台本概要

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タイトル 君の声にふれたくて
作者名 葵琥珀  (@atelierASINOURA)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男2)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 利用方法に関してはあんまり細かい事を言いたくないので、
「常識の範囲でご自由にご利用下さい」 とだけ。

【あらすじ】
バレンタインデーが近くなったある日の昼休み。
水月はパティシエ志望の航の気を引こうと、興味のない手作りチョコレート特集の雑誌を広げていたら、
思惑通り声をかけてくれた航と次の日曜日に"友チョコ"作りをする約束をとりつける。
約束の日、経験のない水月は航に手を取られながらチョコ作りを進めていく。航に触れた手に頬を赤らめながら……。
冷蔵庫で冷やしている間航は「実は、僕には好きな人がいる」と語り出す。果たして水月の恋は叶うのか?

昔、ボイコネに投稿していたものをラジオドラマ脚本に書き換えたものです。
タイトルコールのナレーションやSE等は適宜省略等して頂いて結構です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
水月 131 水月(みづき) 高校二年生。同級生の航に絶賛片思い中。 内気な性格で言いたいことはハッキリと言えないタイプ。
130 航(わたる) 高校二年生。お菓子作りが大好きで将来はパティシエを志している。 手作りのお菓子をみんなに振る舞う事と、明るい性格が相まってクラスの人気者。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:BGMとして静かな曲が流れる 0:ざわざわ(人の話し声) 0:話し声のSEが小さくなり、ペラペラとページを捲る音 航:興味あるの? 水月:え? 航:手作りチョコレート 水月:ど、どうして? 航:どうしてって…… 航:今、特集記事読んでたから 水月:え? あっ。……うん!  航:もうすぐバレンタインデーだもんね ナレーション:葵琥珀作、ラジオドラマ。君の声に触れたくて SE:ざわざわ(人の話し声) 航:そんな雑誌を読んでいるって事は、水月も手作りするつもり?  水月:う、うん……。そのつもり。 水月:あっ、でも航くんみたいに上手く作れないと思うけれど…… 航:ははははっ。僕だって最初は下手糞だったよ 水月:ええー! 水月:だってこの前貰ったクッキーも本当に美味しかったよ 航:お!あれ、美味しかったんだ。お口に合ったみたいでよかったよ!  水月:流石パティシエ志望って感じだよ 航:ありがとう! そう言う感想は自信になるよ 水月:あ、あの…… 航:うん?  水月:僕も友チョコを作りたくて 航:いいね。僕ももらえるかな?  水月:嫌じゃ無い?  航:もちろん 水月:よかった。じゃあ、航にも渡したいな 航:うん! 航:楽しみにしているよ 水月:うん! 航:さてと、次の授業は数学か。 航:宿題やって無いけど今日は当たらないよな 0:ガサゴソ(机の中を漁る音) 水月:スーハー(深呼吸) 水月:(小声で)……あ、……あのさ 航:……(聞こえていない) 0:ドクンッドクンッ(心音) 水月:あ、……あのさ。 水月:……よ、……よかったらだけど、  水月:作り方教えてくれないかな? 航:え? 作り方?  水月:僕、チョコレートなんて作ったこと無いからさ。 水月:あっ、ごめん、でも、迷惑だよね…… 航:いや、全然。今週の日曜日に僕も作るから一緒に作ろうよ 水月:っ! ありがとう! 航:あははは。そんなに喜ぶ? 航:これは教え甲斐があるねー 水月:うん! とっても嬉しいよ! だって、僕の大好きな! 航:大好きな? 水月:……あっ、えっと、その……チョコ! 水月:僕、チョコレート好きだから! 航:あははは。そんなにチョコレート好きだったんだね。 航:知らなかったよ 水月:あはは……(苦笑い) 航:好きと言えば、だけれど 水月:な……なに?  航:(ささやき声で)好きな人いるの?  水月:(驚きで声が裏返る)へぇえ!? 航:そんなに驚くなよ 水月:ごごごごごめん……。てっきりばれたのかなって 航:ばれた?  水月:あっ……、その、何でもないです…… 航:ふーん。本命チョコ作りでしたか 0:ガタン(椅子が倒れる音) 水月:(大きな声で)違うよ! 友チョコだよ!  航:そっか、そっか 水月:友チョコだもん…… 航:解ったから。座れよ 水月:友チョコだもん…… 航:……で、水月が友チョコを渡したい、 航:オ・ト・モ・ダ・チって誰かな?  水月:そ……、それは言えないです…… 航:友達なのに?  水月:……うん 航:……まあ、言いたくないならこれ以上は追求しないでおくよ 水月:ありがとう 航:じゃあ、日曜日は宜しくね 水月:うん。宜しく 航:あっ、汚れてもいい服を着てこいよ 水月:汚れてもいい服?  航:チョコレートが服に付くかもしれないからだよ。 航:エプロンもあるけど一応な 水月:そっか。わかったよ 0:キーンコーンカーンコーン(チャイム) 水月:あっ、お昼休み中ずっと喋っちゃったね 航:あはは、そうだね 水月:予定狂わせちゃったかな? ごめんなさい 航:謝らなくていいよ。大丈夫だから 水月:本当? 0:ガラガラ(戸が開く音) 航:あっ、ほら。先生来たよ 水月:あっ、うん! 航:日曜日、楽しみだね 水月:うん! 今から楽しみ! 0:しばらく無音の後、チュンチュン(小鳥の鳴き声) 0:ピンポーン(インターフォンの音) 0:ガチャ(扉が開く音) 航:おはよう。随分と早いね 水月:おはよう。昨日は楽しみで夜も眠れなくて…… 航:おいおい、チョコレート作りくらいで大げさだなぁ 水月:だって、大切な友チョコ作りだから! 航:あははは 航:とにかくさあ、早く入って! 水月:うん 0:トットットットッ(足音) 航:ではチョコレート作りをはじめよう。 航:水月くん。お菓子作りで最も大切な事はなんだと思う? 水月:え? ……美味しく作ることかな?  航:その為に必要なことは? 水月:うーん。愛情?  航:愛情も大切だけれど、これだよ 水月:え? 石鹸? 航:衛生管理。まずはしっかりと手洗いしてね 水月:うん 航:巷では自分の髪の毛を入れて、 航:恋のおまじないなんて話しもあるけれど、 航:大切な人に渡すチョコレートに変なものを入れないでね 水月:そんな事しないよ。あはは……(苦笑い) 0:ジャー(水が流れる音) 0:キュッ(蛇口を閉める音) :さてはじめようか 水月:宜しくお願いします。航先生!  航:先生はやめてよ 0:コト(机に物を置く音) 水月:あれ、市販のチョコレートを使うの?  航:そうだよ 水月:材料から作らないんだね 航:うーん。 航:本当はカカオから作りたいんだけれど、 航:中々入手出来ないし、時間もかかるから市販品で代用するんだ 水月:そうなんだ。手抜きだって思ったよ 航:君が読んでいた雑誌にも解説があったと思うけれど…… 水月:あ……あれ、そうだったっけ?  航:……まあいいや 航:じゃあ、チョコレートを刻んでいこう 水月:う……うん 航:水月、大丈夫? 手が震えているけれど…… 水月:普段、包丁なんて使わないから…… 航:ゆっくりでいいから、怪我しないでね 水月:うん。気をつけます…… 航:さて、僕もやっていこう 航:ザクザクザク(チョコを刻む音) ※次の航の台詞まで 水月:……プロの手つきだね 航:もう何百回もやっているからね……。 航:(SE止まる)はいおしまい 水月:すごい 航:水月! 待っているから自分のペースでやってね 航:ザク、ザク……(チョコを刻む音) 水月:よし、出来た。随分時間がかかってしまったよ 航:そんな事ないよ。十分早いよ 水月:よかった 航:じゃあ、続きをしていくよ 0:コト、コト、コト(机に物を置く音) 水月:わあ! 水月:チョコレート作りにこんなに色々必要なんだね 航:え? 水月が読んだいた雑誌に書いてあっただろ? 水月:あ……、ごめん。 水月:さらっとしか読んで無くて…… 航:そっか。じゃあゆっくり説明しながらやっていくね 水月:ありがとう 航:まずはこれをこうして―― 0:BGM止まる 水月:(モノローグ) 水月:君の声を独り占めしているこの時間。 水月:僕はなんて幸せものなんだろう 0:BGM再開 航:――最後に冷凍庫で冷やして固める。それで完成。 航:一連の流れの説明はこれでおしまいだよ 水月:大変そう……。僕に出来るかな?  航:大丈夫だよ。僕と一緒に少しずつやっていこう 水月:うん 航:じゃあ、まずは材料を鍋に入れて…… 航:そうそう。 航:この時、ムラが出来ない様にしっかりと混ぜるんだけれど 水月:しっかりと混ぜるんだね 航:あっ、そんなに早く混ぜすぎると駄目なんだ 水月:え? 航:力は入れずにしっかりと混ぜてね 水月:え? え? こうかな?  航:もっとゆっくり!  水月:は、はい! 航:もう少し角度をつけて!  水月:うーんと……こう?  航:そうじゃなくて……こんな感じ!  水月:え? 解らないよ 航:手、触るね! 水月:あっ…… 航:どう? 感覚がわかってきた?  水月:…… 航:水月? 水月:…… 航:おーい!  航:み・づ・き・く・ん!  水月:……あっ、ごめん 航:大丈夫か? 顔が少し赤いけれど…… 水月:うん、大丈夫。多分、火の近くだからだよ 航:そっか。水月は色白だからね 水月:……そういう航も少し顔が赤いよ 航:確かにちょっと火照っているかも 水月:二口も火を使うと暑くなるね 航:そうだ 0:ゴクゴク(飲み物を飲む音) 航:ぷはぁっ、水が美味しいっ。 航:水月も飲む? 水月:え? あの……イタダキマス 航:ほーい 水月:……本当に飲んでいいの?  航:何を怖がっているんだよ。 航:後で料金請求したりしないから安心してよ 水月:じゃあ、遠慮なく…… 0:ゴクゴク(飲み物を飲む音) 水月:……はぁーっ、とっても美味しかった 航:そんなに美味しそうに飲む奴は初めてみたよ 水月:美味しいよ。だって…… 航:だって? 水月:あっ……、あの……、暑かったから! 航:そうだな。 航:さあ、あと少しで完成するから一気にやっていくよ!  水月:うん! 航:といっても、 航:ここまで来れば型に流し込んでいくだけなんだけれどね 水月:じゃあ、もう少しだね 航:ちっちっちっ 水月:え、ええ? 航:水月くん。 航:千里の道を行く者、九百九十九里をもって道半ばとする。 航:だよ 水月:うん?  航:型に流し込む時にキッチリと流し込まないと食感にムラが出来るんだよ 水月:そうなんだ 航:ただ流し込むだけだと思っていると後で痛い目に遭うよ 水月:わかった。航にしっかり教えて貰うよ 航:ゆっくり、ムラにならないように静かに 水月:う……うん 航:でも遅すぎるとチョコに空気が触れすぎて美味しく無くなるから注意して 水月:こうかな? 航:うん。そうそう、上手いよ 水月:ありがと……、よし、終わった 航:お疲れ様。後は冷凍庫に入れて固めるだけだからね 0:パタン(冷蔵庫が閉まる音) 水月:固まるまでどれくらいかかるのかな? 航:大体六時間くらいだね 水月:結構時間かかるんだね 航:そうだ、ゆっくりアフタヌーンティーでもしない?  水月:え? いいの? 航:サンドイッチでもパパッと作るからゆっくり座ってて 水月:そんなの悪いよ 航:いいから。すぐに出来るから 0:パタン(冷蔵庫が閉まる音) 0:トントン(包丁がまな板を叩く音) 航:はい、できあがり 水月:凄い…… 航:紅茶もすぐに用意するからね 水月:何から何までありがとうございます 航:そんなにかしこまらないでよ 0:トットットッ(ティーポットから紅茶を注ぐ音) 航:はい。どうぞ 水月:いただきます 航:美味しい?  水月:うん! 世界一美味しいよ 航:そんな大げさな(笑) 水月:大げさじゃないよ。航は料理も上手いんだね 航:まあ、毎日やっていたら嫌でも上手くなるよ。 航:お菓子も料理もね 水月:……結婚したら、いい旦那さんになるだろうな 航:それはないな 水月:どうして? 航:もしも将来パティシエになってから結婚したとしても、 航:家族サービスをする時間も取らずにお菓子の研究してそうだから 水月:そっか……、なってからも勉強が必要なのか。 水月:大変そうな仕事だね 航:うん。でも、お菓子で多くの人を元気にしたいから僕は大変でも頑張るよ 水月:航はすごいなぁ。将来の事もしっかり考えていて 航:考えているかな?  航:親には公務員になれって言われてるし 水月:それでも曲げずにパティシエって言える航はカッコイイよ 航:今日はやけに褒めてくれるね。ありがとう 水月:褒めて無いよ。本当の事を言っているだけだよ 航:あはは、そっか 水月:…… 航:…… 航:(少しだけ、声のトーンを下げて) 航:水月、このチョコレートは本命だろ? 水月:え? 航:誰に渡すんだ?  水月:いや、あの、……これは友チョコだよ 航:そっか…… 水月:航は、本命チョコなの?  航:……ああ 水月:…… 航:少し前から好きな人がいるんだ 水月:え?  航:水月。聞いてくれるか?  水月:う……うん!  航:ありがとう 水月:それで、その……本命チョコレートは誰に渡すつもり?  航:同じクラスのさ…… 水月:う……うん…… 航:笑顔が素敵な女子―― 0:BGM止まる 水月:(モノローグ) 水月:期待した僕が馬鹿だったんだ。 水月:航の「女子」という言葉に僕は静かに失恋した 航:――水月、僕の恋路を応援してくれるか?  水月:え? 水月:……………… 水月:うん、もちろんだよ。航くんの恋、叶うといいな 航:ありがとう。水月の恋も叶うといいな 水月:ありがとう…… 0:ゴーン。ゴーン(柱時計の鐘の音) 航:さて、そろそろいい時間だな 水月:……チョコレート固まったかな?  航:確認するよ……。 航:うん、大丈夫。後はラッピングするだけだね 水月:……うん 航:……そうだ。はい、これ 水月:え? 航:味見をしてくれ。本命チョコの味を 水月:……うん 航:……どうかな?  水月:う……、ううう……(泣き声) 航:み……水月?  水月:うわああぁぁぁぁぁん(大泣き) 航:水月、どうしたんだ?  水月:う……、えぐっ……、なんでもない、 水月:なんでもないから 航:いや、そんなに泣いて。 航:なんでもない訳がないじゃないか 水月:ごめんなさい……ごめんなさい…… 航:口に合わなかったのか?  水月:そんな事無いよ。美味しかった…… 航:泣くほど?  水月:うん……、泣くほど 航:それは光栄だよ 水月:(モノローグ) 水月:最愛の人から、思いがけずに貰った本命のチョコレート。 水月:今まで食べたどんなチョコレートよりも甘く、そして苦かった 0:BGM再開 水月:(モノローグ) 水月:夜。 水月:僕は机の上に置いた渡す相手が無くなったチョコレートを静かに見つめていた。 航:(回想) 航:水月の恋も叶うといいな 水月:馬鹿、僕の恋は叶わないんだよ。 水月:うわああぁぁぁぁぁん(大泣き) 0:BGM止まる 水月:(モノローグ) 水月:辛くなるだけ……そんな事は解っているが僕は何度も君の声を思い出す。 水月:せめて、君の声にふれたくて

0:BGMとして静かな曲が流れる 0:ざわざわ(人の話し声) 0:話し声のSEが小さくなり、ペラペラとページを捲る音 航:興味あるの? 水月:え? 航:手作りチョコレート 水月:ど、どうして? 航:どうしてって…… 航:今、特集記事読んでたから 水月:え? あっ。……うん!  航:もうすぐバレンタインデーだもんね ナレーション:葵琥珀作、ラジオドラマ。君の声に触れたくて SE:ざわざわ(人の話し声) 航:そんな雑誌を読んでいるって事は、水月も手作りするつもり?  水月:う、うん……。そのつもり。 水月:あっ、でも航くんみたいに上手く作れないと思うけれど…… 航:ははははっ。僕だって最初は下手糞だったよ 水月:ええー! 水月:だってこの前貰ったクッキーも本当に美味しかったよ 航:お!あれ、美味しかったんだ。お口に合ったみたいでよかったよ!  水月:流石パティシエ志望って感じだよ 航:ありがとう! そう言う感想は自信になるよ 水月:あ、あの…… 航:うん?  水月:僕も友チョコを作りたくて 航:いいね。僕ももらえるかな?  水月:嫌じゃ無い?  航:もちろん 水月:よかった。じゃあ、航にも渡したいな 航:うん! 航:楽しみにしているよ 水月:うん! 航:さてと、次の授業は数学か。 航:宿題やって無いけど今日は当たらないよな 0:ガサゴソ(机の中を漁る音) 水月:スーハー(深呼吸) 水月:(小声で)……あ、……あのさ 航:……(聞こえていない) 0:ドクンッドクンッ(心音) 水月:あ、……あのさ。 水月:……よ、……よかったらだけど、  水月:作り方教えてくれないかな? 航:え? 作り方?  水月:僕、チョコレートなんて作ったこと無いからさ。 水月:あっ、ごめん、でも、迷惑だよね…… 航:いや、全然。今週の日曜日に僕も作るから一緒に作ろうよ 水月:っ! ありがとう! 航:あははは。そんなに喜ぶ? 航:これは教え甲斐があるねー 水月:うん! とっても嬉しいよ! だって、僕の大好きな! 航:大好きな? 水月:……あっ、えっと、その……チョコ! 水月:僕、チョコレート好きだから! 航:あははは。そんなにチョコレート好きだったんだね。 航:知らなかったよ 水月:あはは……(苦笑い) 航:好きと言えば、だけれど 水月:な……なに?  航:(ささやき声で)好きな人いるの?  水月:(驚きで声が裏返る)へぇえ!? 航:そんなに驚くなよ 水月:ごごごごごめん……。てっきりばれたのかなって 航:ばれた?  水月:あっ……、その、何でもないです…… 航:ふーん。本命チョコ作りでしたか 0:ガタン(椅子が倒れる音) 水月:(大きな声で)違うよ! 友チョコだよ!  航:そっか、そっか 水月:友チョコだもん…… 航:解ったから。座れよ 水月:友チョコだもん…… 航:……で、水月が友チョコを渡したい、 航:オ・ト・モ・ダ・チって誰かな?  水月:そ……、それは言えないです…… 航:友達なのに?  水月:……うん 航:……まあ、言いたくないならこれ以上は追求しないでおくよ 水月:ありがとう 航:じゃあ、日曜日は宜しくね 水月:うん。宜しく 航:あっ、汚れてもいい服を着てこいよ 水月:汚れてもいい服?  航:チョコレートが服に付くかもしれないからだよ。 航:エプロンもあるけど一応な 水月:そっか。わかったよ 0:キーンコーンカーンコーン(チャイム) 水月:あっ、お昼休み中ずっと喋っちゃったね 航:あはは、そうだね 水月:予定狂わせちゃったかな? ごめんなさい 航:謝らなくていいよ。大丈夫だから 水月:本当? 0:ガラガラ(戸が開く音) 航:あっ、ほら。先生来たよ 水月:あっ、うん! 航:日曜日、楽しみだね 水月:うん! 今から楽しみ! 0:しばらく無音の後、チュンチュン(小鳥の鳴き声) 0:ピンポーン(インターフォンの音) 0:ガチャ(扉が開く音) 航:おはよう。随分と早いね 水月:おはよう。昨日は楽しみで夜も眠れなくて…… 航:おいおい、チョコレート作りくらいで大げさだなぁ 水月:だって、大切な友チョコ作りだから! 航:あははは 航:とにかくさあ、早く入って! 水月:うん 0:トットットットッ(足音) 航:ではチョコレート作りをはじめよう。 航:水月くん。お菓子作りで最も大切な事はなんだと思う? 水月:え? ……美味しく作ることかな?  航:その為に必要なことは? 水月:うーん。愛情?  航:愛情も大切だけれど、これだよ 水月:え? 石鹸? 航:衛生管理。まずはしっかりと手洗いしてね 水月:うん 航:巷では自分の髪の毛を入れて、 航:恋のおまじないなんて話しもあるけれど、 航:大切な人に渡すチョコレートに変なものを入れないでね 水月:そんな事しないよ。あはは……(苦笑い) 0:ジャー(水が流れる音) 0:キュッ(蛇口を閉める音) :さてはじめようか 水月:宜しくお願いします。航先生!  航:先生はやめてよ 0:コト(机に物を置く音) 水月:あれ、市販のチョコレートを使うの?  航:そうだよ 水月:材料から作らないんだね 航:うーん。 航:本当はカカオから作りたいんだけれど、 航:中々入手出来ないし、時間もかかるから市販品で代用するんだ 水月:そうなんだ。手抜きだって思ったよ 航:君が読んでいた雑誌にも解説があったと思うけれど…… 水月:あ……あれ、そうだったっけ?  航:……まあいいや 航:じゃあ、チョコレートを刻んでいこう 水月:う……うん 航:水月、大丈夫? 手が震えているけれど…… 水月:普段、包丁なんて使わないから…… 航:ゆっくりでいいから、怪我しないでね 水月:うん。気をつけます…… 航:さて、僕もやっていこう 航:ザクザクザク(チョコを刻む音) ※次の航の台詞まで 水月:……プロの手つきだね 航:もう何百回もやっているからね……。 航:(SE止まる)はいおしまい 水月:すごい 航:水月! 待っているから自分のペースでやってね 航:ザク、ザク……(チョコを刻む音) 水月:よし、出来た。随分時間がかかってしまったよ 航:そんな事ないよ。十分早いよ 水月:よかった 航:じゃあ、続きをしていくよ 0:コト、コト、コト(机に物を置く音) 水月:わあ! 水月:チョコレート作りにこんなに色々必要なんだね 航:え? 水月が読んだいた雑誌に書いてあっただろ? 水月:あ……、ごめん。 水月:さらっとしか読んで無くて…… 航:そっか。じゃあゆっくり説明しながらやっていくね 水月:ありがとう 航:まずはこれをこうして―― 0:BGM止まる 水月:(モノローグ) 水月:君の声を独り占めしているこの時間。 水月:僕はなんて幸せものなんだろう 0:BGM再開 航:――最後に冷凍庫で冷やして固める。それで完成。 航:一連の流れの説明はこれでおしまいだよ 水月:大変そう……。僕に出来るかな?  航:大丈夫だよ。僕と一緒に少しずつやっていこう 水月:うん 航:じゃあ、まずは材料を鍋に入れて…… 航:そうそう。 航:この時、ムラが出来ない様にしっかりと混ぜるんだけれど 水月:しっかりと混ぜるんだね 航:あっ、そんなに早く混ぜすぎると駄目なんだ 水月:え? 航:力は入れずにしっかりと混ぜてね 水月:え? え? こうかな?  航:もっとゆっくり!  水月:は、はい! 航:もう少し角度をつけて!  水月:うーんと……こう?  航:そうじゃなくて……こんな感じ!  水月:え? 解らないよ 航:手、触るね! 水月:あっ…… 航:どう? 感覚がわかってきた?  水月:…… 航:水月? 水月:…… 航:おーい!  航:み・づ・き・く・ん!  水月:……あっ、ごめん 航:大丈夫か? 顔が少し赤いけれど…… 水月:うん、大丈夫。多分、火の近くだからだよ 航:そっか。水月は色白だからね 水月:……そういう航も少し顔が赤いよ 航:確かにちょっと火照っているかも 水月:二口も火を使うと暑くなるね 航:そうだ 0:ゴクゴク(飲み物を飲む音) 航:ぷはぁっ、水が美味しいっ。 航:水月も飲む? 水月:え? あの……イタダキマス 航:ほーい 水月:……本当に飲んでいいの?  航:何を怖がっているんだよ。 航:後で料金請求したりしないから安心してよ 水月:じゃあ、遠慮なく…… 0:ゴクゴク(飲み物を飲む音) 水月:……はぁーっ、とっても美味しかった 航:そんなに美味しそうに飲む奴は初めてみたよ 水月:美味しいよ。だって…… 航:だって? 水月:あっ……、あの……、暑かったから! 航:そうだな。 航:さあ、あと少しで完成するから一気にやっていくよ!  水月:うん! 航:といっても、 航:ここまで来れば型に流し込んでいくだけなんだけれどね 水月:じゃあ、もう少しだね 航:ちっちっちっ 水月:え、ええ? 航:水月くん。 航:千里の道を行く者、九百九十九里をもって道半ばとする。 航:だよ 水月:うん?  航:型に流し込む時にキッチリと流し込まないと食感にムラが出来るんだよ 水月:そうなんだ 航:ただ流し込むだけだと思っていると後で痛い目に遭うよ 水月:わかった。航にしっかり教えて貰うよ 航:ゆっくり、ムラにならないように静かに 水月:う……うん 航:でも遅すぎるとチョコに空気が触れすぎて美味しく無くなるから注意して 水月:こうかな? 航:うん。そうそう、上手いよ 水月:ありがと……、よし、終わった 航:お疲れ様。後は冷凍庫に入れて固めるだけだからね 0:パタン(冷蔵庫が閉まる音) 水月:固まるまでどれくらいかかるのかな? 航:大体六時間くらいだね 水月:結構時間かかるんだね 航:そうだ、ゆっくりアフタヌーンティーでもしない?  水月:え? いいの? 航:サンドイッチでもパパッと作るからゆっくり座ってて 水月:そんなの悪いよ 航:いいから。すぐに出来るから 0:パタン(冷蔵庫が閉まる音) 0:トントン(包丁がまな板を叩く音) 航:はい、できあがり 水月:凄い…… 航:紅茶もすぐに用意するからね 水月:何から何までありがとうございます 航:そんなにかしこまらないでよ 0:トットットッ(ティーポットから紅茶を注ぐ音) 航:はい。どうぞ 水月:いただきます 航:美味しい?  水月:うん! 世界一美味しいよ 航:そんな大げさな(笑) 水月:大げさじゃないよ。航は料理も上手いんだね 航:まあ、毎日やっていたら嫌でも上手くなるよ。 航:お菓子も料理もね 水月:……結婚したら、いい旦那さんになるだろうな 航:それはないな 水月:どうして? 航:もしも将来パティシエになってから結婚したとしても、 航:家族サービスをする時間も取らずにお菓子の研究してそうだから 水月:そっか……、なってからも勉強が必要なのか。 水月:大変そうな仕事だね 航:うん。でも、お菓子で多くの人を元気にしたいから僕は大変でも頑張るよ 水月:航はすごいなぁ。将来の事もしっかり考えていて 航:考えているかな?  航:親には公務員になれって言われてるし 水月:それでも曲げずにパティシエって言える航はカッコイイよ 航:今日はやけに褒めてくれるね。ありがとう 水月:褒めて無いよ。本当の事を言っているだけだよ 航:あはは、そっか 水月:…… 航:…… 航:(少しだけ、声のトーンを下げて) 航:水月、このチョコレートは本命だろ? 水月:え? 航:誰に渡すんだ?  水月:いや、あの、……これは友チョコだよ 航:そっか…… 水月:航は、本命チョコなの?  航:……ああ 水月:…… 航:少し前から好きな人がいるんだ 水月:え?  航:水月。聞いてくれるか?  水月:う……うん!  航:ありがとう 水月:それで、その……本命チョコレートは誰に渡すつもり?  航:同じクラスのさ…… 水月:う……うん…… 航:笑顔が素敵な女子―― 0:BGM止まる 水月:(モノローグ) 水月:期待した僕が馬鹿だったんだ。 水月:航の「女子」という言葉に僕は静かに失恋した 航:――水月、僕の恋路を応援してくれるか?  水月:え? 水月:……………… 水月:うん、もちろんだよ。航くんの恋、叶うといいな 航:ありがとう。水月の恋も叶うといいな 水月:ありがとう…… 0:ゴーン。ゴーン(柱時計の鐘の音) 航:さて、そろそろいい時間だな 水月:……チョコレート固まったかな?  航:確認するよ……。 航:うん、大丈夫。後はラッピングするだけだね 水月:……うん 航:……そうだ。はい、これ 水月:え? 航:味見をしてくれ。本命チョコの味を 水月:……うん 航:……どうかな?  水月:う……、ううう……(泣き声) 航:み……水月?  水月:うわああぁぁぁぁぁん(大泣き) 航:水月、どうしたんだ?  水月:う……、えぐっ……、なんでもない、 水月:なんでもないから 航:いや、そんなに泣いて。 航:なんでもない訳がないじゃないか 水月:ごめんなさい……ごめんなさい…… 航:口に合わなかったのか?  水月:そんな事無いよ。美味しかった…… 航:泣くほど?  水月:うん……、泣くほど 航:それは光栄だよ 水月:(モノローグ) 水月:最愛の人から、思いがけずに貰った本命のチョコレート。 水月:今まで食べたどんなチョコレートよりも甘く、そして苦かった 0:BGM再開 水月:(モノローグ) 水月:夜。 水月:僕は机の上に置いた渡す相手が無くなったチョコレートを静かに見つめていた。 航:(回想) 航:水月の恋も叶うといいな 水月:馬鹿、僕の恋は叶わないんだよ。 水月:うわああぁぁぁぁぁん(大泣き) 0:BGM止まる 水月:(モノローグ) 水月:辛くなるだけ……そんな事は解っているが僕は何度も君の声を思い出す。 水月:せめて、君の声にふれたくて