台本概要
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タイトル | 誰そ彼横丁 |
---|---|
作者名 | 暁寺 郁 (@him_like_me) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 5人用台本(男3、女2) ※兼役あり |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
短めの、不思議な雰囲気の台本となります。 ゆったりと繰り広げられる、小さな町での会話劇。 男性3女性2となっておりますが、演者様の性別は不問です。 軽微なアドリブ、一人称などの変更OK どの配役にも一か所ずつ(N)表記があります。 お好きに読んでいただいてOKですが、どう読んでいいかわからなければ、淡々と、詩を読むように語っていただければと。 221 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
卓也 | 男 | 44 | 高校生程度の元気のいい男子 |
ミツル | 男 | 43 | 卓也の友達。控えめそうで、ノリは卓也と同程度 |
和成 | 男 | 34 | かずなり。卓也たちの学校の先生。 おじいさんと兼役。セリフ冒頭に(おじいさん)と表示してあります。 |
郵便屋 | 女 | 12 | いつも元気に郵便配達をしている人。 |
みよ | 女 | 13 | あまえんぼうな小学生(1~3年生程度?) おじいさんのことが大好き |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:――――――
郵便屋:(N)
郵便屋:とんてんからり、からころり。
郵便屋:夕暮れ、街角(まちかど)、
郵便屋:誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)
郵便屋:からから、くるくる、かざぐるま
郵便屋:まわし、まわして荷を運ぶ
郵便屋:風(かぜ)追い、風(かぜ)きり、坂の上
郵便屋:影追い、影ふみ、坂の下
郵便屋:待ち人いずこか、この屋根か
0:――――――
郵便屋:郵便でーす!
郵便屋:おじいさーん! お手紙ですよー!
和成:(おじいさん)
和成:おお、おお、郵便屋さんか、ごくろうさん。
和成:久しぶりだのぅ、今日は何かな?
郵便屋:はい、お手紙とー、お荷物も!
和成:(おじいさん)
和成:これは……娘からじゃな!
和成:なんと、こんぺいとうも、ついておる
みよ:おじいちゃん? それはなに?
和成:(おじいさん)
和成:みよや、おいでおいで。
和成:おいしいこんぺいとうだ。みよにあげような
みよ:少しでいいよー。
みよ:おじいちゃん、それ好きでしょ?
みよ:こんぺいとうって、なんかザクザクしてるんだもん
和成:(おじいさん)
和成:ほっほ、そうかそうか
みよ:おじいちゃん、嬉しそう!
0:――――――
ミツル:(N)
ミツル:とんてんからり、とんしゃらり。
ミツル:やしろに響くは笛太鼓(ふえたいこ)
ミツル:あめ、かぜ、時に、錆(さ)び落ちる
ミツル:金網(かなあみ)鳴らすは、古き歌
0:――――――
卓也:おーおー、今日も朝から元気に赤ん坊が泣いてるなぁ
ミツル:おはよ。ほんと毎日元気に泣いてるな
卓也:おう、ミツル、はよー。
卓也:もう、三年くらい泣いてるかな?
ミツル:そうかも。あ、卓也、見て見てこれ!
卓也:お、新しいCD?
ミツル:そーそー。やっと買えたのよ!
ミツル:レイ・チャールズのアカペラ
卓也:お前、渋いな……
ミツル:しょーがねーでしょ、この街で手に入る音楽なんて、そう多くないんだから。
ミツル:いや、レイは最高だけどね?
卓也:へいへい、あー尾崎、聞きて―
ミツル:そりゃあ、入荷待つしかないな
和成:レイ・チャールズか
卓也:あ、和成(かずなり)せんせー
ミツル:おはよー!
和成:ミツル、おはようございますと言え。おはよう
卓也:せんせ、おはよー!
和成:卓也……おはよう
卓也:あいた、いったた、俺だけヘッドロックはずるいずるい!
和成:言ったそばから、やらかすからだ。
和成:しかし、いい趣味だな、ミツル。
和成:昼の校内放送で流すか、それ
ミツル:え、ほんとに? やったー!
卓也:ええ~~。
ミツル:何か不満かな!?
卓也:そりゃまあ、延々と八木節(やぎぶし)聞かされるよりはいいけどさあ
和成:八木節(やぎぶし)の何が悪い
卓也:センセの目が怖い!
和成:卓也も何か持ってくれば、放送してやらんこともないぞ
卓也:うーん、俺なんにも持ってないんだよなー。
卓也:あとで探してこようっと
和成:しかし、あの家の子は、今日も元気に泣いてるなぁ
ミツル:そうだね、お母さんが毎朝毎晩あやしてる
和成:すごく幸せそうだな
ミツル:かわいくて仕方ないんだろうなあ
卓也:今度、音の出るおもちゃ、持ってってやろーぜ!
ミツル:いいねぇ
0:――――――
みよ:(N)
みよ:とんてんからり、ぽろぽろり。
みよ:のぼる列車で明日(あす)へ行く
みよ:くだる列車はどこへ行く
みよ:のぼりゆくは、誰(だれ)問わず
みよ:くだりゆくは、誰もかなわず
みよ:とんてんころりと鞠(まり)弾(はず)み
みよ:ぽろぽろ、ぽろりと誰が追う
0:――――――
郵便屋:郵便でーす。
郵便屋:おじいさーん、お手紙の配達でーす!
和成:(おじいさん)
和成:おお、おお、ご苦労さん。
郵便屋:今日のお手紙も、娘さんかなあ?
和成:(おじいさん)
和成:そうじゃのう……ほっほ。
和成:ん? うーむ、ふむふむ……これは……
和成:……そうか……ばあさんが……逝ったか……
郵便屋:おじいさん?
和成:(おじいさん)
和成:ばあさんに、お迎えが来たようじゃ
郵便屋:ああ、そうなんだぁ……
郵便屋:じゃあ、おじいさん
和成:(おじいさん)
和成:そうじゃのう。そろそろ、列車に乗るとするか
郵便屋:そっか
みよ:おじいちゃん? どうしたの?
和成:(おじいさん)
和成:おお、みよや。
和成:おじいちゃんな、あの列車に乗ることにした。
和成:だからな、みよ。
和成:わしは、お前のおじいちゃんでは、なくなるんじゃ
みよ:……ッ(※息をのむ)
みよ:え、そんなの、やだ、やだよ、おじいちゃん!
和成:(おじいさん)
和成:すまんの、みよ……
和成:おじいちゃんな、ずっと、ばあさんを待っておったんじゃ……
和成:やっと、ばあさんに会えるかもしれん
みよ:う、うう……(※涙声)
和成:(おじいさん)
和成:お前の、永遠のおじいちゃんには、なれなんだ……
和成:すまんのう、みよ……
0:間をおいて
卓也:あ、警笛(けいてき)の音。
卓也:列車が動いたのか。珍しい
ミツル:のぼりだ。誰かが乗ったんだな
みよ:うう、ううう、うわあん
卓也:あれ、みよ?
ミツル:どうしたんだ? みよちゃん
みよ:お、おじいちゃんが、アレに乗って行っちゃったぁー!
ミツル:そっか……
和成:じいさんが、乗ったか
卓也:あれ、先生
和成:みよ。笑って送ってあげたか?
みよ:ずっと泣いてたもん!
和成:そうか。まあ、仕方がないか
ミツル:あれ? また上り列車が来た。今日はにぎやかだな
卓也:あー、ひとり、降りてきたみたいだな。良く見えねえ
ミツル:ちっちゃい、女の子みたいだな。泣いてる
みよ:……! あ、あれ、私の妹だ!
卓也:へ?
みよ:私の! 妹! 迎えに行ってくる!
ミツル:わー、さっそくかぁ
和成:あのちっちゃな女の子の、お姉ちゃんになるのか、みよは
郵便屋:郵便でーす!
ミツル:わ、びっくりした!
郵便屋:はい! 卓也くんにお手紙ですよ!
卓也:あ、俺? こんなところまでどーもどーも、サンキュー。
卓也:ん、お袋か。どれどれ……
卓也:「卓也、かなしい、かなしい、かなしい」
卓也:「卓也、戻ってきて、戻ってきて、戻ってきて」
卓也:……
ミツル:卓也? どうした?
卓也:ん、いや……なあ、ミツル
ミツル:なにさ
卓也:俺は、この街に来るとき、あの上り列車に乗ってきたけどさ
ミツル:うん
卓也:俺、どこから、来たんだっけ
0:――――――
卓也:(N)
卓也:とんてんからり、とん、はらり。
卓也:誰そ彼(たそかれ)、黄昏(たそがれ)、赤き塀(へい)
卓也:朱(あけ)に赤く、明ける空
卓也:夕べに赤く、染まる背に
卓也:其(そ)は誰(たれ)かしと言問(ことと)えば
卓也:昏(くら)き影は、眉(まゆ)の月
卓也:おかめにひょっとこ、とんからり
卓也:わが友垣(ともがき)と、手を結ぶ
0:――――――
ミツル:やっと疑問を持ったか
卓也:え? なに?
ミツル:たまにいるからさ。
ミツル:自分がどうしてここにいるのか、忘れちゃってる人
卓也:うん? えっと、どゆこと?
和成:ここは、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)
卓也:それは知ってる
ミツル:この街は、ハザマの街。
ミツル:あの上り列車でやってきて、たまに、ここで下車する人間がいる
ミツル:未練があったり、迷っていたり、誰かを待ちたかったり
和成:たまに、ただ何となくだったり
ミツル:死者の作る街だよ、ここは
卓也:へ……?
和成:死者だけの、街だ
卓也:ああ……そっか
ミツル:思い出した?
卓也:うん、思い出した。確かに俺、死んでたわ
卓也:あー、そっかそっか。
卓也:そんで、この街では、みんな好きなように役割を持つ
ミツル:そう、俺たちは学生だし
和成:俺は教師だ
ミツル:もとはまったくの、見ず知らずの他人
和成:けれど、泣く赤ん坊の母になったり、食堂のおやっさんだったり、あるいはただ何にもしない人だったり
ミツル:今いる俺の母さんも、ここでの役割
郵便屋:そして私は、郵便屋さん!
郵便屋:塀と塀の隙間、ビルとビルの間、古びたタバコ屋の横。
郵便屋:もしも見慣れない、小さな小さな四角いポストを見かけたならば、狂おしき思いを抱(いだ)くあの人への、お手紙をポンと投函(とうかん)してみよう!
郵便屋:その誰かがこの、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)の住人ならば、私が届けてあげましょう!
郵便屋:紙にしたためられぬ、ささやかな思いも、きっと届けてみせましょう!
郵便屋:私はそんな、郵便屋さん!
ミツル:この街の駅には、誰でも降りられる。
ミツル:乗車したまま、通り過ぎることもできる。
ミツル:この街の先は、終着駅。そこは、本当に死者の行く場所。
ミツル:けれど、下り列車には誰も乗ることが出来ない。
ミツル:彼岸(ひがん)からこの街に戻ってくることはできないし、この街から生きていた場所に戻ることもできない
和成:そしてこの街では、誰も成長しない。
和成:死んだときの姿のまま。
和成:この街に来た時の、姿のまま。
卓也:……ああ、うん。そうだったそうだった。
卓也:俺はまだ実感がなさすぎて、ついこの街のあの駅で、列車から降りてみたんだった
ミツル:その通り。……で?
卓也:うん?
ミツル:思い出したところで、どうしたい?
ミツル:そろそろあの列車に、乗って行きたいかい?
卓也:うーん……そうでもないな
和成:ははは。まあ、この街は、永遠の自由な街だからな
ミツル:そうだね。立ち寄るだけも、永遠に立ち止まるも自由。
ミツル:それがこの街だからね
卓也:今度、神社でお祭りあるじゃん?
ミツル:うん、あるね
卓也:夏と冬と、毎回楽しみだったし、また何度でも行きたいし。
卓也:あと、ちょっと、やってみたいこともできたっていうか
ミツル:え? なになに?
卓也:今、思いついたんだけど、俺は、あの下り列車に乗ってみたいなってさ。
卓也:唯一(ゆいいつ)下りに乗れる、ワンマン列車のあの運転士、兼(けん)、車掌。
卓也:あの人がもし、いつか役割やめて、上り列車の終着駅で降りるようなことがあったらさ、俺が代わりに、やってみたいなーって
ミツル:ええー? 卓也、絶対すぐ飽きると思う
卓也:そんなことねーよ!
和成:どちらにせよ、それは難しいかな。
和成:あの車掌、あれが天職と思ってるみたいだから、永遠に譲らないんじゃないか?
卓也:えー、そっかあー
卓也:ま、いいや!
卓也:おれはこの、煮(に)こごりみたいな街、好きだしな!
ミツル:なんだかんだで、ずいぶん長く、住んでるしね
卓也:そうそう!
和成:じゃあまあ、頑張って学生の役割こなして、課題終わらせような。
和成:祭りもすぐだし、補習なんてやりたくないよな~?
和成:俺もイヤだ。焼きそばとイカを食う
卓也:うわああ、まだ半分もやってねー!
ミツル:卓也、いつもそうじゃん……。
ミツル:今更だけど、学生じゃなくても良かったんじゃない。
ミツル:年齢的には学生だけど
卓也:うん、多分……
ミツル:多分?
卓也:働きたくなかったでござる
ミツル:ダメ人間だ、これ
和成:ははははは!
卓也:ミツル、手伝えよぉー!
ミツル:やなこったでーす
卓也:ううー、郵便屋さーん!
郵便屋:あ、配達途中だから、まったねー!
卓也:逃げたー!
ミツル:ま、自分の課題だ。がんばれよー
0:――少々の間――
みよ:そこの子! そこの泣いてる女の子!
みよ:私はみよ。私がみよ。
みよ:あなたの、おねえちゃんだよ!
0:――――――
和成:(N)
和成:とんてんからり、からころり。
和成:社(やしろ)を揺らすは、彼(か)の音か
和成:まよいご、まいご、面(めん)差して
和成:昏(くら)き坂道、行くならば
和成:とんてんからり、ぽんぱらり
和成:提灯(ちょうちん)ひろげ、火をともし
和成:長き 影踏め、案内(あない)の影を
和成:黄昏(たそがれ)、誰そ彼(たそかれ)、今は誰(たれ)
和成:灯火(ともしび)あかき
和成:誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)
和成:
和成:
0:作・暁寺 郁(ぎょうじ いく)
0:――――――
郵便屋:(N)
郵便屋:とんてんからり、からころり。
郵便屋:夕暮れ、街角(まちかど)、
郵便屋:誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)
郵便屋:からから、くるくる、かざぐるま
郵便屋:まわし、まわして荷を運ぶ
郵便屋:風(かぜ)追い、風(かぜ)きり、坂の上
郵便屋:影追い、影ふみ、坂の下
郵便屋:待ち人いずこか、この屋根か
0:――――――
郵便屋:郵便でーす!
郵便屋:おじいさーん! お手紙ですよー!
和成:(おじいさん)
和成:おお、おお、郵便屋さんか、ごくろうさん。
和成:久しぶりだのぅ、今日は何かな?
郵便屋:はい、お手紙とー、お荷物も!
和成:(おじいさん)
和成:これは……娘からじゃな!
和成:なんと、こんぺいとうも、ついておる
みよ:おじいちゃん? それはなに?
和成:(おじいさん)
和成:みよや、おいでおいで。
和成:おいしいこんぺいとうだ。みよにあげような
みよ:少しでいいよー。
みよ:おじいちゃん、それ好きでしょ?
みよ:こんぺいとうって、なんかザクザクしてるんだもん
和成:(おじいさん)
和成:ほっほ、そうかそうか
みよ:おじいちゃん、嬉しそう!
0:――――――
ミツル:(N)
ミツル:とんてんからり、とんしゃらり。
ミツル:やしろに響くは笛太鼓(ふえたいこ)
ミツル:あめ、かぜ、時に、錆(さ)び落ちる
ミツル:金網(かなあみ)鳴らすは、古き歌
0:――――――
卓也:おーおー、今日も朝から元気に赤ん坊が泣いてるなぁ
ミツル:おはよ。ほんと毎日元気に泣いてるな
卓也:おう、ミツル、はよー。
卓也:もう、三年くらい泣いてるかな?
ミツル:そうかも。あ、卓也、見て見てこれ!
卓也:お、新しいCD?
ミツル:そーそー。やっと買えたのよ!
ミツル:レイ・チャールズのアカペラ
卓也:お前、渋いな……
ミツル:しょーがねーでしょ、この街で手に入る音楽なんて、そう多くないんだから。
ミツル:いや、レイは最高だけどね?
卓也:へいへい、あー尾崎、聞きて―
ミツル:そりゃあ、入荷待つしかないな
和成:レイ・チャールズか
卓也:あ、和成(かずなり)せんせー
ミツル:おはよー!
和成:ミツル、おはようございますと言え。おはよう
卓也:せんせ、おはよー!
和成:卓也……おはよう
卓也:あいた、いったた、俺だけヘッドロックはずるいずるい!
和成:言ったそばから、やらかすからだ。
和成:しかし、いい趣味だな、ミツル。
和成:昼の校内放送で流すか、それ
ミツル:え、ほんとに? やったー!
卓也:ええ~~。
ミツル:何か不満かな!?
卓也:そりゃまあ、延々と八木節(やぎぶし)聞かされるよりはいいけどさあ
和成:八木節(やぎぶし)の何が悪い
卓也:センセの目が怖い!
和成:卓也も何か持ってくれば、放送してやらんこともないぞ
卓也:うーん、俺なんにも持ってないんだよなー。
卓也:あとで探してこようっと
和成:しかし、あの家の子は、今日も元気に泣いてるなぁ
ミツル:そうだね、お母さんが毎朝毎晩あやしてる
和成:すごく幸せそうだな
ミツル:かわいくて仕方ないんだろうなあ
卓也:今度、音の出るおもちゃ、持ってってやろーぜ!
ミツル:いいねぇ
0:――――――
みよ:(N)
みよ:とんてんからり、ぽろぽろり。
みよ:のぼる列車で明日(あす)へ行く
みよ:くだる列車はどこへ行く
みよ:のぼりゆくは、誰(だれ)問わず
みよ:くだりゆくは、誰もかなわず
みよ:とんてんころりと鞠(まり)弾(はず)み
みよ:ぽろぽろ、ぽろりと誰が追う
0:――――――
郵便屋:郵便でーす。
郵便屋:おじいさーん、お手紙の配達でーす!
和成:(おじいさん)
和成:おお、おお、ご苦労さん。
郵便屋:今日のお手紙も、娘さんかなあ?
和成:(おじいさん)
和成:そうじゃのう……ほっほ。
和成:ん? うーむ、ふむふむ……これは……
和成:……そうか……ばあさんが……逝ったか……
郵便屋:おじいさん?
和成:(おじいさん)
和成:ばあさんに、お迎えが来たようじゃ
郵便屋:ああ、そうなんだぁ……
郵便屋:じゃあ、おじいさん
和成:(おじいさん)
和成:そうじゃのう。そろそろ、列車に乗るとするか
郵便屋:そっか
みよ:おじいちゃん? どうしたの?
和成:(おじいさん)
和成:おお、みよや。
和成:おじいちゃんな、あの列車に乗ることにした。
和成:だからな、みよ。
和成:わしは、お前のおじいちゃんでは、なくなるんじゃ
みよ:……ッ(※息をのむ)
みよ:え、そんなの、やだ、やだよ、おじいちゃん!
和成:(おじいさん)
和成:すまんの、みよ……
和成:おじいちゃんな、ずっと、ばあさんを待っておったんじゃ……
和成:やっと、ばあさんに会えるかもしれん
みよ:う、うう……(※涙声)
和成:(おじいさん)
和成:お前の、永遠のおじいちゃんには、なれなんだ……
和成:すまんのう、みよ……
0:間をおいて
卓也:あ、警笛(けいてき)の音。
卓也:列車が動いたのか。珍しい
ミツル:のぼりだ。誰かが乗ったんだな
みよ:うう、ううう、うわあん
卓也:あれ、みよ?
ミツル:どうしたんだ? みよちゃん
みよ:お、おじいちゃんが、アレに乗って行っちゃったぁー!
ミツル:そっか……
和成:じいさんが、乗ったか
卓也:あれ、先生
和成:みよ。笑って送ってあげたか?
みよ:ずっと泣いてたもん!
和成:そうか。まあ、仕方がないか
ミツル:あれ? また上り列車が来た。今日はにぎやかだな
卓也:あー、ひとり、降りてきたみたいだな。良く見えねえ
ミツル:ちっちゃい、女の子みたいだな。泣いてる
みよ:……! あ、あれ、私の妹だ!
卓也:へ?
みよ:私の! 妹! 迎えに行ってくる!
ミツル:わー、さっそくかぁ
和成:あのちっちゃな女の子の、お姉ちゃんになるのか、みよは
郵便屋:郵便でーす!
ミツル:わ、びっくりした!
郵便屋:はい! 卓也くんにお手紙ですよ!
卓也:あ、俺? こんなところまでどーもどーも、サンキュー。
卓也:ん、お袋か。どれどれ……
卓也:「卓也、かなしい、かなしい、かなしい」
卓也:「卓也、戻ってきて、戻ってきて、戻ってきて」
卓也:……
ミツル:卓也? どうした?
卓也:ん、いや……なあ、ミツル
ミツル:なにさ
卓也:俺は、この街に来るとき、あの上り列車に乗ってきたけどさ
ミツル:うん
卓也:俺、どこから、来たんだっけ
0:――――――
卓也:(N)
卓也:とんてんからり、とん、はらり。
卓也:誰そ彼(たそかれ)、黄昏(たそがれ)、赤き塀(へい)
卓也:朱(あけ)に赤く、明ける空
卓也:夕べに赤く、染まる背に
卓也:其(そ)は誰(たれ)かしと言問(ことと)えば
卓也:昏(くら)き影は、眉(まゆ)の月
卓也:おかめにひょっとこ、とんからり
卓也:わが友垣(ともがき)と、手を結ぶ
0:――――――
ミツル:やっと疑問を持ったか
卓也:え? なに?
ミツル:たまにいるからさ。
ミツル:自分がどうしてここにいるのか、忘れちゃってる人
卓也:うん? えっと、どゆこと?
和成:ここは、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)
卓也:それは知ってる
ミツル:この街は、ハザマの街。
ミツル:あの上り列車でやってきて、たまに、ここで下車する人間がいる
ミツル:未練があったり、迷っていたり、誰かを待ちたかったり
和成:たまに、ただ何となくだったり
ミツル:死者の作る街だよ、ここは
卓也:へ……?
和成:死者だけの、街だ
卓也:ああ……そっか
ミツル:思い出した?
卓也:うん、思い出した。確かに俺、死んでたわ
卓也:あー、そっかそっか。
卓也:そんで、この街では、みんな好きなように役割を持つ
ミツル:そう、俺たちは学生だし
和成:俺は教師だ
ミツル:もとはまったくの、見ず知らずの他人
和成:けれど、泣く赤ん坊の母になったり、食堂のおやっさんだったり、あるいはただ何にもしない人だったり
ミツル:今いる俺の母さんも、ここでの役割
郵便屋:そして私は、郵便屋さん!
郵便屋:塀と塀の隙間、ビルとビルの間、古びたタバコ屋の横。
郵便屋:もしも見慣れない、小さな小さな四角いポストを見かけたならば、狂おしき思いを抱(いだ)くあの人への、お手紙をポンと投函(とうかん)してみよう!
郵便屋:その誰かがこの、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)の住人ならば、私が届けてあげましょう!
郵便屋:紙にしたためられぬ、ささやかな思いも、きっと届けてみせましょう!
郵便屋:私はそんな、郵便屋さん!
ミツル:この街の駅には、誰でも降りられる。
ミツル:乗車したまま、通り過ぎることもできる。
ミツル:この街の先は、終着駅。そこは、本当に死者の行く場所。
ミツル:けれど、下り列車には誰も乗ることが出来ない。
ミツル:彼岸(ひがん)からこの街に戻ってくることはできないし、この街から生きていた場所に戻ることもできない
和成:そしてこの街では、誰も成長しない。
和成:死んだときの姿のまま。
和成:この街に来た時の、姿のまま。
卓也:……ああ、うん。そうだったそうだった。
卓也:俺はまだ実感がなさすぎて、ついこの街のあの駅で、列車から降りてみたんだった
ミツル:その通り。……で?
卓也:うん?
ミツル:思い出したところで、どうしたい?
ミツル:そろそろあの列車に、乗って行きたいかい?
卓也:うーん……そうでもないな
和成:ははは。まあ、この街は、永遠の自由な街だからな
ミツル:そうだね。立ち寄るだけも、永遠に立ち止まるも自由。
ミツル:それがこの街だからね
卓也:今度、神社でお祭りあるじゃん?
ミツル:うん、あるね
卓也:夏と冬と、毎回楽しみだったし、また何度でも行きたいし。
卓也:あと、ちょっと、やってみたいこともできたっていうか
ミツル:え? なになに?
卓也:今、思いついたんだけど、俺は、あの下り列車に乗ってみたいなってさ。
卓也:唯一(ゆいいつ)下りに乗れる、ワンマン列車のあの運転士、兼(けん)、車掌。
卓也:あの人がもし、いつか役割やめて、上り列車の終着駅で降りるようなことがあったらさ、俺が代わりに、やってみたいなーって
ミツル:ええー? 卓也、絶対すぐ飽きると思う
卓也:そんなことねーよ!
和成:どちらにせよ、それは難しいかな。
和成:あの車掌、あれが天職と思ってるみたいだから、永遠に譲らないんじゃないか?
卓也:えー、そっかあー
卓也:ま、いいや!
卓也:おれはこの、煮(に)こごりみたいな街、好きだしな!
ミツル:なんだかんだで、ずいぶん長く、住んでるしね
卓也:そうそう!
和成:じゃあまあ、頑張って学生の役割こなして、課題終わらせような。
和成:祭りもすぐだし、補習なんてやりたくないよな~?
和成:俺もイヤだ。焼きそばとイカを食う
卓也:うわああ、まだ半分もやってねー!
ミツル:卓也、いつもそうじゃん……。
ミツル:今更だけど、学生じゃなくても良かったんじゃない。
ミツル:年齢的には学生だけど
卓也:うん、多分……
ミツル:多分?
卓也:働きたくなかったでござる
ミツル:ダメ人間だ、これ
和成:ははははは!
卓也:ミツル、手伝えよぉー!
ミツル:やなこったでーす
卓也:ううー、郵便屋さーん!
郵便屋:あ、配達途中だから、まったねー!
卓也:逃げたー!
ミツル:ま、自分の課題だ。がんばれよー
0:――少々の間――
みよ:そこの子! そこの泣いてる女の子!
みよ:私はみよ。私がみよ。
みよ:あなたの、おねえちゃんだよ!
0:――――――
和成:(N)
和成:とんてんからり、からころり。
和成:社(やしろ)を揺らすは、彼(か)の音か
和成:まよいご、まいご、面(めん)差して
和成:昏(くら)き坂道、行くならば
和成:とんてんからり、ぽんぱらり
和成:提灯(ちょうちん)ひろげ、火をともし
和成:長き 影踏め、案内(あない)の影を
和成:黄昏(たそがれ)、誰そ彼(たそかれ)、今は誰(たれ)
和成:灯火(ともしび)あかき
和成:誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)
和成:
和成:
0:作・暁寺 郁(ぎょうじ いく)