台本概要
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タイトル | 白雪の空に、願いを。 |
---|---|
作者名 | 紫癒-しゆ- (@shiyu_azsi0) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
冬、春、夏、秋、……冬。君との記憶から1年。 無意識にソファの左側に座るクセ。空っぽの右手。 オレは、あの時と同じようになんて、……今は笑えない。 一人称・語尾の改変○ 内容を変えない程度のアドリブ○ 内容が変わるほどの重度なアドリブ・改変✕ 誹謗中傷など、共演者様や聞き手が不快に思われる言動✕ このシナリオを手に取っていただき、また読んでいただきありがとうございます。 454 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
拓真 | 男 | 155 | 拓真(たくま) 未知の彼氏 |
未知 | 女 | 152 | 未知(みち) 拓真の彼女 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
拓真:ため息が白に染まり、広がり、冷たい空気に溶け込む。
未知:サクサクと道をかたどった足跡、白が反射して輝いた街。
拓真:空っぽの右手。
未知:包まれた左手。
拓真:目を閉じると浮かぶ、君の笑った顔。
未知:私が笑うと、嬉しそうに笑顔を浮かべた貴方。
拓真:目を開けても、白があるだけで。
拓真:照らされて輝く、白があるだけで。
拓真:あとは、笑顔の君がいてくれたら。
拓真:隣で、何の悪気もなく、オレの右手を握る君が、笑っていれば。
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:
0:某駅前
未知:「拓真、お待たせ!」
拓真:「ん、待った。」
未知:「えー、待ち合わせより5分だけ遅くなっただけだよ?」
拓真:「待ち合わせした時間に来るのが正解だから。」
未知:「いやー、服、迷っちゃってさー。」
拓真:「……未知さん。」
未知:「何でしょう拓真さん。」
拓真:「もしかして、そのロングコートの下に見えているのは、タートルネックでしょうか。」
未知:「そう! この前買ったから着たくて! でも今日は待ちに待った、予約とれないで有名なあのハンバーグ屋さんに行ける日だから、さすがに白ニットじゃ集中して挑めないかなーなんて、いろいろ考えたら時間たってて……。」
拓真:「遅刻の理由それかー……。」
未知:「ていうか、拓真がタートルネックなんて言葉知ってたんだ。」
拓真:「バカにしてる?」
未知:「うん、程よく。」
拓真:「程よくってなんだよ(笑)」
未知:「(笑) でも気づいてくれるなんて嬉しいなー。」
拓真:「いや、さ、……な?」
未知:「な?」
拓真:「……ん、こーれ。」
未知:「ん? ……あ! ふっ、あはははっ! なーんだ、そういうことかー(笑)」
拓真:「そういうことです(笑)」
未知:「え、拓真さん拓真さん。」
拓真:「何でしょう未知さん。」
未知:「それはつまり、ペアルックになってしまって、ちょーっと恥ずかしくなっている、ということでよろしいでしょうか!」
拓真:「……そうかもしれません。」
未知:「あははっ、拓真かーわいい!」
拓真:「あー、うるさいうるさい。」
未知:「なんか、カップルっぽいね。」
拓真:「ぽいっていうか、そうだけどな。」
未知:「……何、今の。きゅんときた。」
拓真:「きゅんポイントがわかりません(笑)」
未知:「それに! 拓真の白タートルすきなんだよねー。」
拓真:「おぉ、……それ初めて聞いた。」
未知:「なんかさ、何がいいって言われたら説明できないけど、なんかいいよね。」
拓真:「……どうしよう伝わらない(笑)」
未知:「伝われ! この気持ち!」
拓真:「んー……、熱意だけは伝わった(笑)」
未知:「えー、それだけかー。」
拓真:「(笑) それ、未知も似合うよ。かわいい。」
未知:「……ん、ありがとう。」
拓真:「うん。あ、そろそろ行こうか。」
未知:「うん! お腹すかせてきたからねー! ハンバーグハンバーグ!」
:
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拓真:並木道に抱かれ、歩みを進める。
拓真:白の幻想的な雪景色と足跡はやがて消え、無機質な黒を踏みしめる。
拓真:ふと端に目を向けると、小さな蕾がひとつ。
拓真:春の香りと冷たい風が、そっと頬をなでる。
:
:
0:拓真の自宅
拓真:「(スマホをいじる未知の手元をじっと見つめる)……。」
未知:「……?」
拓真:「(未知を手元をじっと見つめ続ける)……。」
未知:「……あのー、拓真さん?」
拓真:「何でしょう未知さん。」
未知:「そんなに見つめられると、落ち着かないのですが。」
拓真:「あー、……そんなに見てた?」
未知:「そんなに見てた。」
拓真:「そんなに?」
未知:「うん。スマホいじってるだけで、何もやましいことはありませんよ?」
拓真:「知ってる。未知そんなことできるほど器用じゃないし。」
未知:「じゃあ、何見てたの?」
拓真:「え、あ……、いや、……。」
未知:「……あ、もしかしてクッション? 残念だけど渡さないよー! まだ床は冷えるもん。これ必需品!」
拓真:「(小声)そうじゃないけど、……まぁいいか。」
未知:「ん? なんて?」
拓真:「うちにはそれしか、座れるものがないのですが。」
未知:「ソファがない拓真の家が悪い。」
拓真:「一人暮らしなんだから、事足りてるの。」
未知:「まぁ、確かに。でも前の家からずっとこれ使ってるんでしょ? さすがに買い替えれば?」
拓真:「……そうだなぁ。今度見に行くか。」
未知:「仕方ない、お供してあげようではないか!」
拓真:「はいはい、未知さま、よろしくお願いいたします(笑)」
未知:「おう、任せてくれたまえ(笑)」
拓真:「調子いいなぁ(笑)」
未知:「(笑) ……で、どうしたの?」
拓真:「え?」
未知:「クッションでもないんでしょ?」
拓真:「さすが未知(笑)」
未知:「そのくらいわかりますー。で、何見てたんですか?」
拓真:「んー、……考え事してた。」
未知:「何の?」
拓真:「えーっと、……未知っていつも楽しそうだよなーって。」
未知:「……。」
拓真:「気づけば、ずっと笑ってるし。」
未知:「……そんなこと?」
拓真:「うん、そんなこと。」
未知:「……ふーん。なんだー、そんなことかー。深刻なこと悩んでるのかと思った。」
拓真:「いやぁ、未知ってすごいな、って。」
未知:「……そんなことないよ?」
拓真:「そんなことあります。」
未知:「んー、……だってさ、笑顔で楽しくいるほうがいいじゃん?」
拓真:「そうだけど……、それが難しいんだよな。」
未知:「まぁ、確かに。」
拓真:「でもそれを、未知はできてる。」
未知:「……つまんない毎日を、つまんなく生きてても仕方ないと思わない?」
拓真:「……。」
未知:「楽しいから笑顔になるとか、笑顔になれば楽しくなれるとか、そんな哲学はわからないけどね、どうせなら笑顔で楽しいって思いながら過ごしたい!」
未知:「だって、そのほうが『生きてる』って感じられるから。」
未知:「バカみたいに笑って、バカみたいに楽しんで、あの子能天気だなーって言われるくらいが丁度いいんだよ。」
未知:「しあわせなのが一番! そうでしょ?」
拓真:「……未知は強いね。」
未知:「そんなことないよ。まぁ、昔、病気してたから、人より敏感なのかも。」
拓真:「前に話してくれたやつ?」
未知:「うん。あれがあるから、何気ない日でも生きてるー!って実感できるのです! 未知の勝手な持論集!(笑)」
拓真:「お、『集(しゅう)』ってことは、他にもあるんですか?(笑)」
未知:「ふっふっふ、あると思うよー。乞うご期待!」
拓真:「はははっ! ほんと未知はすげぇわ(笑)」
未知:「それほどでもあります!」
拓真:「……あれ、オレ今褒めたっけ?(笑)」
未知:「あー! そういうこと言うー?(膨れっ面)」
拓真:「はははっ! 膨れてひどい顔(笑)」
未知:「もー! 拓真!(笑)」
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拓真:響き渡る笑い声。
拓真:サンダルで駆け回る子どもたちに抜かされる。
拓真:じりじりと容赦なく熱を放つアスファルト。
拓真:灼熱に呑まれないよう、そっと緑の陰に隠れる。
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0:某家具店
未知:「ついにこの日が!」
拓真:「大げさだなぁ(笑)」
未知:「だって楽しみだったんだもん!」
拓真:「オレより張り切ってるじゃん。」
未知:「ねぇねぇ、予算は? 何色がいい? 形もいろいろあるよなぁ。拓真さん、どのようなものをお求めでしょうか!」
拓真:「……二人掛けかな。」
未知:「……。他のご希望は?」
拓真:「んー、……任せる。」
未知:「全然絞れてないじゃん!」
拓真:「あ、座り心地良いのがいい。」
未知:「はいはい、そりゃそうでしょうねぇ……。」
拓真:「後は、未知さまのセンスでお願いします(笑)」
未知:「えー、拓真の部屋のソファなのにー。」
拓真:「……一緒に使うんだから、未知の好みのがいいの。」
未知:「……っ。ん、わかった。」
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未知:「ねぇ、これがいい!」
拓真:「あー、うん、いいかも。さすが未知。」
未知:「いやぁ、ついに拓真の部屋にもソファが……、感慨深い。」
拓真:「それは言い過ぎ(笑)」
未知:「ごめんごめん(笑) でもこれほんとにふかふか!」
拓真:「うん。この大きさなら圧迫感なさそうだし。」
未知:「座り心地もいいし! ソファはこうでなくっちゃ! ちゃーんと肘掛けもある! 寝れる! 優秀!」
拓真:「未知の持論またでた? これで何個目?(笑)」
未知:「えーっと、この前言った『朝は牛乳一択!』がその2で、昨日の『もふもふは世界を救う!』がその3だから、その4!」
拓真:「平和だなぁ(笑)」
未知:「拓真はどう思う? もうちょっと見て回る?」
拓真:「……よし、未知が気に入ったなら、それにしようか。」
未知:「お、即決! では! これからはふかふかソファ満喫のために、拓真の家に入り浸りまーす!(笑)」
拓真:「いつでもどうぞ(笑) これで映画とか見やすくなるなぁ。」
未知:「今までじゃんけんでクッション争奪戦してたもんね。結局私が使ってたけど(笑)」
拓真:「おかげで足しびれて映画どころじゃありませんでした(笑)」
未知:「これからはちゃんと二人で集中して見られるね(笑)」
拓真:「だな(笑)」
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拓真:「そういえば、……未知って右側すきだよね。」
未知:「ん? 右側?」
拓真:「ほら、いつもオレの右側にいるし、今もソファの右側座ってるし。」
未知:「え、無意識(笑)」
拓真:「落ち着くのかな?」
未知:「あ、でも、手つなぐときは、右手空いてたほうが何でもできるから右にいる!」
拓真:「はぁ!? あれわざとなのかよ。」
未知:「だって右利きなんだもーん。」
拓真:「未知さん、オレも右利きなのですが。」
未知:「拓真さん、……我慢してください!」
拓真:「(ため息)はぁ……、未知らしいな(笑)」
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未知:ありふれた日々は、幸せが詰まっていた。
拓真:日常に、優しい記憶が宿る。
未知:このまま、時が止まればいいのに。
拓真:ずっと、君と並んで歩く決意を伝えたい。
未知:私が笑うと、だいすきな笑顔を向けた貴方。
拓真:君が笑うと、オレも笑顔になれるんだ。
未知:貴方といるから、私でいられた。
未知:知っていた。すべてを悟っていた。
未知:だから貴方の手を引き続けた。
未知:貴方と私で、生き続けた。
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0:拓真の自宅
0:ソファに座る拓真、キッチンから未知が拓真のもとへ
拓真:「『未知』って珍しい名前だよね。」
未知:「……え?」
拓真:「なかなか、いないよなーって。」
未知:「唐突だね(笑) 珍しいとは思うよ? 同じ名前の人に会ったことないし。」
拓真:「……ふと思った。」
未知:「ぼーっとテレビ見てたと思ったら、そんなこと考えてたんだ。」
拓真:「テレビ全然見てなかったわ(笑)」
未知:「そんな気はした(笑) はい、コーヒー。」
拓真:「ありがと。」
未知:「……拓真も定位置になったね。」
拓真:「え?」
未知:「もう何も言わなくても左に座ってる(笑)」
拓真:「あ……(笑)」
未知:「無意識ですか?(笑)」
拓真:「……無意識です。」
未知:「拓真かーわいい(笑)」
拓真:「はぁ?(笑) あ、それで、未知の由来は?」
未知:「話そらしたなー?(笑)」
拓真:「気になって仕方ないだけですー(笑)」
未知:「そういうことにしてあげよう(笑)」
未知:「由来はね、お父さんが『道(みち)』っていう、あの、首ににょろにょろついた字が入ってて。」
拓真:「……しんにょうな(笑)」
未知:「そうそう(笑) で、男の子だったら、その字を使って付けたかったみたいなんだけど、生まれてきたら女の子で、困っちゃって。」
拓真:「お父さん……。」
未知:「それで、お母さんが、音はそのままに『未知』って漢字にして、『人生何があるかわからないけど自分の道を歩んでいってほしい!』って意味を持たせたんだって。」
拓真:「へぇ……、素敵なご両親だ。」
未知:「拓真は? 字からなんとなく想像できる気がするけど……。」
拓真:「想像通りだと思うよ?(笑) 『真っすぐ己の人生を切り拓いていけ!』って。」
未知:「やっぱり?(笑)」
拓真:「やっぱり(笑)」
未知:「想像通り(笑) ……でも嬉しいなー。」
拓真:「ん? 何が?」
未知:「だって、ちょっと由来似てるし、生まれたときに付けてもらった名前なのに、運命的だなーって。」
拓真:「……未知の持論集その7?」
未知:「あれ? もうそんなに言った?」
拓真:「最近ブームだよ。」
未知:「味を占めたら多用するタチなのです。」
拓真:「でも、そういう未知の考え方、すごくいいと思う。」
未知:「ん、ありがとう。」
拓真:「……照れた?」
未知:「照れてない!」
拓真:「はははっ! かわいい(笑)」
未知:「照れてないってば―!(笑)」
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:
:
拓真:クシャっと、地面にくすんだ紅(あか)の葉が張り付く。
拓真:歩く度に、歪(いびつ)に、儚く。
拓真:どこからか風が吹く、舞う。
拓真:ただ身を任せ、すべてを受け入れ。
:
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未知:(『』はメッセージの本文です。)
未知:『拓真さん』
未知:『突然ですが』
未知:『引っ越します』
未知:『A大学附属病院 2階西病棟 207号室』
:
0:病室のドアを勢いよく開ける拓真。
拓真:「未知!」
未知:「……びっくりしたぁ。ノックくらいするものですよ? 拓真さん。」
拓真:「びっくりしたのはこっちだよ……。」
未知:「昔、病気してたって拓真に伝えてたよね?」
拓真:「ああ……。」
未知:「戻ってきちゃった。」
拓真:「きちゃった、って……。」
未知:「たぶんね、もう帰れないと思う。」
拓真:「え……。」
未知:「あ、次来る時でいいからさ、お揃いのパジャマ、私の持ってきてくれる? 病衣ってやっぱり落ち着かなくて。」
未知:「あと、マグカップもほしいなー。ブランケットも! 自分じゃ最低限のものしか持って来れなくてさー。」
未知:「……拓真?」
未知:「……もしもーし、拓真さーん?」
拓真:「……なんで。」
未知:「……?」
拓真:「なんでそんなに冷静でいられるんだよ……!」
未知:「……そんなことかー。」
拓真:「そんなことって!」
未知:「拓真さん、病院ですよ?」
拓真:「……ごめん。」
未知:「……わかってたの。」
未知:「自分の身体のことは、随分前から。」
未知:「拓真に言ってなかったのは、申し訳ないと思ってる。」
未知:「でもね? 病気の私として、接してほしくなかった。」
未知:「……ただの我が儘なんだけどね。」
未知:「拓真は真面目で、たくさん私のこと考えてくれるのわかってたから。」
未知:「だから、許してほしい。」
拓真:「……。」
未知:「……。」
拓真:「(ため息) ……一人で抱えてほしくなかったな。」
未知:「……ごめんなさい。」
拓真:「……でも、未知のことだから、たくさん悩んでそうしてくれてたんだよな。」
拓真:「……ありがとう。」
未知:「拓真……。こちらこそ、ありがとう。」
拓真:「……あ、必要なものは後で連絡して? 覚えきれる自信ない(笑)」
未知:「わかった(笑)」
:
未知:「ねぇ、拓真。」
拓真:「ん?」
未知:「病気でも、私は私。何にも変わらないから、いつもみたいに楽しくバカやって、拓真と笑って過ごしたい。」
未知:「……お願い。」
拓真:「……うん。わかってるよ。未知は未知。オレの大好きな未知に変わりない。」
:
:
:
拓真:冷たい風が枝の隙間から吹き込む。
拓真:思わず肩をすくめ、縮こまる。
拓真:寒い、暗い、初めて見る、見慣れた景色。
拓真:凍える右手を握りしめる。
:
:
0:病室
未知:「私ね、冬が好きなの。」
拓真:「ん? 唐突だね。」
未知:「冬って、キラキラしてるでしょ?」
拓真:「……クリスマスってこと?」
未知:「クリスマス? あ、イルミネーションのこと?」
拓真:「そうそう。街中キラキラするし。」
未知:「……拓真さん。」
拓真:「はい、何でしょう未知さん。」
未知:「そうじゃないですー!」
拓真:「(棒読み)えー。」
未知:「興味を持ってください、拓真さん。」
拓真:「……はい、すみません。」
未知:「ん、わかればよろしい。」
未知:「冬はですねぇ、ずばり! 雪でキラキラするのです!」
未知:「雪で街が白くなる! 太陽に照らされて雪が舞う! 人工的なイルミネーションよりも、ずっと綺麗でロマンチックだとは思いませんか!」
拓真:「……確かに。」
未知:「でしょー! 私ね、星とか神様とかより、冬は雪に願うべきだと思うんだ。」
拓真:「……ほう。」
未知:「雪って、解けて、空に昇って、またどこかの街に幻想的な世界を作るの。」
未知:「それってすごいと思わない?」
未知:「世界って繋がってるんだなーって、想いも、もしかしたら伝わっちゃうのかなーって!」
拓真:「……ふっ、はははっ!(声を上げて笑う)」
未知:「ちょっと拓真、笑いすぎだよ!」
拓真:「はははっ、いやぁ、未知らしいなーって。」
未知:「ふっふっふ、だってだって、未知の持論集……!」
拓真:「その10!」
未知:「記念だね(笑)」
拓真:「何か特典はあるんですか?」
未知:「えー、天下の未知さまに頼む態度がそれですか?」
拓真:「未知さま、どうか、どうか! お願いいたします!」
未知:「……あ(笑) じゃあ白タートル着てきて。」
拓真:「すきだなぁ、それ(笑)」
未知:「この時期しか見られないんだもん!」
拓真:「はいはい、着てきますよ。」
未知:「じゃあ、そんな拓真には……、ででん! 私と一緒に、雪に願う権利を授けよう!」
拓真:「それが特典?」
未知:「不服ですか?」
拓真:「いいえ、有難きしあわせ。」
未知:「ふふふ、苦しゅうない!」
拓真:「あ、未知は何お願いするの?」
未知:「えー、願い事って教えるものじゃないよー。」
拓真:「……それもそうか。」
未知:「うん! 内緒!」
:
:
:
未知:白は嫌いだった。
未知:白い壁。白いベッド。カーテンで仕切られた、無機質な白に囲まれた生活。
未知:自分もそのまま白に呑み込まれそうで。
未知:自分を見失いそうで。
未知:夢中で堅い窓を開けた。
未知:その時に舞い込んできた白雪(しらゆき)。
未知:綺麗だった。自由だと思った。
未知:そして、願いを込めた。想いを託した。
:
:
:
0:病室
未知:「あ、白タートル!」
拓真:「お望み通り、ちゃんと着てきましたよ?」
未知:「拓真できる子! えらい!」
拓真:「未知さまの頼みとあれば(笑)」
未知:「拓真だいすき!」
拓真:「お……、はははっ、普段あんまり言わないのに(笑)」
未知:「あ、あとね!」
拓真:「ん?(笑)」
未知:「拓真の笑顔すきだよ。」
拓真:「……っ! 最近は、唐突に話題を振るのがブームなんですか?」
未知:「そうかもね(笑)」
拓真:「……オレも、未知の笑顔すきだよ。未知が笑顔だと、つられて笑っちゃう。」
未知:「拓真の笑顔って、なんか不器用だよね。」
拓真:「え? 笑顔に不器用なんてあるの?(笑)」
未知:「んー、笑ってるのに、うまく笑えてない感じ?(笑)」
拓真:「何それ?(笑)」
未知:「でも、それが拓真らしい。そのままでいてね。」
拓真:「あぁ、……うん。」
:
:
:
拓真:美しいんだ。
拓真:変わらないんだ。
拓真:冬、春、夏、秋、……冬。
拓真:君がいた景色も、今の景色も。
拓真:……ソファの左側に座るクセも。
:
拓真:でも、変わった。
拓真:隣はいつも空いたままで。右手は冷たくて。
拓真:着古した白のタートルネックは、クローゼットの奥で眠っている。
拓真:君がいたから楽しかった。
拓真:君が笑うからオレも笑った。
拓真:不器用だと言われた、キミの好きなオレの笑顔。
拓真:……あのときと同じようになんて、今は笑えない。
拓真:俯いてばかりのオレは、本当に、どうしようもない。
:
拓真:……ふいに目の前に舞い込んでくる白雪(しらゆき)。
拓真:あぁ……、本当に、どうしようもない。
:
:
:
未知:無数の白は街を染め、静かに舞っていた。
拓真:久しぶりに見上げる空が、涙でにじむ。
未知:輝く白に、願いを込めた。
拓真:ぼやける白に、想いを込める。
:
未知:ありがとう。愛しています。
:
拓真:愛しています。ずっと、ずっと。
:
未知:貴方がこれからも、貴方でいられますように。
:
拓真:君の空にも、……届きますように。
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未知:「ねぇ、拓真?」
未知:
未知:「……天国も雪、降るのかな?」
:
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拓真:(タイトルコール)
拓真:『白雪の空に、願いを。』
拓真:ため息が白に染まり、広がり、冷たい空気に溶け込む。
未知:サクサクと道をかたどった足跡、白が反射して輝いた街。
拓真:空っぽの右手。
未知:包まれた左手。
拓真:目を閉じると浮かぶ、君の笑った顔。
未知:私が笑うと、嬉しそうに笑顔を浮かべた貴方。
拓真:目を開けても、白があるだけで。
拓真:照らされて輝く、白があるだけで。
拓真:あとは、笑顔の君がいてくれたら。
拓真:隣で、何の悪気もなく、オレの右手を握る君が、笑っていれば。
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0:某駅前
未知:「拓真、お待たせ!」
拓真:「ん、待った。」
未知:「えー、待ち合わせより5分だけ遅くなっただけだよ?」
拓真:「待ち合わせした時間に来るのが正解だから。」
未知:「いやー、服、迷っちゃってさー。」
拓真:「……未知さん。」
未知:「何でしょう拓真さん。」
拓真:「もしかして、そのロングコートの下に見えているのは、タートルネックでしょうか。」
未知:「そう! この前買ったから着たくて! でも今日は待ちに待った、予約とれないで有名なあのハンバーグ屋さんに行ける日だから、さすがに白ニットじゃ集中して挑めないかなーなんて、いろいろ考えたら時間たってて……。」
拓真:「遅刻の理由それかー……。」
未知:「ていうか、拓真がタートルネックなんて言葉知ってたんだ。」
拓真:「バカにしてる?」
未知:「うん、程よく。」
拓真:「程よくってなんだよ(笑)」
未知:「(笑) でも気づいてくれるなんて嬉しいなー。」
拓真:「いや、さ、……な?」
未知:「な?」
拓真:「……ん、こーれ。」
未知:「ん? ……あ! ふっ、あはははっ! なーんだ、そういうことかー(笑)」
拓真:「そういうことです(笑)」
未知:「え、拓真さん拓真さん。」
拓真:「何でしょう未知さん。」
未知:「それはつまり、ペアルックになってしまって、ちょーっと恥ずかしくなっている、ということでよろしいでしょうか!」
拓真:「……そうかもしれません。」
未知:「あははっ、拓真かーわいい!」
拓真:「あー、うるさいうるさい。」
未知:「なんか、カップルっぽいね。」
拓真:「ぽいっていうか、そうだけどな。」
未知:「……何、今の。きゅんときた。」
拓真:「きゅんポイントがわかりません(笑)」
未知:「それに! 拓真の白タートルすきなんだよねー。」
拓真:「おぉ、……それ初めて聞いた。」
未知:「なんかさ、何がいいって言われたら説明できないけど、なんかいいよね。」
拓真:「……どうしよう伝わらない(笑)」
未知:「伝われ! この気持ち!」
拓真:「んー……、熱意だけは伝わった(笑)」
未知:「えー、それだけかー。」
拓真:「(笑) それ、未知も似合うよ。かわいい。」
未知:「……ん、ありがとう。」
拓真:「うん。あ、そろそろ行こうか。」
未知:「うん! お腹すかせてきたからねー! ハンバーグハンバーグ!」
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拓真:並木道に抱かれ、歩みを進める。
拓真:白の幻想的な雪景色と足跡はやがて消え、無機質な黒を踏みしめる。
拓真:ふと端に目を向けると、小さな蕾がひとつ。
拓真:春の香りと冷たい風が、そっと頬をなでる。
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0:拓真の自宅
拓真:「(スマホをいじる未知の手元をじっと見つめる)……。」
未知:「……?」
拓真:「(未知を手元をじっと見つめ続ける)……。」
未知:「……あのー、拓真さん?」
拓真:「何でしょう未知さん。」
未知:「そんなに見つめられると、落ち着かないのですが。」
拓真:「あー、……そんなに見てた?」
未知:「そんなに見てた。」
拓真:「そんなに?」
未知:「うん。スマホいじってるだけで、何もやましいことはありませんよ?」
拓真:「知ってる。未知そんなことできるほど器用じゃないし。」
未知:「じゃあ、何見てたの?」
拓真:「え、あ……、いや、……。」
未知:「……あ、もしかしてクッション? 残念だけど渡さないよー! まだ床は冷えるもん。これ必需品!」
拓真:「(小声)そうじゃないけど、……まぁいいか。」
未知:「ん? なんて?」
拓真:「うちにはそれしか、座れるものがないのですが。」
未知:「ソファがない拓真の家が悪い。」
拓真:「一人暮らしなんだから、事足りてるの。」
未知:「まぁ、確かに。でも前の家からずっとこれ使ってるんでしょ? さすがに買い替えれば?」
拓真:「……そうだなぁ。今度見に行くか。」
未知:「仕方ない、お供してあげようではないか!」
拓真:「はいはい、未知さま、よろしくお願いいたします(笑)」
未知:「おう、任せてくれたまえ(笑)」
拓真:「調子いいなぁ(笑)」
未知:「(笑) ……で、どうしたの?」
拓真:「え?」
未知:「クッションでもないんでしょ?」
拓真:「さすが未知(笑)」
未知:「そのくらいわかりますー。で、何見てたんですか?」
拓真:「んー、……考え事してた。」
未知:「何の?」
拓真:「えーっと、……未知っていつも楽しそうだよなーって。」
未知:「……。」
拓真:「気づけば、ずっと笑ってるし。」
未知:「……そんなこと?」
拓真:「うん、そんなこと。」
未知:「……ふーん。なんだー、そんなことかー。深刻なこと悩んでるのかと思った。」
拓真:「いやぁ、未知ってすごいな、って。」
未知:「……そんなことないよ?」
拓真:「そんなことあります。」
未知:「んー、……だってさ、笑顔で楽しくいるほうがいいじゃん?」
拓真:「そうだけど……、それが難しいんだよな。」
未知:「まぁ、確かに。」
拓真:「でもそれを、未知はできてる。」
未知:「……つまんない毎日を、つまんなく生きてても仕方ないと思わない?」
拓真:「……。」
未知:「楽しいから笑顔になるとか、笑顔になれば楽しくなれるとか、そんな哲学はわからないけどね、どうせなら笑顔で楽しいって思いながら過ごしたい!」
未知:「だって、そのほうが『生きてる』って感じられるから。」
未知:「バカみたいに笑って、バカみたいに楽しんで、あの子能天気だなーって言われるくらいが丁度いいんだよ。」
未知:「しあわせなのが一番! そうでしょ?」
拓真:「……未知は強いね。」
未知:「そんなことないよ。まぁ、昔、病気してたから、人より敏感なのかも。」
拓真:「前に話してくれたやつ?」
未知:「うん。あれがあるから、何気ない日でも生きてるー!って実感できるのです! 未知の勝手な持論集!(笑)」
拓真:「お、『集(しゅう)』ってことは、他にもあるんですか?(笑)」
未知:「ふっふっふ、あると思うよー。乞うご期待!」
拓真:「はははっ! ほんと未知はすげぇわ(笑)」
未知:「それほどでもあります!」
拓真:「……あれ、オレ今褒めたっけ?(笑)」
未知:「あー! そういうこと言うー?(膨れっ面)」
拓真:「はははっ! 膨れてひどい顔(笑)」
未知:「もー! 拓真!(笑)」
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拓真:響き渡る笑い声。
拓真:サンダルで駆け回る子どもたちに抜かされる。
拓真:じりじりと容赦なく熱を放つアスファルト。
拓真:灼熱に呑まれないよう、そっと緑の陰に隠れる。
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0:某家具店
未知:「ついにこの日が!」
拓真:「大げさだなぁ(笑)」
未知:「だって楽しみだったんだもん!」
拓真:「オレより張り切ってるじゃん。」
未知:「ねぇねぇ、予算は? 何色がいい? 形もいろいろあるよなぁ。拓真さん、どのようなものをお求めでしょうか!」
拓真:「……二人掛けかな。」
未知:「……。他のご希望は?」
拓真:「んー、……任せる。」
未知:「全然絞れてないじゃん!」
拓真:「あ、座り心地良いのがいい。」
未知:「はいはい、そりゃそうでしょうねぇ……。」
拓真:「後は、未知さまのセンスでお願いします(笑)」
未知:「えー、拓真の部屋のソファなのにー。」
拓真:「……一緒に使うんだから、未知の好みのがいいの。」
未知:「……っ。ん、わかった。」
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未知:「ねぇ、これがいい!」
拓真:「あー、うん、いいかも。さすが未知。」
未知:「いやぁ、ついに拓真の部屋にもソファが……、感慨深い。」
拓真:「それは言い過ぎ(笑)」
未知:「ごめんごめん(笑) でもこれほんとにふかふか!」
拓真:「うん。この大きさなら圧迫感なさそうだし。」
未知:「座り心地もいいし! ソファはこうでなくっちゃ! ちゃーんと肘掛けもある! 寝れる! 優秀!」
拓真:「未知の持論またでた? これで何個目?(笑)」
未知:「えーっと、この前言った『朝は牛乳一択!』がその2で、昨日の『もふもふは世界を救う!』がその3だから、その4!」
拓真:「平和だなぁ(笑)」
未知:「拓真はどう思う? もうちょっと見て回る?」
拓真:「……よし、未知が気に入ったなら、それにしようか。」
未知:「お、即決! では! これからはふかふかソファ満喫のために、拓真の家に入り浸りまーす!(笑)」
拓真:「いつでもどうぞ(笑) これで映画とか見やすくなるなぁ。」
未知:「今までじゃんけんでクッション争奪戦してたもんね。結局私が使ってたけど(笑)」
拓真:「おかげで足しびれて映画どころじゃありませんでした(笑)」
未知:「これからはちゃんと二人で集中して見られるね(笑)」
拓真:「だな(笑)」
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拓真:「そういえば、……未知って右側すきだよね。」
未知:「ん? 右側?」
拓真:「ほら、いつもオレの右側にいるし、今もソファの右側座ってるし。」
未知:「え、無意識(笑)」
拓真:「落ち着くのかな?」
未知:「あ、でも、手つなぐときは、右手空いてたほうが何でもできるから右にいる!」
拓真:「はぁ!? あれわざとなのかよ。」
未知:「だって右利きなんだもーん。」
拓真:「未知さん、オレも右利きなのですが。」
未知:「拓真さん、……我慢してください!」
拓真:「(ため息)はぁ……、未知らしいな(笑)」
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未知:ありふれた日々は、幸せが詰まっていた。
拓真:日常に、優しい記憶が宿る。
未知:このまま、時が止まればいいのに。
拓真:ずっと、君と並んで歩く決意を伝えたい。
未知:私が笑うと、だいすきな笑顔を向けた貴方。
拓真:君が笑うと、オレも笑顔になれるんだ。
未知:貴方といるから、私でいられた。
未知:知っていた。すべてを悟っていた。
未知:だから貴方の手を引き続けた。
未知:貴方と私で、生き続けた。
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0:拓真の自宅
0:ソファに座る拓真、キッチンから未知が拓真のもとへ
拓真:「『未知』って珍しい名前だよね。」
未知:「……え?」
拓真:「なかなか、いないよなーって。」
未知:「唐突だね(笑) 珍しいとは思うよ? 同じ名前の人に会ったことないし。」
拓真:「……ふと思った。」
未知:「ぼーっとテレビ見てたと思ったら、そんなこと考えてたんだ。」
拓真:「テレビ全然見てなかったわ(笑)」
未知:「そんな気はした(笑) はい、コーヒー。」
拓真:「ありがと。」
未知:「……拓真も定位置になったね。」
拓真:「え?」
未知:「もう何も言わなくても左に座ってる(笑)」
拓真:「あ……(笑)」
未知:「無意識ですか?(笑)」
拓真:「……無意識です。」
未知:「拓真かーわいい(笑)」
拓真:「はぁ?(笑) あ、それで、未知の由来は?」
未知:「話そらしたなー?(笑)」
拓真:「気になって仕方ないだけですー(笑)」
未知:「そういうことにしてあげよう(笑)」
未知:「由来はね、お父さんが『道(みち)』っていう、あの、首ににょろにょろついた字が入ってて。」
拓真:「……しんにょうな(笑)」
未知:「そうそう(笑) で、男の子だったら、その字を使って付けたかったみたいなんだけど、生まれてきたら女の子で、困っちゃって。」
拓真:「お父さん……。」
未知:「それで、お母さんが、音はそのままに『未知』って漢字にして、『人生何があるかわからないけど自分の道を歩んでいってほしい!』って意味を持たせたんだって。」
拓真:「へぇ……、素敵なご両親だ。」
未知:「拓真は? 字からなんとなく想像できる気がするけど……。」
拓真:「想像通りだと思うよ?(笑) 『真っすぐ己の人生を切り拓いていけ!』って。」
未知:「やっぱり?(笑)」
拓真:「やっぱり(笑)」
未知:「想像通り(笑) ……でも嬉しいなー。」
拓真:「ん? 何が?」
未知:「だって、ちょっと由来似てるし、生まれたときに付けてもらった名前なのに、運命的だなーって。」
拓真:「……未知の持論集その7?」
未知:「あれ? もうそんなに言った?」
拓真:「最近ブームだよ。」
未知:「味を占めたら多用するタチなのです。」
拓真:「でも、そういう未知の考え方、すごくいいと思う。」
未知:「ん、ありがとう。」
拓真:「……照れた?」
未知:「照れてない!」
拓真:「はははっ! かわいい(笑)」
未知:「照れてないってば―!(笑)」
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拓真:クシャっと、地面にくすんだ紅(あか)の葉が張り付く。
拓真:歩く度に、歪(いびつ)に、儚く。
拓真:どこからか風が吹く、舞う。
拓真:ただ身を任せ、すべてを受け入れ。
:
:
未知:(『』はメッセージの本文です。)
未知:『拓真さん』
未知:『突然ですが』
未知:『引っ越します』
未知:『A大学附属病院 2階西病棟 207号室』
:
0:病室のドアを勢いよく開ける拓真。
拓真:「未知!」
未知:「……びっくりしたぁ。ノックくらいするものですよ? 拓真さん。」
拓真:「びっくりしたのはこっちだよ……。」
未知:「昔、病気してたって拓真に伝えてたよね?」
拓真:「ああ……。」
未知:「戻ってきちゃった。」
拓真:「きちゃった、って……。」
未知:「たぶんね、もう帰れないと思う。」
拓真:「え……。」
未知:「あ、次来る時でいいからさ、お揃いのパジャマ、私の持ってきてくれる? 病衣ってやっぱり落ち着かなくて。」
未知:「あと、マグカップもほしいなー。ブランケットも! 自分じゃ最低限のものしか持って来れなくてさー。」
未知:「……拓真?」
未知:「……もしもーし、拓真さーん?」
拓真:「……なんで。」
未知:「……?」
拓真:「なんでそんなに冷静でいられるんだよ……!」
未知:「……そんなことかー。」
拓真:「そんなことって!」
未知:「拓真さん、病院ですよ?」
拓真:「……ごめん。」
未知:「……わかってたの。」
未知:「自分の身体のことは、随分前から。」
未知:「拓真に言ってなかったのは、申し訳ないと思ってる。」
未知:「でもね? 病気の私として、接してほしくなかった。」
未知:「……ただの我が儘なんだけどね。」
未知:「拓真は真面目で、たくさん私のこと考えてくれるのわかってたから。」
未知:「だから、許してほしい。」
拓真:「……。」
未知:「……。」
拓真:「(ため息) ……一人で抱えてほしくなかったな。」
未知:「……ごめんなさい。」
拓真:「……でも、未知のことだから、たくさん悩んでそうしてくれてたんだよな。」
拓真:「……ありがとう。」
未知:「拓真……。こちらこそ、ありがとう。」
拓真:「……あ、必要なものは後で連絡して? 覚えきれる自信ない(笑)」
未知:「わかった(笑)」
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未知:「ねぇ、拓真。」
拓真:「ん?」
未知:「病気でも、私は私。何にも変わらないから、いつもみたいに楽しくバカやって、拓真と笑って過ごしたい。」
未知:「……お願い。」
拓真:「……うん。わかってるよ。未知は未知。オレの大好きな未知に変わりない。」
:
:
:
拓真:冷たい風が枝の隙間から吹き込む。
拓真:思わず肩をすくめ、縮こまる。
拓真:寒い、暗い、初めて見る、見慣れた景色。
拓真:凍える右手を握りしめる。
:
:
0:病室
未知:「私ね、冬が好きなの。」
拓真:「ん? 唐突だね。」
未知:「冬って、キラキラしてるでしょ?」
拓真:「……クリスマスってこと?」
未知:「クリスマス? あ、イルミネーションのこと?」
拓真:「そうそう。街中キラキラするし。」
未知:「……拓真さん。」
拓真:「はい、何でしょう未知さん。」
未知:「そうじゃないですー!」
拓真:「(棒読み)えー。」
未知:「興味を持ってください、拓真さん。」
拓真:「……はい、すみません。」
未知:「ん、わかればよろしい。」
未知:「冬はですねぇ、ずばり! 雪でキラキラするのです!」
未知:「雪で街が白くなる! 太陽に照らされて雪が舞う! 人工的なイルミネーションよりも、ずっと綺麗でロマンチックだとは思いませんか!」
拓真:「……確かに。」
未知:「でしょー! 私ね、星とか神様とかより、冬は雪に願うべきだと思うんだ。」
拓真:「……ほう。」
未知:「雪って、解けて、空に昇って、またどこかの街に幻想的な世界を作るの。」
未知:「それってすごいと思わない?」
未知:「世界って繋がってるんだなーって、想いも、もしかしたら伝わっちゃうのかなーって!」
拓真:「……ふっ、はははっ!(声を上げて笑う)」
未知:「ちょっと拓真、笑いすぎだよ!」
拓真:「はははっ、いやぁ、未知らしいなーって。」
未知:「ふっふっふ、だってだって、未知の持論集……!」
拓真:「その10!」
未知:「記念だね(笑)」
拓真:「何か特典はあるんですか?」
未知:「えー、天下の未知さまに頼む態度がそれですか?」
拓真:「未知さま、どうか、どうか! お願いいたします!」
未知:「……あ(笑) じゃあ白タートル着てきて。」
拓真:「すきだなぁ、それ(笑)」
未知:「この時期しか見られないんだもん!」
拓真:「はいはい、着てきますよ。」
未知:「じゃあ、そんな拓真には……、ででん! 私と一緒に、雪に願う権利を授けよう!」
拓真:「それが特典?」
未知:「不服ですか?」
拓真:「いいえ、有難きしあわせ。」
未知:「ふふふ、苦しゅうない!」
拓真:「あ、未知は何お願いするの?」
未知:「えー、願い事って教えるものじゃないよー。」
拓真:「……それもそうか。」
未知:「うん! 内緒!」
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未知:白は嫌いだった。
未知:白い壁。白いベッド。カーテンで仕切られた、無機質な白に囲まれた生活。
未知:自分もそのまま白に呑み込まれそうで。
未知:自分を見失いそうで。
未知:夢中で堅い窓を開けた。
未知:その時に舞い込んできた白雪(しらゆき)。
未知:綺麗だった。自由だと思った。
未知:そして、願いを込めた。想いを託した。
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0:病室
未知:「あ、白タートル!」
拓真:「お望み通り、ちゃんと着てきましたよ?」
未知:「拓真できる子! えらい!」
拓真:「未知さまの頼みとあれば(笑)」
未知:「拓真だいすき!」
拓真:「お……、はははっ、普段あんまり言わないのに(笑)」
未知:「あ、あとね!」
拓真:「ん?(笑)」
未知:「拓真の笑顔すきだよ。」
拓真:「……っ! 最近は、唐突に話題を振るのがブームなんですか?」
未知:「そうかもね(笑)」
拓真:「……オレも、未知の笑顔すきだよ。未知が笑顔だと、つられて笑っちゃう。」
未知:「拓真の笑顔って、なんか不器用だよね。」
拓真:「え? 笑顔に不器用なんてあるの?(笑)」
未知:「んー、笑ってるのに、うまく笑えてない感じ?(笑)」
拓真:「何それ?(笑)」
未知:「でも、それが拓真らしい。そのままでいてね。」
拓真:「あぁ、……うん。」
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拓真:美しいんだ。
拓真:変わらないんだ。
拓真:冬、春、夏、秋、……冬。
拓真:君がいた景色も、今の景色も。
拓真:……ソファの左側に座るクセも。
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拓真:でも、変わった。
拓真:隣はいつも空いたままで。右手は冷たくて。
拓真:着古した白のタートルネックは、クローゼットの奥で眠っている。
拓真:君がいたから楽しかった。
拓真:君が笑うからオレも笑った。
拓真:不器用だと言われた、キミの好きなオレの笑顔。
拓真:……あのときと同じようになんて、今は笑えない。
拓真:俯いてばかりのオレは、本当に、どうしようもない。
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拓真:……ふいに目の前に舞い込んでくる白雪(しらゆき)。
拓真:あぁ……、本当に、どうしようもない。
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未知:無数の白は街を染め、静かに舞っていた。
拓真:久しぶりに見上げる空が、涙でにじむ。
未知:輝く白に、願いを込めた。
拓真:ぼやける白に、想いを込める。
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未知:ありがとう。愛しています。
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拓真:愛しています。ずっと、ずっと。
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未知:貴方がこれからも、貴方でいられますように。
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拓真:君の空にも、……届きますように。
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未知:「ねぇ、拓真?」
未知:
未知:「……天国も雪、降るのかな?」
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拓真:(タイトルコール)
拓真:『白雪の空に、願いを。』