台本概要

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タイトル 棘あるサソリは夢の中
作者名 机の上の地球儀  (@tsukuenoueno)
ジャンル その他
演者人数 3人用台本(男1、女2)
時間 50 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 両親は姉と自分を捨て失踪し、育ててくれた祖父と姉も、老衰と病気で虹の橋を渡ってしまった――そんな不幸な女子高生・佐曽利 映(さそり あきら)。

――ひとりぼっちの毒サソリ。私の周りからはみんないなくなる。

天涯孤独/義理の兄/友情/女性役泣き叫び台詞有

商用・非商用利用に問わず連絡不要。
告知画像・動画の作成もお好きにどうぞ。
(その際各画像・音源の著作権等にご注意・ご配慮ください)
ただし、有料チケット販売による公演の場合は、可能ならTwitterにご一報いただけますと嬉しいです。
台本の一部を朗読・練習する配信なども問題ございません。
兼ね役OK。1人での演じ分けやアドリブ・語尾変・方言変換などもご自由に。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
182 佐曽利 映(さそり あきら)。高校生。画家の祖父が遺したお屋敷に司と一緒に暮らしている。両親に捨てられた過去がある。
70 舘島 司(たてしま つかさ)。24歳。作中触れてはないが、婿入りしたので現在は佐曽利 司(さそり つかさ)。映の姉の夫。
夢見 136 相原 夢見(あいはら ゆめみ)。高校生。施設育ち。今は養父・養母の元で幸せに暮らしている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
 :   :   :  映:(ブツブツ言いながら絵を描いている)描いたものは、現実になる。それは永久に、永遠に。描いたものは、本物になって動き出す。……そう、描かなきゃ。早く、早く早く早く……。描いたものは、現実になる。それは永久に、永遠に。描いたものは、本物になって動き出す……。違う!違う違う違うこんなんじゃない!こんなんじゃ……!  :(興奮して息切れを起こした映。その声は、段々と嗚咽混じりに変わっていく。フェードアウト)  :  司:(タイトルコール)「棘あるサソリは、夢の中」  :   :   :(場面転換。映・自宅) 映:あーもうやばい時間ない! 映:行ってきまーす。 司:は?おいおい待て待て。飯は? 映:え。私朝ごはん食べない派。 司:んだよ言えよ。普通に作っちゃったじゃん。 映:ツカサちゃんが? 司:俺が。ってかちゃん付けすんなってば。 映:ツカサちゃんはツカサちゃんでしょ。 司:妹にお兄ちゃんって呼ばれんの憧れてんだよ。 映:残念ながらその夢は叶わないね。 司:つめてーなぁ、最近の女子高生は。 映:親父くさいこと言わないでよ。 司:俺ももう24よ?そこそこ大人なの、もう。 映:変わんないよ。私とツカサちゃんとじゃ。 司:変わるよ。お前の年齢に手ェ出したら、俺刑務所行きだろ。 映:ツカサちゃんが、私に手を出すの? 司:……俺が!「女子高生に」手ぇ出したら、な!? 映:うんうん。ツカサちゃんが、私みたいな女子高生に手を出したら、ね? 司:口の減らねえクソガキめ。 映:でも良い女でしょ?惚れても良いよ。 司:はいはいソウデスネ。こんなに良い女が妹で俺ァ嬉しいよ。 映:…………。 司:昨日もずっと絵描いてて寝てないんだろ?どっかでおにぎりでもインゼリーでも、なんでも良いから買って食えよ。 映:うへぇ。 司:分かったな。んじゃ、行ってらっしゃい。 映:ん。……あ。ご飯、タッパーに詰めといてね。 司:は? 映:私の分の朝ごはん。晩御飯に食べるから。 司:……ただの目玉焼きだぞ? 映:夜が楽しみ。明日からは、ちゃんと毎朝食べるから。じゃあ行ってくるね。あ。お姉ちゃんも!行ってきまーす!  :  映:(M)玄関の写真に挨拶をして、慌ただしく扉を開ける。ツカサちゃんは、全く似合っていないエプロン姿で私を見送る。まだ数日だけど、ツカサちゃんが家にいるのは、まだ、慣れない。ツカサちゃんは、私の幼馴染み……だった人だ。 映:  映:突然だが、ここで私の身の上話を挟もう。 映:  映:「お前たちの両親は、子供を育てるには、まだ子供だった」……というのは、私のおじいちゃんの言葉だ。駆け落ち同然で家を出て私とお姉ちゃんを産んだ両親は、ある日私たちをこの家に置いて、そしてもう二度と、ここに戻って来なかった。要は、その時彼らは、実の子供たちを見捨てたのだ。おじいちゃんは、そんな両親にたいそう怒って勘当を言い渡したので、今ではどこで何をしているのか、消息はサッパリ分からない。 映:おじいちゃんは、そこそこに有名な画家だった。そろそろお迎えが来るからと言って、生前に1人で身辺整理を済ませ、私たち姉妹が大学卒業まで問題なく暮らせるだけの資産とこの家を残して、ある日ポックリと逝ってしまった。 映:  映:……そこまでは、まだ良かった。 映:  映:おじいちゃんが亡くなって暫くして、お姉ちゃんの病気が発覚した。現代医学では 、治療のしようのない奇病。iPhoneがどんなにバージョンアップしても。勝手に運転できる車が出来ても。こんなに科学が発展しても。お姉ちゃんの身体に巣食う病気には、誰も手出しができない……とのことだった。 映:  映:長い長い闘病生活が始まった。 映:  映:お姉ちゃんの綺麗な手はどんどん骨張って、目元はだんだんと窪んでいった。「覚悟をしておいてください」と、お医者様が淡々と言った。 映:ある日、口数の少なくなったお姉ちゃんが、私の名前を呼んだ。「話があるの」と。 映:「もう、永くないから、何度もお断りしたんだけど……」と。  :  司:良いでしょ。俺の夢叶えてよ。……そうだよ。俺、ユウのお婿さんになるのが、ずっと夢だったんだ。……幸せにしてね。まぁ、ユウの隣に居られるだけで、俺はずっと幸せなんだけどさ。  :  映:(M)病室のベットで、「普通逆じゃない?」と笑うお姉ちゃんは、やつれていても世界一綺麗で。 映:私はその日、初恋は叶わないということを身をもって知ったのだった。 映:2人が付き合っていたのは、何となく気付いてた。幼馴染のツカサちゃんは、お姉ちゃんと結婚して、私の本当のお兄ちゃんになった。  :   :   :   :(数ヶ月後。葬儀場) 司:アキラ……ここに居たのか。 映:ツカサちゃん……。ほら見て、綺麗な夕焼け。私ね、両親のことは好きじゃないけど、付けてもらった名前は気に入ってるんだ。ユウとアキラ。2人合わせて夕映(ゆうばえ)。……センスいいと思わない? 映:……お姉ちゃんも、夕焼けが好きだった。 司:……残りは俺がやっておくから。お前先帰れ。 映:は、なんで……。お姉ちゃんのお葬式だよ?最後までいる。 司:お前、何日寝てない? 映:……え? 司:ユウの容体が急変してからずっと寝てないだろ。嘘つくなよ、顔見りゃ分かるんだから。 映:大丈夫だよ。私おじいちゃん似なの。絵が好きなのも、集中したら何日も寝ずに絵を描いちゃうのも。……だから平気。 司:絵を描いてるんならまだいい。……でもそうじゃないだろ。昨日は家に帰る時間もあったんだから……、 映:(被せて)眠れないよ。あんな広い家で。……ひとりぼっちなのに。  :(間) 司:やっぱりお前、先帰れ。 映:だから、嫌だって! 司:お前とユウの親戚だから悪く言いたくはないけどな。これから遺産目当てのごうつくばりな親戚連中と、ちょっとやりあわなきゃいけないんだ。……それをお前に見せたくない。 映:…………。 司:それから。 司:これからあのでっけー屋敷に、女子高生と20代の若造が一緒に住むってことを、ちゃんと納得させなきゃなんないからな。 映:……え? 司:ひとりぼっちになんかさせねーよ。だから、安心して先に帰って、部屋でもあっためとけ。  :(間) 映:……何、それ。ヒーロー気取り? 司:お、いいねえ、ヒーロー。 映:………ばか。  :  映:(M)どういう説得の仕方をしたのかは知らない。その日の夜、日付が変わってから、両手にボストンバック、背中にリュックサックを背負った私のヒーローは、屋敷中に響く声でこう言った。  :  司:ただいま!  :   :   :   :(回想終了) 映:ほんと。かっこつけだよね。 司:は?なにが? 映:べっつにー。 夢見:アッキラちゃーんっ。 映:わ!ユ、ユメ……! 夢見:んふふ。おはよ。 司:あれ、おはよう、ユメミちゃん。 映:もう。別に毎日家まで迎えに来なくて良いって。約束した角で待っててよ。 夢見:だってアキラちゃん、家出るの遅すぎなんだもん!アキラちゃん欠乏症でエネルギー切れ起こすところだったんですけど!あとどうでもいいけど、学校も遅刻しちゃいますけど! 映:いやそれはどうでも良くないでしょ!え、遅刻ってもうそんな時間?……ってか朝から近すぎ。ひっつくな、暑い。 夢見:何よぅ。アキラちゃんが遅刻しないように毎朝迎えに来てあげてるのに。少しは感謝してよね! 司:いつもありがとうね、ユメミちゃん。 映:ほんと毎朝勘弁して。 夢見:ふふー、塩対応のアキラちゃんもかーわいいっ!大好き! 映:あーもー!うざい!  :   :   :   :(同日。高校廊下) 夢見:あ!アキラちゃんの絵〜!ん〜!いつ見ても綺麗だねえ、この風景画っ。 映:移動教室の度に毎回立ち止まらなくて良いって。 夢見:だって好きなんだもん、この絵。 映:…………そ。 夢見:……絵はもう描かないの? 映:……なんで? 夢見:コンクール、しばらく出てないから。 映:あぁ。お姉ちゃんのことでドタバタしてたしね。 映:でもちゃんと描いてるよ。描きたいモチーフが出来たの。今はそれをずっと描いてる。納得いくまで……。 夢見:えっ、描いてるの? 映:うん。 夢見:そっか……良かった……もう描いてないかと思っちゃった……。 映:なんで? 夢見:なんで、って……。 映:「絵描きは絵を描くことをやめられない。それは呪いのように、毒のように、身体を蝕み離れない。洗っても洗っても、絵を描く業は絵描きの体を覆い尽くし、そして……」 夢見:えっ、なになに突然……!? 映:あれ。続き、忘れちゃった。 夢見:えええ〜!?なんか色々気になるんですけど!?何!?さっきの何の言葉!? 映:亡くなったおじいちゃんの言葉。 夢見:あぁ〜!あの画家さんだったっていう!超有名だったんでしょ?絵に興味ないうちのお父さんも知ってるくらいだもん。すごいよ。 映:おかげでアトリエが充実してて、助かる。 夢見:アキラちゃん家、アトリエ云々とかじゃなくて全体的におっきーから。THEお屋敷、って感じ。 映:ただ作りが古いだけだよ。 夢見:威厳あるよ!やっぱり由緒正しいおうちは違うなって感じ! 映:そんな歴史があるわけでもないよ。 夢見:えっ、だって珍しい苗字だし、なんかそういう格式のあるお家柄じゃ……!? 映:佐曽利(サソリ)、ね。別に漢字は普通だし。ただ組み合わせが珍しいだけだよ。 夢見:サソリ!たまぁに毒舌トゲトゲなアキラちゃんにぴったり! 映:1組の毒サソリ?安直なネーミングセンスだよね。もう少し捻りとかないもんかね? 夢見:アキラちゃんがもう少し愛想良くすればそんなあだ名一瞬で消えるよ。……まあ、でもでも!私は今のままの方がアキラちゃんを独り占めできるから良いんだけどっ! 映:ユメがなんでそんなに私のこと好きなのか分かんない。 夢見:アキラちゃんは私のヒーローだから。 映:何それ。 夢見:アキラちゃんの絵も大好き! 映:それはお祖父様様々かもね。ある程度絵を描く才能に恵まれたのも、あの家も。 夢見:家も? 映:そ。あのお屋敷はお爺ちゃんが一代で成した、お爺ちゃんのお城、ってこと。まあ、だから……そう格式ある家じゃないのよ、うち。 夢見:へー!ヤクザが住んでるって言っても納得しそうなおうちなのにね! 映:そうだねえ。おかげで色々助かってるよ。庭も広いし。 夢見:縁側も雰囲気あるよね。次の夏はあそこで花火とかしようよ! 映:次って……来年? 夢見:うん、来年! 映:来年は私、いないかもよ? 夢見:え!?なんで!?アキラちゃんどっか行っちゃうの!? 映:……いや? 映:来週のテスト勉強全然してないから。このままじゃ進級危ういかも。 夢見:え!?なんで!?放課後部活もないのに何してんの!?ハッ、まさか……!? 映:うん。絵、描いてる。 夢見:も〜〜〜!今日は放課後一緒に図書館!私の考えたヤマ、全部アキラちゃんに叩き込む! 映:え、いいよ。絵、描きたいし。 夢見:だめだめだめ絶対だーめ!来年も絶対おんなじクラスになるんだから!今日からすぐ勉強するよ! 映:ええぇ……。ユメ先生、スパルタなんだよなあ……。 夢見:アキラちゃんが普段から全然勉強しないから、時間が足りないの!嫌でもスパルタするしかないの! 映:ってか、ユメの見た目で勉強できるの、意外すぎるよね。 夢見:うるさい!好きな見た目できるように、文句言わせないために真面目に勉強してんの! 映:偉い偉い。 夢見:そう思うならもっと敬え!先生代、お昼に購買のいちごミルクだかんね! 映:へーい。  :   :   :  映:……これもダメ、これも違う……!  :(映は、手元が見えているのか疑問になるような月明かりの下で絵を描いている) 映:思い出せ。絵は自分の過去を投影する。右を向いた時の首の皮膚のつれ方は?腰を捻る時、筋肉はどう動く?瞳の虹彩は?あの時の太陽の向きは?思い出せ、思い出せ、思い出せ……!時間がない、時間がないのに……!早く、早く描き上げなきゃ、より完璧に、より本物を、早く……!  :   :   :   :(数日後。映・自宅) 映:(あくびをして)おはよ、ツカサちゃん。 司:あぁ、おはよう。何だ、ここ最近早起きだな? 映:……朝ごはん、食べないとだからね。 司:毎日朝ごはん食べようになって偉いですねえ。 映:毎日食べるって言ったからね。 司:そうか。 映:ふふ。ツカサちゃんって結構器用なのに、料理はダメダメだよね。あの時の目玉焼きだってコゲコゲでさ。 司:美味しかっただろ? 映:えー?覚えてないよ。焦げてても、目玉焼きの味なんてそう違いないでしょ。 司:いや。マジのやつは炭の味がするぞ。 映:それ本当に目玉焼き? 司:あ、ほら。遅刻するぞ。早く食べろよ。 映:へーい。いっただきまーす!……うん。美味しい。いつもありがとうね。 司:いーや。別に俺は何にも? 映:あ、放課後はユメと勉強するから遅くなる。 司:あぁ。……なるべく早く帰って来いよ? 映:うん。……ふふ。なんかお父さんみたい。……普通のお父さんがどんなんだか分かんないけど。 司:「みたい」じゃなくてそうなんだよ。俺はお前の保護者なんだから。 映:あれー?お兄ちゃんって呼ばれるのが夢なんじゃなかったの?このままじゃパパになっちゃうよ? 司:それも悪くないかもな。 映:えー。……ツカサちゃんがパパかあ。 司:うるせぇよ。良いからはよ食え。 映:へいへーい。  :   :   :   :(同日。図書室で並んで勉強をしている映と夢見) 夢見:あ、そうだ!ねぇ聞いてよアキラちゃあん!……今日ね!お昼に買ったパンがなくなっちゃったの!メロンパンとチョココロネ! 映:……どうやったらパンを失くせるの?どこかに置いてきたとか? 夢見:メロンパンは浮いて飛んでって、チョココロネは走って逃げちゃったの! 映:んんん? 夢見:メロンパンから、こうニョキっと嘴が生えてきて!手足も生えてペンギンになって、空に飛んでっちゃったの! 映:ペンギンが?空を? 夢見:で、チョココロネはチワワになって、そのまま走ってどっか行っちゃったの! 映:ちょいちょいちょーい。待って待って待って? 夢見:ん?なぁに? 映:……え。何の話? 夢見:え?ユメが今日見た、夢の話だよ? 映:……(舌打ち)夢かよ。(勉強に戻る) 夢見:……え!?今舌打ちした!?ねぇ今舌打ちしたよね!?ちょっと〜!ちゃんと聞いてよ!ユメの超大作夢物語! 映:図書室ではお静かにお願いしまーす。 夢見:わーん!まだ半分も話せてないのに! 映:ほら。ユメも手を動かす。今回、範囲広くて大変って言ってたのユメでしょ。 夢見:はぁ〜い。  :(勉強する映に不満げな夢見。彼女の目の下のクマをしばらく見つめてから、夢見が口を開く) 夢見:……アキラちゃん? 映:なに?夢の話なら聞かないよ。 夢見:アキラちゃんは、昨日どんな夢見た?  :(間) 映:……いや、見てないけど。 夢見:夜、ちゃんと寝てる? 映:寝てるよ。なんで? 夢見:………そっか。うん。ごめん。何でもない。 映:ん?……うん。 夢見:ところで。問3間違ってるよ。 映:え!?嘘ぉ!?  :   :   :   :(同日。霊園) 夢見:こんにちは。ツカサさん。 司:あれ。もう月末か。……今月はガーベラかあ。綺麗だね。毎月命日にお花ありがとう。ユメミちゃん。 夢見: (花を置いて)はい、どうぞ。今月はガーベラを持ってきました。どうです?綺麗でしょう? 司:……うん。とても綺麗だ。 夢見:今日はちょっと、真面目な話があって来ました。  :(間) 夢見:もう耳タコだとは思うんですけど。私にとってアキラちゃんってヒーローなんですよ。 司:(被せて)ヒーローなんですよ。うん。だよね。……流石にもう覚えちゃったな。いいよね、アキラとユメミちゃんの関係って。……ヒーロー、か。 夢見:私、貰われっ子だから。両親は本当に良くしてくれたけど、養子ってだけでいじめられて、不登校になったこともあったんです。転校したばかりで、知り合いがいなかったことも辛くて。 夢見:それで、クラスメイトが全員で順番にお便りとかノートとか持ってきてくれるんですけど、その中にいじめの首謀者もいるわけですよ。もう辛くて辛くて、途中から居留守使ってたんです。 夢見:そうしたらある日、何度無視しても永遠にチャイム鳴らしてくるバカがいて。その時の私、何かもうおかしくなってたんでしょうね。いつもだったら布団に潜って隠れてるところなんですけど、その日はなんか、だんだんイライラしてきて。家でこうして大人しくしてるのに、なんでこんな目に遭わなきゃなんないんだって。こっちは何も悪いことしてないのに、ふざけんなって。気付いた時には、玄関飛び出して、チャイムを鳴らしてるその子の腕掴んで怒鳴ってました。  :   :   :   :(回想開始) 夢見:ふざけんな!ピンポンピンポンピンポンピンポン!無視してんのになんなのあんた!嫌がらせも大概にしてよね! 映:……なんだ。いるじゃん。いないのかと思った。 夢見:お、思ったなら鳴らすなよ! 映:だって相原(アイハラ)さん全然学校来ないから。今日お便り当番だから、少しは話せるかなって楽しみにしてたのに。 夢見:……え? 映:私も本当の両親いないんだよね。あと、友達も。……アイハラさんとなら、もしかしたらお友達になれるかな、って思って。 夢見:私、と……? 映:明日から一緒に学校行こうよ。アイハラさん……じゃ友達っぽくないか。下の名前は……、 夢見:……ユメミ。 映:……!ユメミ!すごい、名前ぴったりだね!髪の毛ふわふわで、撫でたくなるくらい可愛い子だなって思ってたんだ! 夢見:な、撫でたい……? 映:私はアキラ!宜しくね、ユメ!  :(回想終了)  :   :   :  夢見:それが、私とアキラちゃんの出会いです。……今思うと不思議ですよね。アキラちゃん、そういう熱血タイプでもないし、人見知りなのに。…… 柄にもないことしちゃって。きっと、同じ境遇の私を見かねて、助けたいって気持ちが勝っちゃったんだろうな。アキラちゃん、優しいから。 司:そういうところあるよねえ、アキラは。 夢見:アキラちゃんのおかげで、不登校どころか、学校行くのが毎日楽しみになって。アキラちゃんに格好いいところ見せたくて、つい勉強とかも張り切っちゃって。今では親友です。……多分、アキラちゃんもそう思ってくれてると……思います。 司:そこは自信持っていいんじゃないかな。 夢見:アキラちゃん。最近寝れてないみたいです。目の下クマだらけで。……絵を、描いてるんだと思います。 司:……そうだね。気付かないふりをしているけれど、毎晩ずっと部屋にこもってるみたいだ。 夢見:ずっと、知らない、気付かないふりをしていました。アキラちゃんのそばにいれば、いさえすれば、きっといつか前を向いてくれるって思って。 司:ユメミちゃんには感謝してるよ。ずっとアキラのそばにいてくれて。 夢見:アキラちゃんの周りで不幸が続いた。それはもう、この小さな街では皆んなに知れ渡っていてる、隠しようもない事実で。 夢見:……言うまでもなく、彼女が一番傷付いてるんです。なのに、その当人であるアキラちゃんの気持ちを無視して、周りは面白おかしく、どんどんと噂を拡げていく。1度ならず2度3度……アキラちゃんの近くで不幸な偶然が重なっていく内に、より過激に、より誇張して。 夢見:ご両親だって、ただ縁を切っただけなのに、失踪して行方不明だなんて言われてるんですよ。 司:呪われたサソリの子。ひとりぼっちの毒サソリ。……彼女の周りでは不幸が起こる。誰も彼もみんな死ぬ。……人の噂なんて勝手なものだ。 夢見:私、アキラちゃんの友達だから。親友だから。だからね、ツカサさん。……もうそろそろ、良いかなあ。……良い、ですか? 司:あぁ。……あいつもそろそろ、親離れしないとな。成長期、ってやつだよ。……いや、違うかな? 夢見:ごめんなさい、ツカサさん。アキラちゃんは、過去にはあげられません。私と一緒に、未来に行きます。 司:そうだね。……それがいい。少し、寂しいけど。 夢見:……そろそろ戻らないと。……アキラちゃんを図書館で待たせてるんです。それでは。また。  :(夢見、その場から走り去る) 司:うん。またね。ユメミちゃん。……って、聞こえないか。  :   :   :   :(同日。高校図書館) 夢見:なーに見てんの? 映:お。遅いぞ、ユメ先生。何してたの? 夢見:ごめんごめん。あー、委員会が長引いて、さ。 映:ふぅん? 夢見:で?勉強しないで何読んでるの? 夢見:……その女の人の頭に乗ってんの何?ゆるキャラ? 映:女神セルケトだよ。エジプト神話の神様。生命の貴婦人。呼吸をさせる者。上に乗ってるのは……一応サソリ。 夢見:サソリ!アキラちゃんじゃん。……んん?でもこれ、本当にサソリ? 映:見えないよね。動き出して悪さされたら困るから、足や、毒針のある尻尾のない状態で描かれてるんだって。 夢見:動き出すって……絵なのに? 映:絵なのに。 映:……心を込めて描いたものは現実になるって、エジプトでは信じられていたんだって。 夢見:心を込めて描いたものは現実になる……。 映:おかしいよね。……名前がサソリだからか、うちってこういうサソリ絡みの本や資料が沢山あるの。面白いよ。私、段々サソリに詳しくなってきちゃった。 夢見:へぇ。例えば? 映:サソリって、毒があるって有名じゃない?オリオン座のオリオンも、サソリの毒で命を落としたって言われてるよね。でも実際のサソリは、そう毒の強い子たちばかりじゃないの。意外と大したことないんだ、ほとんどのサソリって。……思ったより、弱い子が多いの。 映:ただ厄介なのは、毒の強さがその見た目からは分かりづらい、ってこと。 映:いかにも強そうな、ドス黒くて大きなサソリの毒が意外としょぼかったり、反対にいかにも無害そうなおチビちゃんが、えげつない痛みを伴う猛毒を持っていたりする。 夢見:なるほど……? 夢見:あからさまに泣いてアピールする子より、毅然と涙を堪えている人の方が、精神的にダメージ負ってる……みたいな? 映:(笑って)まあそんな感じかも。 映:とはいえ、人間みたいな大型の哺乳類を即死させるような毒を持ってる子はレア中のレアだけどね。日本なら、蜂の方がよっぽど人を殺している。それなのに、サソリのイメージは一般的にはダークサイド。凶暴で戦闘的、何かを企んでいるような闇と狂気を秘めている。いわゆる悪役ポジ。 夢見:んー、まあ。ミステリアスな感じはする?かな? 映:とある国では、「略奪者(りゃくだつしゃ)」とも言われてる。人の幸せを奪い取る奪略犯(だつりゃくはん)。……不幸の死者。 夢見:…………。 映:私みたい、でしょ。 夢見:アキラちゃん……。 映:ひとりぼっちの毒サソリ。私の周りからはみんないなくなる。……何かしらの不幸で。 夢見:アキラちゃん!怒るよ……!  :(間) 映:…………ごめん。  :(間) 夢見:あ〜っもう!ほら! 映:え、なに。 夢見:ん!撫でていいよ。ほら! 映:え、ちょ、なに。ユメ、重いって。 夢見:あー、アキラちゃんの膝枕!さいっこー! 映:何なのよ、あんた……。 夢見:昔、触りたいって言ってたじゃん。ふわふわで撫でたくなるって。だから、はい。撫でて良いよ。 映:は?いつ? 夢見:出会った時。……覚えてない? 映:そんなこと、言ったっけ……。 夢見:ペット撫でるのって、ストレス値をかなり軽減するらしいよ。 映:いや、ユメは私のペットじゃないし……。 夢見:私、アキラちゃんのペットになりたいなー。 映:馬鹿なの?やだよ。 夢見:……えー? 映:ペットじゃ、私より早く死んじゃうじゃん。  :(間) 夢見:ふふ。何それ。 映:一緒がいいよ。  :(間) 夢見:……うん。 映:一緒がいい。どんな時も。 夢見:うん。 映:置いてかないで。 夢見:置いてかないよ。 映:1人にしないで。 夢見:しないよ。  :(間) 夢見:……ねえ。私、いいペットになれると思うんだ。先に死んだり、絶対しないよ? 映:……ちゃんと待てとか出来る? 夢見:んー、頑張る。トイレも汚さないし、普通の犬よりはいいこだよ。 映:餌もちゃんと1人で食べられる? 夢見:寂しい時は一緒に食べて欲しいかなあ。 映:……ぷっ。可愛いね。 夢見:でしょ?  :(間) 映:良いかもね。 夢見:え? 映:私とあんた。ご主人様とペットみたいに、ずーっとこうして過ごすの。 夢見:うん。良いよ、きっと。  :(間) 夢見:ね、だからさ。アキラちゃん、そろそろ……、 映:でも、ユメ。ツカサちゃんとも仲良くしてよね。 夢見:……え? 映:ほら、あんたがわたしのこと好きすぎるのは、もうよーく分かってるけど。でもたまにツカサちゃんのこと無視するでしょ?あれやめな。失礼だよ。仮にも私の保護者なんだから。  :(間) 映:ユメ? 夢見:……無視、してないよ。 映:え? 夢見:無視なんて、してない。ううん。できないもん。 映:……いや、してるじゃん。嫉妬してるのか何なのか知らないけど、毎朝ツカサちゃんの挨拶に返事しないの、私気付いてる(んだから)……、 夢見:(被せて)無視なんてできるわけないじゃん!だって!……だって、ツカサさんはもういないんだから! 映:……は?  :(間) 映:何、言って……。だって、え?そんなわけ……あれ?待って、やだ、やめて。ユメ、ちょっと待って、お願……、 夢見:いないんだよ!死んでるんだよ、ツカサさんは!1年前に、もう……!  :(間) 映:嫌、いや、やだ、やめて、やだ……っ! 夢見:アキラちゃん……! 映:触らないで!……ぁ。ご、ごめ……。ごめん……!(走って教室から飛び出して行く) 夢見:アキラちゃん、待って……!アキラちゃん!  :   :   :   :(映が走る息だけが響く) 映:そんなわけない。そんなわけない。そんなわけない……!だって、私は毎朝、ツカサちゃんとご飯を食べて、それで……!  :(家に靴のまま上がり、一直線に冷蔵庫に向かった映は、冷凍庫の奥に大事に置かれた皿を見つけて、その場に倒れ込む) 映:……コゲコゲの目玉焼き……。何で?何でこれが冷凍庫にあるの?なんで……。はは、凍って霜だらけで、もう何がなんだか分かんなくなってる……。これじゃもう、食べられないや……。 映:……あれ?待って私、なんで一直線に冷凍庫なんて確認して……。 映:そう、そうだ……。私、知ってた。分かってた。だって……。 司:(回想)あぁ、おはよう。何だ、ここ最近早起きだな? 映:そりゃそうだよ。だって、最近はずっと朝まで絵を描いてるから。「ツカサちゃん」を描かないといけないから。私、ずっと寝てないんだもん。 司:(回想)毎日朝ごはん食べるようになって偉いですねえ。 映:あの時ツカサちゃんにそう言ったじゃん。毎朝食べる、って。言ったから、だからちゃんと守らなきゃって思って……。 司:(回想)美味しかっただろ?俺の目玉焼き。 映:覚えてないよ。ってか分かんないよ。私、あの目玉焼き、食べられなかったんだもん……。 映:だってあの日、ツカサちゃんは……! 司:(回想)あ、ほら。遅刻するぞ。早く食べろよ。 映:(回想)へーい。いっただきまーす!……うん。美味しい。いつもありがとうね。 司:(回想)いーや。別に俺は何にも? 映:……そうだ。そうだよね。ツカサちゃんはもうご飯を作ってくれたりしない。何にもしてくれない。私が作って私が食べるから、目玉焼きは焦げないし、味も普通に美味しい。だってもう、ツカサちゃんはいないから。 映:ツカサちゃんは、あの日死んじゃったから。私に初めて目玉焼きを作ってくれたあの日、お姉ちゃんの葬儀が終わって、私と暮らし始めてすぐ、車に轢かれて死んじゃったから。  :     :   :  司:……アキラ。  :(間) 映:……今見えてるツカサちゃんは、私の作り出した幻? 司:どうかな。 映:ツカサちゃんは、もう、どこにもいないの? 司:…………。 映:何とか言ってよ!私の妄想じゃないなら!幻じゃないなら!何とか言ってよ!言えよ!なんで……! 映:(M)私には、絵を描くことしか出来ないから。忘れたくなくて、記憶から溢したくなくて。私は必死に絵を描いた。 映:ひとりぼっちの毒サソリ。私と一緒にいると不幸になる。……そんな現実から逃げたくて。ツカサちゃんの死から目を背けたくて。 映:描いて、描いて、描いて、描いて。 司:アキラ。 映:(M)そうしていつからか、私にはツカサちゃんが、「見える」ようになっていた。  :   :   :   :(夢見、息を切らして家に入ってくる) 夢見:アキラちゃん……! 夢見:あ、え……?何、これ……。全部……ツカサさんの、絵? 映:ユメ……。 夢見:アキラちゃん、ごめん。私、アキラちゃんの気持ち考えずに爆発しちゃって……でも私、アキラちゃんに前を向いて欲しくて……!  :(間) 夢見:何、してるの……? 映:絵、描いてるの。 夢見:何、描いてるの。 映:ツカサちゃんに決まってるでしょ。 夢見:アキラちゃん……。 映:描かなきゃ……完璧に、よりリアルに。 夢見:アキラちゃん、もうやめてよ……。 映:描かなきゃいけないの!早く!忘れない内に、魂込めて、本物のツカサちゃんを……! 夢見:何言って……、 映:心を込めたら、現実になる。……足りないから幻なんだよ。ちゃんと描いたら、ツカサちゃんは本物になって戻ってくる。おじいちゃんも言ってたもん。画家は描くしかないの。描くしかできないんだから。だから、だから描かなきゃ……、 夢見:アキラちゃんのすっとこどっこい!(平手打ち) 映:いった……!え、何?すっとこどっこ?……え? 夢見:バカ!バカバカバカバカバカ!アキラちゃんのおたんこなす!現実から目を背けて何やってんの、ねぇなにやってんの! 夢見:私がいるじゃん!生きてる人間がこうして目の前にいるのに、私がいるのに!なんで!?アキラちゃんは……アキラちゃんはすぐツカサさんと……過去と心中しようとする!ねぇなんで!なんでよぉ! 映:ユ、メ……。 夢見:私は生きてるじゃん! 映:へ……? 夢見:アキラちゃんは優しいから。自分のせいで周りが不幸になるかもって。だからみんな死んじゃったのかもって。本当にそう思っちゃって、自分のこと責めちゃってるんだろうけど! 夢見:……ほら!ちゃんと見て!触って!(映の手を掴んで自分の心臓に待って行く) 映:ぁ……! 夢見:どう!?心臓!動いてるよね!どくんどくん、って。動いてるよね!?動いてるってことは生きてるよね!私生きてるよ!毎日幸せだよ!アキラちゃんのおかげで学校楽しいよ!ほら! 映:ユメ……。  :(間) 夢見:私、不幸になってないよ。 映:うん……。 夢見:これからもならないよ。 映:うん……。 夢見:ずっと一緒にいるよ。 映:うん……。 夢見:1人にしないよ。 映:……それ……ツカサちゃんも言ってた。 夢見:ぶわぁ〜か!あんな嘘つきと一緒にしないでよ!私は天変地異が起きて世界が滅んでも、隕石落っこちて氷河期が始まっても、ずーっとしぶとく生き続けてやるんだから! 映:(思わず苦笑して)なにそれ。 夢見:あ、笑った。ふふ。  :(間) 映:ユメ? 夢見:ん? 映:……ありがとう。 夢見:(映をぎゅっとして)大丈夫だよ。私が、アキラちゃんは幸せの使者だって証明し続けてあげる。 映:……うん。 夢見:大好きだよ。アキラちゃん。 映:ふふ。知ってる。  :   :   :   :(数日後。映・自宅 庭) 映:よいしょ、っと。……うん。こんなもんかな。 映:……ツカサちゃんって、ほんとバカだよね。財産目当てだなんだって散々陰口叩かれて。本人はその財産に1円たりとも手をつけずに、血も繋がらない女子高生育てるために色々頑張って準備して、さー。それなのに死んじゃうんだもん。 司:……悲しませるつもりは、なかったんだけどね。 映:なんで……? 司:え? 映:なんで私を1人にしたの……? 司:……それは………、 映:ひとりぼっちにしないって言ったのに。嘘つき。 司:……ごめん。 映:ツカサちゃんの声、もう全く聞こえないや。幻だったのか、お化けだったのか……どっちだろね。もし心配でうろちょろしてるなら、早くお姉ちゃんのとこ行きなよ。きっと心配してるから。 司:……そうか。聞こえて、ないのか。俺の声。 映:今まで、心配かけて、ごめんね。 司:…………。 映:大好きだったよ、ツカサちゃん。 司:見えないなら、聞こえないなら、きっとそれにこしたことないんだ。俺にも……今の俺が何なのか、上手く説明なんて出来ないんだから。 司:アキラ、ごめん。嘘ついて、1人にして、ごめん。 司:ユウがいなくなって、俺も死んじまって。アキラからしたらたまんないよな。ひとりぼっちにしないって約束したのに、中途半端にいなくなって……最低だよな。 司:お前はきっと逆のことを言うんだろうけど……どうせ一方通行なんだったら、勝手に言い逃げするな。 司:  司:救われたのは、お前じゃない。……俺だ。 司:俺が、アキラに救われたんだよ。 司:お前がいなきゃ、きっと頑張って生きようだなんて思えなかった。お前のおかげで、生きなきゃって思えたんだ。……まあ結局死んじゃったんだけどさ。はは……。 司:……俺は、結局お前のヒーローにはなれなかったんだな。 司:  司:……うん。俺も。大好きだよ、アキラ。 司:……今までありがとう。 司:もう、俺は必要ないんだな。……本当に、お別れだ。 夢見:アキラちゃん?もう。何度チャイム鳴らしても出てこないと思ったら。……お庭で何してんの? 映:ん?ふふ。目玉焼きのお墓作ってた。 夢見:目玉焼きの。 映:お墓。 夢見:ふぅん。……そっか。  :(夢見、しゃがんでお墓の前で手を合わせる) 映:え、ちょ、何してんの。 夢見:目玉焼きさん。今までアキラちゃんのこと見守ってくれてありがとうございました。これからは私がアキラちゃんとべったりじっとり一緒にいて、しっかり守っていくので安心してください。……ん、よし! 映:……じっとりは嫌なんだけど。 夢見:ベッタリはいいの? 映:そんなんいつもじゃん。 夢見:へへ。 映:あ、やば。忘れてた。 夢見:ん?何?あ、鞄? 映:それもだけど、まだ行ってきますしてないから。 夢見:え? 映:(玄関のドアを開けて)お姉ちゃん、行ってきます!……お兄ちゃんも!行ってくるね、私のヒーロー。 司:…………! 夢見:何、今の。 映:んー、何となく? 夢見:ふぅん。ふふ。行ってきまぁす! 司:…………あぁ。あぁ。いってらっしゃい、2人とも。  :(玄関には、夕と司の写真が飾られている。扉が閉じて、遠くから映と夢見の笑い声が聞こえる。2人は「ねえ、宿題やった?」「もぉっちろん!」「よっしゃ!ユメ様神様仏様!」「見せないよ?」など、思い思いに会話しながらフェードアウトしていく)  : 

 :   :   :  映:(ブツブツ言いながら絵を描いている)描いたものは、現実になる。それは永久に、永遠に。描いたものは、本物になって動き出す。……そう、描かなきゃ。早く、早く早く早く……。描いたものは、現実になる。それは永久に、永遠に。描いたものは、本物になって動き出す……。違う!違う違う違うこんなんじゃない!こんなんじゃ……!  :(興奮して息切れを起こした映。その声は、段々と嗚咽混じりに変わっていく。フェードアウト)  :  司:(タイトルコール)「棘あるサソリは、夢の中」  :   :   :(場面転換。映・自宅) 映:あーもうやばい時間ない! 映:行ってきまーす。 司:は?おいおい待て待て。飯は? 映:え。私朝ごはん食べない派。 司:んだよ言えよ。普通に作っちゃったじゃん。 映:ツカサちゃんが? 司:俺が。ってかちゃん付けすんなってば。 映:ツカサちゃんはツカサちゃんでしょ。 司:妹にお兄ちゃんって呼ばれんの憧れてんだよ。 映:残念ながらその夢は叶わないね。 司:つめてーなぁ、最近の女子高生は。 映:親父くさいこと言わないでよ。 司:俺ももう24よ?そこそこ大人なの、もう。 映:変わんないよ。私とツカサちゃんとじゃ。 司:変わるよ。お前の年齢に手ェ出したら、俺刑務所行きだろ。 映:ツカサちゃんが、私に手を出すの? 司:……俺が!「女子高生に」手ぇ出したら、な!? 映:うんうん。ツカサちゃんが、私みたいな女子高生に手を出したら、ね? 司:口の減らねえクソガキめ。 映:でも良い女でしょ?惚れても良いよ。 司:はいはいソウデスネ。こんなに良い女が妹で俺ァ嬉しいよ。 映:…………。 司:昨日もずっと絵描いてて寝てないんだろ?どっかでおにぎりでもインゼリーでも、なんでも良いから買って食えよ。 映:うへぇ。 司:分かったな。んじゃ、行ってらっしゃい。 映:ん。……あ。ご飯、タッパーに詰めといてね。 司:は? 映:私の分の朝ごはん。晩御飯に食べるから。 司:……ただの目玉焼きだぞ? 映:夜が楽しみ。明日からは、ちゃんと毎朝食べるから。じゃあ行ってくるね。あ。お姉ちゃんも!行ってきまーす!  :  映:(M)玄関の写真に挨拶をして、慌ただしく扉を開ける。ツカサちゃんは、全く似合っていないエプロン姿で私を見送る。まだ数日だけど、ツカサちゃんが家にいるのは、まだ、慣れない。ツカサちゃんは、私の幼馴染み……だった人だ。 映:  映:突然だが、ここで私の身の上話を挟もう。 映:  映:「お前たちの両親は、子供を育てるには、まだ子供だった」……というのは、私のおじいちゃんの言葉だ。駆け落ち同然で家を出て私とお姉ちゃんを産んだ両親は、ある日私たちをこの家に置いて、そしてもう二度と、ここに戻って来なかった。要は、その時彼らは、実の子供たちを見捨てたのだ。おじいちゃんは、そんな両親にたいそう怒って勘当を言い渡したので、今ではどこで何をしているのか、消息はサッパリ分からない。 映:おじいちゃんは、そこそこに有名な画家だった。そろそろお迎えが来るからと言って、生前に1人で身辺整理を済ませ、私たち姉妹が大学卒業まで問題なく暮らせるだけの資産とこの家を残して、ある日ポックリと逝ってしまった。 映:  映:……そこまでは、まだ良かった。 映:  映:おじいちゃんが亡くなって暫くして、お姉ちゃんの病気が発覚した。現代医学では 、治療のしようのない奇病。iPhoneがどんなにバージョンアップしても。勝手に運転できる車が出来ても。こんなに科学が発展しても。お姉ちゃんの身体に巣食う病気には、誰も手出しができない……とのことだった。 映:  映:長い長い闘病生活が始まった。 映:  映:お姉ちゃんの綺麗な手はどんどん骨張って、目元はだんだんと窪んでいった。「覚悟をしておいてください」と、お医者様が淡々と言った。 映:ある日、口数の少なくなったお姉ちゃんが、私の名前を呼んだ。「話があるの」と。 映:「もう、永くないから、何度もお断りしたんだけど……」と。  :  司:良いでしょ。俺の夢叶えてよ。……そうだよ。俺、ユウのお婿さんになるのが、ずっと夢だったんだ。……幸せにしてね。まぁ、ユウの隣に居られるだけで、俺はずっと幸せなんだけどさ。  :  映:(M)病室のベットで、「普通逆じゃない?」と笑うお姉ちゃんは、やつれていても世界一綺麗で。 映:私はその日、初恋は叶わないということを身をもって知ったのだった。 映:2人が付き合っていたのは、何となく気付いてた。幼馴染のツカサちゃんは、お姉ちゃんと結婚して、私の本当のお兄ちゃんになった。  :   :   :   :(数ヶ月後。葬儀場) 司:アキラ……ここに居たのか。 映:ツカサちゃん……。ほら見て、綺麗な夕焼け。私ね、両親のことは好きじゃないけど、付けてもらった名前は気に入ってるんだ。ユウとアキラ。2人合わせて夕映(ゆうばえ)。……センスいいと思わない? 映:……お姉ちゃんも、夕焼けが好きだった。 司:……残りは俺がやっておくから。お前先帰れ。 映:は、なんで……。お姉ちゃんのお葬式だよ?最後までいる。 司:お前、何日寝てない? 映:……え? 司:ユウの容体が急変してからずっと寝てないだろ。嘘つくなよ、顔見りゃ分かるんだから。 映:大丈夫だよ。私おじいちゃん似なの。絵が好きなのも、集中したら何日も寝ずに絵を描いちゃうのも。……だから平気。 司:絵を描いてるんならまだいい。……でもそうじゃないだろ。昨日は家に帰る時間もあったんだから……、 映:(被せて)眠れないよ。あんな広い家で。……ひとりぼっちなのに。  :(間) 司:やっぱりお前、先帰れ。 映:だから、嫌だって! 司:お前とユウの親戚だから悪く言いたくはないけどな。これから遺産目当てのごうつくばりな親戚連中と、ちょっとやりあわなきゃいけないんだ。……それをお前に見せたくない。 映:…………。 司:それから。 司:これからあのでっけー屋敷に、女子高生と20代の若造が一緒に住むってことを、ちゃんと納得させなきゃなんないからな。 映:……え? 司:ひとりぼっちになんかさせねーよ。だから、安心して先に帰って、部屋でもあっためとけ。  :(間) 映:……何、それ。ヒーロー気取り? 司:お、いいねえ、ヒーロー。 映:………ばか。  :  映:(M)どういう説得の仕方をしたのかは知らない。その日の夜、日付が変わってから、両手にボストンバック、背中にリュックサックを背負った私のヒーローは、屋敷中に響く声でこう言った。  :  司:ただいま!  :   :   :   :(回想終了) 映:ほんと。かっこつけだよね。 司:は?なにが? 映:べっつにー。 夢見:アッキラちゃーんっ。 映:わ!ユ、ユメ……! 夢見:んふふ。おはよ。 司:あれ、おはよう、ユメミちゃん。 映:もう。別に毎日家まで迎えに来なくて良いって。約束した角で待っててよ。 夢見:だってアキラちゃん、家出るの遅すぎなんだもん!アキラちゃん欠乏症でエネルギー切れ起こすところだったんですけど!あとどうでもいいけど、学校も遅刻しちゃいますけど! 映:いやそれはどうでも良くないでしょ!え、遅刻ってもうそんな時間?……ってか朝から近すぎ。ひっつくな、暑い。 夢見:何よぅ。アキラちゃんが遅刻しないように毎朝迎えに来てあげてるのに。少しは感謝してよね! 司:いつもありがとうね、ユメミちゃん。 映:ほんと毎朝勘弁して。 夢見:ふふー、塩対応のアキラちゃんもかーわいいっ!大好き! 映:あーもー!うざい!  :   :   :   :(同日。高校廊下) 夢見:あ!アキラちゃんの絵〜!ん〜!いつ見ても綺麗だねえ、この風景画っ。 映:移動教室の度に毎回立ち止まらなくて良いって。 夢見:だって好きなんだもん、この絵。 映:…………そ。 夢見:……絵はもう描かないの? 映:……なんで? 夢見:コンクール、しばらく出てないから。 映:あぁ。お姉ちゃんのことでドタバタしてたしね。 映:でもちゃんと描いてるよ。描きたいモチーフが出来たの。今はそれをずっと描いてる。納得いくまで……。 夢見:えっ、描いてるの? 映:うん。 夢見:そっか……良かった……もう描いてないかと思っちゃった……。 映:なんで? 夢見:なんで、って……。 映:「絵描きは絵を描くことをやめられない。それは呪いのように、毒のように、身体を蝕み離れない。洗っても洗っても、絵を描く業は絵描きの体を覆い尽くし、そして……」 夢見:えっ、なになに突然……!? 映:あれ。続き、忘れちゃった。 夢見:えええ〜!?なんか色々気になるんですけど!?何!?さっきの何の言葉!? 映:亡くなったおじいちゃんの言葉。 夢見:あぁ〜!あの画家さんだったっていう!超有名だったんでしょ?絵に興味ないうちのお父さんも知ってるくらいだもん。すごいよ。 映:おかげでアトリエが充実してて、助かる。 夢見:アキラちゃん家、アトリエ云々とかじゃなくて全体的におっきーから。THEお屋敷、って感じ。 映:ただ作りが古いだけだよ。 夢見:威厳あるよ!やっぱり由緒正しいおうちは違うなって感じ! 映:そんな歴史があるわけでもないよ。 夢見:えっ、だって珍しい苗字だし、なんかそういう格式のあるお家柄じゃ……!? 映:佐曽利(サソリ)、ね。別に漢字は普通だし。ただ組み合わせが珍しいだけだよ。 夢見:サソリ!たまぁに毒舌トゲトゲなアキラちゃんにぴったり! 映:1組の毒サソリ?安直なネーミングセンスだよね。もう少し捻りとかないもんかね? 夢見:アキラちゃんがもう少し愛想良くすればそんなあだ名一瞬で消えるよ。……まあ、でもでも!私は今のままの方がアキラちゃんを独り占めできるから良いんだけどっ! 映:ユメがなんでそんなに私のこと好きなのか分かんない。 夢見:アキラちゃんは私のヒーローだから。 映:何それ。 夢見:アキラちゃんの絵も大好き! 映:それはお祖父様様々かもね。ある程度絵を描く才能に恵まれたのも、あの家も。 夢見:家も? 映:そ。あのお屋敷はお爺ちゃんが一代で成した、お爺ちゃんのお城、ってこと。まあ、だから……そう格式ある家じゃないのよ、うち。 夢見:へー!ヤクザが住んでるって言っても納得しそうなおうちなのにね! 映:そうだねえ。おかげで色々助かってるよ。庭も広いし。 夢見:縁側も雰囲気あるよね。次の夏はあそこで花火とかしようよ! 映:次って……来年? 夢見:うん、来年! 映:来年は私、いないかもよ? 夢見:え!?なんで!?アキラちゃんどっか行っちゃうの!? 映:……いや? 映:来週のテスト勉強全然してないから。このままじゃ進級危ういかも。 夢見:え!?なんで!?放課後部活もないのに何してんの!?ハッ、まさか……!? 映:うん。絵、描いてる。 夢見:も〜〜〜!今日は放課後一緒に図書館!私の考えたヤマ、全部アキラちゃんに叩き込む! 映:え、いいよ。絵、描きたいし。 夢見:だめだめだめ絶対だーめ!来年も絶対おんなじクラスになるんだから!今日からすぐ勉強するよ! 映:ええぇ……。ユメ先生、スパルタなんだよなあ……。 夢見:アキラちゃんが普段から全然勉強しないから、時間が足りないの!嫌でもスパルタするしかないの! 映:ってか、ユメの見た目で勉強できるの、意外すぎるよね。 夢見:うるさい!好きな見た目できるように、文句言わせないために真面目に勉強してんの! 映:偉い偉い。 夢見:そう思うならもっと敬え!先生代、お昼に購買のいちごミルクだかんね! 映:へーい。  :   :   :  映:……これもダメ、これも違う……!  :(映は、手元が見えているのか疑問になるような月明かりの下で絵を描いている) 映:思い出せ。絵は自分の過去を投影する。右を向いた時の首の皮膚のつれ方は?腰を捻る時、筋肉はどう動く?瞳の虹彩は?あの時の太陽の向きは?思い出せ、思い出せ、思い出せ……!時間がない、時間がないのに……!早く、早く描き上げなきゃ、より完璧に、より本物を、早く……!  :   :   :   :(数日後。映・自宅) 映:(あくびをして)おはよ、ツカサちゃん。 司:あぁ、おはよう。何だ、ここ最近早起きだな? 映:……朝ごはん、食べないとだからね。 司:毎日朝ごはん食べようになって偉いですねえ。 映:毎日食べるって言ったからね。 司:そうか。 映:ふふ。ツカサちゃんって結構器用なのに、料理はダメダメだよね。あの時の目玉焼きだってコゲコゲでさ。 司:美味しかっただろ? 映:えー?覚えてないよ。焦げてても、目玉焼きの味なんてそう違いないでしょ。 司:いや。マジのやつは炭の味がするぞ。 映:それ本当に目玉焼き? 司:あ、ほら。遅刻するぞ。早く食べろよ。 映:へーい。いっただきまーす!……うん。美味しい。いつもありがとうね。 司:いーや。別に俺は何にも? 映:あ、放課後はユメと勉強するから遅くなる。 司:あぁ。……なるべく早く帰って来いよ? 映:うん。……ふふ。なんかお父さんみたい。……普通のお父さんがどんなんだか分かんないけど。 司:「みたい」じゃなくてそうなんだよ。俺はお前の保護者なんだから。 映:あれー?お兄ちゃんって呼ばれるのが夢なんじゃなかったの?このままじゃパパになっちゃうよ? 司:それも悪くないかもな。 映:えー。……ツカサちゃんがパパかあ。 司:うるせぇよ。良いからはよ食え。 映:へいへーい。  :   :   :   :(同日。図書室で並んで勉強をしている映と夢見) 夢見:あ、そうだ!ねぇ聞いてよアキラちゃあん!……今日ね!お昼に買ったパンがなくなっちゃったの!メロンパンとチョココロネ! 映:……どうやったらパンを失くせるの?どこかに置いてきたとか? 夢見:メロンパンは浮いて飛んでって、チョココロネは走って逃げちゃったの! 映:んんん? 夢見:メロンパンから、こうニョキっと嘴が生えてきて!手足も生えてペンギンになって、空に飛んでっちゃったの! 映:ペンギンが?空を? 夢見:で、チョココロネはチワワになって、そのまま走ってどっか行っちゃったの! 映:ちょいちょいちょーい。待って待って待って? 夢見:ん?なぁに? 映:……え。何の話? 夢見:え?ユメが今日見た、夢の話だよ? 映:……(舌打ち)夢かよ。(勉強に戻る) 夢見:……え!?今舌打ちした!?ねぇ今舌打ちしたよね!?ちょっと〜!ちゃんと聞いてよ!ユメの超大作夢物語! 映:図書室ではお静かにお願いしまーす。 夢見:わーん!まだ半分も話せてないのに! 映:ほら。ユメも手を動かす。今回、範囲広くて大変って言ってたのユメでしょ。 夢見:はぁ〜い。  :(勉強する映に不満げな夢見。彼女の目の下のクマをしばらく見つめてから、夢見が口を開く) 夢見:……アキラちゃん? 映:なに?夢の話なら聞かないよ。 夢見:アキラちゃんは、昨日どんな夢見た?  :(間) 映:……いや、見てないけど。 夢見:夜、ちゃんと寝てる? 映:寝てるよ。なんで? 夢見:………そっか。うん。ごめん。何でもない。 映:ん?……うん。 夢見:ところで。問3間違ってるよ。 映:え!?嘘ぉ!?  :   :   :   :(同日。霊園) 夢見:こんにちは。ツカサさん。 司:あれ。もう月末か。……今月はガーベラかあ。綺麗だね。毎月命日にお花ありがとう。ユメミちゃん。 夢見: (花を置いて)はい、どうぞ。今月はガーベラを持ってきました。どうです?綺麗でしょう? 司:……うん。とても綺麗だ。 夢見:今日はちょっと、真面目な話があって来ました。  :(間) 夢見:もう耳タコだとは思うんですけど。私にとってアキラちゃんってヒーローなんですよ。 司:(被せて)ヒーローなんですよ。うん。だよね。……流石にもう覚えちゃったな。いいよね、アキラとユメミちゃんの関係って。……ヒーロー、か。 夢見:私、貰われっ子だから。両親は本当に良くしてくれたけど、養子ってだけでいじめられて、不登校になったこともあったんです。転校したばかりで、知り合いがいなかったことも辛くて。 夢見:それで、クラスメイトが全員で順番にお便りとかノートとか持ってきてくれるんですけど、その中にいじめの首謀者もいるわけですよ。もう辛くて辛くて、途中から居留守使ってたんです。 夢見:そうしたらある日、何度無視しても永遠にチャイム鳴らしてくるバカがいて。その時の私、何かもうおかしくなってたんでしょうね。いつもだったら布団に潜って隠れてるところなんですけど、その日はなんか、だんだんイライラしてきて。家でこうして大人しくしてるのに、なんでこんな目に遭わなきゃなんないんだって。こっちは何も悪いことしてないのに、ふざけんなって。気付いた時には、玄関飛び出して、チャイムを鳴らしてるその子の腕掴んで怒鳴ってました。  :   :   :   :(回想開始) 夢見:ふざけんな!ピンポンピンポンピンポンピンポン!無視してんのになんなのあんた!嫌がらせも大概にしてよね! 映:……なんだ。いるじゃん。いないのかと思った。 夢見:お、思ったなら鳴らすなよ! 映:だって相原(アイハラ)さん全然学校来ないから。今日お便り当番だから、少しは話せるかなって楽しみにしてたのに。 夢見:……え? 映:私も本当の両親いないんだよね。あと、友達も。……アイハラさんとなら、もしかしたらお友達になれるかな、って思って。 夢見:私、と……? 映:明日から一緒に学校行こうよ。アイハラさん……じゃ友達っぽくないか。下の名前は……、 夢見:……ユメミ。 映:……!ユメミ!すごい、名前ぴったりだね!髪の毛ふわふわで、撫でたくなるくらい可愛い子だなって思ってたんだ! 夢見:な、撫でたい……? 映:私はアキラ!宜しくね、ユメ!  :(回想終了)  :   :   :  夢見:それが、私とアキラちゃんの出会いです。……今思うと不思議ですよね。アキラちゃん、そういう熱血タイプでもないし、人見知りなのに。…… 柄にもないことしちゃって。きっと、同じ境遇の私を見かねて、助けたいって気持ちが勝っちゃったんだろうな。アキラちゃん、優しいから。 司:そういうところあるよねえ、アキラは。 夢見:アキラちゃんのおかげで、不登校どころか、学校行くのが毎日楽しみになって。アキラちゃんに格好いいところ見せたくて、つい勉強とかも張り切っちゃって。今では親友です。……多分、アキラちゃんもそう思ってくれてると……思います。 司:そこは自信持っていいんじゃないかな。 夢見:アキラちゃん。最近寝れてないみたいです。目の下クマだらけで。……絵を、描いてるんだと思います。 司:……そうだね。気付かないふりをしているけれど、毎晩ずっと部屋にこもってるみたいだ。 夢見:ずっと、知らない、気付かないふりをしていました。アキラちゃんのそばにいれば、いさえすれば、きっといつか前を向いてくれるって思って。 司:ユメミちゃんには感謝してるよ。ずっとアキラのそばにいてくれて。 夢見:アキラちゃんの周りで不幸が続いた。それはもう、この小さな街では皆んなに知れ渡っていてる、隠しようもない事実で。 夢見:……言うまでもなく、彼女が一番傷付いてるんです。なのに、その当人であるアキラちゃんの気持ちを無視して、周りは面白おかしく、どんどんと噂を拡げていく。1度ならず2度3度……アキラちゃんの近くで不幸な偶然が重なっていく内に、より過激に、より誇張して。 夢見:ご両親だって、ただ縁を切っただけなのに、失踪して行方不明だなんて言われてるんですよ。 司:呪われたサソリの子。ひとりぼっちの毒サソリ。……彼女の周りでは不幸が起こる。誰も彼もみんな死ぬ。……人の噂なんて勝手なものだ。 夢見:私、アキラちゃんの友達だから。親友だから。だからね、ツカサさん。……もうそろそろ、良いかなあ。……良い、ですか? 司:あぁ。……あいつもそろそろ、親離れしないとな。成長期、ってやつだよ。……いや、違うかな? 夢見:ごめんなさい、ツカサさん。アキラちゃんは、過去にはあげられません。私と一緒に、未来に行きます。 司:そうだね。……それがいい。少し、寂しいけど。 夢見:……そろそろ戻らないと。……アキラちゃんを図書館で待たせてるんです。それでは。また。  :(夢見、その場から走り去る) 司:うん。またね。ユメミちゃん。……って、聞こえないか。  :   :   :   :(同日。高校図書館) 夢見:なーに見てんの? 映:お。遅いぞ、ユメ先生。何してたの? 夢見:ごめんごめん。あー、委員会が長引いて、さ。 映:ふぅん? 夢見:で?勉強しないで何読んでるの? 夢見:……その女の人の頭に乗ってんの何?ゆるキャラ? 映:女神セルケトだよ。エジプト神話の神様。生命の貴婦人。呼吸をさせる者。上に乗ってるのは……一応サソリ。 夢見:サソリ!アキラちゃんじゃん。……んん?でもこれ、本当にサソリ? 映:見えないよね。動き出して悪さされたら困るから、足や、毒針のある尻尾のない状態で描かれてるんだって。 夢見:動き出すって……絵なのに? 映:絵なのに。 映:……心を込めて描いたものは現実になるって、エジプトでは信じられていたんだって。 夢見:心を込めて描いたものは現実になる……。 映:おかしいよね。……名前がサソリだからか、うちってこういうサソリ絡みの本や資料が沢山あるの。面白いよ。私、段々サソリに詳しくなってきちゃった。 夢見:へぇ。例えば? 映:サソリって、毒があるって有名じゃない?オリオン座のオリオンも、サソリの毒で命を落としたって言われてるよね。でも実際のサソリは、そう毒の強い子たちばかりじゃないの。意外と大したことないんだ、ほとんどのサソリって。……思ったより、弱い子が多いの。 映:ただ厄介なのは、毒の強さがその見た目からは分かりづらい、ってこと。 映:いかにも強そうな、ドス黒くて大きなサソリの毒が意外としょぼかったり、反対にいかにも無害そうなおチビちゃんが、えげつない痛みを伴う猛毒を持っていたりする。 夢見:なるほど……? 夢見:あからさまに泣いてアピールする子より、毅然と涙を堪えている人の方が、精神的にダメージ負ってる……みたいな? 映:(笑って)まあそんな感じかも。 映:とはいえ、人間みたいな大型の哺乳類を即死させるような毒を持ってる子はレア中のレアだけどね。日本なら、蜂の方がよっぽど人を殺している。それなのに、サソリのイメージは一般的にはダークサイド。凶暴で戦闘的、何かを企んでいるような闇と狂気を秘めている。いわゆる悪役ポジ。 夢見:んー、まあ。ミステリアスな感じはする?かな? 映:とある国では、「略奪者(りゃくだつしゃ)」とも言われてる。人の幸せを奪い取る奪略犯(だつりゃくはん)。……不幸の死者。 夢見:…………。 映:私みたい、でしょ。 夢見:アキラちゃん……。 映:ひとりぼっちの毒サソリ。私の周りからはみんないなくなる。……何かしらの不幸で。 夢見:アキラちゃん!怒るよ……!  :(間) 映:…………ごめん。  :(間) 夢見:あ〜っもう!ほら! 映:え、なに。 夢見:ん!撫でていいよ。ほら! 映:え、ちょ、なに。ユメ、重いって。 夢見:あー、アキラちゃんの膝枕!さいっこー! 映:何なのよ、あんた……。 夢見:昔、触りたいって言ってたじゃん。ふわふわで撫でたくなるって。だから、はい。撫でて良いよ。 映:は?いつ? 夢見:出会った時。……覚えてない? 映:そんなこと、言ったっけ……。 夢見:ペット撫でるのって、ストレス値をかなり軽減するらしいよ。 映:いや、ユメは私のペットじゃないし……。 夢見:私、アキラちゃんのペットになりたいなー。 映:馬鹿なの?やだよ。 夢見:……えー? 映:ペットじゃ、私より早く死んじゃうじゃん。  :(間) 夢見:ふふ。何それ。 映:一緒がいいよ。  :(間) 夢見:……うん。 映:一緒がいい。どんな時も。 夢見:うん。 映:置いてかないで。 夢見:置いてかないよ。 映:1人にしないで。 夢見:しないよ。  :(間) 夢見:……ねえ。私、いいペットになれると思うんだ。先に死んだり、絶対しないよ? 映:……ちゃんと待てとか出来る? 夢見:んー、頑張る。トイレも汚さないし、普通の犬よりはいいこだよ。 映:餌もちゃんと1人で食べられる? 夢見:寂しい時は一緒に食べて欲しいかなあ。 映:……ぷっ。可愛いね。 夢見:でしょ?  :(間) 映:良いかもね。 夢見:え? 映:私とあんた。ご主人様とペットみたいに、ずーっとこうして過ごすの。 夢見:うん。良いよ、きっと。  :(間) 夢見:ね、だからさ。アキラちゃん、そろそろ……、 映:でも、ユメ。ツカサちゃんとも仲良くしてよね。 夢見:……え? 映:ほら、あんたがわたしのこと好きすぎるのは、もうよーく分かってるけど。でもたまにツカサちゃんのこと無視するでしょ?あれやめな。失礼だよ。仮にも私の保護者なんだから。  :(間) 映:ユメ? 夢見:……無視、してないよ。 映:え? 夢見:無視なんて、してない。ううん。できないもん。 映:……いや、してるじゃん。嫉妬してるのか何なのか知らないけど、毎朝ツカサちゃんの挨拶に返事しないの、私気付いてる(んだから)……、 夢見:(被せて)無視なんてできるわけないじゃん!だって!……だって、ツカサさんはもういないんだから! 映:……は?  :(間) 映:何、言って……。だって、え?そんなわけ……あれ?待って、やだ、やめて。ユメ、ちょっと待って、お願……、 夢見:いないんだよ!死んでるんだよ、ツカサさんは!1年前に、もう……!  :(間) 映:嫌、いや、やだ、やめて、やだ……っ! 夢見:アキラちゃん……! 映:触らないで!……ぁ。ご、ごめ……。ごめん……!(走って教室から飛び出して行く) 夢見:アキラちゃん、待って……!アキラちゃん!  :   :   :   :(映が走る息だけが響く) 映:そんなわけない。そんなわけない。そんなわけない……!だって、私は毎朝、ツカサちゃんとご飯を食べて、それで……!  :(家に靴のまま上がり、一直線に冷蔵庫に向かった映は、冷凍庫の奥に大事に置かれた皿を見つけて、その場に倒れ込む) 映:……コゲコゲの目玉焼き……。何で?何でこれが冷凍庫にあるの?なんで……。はは、凍って霜だらけで、もう何がなんだか分かんなくなってる……。これじゃもう、食べられないや……。 映:……あれ?待って私、なんで一直線に冷凍庫なんて確認して……。 映:そう、そうだ……。私、知ってた。分かってた。だって……。 司:(回想)あぁ、おはよう。何だ、ここ最近早起きだな? 映:そりゃそうだよ。だって、最近はずっと朝まで絵を描いてるから。「ツカサちゃん」を描かないといけないから。私、ずっと寝てないんだもん。 司:(回想)毎日朝ごはん食べるようになって偉いですねえ。 映:あの時ツカサちゃんにそう言ったじゃん。毎朝食べる、って。言ったから、だからちゃんと守らなきゃって思って……。 司:(回想)美味しかっただろ?俺の目玉焼き。 映:覚えてないよ。ってか分かんないよ。私、あの目玉焼き、食べられなかったんだもん……。 映:だってあの日、ツカサちゃんは……! 司:(回想)あ、ほら。遅刻するぞ。早く食べろよ。 映:(回想)へーい。いっただきまーす!……うん。美味しい。いつもありがとうね。 司:(回想)いーや。別に俺は何にも? 映:……そうだ。そうだよね。ツカサちゃんはもうご飯を作ってくれたりしない。何にもしてくれない。私が作って私が食べるから、目玉焼きは焦げないし、味も普通に美味しい。だってもう、ツカサちゃんはいないから。 映:ツカサちゃんは、あの日死んじゃったから。私に初めて目玉焼きを作ってくれたあの日、お姉ちゃんの葬儀が終わって、私と暮らし始めてすぐ、車に轢かれて死んじゃったから。  :     :   :  司:……アキラ。  :(間) 映:……今見えてるツカサちゃんは、私の作り出した幻? 司:どうかな。 映:ツカサちゃんは、もう、どこにもいないの? 司:…………。 映:何とか言ってよ!私の妄想じゃないなら!幻じゃないなら!何とか言ってよ!言えよ!なんで……! 映:(M)私には、絵を描くことしか出来ないから。忘れたくなくて、記憶から溢したくなくて。私は必死に絵を描いた。 映:ひとりぼっちの毒サソリ。私と一緒にいると不幸になる。……そんな現実から逃げたくて。ツカサちゃんの死から目を背けたくて。 映:描いて、描いて、描いて、描いて。 司:アキラ。 映:(M)そうしていつからか、私にはツカサちゃんが、「見える」ようになっていた。  :   :   :   :(夢見、息を切らして家に入ってくる) 夢見:アキラちゃん……! 夢見:あ、え……?何、これ……。全部……ツカサさんの、絵? 映:ユメ……。 夢見:アキラちゃん、ごめん。私、アキラちゃんの気持ち考えずに爆発しちゃって……でも私、アキラちゃんに前を向いて欲しくて……!  :(間) 夢見:何、してるの……? 映:絵、描いてるの。 夢見:何、描いてるの。 映:ツカサちゃんに決まってるでしょ。 夢見:アキラちゃん……。 映:描かなきゃ……完璧に、よりリアルに。 夢見:アキラちゃん、もうやめてよ……。 映:描かなきゃいけないの!早く!忘れない内に、魂込めて、本物のツカサちゃんを……! 夢見:何言って……、 映:心を込めたら、現実になる。……足りないから幻なんだよ。ちゃんと描いたら、ツカサちゃんは本物になって戻ってくる。おじいちゃんも言ってたもん。画家は描くしかないの。描くしかできないんだから。だから、だから描かなきゃ……、 夢見:アキラちゃんのすっとこどっこい!(平手打ち) 映:いった……!え、何?すっとこどっこ?……え? 夢見:バカ!バカバカバカバカバカ!アキラちゃんのおたんこなす!現実から目を背けて何やってんの、ねぇなにやってんの! 夢見:私がいるじゃん!生きてる人間がこうして目の前にいるのに、私がいるのに!なんで!?アキラちゃんは……アキラちゃんはすぐツカサさんと……過去と心中しようとする!ねぇなんで!なんでよぉ! 映:ユ、メ……。 夢見:私は生きてるじゃん! 映:へ……? 夢見:アキラちゃんは優しいから。自分のせいで周りが不幸になるかもって。だからみんな死んじゃったのかもって。本当にそう思っちゃって、自分のこと責めちゃってるんだろうけど! 夢見:……ほら!ちゃんと見て!触って!(映の手を掴んで自分の心臓に待って行く) 映:ぁ……! 夢見:どう!?心臓!動いてるよね!どくんどくん、って。動いてるよね!?動いてるってことは生きてるよね!私生きてるよ!毎日幸せだよ!アキラちゃんのおかげで学校楽しいよ!ほら! 映:ユメ……。  :(間) 夢見:私、不幸になってないよ。 映:うん……。 夢見:これからもならないよ。 映:うん……。 夢見:ずっと一緒にいるよ。 映:うん……。 夢見:1人にしないよ。 映:……それ……ツカサちゃんも言ってた。 夢見:ぶわぁ〜か!あんな嘘つきと一緒にしないでよ!私は天変地異が起きて世界が滅んでも、隕石落っこちて氷河期が始まっても、ずーっとしぶとく生き続けてやるんだから! 映:(思わず苦笑して)なにそれ。 夢見:あ、笑った。ふふ。  :(間) 映:ユメ? 夢見:ん? 映:……ありがとう。 夢見:(映をぎゅっとして)大丈夫だよ。私が、アキラちゃんは幸せの使者だって証明し続けてあげる。 映:……うん。 夢見:大好きだよ。アキラちゃん。 映:ふふ。知ってる。  :   :   :   :(数日後。映・自宅 庭) 映:よいしょ、っと。……うん。こんなもんかな。 映:……ツカサちゃんって、ほんとバカだよね。財産目当てだなんだって散々陰口叩かれて。本人はその財産に1円たりとも手をつけずに、血も繋がらない女子高生育てるために色々頑張って準備して、さー。それなのに死んじゃうんだもん。 司:……悲しませるつもりは、なかったんだけどね。 映:なんで……? 司:え? 映:なんで私を1人にしたの……? 司:……それは………、 映:ひとりぼっちにしないって言ったのに。嘘つき。 司:……ごめん。 映:ツカサちゃんの声、もう全く聞こえないや。幻だったのか、お化けだったのか……どっちだろね。もし心配でうろちょろしてるなら、早くお姉ちゃんのとこ行きなよ。きっと心配してるから。 司:……そうか。聞こえて、ないのか。俺の声。 映:今まで、心配かけて、ごめんね。 司:…………。 映:大好きだったよ、ツカサちゃん。 司:見えないなら、聞こえないなら、きっとそれにこしたことないんだ。俺にも……今の俺が何なのか、上手く説明なんて出来ないんだから。 司:アキラ、ごめん。嘘ついて、1人にして、ごめん。 司:ユウがいなくなって、俺も死んじまって。アキラからしたらたまんないよな。ひとりぼっちにしないって約束したのに、中途半端にいなくなって……最低だよな。 司:お前はきっと逆のことを言うんだろうけど……どうせ一方通行なんだったら、勝手に言い逃げするな。 司:  司:救われたのは、お前じゃない。……俺だ。 司:俺が、アキラに救われたんだよ。 司:お前がいなきゃ、きっと頑張って生きようだなんて思えなかった。お前のおかげで、生きなきゃって思えたんだ。……まあ結局死んじゃったんだけどさ。はは……。 司:……俺は、結局お前のヒーローにはなれなかったんだな。 司:  司:……うん。俺も。大好きだよ、アキラ。 司:……今までありがとう。 司:もう、俺は必要ないんだな。……本当に、お別れだ。 夢見:アキラちゃん?もう。何度チャイム鳴らしても出てこないと思ったら。……お庭で何してんの? 映:ん?ふふ。目玉焼きのお墓作ってた。 夢見:目玉焼きの。 映:お墓。 夢見:ふぅん。……そっか。  :(夢見、しゃがんでお墓の前で手を合わせる) 映:え、ちょ、何してんの。 夢見:目玉焼きさん。今までアキラちゃんのこと見守ってくれてありがとうございました。これからは私がアキラちゃんとべったりじっとり一緒にいて、しっかり守っていくので安心してください。……ん、よし! 映:……じっとりは嫌なんだけど。 夢見:ベッタリはいいの? 映:そんなんいつもじゃん。 夢見:へへ。 映:あ、やば。忘れてた。 夢見:ん?何?あ、鞄? 映:それもだけど、まだ行ってきますしてないから。 夢見:え? 映:(玄関のドアを開けて)お姉ちゃん、行ってきます!……お兄ちゃんも!行ってくるね、私のヒーロー。 司:…………! 夢見:何、今の。 映:んー、何となく? 夢見:ふぅん。ふふ。行ってきまぁす! 司:…………あぁ。あぁ。いってらっしゃい、2人とも。  :(玄関には、夕と司の写真が飾られている。扉が閉じて、遠くから映と夢見の笑い声が聞こえる。2人は「ねえ、宿題やった?」「もぉっちろん!」「よっしゃ!ユメ様神様仏様!」「見せないよ?」など、思い思いに会話しながらフェードアウトしていく)  :