台本概要

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タイトル その勇者は嘘がつけない
作者名 瀬川こゆ  (@hiina_segawa)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(女1、不問1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 難攻不落な当代の魔王の城に訪れた東の勇者の娘は、若干変わった性格をしていた。
世界を救う立場である筈の勇者は、魔王に願いがあるのだと言う。
その願いとは「世界を滅ぼせ」と言う願いで……。

※ 非商用時は連絡不要ですが、投げ銭機能のある配信媒体等で記録が残る場合はご一報と、概要欄等にクレジット表記をお願いします。

過度なアドリブ、改変、無許可での男女表記のあるキャラの性別変更は御遠慮ください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
魔王 不問 126 魔物、魔族の頂点に君臨する王様。面倒見がいい。
127 東の勇者。変わってるとよく言われる。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
娘(M):むかしむかしその国は、とても平和な国でした。 娘(M):けれどある日封印が解かれてしまい、 娘(M):百年眠り続けていた魔王が復活してしまったのです。 娘(M):魔王を恐れた人々は、各国から勇者を募り、 娘(M):魔王討伐に向け着実に準備を進めていました。 娘(M):ですが魔王の配下である魔族や魔物達はなかなかに手強く、 娘(M):勇者達は、世界のどこかにあると言われる、 娘(M):魔王城すら見つける事が出来ないでいました。  :  魔王:……。 娘:……。 魔王:……。 娘:そろそろ喋っていいですか? 魔王:おう。 娘:あー良かったぁ。 娘:ここに来てからざっと二時間は黙り合いだったので、 娘:もしかして目の前に居るの魔王様じゃなくて、 娘:魔王様の人形か何かだと思いましたよ。 魔王:そんな訳ある筈が無いだろうが。 魔王:この城に初の侵入者が現れたって聞いてから、 魔王:どんな奴かと思って見に来てみれば、 魔王:たかが小娘で流石に驚いたんだ。 娘:それが私ただの小娘じゃないんですよ。 娘:こう見えて東の勇者なんですね一応。 魔王:らしいな。 娘:あ、分かってはいたんですね? 魔王:じゃなきゃ、俺の部下はお前を厳重に拘束なんかしねぇ。 娘:なるほどなるほど。 娘:理解しました。 魔王:はぁ……逆にお前自分が今危機的状況に居るって分かってんのか? 娘:まぁ?一応? 魔王:ここはどこだ。 娘:魔王城です。 魔王:俺は誰だ? 娘:魔王様です。 魔王:お前の今の状況をなるべく詳しく言え。 娘:えっと「たのもー!」って入ってきたら、 娘:あっと言う間に捕まって、 娘:鎖でぐるぐる巻きにされた上で魔王様の前に、ぽいってされました。 魔王:嗚呼、まぁそうだな。 娘:んで、ぐるぐる巻きのままぽいってされたんで、 娘:私は今寝ながら魔王様を見上げて始めて、 娘:かれこれ二時間は経過しています。 魔王:つまり一言で言うと? 娘:絶体絶命です。 魔王:おう。 娘:まいっちゃったなーこれがもー。 魔王:いやね、あのね。 娘:はい。 魔王:なんでそんなにアナタ余裕なのっっ? 娘:知らないです。 魔王:絶体絶命の奴の態度じゃないだろうが。 娘:いやこう見えてもしかしたら内心は、 娘:すっごい焦ってるかもしれないじゃないですか。 魔王:それを俺に言う時点でお前は焦っていないけどな。 娘:まぁそうとも言えますけどー。 魔王:なんか変な奴が来たなぁ……。 娘:よく言われますー、えへっ。 魔王:んー……。 魔王:まぁ、うん。 魔王:色々気になる事は多いけど、 魔王:お前は勇者なんだよな? 娘:はい。 魔王:って事はここに来たのは俺を討伐する為、であってるな? 娘:いいえ? 魔王:は? 魔王:え……勇者だよね? 娘:はい。 魔王:俺の部下に没収された剣は、 娘:聖剣ですねぇ。 魔王:勇者の目的は? 娘:打倒、魔王です。 魔王:じゃ、勇者のお前は俺を討ちにここに来た、と。 娘:いいえ?違います。 魔王:は? 娘:寝ながら話すのあれなんで、 娘:とりあえず起こしてもらえませんかね? 娘:あ、拘束外さなくていいので。 魔王:お、おお。 魔王:あー……誰か! 魔王:この小娘を座らせてやれ。 0:一拍 娘:ビジュアル的には私が座ってた方がよりいっそう絶体絶命感でますね。 魔王:おお、どうでもいいんだが。 娘:えっとここに来た理由でしたっけ? 魔王:嗚呼。 娘:運命の出会いって本当にあるんだなぁって思いまして。 魔王:……はい? 娘:いやだから、運命の出会いですよ。 魔王:お前が言ってる事が一つも理解できないんだが……。 娘:端的に言えばひとめぼれですね。 魔王:誰に? 娘:魔王様に。 魔王:誰が? 娘:私が。 魔王:何故? 娘:二か月くらい前の戦い覚えてます? 魔王:西の勇者のやつか? 娘:はい、それですそれです。 魔王:それがどうしたんだ。 娘:私あの戦い参戦してたんですよ。 魔王:ほう。 娘:西の勇者がまだまだひよっ子で、 娘:頼りないから手伝ってくれって。 魔王:待った。 娘:はい。 魔王:西の勇者がひよっ子、だと? 娘:はい、ひよっ子です。 魔王:ドラゴン倒した奴だぞ? 娘:やだなぁー魔王様ったらー。 娘:ドラゴン一匹で手こずる勇者なんて、 娘:ひよっ子中もひよっ子じゃないですかー。 娘:しかも一人じゃないし。 娘:パーティー組んでたし。 娘:正直ヒーラーとMPポーションいっぱい持ってて、 娘:倒せない方がおかしいですよ。 魔王:そう、なの? 娘:はい。 娘:だって勇者を目指す人なら、 娘:当面の目標とりあえずドラゴンでしょう? 魔王:おぅ……勇者の目標なんか知らねぇけどな。 娘:子供向けのおとぎ話の中では、 娘:ドラゴンはそれはそれは強い生き物って言われてますけど。 魔王:まぁ、見た目とかもあるしなぁ。 娘:言うてただのデカいとかげじゃないですか。 娘:種類によっては話したり火吹いたりするけど、 娘:結局デカいとかげじゃないですか。 魔王:うんん……本人達ちょっとそれ気にしてるから言うんじゃねぇぞ? 娘:はぁい。 魔王:つー事はなんだ。 魔王:お前はドラゴン一匹くらいは余裕だと? 娘:はい。 魔王:単身で? 娘:いけます。 魔王:あっさりとっ捕まった人間のセリフとは思えねぇな。 娘:それは、惚れた弱みって言うか? 娘:まぁ捕まった方が最短ルートで魔王様に会えるかなぁって思ったとか言えないですけど。 魔王:言ってる言ってる言ってる。 娘:それはまぁ置いといて、 娘:とりあえずピヨピヨ勇者のお手伝いで参戦した戦いで魔王様の事初めて見まして。 魔王:おう。 娘:「おじ様って呼んで三歩後ろ歩きたい!」ってなったので馳せ参じた次第です。 魔王:頭おかしいって言われない? 娘:よく言われます。 魔王:変わってる、とも。 娘:それもよく言われます。 魔王:勇者なんだよな? 娘:はい、一応。 魔王:おぉ……。 娘:私も聞いていいですか? 魔王:なんだ。 娘:魔王様はこの世界をどうしたいんですか? 娘:征服?それとも滅亡? 魔王:滅亡させてから征服だな。 娘:つまり一回は壊す、と? 魔王:嗚呼。 魔王:「させない」とでも言うのか? 娘:言うと思います? 魔王:今のところ思う要素がない。 娘:正解です。 娘:お願いがあるんですよ魔王様。 魔王:勇者のお前が俺に何を願うんだ? 娘:この世界をぶっ壊してください。 娘:完膚なきまでに。 娘:その為に必要ならなんでも手伝うので。 魔王:……はぁ?  :  魔王(M):それが小娘との出会いだった。 魔王(M):怪しんだ部下達によって、 魔王(M):地下牢に閉じ込められても文句を言わず。 魔王(M):逃げる素振りも見せなければ、 魔王(M):その日の夕飯にケチを付けてくるくらいだった。 魔王(M):更にこちら側が何もしなくても、 魔王(M):各国の機密情報を次から次へとペラペラと話してきやがったから、 魔王(M):むしろ拘束しているこちら側の方が馬鹿なんじゃないかと、 魔王(M):最終的には満場一致でそうなり、 魔王(M):数日監禁されただけで小娘はのこのこ檻の外に出てきた。  :  魔王:そこで何してるんだ? 娘:おや、魔王様。 娘:魔王様の周りは誰かが必ず居るなぁって思って見てました。 魔王:混ざりたいのか? 娘:いいえ? 娘:めんどくさいですもん。 魔王:そうか。 娘:私は眺めてるだけが丁度いいんです。 娘:誰かに振り回されるのはもう勘弁なんで。 魔王:なんかあったのか? 娘:聞いてくれるんです? 魔王:おぅ。 娘:あら優しい。 娘:優しい魔王様っておかしいですねぇ。 魔王:その魔王に「世界を壊せ」と願う勇者のお前も充分おかしい。 娘:どっちもどっちでしたかぁ。 魔王:嗚呼。 0:一拍 娘:別にね、私勇者になりたかった訳じゃないんですよ。 魔王:そんな気はしてた。 娘:やっぱ分かります? 魔王:勇者になりたくてなった奴は、 魔王:魔王城でぬくぬく日向ぼっこなんかしないからな。 娘:才能があるって言われたんですよ。 魔王:なんの? 娘:勇者の。 娘:出来ない事なんて無いんじゃないかって。 魔王:ほう。 娘:そんな訳ないじゃないですか。 娘:そりゃあ世界のどこかには、 娘:何もしなくてもなんでも出来る人が居るかもしれないけれど。 娘:少なくとも私は違います。 娘:自分が普通よりも落ちこぼれだと思ったから、 娘:せめて並にはなりたくて頑張っただけなんです。 魔王:その結果が勇者か? 娘:はい。 娘:やってみて思いましたよ。 娘:私は人の上に立ちたくないし、 娘:誰かを引っ張る事もしたくない。 娘:目標にもしないで欲しいし、 娘:褒められたくもないんです。 魔王:勇者に向いていたのは能力だけのようだな。 娘:そうなんですよ。 娘:東の勇者様に憧れて自分も真似してみました!とか、 娘:いちいち報告されても虫唾が走るだけでしたし。 魔王:それはまぁお前みたいな奴にとっては嫌だろう。 娘:根本的に性格が勇者に向いてないんです私。 娘:やりたい事だけやっていたいし、 娘:誰かが苦しんでようがどうでもいいんですよ。 娘:知らない人の為に犠牲になんかなりたくないんです。 魔王:本当に向いてないな。 娘:まぁ、でも。 娘:私は勇者なので、周りは許してくれなかったんですけどね。 魔王:……。 娘:息苦しい。 娘:言いたい事すら満足に言えない。 娘:そのくせ周りはやりたいように、勇者(わたし)を利用して笑うんです。 娘:魔王城の地下牢の方がよっぽど自由でしたよ。 娘:まぁ数日しか入ってないんですけど。 魔王:お前を捕えてるだけ馬鹿だと思ったからな。 魔王:幹部達も満場一致でその意見だった。 魔王:ある意味凄いぞ? 娘:もしも私が演じていたらどうするんですか? 魔王:馬鹿な小娘のフリを? 娘:はい。 娘:地下牢で話した事の全てが嘘な可能性とか考えなかったんですか? 魔王:お前は嘘が付けるほど器用な奴なのか? 娘:いいえ。 娘:どちらかと言えばヘタです。 娘:全部顔に出ちゃうんで。 魔王:ならお前が俺を騙した騙してないは杞憂でしかないだろうが。 娘:魔王様はよく人を見ているんですねぇ。 魔王:そうか? 0:一拍 娘:味方にはならなくていいです。 娘:私も味方にはならないので。 魔王:おお。 娘:でも時々私を肯定してください。 娘:或いは、ふざけた馬鹿話に付き合ってください。 娘:どうしようもなくなった時の、 娘:最後の砦にしてしまう事を許してください。 娘:そうしてくれるのなら、 娘:あなたに嘘は一つも付きません。 魔王:分かった、いいだろう。 娘:そして出来る事ならば、 魔王:早く世界を壊してください。か? 娘:はい。 魔王:善処しよう。 娘:楽しみにしてます。  :  娘(M):東の勇者の行方が分からなくなったと、 娘(M):世の中に広まるのは一瞬だった。 娘(M):「憧れの人の所に行く」と、 娘(M):置いていった手紙は勇者らしくないからと、 娘(M):本気にされなかったらしい。 娘(M):それが不服だと魔王様に伝えれば、 娘(M):鼻で笑って流された。 娘(M):私が変わっていれば変わっているほど、 娘(M):魔王様は楽しそうだ。 娘(M):私が勇者らしく居なくても、 娘(M):たった一人許してくれる。 娘(M):それが他ならぬ魔王様だって事に、 娘(M):ほんの少しおかしくなった。  :  魔王(M):小娘は基本的にフラフラしていた。 魔王(M):俺が居れば必ず近寄って来る訳では無い。 魔王(M):ただ何か話したい事がある時は、 魔王(M):城中ウロチョロ歩き回って俺を探していた。 魔王(M):話の内容は大抵馬鹿話ばかりだったが。 魔王(M):時々奇想天外の事をしでかす時もあった。 魔王(M):逃げようとする素振りは今日も見せない。 魔王(M):取り上げた聖剣を取り戻そうともしない。 魔王(M):一度返すか聞いてみた時は、 魔王(M):「溶かして何かに使ってください」と、 魔王(M):ぶっ飛んだ答えを出してきた。  :  娘(M):それが続けばいいと思っていた。 魔王(M):それが続くと思っていた。 娘(M):何も変わらなければいいと思っていた。 魔王(M):何も変わらないと思っていた。 0:一拍 娘(M):変わらないものなんて、 娘(M):何一つないって知っていたのに。  :   :  魔王:どうやら西の勇者にここが見付かったらしい。 娘:私バラしてないですよ。 魔王:知っている。 娘:信じてくれるんですか? 魔王:まぁな。 娘:一応勇者なので立場的にはあなたの敵ですよ? 魔王:お前が本当に敵だったのなら、 魔王:どんな勇者よりも楽しませてくれるのにな。 娘:敵にはなりませんよ。 娘:味方にもなりませんが。 魔王:お前は嘘を付かないんだったか? 娘:付かないんじゃなくて付けないんです。 魔王:でも一つだけ付いている嘘があるだろう? 娘:なんの事ですか? 魔王:俺に一目惚れしたって話だ。 魔王:あれは嘘だろう。 娘:どうしてですか? 魔王:惚れた腫れたの感情を持った相手に向けるには、 魔王:お前の視線はちょっと違ったからな。 娘:経験達者なんですねぇ。 娘:魔王様から見て私は、 娘:魔王様の事をどう思ってると感じたんですか? 魔王:疑いたくなるような話だが。 娘:はい。 魔王:敬い称えている奴に向けるそれと、 魔王:お前の視線は同等だった。 娘:おやまぁ。 魔王:それから、 娘:はい。 魔王:唯一自分を救える手段を持った、 魔王:救世主に向けるそれとも同じだ。 娘:そうですか。 魔王:まぁどちらにしても、 魔王:勇者が魔王に向ける目ではないけどな。 娘:ですよねぇ。 娘:ちょっと困っちゃってます。 魔王:お前でも困るのか? 娘:そりゃあ困りますよ。 娘:一応人間ではあるので。 娘:まぁ勇者なんですけどねぇ……。 魔王:お前は俺に世界を壊してほしいんだったな。 娘:はい、そうです。 魔王:今まで聞いた事が無かったが。 娘:はい。 魔王:どうして壊して欲しいんだ? 娘:……。 娘:私が壊せないからです。 魔王:勇者だからか? 娘:はい。 娘:勇者は世界を守りこそすれ、 娘:壊そうとなんてしない。 娘:それが当たり前の事ですよね。 魔王:人間はそう思うだろうな。 娘:そもそも何かを「壊す」って事が、 娘:出来ないようになってるんですよ。 娘:勇者は。 魔王:大方女神の奴がなんかしてるんだろう。 娘:女神の存在をご存知で? 魔王:魔王だからな。 娘:私大っ嫌いなんです。 魔王:女神が? 娘:女神も、あれが作った世界も。 娘:ついでに言えば勇者に守られる事が前提で生きてる奴らも、 娘:総じて全員大嫌いです。 魔王:俺や魔族達も根本は女神に作られたようなものだぞ。 娘:倒される前提の魔王様、ですよね。 魔王:嗚呼。 娘:だからあなたは大好きです。 魔王:ほう。 娘:あなたは全ての「滅び」を持っているから。 娘:壊して、殺して、恨まれて、憎まれて。 娘:そして悪だと称されて倒される。 魔王:……。 娘:私が持ってないもの全部持ってます。 娘:私が出来ない事、あなたは全部出来ます。 魔王:それがまぁ、ここに存在する一つの理由ではあるからな。 娘:初めて見た時に思いましたよ。 娘:この人なら、私の願いを聞いてくれるんじゃないかって。 魔王:嗚呼。 娘:世界が大嫌いなんです。 娘:腐ってる奴らしかいない。 娘:でも私は勇者だから……勇者だから、 娘:守りはしても傷付けてはいけない。 魔王:……。 娘:いっそ魔族になりたかったです。 娘:そうすれば堂々と魔王様の下に付けたのに。 魔王:そうだな。 魔王:お前は確かに勇者と言うよりも、 魔王:もっとずっと俺達に思考が似ている。 娘:本当ですか? 娘:それは嬉しいです。 魔王:お前は勇者にも人間にもするには惜しい。 娘:でも今更悪役にはなれないんですよ。 0:一拍 娘:それこそ、一度死ななきゃ。 魔王:ふっ。 魔王:はははははは! 魔王:そうか!ようやく理解したぞ! 魔王:お前の本当の目的とやらを! 娘:なんだと思います? 魔王:死にたいんだろう? 魔王:お前は俺の手に掛かって死にたいのだ。 娘:ご名答。 娘:勇者の特権って言うんですかね? 娘:基本私達は殺されない限り死ねないんです。 魔王:そうなのか。 娘:魔王様もですよね? 魔王:嗚呼、そうだ。 魔王:勇者に倒されない限り消滅する事はない。 娘:でも魔王様は駄目ですよ? 娘:魔王様はこの世界を壊すまでは、 娘:誰にも倒されちゃ駄目です。 0:一拍 魔王:……そうか、よくやった。 娘:西の勇者ですか? 魔王:部下の一人が倒したらしい。 娘:あの人はひよっ子ですもん。 娘:魔王様はきっと、 娘:今世では私以外あなたを倒せる人は出てこないと思いますよ。 魔王:なんとなくそんな気はしていたさ。 魔王:けれどお前は俺に殺されたい。 娘:はい。 魔王:もし、 娘:はい。 魔王:俺が世界を壊して全てを手に入れた後に、 魔王:もう充分満足したから消えたくなったとしたら俺はどうすればいい? 娘:魔王様が消えたくなるとは思えませんけど。 魔王:もし、の話だ。 娘:んーー……。 娘:じゃあそうなる時の為に転生したら真っ先に魔王様のところに行きますね。 娘:「復活しました!たのもー!」って言いに行きます。 娘:約束です。 魔王:絶対守れよ。 娘:はい。 娘:私、 魔王:嘘は付けないんだろう? 娘:はい!  :   :  娘(M):その年の冬、魔王と勇者の戦いは終幕を迎えた。 娘(M):東の勇者一人欠けただけで、 娘(M):今世の人類は魔王に太刀打ちが出来なかったらしい。 娘(M):東の勇者は行方不明のまま、 娘(M):恐らく死んでしまったのだろうと噂され、 娘(M):やがて誰も語らなくなった。  :  魔王(M):全てが終わる少し前に、 魔王(M):小娘の願いを俺は叶えてやった。 魔王(M):勇者としての最期の言葉は、 娘:「次は魔族にしろって女神に直談判してきます!」 魔王(M):だったから、 魔王(M):死ぬ直前に言うセリフではないだろうとそう言えば、 魔王(M):相変わらずの目をしたまま消えていった。 魔王(M):小娘はその内帰ってくるだろう。 魔王(M):だってあいつは、 魔王(M):勇者は、 魔王(M):嘘が付けないのだから。  : 

娘(M):むかしむかしその国は、とても平和な国でした。 娘(M):けれどある日封印が解かれてしまい、 娘(M):百年眠り続けていた魔王が復活してしまったのです。 娘(M):魔王を恐れた人々は、各国から勇者を募り、 娘(M):魔王討伐に向け着実に準備を進めていました。 娘(M):ですが魔王の配下である魔族や魔物達はなかなかに手強く、 娘(M):勇者達は、世界のどこかにあると言われる、 娘(M):魔王城すら見つける事が出来ないでいました。  :  魔王:……。 娘:……。 魔王:……。 娘:そろそろ喋っていいですか? 魔王:おう。 娘:あー良かったぁ。 娘:ここに来てからざっと二時間は黙り合いだったので、 娘:もしかして目の前に居るの魔王様じゃなくて、 娘:魔王様の人形か何かだと思いましたよ。 魔王:そんな訳ある筈が無いだろうが。 魔王:この城に初の侵入者が現れたって聞いてから、 魔王:どんな奴かと思って見に来てみれば、 魔王:たかが小娘で流石に驚いたんだ。 娘:それが私ただの小娘じゃないんですよ。 娘:こう見えて東の勇者なんですね一応。 魔王:らしいな。 娘:あ、分かってはいたんですね? 魔王:じゃなきゃ、俺の部下はお前を厳重に拘束なんかしねぇ。 娘:なるほどなるほど。 娘:理解しました。 魔王:はぁ……逆にお前自分が今危機的状況に居るって分かってんのか? 娘:まぁ?一応? 魔王:ここはどこだ。 娘:魔王城です。 魔王:俺は誰だ? 娘:魔王様です。 魔王:お前の今の状況をなるべく詳しく言え。 娘:えっと「たのもー!」って入ってきたら、 娘:あっと言う間に捕まって、 娘:鎖でぐるぐる巻きにされた上で魔王様の前に、ぽいってされました。 魔王:嗚呼、まぁそうだな。 娘:んで、ぐるぐる巻きのままぽいってされたんで、 娘:私は今寝ながら魔王様を見上げて始めて、 娘:かれこれ二時間は経過しています。 魔王:つまり一言で言うと? 娘:絶体絶命です。 魔王:おう。 娘:まいっちゃったなーこれがもー。 魔王:いやね、あのね。 娘:はい。 魔王:なんでそんなにアナタ余裕なのっっ? 娘:知らないです。 魔王:絶体絶命の奴の態度じゃないだろうが。 娘:いやこう見えてもしかしたら内心は、 娘:すっごい焦ってるかもしれないじゃないですか。 魔王:それを俺に言う時点でお前は焦っていないけどな。 娘:まぁそうとも言えますけどー。 魔王:なんか変な奴が来たなぁ……。 娘:よく言われますー、えへっ。 魔王:んー……。 魔王:まぁ、うん。 魔王:色々気になる事は多いけど、 魔王:お前は勇者なんだよな? 娘:はい。 魔王:って事はここに来たのは俺を討伐する為、であってるな? 娘:いいえ? 魔王:は? 魔王:え……勇者だよね? 娘:はい。 魔王:俺の部下に没収された剣は、 娘:聖剣ですねぇ。 魔王:勇者の目的は? 娘:打倒、魔王です。 魔王:じゃ、勇者のお前は俺を討ちにここに来た、と。 娘:いいえ?違います。 魔王:は? 娘:寝ながら話すのあれなんで、 娘:とりあえず起こしてもらえませんかね? 娘:あ、拘束外さなくていいので。 魔王:お、おお。 魔王:あー……誰か! 魔王:この小娘を座らせてやれ。 0:一拍 娘:ビジュアル的には私が座ってた方がよりいっそう絶体絶命感でますね。 魔王:おお、どうでもいいんだが。 娘:えっとここに来た理由でしたっけ? 魔王:嗚呼。 娘:運命の出会いって本当にあるんだなぁって思いまして。 魔王:……はい? 娘:いやだから、運命の出会いですよ。 魔王:お前が言ってる事が一つも理解できないんだが……。 娘:端的に言えばひとめぼれですね。 魔王:誰に? 娘:魔王様に。 魔王:誰が? 娘:私が。 魔王:何故? 娘:二か月くらい前の戦い覚えてます? 魔王:西の勇者のやつか? 娘:はい、それですそれです。 魔王:それがどうしたんだ。 娘:私あの戦い参戦してたんですよ。 魔王:ほう。 娘:西の勇者がまだまだひよっ子で、 娘:頼りないから手伝ってくれって。 魔王:待った。 娘:はい。 魔王:西の勇者がひよっ子、だと? 娘:はい、ひよっ子です。 魔王:ドラゴン倒した奴だぞ? 娘:やだなぁー魔王様ったらー。 娘:ドラゴン一匹で手こずる勇者なんて、 娘:ひよっ子中もひよっ子じゃないですかー。 娘:しかも一人じゃないし。 娘:パーティー組んでたし。 娘:正直ヒーラーとMPポーションいっぱい持ってて、 娘:倒せない方がおかしいですよ。 魔王:そう、なの? 娘:はい。 娘:だって勇者を目指す人なら、 娘:当面の目標とりあえずドラゴンでしょう? 魔王:おぅ……勇者の目標なんか知らねぇけどな。 娘:子供向けのおとぎ話の中では、 娘:ドラゴンはそれはそれは強い生き物って言われてますけど。 魔王:まぁ、見た目とかもあるしなぁ。 娘:言うてただのデカいとかげじゃないですか。 娘:種類によっては話したり火吹いたりするけど、 娘:結局デカいとかげじゃないですか。 魔王:うんん……本人達ちょっとそれ気にしてるから言うんじゃねぇぞ? 娘:はぁい。 魔王:つー事はなんだ。 魔王:お前はドラゴン一匹くらいは余裕だと? 娘:はい。 魔王:単身で? 娘:いけます。 魔王:あっさりとっ捕まった人間のセリフとは思えねぇな。 娘:それは、惚れた弱みって言うか? 娘:まぁ捕まった方が最短ルートで魔王様に会えるかなぁって思ったとか言えないですけど。 魔王:言ってる言ってる言ってる。 娘:それはまぁ置いといて、 娘:とりあえずピヨピヨ勇者のお手伝いで参戦した戦いで魔王様の事初めて見まして。 魔王:おう。 娘:「おじ様って呼んで三歩後ろ歩きたい!」ってなったので馳せ参じた次第です。 魔王:頭おかしいって言われない? 娘:よく言われます。 魔王:変わってる、とも。 娘:それもよく言われます。 魔王:勇者なんだよな? 娘:はい、一応。 魔王:おぉ……。 娘:私も聞いていいですか? 魔王:なんだ。 娘:魔王様はこの世界をどうしたいんですか? 娘:征服?それとも滅亡? 魔王:滅亡させてから征服だな。 娘:つまり一回は壊す、と? 魔王:嗚呼。 魔王:「させない」とでも言うのか? 娘:言うと思います? 魔王:今のところ思う要素がない。 娘:正解です。 娘:お願いがあるんですよ魔王様。 魔王:勇者のお前が俺に何を願うんだ? 娘:この世界をぶっ壊してください。 娘:完膚なきまでに。 娘:その為に必要ならなんでも手伝うので。 魔王:……はぁ?  :  魔王(M):それが小娘との出会いだった。 魔王(M):怪しんだ部下達によって、 魔王(M):地下牢に閉じ込められても文句を言わず。 魔王(M):逃げる素振りも見せなければ、 魔王(M):その日の夕飯にケチを付けてくるくらいだった。 魔王(M):更にこちら側が何もしなくても、 魔王(M):各国の機密情報を次から次へとペラペラと話してきやがったから、 魔王(M):むしろ拘束しているこちら側の方が馬鹿なんじゃないかと、 魔王(M):最終的には満場一致でそうなり、 魔王(M):数日監禁されただけで小娘はのこのこ檻の外に出てきた。  :  魔王:そこで何してるんだ? 娘:おや、魔王様。 娘:魔王様の周りは誰かが必ず居るなぁって思って見てました。 魔王:混ざりたいのか? 娘:いいえ? 娘:めんどくさいですもん。 魔王:そうか。 娘:私は眺めてるだけが丁度いいんです。 娘:誰かに振り回されるのはもう勘弁なんで。 魔王:なんかあったのか? 娘:聞いてくれるんです? 魔王:おぅ。 娘:あら優しい。 娘:優しい魔王様っておかしいですねぇ。 魔王:その魔王に「世界を壊せ」と願う勇者のお前も充分おかしい。 娘:どっちもどっちでしたかぁ。 魔王:嗚呼。 0:一拍 娘:別にね、私勇者になりたかった訳じゃないんですよ。 魔王:そんな気はしてた。 娘:やっぱ分かります? 魔王:勇者になりたくてなった奴は、 魔王:魔王城でぬくぬく日向ぼっこなんかしないからな。 娘:才能があるって言われたんですよ。 魔王:なんの? 娘:勇者の。 娘:出来ない事なんて無いんじゃないかって。 魔王:ほう。 娘:そんな訳ないじゃないですか。 娘:そりゃあ世界のどこかには、 娘:何もしなくてもなんでも出来る人が居るかもしれないけれど。 娘:少なくとも私は違います。 娘:自分が普通よりも落ちこぼれだと思ったから、 娘:せめて並にはなりたくて頑張っただけなんです。 魔王:その結果が勇者か? 娘:はい。 娘:やってみて思いましたよ。 娘:私は人の上に立ちたくないし、 娘:誰かを引っ張る事もしたくない。 娘:目標にもしないで欲しいし、 娘:褒められたくもないんです。 魔王:勇者に向いていたのは能力だけのようだな。 娘:そうなんですよ。 娘:東の勇者様に憧れて自分も真似してみました!とか、 娘:いちいち報告されても虫唾が走るだけでしたし。 魔王:それはまぁお前みたいな奴にとっては嫌だろう。 娘:根本的に性格が勇者に向いてないんです私。 娘:やりたい事だけやっていたいし、 娘:誰かが苦しんでようがどうでもいいんですよ。 娘:知らない人の為に犠牲になんかなりたくないんです。 魔王:本当に向いてないな。 娘:まぁ、でも。 娘:私は勇者なので、周りは許してくれなかったんですけどね。 魔王:……。 娘:息苦しい。 娘:言いたい事すら満足に言えない。 娘:そのくせ周りはやりたいように、勇者(わたし)を利用して笑うんです。 娘:魔王城の地下牢の方がよっぽど自由でしたよ。 娘:まぁ数日しか入ってないんですけど。 魔王:お前を捕えてるだけ馬鹿だと思ったからな。 魔王:幹部達も満場一致でその意見だった。 魔王:ある意味凄いぞ? 娘:もしも私が演じていたらどうするんですか? 魔王:馬鹿な小娘のフリを? 娘:はい。 娘:地下牢で話した事の全てが嘘な可能性とか考えなかったんですか? 魔王:お前は嘘が付けるほど器用な奴なのか? 娘:いいえ。 娘:どちらかと言えばヘタです。 娘:全部顔に出ちゃうんで。 魔王:ならお前が俺を騙した騙してないは杞憂でしかないだろうが。 娘:魔王様はよく人を見ているんですねぇ。 魔王:そうか? 0:一拍 娘:味方にはならなくていいです。 娘:私も味方にはならないので。 魔王:おお。 娘:でも時々私を肯定してください。 娘:或いは、ふざけた馬鹿話に付き合ってください。 娘:どうしようもなくなった時の、 娘:最後の砦にしてしまう事を許してください。 娘:そうしてくれるのなら、 娘:あなたに嘘は一つも付きません。 魔王:分かった、いいだろう。 娘:そして出来る事ならば、 魔王:早く世界を壊してください。か? 娘:はい。 魔王:善処しよう。 娘:楽しみにしてます。  :  娘(M):東の勇者の行方が分からなくなったと、 娘(M):世の中に広まるのは一瞬だった。 娘(M):「憧れの人の所に行く」と、 娘(M):置いていった手紙は勇者らしくないからと、 娘(M):本気にされなかったらしい。 娘(M):それが不服だと魔王様に伝えれば、 娘(M):鼻で笑って流された。 娘(M):私が変わっていれば変わっているほど、 娘(M):魔王様は楽しそうだ。 娘(M):私が勇者らしく居なくても、 娘(M):たった一人許してくれる。 娘(M):それが他ならぬ魔王様だって事に、 娘(M):ほんの少しおかしくなった。  :  魔王(M):小娘は基本的にフラフラしていた。 魔王(M):俺が居れば必ず近寄って来る訳では無い。 魔王(M):ただ何か話したい事がある時は、 魔王(M):城中ウロチョロ歩き回って俺を探していた。 魔王(M):話の内容は大抵馬鹿話ばかりだったが。 魔王(M):時々奇想天外の事をしでかす時もあった。 魔王(M):逃げようとする素振りは今日も見せない。 魔王(M):取り上げた聖剣を取り戻そうともしない。 魔王(M):一度返すか聞いてみた時は、 魔王(M):「溶かして何かに使ってください」と、 魔王(M):ぶっ飛んだ答えを出してきた。  :  娘(M):それが続けばいいと思っていた。 魔王(M):それが続くと思っていた。 娘(M):何も変わらなければいいと思っていた。 魔王(M):何も変わらないと思っていた。 0:一拍 娘(M):変わらないものなんて、 娘(M):何一つないって知っていたのに。  :   :  魔王:どうやら西の勇者にここが見付かったらしい。 娘:私バラしてないですよ。 魔王:知っている。 娘:信じてくれるんですか? 魔王:まぁな。 娘:一応勇者なので立場的にはあなたの敵ですよ? 魔王:お前が本当に敵だったのなら、 魔王:どんな勇者よりも楽しませてくれるのにな。 娘:敵にはなりませんよ。 娘:味方にもなりませんが。 魔王:お前は嘘を付かないんだったか? 娘:付かないんじゃなくて付けないんです。 魔王:でも一つだけ付いている嘘があるだろう? 娘:なんの事ですか? 魔王:俺に一目惚れしたって話だ。 魔王:あれは嘘だろう。 娘:どうしてですか? 魔王:惚れた腫れたの感情を持った相手に向けるには、 魔王:お前の視線はちょっと違ったからな。 娘:経験達者なんですねぇ。 娘:魔王様から見て私は、 娘:魔王様の事をどう思ってると感じたんですか? 魔王:疑いたくなるような話だが。 娘:はい。 魔王:敬い称えている奴に向けるそれと、 魔王:お前の視線は同等だった。 娘:おやまぁ。 魔王:それから、 娘:はい。 魔王:唯一自分を救える手段を持った、 魔王:救世主に向けるそれとも同じだ。 娘:そうですか。 魔王:まぁどちらにしても、 魔王:勇者が魔王に向ける目ではないけどな。 娘:ですよねぇ。 娘:ちょっと困っちゃってます。 魔王:お前でも困るのか? 娘:そりゃあ困りますよ。 娘:一応人間ではあるので。 娘:まぁ勇者なんですけどねぇ……。 魔王:お前は俺に世界を壊してほしいんだったな。 娘:はい、そうです。 魔王:今まで聞いた事が無かったが。 娘:はい。 魔王:どうして壊して欲しいんだ? 娘:……。 娘:私が壊せないからです。 魔王:勇者だからか? 娘:はい。 娘:勇者は世界を守りこそすれ、 娘:壊そうとなんてしない。 娘:それが当たり前の事ですよね。 魔王:人間はそう思うだろうな。 娘:そもそも何かを「壊す」って事が、 娘:出来ないようになってるんですよ。 娘:勇者は。 魔王:大方女神の奴がなんかしてるんだろう。 娘:女神の存在をご存知で? 魔王:魔王だからな。 娘:私大っ嫌いなんです。 魔王:女神が? 娘:女神も、あれが作った世界も。 娘:ついでに言えば勇者に守られる事が前提で生きてる奴らも、 娘:総じて全員大嫌いです。 魔王:俺や魔族達も根本は女神に作られたようなものだぞ。 娘:倒される前提の魔王様、ですよね。 魔王:嗚呼。 娘:だからあなたは大好きです。 魔王:ほう。 娘:あなたは全ての「滅び」を持っているから。 娘:壊して、殺して、恨まれて、憎まれて。 娘:そして悪だと称されて倒される。 魔王:……。 娘:私が持ってないもの全部持ってます。 娘:私が出来ない事、あなたは全部出来ます。 魔王:それがまぁ、ここに存在する一つの理由ではあるからな。 娘:初めて見た時に思いましたよ。 娘:この人なら、私の願いを聞いてくれるんじゃないかって。 魔王:嗚呼。 娘:世界が大嫌いなんです。 娘:腐ってる奴らしかいない。 娘:でも私は勇者だから……勇者だから、 娘:守りはしても傷付けてはいけない。 魔王:……。 娘:いっそ魔族になりたかったです。 娘:そうすれば堂々と魔王様の下に付けたのに。 魔王:そうだな。 魔王:お前は確かに勇者と言うよりも、 魔王:もっとずっと俺達に思考が似ている。 娘:本当ですか? 娘:それは嬉しいです。 魔王:お前は勇者にも人間にもするには惜しい。 娘:でも今更悪役にはなれないんですよ。 0:一拍 娘:それこそ、一度死ななきゃ。 魔王:ふっ。 魔王:はははははは! 魔王:そうか!ようやく理解したぞ! 魔王:お前の本当の目的とやらを! 娘:なんだと思います? 魔王:死にたいんだろう? 魔王:お前は俺の手に掛かって死にたいのだ。 娘:ご名答。 娘:勇者の特権って言うんですかね? 娘:基本私達は殺されない限り死ねないんです。 魔王:そうなのか。 娘:魔王様もですよね? 魔王:嗚呼、そうだ。 魔王:勇者に倒されない限り消滅する事はない。 娘:でも魔王様は駄目ですよ? 娘:魔王様はこの世界を壊すまでは、 娘:誰にも倒されちゃ駄目です。 0:一拍 魔王:……そうか、よくやった。 娘:西の勇者ですか? 魔王:部下の一人が倒したらしい。 娘:あの人はひよっ子ですもん。 娘:魔王様はきっと、 娘:今世では私以外あなたを倒せる人は出てこないと思いますよ。 魔王:なんとなくそんな気はしていたさ。 魔王:けれどお前は俺に殺されたい。 娘:はい。 魔王:もし、 娘:はい。 魔王:俺が世界を壊して全てを手に入れた後に、 魔王:もう充分満足したから消えたくなったとしたら俺はどうすればいい? 娘:魔王様が消えたくなるとは思えませんけど。 魔王:もし、の話だ。 娘:んーー……。 娘:じゃあそうなる時の為に転生したら真っ先に魔王様のところに行きますね。 娘:「復活しました!たのもー!」って言いに行きます。 娘:約束です。 魔王:絶対守れよ。 娘:はい。 娘:私、 魔王:嘘は付けないんだろう? 娘:はい!  :   :  娘(M):その年の冬、魔王と勇者の戦いは終幕を迎えた。 娘(M):東の勇者一人欠けただけで、 娘(M):今世の人類は魔王に太刀打ちが出来なかったらしい。 娘(M):東の勇者は行方不明のまま、 娘(M):恐らく死んでしまったのだろうと噂され、 娘(M):やがて誰も語らなくなった。  :  魔王(M):全てが終わる少し前に、 魔王(M):小娘の願いを俺は叶えてやった。 魔王(M):勇者としての最期の言葉は、 娘:「次は魔族にしろって女神に直談判してきます!」 魔王(M):だったから、 魔王(M):死ぬ直前に言うセリフではないだろうとそう言えば、 魔王(M):相変わらずの目をしたまま消えていった。 魔王(M):小娘はその内帰ってくるだろう。 魔王(M):だってあいつは、 魔王(M):勇者は、 魔王(M):嘘が付けないのだから。  :