台本概要

 139 views 

タイトル 誰そ彼横丁~歌うたい
作者名 暁寺 郁  (@him_like_me)
ジャンル その他
演者人数 1人用台本(男1) ※兼役あり
時間 10 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 たそかれよこちょう ~うたうたい~
誰そ彼横丁の三作目。例によって一作目のネタバレになります。
主に路上で歌や演奏を奏でている人の、ひとり語りです。
お好きな表現でどうぞ!
演者様の性別不問です。

独り読みですが、読みやすいように、また、間を置くために、セリフを区切ってあります。
軽微なアドリブは不可ではありませんが、朗読のような形式となるため非推奨です。

 139 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
歌うたい 14 誰そ彼横丁の様々な場所て歌ったり奏でたりしている人。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
歌うたい:藍色(あいいろ)の空。紫の雲。赤い稜線(りょうせん)。 歌うたい:夕暮れ時と見まごうような、朝焼けの時間。 歌うたい:こんなに早く起きてしまった日には、あの高台(たかだい)で、静かな歌でも歌ってみよう。 0:  歌うたい:僕は、歌うたい。 歌うたい:小さな街角で、あの公園で。時々線路の脇で列車を見送りながら。 歌うたい:好きな時に、好きなところで、いつでも僕は、歌を歌う。 0:  歌うたい:この街にも、さまざまな音楽はあるけれど。 歌うたい:たとえばレコードとか、CDなんてのもあるのだけれど。 歌うたい:この街のお店には、限られた音源しか置いていないんだ。 歌うたい:そう。もう、亡くなった人の音楽しか、置いていない。 歌うたい:歌だけならば、それを作った人と歌った人が亡くなっていれば、手に入れることができる。 歌うたい:けれどこれが演奏付きのあのヒット曲、とかになると、演奏した人も、すべて亡くなった時に初めて、この街で取り扱いができるようになる。 歌うたい:だから、古い歌が多いんだ。 歌うたい:そこで僕の出番さ。 歌うたい:音源として手に入れられない音楽でも、僕は歌ってあげることができる。 歌うたい:ああ、でも知らない歌は歌うことができないから、そんな歌をリクエストするときは、その歌を、歌って聞かせてね。 歌うたい:あんまり役に立たないって? 歌うたい:まあ、そう言わずにさ♪ 歌うたい:なんなら、一緒に歌おうよ。 歌うたい:それはとても、楽しい音楽の時間だよ。 0:  歌うたい:時には、歌だけでなく、楽器もかなでるよ。 歌うたい:ギターにピアノ、カスタネットやハーモニカも。 歌うたい:この前、畑で収穫作業をしてたおじさんは、野菜がおいしくなるって大喜びしてくれたなぁ。 0:  歌うたい:もっと他にと、ねだられるなら、昔語(むかしがた)りもしてあげよう。 歌うたい:桃太郎がいいかな? それとも竹取物語? 歌うたい:絵本のページをめくるように。やさしい歌を歌うように。 歌うたい:楽しい物語を、聞かせてあげよう。 歌うたい:この街にまつわる、古いお話もあるんだよ。 歌うたい:聞きたいかい? 歌うたい:とは言っても、僕も詳しくは知らないのだけれど。 歌うたい:ついでのように語られる、小さな小さな創世神話(そうせいしんわ)、おとぎ話さ。 0:  歌うたい:ここは、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)。 歌うたい:ハザマの街。不思議な街。 歌うたい:死んだ人しか、いない街。 歌うたい:まだここに、なんにも無かった頃。 歌うたい:赤く焼けた地平だけが、あった頃。 歌うたい:とある神様が、そこを歩くひとりの人間に声を掛けました。 歌うたい:どうしてそんなに泣いているのか。 歌うたい:悲しいのか。寂しいのか。 歌うたい:無力だったのか。 歌うたい:恨んでいるのか。 歌うたい:後悔しているのか。 歌うたい:ならばお前に、箱庭を与えよう。 歌うたい:お前のために、命の抜け殻を与えよう。 歌うたい:かつて、できなかったことを、叶えよ。 歌うたい:望んだことを、思い出せ。 歌うたい:何もかもが、まぼろし。 歌うたい:ここにあるすべては、幻想。 歌うたい:だからこそ、ここは永遠(えいえん)。 歌うたい:流れる時など無いからこその、永遠(とわ)の場所。 歌うたい:存分に、遊ぶがいい。 歌うたい:永遠に、我の、遊び相手になるがいい。 0:  歌うたい:そうして、この街は出来上がって、住人も増えていったんだそうだよ。 歌うたい:なんて、本当は確かなことなんて、全然わからないんだけどね。 歌うたい:ただの、言い伝え。おとぎ話。 0:  歌うたい:ここが、死者の街なのは、本当。 歌うたい:死んでしまった人が、ごくたまに、列車に揺られてやってくる。 歌うたい:そしてこの街で下車して、ささやかに暮らしている。 歌うたい:夢を見るように、暮らして行く。 歌うたい:だから、そんな事実に当てはめて作られた、ただの物語かもしれないね。 歌うたい:この街からは、いつでも旅立つことができる。 歌うたい:だから、はじめにこの街にいた人は、もう残っていないかもしれない。 歌うたい:けれど、おとぎ話を信じるとするならば、最初のその誰かの願いでこの街は出来上がり、他の誰かを招いた。 歌うたい:そしてあとからやってきた人は、この街で、ささやかな幸せを得る。 歌うたい:願いや想いが積み重なった、だからここは、坂の街なのかもしれない。 0:  歌うたい:高台で街並みを見下ろしながら歌うのが、僕は好き。 歌うたい:ひとりでも、誰かに聞いてもらうのも。 0:  歌うたい:どうして僕は、この街に来たんだろう。 歌うたい:もっと誰かに、歌を聞かせたかったんだろうか。 歌うたい:それとも、ただ、もっと歌いたかったんだろうか。 歌うたい:僕の望みは、何だったっけ。 歌うたい:どちらにせよ、この街に、未来はない。 歌うたい:過ごした記憶はあるから、疑似的(ぎじてき)な時間の経過は感じることができるけれど。 歌うたい:生きていたあの世界で得るのと同じような、成長も、達成も、きっとない。 0:  歌うたい:この街では、なんでもできる。 歌うたい:やりたいことなら、どんなことでも。 歌うたい:だからこそ。 歌うたい:何をやっても、それは、まぼろし。 歌うたい:この街だけで繰り返される、おままごと。 歌うたい:この街がひとつの、お遊戯会。 歌うたい:けれど、僕はそれでいい。 0:  歌うたい:たとえば、畑で採れた野菜をおすそ分けしてくれるおじさん。 歌うたい:あの新鮮な野菜は、願うならきっといくらでも収穫できるだろう。 歌うたい:時に失敗するのも、それは心のどこかにある、願望なのかもしれない。 歌うたい:そしてその野菜が、未来に続く命を育むことはない。 歌うたい:けれど、それがどうだっていうんだろう。 歌うたい:「こんなにでっかいトウモロコシができたぞ」って笑う、あのおじさんの、輝くような笑顔は。 歌うたい:こんなにもキラキラした光は、他にない。 歌うたい:とうに死んでしまっているあのおじさんの、ささやかな幸せが、あの光なんだ。 歌うたい:そしてピカピカのトウモロコシと、それを分けてくれるおじさんの汚れた手が、僕の胸をあたたかくしてくれる。 歌うたい:だから僕は。 歌うたい:ここで暮らす僕は、幸せだ。 歌うたい:きっとみんな、幸せだ。 0:  歌うたい:だから僕は、今日も歌を歌う。 歌うたい:将来も、大きな目標もない。 歌うたい:ラジオのDJに送るような小さなリクエストと、ささやかな喜びの顔。 歌うたい:刹那(せつな)を切り取った永遠の中で、僕は歌う。 0:  歌うたい:……ああ、どこかで赤ん坊が、泣き始めた。 歌うたい:もうすぐ、夜が明ける。 歌うたい:日が昇り、透明な水底(みなぞこ)のような、朝が来る。 歌うたい:  歌うたい:おはよう、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)。 0:作・暁寺 郁(ぎょうじ いく)

歌うたい:藍色(あいいろ)の空。紫の雲。赤い稜線(りょうせん)。 歌うたい:夕暮れ時と見まごうような、朝焼けの時間。 歌うたい:こんなに早く起きてしまった日には、あの高台(たかだい)で、静かな歌でも歌ってみよう。 0:  歌うたい:僕は、歌うたい。 歌うたい:小さな街角で、あの公園で。時々線路の脇で列車を見送りながら。 歌うたい:好きな時に、好きなところで、いつでも僕は、歌を歌う。 0:  歌うたい:この街にも、さまざまな音楽はあるけれど。 歌うたい:たとえばレコードとか、CDなんてのもあるのだけれど。 歌うたい:この街のお店には、限られた音源しか置いていないんだ。 歌うたい:そう。もう、亡くなった人の音楽しか、置いていない。 歌うたい:歌だけならば、それを作った人と歌った人が亡くなっていれば、手に入れることができる。 歌うたい:けれどこれが演奏付きのあのヒット曲、とかになると、演奏した人も、すべて亡くなった時に初めて、この街で取り扱いができるようになる。 歌うたい:だから、古い歌が多いんだ。 歌うたい:そこで僕の出番さ。 歌うたい:音源として手に入れられない音楽でも、僕は歌ってあげることができる。 歌うたい:ああ、でも知らない歌は歌うことができないから、そんな歌をリクエストするときは、その歌を、歌って聞かせてね。 歌うたい:あんまり役に立たないって? 歌うたい:まあ、そう言わずにさ♪ 歌うたい:なんなら、一緒に歌おうよ。 歌うたい:それはとても、楽しい音楽の時間だよ。 0:  歌うたい:時には、歌だけでなく、楽器もかなでるよ。 歌うたい:ギターにピアノ、カスタネットやハーモニカも。 歌うたい:この前、畑で収穫作業をしてたおじさんは、野菜がおいしくなるって大喜びしてくれたなぁ。 0:  歌うたい:もっと他にと、ねだられるなら、昔語(むかしがた)りもしてあげよう。 歌うたい:桃太郎がいいかな? それとも竹取物語? 歌うたい:絵本のページをめくるように。やさしい歌を歌うように。 歌うたい:楽しい物語を、聞かせてあげよう。 歌うたい:この街にまつわる、古いお話もあるんだよ。 歌うたい:聞きたいかい? 歌うたい:とは言っても、僕も詳しくは知らないのだけれど。 歌うたい:ついでのように語られる、小さな小さな創世神話(そうせいしんわ)、おとぎ話さ。 0:  歌うたい:ここは、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)。 歌うたい:ハザマの街。不思議な街。 歌うたい:死んだ人しか、いない街。 歌うたい:まだここに、なんにも無かった頃。 歌うたい:赤く焼けた地平だけが、あった頃。 歌うたい:とある神様が、そこを歩くひとりの人間に声を掛けました。 歌うたい:どうしてそんなに泣いているのか。 歌うたい:悲しいのか。寂しいのか。 歌うたい:無力だったのか。 歌うたい:恨んでいるのか。 歌うたい:後悔しているのか。 歌うたい:ならばお前に、箱庭を与えよう。 歌うたい:お前のために、命の抜け殻を与えよう。 歌うたい:かつて、できなかったことを、叶えよ。 歌うたい:望んだことを、思い出せ。 歌うたい:何もかもが、まぼろし。 歌うたい:ここにあるすべては、幻想。 歌うたい:だからこそ、ここは永遠(えいえん)。 歌うたい:流れる時など無いからこその、永遠(とわ)の場所。 歌うたい:存分に、遊ぶがいい。 歌うたい:永遠に、我の、遊び相手になるがいい。 0:  歌うたい:そうして、この街は出来上がって、住人も増えていったんだそうだよ。 歌うたい:なんて、本当は確かなことなんて、全然わからないんだけどね。 歌うたい:ただの、言い伝え。おとぎ話。 0:  歌うたい:ここが、死者の街なのは、本当。 歌うたい:死んでしまった人が、ごくたまに、列車に揺られてやってくる。 歌うたい:そしてこの街で下車して、ささやかに暮らしている。 歌うたい:夢を見るように、暮らして行く。 歌うたい:だから、そんな事実に当てはめて作られた、ただの物語かもしれないね。 歌うたい:この街からは、いつでも旅立つことができる。 歌うたい:だから、はじめにこの街にいた人は、もう残っていないかもしれない。 歌うたい:けれど、おとぎ話を信じるとするならば、最初のその誰かの願いでこの街は出来上がり、他の誰かを招いた。 歌うたい:そしてあとからやってきた人は、この街で、ささやかな幸せを得る。 歌うたい:願いや想いが積み重なった、だからここは、坂の街なのかもしれない。 0:  歌うたい:高台で街並みを見下ろしながら歌うのが、僕は好き。 歌うたい:ひとりでも、誰かに聞いてもらうのも。 0:  歌うたい:どうして僕は、この街に来たんだろう。 歌うたい:もっと誰かに、歌を聞かせたかったんだろうか。 歌うたい:それとも、ただ、もっと歌いたかったんだろうか。 歌うたい:僕の望みは、何だったっけ。 歌うたい:どちらにせよ、この街に、未来はない。 歌うたい:過ごした記憶はあるから、疑似的(ぎじてき)な時間の経過は感じることができるけれど。 歌うたい:生きていたあの世界で得るのと同じような、成長も、達成も、きっとない。 0:  歌うたい:この街では、なんでもできる。 歌うたい:やりたいことなら、どんなことでも。 歌うたい:だからこそ。 歌うたい:何をやっても、それは、まぼろし。 歌うたい:この街だけで繰り返される、おままごと。 歌うたい:この街がひとつの、お遊戯会。 歌うたい:けれど、僕はそれでいい。 0:  歌うたい:たとえば、畑で採れた野菜をおすそ分けしてくれるおじさん。 歌うたい:あの新鮮な野菜は、願うならきっといくらでも収穫できるだろう。 歌うたい:時に失敗するのも、それは心のどこかにある、願望なのかもしれない。 歌うたい:そしてその野菜が、未来に続く命を育むことはない。 歌うたい:けれど、それがどうだっていうんだろう。 歌うたい:「こんなにでっかいトウモロコシができたぞ」って笑う、あのおじさんの、輝くような笑顔は。 歌うたい:こんなにもキラキラした光は、他にない。 歌うたい:とうに死んでしまっているあのおじさんの、ささやかな幸せが、あの光なんだ。 歌うたい:そしてピカピカのトウモロコシと、それを分けてくれるおじさんの汚れた手が、僕の胸をあたたかくしてくれる。 歌うたい:だから僕は。 歌うたい:ここで暮らす僕は、幸せだ。 歌うたい:きっとみんな、幸せだ。 0:  歌うたい:だから僕は、今日も歌を歌う。 歌うたい:将来も、大きな目標もない。 歌うたい:ラジオのDJに送るような小さなリクエストと、ささやかな喜びの顔。 歌うたい:刹那(せつな)を切り取った永遠の中で、僕は歌う。 0:  歌うたい:……ああ、どこかで赤ん坊が、泣き始めた。 歌うたい:もうすぐ、夜が明ける。 歌うたい:日が昇り、透明な水底(みなぞこ)のような、朝が来る。 歌うたい:  歌うたい:おはよう、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)。 0:作・暁寺 郁(ぎょうじ いく)