台本概要

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タイトル 白石訳「猫の皿」
作者名 みのるしろいし  (@siroishi_jp)
ジャンル コメディ
演者人数 3人用台本(不問3) ※兼役あり
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 落語で広く愛されている「猫の皿」というお話を
私なりに訳してみました。
1~3人読みが可能です。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
語り部 不問 2 落語における枕。話の導入までを喋る人
旗師 不問 42 江戸時代における古着・古道具の仲買人
店主 不問 31 お茶屋さんの店主
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
語り部:えー、毎度バカバカしいお笑いを一席。 お付き合いを願いたいと思います。 語り部:猫というのは古来から人気の動物ですな。 語り部:食肉目ネコ科ネコ属に分類されるリビアヤマネコという生き物。 語り部:これが家畜化された種類が、現在世界で広く飼育されております 語り部:イエネコの期限であると考えられておるわけです。 語り部:今回のお話の舞台となる江戸時代においても、様々な種類がおったと言われております。 語り部:ただし、当時は現代のような家の中だけで飼うということが 語り部:法律で禁止されとったんですな。 語り部:放し飼いのみ許されとったんです。 語り部:これがなぜかと申しますと 語り部:当時の街中にはネズミが溢れとったんですな。 語り部:これを退治してくれるのが猫というわけですな。 語り部:退治かつ癒やしにもなってくれる猫は、かなり*重宝《ちょうほう》されておったんですな。 語り部:まぁ、そんな猫に追いかけられるネズミは「キャッ」とでも言うとったんでしょうか。 : 語り部:さて、そんな江戸時代に*旗師《はたし》と呼ばれる人物がおりました。 語り部:*旗師《はたし》というのは*古着《ふるぎ》・*古道具《こどうぐ》を全国から仕入れて 語り部:*骨董屋《こっとうや》や*古道具屋《こどうぐや》に売る*仲買人《なかがいにん》。 語り部:まあ、現代で良く言えば百貨店のバイヤー、悪く言えば転売ヤーと言う職業ですな。 語り部:その*旗師《はたし》、江戸を飛び出て西へ旅するものの 語り部:今回はめぐり合わせが悪いのか、なかなか値打ち物が見つからないようで。 : 旗師:はぁ・・・ひもじいねぇ。旅に出て7日。なにもない。 旗師:歩きっぱなしで喉もカラカラ。よし。あそこにあるお茶屋で一服していくか。 : 旗師:お邪魔します。 店主:邪魔するならお帰りください。 旗師:これは失礼しました。 : 旗師:っておい。 店主:アァ、これはこれは失礼。決まり文句かと思いまして。 店主:どうぞどうぞ、おかけください。 旗師:洒落の利いた店主さんだ。では失礼して。 : 旗師:(溜息) 旗師:あぁ、お茶を1杯 店主:申し訳ございません、只今水を足したところで、少し時間がかかるんでございますが。 旗師:かまわないよ、急いでるわけじゃあないからねぇ。 旗師:ゆっくりやって。 店主:ありがとうございます、少々お待ちを・・・ 旗師:(溜息)落ち着いたのはいいけれど・・・今からどうしたものか・・・ 旗師:江戸にこの*旗師《はたし》を手ぶらで帰すことになってしまう。 旗師:全く、世知辛い世の中になったなぁ。歩いても歩いても何もないからなぁ。 旗師:前はちょっと歩けば2つ3つはあったものだってのに・・・。 旗師:あ~あ、どこかに良いもの無いかなぁ。 : 旗師:・・ん?猫がいるじゃないか。 旗師:皿に盛ってるエサ食べてらぁ。 旗師:つまり、ここで飼ってる猫か・・・。 旗師:ん!?猫がエサ食べてるあの皿・・・ 旗師:・・・・!!! 旗師:・・・間違いない、あれ「*高麗《こうらい》の*梅鉢《うめばち》」じゃないか! 旗師:適当な店へ持ってっても300両 旗師:好きなヤツなら500両で売れる代物だ。 旗師:オイオイ・・・そんなもので猫にエサ食べさせてるのか・・・! 旗師:値打ちってモンを知らないのは恐ろしいよナァ。 旗師:しかし、これはツキが回ってきたな。 旗師:まさかこんなところに*高麗《こうらい》の*梅鉢《うめばち》があるなんて思わなかった。 旗師:よし、店主をちょろまかして買い取ってやろう。 : : 店主:おまたせしてどうもすみません。お茶でございます。 旗師:あぁ、すまないな。 旗師:(お茶を少し吹いて冷まし、飲む) 旗師:あー、美味しぃ。結構いいお茶だなこれは。ありがとう。 店主:お目が高くございますね。京にあります*宇治《うじ》の茶葉を使用しております。 旗師:そいつは良いお茶だなぁ。これから高値になる良いお茶だ。 旗師:ところで、あの縁台の下に猫がいるねぇ。あれは、お宅のところの猫かい? 店主:ええ、さようでございます。 旗師:そうかいそうかい。いやぁ。可愛いなぁ。 旗師:おい、ほら、こっち来い、こっち来い。 旗師:おー、来た来た。お?随分と人に慣れている猫だねぇ。 旗師:よしよし、よしよし。 旗師:お、膝の上に乗りたいのか?よしよし、ほら乗りな。 0:猫を膝に乗せる。 旗師:よし、乗った乗った。ハハハ 店主:ああ、いけませんお客様。お着物が汚れてしまいます。 店主:申し訳ございませんねぇ、お客様が来られると、すぐ膝の上に乗りたがるもので・・・ 旗師:なに、心配ないさ。俺は猫が大好きでね。 旗師:ほら、ゴロゴロー、ゴロゴローって言ってるよ。 旗師;おぉ?どうしたぁ?今度は*懐《ふところ》に入りたいってかい? 0:猫を持ち上げて*懐《ふところ》に入れる 旗師:よいしょっと。よし、入った入った。 店主:あぁ、お客様。今は冬毛に切り替わって行く時期でございます。 店主:毛がびっしりついてしまいます。 旗師:心配することは無い。ネコ好きはそういうのは気にしないものだ。 旗師:店主さんも、猫が好き? 店主:いえ、取り立てて好きというほどでもなかったのですが 店主:店を開いた時に寄り付いた猫が、お客様に好評になりまして、飼うことになったんです。 店主:その猫が友達の猫を連れてきたり、連れてきた猫同士が交尾して子どもを産んだり。 店主:そんなことを繰り返していたら、今では20匹ウチにおりましてね。 旗師:そんなにいるのかい!?しかし、どこにも見当たらないね? 店主:いえいえ、自宅はここではございません。この先にございまして。そちらで飼っております。 店主:帰ったときには私が恋しいのか、大勢でウワーっと寄ってきまして大変なんですよ。 店主:朝、店へ出てくるときには違う1匹を選んで店に連れてくるんです。 店主:そうすると、残された猫が恨めしそうな目で私のことを見るんですよ(笑) 旗師:ハハハ、そうかい(笑) 旗師:しかし奇跡だなぁ。こんなにも俺に懐いてくれる猫に出会えるなんて。 旗師:店主さん、この猫、すっかり俺に懐いてるしさぁ。貰えねぇかなぁ? 店主:え・・?それはご勘弁を、私も可愛がっておりますもので・・・ 旗師:いや、そりゃそうでしょうけど・・・これだけ可愛い猫だよ? 旗師:可愛がってるのもわかるが、20匹も居たら大変でしょう? 旗師:それに俺、*伴侶《はんりょ》に先立たれてしまって、家に一人なんだ。 旗師:その代わりに猫を飼っていたんだが、その子にもこの間死なれちまって・・・ 旗師:この猫と触れ合ってたら、その猫のことを思い出してしまってさぁ。生まれ変わりじゃないかって思うんだよ。 旗師:なぁ、頼むよ。良いじゃないか。こうやって懐いてるんだし・・・頼むよ。 店主:そう言われましても・・・・ 旗師:そんなこと言わないでおくれよ・・・何もタダでとは言わない。 旗師:他の猫のエサ代も含めて置いていこう。ちょいと待て。 0:*懐《ふところ》を漁る 旗師:ほら、ここに3両ある。取っておいてくれないか? 店主:じ、冗談でしょう?こんな猫に3両だなんて大金・・・ 旗師:なに、後で100倍以上になるんだから・・・ 店主:へ? 旗師:いやいや!何でも無い、何でも無い。 旗師:こんなに可愛い猫だ、3両でも安いよ。 店主:でも・・・3両ですとなんだか申し訳ない気がしますね。 旗師:構うことはない、これで俺が元気になれるんだ。 旗師:あなたの猫たちにもいいエサが食べさせられるよ。 店主:さようでございますか・・・かしこまりました。遠慮なく頂戴いたします。 店主:その子のことをよろしくお願いいたします。末永く可愛がってくださいね。 旗師:大丈夫だよ、いじめなんかした日には上が黙ってないよ。 旗師:(猫に)よしよし、これから江戸でいいエサ食わせて可愛がってやるからな。 旗師:あぁ、そうだ。そういえば、この猫はいつもあの皿でエサ食わせてんのかい? 店主:えぇ、さようでございます。 旗師:そうかい、猫ってのは「慣れた器じゃないとエサを食べない」って習性があるんだ。 店主:さようでございますか? 旗師:あぁ、知り合いに動物に詳しいやつが居てな。割れた器を見ないと新しい器に納得しないってくらい 旗師:猫は器に執着をするらしい。だからその皿も一緒に貰えないか? 店主:いえいえ、その子はその辺に執着が無い子です。皿も汚れていますので、奥から綺麗な皿を持ってきます。 旗師:いやいや!その!その皿がいいんだよ! 店主:汚いですよ? 旗師:いやいや!その汚いの!汚いのが良いんだよ! 店主:はぁ・・・困りましたねぇ。 旗師:何が? 店主:この皿は・・・差し上げるわけには行かないのでございますよ。 旗師:なんで? 店主:実は・・・お客様はご存知で無いかもしれませんが。 店主:この皿は、*高麗《こうらい》の*梅鉢《うめばち》という皿でございまして。 店主:適当な店へ持って行っても300両。お好きな人なら500両はお出しになる。 店主:たいそう値打ちのある品でございまして・・・ 旗師:え・・・?え!そ、そうなの!? 旗師:こ、こんな汚い皿が!? 店主:間違いございません。私の両親や祖先からずっと受け継いでいる皿でございます。 旗師:そ、そうなのか・・・へぇ。 : 旗師:(小声)なんだよ、知ってたのかおい・・・ : 旗師:(戻して)い、いやぁ。そんな値打ちのある品物には見えなくて。へぇ・・・うん。 店主:そういうわけでして・・・そのお皿はご勘弁頂いて、お椀をお持ちしますので。 旗師:(テンションががっくりと下がる) 旗師:お椀・・・?お椀じゃ意味が無いんだよ。 店主:へ? 旗師:あ、いや、何でも無いよ。 店主:では、お椀をお持ちになりますか? 旗師:え・・?いや、いらない。 店主:でも、「慣れた器じゃないとエサを食べない」ですよね? 旗師:飼育環境が一気に変われば大丈夫さ、知らないけど。 店主:さようでございますか。 店主:それでは、その子のことを可愛がってくださいね。 旗師:え?あぁ、可愛がる・・・よ?可愛がれば良いんだろ? 0:小声で 旗師:うるせえよ、もういいんだよゴロゴロは。 旗師:あっ!!こいつ*懐《ふところ》の中でションベン引っ掛けやがった!何するんだ! 旗師:あー!一旦出ろ!毛だらけションベンだらけになるだろ!しっ!しっ! 旗師:これだから猫は嫌いなんだよ・・・ 0:声量を戻して 旗師:(咳払い)どうでもいいけど、店主さん。そんな高価な物なら奥にしまうものだろ? 旗師:なんでそんな皿で猫にメシ食わせてるんだ? 0:嬉しそうに 店主:えぇ、そのお皿で猫にご飯を食べさせておりますとね 店主:ときどき猫が、3両で売れますんで。

語り部:えー、毎度バカバカしいお笑いを一席。 お付き合いを願いたいと思います。 語り部:猫というのは古来から人気の動物ですな。 語り部:食肉目ネコ科ネコ属に分類されるリビアヤマネコという生き物。 語り部:これが家畜化された種類が、現在世界で広く飼育されております 語り部:イエネコの期限であると考えられておるわけです。 語り部:今回のお話の舞台となる江戸時代においても、様々な種類がおったと言われております。 語り部:ただし、当時は現代のような家の中だけで飼うということが 語り部:法律で禁止されとったんですな。 語り部:放し飼いのみ許されとったんです。 語り部:これがなぜかと申しますと 語り部:当時の街中にはネズミが溢れとったんですな。 語り部:これを退治してくれるのが猫というわけですな。 語り部:退治かつ癒やしにもなってくれる猫は、かなり*重宝《ちょうほう》されておったんですな。 語り部:まぁ、そんな猫に追いかけられるネズミは「キャッ」とでも言うとったんでしょうか。 : 語り部:さて、そんな江戸時代に*旗師《はたし》と呼ばれる人物がおりました。 語り部:*旗師《はたし》というのは*古着《ふるぎ》・*古道具《こどうぐ》を全国から仕入れて 語り部:*骨董屋《こっとうや》や*古道具屋《こどうぐや》に売る*仲買人《なかがいにん》。 語り部:まあ、現代で良く言えば百貨店のバイヤー、悪く言えば転売ヤーと言う職業ですな。 語り部:その*旗師《はたし》、江戸を飛び出て西へ旅するものの 語り部:今回はめぐり合わせが悪いのか、なかなか値打ち物が見つからないようで。 : 旗師:はぁ・・・ひもじいねぇ。旅に出て7日。なにもない。 旗師:歩きっぱなしで喉もカラカラ。よし。あそこにあるお茶屋で一服していくか。 : 旗師:お邪魔します。 店主:邪魔するならお帰りください。 旗師:これは失礼しました。 : 旗師:っておい。 店主:アァ、これはこれは失礼。決まり文句かと思いまして。 店主:どうぞどうぞ、おかけください。 旗師:洒落の利いた店主さんだ。では失礼して。 : 旗師:(溜息) 旗師:あぁ、お茶を1杯 店主:申し訳ございません、只今水を足したところで、少し時間がかかるんでございますが。 旗師:かまわないよ、急いでるわけじゃあないからねぇ。 旗師:ゆっくりやって。 店主:ありがとうございます、少々お待ちを・・・ 旗師:(溜息)落ち着いたのはいいけれど・・・今からどうしたものか・・・ 旗師:江戸にこの*旗師《はたし》を手ぶらで帰すことになってしまう。 旗師:全く、世知辛い世の中になったなぁ。歩いても歩いても何もないからなぁ。 旗師:前はちょっと歩けば2つ3つはあったものだってのに・・・。 旗師:あ~あ、どこかに良いもの無いかなぁ。 : 旗師:・・ん?猫がいるじゃないか。 旗師:皿に盛ってるエサ食べてらぁ。 旗師:つまり、ここで飼ってる猫か・・・。 旗師:ん!?猫がエサ食べてるあの皿・・・ 旗師:・・・・!!! 旗師:・・・間違いない、あれ「*高麗《こうらい》の*梅鉢《うめばち》」じゃないか! 旗師:適当な店へ持ってっても300両 旗師:好きなヤツなら500両で売れる代物だ。 旗師:オイオイ・・・そんなもので猫にエサ食べさせてるのか・・・! 旗師:値打ちってモンを知らないのは恐ろしいよナァ。 旗師:しかし、これはツキが回ってきたな。 旗師:まさかこんなところに*高麗《こうらい》の*梅鉢《うめばち》があるなんて思わなかった。 旗師:よし、店主をちょろまかして買い取ってやろう。 : : 店主:おまたせしてどうもすみません。お茶でございます。 旗師:あぁ、すまないな。 旗師:(お茶を少し吹いて冷まし、飲む) 旗師:あー、美味しぃ。結構いいお茶だなこれは。ありがとう。 店主:お目が高くございますね。京にあります*宇治《うじ》の茶葉を使用しております。 旗師:そいつは良いお茶だなぁ。これから高値になる良いお茶だ。 旗師:ところで、あの縁台の下に猫がいるねぇ。あれは、お宅のところの猫かい? 店主:ええ、さようでございます。 旗師:そうかいそうかい。いやぁ。可愛いなぁ。 旗師:おい、ほら、こっち来い、こっち来い。 旗師:おー、来た来た。お?随分と人に慣れている猫だねぇ。 旗師:よしよし、よしよし。 旗師:お、膝の上に乗りたいのか?よしよし、ほら乗りな。 0:猫を膝に乗せる。 旗師:よし、乗った乗った。ハハハ 店主:ああ、いけませんお客様。お着物が汚れてしまいます。 店主:申し訳ございませんねぇ、お客様が来られると、すぐ膝の上に乗りたがるもので・・・ 旗師:なに、心配ないさ。俺は猫が大好きでね。 旗師:ほら、ゴロゴロー、ゴロゴローって言ってるよ。 旗師;おぉ?どうしたぁ?今度は*懐《ふところ》に入りたいってかい? 0:猫を持ち上げて*懐《ふところ》に入れる 旗師:よいしょっと。よし、入った入った。 店主:あぁ、お客様。今は冬毛に切り替わって行く時期でございます。 店主:毛がびっしりついてしまいます。 旗師:心配することは無い。ネコ好きはそういうのは気にしないものだ。 旗師:店主さんも、猫が好き? 店主:いえ、取り立てて好きというほどでもなかったのですが 店主:店を開いた時に寄り付いた猫が、お客様に好評になりまして、飼うことになったんです。 店主:その猫が友達の猫を連れてきたり、連れてきた猫同士が交尾して子どもを産んだり。 店主:そんなことを繰り返していたら、今では20匹ウチにおりましてね。 旗師:そんなにいるのかい!?しかし、どこにも見当たらないね? 店主:いえいえ、自宅はここではございません。この先にございまして。そちらで飼っております。 店主:帰ったときには私が恋しいのか、大勢でウワーっと寄ってきまして大変なんですよ。 店主:朝、店へ出てくるときには違う1匹を選んで店に連れてくるんです。 店主:そうすると、残された猫が恨めしそうな目で私のことを見るんですよ(笑) 旗師:ハハハ、そうかい(笑) 旗師:しかし奇跡だなぁ。こんなにも俺に懐いてくれる猫に出会えるなんて。 旗師:店主さん、この猫、すっかり俺に懐いてるしさぁ。貰えねぇかなぁ? 店主:え・・?それはご勘弁を、私も可愛がっておりますもので・・・ 旗師:いや、そりゃそうでしょうけど・・・これだけ可愛い猫だよ? 旗師:可愛がってるのもわかるが、20匹も居たら大変でしょう? 旗師:それに俺、*伴侶《はんりょ》に先立たれてしまって、家に一人なんだ。 旗師:その代わりに猫を飼っていたんだが、その子にもこの間死なれちまって・・・ 旗師:この猫と触れ合ってたら、その猫のことを思い出してしまってさぁ。生まれ変わりじゃないかって思うんだよ。 旗師:なぁ、頼むよ。良いじゃないか。こうやって懐いてるんだし・・・頼むよ。 店主:そう言われましても・・・・ 旗師:そんなこと言わないでおくれよ・・・何もタダでとは言わない。 旗師:他の猫のエサ代も含めて置いていこう。ちょいと待て。 0:*懐《ふところ》を漁る 旗師:ほら、ここに3両ある。取っておいてくれないか? 店主:じ、冗談でしょう?こんな猫に3両だなんて大金・・・ 旗師:なに、後で100倍以上になるんだから・・・ 店主:へ? 旗師:いやいや!何でも無い、何でも無い。 旗師:こんなに可愛い猫だ、3両でも安いよ。 店主:でも・・・3両ですとなんだか申し訳ない気がしますね。 旗師:構うことはない、これで俺が元気になれるんだ。 旗師:あなたの猫たちにもいいエサが食べさせられるよ。 店主:さようでございますか・・・かしこまりました。遠慮なく頂戴いたします。 店主:その子のことをよろしくお願いいたします。末永く可愛がってくださいね。 旗師:大丈夫だよ、いじめなんかした日には上が黙ってないよ。 旗師:(猫に)よしよし、これから江戸でいいエサ食わせて可愛がってやるからな。 旗師:あぁ、そうだ。そういえば、この猫はいつもあの皿でエサ食わせてんのかい? 店主:えぇ、さようでございます。 旗師:そうかい、猫ってのは「慣れた器じゃないとエサを食べない」って習性があるんだ。 店主:さようでございますか? 旗師:あぁ、知り合いに動物に詳しいやつが居てな。割れた器を見ないと新しい器に納得しないってくらい 旗師:猫は器に執着をするらしい。だからその皿も一緒に貰えないか? 店主:いえいえ、その子はその辺に執着が無い子です。皿も汚れていますので、奥から綺麗な皿を持ってきます。 旗師:いやいや!その!その皿がいいんだよ! 店主:汚いですよ? 旗師:いやいや!その汚いの!汚いのが良いんだよ! 店主:はぁ・・・困りましたねぇ。 旗師:何が? 店主:この皿は・・・差し上げるわけには行かないのでございますよ。 旗師:なんで? 店主:実は・・・お客様はご存知で無いかもしれませんが。 店主:この皿は、*高麗《こうらい》の*梅鉢《うめばち》という皿でございまして。 店主:適当な店へ持って行っても300両。お好きな人なら500両はお出しになる。 店主:たいそう値打ちのある品でございまして・・・ 旗師:え・・・?え!そ、そうなの!? 旗師:こ、こんな汚い皿が!? 店主:間違いございません。私の両親や祖先からずっと受け継いでいる皿でございます。 旗師:そ、そうなのか・・・へぇ。 : 旗師:(小声)なんだよ、知ってたのかおい・・・ : 旗師:(戻して)い、いやぁ。そんな値打ちのある品物には見えなくて。へぇ・・・うん。 店主:そういうわけでして・・・そのお皿はご勘弁頂いて、お椀をお持ちしますので。 旗師:(テンションががっくりと下がる) 旗師:お椀・・・?お椀じゃ意味が無いんだよ。 店主:へ? 旗師:あ、いや、何でも無いよ。 店主:では、お椀をお持ちになりますか? 旗師:え・・?いや、いらない。 店主:でも、「慣れた器じゃないとエサを食べない」ですよね? 旗師:飼育環境が一気に変われば大丈夫さ、知らないけど。 店主:さようでございますか。 店主:それでは、その子のことを可愛がってくださいね。 旗師:え?あぁ、可愛がる・・・よ?可愛がれば良いんだろ? 0:小声で 旗師:うるせえよ、もういいんだよゴロゴロは。 旗師:あっ!!こいつ*懐《ふところ》の中でションベン引っ掛けやがった!何するんだ! 旗師:あー!一旦出ろ!毛だらけションベンだらけになるだろ!しっ!しっ! 旗師:これだから猫は嫌いなんだよ・・・ 0:声量を戻して 旗師:(咳払い)どうでもいいけど、店主さん。そんな高価な物なら奥にしまうものだろ? 旗師:なんでそんな皿で猫にメシ食わせてるんだ? 0:嬉しそうに 店主:えぇ、そのお皿で猫にご飯を食べさせておりますとね 店主:ときどき猫が、3両で売れますんで。