台本概要

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タイトル さよなら、大嫌いな英雄様。
作者名 瀬川こゆ  (@hiina_segawa)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 魔王との戦いを得て英雄となった勇者とその英雄の世話役になった少女の話です。

※終始どシリアスなので苦手な方は回れ右推奨。

非商用時は連絡不要ですが、投げ銭機能のある配信媒体等で記録が残る場合はご一報と、概要欄等にクレジット表記をお願いします。

過度なアドリブ、改変、無許可での男女表記のあるキャラの性別変更は御遠慮ください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
少女 94 勇者基英雄の世話役の少女。
英雄 93 かつて魔王を討ち英雄と呼ばれるようになった勇者。※叫び有
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
少女(M):むかしむかし、恐ろしい魔王が世界に復活しました。 少女(M):魔王が復活したのを皮切りに、 少女(M):世界各地に魔物が蔓延(はびこ)るようになりました。 少女(M):困り果てた最も大きな国の王様は、 少女(M):国の端から端まで伝令を飛ばし、 少女(M):【勇者】足る資格を持った者を募ったのです。 少女(M):選ばれたのは、 少女(M):辺境の地に住んでいた一人の青年でした。 少女(M):青年は勇者となり、 少女(M):様々な苦しい戦いを乗り越え、 少女(M):遂に悲願の魔王討伐を果たしました。 少女(M):魔王城は燃え、跡形もなく無くなり、 少女(M):世界に再び平和が訪れた事から、 少女(M):国民は勇者の事を、敬意を持って、 少女(M):【英雄様】と呼びました。  :  0:一拍空ける。 英雄(M):毎日、あの人を夢に見る。 英雄(M):魔王にとどめを刺す前に、 英雄(M):逃げたあの人を追っているところから始まる。 英雄(M):仲間の一人が城に付けた火が燃え広がり、 英雄(M):あの人は炎に囲まれて、 英雄(M):少し離れた塔の上で座っていた。 英雄(M):魔族なのに、 英雄(M):「少しだけ時間を下さい」 英雄(M):そう懇願(こんがん)してきて。 英雄(M):あの人の膝の上に横たわった魔王は、 英雄(M):あの人と何か数回会話をしてから、 英雄(M):やがてゆっくりと眠りに落ちた。 英雄(M):魔王がやった事は罪深い。 英雄(M):魔王のせいで、 英雄(M):世界中が混乱に陥った。 英雄(M):だから魔王の配下も1人残らず、 英雄(M):全て殺さなくてはいけない。 英雄(M):それが例え、あの人であってもだ。 英雄(M):聖剣と呼ばれる、 英雄(M):この世で唯一魔を祓(はら)える剣を振り下ろす。 英雄(M):あの人は、ただの一度も、 英雄(M):こちらを見やしなかった。  :  0:間。 少女:勇者様……勇者様。 英雄:ん………。 少女:お目覚めですか? 英雄:ここは? 少女:寝ぼけているんですか? 少女:ここは都市の宿屋です。 英雄:嗚呼……そうだった。 少女:早く起きて、 少女:外に出た方がいいんじゃないですか? 英雄:何故? 少女:だって勇者様は、 少女:あの魔王を倒した英雄様ですから。 少女:きっと街の人達は貴方にひと目会いたいと、 少女:そう望んでいるはずです。 英雄:はぁ………そうだった。 英雄:魔王を討伐したら、 英雄:少しはゆっくり出来ると思ったんだけどな。 少女:街の人と交流しなくても、 少女:まだ魔物も魔族も残ってるんですよ? 英雄:それは魔道士達が討伐に向かっているさ。 少女:…………そうですね。 英雄:はぁ……着替えるか。 少女:はい。  :  0:一拍。 英雄(M):彼女に出会ったのは、 英雄(M):魔王を討伐してからしばらく経った頃だった。 英雄(M):配下では無くとも、 英雄(M):まだこの世に魔族の残党は残っていて、 英雄(M):その残党狩りをする勇者の世話役として、 英雄(M):国から派遣された、と。 英雄(M):そう彼女は言っていた。  :  英雄:世話役なんていらない。 少女:そうですか。 英雄:分かったなら帰ってくれ。 少女:それが出来ないんですよ。 英雄:は? 少女:一介の平民風情が、 少女:国からの命令に逆らえると思います? 英雄:断られたと言えば、 少女:馬鹿正直にそう言った暁(あかつき)には、 少女:お前の力不足のせいだと罰せられます。 英雄:………。 少女:勇者様。 英雄:なんだ? 少女:人間は恐ろしいんですよ。 英雄:嗚呼、よく知っている。 少女:ご理解頂けたのなら、 少女:どうぞこの私めをお傍にお置きください。 英雄:………分かった。  :  0:一拍。 英雄(M):権力、地位、名誉。 英雄(M):そんな物で人は人を簡単に裏切る。 英雄(M):この国から奴隷と言う文化が、 英雄(M):未だに消えないのも、そのせいだ。 英雄(M):俺は彼女の名前を知らない。 英雄(M):彼女も俺を「勇者」としか呼ばない。  :  少女:なんで争わないといけないんですかね? 英雄:突然どうした? 少女:理由なんてないです。 少女:ただ、どうして争わないといけなかったのか。 少女:それが少し気になって。 英雄:さあ……? 少女:魔王がいなくなったら今度は、 少女:魔物の残党狩りです。 少女:今はまだ、 少女:それで人間は手を取り合ってるかもしれないけれど。 英雄:嗚呼。 少女:その残党もいなくなったらどうなるか、 少女:分かりますか? 英雄:………人間同士が争いを始める。 少女:……………そうです。 英雄:戦う理由はその都度違うから、 英雄:なんとも言えないんだが。 少女:では勇者様は、 少女:理由があれば人間にも剣を振るうのですか? 英雄:それは……。 少女:戦争が起きたら絶対に、 少女:貴方はまた戦場に送り出されますよ。 少女:だって、英雄様ですから。 英雄:……………そうだな。 少女:こんな話を知っていますか? 英雄:なんだ? 少女:ある所に、二人の兄妹が居ました。 少女:名前をヘンゼルとグレーテル。 英雄:嗚呼。 少女:ヘンゼルとグレーテルの家は貧しく、 少女:ある日遂に両親は、 少女:二人を真夜中の森に置いていってしまいます。 英雄:…………。 少女:「兄さん、寒いわ」 少女:「安心して、グレーテル」 少女:「兄さんが光る小石を落としてきたから、それを辿れば家に帰れるよ」 少女:そうして二人は小石を追って、 少女:我が家に帰る事が出来ました。 少女:ですが、 英雄:その数日後。 英雄:二人はまた森に連れて行かれました。 少女:…………。 英雄:今度は光る小石を用意できなかったヘンゼルは、 英雄:小石の代わりにパンの欠片を、 英雄:目印として落としていきました。 少女:…………ですが悪戯な小鳥が、 少女:そのパンの欠片を啄(ついば)み、 少女:全て、食べてしまったのでした。 少女:困り果てたヘンゼルとグレーテル。 少女:「兄さん、お家に帰りたいわ」 英雄:「グレーテル、向こうの方に明かりが見える。行ってみようか?」 少女:「分かったわ兄さん」 英雄:…………その後お菓子の家を見付けて、 英雄:そこに住む魔女を倒して。 英雄:宝物を持ち帰って、 英雄:めでたしめでたし、だろ? 少女:えぇ、そうです。 英雄:有名な童話だな。 少女:私は思うんですよ。 英雄:何を? 少女:ヘンゼルは本当は、 少女:グレーテルが邪魔だったんじゃないかなって。 英雄:邪魔? 少女:お話の中でも、 少女:グレーテルは事ある毎に、 少女:「兄さん、兄さん、兄さん、兄さん」って。 英雄:グレーテルはまだ幼いから仕方ないだろう。 少女:でもそれじゃあヘンゼルだって、 少女:グレーテルとそれほど歳は変わりませんよ。 少女:それなのに兄の役目として、 少女:泣く事も許されないんです。 英雄:だが魔女を倒したのはグレーテルだ。 英雄:魔女の隙を狙ってかまどに突き落とした。 少女:それだって、自分が檻(おり)に囚われてる間に、 少女:自分を頼りきっていた、 少女:愚かで愛しい妹が手柄を成してしまった。 少女:兄としては、面白くないと思うんですよ。 英雄:そうなのか? 少女:兄妹なんてそう言うものですよ。 少女:そうでなくちゃダメなんです。 少女:……………そうでなくちゃ。 英雄:? 少女:さぁ、帰りましょうか。 少女:勇者様。 英雄:あ、嗚呼。  :  0:一拍。 英雄(M):彼女は時々どこか悲しい目をする。 英雄(M):遠くを見て、物思いに耽(ふけ)るような。 英雄(M):そんな表情を時より見せる。 英雄(M):だから俺は彼女に聞いてみたんだ。 英雄(M):彼女に関する情報を。  :  少女:生まれですか? 英雄:嗚呼。 少女:生まれは…………。 少女:ここより少し離れた小さい村です。 英雄:村?って言うと、デルトかシュノールか? 少女:いえ、もっと先です。 少女:勇者様が知らないくらい、 少女:小さくて貧しい村です。 英雄:家族は? 少女:っっ………家族ですか。 少女:家族は両親と……それから下に一人。 英雄:弟か? 少女:…………いいえ、妹です。 少女:どっちでもいいじゃないですか。 少女:そんな事。 英雄:そうか。 英雄:ご両親は何をしていたんだ? 少女:ただの農民です。 英雄:農民か。 英雄:うちと一緒だな。 少女:勇者様は、 英雄:? 少女:元々辺境の地に住んでいたんですよね? 英雄:嗚呼、そうだ。 少女:どこで剣を習ったんですか? 英雄:ん?嗚呼、そうだよな。 少女:? 英雄:父が元々騎士でな。 少女:嗚呼、だからですか。 英雄:それはもう厳しい人で、 英雄:とっくに騎士としての称号なんて剥奪されてるのに、 英雄:自分の息子に期待をしててな。 少女:騎士から農民って言うと、 少女:お父様は何か罰を受けるような事をしたんですか? 英雄:まぁ、昔にな。 英雄:それについては、 英雄:あまり深くは聞かないでくれ。 少女:分かりました。 英雄:まぁとにかく、 英雄:過剰に期待を押し付けられた息子は、 英雄:今や期待通りの英雄様となったんだ。 英雄:父も流石にもう文句は言ってこないだろう。 少女:…………。 英雄:…………。 少女:何かやりたかった事があったんですか? 英雄:ん? 少女:勇者以外に。 英雄:まぁ、あったと言えばあったけど。 英雄:勇者に選定(せんてい)されたから、 英雄:仕方ないさ。 少女:今からでも出来るんじゃないですか? 英雄:今から?無理だろうな。 少女:どうして? 英雄:「英雄」になったからさ。 英雄:どこに行っても、 英雄:俺から「英雄」の称号は外れない。 少女:でも勇者様は、 少女:国王からの爵位も領地も、 少女:褒美は全て断ったって聞いてます。 英雄:褒美を貰えるほど、 英雄:褒められるような事はしてないからな。 少女:魔王を倒したのに? 英雄:それだって、 英雄:本当に正しかったのか分からない。 少女:? 英雄:倒してから思うんだ。 英雄:本当に魔王や魔族達は、 英雄:倒さなければいけない者だったのか? 英雄:俺達人間が過敏になり過ぎてるだけで、 英雄:何もしなければ、 英雄:お互いに平和的な解決方法があったんじゃないか?って。 少女:夢物語ですね。 英雄:そうだろう?俺もそう思うよ。 英雄:あの人に出会わなければ、 英雄:こんな考えなんか引きずらなかったんだが。 少女:あの人? 英雄:魔王の参謀。 少女:参謀? 英雄:見た目は普通の人間みたいだった。 少女:はい。 英雄:だけど参謀って言ってたから、 英雄:たぶん魔王軍の作戦の大半は、 英雄:あの人が考えていたんだろう。 少女:主に作戦を考えるのが、 少女:参謀の役割ですからね。 英雄:嗚呼。 英雄:頭のいい人だったよ。 英雄:その証拠に俺達パーティーは、 英雄:何度も窮地(きゅうち)に立たされた。 少女:話した事はあったんですか? 英雄:参謀と?無いさ。 英雄:いつも出会うのは戦場だったし、 英雄:そもそもあの人は表舞台にはなかなか出てこなかった。 少女:………その人の種族は? 英雄:さあ?なんだったんだろうな。 少女:………そうですか。  :  0:間。 英雄(M):毎日、あの人を夢に見る。 英雄(M):魔王にとどめを刺す前に、 英雄(M):逃げたあの人を追っているところから始まる。 英雄(M):仲間の一人が城に付けた火が燃え広がり、 英雄(M):あの人は炎に囲まれて、 英雄(M):少し離れた塔の上で座っていた。 英雄(M):魔族なのに、 英雄(M):「少しだけ時間を下さい」 英雄(M):そう懇願(こんがん)してきて。 英雄(M):あの人の膝の上に横たわった魔王は、 英雄(M):あの人と何か数回会話をしてから、 英雄(M):やがてゆっくりと眠りに落ちた。 英雄(M):魔王がやった事は罪深い。 英雄(M):魔王のせいで、 英雄(M):世界中が混乱に陥った。 英雄(M):だから魔王の配下も1人残らず、 英雄(M):全て殺さなくてはいけない。 英雄(M):それが例え、あの人であってもだ。 英雄(M):聖剣と呼ばれる、 英雄(M):この世で唯一魔を祓(はら)える剣を振り下ろす。 英雄(M):あの人は、ただの一度も、 英雄(M):こちらを見やしなかった。  :  0:一拍。 少女(M):魔族の残党もほとんど倒された。 少女(M):どんなに姿形が似ていても、 少女(M):所詮、魔族は魔族。 少女(M):身の内から出る魔の気配を、 少女(M):誤魔化せるはずも無かったのに。 少女(M):人間として生きようと、 少女(M):そう模索した魔族は大勢居たけれど、 少女(M):そのどれもが失敗に終わった。 0:一拍。 少女(M):"私"は、どこで間違えてしまったのだろうか?  :  0:一拍。 0:燃え落ちた城が見渡せる塔の上。 英雄:そんな所で何をしている。 少女:遅かったですね。 英雄:下の奴らに苦戦してな。 少女:まさか配下の生き残りが団結して、 少女:魔王の敵討ちをするとは思っていませんでしたか? 英雄:いいや、思っていたさ。 英雄:人間には受け入れられなくとも、 英雄:魔族達には良き王だったんだろう? 少女:さぁ?私は知りません。 英雄:どうして? 少女:魔王軍に入った事もなければ、 少女:魔王様を見た事もないので。 英雄:それなら何故敵討ちを計画したんだ? 英雄:わざわざ勇者の傍についてまで。 少女:私はこの間一つ、 少女:勇者様に嘘をつきました。 英雄:嘘? 少女:私の家族は両親と、 少女:それから"上に"一人です。 少女:妹は、私の方です。 英雄:嗚呼。 少女:私はグレーテルなんですよ、勇者様。 英雄:…………。 少女:いつも背中を追いかけてばかりでした。 少女:それが当然のように。 少女:あの人が自分より少し上なだけで、 少女:私はすっかり甘えきって。 英雄:……。 少女:だから魔王軍に行ってしまった時も、 少女:泣きじゃくって否定するばかりで。 少女:私はあの人の為に動いた事なんて無いんです。 少女:一度も。 英雄:さしずめ魔女は俺か? 少女:さぁ?勇者様かもしれませんし、 少女:私かもしれません。 英雄:そうか。 少女:私が呑気に過ごしている間に、 少女:あの人は殺されました。 少女:……貴方に。 英雄:………参謀か。 少女:はい。 少女:種族は夢魔です。 少女:悪夢を見させるだけの悪魔です。 英雄:悪夢………と言う事は。 少女:勇者様が毎日悩んでいた悪夢は、 少女:私の仕業ですよ。 英雄:君が…………そうか。 少女:あの人が死んでからいつも思っていました。 少女:残党狩りが始まって、 少女:もっと思うようになりました。 英雄:嗚呼。 少女:いったい私達が何をしたんだろう?って。 英雄:……そうだろうな。 少女:魔族が生きたいって望むのは、 少女:そんなに罪な事だったんですかね? 少女:ただ平凡に生きたいと望むのは。 少女:淘汰(とうた)されてしまうくらい、 少女:悪い事だったんですか? 英雄:君は、まだ間に合う。 少女:何からです? 少女:魔王軍に所属していなくて、 少女:生き残った魔族達だって、 少女:魔族だから、ただそれだけの理由で、 少女:貴方達人間がみんな殺しました。 少女:私達は存在する事も許されない。 少女:ここはそう言う世界なんですよ。 英雄:…………降伏してくれないか? 少女:嫌です。 少女:あの人は魔王が死んで最後の一人になっても、 少女:貴方から逃げずにここに居ましたよね? 少女:それを貴方が一番よく知っているじゃないですか。 英雄:………仕方なかったんだ。 英雄:やるしかなかったんだ。 英雄:俺は、俺は勇者だから。 少女:責めるつもりはないですよ。 少女:貴方には貴方のやるべき事がある。 少女:そんな事ちゃんと分かっています。 英雄:……。 少女:ただ一度受け入れた役割なら、 少女:最後まで全うしてくださいよ"勇者"様。 英雄:しかし、 少女:情でも湧きました? 少女:だから私一人は見逃すと? 英雄:君は抵抗をしていない。 英雄:抵抗をしない者に敵意は、 少女:状況は一緒じゃないですか!! 英雄:っっ!? 少女:あの時と状況は一緒じゃないですか!! 少女:あの人だって貴方に抵抗はしなかった。 少女:でも貴方は殺した!! 少女:魔王の参謀だったから!! 少女:魔族だったから!! 少女:だから殺した!! 英雄:それは………。 少女:(息切れを無理矢理止める) 少女:……私はグレーテルでなきゃいけないんです。 少女:ヘンゼルが死んだのに、 少女:グレーテルだけ生き残る未来は無いんです。 英雄:あれは童話だ!御伽噺だ! 英雄:たかが創作上の人物と、 英雄:君が同じ道を辿らなくても、 少女:ある所に!! 英雄:っっ!? 0:少女、泣きながら若干早口で英雄に縋り付きながら。 少女:ある所に二人の兄妹が居ました。 少女:名前を、ヘンゼルとグレーテル。 少女:ヘンゼルとグレーテルの家は貧しく、 少女:ある日遂に両親は、 少女:二人を真夜中の森に置いていってしまいます。 少女:「兄さん、寒いわ」 少女:「安心して、グレーテル」 少女:「兄さんが光る小石を落としてきたから、それを辿れば家に帰れるよ」 少女:そうして二人は小石を追って、 少女:我が家に帰る事が出来ました。 少女:ですが、その数日後。 少女:二人はまた森に連れて行かれました。 少女:今度は光る小石を用意できなかったヘンゼルは、 少女:小石の代わりにパンの欠片を、 少女:目印として落としていきました。 少女:ですが悪戯な小鳥が、 少女:そのパンの欠片を啄(ついば)み、 少女:全て食べてしまったのでした。 少女:困り果てたヘンゼルとグレーテル。 少女:「兄さん、お家に帰りたいわ」 少女:「グレーテル、向こうの方に明かりが見える。行ってみようか?」 少女:「分かったわ、兄さん」 少女:「兄さん、兄さん、兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん、兄さん!!!!」 0:被せる。 英雄:うっっ……うわあああああああああああああああああああああ!!!! 0:一拍。 0:切られて崩れ落ちる少女。 少女:ぅっっ……。 少女:……兄さん……この家お菓子で……出来てるわ……。 少女:夢のようね………兄さん………。 少女:……帰りたい……帰りたいの……兄さん……帰りたい。 0:英雄、泣き崩れる。 英雄:あ、ぁぁぁぁぁぁぁ。 少女:さよなら………大嫌いな……英雄……様……。  :  0:一拍。 英雄(M):朽ち果てた城の残骸には、 英雄(M):いずれ蔦(つた)が這い緑が生い茂るだろう。 英雄(M):人々は理由を見付けては、 英雄(M):新しい争いを始める。 英雄(M):やがて何年も何百年も時が過ぎれば、 英雄(M):人間に呆れた神が戒めのように、 英雄(M):魔王を復活させるのだろう。 英雄(M):戦いは終わらない。 英雄(M):誰かが平和を望んでも。 英雄(M):俺達のほんの少しの物語も、 英雄(M):俺にあの日浮かんだ感情も。 英雄(M):誰も知らない内に呆気なく、 英雄(M):風化して消え去ってしまうんだろう。 英雄(M):ヘンゼルとグレーテルの兄妹は、 英雄(M):どこかで仲良く暮らしているのだろうか? 英雄(M):今はそれすらも、 英雄(M):分かる方法なんてどこにも無いのだ。

少女(M):むかしむかし、恐ろしい魔王が世界に復活しました。 少女(M):魔王が復活したのを皮切りに、 少女(M):世界各地に魔物が蔓延(はびこ)るようになりました。 少女(M):困り果てた最も大きな国の王様は、 少女(M):国の端から端まで伝令を飛ばし、 少女(M):【勇者】足る資格を持った者を募ったのです。 少女(M):選ばれたのは、 少女(M):辺境の地に住んでいた一人の青年でした。 少女(M):青年は勇者となり、 少女(M):様々な苦しい戦いを乗り越え、 少女(M):遂に悲願の魔王討伐を果たしました。 少女(M):魔王城は燃え、跡形もなく無くなり、 少女(M):世界に再び平和が訪れた事から、 少女(M):国民は勇者の事を、敬意を持って、 少女(M):【英雄様】と呼びました。  :  0:一拍空ける。 英雄(M):毎日、あの人を夢に見る。 英雄(M):魔王にとどめを刺す前に、 英雄(M):逃げたあの人を追っているところから始まる。 英雄(M):仲間の一人が城に付けた火が燃え広がり、 英雄(M):あの人は炎に囲まれて、 英雄(M):少し離れた塔の上で座っていた。 英雄(M):魔族なのに、 英雄(M):「少しだけ時間を下さい」 英雄(M):そう懇願(こんがん)してきて。 英雄(M):あの人の膝の上に横たわった魔王は、 英雄(M):あの人と何か数回会話をしてから、 英雄(M):やがてゆっくりと眠りに落ちた。 英雄(M):魔王がやった事は罪深い。 英雄(M):魔王のせいで、 英雄(M):世界中が混乱に陥った。 英雄(M):だから魔王の配下も1人残らず、 英雄(M):全て殺さなくてはいけない。 英雄(M):それが例え、あの人であってもだ。 英雄(M):聖剣と呼ばれる、 英雄(M):この世で唯一魔を祓(はら)える剣を振り下ろす。 英雄(M):あの人は、ただの一度も、 英雄(M):こちらを見やしなかった。  :  0:間。 少女:勇者様……勇者様。 英雄:ん………。 少女:お目覚めですか? 英雄:ここは? 少女:寝ぼけているんですか? 少女:ここは都市の宿屋です。 英雄:嗚呼……そうだった。 少女:早く起きて、 少女:外に出た方がいいんじゃないですか? 英雄:何故? 少女:だって勇者様は、 少女:あの魔王を倒した英雄様ですから。 少女:きっと街の人達は貴方にひと目会いたいと、 少女:そう望んでいるはずです。 英雄:はぁ………そうだった。 英雄:魔王を討伐したら、 英雄:少しはゆっくり出来ると思ったんだけどな。 少女:街の人と交流しなくても、 少女:まだ魔物も魔族も残ってるんですよ? 英雄:それは魔道士達が討伐に向かっているさ。 少女:…………そうですね。 英雄:はぁ……着替えるか。 少女:はい。  :  0:一拍。 英雄(M):彼女に出会ったのは、 英雄(M):魔王を討伐してからしばらく経った頃だった。 英雄(M):配下では無くとも、 英雄(M):まだこの世に魔族の残党は残っていて、 英雄(M):その残党狩りをする勇者の世話役として、 英雄(M):国から派遣された、と。 英雄(M):そう彼女は言っていた。  :  英雄:世話役なんていらない。 少女:そうですか。 英雄:分かったなら帰ってくれ。 少女:それが出来ないんですよ。 英雄:は? 少女:一介の平民風情が、 少女:国からの命令に逆らえると思います? 英雄:断られたと言えば、 少女:馬鹿正直にそう言った暁(あかつき)には、 少女:お前の力不足のせいだと罰せられます。 英雄:………。 少女:勇者様。 英雄:なんだ? 少女:人間は恐ろしいんですよ。 英雄:嗚呼、よく知っている。 少女:ご理解頂けたのなら、 少女:どうぞこの私めをお傍にお置きください。 英雄:………分かった。  :  0:一拍。 英雄(M):権力、地位、名誉。 英雄(M):そんな物で人は人を簡単に裏切る。 英雄(M):この国から奴隷と言う文化が、 英雄(M):未だに消えないのも、そのせいだ。 英雄(M):俺は彼女の名前を知らない。 英雄(M):彼女も俺を「勇者」としか呼ばない。  :  少女:なんで争わないといけないんですかね? 英雄:突然どうした? 少女:理由なんてないです。 少女:ただ、どうして争わないといけなかったのか。 少女:それが少し気になって。 英雄:さあ……? 少女:魔王がいなくなったら今度は、 少女:魔物の残党狩りです。 少女:今はまだ、 少女:それで人間は手を取り合ってるかもしれないけれど。 英雄:嗚呼。 少女:その残党もいなくなったらどうなるか、 少女:分かりますか? 英雄:………人間同士が争いを始める。 少女:……………そうです。 英雄:戦う理由はその都度違うから、 英雄:なんとも言えないんだが。 少女:では勇者様は、 少女:理由があれば人間にも剣を振るうのですか? 英雄:それは……。 少女:戦争が起きたら絶対に、 少女:貴方はまた戦場に送り出されますよ。 少女:だって、英雄様ですから。 英雄:……………そうだな。 少女:こんな話を知っていますか? 英雄:なんだ? 少女:ある所に、二人の兄妹が居ました。 少女:名前をヘンゼルとグレーテル。 英雄:嗚呼。 少女:ヘンゼルとグレーテルの家は貧しく、 少女:ある日遂に両親は、 少女:二人を真夜中の森に置いていってしまいます。 英雄:…………。 少女:「兄さん、寒いわ」 少女:「安心して、グレーテル」 少女:「兄さんが光る小石を落としてきたから、それを辿れば家に帰れるよ」 少女:そうして二人は小石を追って、 少女:我が家に帰る事が出来ました。 少女:ですが、 英雄:その数日後。 英雄:二人はまた森に連れて行かれました。 少女:…………。 英雄:今度は光る小石を用意できなかったヘンゼルは、 英雄:小石の代わりにパンの欠片を、 英雄:目印として落としていきました。 少女:…………ですが悪戯な小鳥が、 少女:そのパンの欠片を啄(ついば)み、 少女:全て、食べてしまったのでした。 少女:困り果てたヘンゼルとグレーテル。 少女:「兄さん、お家に帰りたいわ」 英雄:「グレーテル、向こうの方に明かりが見える。行ってみようか?」 少女:「分かったわ兄さん」 英雄:…………その後お菓子の家を見付けて、 英雄:そこに住む魔女を倒して。 英雄:宝物を持ち帰って、 英雄:めでたしめでたし、だろ? 少女:えぇ、そうです。 英雄:有名な童話だな。 少女:私は思うんですよ。 英雄:何を? 少女:ヘンゼルは本当は、 少女:グレーテルが邪魔だったんじゃないかなって。 英雄:邪魔? 少女:お話の中でも、 少女:グレーテルは事ある毎に、 少女:「兄さん、兄さん、兄さん、兄さん」って。 英雄:グレーテルはまだ幼いから仕方ないだろう。 少女:でもそれじゃあヘンゼルだって、 少女:グレーテルとそれほど歳は変わりませんよ。 少女:それなのに兄の役目として、 少女:泣く事も許されないんです。 英雄:だが魔女を倒したのはグレーテルだ。 英雄:魔女の隙を狙ってかまどに突き落とした。 少女:それだって、自分が檻(おり)に囚われてる間に、 少女:自分を頼りきっていた、 少女:愚かで愛しい妹が手柄を成してしまった。 少女:兄としては、面白くないと思うんですよ。 英雄:そうなのか? 少女:兄妹なんてそう言うものですよ。 少女:そうでなくちゃダメなんです。 少女:……………そうでなくちゃ。 英雄:? 少女:さぁ、帰りましょうか。 少女:勇者様。 英雄:あ、嗚呼。  :  0:一拍。 英雄(M):彼女は時々どこか悲しい目をする。 英雄(M):遠くを見て、物思いに耽(ふけ)るような。 英雄(M):そんな表情を時より見せる。 英雄(M):だから俺は彼女に聞いてみたんだ。 英雄(M):彼女に関する情報を。  :  少女:生まれですか? 英雄:嗚呼。 少女:生まれは…………。 少女:ここより少し離れた小さい村です。 英雄:村?って言うと、デルトかシュノールか? 少女:いえ、もっと先です。 少女:勇者様が知らないくらい、 少女:小さくて貧しい村です。 英雄:家族は? 少女:っっ………家族ですか。 少女:家族は両親と……それから下に一人。 英雄:弟か? 少女:…………いいえ、妹です。 少女:どっちでもいいじゃないですか。 少女:そんな事。 英雄:そうか。 英雄:ご両親は何をしていたんだ? 少女:ただの農民です。 英雄:農民か。 英雄:うちと一緒だな。 少女:勇者様は、 英雄:? 少女:元々辺境の地に住んでいたんですよね? 英雄:嗚呼、そうだ。 少女:どこで剣を習ったんですか? 英雄:ん?嗚呼、そうだよな。 少女:? 英雄:父が元々騎士でな。 少女:嗚呼、だからですか。 英雄:それはもう厳しい人で、 英雄:とっくに騎士としての称号なんて剥奪されてるのに、 英雄:自分の息子に期待をしててな。 少女:騎士から農民って言うと、 少女:お父様は何か罰を受けるような事をしたんですか? 英雄:まぁ、昔にな。 英雄:それについては、 英雄:あまり深くは聞かないでくれ。 少女:分かりました。 英雄:まぁとにかく、 英雄:過剰に期待を押し付けられた息子は、 英雄:今や期待通りの英雄様となったんだ。 英雄:父も流石にもう文句は言ってこないだろう。 少女:…………。 英雄:…………。 少女:何かやりたかった事があったんですか? 英雄:ん? 少女:勇者以外に。 英雄:まぁ、あったと言えばあったけど。 英雄:勇者に選定(せんてい)されたから、 英雄:仕方ないさ。 少女:今からでも出来るんじゃないですか? 英雄:今から?無理だろうな。 少女:どうして? 英雄:「英雄」になったからさ。 英雄:どこに行っても、 英雄:俺から「英雄」の称号は外れない。 少女:でも勇者様は、 少女:国王からの爵位も領地も、 少女:褒美は全て断ったって聞いてます。 英雄:褒美を貰えるほど、 英雄:褒められるような事はしてないからな。 少女:魔王を倒したのに? 英雄:それだって、 英雄:本当に正しかったのか分からない。 少女:? 英雄:倒してから思うんだ。 英雄:本当に魔王や魔族達は、 英雄:倒さなければいけない者だったのか? 英雄:俺達人間が過敏になり過ぎてるだけで、 英雄:何もしなければ、 英雄:お互いに平和的な解決方法があったんじゃないか?って。 少女:夢物語ですね。 英雄:そうだろう?俺もそう思うよ。 英雄:あの人に出会わなければ、 英雄:こんな考えなんか引きずらなかったんだが。 少女:あの人? 英雄:魔王の参謀。 少女:参謀? 英雄:見た目は普通の人間みたいだった。 少女:はい。 英雄:だけど参謀って言ってたから、 英雄:たぶん魔王軍の作戦の大半は、 英雄:あの人が考えていたんだろう。 少女:主に作戦を考えるのが、 少女:参謀の役割ですからね。 英雄:嗚呼。 英雄:頭のいい人だったよ。 英雄:その証拠に俺達パーティーは、 英雄:何度も窮地(きゅうち)に立たされた。 少女:話した事はあったんですか? 英雄:参謀と?無いさ。 英雄:いつも出会うのは戦場だったし、 英雄:そもそもあの人は表舞台にはなかなか出てこなかった。 少女:………その人の種族は? 英雄:さあ?なんだったんだろうな。 少女:………そうですか。  :  0:間。 英雄(M):毎日、あの人を夢に見る。 英雄(M):魔王にとどめを刺す前に、 英雄(M):逃げたあの人を追っているところから始まる。 英雄(M):仲間の一人が城に付けた火が燃え広がり、 英雄(M):あの人は炎に囲まれて、 英雄(M):少し離れた塔の上で座っていた。 英雄(M):魔族なのに、 英雄(M):「少しだけ時間を下さい」 英雄(M):そう懇願(こんがん)してきて。 英雄(M):あの人の膝の上に横たわった魔王は、 英雄(M):あの人と何か数回会話をしてから、 英雄(M):やがてゆっくりと眠りに落ちた。 英雄(M):魔王がやった事は罪深い。 英雄(M):魔王のせいで、 英雄(M):世界中が混乱に陥った。 英雄(M):だから魔王の配下も1人残らず、 英雄(M):全て殺さなくてはいけない。 英雄(M):それが例え、あの人であってもだ。 英雄(M):聖剣と呼ばれる、 英雄(M):この世で唯一魔を祓(はら)える剣を振り下ろす。 英雄(M):あの人は、ただの一度も、 英雄(M):こちらを見やしなかった。  :  0:一拍。 少女(M):魔族の残党もほとんど倒された。 少女(M):どんなに姿形が似ていても、 少女(M):所詮、魔族は魔族。 少女(M):身の内から出る魔の気配を、 少女(M):誤魔化せるはずも無かったのに。 少女(M):人間として生きようと、 少女(M):そう模索した魔族は大勢居たけれど、 少女(M):そのどれもが失敗に終わった。 0:一拍。 少女(M):"私"は、どこで間違えてしまったのだろうか?  :  0:一拍。 0:燃え落ちた城が見渡せる塔の上。 英雄:そんな所で何をしている。 少女:遅かったですね。 英雄:下の奴らに苦戦してな。 少女:まさか配下の生き残りが団結して、 少女:魔王の敵討ちをするとは思っていませんでしたか? 英雄:いいや、思っていたさ。 英雄:人間には受け入れられなくとも、 英雄:魔族達には良き王だったんだろう? 少女:さぁ?私は知りません。 英雄:どうして? 少女:魔王軍に入った事もなければ、 少女:魔王様を見た事もないので。 英雄:それなら何故敵討ちを計画したんだ? 英雄:わざわざ勇者の傍についてまで。 少女:私はこの間一つ、 少女:勇者様に嘘をつきました。 英雄:嘘? 少女:私の家族は両親と、 少女:それから"上に"一人です。 少女:妹は、私の方です。 英雄:嗚呼。 少女:私はグレーテルなんですよ、勇者様。 英雄:…………。 少女:いつも背中を追いかけてばかりでした。 少女:それが当然のように。 少女:あの人が自分より少し上なだけで、 少女:私はすっかり甘えきって。 英雄:……。 少女:だから魔王軍に行ってしまった時も、 少女:泣きじゃくって否定するばかりで。 少女:私はあの人の為に動いた事なんて無いんです。 少女:一度も。 英雄:さしずめ魔女は俺か? 少女:さぁ?勇者様かもしれませんし、 少女:私かもしれません。 英雄:そうか。 少女:私が呑気に過ごしている間に、 少女:あの人は殺されました。 少女:……貴方に。 英雄:………参謀か。 少女:はい。 少女:種族は夢魔です。 少女:悪夢を見させるだけの悪魔です。 英雄:悪夢………と言う事は。 少女:勇者様が毎日悩んでいた悪夢は、 少女:私の仕業ですよ。 英雄:君が…………そうか。 少女:あの人が死んでからいつも思っていました。 少女:残党狩りが始まって、 少女:もっと思うようになりました。 英雄:嗚呼。 少女:いったい私達が何をしたんだろう?って。 英雄:……そうだろうな。 少女:魔族が生きたいって望むのは、 少女:そんなに罪な事だったんですかね? 少女:ただ平凡に生きたいと望むのは。 少女:淘汰(とうた)されてしまうくらい、 少女:悪い事だったんですか? 英雄:君は、まだ間に合う。 少女:何からです? 少女:魔王軍に所属していなくて、 少女:生き残った魔族達だって、 少女:魔族だから、ただそれだけの理由で、 少女:貴方達人間がみんな殺しました。 少女:私達は存在する事も許されない。 少女:ここはそう言う世界なんですよ。 英雄:…………降伏してくれないか? 少女:嫌です。 少女:あの人は魔王が死んで最後の一人になっても、 少女:貴方から逃げずにここに居ましたよね? 少女:それを貴方が一番よく知っているじゃないですか。 英雄:………仕方なかったんだ。 英雄:やるしかなかったんだ。 英雄:俺は、俺は勇者だから。 少女:責めるつもりはないですよ。 少女:貴方には貴方のやるべき事がある。 少女:そんな事ちゃんと分かっています。 英雄:……。 少女:ただ一度受け入れた役割なら、 少女:最後まで全うしてくださいよ"勇者"様。 英雄:しかし、 少女:情でも湧きました? 少女:だから私一人は見逃すと? 英雄:君は抵抗をしていない。 英雄:抵抗をしない者に敵意は、 少女:状況は一緒じゃないですか!! 英雄:っっ!? 少女:あの時と状況は一緒じゃないですか!! 少女:あの人だって貴方に抵抗はしなかった。 少女:でも貴方は殺した!! 少女:魔王の参謀だったから!! 少女:魔族だったから!! 少女:だから殺した!! 英雄:それは………。 少女:(息切れを無理矢理止める) 少女:……私はグレーテルでなきゃいけないんです。 少女:ヘンゼルが死んだのに、 少女:グレーテルだけ生き残る未来は無いんです。 英雄:あれは童話だ!御伽噺だ! 英雄:たかが創作上の人物と、 英雄:君が同じ道を辿らなくても、 少女:ある所に!! 英雄:っっ!? 0:少女、泣きながら若干早口で英雄に縋り付きながら。 少女:ある所に二人の兄妹が居ました。 少女:名前を、ヘンゼルとグレーテル。 少女:ヘンゼルとグレーテルの家は貧しく、 少女:ある日遂に両親は、 少女:二人を真夜中の森に置いていってしまいます。 少女:「兄さん、寒いわ」 少女:「安心して、グレーテル」 少女:「兄さんが光る小石を落としてきたから、それを辿れば家に帰れるよ」 少女:そうして二人は小石を追って、 少女:我が家に帰る事が出来ました。 少女:ですが、その数日後。 少女:二人はまた森に連れて行かれました。 少女:今度は光る小石を用意できなかったヘンゼルは、 少女:小石の代わりにパンの欠片を、 少女:目印として落としていきました。 少女:ですが悪戯な小鳥が、 少女:そのパンの欠片を啄(ついば)み、 少女:全て食べてしまったのでした。 少女:困り果てたヘンゼルとグレーテル。 少女:「兄さん、お家に帰りたいわ」 少女:「グレーテル、向こうの方に明かりが見える。行ってみようか?」 少女:「分かったわ、兄さん」 少女:「兄さん、兄さん、兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん、兄さん!!!!」 0:被せる。 英雄:うっっ……うわあああああああああああああああああああああ!!!! 0:一拍。 0:切られて崩れ落ちる少女。 少女:ぅっっ……。 少女:……兄さん……この家お菓子で……出来てるわ……。 少女:夢のようね………兄さん………。 少女:……帰りたい……帰りたいの……兄さん……帰りたい。 0:英雄、泣き崩れる。 英雄:あ、ぁぁぁぁぁぁぁ。 少女:さよなら………大嫌いな……英雄……様……。  :  0:一拍。 英雄(M):朽ち果てた城の残骸には、 英雄(M):いずれ蔦(つた)が這い緑が生い茂るだろう。 英雄(M):人々は理由を見付けては、 英雄(M):新しい争いを始める。 英雄(M):やがて何年も何百年も時が過ぎれば、 英雄(M):人間に呆れた神が戒めのように、 英雄(M):魔王を復活させるのだろう。 英雄(M):戦いは終わらない。 英雄(M):誰かが平和を望んでも。 英雄(M):俺達のほんの少しの物語も、 英雄(M):俺にあの日浮かんだ感情も。 英雄(M):誰も知らない内に呆気なく、 英雄(M):風化して消え去ってしまうんだろう。 英雄(M):ヘンゼルとグレーテルの兄妹は、 英雄(M):どこかで仲良く暮らしているのだろうか? 英雄(M):今はそれすらも、 英雄(M):分かる方法なんてどこにも無いのだ。