台本概要

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タイトル 神殺しの傭兵
作者名 七村 圭  (@kestnel)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(男2)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 「神殺しの傭兵」と呼ばれ、数々の戦場を駆け抜けた男のもとに、剣を習いたいという貴族の少年がやってきた。「誰かを守れるくらいに強くなりたい」そう願う少年に、男は剣を教えるのだが――。

■配信での台本使用について
・配信媒体での使用は自由です。収益化の有無は問いません。アーカイブの公開も自由です。使用される際は作者名を概要欄や固定コメント等、どこかに表記してください。作者への連絡は不要です(ご連絡いただく分には大歓迎です)。
・セリフや性別の変更可です。語尾の変更等ご自由にどうぞ。
・演者様の性別・人数は問いません。一人二役や練習用に全て一人で読むこともOKです。
・アドリブや笑い声等も入れて頂いて構いません。楽しくお使いください。

■著作権について
・著作権は全て七村圭に帰属します。配信や私用目的以外のみだりな複製・配布・翻案・改変など著作権侵害にあたる行為はおやめください。また自作発言はいかなる使用目的でもおやめください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
アウリス 229 十六歳。騎士国家エルナイトの貴族だったが、戦争に巻きこまれ、遠く離れた島国に亡命。父は敵兵に殺され、母と妹は逃亡中行方不明に。自身が剣も使えない弱い人間であるため、強くなりたいとガルフに教えを乞う。本当の身分を隠している。
ガルフ 229 数々の戦地を転戦してきた名うての傭兵。対峙した相手を圧倒する剣さばきから「神殺しの傭兵」とまで言われるようになった。いまは第一線から退き、小さな島国でひっそりと暮らしている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:1 出会い ガルフ:――お前か。俺に剣を教わりたいってやつは アウリス:は、はい ガルフ:まだ若いな。名は? アウリス:アウリス。アウリス=ディストリクス ガルフ:背も低いな。歳は アウリス:十六です ガルフ:十六か……。俺はガルフ。ガルフ=ファン=ダイク アウリス:ガルフ……。よ、よろしくお願いします ガルフ:俺に仕事を依頼した、お前のとこの執事だという爺さんから聞いたが――。お前は一年前に滅んだ、騎士国家エルナイトの貴族なんだってな アウリス:はい。王族の傍系にあたる、ディストリクス家の長男です ガルフ:亡命か。軍隊に魔物を採用した森林王国ドラクラスとフェルタ魔法国から同時に侵攻されたんだったな アウリス:はい。その戦争で屋敷が焼き払われて……この島国まで逃げのびてきたんです ガルフ:むごい戦いだったと聞いた。エルナイト側の兵士が前と後ろから攻めこまれて、魔物に一方的に蹂躙(じゅうりん)されたらしいな アウリス:はい…… ガルフ:で。なぜ剣を教わりたい アウリス:僕はいままで、剣の使い方を知らない――戦うことを知らない、弱い人間でした。あの戦争のときも、みんなが僕を守ってくれたのに、僕は逃げることしかできなかった。だから今度は僕が、誰かを守れるくらいに、強くなりたいんです。爺や――僕の執事にそのことを相談したら、この国に有名な『神殺しの傭兵』と呼ばれる剣士がいるって聞いて ガルフ:つっても、俺はただのならず者の傭兵だ。そんな俺に、剣の講義を頼むなんてな アウリス:でも:神殺しの傭兵は、世界中の戦場で傭兵として戦っていたけど、女子供や戦意のない者は決して手にかけなかったって、爺やが言ってました ガルフ:ほう。体(てい)のいいウワサだな アウリス:……違うんですか? ガルフ:違うって言ったら アウリス:その……少し怖い、です ガルフ:なんだよそりゃ。もう少し身の危険とか感じろよ アウリス:でもガルフさんは、悪い人には見えないですから ガルフ:たいした自信だな。お前、もう少し人を疑ってかからないと、簡単に殺されるぞ。それが戦場ならなおさらな アウリス:は、はい、すみません…… ガルフ:つーかよ、その『ですます調』やめろ。しまらねえ アウリス:えっ? でも、教えてもらうのに…… ガルフ:タダで教えるわけじゃない。お前は俺に金を渡す。俺はお前に剣を教える。対等な関係だ アウリス:わかりました……。あっ、わ、わかった、ました ガルフ:(ため息)とてもじゃないが、人を斬るのに向いた人間だとは思えねえな アウリス:えっ? ガルフ:なんでもねえ。お前、見るからに温室育ちだな。そんなんじゃ、いままで剣を握ったことも、人を斬ったこともないんだろ アウリス:(視線をさまよわせ)あ、う、うん…… ガルフ:ほう、あるのか アウリス:えっ ガルフ:お前、ウソつくのヘタだな アウリス:……どうして ガルフ:すぐに俺から目線をそらしただろ。そういうときは、なにか後ろめたいことがあるってことだ アウリス:すごい…… ガルフ:すごくねえよ。お前がヘタすぎるだけだ アウリス:う……ごめんなさい ガルフ:なんで謝んだよ。――んで、いつ斬ったんだ アウリス:……僕たちが屋敷からこの国へ逃げる途中、敵兵に出遭ってしまって。そのうちの一人が襲いかかってきたから、僕は父から護身用にもらった剣を抜いて、無我夢中で――。気がついたら、僕は敵兵の横腹を斬ってた……。その兵が倒れるのを見てから、僕らはまた逃げ出したんだ ガルフ:なるほど、な。お前、剣の腕を身につけて、どうなりたい アウリス:さっきも言ったけど……強くなりたい。大切な人を守れるくらい、強く ガルフ:……ふん。まあ、いいだろう。剣の素養の全くないやつに教えるのは初めてだから、少しきつい教え方になるかもしれないが、覚悟しろよ アウリス:うん ガルフ:まず右手をみせてみろ アウリス:右手? はい ガルフ:……本当に、ろくに剣も握ったことがないんだな アウリス:手を見ただけでわかるの? ガルフ:そこからか……。こりゃ長い授業になりそうだ。剣はもってきたか アウリス:うん。これ ガルフ:ショートソードか。ん? ずいぶん高級そうだな アウリス:僕の父からもらったものなんだ ガルフ:さっき人を斬った、って言ってた剣か アウリス:あ、うん ガルフ:ふん……とりあえず、これを使うのはやめろ アウリス:えっ、どうして? 僕、この剣で強くなりたいんだ。父の形見だから ガルフ:形見? お前の父親は死んだのか アウリス:うん……僕の目の前で、敵兵に囲まれて――。だからこの剣の使い方を知りたいんだ。それとも、この剣、そんなに悪いものなの ガルフ:逆だ。良すぎる アウリス:良すぎる……? ガルフ:形が整っていて、軽く、柄(つか)もしっかりしている。とてもつかいやすい剣だ。お前の父親は、剣を見る目がある。俺が使いたいくらい、よくできた代物だ アウリス:じゃあ―― ガルフ:だがこの剣じゃだめだ。練習には使えない アウリス:どうして? この剣は父の形見なんだ。だから、この剣が使えるようになりたい ガルフ:なら余計にだ。しばらくこの剣は使うな アウリス:だから、どうして? ガルフ:お前、自分が使う剣はこの世に一本だけ、と思っていないか アウリス:え、と、その ガルフ:剣は消耗品だ。一度戦いで使えば、刃は確実にこぼれ、使い物にならなくなる。もちろん、研ぐことでまた使えるようにはなるが、それでもせいぜい数回だ。自分だけの剣、なんていうのは、戦争の乱戦状態ではありえない。もちろん練習でも、切り結べばそのたびに刃は欠ける。お前が一対一の決闘しかしないというのなら、別だがな アウリス:そう、なんだ……。ごめん、そんなことも知らなかった ガルフ:だからいちいち謝るな。知らないことは恥ずかしいことじゃない。お前はまだ若い。学んで、身につければいい。その剣は大事にとっておけ。練習用なら、そこいらで売っている安物で十分だ。むしろどんな剣を使っても身を守れる術(すべ)を身につけろ。それは俺が教える アウリス:……うん、わかった ガルフ:まず柄(つか)の握り方だ。ショートソードの場合、片手で握ることが前提だ。持ってみろ アウリス:――こう? ガルフ:違う アウリス:あの、ガルフ。手を、見せて ガルフ:ん? どうした アウリス:(ガルフの右手を見つめる)小指の皮がぶ厚い……。小指に、力を入れる? ガルフ:そうだ。剣を握るときに最も力をこめるのが、小指だ。やるな。いまのはなかなかいい質問だった。その姿勢を忘れるな アウリス:あっ、ガルフ、いまちょっと笑った…… ガルフ:ん? なにが可笑しい アウリス:えっ? いや、その、なんでもない…… ガルフ:(小声で)なんだこいつ……。そしてこうして握った剣を、中段に構える。右足を前に。握った剣の先は相手ののど元、あるいは顔面に突き付ける。そして機を見て――振る! アウリス:うわっ!?(腰を抜かして飛び退く) ガルフ:……どうした。剣を振り下ろしただけだぞ アウリス:えと、その……。ガルフの緊張感と気迫に……ビックリして…… ガルフ:……お前、それでよく人を斬ったなんて言えたな。あたりまえだが、剣を振るということは、相手の命を奪うってことだ。練習でもそのことをイメージして振れ。そうしないと、斬られるのは自分だ アウリス:う、うん ガルフ:よし、やってみろ アウリス:――こ、こうかな ガルフ:違う。さっき言っただろ。剣先は―― アウリス:【語り】こうして、神殺しの傭兵・ガルフの講義が始まった。 0:2 剣の講義 基礎 ガルフ:だから違う。剣は横から握るんじゃない。上から包むようにして握るんだ。そうしないと剣の軸が左右にぶれる。力を入れるのは小指。人差し指は操作 アウリス:上から…… ガルフ:最初は握りにくいと思うだろう。だが何千回、何万回と素振りをくり返すうちに感覚が分かる アウリス:何万…… ガルフ:おいおい、万くらいでビビるなよ。そんなの十日もあれば十分達成できるぞ アウリス:でも手が、血豆だらけで…… ガルフ:それでやめたら一生、お前の手の皮は剣が握れるように固くはならない。始めがつらいのはどんなことでも同じだ。まずはそれを乗り越えろ アウリス:う、うん。わかった アウリス:  アウリス:  アウリス:  ガルフ:剣を自在に動かすには基礎体力が必要だ。お前の細っちい体じゃ剣にふりまわされているようなもんだからな アウリス:一応、言われた通り素振りをしたり、走ったりしてるけど……。基礎体力って、どうやって鍛えるの ガルフ:お前、毎日どれくらい食ってる アウリス:えと、朝にパン一枚、昼はサンドイッチ、夜は爺やの作ってくれたディナーで ガルフ:ああわかったわかった。もういい。まず、いままでの倍の量を食べろ アウリス:えっ、倍……? ガルフ:いくら鍛えても、食べなきゃ力はつかん。食うことも鍛錬の一部だ。幸い、お前は食事に恵まれてるからな。その状況を活かせ。そして素振りと走り込みを毎日。忘れるな アウリス:わかった。……ちなみに、なにを食べればいいのかな ガルフ:肉だ。鶏肉がベストだが、とりあえず何でもかまわん アウリス:あの……デザートは……? ガルフ:果物なら許可する ガルフ:  ガルフ:  ガルフ:  ガルフ:剣の達人と素人の一番の差は、どこにあると思う。技術的なこと以外で アウリス:えと……剣を振る速さ、とか ガルフ:剣を振る速さは、じつは俺もお前もたいして変わらない。素振りの速さを比べてみろ アウリス:そういえば……そんなに大きな違いはない気がする ガルフ:だろ。達人と素人の一番の差。それは、間(ま)を詰める速さだ アウリス:間? それは……足、っていうこと? ガルフ:そうだ。剣を握っていると上半身の動きばかり気にしがちだが、まず差がつくのは足。脚力だ。強いやつは一瞬で相手との間を詰め、自在に遠のく。華麗な剣さばきは、腰から下の動きで決まると言ってもいい アウリス:足……。足が早くなれば、逃げやすくなりそうだね ガルフ:いいことに気がついたな。そうだ。戦場では、どうしても勝てない場面、例えば大勢の相手と一度に戦うようなことも多い。そうなったとき、逃げられるというのは大きなアドバンテージだ。足腰をつねに鍛えることを忘れるな アウリス:はい! アウリス:  アウリス:  アウリス:  0:3 家族 ガルフ:よし、いったん休憩だ アウリス:はあっ、はっ……。ふう。うん、わかった ガルフ:少しスタミナがついてきたな。いい傾向だ。愚直に練習している成果は表れてる アウリス:うん……自分でもちょっと実感してる。前は振るのがやっとだった剣も、いまは自由に操作できている気がする ガルフ:自由に、というにはまだまだだがな アウリス:ガルフに比べればね ガルフ:――食ってるか アウリス:食事? うん、なんとか。倍の量食べるのは、最初は大変だったけど ガルフ:お前の場合、倍でもまだ足りないくらいだが……ま、ひとまずいいだろ アウリス:とつぜんディナーの量を倍にしてって言ったとき、爺やはビックリしてたけどね ガルフ:ディナーは執事が作るのか アウリス:日によるけど、爺やがつくることもある ガルフ:ほう……。そういえば、国での暮らしはどうだったんだ アウリス:僕? えーっと…… ガルフ:話したくなければ、それでもいいが アウリス:あ、いや、そんなことないよ。家は町の郊外にある屋敷で、爺やと、あと何人かの使用人がいた ガルフ:家族は アウリス:父と母、妹の四人家族 ガルフ:父親は、死んだんだったな アウリス:うん。父はあのとき、僕を逃がすために時間を稼ごうとして、僕の目の前で敵国の弓兵から一斉掃射を浴びて、それで…… ガルフ:母親と、妹は アウリス:母と妹は、行方が分からないんだ。僕より先にこの国へ逃げたはずなんだけど、どこにも見つからなくて……。他の国へも捜しに行きたいんだけど、ドラクラスの兵がもう隣の国まで来ているみたいだから、難しいかもしれない ガルフ:なるほどな……。父親は、強かったのか アウリス:強いよ。勇敢な戦士だって、みんな言ってた。一対一ではだれにも負けたことがないし、戦争ではいつも自分が先陣を切ってたみたい ガルフ:ん? 貴族なのに、戦争をするのか アウリス:あっ……う、うん。父は屋敷でおとなしくしているより、外に出て国の戦いに参加するのが好きだったから ガルフ:そんなに戦いが好きな父親なのに、お前はこれまでまるで戦いには興味がなかったんだな アウリス:父にもよく言われたよ。『お前と妹が逆ならよかったのに』って。妹は父と似ていて、おてんばで小さい頃から剣を振っていたから。でも僕は剣には全然興味がなくて、将来は薬草学者になりたいと思っていたんだ ガルフ:薬草学者? アウリス:うん。身の回りに生えている花や実から、人の病気や傷を治す薬を取り出す学者。傷ついた人を一人でも多く助けられたらと思って。そういう意味では、僕は母に似たのかもしれない。母は小さいころ病弱だった僕に、よく薬草で薬をつくってくれたから ガルフ:聞けば聞くほど戦いには向かない要素が出てくるな、お前 アウリス:(自嘲気味に)そうだね。でも、父が殺されて、母も妹もいなくなってから、それだけじゃ生きられないことがわかった。自分自身が強くならないと、力をもたないといけないって。 アウリス:それは好き嫌いの問題じゃない。平和な世だったらそれでよかったのかもしれないけど、世界中で争いが起きているいまの世では、必要なことなんだって ガルフ:力、か……。うっ……ゴホッ、ゴホッ! アウリス:ガルフ? 大丈夫……? ガルフ:……ああ、大丈夫だ。なんでもない。そういや、ドラクラスはずっと領土を拡大しているな。魔物を従えてから、向かうところ敵なしだ アウリス:そうだね……。ドラクラスは軍部のクーデターで王が替わってから、ずいぶん性格が変わった。昔は穏やかな外交をしていたのに。いまは大陸の全ての国を占領するつもりみたいだ。そのためには手段を選ばない。魔物に手を出したのも、きっとそのせいだ ガルフ:やけに詳しいな アウリス:え? い、いや、そんなことないよ……。爺やに教えてもらっただけ。でも、この国は海に守られているけど、本気で攻め込まれたら、ひとたまりもないかも ガルフ:そうだな。やり方もヒドイらしい。お前のいたエルナイト国の王族も、何人かは逃げたらしいが、捕まったやつは一族郎党、皆殺しだってな。お前くらいの歳の王子もいたはずだが……容赦のないやつらだ アウリス:(唇をかむ)っ…… ガルフ:で、その戦いのあと、お前はあの執事と逃げてきたってわけだ アウリス:……うん ガルフ:執事のほかは、何人いたんだ アウリス:五人 ガルフ:護衛は? アウリス:えと……みんなうちの使用人 ガルフ:使用人? ひとりも戦えるやつがいないのか。それでよく逃げてこられたな。敵兵に遭ったんだろ アウリス:あ、う、うん…… ガルフ:そういえば、どうやって敵兵を斬ったんだ。まだ詳しく聞いていなかった アウリス:どうやって、っていっても……あのときは、無我夢中だったから ガルフ:貴重な経験だ。思い出せ アウリス:うーん……相手が斬りかかってきたから、避けるためにしゃがんで、そのまま前に剣を振ったような―― ガルフ:やってみろ。俺が敵兵だ アウリス:うん。斬りかかってきたのを……ここでしゃがんで……こう斬った、と思う ガルフ:……なるほど。なぜド素人のお前が敵兵に勝てたか、教えてやろうか アウリス:えっ? ガルフ:お前は剣を避けるためにしゃがんだと言ったが、相手にとってみれば、それは視界から一瞬消える動作だ アウリス:視界から、消える……? ガルフ:普通なら後ろへ避けるところを、ド素人のお前は急にかがみながら前に踏み込んで間合いを詰めた。すると相手は一瞬、お前の姿を見失う。お前の背が低いから成立する、みごとな技だ アウリス:そんなすごいことを……僕はしてたの……? ガルフ:(笑い)偶然だ。百パーセント。だが深くしゃがみながら前に飛び出す動作は、お前の背の低さを活かしたいい攻撃だ。これからも有効に使え アウリス:うん。ありがとう、ガルフ ガルフ:よし。そろそろ練習を再開するぞ アウリス:【語り】それから、ガルフの講義は続いた。 アウリス:  アウリス:  アウリス:  0:4 剣の講義 応用 ガルフ:剣を構えたとき、相手のどこを見ている? アウリス:えと……顔、かな。目の動き、とか ガルフ:なら、相手がこっそり腕を上げたり、足を運んだりしたら、それは見ないわけだな アウリス:いや、そういうわけじゃないけど……。腕を上げたらそっちを見るし、足を動かしたらそっちを見る、かな…… ガルフ:――例えば、見晴らしのいいところから遠くの山を見るとき、お前はどこを見る アウリス:山全体、だね ガルフ:そうだ。そのイメージで、相手を見るんだ。人間は、動くところに何かと目がいきがちだ。だが戦いでそれをやると、大事なものを見逃す。どこか一点に集中するんじゃなく、遠くの山を見るように、相手全体を眺めるようにして見る。そうすることで、初めて相手の動きが把握できる。目の動きだけ見ていても分からない。腕のいい剣士は、視線をフェイントに使ったりするからな アウリス:そうなの? わかった。気をつける アウリス:  アウリス:  アウリス:  ガルフ:一人で多くの相手と戦うときのやり方を教える。戦場ではよくある場面だ アウリス:うん。僕もずっと気になってた。大勢の相手を一気になぎ倒すような技を知りたかったんだ ガルフ:よし。一対多の戦いで大事なことは、なんだ アウリス:どこから敵の攻撃が来るのか、全員の動きを把握して―― ガルフ:それで アウリス:もし二人がかりできたら、片方の攻撃に注意を払いつつ、もう片方の敵に斬りつけて―― ガルフ:全然ダメ アウリス:えっ? ガルフ:お前の腕は何本あるんだ。二本の腕で、四本の腕をどうやってさばくつもりだ アウリス:それは……これからガルフが教えてくれるんじゃ…… ガルフ:そんなやり方知らねえよ。俺が教えてほしいわ アウリス:じゃあ、どうするの……? ガルフ:答えは簡単。一目散に逃げろ アウリス:逃げる? ガルフ:そうだ。一人で三人も四人も相手にするのは無謀。だれでもわかるだろ。そのために、お前の足腰を鍛えたんだからな アウリス:でも、逃げてもずっと追いかけられたら―― ガルフ:ただ逃げるだけじゃない。一対一の状況をつくるために、逃げるんだ アウリス:一対一? どうやって……? ガルフ:逃げ始めると当然、敵は追いかけてくる。だが敵はみんな同様に追いかけてくるんじゃない。足の速いやつから順番に追いつく アウリス:あっ…… ガルフ:そうなったところで、例えば角を曲がったところに潜む。先頭の敵がやってきたらその一人に襲いかかる。そしてまた逃げる。これをくり返せば、一対多を、一対一の複数回にできる。戦場でもそう。基本は一対一のくり返し。それ以上の条件で相手に勝負させないことが大切だ アウリス:そうか……逃げることって、そういうことにも使えるんだね ガルフ:逃げることは勝つための手段だ。もちろん勝てないときの、負けないための手段でもあるがな アウリス:うん。わかった アウリス:  アウリス:  アウリス:  ガルフ:今日は戦うときの気の持ち方について教える アウリス:気の持ち方……。どういう気持ちで相手に立ち向かうか、っていうこと? ガルフ:それもあるが、いまから教えるのは戦闘でなってはいけない気持ちの方だ アウリス:なってはいけない……。恐怖とか? ガルフ:そう。他に何がある アウリス:えと…… ガルフ:例えば、相手が自分より圧倒的に速かったり、剣さばきが段違いだと分かった瞬間、どう感じる アウリス:戸惑う、と思う ガルフ:それだ。惑い。あと、そうした相手に対して、自分から仕掛けていこうとするときは アウリス:……自信が、無くなると思う。普通に戦っても、自分の剣が通用しないような気がして ガルフ:それ。自分の力を疑うこと。あとは、そうだな。相手が大人数で、全員が同じ背格好、実力だった場合 アウリス:……誰から戦うか迷う、かな ガルフ:迷い、だな。いま話した『恐れ 惑い 疑い 迷い』が、戦いのときに一番陥ってはいけない心の状態だ。それをまとめて四つの戒め、『四戒(しかい)』と呼ぶ アウリス:四戒…… ガルフ:戦場ではわずかな悩みが致命傷になりかねない。相手がいかに強くても、自分なりの冷静な判断とそれに基づいた行動をとるしか、生きる道はない。恐れたり迷ったりしているヒマはないんだ。心に留めておけ アウリス:うん! アウリス:  アウリス:  アウリス:  0:5 酒場 アウリス:うわー……すごい。これが町の酒場…… ガルフ:貴族のおぼっちゃまには、なじまないところだろうがな アウリス:ううん。一度こういうところに来てみたかったんだ。うわ、人がたくさん……。それに、にぎやかだね ガルフ:一般市民にとってはここが癒しと憂さ晴らしの空間だからな。で、なに飲む アウリス:僕はホットミルク ガルフ:(ずこっ)酒じゃねえのかよ……。お前もう成人だろ アウリス:この国ではね。でも僕の国では成人は十八歳以上だから ガルフ:郷に入れば郷に従え。この国にいるんなら、この国のしきたりに従うのが道理だろ アウリス:でも僕は、剣の腕を早く身につけたいし、そのために一日でも体を壊したくないんだ。それに、ミルクは体にいいからね ガルフ:体ね……。ま、俺に注意する資格はねえか。(店員に)おい、ラムとホットミルク。あと、エビとキノコのオイル煮 ガルフ:  ガルフ:  ガルフ:  アウリス:あ、おいしいこれ! ガルフ:おい、乾杯する前に食うなよ アウリス:でも、いつもたくさん食べてるから、お腹が減っちゃって…… ガルフ:――きたぞ、ミルク。ほら。乾杯 アウリス:乾杯! ガルフ:なんかテンション高くないか、今日 アウリス:うん。こんなにたくさんの人が、みんな笑顔になってる場所に来たのは初めてだから……。屋敷に客を招いて食事をする機会はあるけど、ここにいる人たちは、なんだかみんな、心から笑っている気がする ガルフ:屋敷の貴族らは、そうじゃないってか アウリス:食事をしても、形式的なものばかりだからね ガルフ:ふーん。お前の父親は、酒を飲んだのか アウリス:飲むよ。ときどきだけど、飲むときはたくさん ガルフ:へえ。じゃあお前にも大酒飲みの資質があるってわけだ アウリス:えっ? それは、どうか分からないけど……。母は全く飲まないし…… ガルフ:フフ…… アウリス:え、なに? どうして笑ってるの? ガルフ:いや、お前は以前、自分のことを、母親に似てると言ったな アウリス:うん。いまもそう思ってる。僕には父のような勇敢さも、力強さもないから ガルフ:だがいままでのお前の成長は、俺が教えてきたどんなやつらよりも早い アウリス:えっ、そうなの……? そんな、ウソつかなくてもいいよ。僕なんて、いままで剣に興味、全然なかったんだから ガルフ:ウソついているように見えるか アウリス:……視線をそらしてない。本当だ ガルフ:ハッ。――マジメな話、ウソじゃねえよ。お前は俺が驚くくらいの速さで成長してる。剣の扱いも、体力もな アウリス:それは、ガルフの教え方がいいからだよ ガルフ:いくら教える方が教えても、受け取る方に資質がなかったら、そこまで伸びねえよ。お前は父親譲りの剣の資質がある アウリス:僕が……父の……? ガルフ:いくら必要に迫られたからって、俺の指示通り全てをこなして鍛えるなんて普通のやつはしない。剣に興味がないのなら、どこかで何かと理由をつけてサボるもんさ アウリス:そう、なの……? ガルフ:それにお前、俺に言われた以上のこと、やってるだろ アウリス:えっ。それは、その…… ガルフ:別に隠すことじゃねえだろ アウリス:う、うん。ガルフとの練習が終わった後、復習したいから家の裏で剣を振ってる。ときどき、爺やにも相手してもらったりして ガルフ:本当に剣に興味のないやつが、自分からそんなことするか? お前は、剣を振るうことが好きなんだよ アウリス:僕が……? ガルフ:父親への憧れとか、心のどこかにあったんじゃないか アウリス:……。そう、なのかも。僕は父のことが好きだったし、でも父の期待に応えられないことが、つらいとも思っていた、から。どこかで、自分にはできないとブレーキをかけていた部分が、あったかもしれない ガルフ:もっと自信を持て。謙虚なのはいいことだが、自己評価をいたずらに下げれば、自分の才能を見誤る。お前、剣の才能あるよ アウリス:――うん。ガルフ、ありがとう。いまの言葉、すごくうれしい。僕、ガルフのこと、大好きだよ ガルフ:なに愛の告白みたいに言ってんだよ。やめろ アウリス:あっ、そ、そうだね。そういえば……ごめん ガルフ:顔を赤らめるな。よけい本気に聞こえるだろ…… アウリス:あ、ガルフ、初めて僕から視線をそらした ガルフ:うっせえ。ったく…… アウリス:ねえ、ラムっておいしいの? ガルフ:飲むか? アウリス:あ……ち、ちょっとだけ ガルフ:ほらよ アウリス:…………うっ、お酒臭い ガルフ:あたりまえだ。酒だからな アウリス:こんなものよく飲めるね ガルフ:アウリスが大人になりゃ、分かるさ アウリス:あ ガルフ:ん? アウリス:僕のこと、初めてアウリスって呼んでくれた……! ガルフ:なんだ、そんなことかよ……だから目を輝かせるな! アウリス:だっていままでずっと『お前』だったから……! 僕、ガルフと会って初めて他人に『お前』って呼ばれたから、ずっと怖かったんだ…… ガルフ:ほんと温室育ちだな、お前は アウリス:あっ……(落ちこむ) ガルフ:落ちこむなよ! わかったわかった! ほんと温室育ちだな、アウリスは アウリス:ありがと! でもふだんは:お前でいいよ。もう慣れちゃったし ガルフ:こいつなんで今日はこんな饒舌(じょうぜつ)なんだ…… アウリス:あ、そうだ。僕、前からガルフに聞きたかったことがあったんだ ガルフ:なんだ アウリス:ガルフが:神殺しの傭兵って呼ばれるようになった理由。爺やから少しだけ聞いたけど、ガルフって、どんな剣士だったの。いままでガルフがどんなふうに剣を学んで、どうやって有名になったかなって。あ、ガルフの家族のことも聞きたいな。それから―― ガルフ:(表情が険しくなる)………… アウリス:ガルフ……? 僕、なにか気にさわるようなこと言った……? ガルフ:――いや。お前は悪くない。ただ……おもしろくもない話だ。聞くだけ無駄だろと思ってな アウリス:……それでも、聞きたい。僕、ガルフのこと、全然知らないから……。ガルフから飲みに行こうって誘われたとき、僕、すごくうれしかったんだ。ガルフが僕のこと、少しだけでも知りたいと思ってくれたのかなと思って。だから僕もガルフのこと、知りたい ガルフ:…………。  俺はみなしごだった。両親は戦争で殺されたって聞いたが、それも本当かはわからん アウリス:えっ…… ガルフ:教会の孤児院で過ごしたが、そこは毎日牧師の暴力がひどくてな。俺は十歳のころ仲間とともにそこを抜け出して、自分たちで生活するようになった。窃盗、強盗、ヤク売り。食うための犯罪はひととおりやったな。その流れで、人も殺した。女子供も無抵抗の人間も、手にかけた。お前の信じてる:神殺しの傭兵像が体のいいウワサだって言ったのは、そういうことだ アウリス:…… ガルフ:だが、こんな生活続けても、小さな人生で終わる。そう思って俺は、傭兵稼業をやることにした。結局、頼れるのは己の力だけだったからな。若いときは、そこで名声を得てなり上がろうと、そんなことばかり考えていた。それからは、ずっとどこかの戦場を追い求めていった。マルト宗教国の内戦とか、アルトゥール戦争とか。大陸中央で始まった三つ巴の戦争……あれはなんていったか アウリス:アッサムの砂漠戦だね ガルフ:よく知ってるな アウリス:え? い、いや、たまたま ガルフ:ふーん……。 ガルフ:俺は、自分がどうすれば強くなるか――戦場で勝ち続け、生き残れるかを追求していった。そのうち、どんな戦場でもこいつがいれば勝てると言われるくらい有名になった。報酬もはね上がった。傭兵なんかしなくても食っていけるくらいにな。だが俺にとっては、戦場だけが自分の生きる場所だった。傭兵を辞められなかったのさ アウリス:それだけの戦場をくぐりぬけて……。よく、生き残れたね ガルフ:たまたまだ。臆病で、運がよかっただけだ アウリス:臆病? ガルフが? ガルフ:臆病だから生き残れた。つねに最悪のケースを想定していた。死の恐怖におびえていたな。それを忘れるために――。 ガルフ:――酒が入り過ぎたな。ま、それで神すら倒せるんじゃないかっていうウワサで:神殺しの傭兵なんて呼ばれるようになったわけだ アウリス:そう、なんだ ガルフ:幻滅したか アウリス:なぜ? ガルフ:ん? 俺は、お前が思っているような、立派な人間じゃないってことさ。女子供にも手をかけた―― アウリス:でもそれは、子どものときの話でしょ。傭兵になってからは、手にかけてない。いまがそうじゃないなら、僕はいまのガルフを信じるよ ガルフ:お前はほんとにお人よしだな アウリス:そうかな。人を疑ってかかりたくないからだよ。『自分から信じないと、相手からも信じてもらえない』。これは、僕の国の古い伝承だけどね ガルフ:フン。だからお前の国は滅んだんだろうな。バカ正直すぎて、隣国の裏切りにも気づかなかった アウリス:フェルタ魔法国のこと? そうだね。まさかドラクラスと組んで、エルナイトに攻めてくるとは思わなかった。父も最後まで、フェルタのことを信じていたから。ショックを受けていたと思う。(自嘲)今日は不思議だね。なんでも話せる気がする ガルフ:そりゃお前、酒を飲んでるからな アウリス:飲んでるのはガルフだけだよ。 ガルフ:いや? お前のホットミルクには、ラムが入ってるぞ アウリス:ふーん……え? えええっ!? ガルフ:この店でノンアルコールなんてお子様な飲み物があるかよ。ミルクにだって当然、酒が入ってる アウリス:どうりでさっきから体がポカポカすると思った…… ガルフ:だから、なんでも話していいんだよ。そのための酒だ アウリス:(逡巡するように)……。ガルフ ガルフ:なんだ アウリス:僕は、やっぱり優し過ぎるのかな。人と戦うのに ガルフ:少なくともお前の信念は、どう考えても戦いには向いていないな。根が平和主義者だろ。誰も傷つけたくない アウリス:うん。だから――こうしてガルフに剣を習って、成長してるって褒めてもらっても、いざ戦争になったとき、相手と戦えるのかどうか、自信がないんだ。技術的なことじゃなくて、気持ち的に。僕にそれだけの覚悟があるのかどうか、いまだにわからない。結局、僕は戦いが嫌いだから…… ガルフ:ひとつ聞くが、お前があの日――敵兵を斬ったとき、自分が逃げるためだけに相手を斬ったのか アウリス:えっ? ガルフ:剣を握ったこともない平和主義者のお前が、どうしてそのとき、剣を抜く決断をしたんだ アウリス:それは、その……。じつは、町の人が、敵兵に襲われていたから……。たぶんその人たちも、逃げる途中だったんだと思う。母親と、子どもだった ガルフ:――なるほど。そんな場面に出くわしたお前は、逃げる途中だったのにも関わらず、その母と子を助けようとして剣を抜いた、と アウリス:そう、だね ガルフ:ならそれこそが、お前が人を斬る理由だ。お前の優しさは、ただ平和な世を願うだけのものじゃない。力にもなりうる。自分の優しさを『誰かを守るため』という力を変えることだな アウリス:それは、本当に正しいことなんだろうか ガルフ:正しいか正しくないかは、お前の決めることじゃない。のちの歴史学者だかそこいらの連中が決めることだ。お前は、自分が正しいと信じたことをやるしかない アウリス:うん……(ミルクを飲む)あ、なんかぼーっとしてきた。だいぶ酔ってきたかも ガルフ:おいおい アウリス:いますごくいい気分。フフッ。ふわ……なんだか眠くなってきた ガルフ:お、おいおい アウリス:僕、ね。ガルフ。僕――ガルフみたいに強くなりたい。ガルフは僕の尊敬する、立派な大人だから。 アウリス:スー……… ガルフ:おい。アウリス。おい。ちっ。寝ちまいやがった。ってか、こいつのミルクに酒混ぜたなんて、ウソなんだがな。なんで酔ってんだこいつ。暗示にかかりやすいやつだな……。 ガルフ:――立派な大人、か。こいつの幻想が、いつまで続くかな。 ガルフ:(店員に)よう、勘定してくれ ガルフ:  ガルフ:  (ガルフ、客に声を掛けられる) ガルフ:  ガルフ:あ? ――なんだ、お前か。なんだよ。いまこのガキと飲んでんだよ。 ガルフ:え? 例の件? ああ、こいつじゃねえよ。そんな重要人物が、こんな無防備なわけねえだろ。 ガルフ:……分かってる。いま捜してるから、焦らず待ってろって ガルフ:  ガルフ:  (客が去る) ガルフ:  ガルフ:ちっ。あいつら、ことあるごとに俺を監視してるな……うっ、ゴホッ……ゴホッ! ガルフ:(手についた血を見る)フン。俺の体もいつまでもつか。くそっ…… 0:6 別れ ガルフ:――今日で最後だな アウリス:うん。ガルフ。この一年間、ありがとう。僕、ガルフに出会えて、本当によかったと思ってる ガルフ:お前は本当に成長したな。一年前とは大違いだ。いまのお前の技術があれば、とりあえずの戦いは耐えられる。あとは、それをどう使うか、だ アウリス:うん。ありがとう、ガルフ。僕はまだ不安だけど、今日まで教えてくれたことを、これから活かしていくよ ガルフ:……そうだな。とにかく、お前とは今日でお別れだ アウリス:うん。その話なんだけど…… ガルフ:ん? アウリス:ガルフ、これからは僕の傭兵に、なってくれないかな ガルフ:……傭兵? なんだよそれ。お前の家の警備とかか? そんなもの、俺のガラじゃねえぞ アウリス:ううん。そうじゃなくて――。僕はこれから、この島国、トレサ海洋国の軍と一緒に、すぐそばまで迫っているドラクラス軍との戦いに、打って出ようと思ってるんだ ガルフ:……なに? ちょっと待て。なに言ってんだお前。打って出る? お前、この国に逃げてきたエルナイトの貴族だろ。それがこの国の軍とともに、戦争する? アウリス:……いままで黙っててごめん、ガルフ。じつは僕――騎士国家エルナイトの、第一王子なんだ ガルフ:王子……? アウリス:驚くよね。でも、本当なんだ。ドラクラスとフェルタに国を滅ぼされ、そこから逃げてきた。配下の親衛隊といっしょに ガルフ:親衛隊……。使用人じゃなかったのか。じゃあお前が人を斬ったって話は? アウリス:あれは本当。出遭った敵は二人じゃなくて、一個小隊――十数人はいた。だから親衛隊は相手の兵にかかりきりで、僕はひとりでその戦いを切り抜けようとして――たまたま遭遇したのが、ガルフに話したあの場面なんだ ガルフ:アウリスが、エルナイトの王子…… アウリス:うん。僕の本当の名前は、アウレリウス=エル=シェスタ。ドラクラス軍の、一番の賞金首だよ ガルフ:たしかに思いあたるふしはあったが……まさか本当にそうだとはな アウリス:でも僕の手勢は、親衛隊だけなんだ。他にはなにもない。この国の軍といっしょに攻め込むけど、正直、勝てるかどうかはわからない。そこに『神殺しの傭兵』ガルフが加わってくれれば、この上ない戦力なんだ。ぜひ、僕の力になってほしい ガルフ:俺の名声を利用したいか アウリス:そうじゃない。僕は本気で、ガルフに助けてほしいんだ。僕は、エルナイトの再興を目指してる。ドラクラス軍に滅ぼされた、自分の国を。これから幾度も辛い戦いが待っていると思う。でもガルフがいてくれれば、僕は心強い。本当は、ガルフには僕の軍に入ってほしい。でもガルフはそういうの、嫌いだろうから。傭兵として、ガルフにきてほしいと思ってる。そうだ、これ…… ガルフ:……これは アウリス:僕の父の剣。ほら、練習の最初に見せたでしょ。この剣のことを、ガルフは認めてくれていたから――この剣を、ガルフにあげるよ ガルフ:……いらねえよ アウリス:えっ ガルフ:もう使用済みだろ、その剣。どのくらい傷んでいるか分からねえものを、使いたくはねえ アウリス:そう…… ガルフ:それに、いまの俺にできる返事は、ノーしかない アウリス:えっ……。傭兵に、なってくれないっていうこと……? ガルフ:そうだな アウリス:どうして……? ガルフ:答えは簡単。いまから俺が、お前を殺すからだ アウリス:――えっ。ガルフ、いまなんて……? ガルフ:聞こえなかったか。いま、俺の目の前にいるエルナイトの王子の首をもらう。そう言ってる アウリス:……うそ……。うそでしょガルフ……また冗談―― ガルフ:そらっ!!(ガルフが剣を抜いてアウリスに斬りかかる) アウリス:うわっ!? ガルフ:ふん。うまく避けたな。 アウリス:――いまの、避けなかったら、僕の首が飛んでいた……。まさか、ガルフは本気で僕を……。どうして……どうしてだよガルフ……! ガルフ:依頼を受けていたからだ。お前の執事に会うずっと前からな。この国に逃げ込んだエルナイトの王子を捜し出し、始末すること。ドラクラス一の賞金首なんだろ。報酬は莫大だ。その金があれば、俺は余生を不自由なく過ごせる アウリス:そんな……そんな! ガルフ:十中八九、お前がエルナイトの王子だってことは分かっていたさ。いつでも殺せた。いつでもな。だが最後の確信が持てなかった。今日、お前にカマをかけて、王子であることを自白させようとしたんだが……まさか自分から言い出すとはな。それに、俺を傭兵として雇おうとするとか……可笑しくて吹きだすのを必死に我慢したさ アウリス:うそ……じゃあ、じゃあなんで僕に剣を教えたの? ガルフ:いまの話で理解できなかったか? 金のためだ アウリス:そんなのウソだ! 僕を捕まえて、無理やり自白させる手もあったはずだよ。でもガルフはそうしなかった。それは―― ガルフ:いちいちうるせえガキだな。そらっ!!(再び斬りつける) アウリス:くっ!(避ける) ガルフ:酒場のときの続きを話してなかったな。『神殺しの傭兵』なんて呼ばれるようになったころには、俺は全ての国から恨みを買って、どの国からもお呼びがかからなくなった。それからはこうしてときどき個人的に依頼を受けるだけになった。戦場だけが生きがいだった俺は、生きる場を失ったのさ。俺はお前の信じているような立派な男じゃない。日々の小銭を稼ぐのにあくせくしている、無気力なしがない浪人に過ぎないのさ アウリス:じゃあどうして僕に、剣の握り方を教えてくれたの。どうして僕に、戦場での戦い方を教えてくれたの。どうして僕には剣の資質があるって、褒めてくれたの――。結局僕を殺すつもりなら、金にならないことを続ける意味なんか無かったはずだよ……! ガルフ:(無視して)抜けよ、アウリス。じゃなきゃ、やられるだけだぜ アウリス:そんな……。僕、ガルフと戦いたくないよ……! ガルフ:遺言はそれだけか? アウリス:……ガルフ……。(剣を抜く)本当に……戦うしかないの……? ガルフ:ようやく剣を抜いたか。そうこなくっちゃな。さっき俺に渡そうとした父親の形見の剣で、俺と戦うのは皮肉だな。フッ。さあ、いくぞ…… アウリス:ガルフ……! ガルフ:うらぁっ! アウリス:くっ! ガルフ:おらっ! アウリス:うっ! ガルフ:そらっ! アウリス:うわっ! ガルフ:ちっ、ちょこまかと逃げやがって…… アウリス:考えろ。考えるんだ。正面からまともにやりあったら、絶対に勝てない。相手をよく見ろ。遠くの山を眺めるように―― ガルフ:(息が上がっている)っ……っ…… アウリス:――息が上がってる? いまの動きだけで……。よし…… ガルフ:おらっ! アウリス:くっ! ガルフ:おらおらっ! アウリス:はっ! ガルフ:はあっ、はぁっ……さっきから逃げ回りやがって! 捌(さば)いてるだけじゃ勝てねえぞ! アウリス:だいぶスタミナを削った……。動きも鈍ってきてる…… ガルフ:はあっ……そろそろ決着をつけないとな……。次で決める…… アウリス:でもどうして、ガルフは少しの動きだけで息が切れるんだろう。もしかして、体のどこかが――。どのみち、そこにつけこむしか、僕に勝機はない。怖い。これで本当に勝てるのか……? いや。迷いを無くすんだ。自分の力を疑うな。自分にできることを信じてやるだけだ……! ガルフ:アウリスの構えが下がってるな……。ふん……。 ガルフ:はあっ! アウリス:くっ!(しゃがみこんで前に出る) ガルフ:また逃げるのか―― ガルフ:何、いない――? アウリス:はあっ!!(ガルフの腹部を斬り込む) ガルフ:なっ!? ぐっ――!! ガルフ:がはっ……(倒れる) アウリス:はあっ、はあっ……。――ガルフ! ガルフ! 大丈夫!? しっかりして……! ガルフ:――くっ……フフッ……ヤキがまわったな。こんなガキに敗れるとは。俺の剣を捌いた直後にしゃがんで視界から消え、すぐさま横腹を斬り上げる――この国に逃げてくるとき敵兵を斬ったのと同じやり方か。だが、見事な速さだった。俺の攻撃をいなしてから斬りつけるまでの動きも速かった……。俺に最後の最後まで斬撃を見せなかったのはいい手だ。その剣でのお前の動きを、俺は見たことがなかったからな アウリス:家ではずっとこの剣で練習していたから…… ガルフ:フッ……そうか。だがその前、頭部への攻撃を誘おうと構えを下げたのは、見え見えだったがな…… アウリス:ガルフ、それを分かってて――やっぱり……僕を殺すつもりなんかなかったんだね ガルフ:殺してたさ。お前がやわな動きをしていたならな。もしそうなら、お前は一撃目で死んでる――がはっ! アウリス:しゃべらないで! すぐに白魔術師さんを呼んでくるから……! ガルフ:やめろ。魔法使いなんて信用できるか……。それにどのみち、俺はもう助からん。こんな体じゃな…… アウリス:ガルフ、やっぱり体、悪かったの……? すぐに息が上がったから…… ガルフ:フン……。言っただろ……人の尊敬を喜べるほど、俺はご立派な人生を送ってない。――それよりもアウリス、気をつけろ。力を手に入れた人間には、悪魔がささやく。俺はそれにのって、このざまさ。戦場から退いた後も、はした金のために、何百人と罪のない人間を殺してきた。それでも心のすき間を埋められず、酒、女、博打、薬――そういったものに溺(おぼ)れて、俺の体はダメになった アウリス:ガルフ…… ガルフ:剣の道を極めたつもりだったが――望んでいたものは、最後まで得られなかったな。フフッ――ゴホッ、ゴホッ……がはっ!(吐血) アウリス:ガルフ! しっかり! ガルフ……! ガルフ:――結局、『神殺しの傭兵』は、人殺しでしかなかった、ってことだ。 ガルフ:どうした。笑えよ。ここは笑うところだぜ…… ガルフ:  ガルフ:  (間) ガルフ:  アウリス:――ガルフ? そんな……。ガルフ……! 0:7 彼が残したもの アウリス:【語り】八年後 アウリス:  アウリス:  (王宮で手記を書いているアウレリウス) アウリス:  (ノックの音) アウリス:  アウリス:どうぞ。あ、ラケシス。もうそんな時間か。夢中になっていて、時がたつのを忘れてしまっていたよ。 アウリス:あはは。そんなに怒らないでよ。いくら妹でも、室内で剣をふり回されたら怖いよ。 アウリス:――ああ、これかい。戦いが終わってようやく落ち着いてきたから、私のいままでのことを記録しておこうと思って。 アウリス:うん。少し待っていてくれ。すぐ行くから アウリス:  アウリス:【語り】 アウリス:ガルフ。 アウリス:最後は私があなたの命を奪う結果になったことを思い出すたび、いまも胸が痛む。 アウリス:『神殺しの傭兵』ガルフが、なぜ私を殺さなかったのか。なぜ私に、剣を教えてくれたのか。 アウリス:望んでいたものとは、何だったのか。 アウリス:いまだに自問自答しているが、私なりの答えは―― アウリス:ガルフは、自分の剣を納める鞘を探していたのだと思う。 アウリス:そして、あなたの剣を納める鞘に私がなれなかったことを、いまだに悔いている。 アウリス:だが、ガルフが教えてくれた剣、そして最後に命懸けで教えてくれた『力の使い道』 アウリス:それが無ければ、いまの私は無かったと確信をもって言える。 アウリス:  アウリス:ありがとう。ガルフ。 アウリス:あなたが何者であろうとも、私はあなたのことを一生尊敬している。 アウリス:『神殺しの傭兵』ガルフ。 アウリス:いつまでも安らかに。 0:終

0:1 出会い ガルフ:――お前か。俺に剣を教わりたいってやつは アウリス:は、はい ガルフ:まだ若いな。名は? アウリス:アウリス。アウリス=ディストリクス ガルフ:背も低いな。歳は アウリス:十六です ガルフ:十六か……。俺はガルフ。ガルフ=ファン=ダイク アウリス:ガルフ……。よ、よろしくお願いします ガルフ:俺に仕事を依頼した、お前のとこの執事だという爺さんから聞いたが――。お前は一年前に滅んだ、騎士国家エルナイトの貴族なんだってな アウリス:はい。王族の傍系にあたる、ディストリクス家の長男です ガルフ:亡命か。軍隊に魔物を採用した森林王国ドラクラスとフェルタ魔法国から同時に侵攻されたんだったな アウリス:はい。その戦争で屋敷が焼き払われて……この島国まで逃げのびてきたんです ガルフ:むごい戦いだったと聞いた。エルナイト側の兵士が前と後ろから攻めこまれて、魔物に一方的に蹂躙(じゅうりん)されたらしいな アウリス:はい…… ガルフ:で。なぜ剣を教わりたい アウリス:僕はいままで、剣の使い方を知らない――戦うことを知らない、弱い人間でした。あの戦争のときも、みんなが僕を守ってくれたのに、僕は逃げることしかできなかった。だから今度は僕が、誰かを守れるくらいに、強くなりたいんです。爺や――僕の執事にそのことを相談したら、この国に有名な『神殺しの傭兵』と呼ばれる剣士がいるって聞いて ガルフ:つっても、俺はただのならず者の傭兵だ。そんな俺に、剣の講義を頼むなんてな アウリス:でも:神殺しの傭兵は、世界中の戦場で傭兵として戦っていたけど、女子供や戦意のない者は決して手にかけなかったって、爺やが言ってました ガルフ:ほう。体(てい)のいいウワサだな アウリス:……違うんですか? ガルフ:違うって言ったら アウリス:その……少し怖い、です ガルフ:なんだよそりゃ。もう少し身の危険とか感じろよ アウリス:でもガルフさんは、悪い人には見えないですから ガルフ:たいした自信だな。お前、もう少し人を疑ってかからないと、簡単に殺されるぞ。それが戦場ならなおさらな アウリス:は、はい、すみません…… ガルフ:つーかよ、その『ですます調』やめろ。しまらねえ アウリス:えっ? でも、教えてもらうのに…… ガルフ:タダで教えるわけじゃない。お前は俺に金を渡す。俺はお前に剣を教える。対等な関係だ アウリス:わかりました……。あっ、わ、わかった、ました ガルフ:(ため息)とてもじゃないが、人を斬るのに向いた人間だとは思えねえな アウリス:えっ? ガルフ:なんでもねえ。お前、見るからに温室育ちだな。そんなんじゃ、いままで剣を握ったことも、人を斬ったこともないんだろ アウリス:(視線をさまよわせ)あ、う、うん…… ガルフ:ほう、あるのか アウリス:えっ ガルフ:お前、ウソつくのヘタだな アウリス:……どうして ガルフ:すぐに俺から目線をそらしただろ。そういうときは、なにか後ろめたいことがあるってことだ アウリス:すごい…… ガルフ:すごくねえよ。お前がヘタすぎるだけだ アウリス:う……ごめんなさい ガルフ:なんで謝んだよ。――んで、いつ斬ったんだ アウリス:……僕たちが屋敷からこの国へ逃げる途中、敵兵に出遭ってしまって。そのうちの一人が襲いかかってきたから、僕は父から護身用にもらった剣を抜いて、無我夢中で――。気がついたら、僕は敵兵の横腹を斬ってた……。その兵が倒れるのを見てから、僕らはまた逃げ出したんだ ガルフ:なるほど、な。お前、剣の腕を身につけて、どうなりたい アウリス:さっきも言ったけど……強くなりたい。大切な人を守れるくらい、強く ガルフ:……ふん。まあ、いいだろう。剣の素養の全くないやつに教えるのは初めてだから、少しきつい教え方になるかもしれないが、覚悟しろよ アウリス:うん ガルフ:まず右手をみせてみろ アウリス:右手? はい ガルフ:……本当に、ろくに剣も握ったことがないんだな アウリス:手を見ただけでわかるの? ガルフ:そこからか……。こりゃ長い授業になりそうだ。剣はもってきたか アウリス:うん。これ ガルフ:ショートソードか。ん? ずいぶん高級そうだな アウリス:僕の父からもらったものなんだ ガルフ:さっき人を斬った、って言ってた剣か アウリス:あ、うん ガルフ:ふん……とりあえず、これを使うのはやめろ アウリス:えっ、どうして? 僕、この剣で強くなりたいんだ。父の形見だから ガルフ:形見? お前の父親は死んだのか アウリス:うん……僕の目の前で、敵兵に囲まれて――。だからこの剣の使い方を知りたいんだ。それとも、この剣、そんなに悪いものなの ガルフ:逆だ。良すぎる アウリス:良すぎる……? ガルフ:形が整っていて、軽く、柄(つか)もしっかりしている。とてもつかいやすい剣だ。お前の父親は、剣を見る目がある。俺が使いたいくらい、よくできた代物だ アウリス:じゃあ―― ガルフ:だがこの剣じゃだめだ。練習には使えない アウリス:どうして? この剣は父の形見なんだ。だから、この剣が使えるようになりたい ガルフ:なら余計にだ。しばらくこの剣は使うな アウリス:だから、どうして? ガルフ:お前、自分が使う剣はこの世に一本だけ、と思っていないか アウリス:え、と、その ガルフ:剣は消耗品だ。一度戦いで使えば、刃は確実にこぼれ、使い物にならなくなる。もちろん、研ぐことでまた使えるようにはなるが、それでもせいぜい数回だ。自分だけの剣、なんていうのは、戦争の乱戦状態ではありえない。もちろん練習でも、切り結べばそのたびに刃は欠ける。お前が一対一の決闘しかしないというのなら、別だがな アウリス:そう、なんだ……。ごめん、そんなことも知らなかった ガルフ:だからいちいち謝るな。知らないことは恥ずかしいことじゃない。お前はまだ若い。学んで、身につければいい。その剣は大事にとっておけ。練習用なら、そこいらで売っている安物で十分だ。むしろどんな剣を使っても身を守れる術(すべ)を身につけろ。それは俺が教える アウリス:……うん、わかった ガルフ:まず柄(つか)の握り方だ。ショートソードの場合、片手で握ることが前提だ。持ってみろ アウリス:――こう? ガルフ:違う アウリス:あの、ガルフ。手を、見せて ガルフ:ん? どうした アウリス:(ガルフの右手を見つめる)小指の皮がぶ厚い……。小指に、力を入れる? ガルフ:そうだ。剣を握るときに最も力をこめるのが、小指だ。やるな。いまのはなかなかいい質問だった。その姿勢を忘れるな アウリス:あっ、ガルフ、いまちょっと笑った…… ガルフ:ん? なにが可笑しい アウリス:えっ? いや、その、なんでもない…… ガルフ:(小声で)なんだこいつ……。そしてこうして握った剣を、中段に構える。右足を前に。握った剣の先は相手ののど元、あるいは顔面に突き付ける。そして機を見て――振る! アウリス:うわっ!?(腰を抜かして飛び退く) ガルフ:……どうした。剣を振り下ろしただけだぞ アウリス:えと、その……。ガルフの緊張感と気迫に……ビックリして…… ガルフ:……お前、それでよく人を斬ったなんて言えたな。あたりまえだが、剣を振るということは、相手の命を奪うってことだ。練習でもそのことをイメージして振れ。そうしないと、斬られるのは自分だ アウリス:う、うん ガルフ:よし、やってみろ アウリス:――こ、こうかな ガルフ:違う。さっき言っただろ。剣先は―― アウリス:【語り】こうして、神殺しの傭兵・ガルフの講義が始まった。 0:2 剣の講義 基礎 ガルフ:だから違う。剣は横から握るんじゃない。上から包むようにして握るんだ。そうしないと剣の軸が左右にぶれる。力を入れるのは小指。人差し指は操作 アウリス:上から…… ガルフ:最初は握りにくいと思うだろう。だが何千回、何万回と素振りをくり返すうちに感覚が分かる アウリス:何万…… ガルフ:おいおい、万くらいでビビるなよ。そんなの十日もあれば十分達成できるぞ アウリス:でも手が、血豆だらけで…… ガルフ:それでやめたら一生、お前の手の皮は剣が握れるように固くはならない。始めがつらいのはどんなことでも同じだ。まずはそれを乗り越えろ アウリス:う、うん。わかった アウリス:  アウリス:  アウリス:  ガルフ:剣を自在に動かすには基礎体力が必要だ。お前の細っちい体じゃ剣にふりまわされているようなもんだからな アウリス:一応、言われた通り素振りをしたり、走ったりしてるけど……。基礎体力って、どうやって鍛えるの ガルフ:お前、毎日どれくらい食ってる アウリス:えと、朝にパン一枚、昼はサンドイッチ、夜は爺やの作ってくれたディナーで ガルフ:ああわかったわかった。もういい。まず、いままでの倍の量を食べろ アウリス:えっ、倍……? ガルフ:いくら鍛えても、食べなきゃ力はつかん。食うことも鍛錬の一部だ。幸い、お前は食事に恵まれてるからな。その状況を活かせ。そして素振りと走り込みを毎日。忘れるな アウリス:わかった。……ちなみに、なにを食べればいいのかな ガルフ:肉だ。鶏肉がベストだが、とりあえず何でもかまわん アウリス:あの……デザートは……? ガルフ:果物なら許可する ガルフ:  ガルフ:  ガルフ:  ガルフ:剣の達人と素人の一番の差は、どこにあると思う。技術的なこと以外で アウリス:えと……剣を振る速さ、とか ガルフ:剣を振る速さは、じつは俺もお前もたいして変わらない。素振りの速さを比べてみろ アウリス:そういえば……そんなに大きな違いはない気がする ガルフ:だろ。達人と素人の一番の差。それは、間(ま)を詰める速さだ アウリス:間? それは……足、っていうこと? ガルフ:そうだ。剣を握っていると上半身の動きばかり気にしがちだが、まず差がつくのは足。脚力だ。強いやつは一瞬で相手との間を詰め、自在に遠のく。華麗な剣さばきは、腰から下の動きで決まると言ってもいい アウリス:足……。足が早くなれば、逃げやすくなりそうだね ガルフ:いいことに気がついたな。そうだ。戦場では、どうしても勝てない場面、例えば大勢の相手と一度に戦うようなことも多い。そうなったとき、逃げられるというのは大きなアドバンテージだ。足腰をつねに鍛えることを忘れるな アウリス:はい! アウリス:  アウリス:  アウリス:  0:3 家族 ガルフ:よし、いったん休憩だ アウリス:はあっ、はっ……。ふう。うん、わかった ガルフ:少しスタミナがついてきたな。いい傾向だ。愚直に練習している成果は表れてる アウリス:うん……自分でもちょっと実感してる。前は振るのがやっとだった剣も、いまは自由に操作できている気がする ガルフ:自由に、というにはまだまだだがな アウリス:ガルフに比べればね ガルフ:――食ってるか アウリス:食事? うん、なんとか。倍の量食べるのは、最初は大変だったけど ガルフ:お前の場合、倍でもまだ足りないくらいだが……ま、ひとまずいいだろ アウリス:とつぜんディナーの量を倍にしてって言ったとき、爺やはビックリしてたけどね ガルフ:ディナーは執事が作るのか アウリス:日によるけど、爺やがつくることもある ガルフ:ほう……。そういえば、国での暮らしはどうだったんだ アウリス:僕? えーっと…… ガルフ:話したくなければ、それでもいいが アウリス:あ、いや、そんなことないよ。家は町の郊外にある屋敷で、爺やと、あと何人かの使用人がいた ガルフ:家族は アウリス:父と母、妹の四人家族 ガルフ:父親は、死んだんだったな アウリス:うん。父はあのとき、僕を逃がすために時間を稼ごうとして、僕の目の前で敵国の弓兵から一斉掃射を浴びて、それで…… ガルフ:母親と、妹は アウリス:母と妹は、行方が分からないんだ。僕より先にこの国へ逃げたはずなんだけど、どこにも見つからなくて……。他の国へも捜しに行きたいんだけど、ドラクラスの兵がもう隣の国まで来ているみたいだから、難しいかもしれない ガルフ:なるほどな……。父親は、強かったのか アウリス:強いよ。勇敢な戦士だって、みんな言ってた。一対一ではだれにも負けたことがないし、戦争ではいつも自分が先陣を切ってたみたい ガルフ:ん? 貴族なのに、戦争をするのか アウリス:あっ……う、うん。父は屋敷でおとなしくしているより、外に出て国の戦いに参加するのが好きだったから ガルフ:そんなに戦いが好きな父親なのに、お前はこれまでまるで戦いには興味がなかったんだな アウリス:父にもよく言われたよ。『お前と妹が逆ならよかったのに』って。妹は父と似ていて、おてんばで小さい頃から剣を振っていたから。でも僕は剣には全然興味がなくて、将来は薬草学者になりたいと思っていたんだ ガルフ:薬草学者? アウリス:うん。身の回りに生えている花や実から、人の病気や傷を治す薬を取り出す学者。傷ついた人を一人でも多く助けられたらと思って。そういう意味では、僕は母に似たのかもしれない。母は小さいころ病弱だった僕に、よく薬草で薬をつくってくれたから ガルフ:聞けば聞くほど戦いには向かない要素が出てくるな、お前 アウリス:(自嘲気味に)そうだね。でも、父が殺されて、母も妹もいなくなってから、それだけじゃ生きられないことがわかった。自分自身が強くならないと、力をもたないといけないって。 アウリス:それは好き嫌いの問題じゃない。平和な世だったらそれでよかったのかもしれないけど、世界中で争いが起きているいまの世では、必要なことなんだって ガルフ:力、か……。うっ……ゴホッ、ゴホッ! アウリス:ガルフ? 大丈夫……? ガルフ:……ああ、大丈夫だ。なんでもない。そういや、ドラクラスはずっと領土を拡大しているな。魔物を従えてから、向かうところ敵なしだ アウリス:そうだね……。ドラクラスは軍部のクーデターで王が替わってから、ずいぶん性格が変わった。昔は穏やかな外交をしていたのに。いまは大陸の全ての国を占領するつもりみたいだ。そのためには手段を選ばない。魔物に手を出したのも、きっとそのせいだ ガルフ:やけに詳しいな アウリス:え? い、いや、そんなことないよ……。爺やに教えてもらっただけ。でも、この国は海に守られているけど、本気で攻め込まれたら、ひとたまりもないかも ガルフ:そうだな。やり方もヒドイらしい。お前のいたエルナイト国の王族も、何人かは逃げたらしいが、捕まったやつは一族郎党、皆殺しだってな。お前くらいの歳の王子もいたはずだが……容赦のないやつらだ アウリス:(唇をかむ)っ…… ガルフ:で、その戦いのあと、お前はあの執事と逃げてきたってわけだ アウリス:……うん ガルフ:執事のほかは、何人いたんだ アウリス:五人 ガルフ:護衛は? アウリス:えと……みんなうちの使用人 ガルフ:使用人? ひとりも戦えるやつがいないのか。それでよく逃げてこられたな。敵兵に遭ったんだろ アウリス:あ、う、うん…… ガルフ:そういえば、どうやって敵兵を斬ったんだ。まだ詳しく聞いていなかった アウリス:どうやって、っていっても……あのときは、無我夢中だったから ガルフ:貴重な経験だ。思い出せ アウリス:うーん……相手が斬りかかってきたから、避けるためにしゃがんで、そのまま前に剣を振ったような―― ガルフ:やってみろ。俺が敵兵だ アウリス:うん。斬りかかってきたのを……ここでしゃがんで……こう斬った、と思う ガルフ:……なるほど。なぜド素人のお前が敵兵に勝てたか、教えてやろうか アウリス:えっ? ガルフ:お前は剣を避けるためにしゃがんだと言ったが、相手にとってみれば、それは視界から一瞬消える動作だ アウリス:視界から、消える……? ガルフ:普通なら後ろへ避けるところを、ド素人のお前は急にかがみながら前に踏み込んで間合いを詰めた。すると相手は一瞬、お前の姿を見失う。お前の背が低いから成立する、みごとな技だ アウリス:そんなすごいことを……僕はしてたの……? ガルフ:(笑い)偶然だ。百パーセント。だが深くしゃがみながら前に飛び出す動作は、お前の背の低さを活かしたいい攻撃だ。これからも有効に使え アウリス:うん。ありがとう、ガルフ ガルフ:よし。そろそろ練習を再開するぞ アウリス:【語り】それから、ガルフの講義は続いた。 アウリス:  アウリス:  アウリス:  0:4 剣の講義 応用 ガルフ:剣を構えたとき、相手のどこを見ている? アウリス:えと……顔、かな。目の動き、とか ガルフ:なら、相手がこっそり腕を上げたり、足を運んだりしたら、それは見ないわけだな アウリス:いや、そういうわけじゃないけど……。腕を上げたらそっちを見るし、足を動かしたらそっちを見る、かな…… ガルフ:――例えば、見晴らしのいいところから遠くの山を見るとき、お前はどこを見る アウリス:山全体、だね ガルフ:そうだ。そのイメージで、相手を見るんだ。人間は、動くところに何かと目がいきがちだ。だが戦いでそれをやると、大事なものを見逃す。どこか一点に集中するんじゃなく、遠くの山を見るように、相手全体を眺めるようにして見る。そうすることで、初めて相手の動きが把握できる。目の動きだけ見ていても分からない。腕のいい剣士は、視線をフェイントに使ったりするからな アウリス:そうなの? わかった。気をつける アウリス:  アウリス:  アウリス:  ガルフ:一人で多くの相手と戦うときのやり方を教える。戦場ではよくある場面だ アウリス:うん。僕もずっと気になってた。大勢の相手を一気になぎ倒すような技を知りたかったんだ ガルフ:よし。一対多の戦いで大事なことは、なんだ アウリス:どこから敵の攻撃が来るのか、全員の動きを把握して―― ガルフ:それで アウリス:もし二人がかりできたら、片方の攻撃に注意を払いつつ、もう片方の敵に斬りつけて―― ガルフ:全然ダメ アウリス:えっ? ガルフ:お前の腕は何本あるんだ。二本の腕で、四本の腕をどうやってさばくつもりだ アウリス:それは……これからガルフが教えてくれるんじゃ…… ガルフ:そんなやり方知らねえよ。俺が教えてほしいわ アウリス:じゃあ、どうするの……? ガルフ:答えは簡単。一目散に逃げろ アウリス:逃げる? ガルフ:そうだ。一人で三人も四人も相手にするのは無謀。だれでもわかるだろ。そのために、お前の足腰を鍛えたんだからな アウリス:でも、逃げてもずっと追いかけられたら―― ガルフ:ただ逃げるだけじゃない。一対一の状況をつくるために、逃げるんだ アウリス:一対一? どうやって……? ガルフ:逃げ始めると当然、敵は追いかけてくる。だが敵はみんな同様に追いかけてくるんじゃない。足の速いやつから順番に追いつく アウリス:あっ…… ガルフ:そうなったところで、例えば角を曲がったところに潜む。先頭の敵がやってきたらその一人に襲いかかる。そしてまた逃げる。これをくり返せば、一対多を、一対一の複数回にできる。戦場でもそう。基本は一対一のくり返し。それ以上の条件で相手に勝負させないことが大切だ アウリス:そうか……逃げることって、そういうことにも使えるんだね ガルフ:逃げることは勝つための手段だ。もちろん勝てないときの、負けないための手段でもあるがな アウリス:うん。わかった アウリス:  アウリス:  アウリス:  ガルフ:今日は戦うときの気の持ち方について教える アウリス:気の持ち方……。どういう気持ちで相手に立ち向かうか、っていうこと? ガルフ:それもあるが、いまから教えるのは戦闘でなってはいけない気持ちの方だ アウリス:なってはいけない……。恐怖とか? ガルフ:そう。他に何がある アウリス:えと…… ガルフ:例えば、相手が自分より圧倒的に速かったり、剣さばきが段違いだと分かった瞬間、どう感じる アウリス:戸惑う、と思う ガルフ:それだ。惑い。あと、そうした相手に対して、自分から仕掛けていこうとするときは アウリス:……自信が、無くなると思う。普通に戦っても、自分の剣が通用しないような気がして ガルフ:それ。自分の力を疑うこと。あとは、そうだな。相手が大人数で、全員が同じ背格好、実力だった場合 アウリス:……誰から戦うか迷う、かな ガルフ:迷い、だな。いま話した『恐れ 惑い 疑い 迷い』が、戦いのときに一番陥ってはいけない心の状態だ。それをまとめて四つの戒め、『四戒(しかい)』と呼ぶ アウリス:四戒…… ガルフ:戦場ではわずかな悩みが致命傷になりかねない。相手がいかに強くても、自分なりの冷静な判断とそれに基づいた行動をとるしか、生きる道はない。恐れたり迷ったりしているヒマはないんだ。心に留めておけ アウリス:うん! アウリス:  アウリス:  アウリス:  0:5 酒場 アウリス:うわー……すごい。これが町の酒場…… ガルフ:貴族のおぼっちゃまには、なじまないところだろうがな アウリス:ううん。一度こういうところに来てみたかったんだ。うわ、人がたくさん……。それに、にぎやかだね ガルフ:一般市民にとってはここが癒しと憂さ晴らしの空間だからな。で、なに飲む アウリス:僕はホットミルク ガルフ:(ずこっ)酒じゃねえのかよ……。お前もう成人だろ アウリス:この国ではね。でも僕の国では成人は十八歳以上だから ガルフ:郷に入れば郷に従え。この国にいるんなら、この国のしきたりに従うのが道理だろ アウリス:でも僕は、剣の腕を早く身につけたいし、そのために一日でも体を壊したくないんだ。それに、ミルクは体にいいからね ガルフ:体ね……。ま、俺に注意する資格はねえか。(店員に)おい、ラムとホットミルク。あと、エビとキノコのオイル煮 ガルフ:  ガルフ:  ガルフ:  アウリス:あ、おいしいこれ! ガルフ:おい、乾杯する前に食うなよ アウリス:でも、いつもたくさん食べてるから、お腹が減っちゃって…… ガルフ:――きたぞ、ミルク。ほら。乾杯 アウリス:乾杯! ガルフ:なんかテンション高くないか、今日 アウリス:うん。こんなにたくさんの人が、みんな笑顔になってる場所に来たのは初めてだから……。屋敷に客を招いて食事をする機会はあるけど、ここにいる人たちは、なんだかみんな、心から笑っている気がする ガルフ:屋敷の貴族らは、そうじゃないってか アウリス:食事をしても、形式的なものばかりだからね ガルフ:ふーん。お前の父親は、酒を飲んだのか アウリス:飲むよ。ときどきだけど、飲むときはたくさん ガルフ:へえ。じゃあお前にも大酒飲みの資質があるってわけだ アウリス:えっ? それは、どうか分からないけど……。母は全く飲まないし…… ガルフ:フフ…… アウリス:え、なに? どうして笑ってるの? ガルフ:いや、お前は以前、自分のことを、母親に似てると言ったな アウリス:うん。いまもそう思ってる。僕には父のような勇敢さも、力強さもないから ガルフ:だがいままでのお前の成長は、俺が教えてきたどんなやつらよりも早い アウリス:えっ、そうなの……? そんな、ウソつかなくてもいいよ。僕なんて、いままで剣に興味、全然なかったんだから ガルフ:ウソついているように見えるか アウリス:……視線をそらしてない。本当だ ガルフ:ハッ。――マジメな話、ウソじゃねえよ。お前は俺が驚くくらいの速さで成長してる。剣の扱いも、体力もな アウリス:それは、ガルフの教え方がいいからだよ ガルフ:いくら教える方が教えても、受け取る方に資質がなかったら、そこまで伸びねえよ。お前は父親譲りの剣の資質がある アウリス:僕が……父の……? ガルフ:いくら必要に迫られたからって、俺の指示通り全てをこなして鍛えるなんて普通のやつはしない。剣に興味がないのなら、どこかで何かと理由をつけてサボるもんさ アウリス:そう、なの……? ガルフ:それにお前、俺に言われた以上のこと、やってるだろ アウリス:えっ。それは、その…… ガルフ:別に隠すことじゃねえだろ アウリス:う、うん。ガルフとの練習が終わった後、復習したいから家の裏で剣を振ってる。ときどき、爺やにも相手してもらったりして ガルフ:本当に剣に興味のないやつが、自分からそんなことするか? お前は、剣を振るうことが好きなんだよ アウリス:僕が……? ガルフ:父親への憧れとか、心のどこかにあったんじゃないか アウリス:……。そう、なのかも。僕は父のことが好きだったし、でも父の期待に応えられないことが、つらいとも思っていた、から。どこかで、自分にはできないとブレーキをかけていた部分が、あったかもしれない ガルフ:もっと自信を持て。謙虚なのはいいことだが、自己評価をいたずらに下げれば、自分の才能を見誤る。お前、剣の才能あるよ アウリス:――うん。ガルフ、ありがとう。いまの言葉、すごくうれしい。僕、ガルフのこと、大好きだよ ガルフ:なに愛の告白みたいに言ってんだよ。やめろ アウリス:あっ、そ、そうだね。そういえば……ごめん ガルフ:顔を赤らめるな。よけい本気に聞こえるだろ…… アウリス:あ、ガルフ、初めて僕から視線をそらした ガルフ:うっせえ。ったく…… アウリス:ねえ、ラムっておいしいの? ガルフ:飲むか? アウリス:あ……ち、ちょっとだけ ガルフ:ほらよ アウリス:…………うっ、お酒臭い ガルフ:あたりまえだ。酒だからな アウリス:こんなものよく飲めるね ガルフ:アウリスが大人になりゃ、分かるさ アウリス:あ ガルフ:ん? アウリス:僕のこと、初めてアウリスって呼んでくれた……! ガルフ:なんだ、そんなことかよ……だから目を輝かせるな! アウリス:だっていままでずっと『お前』だったから……! 僕、ガルフと会って初めて他人に『お前』って呼ばれたから、ずっと怖かったんだ…… ガルフ:ほんと温室育ちだな、お前は アウリス:あっ……(落ちこむ) ガルフ:落ちこむなよ! わかったわかった! ほんと温室育ちだな、アウリスは アウリス:ありがと! でもふだんは:お前でいいよ。もう慣れちゃったし ガルフ:こいつなんで今日はこんな饒舌(じょうぜつ)なんだ…… アウリス:あ、そうだ。僕、前からガルフに聞きたかったことがあったんだ ガルフ:なんだ アウリス:ガルフが:神殺しの傭兵って呼ばれるようになった理由。爺やから少しだけ聞いたけど、ガルフって、どんな剣士だったの。いままでガルフがどんなふうに剣を学んで、どうやって有名になったかなって。あ、ガルフの家族のことも聞きたいな。それから―― ガルフ:(表情が険しくなる)………… アウリス:ガルフ……? 僕、なにか気にさわるようなこと言った……? ガルフ:――いや。お前は悪くない。ただ……おもしろくもない話だ。聞くだけ無駄だろと思ってな アウリス:……それでも、聞きたい。僕、ガルフのこと、全然知らないから……。ガルフから飲みに行こうって誘われたとき、僕、すごくうれしかったんだ。ガルフが僕のこと、少しだけでも知りたいと思ってくれたのかなと思って。だから僕もガルフのこと、知りたい ガルフ:…………。  俺はみなしごだった。両親は戦争で殺されたって聞いたが、それも本当かはわからん アウリス:えっ…… ガルフ:教会の孤児院で過ごしたが、そこは毎日牧師の暴力がひどくてな。俺は十歳のころ仲間とともにそこを抜け出して、自分たちで生活するようになった。窃盗、強盗、ヤク売り。食うための犯罪はひととおりやったな。その流れで、人も殺した。女子供も無抵抗の人間も、手にかけた。お前の信じてる:神殺しの傭兵像が体のいいウワサだって言ったのは、そういうことだ アウリス:…… ガルフ:だが、こんな生活続けても、小さな人生で終わる。そう思って俺は、傭兵稼業をやることにした。結局、頼れるのは己の力だけだったからな。若いときは、そこで名声を得てなり上がろうと、そんなことばかり考えていた。それからは、ずっとどこかの戦場を追い求めていった。マルト宗教国の内戦とか、アルトゥール戦争とか。大陸中央で始まった三つ巴の戦争……あれはなんていったか アウリス:アッサムの砂漠戦だね ガルフ:よく知ってるな アウリス:え? い、いや、たまたま ガルフ:ふーん……。 ガルフ:俺は、自分がどうすれば強くなるか――戦場で勝ち続け、生き残れるかを追求していった。そのうち、どんな戦場でもこいつがいれば勝てると言われるくらい有名になった。報酬もはね上がった。傭兵なんかしなくても食っていけるくらいにな。だが俺にとっては、戦場だけが自分の生きる場所だった。傭兵を辞められなかったのさ アウリス:それだけの戦場をくぐりぬけて……。よく、生き残れたね ガルフ:たまたまだ。臆病で、運がよかっただけだ アウリス:臆病? ガルフが? ガルフ:臆病だから生き残れた。つねに最悪のケースを想定していた。死の恐怖におびえていたな。それを忘れるために――。 ガルフ:――酒が入り過ぎたな。ま、それで神すら倒せるんじゃないかっていうウワサで:神殺しの傭兵なんて呼ばれるようになったわけだ アウリス:そう、なんだ ガルフ:幻滅したか アウリス:なぜ? ガルフ:ん? 俺は、お前が思っているような、立派な人間じゃないってことさ。女子供にも手をかけた―― アウリス:でもそれは、子どものときの話でしょ。傭兵になってからは、手にかけてない。いまがそうじゃないなら、僕はいまのガルフを信じるよ ガルフ:お前はほんとにお人よしだな アウリス:そうかな。人を疑ってかかりたくないからだよ。『自分から信じないと、相手からも信じてもらえない』。これは、僕の国の古い伝承だけどね ガルフ:フン。だからお前の国は滅んだんだろうな。バカ正直すぎて、隣国の裏切りにも気づかなかった アウリス:フェルタ魔法国のこと? そうだね。まさかドラクラスと組んで、エルナイトに攻めてくるとは思わなかった。父も最後まで、フェルタのことを信じていたから。ショックを受けていたと思う。(自嘲)今日は不思議だね。なんでも話せる気がする ガルフ:そりゃお前、酒を飲んでるからな アウリス:飲んでるのはガルフだけだよ。 ガルフ:いや? お前のホットミルクには、ラムが入ってるぞ アウリス:ふーん……え? えええっ!? ガルフ:この店でノンアルコールなんてお子様な飲み物があるかよ。ミルクにだって当然、酒が入ってる アウリス:どうりでさっきから体がポカポカすると思った…… ガルフ:だから、なんでも話していいんだよ。そのための酒だ アウリス:(逡巡するように)……。ガルフ ガルフ:なんだ アウリス:僕は、やっぱり優し過ぎるのかな。人と戦うのに ガルフ:少なくともお前の信念は、どう考えても戦いには向いていないな。根が平和主義者だろ。誰も傷つけたくない アウリス:うん。だから――こうしてガルフに剣を習って、成長してるって褒めてもらっても、いざ戦争になったとき、相手と戦えるのかどうか、自信がないんだ。技術的なことじゃなくて、気持ち的に。僕にそれだけの覚悟があるのかどうか、いまだにわからない。結局、僕は戦いが嫌いだから…… ガルフ:ひとつ聞くが、お前があの日――敵兵を斬ったとき、自分が逃げるためだけに相手を斬ったのか アウリス:えっ? ガルフ:剣を握ったこともない平和主義者のお前が、どうしてそのとき、剣を抜く決断をしたんだ アウリス:それは、その……。じつは、町の人が、敵兵に襲われていたから……。たぶんその人たちも、逃げる途中だったんだと思う。母親と、子どもだった ガルフ:――なるほど。そんな場面に出くわしたお前は、逃げる途中だったのにも関わらず、その母と子を助けようとして剣を抜いた、と アウリス:そう、だね ガルフ:ならそれこそが、お前が人を斬る理由だ。お前の優しさは、ただ平和な世を願うだけのものじゃない。力にもなりうる。自分の優しさを『誰かを守るため』という力を変えることだな アウリス:それは、本当に正しいことなんだろうか ガルフ:正しいか正しくないかは、お前の決めることじゃない。のちの歴史学者だかそこいらの連中が決めることだ。お前は、自分が正しいと信じたことをやるしかない アウリス:うん……(ミルクを飲む)あ、なんかぼーっとしてきた。だいぶ酔ってきたかも ガルフ:おいおい アウリス:いますごくいい気分。フフッ。ふわ……なんだか眠くなってきた ガルフ:お、おいおい アウリス:僕、ね。ガルフ。僕――ガルフみたいに強くなりたい。ガルフは僕の尊敬する、立派な大人だから。 アウリス:スー……… ガルフ:おい。アウリス。おい。ちっ。寝ちまいやがった。ってか、こいつのミルクに酒混ぜたなんて、ウソなんだがな。なんで酔ってんだこいつ。暗示にかかりやすいやつだな……。 ガルフ:――立派な大人、か。こいつの幻想が、いつまで続くかな。 ガルフ:(店員に)よう、勘定してくれ ガルフ:  ガルフ:  (ガルフ、客に声を掛けられる) ガルフ:  ガルフ:あ? ――なんだ、お前か。なんだよ。いまこのガキと飲んでんだよ。 ガルフ:え? 例の件? ああ、こいつじゃねえよ。そんな重要人物が、こんな無防備なわけねえだろ。 ガルフ:……分かってる。いま捜してるから、焦らず待ってろって ガルフ:  ガルフ:  (客が去る) ガルフ:  ガルフ:ちっ。あいつら、ことあるごとに俺を監視してるな……うっ、ゴホッ……ゴホッ! ガルフ:(手についた血を見る)フン。俺の体もいつまでもつか。くそっ…… 0:6 別れ ガルフ:――今日で最後だな アウリス:うん。ガルフ。この一年間、ありがとう。僕、ガルフに出会えて、本当によかったと思ってる ガルフ:お前は本当に成長したな。一年前とは大違いだ。いまのお前の技術があれば、とりあえずの戦いは耐えられる。あとは、それをどう使うか、だ アウリス:うん。ありがとう、ガルフ。僕はまだ不安だけど、今日まで教えてくれたことを、これから活かしていくよ ガルフ:……そうだな。とにかく、お前とは今日でお別れだ アウリス:うん。その話なんだけど…… ガルフ:ん? アウリス:ガルフ、これからは僕の傭兵に、なってくれないかな ガルフ:……傭兵? なんだよそれ。お前の家の警備とかか? そんなもの、俺のガラじゃねえぞ アウリス:ううん。そうじゃなくて――。僕はこれから、この島国、トレサ海洋国の軍と一緒に、すぐそばまで迫っているドラクラス軍との戦いに、打って出ようと思ってるんだ ガルフ:……なに? ちょっと待て。なに言ってんだお前。打って出る? お前、この国に逃げてきたエルナイトの貴族だろ。それがこの国の軍とともに、戦争する? アウリス:……いままで黙っててごめん、ガルフ。じつは僕――騎士国家エルナイトの、第一王子なんだ ガルフ:王子……? アウリス:驚くよね。でも、本当なんだ。ドラクラスとフェルタに国を滅ぼされ、そこから逃げてきた。配下の親衛隊といっしょに ガルフ:親衛隊……。使用人じゃなかったのか。じゃあお前が人を斬ったって話は? アウリス:あれは本当。出遭った敵は二人じゃなくて、一個小隊――十数人はいた。だから親衛隊は相手の兵にかかりきりで、僕はひとりでその戦いを切り抜けようとして――たまたま遭遇したのが、ガルフに話したあの場面なんだ ガルフ:アウリスが、エルナイトの王子…… アウリス:うん。僕の本当の名前は、アウレリウス=エル=シェスタ。ドラクラス軍の、一番の賞金首だよ ガルフ:たしかに思いあたるふしはあったが……まさか本当にそうだとはな アウリス:でも僕の手勢は、親衛隊だけなんだ。他にはなにもない。この国の軍といっしょに攻め込むけど、正直、勝てるかどうかはわからない。そこに『神殺しの傭兵』ガルフが加わってくれれば、この上ない戦力なんだ。ぜひ、僕の力になってほしい ガルフ:俺の名声を利用したいか アウリス:そうじゃない。僕は本気で、ガルフに助けてほしいんだ。僕は、エルナイトの再興を目指してる。ドラクラス軍に滅ぼされた、自分の国を。これから幾度も辛い戦いが待っていると思う。でもガルフがいてくれれば、僕は心強い。本当は、ガルフには僕の軍に入ってほしい。でもガルフはそういうの、嫌いだろうから。傭兵として、ガルフにきてほしいと思ってる。そうだ、これ…… ガルフ:……これは アウリス:僕の父の剣。ほら、練習の最初に見せたでしょ。この剣のことを、ガルフは認めてくれていたから――この剣を、ガルフにあげるよ ガルフ:……いらねえよ アウリス:えっ ガルフ:もう使用済みだろ、その剣。どのくらい傷んでいるか分からねえものを、使いたくはねえ アウリス:そう…… ガルフ:それに、いまの俺にできる返事は、ノーしかない アウリス:えっ……。傭兵に、なってくれないっていうこと……? ガルフ:そうだな アウリス:どうして……? ガルフ:答えは簡単。いまから俺が、お前を殺すからだ アウリス:――えっ。ガルフ、いまなんて……? ガルフ:聞こえなかったか。いま、俺の目の前にいるエルナイトの王子の首をもらう。そう言ってる アウリス:……うそ……。うそでしょガルフ……また冗談―― ガルフ:そらっ!!(ガルフが剣を抜いてアウリスに斬りかかる) アウリス:うわっ!? ガルフ:ふん。うまく避けたな。 アウリス:――いまの、避けなかったら、僕の首が飛んでいた……。まさか、ガルフは本気で僕を……。どうして……どうしてだよガルフ……! ガルフ:依頼を受けていたからだ。お前の執事に会うずっと前からな。この国に逃げ込んだエルナイトの王子を捜し出し、始末すること。ドラクラス一の賞金首なんだろ。報酬は莫大だ。その金があれば、俺は余生を不自由なく過ごせる アウリス:そんな……そんな! ガルフ:十中八九、お前がエルナイトの王子だってことは分かっていたさ。いつでも殺せた。いつでもな。だが最後の確信が持てなかった。今日、お前にカマをかけて、王子であることを自白させようとしたんだが……まさか自分から言い出すとはな。それに、俺を傭兵として雇おうとするとか……可笑しくて吹きだすのを必死に我慢したさ アウリス:うそ……じゃあ、じゃあなんで僕に剣を教えたの? ガルフ:いまの話で理解できなかったか? 金のためだ アウリス:そんなのウソだ! 僕を捕まえて、無理やり自白させる手もあったはずだよ。でもガルフはそうしなかった。それは―― ガルフ:いちいちうるせえガキだな。そらっ!!(再び斬りつける) アウリス:くっ!(避ける) ガルフ:酒場のときの続きを話してなかったな。『神殺しの傭兵』なんて呼ばれるようになったころには、俺は全ての国から恨みを買って、どの国からもお呼びがかからなくなった。それからはこうしてときどき個人的に依頼を受けるだけになった。戦場だけが生きがいだった俺は、生きる場を失ったのさ。俺はお前の信じているような立派な男じゃない。日々の小銭を稼ぐのにあくせくしている、無気力なしがない浪人に過ぎないのさ アウリス:じゃあどうして僕に、剣の握り方を教えてくれたの。どうして僕に、戦場での戦い方を教えてくれたの。どうして僕には剣の資質があるって、褒めてくれたの――。結局僕を殺すつもりなら、金にならないことを続ける意味なんか無かったはずだよ……! ガルフ:(無視して)抜けよ、アウリス。じゃなきゃ、やられるだけだぜ アウリス:そんな……。僕、ガルフと戦いたくないよ……! ガルフ:遺言はそれだけか? アウリス:……ガルフ……。(剣を抜く)本当に……戦うしかないの……? ガルフ:ようやく剣を抜いたか。そうこなくっちゃな。さっき俺に渡そうとした父親の形見の剣で、俺と戦うのは皮肉だな。フッ。さあ、いくぞ…… アウリス:ガルフ……! ガルフ:うらぁっ! アウリス:くっ! ガルフ:おらっ! アウリス:うっ! ガルフ:そらっ! アウリス:うわっ! ガルフ:ちっ、ちょこまかと逃げやがって…… アウリス:考えろ。考えるんだ。正面からまともにやりあったら、絶対に勝てない。相手をよく見ろ。遠くの山を眺めるように―― ガルフ:(息が上がっている)っ……っ…… アウリス:――息が上がってる? いまの動きだけで……。よし…… ガルフ:おらっ! アウリス:くっ! ガルフ:おらおらっ! アウリス:はっ! ガルフ:はあっ、はぁっ……さっきから逃げ回りやがって! 捌(さば)いてるだけじゃ勝てねえぞ! アウリス:だいぶスタミナを削った……。動きも鈍ってきてる…… ガルフ:はあっ……そろそろ決着をつけないとな……。次で決める…… アウリス:でもどうして、ガルフは少しの動きだけで息が切れるんだろう。もしかして、体のどこかが――。どのみち、そこにつけこむしか、僕に勝機はない。怖い。これで本当に勝てるのか……? いや。迷いを無くすんだ。自分の力を疑うな。自分にできることを信じてやるだけだ……! ガルフ:アウリスの構えが下がってるな……。ふん……。 ガルフ:はあっ! アウリス:くっ!(しゃがみこんで前に出る) ガルフ:また逃げるのか―― ガルフ:何、いない――? アウリス:はあっ!!(ガルフの腹部を斬り込む) ガルフ:なっ!? ぐっ――!! ガルフ:がはっ……(倒れる) アウリス:はあっ、はあっ……。――ガルフ! ガルフ! 大丈夫!? しっかりして……! ガルフ:――くっ……フフッ……ヤキがまわったな。こんなガキに敗れるとは。俺の剣を捌いた直後にしゃがんで視界から消え、すぐさま横腹を斬り上げる――この国に逃げてくるとき敵兵を斬ったのと同じやり方か。だが、見事な速さだった。俺の攻撃をいなしてから斬りつけるまでの動きも速かった……。俺に最後の最後まで斬撃を見せなかったのはいい手だ。その剣でのお前の動きを、俺は見たことがなかったからな アウリス:家ではずっとこの剣で練習していたから…… ガルフ:フッ……そうか。だがその前、頭部への攻撃を誘おうと構えを下げたのは、見え見えだったがな…… アウリス:ガルフ、それを分かってて――やっぱり……僕を殺すつもりなんかなかったんだね ガルフ:殺してたさ。お前がやわな動きをしていたならな。もしそうなら、お前は一撃目で死んでる――がはっ! アウリス:しゃべらないで! すぐに白魔術師さんを呼んでくるから……! ガルフ:やめろ。魔法使いなんて信用できるか……。それにどのみち、俺はもう助からん。こんな体じゃな…… アウリス:ガルフ、やっぱり体、悪かったの……? すぐに息が上がったから…… ガルフ:フン……。言っただろ……人の尊敬を喜べるほど、俺はご立派な人生を送ってない。――それよりもアウリス、気をつけろ。力を手に入れた人間には、悪魔がささやく。俺はそれにのって、このざまさ。戦場から退いた後も、はした金のために、何百人と罪のない人間を殺してきた。それでも心のすき間を埋められず、酒、女、博打、薬――そういったものに溺(おぼ)れて、俺の体はダメになった アウリス:ガルフ…… ガルフ:剣の道を極めたつもりだったが――望んでいたものは、最後まで得られなかったな。フフッ――ゴホッ、ゴホッ……がはっ!(吐血) アウリス:ガルフ! しっかり! ガルフ……! ガルフ:――結局、『神殺しの傭兵』は、人殺しでしかなかった、ってことだ。 ガルフ:どうした。笑えよ。ここは笑うところだぜ…… ガルフ:  ガルフ:  (間) ガルフ:  アウリス:――ガルフ? そんな……。ガルフ……! 0:7 彼が残したもの アウリス:【語り】八年後 アウリス:  アウリス:  (王宮で手記を書いているアウレリウス) アウリス:  (ノックの音) アウリス:  アウリス:どうぞ。あ、ラケシス。もうそんな時間か。夢中になっていて、時がたつのを忘れてしまっていたよ。 アウリス:あはは。そんなに怒らないでよ。いくら妹でも、室内で剣をふり回されたら怖いよ。 アウリス:――ああ、これかい。戦いが終わってようやく落ち着いてきたから、私のいままでのことを記録しておこうと思って。 アウリス:うん。少し待っていてくれ。すぐ行くから アウリス:  アウリス:【語り】 アウリス:ガルフ。 アウリス:最後は私があなたの命を奪う結果になったことを思い出すたび、いまも胸が痛む。 アウリス:『神殺しの傭兵』ガルフが、なぜ私を殺さなかったのか。なぜ私に、剣を教えてくれたのか。 アウリス:望んでいたものとは、何だったのか。 アウリス:いまだに自問自答しているが、私なりの答えは―― アウリス:ガルフは、自分の剣を納める鞘を探していたのだと思う。 アウリス:そして、あなたの剣を納める鞘に私がなれなかったことを、いまだに悔いている。 アウリス:だが、ガルフが教えてくれた剣、そして最後に命懸けで教えてくれた『力の使い道』 アウリス:それが無ければ、いまの私は無かったと確信をもって言える。 アウリス:  アウリス:ありがとう。ガルフ。 アウリス:あなたが何者であろうとも、私はあなたのことを一生尊敬している。 アウリス:『神殺しの傭兵』ガルフ。 アウリス:いつまでも安らかに。 0:終