台本概要

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タイトル 月天神命奇譚~応病与薬~
作者名 うたう  (@utaunandayo)
ジャンル ファンタジー
演者人数 4人用台本(男2、女1、不問1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 和風獣耳絵巻第二幕
人と獣と神がひとつとなった世界。

それは薬かはたまた毒か。


月天神命奇譚~応病与薬~
(げってんしんめいきたん、おうびょうよやく)





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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
雛月 53 獣耳尻尾少女。脳筋。本能で生きてる。育ち盛り。
56 獣耳ひねくれ青年。口が悪い。少食。
卯月要 - 眼鏡青年。巻き込まれ体質。普通。
不問 40 獣耳年齢不詳。 口が悪い。糸目。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
雛月:雛月(ひなつき)獣耳尻尾少女。 雛月:堕神(おちがみ)浄化屋【十六夜堂】(いざよいどう)の戦闘担当。天真爛漫。得意料理はおにぎり。ぱっちりおめめ。 雛月:【尾付き様】(おつきさま) 命:命(みこと)獣耳ひねくれ青年。 命:【十六夜堂】の頭脳担当。顔はいいが口は悪い。 命:低血圧。大抵のものは作れる。ややツリ目。 命:【耳在り】 要:卯月要(うづきかなめ)眼鏡青年。 要:名家卯月家の末っ子。堕神関連で二人に助けられた。 要:料理はしたことがない。普通。 要:【耳無し】(みみなし) 要:※男性ですが男女どちらが演じても可。 朧:朧(おぼろ)年齢性別不詳の獣耳薬師。 朧:薬屋【蕩月華】(とうげっか)の店主。 朧:西区の顔役でもあり、命とは昔からの知り合いで時々【十六夜堂】に仕事を斡旋してくれる。 朧:薬膳料理は作れる。糸目。 朧:【耳在り】 朧:※男女どちらが演じて可。  :   :   :   :  朧:薬というのはね、少なすぎても多すぎて駄目なんだ。 朧:少なすぎれば意味を成さず、多すぎれば逆に身体を蝕む毒と成る。 朧:適時適量。症状によって変えていくものさ。 朧:そしてそれは病だけでなく、あらゆる事柄にも言える。 朧:仕事、環境、そして人間関係。様々あるがどれも過剰となればそれは劇薬と変わらない。いずれ毒に成りえる。 朧:適時適量。状況によって変えなければならないのさ。 朧:さて、ところでお前にとって「それ」は【薬】なのか、はたまた【毒】なのか…。それともー  :  朧:……まぁ【劇薬】には違いないだろうね。  :   :   :   :  0:葦原北区の端、寂れた神社境内にある【十六夜堂】 0:快晴の中洗濯物を干している少女が一人。  :  雛月:……ふぅ!これで全部かな?今日はいい天気だからすぐ乾きそう。 雛月:さてと、そろそろ命起こさなきゃ!今日は出掛けるっていってたし。  :  0:命の部屋にバタバタと足音が近付いている。  :  雛月:おっはよー!みことぉ!朝だよ!というよりもうすぐお昼になっちゃうよー!おきろぉー! 命:……ん…あ……。 雛月:もぉー!相変わらず朝弱いんだから! 命:……あと…もう少し……。 雛月:ほら!今日は朧ちゃんのところいくんで…しょっと!(布団を引き抜く) 命:うがっ!? 雛月:おはよう!命! 命:…………おはよ……。 雛月:朝ごはん食べよう!  :   :   0:居間。  :  命:……で、朝飯は… 雛月:おにぎり! 命:だろうと思った。 雛月:ほらみて、このぜつみょーな握り加減! 命:……確かに、最初の頃のあの力任せに握って石の如く固まったのに比べればな。因みに中身は? 雛月:昨日の残りのさつま揚げ! 命:………………まぁ及第点だな。 雛月:ちゃんと大根おろしも入れたよ! 命:ありがたいこった。(おにぎりを頬張る) 雛月:むぐぅむぐ…。この後は朧ちゃんの所に行くんだよね? 命:ああ、まぁいつもの仕事の依頼だろうな。 雛月:この間みたいなモジャモジャな奴かな? 命:あれな…途中で分裂してエライめにあったから勘弁して欲しいんだがな。(味噌汁をすする) 雛月:えー!ポコポコ叩けて面白かったのに…………っん。 雛月:(耳をピクピク動し、匂いを嗅ぐ) 雛月:ふんふん……あっ!(突如立ち上がり駆け出す) 命:ん?おい雛!?  :  0:玄関前  :  要:お二人ともいるかな?ごめんくだ…(言い方ところで扉が開く) 雛月:やっぱり要だ! 要:わぁ!びっくりした…! 雛月:えへへ、いらっしゃーい! 命:おい、誰か来たのか…って要じゃねーか。 要:どうも、お久し振りです。この前は御世話になりました。 雛月:あれから大丈夫? 要:はい、まだまだ色々ありますがなんとかやってます。 命:それでどうした?また堕神にでも憑かれたか? 要:ああ、いえ、そういう訳ではなく。今日はこれをお渡しに来たんです。 雛月:ふんふん…風呂敷からいい匂いがする…。お肉だ! 要:ええ、燻製肉とか色々。先日の件を家族に話しましたら母が是非お礼したいとの事で。最初はもっと凝ったものにしようと思ったのですが雛月ちゃんならこっちの方が喜ぶかなと思って… 雛月:喜ぶ!喜ぶ!お肉!大好き!わーい! 雛月:(風呂敷を抱えながらくるくる回っている) 命:いいのか?こっちは仕事だっただけだが。金も貰ったし。…まぁ正直滅茶苦茶有難いが。 要:構いません。それにこの時期は中元やらで親戚や知り合いから色々頂くのですが実は家族だけでは食べきれなくて、よくご近所の方々にもお配りしてまして… 命:くっ、流石は名家。 要:ところで、なんで雛月ちゃんは僕がいるって分かったんですか? 雛月:ん?匂いがしたからだよ。 要:ああ、燻製肉の? 雛月:それもあるけど、要は他の人と違って凄く「いい匂い」がするからすぐに分かるよ! 命:堕神が憑いてなくてもか? 雛月:うん!堕神はこう「ぬたぁっ」て感じだけど、要のは匂いは「ふぁあ~ん」て感じ? 命:分かりにくい。 要:ええ…そんな匂いするかな…?くんくん…。 命:ふむ…。なぁ、もしかするとその「匂い」がこの前の堕神を引き寄せた原因の一つじゃねぇか? 要:え、ええ!? 雛月:ああ…堕神ってそういうのに敏感な所あるからね。 要:じゃあもしかするとこれからも狙われるかもしれないって事ですか!? 命:確証はないがな…。可能性はある。 要:そんな…どうすれば。 雛月:じゃあ朧ちゃんに聞いてみよう! 要:朧…ちゃん? 命:……まぁどうせこの後向かう予定だったしな。西区に薬屋があるんだがそこの店主が「そういうの」に詳しいんだ。 要:はぁ…。 雛月:そうと決まれば善は急げだよ!いこう!【蕩月華】(とうげっか)に  :   :   :  0:西区の商店街。そこのとある裏道を少し進むとそこには一軒の薬屋があった。古びた看板には【蕩月華】と書かれている。 0:店内はやや薄暗く、棚には大量の薬草等が置かれている。そんな店先の一番奥に一人の耳在りが煙管から紫煙を燻らせていた。  :  雛月:朧ちゃーん!きたよー! 朧:おや、雛ちゃんいらっしゃい。命もちゃんといるね。 命:いるにきまってるだろうクソババア。 朧:相変わらず口がなってないねぇ。好色ジジイにでも紹介してやろうかい?お前さん顔だけはお綺麗だからきっと可愛がって貰えるよ。そうしたら少しはその性格もマシになるんじゃないかい? 命:はっはっは!やってみろ、ジジイ諸共まとめて肥溜めにぶちこんでやるよ。 雛月:うんうん、二人とも仲良しだね! 要:あれ仲がいいんですか!?…あの、あの方は? 朧:おや?見掛けない顔だね。初めまして、眼鏡の坊っちゃん。私は朧。見ての通りの薬師(くすし)だよ。 命:朧は西区では割りと名が通っててな、【耳在り】…特に獣神性関連の病に精通している。 要:初めまして。僕は卯月要と申します。 朧:卯月…?もしかして天月様(てんげさま)の腹心と名高い卯月兎十朗兼定(うづきとじゅうろうかねさだ)のあの卯月家かい? 命:は?お前…そんな凄い家の奴だったのか? 要:いえ、確かに兼定様は親戚ではありますが、うちは分家ですし、お会いしたのも昔賀正の席で遠くからお見かけした位で……。 雛月:…凄いの? 命:そこそこ凄い。 雛月:なるほど。 朧:そんな坊っちゃんがこんな廃れた薬屋に如何様な後用向で? 命:ああ、実はー  :   :   :  朧:「匂い」ねぇ…。 命:雛が言うには他の奴や堕神ともまた違うらしいんだが。 雛月:すっごくいい匂いだよ!美味しそうなの! 要:自分では全く分からないのですが……。 朧:そりゃそうさ。雛ちゃんがいう「匂い」ってのはね、獣神性やらの強い【力】の事を言ってるのさ。尾付き、特に雛ちゃんはそれを「匂い」として感じ取っているという訳さ。 雛月:えっへん! 要:え?でもそれだと可笑しくないですか?【耳無し】の僕にそんなに獣神性があるとは思えないのですが…。 朧:半獣神の子孫である我々は、多からず少なからず必ずその身に獣神性を宿している。耳無しだろうとね。そうでなければ今頃瘴気に侵され死んじまってるさぁ。 朧:さて、【耳無し】と【耳在り】の違いはなんだい? 雛月:はい!【耳在り】は獣の耳がついてます! 朧:他には? 雛月:えっと…うーん?強いか弱い! 命:単純明快だな。 要:【耳在り】は獣神性を多く持った場合に生まれてきます。 命:そして個体差はあるが【獣神道】の術式が使えるな。 朧:そ、獣神性を強く持つと獣の耳が形成されて産まれてくる。そしてその獣耳(じゅうじ)は力の発露器官でもある。これにより【耳在り】は力を放出し、獣神に祝詞を唱えることで術を使える。通常は耳だけだが稀に尾を持って産まれてくるのが【尾付き様】だね。発露器官が多いからこそより強い力を行使できる。 雛月:ふふん!!(尻尾を大きく振っている) 朧:そして【耳無し】が【耳無し】である理由は一つ、獣神性の低ささ。だがね、稀に、本当にごく稀に獣神性を多く持ちながら【耳無し】で産まれてしまう者もいるんだよ。 要:え? 朧:獣耳や尾はね、常に微弱ながら力を放出して身体に負荷がかからないように調節もしているのさ。力も過ぎれば毒と変わらずだ。だが【耳無し】の場合はそれがほぼ出来ない。力を持ってしまった【耳無し】の身体には逃げ場を失った獣神性が貯まっていき、やがて肉体を蝕み始める…。 要:……っ。 朧:匂いは恐らくその前段階だね。それはまるで鍋で煮込まれた蜜のように獣神性は濃くなりその髪に、肉に、骨に凝縮されて溢れ始めているのさ。今のお前さんは堕神や力を持つ者にとってはご馳走。さながら熊の前に置かれた蜜壺に等しい。この状態のことを【蜜露】(みつろ)という。 雛月:…………がおー! 命:熊側の自覚はあったんだな。 要:……もし本当に僕がその【蜜露】ならどうすれば良いのでしょうか?なにか治す方法はあるのですか!? 朧:残念だが根本的な治療方法は無いね。生まれ持った体質だ。こればかりは私にもどうすることも出来ない。 要:そんな……。 朧:治す方法はないが……緩和する事、症状を進行させない事は出来るよ。 要:本当ですか!? 朧:ちょっと待ってな。いま用意するから。 0:朧店の奥に向かう。 雛月:よかったね!要! 要:ええ。でもまさか僕に獣神性の力があったなんて…。 命:ま、それだけの名家で家族も皆【耳在り】だとするなら血筋的にも相当なもんだろうからな。 命:……これで卑屈になる必要はなくなったんじゃねーか? 要:命さん…。 朧:待たせたね。これだよ。 0:持ってきた箱の中には粉薬の包みがいくつも入っている。 要:これは? 朧:これはね、特殊な霊薬やらを粉末にした物でね、飲むと獣神性に反応して力を集めて結晶化するんだ。時間が経つと皮膚の何処かに浮き出てきて最終的にかさぶたみたいに剥がれ落ちるって寸法さ。 要:これを飲めば抑えられのですね? 朧:本来は術具を作るときの材料として尾付きに飲ませて獣神性を回収する代物だけど、力を回収するという点では仕組みは一緒だからね。問題はないさ。試しに飲んでみるかい?ほら水だよ。今回は一回お試しさ。タダでいいよ。 要:は、はい、では……。(粉薬を飲む) 雛月:…どう? 要:……苦いです(苦笑) 命:ま、だろうな。 朧:ふふ、良薬口に苦しだ。まあ結晶化するまでにはそこそこ時間が…… 要:……あれ。なんか…かゆ、かゆい! 朧:ん? 命:おいどうした? 要:なんか全身がぞわぞわして右手が痒いです! 0:要の右手の甲に徐々に琥珀色の結晶が浮き出てくる。 要:わわ!これが結晶化!?あ、取れた。 朧:……驚いたね。通常なら結晶化するまでに3日~7日はかかる筈なんだがね……よっぽど貯まってたんだね?若いねぇ。 命:…言い方。 雛月:わぁ!要みせてみせてぇー! 要:はい、どうぞ。 雛月:わーい! 朧:しかし今の状況からみてもかなり進行しているようだ。定期的に薬を飲んで経過観察したほうが良いね。通常の尾付きなら月に一回が限度だがお前さんの場合は7日に一回飲んでも問題なさそうだね。 要:わかりました。 朧:今のままだと漏れでる「匂い」までは抑えきれないからね。腕のいい術具屋を紹介してやるよ、そこで獣神性を抑える術具も買うといいさ、なんならその獣神晶(じゅうしんしょう)をもっていけば高く買い取ってくれるさね。 命:そういやさっきの結晶はどうした? 要:ああ、それなら雛月ちゃんに渡しましたよ。 雛月:……。(石を掲げて)キラキラで綺麗!それに……ふんふん、いい匂いもする…………。 命:おい、雛? 雛月:……………………………………あむ。(結晶を口にいれる) 命:っのバカ!なんでもかんでも口に入れるなっていつも言ってるだろうが!子供か!ぺっ!しなさい!ぺっ!(口を掴んで吐き出させようとする) 雛月:んー!んふんんー!んーんー! 命:なんで抵抗してんだよ!さっさと出しなさい! 要:そうだよ!そんなの食べたらお腹壊しちゃいますよ? 雛月:うんぐん!!んーーーっ!ん……ごっくん。……あ。 命・要:「あっ」 朧:おや。 雛月:………………のんじゃった。 命:このおバカ!!なんですぐに出さなかったんだ! 雛月:…いやなんか「出したら負け」かなって? 命:なにと戦ってんだお前は。 朧:あはははは! 命:笑い事じゃねーんだよババア!急いで吐かせるぞ!最悪下剤飲ませてー 雛月:いやぁー!! 朧:安心しな、あれは普通の石じゃなく獣神性の塊だ。【尾付き様】の雛ちゃんならすぐに吸収できるよ。 雛月:よかったぁぁ! 命:はぁ…良かったじゃねーんだよ、全く。本能で行動するなと何度言えば…。 雛月:だって美味しそうな匂いしたからつい…。でも味しなかった。がっかり。 要:あはは…。 朧:さて坊っちゃんの件は一先ず置いといて本来の話をしなきゃだね。 雛月:忘れてた! 命:呼んだのは浄化依頼か? 朧:そうさ、前回頼んだ奴。あれがまた発生、というよりは残ってたんだろうね。西区の端のほうで大量にいるらしいからまた頼みたいって呉服屋の染(そめ)さんが依頼してきたよ。着物を噛まれて商売にならないらしい。 命:うげぇ。めんどくせぇ 雛月:わーい!また叩けるね! 要:いっぱい居るんですか? 雛月:モジャモジャでちっちゃいやつがポコポコ増えるんだよ。 命:全身毛むくじゃらのネズミぐらいのが大量にいるんだよ。ある程度まとめて一気に浄化しないと効果がなくてな……前回全部処理したと思ったのに残ってたやがったな。すばしっこいし一ヶ所に集めるのがめんどくさいんだよな…。 要:僕についていた奴とはまた違うんですね。 雛月:堕神はいろんなのがいるよ! 命:………そうだ。おい要、お前この後暇か? 要:え、まぁ空いてますが。え、なんか嫌な予感が 命:いやな、お前の体質ならもしかしたらモジャモジャ共を集めるのに丁度いいんじゃないかと思ってな。 要:それって……囮になれってことですか!? 命:大丈夫だ!あれは増える以外は殆ど攻撃してこないし雛もいるから怪我することはないって!……多分(小声) 要:いま多分っていいましたよね!? 雛月:要も一緒?いこういこう! 要:わっわっ!ちょ引っ張らないで!あっ!朧さんまた伺います!(引っ張られて店を後にする) 朧:ほいよ。 命:さて俺も行くか。 朧:……命。 命:うん? 朧:最近はどうだい? 命:どうもこうも、上手くやってるよ。生活も安定してきたし。 朧:そうかい、良かった。……あれからもう3年は経ってるのか。早いもんだね。最初はどうなるかと思ったが。 命:……けっ。 朧:今は、楽しいかい? 命:……ああ。 朧:ふふっ。 命:もう行く、じゃあなクソババア。……また来る。 朧:待ってるよクソガキ。 0:店には朧だけとなる。暫く流れる静寂。 朧:(煙管を吸う)ふーっ。……でもね、お前の「それ」はお前を救うと同時に苦しめているんじゃないか不安なんだよ。なんたって不器用な子だからね。 朧:……しかし【蜜露】かい。厄介なことが起こらないと良いがね。【贄子】(にえご)とは可哀想な子だよ。  :   :   :  0:【続】

雛月:雛月(ひなつき)獣耳尻尾少女。 雛月:堕神(おちがみ)浄化屋【十六夜堂】(いざよいどう)の戦闘担当。天真爛漫。得意料理はおにぎり。ぱっちりおめめ。 雛月:【尾付き様】(おつきさま) 命:命(みこと)獣耳ひねくれ青年。 命:【十六夜堂】の頭脳担当。顔はいいが口は悪い。 命:低血圧。大抵のものは作れる。ややツリ目。 命:【耳在り】 要:卯月要(うづきかなめ)眼鏡青年。 要:名家卯月家の末っ子。堕神関連で二人に助けられた。 要:料理はしたことがない。普通。 要:【耳無し】(みみなし) 要:※男性ですが男女どちらが演じても可。 朧:朧(おぼろ)年齢性別不詳の獣耳薬師。 朧:薬屋【蕩月華】(とうげっか)の店主。 朧:西区の顔役でもあり、命とは昔からの知り合いで時々【十六夜堂】に仕事を斡旋してくれる。 朧:薬膳料理は作れる。糸目。 朧:【耳在り】 朧:※男女どちらが演じて可。  :   :   :   :  朧:薬というのはね、少なすぎても多すぎて駄目なんだ。 朧:少なすぎれば意味を成さず、多すぎれば逆に身体を蝕む毒と成る。 朧:適時適量。症状によって変えていくものさ。 朧:そしてそれは病だけでなく、あらゆる事柄にも言える。 朧:仕事、環境、そして人間関係。様々あるがどれも過剰となればそれは劇薬と変わらない。いずれ毒に成りえる。 朧:適時適量。状況によって変えなければならないのさ。 朧:さて、ところでお前にとって「それ」は【薬】なのか、はたまた【毒】なのか…。それともー  :  朧:……まぁ【劇薬】には違いないだろうね。  :   :   :   :  0:葦原北区の端、寂れた神社境内にある【十六夜堂】 0:快晴の中洗濯物を干している少女が一人。  :  雛月:……ふぅ!これで全部かな?今日はいい天気だからすぐ乾きそう。 雛月:さてと、そろそろ命起こさなきゃ!今日は出掛けるっていってたし。  :  0:命の部屋にバタバタと足音が近付いている。  :  雛月:おっはよー!みことぉ!朝だよ!というよりもうすぐお昼になっちゃうよー!おきろぉー! 命:……ん…あ……。 雛月:もぉー!相変わらず朝弱いんだから! 命:……あと…もう少し……。 雛月:ほら!今日は朧ちゃんのところいくんで…しょっと!(布団を引き抜く) 命:うがっ!? 雛月:おはよう!命! 命:…………おはよ……。 雛月:朝ごはん食べよう!  :   :   0:居間。  :  命:……で、朝飯は… 雛月:おにぎり! 命:だろうと思った。 雛月:ほらみて、このぜつみょーな握り加減! 命:……確かに、最初の頃のあの力任せに握って石の如く固まったのに比べればな。因みに中身は? 雛月:昨日の残りのさつま揚げ! 命:………………まぁ及第点だな。 雛月:ちゃんと大根おろしも入れたよ! 命:ありがたいこった。(おにぎりを頬張る) 雛月:むぐぅむぐ…。この後は朧ちゃんの所に行くんだよね? 命:ああ、まぁいつもの仕事の依頼だろうな。 雛月:この間みたいなモジャモジャな奴かな? 命:あれな…途中で分裂してエライめにあったから勘弁して欲しいんだがな。(味噌汁をすする) 雛月:えー!ポコポコ叩けて面白かったのに…………っん。 雛月:(耳をピクピク動し、匂いを嗅ぐ) 雛月:ふんふん……あっ!(突如立ち上がり駆け出す) 命:ん?おい雛!?  :  0:玄関前  :  要:お二人ともいるかな?ごめんくだ…(言い方ところで扉が開く) 雛月:やっぱり要だ! 要:わぁ!びっくりした…! 雛月:えへへ、いらっしゃーい! 命:おい、誰か来たのか…って要じゃねーか。 要:どうも、お久し振りです。この前は御世話になりました。 雛月:あれから大丈夫? 要:はい、まだまだ色々ありますがなんとかやってます。 命:それでどうした?また堕神にでも憑かれたか? 要:ああ、いえ、そういう訳ではなく。今日はこれをお渡しに来たんです。 雛月:ふんふん…風呂敷からいい匂いがする…。お肉だ! 要:ええ、燻製肉とか色々。先日の件を家族に話しましたら母が是非お礼したいとの事で。最初はもっと凝ったものにしようと思ったのですが雛月ちゃんならこっちの方が喜ぶかなと思って… 雛月:喜ぶ!喜ぶ!お肉!大好き!わーい! 雛月:(風呂敷を抱えながらくるくる回っている) 命:いいのか?こっちは仕事だっただけだが。金も貰ったし。…まぁ正直滅茶苦茶有難いが。 要:構いません。それにこの時期は中元やらで親戚や知り合いから色々頂くのですが実は家族だけでは食べきれなくて、よくご近所の方々にもお配りしてまして… 命:くっ、流石は名家。 要:ところで、なんで雛月ちゃんは僕がいるって分かったんですか? 雛月:ん?匂いがしたからだよ。 要:ああ、燻製肉の? 雛月:それもあるけど、要は他の人と違って凄く「いい匂い」がするからすぐに分かるよ! 命:堕神が憑いてなくてもか? 雛月:うん!堕神はこう「ぬたぁっ」て感じだけど、要のは匂いは「ふぁあ~ん」て感じ? 命:分かりにくい。 要:ええ…そんな匂いするかな…?くんくん…。 命:ふむ…。なぁ、もしかするとその「匂い」がこの前の堕神を引き寄せた原因の一つじゃねぇか? 要:え、ええ!? 雛月:ああ…堕神ってそういうのに敏感な所あるからね。 要:じゃあもしかするとこれからも狙われるかもしれないって事ですか!? 命:確証はないがな…。可能性はある。 要:そんな…どうすれば。 雛月:じゃあ朧ちゃんに聞いてみよう! 要:朧…ちゃん? 命:……まぁどうせこの後向かう予定だったしな。西区に薬屋があるんだがそこの店主が「そういうの」に詳しいんだ。 要:はぁ…。 雛月:そうと決まれば善は急げだよ!いこう!【蕩月華】(とうげっか)に  :   :   :  0:西区の商店街。そこのとある裏道を少し進むとそこには一軒の薬屋があった。古びた看板には【蕩月華】と書かれている。 0:店内はやや薄暗く、棚には大量の薬草等が置かれている。そんな店先の一番奥に一人の耳在りが煙管から紫煙を燻らせていた。  :  雛月:朧ちゃーん!きたよー! 朧:おや、雛ちゃんいらっしゃい。命もちゃんといるね。 命:いるにきまってるだろうクソババア。 朧:相変わらず口がなってないねぇ。好色ジジイにでも紹介してやろうかい?お前さん顔だけはお綺麗だからきっと可愛がって貰えるよ。そうしたら少しはその性格もマシになるんじゃないかい? 命:はっはっは!やってみろ、ジジイ諸共まとめて肥溜めにぶちこんでやるよ。 雛月:うんうん、二人とも仲良しだね! 要:あれ仲がいいんですか!?…あの、あの方は? 朧:おや?見掛けない顔だね。初めまして、眼鏡の坊っちゃん。私は朧。見ての通りの薬師(くすし)だよ。 命:朧は西区では割りと名が通っててな、【耳在り】…特に獣神性関連の病に精通している。 要:初めまして。僕は卯月要と申します。 朧:卯月…?もしかして天月様(てんげさま)の腹心と名高い卯月兎十朗兼定(うづきとじゅうろうかねさだ)のあの卯月家かい? 命:は?お前…そんな凄い家の奴だったのか? 要:いえ、確かに兼定様は親戚ではありますが、うちは分家ですし、お会いしたのも昔賀正の席で遠くからお見かけした位で……。 雛月:…凄いの? 命:そこそこ凄い。 雛月:なるほど。 朧:そんな坊っちゃんがこんな廃れた薬屋に如何様な後用向で? 命:ああ、実はー  :   :   :  朧:「匂い」ねぇ…。 命:雛が言うには他の奴や堕神ともまた違うらしいんだが。 雛月:すっごくいい匂いだよ!美味しそうなの! 要:自分では全く分からないのですが……。 朧:そりゃそうさ。雛ちゃんがいう「匂い」ってのはね、獣神性やらの強い【力】の事を言ってるのさ。尾付き、特に雛ちゃんはそれを「匂い」として感じ取っているという訳さ。 雛月:えっへん! 要:え?でもそれだと可笑しくないですか?【耳無し】の僕にそんなに獣神性があるとは思えないのですが…。 朧:半獣神の子孫である我々は、多からず少なからず必ずその身に獣神性を宿している。耳無しだろうとね。そうでなければ今頃瘴気に侵され死んじまってるさぁ。 朧:さて、【耳無し】と【耳在り】の違いはなんだい? 雛月:はい!【耳在り】は獣の耳がついてます! 朧:他には? 雛月:えっと…うーん?強いか弱い! 命:単純明快だな。 要:【耳在り】は獣神性を多く持った場合に生まれてきます。 命:そして個体差はあるが【獣神道】の術式が使えるな。 朧:そ、獣神性を強く持つと獣の耳が形成されて産まれてくる。そしてその獣耳(じゅうじ)は力の発露器官でもある。これにより【耳在り】は力を放出し、獣神に祝詞を唱えることで術を使える。通常は耳だけだが稀に尾を持って産まれてくるのが【尾付き様】だね。発露器官が多いからこそより強い力を行使できる。 雛月:ふふん!!(尻尾を大きく振っている) 朧:そして【耳無し】が【耳無し】である理由は一つ、獣神性の低ささ。だがね、稀に、本当にごく稀に獣神性を多く持ちながら【耳無し】で産まれてしまう者もいるんだよ。 要:え? 朧:獣耳や尾はね、常に微弱ながら力を放出して身体に負荷がかからないように調節もしているのさ。力も過ぎれば毒と変わらずだ。だが【耳無し】の場合はそれがほぼ出来ない。力を持ってしまった【耳無し】の身体には逃げ場を失った獣神性が貯まっていき、やがて肉体を蝕み始める…。 要:……っ。 朧:匂いは恐らくその前段階だね。それはまるで鍋で煮込まれた蜜のように獣神性は濃くなりその髪に、肉に、骨に凝縮されて溢れ始めているのさ。今のお前さんは堕神や力を持つ者にとってはご馳走。さながら熊の前に置かれた蜜壺に等しい。この状態のことを【蜜露】(みつろ)という。 雛月:…………がおー! 命:熊側の自覚はあったんだな。 要:……もし本当に僕がその【蜜露】ならどうすれば良いのでしょうか?なにか治す方法はあるのですか!? 朧:残念だが根本的な治療方法は無いね。生まれ持った体質だ。こればかりは私にもどうすることも出来ない。 要:そんな……。 朧:治す方法はないが……緩和する事、症状を進行させない事は出来るよ。 要:本当ですか!? 朧:ちょっと待ってな。いま用意するから。 0:朧店の奥に向かう。 雛月:よかったね!要! 要:ええ。でもまさか僕に獣神性の力があったなんて…。 命:ま、それだけの名家で家族も皆【耳在り】だとするなら血筋的にも相当なもんだろうからな。 命:……これで卑屈になる必要はなくなったんじゃねーか? 要:命さん…。 朧:待たせたね。これだよ。 0:持ってきた箱の中には粉薬の包みがいくつも入っている。 要:これは? 朧:これはね、特殊な霊薬やらを粉末にした物でね、飲むと獣神性に反応して力を集めて結晶化するんだ。時間が経つと皮膚の何処かに浮き出てきて最終的にかさぶたみたいに剥がれ落ちるって寸法さ。 要:これを飲めば抑えられのですね? 朧:本来は術具を作るときの材料として尾付きに飲ませて獣神性を回収する代物だけど、力を回収するという点では仕組みは一緒だからね。問題はないさ。試しに飲んでみるかい?ほら水だよ。今回は一回お試しさ。タダでいいよ。 要:は、はい、では……。(粉薬を飲む) 雛月:…どう? 要:……苦いです(苦笑) 命:ま、だろうな。 朧:ふふ、良薬口に苦しだ。まあ結晶化するまでにはそこそこ時間が…… 要:……あれ。なんか…かゆ、かゆい! 朧:ん? 命:おいどうした? 要:なんか全身がぞわぞわして右手が痒いです! 0:要の右手の甲に徐々に琥珀色の結晶が浮き出てくる。 要:わわ!これが結晶化!?あ、取れた。 朧:……驚いたね。通常なら結晶化するまでに3日~7日はかかる筈なんだがね……よっぽど貯まってたんだね?若いねぇ。 命:…言い方。 雛月:わぁ!要みせてみせてぇー! 要:はい、どうぞ。 雛月:わーい! 朧:しかし今の状況からみてもかなり進行しているようだ。定期的に薬を飲んで経過観察したほうが良いね。通常の尾付きなら月に一回が限度だがお前さんの場合は7日に一回飲んでも問題なさそうだね。 要:わかりました。 朧:今のままだと漏れでる「匂い」までは抑えきれないからね。腕のいい術具屋を紹介してやるよ、そこで獣神性を抑える術具も買うといいさ、なんならその獣神晶(じゅうしんしょう)をもっていけば高く買い取ってくれるさね。 命:そういやさっきの結晶はどうした? 要:ああ、それなら雛月ちゃんに渡しましたよ。 雛月:……。(石を掲げて)キラキラで綺麗!それに……ふんふん、いい匂いもする…………。 命:おい、雛? 雛月:……………………………………あむ。(結晶を口にいれる) 命:っのバカ!なんでもかんでも口に入れるなっていつも言ってるだろうが!子供か!ぺっ!しなさい!ぺっ!(口を掴んで吐き出させようとする) 雛月:んー!んふんんー!んーんー! 命:なんで抵抗してんだよ!さっさと出しなさい! 要:そうだよ!そんなの食べたらお腹壊しちゃいますよ? 雛月:うんぐん!!んーーーっ!ん……ごっくん。……あ。 命・要:「あっ」 朧:おや。 雛月:………………のんじゃった。 命:このおバカ!!なんですぐに出さなかったんだ! 雛月:…いやなんか「出したら負け」かなって? 命:なにと戦ってんだお前は。 朧:あはははは! 命:笑い事じゃねーんだよババア!急いで吐かせるぞ!最悪下剤飲ませてー 雛月:いやぁー!! 朧:安心しな、あれは普通の石じゃなく獣神性の塊だ。【尾付き様】の雛ちゃんならすぐに吸収できるよ。 雛月:よかったぁぁ! 命:はぁ…良かったじゃねーんだよ、全く。本能で行動するなと何度言えば…。 雛月:だって美味しそうな匂いしたからつい…。でも味しなかった。がっかり。 要:あはは…。 朧:さて坊っちゃんの件は一先ず置いといて本来の話をしなきゃだね。 雛月:忘れてた! 命:呼んだのは浄化依頼か? 朧:そうさ、前回頼んだ奴。あれがまた発生、というよりは残ってたんだろうね。西区の端のほうで大量にいるらしいからまた頼みたいって呉服屋の染(そめ)さんが依頼してきたよ。着物を噛まれて商売にならないらしい。 命:うげぇ。めんどくせぇ 雛月:わーい!また叩けるね! 要:いっぱい居るんですか? 雛月:モジャモジャでちっちゃいやつがポコポコ増えるんだよ。 命:全身毛むくじゃらのネズミぐらいのが大量にいるんだよ。ある程度まとめて一気に浄化しないと効果がなくてな……前回全部処理したと思ったのに残ってたやがったな。すばしっこいし一ヶ所に集めるのがめんどくさいんだよな…。 要:僕についていた奴とはまた違うんですね。 雛月:堕神はいろんなのがいるよ! 命:………そうだ。おい要、お前この後暇か? 要:え、まぁ空いてますが。え、なんか嫌な予感が 命:いやな、お前の体質ならもしかしたらモジャモジャ共を集めるのに丁度いいんじゃないかと思ってな。 要:それって……囮になれってことですか!? 命:大丈夫だ!あれは増える以外は殆ど攻撃してこないし雛もいるから怪我することはないって!……多分(小声) 要:いま多分っていいましたよね!? 雛月:要も一緒?いこういこう! 要:わっわっ!ちょ引っ張らないで!あっ!朧さんまた伺います!(引っ張られて店を後にする) 朧:ほいよ。 命:さて俺も行くか。 朧:……命。 命:うん? 朧:最近はどうだい? 命:どうもこうも、上手くやってるよ。生活も安定してきたし。 朧:そうかい、良かった。……あれからもう3年は経ってるのか。早いもんだね。最初はどうなるかと思ったが。 命:……けっ。 朧:今は、楽しいかい? 命:……ああ。 朧:ふふっ。 命:もう行く、じゃあなクソババア。……また来る。 朧:待ってるよクソガキ。 0:店には朧だけとなる。暫く流れる静寂。 朧:(煙管を吸う)ふーっ。……でもね、お前の「それ」はお前を救うと同時に苦しめているんじゃないか不安なんだよ。なんたって不器用な子だからね。 朧:……しかし【蜜露】かい。厄介なことが起こらないと良いがね。【贄子】(にえご)とは可哀想な子だよ。  :   :   :  0:【続】