台本概要

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タイトル 勇者と魔王と青いバラ
作者名 そらいろ  (@sorairo_0801)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1) ※兼役あり
時間 40 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 アルカディア南部の森奥には魔王城があり、そこには残虐な魔王イードラが住んでいた
この物語は、英雄と名を残したエンフィールと冷徹な魔王と言われたイードラの誰も知らない儚き物語り

・一人称、語尾の変更、アドリブ◎
・世界観を壊すような過度なアドリブはご遠慮ください
・台本をご利用の際は、作者名・タイトル・台本URLの記載をお願いします
・利用の際にご連絡は必要ありませんが、教えていただけると今後の励みになります

今後も少しずつ加筆・修正する予定です

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
勇者 115 北の村の勇者。エンフィール ※兼役:勇者A
魔王 131 魔王タロスの娘。イードラ。触れたものの生命を奪う力をもっている
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
勇者A:(N)アルカディア南部の森奥には魔王城があり、そこには残虐な魔王イードラが住んでいた 0: 勇者A:「今日こそ魔王イードラを俺の手で倒してやる!!」 0: 勇者A:(N)魔王イードラは、歴代最も凶悪だと言われた先代魔王タロスの娘である。魔王タロスは60年前、勇者エンフィールによって倒された。しかしその後、魔王タロスの娘イードラの手によってエンフィールが倒されたことで、タロスよりも更に強い魔力をもつ魔王が誕生したと噂が広まり、たちまち人々を恐怖に陥れた。イードラを倒すために国中の勇者らは幾度も魔王城に挑んでいるものの、未だ倒すことができずにいた 0: 勇者A:「うおぉぉ!!」 0:窓から勇者の姿を眺める魔王 魔王:「はぁ。また来たのか。懲りない奴だ。あいつの姿を見ていると、昔のお前を思い出すよ」 魔王:「なぁ、エンフィールよ。お前をこの手で殺したあの日からもう何年経ったのだろうな」 0:イードラは机の上に飾られている青いバラを眺める 魔王:「ふっ。今でもお前がこのドアを勢いよく開け我の名を呼ぶ姿が鮮明に思い浮かぶよ」 魔王:「お前がこの城に初めて来たのも、今日のような雪の降る日だったな」 0:60年前 0:勢いよく部屋のドアが開く 勇者:「お前が魔王か!」 魔王:「あぁそうだ。よくここまでたどり着けたな人間。名はなんという」 勇者:「俺の名はエンフィール」 魔王:「ほぉ。最近噂によく聞く北の村の勇者か。よくあの罠を突破することができたな」 勇者:「あの程度の罠なら俺の手にかかれば余裕だ」 魔王:「あの程度、か。なぁ、勇者エンフィールよ。お前、我を倒しに来たのだろう」 勇者:「だとしたらなんだ」 魔王:「なら、ぼーっと突っ立ってないでさっさと殺れ」 勇者:「…は?」 魔王:「我はお前と戦うつもりなどない。さっさと殺してくれ」 勇者:「なっ」 魔王:「何をしておる。見ての通り我は今隙だらけだ。その剣で貫くなり、魔法で心臓を吹き飛ばすなり好きにするが良い」 勇者:「…」 魔王:「どうした、我を倒すのでは※」 勇者:「(被せて)俺は別にお前を倒しに来たわけじゃない」 魔王:「…なに?」 勇者:「なぁ。魔王」 魔王:「なんだ」 勇者:「ここの城に住む魔王タロスは歴代最も残虐な魔王だと恐れられている」 魔王:「そのようだな」 勇者:「でもお前は魔王タロスではないな」 魔王:「…なぜそう思う」 勇者:「俺はしばらくこの城に潜んでお前を観察していた」 魔王:「…」 勇者:「だが、俺の目には、お前がそんな残虐な魔王になんて見えなかった」 魔王:「ふっ。何を言っておる。我は人間を殺すことに躊躇などしない」 勇者:「この城にはられている罠だが。人間が死なない程度に作られているな」 魔王:「…」 勇者:「魔王城に向かって生きて帰ってきた者はいない、なんて言われていたのは昔の話だ。俺が調べた限り、ここ何十年は死人が出ていない」 魔王:「…それは」 勇者:「誰も魔王タロスの姿を知らないが、俺が噂に聞いた魔王タロスは図体がでかく、大きな角と牙を生やした男だった。それに、魔王の声を聞いたという者は、低く太い声であったと言っていた。お前とは似ても似つかない」 魔王:「…」 勇者:「お前は魔王の娘か?」 魔王:「っっ!」 勇者:「あたりか」 魔王:「…だとしたらなんだ」 勇者:「確かにお前の父は残虐な魔王だったかもしれない。でもお前は違う。だから俺はお前を殺さない」 魔王:「ふっ。お前に何が分かるというのだ」 勇者:「お前は魔王にしては優しすぎる」 魔王:「黙れ人間が!!我は魔王タロスの娘、イードラだ。あんまり調子に乗ると殺すぞ」 勇者:「ふーん、殺す…ねぇ」 0:勇者。魔王に近づき手に触れようとする 魔王:「っ!!我に触れるなっ!!」 勇者:「…やっぱり。殺す気なんてないんじゃないか」 魔王:「…お前、まさかこの力のことまで知っているのか」 勇者:「あぁ、色々調べたからな。お前の力の1つは触れたものの生命を奪う、だな?」 魔王:「…っ」 勇者:「これでお前が俺を殺すつもりがないってことが分かった」 魔王:「それは…※」 勇者:「にしても。どんな恐ろしい魔王がいるのか思ったらさ、自分が育ててた大切な花にうっかり触れて悲しんでいるただの可愛い女性だったなんて。驚いたよ」 魔王:「お、お前…そ、それを」 勇者:「だから俺はお前を殺さない」 魔王:「では、何が目的だ」 勇者:「目的と言われても特に何もないんだよな。倒す相手もいなくなっちまったし。あ、そうだ。村にいるのも退屈だし、これからここに遊びに来ていいか?」 魔王:「は?」 勇者:「だめか?」 魔王:「ダメとかそういう問題では」 勇者:「しばらくの間、俺の話し相手になってほしい。魔王様もどうせ友達なんていないだろ?」 魔王:「お前…自分の立場が分かっておるのか?我は魔王でお前は勇者だぞ」 勇者:「いーんだよ。俺は勇者としてじゃなくエンフィールとしてイードラに会いに来るだけだ」 魔王:「…」 勇者:「まぁ断られても来るけど。それが嫌なら俺が突破できないような罠でも仕掛けておくんだな〜。あ、それともそんな罠を用意できる自信がないのか?ま・お・う・さ・ま?」 魔王:「…。ふっ笑 面白い奴だ。分かった。受けてたとうではないか。せいぜい命乞いなどするなよ」 勇者:「あぁ。何度でも突破してやるよ」 0: 魔王:(M)それからというもの。エンフィールは何度も何度も罠を突破しては魔王城に来るようになった 0: 勇者:「イードラ!来たぞ」 魔王:「お前…あの罠を突破したのか」 勇者:「あぁ。ちょっと燃えたけど問題ない」 魔王:「でもその頭」 勇者:「あ、あぁ。チリチリだな」 魔王:「(笑いをこらえながら)似合っておるぞ」 勇者:「おい、笑っただろ」 魔王:「笑ってなどおらぬ」 勇者:「いーや。笑ったね」 魔王:「だから笑ってなどおらぬ」 勇者:「頑固な女性はモテないぞ」 魔王:「そんなの初めから望んでなどいない」 勇者:「そうか?笑うと結構可愛いぞ」 魔王:「は、はぁ?」 勇者:「あ、照れた」 魔王:「照れてなどおらぬ」 勇者:「拗ねるなよ…。あ、そうだ。これを持ってきたんだ」 魔王:「…これは…」 勇者:「青いバラだ。どうだ、綺麗だろ」 魔王:「あぁ、綺麗だな」 勇者:「それやるよ」 魔王:「…我は花を触ることはできぬ。また枯らしてしまうだけだ」 勇者:「この花は大丈夫だ。いーから触ってみろ」 0:恐る恐るそっとバラに触れる 魔王:「…っ!枯れ…ない」 勇者:「あぁ。その花は本物の花じゃないんだ。造花といって、本物そっくり作られてる」 魔王:「ほぉ…造花か…まるで本物の花のようだな」 勇者:「あぁ。花が好きなのかと思ってさ。村で売ってるのを見て買ってきた」 魔王:「そうか…あり…がとな」 勇者:「これで間違えて枯らして泣くことはないな」 魔王:「今すぐその記憶ごと頭を吹き飛ばしてやろうか」 勇者:「いやいやいや。冗談だって笑」 0: 魔王(M):気づけば我は、奴に少しずつ気持ちを許していった 0: 魔王:「また来たのか。罠は」 勇者:「あぁ。今回も大きな岩に潰されかけたり毒の矢が飛んできたが無事に突破してきた」 魔王:「はぁ…今回もダメだったか…また考え直さないといけないな」 勇者:「(呟く)いや今回は本当に死ぬかと思ったけどな…」 魔王:「そういえば、今月も何度もここに来ているが、村の奴らから何も言われないのか」 勇者:「あぁ。それは問題ない。皆には上手くいってあるさ」 魔王:「そうか、なら良いが」 勇者:「なぁイードラ」 魔王:「なんだ」 勇者:「お前は何故人間を殺さないんだ」 魔王:「…」 勇者:「言いたくなければいい」 魔王:「…我は殺しは好かない」 勇者:「…」 魔王:「…我は…父が嫌いだった」 勇者:「え」 魔王:「父はな、殺しを楽しんでおった。小さい頃、教育のためだとよく父の仕事を見させられてな。我の目に映るのは、いつもこの城に挑む人間たちの苦しむ姿だった。我はそんな光景がとても恐ろしかった。しかし隣の父は笑っていた。とても楽しそうに。その顔を我はいまだに忘れることができぬ」 勇者:「…子どもにそんなのを見せるなんて…なんて奴だ」 魔王:「我は争いを好まなかった。人間も魔族も争わずにお互い静かに暮らせればよいと思った。しかし、こちらから争いを仕掛けなくても人間はどちらかが滅びるまで争いをやめるつもりはないようでな。結局争いは終わることがなかった。共通の敵がいた方が、人間にとっても都合が良いのだろう」 勇者:「イードラ…ずっと気になっていたんだが、魔王タロスはどこにいるんだ。ここの城にいる気配はないし、他の勇者が倒したなんて噂も…」 魔王:「我が殺したのだ。この手でな」 勇者:「…!!」 魔王:「だから人間共は父が死んだこともまだ知らぬだろうな。もう我は疲れてしまったのだ。我が死ねば魔族は滅び、無意味な戦いも終わる」 勇者:「だからあの日俺に殺されようとしたのか」 魔王:「あぁ。それに我はあの残虐な魔王タロスの娘だ。こんな我が生きてて良いわけがないだろう」 勇者:「それは違う!!」 魔王:「…」 勇者:「イードラは確かにあの残虐な魔王の娘だ。それは事実かもしれない。でもだからといってイードラが父親と同じわけじゃない。俺が知っているイードラは優しい心を持った素敵な女性だ」 魔王:「…我は」 勇者:「イードラ…。お前に触れられるならその涙もぬぐえるのにな」 魔王:「ふっ。お前のような人間は初めてだ。我を憎しみの目で見る者も、怯えた目で見る者も、殺意の目で見てくる奴も大勢いた。でも、お前のようにまっすぐ我を見てくれるものなどいなかった」 勇者:「イードラ…」 魔王:「お前に出会えてよかったよ」 勇者:「エンフィールだ」 魔王:「え?」 勇者:「いい加減お前じゃなくエンフィールと呼んでくれてもいいんじゃないか」 魔王:「ふっ。そうだな。エンフィールに出会えてよかったよ」 勇者:「あぁ。俺もだ」 0: 魔王:(M)その後もエンフィールはよく魔王城に来ては、お互い色々な話をして、時には剣術や魔法の訓練を一緒にしたり、チェスをして共に過ごした 0: 勇者:「イードラ、最近よく笑うようになったな」 魔王:「そうか?」 勇者:「あぁ」 魔王:「なら、それはエンフィールの前だけだ」 勇者:「そ、そうか」 魔王:「エンフィールのお陰で毎日退屈しないで過ごせているよ」 勇者:「そりゃよかった。でももうちょっと罠は頑張った方がいいぞ」 魔王:「ほぉ。安心しろ。次の罠はさすがのエンフィールでも無理だろうよ」 勇者:「お、自信満々だな。楽しみにしてるよ」 魔王:「お前…我のことを完全に舐めとるな」 勇者:「いーや笑」 魔王:「涼しい顔をしていられるのも今のうちだ。お前の泣き顔を見るのを楽しみにしてるぞ」 勇者:「それはこっちのセリフだ」 0:お互い笑う 勇者:「あぁ!そうだ、これ、イードラの瞳と同じコバルトブルーのブレスレット。村で見かけて、イードラに似合うと思って買ってきた」 魔王:「勇者が買ったブレスレットを渡す相手が魔王だなんて。村の奴らが知ったらみんな驚いて死ぬぞ」 勇者:「ははっ。確かにそうかもなぁ」 魔王:「ふふ。どうだ、似合うか」 勇者:「あぁ。とても」 0: 魔王:(M)気づけばエンフィールと出会って半年が経っていた 0: 魔王:「この我が人間とこうして関わる日が来るとはな。よく笑うようになった…か。我も少しずつ変わってきているのだろうか。触れたものの生命を奪うなんてこんな恐ろしい力を持つ私でも。…魔族の我でも、いつか人間と歩み寄ることが…できるのだろうか」 0: 魔王:(M)ある日の夜、次はどんな罠を仕掛けておこうかと部屋で考えていた時、机の下に銀色の綺麗なペンダントが落ちていることに気づいた 0: 魔王:「これは…エンフィールのか。ん?これは写真か」 魔王:「…!!こいつは…」 0: 魔王:(M)その写真に写っている人物は、我がよく知っている顔だった 0:翌週 勇者:「イードラー来たぞ!」 魔王:「来たか」 勇者:「今日はさ、大切な話があってきた。イードラ。俺※」 魔王:「エンフィール。忘れものだ」 勇者:「…っっ」 魔王:「この写真※」 勇者:「違うんだ!これは!!」 魔王:「何が違う。その写真の人物は我も良く覚えておる。そいつは、そいつは父が殺した勇者の一人だからな!!」 勇者:「…」 魔王:「お前はあの勇者の息子だったんだな」 勇者:「…あぁ。そうだ」 魔王:「父親の仇…か。最初から我を殺すつもりで近づいたのか」 勇者:「違う!」 魔王:「なるほどな。今までのは全て演技だったのか。普通に殺すのは面白くないから、距離を縮めてから我を殺そうと」 勇者:「違う!話を聞いてくれ、イードラ!」 魔王:「あっははは。我はまんまとその罠にかかってしまったようだ。我は、お前にずっと憎まれておったのかと考えたとき、胸が張り裂けそうなくらい、悲しい気持ちになったよ。…愚かだな。どうだエンフィールよ。これで満足か!殺すつもりならさっさと殺せ!!」 勇者:「違うんだ!聞いてくれ!!俺は、確かに父親の仇でここに来た。でも、父を殺した魔王の姿はなく、代わりにいたのがイードラだった。城で潜んで君を見ていたら、魔王タロスとは全く違って、とてもやさしい人だと知った。だからイードラを殺すつもりなんて初めからない!!今までだって※」 魔王:「そんな話…我が信じられるとでも思うか!!」 勇者:「お願いだ、イードラ。そんな目で俺を見ないでくれ。俺はイードラを愛し※」 魔王:「帰れ!!そして…もう二度と我の前に現れるな!」 勇者:「…イードラ。ごめん。傷つけるつもりはなかったんだ。でも今日はもう帰るよ。また日を空けて来る」 魔王:「…」 0: 魔王:(M)しかし、それからエンフィールが魔王城に来ることはなかった 0: 魔王:「魔王イードラよ。こんなことで泣くんじゃない。お前はずっと独りだったではないか。また、半年前に戻るだけだ」 0: 魔王:(M)しばらくして魔王城に人間のある噂が流れてきた。勇者エンフィールが倒れたと。気づけば我は急いで人間の姿を装いエンフィールの元へ向かっていた 0: 魔王:「エンフィール」 勇者:「イードラ!?え、なんでここに」 0: 魔王:(M)そこには以前よりもかなりやせ細ったエンフィールの姿があった 0: 魔王:「こんなところで一人で暮らしているのか」 勇者:「あぁ」 魔王:「なぜ、病のことを黙っていた」 勇者:「悪かった。そのことを話したら、イードラが気を使うとおもってさ」 魔王:「…。」 勇者:「…イードラ。この前は悪かった」 魔王:「…顔をあげろ。我も言い過ぎた。悪かったな」 勇者:「…怒ったイードラも可愛かった」 魔王:「ほぉ。そんな戯言を言えるならまだまだ元気のようだな」 勇者:「ははっ。だと良かったんだけど、最近悪化しちゃってさ。魔王城にも行けないくらい弱っちまった」 魔王:「…。」 勇者:「…俺、昔から体が弱くてさ。勇者の息子なのに戦いにも参加できず、村中から役立たずって馬鹿にされてたんだ。それで両親にも見放されて。すっごく悔しくて。いつか元気になるって信じて必死に訓練も頑張ってたんだ。でも、イードラと出会う少し前、俺は医者から長くて半年だと言われちまった」 魔王:「半年…」 勇者:「あぁ。だから俺は死ぬ前に、自分の役目を果たすために、勇者として魔王城に向かったんだ」 魔王:「そうだったのか」 勇者:「情けない姿見られちゃったな(咳き込む)」 魔王:「情けない姿などではない。命持つ者、必ず終わりは来るのだ。それが長いか早いか、それだけの違いだ」 勇者:「そうだな。…なぁ、イードラ。お願いがあるんだ」 魔王:「なんだ。我にできることならば叶えてやる」 勇者:「…俺を殺してくれないか」 魔王:「…!」 勇者:「俺はもう、長くはない。自分の体のことだ。よく分かる」 魔王:「…」 勇者:「だからイードラの手で俺を殺して欲しいんだ」 魔王:「それは…」 勇者:「頼む」 魔王:「…」 勇者:「…イードラ」 魔王:「…ずるいな。エンフィールに…そんな風に頼まれたら…我が断れるわけないだろう……」 勇者:「ありがとう」 魔王:「…。」 勇者:「なぁ。イードラ」 魔王:「なんだ」 勇者:「生まれ変わったら、またイードラの元へ行くよ」 魔王:「それは、勇者としてか」 勇者:「そうだな。じゃないと、罠を突破してイードラのもとに辿り着けないからな」 魔王:「そうか。エンフィールに倒されるなら本望だ」 勇者:「倒しはしない。また恋に落ちるだけだ」 魔王:「こんな我に二度も恋をしてくれるのか」 勇者:「あぁ。イードラだからだよ」 魔王:「それじゃあ、それまで他の者に倒されないようにしないとな」 勇者:「イードラなら大丈夫だ」 0:二人で笑う 勇者:「イードラ。触れていいか」 魔王:「あぁ…。!」 0:勇者。イードラにキスをする 勇者:「ははっ。やっと…イードラに触れられた。本当は…ずっと…こうして…抱きしめたかった」 0:勇者。イードラを強く抱きしめる 勇者:「あたた…かい…な」 魔王:「エンフィール…」 勇者:「こんなこと…頼んでごめんな」 魔王:「…気にしなくて良い」 勇者:「幸せな…最後だ…。あい…して…いるよ。イード…ラ」 魔王:「…あぁ。我もだ」 0:イードラは優しくエンフィールの頬をなでる 魔王:「我が…人間のために、涙を流す日が来るとはな…。エンフィール。ゆっくり眠るがよい」 0: 魔王:(M)そうしてエンフィールは息を引きとった。その後我は冷たくなったエンフィールを城に連れて帰り、エンフィールの剣で自分の横腹を刺した。そして我はエンフィールの村に再び戻り皆に聞こえるように言った 0: 魔王:「愚かな人間ども。よく聞くがよい。この村の勇者、エンフィールが我が父、魔王タロスを倒した。ここまで人間に追い詰められたのは初めてだ。だが残念だったな人間ども。魔王の娘、イードラがこの手でエンフィールを始末した。これからは我がお前らの相手だ。我を倒しに魔王城に来るがよい」 0: 魔王:(M)あの魔王がエンフィールによって倒されたこと、また魔王の血を継ぐ娘がいることを知り村は大騒ぎだった。それから村には勇敢な者の証としてエンフィールの像が建てられ、城には国中から勇者が訪れた 0:回想終了 魔王:(M)我は机の上に飾られた青いバラをそっと手に取った 0: 魔王:「エンフィール。お前はこんな結末を知ったら怒るかもしれないな。でも、我は後悔などしてはおらぬ。…もし叶うのなら、もう一度お前に会いたいものだな」 0:ドアが開く 勇者A:「魔王イードラよ。今日こそ俺がお前を倒してみせる!!」 魔王:「また罠を突破してきたのか。ふふ。お前は本当にあいつに似ているな」 勇者A:「笑った…。っなんだこの気持ちは…俺は…どこかで」 魔王:(N)この物語は、英雄と名を残したエンフィールと冷徹な魔王と言われたイードラの誰も知らない儚き物語り

勇者A:(N)アルカディア南部の森奥には魔王城があり、そこには残虐な魔王イードラが住んでいた 0: 勇者A:「今日こそ魔王イードラを俺の手で倒してやる!!」 0: 勇者A:(N)魔王イードラは、歴代最も凶悪だと言われた先代魔王タロスの娘である。魔王タロスは60年前、勇者エンフィールによって倒された。しかしその後、魔王タロスの娘イードラの手によってエンフィールが倒されたことで、タロスよりも更に強い魔力をもつ魔王が誕生したと噂が広まり、たちまち人々を恐怖に陥れた。イードラを倒すために国中の勇者らは幾度も魔王城に挑んでいるものの、未だ倒すことができずにいた 0: 勇者A:「うおぉぉ!!」 0:窓から勇者の姿を眺める魔王 魔王:「はぁ。また来たのか。懲りない奴だ。あいつの姿を見ていると、昔のお前を思い出すよ」 魔王:「なぁ、エンフィールよ。お前をこの手で殺したあの日からもう何年経ったのだろうな」 0:イードラは机の上に飾られている青いバラを眺める 魔王:「ふっ。今でもお前がこのドアを勢いよく開け我の名を呼ぶ姿が鮮明に思い浮かぶよ」 魔王:「お前がこの城に初めて来たのも、今日のような雪の降る日だったな」 0:60年前 0:勢いよく部屋のドアが開く 勇者:「お前が魔王か!」 魔王:「あぁそうだ。よくここまでたどり着けたな人間。名はなんという」 勇者:「俺の名はエンフィール」 魔王:「ほぉ。最近噂によく聞く北の村の勇者か。よくあの罠を突破することができたな」 勇者:「あの程度の罠なら俺の手にかかれば余裕だ」 魔王:「あの程度、か。なぁ、勇者エンフィールよ。お前、我を倒しに来たのだろう」 勇者:「だとしたらなんだ」 魔王:「なら、ぼーっと突っ立ってないでさっさと殺れ」 勇者:「…は?」 魔王:「我はお前と戦うつもりなどない。さっさと殺してくれ」 勇者:「なっ」 魔王:「何をしておる。見ての通り我は今隙だらけだ。その剣で貫くなり、魔法で心臓を吹き飛ばすなり好きにするが良い」 勇者:「…」 魔王:「どうした、我を倒すのでは※」 勇者:「(被せて)俺は別にお前を倒しに来たわけじゃない」 魔王:「…なに?」 勇者:「なぁ。魔王」 魔王:「なんだ」 勇者:「ここの城に住む魔王タロスは歴代最も残虐な魔王だと恐れられている」 魔王:「そのようだな」 勇者:「でもお前は魔王タロスではないな」 魔王:「…なぜそう思う」 勇者:「俺はしばらくこの城に潜んでお前を観察していた」 魔王:「…」 勇者:「だが、俺の目には、お前がそんな残虐な魔王になんて見えなかった」 魔王:「ふっ。何を言っておる。我は人間を殺すことに躊躇などしない」 勇者:「この城にはられている罠だが。人間が死なない程度に作られているな」 魔王:「…」 勇者:「魔王城に向かって生きて帰ってきた者はいない、なんて言われていたのは昔の話だ。俺が調べた限り、ここ何十年は死人が出ていない」 魔王:「…それは」 勇者:「誰も魔王タロスの姿を知らないが、俺が噂に聞いた魔王タロスは図体がでかく、大きな角と牙を生やした男だった。それに、魔王の声を聞いたという者は、低く太い声であったと言っていた。お前とは似ても似つかない」 魔王:「…」 勇者:「お前は魔王の娘か?」 魔王:「っっ!」 勇者:「あたりか」 魔王:「…だとしたらなんだ」 勇者:「確かにお前の父は残虐な魔王だったかもしれない。でもお前は違う。だから俺はお前を殺さない」 魔王:「ふっ。お前に何が分かるというのだ」 勇者:「お前は魔王にしては優しすぎる」 魔王:「黙れ人間が!!我は魔王タロスの娘、イードラだ。あんまり調子に乗ると殺すぞ」 勇者:「ふーん、殺す…ねぇ」 0:勇者。魔王に近づき手に触れようとする 魔王:「っ!!我に触れるなっ!!」 勇者:「…やっぱり。殺す気なんてないんじゃないか」 魔王:「…お前、まさかこの力のことまで知っているのか」 勇者:「あぁ、色々調べたからな。お前の力の1つは触れたものの生命を奪う、だな?」 魔王:「…っ」 勇者:「これでお前が俺を殺すつもりがないってことが分かった」 魔王:「それは…※」 勇者:「にしても。どんな恐ろしい魔王がいるのか思ったらさ、自分が育ててた大切な花にうっかり触れて悲しんでいるただの可愛い女性だったなんて。驚いたよ」 魔王:「お、お前…そ、それを」 勇者:「だから俺はお前を殺さない」 魔王:「では、何が目的だ」 勇者:「目的と言われても特に何もないんだよな。倒す相手もいなくなっちまったし。あ、そうだ。村にいるのも退屈だし、これからここに遊びに来ていいか?」 魔王:「は?」 勇者:「だめか?」 魔王:「ダメとかそういう問題では」 勇者:「しばらくの間、俺の話し相手になってほしい。魔王様もどうせ友達なんていないだろ?」 魔王:「お前…自分の立場が分かっておるのか?我は魔王でお前は勇者だぞ」 勇者:「いーんだよ。俺は勇者としてじゃなくエンフィールとしてイードラに会いに来るだけだ」 魔王:「…」 勇者:「まぁ断られても来るけど。それが嫌なら俺が突破できないような罠でも仕掛けておくんだな〜。あ、それともそんな罠を用意できる自信がないのか?ま・お・う・さ・ま?」 魔王:「…。ふっ笑 面白い奴だ。分かった。受けてたとうではないか。せいぜい命乞いなどするなよ」 勇者:「あぁ。何度でも突破してやるよ」 0: 魔王:(M)それからというもの。エンフィールは何度も何度も罠を突破しては魔王城に来るようになった 0: 勇者:「イードラ!来たぞ」 魔王:「お前…あの罠を突破したのか」 勇者:「あぁ。ちょっと燃えたけど問題ない」 魔王:「でもその頭」 勇者:「あ、あぁ。チリチリだな」 魔王:「(笑いをこらえながら)似合っておるぞ」 勇者:「おい、笑っただろ」 魔王:「笑ってなどおらぬ」 勇者:「いーや。笑ったね」 魔王:「だから笑ってなどおらぬ」 勇者:「頑固な女性はモテないぞ」 魔王:「そんなの初めから望んでなどいない」 勇者:「そうか?笑うと結構可愛いぞ」 魔王:「は、はぁ?」 勇者:「あ、照れた」 魔王:「照れてなどおらぬ」 勇者:「拗ねるなよ…。あ、そうだ。これを持ってきたんだ」 魔王:「…これは…」 勇者:「青いバラだ。どうだ、綺麗だろ」 魔王:「あぁ、綺麗だな」 勇者:「それやるよ」 魔王:「…我は花を触ることはできぬ。また枯らしてしまうだけだ」 勇者:「この花は大丈夫だ。いーから触ってみろ」 0:恐る恐るそっとバラに触れる 魔王:「…っ!枯れ…ない」 勇者:「あぁ。その花は本物の花じゃないんだ。造花といって、本物そっくり作られてる」 魔王:「ほぉ…造花か…まるで本物の花のようだな」 勇者:「あぁ。花が好きなのかと思ってさ。村で売ってるのを見て買ってきた」 魔王:「そうか…あり…がとな」 勇者:「これで間違えて枯らして泣くことはないな」 魔王:「今すぐその記憶ごと頭を吹き飛ばしてやろうか」 勇者:「いやいやいや。冗談だって笑」 0: 魔王(M):気づけば我は、奴に少しずつ気持ちを許していった 0: 魔王:「また来たのか。罠は」 勇者:「あぁ。今回も大きな岩に潰されかけたり毒の矢が飛んできたが無事に突破してきた」 魔王:「はぁ…今回もダメだったか…また考え直さないといけないな」 勇者:「(呟く)いや今回は本当に死ぬかと思ったけどな…」 魔王:「そういえば、今月も何度もここに来ているが、村の奴らから何も言われないのか」 勇者:「あぁ。それは問題ない。皆には上手くいってあるさ」 魔王:「そうか、なら良いが」 勇者:「なぁイードラ」 魔王:「なんだ」 勇者:「お前は何故人間を殺さないんだ」 魔王:「…」 勇者:「言いたくなければいい」 魔王:「…我は殺しは好かない」 勇者:「…」 魔王:「…我は…父が嫌いだった」 勇者:「え」 魔王:「父はな、殺しを楽しんでおった。小さい頃、教育のためだとよく父の仕事を見させられてな。我の目に映るのは、いつもこの城に挑む人間たちの苦しむ姿だった。我はそんな光景がとても恐ろしかった。しかし隣の父は笑っていた。とても楽しそうに。その顔を我はいまだに忘れることができぬ」 勇者:「…子どもにそんなのを見せるなんて…なんて奴だ」 魔王:「我は争いを好まなかった。人間も魔族も争わずにお互い静かに暮らせればよいと思った。しかし、こちらから争いを仕掛けなくても人間はどちらかが滅びるまで争いをやめるつもりはないようでな。結局争いは終わることがなかった。共通の敵がいた方が、人間にとっても都合が良いのだろう」 勇者:「イードラ…ずっと気になっていたんだが、魔王タロスはどこにいるんだ。ここの城にいる気配はないし、他の勇者が倒したなんて噂も…」 魔王:「我が殺したのだ。この手でな」 勇者:「…!!」 魔王:「だから人間共は父が死んだこともまだ知らぬだろうな。もう我は疲れてしまったのだ。我が死ねば魔族は滅び、無意味な戦いも終わる」 勇者:「だからあの日俺に殺されようとしたのか」 魔王:「あぁ。それに我はあの残虐な魔王タロスの娘だ。こんな我が生きてて良いわけがないだろう」 勇者:「それは違う!!」 魔王:「…」 勇者:「イードラは確かにあの残虐な魔王の娘だ。それは事実かもしれない。でもだからといってイードラが父親と同じわけじゃない。俺が知っているイードラは優しい心を持った素敵な女性だ」 魔王:「…我は」 勇者:「イードラ…。お前に触れられるならその涙もぬぐえるのにな」 魔王:「ふっ。お前のような人間は初めてだ。我を憎しみの目で見る者も、怯えた目で見る者も、殺意の目で見てくる奴も大勢いた。でも、お前のようにまっすぐ我を見てくれるものなどいなかった」 勇者:「イードラ…」 魔王:「お前に出会えてよかったよ」 勇者:「エンフィールだ」 魔王:「え?」 勇者:「いい加減お前じゃなくエンフィールと呼んでくれてもいいんじゃないか」 魔王:「ふっ。そうだな。エンフィールに出会えてよかったよ」 勇者:「あぁ。俺もだ」 0: 魔王:(M)その後もエンフィールはよく魔王城に来ては、お互い色々な話をして、時には剣術や魔法の訓練を一緒にしたり、チェスをして共に過ごした 0: 勇者:「イードラ、最近よく笑うようになったな」 魔王:「そうか?」 勇者:「あぁ」 魔王:「なら、それはエンフィールの前だけだ」 勇者:「そ、そうか」 魔王:「エンフィールのお陰で毎日退屈しないで過ごせているよ」 勇者:「そりゃよかった。でももうちょっと罠は頑張った方がいいぞ」 魔王:「ほぉ。安心しろ。次の罠はさすがのエンフィールでも無理だろうよ」 勇者:「お、自信満々だな。楽しみにしてるよ」 魔王:「お前…我のことを完全に舐めとるな」 勇者:「いーや笑」 魔王:「涼しい顔をしていられるのも今のうちだ。お前の泣き顔を見るのを楽しみにしてるぞ」 勇者:「それはこっちのセリフだ」 0:お互い笑う 勇者:「あぁ!そうだ、これ、イードラの瞳と同じコバルトブルーのブレスレット。村で見かけて、イードラに似合うと思って買ってきた」 魔王:「勇者が買ったブレスレットを渡す相手が魔王だなんて。村の奴らが知ったらみんな驚いて死ぬぞ」 勇者:「ははっ。確かにそうかもなぁ」 魔王:「ふふ。どうだ、似合うか」 勇者:「あぁ。とても」 0: 魔王:(M)気づけばエンフィールと出会って半年が経っていた 0: 魔王:「この我が人間とこうして関わる日が来るとはな。よく笑うようになった…か。我も少しずつ変わってきているのだろうか。触れたものの生命を奪うなんてこんな恐ろしい力を持つ私でも。…魔族の我でも、いつか人間と歩み寄ることが…できるのだろうか」 0: 魔王:(M)ある日の夜、次はどんな罠を仕掛けておこうかと部屋で考えていた時、机の下に銀色の綺麗なペンダントが落ちていることに気づいた 0: 魔王:「これは…エンフィールのか。ん?これは写真か」 魔王:「…!!こいつは…」 0: 魔王:(M)その写真に写っている人物は、我がよく知っている顔だった 0:翌週 勇者:「イードラー来たぞ!」 魔王:「来たか」 勇者:「今日はさ、大切な話があってきた。イードラ。俺※」 魔王:「エンフィール。忘れものだ」 勇者:「…っっ」 魔王:「この写真※」 勇者:「違うんだ!これは!!」 魔王:「何が違う。その写真の人物は我も良く覚えておる。そいつは、そいつは父が殺した勇者の一人だからな!!」 勇者:「…」 魔王:「お前はあの勇者の息子だったんだな」 勇者:「…あぁ。そうだ」 魔王:「父親の仇…か。最初から我を殺すつもりで近づいたのか」 勇者:「違う!」 魔王:「なるほどな。今までのは全て演技だったのか。普通に殺すのは面白くないから、距離を縮めてから我を殺そうと」 勇者:「違う!話を聞いてくれ、イードラ!」 魔王:「あっははは。我はまんまとその罠にかかってしまったようだ。我は、お前にずっと憎まれておったのかと考えたとき、胸が張り裂けそうなくらい、悲しい気持ちになったよ。…愚かだな。どうだエンフィールよ。これで満足か!殺すつもりならさっさと殺せ!!」 勇者:「違うんだ!聞いてくれ!!俺は、確かに父親の仇でここに来た。でも、父を殺した魔王の姿はなく、代わりにいたのがイードラだった。城で潜んで君を見ていたら、魔王タロスとは全く違って、とてもやさしい人だと知った。だからイードラを殺すつもりなんて初めからない!!今までだって※」 魔王:「そんな話…我が信じられるとでも思うか!!」 勇者:「お願いだ、イードラ。そんな目で俺を見ないでくれ。俺はイードラを愛し※」 魔王:「帰れ!!そして…もう二度と我の前に現れるな!」 勇者:「…イードラ。ごめん。傷つけるつもりはなかったんだ。でも今日はもう帰るよ。また日を空けて来る」 魔王:「…」 0: 魔王:(M)しかし、それからエンフィールが魔王城に来ることはなかった 0: 魔王:「魔王イードラよ。こんなことで泣くんじゃない。お前はずっと独りだったではないか。また、半年前に戻るだけだ」 0: 魔王:(M)しばらくして魔王城に人間のある噂が流れてきた。勇者エンフィールが倒れたと。気づけば我は急いで人間の姿を装いエンフィールの元へ向かっていた 0: 魔王:「エンフィール」 勇者:「イードラ!?え、なんでここに」 0: 魔王:(M)そこには以前よりもかなりやせ細ったエンフィールの姿があった 0: 魔王:「こんなところで一人で暮らしているのか」 勇者:「あぁ」 魔王:「なぜ、病のことを黙っていた」 勇者:「悪かった。そのことを話したら、イードラが気を使うとおもってさ」 魔王:「…。」 勇者:「…イードラ。この前は悪かった」 魔王:「…顔をあげろ。我も言い過ぎた。悪かったな」 勇者:「…怒ったイードラも可愛かった」 魔王:「ほぉ。そんな戯言を言えるならまだまだ元気のようだな」 勇者:「ははっ。だと良かったんだけど、最近悪化しちゃってさ。魔王城にも行けないくらい弱っちまった」 魔王:「…。」 勇者:「…俺、昔から体が弱くてさ。勇者の息子なのに戦いにも参加できず、村中から役立たずって馬鹿にされてたんだ。それで両親にも見放されて。すっごく悔しくて。いつか元気になるって信じて必死に訓練も頑張ってたんだ。でも、イードラと出会う少し前、俺は医者から長くて半年だと言われちまった」 魔王:「半年…」 勇者:「あぁ。だから俺は死ぬ前に、自分の役目を果たすために、勇者として魔王城に向かったんだ」 魔王:「そうだったのか」 勇者:「情けない姿見られちゃったな(咳き込む)」 魔王:「情けない姿などではない。命持つ者、必ず終わりは来るのだ。それが長いか早いか、それだけの違いだ」 勇者:「そうだな。…なぁ、イードラ。お願いがあるんだ」 魔王:「なんだ。我にできることならば叶えてやる」 勇者:「…俺を殺してくれないか」 魔王:「…!」 勇者:「俺はもう、長くはない。自分の体のことだ。よく分かる」 魔王:「…」 勇者:「だからイードラの手で俺を殺して欲しいんだ」 魔王:「それは…」 勇者:「頼む」 魔王:「…」 勇者:「…イードラ」 魔王:「…ずるいな。エンフィールに…そんな風に頼まれたら…我が断れるわけないだろう……」 勇者:「ありがとう」 魔王:「…。」 勇者:「なぁ。イードラ」 魔王:「なんだ」 勇者:「生まれ変わったら、またイードラの元へ行くよ」 魔王:「それは、勇者としてか」 勇者:「そうだな。じゃないと、罠を突破してイードラのもとに辿り着けないからな」 魔王:「そうか。エンフィールに倒されるなら本望だ」 勇者:「倒しはしない。また恋に落ちるだけだ」 魔王:「こんな我に二度も恋をしてくれるのか」 勇者:「あぁ。イードラだからだよ」 魔王:「それじゃあ、それまで他の者に倒されないようにしないとな」 勇者:「イードラなら大丈夫だ」 0:二人で笑う 勇者:「イードラ。触れていいか」 魔王:「あぁ…。!」 0:勇者。イードラにキスをする 勇者:「ははっ。やっと…イードラに触れられた。本当は…ずっと…こうして…抱きしめたかった」 0:勇者。イードラを強く抱きしめる 勇者:「あたた…かい…な」 魔王:「エンフィール…」 勇者:「こんなこと…頼んでごめんな」 魔王:「…気にしなくて良い」 勇者:「幸せな…最後だ…。あい…して…いるよ。イード…ラ」 魔王:「…あぁ。我もだ」 0:イードラは優しくエンフィールの頬をなでる 魔王:「我が…人間のために、涙を流す日が来るとはな…。エンフィール。ゆっくり眠るがよい」 0: 魔王:(M)そうしてエンフィールは息を引きとった。その後我は冷たくなったエンフィールを城に連れて帰り、エンフィールの剣で自分の横腹を刺した。そして我はエンフィールの村に再び戻り皆に聞こえるように言った 0: 魔王:「愚かな人間ども。よく聞くがよい。この村の勇者、エンフィールが我が父、魔王タロスを倒した。ここまで人間に追い詰められたのは初めてだ。だが残念だったな人間ども。魔王の娘、イードラがこの手でエンフィールを始末した。これからは我がお前らの相手だ。我を倒しに魔王城に来るがよい」 0: 魔王:(M)あの魔王がエンフィールによって倒されたこと、また魔王の血を継ぐ娘がいることを知り村は大騒ぎだった。それから村には勇敢な者の証としてエンフィールの像が建てられ、城には国中から勇者が訪れた 0:回想終了 魔王:(M)我は机の上に飾られた青いバラをそっと手に取った 0: 魔王:「エンフィール。お前はこんな結末を知ったら怒るかもしれないな。でも、我は後悔などしてはおらぬ。…もし叶うのなら、もう一度お前に会いたいものだな」 0:ドアが開く 勇者A:「魔王イードラよ。今日こそ俺がお前を倒してみせる!!」 魔王:「また罠を突破してきたのか。ふふ。お前は本当にあいつに似ているな」 勇者A:「笑った…。っなんだこの気持ちは…俺は…どこかで」 魔王:(N)この物語は、英雄と名を残したエンフィールと冷徹な魔王と言われたイードラの誰も知らない儚き物語り