子:(N)まるで魚が跳ねるように、彼の意識が飛んだ。    憂夜:(N)僕は、初めて負けた。サディストという立場を逆転されてしまったのだ。   令子:憂夜さん、私、どうやらドMではなかったみたいですね。 令子:憂夜さんは・・・立派なドMでしたね。 令子:あなたがこれからも、サディストで食べていくなら、このMな部分、忘れないでほしい。 令子:本物のサディストは、SもMもできるんですよ。 憂夜:令子・・・君は一体・・・あの鞭の使い方・・・。もしかして・・・プロか? 令子:私ですか? あなたに会ってみたかった、ただの女です。元々はきっとドMです。 令子:だけど・・・これからも、憂夜さんの前では・・・あなたを虐める女王様でいさせてください。 憂夜:散々、僕の愛する鞭を勝手に使って・・・。 令子:ごめんなさいね。でも、楽しかったわ。 憂夜:あなたが鞭を振り下ろすたびに、あなたの長い、ゆるくウェーブのかかった髪が美しく揺れ動き、 憂夜:乱れる姿に見蕩れながら、痛みを欲する僕は、悔しいけれど、 憂夜:間違いなく、M以外の何者でもない。あなたの前では。 令子:そして私もS。あなたの前ではね・・・。 憂夜:あなたのスパンキング・・・絶妙だったな。流石ですね。 令子:まあ。お褒めにあずかり、光栄です。 憂夜:(N)静かにベッドに横たわる彼女を抱きしめると、バニラの混じる、オリエンタルな甘い香りがした。 令子:(N)彼は瞳を閉じて、私の胸に顔を埋めた。 憂夜:(N)後日、彼女を紹介してくれた知人から、 憂夜:(N)実は、令子が某SMクラブのオーナーの娘であると聞かされる。 憂夜:(N)それも・・・マゾヒスト。 憂夜:(N)彼女は僕に躰で教えてくれたのだろう、本当の性の悦びというものを。本当のSMというものを。 憂夜:(N)僕は今まで何をしてきたのだろう。何かが間違っていたような気がする。 憂夜:(N)一流のサディストだと思ってやってきたことが、音を立てて崩れていくような感覚を覚えた。 憂夜:(N)慢心で仕事をしてきた自分を恥じた。 令子:(N)あれから彼は少しの間、仕事を引き受けず、休息期間を設けたのち、再びサディストとして復帰した。 令子:(N)そして・・・ごく希に、こっそりとマゾヒストとして。暫くして、憂夜と再会した。   令子:噂、聞いたわよ。評判良いみたいね。 憂夜:令子のおかげだよ。 令子:じゃ、今日はご褒美にいっぱい・・・虐めてあげる。 憂夜:なんだって・・・?(嬉しそうに喜んで!)   憂夜:(N)季節が進んだ新宿の街は、真夏の暑さにのぼせているようだが、僕たちはそれでも生きている。欲望渦巻くこの街で。    (了)

   『愛の鞭【男女版(女S・男M】』       憂夜:(N)僕はサディスト・プレイヤー・南 憂夜(ゆうや)。 憂夜:(N)如何にしてMな女性を悦ばせるのかを追求しながら、僕自身もそれを楽しむ。 憂夜:(N)たとえそれが酷いプレイだとしても、相手から望まれれば、 憂夜:(N)息の出来るギリギリまで虐め抜くことを生き甲斐にしている。 憂夜:(N)慣れない頃はプレイをするたびに、決まって悪夢にうなされ、 憂夜:(N)「僕はこのままでいいのだろうか。もしや間違っているのだろうか」と自問自答する日が続いた。 憂夜(:N)しかし今はまるでそれが嘘のように、日々黙々とミッションをこなす。   憂夜:(N)今回の依頼人は新規の客だ。 憂夜:(N)知り合いから紹介された、三条令子(さんじょう れいこ)という女。年齢は聞かされていない。 憂夜:(N)そもそもSMのプレイというものには年齢など関係ない。 憂夜:(N)関係があるのは、ただひとつ・・・。はっきりとした主従関係だ。 憂夜:(N)たとえ初対面の相手であっても、その関係を作り上げることが出来なければ、サディスト失格だ。   憂夜:(N)今度の依頼人は自称ドMらしいが、はっきりと判定がつかないので、 憂夜:(N)本当にドMかどうか、テストして欲しいという依頼だ。 憂夜:(N)こんな挑戦状のような依頼は嫌いじゃない。むしろ、好きだ。   ある日の新宿の街   憂夜:(N)梅雨空で新宿の街全体が湿り気で覆われ、 憂夜:(N)どんよりとした雲が、街を見下ろしている。 憂夜:(N)僕は人混みを避けるように早足で横断歩道を渡り、 憂夜:(N)歌舞伎町のそばにある小さな喫茶店に入り、 憂夜:(N)いつもの濃いめの珈琲を飲む。 憂夜;(N)隣には大きな黒いスーツケースを置いて。   憂夜:(N)依頼人のいるホテルの部屋のブザーを押すと、静かにドアが開く。 憂夜:初めまして。南 憂夜と申します。 憂夜:三条令子さんで、お間違いないでしょうか? 令子:はい。私が三条です。三条・・・令子。中へどうぞ。 憂夜:(N)彼女は長身でスリムで髪が長く、端正な顔立ちをしていた。 憂夜:(N)プロのサディストの僕でさえ、心を奪われそうなほどに美しい女だ。     部屋に通されると、憂夜は仕事を始める。   憂夜:本日は、三条さんがドMなのかどうかをテストさせていただきます。 憂夜:僕はNG事項はありませんが、ひとつだけお願いがあります。 憂夜:決して演技をしないでください。 憂夜:もしもプレイ中にやめてほしくなったら「ギブアップ」と言ってください。 憂夜:それと、プレイ中にやりたいことが出てきたら遠慮なくどうぞ。 憂夜:ただ・・・僕はサディストです。その点だけはお忘れなきように。 令子:承知・・・しました。 憂夜:プレイ中にお呼びするお名前は・・・令子さん、でよろしいでしょうか? 令子:ええ。でも・・・名前なんてどうでもいいわ。 令子:『お前』でも、『アンタ』でも、『君』でも、好きにしてください。 憂夜:もしかして、何度かこういった実験・・・ 憂夜:つまり、令子さん自身が、Mであるかどうかというテストをしたことがあるんですか? 令子:そうですね・・・無くは・・・ないですよ。 令子:でも、何ていうか、決定的な決め手がない・・・。 令子:本当のプロに出会ったことがない、と言った方が正解でしょうか。 憂夜:なるほど。それは楽しみですね。腕が鳴りますよ。(自信ありげに言う) 令子:ふふふ・・・。楽しみですね。期待が膨らみます。 憂夜:(N)僕は部屋のライトを薄紫色に調節し、 憂夜:(N)ケイン、一本鞭、バラ鞭、縄、拘束テープ、手錠、ワセリン、オイル、目隠し、ロウソクなどをテーブルに並べた。 憂夜:さあ、気を楽にして。 令子:あの・・・シャワーは浴びないのですか? 憂夜:黙って僕の言うことを聞いて。 令子:だって・・・。 憂夜:だって・・・何? これは命令だ。シャワーを浴びるのを禁止する。 令子:待って・・・! それは・・・! 憂夜:ん? 何だ? 恥ずかしいのか? 令子:・・・あ・・・はい。 憂夜:最高じゃないか。それが羞恥心というものだよ。(不敵に笑う) 令子:(N)彼は私のワンピースのファスナーに手をかけ、それを静かに下ろしていった。 令子:(N)ただそれだけなのに、今まで味わったことのないような感情が、躰の奥から湧いてくるのを感じた。 令子:私・・・今夜は尋常な気分でいられないかもしれない・・・。 憂夜:(N)彼女の口からわずかに吐息が漏れる。 憂夜:綺麗な肌をしている・・・。 令子:(N)彼の温かい手が、私の胸に触れ、その瞬間にベッドに押し倒され、 令子:(N)右手で後ろから、髪の根元を掴まれ、左手で首を絞められ、背中にキスをされる。 令子:やめて・・・やめてください! あの・・・。 憂夜:何を言っている? まだ始まったばかりだぞ。 令子:だから、その・・・言いにくいんですが・・・下手くそです! 憂夜:下手・・・くそ・・・? 令子:ええ。下手くそです・・・! こうやるのよ・・・!     憂夜:(N)令子は僕の躰をうつ伏せにすると、後ろから首に手をかけた。 憂夜:何をする! やめないか! プレイの邪魔をしないでくれ!  憂夜:うぅっ・・・だ、誰に教わった・・・この絞め方・・・。(吐息混じりで) 令子:ふふ。気持ちいいでしょう?  令子:憂夜さん、首を指で押さえるポイントが、少しズレてる。 令子:これが本当のやり方ですよ。 憂夜:(N)次第に力を加えられるが、僕は抗うことを忘れ、 憂夜:(N)彼女に首を固定されながら背中への愛撫を受け入れるしかなかった。 憂夜:呼吸ができている・・・。しかもこんなに苦しいのに。 憂夜:僕のやり方とは違う・・・。だが・・・次は譲らないよ。 憂夜:(N)僕はバラ鞭を握ろうとしたが、それはすでに令子の手にあった。 憂夜:人の鞭を勝手に触るんじゃない! 令子:憂夜さん・・・。これ、持ち手の部分が紫色で・・・美しくてしっかりしてる。 令子:それに・・・とても良い皮を使ってる。どこで見つけたの?  令子:私も欲しい。少しだけ、使ってもいいですか?  憂夜:ダメだ! 返せ! 鞭は僕の魂だ。雑に扱われたくはないからな。 令子:大丈夫ですよ。大事に扱いますから、一度だけ・・・お願いします。 憂夜:仕方ない。一度だけだぞ。果たして僕が褒めるだけの叩き方ができるのか? 憂夜:(N)令子はゆっくりと、手慣れた様子でバラ鞭を手にする。 憂夜:(N)数秒後、バシッ!と重たさのある、しかし切れ味の良い音が部屋に鳴り響いた。 憂夜:(N)初心者ならば上から振り下ろすはずなのに、令子は斜め下に鞭を向け、迷うことなく僕の尻を叩いた。     響き渡る鞭の音(1回)。 憂夜:ああぁ・・・!(アドリブで激しく悶える) 令子:どうです? 感じてくれましたか?  令子:多分、一本鞭よりもバラ鞭の方が、イイ感じで気持ちがいいと思う。 令子:あと・・・愛情。相手への愛があるから叩くんです 令子:私は嫌いな人を叩いたりしない。叩きたい人を叩くの。 令子:もちろん、叩いたら喜んでくれる人をね。プレイは愛だから。 憂夜:・・・愛? 令子:そう。愛・・・。 令子:ねえ・・・憂夜さんの躰に、うっすらと紅く・・・花のような文様が浮かんできたわ。 令子:本当に・・・綺麗・・・。(うっとりするように言う)   令子は鞭を叩き続ける(鞭の音)(三回)。   憂夜:やめないか・・・! いや・・・もっと・・・!  憂夜:うぅ・・・。これが・・・愛なのか? んあぁ・・・!(一層激しく悶える!) 令子:もっと体の奥底まで、私の愛の鞭をあげる。待ってて 。 憂夜:(N)令子は僕の一番のお気に入りの一本鞭を持つと、にっこりと笑い、 憂夜:(N)そののちに冷酷な目をして鞭を振り上げた。 憂夜:(N)空気を斬る音が聞こえると同時に、自分の叫び声が部屋に響き渡る。     響き渡る一本鞭の鋭い音(一回)。   憂夜:うぅ・・・! それはやめろ・・・! 僕の体に・・・傷を・・・傷を付けないでくれ!  憂夜:頼む・・僕の体は、ひとりだけのものではないんだよ・・・! 憂夜:んあぁ・・・こ・・・これは・・・なんと・・・!  憂夜:骨の奥までジンジンしやがる・・・くあぁ・・・!(苦しさと快感に悶える。息切れしながら激しく) 令子:ごめんなさい・・・。随分と跡を付けてしまって。 令子:でも・・・久しぶりにこんなに上手く・・・叩けた気がする。 令子:憂夜さん、嬉しそう。私も嬉しい。もう一本、欲しい?     響き渡る鞭の音(一回)。   憂夜:あぁ・・・! 令子・・・さん・・・。 憂夜:もう、いい加減にしてくれ。もう・・・くぅ・・・!(激しく悶える) 令子:喜んでる憂夜さんを、もっと虐めたくなりました。 令子:もう手加減はしません・・・! 憂夜:(N)空中の微粒子までをも切り裂くように踊る一本鞭は、彼女に操られ、 憂夜:(N)踊る龍のごとく姿を変化させ、僕の躰に真っ赤な細い線状の跡を幾つも描いた。     響き渡る鞭の音(三回)。   憂夜:く・・・くぁぁ・・・う・・・体の奥も脳みそも・・・深くまで痺れる・・・! 憂夜:背中に火柱が走るみたいだ・・・!(吐息混じりに激しく悶える) 令子:堪らないよね・・・。 令子:悦びながら苦しむ憂夜さんを見ると、私も興奮するわ。 憂夜:(N)令子が鞭を振り上げる気配を感じるだけで体が疼く自分が不思議だった。 憂夜:(N)彼女が妖艶に見えて、恐ろしくて愛おしくて。 憂夜:(N)こんな思いを、初めて会う依頼人に対して抱くのは、今まで無かったことだ。 憂夜:(N)サディストは叩かれることを嫌う。なのに、嫌いではない自分がいる。 憂夜:畜生・・・! 僕としたことが・・・んあぁ・・・!!(より一層息を切らしながら激しく悶え狂う) 令子:憂夜さん、私はもっとあなたを・・・叩きます。容赦はしません!  令子:これから始まるのは・・・愛の時間です。 憂夜:(N)彼女は僕の耳元で囁いた。次第に、鞭を振り下ろす渇いた音が、BGMと化してゆく。     令子は鞭で憂夜をひたすら叩く(三回)。   令子:ほら! 嬉しい? それとも・・・まだ足りない? 憂夜:も・・・もっと、叩け・・・叩いてくれよ・・・!(ひたすら悶える) 令子:『叩いてください』でしょ?  令子:もっときちんとお願いしてくれないとわからないわよ!! 憂夜:お・・・お願いです・・・もっと・・・もっと・・・叩いてください(涙目で懇願するように) 憂夜:(N)令子は時間をかけ、何度も何度も鞭で僕を叩いた。     鞭の音と令子の声が部屋に響き渡る(五回)。   憂夜:・・・あぁぁ!!! 助けて・・・ください・・もう、限界です!(狂いそうに息を切らしながら) 令子:(N)恍惚の表情を浮かべる彼の躰に付いた、無数の赤い文様を指で優しくなぞる私は、もはや、『S』だった。 令子:だいぶ満足してくれたようですね。でも・・・まだ終わりじゃないですよ。 憂夜:(N)令子は悶える僕の両手首に手錠をかけ、仰向けにすると、僕の躰をまたぎ、 憂夜:(N)見下ろすようにベッドの上で仁王立ちになり、ケインの先端で僕のあごを持ち上げた。 令子:大人しく言うことを聞きなさい! いいわね? そう・・・静かにするのよ。 憂夜:(N)彼女は赤いピンヒールを履き、僕のそれを弄ぶ。   悶える憂夜。   令子:こういうのも・・・悪くないわね、憂夜・・・さん?  令子:ほら、もう我慢できないって顔して。かわいい。 令子:私のこと・・・欲しいなんて言わないでね 憂夜:バカ・・・。言うわけ・・・。(焦らされて悶える) 令子:言ってもいいわよ。その台詞。 憂夜:僕はサディストだ。言わない・・・言うわけがない。(必死で我慢している) 令子:もういいわよ。言っても。 憂夜:・・・・・・ 令子:言いなさい!! 憂夜:(N)赤いピンヒールのかかとが、僕の太ももにゆっくりと時間をかけて食い込んでくる。 憂夜:(N)その痛みがやけに快感だった。 令子:どう? 気持ちいい? んふふ・・・いい顔してる。 憂夜:お願いです。手のひらにも、そのピンヒールを・・・ください 令子:随分と我が儘なのね。いいわよ。踏んであげるわ。ほら、これでいい? 憂夜:あぁ・・・気持ちがいいです・・・! 令子:手のひらが感じるなんて、面白いわね。 令子:んふふ、あなた・・・本当のドMなのね。 憂夜:僕に・・・ください・・・。(震えながら) 令子:声が小さいわよ。 憂夜:お願いです。僕に・・・ください! 令子:聞こえない。もっと大きな声で言って! 憂夜:・・・令子さん・・・あなたが・・・欲しい・・・! 震えるほど、欲しいです・・・。 憂夜:(N)令子は僕の手錠を外し、ケインを置き、ピンヒールを脱ぎ、僕の唇に優しく口づけをし、 憂夜:(N)手錠の跡がついた手首を優しくさすりながら、包み込むように、僕を抱きしめてくれた。   令子:そろそろご褒美を・・・と思ったけれど、ひとつ、忘れてたわ。 憂夜:何を・・・ですか? 令子:ビンタ、欲しいんじゃないの? 令子:ふふ・・・。欲しそうな目をして。 憂夜:・・・欲しいです! 令子:じゃ、いくわよ・・・!   令子が憂夜の頬を思い切り叩く音がした(可能であれば、お好きな回数のビンタ音をどうぞ)。   憂夜:ああ・・・!!  た・・堪らないです・・・! もっと・・・お願いします! 令子:あらあら、欲しがりさんねぇ。じゃ、もう一回だけよ。     再び令子は憂夜の頬を叩く(可能であればビンタ音一回)。   憂夜:ああっ・・・!! 令子:んふふ。いいわね、その顔。 令子:それじゃあ、ちゃーんとご褒美を・・・あげるわね。 憂夜:令子さんを・・・僕に・・・ください・・・ 令子:・・・もっと、別の言い方があるでしょ? 憂夜:あなたが・・・欲しい。令子さん、どうか、あなたの中に・・・僕を・・・。 令子:いいわよ。 令子:(N)散々敏感になった彼の躰に、軽くスパンキングをしながらひとつになると、 令子:(N)まるで魚が跳ねるように、彼の意識が飛んだ。    憂夜:(N)僕は、初めて負けた。サディストという立場を逆転されてしまったのだ。   令子:憂夜さん、私、どうやらドMではなかったみたいですね。 令子:憂夜さんは・・・立派なドMでしたね。 令子:あなたがこれからも、サディストで食べていくなら、このMな部分、忘れないでほしい。 令子:本物のサディストは、SもMもできるんですよ。 憂夜:令子・・・君は一体・・・あの鞭の使い方・・・。もしかして・・・プロか? 令子:私ですか? あなたに会ってみたかった、ただの女です。元々はきっとドMです。 令子:だけど・・・これからも、憂夜さんの前では・・・あなたを虐める女王様でいさせてください。 憂夜:散々、僕の愛する鞭を勝手に使って・・・。 令子:ごめんなさいね。でも、楽しかったわ。 憂夜:あなたが鞭を振り下ろすたびに、あなたの長い、ゆるくウェーブのかかった髪が美しく揺れ動き、 憂夜:乱れる姿に見蕩れながら、痛みを欲する僕は、悔しいけれど、 憂夜:間違いなく、M以外の何者でもない。あなたの前では。 令子:そして私もS。あなたの前ではね・・・。 憂夜:あなたのスパンキング・・・絶妙だったな。流石ですね。 令子:まあ。お褒めにあずかり、光栄です。 憂夜:(N)静かにベッドに横たわる彼女を抱きしめると、バニラの混じる、オリエンタルな甘い香りがした。 令子:(N)彼は瞳を閉じて、私の胸に顔を埋めた。 憂夜:(N)後日、彼女を紹介してくれた知人から、 憂夜:(N)実は、令子が某SMクラブのオーナーの娘であると聞かされる。 憂夜:(N)それも・・・マゾヒスト。 憂夜:(N)彼女は僕に躰で教えてくれたのだろう、本当の性の悦びというものを。本当のSMというものを。 憂夜:(N)僕は今まで何をしてきたのだろう。何かが間違っていたような気がする。 憂夜:(N)一流のサディストだと思ってやってきたことが、音を立てて崩れていくような感覚を覚えた。 憂夜:(N)慢心で仕事をしてきた自分を恥じた。 令子:(N)あれから彼は少しの間、仕事を引き受けず、休息期間を設けたのち、再びサディストとして復帰した。 令子:(N)そして・・・ごく希に、こっそりとマゾヒストとして。暫くして、憂夜と再会した。   令子:噂、聞いたわよ。評判良いみたいね。 憂夜:令子のおかげだよ。 令子:じゃ、今日はご褒美にいっぱい・・・虐めてあげる。 憂夜:なんだって・・・?(嬉しそうに喜んで!)   憂夜:(N)季節が進んだ新宿の街は、真夏の暑さにのぼせているようだが、僕たちはそれでも生きている。欲望渦巻くこの街で。    (了)