台本概要
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タイトル | 誰そ彼横丁~星の界 |
---|---|
作者名 | 暁寺 郁 (@him_like_me) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 3人用台本(男2、女1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
たそかれよこちょう~ほしのよ 誰そ彼横丁シリーズ四作目。 一作目のおじいさんとみよ、二作目の車掌が出てきます。 ここまで来ると、一作目を知らないと意味がわからないかも……w 演者様の性別は不問です。 軽微なアドリブ可。 255 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
みよ | 女 | 31 | あまえんぼうの小学生。1~3年生程度。おもに回想シーンで登場。 |
おじいさん | 男 | 47 | 街から案内列車に乗って旅立ったおじいさん |
車掌 | 男 | 41 | 案内列車の運転士兼車掌。大人であれば年齢設定は自由。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
車掌:ようこそ、彼岸へと向かう案内列車へ。
車掌:このお話は、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)の最初の物語が下地となっております。
車掌:そちらをご存じない方のために、現在運行しております、この案内列車の運転士、兼(けん)、車掌の私が、軽ーくご案内いたしましょうか。
車掌:どうぞ、かの物語を一度ぺらりとお読みいただくか、観劇なされるとよろしいでしょう。
車掌:…………。
車掌:以上です。
車掌:ああ、ああ、怒らないでくださいませ。
車掌:私が一人の口で語るのも、野暮なお話でございましょう。
車掌:これもきっと、何かの縁。
車掌:あなたも一度、街へおいでになっては、いかがでしょうか?
車掌:それでは、ごゆるりと、彼岸行きの列車を覗(のぞ)き見てくださいませ
0:間をおいて
みよ:ひと ふた みーよと 鳥が鳴く
みよ:じーじ じーじと セミが鳴く
みよ:
みよ:ひと ふた みーよと 鳥が鳴き
みよ:じーじ じーじと
みよ:セミが 鳴く
0:
車掌:ご乗車、ありがとうございます。おじいさん
おじいさん:おお、おお、車掌さん。
おじいさん:この列車の中で話すのは、いつぶりかのう
車掌:もう、十年は経ちましたかね
おじいさん:そうかそうか。
おじいさん:ばあさんも、長生きしたもんじゃ。
おじいさん:あちらでは、何年たったか、わからんがの
車掌:そうですねえ。
車掌:ああ、では、切符を切りましょう。
車掌:はい、おじいさん。切符をどうぞ
おじいさん:うむ、ありがとう。
おじいさん:……案内列車。
おじいさん:とうとう、乗ってしまったな
車掌:ええ。もう、あの街へ戻ることは、かないません
おじいさん:そうじゃの
車掌:本当に、よろしかったのですか?
車掌:と、うかがうのも、これまた野暮かもしれませんが
おじいさん:いいんじゃ。
おじいさん:わしは最初にあのハザマの街に降りた時から、この時が来たら、再びこの列車に乗ると決めておったんじゃからの
車掌:みよさんは、ずいぶんと泣かれていたようですね
おじいさん:そうじゃの。
おじいさん:あんなに泣いて見送ってもらえて、わしは幸せ者じゃ
車掌:ええ
おじいさん:生きていた時から、わしは幸せじゃった
車掌:なのに、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)の駅で、降りてしまわれたのですね
おじいさん:だってな、わしとばあさんは、近所でも評判の、おしどり夫婦だったんじゃよ。
おじいさん:いち、にの、さんで、一緒に死ねたらいいねと、いつも話しておったんじゃ。
おじいさん:なのに、結局わしだけが先に死んでしまって……。
おじいさん:だからせめて、ばあさんが死ぬまで、待っていたくてのう
車掌:本当に仲のよろしいおふたりだったのですね
おじいさん:幸せじゃった。
おじいさん:みよに比べたら、贅沢なほどに、幸せな人生じゃった
車掌:みよさんは、お可哀想な亡くなり方をされました
おじいさん:うむ。交通事故じゃったかな
車掌:ええ。大変なおじいさんっ子だったようで。
車掌:当時の、本当のおじいさまに庇(かば)われたようですが、甲斐(かい)なく二人とも、亡くなってしまわれた
おじいさん:あの街に来た頃は、いつも寂しそうにしておったの
車掌:ええ、それはもう、胸の痛むようなご様子で
おじいさん:初めてみよに会った日が、なつかしいのう……
0:※回想
みよ:これは……なに? 何をやってるの?
車掌:おや、みよさん。こんばんは
みよ:しゃしょーさん。これはなに? みんなで何をやってるの?
車掌:灯篭流し(とうろうながし)という行事ですよ。
車掌:まあ……お祭りのようなものですか
みよ:おまつり……あ、お面、かぶってる人がいる
おじいさん:おや、お嬢ちゃん。このお面が気になるかね
みよ:かっこいい
おじいさん:ほっほ、そうかいそうかい。
おじいさん:これはな、ひょっとこ、というんじゃ
みよ:ひょっとこ
おじいさん:どれ。お面が気になるなら、このひょっとこさんが、お嬢ちゃんにひとつ買ってやろうかね
みよ:え? 本当?
おじいさん:もちろんだとも。
おじいさん:そら、あそこで売っておるじゃろう?
おじいさん:どれがいいかな。おかめがいいか。
おじいさん:女の子の大好きな、くれないずきんちゃんもあるぞ
みよ:ううん。それとおんなじのがいい。
みよ:ひょっとこがいい
おじいさん:そうかそうか……
車掌:みよさんは、なかなか個性的な趣味をしていらっしゃいますね
みよ:こせいてき? うーん、わかんない。
みよ:でも、ひょっとこさんと、同じがいいって思ったの!
車掌:そうですか。少し、元気になられたようで、何よりです
おじいさん:(※車掌に向かって、抑え目に)
おじいさん:車掌さん、この子は……
車掌:ええ、最近いらした子です。
車掌:大好きなおじいさまとお別れしたばかりのようですので、どうぞ、仲良くしてあげてください。
車掌:ただ……
おじいさん:うん?
車掌:おじいさまが一緒に亡くなられたのを、この子は知っているのかどうか……
おじいさん:そうか……。
おじいさん:うむ。知らない方が幸せなこともあるのう。
おじいさん:あまり、触れないでおこうか
みよ:あ、おっきい飴玉も売ってる。色んな色。きれーい
おじいさん:どーれどれ。
おじいさん:欲しいのはあるかの?
おじいさん:ひょっとこさんが、いくつでも買ってあげるぞ
みよ:え……いいよー、お面も買ってもらったのに
おじいさん:子供がじじいに遠慮など、せんでいいんじゃ♪
みよ:じゃあ……ひとつだけ
おじいさん:ほっほ。
おじいさん:お嬢ちゃんは、みよちゃんといったかな
みよ:うん。みよだよ
おじいさん:じゃあの、ひーふーみーよで、よっつじゃ。
おじいさん:よっつ、好きなのを選んでいいぞ
みよ:本当に……? わあ、よっつも?
みよ:こんなにたくさん! ありがとう!
おじいさん:うんうん
みよ:あっ……お面したままじゃ、食べられない
車掌:少し、お面をずらしましょうか。
車掌:こうやって……顔の斜め上あたりにつけると、とてもかっこいいですよ、みよさん
みよ:わー、しゃしょうさん、ありがとう!
みよ:みよ、かっこいい?
車掌:ええ、かっこいいです
おじいさん:それに、とーっても、かわいいぞ
みよ:えへへ……今日は、いっぱい、嬉しいな……
みよ:あ……
車掌:どうされました?
みよ:あれ。さっきも見た。何をしているの?
車掌:ああ、灯篭流し(とうろうながし)ですか。
車掌:ああやって灯篭をつくりましてね、川に流して、亡くなった方を偲(しの)ぶのです。
車掌:この街で灯篭流しなんて、おかしな話かもしれませんが
おじいさん:この街の住人とて、死んだ縁者(えんじゃ)を思う気持ちは同じじゃからのう。
おじいさん:まあ、すっかりお祭りとなっておるがな。
おじいさん:笑って過ごすくらいが、ちょうどいいじゃろうて
みよ:ふぅん……私も、作ってみたいなあ。
みよ:とうろうっていうの、私も作れる?
車掌:ええ、作れますよ。会場に、材料もありますから
おじいさん:みよちゃんは、好奇心が旺盛(おうせい)じゃな。
おじいさん:ほれ、こっちじゃこっちじゃ
みよ:うん!
0:間をおいて
車掌:こうやって、ここを糊(のり)でつけて……
みよ:わー、できたあ!
おじいさん:うむ、上手じゃ! みよちゃんは器用だのう!
みよ:ここに、何か書いたりできるの?
車掌:できますよ。
おじいさん:もう形は完成してしまったからな。
おじいさん:簡単に筆とか、クレヨンでもいいじゃろう。
おじいさん:ほれ、何を書くんじゃ?
みよ:うん……。
みよ:…………。
みよ:…………書けた
おじいさん:うむ……これは……「おじいちゃん」……
車掌:みよさん……あなたは……
みよ:あの川に、流せばいいんだよね?
車掌:はい、そうです
おじいさん:(※つぶやく)
おじいさん:知って、おったんじゃなぁ……
みよ:たくさん、流れてるね。
みよ:私の作ったのも、どんどん、流れてく……
みよ:きれいだね
車掌:ええ。きれいですね
おじいさん:よし。わしも、みよちゃんと、おそろいにするかの
みよ:え? おそろい?
おじいさん:お面をこう、ずらしてな。
おじいさん:おんなじお面を、おんなじ場所につけて、おそろいじゃ
みよ:わ、ひょっとこのお面の下、しわくちゃのおじいさんだ!
おじいさん:そう、しわくちゃのおじいさんじゃ!
おじいさん:みよ。お前の、おじいちゃんじゃ……
みよ:私の、おじいちゃん……
おじいさん:そう。みよの、おじいちゃんじゃ!
みよ:私の……おじいちゃん!
0:回想から戻る
車掌:あの日から、おふたりはおじいちゃんと孫娘でしたね
おじいさん:そうじゃったなぁ
おじいさん:ばあさんが死ぬまでの、ひと時じゃったが……
車掌:とても、素敵なお二人でした
おじいさん:ただただ、みよを慰めたかった。
おじいさん:あの子を、笑顔にしてやりたかった。
おじいさん:今日はわんわん泣いておったが、それでも最後まで見送ってくれた。
おじいさん:幸せをもらったのは、わしの方じゃったな
車掌:ええ。とてもとても、幸せ者ですね
おじいさん:みよも、きっと大丈夫じゃ。
おじいさん:今日までたくさん、一緒に過ごした。一緒に笑った。
おじいさん:もうあの子は、わしがいなくても、幸せに暮らしていける。
おじいさん:きっとすぐに、また大好きな家族と巡り合える。
おじいさん:きっとな……
車掌:思い出話なら、いくらでもお相手しますよ。
車掌:この列車は、永遠にして一瞬の場所ですから。
車掌:時など無いのと同じ。
車掌:お望みならば、百年でも、お付き合いいたしましょう
おじいさん:ほっほ。
おじいさん:しかし、日も暮れて、夕闇が、迫ってきたのう……
車掌:ああ、本当だ……。
車掌:では、もう、よろしいのですね
おじいさん:うむ。
おじいさん:幸せな人生であった。そして、よき暮らしであった。
車掌:それでは。
車掌:えー、まもなく、彼岸入口~、終点、彼岸入口です
おじいさん:おぉ、おぉ、星が、きれいじゃ……満天の星空じゃのう
車掌:彼岸の名所、「星の界(よ)」です。
車掌:私が勝手に名付けました。
車掌:いつ見ても、美しい景色です
おじいさん:まるで金平糖(こんぺいとう)のような星屑じゃ。
おじいさん:ばあさんも、この「星の界(よ)」を見たんじゃろうか。
おじいさん:みよも、いつか、見るんじゃろうか……
車掌:さあ……どうでしょうねぇ。
車掌:おじいさん、ほら、ホームが、見えますよ。
車掌:あの満天の星々に負けないくらい、煌(きら)びやかなホームの灯(あかり)です
おじいさん:キラキラと、あたたかい、ともしびじゃの……
車掌:間もなく、停車いたします。
車掌:……お忘れ物は……ございませんか?
おじいさん:うむ。ない。何ひとつ、ないな
車掌:……はい。
車掌:ドアが開きます。下がって、お待ちくださいませ
0:
みよ:(※思い出の声)
みよ:おじーいちゃん!
みよ:おじいちゃん、だーいすき!
おじいさん:ほっほ。おじいちゃんも、みよが、大好きじゃ……
0:
みよ:ひと ふた みーよと、鳥が鳴く
みよ:じーじ じーじと セミが鳴く
みよ:
みよ:ひと ふた みーよと、じいが呼び
みよ:じーじ じーじと
みよ:みよが 呼ぶ
おじいさん:みーよ。みよやぁ。
おじいさん:かわいい、かわいい、孫であったなぁ……
0:
車掌:停車しております駅は、彼岸入口、終点、彼岸入口~。
車掌:この列車は折り返し、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)へと向かいます。
車掌:
車掌:ドアが閉まります。
車掌:
0:※車掌、深い礼で、おじいさんを見送る
車掌:ご乗車……ありがとうございました
0:作・暁寺 郁(ぎょうじ いく)
車掌:ようこそ、彼岸へと向かう案内列車へ。
車掌:このお話は、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)の最初の物語が下地となっております。
車掌:そちらをご存じない方のために、現在運行しております、この案内列車の運転士、兼(けん)、車掌の私が、軽ーくご案内いたしましょうか。
車掌:どうぞ、かの物語を一度ぺらりとお読みいただくか、観劇なされるとよろしいでしょう。
車掌:…………。
車掌:以上です。
車掌:ああ、ああ、怒らないでくださいませ。
車掌:私が一人の口で語るのも、野暮なお話でございましょう。
車掌:これもきっと、何かの縁。
車掌:あなたも一度、街へおいでになっては、いかがでしょうか?
車掌:それでは、ごゆるりと、彼岸行きの列車を覗(のぞ)き見てくださいませ
0:間をおいて
みよ:ひと ふた みーよと 鳥が鳴く
みよ:じーじ じーじと セミが鳴く
みよ:
みよ:ひと ふた みーよと 鳥が鳴き
みよ:じーじ じーじと
みよ:セミが 鳴く
0:
車掌:ご乗車、ありがとうございます。おじいさん
おじいさん:おお、おお、車掌さん。
おじいさん:この列車の中で話すのは、いつぶりかのう
車掌:もう、十年は経ちましたかね
おじいさん:そうかそうか。
おじいさん:ばあさんも、長生きしたもんじゃ。
おじいさん:あちらでは、何年たったか、わからんがの
車掌:そうですねえ。
車掌:ああ、では、切符を切りましょう。
車掌:はい、おじいさん。切符をどうぞ
おじいさん:うむ、ありがとう。
おじいさん:……案内列車。
おじいさん:とうとう、乗ってしまったな
車掌:ええ。もう、あの街へ戻ることは、かないません
おじいさん:そうじゃの
車掌:本当に、よろしかったのですか?
車掌:と、うかがうのも、これまた野暮かもしれませんが
おじいさん:いいんじゃ。
おじいさん:わしは最初にあのハザマの街に降りた時から、この時が来たら、再びこの列車に乗ると決めておったんじゃからの
車掌:みよさんは、ずいぶんと泣かれていたようですね
おじいさん:そうじゃの。
おじいさん:あんなに泣いて見送ってもらえて、わしは幸せ者じゃ
車掌:ええ
おじいさん:生きていた時から、わしは幸せじゃった
車掌:なのに、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)の駅で、降りてしまわれたのですね
おじいさん:だってな、わしとばあさんは、近所でも評判の、おしどり夫婦だったんじゃよ。
おじいさん:いち、にの、さんで、一緒に死ねたらいいねと、いつも話しておったんじゃ。
おじいさん:なのに、結局わしだけが先に死んでしまって……。
おじいさん:だからせめて、ばあさんが死ぬまで、待っていたくてのう
車掌:本当に仲のよろしいおふたりだったのですね
おじいさん:幸せじゃった。
おじいさん:みよに比べたら、贅沢なほどに、幸せな人生じゃった
車掌:みよさんは、お可哀想な亡くなり方をされました
おじいさん:うむ。交通事故じゃったかな
車掌:ええ。大変なおじいさんっ子だったようで。
車掌:当時の、本当のおじいさまに庇(かば)われたようですが、甲斐(かい)なく二人とも、亡くなってしまわれた
おじいさん:あの街に来た頃は、いつも寂しそうにしておったの
車掌:ええ、それはもう、胸の痛むようなご様子で
おじいさん:初めてみよに会った日が、なつかしいのう……
0:※回想
みよ:これは……なに? 何をやってるの?
車掌:おや、みよさん。こんばんは
みよ:しゃしょーさん。これはなに? みんなで何をやってるの?
車掌:灯篭流し(とうろうながし)という行事ですよ。
車掌:まあ……お祭りのようなものですか
みよ:おまつり……あ、お面、かぶってる人がいる
おじいさん:おや、お嬢ちゃん。このお面が気になるかね
みよ:かっこいい
おじいさん:ほっほ、そうかいそうかい。
おじいさん:これはな、ひょっとこ、というんじゃ
みよ:ひょっとこ
おじいさん:どれ。お面が気になるなら、このひょっとこさんが、お嬢ちゃんにひとつ買ってやろうかね
みよ:え? 本当?
おじいさん:もちろんだとも。
おじいさん:そら、あそこで売っておるじゃろう?
おじいさん:どれがいいかな。おかめがいいか。
おじいさん:女の子の大好きな、くれないずきんちゃんもあるぞ
みよ:ううん。それとおんなじのがいい。
みよ:ひょっとこがいい
おじいさん:そうかそうか……
車掌:みよさんは、なかなか個性的な趣味をしていらっしゃいますね
みよ:こせいてき? うーん、わかんない。
みよ:でも、ひょっとこさんと、同じがいいって思ったの!
車掌:そうですか。少し、元気になられたようで、何よりです
おじいさん:(※車掌に向かって、抑え目に)
おじいさん:車掌さん、この子は……
車掌:ええ、最近いらした子です。
車掌:大好きなおじいさまとお別れしたばかりのようですので、どうぞ、仲良くしてあげてください。
車掌:ただ……
おじいさん:うん?
車掌:おじいさまが一緒に亡くなられたのを、この子は知っているのかどうか……
おじいさん:そうか……。
おじいさん:うむ。知らない方が幸せなこともあるのう。
おじいさん:あまり、触れないでおこうか
みよ:あ、おっきい飴玉も売ってる。色んな色。きれーい
おじいさん:どーれどれ。
おじいさん:欲しいのはあるかの?
おじいさん:ひょっとこさんが、いくつでも買ってあげるぞ
みよ:え……いいよー、お面も買ってもらったのに
おじいさん:子供がじじいに遠慮など、せんでいいんじゃ♪
みよ:じゃあ……ひとつだけ
おじいさん:ほっほ。
おじいさん:お嬢ちゃんは、みよちゃんといったかな
みよ:うん。みよだよ
おじいさん:じゃあの、ひーふーみーよで、よっつじゃ。
おじいさん:よっつ、好きなのを選んでいいぞ
みよ:本当に……? わあ、よっつも?
みよ:こんなにたくさん! ありがとう!
おじいさん:うんうん
みよ:あっ……お面したままじゃ、食べられない
車掌:少し、お面をずらしましょうか。
車掌:こうやって……顔の斜め上あたりにつけると、とてもかっこいいですよ、みよさん
みよ:わー、しゃしょうさん、ありがとう!
みよ:みよ、かっこいい?
車掌:ええ、かっこいいです
おじいさん:それに、とーっても、かわいいぞ
みよ:えへへ……今日は、いっぱい、嬉しいな……
みよ:あ……
車掌:どうされました?
みよ:あれ。さっきも見た。何をしているの?
車掌:ああ、灯篭流し(とうろうながし)ですか。
車掌:ああやって灯篭をつくりましてね、川に流して、亡くなった方を偲(しの)ぶのです。
車掌:この街で灯篭流しなんて、おかしな話かもしれませんが
おじいさん:この街の住人とて、死んだ縁者(えんじゃ)を思う気持ちは同じじゃからのう。
おじいさん:まあ、すっかりお祭りとなっておるがな。
おじいさん:笑って過ごすくらいが、ちょうどいいじゃろうて
みよ:ふぅん……私も、作ってみたいなあ。
みよ:とうろうっていうの、私も作れる?
車掌:ええ、作れますよ。会場に、材料もありますから
おじいさん:みよちゃんは、好奇心が旺盛(おうせい)じゃな。
おじいさん:ほれ、こっちじゃこっちじゃ
みよ:うん!
0:間をおいて
車掌:こうやって、ここを糊(のり)でつけて……
みよ:わー、できたあ!
おじいさん:うむ、上手じゃ! みよちゃんは器用だのう!
みよ:ここに、何か書いたりできるの?
車掌:できますよ。
おじいさん:もう形は完成してしまったからな。
おじいさん:簡単に筆とか、クレヨンでもいいじゃろう。
おじいさん:ほれ、何を書くんじゃ?
みよ:うん……。
みよ:…………。
みよ:…………書けた
おじいさん:うむ……これは……「おじいちゃん」……
車掌:みよさん……あなたは……
みよ:あの川に、流せばいいんだよね?
車掌:はい、そうです
おじいさん:(※つぶやく)
おじいさん:知って、おったんじゃなぁ……
みよ:たくさん、流れてるね。
みよ:私の作ったのも、どんどん、流れてく……
みよ:きれいだね
車掌:ええ。きれいですね
おじいさん:よし。わしも、みよちゃんと、おそろいにするかの
みよ:え? おそろい?
おじいさん:お面をこう、ずらしてな。
おじいさん:おんなじお面を、おんなじ場所につけて、おそろいじゃ
みよ:わ、ひょっとこのお面の下、しわくちゃのおじいさんだ!
おじいさん:そう、しわくちゃのおじいさんじゃ!
おじいさん:みよ。お前の、おじいちゃんじゃ……
みよ:私の、おじいちゃん……
おじいさん:そう。みよの、おじいちゃんじゃ!
みよ:私の……おじいちゃん!
0:回想から戻る
車掌:あの日から、おふたりはおじいちゃんと孫娘でしたね
おじいさん:そうじゃったなぁ
おじいさん:ばあさんが死ぬまでの、ひと時じゃったが……
車掌:とても、素敵なお二人でした
おじいさん:ただただ、みよを慰めたかった。
おじいさん:あの子を、笑顔にしてやりたかった。
おじいさん:今日はわんわん泣いておったが、それでも最後まで見送ってくれた。
おじいさん:幸せをもらったのは、わしの方じゃったな
車掌:ええ。とてもとても、幸せ者ですね
おじいさん:みよも、きっと大丈夫じゃ。
おじいさん:今日までたくさん、一緒に過ごした。一緒に笑った。
おじいさん:もうあの子は、わしがいなくても、幸せに暮らしていける。
おじいさん:きっとすぐに、また大好きな家族と巡り合える。
おじいさん:きっとな……
車掌:思い出話なら、いくらでもお相手しますよ。
車掌:この列車は、永遠にして一瞬の場所ですから。
車掌:時など無いのと同じ。
車掌:お望みならば、百年でも、お付き合いいたしましょう
おじいさん:ほっほ。
おじいさん:しかし、日も暮れて、夕闇が、迫ってきたのう……
車掌:ああ、本当だ……。
車掌:では、もう、よろしいのですね
おじいさん:うむ。
おじいさん:幸せな人生であった。そして、よき暮らしであった。
車掌:それでは。
車掌:えー、まもなく、彼岸入口~、終点、彼岸入口です
おじいさん:おぉ、おぉ、星が、きれいじゃ……満天の星空じゃのう
車掌:彼岸の名所、「星の界(よ)」です。
車掌:私が勝手に名付けました。
車掌:いつ見ても、美しい景色です
おじいさん:まるで金平糖(こんぺいとう)のような星屑じゃ。
おじいさん:ばあさんも、この「星の界(よ)」を見たんじゃろうか。
おじいさん:みよも、いつか、見るんじゃろうか……
車掌:さあ……どうでしょうねぇ。
車掌:おじいさん、ほら、ホームが、見えますよ。
車掌:あの満天の星々に負けないくらい、煌(きら)びやかなホームの灯(あかり)です
おじいさん:キラキラと、あたたかい、ともしびじゃの……
車掌:間もなく、停車いたします。
車掌:……お忘れ物は……ございませんか?
おじいさん:うむ。ない。何ひとつ、ないな
車掌:……はい。
車掌:ドアが開きます。下がって、お待ちくださいませ
0:
みよ:(※思い出の声)
みよ:おじーいちゃん!
みよ:おじいちゃん、だーいすき!
おじいさん:ほっほ。おじいちゃんも、みよが、大好きじゃ……
0:
みよ:ひと ふた みーよと、鳥が鳴く
みよ:じーじ じーじと セミが鳴く
みよ:
みよ:ひと ふた みーよと、じいが呼び
みよ:じーじ じーじと
みよ:みよが 呼ぶ
おじいさん:みーよ。みよやぁ。
おじいさん:かわいい、かわいい、孫であったなぁ……
0:
車掌:停車しております駅は、彼岸入口、終点、彼岸入口~。
車掌:この列車は折り返し、誰そ彼横丁(たそかれよこちょう)へと向かいます。
車掌:
車掌:ドアが閉まります。
車掌:
0:※車掌、深い礼で、おじいさんを見送る
車掌:ご乗車……ありがとうございました
0:作・暁寺 郁(ぎょうじ いく)