台本概要

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タイトル おやすみ魔王様、愛しています。
作者名 瀬川こゆ  (@hiina_segawa)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 敗北した魔王を参謀が看取る話です。

※終始どシリアスなので苦手な方は回れ右推奨。

非商用時は連絡不要ですが、投げ銭機能のある配信媒体等で記録が残る場合はご一報と、概要欄等にクレジット表記をお願いします。

過度なアドリブ、改変、無許可での男女表記のあるキャラの性別変更は御遠慮ください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
参謀 不問 82 魔王様の参謀の夢魔。
魔王 不問 81 勇者と戦う魔王軍のトップ。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:燃える魔王城が見える塔の上。 0:目を瞑り横たわる魔王と、魔王を膝枕している参謀。 参謀(M):パチパチと炎が燃える音がする。 参謀(M):城が、魔王様のお城が。 参謀(M):勇者の手に落ちたのを、 参謀(M):私は黙って見ていた。  :  参謀:…………魔王様。 魔王:なんだ? 参謀:負けちゃいましたね。 魔王:嗚呼。 参謀:どうしましょうか? 参謀:これから。 魔王:さぁな。  :  参謀(M):悔しくないと言ったら、 参謀(M):それは嘘になる。 参謀(M):積み上げた物が壊れてしまう瞬間は、 参謀(M):どれだけ見送っても慣れない。 参謀(M):魔王様は強大だけれど、 参謀(M):私はちっぽけな存在だ。 0:一拍。 参謀(M):これはそんなちっぽけな私の、 参謀(M):ただの些細な思い出だから。 参謀(M):少しだけ付き合って欲しい。  :  0:間 0:過去に遡る。 魔王:おい、そこの。 参謀:は、はい魔王様! 魔王:見慣れない顔だな。 魔王:新入りか? 参謀:はい! 魔王:種族は? 参謀:えっと、夢魔(むま)です。 参謀:夢魔。 魔王:夢魔?嗚呼、サキュバスか。 参謀:あーえっとサキュバスではなくて。 魔王:? 0:参謀、言いづらそうにだんだん声を小さくしながら。 参謀:あの、夢の中に、 参謀:入り込むだけの………悪魔の方です。 魔王:嗚呼。 参謀:あの、サキュバスではないので。 参謀:いや、似たような者ではあるんですけど! 参謀:あのその、なんて言うんですかね? 魔王:…………。 参謀:魅惑……とか魅了……とか。 参謀:そう言うのは、持ち合わせていなくて。 魔王:嗚呼。 参謀:あのほんとに、夢の中に入り込んで、 参謀:ちょちょっと悪夢を見せるよ!みたいな。 参謀:その……程度です……すみません。 魔王:そうか。 参謀:あの勇者パーティー相手には、 参謀:敵わないかもなんですけど!! 参謀:それでも、あの、役には、あの……。 魔王:嗚呼。 参謀:立てるようには……頑張りますので。 魔王:はぁ………そうか。 参謀:あの、最悪盾くらいには、 魔王:夢を弄るか。 魔王:ふむ、そうだな夢魔よりも、 魔王:ぬしはナイトメアの方が良さそうだな。 参謀:はぇ? 魔王:うん。 魔王:ぬしの種族はこれからナイトメアだ。 魔王:分かったな? 参謀:あ……はい! 参謀:はいかしこまりました! 魔王:うむ、して。 参謀:はい。 魔王:ぬしは夢が弄れるんだな? 参謀:あ、そうです! 参謀:夢の中でしたら、 参謀:なんでも出来ますよ! 魔王:夢の中では、か。 魔王:見たい夢を見せる事は? 参謀:出来ます! 参謀:楽しい事から残酷なものまで! 参謀:もしかして何か見たい夢があるんですか? 魔王:まぁ、な。 魔王:それほど切に欲求している訳ではないが、 魔王:見たいと言われれば、 魔王:確かに見たい夢がある。 参謀:よろしければ今日の夜からでも、 参謀:お見せしましょうか? 魔王:いや、いい。 魔王:いつかでいい。 魔王:いつか頼む。 参謀:あ………かしこまりました。  :  参謀(M):夢魔改め、ナイトメア。 参謀(M):私は他の魔族に比べて、 参謀(M):出来る事が突飛(とっぴ)出てない。 参謀(M):戦闘も不向きだから、 参謀(M):戦場に駆り出すことも出来ない。 参謀(M):強いナイトメアは、 参謀(M):夢から精神を壊す事も出来るんだけど、 参謀(M):残念ながら私はその領域にまで達していなかった。 参謀(M):そんな控えめに言っても役立たずの私が、 参謀(M):どうして無謀にも魔王様の軍に入ったのか。 参謀(M):それは。  :  0:間  :  0:魔王、演説風に。 魔王:ついに勇者が誕生した。 魔王:これから辛い戦いを、 魔王:ぬしらに強いる事になるだろう。 魔王:だがな、我はぬしらの為に、 魔王:魔王として、全力で! 魔王:勇者達に立ち向かうと約束しよう! 魔王:我、そしてぬしら、 魔王:魔族全ての世界を、 魔王:取り戻す事を約束しよう! 魔王:だからぬしらも我に、 魔王:全力で力を貸せ! 魔王:分かったな!  :  0:一拍。 参謀(M):勇者が世の中に誕生して、 参謀(M):すぐに魔王様が行った演説。 参謀(M):遥か高い所に居た魔王様は、 参謀(M):手を伸ばしても届かないくらい、 参謀(M):遠い場所に居たけれど、  :  参謀:………綺麗。  :  参謀(M):この世に、こんなにも、 参謀(M):美しい人が居たなんて。 参謀(M):私は知らなかった。 参謀(M):こんなにも気高く、 参謀(M):美しい存在が居たなんて、 参謀(M):私は……知らなかった。 参謀(M):あの時見た魔王様は、 参謀(M):この方の為に何か出来ないかと、 参謀(M):そう私を決意させるには充分なほどで。 参謀(M):それから私はすぐに、 参謀(M):魔王軍に志願したのだった。  :  0:間  :  0:少し間を空ける。 0:魔王城一室。 魔王:おい、ナイトメア。 参謀:はい魔王様。 魔王:勇者達は今どこに居る? 参謀:偵察に行った者からの報告ですと、 参謀:今はアルバンド王国、 参謀:国境付近に居るそうです。 魔王:近付いてきたな。 参謀:ですね。 参謀:宿が分かり次第、 参謀:妨害してきますね。 魔王:嗚呼、頼んだ。 参謀:はい。 魔王:無理はするなよ。 参謀:はい。 魔王:何よりも優先せねばならぬ事は? 参謀:己の命です。 魔王:分かっているならばいい。  :  参謀(M):勇者パーティーが少しでも、 参謀(M):この城に到達するのが遅れるように。 参謀(M):私達魔族は定期的に邪魔をしに行っていた。 参謀(M):本当は倒したかったけれど、 参謀(M):流石に、相手は伊達にも勇者。 参謀(M):いち魔族風情(ふぜい)は、 参謀(M):足止めするしか方法が無い。  :  魔王:ネクロマンサーが死んだか。 参謀:はい、最期は魔王様の為にと、 参謀:とても頑張っておりました。 魔王:そうか。 参謀:「魔王様の誇り高き野望が叶うその日まで、お供になれずにすみません」と。 魔王:……そうか。 魔王:何も謝るべき事など無いと言うのに。 魔王:……それを伝える事ももう出来ぬのか。 参謀:…………。 魔王:…………。 参謀:あの、 魔王:哀しいのう。 魔王:いつも別れは哀しい。 参謀:魔王様? 魔王:何故我は魔王であって。 魔王:ぬしらは魔族なのだろうな。 参謀:さぁ? 参謀:でもこの世の中は、 参謀:そう言う風にしか機能出来ませんから。 魔王:後悔したことはないか? 参謀:何をですか? 魔王:我の下(もと)に付いた事を。 参謀:ちっともありません。 参謀:それどころか私は、 参謀:ただの一人に過ぎなかったのに。 参謀:こうやって参謀として、 参謀:魔王様の傍に置いていただけるなんて。 参謀:夢のようですよ、ずっと。 魔王:夢はぬしの専売特許であろう? 参謀:そうでした。 参謀:私はナイトメアでした。 魔王:おかしな奴よの、ぬしは。 参謀:そうですか?  :  参謀(M):あなたの為なら、 参謀(M):この身体を失ってもいい。 参謀(M):何も見えなくなってもいい。 参謀(M):盾になって、死んでもいい。 参謀(M):なんでも出来る、なんだって。 参謀(M):でもきっと魔王様は。 参謀(M):優しい優しい私の魔王様は。 参謀(M):そんな事は望まないのだろう。 参謀(M):だから私は一日一日を、 参謀(M):なるべく長くこの方の傍で、 参謀(M):息をしようと決めていたのだ。  :  0:間  :  0:少し間を開ける。 0:場面が冒頭に戻る。 0:魔王を膝枕して燃える魔王城を眺める参謀。 0:参謀、なるべく明るく。 魔王:…………おい。 参謀:はい、魔王様。 魔王:魔族は………皆はどうなった? 参謀:まだ、戦っていますね。 参謀:やっぱり魔王様も、 参謀:もう少しだけ頑張んないとですかね。 魔王:……そうだな。  :  参謀(M):嘘。 参謀(M):本当はもう、魔族は残っていない。 参謀(M):勇者達は日に日に力を付けて、 参謀(M):遂に魔王様は敗北してしまった。 参謀(M):私に出来たのは、 参謀(M):とどめを刺される前に、 参謀(M):魔王様を連れて逃げる事だけ。  :  参謀:今回は負けちゃいましたけど、 参謀:でも、まだ、みんな居ますから。 参謀:だから、魔王様が少しお休みになったら、 参謀:もっといい策を考えましょう。 魔王:………嗚呼。 魔王:………ぬしの膝は、暖かいの。 参謀:そうですか? 参謀:それなら良かったです。  :  参謀(M):遠くまでは逃げられなかった。 参謀(M):正確には、 参謀(M):遠くまで逃げる気はなかった。 参謀(M):魔王様は、たぶんもう駄目で。 参謀(M):きっと私の知る魔王様なら、 参謀(M):最期はずっと守り続けた、 参謀(M):お城の近くを望むだろうから。  :  参謀:魔王様、熱くないですか? 魔王:嗚呼。 参謀:ちょっとお城燃えちゃってまして。 魔王:そうか。 参謀:片付け、大変そうですね。 魔王:そうだな。 魔王:皆に手伝ってもらわねばならんの。 参謀:そうですねぇ。 参謀:でもみんなでやればすぐ終わりますよ。 魔王:嗚呼。 魔王:ぬしらには苦労をかけるな。 魔王:特に…………お前には。 参謀:そんなことないですよ? 参謀:私はやりたくてやってるんですから。 参謀:みんなもそうです。 参謀:みんな魔王様が大好きなんですよ 魔王:名誉な事だ。 参謀:はい。 魔王:なあ。 参謀:はい。 魔王:我は魔王として、 魔王:ぬしらの主君として。 魔王:……ぬしの目から見て、 魔王:どうであったか? 参謀:それはもう、 参謀:素晴らしい魔王様ですよあなた様は。 参謀:きっとあなた様以上に、 参謀:素晴らしい魔王は、 参謀:歴史を遡っても、未来でも。 参謀:二度と現れる事は無いでしょう。 魔王:そうか………そうか。 参謀:どうしました? 参謀:魔王様らしくないですよ? 魔王:すまんな。 参謀:どうして謝るんですか? 参謀:何かを悪いと思うのなら、 参謀:なるべく早く回復してくださいな。 魔王:嗚呼、分かった。 魔王:勇者達はどうなった? 参謀:さぁ? 参謀:でもたぶんもう居ないです。 参謀:予想外に火の手が回っちゃってまして。 魔王:そうか。 参謀:だから私、 参謀:もう少ししたら火を消してきますので、 参謀:その時は魔王様から少しだけ離れますね? 魔王:嗚呼。 参謀:寂しがらないでくださいよ? 魔王:少しはいいだろうか? 参謀:あら、珍しい。 参謀:…………。 魔王:…………。 参謀:ねぇ、魔王様。 魔王:なんだ? 参謀:楽しかったですね。 参謀:なんだかんだ。 魔王:そうだな。 魔王:我は魔王だから、 魔王:こう言ってしまうのは、 魔王:許されないのかもしれぬが。 魔王:楽しかった……実に楽しかったのう。 参謀:はい。 魔王:………。 参謀:ねぇ魔王様。 魔王:なんだ? 参謀:私はいつ、 参謀:魔王様に夢を見せればいいのでしょうか? 魔王:嗚呼………その内な。 参謀:そうですか。 魔王:…………。 参謀:ねぇ………魔王様。 魔王:……………なんだ? 参謀:幸せでした。 参謀:あなたの傍に居られて。 魔王:我もぬしが居てくれて、 魔王:助かっておった。 参謀:本当ですか? 魔王:嗚呼、よくやった。 魔王:ぬしは本当によくやってくれた。 魔王:我の隣にぬしを選んで良かった。 参謀:有り難きお言葉です。 魔王:…………。 参謀:ねぇ…………………魔王様。 魔王:今度はなんだ? 参謀:眠いですか? 魔王:嗚呼。 参謀:寝てもいいんですよ? 参謀:魔王様が寝てる間を守るくらいなら、 参謀:私にも出来ますから。 参謀:安心してください。 魔王:そうか。 魔王:ならそうだな……。 魔王:その言葉に甘えるとするか。 参謀:はい。 魔王:…………。 参謀:…………。 魔王:…………。 参謀:ねぇ、 参謀:………………………魔王様? 魔王:…………………。 参謀:……………。 参謀:(小さく息を吐く)  :  0:間  :  0:少し間を空ける。 0:夢の中。 魔王:おい、ナイトメア。 参謀:なんですか?魔王様。 魔王:我はこの世界が愛おしい。 魔王:ぬしや魔族達が居るこの世界が。 参謀:そうですか。 魔王:このような形(なり)で、 魔王:言う事ではないだろうか? 参謀:何を言っているのですか? 魔王:? 参謀:ご自分の姿を見てくださいよ。 参謀:どこがこのような形(なり)なんですか? 魔王:あ、嗚呼……そうだな。 参謀:そうですよ。 参謀:ほらみんな待ってますから。 参謀:今日はお祭りの日ですよ? 参謀:まさか忘れたんですか? 魔王:いいや。 魔王:…………ナイトメア。 参謀:なんですか?魔王様。 魔王:有難う。 参謀:はい。 魔王:さて、行くか。 参謀:はい、魔王様!  :  0:間  :  0:少し間を空ける。 0:現実に戻る。 参謀:おやすみなさい、魔王様。 参謀:………愛しています。  :  参謀(M):火の手は私と魔王様を囲む。 参謀(M):逃げ場はもう無いし、 参謀(M):逃げる事も出来ない。 参謀(M):私の魔王様のお城が、 参謀(M):音を立てて崩れ落ちても、 参謀(M):その音に反応して魔王様が、 参謀(M):目を開ける事はなかった。

0:燃える魔王城が見える塔の上。 0:目を瞑り横たわる魔王と、魔王を膝枕している参謀。 参謀(M):パチパチと炎が燃える音がする。 参謀(M):城が、魔王様のお城が。 参謀(M):勇者の手に落ちたのを、 参謀(M):私は黙って見ていた。  :  参謀:…………魔王様。 魔王:なんだ? 参謀:負けちゃいましたね。 魔王:嗚呼。 参謀:どうしましょうか? 参謀:これから。 魔王:さぁな。  :  参謀(M):悔しくないと言ったら、 参謀(M):それは嘘になる。 参謀(M):積み上げた物が壊れてしまう瞬間は、 参謀(M):どれだけ見送っても慣れない。 参謀(M):魔王様は強大だけれど、 参謀(M):私はちっぽけな存在だ。 0:一拍。 参謀(M):これはそんなちっぽけな私の、 参謀(M):ただの些細な思い出だから。 参謀(M):少しだけ付き合って欲しい。  :  0:間 0:過去に遡る。 魔王:おい、そこの。 参謀:は、はい魔王様! 魔王:見慣れない顔だな。 魔王:新入りか? 参謀:はい! 魔王:種族は? 参謀:えっと、夢魔(むま)です。 参謀:夢魔。 魔王:夢魔?嗚呼、サキュバスか。 参謀:あーえっとサキュバスではなくて。 魔王:? 0:参謀、言いづらそうにだんだん声を小さくしながら。 参謀:あの、夢の中に、 参謀:入り込むだけの………悪魔の方です。 魔王:嗚呼。 参謀:あの、サキュバスではないので。 参謀:いや、似たような者ではあるんですけど! 参謀:あのその、なんて言うんですかね? 魔王:…………。 参謀:魅惑……とか魅了……とか。 参謀:そう言うのは、持ち合わせていなくて。 魔王:嗚呼。 参謀:あのほんとに、夢の中に入り込んで、 参謀:ちょちょっと悪夢を見せるよ!みたいな。 参謀:その……程度です……すみません。 魔王:そうか。 参謀:あの勇者パーティー相手には、 参謀:敵わないかもなんですけど!! 参謀:それでも、あの、役には、あの……。 魔王:嗚呼。 参謀:立てるようには……頑張りますので。 魔王:はぁ………そうか。 参謀:あの、最悪盾くらいには、 魔王:夢を弄るか。 魔王:ふむ、そうだな夢魔よりも、 魔王:ぬしはナイトメアの方が良さそうだな。 参謀:はぇ? 魔王:うん。 魔王:ぬしの種族はこれからナイトメアだ。 魔王:分かったな? 参謀:あ……はい! 参謀:はいかしこまりました! 魔王:うむ、して。 参謀:はい。 魔王:ぬしは夢が弄れるんだな? 参謀:あ、そうです! 参謀:夢の中でしたら、 参謀:なんでも出来ますよ! 魔王:夢の中では、か。 魔王:見たい夢を見せる事は? 参謀:出来ます! 参謀:楽しい事から残酷なものまで! 参謀:もしかして何か見たい夢があるんですか? 魔王:まぁ、な。 魔王:それほど切に欲求している訳ではないが、 魔王:見たいと言われれば、 魔王:確かに見たい夢がある。 参謀:よろしければ今日の夜からでも、 参謀:お見せしましょうか? 魔王:いや、いい。 魔王:いつかでいい。 魔王:いつか頼む。 参謀:あ………かしこまりました。  :  参謀(M):夢魔改め、ナイトメア。 参謀(M):私は他の魔族に比べて、 参謀(M):出来る事が突飛(とっぴ)出てない。 参謀(M):戦闘も不向きだから、 参謀(M):戦場に駆り出すことも出来ない。 参謀(M):強いナイトメアは、 参謀(M):夢から精神を壊す事も出来るんだけど、 参謀(M):残念ながら私はその領域にまで達していなかった。 参謀(M):そんな控えめに言っても役立たずの私が、 参謀(M):どうして無謀にも魔王様の軍に入ったのか。 参謀(M):それは。  :  0:間  :  0:魔王、演説風に。 魔王:ついに勇者が誕生した。 魔王:これから辛い戦いを、 魔王:ぬしらに強いる事になるだろう。 魔王:だがな、我はぬしらの為に、 魔王:魔王として、全力で! 魔王:勇者達に立ち向かうと約束しよう! 魔王:我、そしてぬしら、 魔王:魔族全ての世界を、 魔王:取り戻す事を約束しよう! 魔王:だからぬしらも我に、 魔王:全力で力を貸せ! 魔王:分かったな!  :  0:一拍。 参謀(M):勇者が世の中に誕生して、 参謀(M):すぐに魔王様が行った演説。 参謀(M):遥か高い所に居た魔王様は、 参謀(M):手を伸ばしても届かないくらい、 参謀(M):遠い場所に居たけれど、  :  参謀:………綺麗。  :  参謀(M):この世に、こんなにも、 参謀(M):美しい人が居たなんて。 参謀(M):私は知らなかった。 参謀(M):こんなにも気高く、 参謀(M):美しい存在が居たなんて、 参謀(M):私は……知らなかった。 参謀(M):あの時見た魔王様は、 参謀(M):この方の為に何か出来ないかと、 参謀(M):そう私を決意させるには充分なほどで。 参謀(M):それから私はすぐに、 参謀(M):魔王軍に志願したのだった。  :  0:間  :  0:少し間を空ける。 0:魔王城一室。 魔王:おい、ナイトメア。 参謀:はい魔王様。 魔王:勇者達は今どこに居る? 参謀:偵察に行った者からの報告ですと、 参謀:今はアルバンド王国、 参謀:国境付近に居るそうです。 魔王:近付いてきたな。 参謀:ですね。 参謀:宿が分かり次第、 参謀:妨害してきますね。 魔王:嗚呼、頼んだ。 参謀:はい。 魔王:無理はするなよ。 参謀:はい。 魔王:何よりも優先せねばならぬ事は? 参謀:己の命です。 魔王:分かっているならばいい。  :  参謀(M):勇者パーティーが少しでも、 参謀(M):この城に到達するのが遅れるように。 参謀(M):私達魔族は定期的に邪魔をしに行っていた。 参謀(M):本当は倒したかったけれど、 参謀(M):流石に、相手は伊達にも勇者。 参謀(M):いち魔族風情(ふぜい)は、 参謀(M):足止めするしか方法が無い。  :  魔王:ネクロマンサーが死んだか。 参謀:はい、最期は魔王様の為にと、 参謀:とても頑張っておりました。 魔王:そうか。 参謀:「魔王様の誇り高き野望が叶うその日まで、お供になれずにすみません」と。 魔王:……そうか。 魔王:何も謝るべき事など無いと言うのに。 魔王:……それを伝える事ももう出来ぬのか。 参謀:…………。 魔王:…………。 参謀:あの、 魔王:哀しいのう。 魔王:いつも別れは哀しい。 参謀:魔王様? 魔王:何故我は魔王であって。 魔王:ぬしらは魔族なのだろうな。 参謀:さぁ? 参謀:でもこの世の中は、 参謀:そう言う風にしか機能出来ませんから。 魔王:後悔したことはないか? 参謀:何をですか? 魔王:我の下(もと)に付いた事を。 参謀:ちっともありません。 参謀:それどころか私は、 参謀:ただの一人に過ぎなかったのに。 参謀:こうやって参謀として、 参謀:魔王様の傍に置いていただけるなんて。 参謀:夢のようですよ、ずっと。 魔王:夢はぬしの専売特許であろう? 参謀:そうでした。 参謀:私はナイトメアでした。 魔王:おかしな奴よの、ぬしは。 参謀:そうですか?  :  参謀(M):あなたの為なら、 参謀(M):この身体を失ってもいい。 参謀(M):何も見えなくなってもいい。 参謀(M):盾になって、死んでもいい。 参謀(M):なんでも出来る、なんだって。 参謀(M):でもきっと魔王様は。 参謀(M):優しい優しい私の魔王様は。 参謀(M):そんな事は望まないのだろう。 参謀(M):だから私は一日一日を、 参謀(M):なるべく長くこの方の傍で、 参謀(M):息をしようと決めていたのだ。  :  0:間  :  0:少し間を開ける。 0:場面が冒頭に戻る。 0:魔王を膝枕して燃える魔王城を眺める参謀。 0:参謀、なるべく明るく。 魔王:…………おい。 参謀:はい、魔王様。 魔王:魔族は………皆はどうなった? 参謀:まだ、戦っていますね。 参謀:やっぱり魔王様も、 参謀:もう少しだけ頑張んないとですかね。 魔王:……そうだな。  :  参謀(M):嘘。 参謀(M):本当はもう、魔族は残っていない。 参謀(M):勇者達は日に日に力を付けて、 参謀(M):遂に魔王様は敗北してしまった。 参謀(M):私に出来たのは、 参謀(M):とどめを刺される前に、 参謀(M):魔王様を連れて逃げる事だけ。  :  参謀:今回は負けちゃいましたけど、 参謀:でも、まだ、みんな居ますから。 参謀:だから、魔王様が少しお休みになったら、 参謀:もっといい策を考えましょう。 魔王:………嗚呼。 魔王:………ぬしの膝は、暖かいの。 参謀:そうですか? 参謀:それなら良かったです。  :  参謀(M):遠くまでは逃げられなかった。 参謀(M):正確には、 参謀(M):遠くまで逃げる気はなかった。 参謀(M):魔王様は、たぶんもう駄目で。 参謀(M):きっと私の知る魔王様なら、 参謀(M):最期はずっと守り続けた、 参謀(M):お城の近くを望むだろうから。  :  参謀:魔王様、熱くないですか? 魔王:嗚呼。 参謀:ちょっとお城燃えちゃってまして。 魔王:そうか。 参謀:片付け、大変そうですね。 魔王:そうだな。 魔王:皆に手伝ってもらわねばならんの。 参謀:そうですねぇ。 参謀:でもみんなでやればすぐ終わりますよ。 魔王:嗚呼。 魔王:ぬしらには苦労をかけるな。 魔王:特に…………お前には。 参謀:そんなことないですよ? 参謀:私はやりたくてやってるんですから。 参謀:みんなもそうです。 参謀:みんな魔王様が大好きなんですよ 魔王:名誉な事だ。 参謀:はい。 魔王:なあ。 参謀:はい。 魔王:我は魔王として、 魔王:ぬしらの主君として。 魔王:……ぬしの目から見て、 魔王:どうであったか? 参謀:それはもう、 参謀:素晴らしい魔王様ですよあなた様は。 参謀:きっとあなた様以上に、 参謀:素晴らしい魔王は、 参謀:歴史を遡っても、未来でも。 参謀:二度と現れる事は無いでしょう。 魔王:そうか………そうか。 参謀:どうしました? 参謀:魔王様らしくないですよ? 魔王:すまんな。 参謀:どうして謝るんですか? 参謀:何かを悪いと思うのなら、 参謀:なるべく早く回復してくださいな。 魔王:嗚呼、分かった。 魔王:勇者達はどうなった? 参謀:さぁ? 参謀:でもたぶんもう居ないです。 参謀:予想外に火の手が回っちゃってまして。 魔王:そうか。 参謀:だから私、 参謀:もう少ししたら火を消してきますので、 参謀:その時は魔王様から少しだけ離れますね? 魔王:嗚呼。 参謀:寂しがらないでくださいよ? 魔王:少しはいいだろうか? 参謀:あら、珍しい。 参謀:…………。 魔王:…………。 参謀:ねぇ、魔王様。 魔王:なんだ? 参謀:楽しかったですね。 参謀:なんだかんだ。 魔王:そうだな。 魔王:我は魔王だから、 魔王:こう言ってしまうのは、 魔王:許されないのかもしれぬが。 魔王:楽しかった……実に楽しかったのう。 参謀:はい。 魔王:………。 参謀:ねぇ魔王様。 魔王:なんだ? 参謀:私はいつ、 参謀:魔王様に夢を見せればいいのでしょうか? 魔王:嗚呼………その内な。 参謀:そうですか。 魔王:…………。 参謀:ねぇ………魔王様。 魔王:……………なんだ? 参謀:幸せでした。 参謀:あなたの傍に居られて。 魔王:我もぬしが居てくれて、 魔王:助かっておった。 参謀:本当ですか? 魔王:嗚呼、よくやった。 魔王:ぬしは本当によくやってくれた。 魔王:我の隣にぬしを選んで良かった。 参謀:有り難きお言葉です。 魔王:…………。 参謀:ねぇ…………………魔王様。 魔王:今度はなんだ? 参謀:眠いですか? 魔王:嗚呼。 参謀:寝てもいいんですよ? 参謀:魔王様が寝てる間を守るくらいなら、 参謀:私にも出来ますから。 参謀:安心してください。 魔王:そうか。 魔王:ならそうだな……。 魔王:その言葉に甘えるとするか。 参謀:はい。 魔王:…………。 参謀:…………。 魔王:…………。 参謀:ねぇ、 参謀:………………………魔王様? 魔王:…………………。 参謀:……………。 参謀:(小さく息を吐く)  :  0:間  :  0:少し間を空ける。 0:夢の中。 魔王:おい、ナイトメア。 参謀:なんですか?魔王様。 魔王:我はこの世界が愛おしい。 魔王:ぬしや魔族達が居るこの世界が。 参謀:そうですか。 魔王:このような形(なり)で、 魔王:言う事ではないだろうか? 参謀:何を言っているのですか? 魔王:? 参謀:ご自分の姿を見てくださいよ。 参謀:どこがこのような形(なり)なんですか? 魔王:あ、嗚呼……そうだな。 参謀:そうですよ。 参謀:ほらみんな待ってますから。 参謀:今日はお祭りの日ですよ? 参謀:まさか忘れたんですか? 魔王:いいや。 魔王:…………ナイトメア。 参謀:なんですか?魔王様。 魔王:有難う。 参謀:はい。 魔王:さて、行くか。 参謀:はい、魔王様!  :  0:間  :  0:少し間を空ける。 0:現実に戻る。 参謀:おやすみなさい、魔王様。 参謀:………愛しています。  :  参謀(M):火の手は私と魔王様を囲む。 参謀(M):逃げ場はもう無いし、 参謀(M):逃げる事も出来ない。 参謀(M):私の魔王様のお城が、 参謀(M):音を立てて崩れ落ちても、 参謀(M):その音に反応して魔王様が、 参謀(M):目を開ける事はなかった。