台本概要

 214 views 

タイトル やまい桜
作者名 てまり  (@temash73)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 3人用台本(男1、女2)
時間 70 分
台本使用規定 商用、非商用問わず連絡不要
説明 ▼あらすじ
双子でありながら、学年違う、一風変わった双子の桃と桜。
見た目は瓜二つ、中身は全くの別物。
そんな二人の運命は、桃の高校進学を機に、急速に回り出す。

姉の桃が高校で出会った好青年、王子。
3人の想いが絡まりあった先に起きた出来事とは・・・?

-----
【補足説明】
元は小説として考えていたものを、声劇台本として作成したものになります。
ラブストーリーの枠ではあると思いますが、人間ドラマ的なところもあるかと思います。
過去に演じて頂いた方々からは、総じて「救いがない」と感想を頂いています。

【演技特記】
叫びあり・泣き演技あり

【台本使用・可不可】
*可
・軽微なアドリブ(言い回しや語尾、等)
・演者様の性別変更(性別反転も可)
・SEやBGMの挿入(但し、自作・フリー素材に限る)

*不可
・元来の設定から著しく変わる程のアドリブ

 214 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
さくら 117 花菱 桜(はなびし さくら)。4月2日生まれ。 花菱家の双子の妹。大人びており、桃と比べ物静か。 中1の頃から学校に行っていない。 姉のことが好きなのと同時に、嫉妬にも似た感情を抱いている。 ※作中、セリフとは別にモノローグがあります。
もも 158 花菱 桃(はなびし もも)。4月1日生まれ。 花菱家の双子の姉。元気の子。 この春、高校1年生になる。 あまり思慮深く見られないが、実は妹思いの優しい姉。 ※作中、セリフとは別にモノローグがあります。 ※最後に「もも」役ではないナレーションがあります。
おうじ 115 星野 王子(ほしの おうじ)。 桃のクラスメイト。 成績優秀。清涼感のある優しい好青年。 かと思いきや、割と押しが強い。 ※作中、セリフとは別にモノローグがあります。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
さくら:(モノローグ) さくら:双子はそっくりなものだと、誰が決めたのだろう。 さくら: さくら:私と姉の桃は、容姿こそ似ているけれど、中身は全く別物。 さくら:明るく天真爛漫な桃と、人見知りで口下手な私。 さくら:いつも周りに比べられるのが、とても嫌いだった。 さくら: さくら:桃が嫌いなわけじゃない。 さくら:ただ時折、私も桃の様になれたらと。ふと思うだけ。  :   :   :【場面】花菱家・桜の部屋  :  0:夜通し見ていた映画が終わり、ふとパソコンの時間を確認する桜。  :  さくら:「ふわぁ・・・もう、8時?・・・寝るかぁ」  :  0:ベッドに潜り込み、寝ようとする桜。 0:そこに勢いよくドアを開け、桃が入ってくる。  :  もも:「桜ーっ!おっはよー!!」 さくら:「・・・桃。・・・・・・おやすみ」 もも:「あっ、待って待って! もも:これ見てコレ!新しい制服ーーっ!!」 さくら:「・・・ん、あぁ・・・今日だっけ。公英(こうえい)高校の入学式」 もも:「そう!前から思ってたけど、やっぱりすごい可愛い!」 さくら:「・・・ふぅん。いいんじゃない?桃に似合ってる」 もも:「本当!?えへへー。桜も絶対似合うよ! もも:だから来年は公英に来なよぉ!」 さくら:「・・・んー。私は、別に・・・」  :   さくら:(モノローグ) さくら:私と桃は双子だ。普通と少し違うのは、学年が違うって事。 さくら:生まれた日付が4月の、1日と2日を境に学年が変わるらしい。  :  もも:「えぇー・・・私、また桜と一緒に学校行きたいよぉ・・・。 もも:桜の方が頭良いし、ぜーったい受かるよぅ!」 さくら:「・・・どうだろうね。 さくら:ところで公英高校って、うちん家から30分以上かからなかったっけ?」 もも:「うん!受験の時に行ったけど、30分ちょいかかった!」 さくら:「・・・もう8時だけど、間に合うの?入学式・・・」 もも:「(食い気味に)あーっ!そーだった!! もも:新入生は早く来てくださいって、言われてた気がする!! もも:入学式当日に遅刻とか、絶対怒られるじゃん!? もも:行ってくるね、桜!!」 さくら:「うん。気を付けて」 もも:「ありがと!行ってきまぁす!!」  :  0:ドタドタと騒がしく階段を降りていく桃。 0:その音を聞きながら、溜め息をつき、再び目を閉じる桜。  :  さくら:「・・・学校、ね・・・」  : さくら:(モノローグ) さくら:中学に入って間もなく、私は学校に行かなくなった。 さくら:なんていうことは無い、よくあるイジメだ。 さくら:過激なものでは無かったから、あまり気にも留めなかったけれど。 さくら:  さくら:それでも私が登校をやめたのは さくら:それを心配した桃がオロオロしてるのを見ていられなかったから。 さくら:桃に笑っていて欲しくて、私は家に引き籠もる事にした。  :  さくら:「ふわぁ・・・寝よ」  :   :   :【場面変更】公英高校・中庭  :  0:猛ダッシュで無事、9時前に到着した桃。 0:人影が見当たらず、キョロキョロと辺りを見回す。  :  もも:「ど、どうにか間に合ったはいいけど・・・。 もも:誰もいないなぁ・・・。どこに行けばいいんだろ・・・?」 おうじ:「あの・・・どうかしました?」 もも:「うわっ!?あ、あの・・・入学式の会場ってどこですかぁ・・・?」 おうじ:「入学式・・・あぁ新入生の人か。 おうじ:会場は体育館だけど・・・えっと、リハーサルに来たの?」 もも:「・・・リハーサル??」 おうじ:「うん。新入生代表とか、答辞とかそういうの。 おうじ;入学式自体は午後からだからさ」 もも:「え!?そうなんですか!?」 おうじ:「う、うん・・・。 おうじ:入学に関しての通知とか、合格発表の時にもらわなかった?」 もも:「あっ!もらいました!えっと・・・ もも:(鞄の中をゴソゴソと探す)あ、あった!えーっと・・・ もも:『入学式日程。4月12日(月曜日)13時より』 もも:・・・・・・ほ、ほんとだぁ!!」 おうじ:「あはは、早く来過ぎちゃったね」 もも:「はいぃ~・・・。 もも:あのっ!ありがとうございました、先輩!」 おうじ:「え・・・いや、僕は先輩じゃ・・・」 もも:「(被せて)あのっ!お名前、聞いていいですか!?」 おうじ:「あ、えっと・・・星野、っていいます」 もも:「星野先輩ですね!本当に、ありがとうございました!!」  :  0:言いながら、踵(きびす)を返し走り去る桃。  :  おうじ:「えっ、あの・・・・・・行っちゃった・・・。 おうじ:ふふ、元気な人だったなぁ」  :   :   :【時間経過】ゴールデンウィーク・花菱家リビング  :  0:連休の初日、時刻は間もなく正午。 0:水を飲みに、二階の自室から桜が降りて来る。  :  もも:「あ!桜、おはよー!」 さくら:「おはよう。もう昼だけどね・・・あれ?あぁ、ゴールデンウィークか。 さくら:・・・ん、お茶菓子・・・お客さんでも来るの?」 もも:「うん!今日ね、クラスの子が遊びに来てくれるんだぁ! もも:桜の話したら、会ってみたいって!」 さくら:「え・・・そうなんだ。でも私これから寝る・・・」  :   :【SE】インターホンのチャイム音  :  もも:「あ、来たかな?はいはーい!」 さくら:「えぇ・・・私、部屋着のままなのに・・・」 もも:「(徐々に近付いてくる)いらっしゃーい!あがってあがって! もも:今ね、丁度、桜が降りて来てるんだぁ~」 さくら:「ちょっと桃・・・流石に部屋着じゃ悪いから、私着替えて・・・」  :  0:桜の言葉の途中で、リビングに王子が入ってくる。 0:ばったりと目が合う桜と王子。  : おうじ:「あ・・・。えっと、お邪魔します」 さくら:「・・・・・・・・・・・・えっ」 もも:「あ、紹介するね! もも:こちら、クラスメイトの星野王子(ほしの・おうじ)君! もも:んで、こっちが双子の妹で、桜!」 おうじ:「初めまして、星野王子です。 おうじ:桜ちゃん、だよね?いつも、桃ちゃんから話は伺ってます」 さくら:「え、あ・・・えっと、花菱桜(はなびし・さくら)、です。 さくら:その・・・・・・いつも姉が、お世話になってます・・・」 おうじ:「ふふ、本当に桃ちゃんそっくりだ。 おうじ:とっても仲の良い双子の妹さんがいるって聞いてて、会ってみたいと思ってたんだ」 もも:「王子君、適当に座って!今ジュースとお菓子出すから!」 おうじ:「あ、ありがとう。手伝おうか?」 もも:「だいじょーぶ!あ、桜! もも:冷蔵庫にケーキ入ってるから、一緒に食べよ!」 さくら:「あ・・・うん」 もも:「桜!お皿に取り分けるから、手伝ってー!」  :  0:桜、手伝いをする為に足早にキッチンへ。 0:次いで、声を潜めて桃に話しかける。  :  さくら:「(小声)ちょ、ちょっと。桃・・・」 もも:「(つられて小声に)え?何、どうしたの?」 さくら:「(小声)クラスの子って、男の子だったの?」 もも:「(小声)え、うん。そう言わなかったっけ?」 さくら:「(小声)聞いてないよ・・・!クラスの子、だとしか・・・」 もも:「(小声)あれ。そうだっけ?ごめぇん。 もも:でもいい人だから、桜も仲良くなれると思うんだ!」 さくら:「(小声)仲良くって・・・。 さくら:私、同級生の男の子とも、あまり話したことないのに・・・」  :  もも:(モノローグ) もも:この日。私と桜と王子君で、夕方までの時間を遊んで過ごした。 もも:一緒に遊ぼうとせがんだ私に、桜は時折あくびをしながらも付き合ってくれる。 もも:後から聞いた話だけど、思いの外楽しんでいたらしい。 もも:  もも:王子君には夕食のお誘いもしたけど もも:家でご飯を用意してるからと、少しだけ困った顔で笑い、帰っていった。 もも:  もも:それから幾度となく。 もも:王子君が私たちの家に遊びに来ては、3人で遊ぶようになった。 もも:昼夜逆転の生活を送っていた桜が、徐々に昼間活動する様になる。 もも:  もも:私を心配させまいと、学校に通わなくなってから減った笑顔が もも:また増えたのが、何より嬉しかった。  :   :   :【時間経過】夏休み・美晴市(みはる-し)内の公園  :  0:夏休みの中盤。 0:夏休みの課題のために、市内の水族館へ行った桃と王子。 0:時刻は夕方となり、近くの公園でアイスを食べている。  :  おうじ:「水族館、思ってたより楽しかったね」 もも:「うん!ちっちゃい頃は、割と行ってたと思うんだけどね。 もも:最近は全然行ってなかったからなぁ」 おうじ:「そうなんだ。でも、美晴市っていいよね。 おうじ:自然が多いし、なんか空気が美味しい気がする」 もも:「んー、そうなのかなぁ?産まれてからずっとここにいるからなぁ・・・。 もも:王子君は、菜摘市(なづみ-し)に住んでるんだっけ?」 おうじ:「そう。お店はいっぱいあるけど、人もすごい多くて。 おうじ:少し、疲れるかな」 もも:「ふぅん、そうなんだぁ。遊ぶところがたくさんあって羨ましいけどなぁ。 もも:こっちの映画館とか、ちっちゃい子が見るアニメしかやらない様な もも:個人経営の映画館だけだよ?」 おうじ:「へぇ・・・。なんか、見たい映画あるの?」 もも:「うーん、特別見たいってのは無いけど もも:もっと選択肢があったら色々見たいなーって思うかも!」 おうじ:「そっか・・・、ねぇ。今度、映画見に行かない? おうじ:一緒に見たいの、あるんだよね」 もも:「そうなの?どんなやつ?」 おうじ:「えっと・・・その、・・・・・・ラブストーリー・・・」 もも:「・・・へぇ・・・なんか、ちょっと意外。 もも:王子君シャイだから、そういうの見ないと思ってた」 おうじ:「あ、うん。人と見たことは、ないかな・・・」 もも:「ふぅん・・・。じゃあなんで?」 おうじ:「・・・・・・好きだから。桃ちゃんの事が」 もも:「・・・・・・」 おうじ:「・・・・・・」 もも:「っ、えぇぇぇ!?」 おうじ:「っそ、そんなに驚かないでよ・・・。 おうじ:好きじゃなかったら、こんなに一緒に遊んだり、家にまで行かないよ・・・」 もも:「あ・・・そう、だよね・・・うん。うん・・・」 おうじ:「僕の事、男としては見られない?」 もも:「い、いや・・・見られなくはないよ・・・っていうか もも:王子君、正直かっこいいと思うしっ、優しいところも・・・ もも:その、す、好き・・・だよ・・・」 おうじ:「本当?じゃあ、僕の彼女になってくれませんか?」 もも:「か、かの・・・うぅ・・・・・・、・・・ぃ」 おうじ:「え?ごめん、聞こえなかった」 もも:「あぅ・・・その、私で良ければ・・・はぃ・・・」 おうじ:「・・・・・・」 もも:「・・・・・・え、王子君?」 おうじ:「・・・よかっ、たぁ・・・・・・。 おうじ:まだ知り合ってそんなに経ってないし、時期尚早過ぎたかなって おうじ:正直すごいドキドキしてたんだ」 もも:「そ、そうなんだ・・・。私も、ドキドキした・・・っていうか、今もしてるよ・・・」 おうじ:「あはは、じゃあお揃いだ」 もも:「うん・・・、お揃い」 おうじ:「・・・そろそろ帰ろうか。映画、行こうね」 もも:「うん、楽しみにしてる」  :  おうじ:(モノローグ) おうじ:いつもより少し大人しくなった桃ちゃんと、手を繋いで家まで送った。 おうじ:いつもなら桜ちゃんにも挨拶するために顔を出すのだけど おうじ:日は『恥ずかしいから』と断られてしまった。 おうじ:  おうじ:自宅までの帰り道。 おうじ:無意識にスキップしているのではないかと思い おうじ:何度も立ち止まっては深呼吸をする。 おうじ:  おうじ:先ほどまで僕の掌(てのひら)にあった桃ちゃんの手の熱が おうじ:夏の熱に同化して消えてしまわぬ様、右手をギュッと握りしめて歩いた。  :   :   :【場面変更】花菱家  :  もも:「ただいまぁ」 さくら:「おかえりー・・・あれ、王子先輩は?」 もも:「あ、うん。今日は寄らずに帰ったよ」 さくら:「・・・ふぅん」 もも:「・・・あの、桜。私ね、王子君と・・・」 さくら:「(被せて)あ。そういえば今度、菜摘市で花火大会あるんだって。 さくら:桃、王子先輩と行くの?」 もも:「え、花火大会?そういう話は聞いてないけど・・・なんで?」 さくら:「んー・・・王子先輩と行くなら、私も久々に行こうかな?って思って」 もも:「え!本当!?行こう、花火大会!王子君にも聞いてみるし!!」 さくら:「うん。・・・・・・ねぇ、桃」 もも:「なぁに?」 さくら:「・・・・・・私、王子先輩のこと好きかも。 さくら:桃だけじゃなく私にも優しいし、それに・・・王子先輩、かっこいいよね」 もも:「・・・・・・え?」 さくら:「・・・桃?どうしたの? さくら:っていうか、なんか元気ないよね?なんかあった??」 もも:「・・・そ、そうかな?なんだろ・・・ もも:外まだ暑かったから、熱中症みたいになってるのかな・・・?」 さくら:「え、それマズくない?水飲んで寝た方がいいよ。 さくら:アイス枕出してあげるから、ほら、横になって」 もも:「・・・うん、ごめん・・・ありがとう」  :  もも:(モノローグ) もも:桜に促されるまま、ソファに横になり目を瞑る。 もも:本当は鈍ってなんかいない頭をフル回転させて、自分と桜を天秤にかけた。 もも:  もも:産まれた時から、ずっと一緒。 もも:いつもクールだけど、本当は私や周りにいる女の子と同じ もも:可愛い物やかっこいい人が好きな、普通の女の子。 もも:  もも:私の事を大切にしてくれて、自分すら犠牲にしてくれる もも:とても優しい女の子。私の半身。大切な妹。 もも:やっと、私の大好きな桜の笑顔が戻ってきたのに・・・・・・。  :  もも:「(桜に聞こえない様に)・・・どうすればいいの・・・・・・?」  : もも:(モノローグ) もも:結局。私の身に起こった幸福な出来事を もも:私は桜に伝える事が出来なかった。  :   :   :【時間経過】花火大会当日・菜摘市内の公園  :  0:川沿いであがる花火に合わせ、人で溢れかえる公園。 0:公園の内外には、いくつもの出店が並んでいる。  :  おうじ:「桃ちゃん、桜ちゃん。こっち」 もも:「王子君!」 さくら:「王子先輩、こんばんは」 もも:「ごめんね、待った?」 おうじ:「ううん、全然。僕もさっき来たところ」 もも:「そっか。良かった!」 さくら:「・・・・・・」 おうじ:「・・・桜ちゃん?どうしたの?」 さくら:「あっ、いえ・・・その、浴衣・・・すごい似合ってます」 おうじ:「あはは、ありがとう。桜ちゃんも似合ってるよ」 さくら:「あ・・・ありがとうございます」 おうじ:「桃ちゃんも可愛い。桃ちゃんらしくて好きだな」 もも:「・・・っあ、ありがとう!」 さくら:「あ、ねぇ。花火始まる前に、何か買いませんか? さくら:お祭り久々だから、屋台のご飯楽しみで」 おうじ:「いいね。何食べたい?」 もも:「ベビーカステラ食べたい!あと、りんご飴!」 さくら:「桃?ベビーカステラとりんご飴は、ご飯の括りじゃなくない?」 おうじ:「ふふっ。ご飯ものも甘いものも、どっちも食べよう」 もも:「よーし!たくさん食べるぞー!」 さくら:「ちょっと、桃・・・あくまで今日のメインは花火だからね?」 もも:「わかってる! もも:でも桜とお祭り来るのなんて久しぶりで、楽しみなんだもん!」 さくら:「もぉ~・・・」 おうじ:「(2人の様子を見て、くすくす笑う)」  :   :   :【時間経過】花火開始直前・人混みの中  :  もも:「早く早く!もうすぐ花火始まっちゃう!」 おうじ:「桃ちゃん待って。あそこ、少し高くなってる」 もも:「あっ、本当だ!あそこでいいかな、桜・・・・・・って、あれぇ!?」 おうじ:「・・・はぐれちゃった、かな・・・」 もも:「うっそ・・・探しに行かなきゃ!」 おうじ:「っ、待って!この人混みだし、むやみに動いても見つからないと思う」 もも:「あっ、そうだよね!待って、桜に連絡する!」 おうじ:「うん。ここで待っていよう」 もも:「・・・連絡、よし・・・っと。大丈夫かなぁ・・・」 おうじ:「・・・・・・ちょっと嬉しいな」 もも:「え?」 おうじ:「・・・桃ちゃんと二人きりになれたから」 もも:「えっ、あ・・・」 おうじ:「・・・あ、ごめん。桜ちゃんの事、心配だよね」 もも:「う、うん・・・でも、その・・・私も、二人きり・・・嬉しい・・・」 おうじ:「・・・・・・ね、手繋ごう?」 もも:「えっ!?でも桜が来ちゃう・・・」 おうじ:「少しだけ。ね?」 もも:「う、うん・・・」  :  0:そっと手を繋ぐ2人。  :  おうじ:「・・・・・・桜ちゃんに、話してないんだね。僕らのこと」 もも:「っ・・・う、ん・・・・・・」 おうじ:「なんで?・・・っていうのは、聞かないでおくよ。 おうじ:桃ちゃんが決めて、そうしてるんだよね?」 もも:「・・・うん。ごめんね?」 おうじ:「いいよ。でも、じゃあそうだな・・・」  :  0:桜が到着。だが、桃と王子は気付かない。  :  さくら:「やっと見つけたぁ・・・」  :  おうじ:「聞くのは我慢するから。ご褒美、頂戴?」 もも:「え?」  :  0:王子から、桃へキス。同時に花火が始まる。  :  さくら:「・・・・・・・・・え?」  :  もも:(モノローグ) もも:ほんの少しだけ触れるキス。 もも:夜空で響く大きな音に、頭と耳が痺れるように。 もも:唇もずっと、鼓動を刻んでた。 もも:  もも:ふわふわとした頭が幸福感でいっぱいになる。 もも:自然と零れる笑顔と、繋いだままの手。 もも:  もも:・・・桜は、戻って来なかった。  :   :   :【時間経過】花火大会後・花菱家  :  0:先に帰宅していた桜の耳に、大きなドアの音が届く。 0:次いで、騒々しい足音。 0:次の瞬間、階段を駆け上がってきた桃が、桜の部屋の扉を壊れんばかりの勢いで開いた。  :  もも:「桜っ!!」 さくら:「・・・・・・何?」 もも:「・・・よかったぁ、いたぁ・・・。場所、わからなかった?」 さくら:「・・・・・・別に」 もも:「・・・桜?どうしたの・・・?具合悪い・・・?」 さくら:「・・・・・・なんでキスしてたの?」 もも:「え・・・。見、てたの・・・?」 さくら:「そんなこと聞いてない。なんでキスしてたかって聞いてるの。 さくら:・・・もしかして、付き合ってたの?」 もも:「っ!・・・付き、合って・・・た・・・」 さくら:「・・・・・・なんで、言わなかったの・・・? さくら:私が王子先輩のこと好きって知ってて、でも・・・桃は先輩と付き合ってて・・・? さくら:・・・影で笑ってたの?無駄なのにって?」 もも:「ちがっ・・・そんな事しない!そんな事しないけどっ・・・」 さくら:「(食い気味に)しないけど何!?」 もも:「・・・・・・っ王子君と付き合い始めた日に・・・ もも:私、桜に報告しなきゃって思ってたの・・・。でもっ・・・ もも:その日に、桜から王子君の事が好きだって言われて・・・。 もも:  もも:・・・桜、最近よく笑うようになって・・・ もも:でもそこで、私が王子君と付き合ってるなんて知ったら・・・ もも:私、また桜の笑顔、奪っちゃうんじゃないかって・・・それで・・・」 さくら:「・・・何それ」 もも:「え・・・?」 さくら:「何それ。そんな理由で、嘘ついてたの?」 もも:「嘘なんかついてな・・・」 さくら:「(被せて)ついてるでしょ!? さくら:・・・だって桃、私に隠し事してたんでしょ?一言、言えば済む話なのに」 もも:「だからそれはっ!桜の笑顔が・・・」 さくら:「(被せて)だからぁ!!」 もも:「っ!?」 さくら:「・・・何?私の笑顔って。確かに私いじめられてたよ。 さくら:理由は理不尽だったし、それで桃がすごい悩んでるのが嫌で さくら:学校行かなくなったよ。 さくら:  さくら:でもさぁ!!・・・それで私なんか言った? さくら:私、桃のせいだとか言った!?」 もも:「言、ってない・・・けど、そんなの・・・」 さくら:「私!別に桃の犠牲になったとか思ってない! さくら:元々あまり人付き合い得意な方じゃないし さくら:それを無理して頑張って桃が落ち込むくらいならいいやって・・・」 もも:「・・・・・・」 さくら:「・・・裏切り者」 もも:「え・・・」 さくら:「・・・出てってよ。私の部屋から!出てってよ!!」 もも:「さく、ら・・・ご、めん。ごめん、ね・・・?」 さくら:「うるさい・・・出てってよ!早く!!」 もも:「桜っ・・・謝る、謝るから・・・ねぇ・・・」 さくら:「いらない!早く、出てって!」  :  0:部屋から桃を押し出す桜。  :  もも:「ねぇ!ダメだよ、ちゃんと話そうよ!ねぇ!!」 さくら:「しつこいな!嘘吐きと話す事なんてっ・・・ない!!」  :  0:思いきり桃を押し出す桜。瞬間、桃の体勢が崩れる。  :  もも:「さくっ・・・、え」 さくら:「え・・・」  :   :《この先【時間経過】までモノローグ》  :  もも:私たちの部屋はそれぞれ、向かい合って位置していた。 さくら:私たちの部屋はそれぞれ、階段を登ってすぐのところにあった。 もも:私の視線が。ふわりと宙に傾いた。 さくら:桃の体が。ふわりと宙に浮いた。 もも:背中からぐんっ、と引かれる様に。 さくら:階下からぐいっ、と引かれる様に。 もも:私は。 さくら:桃は。  :  もも:鈍い音と共に、叩きつけられた。 さくら:浴衣が赤く、染まっていく。  :   :   :【時間経過】3ヶ月後・美晴総合病院  :  0:規則的な高く短い音が、静かな室内に顔を出しては消えていく。 0:白いベッドに無言で横たわる桃。その傍らには、同じく無言で座る桜の姿。 0:虚ろな目でぼーっと目覚めない桃を見やる。  :  0:そこに王子がお見舞いに現れる。  :  おうじ:「桜ちゃん、こんにちは。・・・桃ちゃんは?」 さくら:「・・・まだ・・・・・・」  :  おうじ:(モノローグ) おうじ:あの日から、3ヶ月が経過していた。 おうじ:  おうじ:桃ちゃんとキスをした、あの日。 おうじ:花火が終わるや否や、送ると言った僕の言葉を背に おうじ:桃ちゃんは足早に帰っていった。 おうじ:  おうじ:その後の連絡が一切無く、違和感を覚えた僕は翌日、通い慣れた2人の家へ。 おうじ:そこで1人留守番をしていた桜ちゃんが教えてくれたのは・・・。  :  さくら:『人混みが凄くて、教えてくれた場所まで行けなかったの。 さくら:桃が心配して帰ってきてくれたんだけど、慌ててたせいで さくら:階段を踏み外したみたいで。転落したの』  :  おうじ:(モノローグ) おうじ:淡々と語る桜ちゃんの顔は蒼白で。 おうじ:視線も合わず、笑顔を取り繕う余裕もない様だった。 おうじ:  おうじ:当然だ。家族であり、この世でたった2人の双子同士。 おうじ:唐突に知った事実に狼狽えるしか出来なかった、僕なんかよりも。 おうじ:動揺していて当たり前なのだと。 おうじ:  おうじ:『何故いつも通り、彼女を家まで送らなかった?』 おうじ:  おうじ:虚ろに語る桜ちゃんの、その目の前で。 おうじ:自責の念を吐き出しそうになる自分を、必死に抑えた。  :  さくら:「・・・王子先輩?」 おうじ:「あ・・・どうしたの?」 さくら:「ううん。外、寒かったですか?」 おうじ:「だいぶ寒くなってきたよ。もう帰る?」 さくら:「・・・ううん。先輩が帰る時に、一緒に出ます」 おうじ:「わかった。そうしよう」  :  さくら:(モノローグ) さくら:あの日から、3ヶ月が経過していた。 さくら:  さくら:糸の切れた操り人形の様に、桃が動かなくなった、あの後。 さくら:目の前で起きた出来事に、私は現実感がないまま、しばらく呆けていた。 さくら:  さくら:ハッと我に返り、震える手で救急車を呼ぶ。 さくら:家族は不在だった。 さくら:  さくら:『火事ですか?救急ですか?』と聞かれ、ほんの少し言い淀む。 さくら:連絡すべきは警察だっただろう。 さくら:  さくら:自分がやったくせに。 さくら:そこでようやく自分の仕出かした事に恐怖を覚えた私は さくら:声を絞り出す様に震える声で『救急です』と答えた。  :  おうじ:「桜ちゃん。お母さんいらしたから、帰ろう?送るよ」 さくら:「・・・・・・はい」  :   :   :【場面変更】美晴市内の公園・無言で歩く2人  :  おうじ:「・・・・・・」 さくら:「・・・・・・」 おうじ:「・・・桃ちゃんね。あの日、すごく急いで帰ったんだよ」 さくら:「・・・・・・はい」 おうじ:「・・・よっぽど心配だったんだね・・・。 おうじ:僕、桃ちゃんのこと・・・ちゃんと送れば良かった・・・」 さくら:「・・・別に、王子先輩のせいじゃないですよ・・・」 おうじ:「そう、かな・・・。僕さえちゃんと送っていれば・・・ おうじ:こんな事故、防げたかも知れないのに・・・」 さくら:「あれは・・・桃がいけないんです・・・。 さくら:ちゃんと足元を見なかったから・・・」 おうじ:「・・・桜ちゃん・・・」 さくら:「・・・・・・先輩は・・・絶対に、悪くないです・・・」 おうじ:「・・・ありがとう。早く目が覚めるといいよね・・・」 さくら:「・・・・・・・・・あ」 おうじ:「・・・桜ちゃん?」  :  さくら:(モノローグ) さくら:どうして思いつかなかったのか。今になって、まずいことに気付いた。 さくら:桃は、転落した理由を覚えているだろうか? さくら:  さくら:誰しもが、私の言った言葉を鵜呑みにして、あれは単なる事故だと思っている。 さくら:でも、桃が目を覚ましたら?あの時の事を鮮明に覚えていたら? さくら:  さくら:きっと許されない。 さくら:私の拙(つたな)い嘘は暴かれて、同時に私は犯罪者になるのだろう。 さくら:  さくら:・・・・・怖い。 さくら:  さくら:ずっと一緒に育ってきた、双子の姉。明るく元気で優しい、私の姉。 さくら:・・・私は心底、桃の目がこのまま覚めなければと願った。 さくら: さくら:可哀想な桃。突き落とされ、目覚める事すら拒否されて。 さくら:私なんかと姉妹でなければ、こんな目には合わなかったのにね・・・? さくら:  さくら:頭の隅に、何かがチクリと。 さくら:刺さって、ズキリと頭が鳴いた。  :   :   :【時間経過】更に3ヶ月後・美晴総合病院  :  さくら:(モノローグ) さくら:半年が経った。桃はまだ、目を覚まさない。 さくら:  さくら:年が明けて。最近は父も母も、週末にしか病院に来なくなった。 さくら:桃の事が大好きな私が、いつも傍にいるからだって。 さくら:  さくら:そんな時、私は優しく切なそうに笑う。 さくら:そんな時、私の心は悪態ついて、ほくそ笑む。  :  さくら:「・・・・・・っ、痛・・・」  :  さくら:(モノローグ) さくら:最近の私は、何度も何度も断念している。 さくら:  さくら:お医者さんが言っていた。 さくら:今の桃は、いつ自発的な呼吸が止まるかわからないから さくら:機械で補佐してるんだって。 さくら:だから、これを取ったらもしかしたら・・・。 さくら:  さくら:悪魔の様な考えが頭をよぎる。 さくら:その悪魔に唆(そそのか)される様に手を伸ばし、そこでいつも頭が痛んだ。 さくら:それはまるで、私が一線を越えないように。 さくら:  さくら:痛みは、日に日に強くなっている。  :   :  おうじ:「桜ちゃん?」 さくら:「っ、王子先輩・・・」 おうじ:「こんにちは・・・どうしたの?頭、痛い?」 さくら:「・・・いえ、大丈夫です・・・」 おうじ:「そっか・・・僕が言うのもなんだけど おうじ:あまり無理しないでね。桜ちゃんまで倒れちゃう」 さくら:「・・・・・・」 おうじ:「もし桜ちゃんが倒れたりしたら、目を覚ました桃ちゃんが心配するからさ」 さくら:「・・・・・・先輩。桃は、目覚めると思う?」 おうじ:「え・・・」 さくら:「だって・・・もう半年も目覚めないんですよ・・・? さくら:もう少しで、冬も終わっちゃう・・・。 さくら:お医者さんだって、何が原因で目を覚まさないかわからないって! さくら:もし目覚めても、後遺症が残るかもって・・・ さくら:そんな事になるのなら、今ここでっ・・・」 おうじ:「(食い気味に)桜ちゃんっ! おうじ:・・・・・・ダメだよ、そんなこと言っちゃ・・・」 さくら:「っ・・・、・・・そうですよね。先輩は桃の事、好きなんですもんね・・・」 おうじ:「えっ・・・知ってたの・・・?」 さくら:「・・・はい。キスしてるの、見ましたから・・・」 おうじ:「・・・・・・そうだったんだ。 おうじ:だから、あの日戻って来なかったの?気を遣わせてしまった・・・?」 さくら:「それも、あります・・・、けど・・・」  :  おうじ:(モノローグ) おうじ:そう言って口を閉ざした桜ちゃんは俯き、表情を読み取ることが出来ない。 おうじ:桃ちゃんは、桜ちゃんが僕らの事を知っていることを、知っているだろうか?  :  さくら:「・・・・・・王子先輩。私と、付き合ってくれませんか?」 おうじ:「・・・・・・え?」 さくら:「先輩・・・この半年、ずっとお見舞いに来てくれてる・・・。 さくら:私、嫌なんです!来る度に寂しそうな顔をする先輩を見るの・・・。 さくら:  さくら:私は先輩が好き!私なら先輩にそんな寂しい思いさせない! さくら:先輩が桃の事、忘れられる様に頑張る!だからっ・・・!」 もも:「・・・・・・さく、ら・・・?」 さくら:「(同時に)っ!?」 おうじ:「(同時に)っ!?」 もも:「・・・桜・・・どう、したの・・・。泣かな、いで・・・?」 さくら:「・・・・・・も、も・・・・・・?」 おうじ:「っ!・・・も、桃ちゃんっ!」 もも:「・・・王子君、だぁ。どうしたの・・・?王子君も、泣いてる・・・?」 おうじ:「っ!なんでもない、大丈夫だよ・・・! おうじ:あ・・・待って、先生呼ばなきゃ! おうじ:・・・もしもし!?506号室の花菱桃(はなびし・もも)です! おうじ:目をっ・・・覚ましました!!」  :   :   :【時間経過】桃の病室・次々と訪れる医療関係者  :  もも:(モノローグ) もも:起きたばかりの動きの鈍い頭で、知らない大人たちからの質問に答える。 もも:正直、内容は覚えていない。 もも:  もも:バタバタと騒々しくなった部屋の隅に追いやられながら もも:桜と王子君は、私を取り巻くそれらを見ていた。 もも:  もも:声を抑えて涙を流す王子君。私はそんなにも長い間、眠っていたのだろうか? もも:桜はほとんど俯いていたけど、時折あげた顔は泣きそうで もも:困っている様にも見えるその顔は、怯える様に強張っている。  :  おうじ:「うっ・・・・・・ぐすっ、ふぅ・・・・・・」  :  さくら:(モノローグ) さくら:とうとう、恐れていた事が起きた。桃が、目覚めてしまった。 さくら:  さくら:『頭が痛い』 さくら:  さくら:何を話しているのだろう。 さくら:余計な事を言わなければ良いのだけれど。 さくら:  さくら:『頭が痛い』 さくら:  さくら:今頃は急いで、父と母が病院へ向かっているんだろう。 さくら:二人で話すタイミングはいつ来るかな。 さくら:  さくら:『頭が痛い』 さくら:  さくら:本当の事を言われたら、どうする? さくら:今ならまだ、記憶の混乱とかで、ごまかせないかな? さくら:  さくら:『頭が痛い』 さくら:  さくら:どうにか説得しなきゃ。最悪、もう一度・・・。 さくら:  さくら:『頭が・・・・・・あれ・・・?』  :  おうじ:「・・・・・・え、桜ちゃん・・・?」 さくら:「ぐ、ぁ・・・あ、ぁぁぁあぁ・・・」 もも:「・・・え?さく、ら・・・?」  :  おうじ:(モノローグ) おうじ:隣にいた桜ちゃんの体が、崩れ落ちた。頭を抱えて、もがく。 おうじ:桃ちゃんと同じ、華奢なその体から出ているとは思えないほど おうじ:低い唸り声をあげて・・・そして、唐突に動かなくなった。 おうじ:  おうじ:大人たちが桜ちゃんに駆け寄る。 おうじ:到着した二人のご両親の顔が、再び絶望に染まった。  :   :   :【場面変更】美晴総合病院・桜の病室  :  さくら:「・・・・・・?」 もも:「あっ、桜!起きた!?」 さくら:「・・・も、も・・・・・・?」 もも:「待ってね!看護師さん呼ぶ・・・・・・え?」 さくら:「・・・待って・・・その前に、話したい事・・・ある・・・」 もも:「え?そんな事言ってる場合じゃ・・・」 さくら:「(食い気味に)いい、から・・・」 もも:「・・・・・・何?どうしたの?」 さくら:「・・・・・・っ、あの・・・その・・・・・・」 もも:「うん・・・」 さくら:「・・・う、あ・・・・・・ごめん、なさいぃぃ・・・」 もも:「桜・・・大丈夫。大丈夫だよ・・・」 さくら:「っ私、桃のこと・・・つ、突き飛ばして・・・」 もも:「(被せて)あれは!・・・あれは、事故だよ」 さくら:「・・・・・・でも、あの時・・・私ぃ・・・」 もも:「あれは、私が悪かったの。桜は悪くない」 さくら:「でもっ、でもぉ・・・私、桃の目が・・・覚めなきゃ、いいって・・・」 もも:「っ・・・うん、わかってる。怖かったんだよね・・・?」 さくら:「ひっく・・・先輩も、私が貰っちゃえってぇ・・・」 もも:「うん・・・」 さくら:「・・・桃の・・・目が覚め、て・・・覚えてるなら・・・ さくら:もう一度、眠らせなきゃってぇ・・・!」 もも:「・・・うん・・・」 さくら:「・・・私っ、桃に酷い事ばかり・・・思ってぇ・・・」 もも:「うん・・・」 さくら:「私ぃ、自分のっ・・・事ばっかりぃ・・・」 もも:「仕方ないよ・・・怖いもんね・・・」 さくら:「・・・・・・私、最悪だぁ・・・」 もも:「大丈夫・・・そんなことない。 もも:桜は、私の大事な妹・・・大好きな妹だから・・・」 さくら:「・・・うぅぅ・・・ごめ、んなさ・・・いぃ・・・」 もも:「うん・・・大丈夫。大丈夫だよ・・・」 さくら:「あぁ、ぁぁぁぁぁ・・・」  :  もも:(モノローグ) もも:私に縋りついて泣く桜を、ただひたすら抱きしめた。 もも:胸に刺さる言葉は沢山あったけど もも:でも一番、心を痛めてるのは桜だと思ったから。 もも:  もも:臆病で繊細な桜の心。きっと怖かっただろう。 もも:私を傷付けた事、周りを騙した事、好きな人が離れていく事・・・嘘がバレる事。 もも:  もも:自分を責めて、責めて、責めて・・・自分こそが悪なのだと。 もも:心を欺いて、ひたすら自分を責め抜いた。 もも:  もも:それでも。 もも:堰(せき)を切った様に溢れ出したのは、桜の素直な心の内で。 もも:嫌われたくないと泣く、寂しがり屋な桜の悲鳴で。 もも:  もも:あぁ。やっぱり私は、桜が大切なんだって。そう、思った。  :   :   :【時間経過】3ヶ月後・病院の中庭  :  0:3人が初めて出逢った日から、ちょうど1年後のゴールデンウィーク。 0:天気は良好で、中庭には多くの患者やその家族が散歩に出ている。 0:桃と桜もまた、その日和に誘われて、中庭に出てきていた。 0:車椅子に乗る桜と、それを押す桃。そこに王子が訪れる。  :  おうじ:「桃ちゃん!」 もも:「あ、王子君。来てくれたんだ」 おうじ:「うん。今日からゴールデンウィークなんだ。調子はどう?」 もも:「うん。私は大丈夫、そろそろ退院できるって」 おうじ:「そうなの!?良かったぁ・・・。学校は?復学するの?」 もも:「もちろん。まぁ、私はもう1回、1年生からだけどね」 おうじ:「そうだね・・・」 もも:「そんな顔しないで!今後ともよろしくね、王子先輩っ!」 おうじ:「せ、先輩はやめてよ・・・今まで通り、呼んで欲しいな」 もも:「ふふっ、学校じゃない時はそう呼ばせてもらいまーす!」 おうじ:「あはは。 おうじ:・・・桜ちゃん、こんにちは」 さくら:「(小さく頷く)・・・・・・」 おうじ:「・・・今日はいい天気だね。お散歩、気持ちいいでしょ」 さくら:「(首を傾げる)・・・・・・?」 もも:「・・・・・・ごめん、王子君。桜ね、もうあまり言葉、わからないの」 おうじ:「・・・・・・え?」 もも:「原因はわからないけど・・・ もも:かなり早い速度で、脳の機能が弱ってるんだって・・・。 もも:体の機能も、ちょっとずつだけど・・・悪くなってるって・・・」 おうじ:「っ、そんな・・・」 もも:「・・・へへ、でもね。私の事は覚えてくれてるの・・・。 もも:看護師さんが外に連れ出そうとすると怖がるんだけど もも:私だとね・・・素直に車椅子に乗ってくれるの・・・」 おうじ:「・・・そっか。うん、仲良しだったもんね・・・ずっと・・・」 もも:「・・・・・・うん。私の大切な、妹だから」 おうじ:「うん・・・」 もも:「・・・・・・ん、何?どうしたの、桜」 さくら:「(桃の腕を引っ張りながら)・・・ぁ、う・・・」 もも:「うん。そうだね、戻ろうか・・・。 もも:・・・王子君、ちょっと待っててくれる? もも:桜、部屋に帰してくるから。もう少し話そう?」 おうじ:「うん、もちろん。ここで待ってれば良い?」 もも:「うん。たぶん桜、部屋に戻ったらすぐ寝ちゃうから。すぐ戻って来るね」 おうじ:「わかった。いってらっしゃい」  :  おうじ:(モノローグ) おうじ:2人を見送って、ベンチに腰掛けた。 おうじ:辺りには老若男女問わず、幾人もの人が散歩を楽しんでいる。 おうじ:  おうじ:空は晴天で、まだ暖かいと感じる程度の柔らかい日差しが おうじ:雲に遮られることなく降り注いでいた。 おうじ:ふわりと、春特有の甘い様な風が通り過ぎて、僕の髪を揺らす。  :   :   :【時間経過】十数分後・病院の中庭  :  もも:「王子君、お待たせ」 おうじ:「ん・・・桃ちゃん。本当に早かったね」 もも:「うん・・・体力も落ちてるみたいでね。 もも:桜が起きてる時間って、最近はあまり無いの」 おうじ:「・・・そうなんだ。でもきっと良くなるよ。 おうじ:桃ちゃんも目が覚めてから、回復すごい早かったし・・・」 もも:「・・・・・・」 おうじ:「・・・桃ちゃん?」 もも:「・・・・・・回復はもう、しないかも・・・」 おうじ:「え?」 もも:「もうね・・・今が精一杯なんだって。 もも:今のまま、緩やかに・・・弱るしか、ないんだって・・・」 おうじ:「・・・え?でも治療してるんじゃ・・・」 もも:「(食い気味に)してないのっ・・・。今はただ・・・ もも:出来る限り長く生きていられるように、してるだけ・・・。 もも:・・・あはは、余命・・・3ヶ月だって・・・」 おうじ:「っ!そんなっ・・・!」 もも:「・・・なんでかなぁ・・・? もも:私、大人になるまで・・・大人になっても、ううん・・・ もも:おばあちゃんになってもずっとっ・・・ もも:桜と一緒にいるのが夢だったのになぁ・・・・・・」 おうじ:「桃ちゃん・・・」 もも:「・・・桜、すごい良い子なのに・・・。 もも:どうして、こんな目に合わなきゃいけないのかなぁ・・・?」 おうじ:「っ・・・桃ちゃん・・・!」  :  0:桃を抱き締める王子。 0:周りの視界から遮られたにも関わらず、桃は縋るでも泣き叫ぶでもなく ただただ嗚咽を押し殺して涙する。  :  もも:「(徐々に泣き止んで)・・・・・・でも、仕方ないんだよね・・・。 もも:受け入れないと、今を一生懸命に生きてる桜が、可哀想だもんね。 もも:  もも:・・・だからね、王子君」  :  0:王子の胸から離れ、まっすぐに王子を見据え。  :  もも:「私と、別れてください」 おうじ:「・・・・・・え?」 もも:「私ね、今は桜のために生きたい。 もも:もちろん、私は私自身を頑張ることに、変わりはないんだけど。 もも:でも今は、桜以上に大切な人を作りたくない・・・ううん。 もも:桜以外に大切な人を作りたくないの」 おうじ:「・・・・・・それも、桃ちゃんが決めたこと・・・?」 もも:「うん」 おうじ:「・・・・・・桜ちゃん、知ってたよ。僕と桃ちゃんの事」 もも:「うん。知ってる」 おうじ:「・・・今、桜ちゃんは・・・わからないんだよね?」 もも:「・・・そうだね」 おうじ:「っ・・・、意見は・・・変わらないんだね」 もも:「うん。ごめんね」 おうじ:「・・・・・・(溜め息)うん、わかった・・・。 おうじ:・・・っわかりたくないけど!! おうじ:・・・桃ちゃんの事っ・・・・・・好きだからっ!」 もも:「・・・・・・うん。最後まで、ごめんね・・・ありがとう」 おうじ:「・・・僕の方こそっ・・・ありがとう・・・」  :  もも:(モノローグ) もも:晴れ渡る5月の空の下。 もも:肩を震わせ泣く、星野君の背中を見送った。 もも:  もも:また涙が溢れそうになったけど。空を仰いで、涙をグッと飲み込む。 もも:潰(つい)えた夢の、その代わりに。 もも:新たな夢に向かって、歩き出さなくては。 もも:  もも:お世辞にも、決して優秀とは言えない私だけど。きっと、叶えてみせる。  :  さくら:(モノローグ) さくら:夢を見た。 さくら:桃が綺麗な女医さんで、あの優しくて可愛い笑顔で子供と話している。 さくら:その子供は何故か私で・・・私はすごく、桃先生が好きなんだ。 さくら:  さくら:そっと、桃が私を撫でる。 さくら:とても心地良くて、うっとりと目を閉じて・・・・・・。 さくら:  さくら:夢の後は、もう、わからない。  :   :   :【時間経過】4年後3ヶ月後・菜摘市内の歩道  :  0:人々が行きかう雑踏の中、忙しく歩く桃のスマートフォンが鳴る。  :  もも:「あ、もしもし。星野君? もも:ごめんね、講義で出られなかった。どうしたの?」 おうじ:『あぁ、大丈夫。 おうじ:今度サークルの仲間内でバーベキューやるんだけどさ おうじ:桃ちゃん来ないかなって』 もも:「バーベキューかぁ、8月だもんねー。 もも:うーん・・・すごく行きたいんだけど、今課題だらけで余裕ないんだよねぇ・・・」 おうじ:『そっかぁ・・・まぁ、そうだよね。今、医大生だっけ?』 もも:「そうそう!お医者さんの卵だよー」 おうじ:『進路初めて聞いた時は驚いたよ。看護師さんじゃないんだーって』 もも:「お医者さんじゃないと治せない病気もたくさんあるからね」 おうじ:『まぁ、そうだね・・・わかった、また何かあったら誘うよ。 おうじ:発散したいーってなったら声かけて!何かしら企画するからさ』 もも:「あはは、ありがとー!楽しみにしてる」 おうじ:『うん。じゃあまた』 もも:「うん。またね」  :  もも:(モノローグ) もも:私の新しい夢。それは、優しくて優秀なお医者さんになること。 もも:我ながら安直な考えだとは思ったけど もも:それがあったからこそ、私は素直に桜を見送れたんだと思う。 もも:  もも:『桜の病気を解明して、同じ病気の子を治すんだ!』 もも:  もも:あの時感じた、無謀としか言い様のない夢。 もも:今更ながらに、簡単じゃないと思い知らされている。 もも:  もも:でも、泣いて過ごすだけではいたくないから。 もも:桜の命を悲しいもので終わらせたくないから。 もも:  もも:だから、私は進んでいく。 もも:ただ、ひたすらに。  :  さくら:(ナレーション) さくら:桃は周りの目を気にすることなく、拳を振り上げた。 さくら:その足取りは軽やかで、ジリジリと焦げる足元の熱を感じていないかの様だ。 さくら:  さくら:彼女が揚々(ようよう)と歩くその遥か後ろでは さくら:分厚く大きな体で地面を揺らしながら、大型トラックが走行している。 さくら:夏の陽射しに照らされて、ギラギラと光る車体。 さくら:ふいに進路が変わった。 さくら:中央線を越えて、スピードが上がる。 さくら:  さくら:締め切った窓の中。 さくら:運転手の意識は、ない。  :   :【終わり】

さくら:(モノローグ) さくら:双子はそっくりなものだと、誰が決めたのだろう。 さくら: さくら:私と姉の桃は、容姿こそ似ているけれど、中身は全く別物。 さくら:明るく天真爛漫な桃と、人見知りで口下手な私。 さくら:いつも周りに比べられるのが、とても嫌いだった。 さくら: さくら:桃が嫌いなわけじゃない。 さくら:ただ時折、私も桃の様になれたらと。ふと思うだけ。  :   :   :【場面】花菱家・桜の部屋  :  0:夜通し見ていた映画が終わり、ふとパソコンの時間を確認する桜。  :  さくら:「ふわぁ・・・もう、8時?・・・寝るかぁ」  :  0:ベッドに潜り込み、寝ようとする桜。 0:そこに勢いよくドアを開け、桃が入ってくる。  :  もも:「桜ーっ!おっはよー!!」 さくら:「・・・桃。・・・・・・おやすみ」 もも:「あっ、待って待って! もも:これ見てコレ!新しい制服ーーっ!!」 さくら:「・・・ん、あぁ・・・今日だっけ。公英(こうえい)高校の入学式」 もも:「そう!前から思ってたけど、やっぱりすごい可愛い!」 さくら:「・・・ふぅん。いいんじゃない?桃に似合ってる」 もも:「本当!?えへへー。桜も絶対似合うよ! もも:だから来年は公英に来なよぉ!」 さくら:「・・・んー。私は、別に・・・」  :   さくら:(モノローグ) さくら:私と桃は双子だ。普通と少し違うのは、学年が違うって事。 さくら:生まれた日付が4月の、1日と2日を境に学年が変わるらしい。  :  もも:「えぇー・・・私、また桜と一緒に学校行きたいよぉ・・・。 もも:桜の方が頭良いし、ぜーったい受かるよぅ!」 さくら:「・・・どうだろうね。 さくら:ところで公英高校って、うちん家から30分以上かからなかったっけ?」 もも:「うん!受験の時に行ったけど、30分ちょいかかった!」 さくら:「・・・もう8時だけど、間に合うの?入学式・・・」 もも:「(食い気味に)あーっ!そーだった!! もも:新入生は早く来てくださいって、言われてた気がする!! もも:入学式当日に遅刻とか、絶対怒られるじゃん!? もも:行ってくるね、桜!!」 さくら:「うん。気を付けて」 もも:「ありがと!行ってきまぁす!!」  :  0:ドタドタと騒がしく階段を降りていく桃。 0:その音を聞きながら、溜め息をつき、再び目を閉じる桜。  :  さくら:「・・・学校、ね・・・」  : さくら:(モノローグ) さくら:中学に入って間もなく、私は学校に行かなくなった。 さくら:なんていうことは無い、よくあるイジメだ。 さくら:過激なものでは無かったから、あまり気にも留めなかったけれど。 さくら:  さくら:それでも私が登校をやめたのは さくら:それを心配した桃がオロオロしてるのを見ていられなかったから。 さくら:桃に笑っていて欲しくて、私は家に引き籠もる事にした。  :  さくら:「ふわぁ・・・寝よ」  :   :   :【場面変更】公英高校・中庭  :  0:猛ダッシュで無事、9時前に到着した桃。 0:人影が見当たらず、キョロキョロと辺りを見回す。  :  もも:「ど、どうにか間に合ったはいいけど・・・。 もも:誰もいないなぁ・・・。どこに行けばいいんだろ・・・?」 おうじ:「あの・・・どうかしました?」 もも:「うわっ!?あ、あの・・・入学式の会場ってどこですかぁ・・・?」 おうじ:「入学式・・・あぁ新入生の人か。 おうじ:会場は体育館だけど・・・えっと、リハーサルに来たの?」 もも:「・・・リハーサル??」 おうじ:「うん。新入生代表とか、答辞とかそういうの。 おうじ;入学式自体は午後からだからさ」 もも:「え!?そうなんですか!?」 おうじ:「う、うん・・・。 おうじ:入学に関しての通知とか、合格発表の時にもらわなかった?」 もも:「あっ!もらいました!えっと・・・ もも:(鞄の中をゴソゴソと探す)あ、あった!えーっと・・・ もも:『入学式日程。4月12日(月曜日)13時より』 もも:・・・・・・ほ、ほんとだぁ!!」 おうじ:「あはは、早く来過ぎちゃったね」 もも:「はいぃ~・・・。 もも:あのっ!ありがとうございました、先輩!」 おうじ:「え・・・いや、僕は先輩じゃ・・・」 もも:「(被せて)あのっ!お名前、聞いていいですか!?」 おうじ:「あ、えっと・・・星野、っていいます」 もも:「星野先輩ですね!本当に、ありがとうございました!!」  :  0:言いながら、踵(きびす)を返し走り去る桃。  :  おうじ:「えっ、あの・・・・・・行っちゃった・・・。 おうじ:ふふ、元気な人だったなぁ」  :   :   :【時間経過】ゴールデンウィーク・花菱家リビング  :  0:連休の初日、時刻は間もなく正午。 0:水を飲みに、二階の自室から桜が降りて来る。  :  もも:「あ!桜、おはよー!」 さくら:「おはよう。もう昼だけどね・・・あれ?あぁ、ゴールデンウィークか。 さくら:・・・ん、お茶菓子・・・お客さんでも来るの?」 もも:「うん!今日ね、クラスの子が遊びに来てくれるんだぁ! もも:桜の話したら、会ってみたいって!」 さくら:「え・・・そうなんだ。でも私これから寝る・・・」  :   :【SE】インターホンのチャイム音  :  もも:「あ、来たかな?はいはーい!」 さくら:「えぇ・・・私、部屋着のままなのに・・・」 もも:「(徐々に近付いてくる)いらっしゃーい!あがってあがって! もも:今ね、丁度、桜が降りて来てるんだぁ~」 さくら:「ちょっと桃・・・流石に部屋着じゃ悪いから、私着替えて・・・」  :  0:桜の言葉の途中で、リビングに王子が入ってくる。 0:ばったりと目が合う桜と王子。  : おうじ:「あ・・・。えっと、お邪魔します」 さくら:「・・・・・・・・・・・・えっ」 もも:「あ、紹介するね! もも:こちら、クラスメイトの星野王子(ほしの・おうじ)君! もも:んで、こっちが双子の妹で、桜!」 おうじ:「初めまして、星野王子です。 おうじ:桜ちゃん、だよね?いつも、桃ちゃんから話は伺ってます」 さくら:「え、あ・・・えっと、花菱桜(はなびし・さくら)、です。 さくら:その・・・・・・いつも姉が、お世話になってます・・・」 おうじ:「ふふ、本当に桃ちゃんそっくりだ。 おうじ:とっても仲の良い双子の妹さんがいるって聞いてて、会ってみたいと思ってたんだ」 もも:「王子君、適当に座って!今ジュースとお菓子出すから!」 おうじ:「あ、ありがとう。手伝おうか?」 もも:「だいじょーぶ!あ、桜! もも:冷蔵庫にケーキ入ってるから、一緒に食べよ!」 さくら:「あ・・・うん」 もも:「桜!お皿に取り分けるから、手伝ってー!」  :  0:桜、手伝いをする為に足早にキッチンへ。 0:次いで、声を潜めて桃に話しかける。  :  さくら:「(小声)ちょ、ちょっと。桃・・・」 もも:「(つられて小声に)え?何、どうしたの?」 さくら:「(小声)クラスの子って、男の子だったの?」 もも:「(小声)え、うん。そう言わなかったっけ?」 さくら:「(小声)聞いてないよ・・・!クラスの子、だとしか・・・」 もも:「(小声)あれ。そうだっけ?ごめぇん。 もも:でもいい人だから、桜も仲良くなれると思うんだ!」 さくら:「(小声)仲良くって・・・。 さくら:私、同級生の男の子とも、あまり話したことないのに・・・」  :  もも:(モノローグ) もも:この日。私と桜と王子君で、夕方までの時間を遊んで過ごした。 もも:一緒に遊ぼうとせがんだ私に、桜は時折あくびをしながらも付き合ってくれる。 もも:後から聞いた話だけど、思いの外楽しんでいたらしい。 もも:  もも:王子君には夕食のお誘いもしたけど もも:家でご飯を用意してるからと、少しだけ困った顔で笑い、帰っていった。 もも:  もも:それから幾度となく。 もも:王子君が私たちの家に遊びに来ては、3人で遊ぶようになった。 もも:昼夜逆転の生活を送っていた桜が、徐々に昼間活動する様になる。 もも:  もも:私を心配させまいと、学校に通わなくなってから減った笑顔が もも:また増えたのが、何より嬉しかった。  :   :   :【時間経過】夏休み・美晴市(みはる-し)内の公園  :  0:夏休みの中盤。 0:夏休みの課題のために、市内の水族館へ行った桃と王子。 0:時刻は夕方となり、近くの公園でアイスを食べている。  :  おうじ:「水族館、思ってたより楽しかったね」 もも:「うん!ちっちゃい頃は、割と行ってたと思うんだけどね。 もも:最近は全然行ってなかったからなぁ」 おうじ:「そうなんだ。でも、美晴市っていいよね。 おうじ:自然が多いし、なんか空気が美味しい気がする」 もも:「んー、そうなのかなぁ?産まれてからずっとここにいるからなぁ・・・。 もも:王子君は、菜摘市(なづみ-し)に住んでるんだっけ?」 おうじ:「そう。お店はいっぱいあるけど、人もすごい多くて。 おうじ:少し、疲れるかな」 もも:「ふぅん、そうなんだぁ。遊ぶところがたくさんあって羨ましいけどなぁ。 もも:こっちの映画館とか、ちっちゃい子が見るアニメしかやらない様な もも:個人経営の映画館だけだよ?」 おうじ:「へぇ・・・。なんか、見たい映画あるの?」 もも:「うーん、特別見たいってのは無いけど もも:もっと選択肢があったら色々見たいなーって思うかも!」 おうじ:「そっか・・・、ねぇ。今度、映画見に行かない? おうじ:一緒に見たいの、あるんだよね」 もも:「そうなの?どんなやつ?」 おうじ:「えっと・・・その、・・・・・・ラブストーリー・・・」 もも:「・・・へぇ・・・なんか、ちょっと意外。 もも:王子君シャイだから、そういうの見ないと思ってた」 おうじ:「あ、うん。人と見たことは、ないかな・・・」 もも:「ふぅん・・・。じゃあなんで?」 おうじ:「・・・・・・好きだから。桃ちゃんの事が」 もも:「・・・・・・」 おうじ:「・・・・・・」 もも:「っ、えぇぇぇ!?」 おうじ:「っそ、そんなに驚かないでよ・・・。 おうじ:好きじゃなかったら、こんなに一緒に遊んだり、家にまで行かないよ・・・」 もも:「あ・・・そう、だよね・・・うん。うん・・・」 おうじ:「僕の事、男としては見られない?」 もも:「い、いや・・・見られなくはないよ・・・っていうか もも:王子君、正直かっこいいと思うしっ、優しいところも・・・ もも:その、す、好き・・・だよ・・・」 おうじ:「本当?じゃあ、僕の彼女になってくれませんか?」 もも:「か、かの・・・うぅ・・・・・・、・・・ぃ」 おうじ:「え?ごめん、聞こえなかった」 もも:「あぅ・・・その、私で良ければ・・・はぃ・・・」 おうじ:「・・・・・・」 もも:「・・・・・・え、王子君?」 おうじ:「・・・よかっ、たぁ・・・・・・。 おうじ:まだ知り合ってそんなに経ってないし、時期尚早過ぎたかなって おうじ:正直すごいドキドキしてたんだ」 もも:「そ、そうなんだ・・・。私も、ドキドキした・・・っていうか、今もしてるよ・・・」 おうじ:「あはは、じゃあお揃いだ」 もも:「うん・・・、お揃い」 おうじ:「・・・そろそろ帰ろうか。映画、行こうね」 もも:「うん、楽しみにしてる」  :  おうじ:(モノローグ) おうじ:いつもより少し大人しくなった桃ちゃんと、手を繋いで家まで送った。 おうじ:いつもなら桜ちゃんにも挨拶するために顔を出すのだけど おうじ:日は『恥ずかしいから』と断られてしまった。 おうじ:  おうじ:自宅までの帰り道。 おうじ:無意識にスキップしているのではないかと思い おうじ:何度も立ち止まっては深呼吸をする。 おうじ:  おうじ:先ほどまで僕の掌(てのひら)にあった桃ちゃんの手の熱が おうじ:夏の熱に同化して消えてしまわぬ様、右手をギュッと握りしめて歩いた。  :   :   :【場面変更】花菱家  :  もも:「ただいまぁ」 さくら:「おかえりー・・・あれ、王子先輩は?」 もも:「あ、うん。今日は寄らずに帰ったよ」 さくら:「・・・ふぅん」 もも:「・・・あの、桜。私ね、王子君と・・・」 さくら:「(被せて)あ。そういえば今度、菜摘市で花火大会あるんだって。 さくら:桃、王子先輩と行くの?」 もも:「え、花火大会?そういう話は聞いてないけど・・・なんで?」 さくら:「んー・・・王子先輩と行くなら、私も久々に行こうかな?って思って」 もも:「え!本当!?行こう、花火大会!王子君にも聞いてみるし!!」 さくら:「うん。・・・・・・ねぇ、桃」 もも:「なぁに?」 さくら:「・・・・・・私、王子先輩のこと好きかも。 さくら:桃だけじゃなく私にも優しいし、それに・・・王子先輩、かっこいいよね」 もも:「・・・・・・え?」 さくら:「・・・桃?どうしたの? さくら:っていうか、なんか元気ないよね?なんかあった??」 もも:「・・・そ、そうかな?なんだろ・・・ もも:外まだ暑かったから、熱中症みたいになってるのかな・・・?」 さくら:「え、それマズくない?水飲んで寝た方がいいよ。 さくら:アイス枕出してあげるから、ほら、横になって」 もも:「・・・うん、ごめん・・・ありがとう」  :  もも:(モノローグ) もも:桜に促されるまま、ソファに横になり目を瞑る。 もも:本当は鈍ってなんかいない頭をフル回転させて、自分と桜を天秤にかけた。 もも:  もも:産まれた時から、ずっと一緒。 もも:いつもクールだけど、本当は私や周りにいる女の子と同じ もも:可愛い物やかっこいい人が好きな、普通の女の子。 もも:  もも:私の事を大切にしてくれて、自分すら犠牲にしてくれる もも:とても優しい女の子。私の半身。大切な妹。 もも:やっと、私の大好きな桜の笑顔が戻ってきたのに・・・・・・。  :  もも:「(桜に聞こえない様に)・・・どうすればいいの・・・・・・?」  : もも:(モノローグ) もも:結局。私の身に起こった幸福な出来事を もも:私は桜に伝える事が出来なかった。  :   :   :【時間経過】花火大会当日・菜摘市内の公園  :  0:川沿いであがる花火に合わせ、人で溢れかえる公園。 0:公園の内外には、いくつもの出店が並んでいる。  :  おうじ:「桃ちゃん、桜ちゃん。こっち」 もも:「王子君!」 さくら:「王子先輩、こんばんは」 もも:「ごめんね、待った?」 おうじ:「ううん、全然。僕もさっき来たところ」 もも:「そっか。良かった!」 さくら:「・・・・・・」 おうじ:「・・・桜ちゃん?どうしたの?」 さくら:「あっ、いえ・・・その、浴衣・・・すごい似合ってます」 おうじ:「あはは、ありがとう。桜ちゃんも似合ってるよ」 さくら:「あ・・・ありがとうございます」 おうじ:「桃ちゃんも可愛い。桃ちゃんらしくて好きだな」 もも:「・・・っあ、ありがとう!」 さくら:「あ、ねぇ。花火始まる前に、何か買いませんか? さくら:お祭り久々だから、屋台のご飯楽しみで」 おうじ:「いいね。何食べたい?」 もも:「ベビーカステラ食べたい!あと、りんご飴!」 さくら:「桃?ベビーカステラとりんご飴は、ご飯の括りじゃなくない?」 おうじ:「ふふっ。ご飯ものも甘いものも、どっちも食べよう」 もも:「よーし!たくさん食べるぞー!」 さくら:「ちょっと、桃・・・あくまで今日のメインは花火だからね?」 もも:「わかってる! もも:でも桜とお祭り来るのなんて久しぶりで、楽しみなんだもん!」 さくら:「もぉ~・・・」 おうじ:「(2人の様子を見て、くすくす笑う)」  :   :   :【時間経過】花火開始直前・人混みの中  :  もも:「早く早く!もうすぐ花火始まっちゃう!」 おうじ:「桃ちゃん待って。あそこ、少し高くなってる」 もも:「あっ、本当だ!あそこでいいかな、桜・・・・・・って、あれぇ!?」 おうじ:「・・・はぐれちゃった、かな・・・」 もも:「うっそ・・・探しに行かなきゃ!」 おうじ:「っ、待って!この人混みだし、むやみに動いても見つからないと思う」 もも:「あっ、そうだよね!待って、桜に連絡する!」 おうじ:「うん。ここで待っていよう」 もも:「・・・連絡、よし・・・っと。大丈夫かなぁ・・・」 おうじ:「・・・・・・ちょっと嬉しいな」 もも:「え?」 おうじ:「・・・桃ちゃんと二人きりになれたから」 もも:「えっ、あ・・・」 おうじ:「・・・あ、ごめん。桜ちゃんの事、心配だよね」 もも:「う、うん・・・でも、その・・・私も、二人きり・・・嬉しい・・・」 おうじ:「・・・・・・ね、手繋ごう?」 もも:「えっ!?でも桜が来ちゃう・・・」 おうじ:「少しだけ。ね?」 もも:「う、うん・・・」  :  0:そっと手を繋ぐ2人。  :  おうじ:「・・・・・・桜ちゃんに、話してないんだね。僕らのこと」 もも:「っ・・・う、ん・・・・・・」 おうじ:「なんで?・・・っていうのは、聞かないでおくよ。 おうじ:桃ちゃんが決めて、そうしてるんだよね?」 もも:「・・・うん。ごめんね?」 おうじ:「いいよ。でも、じゃあそうだな・・・」  :  0:桜が到着。だが、桃と王子は気付かない。  :  さくら:「やっと見つけたぁ・・・」  :  おうじ:「聞くのは我慢するから。ご褒美、頂戴?」 もも:「え?」  :  0:王子から、桃へキス。同時に花火が始まる。  :  さくら:「・・・・・・・・・え?」  :  もも:(モノローグ) もも:ほんの少しだけ触れるキス。 もも:夜空で響く大きな音に、頭と耳が痺れるように。 もも:唇もずっと、鼓動を刻んでた。 もも:  もも:ふわふわとした頭が幸福感でいっぱいになる。 もも:自然と零れる笑顔と、繋いだままの手。 もも:  もも:・・・桜は、戻って来なかった。  :   :   :【時間経過】花火大会後・花菱家  :  0:先に帰宅していた桜の耳に、大きなドアの音が届く。 0:次いで、騒々しい足音。 0:次の瞬間、階段を駆け上がってきた桃が、桜の部屋の扉を壊れんばかりの勢いで開いた。  :  もも:「桜っ!!」 さくら:「・・・・・・何?」 もも:「・・・よかったぁ、いたぁ・・・。場所、わからなかった?」 さくら:「・・・・・・別に」 もも:「・・・桜?どうしたの・・・?具合悪い・・・?」 さくら:「・・・・・・なんでキスしてたの?」 もも:「え・・・。見、てたの・・・?」 さくら:「そんなこと聞いてない。なんでキスしてたかって聞いてるの。 さくら:・・・もしかして、付き合ってたの?」 もも:「っ!・・・付き、合って・・・た・・・」 さくら:「・・・・・・なんで、言わなかったの・・・? さくら:私が王子先輩のこと好きって知ってて、でも・・・桃は先輩と付き合ってて・・・? さくら:・・・影で笑ってたの?無駄なのにって?」 もも:「ちがっ・・・そんな事しない!そんな事しないけどっ・・・」 さくら:「(食い気味に)しないけど何!?」 もも:「・・・・・・っ王子君と付き合い始めた日に・・・ もも:私、桜に報告しなきゃって思ってたの・・・。でもっ・・・ もも:その日に、桜から王子君の事が好きだって言われて・・・。 もも:  もも:・・・桜、最近よく笑うようになって・・・ もも:でもそこで、私が王子君と付き合ってるなんて知ったら・・・ もも:私、また桜の笑顔、奪っちゃうんじゃないかって・・・それで・・・」 さくら:「・・・何それ」 もも:「え・・・?」 さくら:「何それ。そんな理由で、嘘ついてたの?」 もも:「嘘なんかついてな・・・」 さくら:「(被せて)ついてるでしょ!? さくら:・・・だって桃、私に隠し事してたんでしょ?一言、言えば済む話なのに」 もも:「だからそれはっ!桜の笑顔が・・・」 さくら:「(被せて)だからぁ!!」 もも:「っ!?」 さくら:「・・・何?私の笑顔って。確かに私いじめられてたよ。 さくら:理由は理不尽だったし、それで桃がすごい悩んでるのが嫌で さくら:学校行かなくなったよ。 さくら:  さくら:でもさぁ!!・・・それで私なんか言った? さくら:私、桃のせいだとか言った!?」 もも:「言、ってない・・・けど、そんなの・・・」 さくら:「私!別に桃の犠牲になったとか思ってない! さくら:元々あまり人付き合い得意な方じゃないし さくら:それを無理して頑張って桃が落ち込むくらいならいいやって・・・」 もも:「・・・・・・」 さくら:「・・・裏切り者」 もも:「え・・・」 さくら:「・・・出てってよ。私の部屋から!出てってよ!!」 もも:「さく、ら・・・ご、めん。ごめん、ね・・・?」 さくら:「うるさい・・・出てってよ!早く!!」 もも:「桜っ・・・謝る、謝るから・・・ねぇ・・・」 さくら:「いらない!早く、出てって!」  :  0:部屋から桃を押し出す桜。  :  もも:「ねぇ!ダメだよ、ちゃんと話そうよ!ねぇ!!」 さくら:「しつこいな!嘘吐きと話す事なんてっ・・・ない!!」  :  0:思いきり桃を押し出す桜。瞬間、桃の体勢が崩れる。  :  もも:「さくっ・・・、え」 さくら:「え・・・」  :   :《この先【時間経過】までモノローグ》  :  もも:私たちの部屋はそれぞれ、向かい合って位置していた。 さくら:私たちの部屋はそれぞれ、階段を登ってすぐのところにあった。 もも:私の視線が。ふわりと宙に傾いた。 さくら:桃の体が。ふわりと宙に浮いた。 もも:背中からぐんっ、と引かれる様に。 さくら:階下からぐいっ、と引かれる様に。 もも:私は。 さくら:桃は。  :  もも:鈍い音と共に、叩きつけられた。 さくら:浴衣が赤く、染まっていく。  :   :   :【時間経過】3ヶ月後・美晴総合病院  :  0:規則的な高く短い音が、静かな室内に顔を出しては消えていく。 0:白いベッドに無言で横たわる桃。その傍らには、同じく無言で座る桜の姿。 0:虚ろな目でぼーっと目覚めない桃を見やる。  :  0:そこに王子がお見舞いに現れる。  :  おうじ:「桜ちゃん、こんにちは。・・・桃ちゃんは?」 さくら:「・・・まだ・・・・・・」  :  おうじ:(モノローグ) おうじ:あの日から、3ヶ月が経過していた。 おうじ:  おうじ:桃ちゃんとキスをした、あの日。 おうじ:花火が終わるや否や、送ると言った僕の言葉を背に おうじ:桃ちゃんは足早に帰っていった。 おうじ:  おうじ:その後の連絡が一切無く、違和感を覚えた僕は翌日、通い慣れた2人の家へ。 おうじ:そこで1人留守番をしていた桜ちゃんが教えてくれたのは・・・。  :  さくら:『人混みが凄くて、教えてくれた場所まで行けなかったの。 さくら:桃が心配して帰ってきてくれたんだけど、慌ててたせいで さくら:階段を踏み外したみたいで。転落したの』  :  おうじ:(モノローグ) おうじ:淡々と語る桜ちゃんの顔は蒼白で。 おうじ:視線も合わず、笑顔を取り繕う余裕もない様だった。 おうじ:  おうじ:当然だ。家族であり、この世でたった2人の双子同士。 おうじ:唐突に知った事実に狼狽えるしか出来なかった、僕なんかよりも。 おうじ:動揺していて当たり前なのだと。 おうじ:  おうじ:『何故いつも通り、彼女を家まで送らなかった?』 おうじ:  おうじ:虚ろに語る桜ちゃんの、その目の前で。 おうじ:自責の念を吐き出しそうになる自分を、必死に抑えた。  :  さくら:「・・・王子先輩?」 おうじ:「あ・・・どうしたの?」 さくら:「ううん。外、寒かったですか?」 おうじ:「だいぶ寒くなってきたよ。もう帰る?」 さくら:「・・・ううん。先輩が帰る時に、一緒に出ます」 おうじ:「わかった。そうしよう」  :  さくら:(モノローグ) さくら:あの日から、3ヶ月が経過していた。 さくら:  さくら:糸の切れた操り人形の様に、桃が動かなくなった、あの後。 さくら:目の前で起きた出来事に、私は現実感がないまま、しばらく呆けていた。 さくら:  さくら:ハッと我に返り、震える手で救急車を呼ぶ。 さくら:家族は不在だった。 さくら:  さくら:『火事ですか?救急ですか?』と聞かれ、ほんの少し言い淀む。 さくら:連絡すべきは警察だっただろう。 さくら:  さくら:自分がやったくせに。 さくら:そこでようやく自分の仕出かした事に恐怖を覚えた私は さくら:声を絞り出す様に震える声で『救急です』と答えた。  :  おうじ:「桜ちゃん。お母さんいらしたから、帰ろう?送るよ」 さくら:「・・・・・・はい」  :   :   :【場面変更】美晴市内の公園・無言で歩く2人  :  おうじ:「・・・・・・」 さくら:「・・・・・・」 おうじ:「・・・桃ちゃんね。あの日、すごく急いで帰ったんだよ」 さくら:「・・・・・・はい」 おうじ:「・・・よっぽど心配だったんだね・・・。 おうじ:僕、桃ちゃんのこと・・・ちゃんと送れば良かった・・・」 さくら:「・・・別に、王子先輩のせいじゃないですよ・・・」 おうじ:「そう、かな・・・。僕さえちゃんと送っていれば・・・ おうじ:こんな事故、防げたかも知れないのに・・・」 さくら:「あれは・・・桃がいけないんです・・・。 さくら:ちゃんと足元を見なかったから・・・」 おうじ:「・・・桜ちゃん・・・」 さくら:「・・・・・・先輩は・・・絶対に、悪くないです・・・」 おうじ:「・・・ありがとう。早く目が覚めるといいよね・・・」 さくら:「・・・・・・・・・あ」 おうじ:「・・・桜ちゃん?」  :  さくら:(モノローグ) さくら:どうして思いつかなかったのか。今になって、まずいことに気付いた。 さくら:桃は、転落した理由を覚えているだろうか? さくら:  さくら:誰しもが、私の言った言葉を鵜呑みにして、あれは単なる事故だと思っている。 さくら:でも、桃が目を覚ましたら?あの時の事を鮮明に覚えていたら? さくら:  さくら:きっと許されない。 さくら:私の拙(つたな)い嘘は暴かれて、同時に私は犯罪者になるのだろう。 さくら:  さくら:・・・・・怖い。 さくら:  さくら:ずっと一緒に育ってきた、双子の姉。明るく元気で優しい、私の姉。 さくら:・・・私は心底、桃の目がこのまま覚めなければと願った。 さくら: さくら:可哀想な桃。突き落とされ、目覚める事すら拒否されて。 さくら:私なんかと姉妹でなければ、こんな目には合わなかったのにね・・・? さくら:  さくら:頭の隅に、何かがチクリと。 さくら:刺さって、ズキリと頭が鳴いた。  :   :   :【時間経過】更に3ヶ月後・美晴総合病院  :  さくら:(モノローグ) さくら:半年が経った。桃はまだ、目を覚まさない。 さくら:  さくら:年が明けて。最近は父も母も、週末にしか病院に来なくなった。 さくら:桃の事が大好きな私が、いつも傍にいるからだって。 さくら:  さくら:そんな時、私は優しく切なそうに笑う。 さくら:そんな時、私の心は悪態ついて、ほくそ笑む。  :  さくら:「・・・・・・っ、痛・・・」  :  さくら:(モノローグ) さくら:最近の私は、何度も何度も断念している。 さくら:  さくら:お医者さんが言っていた。 さくら:今の桃は、いつ自発的な呼吸が止まるかわからないから さくら:機械で補佐してるんだって。 さくら:だから、これを取ったらもしかしたら・・・。 さくら:  さくら:悪魔の様な考えが頭をよぎる。 さくら:その悪魔に唆(そそのか)される様に手を伸ばし、そこでいつも頭が痛んだ。 さくら:それはまるで、私が一線を越えないように。 さくら:  さくら:痛みは、日に日に強くなっている。  :   :  おうじ:「桜ちゃん?」 さくら:「っ、王子先輩・・・」 おうじ:「こんにちは・・・どうしたの?頭、痛い?」 さくら:「・・・いえ、大丈夫です・・・」 おうじ:「そっか・・・僕が言うのもなんだけど おうじ:あまり無理しないでね。桜ちゃんまで倒れちゃう」 さくら:「・・・・・・」 おうじ:「もし桜ちゃんが倒れたりしたら、目を覚ました桃ちゃんが心配するからさ」 さくら:「・・・・・・先輩。桃は、目覚めると思う?」 おうじ:「え・・・」 さくら:「だって・・・もう半年も目覚めないんですよ・・・? さくら:もう少しで、冬も終わっちゃう・・・。 さくら:お医者さんだって、何が原因で目を覚まさないかわからないって! さくら:もし目覚めても、後遺症が残るかもって・・・ さくら:そんな事になるのなら、今ここでっ・・・」 おうじ:「(食い気味に)桜ちゃんっ! おうじ:・・・・・・ダメだよ、そんなこと言っちゃ・・・」 さくら:「っ・・・、・・・そうですよね。先輩は桃の事、好きなんですもんね・・・」 おうじ:「えっ・・・知ってたの・・・?」 さくら:「・・・はい。キスしてるの、見ましたから・・・」 おうじ:「・・・・・・そうだったんだ。 おうじ:だから、あの日戻って来なかったの?気を遣わせてしまった・・・?」 さくら:「それも、あります・・・、けど・・・」  :  おうじ:(モノローグ) おうじ:そう言って口を閉ざした桜ちゃんは俯き、表情を読み取ることが出来ない。 おうじ:桃ちゃんは、桜ちゃんが僕らの事を知っていることを、知っているだろうか?  :  さくら:「・・・・・・王子先輩。私と、付き合ってくれませんか?」 おうじ:「・・・・・・え?」 さくら:「先輩・・・この半年、ずっとお見舞いに来てくれてる・・・。 さくら:私、嫌なんです!来る度に寂しそうな顔をする先輩を見るの・・・。 さくら:  さくら:私は先輩が好き!私なら先輩にそんな寂しい思いさせない! さくら:先輩が桃の事、忘れられる様に頑張る!だからっ・・・!」 もも:「・・・・・・さく、ら・・・?」 さくら:「(同時に)っ!?」 おうじ:「(同時に)っ!?」 もも:「・・・桜・・・どう、したの・・・。泣かな、いで・・・?」 さくら:「・・・・・・も、も・・・・・・?」 おうじ:「っ!・・・も、桃ちゃんっ!」 もも:「・・・王子君、だぁ。どうしたの・・・?王子君も、泣いてる・・・?」 おうじ:「っ!なんでもない、大丈夫だよ・・・! おうじ:あ・・・待って、先生呼ばなきゃ! おうじ:・・・もしもし!?506号室の花菱桃(はなびし・もも)です! おうじ:目をっ・・・覚ましました!!」  :   :   :【時間経過】桃の病室・次々と訪れる医療関係者  :  もも:(モノローグ) もも:起きたばかりの動きの鈍い頭で、知らない大人たちからの質問に答える。 もも:正直、内容は覚えていない。 もも:  もも:バタバタと騒々しくなった部屋の隅に追いやられながら もも:桜と王子君は、私を取り巻くそれらを見ていた。 もも:  もも:声を抑えて涙を流す王子君。私はそんなにも長い間、眠っていたのだろうか? もも:桜はほとんど俯いていたけど、時折あげた顔は泣きそうで もも:困っている様にも見えるその顔は、怯える様に強張っている。  :  おうじ:「うっ・・・・・・ぐすっ、ふぅ・・・・・・」  :  さくら:(モノローグ) さくら:とうとう、恐れていた事が起きた。桃が、目覚めてしまった。 さくら:  さくら:『頭が痛い』 さくら:  さくら:何を話しているのだろう。 さくら:余計な事を言わなければ良いのだけれど。 さくら:  さくら:『頭が痛い』 さくら:  さくら:今頃は急いで、父と母が病院へ向かっているんだろう。 さくら:二人で話すタイミングはいつ来るかな。 さくら:  さくら:『頭が痛い』 さくら:  さくら:本当の事を言われたら、どうする? さくら:今ならまだ、記憶の混乱とかで、ごまかせないかな? さくら:  さくら:『頭が痛い』 さくら:  さくら:どうにか説得しなきゃ。最悪、もう一度・・・。 さくら:  さくら:『頭が・・・・・・あれ・・・?』  :  おうじ:「・・・・・・え、桜ちゃん・・・?」 さくら:「ぐ、ぁ・・・あ、ぁぁぁあぁ・・・」 もも:「・・・え?さく、ら・・・?」  :  おうじ:(モノローグ) おうじ:隣にいた桜ちゃんの体が、崩れ落ちた。頭を抱えて、もがく。 おうじ:桃ちゃんと同じ、華奢なその体から出ているとは思えないほど おうじ:低い唸り声をあげて・・・そして、唐突に動かなくなった。 おうじ:  おうじ:大人たちが桜ちゃんに駆け寄る。 おうじ:到着した二人のご両親の顔が、再び絶望に染まった。  :   :   :【場面変更】美晴総合病院・桜の病室  :  さくら:「・・・・・・?」 もも:「あっ、桜!起きた!?」 さくら:「・・・も、も・・・・・・?」 もも:「待ってね!看護師さん呼ぶ・・・・・・え?」 さくら:「・・・待って・・・その前に、話したい事・・・ある・・・」 もも:「え?そんな事言ってる場合じゃ・・・」 さくら:「(食い気味に)いい、から・・・」 もも:「・・・・・・何?どうしたの?」 さくら:「・・・・・・っ、あの・・・その・・・・・・」 もも:「うん・・・」 さくら:「・・・う、あ・・・・・・ごめん、なさいぃぃ・・・」 もも:「桜・・・大丈夫。大丈夫だよ・・・」 さくら:「っ私、桃のこと・・・つ、突き飛ばして・・・」 もも:「(被せて)あれは!・・・あれは、事故だよ」 さくら:「・・・・・・でも、あの時・・・私ぃ・・・」 もも:「あれは、私が悪かったの。桜は悪くない」 さくら:「でもっ、でもぉ・・・私、桃の目が・・・覚めなきゃ、いいって・・・」 もも:「っ・・・うん、わかってる。怖かったんだよね・・・?」 さくら:「ひっく・・・先輩も、私が貰っちゃえってぇ・・・」 もも:「うん・・・」 さくら:「・・・桃の・・・目が覚め、て・・・覚えてるなら・・・ さくら:もう一度、眠らせなきゃってぇ・・・!」 もも:「・・・うん・・・」 さくら:「・・・私っ、桃に酷い事ばかり・・・思ってぇ・・・」 もも:「うん・・・」 さくら:「私ぃ、自分のっ・・・事ばっかりぃ・・・」 もも:「仕方ないよ・・・怖いもんね・・・」 さくら:「・・・・・・私、最悪だぁ・・・」 もも:「大丈夫・・・そんなことない。 もも:桜は、私の大事な妹・・・大好きな妹だから・・・」 さくら:「・・・うぅぅ・・・ごめ、んなさ・・・いぃ・・・」 もも:「うん・・・大丈夫。大丈夫だよ・・・」 さくら:「あぁ、ぁぁぁぁぁ・・・」  :  もも:(モノローグ) もも:私に縋りついて泣く桜を、ただひたすら抱きしめた。 もも:胸に刺さる言葉は沢山あったけど もも:でも一番、心を痛めてるのは桜だと思ったから。 もも:  もも:臆病で繊細な桜の心。きっと怖かっただろう。 もも:私を傷付けた事、周りを騙した事、好きな人が離れていく事・・・嘘がバレる事。 もも:  もも:自分を責めて、責めて、責めて・・・自分こそが悪なのだと。 もも:心を欺いて、ひたすら自分を責め抜いた。 もも:  もも:それでも。 もも:堰(せき)を切った様に溢れ出したのは、桜の素直な心の内で。 もも:嫌われたくないと泣く、寂しがり屋な桜の悲鳴で。 もも:  もも:あぁ。やっぱり私は、桜が大切なんだって。そう、思った。  :   :   :【時間経過】3ヶ月後・病院の中庭  :  0:3人が初めて出逢った日から、ちょうど1年後のゴールデンウィーク。 0:天気は良好で、中庭には多くの患者やその家族が散歩に出ている。 0:桃と桜もまた、その日和に誘われて、中庭に出てきていた。 0:車椅子に乗る桜と、それを押す桃。そこに王子が訪れる。  :  おうじ:「桃ちゃん!」 もも:「あ、王子君。来てくれたんだ」 おうじ:「うん。今日からゴールデンウィークなんだ。調子はどう?」 もも:「うん。私は大丈夫、そろそろ退院できるって」 おうじ:「そうなの!?良かったぁ・・・。学校は?復学するの?」 もも:「もちろん。まぁ、私はもう1回、1年生からだけどね」 おうじ:「そうだね・・・」 もも:「そんな顔しないで!今後ともよろしくね、王子先輩っ!」 おうじ:「せ、先輩はやめてよ・・・今まで通り、呼んで欲しいな」 もも:「ふふっ、学校じゃない時はそう呼ばせてもらいまーす!」 おうじ:「あはは。 おうじ:・・・桜ちゃん、こんにちは」 さくら:「(小さく頷く)・・・・・・」 おうじ:「・・・今日はいい天気だね。お散歩、気持ちいいでしょ」 さくら:「(首を傾げる)・・・・・・?」 もも:「・・・・・・ごめん、王子君。桜ね、もうあまり言葉、わからないの」 おうじ:「・・・・・・え?」 もも:「原因はわからないけど・・・ もも:かなり早い速度で、脳の機能が弱ってるんだって・・・。 もも:体の機能も、ちょっとずつだけど・・・悪くなってるって・・・」 おうじ:「っ、そんな・・・」 もも:「・・・へへ、でもね。私の事は覚えてくれてるの・・・。 もも:看護師さんが外に連れ出そうとすると怖がるんだけど もも:私だとね・・・素直に車椅子に乗ってくれるの・・・」 おうじ:「・・・そっか。うん、仲良しだったもんね・・・ずっと・・・」 もも:「・・・・・・うん。私の大切な、妹だから」 おうじ:「うん・・・」 もも:「・・・・・・ん、何?どうしたの、桜」 さくら:「(桃の腕を引っ張りながら)・・・ぁ、う・・・」 もも:「うん。そうだね、戻ろうか・・・。 もも:・・・王子君、ちょっと待っててくれる? もも:桜、部屋に帰してくるから。もう少し話そう?」 おうじ:「うん、もちろん。ここで待ってれば良い?」 もも:「うん。たぶん桜、部屋に戻ったらすぐ寝ちゃうから。すぐ戻って来るね」 おうじ:「わかった。いってらっしゃい」  :  おうじ:(モノローグ) おうじ:2人を見送って、ベンチに腰掛けた。 おうじ:辺りには老若男女問わず、幾人もの人が散歩を楽しんでいる。 おうじ:  おうじ:空は晴天で、まだ暖かいと感じる程度の柔らかい日差しが おうじ:雲に遮られることなく降り注いでいた。 おうじ:ふわりと、春特有の甘い様な風が通り過ぎて、僕の髪を揺らす。  :   :   :【時間経過】十数分後・病院の中庭  :  もも:「王子君、お待たせ」 おうじ:「ん・・・桃ちゃん。本当に早かったね」 もも:「うん・・・体力も落ちてるみたいでね。 もも:桜が起きてる時間って、最近はあまり無いの」 おうじ:「・・・そうなんだ。でもきっと良くなるよ。 おうじ:桃ちゃんも目が覚めてから、回復すごい早かったし・・・」 もも:「・・・・・・」 おうじ:「・・・桃ちゃん?」 もも:「・・・・・・回復はもう、しないかも・・・」 おうじ:「え?」 もも:「もうね・・・今が精一杯なんだって。 もも:今のまま、緩やかに・・・弱るしか、ないんだって・・・」 おうじ:「・・・え?でも治療してるんじゃ・・・」 もも:「(食い気味に)してないのっ・・・。今はただ・・・ もも:出来る限り長く生きていられるように、してるだけ・・・。 もも:・・・あはは、余命・・・3ヶ月だって・・・」 おうじ:「っ!そんなっ・・・!」 もも:「・・・なんでかなぁ・・・? もも:私、大人になるまで・・・大人になっても、ううん・・・ もも:おばあちゃんになってもずっとっ・・・ もも:桜と一緒にいるのが夢だったのになぁ・・・・・・」 おうじ:「桃ちゃん・・・」 もも:「・・・桜、すごい良い子なのに・・・。 もも:どうして、こんな目に合わなきゃいけないのかなぁ・・・?」 おうじ:「っ・・・桃ちゃん・・・!」  :  0:桃を抱き締める王子。 0:周りの視界から遮られたにも関わらず、桃は縋るでも泣き叫ぶでもなく ただただ嗚咽を押し殺して涙する。  :  もも:「(徐々に泣き止んで)・・・・・・でも、仕方ないんだよね・・・。 もも:受け入れないと、今を一生懸命に生きてる桜が、可哀想だもんね。 もも:  もも:・・・だからね、王子君」  :  0:王子の胸から離れ、まっすぐに王子を見据え。  :  もも:「私と、別れてください」 おうじ:「・・・・・・え?」 もも:「私ね、今は桜のために生きたい。 もも:もちろん、私は私自身を頑張ることに、変わりはないんだけど。 もも:でも今は、桜以上に大切な人を作りたくない・・・ううん。 もも:桜以外に大切な人を作りたくないの」 おうじ:「・・・・・・それも、桃ちゃんが決めたこと・・・?」 もも:「うん」 おうじ:「・・・・・・桜ちゃん、知ってたよ。僕と桃ちゃんの事」 もも:「うん。知ってる」 おうじ:「・・・今、桜ちゃんは・・・わからないんだよね?」 もも:「・・・そうだね」 おうじ:「っ・・・、意見は・・・変わらないんだね」 もも:「うん。ごめんね」 おうじ:「・・・・・・(溜め息)うん、わかった・・・。 おうじ:・・・っわかりたくないけど!! おうじ:・・・桃ちゃんの事っ・・・・・・好きだからっ!」 もも:「・・・・・・うん。最後まで、ごめんね・・・ありがとう」 おうじ:「・・・僕の方こそっ・・・ありがとう・・・」  :  もも:(モノローグ) もも:晴れ渡る5月の空の下。 もも:肩を震わせ泣く、星野君の背中を見送った。 もも:  もも:また涙が溢れそうになったけど。空を仰いで、涙をグッと飲み込む。 もも:潰(つい)えた夢の、その代わりに。 もも:新たな夢に向かって、歩き出さなくては。 もも:  もも:お世辞にも、決して優秀とは言えない私だけど。きっと、叶えてみせる。  :  さくら:(モノローグ) さくら:夢を見た。 さくら:桃が綺麗な女医さんで、あの優しくて可愛い笑顔で子供と話している。 さくら:その子供は何故か私で・・・私はすごく、桃先生が好きなんだ。 さくら:  さくら:そっと、桃が私を撫でる。 さくら:とても心地良くて、うっとりと目を閉じて・・・・・・。 さくら:  さくら:夢の後は、もう、わからない。  :   :   :【時間経過】4年後3ヶ月後・菜摘市内の歩道  :  0:人々が行きかう雑踏の中、忙しく歩く桃のスマートフォンが鳴る。  :  もも:「あ、もしもし。星野君? もも:ごめんね、講義で出られなかった。どうしたの?」 おうじ:『あぁ、大丈夫。 おうじ:今度サークルの仲間内でバーベキューやるんだけどさ おうじ:桃ちゃん来ないかなって』 もも:「バーベキューかぁ、8月だもんねー。 もも:うーん・・・すごく行きたいんだけど、今課題だらけで余裕ないんだよねぇ・・・」 おうじ:『そっかぁ・・・まぁ、そうだよね。今、医大生だっけ?』 もも:「そうそう!お医者さんの卵だよー」 おうじ:『進路初めて聞いた時は驚いたよ。看護師さんじゃないんだーって』 もも:「お医者さんじゃないと治せない病気もたくさんあるからね」 おうじ:『まぁ、そうだね・・・わかった、また何かあったら誘うよ。 おうじ:発散したいーってなったら声かけて!何かしら企画するからさ』 もも:「あはは、ありがとー!楽しみにしてる」 おうじ:『うん。じゃあまた』 もも:「うん。またね」  :  もも:(モノローグ) もも:私の新しい夢。それは、優しくて優秀なお医者さんになること。 もも:我ながら安直な考えだとは思ったけど もも:それがあったからこそ、私は素直に桜を見送れたんだと思う。 もも:  もも:『桜の病気を解明して、同じ病気の子を治すんだ!』 もも:  もも:あの時感じた、無謀としか言い様のない夢。 もも:今更ながらに、簡単じゃないと思い知らされている。 もも:  もも:でも、泣いて過ごすだけではいたくないから。 もも:桜の命を悲しいもので終わらせたくないから。 もも:  もも:だから、私は進んでいく。 もも:ただ、ひたすらに。  :  さくら:(ナレーション) さくら:桃は周りの目を気にすることなく、拳を振り上げた。 さくら:その足取りは軽やかで、ジリジリと焦げる足元の熱を感じていないかの様だ。 さくら:  さくら:彼女が揚々(ようよう)と歩くその遥か後ろでは さくら:分厚く大きな体で地面を揺らしながら、大型トラックが走行している。 さくら:夏の陽射しに照らされて、ギラギラと光る車体。 さくら:ふいに進路が変わった。 さくら:中央線を越えて、スピードが上がる。 さくら:  さくら:締め切った窓の中。 さくら:運転手の意識は、ない。  :   :【終わり】